(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-02
(45)【発行日】2024-10-10
(54)【発明の名称】内視鏡用処置具およびアクセスルート形成システム
(51)【国際特許分類】
A61B 17/3209 20060101AFI20241003BHJP
A61B 17/94 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
A61B17/3209
A61B17/94
(21)【出願番号】P 2023503566
(86)(22)【出願日】2021-03-02
(86)【国際出願番号】 JP2021007914
(87)【国際公開番号】W WO2022185405
(87)【国際公開日】2022-09-09
【審査請求日】2023-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】304050923
【氏名又は名称】オリンパスメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100207789
【氏名又は名称】石田 良平
(72)【発明者】
【氏名】矢沼 豊
(72)【発明者】
【氏名】間宮 朋彦
【審査官】宮崎 敏長
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-247550(JP,A)
【文献】特表2016-530904(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/3209 - A61B 17/3217
A61B 17/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手軸を有するシースと、
前記シースに取り付けられ、一部が前記シースの先端よりも前方に位置する押し付け部材と、
前記シースに対して進退可能、かつ前記押し付け部材よりも前方に移動可能に前記シースに通された処置部と、
前記シースに接続され、前記処置部を前記押し付け部材の先端に対して前方と後方に移動可能な操作部と、
を備え、
前記押し付け部材が接触したことにより変形した組織が後方から視認可能に構成され
、
前記押し付け部材は、前記長手軸に交差する方向に延びる面状の観察部を有し、
前記シースの先端部は、湾曲形状に癖付けされており、
前記観察部は、前記シース側から見た状態、かつ前記先端部が上方に向いた状態において、前記湾曲形状により規定される仮想面の左側に位置する、
内視鏡用処置具。
【請求項2】
前記押し付け部材が透明性を有する、
請求項1に記載の内視鏡用処置具。
【請求項3】
前記処置部は高周波ナイフであり、前記押し付け部材と電気的に絶縁されている、
請求項1に記載の内視鏡用処置具。
【請求項4】
前記処置部は針管である、
請求項1に記載の内視鏡用処置具。
【請求項5】
前記針管の少なくとも一部は、前記針管内を視認可能に構成されている、
請求項
4に記載の内視鏡用処置具。
【請求項6】
前記押し付け部材は、前記押し付け部材の前記先端を前記組織に接触可能に構成される、
請求項1に記載の内視鏡用処置具。
【請求項7】
請求項1に記載の内視鏡用処置具と、
前記内視鏡用処置具が通されるチャンネルを有する内視鏡と、
を備える、
アクセスルート形成システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡用処置具、より詳しくは、十二指腸内から胆管へアクセスするルートの形成に使用する内視鏡用処置具に関する。この内視鏡用処置具に関連する胆管へのアクセスルート形成方法およびアクセスルート形成システムについても言及する。
【背景技術】
【0002】
内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)は、十二指腸内から胆管へアクセスして行う手技である。多くの場合、胆管へのアクセスは、十二指腸内にある十二指腸乳頭の開口(乳頭開口)から行われる。
特許文献1には、胆管または膵にカテーテルを挿入するためのデバイスとその使用方法が開示されている。
【0003】
乳頭開口からのアクセスが難しい等の場合の手技として、プレカットが知られている。プレカットとは、十二指腸乳頭の組織を切開して胆管に到達することにより、乳頭開口と異なる位置にアクセス用の開口を形成する手技である。
【0004】
プレカットの開始時は、内視鏡画像で胆管を見ることができないため、胆管が存在する可能性が高い十二指腸乳頭膨隆部の上部から切開を始める。胆管の位置や屈曲形状には個人差があり、一様ではないため、粘膜(ピンク色)、胆管壁の周りを囲む括約筋(白色)、胆汁(黄色)等の色彩等を指標にしながら組織の浅い切開を繰り返して胆管を見つける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
プレカットは、難度の高い手技である。まず、出血や光の乱反射などの要因により、指標を適切に視認できないことがある。その結果、胆管のない部分の切開を進めてしまう可能性がある。次に、十二指腸内での十二指腸内視鏡の位置は不安定であるため、十二指腸内視鏡から突出させた切開デバイスの位置と深さを内視鏡を操作してコントロールすることが容易ではない。
プレカットがうまく行かない場合、十二指腸穿孔等の合併症の可能性が高くなる。
【0007】
上記事情を踏まえ、本発明は、プレカットを行いやすくする内視鏡用処置具およびアクセスルート形成システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第一の態様は、長手軸を有するシースと、前記シースに取り付けられ、一部が前記シースの先端よりも前方に位置する押し付け部材と、前記シースに対して進退可能、かつ前記押し付け部材よりも前方に移動可能に前記シースに通された処置部と、前記シースに接続され、前記処置部を前記押し付け部材の先端に対して前方と後方に移動可能な操作部と、を備え、前記押し付け部材が接触したことにより変形した組織が後方から視認可能に構成され、前記押し付け部材は、前記長手軸に交差する方向に延びる面状の観察部を有し、前記シースの先端部は、湾曲形状に癖付けされており、前記観察部は、前記シース側から見た状態、かつ前記先端部が上方に向いた状態において、前記湾曲形状により規定される仮想面の左側に位置する、内視鏡用処置具である。
【0010】
本発明の第二の態様は、第一の態様に係る内視鏡用処置具と、内視鏡用処置具が通されるチャンネルを有する内視鏡とを備えるアクセスルート形成システムである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、プレカットを従来よりも簡便かつ適切に行える。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の第一実施形態に係る内視鏡用処置具を一部破断して示す全体図である。
【
図4】シースと操作部を切り離した状態を示す図である。
【
図5】第一実施形態に係るアクセスルート形成方法の一過程を示す図である。
【
図6】同アクセスルート形成方法の一過程を示す図である。
【
図7】同アクセスルート形成方法の一過程を示す図である。
【
図8】同アクセスルート形成方法の一過程を示す図である。
【
図9】同アクセスルート形成方法の一過程を示す図である。
【
図10】同アクセスルート形成方法の流れを示すフローチャートである。
【
図11】本発明の第二実施形態に係る内視鏡用処置具の先端部の拡大断面図である。
【
図12】第二実施形態に係るアクセスルート形成方法の一過程を示す図である。
【
図13】同アクセスルート形成方法の一過程を示す図である。
【
図14】本発明の変形例に係る内視鏡用処置具の先端部の拡大図である。
【
図15】本発明の変形例に係る内視鏡用処置具の先端部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の第一実施形態について、
図1から
図10を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係る内視鏡用処置具(以下、単に「処置具」と称することがある。)1を一部破断して示す全体図である。内視鏡用処置具1は、管状のシース10と、シース10に通された高周波ナイフ(処置部)30と、シース10に接続された操作部50とを備えている。
【0014】
図2および
図3は、シース10の先端部の拡大図である。シース10は、樹脂やコイル等で形成された長尺の部材であり、可撓性を有する。シース10には、押し付け部材20が取り付けられており、シース10の先端よりも前方に延びている。
【0015】
押し付け部材20の先端部には、リング21が配置されている。本実施形態においては、リング21が形成する円とシース10の中心軸線とは、概ね直交している。
リング21を含む押し付け部材20の材質は、一定の強度があれば特に制限はなく、ステンレス、チタン等の各種金属や、樹脂等を例示できる。後述するように、高周波ナイフ30は使用時に通電されるため、押し付け部材20を金属で形成する場合は、コーティング等により絶縁処理を施しておくことが好ましい。
【0016】
高周波ナイフ30は公知の構造を有し、高周波電流を供給することにより組織を切開、焼灼できる。公知のモノポーラナイフおよびバイポーラナイフのいずれも、高周波ナイフ30として使用できる。高周波ナイフ30には、操作ワイヤ31が接続されている。操作ワイヤ31は、シース10内を通って操作部50まで延びている。
【0017】
操作部50は、細長い基本形状を有する本体51と、本体に取り付けられたスライダ52とを有する。本体51は、樹脂等で形成され、先端部に開口51aを有する。
【0018】
スライダ52は、本体51の長手方向にスライド可能に取り付けられている。スライダ52には、プラグ53が取り付けられている。操作ワイヤ31は、開口51aから本体51内に進入し、本体51内でプラグ53と物理的かつ電気的に接続されている。
【0019】
上記構造により、プラグ53に高周波電源を接続すると、高周波ナイフに高周波電流を供給できる。さらに、スライダ52を本体51に対してスライドすることにより高周波ナイフ30がシース10に対して進退する。これにより、
図3に示すように高周波ナイフ30をシース10から突出させたり、
図2に示すようにシース10内に収納したりできる。高周波ナイフ30を最もシース10から突出させると、高周波ナイフ30の先端は、
図3に示すように、リング21よりも一定の長さ(例えば1mm)前方に位置する。
【0020】
本体51には、内部空間に連通するポート55が設けられ、ポート55よりも後方の内部空間は、Oリング56等により気密および水密が確保されている。したがって、ポート55に注射器等を接続することにより、シース10から気体や液体を出したり、吸引したりできる。
図4に示すように、操作部50は、シース10から取り外すことができる。これにより、高周波ナイフ30および操作ワイヤ31をシース10から引き抜くことができる。シース10の基端部にはポート11が設けられており、高周波ナイフ30および操作ワイヤ31を引き抜いた後にポート11にシリンジ等を接続して流体の供給や吸引を行える。
【0021】
上記のように構成された内視鏡用処置具1の使用時の動作について説明する。この説明は、本実施形態に係る胆管へのアクセスルート形成方法を含んでいる。
【0022】
まず術者は、柔軟な挿入部を有する軟性の内視鏡を対象の口や鼻から管腔器官内に挿入し、先端部を十二指腸乳頭の付近まで移動させる。
本実施形態で使用する内視鏡は、光学観察部を備え、光学観察が可能な十二指腸用内視鏡である。この内視鏡と内視鏡用処置具1とで、アクセスルート形成システムが構成される。
【0023】
次に術者は、内視鏡の視野内に十二指腸乳頭を捉える。この操作は、一般的なERCP等における操作と同様であり、内視鏡の進退操作、湾曲操作、ねじり操作などを適宜組み合わせて行う。
【0024】
続いて術者は、内視鏡Esのチャンネルに処置具1を挿入して処置具1を十二指腸内に導入する(ステップA)。さらに、
図5に示すように、チャンネルの先端開口から処置具1を突出させる。処置具1の先端がチャンネル内にある間は、スライダ52を後退させて高周波ナイフ30をシース10内に収納しておく。
【0025】
術者は、内視鏡の画像で切開を行う場所を決定し、その場所に向かってリング21を接近させる。この操作は、内視鏡の進退操作、湾曲操作、ねじり操作、および処置具1の進退操作などを適宜組み合わせて行う。
【0026】
リング21が十二指腸乳頭Dpに接触したら、術者は
図6に示すように、リング21を軽く乳頭Dpに押し当てる(ステップB)。リング21が押し当てられることにより、膨隆している乳頭Dpのうち、リング21が押し当てられた部位の粘膜組織は変形して、薄く伸ばされる。これに伴い、リング21内に見える粘膜組織も変形して、薄く平坦に伸ばされる。その結果、粘膜下にある組織を視認しやすくなり、粘膜下にある括約筋や胆管Bdも見つけやすくなる。
【0027】
術者は、リング21を乳頭に押し当てながら、リング21に囲まれた部位を内視鏡で観察する(ステップC)。胆管や胆管を取り巻く括約筋と思われるものがリング21内の領域に認められない場合は、リング21を乳頭に押し当てながら移動させ、異なる部位の粘膜組織を伸ばしつつ、ステップCを繰り返す。
【0028】
胆管あるいは括約筋と思われる組織を見つけたら、術者はスライダ52を前進させて、
図7に示すように、高周波ナイフ30をシース10およびリング21から突出させる。高周波ナイフ30を突出させながら高周波電流を供給すると、乳頭Dpの組織を焼灼でき、そのまま処置具1を移動させることにより、
図8に示すように、乳頭組織を切開することができる(ステップD)。
【0029】
高周波ナイフ30をシース10内に収納して切開された部位を囲むようにリング21を押し当てると、切開の奥にある組織を観察できる。切開により括約筋(白色)を露出させられた場合は、括約筋およびその中にある胆管の壁を高周波ナイフで切開して開口を形成する(ステップE)。切開が胆管内に到達したかどうかは、例えば切開部から黄色い液体(胆汁)が漏れだしてくるかどうかを視認することで判断できる。
切開した部に括約筋が認められない場合は、場所を変更してステップCおよびDを繰り返す。
【0030】
切開が胆管の内腔に達したら、術者は高周波ナイフ30をシース10から抜去する。続いて、ポート11からガイドワイヤをシース10に挿入し、
図9に示すように、胆管に形成された開口から胆管内に挿入して胆管内にガイドワイヤを留置する。
【0031】
ガイドワイヤが胆管内に十分深く留置されたら、術者は、ガイドワイヤを残してシース10を内視鏡から抜去する。これにより、十二指腸内から胆管へのアクセスルートが形成される。
図10に、本実施形態に係るアクセスルート形成方法の流れをフローチャートで示す。
【0032】
アクセスルート形成後は、ガイドワイヤに沿わせて各種処置具の先端部をアクセスルート経由で胆管内に導入することにより、様々な処置を行うことができる。以下にその一部を例示する。
・ガイドワイヤに沿わせて造影カテーテルを胆管内に挿入し、ERCPを行う。
・ガイドワイヤに沿わせてバスケット型処置具を胆管内に挿入し、胆管内結石に対する処置を行う。
・ガイドワイヤに沿わせてバルーンを有する処置具を胆管内に挿入し、胆管内結石に対する処置を行ったり、胆管の狭窄部を拡張したりする。
・ガイドワイヤに沿わせて生検鉗子を胆管内に挿入し、悪性腫瘍等の確定診断等に用いる胆管等の組織を採取する。
・ガイドワイヤに沿わせてステントデリバリーシステムを胆管内に挿入し、胆管内にステントを留置する。
処置を行う際は、必要に応じてアクセスルートに内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST)や、内視鏡的乳頭バルーン拡張術(EPBD)を施し、アクセスルートを拡張してもよい。さらに、ESTとEPBDを組み合わせてアクセスルートを拡張してもよい。
【0033】
以上説明したように、本実施形態の内視鏡用処置具1は、押し付け部材20を備えることにより、十二指腸乳頭の表面組織を薄く伸ばしてその下にある括約筋や胆管を見つけやすくできる。さらに、押し付け部材20は、リング21を有するため、リング21を表面組織に押し付けつつ、リング21に囲まれた部位を内視鏡で視認できる。
【0034】
加えて、薄く伸ばされた表面組織は、押し付け部材20に変形させされる前よりも平坦となるため、内視鏡から照射される照明光の乱反射が抑制される。その結果、組織等を判別するための色彩等の指標の見え方が安定し、括約筋や胆管であるかどうかや括約筋や胆管の位置等の判断をより正確に行える。
【0035】
処置具1においては、高周波ナイフ30を最大限に前進させることにより、リング21からの高周波ナイフ30の突出量が所定値に定まる。その結果、リング21を組織に接触させながら処置具1を動かすことで、切開の深さが概ね一定となる。その結果、意図せず深い切開が行われることを防止できる。
上述した各効果により、処置具1は、本来難度の高いプレカットを行いやすくすることに貢献する。
【0036】
本実施形態に係るアクセスルートの形成方法は、上述したステップBおよびCを備えるため、括約筋や胆管と思われる組織が見つけやすく、括約筋や胆管であるかどうかや括約筋や胆管の位置等の判断もより正確に行える。その結果、本来難度の高いプレカットを行いやすくすることに貢献する。
【0037】
本実施形態に係る処置具においては、組織に押し当てられる部材はリングには限られない。例えば、楕円形や多角形、不定あるいは不定形の環状であってもよいし、各種形状の環状の一部が切れた形状(例えば円形の場合はC字状)であってもよい。
【0038】
本発明に係るアクセスルートの形成方法には、インドシアニングリーン(ICG)を組み合わせることができる。胆汁中の蛋白と結合したICGに近赤外光を照射すると、840nmあたりにピークを持つ黄緑色の蛍光波長の光を発する。この蛍光波長は数mm程度の厚さの組織を透過できる性質を持つ。したがって、ICGが胆管内にあり、近赤外光の照明下で蛍光波長を観察できる状態でステップCおよびDを行うと、組織の奥に隠れた胆管の内側にあるICGから組織を透過してきた光を捉えることが出来るため、さらに容易に胆管を見つけることができる。
【0039】
ICGを組み合わせる場合は、ステップCを行う前の適宜のタイミングでICGを投与する。ICGを投与にあたっては、ICGを用いた肝機能検査時と同様に静脈注射してもよいし、胃内から超音波内視鏡を用いて胆管の位置を特定し、胃壁に穿刺して直接胆管にICGを注入してもよい。投与タイミングは、投与経路に応じて適切に設定する。
ICGを組み合わせる場合、内視鏡としては、可視光の照射と観察に加えて、750~810nm程度の近赤外光の照射と840nm周辺の蛍光波長の画像の取得が可能なものを用い、可視光観察と蛍光観察とを随時切り替えたり、同時に観察したりして手技を行う。
【0040】
本発明の第二実施形態について、
図11から
図13を参照して説明する。以降の説明において、既に説明したものと共通する構成については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0041】
図11は、本実施形態に係る処置具101の一部を示す断面図である。処置具101は、シース10に代えてシース110を、押し付け部材20に代えて押し付け部材120を、それぞれ備えている。
シース110は、高周波ナイフ30が通るルーメンに加えて、ガイドワイヤルーメン111を有する。ガイドワイヤルーメン111は、シース110の基端部に開口しており、開口にポート11が接続されている。
押し付け部材120は、透明材料からなる中実の部材であり、高周波ナイフ30を通すための貫通孔120aと、ガイドワイヤルーメン111と連通する貫通孔120bとを有する。押し付け部材120の先端面121は概ね平坦であり、シース10の長手軸と概ね直交している。
【0042】
図11には、押し付け部材120の最大径D1がシース110の外径よりも大きい例を示しているが、これは必須ではなく、最大径D1は、シース110の外径と同等であってもよいし、小さくてもよい。最大径D1を含め、押し付け部材120の形状や各部の寸法は適宜設定できるが、ステップCにおける観察をしやすくする観点からは、先端面121の面積をシース110の外径に基づく断面積よりも大きくすることが好ましい。
【0043】
押し付け部材120は、先端面121よりも後方に、概ね平坦な面状の観察部122を有する。観察部122の面は、シース110の長手軸と交差する方向に延びている。
本実施形態のシース110は、先端側の一定範囲に湾曲形状が癖付けされているため、外力が作用しない状態において、所定の湾曲形状となる。観察部122は、処置具101を後方(操作部50側)から見た状態、かつ先端部が上方に向いた状態において、湾曲形状のシース110が位置する仮想面(すなわち、湾曲形状により規定される平面)の左側に位置する。
【0044】
処置具101を用いてプレカットを伴うアクセスルート形成を行う場合の動作について説明する。
ステップAにおいて、内視鏡のチャンネルに処置具101を挿入して処置具101を十二指腸内に導入する。
【0045】
通常、内視鏡は十二指腸乳頭に向かって湾曲した状態で保持されるため、チャンネルの先端開口から処置具101を突出させると、
図12に示すように、処置具101は、癖付けされた湾曲形状の向きと内視鏡Esの湾曲の向きとが一致するようにチャンネル内で回転してから突出する。現在使用されている十二指腸内視鏡のほとんどは、後方から見て先端開口Aの左側に光学観察部Bを有するため、先端開口Aから突出した処置具101の観察部122は、光学観察部Bの前方に位置し、十二指腸内視鏡で好適に内視鏡Esの視野内に捉えることができる。
【0046】
術者は処置具101を十二指腸乳頭に接近させ、先端面121を乳頭組織に接触させた後、ステップBを実行する。先端面121には、小さな貫通孔120a、120bしかないため、乳頭組織は第一実施形態よりも均一に伸ばされる。さらに、伸ばされた組織は先端面によって覆われるため、照明光の乱反射等が好適に抑制される。
組織上に存在している粘液等は、先端面121が接触することにより先端面121の周囲に押しのけられる。ICGを組み合わせて手技を行う場合、十二指腸乳頭から十二指腸内に排出されたICGを含む胆汁が観察部位に存在することがある。このような胆汁は胆管内に存在するICGの観察の妨げになるが、先端面121が乳頭組織に接触することにより粘液等と同様に押しのけられて除去されるため、胆管内に存在するICGを、ノイズを抑制しつつ適切に観察できる。また、ICGから発した組織透過性のある蛍光波長の光を観察する際も、押し付け部材により組織が引き延ばされ薄くなることで透過してくる蛍光が増えるため、より胆管の位置を見つけやすくなる。
【0047】
処置具101を用いたステップCに係る内視鏡の視野画像の例を
図13に示す。押し付け部材120が透明性を有するため、先端面121により伸ばされた部位は、観察部122を通して内視鏡で良好に観察できる。さらに、貫通孔120a内に位置する高周波ナイフ30も視認できるため、術者は高周波ナイフ30を突出させた際にどの部位と接触するかについて容易に把握することができる。
【0048】
本実施形態においても、第一実施形態と同様に、本来難度の高いプレカットを行いやすくできる。
また、処置具101では、高周波ナイフ30をシース110から抜かずにガイドワイヤルーメン111からガイドワイヤを挿入できるだめ、ガイドワイヤの留置が容易である。
【0049】
本実施形態における押し付け部材120は、透明性を有してさえいれば先端面121に延ばされた部位を視認できるが、色彩を有していると、各組織の色彩を指標として判断することに影響するため、無色透明であることが好ましい。また、処置部が高周波ナイフ30等の高温になる構成である場合は、処置時の温度に耐えられる程度の耐熱性も求められる。
これらの観点を踏まえた押し付け部材の好適な材料として、ホウケイ酸ガラス等の各種耐熱ガラスや、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、ポリスルフォン(PSU)、ポリイミドなどの樹脂を例示できる。
【0050】
処置具101においては、押し付け部材120に観察部が無くても先端面121に延ばされた部位を視認できるため、観察部は必須ではない。観察部を設ける場合も上述したような平坦面でなくてもよい。例えば、観察部を後方に向かって凸となる曲面にすると、先端面に延ばされた部位を拡大して観察できる。逆に、観察部を後方に向かって凹となる曲面にすると、先端面に延ばされた部位を広角に観察できる。
さらに、押し付け部材120の先端面は、上述した平坦な面でなくてもよい。先端面が前方に向かって凸となる曲面であると、先端面の中央部と接触した乳頭組織が最も薄く伸ばされ、より胆管を発見しやすくなる。
ガイドワイヤ用の貫通孔120bは、必ずしも管状の孔でなくてもよく、側面の一部が開放された溝状であってもよい。
【0051】
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において各構成要素に種々の変更を加えたり、削除したりすることが可能である。
【0052】
本発明に係る内視鏡用処置具において、処置部は、上述した高周波ナイフには限られない。
図14に、第一実施形態の変形例に係る処置具1Aの先端部を示す。処置具1Aは、中空の針管130を処置部として備えている。処置具1Aをアクセスルート形成方法に用いる場合、ステップDは、針管130を乳頭組織に穿刺する行為となる。ステップEは、胆管に針管130を刺入して胆管に開口を形成する行為となる。ステップEの後に、針管経由でガイドワイヤを胆管内に導入することもでき、アクセスルート形成までの手順を簡素にできる。
【0053】
処置部として針管を用いる場合、
図15に示す針管130Aのように、側孔131が設けられてもよい。針管を用いたステップEでは、胆管内の胆汁が針管に流入することを確認することで、胆管に刺入できたと判断できる。側孔131を設けることにより、針管内を流れる胆汁を視認できるため、針管を抜かずに針管に流入する胆汁を確認できる。側孔に代えて、透明な窓を設けたり、針管自体を透明な材料(例えばポリカーボネートなどの透明なプラスチック)で形成したりすることにより、針管の内部を視認可能に構成してもよい。
【0054】
針管以外にも、中実の穿刺針や、通電せずに組織を切開するコールドナイフ等も処置部として使用できる。このような変更は、第二実施形態に係る処置具101においても同様に行える。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明に係る内視鏡用処置具およびアクセスルート形成システムは、胆管へのアクセスルート形成に適用できる。
【符号の説明】
【0056】
1、1A、101 内視鏡用処置具
10 シース
20、120 押し付け部材
30 高周波ナイフ(処置部)
122 観察部
130、130A 針管(処置部)
Bd 胆管
Dp 十二指腸乳頭
Es 内視鏡