(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-02
(45)【発行日】2024-10-10
(54)【発明の名称】操舵制御方法及び操舵装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20241003BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20241003BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20241003BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D119:00
B62D113:00
(21)【出願番号】P 2023554269
(86)(22)【出願日】2022-07-22
(86)【国際出願番号】 JP2022028497
(87)【国際公開番号】W WO2023062907
(87)【国際公開日】2023-04-20
【審査請求日】2024-01-29
(31)【優先権主張番号】P 2021167227
(32)【優先日】2021-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100114177
【氏名又は名称】小林 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】筬島 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】平松 大輔
(72)【発明者】
【氏名】中曽根 源平
(72)【発明者】
【氏名】安西 恵史
(72)【発明者】
【氏名】上木 智久
(72)【発明者】
【氏名】笹井 裕司
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/141795(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/051838(WO,A1)
【文献】国際公開第20/105620(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/230307(WO,A1)
【文献】特開2015-039256(JP,A)
【文献】特開2020-092583(JP,A)
【文献】特開2018-130007(JP,A)
【文献】国際公開第2018/088465(WO,A1)
【文献】特開2015-163498(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 5/04
B62D 119/00
B62D 113/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の現在の状態である現在状態を検出し、
前記車両の状態の目標値である目標状態を設定し、
前記現在状態と前記目標状態との間の偏差に基づいて基本転舵指令値を設定し、
前記基本転舵指令値を所定の比率で第1転舵指令値と第2転舵指令値とに分配することにより、前記車両の操向輪を転舵する転舵機構を駆動するための転舵指令値として、互いに時間差が設けられた前記第1転舵指令値と前記第2転舵指令値とを演算し、
前記転舵機構を駆動する第1転舵モータを前記第1転舵指令値に基づいて駆動し、前記転舵機構を駆動する第2転舵モータを前記第2転舵指令値に基づいて駆動する、
ことを特徴とする操舵制御方法。
【請求項2】
前記現在状態は前記車両の現在の転舵角であり、前記目標状態は前記車両の転舵角の目標値として設定される目標転舵角であることを特徴とする請求項1に記載の操舵制御方法。
【請求項3】
前記車両を走行させる軌道として目標走行軌道を設定し、前記目標走行軌道に沿って走行するための転舵角を前記目標転舵角として演算することを特徴とする請求項2に記載の操舵制御方法。
【請求項4】
前記車両の進行方向の障害物を回避するための転舵角、又は前記車両が走行車線から逸脱するのを防止するための転舵角として、前記目標転舵角を演算することを特徴とする請求項2に記載の操舵制御方法。
【請求項5】
前記車両の現在の転舵角である現在転舵角と前記車両の現在の操舵トルクである現在操舵トルクとを前記現在状態として検出し、
前記車両の転舵角の目標値である目標転舵角と前記車両の操舵トルクの目標値である目標操舵トルクとを前記目標状態として設定し、
前記現在転舵角と前記目標転舵角との間の偏差、又は前記現在操舵トルクと前記目標操舵トルクとの間の偏差のいずれか一方に基づいて、前記第1転舵指令値と前記第2転舵指令値とを演算する、
ことを特徴とする請求項1に記載の操舵制御方法。
【請求項6】
前記車両の現在の転舵角である現在転舵角と前記車両の現在の操舵トルクである現在操舵トルクとを前記現在状態として検出し、
前記車両の転舵角の目標値である目標転舵角と前記車両の操舵トルクの目標値である目標操舵トルクとを前記目標状態として設定し、
前記現在転舵角と前記目標転舵角との間の偏差に基づいて第3転舵指令値を演算し、
前記現在操舵トルクと前記目標操舵トルクとの間の偏差に基づいて第4転舵指令値を演算し、
前記第3転舵指令値と前記第4転舵指令値との和に基づいて前記第1転舵指令値と前記第2転舵指令値とを演算する、
ことを特徴とする請求項1に記載の操舵制御方法。
【請求項7】
前記時間差は、0より大きく、且つ前記転舵指令値の変化に対する過渡応答において発生すると考えられる最も高周波数の振動の周期の4分の1未満に設定することを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の操舵制御方法。
【請求項8】
前記現在状態と前記目標状態との間の偏差に基づいて前記第1転舵指令値を演算し、
前記第1転舵指令値の演算とは別に前記現在状態と前記目標状態との間の偏差に基づいて第2転舵指令値を演算する、
ことを特徴とする請求項1~
6のいずれか一項に記載の操舵制御方法。
【請求項9】
車両の操向輪を転舵する転舵機構を駆動する第1転舵モータ及び第2転舵モータと、
前記車両の現在の状態である現在状態を検出し、前記車両の状態の目標値である目標状態を設定し、前記現在状態と前記目標状態との間の偏差に基づいて基本転舵指令値を設定し、前記基本転舵指令値を所定の比率で第1転舵指令値と第2転舵指令値とに分配することにより、前記車両の転舵機構を駆動するための転舵指令値として、互いに時間差が設けられた前記第1転舵指令値と前記第2転舵指令値とを演算し、前記第1転舵モータを前記第1転舵指令値に基づいて駆動し、前記第2転舵モータを前記第2転舵指令値に基づいて駆動するコントローラと、
を備えることを特徴とする操舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵制御方法及び操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、目標転舵角と実転舵角との偏差に所定のゲインを乗じて転舵角指令値を演算し、転舵角指令値に基づいて転舵モータを駆動する転舵装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、車両の状態の目標である目標状態と実際の現在の状態である現在状態との偏差に応じて転舵指令値を生成し、生成した転舵指令値で転舵モータを駆動すると、目標状態又は現在状態の変化に対する転舵指令値の過渡応答によって転舵モータに振動が発生する虞がある。
本発明は、車両の状態の目標である目標状態と実際の現在の状態である現在状態との偏差に応じて転舵指令値を生成し、生成した転舵指令値で転舵モータを駆動する際に、転舵モータの振動を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様の操舵制御方法では、車両の現在の状態である現在状態を検出し、車両の状態の目標値である目標状態を設定し、現在状態と目標状態との間の偏差に基づいて車両の操向輪を転舵する転舵機構を駆動するための転舵指令値として、互いに時間差が設けられた第1転舵指令値と第2転舵指令値とを演算し、転舵機構を駆動する第1転舵モータを第1転舵指令値に基づいて駆動し、転舵機構を駆動する第2転舵モータを第2転舵指令値に基づいて駆動する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、車両の状態の目標である目標状態と実際の現在の状態である現在状態との偏差に応じて転舵指令値を生成し、生成した転舵指令値で転舵モータを駆動する際に、転舵モータの振動を抑制できる。
本発明の目的及び利点は、特許請求の範囲に示した要素及びその組合せを用いて具現化され達成される。前述の一般的な記述及び以下の詳細な記述の両方は、単なる例示及び説明であり、特許請求の範囲のように本発明を限定するものでないと解するべきである。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態の操舵装置の一例を模式的に示す概要構成図である。
【
図2】第1実施形態のモータコントロールユニットの機能構成の一例のブロック図である。
【
図3A】時間差を設けていない第1転舵指令値及び第2転舵指令値の一例のタイムチャートである。
【
図3B】時間差が設けられた第1転舵指令値及び第2転舵指令値の一例のタイムチャートである。
【
図4】第1実施形態の操舵制御方法の一例のフローチャートである。
【
図5】第2実施形態のモータコントロールユニットの機能構成の一例のブロック図である。
【
図6】第2実施形態の変形例のモータコントロールユニットの機能構成の一例のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(第1実施形態)
(構成)
以下、本発明の操舵装置を電動パワーステアリングシステムに適用した場合の例について説明するが、本発明は電動パワーステアリングシステムに限定されるものではない。本発明は、車両の状態の目標である目標状態と実際の現在の状態である現在状態との偏差に応じて転舵指令値を生成し、生成した転舵指令値で転舵モータを駆動する操舵装置に広く適用可能である。例えば、本発明の操舵装置を、ステアリングホイールと操向輪とが機械的に分離可能なステアバイワイヤシステムに適用してもよい。
【0009】
図1は、実施形態の操舵装置が適用された電動パワーステアリングシステム1の構成の一例の模式図である。
電動パワーステアリングシステム1において、上位コントロールユニット101は、電動パワーステアリングシステム1の制御モードを設定する。上位コントロールユニット101は、制御モードを示す制御モード信号Smodeを出力する。
電動パワーステアリングシステム1の制御モードとしては、ステアリングシャフト6に加わる操舵トルクTdに応じた操舵補助力を電動モータ18a及び18bに発生させてステアリングシャフトに付与する通常制御モードがある。
【0010】
また例えば、電動パワーステアリングシステム1の制御モードは、自車両の周囲環境と自車両の走行状態に基づいて自車両を自律走行させる自動走行制御や、現在位置から目標駐車位置まで移動させる自動駐車制御、進行方向の障害物を回避するための緊急回避制御、自車両が走行車線から逸脱するのを防止するための車線逸脱防止制御(レーンキープ制御)のいずれかを含んでもよい。
制御モードが、自動走行制御、自動駐車制御、緊急回避制御又は車線逸脱防止制御である場合、上位コントロールユニット101は、操向輪3の転舵角の目標値である目標転舵角θadを演算して出力する。
【0011】
例えば、自動走行制御において上位コントロールユニット101は、自車両の周囲環境と自車両の走行状態に基づいて自車両を走行させる軌道として目標走行軌道を設定し、目標走行軌道に沿って自車両を走行させるための転舵角を目標転舵角θadとして演算する。具体的には例えば一例として、車両前方の走路左右の車線区分線(レーンマーカ―)を検出し、検出した車線区分線に対して車線幅方向で所定位置を通る目標走行軌道を算出し、算出した目標走行軌道に沿って自車両を走行させるための転舵角を目標転舵角θadとして演算する。
また例えば、自動駐車制御において上位コントロールユニット101は、自車両の現在位置と駐車目標位置との相対位置関係に基づいて自車両を駐車目標位置まで移動させる目標走行軌道を設定し、目標走行軌道に沿って自車両を走行させるための転舵角を目標転舵角θadとして演算する。
また例えば、緊急回避制御において上位コントロールユニット101は、車両の進行方向の障害物を回避するための転舵角を目標転舵角θadとして演算する。また例えば、車線逸脱防止制御において上位コントロールユニット101は、車両が走行車線から逸脱するのを防止するための転舵角を目標転舵角θadとして演算する。
上位コントロールユニット101における制御モードの選択は、上位コントロールユニット101に接続された不図示の選択スイッチ等によって運転者によって選択されるものであっても良い。あるいは、車両前方の障害物までの距離を検出するセンサを備えて、自動走行制御中に車両の進行方向所定距離内に障害物が検出された場合に、自動的に自動走行制御から緊急回避制御に変更されるなど、車両の状況に応じて選択されても良い。その他、自車両の位置が駐車場内で有る場合や車速が駐車に適した所定車速以下である場合など、車両の状況に応じて自動的に自動駐車制御を開始するなど、車両の位置や車両の状況に応じて自動的に選択されても良い。このように、上位コントロールユニット101における制御モードの選択方法は適宜変更可能である。
【0012】
上位コントロールユニット101によって生成された目標転舵角θad及び制御モード信号Smodeは、例えば車載ネットワークを介して、モータコントロールユニット102に与えられる。
【0013】
ステアリングシャフト6は、ステアリングホイール2に連結された入力軸8と、中間軸7に連結された出力軸9とを含む。入力軸8と出力軸9とはトーションバー10を介して相対回転可能に連結されている。トーションバー10の近傍には、トルクセンサ12が配置されている。トルクセンサ12は、入力軸8および出力軸9の相対回転変位量(すなわちトーションバーの捻じれ量)に基づいて、ステアリングホイール2に与えられた操舵トルク(実操舵トルク)Tdを、自車両の現在の状態である現在状態として検出する。実操舵トルクTdは、特許請求の範囲に記載の「現在操舵トルク」の一例である。
本実施形態では、実操舵トルクTdは、例えば、左方向への操舵のためのトルクが正の値として検出され、右方向への操舵のためのトルクが負の値として検出され、その絶対値が大きいほど実操舵トルクTdの大きさが大きくなるものとする。
【0014】
転舵機構4は、ピニオン軸13と、転舵軸としてのラック軸14とを含むラックアンドピニオン機構を含む。ラック軸14の各端部には、タイロッド15およびナックルアーム(図示せず)を介して操向輪3が連結されている。ピニオン軸13は、中間軸7に連結されている。ピニオン軸13は、ステアリングホイール2の操舵に連動して回転するようになっている。ピニオン軸13の先端には、ピニオン16が連結されている。
【0015】
ラック軸14は、車両の左右方向に沿って直線状に延びている。ラック軸14の軸方向の中間部には、ピニオン16に噛み合うラック17が形成されている。このピニオン16およびラック17によって、ピニオン軸13の回転運動がラック軸14の軸方向の直線運動に変換される。ラック軸14を軸方向に移動させることによって、操向輪3を転舵することができる。ステアリングホイール2が操舵(回転)されると、この回転が、ステアリングシャフト6および中間軸7を介して、ピニオン軸13に伝達される。そして、ピニオン軸13の回転は、ピニオン16およびラック17によって、ラック軸14の軸方向移動に変換される。これにより、操向輪3が転舵される。
【0016】
操舵補助機構5は、操舵補助力(アシス卜トルク)を発生するための第1電動モータ18a及び第2電動モータ18bと、第1電動モータ18a及び第2電動モータ18bの出力トルクをそれぞれ増幅して転舵機構4に伝達するための第1減速機19a及び第2減速機19bとを含む。
第1減速機19aは、ウォームギヤ20aと、このウォームギヤ20aと噛み合うウォームホイール21aとを含んだウォームギヤ機構を有する。第1減速機19aは、伝達機構ハウジングとしてのギヤハウジング22a内に収容されている。以下において、第1減速機19aの減速比(ギヤ比)をNで表す場合がある。減速比Nは、ウォームホイール21aの角速度ωwwに対するウォームギヤ20aの角速度ωwgの比ωwg/ωwwとして定義される。
第2減速機19bは、第1減速機19aと同じ構成を有しており、ウォームギヤ20bと、このウォームギヤ20bと噛み合うウォームホイール21bとを含むウォームギヤ機構をギヤハウジング22b内に有する。
【0017】
第1減速機19aのウォームギヤ20aは、第1電動モータ18aによって回転駆動される。また、ウォームホイール21aは、出力軸9に一体回転可能に連結されている。第1電動モータ18aによってウォームギヤ20aが回転駆動されると、ウォームホイール21aが回転駆動される。これにより、ステアリングシャフト6に第1電動モータ18aのモータトルクが付与されてステアリングシャフト6(出力軸9)が回転する。
一方で、第2減速機19bのウォームギヤ20bは、第2電動モータ18bによって回転駆動される。また、ウォームホイール21bは、出力軸9に一体回転可能に連結されている。第2電動モータ18bによってウォームギヤ20bが回転駆動されると、ウォームホイール21bが回転駆動される。これにより、ステアリングシャフト6に第2電動モータ18bのモータトルクが付与されてステアリングシャフト6(出力軸9)が回転する。
【0018】
ステアリングシャフト6の回転は、中間軸7を介してピニオン軸13に伝達される。ピニオン軸13の回転運動は、ラック軸14の軸方向の直線移動に変換される。これにより、第1電動モータ18a及び第2電動モータ18bのモータトルクによって操向輪3が転舵される。また、ステアリングシャフト6の回転に伴ってステアリングホイール2も回転する。
以上のようにして、第1電動モータ18a及び第2電動モータ18bのモータトルクによって、操向輪3を転舵するための転舵機構4が駆動されることによって、操向輪3の転舵が可能となる。
【0019】
なお、
図1に示す第1電動モータ18a及び第2電動モータ18bの構成は例示であって、本発明はこのような例示に限定されない。例えば第1電動モータ18a及び第2電動モータ18bは、2組の巻線組が同じモータハウジング内に巻き回されて、共通のロータを回転させる2重巻線モータであってもよい。この場合、第1減速機19a及び第2減速機19bとして単一の減速機を配置する。
また、
図1には、電動モータをステアリングシャフトに連結するコラムアシスト方式の電動パワーステアリングシステムを例示したが、本発明はコラムアシスト方式の電動パワーステアリングシステムに限定されない。本発明は、電動モータをピニオンシャフトに連結するシングルピニオンアシスト方式やデュアルピニオンアシスト方式、電動モータをラックに配置するラックアシスト方式の電動パワーステアリングシステムにも適用可能である。
デュアルピニオンアシスト方式の場合には、ラック17に噛み合う第2のピニオンを追加し、第1電動モータ18a及び第2電動モータ18bの一方をピニオン16に連結し、他方を第2のピニオンに連結してもよい。
【0020】
第1電動モータ18a及び第2電動モータ18bには、第1電動モータ18a及び第2電動モータ18bのロータの回転角を検出するための回転角センサ23a、23bがそれぞれ設けられている。
トルクセンサ12によって検出される実操舵トルクTd、回転角センサ23a、23bの出力信号は、モータコントロールユニット102に入力される。モータコントロールユニット102は、これらの入力信号および車両側の上位コントロールユニット101から与えられる情報に基づいて、第1電動モータ18a及び第2電動モータ18bを制御する。
【0021】
具体的には、モータコントロールユニット102は、回転角センサ23a、23bの出力信号に基づいて現在の操向輪3の実際の転舵角(以下「実転舵角」と記載することがある)を、自車両の現在の状態である現在状態として演算する。実転舵角は、特許請求の範囲に記載の「現在転舵角」の一例である。またモータコントロールユニット102は、トルクセンサ12によって検出される実操舵トルクTdを現在状態として取得する。
さらに、モータコントロールユニット102は、上位コントロールユニット101から与えられる目標転舵角θadを、車両の状態の目標値である目標状態として取得する。また、操舵トルクの目標値である目標操舵トルクを設定する。なお、第1電動モータ18aと第2電動モータ18bとは、第1減速機19a、出力軸9及び第2減速機19bを介して機械的に接続されているため、回転角センサ23aと回転角センサ23bの出力信号に基づいてモータコントロールユニット102が検出する転舵角は実質的に同一の値となる。このため、回転角センサ23aと回転角センサ23bとのいずれか一方を省略し、他方のみの構成としても良い。
【0022】
モータコントロールユニット102は、現在状態と目標状態との間の偏差に基づいて操向輪3を転舵する転舵機構を駆動するのに要するトルク全体を、第1電動モータ18a及び第2電動モータ18bに分配して発生させる。
モータコントロールユニット102は、第1電動モータ18a及び第2電動モータ18bにトルクを発生させる第1転舵指令値i1と第2転舵指令値i2を、現在状態と目標状態との間の偏差の比例制御(P制御)、積分制御(I制御)、微分制御(D制御)の少なくとも1つによって演算してよい。
なお、転舵機構の駆動に要するトルク全体を第1転舵指令値i1と第2転舵指令値i2に分配する比率は、例えば50:50(すなわち、第1転舵指令値i1の大きさを第2転舵指令値i2の大きさと等しくする)であってもよく、いずれか一方を他方よりも大きくしてもよい。
モータコントロールユニット102は、第1転舵指令値i1に基づいて第1電動モータ18aを駆動し、第2転舵指令値i2に基づいて第2電動モータ18bを駆動する。
【0023】
このとき、目標状態又は現在状態が変化したときに第1電動モータ18aと第2電動モータ18bに振動が発生する虞がある。たとえば、上記のP制御、I制御、D制御におけるゲインが大きい場合、目標状態又は現在状態が変化した場合に第1転舵指令値i1と第2転舵指令値i2が大きくなることから、目標状態又は現在状態の変化に対する第1転舵指令値i1と第2転舵指令値i2の過渡応答において振動が発生し、第1電動モータ18aと第2電動モータ18bに振動が発生する虞がある。
一方で、このような振動を抑制するために小さなゲインを設定すると、目標状態に対する現在状態の追従性の低下を招いてしまう。
また、目標状態又は現在状態に大きな変化が生じた場合にも、ゲインの大きさに関わらず上記振動が発生する虞がある。
【0024】
そこで、本発明のモータコントロールユニット102は、第1転舵指令値i1と第2転舵指令値i2との間に時間差を設ける。すなわちモータコントロールユニット102は、互いに時間差が設けられた第1転舵指令値i1と第2転舵指令値i2とを生成する。例えば、第2転舵指令値i2及び第1転舵指令値i1の一方を他方に遅らせて出力する。
このように、第1転舵指令値i1と第2転舵指令値i2との間に時間差を設けると、時間差を設けない場合(すなわち、現在状態と目標状態との間の偏差の変化に応じて操舵機構を駆動するトルク全体を同時に発生させる場合)に比べて、トルクの一部の発生を遅らせることができる。この結果、粘性抵抗による遅れに類似した現象を再現することができるので、第1転舵指令値i1と第2転舵指令値i2の過渡応答によって発生した振動を、粘性抵抗によって減衰させることができる。
この結果、第1転舵指令値i1と第2転舵指令値i2の振動を早期に収束させて、第1電動モータ18aと第2電動モータ18bに生ずる振動を抑制することができる。
【0025】
以下、モータコントロールユニット102について詳しく説明する。
図2は、第1実施形態のモータコントロールユニット102の機能構成の一例のブロック図である。なお、上述の通り回転角センサ23aと回転角センサ23bの出力信号に基づいてモータコントロールユニット102が検出する転舵角は実質的に同一であるため、この
図2におけるブロック図では回転角センサは回転角センサ23aのみとしている。
回転角演算部110は、回転角センサ23aの出力信号に基づいて、第1電動モータ18aのロータ回転角θmaを演算する。減速比除算部111は、回転角演算部110によって演算されるロータ回転角θmaを減速比Nで除算することにより、ロータ回転角θmaを出力軸9の回転角(実転舵角)θaに換算する。減速比除算部111によって演算される実転舵角θaは、減算器112に与えられる。
【0026】
減算器112は、上位コントロールユニット101から与えられる目標転舵角θadに対する実転舵角θaの偏差(転舵角偏差)Δθ=(θad-θa)を演算し、第3転舵指令値演算部113に出力する。
第3転舵指令値演算部113は、転舵角偏差Δθに対するP制御、I制御、D制御の少なくとも1つにより、転舵機構4を駆動するための転舵指令値として第3転舵指令値i3を演算する。第3転舵指令値演算部113は、第3転舵指令値i3を指令値設定部117に出力する。
【0027】
一方で、目標状態設定部114は、目標操舵トルクTeを設定する。例えば目標状態設定部114は、自車両に発生する横加速度に応じて目標操舵トルクTeを設定してよい。例えば目標状態設定部114は、横加速度が大きいほど操舵に要する操舵トルクが大きくなるように、横加速度が大きいほど目標操舵トルクTeを大きな値に設定してよい。
減算器115は、目標状態設定部114が設定した目標操舵トルクTeに対する実操舵トルクTdの偏差(操舵トルク偏差)ΔT=(Te-Td)を演算し、第4転舵指令値演算部116に出力する。
第4転舵指令値演算部116は、操舵トルク偏差ΔTに対するP制御、I制御、D制御の少なくとも1つにより、転舵機構4を駆動するための転舵指令値として第4転舵指令値i4を演算する。第4転舵指令値演算部116は、第4転舵指令値i4を指令値設定部117に出力する。
【0028】
指令値設定部117は、第3転舵指令値i3と第4転舵指令値i4とに基づいて、基本転舵指令値i0を設定する。基本転舵指令値i0は、転舵機構4に付与する駆動力全体をまかなうトルクを電動モータに発生させる転舵指令値である。
例えば、指令値設定部117は、制御モード信号Smodeに基づいて第3転舵指令値i3又は第4転舵指令値i4のいずれか一方を、基本転舵指令値i0に設定してよい。例えば制御モード信号Smodeが示す制御モードが、自動走行制御、自動駐車制御、緊急回避制御、車線逸脱防止制御のいずれかである場合に第3転舵指令値i3を基本転舵指令値i0に設定し、通常制御モードである場合に第4転舵指令値i4を基本転舵指令値i0に設定してよい。
【0029】
また、例えば指令値設定部117は、第3転舵指令値i3と第4転舵指令値i4の和に基づいて基本転舵指令値i0に設定してもよい。例えば、指令値設定部117は、第3転舵指令値i3と第4転舵指令値i4の平均値や重み付け和を基本転舵指令値i0に設定してもよい。
分配部118は、指令値設定部117が設定した基本転舵指令値i0を、互いに時間差が設けられた第1転舵指令値i1と第2転舵指令値i2とに分配し、それぞれ第1モータ駆動回路119と第2モータ駆動回路129に出力する。
【0030】
例えば、分配部118は、基本転舵指令値i0を所定の割合(例えば50:50)で分配することにより第1転舵指令値i1と第2転舵指令値i2を算出する。そして、第1転舵指令値i1及び第2転舵指令値i2のいずれか一方を他方よりの所定の時間差Dだけ遅らせて出力する。
第1モータ駆動回路119と第2モータ駆動回路129は、それぞれ第1転舵指令値i1に基づくモータ駆動電流と第2転舵指令値i2に基づくモータ駆動電流を、それぞれ第1電動モータ18aと第2電動モータ18bとに供給して第1電動モータ18aと第2電動モータ18bを駆動する。これにより、第1転舵指令値i1及び第2転舵指令値i2に対応した電力がそれぞれ第1電動モータ18aと第2電動モータ18bとに供給される。これにより、第1電動モータ18aと第2電動モータ18bとが、それぞれ第1転舵指令値i1及び第2転舵指令値i2に応じた駆動力で駆動する。
【0031】
図3Aは、時間差を設けていない第1転舵指令値i1及び第2転舵指令値i2の一例のタイムチャートであり、
図3Bは、時間差が設けられた第1転舵指令値i1及び第2転舵指令値i2の一例のタイムチャートであり、
図3Cは、
図3Bの拡大図である。実線は第1転舵指令値i1を示し、破線は第2転舵指令値i2を示す。
図3A~
図3Cの例では、第2転舵指令値i2は第1転舵指令値i1と同じ波形の指令値である。
図3Aでは、時間差を設けていないため波形が完全に重なって(一致して)いる。一方、
図3B、
図3Cでは、時間差を設けているため第2転舵指令値i2は、第1転舵指令値i1より時間差Dだけ遅れている。
図3Aから分かるように時間差を設けていない場合の第1転舵指令値i1及び第2転舵指令値i2は振動の収束に時間を要するのに対し、
図3B及び
図3Cから分かるように、時間差を設けた場合の第1転舵指令値i1及び第2転舵指令値i2の振動は早期に収束している。
【0032】
なお、第1転舵指令値i1と第2転舵指令値i2との間の時間差は、第1転舵指令値i1と第2転舵指令値i2との間の位相差が0[deg]より大きく90[deg]未満であることが好ましい。その理由は以下のとおりである。
上記のとおり第1転舵指令値i1と第2転舵指令値i2の振動の収束は粘性抵抗によって生じるものであり、この粘性抵抗は速度に比例する微分項である。また、微分により信号の位相は90[deg]進むことから、第1転舵指令値i1と第2転舵指令値i2の一方の位相を他方の位相よりも90[deg]進めると、一方の指令値は他方の指令値の微分項となる。したがって、第1転舵指令値i1と第2転舵指令値i2との間の位相差が90[deg]になったときに、位相が90[deg]進んだ一方の指令値の成分が全て粘性抵抗成分となるため、粘性抵抗の効果が最も大きくなる。
このため、それ以上時間差Dを大きくしても、粘性抵抗の効果は大きくならず制御の遅れによる弊害が大きくなる。このように、第1転舵指令値i1と第2転舵指令値i2との間の位相差は0[deg]より大きく90[deg]未満であることが好ましい。
【0033】
このため、時間差Dは、第1転舵指令値i1と第2転舵指令値i2の変化に対する過渡応答において発生すると考えられる振動の周期の4分の1未満且つ0より大きく設定してよい。例えば、第1転舵指令値i1と第2転舵指令値i2の変化に対する過渡応答において発生すると考えられる最も高周波数の振動の周期の4分の1未満且つ0より大きく設定してよい。
例えば、第1転舵指令値i1と第2転舵指令値i2の変化に対する過渡応答において発生すると考えられる最も高い周波数の振動が20、30、50及び100[Hz]のいずれかであると想定した場合には、第1転舵指令値i1と第2転舵指令値i2との間の時間差Dを、それぞれ12.5、8.33、5.00、2.5[msec]のいずれかの、上記振動周波数に合わせた値未満の値に設定してよい。
【0034】
図4は、第1実施形態の操舵制御方法の一例のフローチャートである。
ステップS1において回転角センサ23a、回転角演算部110及び減速比除算部111は、実転舵角θaを検出する。またトルクセンサ12は実操舵トルクTdを検出する。
ステップS2において上位コントロールユニット101は目標転舵角θadを設定する。また目標状態設定部114は、目標操舵トルクTeを設定する。
【0035】
ステップS3において第3転舵指令値演算部113は、目標転舵角θadと実転舵角θaとの間の転舵角偏差Δθに基づいて第3転舵指令値i3を演算する。
ステップS4において第4転舵指令値演算部116は、目標操舵トルクTeと実操舵トルクTdとの間の操舵トルク偏差ΔTに基づいて第4転舵指令値i4を演算する。
ステップS5において指令値設定部117は、第3転舵指令値i3と第4転舵指令値i4とに基づいて基本転舵指令値i0を設定する。
【0036】
ステップS6において分配部118は、互いに時間差が設けられた第1転舵指令値i1と第2転舵指令値i2とに基本転舵指令値i0を分配する。
ステップS7において第1モータ駆動回路119と第2モータ駆動回路129は、それぞれ第1転舵指令値i1と第2転舵指令値i2に基づいて第1電動モータ18aと第2電動モータ18bを駆動する。
【0037】
(第2実施形態)
第1実施形態のモータコントロールユニット102は、転舵機構4に付与する駆動力全体をまかなうトルクを電動モータに発生させる基本転舵指令値i0を演算し、基本転舵指令値i0を、互いに時間差が設けられた第1転舵指令値i1と第2転舵指令値i2に分配した。
第2実施形態のモータコントロールユニット102は、転舵指令値を演算する構成を2系統に冗長化し、各系統で第1転舵指令値i1と第2転舵指令値i2を独立して演算し、互いに時間差が設けられた第1転舵指令値i1と第2転舵指令値i2を、第1モータ駆動回路119と第2モータ駆動回路129に出力する。
【0038】
図5は、第2実施形態のモータコントロールユニット102の機能構成の一例のブロック図である。
第1系統S1は、回転角演算部110と、減速比除算部111と、減算器112と、第3転舵指令値演算部113と、目標状態設定部114と、減算器115と、第4転舵指令値演算部116と、指令値設定部117と、第1モータ駆動回路119と、第1電動モータ18aと、回転角センサ23aとを備える。
第2系統S2も第1系統S1と同一の構成を備えており、回転角演算部120と、減速比除算部121と、減算器122と、第3転舵指令値演算部123と、目標状態設定部124と、減算器125と、第4転舵指令値演算部126と、指令値設定部127と、第2モータ駆動回路129と、第2電動モータ18bと、回転角センサ23bとを備える。
【0039】
第2実施形態の回転角演算部110と、減速比除算部111と、減算器112と、第3転舵指令値演算部113と、目標状態設定部114と、減算器115と、第4転舵指令値演算部116と、指令値設定部117は、それぞれ第1実施形態の回転角演算部110と、減速比除算部111と、減算器112と、第3転舵指令値演算部113と、目標状態設定部114と、減算器115と、第4転舵指令値演算部116と、指令値設定部117と同様である。
但し、第2実施形態の指令値設定部117は、基本転舵指令値i0に代えて第1転舵指令値i1を出力する。すなわち指令値設定部117は、第3転舵指令値i3と第4転舵指令値i4とに基づいて第1転舵指令値i1を設定する。
このため、第3転舵指令値演算部113と、第4転舵指令値演算部116と、指令値設定部117とは、転舵機構4に付与する駆動力全体をまかなうトルクのうち第1電動モータ18aで発生させるトルク(例えば全体の50%のトルク)に相当する第1転舵指令値i1を演算するように変更する。
【0040】
また、第2系統S2の回転角演算部120と、減速比除算部121と、減算器122と、第3転舵指令値演算部123と、目標状態設定部124と、減算器125と、第4転舵指令値演算部126と、指令値設定部127は、それぞれ第1系統S1の回転角演算部110と、減速比除算部111と、減算器112と、第3転舵指令値演算部113と、目標状態設定部114と、減算器115と、第4転舵指令値演算部116と、指令値設定部117と同様である。
【0041】
但し、第2系統S2の回転角演算部120は、回転角センサ23bの出力信号に基づいて、第2電動モータ18bのロータ回転角θmbを演算する。減速比除算部121は、ロータ回転角θmbを減速比Nで除算することにより、ロータ回転角θmbを実転舵角θbに換算する。減算器122は、目標転舵角θadに対する実転舵角θbの転舵角偏差Δθ=(θad-θb)を演算する。
また、指令値設定部127は、第3転舵指令値i3と第4転舵指令値i4とに基づいて第2転舵指令値i2を設定する。
これにより、第1転舵指令値i1の設定のために用いる第3転舵指令値i3と第4転舵指令値i4は、第1系統S1の第3転舵指令値演算部113と第4転舵指令値演算部116が演算する。
一方で、第2転舵指令値i2の設定のために用いる第3転舵指令値i3と第4転舵指令値i4は、第2系統S2の第3転舵指令値演算部123と第4転舵指令値演算部126が演算する。
【0042】
第1系統S1と第2系統S2とが独立して第1転舵指令値i1と第2転舵指令値i2をそれぞれ演算する構成では、目標転舵角θad及び実操舵トルクTdの信号を第1系統S1に入力する時刻と第2系統S2に入力する時刻との間に時間差があることにより、互いに時間差が設けられた第1転舵指令値i1と第2転舵指令値i2を出力できる。
【0043】
例えば、モータコントロールユニット102を、第1系統S1のコントロールユニットと第2系統S2のコントロールユニットからなる2つの電子制御ユニットにより実現してよい。そして、第1系統S1のコントロールユニットが、目標転舵角θad、制御モード信号Smode、実操舵トルクTdの信号を上位コントロールユニット101及びトルクセンサ12から受信し、第2系統S2のコントロールユニットは、第1系統S1のコントロールユニットからこれらの信号を受信してもよい。
これにより、目標転舵角θad及び実操舵トルクTdの信号を第1系統S1に入力する時刻と第2系統S2に入力する時刻との間に時間差を設けることができる。なおこの場合、第1系統S1のコントロールユニットに入力する目標転舵角θad、制御モード信号Smode、実操舵トルクTdの信号は同一であり、入力する時刻のみが異なる信号となる。
【0044】
図6は、第2実施形態の変形例のモータコントロールユニット102の機能構成の一例のブロック図である。第1系統S1の指令値設定部117又は第2系統S2の指令値設定部127の後段に遅延部を設けることによって第1転舵指令値i1と第2転舵指令値i2との間に時間差を設けてもよい。
図6の例では、指令値設定部127の後段に第2転舵指令値i2を遅らせる遅延部130が設けられている。遅延部130による遅延時間は固定値であってもよく、第2転舵指令値i2の振動の周波数(すなわち第2転舵指令値i2の変化速度)に応じた可変値であってもよい。例えば、周波数が高いほど(変化速度が速いほど)短くなるように設定してもよい。
【0045】
(実施形態の効果)
(1)トルクセンサ12、回転角センサ23a、モータコントロールユニット102は、車両の現在の状態である現在状態を検出する。モータコントロールユニット102は、車両の状態の目標値である目標状態を設定し、現在状態と目標状態との間の偏差に基づいて車両の操向輪3を転舵する転舵機構4を駆動するための転舵指令値として、互いに時間差が設けられた第1転舵指令値と第2転舵指令値とを演算し、転舵機構4を駆動する第1電動モータ18aを第1転舵指令値に基づいて駆動し、転舵機構4を駆動する第2電動モータ18bを第2転舵指令値に基づいて駆動する。
これにより、第1転舵指令値と第2転舵指令値の過渡応答によって発生した振動を減衰させることができるので、第1電動モータ18aと第2電動モータ18bに生ずる振動を抑制することができる。
【0046】
(2)現在状態は自車両の現在の転舵角であり、目標状態は自車両の転舵角の目標値として設定される目標転舵角であってよい。
これにより、自車両の実転舵角が目標転舵角となるように第1電動モータ18aと第2電動モータ18bを駆動できる。
(3)自車両を走行させる軌道として目標走行軌道を設定し、目標走行軌道に沿って走行するための転舵角を目標転舵角として演算してもよい。
これにより、自車両が目標走行軌道に沿って走行するように第1電動モータ18aと第2電動モータ18bを駆動できる。
【0047】
(4)自車両の進行方向の障害物を回避するための転舵角、又は自車両が走行車線から逸脱するのを防止するための転舵角として、目標転舵角を演算してもよい。これにより自車両の進行方向の障害物を回避するように、又は自車両が走行車線から逸脱しないように第1電動モータ18aと第2電動モータ18bを駆動できる。
(5)自車両の現在の転舵角である現在転舵角と自車両の現在の操舵トルクである現在操舵トルクとを現在状態として検出してもよい。モータコントロールユニット102は、自車両の転舵角の目標値である目標転舵角と自車両の操舵トルクの目標値である目標操舵トルクとを目標状態として設定し、現在転舵角と目標転舵角との間の偏差、又は現在操舵トルクと目標操舵トルクとの間の偏差のいずれか一方に基づいて、第1転舵指令値と第2転舵指令値とを演算してもよい。
これにより、転舵装置に適用された電動パワーステアリングシステムの制御モードに応じて、現在転舵角と目標転舵角との偏差、又は現在操舵トルクと目標操舵トルクとの偏差のいずれか一方に基づいて第1電動モータ18aと第2電動モータ18bを駆動できる。
【0048】
(6)自車両の現在の転舵角である現在転舵角と自車両の現在の操舵トルクである現在操舵トルクとを現在状態として検出してもよい。
自車両の転舵角の目標値である目標転舵角と自車両の操舵トルクの目標値である目標操舵トルクとを目標状態として設定し、現在転舵角と目標転舵角との間の偏差に基づいて第3転舵指令値を演算し、現在操舵トルクと目標操舵トルクとの間の偏差に基づいて第4転舵指令値を演算し、第3転舵指令値と第4転舵指令値との和に基づいて第1転舵指令値と第2転舵指令値とを演算してもよい。
これにより、現在転舵角と目標転舵角との偏差と現在操舵トルクと目標操舵トルクとの偏差とが減少するように第1電動モータ18aと第2電動モータ18bを駆動できる。
【0049】
[0049]
(7)第1転舵指令値と第2転舵指令値との間の時間差は、0より大きく且つ転舵指令値の変化に対する過渡応答において発生すると考えられる最も高周波数の振動の周期の4分の1未満に設定してもよい。
これにより、第1転舵指令値と第2転舵指令値の振動の周波数に適した時間差を設けることができる。
(8)モータコントロールユニット102は、現在状態と目標状態との間の偏差に基づいて基本転舵指令値を設定し、基本転舵指令値を、所定の比率で第1転舵指令値と第2転舵指令値とに分配してよい。これにより、転舵機構4に付与する駆動力全体をまかなうトルクを第1電動モータ18aと第2電動モータ18bとで発生させることができる。
(9)モータコントロールユニット102は、現在状態と目標状態との間の偏差に基づいて第1転舵指令値を演算し、第1転舵指令値の演算とは別に現在状態と目標状態との間の偏差に基づいて第2転舵指令値を演算してもよい。
これにより、第1転舵指令値の演算を行う電子回路へ信号を入力する時刻と第2転舵指令値の演算を行う電子回路へ信号を入力する時刻を異ならせることにより、第1転舵指令値と第2転舵指令値に時間差を設けることができる。
【0050】
ここに記載されている全ての例及び条件的な用語は、読者が、本発明と技術の進展のために発明者により与えられる概念とを理解する際の助けとなるように、教育的な目的を意図したものであり、具体的に記載されている上記の例及び条件、並びに本発明の優位性及び劣等性を示すことに関する本明細書における例の構成に限定されることなく解釈されるべきものである。本発明の実施例は詳細に説明されているが、本発明の精神及び範囲から外れることなく、様々な変更、置換及び修正をこれに加えることが可能であると解すべきである。
【符号の説明】
【0051】
1…電動パワーステアリングシステム、2…ステアリングホイール、3…操向輪、4…転舵機構、5…操舵補助機構、6…ステアリングシャフト、7…中間軸、8…入力軸、9…出力軸、10…トーションバー、12…トルクセンサ、13…ピニオン軸、14…ラック軸、15…タイロッド、16…ピニオン、17…ラック、18a…第1電動モータ、18b…第2電動モータ、19a…第1減速機、19b…第2減速機、20a、20b…ウォームギヤ、21a、21b…ウォームホイール、22a、22b…ギヤハウジング、23a、23b…回転角センサ、101…上位コントロールユニット、102…モータコントロールユニット、110、120…回転角演算部、111、121…減速比除算部、112、122…減算器、113、123…第3転舵指令値演算部、114、124…目標状態設定部、115、125…減算器、116、126…第4転舵指令値演算部、117、127…指令値設定部、118…分配部、119…第1モータ駆動回路、129…第2モータ駆動回路、130…遅延部