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特許7565433正極材料、並びにそれを含む電気化学装置及び電子装置
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  • 特許-正極材料、並びにそれを含む電気化学装置及び電子装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-02
(45)【発行日】2024-10-10
(54)【発明の名称】正極材料、並びにそれを含む電気化学装置及び電子装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20241003BHJP
   H01M 4/583 20100101ALI20241003BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20241003BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20241003BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20241003BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M4/583
H01M4/36 E
H01M10/0562
H01M10/052
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023512754
(86)(22)【出願日】2020-08-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-06
(86)【国際出願番号】 CN2020111604
(87)【国際公開番号】W WO2022041025
(87)【国際公開日】2022-03-03
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】513054978
【氏名又は名称】寧徳新能源科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】Ningde Amperex Technology Limited
【住所又は居所原語表記】No.1 Xingang Road, Zhangwan Town, Jiaocheng District, Ningde City, Fujian Province, 352100, People’s Republic of China
(74)【代理人】
【識別番号】100166338
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 正夫
(72)【発明者】
【氏名】劉 小浪
(72)【発明者】
【氏名】周 墨林
(72)【発明者】
【氏名】徐 磊敏
(72)【発明者】
【氏名】魯 宇浩
【審査官】窪田 陸人
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-073792(JP,A)
【文献】特開平03-089462(JP,A)
【文献】特開2008-243646(JP,A)
【文献】特表平04-502533(JP,A)
【文献】MATSUO, Yoshiaki et al.,Charge-discharge behavior of fluorine-intercalated graphite for the positive electrode of fluoride ion shuttle battery,Electrochemistry Communications,2019年12月04日,110 (2020),106626
【文献】REDDY, M. Anji et al.,CFx Derived Carbon-FeF2 Nanocomposites for Reversible Lithium Storage,Adv. Energy Mater.,2013年03月08日,3,308-313
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01M 10/05-10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合材料を含む正極材料であって、
前記複合材料が金属フッ化物を含み、
前記金属フッ化物におけるフッ素元素Fと金属元素Mとのモル比をyとし、前記複合材料におけるフッ素元素Fと金属元素Mとのモル比をzとしたときに、y及びzは、y<z≦y+2を満し、かつ
前記MはAl、Cu、Co、Ni、Mn、Fe及びAgからなる群より選ばれる少なくとも一種を含
前記複合材料は構造式がCF であるフッ化黒鉛をさらに含み、前記CF におけるフッ素元素Fと炭素元素Cとのモル比をxとしたときに、xは、0<x≦1を満たし、
前記フッ化黒鉛と前記金属フッ化物との質量比をwとしたときに、wは、0<w≦0.2を満たす、正極材料。
【請求項2】
前記金属フッ化物はCoF、NiF、MnF、MnF、FeF、FeF、AlF及びCuFからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む、請求項1に記載の正極材料。
【請求項3】
(1)金属フッ化物とフッ化黒鉛を混合し、乾燥すること、及び、
(2)200℃~600℃で10時間~72時間アニールし、破砕し、篩い分けして、複合材料を得ること、を含む複合材料の調製方法であって、
前記金属フッ化物におけるフッ素元素Fと金属元素Mとのモル比をyとし、前記複合材料におけるフッ素元素Fと金属元素Mとのモル比をzとしたときに、y及びzは、y<z≦y+2を満たし、かつ
前記MはAl、Cu、Co、Ni、Mn、Fe及びAgからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む、正極材料用複合材料の調製方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の正極材料を含む、正極。
【請求項5】
請求項に記載の正極を含む、電気化学装置。
【請求項6】
全固体二次リチウム電池である、請求項に記載の電気化学装置。
【請求項7】
請求項又はに記載の電気化学装置を含む、電子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー貯蔵分野に関し、具体的に、正極材料、並びにそれを含む電気化学装置及び電子装置、特に全固体二次リチウム電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ノートパソコン、携帯電話、タブレット、モバイル電源及びドローン等の消費電子類の製品の普及に伴い、それらの中の電気化学装置への要求がますます厳しくなっている。例えば、電池に対して、軽量化が求められるだけでなく、高容量と長い動作寿命も求められている。リチウムイオン電池は、エネルギー密度が高く、安全性が高く、メモリ効果がなく、そして動作寿命が長い等の優れた利点により、市場で主流になっている。
【発明の概要】
【0003】
本発明の実施例は、関連分野に存在した少なくとも1つの問題を少なくともある程度で解決することを意図するように、正極材料を提供する。また、本発明の実施例は、この正極材料を使用する正極、電気化学装置及び電子装置を提供する。
【0004】
1つの実施例において、本発明は、複合材料を含み、前記複合材料が金属フッ化物を含み、前記金属フッ化物におけるフッ素元素Fと金属元素Mとのモル比をyとし、前記複合材料におけるフッ素元素Fと金属元素Mとのモル比をzとしたときに、y及びzは、y<z≦y+2を満し、かつ、前記MはAl、Cu、Co、Ni、Mn、Fe及びAgからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む正極材料を提供する。
【0005】
別の実施例において、本発明は、
(1)金属フッ化物とフッ化黒鉛を混合し、乾燥すること、及び
(2)200℃~600℃で10時間~72時間アニールし、破砕し、篩い分けして、複合材料を得ることを含む、複合材料の調製方法を提供する。
【0006】
ここで、前記金属フッ化物におけるフッ素元素Fと金属元素Mとのモル比をyとし、前記複合材料におけるフッ素元素Fと金属元素Mとのモル比をzとしたときに、y及びzは、y<z≦y+2を満し、かつ
前記MはAl、Cu、Co、Ni、Mn、Fe及びAgからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む。
【0007】
別の実施例において、本発明は、本発明の実施例に記載の正極材料を含む、正極を提供する。
【0008】
別の実施例において、本発明は、本発明の実施例に記載の正極を含む、電気化学装置を提供する。
【0009】
いくつかの実施例において、前記電気化学装置は全固体二次リチウム電池である。いくつかの実施例において、全固体二次リチウム電池は正極、負極及び固体電解質を含む。いくつかの実施例において、前記正極は上記実施例における正極材料を含む。
【0010】
別の実施例において、本発明は、本発明の実施例に記載の電気化学装置を含む、電子装置を提供する。
【0011】
本発明における正極材料は,原料の供給源が広く、調製プロセスが簡単で、操作しやすく、製造コストが低い等の利点を有する。本発明における正極材料で調製されたリチウム電池は、正極材料の比容量、レート性能及びサイクル性能、並びに充放電性能が向上している。
【0012】
本発明の実施例の他の態様及び利点は、部分的に以下の説明において説明され、示され、又は、本発明の実施例の実施を通じて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
以下では、本発明の実施例を説明するために、本発明の実施例又は先行技術を説明するための必要な図面を概略的に説明する。明らかなことに、以下に説明される図面は、本発明の実施例の一部にすぎない。当業者にとって、創造的な労働なしに、依然として、これらの図面に例示される構造から、他の実施例の図面を得ることができる。
図1図1は、本発明の実施例9における複合正極活物質が初回充放電後に発生する電気化学反応の概略図を示す。
図2図2は、本発明の比較例2、比較例4及び実施例4における全固体二次リチウム電池の容量維持率がサイクル回数に伴って変化する曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施例を詳細に説明する。本発明の実施例は、本発明を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0015】
なお、本明細書では、範囲の形で量、比率及び他の数値を呈する(示す)。当業者にとって理解できるように、このような範囲の形は、便宜上及び簡潔にするためのものであり、当該範囲に明確に限定されている数値を含むだけでなく、前記範囲に含まれるすべての各々の値又はサブ範囲も含み、それは、各々の値又はサブ範囲を明確に限定することに相当する。
【0016】
具体的な実施形態及び請求の範囲において、「からなる群より選ばれる一方」、「からなる群より選ばれる1つ」、「からなる群より選ばれる一種」との用語、又は、他の類似な用語で接続される項目のリストは、リストされる項目のいずれか1つを意味する。例えば、項目A及び項目Bがリストされる場合、「A及びBからなる群より選ばれる一方」という表現は、Aのみ、又はBのみを意味する。別の具体例において、項目A、項目B及び項目Cがリストされる場合、「A、B及びCからなる群より選ばれる一方」という表現は、Aのみ、Bのみ、又はCのみを意味する。項目Aは、単一の素子(要素)又は複数の素子を含んでいてもよい。項目Bは、単一の素子又は複数の素子を含んでいてもよい。項目Cは、単一の素子又は複数の素子を含んでいてもよい。
【0017】
具体的な実施形態及び請求の範囲において、「からなる群より選ばれる少なくとも一方」、「からなる群より選ばれる少なくとも1つ」、「からなる群より選ばれる少なくとも一種」との用語、又は、他の類似な用語で接続される項目のリストは、リストされる項目の任意の組み合わせを意味する。例えば、項目A及び項目Bがリストされる場合、「A及びBからなる群より選ばれる少なくとも一方」という表現は、Aのみ、Bのみ、又は、A及びBを意味する。別の具体例において、項目A、項目B、及び項目Cがリストされる場合、「A、B、及びCからなる群より選ばれる少なくとも一方」という表現は、Aのみ、Bのみ、Cのみ、A及びB(Cを除く)、A及びC(Bを除く)、B及びC(Aを除く)、又は、A、B及びCのすべてを意味する。項目Aは、単一の素子又は複数の素子を含んでいてもよい。項目Bは、単一の素子又は複数の素子を含んでいてもよい。項目Cは、単一の素子又は複数の素子を含んでいてもよい。
【0018】
一、正極材料
いくつかの実施例において、本発明は、複合材料を含み、前記複合材料が金属フッ化物を含み、前記金属フッ化物におけるフッ素元素Fと金属元素Mとのモル比をyとし、前記複合材料におけるフッ素元素Fと金属元素Mとのモル比をzとしたときに、y及びzは、y<z≦y+2を満し、かつ、前記MはAl、Cu、Co、Ni、Mn、Fe及びAgからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む、正極材料を提供する。
【0019】
いくつかの実施例において、前記MはCu、Fe又はそれらの組み合わせを含む。
【0020】
いくつかの実施例において、y<z≦y+1.5である。いくつかの実施例において、y<z≦y+0.05、y<z≦y+0.1、y<z≦y+0.15、y<z≦y+0.2、y<z≦y+0.5、y<z≦y+0.7、y<z≦y+0.9、y<z≦y+1、又はy<z≦y+1.2である。
【0021】
いくつかの実施例において、前記複合材料は、構造式がCFであるフッ化黒鉛をさらに含み、前記CFにおけるフッ素元素Fと炭素元素Cとのモル比をxとしたときに、xは、0<x≦1を満たす。
【0022】
いくつかの実施例において、0<x≦0.9である。いくつかの実施例において、0<x≦0.8である。いくつかの実施例において、0<x≦0.7である。いくつかの実施例において、0<x≦0.6である。いくつかの実施例において、0<x≦0.5、0<x≦0.4、0<x≦0.3又は0<x≦0.2である。
【0023】
いくつかの実施例において、前記フッ化黒鉛と前記金属フッ化物との質量比をwとしたときに、wは、0<w≦0.2を満たす。いくつかの実施例において、0<w≦0.15である。いくつかの実施例において、0<w≦0.1である。いくつかの実施例において、0<w≦0.05である。いくつかの実施例において、wは0.02、0.03、0.06、0.07等であってもよい。
【0024】
いくつかの実施例において、前記金属フッ化物は、CoF、NiF、MnF、MnF、FeF、FeF、AlF及びCuFからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む。いくつかの実施例において、前記金属フッ化物は、FeF、CuF又はそれらの組み合わせを含む。
【0025】
いくつかの実施例において、前記正極材料は、リチウムを含む。いくつかの実施例において、前記正極材料はリチウムを含まない。
【0026】
いくつかの実施例において、前記正極材料が含む複合材料は、MF.w(CF)で表されることができ、ここで、M、w、x、yの定義はそれぞれ上記のとおりである。
【0027】
二、複合材料の調製方法
本発明の実施例は、
(1)金属フッ化物とフッ化黒鉛を混合し、乾燥すること、及び
(2)200℃~600℃で10時間~72時間アニールし、破砕し、篩い分けして、複合材料を得ること、を含む、複合材料の調製方法を提供する。
【0028】
ここで、前記金属フッ化物におけるフッ素元素Fと金属元素Mとのモル比をyとし、前記複合材料におけるフッ素元素Fと金属元素Mとのモル比をzとしたときに、y及びzは、y<z≦y+2を満し、かつ
前記MはAl、Cu、Co、Ni、Mn、Fe及びAgからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む。
【0029】
いくつかの実施例において、金属フッ化物及びフッ化黒鉛の定義は上記のとおりである。
【0030】
いくつかの実施例において、混合は、ボールミル機、V型混合機、三次元混合機、エアフロー混合機又は横型ミキサーにより行われる。いくつかの実施例において、混合は高エネルギーボールミル混合である。
【0031】
いくつかの実施例において、ボールミルが湿式ボールミル又は乾式ボールミルである。いくつかの実施例において、ボールミルが湿式ボールミルである。
【0032】
いくつかの実施例において、ボールミルの過程において、ボールミル分散剤が用いられる。いくつかの実施例において、ボールミル分散剤は無水エタノールを含む。
【0033】
いくつかの実施例において、ボールミルのステップにおいて、ボールミリング資材とボールミル用ボールとの体積比は1:3~1:20である。いくつかの実施例において、ボールミリング資材とボールミル用ボールとの体積比は1:10である。
【0034】
いくつかの実施例において、ボールミルのステップにおける回転速度は300r/min~1200r/minである。いくつかの実施例において、ボールミルのステップにおける回転速度は800r/minである。
【0035】
いくつかの実施例において、ボールミル時間は4時間~24時間である。いくつかの実施例において、ボールミル時間は4時間、6時間、10時間、15時間、20時間、24時間又はこれらの数値のうちの任意の2つからなる範囲である。
【0036】
いくつかの実施例において、乾燥温度は60℃~120℃である。いくつかの実施例において、乾燥温度は60℃、70℃、80℃、100℃、120℃又はこれらの数値のうちの任意の2つからなる範囲である。
【0037】
いくつかの実施例において、アニール温度は200℃~600℃である。いくつかの実施例において、アニール温度は200℃、250℃、300℃、350℃、400℃、500℃、600℃又はこれらの数値のうちの任意の2つからなる範囲である。
【0038】
いくつかの実施例において、アニール時間は10時間~72時間である。いくつかの実施例において、アニール時間は10時間、15時間、20時間、25時間、30時間、35時間、40時間、50時間、60時間、65時間、72時間又はこれらの数値のうちの任意の2つからなる範囲である。
【0039】
いくつかの実施例において、アニール処理は雰囲気焼結炉で行われる。いくつかの実施例において、雰囲気焼結炉は管式雰囲気焼結炉、箱式雰囲気焼結炉であってもよく、同様の雰囲気保護機能を有する他の焼結炉であってもよい。
【0040】
いくつかの実施例において、前記雰囲気焼結炉に用いられる雰囲気は不活性ガスである。いくつかの実施例において、不活性ガスは高純度のアルゴンガス又は高純度の窒素ガスである。
【0041】
近年、電気自動車と5Gの時代の到来に伴い、高エネルギー密度と高安全性能を備えたリチウム電池への要求もますます強くなっている。リチウム金属は、高い比容量(3860mAh/g)及び低い電気化学ポテンシャル(標準水素電極に対して-3.040V)を有し、最も理想的な高エネルギー密度の負極材料と考えられている。したがって、リチウム金属を負極とする固体リチウム電池は現段階の研究の焦点となっている。従来のリチウムイオン電池は、有機液体電解質又はゲル電解質を採用することが多く、燃えやすく爆発しやすい有機液体は電池システムに大きな安全上の問題をもたらす。
【0042】
固体リチウム電池の動作原理は、従来のリチウムイオン電池と基本的に同じであり、構造上の変化は従来の液体有機電解質とセパレータを固体電解質に置き換えることにあり、それにより、電池をより安全にする。また、固体リチウム電池の構造は、より簡単であり、主に正極、固体電解質及び負極からなる。現在、固体リチウム電池に用いられる正極は、従来のリチウム含有正極材料、例えばLiCoO、LiFePO等であることが多い。これらのリチウム含有正極材料の比容量は負極より遥かに低く、高エネルギー密度の全固体リチウム電池の要求を満たすことができない。したがって、リチウム金属を負極とする固体リチウム電池は、より高いエネルギー密度を有する正極材料との組み合わせが必要である。金属フッ化物(例えば、FeF、FeF及びCuF等)正極材料が提供できるエネルギー密度は1000Wh/Kg~1600Wh/Kgに達し、LiCoO系の600Wh/Kg~800Wh/Kgより遥かに高いため、応用可能性が高い。また、金属フッ化物等のリチウムフリー正極材料は安価な鉄元素が多く用いられるため、資源が豊富で、コストが低く、環境にやさしい等の利点を有する。
【0043】
現在、金属フッ化物等のリチウムフリー正極材料は、無視できない以下の欠点を有する。(1)金属フッ化物の導電率が一般的に低く、報告によると、FeFの導電率が10-17S/cmだけであり、絶縁体に近く、充放電過程において、放電電圧が充電電圧より低く、即ち、いわゆる電圧ヒステリシス現象が現れ、材料のレート性能及びサイクル安定性能が劣る;(2)遷移金属イオンは充放電過程において正極材料から溶出しやすく、電解液に入ってそれと副反応を起こし、サイクル過程における容量の減衰を加速させる。
【0044】
上記問題を解決するために、本発明はリチウム電池正極材料を提供する。前記正極材料の初期状態は金属フッ化物とフッ化黒鉛との複合材料である。本発明における金属フッ化物とフッ化黒鉛との複合材料は、正極材料として、金属フッ化物正極材料と比べると、以下の利点を有する。(1)フッ化黒鉛を添加することにより、正極材料の比容量を顕著に向上させることができる。(2)図1に示すように、初回放電の過程において、正極材料の表面にあるフッ化黒鉛は負極から放出されたリチウムイオンと化学反応を起こし、その場でナノカーボンを生成することにより、正極の導電率を増加させるため、放電電圧の安定化及び放電効率の向上に有利である。(3)図1に示すように、初回放電反応が完了した後、フッ化黒鉛はその場でナノカーボンを生成する以外、LiFをさらに生成し、これらの生成物はリチウム源として用いられることができるので、正極材料の複数回のサイクルの過程でのリチウムの損失を補うために用いられ、それにより、長期サイクル安定性能を向上させる。
【0045】
加えて、本発明は、以下の有利な効果を奏する。
1)本発明における金属フッ化物とフッ化黒鉛との複合正極材料は、より高い比容量と改善されたレート性能及びサイクル性能とを有する。
2)本発明が提供するリチウム電池正極材料は、原料の供給源が広く、調製プロセスが簡単で、操作しやすく、製造コストが低い。
3)本発明における正極材料で調製された全固体二次リチウム電池は、よい充放電性能を有し、3C電子製品や電気自動車用電池の分野での応用が期待されている。
【0046】
三、電気化学装置
本発明の実施例は、電気化学反応を起こす任意の装置を含む電気化学装置を提供する。
【0047】
いくつかの実施例において、本発明における電気化学装置は、金属イオンを吸蔵し、放出することができる負極活物質を有する負極、本発明の実施例に記載の正極、電解液、及び正極と負極との間に配置されるセパレータを含む。
【0048】
いくつかの実施例において、本発明における電気化学装置は二次電池を含むが、これに限定されない。
【0049】
いくつかの実施例において、前記電気化学装置はリチウム二次電池である。
【0050】
いくつかの実施例において、リチウム二次電池は、リチウム金属二次電池、リチウムイオン二次電池、リチウムポリマー二次電池又はリチウムイオンポリマー二次電池、全固体二次リチウム電池を含むが、これらに限定されない。
【0051】
1、負極
本発明における電気化学装置に用いられる負極の材料、構成及びその製造方法は、従来技術に開示された任意の技術を含んでもよい。いくつかの実施例において、負極は米国特許出願US9812739Bに記載の負極であり、その全体が参照により本願に組み込まれる。
【0052】
いくつかの実施例において、負極は、集電体と当該集電体に位置する負極活物質層を含む。いくつかの実施例において、負極活物質層は負極活物質を含む。いくつかの実施例において、負極活物質は、リチウム金属、構造化されたリチウム金属、天然黒鉛、人造黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、ハードカーボン、ソフトカーボン、シリコン、ケイ素-炭素複合物、ケイ素酸素材料、Li-Sn合金、Li-Sn-O合金、Sn、SnO、SnO、スピネル構造のリチウム化TiO-LiTi12、Li-Al合金、又はそれらの任意の組み合わせを含むが、これらに限定されない。
【0053】
いくつかの実施例において、負極活物質層はバインダーを含む。いくつかの実施例において、バインダーは、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ジアセチルセルロース、ポリ塩化ビニル、カルボキシル化ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニル、エチレンオキシド含有ポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、アクリル(エステル)化スチレンブタジエンゴム、エポキシ樹脂又はナイロンを含むが、これらに限定されない。
【0054】
いくつかの実施例において、負極活物質層は導電材料を含む。いくつかの実施例において、導電材料は、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維、金属粉末、金属繊維、銅、ニッケル、アルミニウム、銀又はポリフェニレン誘導体を含むが、これらに限定されない。
【0055】
いくつかの実施例において、集電体は、銅箔、ニッケル箔、ステンレス箔、チタン箔、発泡ニッケル、発泡銅又は導電性金属で被覆されたポリマー基板を含むが、これらに限定されない。
【0056】
いくつかの実施例において、負極は、活物質、導電材料及びバインダーを溶媒中で混合して、活物質組成物を調製し、この活物質組成物を集電体上に塗布することにより得ることができる。
【0057】
いくつかの実施例において、溶媒は、脱イオン水、N-メチルピロリドンを含んでもよいが、これらに限定されない。
【0058】
いくつかの実施例において、全固体二次リチウム電池の負極は金属リチウム箔である。
【0059】
2、正極
本発明の実施例は正極を提供する。いくつかの実施例において、全固体二次リチウム電池における正極は、本発明におけるいずれかの実施例に記載の正極材料及び導電剤を含む。
【0060】
いくつかの実施例において、前記正極は集電体と、この集電体上に位置する正極活物質層を含む。前記正極活物質層は、本発明の実施例に記載の正極材料を含む。
【0061】
いくつかの実施例において、正極活物質層は、バインダー及び/又は導電剤をさらに含む。バインダーは、正極活物質粒子同士の結合を向上させるとともに、正極活物質と集電体との結合も向上させる。
【0062】
いくつかの実施例において、バインダーは、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ジアセチルセルロース、ポリ塩化ビニル、カルボキシル化ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニル、エチレンオキシド含有ポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、アクリル(エステル)化スチレンブタジエンゴム、エポキシ樹脂、及びナイロン等からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む。
【0063】
いくつかの実施例において、導電剤は、導電性カーボンブラック、炭素繊維、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、グラフェン、及びカーボンナノチューブからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む。
【0064】
いくつかの実施例において、集電体はアルミニウムを含んでもよいが、これに限定されない。
【0065】
正極は、本分野で公知の調製方法により調製できる。例えば、正極は、活物質、導電材料及びバインダーを溶媒中で混合して、活物質組成物を調製し、この活物質組成物を集電体上に塗布することにより得ることができる。いくつかの実施例において、溶媒は、N-メチルピロリドンを含んでもよいが、これに限定されない。
【0066】
3、電解液
本発明の実施例に用いられる電解液は、従来技術に既知の電解液であってもよい。
【0067】
いくつかの実施例において、前記電解液は有機溶媒、リチウム塩及び添加剤を含む。本発明における電解液が含む有機溶媒は、電解液の溶媒として用いられる従来技術に既知の任意の有機溶媒であってもよい。本発明における電解液に用いられる電解質は制限されず、従来技術に既知の任意の電解質であってもよい。本発明における電解液が含む添加剤は、電解液の添加剤として用いられる従来技術に既知の任意の添加剤であってもよい。
【0068】
いくつかの実施例において、前記有機溶媒は、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)、プロピレンカーボネート、又はプロピオン酸エチルを含むが、これらに限定されない。
【0069】
いくつかの実施例において、前記リチウム塩は、有機リチウム塩及び無機リチウム塩からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む。
【0070】
いくつかの実施例において、前記リチウム塩は、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)、ジフルオロリン酸リチウム(LiPO)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドLiN(CFSO(LiTFSI)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドLi(N(SOF))(LiFSI)、リチウムビスオキサラトボラートLiB(C(LiBOB)又はリチウムジフルオロオキサラトボラートLiBF(C)(LiDFOB)を含むが、これらに限定されない。
【0071】
いくつかの実施例において、前記電解液におけるリチウム塩の濃度は、0.5mol/L~3mol/L、0.5mol/L~2mol/L又は0.8mol/L~1.5mol/Lである。
【0072】
いくつかの実施例において、全固体二次リチウム電池に用いられる固体電解質は、LiYCl、LiYBr、LiOCl、LiPON、Li0.5La0.5TiO、Li1+xAlTi2-x(PO、LiLaZr12、Li10GeP12(LGPS)、Li9.54Si1.741.4411.7Cl0.3、Li3.25Ge0.250.75、Li11AlP12、及びLi11からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む。
【0073】
4、セパレータ
いくつかの実施例において、短絡を防止するように、正極と負極との間にセパレータが設けられる。本発明におけるセパレータに用いられる材料及び形状は特に制限されず、従来技術に開示された任意の技術であってもよい。いくつかの実施例において、セパレータは、本発明における電解液に対して安定な材料からなるポリマー又は無機物等を含む。
【0074】
例えば、セパレータは基材層及び表面処理層を含んでもよい。基材層は多孔質構造を有する不織布、フィルム又は複合フィルムであり、基材層の材料はポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート及びポリイミドからなる群より選ばれる少なくとも一種である。具体的に、ポリプロピレン多孔質膜、ポリエチレン多孔質膜、ポリプロピレン不織布、ポリエチレン不織布、又はポリプロピレン-ポリエチレン-ポリプロピレン多孔質複合フィルムを採用することができる。
【0075】
基材層の少なくとも1つの表面に表面処理層が設置され、表面処理層はポリマー層又は無機物層であってもよく、ポリマーと無機物を混合することにより形成された層であってもよい。
【0076】
無機物層は無機粒子及びバインダーを含み、無機粒子は、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化チタン、二酸化ハフニウム、酸化スズ、二酸化セリウム、酸化ニッケル、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、炭化ケイ素、ベーマイト、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム及び硫酸バリウムからなる群より選ばれる一種又は複数種の組み合わせである。バインダーは、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリビニルピロリドン、ポリビニルエーテル、ポリメタクリル酸メチル、ポリテトラフルオロエチレン及びポリヘキサフルオロプロピレンからなる群より選ばれる一種又は複数種の組み合わせである。
【0077】
ポリマー層は、ポリマーを含み、ポリマーの材料は、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、アクリル酸エステルポリマー、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリビニルピロリドン、ポリビニルエーテル、ポリフッ化ビニリデン、及びポリ(フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン)からなる群より選ばれる少なくとも一種である。
【0078】
四、電子装置
本発明における電子装置は、本発明の実施形態に記載の電気化学装置を用いるいずれの装置であってもよい。
【0079】
いくつかの実施例において、前記電子装置としては、ノートパソコン、ペン入力コンピュータ、モバイルコンピュータ、電子ブックプレーヤー、携帯電話、携帯ファクシミリ、携帯複写機、携帯プリンタ、ステレオヘッドセット、ビデオレコーダー、液晶テレビ、ポータブルクリーナー、ポータブルCDプレーヤー、ミニ光ディスク、トランシーバー、電子メモ帳、計算器、メモリカード、携帯レコーダー、ラジオ、バックアップ電源、モーター、自動車、オートバイ、電動アシスト自転車、自転車、照明器具、おもちゃ、ゲーム機、時計、電動工具、フラッシュランプ、カメラ、家庭用大型蓄電池又はリチウムイオンコンデンサー等を含むが、これらに限定されない。
【0080】
以下、リチウム電池を例として、具体的な実施例を参照して、リチウム電池の調製を説明する。当業者は、本発明に記載の調製方法が単なる例示であり、他の任意の好適な調製方法も本発明の範囲にあることを理解すべきである。
【0081】
〔実施例〕
以下の説明のように、本発明における全固体二次リチウム電池の実施例及び比較例について性能評価を行った。
【0082】
一、測定方法
1、粉末X線回折(XRD)測定
比較例及び実施例で調製した正極活物質粉末について、XRD測定を行った。測定の参照規格はJIS K 0131-1996X線回折分析通則である。測定動作条件:CuKα放射線(λ=1.5418Å)、動作電流250mA、連続走査、動作電圧40kV、走査範囲2θ10~70°、ステップサイズ0.1°、走査速度0.2秒/ステップ。
【0083】
XRD測定原理は、以下の通りであった。単色X線が結晶に入射すると、結晶は原子が規則的に配列した単位格子からなるものであるため、これらの規則的に配列した原子間の距離は入射X線の波長と同じオーダーになる。そのため、異なる原子で散乱したX線が互いに干渉して、いくつかの特別な方向に強いX線回折が発生する。材料について測定された格子面間隔及び回折強度を標準相の回折データと比べることにより、材料中に存在する相を決定する。
【0084】
2、走査電子顕微鏡(SEM)測定
比較例及び実施例で調製した正極活物質粉末について、SEM測定を行った。SEM測定の参照規格は、JY/T010-1996分析型走査電子顕微鏡方法通則である。走査電子顕微鏡の測定原理は、以下の通りであった。走査電子顕微鏡の製造根拠が電子と物質との相互作用であり、集束により非常に細くなる高エネルギー電子線を用いてサンプルを走査し、様々な物理的情報を励起する。これらの情報に対する受信、拡大及び表示結像を経って、測定サンプルの表面の構造形態を取得する。
【0085】
3、充放電測定
比較例及び実施例で調製した全固体二次リチウム電池のグラムあたりの容量の測定が採用する設備は、LAND測定装置(型式CT2001A)であった。測定環境温度はいずれも常温(25℃)であった。測定方法は、設定されたレートに応じて放電カットオフ電圧まで定電流放電した後に、一定のレートで充電カットオフ電圧まで定電流充電したことであった。本発明において、明記以外に、充放電測定レートがいずれも0.1Cであり、参照としてのFeFの理論比容量が712mAh/gであり、かつ、参照としてのCuFの理論比容量が893mAh/gであった。
【0086】
二、全固体二次リチウム電池の調製
実施例及び比較例で調製した正極活物質と導電剤であるケッチェンブラックを均一に混合した。得られた粉体を固体電解質であるLi11と共にステンレス冷間プレス金型に置き、圧力300MPaで冷間プレス成形し、正極と固体電解質との二層シートを得た。ここで、正極活物質と固体電解質であるLi11と導電剤であるケッチェンブラックとの質量比は60:30:10であった。リチウム金属箔シートを上記二層シートにおける固体電解質の別の面に置き、それとともに冷間プレス金型に置き、リチウム金属と固体電解質膜が完全に接触することを確保するように、圧力200MPaをさらに加え、全固体二次リチウム電池を得た。
【0087】
三、正極活物質の調製
比較例1
10gのFeFを秤量し、50mlのメノウボールミルジャーに加え、次にφ5mmメノウボール40個、φ10mmメノウボール5個を入れ、500r/minの回転速度で12時間ボールミルした。ボールミルした後、資材はボールミルジャーの壁に付着し、ボールミルが不十分であった。
【0088】
比較例2
10gのFeFを秤量し、50mlのメノウボールミルジャーに加え、次にφ5mmメノウボール40個、φ10mmメノウボール5個を入れ、20mlの無水エタノールを加え、800r/minの回転速度で12時間ボールミルした。得られた資材を取り出し、真空オーブンに移して、80℃で乾燥させ、乾燥後の資材を400メッシュの篩にかけて、正極活物質FeFを得た。
【0089】
比較例3
10gのCuFを秤量し、50mlのメノウボールミルジャーに加え、次にφ5mmメノウボール40個、φ10mmメノウボール5個を入れ、20mlの無水エタノールを加え、500r/minの回転速度で12時間ボールミルした。ボールミルが終了した後、得られた資材をエタノールに均一に分散し、壁の付着及び沈着の現象がなかった。得られた資材を取り出し、真空オーブンに移して、80℃で乾燥させ、乾燥後の資材を400メッシュの篩にかけて、正極活物質であるCuFを得た。
【0090】
比較例4
10gのFeF及び0.5gの導電性炭素粉末を秤量し、50mlのメノウボールミルジャーに加え、次にφ5mmメノウボール40個、φ10mmメノウボール5個を入れ、20mlの無水エタノールを加え、500r/minの回転速度で12時間ボールミルした。ボールミルが終了した後、資材を取り出し、真空オーブンに移して、80℃で乾燥させ、乾燥後の資材を400メッシュの篩にかけて、正極活物質として、炭素で被覆されたFeFを得た。
【0091】
実施例1
10gのFeFを秤量し、50mlのメノウボールミルジャーに加え、次にφ5mmメノウボール40個、φ10mmメノウボール5個を入れ、20mlの無水エタノールを加え、500r/minの回転速度で12時間ボールミルした。ボールミルが終了した後、資材をエタノールに均一に分散し、壁の付着又は沈降の現象がなかった。
【0092】
実施例2~実施例13
金属フッ化物であるMF及びフッ化黒鉛であるCFを50mlのメノウボールミルジャーに加え、φ5mmメノウボール40個、φ10mmメノウボール5個を入れ、20mlの無水エタノールを加え、500r/minの回転速度で12時間ボールミルした。ボールミルが終了した後、資材を取り出し、真空オーブンに移して、80℃で乾燥させ、300又は400メッシュの篩にかけて、フッ化黒鉛と金属フッ化物との均一の混合物を得た。得られた混合物資材を管式炉に移し、0.3L/minの高純度のアルゴンガスフローの保護下、3℃/minの昇温速度で300~500℃まで昇温し、24時間温度保持してアニールした。アニールが終了した後、資材は管式炉とともに室温まで冷却し、次に材料を破砕し、篩い分けして、本発明における正極活物質として、金属フッ化物とフッ化黒鉛との複合材料であるMF.w(CF)を得た。ここで、yは前記金属フッ化物におけるフッ素元素Fと金属元素Mとのモル比であり、zは前記複合材料におけるフッ素元素Fと金属元素Mとのモル比であり、xは前記CFxにおけるフッ素元素Fと炭素元素Cとのモル比であり、かつ、wは前記フッ化黒鉛と前記金属フッ化物との質量比であった。また、実施例7は、乾燥した後にアニール処理を行わなかった。実施例2~実施例13に用いられた原料の種類及び使用量、とプロセスパラメータを表1に示す。
【0093】
【表1】
ここで、「-」は当該ステップ処理を行わなかったことを示す。
【0094】
表2は一部の実施例及び比較例の関連性能の測定結果を示す。
【0095】
【表2】
【0096】
表3は一部の実施例及び比較例の異なる充放電レートでの測定結果を示す。
【0097】
【表3】
ここで、「×」は20回充放電サイクルした後、電池に充放電容量がなかったことを示す。
【0098】
比較例1及び実施例1の測定結果から分かるように、ボールミルした時に分散剤を加えなかった場合、資材に深刻なジャーの壁に付着した現象が現れ、ミルが不十分である。それに対し、無水エタノールを分散剤として加えて湿式ミルを行った場合、ボールミルの過程において、大粒子はボールミル媒体のミル及び衝撃作用でクラックが発生し、分散剤であるエタノールは形成されたクラックの隙間に入り、クラックの閉鎖を阻止し、これにより、クラックを高速に拡張させるのに有効であり、ボールミルの効率を大幅に向上させる。
【0099】
比較例2、比較例4及び実施例2~実施例6の測定結果から分かるように、FeFにCFxを取り込むことにより、FeFの充放電のグラムあたりの容量を顕著に改善することができ、そして、充放電のグラムあたりの容量を改善する効果は、フッ化黒鉛複合処理>導電性炭素被覆処理>未処理のような関係を満たしている。以上の結果から、F元素の取り込みはFeF材料性能を向上させる要因の1つであることがわかる。
【0100】
比較例2及び実施例7~実施例10の測定結果から分かるように、アニール温度はフッ化黒鉛と三フッ化鉄との複合正極活物質のグラムあたりの容量に顕著な影響をもたらす。アニール処理を行わない場合、材料の初回放電容量、初回充電容量はそれぞれ377.5mAh/g、232.9mAh/gであった。アニール温度が150℃から350℃まで上昇することに伴い、材料の初回放電容量、初回充電容量はいずれも大幅に向上し、それぞれ554.8mAh/g、458.7mAh/gであった。これは、温度の上昇に伴い、CFxとFeF結晶格子が拡散反応を発生しやすくなるためである。
【0101】
比較例3及び実施例11~実施例13の測定結果から分かるように、フッ化銅とフッ化黒鉛を複合処理することにより、同様にフッ化銅材料の電気化学的性能を改善することができる。加えて、前記複合正極材料の充放電容量はさらにフッ化黒鉛材料におけるフッ素と炭素とのモル比であるxに関連する。フッ素と炭素とのモル比が高いほど、材料の放電のグラムあたりの容量を向上させることに有利である。
【0102】
比較例3及び実施例13の測定結果から分かるように、フッ化銅にCFxを取り込んだ後、本発明における正極活物質で調製された全固体二次リチウム電池のレート性能及びサイクル性能はいずれも顕著に向上する。同様の条件では、0.05Cでの充放電と比べて、実施例13の高いレートである0.5Cでの充放電は、放電容量、充電容量の低下幅が明らかに減少した。これは、フッ化黒鉛の取り込みが材料の充放電レート性能を顕著に改善することを示す。安定した充放電を20回サイクルした後、本発明における正極材料で調製された固体リチウム電池は、異なるレートで充放電を行い、その容量維持率がいずれも85%以上であり、それに対し、比較例において、容量が大幅に減衰し、特に0.2C及び0.5Cと高いレートで、20回サイクルした後に、充放電容量がほとんどなくなった。実施例において、金属フッ化物材料とフッ化黒鉛材料が複合された後、初回放電の過程において、正極材料の表面にあるフッ化黒鉛がリチウムと変換反応を起こして、その場でナノカーボンを生成し、これにより、正極の導電率を増加させ、変換反応動力学を向上させることに有利であるためである。フッ化黒鉛は、初回放電の過程において、その場でナノカーボンを生成する以外に、フッ化リチウムを生成し、さらにリチウム源として用いられ、これにより、正極材料の複数回のサイクル過程でのリチウム損失を補うことができるので、材料の長期サイクル安定性能を向上させる。
【0103】
図2は、本発明比較例2、比較例4及び実施例4における全固体二次リチウム電池の容量維持率がサイクル回数に伴って変化する曲線を示す。図2から分かるように、FeFにCFxを取り込むことにより、全固体二次リチウム電池の容量維持率を顕著に向上させることができる。
【0104】
明細書全体では、「一部の実施例」、「部分的実施例」、「1つの実施例」、「他の例」、「例」、「具体例」又は「部分例」による引用は、本発明の少なくとも1つの実施例又は例は、当該実施例又は例に記載された特定の特徴、構造、材料又は特性を含むことを意味する。従って、明細書全体の各箇所に記載された、例えば「いくつかの実施例において」、「実施例において」、「1つの実施例において」、「別の例において」、「1つの例において」、「特定の例において」又は「例を挙げる」は、必ずしも本発明の同じ実施例又は例を引用するわけではない。また、本明細書の特定の特徴、構造、材料、又は特性は、1つ又は複数の実施例又は例において、任意の好適な形態で組み合わせることができる。
【0105】
例示的な実施例が開示及び説明されたが、当業者は、上述実施例が本発明を限定するものとして解釈されることができないことと、本発明の技術思想、原理、及び範囲から逸脱しない場合に実施例への変更、置換及び変更が可能であることと、を理解すべきである。
図1
図2