(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-02
(45)【発行日】2024-10-10
(54)【発明の名称】光学素子の駆動方法
(51)【国際特許分類】
G02F 1/13 20060101AFI20241003BHJP
G02F 1/1343 20060101ALI20241003BHJP
G02F 1/1347 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
G02F1/13 505
G02F1/1343
G02F1/1347
(21)【出願番号】P 2023545155
(86)(22)【出願日】2022-07-22
(86)【国際出願番号】 JP2022028427
(87)【国際公開番号】W WO2023032517
(87)【国際公開日】2023-03-09
【審査請求日】2024-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2021144295
(32)【優先日】2021-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502356528
【氏名又は名称】株式会社ジャパンディスプレイ
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】今井 貴之
(72)【発明者】
【氏名】池田 幸次朗
(72)【発明者】
【氏名】小糸 健夫
【審査官】植田 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0196318(US,A1)
【文献】特開2012-128276(JP,A)
【文献】特開2014-081419(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/13
G02F 1/1343
G02F 1/1347
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の液晶セル
および前記第1の液晶セルの上の第2の液晶セルを含む光学素子の駆動方法であって、
前記第1の液晶セルは、
第1の方向において、第1の透明電極と第2の透明電極とが交互に配置された第1の基板と、
前記第1の方向と交差する第2の方向において、第3の透明電極と第4の透明電極とが交互に配置された第2の基板と、
前記第1の基板と前記第2の基板との間の第1の液晶層と、を含み、
前記第2の液晶セルは、
前記第1の方向において、第5の透明電極と第6の透明電極とが交互に配置された第3の基板と、
前記第2の方向において、第7の透明電極と第8の透明電極とが交互に配置された第4の基板と、
前記第3の基板と前記第4の基板との間の第2の液晶層と、を含み、
前記第1の透明電極に、第1の信号を入力し、
前記第2の透明電極に、前記第1の信号との位相差がπを有する第2の信号を入力し、
前記第3の透明電極に、前記第1の信号との位相差が任意の値αを有する第3の信号を入力し、
前記第4の透明電極に、前記第3の信号との位相差がπを有する第4の信号を入力
し、
前記第5の透明電極に、第5の信号を入力し、
前記第6の透明電極に、前記第5の信号との位相差がπを有する第6の信号を入力し、
前記第7の透明電極に、前記第5の信号との位相差が任意の値βを有する第7の信号を入力し、
前記第8の透明電極に、前記第7の信号との位相差がπを有する第8の信号を入力し、
前記任意の値βは、前記任意の値αと異なる、光学素子の駆動方法。
【請求項2】
前記任意の値αは、0<α<πを満たす、請求項1に記載の光学素子の駆動方法。
【請求項3】
前記任意の値αは、π/2である、請求項1に記載の光学素子の駆動方法。
【請求項4】
前記任意の値βは、0である、請求項
1に記載の光学素子の駆動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一実施形態は、光源から出射された光の配光を制御する光学素子、特に、液晶を用いた光学素子の駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、液晶に印加する電圧を調整し、液晶の屈折率が変化することを利用した光学素子、いわゆる液晶レンズが知られている(例えば、特許文献1、特許文献2、または特許文献3参照)。例えば、特許文献1および特許文献2に記載された照明装置は、液晶レンズを利用し、光源からの光を円形状に配光する。また、特許文献3に記載されたビーム成形デバイスでは、液晶に印加する電極のパターンを変えて配光の形状を変化させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-317879号公報
【文献】特開2010-230887号公報
【文献】特開2014-160277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
液晶を用いた光学素子では、液晶に印加する電位の振幅の大きさを変化させて配光の形状を変化させることもできる。しかしながら、電位の振幅の大ききを変えるためには、デジタルアナログ変換回路(DAC)または増幅回路(AMP)などを含む複雑な制御回路が必要であるが、配光の微調整が難しいという問題があった。そのため、配光の制御が容易な光学素子が望まれている。
【0005】
本発明の一実施形態は、上記問題に鑑み、配光の制御が容易な光学素子の駆動方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態に係る光学素子の駆動方法は、第1の液晶セルを含む光学素子の駆動方法であって、第1の液晶セルは、第1の方向において、第1の透明電極と第2の透明電極とが交互に配置された第1の基板と、第1の方向と交差する第2の方向において、第3の透明電極と第4の透明電極とが交互に配置された第2の基板と、第1の基板と第2の基板との間の第1の液晶層と、を含み、第1の透明電極に、第1の信号を入力し、第2の透明電極に、第1の信号との位相差がπを有する第2の信号を入力し、第3の透明電極に、第1の信号との位相差が任意の値αを有する第3の信号を入力し、第4の透明電極に、第3の信号との位相差がπを有する第4の信号を入力する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の一実施形態に係る光学素子の模式的な斜視図である。
【
図2A】本発明の一実施形態に係る光学素子の模式的な断面図である。
【
図2B】本発明の一実施形態に係る光学素子の模式的な断面図である。
【
図3A】本発明の一実施形態に係る光学素子による配光の制御を説明する模式的な断面図である。
【
図3B】本発明の一実施形態に係る光学素子による配光の制御を説明する模式的な断面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る光学素子の透明電極に入力される信号線を説明する模式図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る光学素子の透明電極に入力される信号のタイミングチャートである。
【
図6】本発明の一実施形態に係る光学素子の透明電極に入力される信号のタイミングチャートである。
【
図7A】本発明の一実施形態に係る光学素子の第1の液晶セルの透過率を示すグラフである。
【
図7B】本発明の一実施形態に係る光学素子の第1の液晶セルの透過率を示すグラフである。
【
図8】本発明の一実施形態に係る光学素子の第1の液晶セルを透過した光の色度座標のx座標を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の各実施形態において、図面等を参照しつつ説明する。但し、本発明は、その技術的思想の要旨を逸脱しない範囲において様々な態様で実施することができ、以下に例示する実施形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0009】
図面は、説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、図示の形状そのものが本発明の解釈を限定するものではない。また、図面において、明細書中で既出の図に関して説明したものと同様の機能を備えた要素には、別図であっても同一の符号を付して、重複する説明を省略する場合がある。
【0010】
ある一つの膜を加工して複数の構造体を形成した場合、各々の構造体は異なる機能、役割を有する場合があり、また各々の構造体はそれが形成される下地が異なる場合がある。しかしながらこれら複数の構造体は、同一の工程で同一層として形成された膜に由来するものであり、同一の材料を有する。従って、これら複数の膜は同一層に存在しているものと定義する。
【0011】
ある構造体の上に他の構造体を配置する態様を表現するにあたり、単に「上」と表記する場合、特に断りの無い限りは、ある構造体に接して、直上に他の構造体を配置する場合と、ある構造体の上方に、さらに別の構造体を介して他の構造体を配置する場合との両方を含むものとする。
【0012】
[1.光学素子10の構成]
図1は、本発明の一実施形態に係る光学素子10の模式的な斜視図である。
図1に示すように、光学素子10は、第1の液晶セル110-1および第2の液晶セル110-2を含む。第2の液晶セル110-2は、第1の光学弾性樹脂層170-1を介して、第1の液晶セル110-1上に配置されている。すなわち、光学素子10は、z軸方向において、第1の液晶セル110-1および第2の液晶セル110-2が積層された構造を有する。第1の光学弾性樹脂層170-1は、第1の液晶セル110-1と第2の液晶セル110-2とを接着し、固定する。第1の光学弾性樹脂層170-1として、透光性を有するアクリル樹脂またはエポキシ樹脂などを含む接着剤を用いることができる。
【0013】
図2Aおよび
図2Bは、本発明の一実施形態に係る光学素子10の模式的な断面図である。具体的には、
図2Aは、
図1に示すA1-A2線に沿って切断されたzx面内の模式的な断面図であり、
図2Bは、
図1に示すB1-B2線に沿って切断されたyz面内の模式的な断面図である。なお、以下では、x軸方向およびy軸方向を、それぞれ、第1の方向および第1の方向と交差する第2の方向として記載する場合がある。
【0014】
第1の液晶セル110-1は、第1の透明電極130-1および第2の透明電極130-2が形成された第1の基板120-1と、第3の透明電極130-3および第4の透明電極130-4が形成された第2の基板120-2と、を含む。第1の基板120-1上には、第1の透明電極130-1および第2の透明電極130-2を覆う第1の配向膜140-1が形成されている。また、第2の基板120-2上には、第3の透明電極130-3および第4の透明電極130-4を覆う第2の配向膜140-2が形成されている。第1の基板120-1と第2の基板120-2とは、第1の基板120-1上の第1の透明電極130-1および第2の透明電極130-2と、第2の基板120-2上の第3の透明電極130-3および第4の透明電極130-4とが交差上に(以下、同様)対向するように配置されている。また、第1の基板120-1および第2の基板120-2の各々の周辺部には、第1のシール材150-1が形成されている。すなわち、第1の基板120-1と第2の基板120-2とは、第1のシール材150-1を介して接着されている。また、第1の基板120-1(より具体的には、第1の配向膜140-1)、第2の基板120-2(より具体的には、第2の配向膜140-2)、および第1のシール材150-1で囲まれた空間には液晶が封入され、第1の液晶層160-1が形成されている。
【0015】
第2の液晶セル110-2は、第5の透明電極130-5および第6の透明電極130-6が形成された第3の基板120-3と、第7の透明電極130-7および第8の透明電極130-8が形成された第4の基板120-4と、を含む。第3の基板120-3上には、第5の透明電極130-5および第6の透明電極130-6を覆う第3の配向膜140-3が形成されている。また、第4の基板120-4上には、第7の透明電極130-7および第8の透明電極130-8を覆う第4の配向膜140-4が形成されている。第3の基板120-3と第4の基板120-4とは、第3の基板120-3上の第5の透明電極130-5および第6の透明電極130-6と、第4の基板120-4上の第7の透明電極130-7および第8の透明電極130-8とが対向するように配置されている。また、第3の基板120-3および第4の基板120-4の各々の周辺部には、第2のシール材150-2が形成されている。すなわち、第3の基板120-3と第4の基板120-4とは、第2のシール材150-2を介して接着されている。また、第3の基板120-3(より具体的には、第3の配向膜140-3)、第4の基板120-4(より具体的には、第4の配向膜140-4)、および第2のシール材150-2で囲まれた空間には液晶が封入され、第2の液晶層160-2が形成されている。
【0016】
第1の液晶セル110-1および第2の液晶セル110-2は、基本的な構成は同じである。そのため、以下では、第1の液晶セル110-1の透明電極130の配置について説明し、第2の液晶セル110-2の透明電極130の配置については説明を省略する。
【0017】
第1の液晶セル110-1では、第1の透明電極130-1および第2の透明電極130-2はy軸方向に延在し、第3の透明電極130-3および第4の透明電極130-4はx軸方向に延在している。また、第1の透明電極130-1と第2の透明電極130-2とは、x軸方向において交互に櫛歯状に配置され、第3の透明電極130-3と第4の透明電極130-4とは、第2の方向において交互に櫛歯状に配置されている。平面視において、第1の透明電極130-1および第2の透明電極130-2の延在方向(y軸方向)は、第3の透明電極130-3および第4の透明電極130-4の延在方向(x軸方向)と直交しているが、直交から僅かにずれた状態で交差していてもよい。
【0018】
平面視において、第1の液晶セル110-1の第1の透明電極130-1および第2の液晶セル110-2の第5の透明電極130-5は、互いに延在方向(y軸方向)が略一致するように重畳している。但し、第1の透明電極130-1および第5の透明電極130-5が僅かにずれて重畳するように、第1の液晶セル110-1および第2の液晶セル110-2が配置されていてもよい。
【0019】
第1の基板120-1~第4の基板120-4の各々として、例えば、ガラス基板、石英基板、またはサファイア基板などの透光性を有する剛性基板が用いられる。また、第1の基板120-1~第4の基板120-4の各々として、例えば、ポリイミド樹脂基板、アクリル樹脂基板、シロキサン樹脂基板、またはフッ素樹脂基板などの透光性を有する可撓性基板を用いることもできる。
【0020】
第1の透明電極130-1~第8の透明電極130-8の各々は、液晶層160に電界を形成するための電極として機能する。第1の透明電極130-1~第8の透明電極130-8の各々として、例えば、インジウム・スズ酸化物(ITO)またはインジウム・亜鉛酸化物(IZO)などの透明導電材料が用いられる。
【0021】
第1の液晶層160-1および第2の液晶層160-2の各々は、液晶分子の配向状態に応じて、透過する光を屈折し、または透過する光の偏光状態を変化させることができる。第1の液晶層160-1および第2の液晶層160-2の各々の液晶として、ネマティック液晶などが用いられる。本実施形態で説明する液晶はポジ型であるが、液晶分子の初期の配向方向などを変更することによりネガ型を適用する構成も可能である。また、液晶には、液晶分子にねじれを付与するカイラル剤が含まれていることが好ましい。
【0022】
第1の配向膜140-1~第4の配向膜140-4の各々は、液晶層160内の液晶分子を所定の方向に配列する。第1の配向膜140-1~第4の配向膜140-4の各々として、ポリイミド樹脂などが用いられる。なお、第1の配向膜140-1~第4の配向膜140-4の各々は、ラビング法または光配向法などの配向処理によって配向特性が付与されてもよい。ラビング法は、配向膜の表面を一方向に擦る方法である。また、光配向法は、配向膜に直線偏光の紫外線を照射する方法である。
【0023】
第1のシール材150-1および第2のシール材150-2の各々として、エポキシ樹脂またはアクリル樹脂を含む接着材などが用いられる。なお、接着材は、紫外線硬化型であってもよく、熱硬化型であってもよい。
【0024】
図1~
図2Bでは、2つの液晶セル110を含む光学素子10を示したが、光学素子10の液晶セル110の数は2つに限られない。光学素子10に含まれる液晶セル110の数は、1つであってもよく、3つ以上であってもよい。但し、光学素子10は、少なくとも2つの液晶セル110を含むことにより、無偏光の配光を制御することができる。この場合、液晶表示素子の表裏面に設けられるような一対の偏光板を設ける必要はない。具体的には、
図1~
図2Bに示す光学素子10では、第1の液晶セル110-1の第1の基板120-1および第2の液晶セル110-2の第4の基板120-4の各表面には、偏光板を設ける必要はない。
【0025】
[2.光学素子10による配光の制御]
図3Aおよび
図3Bは、本発明の一実施形態に係る光学素子10による配光の制御を説明する模式的な断面図である。
図3Aおよび
図3Bには、
図2Aに示す第1の液晶セル110-1および第2の液晶セル110-2の断面図の一部が示されている。
図3Aには、透明電極130に電位が供給されていない状態の光学素子10が示され、
図3Bには、透明電極130に電位が供給されている状態の光学素子10が示されている。なお、透明電極130への電位の供給の制御(信号の入力)については、後述する。
【0026】
第1の配向膜140-1はx軸方向に配向処理が行われている。そのため、
図3Aに示すように、第1の液晶層160-1の第1の基板120-1側の液晶分子は、長軸がx軸方向に沿って配向する。すなわち、第1の基板120-1側の液晶分子の配向方向は、第1の透明電極130-1および第2の透明電極130-2の延在方向(y軸方向)に対して直交している。また、第2の配向膜140-2はy軸方向に配向処理が行われている。そのため、
図3Aに示すように、第1の液晶層160-1の第2の基板120-2側の液晶分子は、長軸がy軸方向に沿って配向する。すなわち、第2の基板120-2側の液晶分子の配向方向は、第3の透明電極130-3および第4の透明電極130-4の延在方向(x軸方向)に対して直交している。したがって、第1の液晶層160-1の液晶分子は、第1の基板120-1から第2の基板120-2に向かうにつれて徐々に長軸の向きをx軸方向からy軸方向に変化し、90度ねじれた状態で配向している。
【0027】
第2の液晶層160-2の液晶分子も、第1の液晶層160-1の液晶分子と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0028】
透明電極130に電位が供給されると、
図3Bに示すように、液晶分子の配向が変化する。ここでは、第1の透明電極130-1、第3の透明電極130-3、第5の透明電極130-5、および第7の透明電極130-7にLow電位が供給され、第2の透明電極130-2、第4の透明電極130-4、第6の透明電極130-6、および第8の透明電極130-8にHigh電位が供給されているものとして説明する。なお、
図3Bでは、便宜上、Low電位およびHigh電位を、それぞれ、「-」および「+」の記号を用いて図示している。なお、以下では、隣接する2つの透明電極130間に生じる電界を横電界と言う場合がある。
【0029】
図3Bに示すように、第1の透明電極130-1と第2の透明電極130-2との間の横電界の影響によって、第1の基板120-1側の液晶分子は、全体として、第1の基板120-1に対してx軸方向に沿って凸円弧状に配向する。同様に、第3の透明電極130-3と第4の透明電極130-4との間の横電界の影響によって、第2の基板120-2側の液晶分子は、全体として、第2の基板120-2に対してy軸方向に沿って凸円弧状に配向する。第1の透明電極130-1と第2の透明電極130-2との間のほぼ中央に位置する液晶分子は、いずれの横電界によっても配向がほとんど変化しない。したがって、第1の液晶層160-1に入射した光は、第1の基板120-1側のx軸方向に沿って凸円弧状に配向された液晶分子の屈折率分布にしたがってx軸方向に拡散され、第2の基板120-2側のy軸方向に沿って凸円弧状に配向された液晶分子の屈折率分布にしたがってy軸方向に拡散される。
【0030】
なお、第1の基板120-1と第2の基板120-2とは、十分に離れた基板間距離を有しているため、第1の基板120-1の第1の透明電極130-1と第2の透明電極130-2との間の横電界は、第2の基板120-2側の液晶分子の配向に対して影響を及ぼさない、または、無視できるほどに小さい。同様に、第2の基板120-2の第3の透明電極130-3と第4の透明電極130-4との間の横電界は、第1の基板120-1側の液晶分子の配向に対して影響を及ぼさない、または、無視できるほどに小さい。
【0031】
第5の透明電極130-5~第8の透明電極130-8に電位が供給された場合における第2の液晶層160-2の液晶分子も、第1の液晶層160-1の液晶分子と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0032】
続いて、光学素子10を透過する光の配光について説明する。光源から出射された光は、x軸方向の偏光成分(P偏光成分)およびy軸方向の偏光成分(S偏光成分)を有するが、以下では、便宜上、光をP偏光成分とS偏光成分とに分けて説明する。すなわち、光源から出射された光(
図3Aおよび
図3B中の(1)参照)は、P偏光成分を有する第1の偏光310およびS偏光成分を有する第2の偏光320を含む。なお、
図3Aおよび
図3B中の矢印の記号および丸印にバツを付した記号は、それぞれ、P偏光成分およびS偏光成分を表している。
【0033】
第1の偏光310は、第1の基板120-1に入射した後、第2の基板120-2に向かうにつれて、液晶分子の配向のねじれにしたがってP偏光成分からS偏光成分に変化する(
図3Aおよび
図3B中の(2)~(4)参照)。より具体的には、第1の偏光310は、第1の基板120-1側ではx軸方向に偏光軸を有しているが、第1の液晶層160-1の厚さ方向に通過する過程でその偏光軸を徐々に変化させ、第2の基板120-2側ではy軸方向に偏光軸を有し、その後、第2の基板120-2側から出射される(
図3Aおよび
図3B中の(5)参照)。
【0034】
ここで、第1の透明電極130-1と第2の透明電極130-2との間に横電界が発生すると、当該横電界の影響で第1の基板120-1側の液晶分子がx軸方向に沿って凸円弧状に配向し、屈折率分布が変化する。そのため、第1の偏光310は、当該液晶分子の屈折率分布にしたがって、x軸方向に拡散する。また、第3の透明電極130-3と第4の透明電極130-4との間に横電界が発生すると、当該横電界の影響で第2の基板120-2側の液晶分子がy軸方向に沿って凸円弧状に配向し、屈折率分布が変化する。そのため、第1の偏光310は、当該液晶分子の屈折率分布の変化にしたがって、y軸方向に拡散する。
【0035】
したがって、横電界が発生していない場合(
図3A参照)、第1の液晶セル110-1を透過する第1の偏光310は、偏光成分がP偏光成分からS偏光成分に変化する。一方、横電界が発生している場合(
図3B参照)、第1の液晶セルを透過する第1の偏光310は、偏光成分がP偏光成分からS偏光成分に変化するとともに、x軸方向およびy軸方向に拡散する。
【0036】
第2の偏光320は、第1の基板120-1に入射した後、第2の基板120-2に向かうにつれて、液晶分子の配向のねじれにしたがってS偏光成分からP偏光成分に変化する(
図3Aおよび
図3B中の(2)~(4)参照)。より具体的には、第2の偏光320は、第1の基板120-1側ではy軸方向に偏光軸を有しているが、第1の液晶層160-1の厚さ方向に通過する過程でその偏光軸を徐々に変化させ、第2の基板120-2側ではx軸方向に偏光軸を有し、その後、第2の基板120-2側から出射される(
図3Aおよび
図3B中の(5)参照)。
【0037】
ここで、第1の透明電極130-1と第2の透明電極130-2との間に横電界が発生すると、当該横電界の影響で第1の基板120-1側の液晶分子がx軸方向に沿って凸円弧状に配向し、屈折率分布が変化する。しかしながら、第2の偏光320の偏光軸は、第1の基板120-1側の液晶分子の配向と直交しているため、当該液晶分子の屈折率分布の影響を受けず、拡散せずにそのまま通過する。また、第3の透明電極130-3と第4の透明電極130-4との間に横電界が発生すると、当該横電界の影響で第2の基板120-2側の液晶分子がy軸方向に沿って凸円弧状に配向し、屈折率分布が変化する。しかしながら、第2の偏光320の偏光軸は、第2の基板120-2側の液晶分子の配向と直交しているため、当該液晶分子の屈折率分布の影響を受けず、拡散せずにそのまま通過する。
【0038】
したがって、横電界が発生していない場合(
図3A参照)だけでなく、横電界が発生している場合(
図3B参照)も、第1の液晶セル110-1を透過する第2の偏光320は、偏光成分がS偏光成分からP偏光成分に変化するが、拡散しない。
【0039】
第2の液晶セル110-2の第2の液晶層160-2の液晶分子も、第1の液晶セル110-1の第1の液晶層160-1の液晶分子と同様の屈折率分布を有する。但し、第1の偏光310および第2の偏光320は、第1の液晶セル110-1を透過することで、偏光軸が変化しているため、第2の液晶層160-2の液晶分子の屈折率分布の影響を受ける偏光は逆となる。すなわち、横電界が発生していない場合(
図3A参照)だけでなく、横電界が発生している場合(
図3B参照)も、第2の液晶セル110-2を透過する第1の偏光310は、偏光成分がS偏光成分からP偏光成分に変化するが、拡散しない(
図3Aおよび
図3B中の(6)~(8)参照)。一方、横電界が発生していない場合(
図3A参照)、第2の液晶セル110-2を透過する第2の偏光320は、偏光成分がP偏光成分からS偏光成分に変化するのみであるが、横電界が発生している場合(
図3B参照)、第2の液晶セル110-2を透過する第2の偏光320は、偏光成分がP偏光成分からS偏光成分に変化するとともに、x軸方向およびy軸方向に拡散する。
【0040】
以上からわかるように、光学素子10では、同一の構造を有する2つの液晶セル110を積層させることにより、光学素子10に入射する光の偏光成分を2度にわたって変化させ、その結果、入射前と入射後での偏光成分を変わらなくすることができる(
図3Aおよび
図3B中の(1)および(9)参照)。他方、光学素子10は、透明電極130に電位が供給されると、液晶セル110の液晶層160の液晶分子が有する屈折率分布を変化させ、液晶セル110を透過する光を屈折させることができる。より具体的には、第1の液晶セル110-1が第1の偏光310(P偏光成分)の光をx軸方向、y軸方向、またはx軸およびy軸の両軸方向に拡散させ、第2の液晶セル110-2が第2の偏光320(S偏光成分)の光をx軸方向、y軸方向、またはx軸およびy軸の両軸方向に拡散させることができる。
【0041】
[3.光学素子10の透明電極130への信号の入力]
図4は、本発明の一実施形態に係る光学素子10の透明電極130に入力される信号線200を説明する模式図である。なお、
図4には、第1の液晶セル110-1の第1の透明電極130-1~第4の透明電極130-4のみが示されている。また、
図4では、説明の便宜上、第2の基板120-2が破線で示されている。
【0042】
第1の透明電極130-1、第2の透明電極130-2、第3の透明電極130-3、および第4の透明電極130-4は、それぞれ、第1の信号線200-1、第2の信号線200-2、第3の信号線200-3、および第4の信号線200-4と電気的に接続されている。第1の透明電極130-1には、第1の信号線200-1を介して、第1の信号S1が入力される。第2の透明電極130-2には、第2の信号線200-2を介して、第2の信号S2が入力される。第3の透明電極130-3には、第3の信号線200-3を介して、第3の信号S3が入力される。第4の透明電極130-4には、第4の信号線200-4を介して、第4の信号S4が入力される。
【0043】
図5および
図6は、本発明の一実施形態に係る光学素子10において、透明電極130に入力される信号のタイミングチャートである。
図5および
図6の各々に示す第1の信号S1~第4の信号S4は、High電位とLow電位とが交互に繰り返される交流矩形波である。
【0044】
図5および
図6に示す信号入力において、第2の信号S2は、第1の信号S1と位相差がπ(またはλ/2)ずれている。また、第4の信号S4は、第3の信号S3と位相差がπ(またはλ/2)ずれている。
図5に示す信号入力の時刻t
1および
図6に示す信号入力の時刻t
2では、第1の透明電極130-1にHigh電位が供給され、第2の透明電極130-2にLow電位が供給され、第3の透明電極130-3にHigh電位が供給され、第4の透明電極130-4にLow電位が供給される。上述したように、第1の透明電極130-1と第2の透明電極130-2との間に電位差が生じているため、第1の液晶セル110-1の第1の基板120-1に入射した光は、第1の基板120-1側の第1の液晶層160-1の液晶分子によって拡散される。同様に、第3の透明電極130-3と第4の透明電極130-4との間に電位差が生じているため、第1の液晶層160-1を通過する光は、第2の基板120-2側の第1の液晶層160-1の液晶分子によって拡散される。したがって、
図5に示す信号入力および
図6に示す信号入力では、第1の液晶セル110-1を通過する光が拡散されるように配光が制御される。
【0045】
一方、
図5に示す信号入力と
図6に示す信号入力とでは、信号の位相差が異なる。
図5に示す信号入力では、第1の信号S1および第3の信号S3(または第2の信号S2および第4の信号S4)は、同じ位相である。すなわち、第1の信号S1と第3の信号S3との間に、位相差は生じていない。これに対し、
図6に示す信号入力では、第1の信号S1と第3の信号S3との間(または第2の信号S2と第4の信号S4との間)でπ/2(またはλ/4)の位相差が生じている。
【0046】
本発明の発明者らは、液晶セル110の透明電極130に入力される信号の位相を変えると、配光が変化することを見出した。そのため、本発明の一実施形態に係る光学素子10の駆動方法では、液晶セル110の透明電極130に入力される信号の位相を変化させることにより、配光を制御することができる。
【0047】
図7A~
図8を参照して、
図5に示す信号入力および
図6に示す信号入力における配光の違いについて説明する。なお、
図5に示す信号入力では、第1の基板120-1側の透明電極130に入力される一組の信号(第1の信号S1および第2の信号S2)と第2の基板120-2側の透明電極130に入力される一組の信号(第3の信号S3および第4の信号S4)との間には位相差が生じていないということができるため、以下では、便宜上、
図5に示す信号入力を位相差0の信号入力として説明する。また、
図6に示す信号入力では、第1の基板120-1側の透明電極130に入力される一組の信号(第1の信号S1および第2の信号S2)と第2の基板120-2側の透明電極130に入力される一組の信号(第3の信号S3および第4の信号S4)との間にはπ/2の位相差が生じているということができるため、以下では、便宜上、
図6に示す信号入力を位相差π/2の信号入力として説明する。
【0048】
図7Aおよび
図7Bは、本発明の一実施形態に係る光学素子10の第1の液晶セル110-1の透過率を示すグラフである。透過率は、第1の液晶セル110-1の透明電極130に、位相差0の信号入力または位相差π/2の信号入力を行い、測定した。ここで、測定に用いた第1の液晶セル110-1の透明電極130の幅は8(μm)であり、隣接する2つの透明電極130間の距離は8(μm)であった。また、第1の液晶層160-1の厚さは30(μm)であった。信号のHigh電位は30Vであり、Low電位は0Vであった。
図7Aおよび
図7Bに示す極角は、z軸方向からの角度を表す。
図7Aは、位相差0の信号入力の極角0度を透過率100%として規格化したグラフである。また、
図7Bは、位相差0の信号入力および位相差π/2の信号入力の各々において、極角0度を透過率100%として規格化したグラフである。
【0049】
図7Aに示すように、位相差π/2の信号入力では、位相差0の信号入力よりも極角0度近傍における透過率が低下している。また、位相差π/2の信号入力では、位相差0の信号入力よりも-30度から-50度の範囲における透過率が増加している。すなわち、位相差π/2の信号入力では、位相差0の信号入力に比べ、第1の液晶層160-1による散乱特性が強まり、第1の液晶セル110-1を透過した光が、より拡散されている。このことは、
図7Bからも理解することができる。
図7Bに示すように、位相差π/2の信号入力では、位相差0の信号入力よりも、少なくとも極角-70度以上0度よりも小さい範囲において、透過率の極角0度に対する割合が増加している。
【0050】
したがって、本発明の一実施形態に係る光学素子10では、液晶セル110に入力する信号の電位の振幅の大きさを変えることなく、信号の位相を変えることによって、配光を制御することができる。
【0051】
図8は、本発明の一実施形態に係る光学素子10の第1の液晶セル110-1を透過した光の色度座標のx座標を示すグラフである。光源には白色光を用いた。
図8に示すように、位相差0の信号入力と位相差π/2の信号入力とでは、色度座標が変化している。そのため、本発明の一実施形態に係る光学素子10では、液晶セル110に入力する信号の位相を変えることによって、配光の色を変化させることもできる。例えば、白色光の場合では、信号の位相を変えることにより、赤みがかった暖色または青みがかった寒色の光を光学素子10から出射することができる。
【0052】
なお、上記では、位相差0の信号入力および位相差π/2の信号入力について説明したが、位相差はこれに限られない。位相差は、任意の値αとして、0≦α≦πとすることができる。本発明の一実施形態に係る光学素子10では、特に、位相差が0<α<πを満たす場合において、従来とは異なる配光の制御が可能である。
【0053】
また、光学素子10の配光の粗調整を供給する電位の振幅の大きさで行い、配光の微調整を信号の位相差で行うこともできる。
【0054】
以上、説明したように、光学素子10では、信号の位相差を変えることによって、配光を制御することができる。すなわち、本発明の一実施形態に係る光学素子10の駆動方法によれば、透明電極130に入力される信号の位相差を変えることによって、配光を制御する。すなわち、本発明の一実施形態に係る光学素子10の駆動方法によれば、透明電極130に入力する信号のタイミングを調整することにより、容易に配光を制御することができる。また、光学素子10は、1つまたは複数の液晶セル110を含むが、1つまたは複数の液晶セル110の少なくとも1つが、位相差を変える配光の制御を有していればよい。これにより、配光の微調整を行うことができる。また、光学素子10に2つの液晶セル110が含まれている場合、2つの液晶セル110の各々は、異なる位相差を有するように駆動されてもよい。例えば、第1の液晶セル110-1は、位相差αを有する信号が入力されることによって駆動され、第2の液晶セル110-2は、位相差αと異なる位相差βを有する信号が入力されることによって駆動されてもよい。
【0055】
本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例および修正例に相当し得るものであり、それら変更例および修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。例えば、上述の各実施形態に対して、当業者が適宜、構成要素の追加、削除、もしくは設計変更を行ったもの、または、工程の追加、省略、もしくは条件変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【0056】
また、本実施形態において態様によりもたらされる他の作用効果について本明細書の記載から明らかなもの、または当業者において適宜想到し得るものについては、当然に本発明によりもたらされるものと解される。
【符号の説明】
【0057】
10:光学素子、 110:液晶セル、 110-1:第1の液晶セル、 110-2:第2の液晶セル、 120-1:第1の基板、 120-2:第2の基板、 120-3:第3の基板、 120-4:第4の基板、 130:透明電極、 130-1:第1の透明電極、 130-2:第2の透明電極、 130-3:第3の透明電極、 130-4:第4の透明電極、 130-5:第5の透明電極、 130-6:第6の透明電極、 130-7:第7の透明電極、 130-8:第8の透明電極、 140:配向膜、 140-1:第1の配向膜、 140-2:第2の配向膜、 140-3:第3の配向膜、 140-4:第4の配向膜、 150-1:第1のシール材、 150-2:第2のシール材、 160:液晶層、 160-1:第1の液晶層、 160-2:第2の液晶層、 170-1:第1の光学弾性樹脂層、 200:信号線、 200-1:第1の信号線、 200-2:第2の信号線、 200-3:第3の信号線、 200-4:第4の信号線