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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-02
(45)【発行日】2024-10-10
(54)【発明の名称】クラッチ装置および自動二輪車
(51)【国際特許分類】
   F16D 13/74 20060101AFI20241003BHJP
   F16D 13/52 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
F16D13/74 A
F16D13/52 C
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023574820
(86)(22)【出願日】2023-06-20
(86)【国際出願番号】 JP2023022820
(87)【国際公開番号】W WO2024009760
(87)【国際公開日】2024-01-11
【審査請求日】2023-12-05
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000128175
【氏名又は名称】株式会社エフ・シー・シー
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100189887
【弁理士】
【氏名又は名称】古市 昭博
(72)【発明者】
【氏名】野中 将行
(72)【発明者】
【氏名】小林 佑樹
【審査官】松江川 宗
(56)【参考文献】
【文献】特許第7212193(JP,B1)
【文献】特許第7196356(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 11/00-23/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸の回転駆動力を出力軸に伝達または遮断するクラッチ装置であって、
前記入力軸の回転駆動によって回転駆動する複数の入力側回転板を保持するクラッチハウジングに収容され、かつ、前記入力側回転板と交互に配置された複数の出力側回転板を保持し、かつ、前記出力軸と共に回転駆動する部材であるクラッチセンタと、
前記クラッチセンタに対して接近または離隔可能かつ相対回転可能に設けられ、前記入力側回転板および前記出力側回転板を押圧可能なプレッシャプレートと、を備え、
前記クラッチセンタは、
前記出力軸が連結される出力軸保持部と、
前記出力軸保持部よりも径方向外側に位置する外周壁と、
前記出力側回転板を保持し、かつ、前記外周壁の外周面から径方向外側に突出するように形成された周方向に並ぶ複数のセンタ側嵌合歯と、
隣り合う前記センタ側嵌合歯の間に形成された複数のスプライン溝と、
前記外周壁を貫通するように前記スプライン溝に形成され、前記出力軸から流出したクラッチオイルを前記クラッチセンタの外部に排出するオイル排出孔と、
前記出力軸保持部の径方向外側に位置し、かつ、前記プレッシャプレートに対して相対回転した際に、前記入力側回転板と前記出力側回転板との押圧力を増加させるために前記プレッシャプレートを前記クラッチセンタに接近させる方向の力を発生させるセンタ側アシストカム面を有する複数のセンタ側カム部と、を備え、
前記プレッシャプレートは、
前記出力側回転板を保持し、かつ、周方向に並ぶ複数のプレッシャ側嵌合歯と、
前記クラッチセンタに対して相対回転した際に、前記入力側回転板と前記出力側回転板との押圧力を増加させるために前記プレッシャプレートを前記クラッチセンタに接近させる方向の力を発生させるプレッシャ側アシストカム面を有する複数のプレッシャ側カム部と、
隣り合う前記プレッシャ側嵌合歯の間に形成され、かつ、径方向に貫通する複数の貫通部と、を備え、
前記プレッシャ側嵌合歯は、前記センタ側嵌合歯から前記出力軸の径方向に離隔するように前記センタ側嵌合歯よりも径方向外側に位置し、
前記プレッシャプレートが前記クラッチセンタに接近する方向を第1の方向、前記プレッシャプレートが前記クラッチセンタから離隔する方向を第2の方向とし、前記センタ側アシストカム面と前記プレッシャ側アシストカム面とが接触したとき、前記プレッシャ側嵌合歯の前記第1の方向の端部は、前記センタ側嵌合歯の前記第2の方向の端部よりも前記第1の方向側に位置し、
前記センタ側アシストカム面と前記プレッシャ側アシストカム面とが接触したとき、複数の前記プレッシャ側嵌合歯のうち、一部の前記プレッシャ側嵌合歯は前記プレッシャ側嵌合歯をそれぞれ前記出力軸の径方向から見たときに前記センタ側嵌合歯と少なくとも一部が重なり、他の一部の前記プレッシャ側嵌合歯は前記プレッシャ側嵌合歯をそれぞれ前記出力軸の径方向から見たときに前記センタ側嵌合歯と少なくとも一部が重ならず、かつ、前記出力軸の径方向から見たときに前記オイル排出孔の中心を通りかつ前記出力軸と平行な直線は前記プレッシャ側嵌合歯を通過し、
複数の前記貫通部のうちの少なくとも1つの前記貫通部は、少なくとも一部が前記出力軸の径方向から見たときに前記センタ側嵌合歯と重なる、クラッチ装置。
【請求項2】
複数の前記プレッシャ側嵌合歯のうち、一部の前記プレッシャ側嵌合歯は前記出力軸の径方向から見たときに前記センタ側嵌合歯と前記プレッシャ側嵌合歯の周方向の長さの半分以上の部分が重なり、他の一部の前記プレッシャ側嵌合歯は前記出力軸の径方向から見たときに前記センタ側嵌合歯と前記プレッシャ側嵌合歯の周方向の長さの半分以上の部分が重ならない、請求項1に記載のクラッチ装置。
【請求項3】
前記スプライン溝には、前記出力軸の軸線方向に並ぶ複数の前記オイル排出孔が形成され、
前記センタ側アシストカム面と前記プレッシャ側アシストカム面とが接触したとき、前記出力軸の径方向から見たときに、複数の前記オイル排出孔のそれぞれにおいて、前記オイル排出孔の中心を通りかつ前記出力軸と平行な直線は前記プレッシャ側嵌合歯を通過する、請求項1または2に記載のクラッチ装置。
【請求項4】
前記センタ側アシストカム面と前記プレッシャ側アシストカム面とが接触したとき、前記プレッシャ側嵌合歯を前記出力軸の径方向から見たときに前記オイル排出孔の全体と重なる前記プレッシャ側嵌合歯を含む、請求項1または2に記載のクラッチ装置。
【請求項5】
記センタ側カム部は、前記プレッシャプレートに対して相対回転した際に、前記入力側回転板と前記出力側回転板との押圧力を減少させるために前記プレッシャプレートを前記クラッチセンタから離隔させるセンタ側スリッパーカム面を有し、
複数の前記センタ側カム部の側方には、前記オイル排出孔がそれぞれ形成され、
前記センタ側嵌合歯の数は、前記センタ側カム部の数の倍数である、請求項1または2に記載のクラッチ装置。
【請求項6】
前記センタ側カム部の数は3であり、前記センタ側嵌合歯の数は3の倍数である、請求項に記載のクラッチ装置。
【請求項7】
前記センタ側アシストカム面と前記プレッシャ側アシストカム面とが接触したとき、前記オイル排出孔が形成された前記スプライン溝は前記出力軸の径方向から見たときに前記プレッシャ側嵌合歯と少なくとも一部が重ならない、請求項1または2に記載のクラッチ装置。
【請求項8】
前記センタ側アシストカム面と前記プレッシャ側アシストカム面とが接触したとき、前記オイル排出孔が形成された前記スプライン溝は前記出力軸の径方向から見たときに前記プレッシャ側嵌合歯と重ならない、請求項に記載のクラッチ装置。
【請求項9】
前記プレッシャ側カム部は、前記クラッチセンタに対して相対回転した際に、前記入力側回転板と前記出力側回転板との押圧力を減少させるために前記プレッシャプレートを前記クラッチセンタから離隔させるプレッシャ側スリッパーカム面を有し、
周方向に関して一方の前記プレッシャ側カム部から他方の前記プレッシャ側カム部に向かう方向を第1の周方向、他方の前記プレッシャ側カム部から一方の前記プレッシャ側カム部に向かう方向を第2の周方向としたとき、
前記出力軸の軸線方向から見て、前記出力軸の中心と周方向に関して隣り合う前記プレッシャ側嵌合歯の一方の前記プレッシャ側嵌合歯の第1の周方向側の端部とを通る直線と、前記出力軸の中心と周方向に関して隣り合う前記プレッシャ側嵌合歯の他方の前記プレッシャ側嵌合歯の第2の周方向側の端部とを通る直線とのなす角度のうち最小の角度は、前記出力軸保持部の中心と周方向に関して隣り合う前記センタ側嵌合歯の一方の前記センタ側嵌合歯の第1の周方向側の端部とを通る直線と、前記出力軸保持部の中心と周方向に関して隣り合う前記センタ側嵌合歯の他方の前記センタ側嵌合歯の第2の周方向側の端部とを通る直線とのなす角度よりも小さい、請求項1または2に記載のクラッチ装置。
【請求項10】
記プレッシャプレートは、前記出力軸の先端部を収容する筒状部を備え、
前記プレッシャ側嵌合歯は、前記筒状部よりも径方向外側に位置する、請求項1または2に記載のクラッチ装置。
【請求項11】
請求項1または2に記載のクラッチ装置を備えた自動二輪車。
【請求項12】
入力軸の回転駆動力を出力軸に伝達または遮断するクラッチ装置であって、
前記入力軸の回転駆動によって回転駆動する複数の入力側回転板を保持するクラッチハウジングに収容され、かつ、前記入力側回転板と交互に配置された複数の出力側回転板を保持し、かつ、前記出力軸と共に回転駆動する部材であるクラッチセンタと、
前記クラッチセンタに対して接近または離隔可能かつ相対回転可能に設けられ、前記入力側回転板および前記出力側回転板を押圧可能なプレッシャプレートと、を備え、
前記クラッチセンタは、
前記出力軸が連結される出力軸保持部と、
前記出力軸保持部よりも径方向外側に位置する外周壁と、
前記出力側回転板を保持し、かつ、前記外周壁の外周面から径方向外側に突出するように形成された周方向に並ぶ複数のセンタ側嵌合歯と、
隣り合う前記センタ側嵌合歯の間に形成された複数のスプライン溝と、
前記外周壁を貫通するように前記スプライン溝に形成され、前記出力軸から流出したクラッチオイルを前記クラッチセンタの外部に排出するオイル排出孔と、
前記出力軸保持部の径方向外側に位置し、かつ、前記プレッシャプレートに対して相対回転した際に、前記入力側回転板と前記出力側回転板との押圧力を増加させるために前記プレッシャプレートを前記クラッチセンタに接近させる方向の力を発生させるセンタ側アシストカム面を有する複数のセンタ側カム部と、を備え、
前記プレッシャプレートは、
前記出力側回転板を保持し、かつ、周方向に並ぶ複数のプレッシャ側嵌合歯と、
前記クラッチセンタに対して相対回転した際に、前記入力側回転板と前記出力側回転板との押圧力を増加させるために前記プレッシャプレートを前記クラッチセンタに接近させる方向の力を発生させるプレッシャ側アシストカム面を有する複数のプレッシャ側カム部と、を備え、
前記プレッシャ側嵌合歯は、前記センタ側嵌合歯から前記出力軸の径方向に離隔するように前記センタ側嵌合歯よりも径方向外側に位置し、
前記センタ側嵌合歯は、径方向に延びる一対の第1側面と、前記一対の第1側面の径方向外側の端部を接続する第1頂面と、を備え、
前記プレッシャ側嵌合歯は、径方向に延びる一対の第2側面と、前記一対の第2側面の径方向外側の端部を接続する第2頂面と、を備え、
前記プレッシャプレートが前記クラッチセンタに接近する方向を第1の方向、前記プレッシャプレートが前記クラッチセンタから離隔する方向を第2の方向とし、前記センタ側アシストカム面と前記プレッシャ側アシストカム面とが接触したとき、前記プレッシャ側嵌合歯の前記第1の方向の端部は、前記センタ側嵌合歯の前記第2の方向の端部よりも前記第1の方向側に位置し、
前記センタ側アシストカム面と前記プレッシャ側アシストカム面とが接触したとき、複数の前記プレッシャ側嵌合歯のうち、一部の前記プレッシャ側嵌合歯の前記第2頂面は前記プレッシャ側嵌合歯をそれぞれ前記出力軸の径方向から見たときに前記センタ側嵌合歯の前記第1頂面と少なくとも一部が重なり、他の一部の前記プレッシャ側嵌合歯の前記第2頂面は前記プレッシャ側嵌合歯をそれぞれ前記出力軸の径方向から見たときに前記センタ側嵌合歯の前記第1頂面と少なくとも一部が重ならならず、かつ、前記出力軸の径方向から見たときに前記オイル排出孔の中心を通りかつ前記出力軸と平行な直線は前記プレッシャ側嵌合歯を通過する、クラッチ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチ装置および自動二輪車に関する。より詳細には、エンジン等の原動機によって回転駆動する入力軸の回転駆動力を任意に出力軸に伝達または遮断するクラッチ装置およびそれを備えた自動二輪車に関する。
本出願は2022年7月6日に出願された日本国特許出願2022-109217号に基づく優先権を主張しており、その出願の全内容は本明細書中に参照として組み入れられている。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動二輪車等の車両はクラッチ装置を備えている。クラッチ装置は、エンジンと駆動輪との間に配置され、エンジンの回転駆動力を駆動輪に伝達または遮断する。クラッチ装置は、通常、エンジンの回転駆動力によって回転する複数の入力側回転板と、駆動輪に回転駆動力を伝達する出力軸に接続された複数の出力側回転板と、を備えている。入力側回転板と出力側回転板とは積層方向に交互に配置され、入力側回転板と出力側回転板とを圧接および離隔させることにより回転駆動力の伝達または遮断が行われる。
【0003】
例えば、特許文献1には、出力側回転板(被動側クラッチ板)を保持するクラッチセンタ(クラッチ部材)と、クラッチセンタに対して接近および離隔可能に設けられたプレッシャプレート(プレッシャ部材)と、を備えたクラッチ装置が開示されている。プレッシャプレートは、入力側回転板および出力側回転板を押圧可能に構成されている。このように、クラッチ装置では、クラッチセンタとプレッシャプレートとが組み付けられて用いられている。
【0004】
また、特許文献1のクラッチ装置では、出力側回転板を保持する部位として、クラッチセンタがセンタ側嵌合歯(スプラインが形成された外周壁)を有し、プレッシャプレートがプレッシャ側嵌合歯を有している。クラッチセンタとプレッシャプレートとが組付けられた状態では、センタ側嵌合歯とプレッシャ側嵌合歯とが径方向に重なるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本国特許第6903020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、センタ側嵌合歯とプレッシャ側嵌合歯とが径方向に重なる部分では、クラッチセンタの内部から外部に流出したオイルが溜まりやすい傾向にある。クラッチオイルは、クラッチセンタおよびプレッシャプレートに保持された出力側回転板および出力側回転板の間に位置する入力側回転板の全体に亘ってバランスよく供給されることが望ましい。
【0007】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、出力側回転板および入力側回転板にクラッチオイルをより効果的に供給することができるクラッチ装置およびそれを備えた自動二輪車を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るクラッチ装置は、入力軸の回転駆動力を出力軸に伝達または遮断するクラッチ装置であって、前記入力軸の回転駆動によって回転駆動する複数の入力側回転板を保持するクラッチハウジングと、前記クラッチハウジングに収容され、かつ、前記入力側回転板と交互に配置された複数の出力側回転板を保持し、かつ、前記出力軸と共に回転駆動するクラッチセンタと、前記クラッチセンタに対して接近または離隔可能かつ相対回転可能に設けられ、前記入力側回転板および前記出力側回転板を押圧可能なプレッシャプレートと、を備えている。前記クラッチセンタは、前記出力軸が連結される出力軸保持部と、前記出力軸保持部よりも径方向外側に位置する外周壁と、前記出力側回転板を保持し、かつ、前記外周壁の外周面から径方向外側に突出するように形成された周方向に並ぶ複数のセンタ側嵌合歯と、隣り合う前記センタ側嵌合歯の間に形成された複数のスプライン溝と、を備えている。前記プレッシャプレートは、前記出力側回転板を保持し、かつ、周方向に並ぶ複数のプレッシャ側嵌合歯を備えている。前記プレッシャ側嵌合歯は、前記センタ側嵌合歯よりも径方向外側に位置する。前記プレッシャプレートが前記クラッチセンタに接近する方向を第1の方向、前記プレッシャプレートが前記クラッチセンタから離隔する方向を第2の方向としたとき、前記プレッシャ側嵌合歯の前記第1の方向の端部は、前記センタ側嵌合歯の前記第2の方向の端部よりも前記第1の方向側に位置する。複数の前記プレッシャ側嵌合歯のうち、一部の前記プレッシャ側嵌合歯は前記センタ側嵌合歯と径方向に関して少なくとも一部が重なり、他の一部の前記プレッシャ側嵌合歯は前記センタ側嵌合歯と径方向に関して少なくとも一部が重ならない。
【0009】
本発明に係るクラッチ装置によると、出力軸等から流出したクラッチオイルはオイル排出孔等を介してクラッチセンタの外部に排出される。ここで、クラッチセンタの外部には、入力側回転板および出力側回転板が保持されているため、プレッシャプレートおよびクラッチセンタが回転しているときには、入力側回転板および出力側回転板にクラッチオイルの一部が供給される。さらに、プレッシャ側嵌合歯は、センタ側嵌合歯よりも径方向外側に位置する。そして、プレッシャ側嵌合歯の第1の方向の端部は、センタ側嵌合歯の第2の方向の端部よりも第1の方向側に位置する。ここで、複数のプレッシャ側嵌合歯のうち、一部のプレッシャ側嵌合歯はセンタ側嵌合歯と径方向に関して少なくとも一部が重なる。このため、該部分では、プレッシャプレートおよびクラッチセンタが回転しているときであっても、クラッチオイルの一部は外部に飛散せずクラッチオイルを保持することができる。これにより、プレッシャプレート付近の出力側回転板および入力側回転板にクラッチオイルを少しずつ供給することができる。一方、複数のプレッシャ側嵌合歯のうち、他の一部のプレッシャ側嵌合歯はセンタ側嵌合歯と径方向に関して少なくとも一部が重ならない。このため、該部分では、プレッシャプレートおよびクラッチセンタが回転すると、クラッチオイルは外部に飛散するため、出力側回転板および入力側回転板に直ちにクラッチオイルを供給することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、出力側回転板および入力側回転板にクラッチオイルをより効果的に供給することができるクラッチ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、一実施形態に係るクラッチ装置の断面図である。
図2図2は、一実施形態に係るクラッチセンタの斜視図である。
図3図3は、一実施形態に係るクラッチセンタの平面図である。
図4図4は、一実施形態に係るプレッシャプレートの斜視図である。
図5図5は、一実施形態に係るプレッシャプレートの平面図である。
図6図6は、一実施形態に係るプレッシャプレートの斜視図である。
図7図7は、一実施形態に係るプレッシャプレートの平面図である。
図8図8は、一実施形態に係るプレッシャ側カム部の一部を拡大した側面図である。
図9図9は、一実施形態に係るプレッシャプレートの一部を拡大した斜視図である。
図10図10は、一実施形態に係るクラッチセンタとプレッシャプレートとが組み合わされた状態を示す平面図である。
図11A図11Aは、センタ側アシストカム面およびプレッシャ側アシストカム面の作用について説明する模式図である。
図11B図11Bは、センタ側スリッパーカム面およびプレッシャ側スリッパーカム面の作用について説明する模式図である。
図12図12は、一実施形態に係るクラッチセンタおよびプレッシャプレートの断面図である。
図13図13は、一実施形態に係るクラッチセンタおよびプレッシャプレートの側面図である。
図14図14は、プレッシャ側スリッパーカム面とセンタ側スリッパーカム面とが接触したときのクラッチセンタおよびプレッシャプレートの側面図である。
図15図15は、プレッシャ側スリッパーカム面とセンタ側スリッパーカム面とが接触せずかつプレッシャ側アシストカム面とセンタ側アシストカム面とが接触していないときのクラッチセンタおよびプレッシャプレートの側面図である。
図16図16は、プレッシャ側アシストカム面とセンタ側アシストカム面とが接触したときのクラッチセンタおよびプレッシャプレートの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明に係るクラッチ装置の実施形態について説明する。なお、ここで説明される実施形態は、当然ながら特に本発明を限定することを意図したものではない。また、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は適宜省略または簡略化する。
【0013】
図1は、本実施形態に係るクラッチ装置10の断面図である。クラッチ装置10は、例えば、自動二輪車等の車両に設けられている。クラッチ装置10は、例えば、自動二輪車のエンジンの入力軸(クランクシャフト)の回転駆動力を出力軸15に伝達または遮断する装置である。クラッチ装置10は、出力軸15を介して入力軸の回転駆動力を駆動輪(後輪)に伝達または遮断するための装置である。クラッチ装置10は、エンジンと変速機との間に配置される。
【0014】
以下の説明では、クラッチ装置10のプレッシャプレート70とクラッチセンタ40とが並ぶ方向を方向Dとし、プレッシャプレート70がクラッチセンタ40に接近する方向を第1の方向D1、プレッシャプレート70がクラッチセンタ40から離隔する方向を第2の方向D2とする。また、クラッチセンタ40およびプレッシャプレート70の周方向を周方向Sとし、周方向Sに関して一方のプレッシャ側カム部90から他方のプレッシャ側カム部90に向かう方向を第1の周方向S1(図5参照)、他方のプレッシャ側カム部90から一方のプレッシャ側カム部90に向かう方向を第2の周方向S2(図5参照)とする。本実施形態では、出力軸15の軸線方向、クラッチハウジング30の軸線方向、クラッチセンタ40の軸線方向およびプレッシャプレート70の軸線方向は、方向Dと同じ方向である。また、プレッシャプレート70およびクラッチセンタ40は、第1の周方向S1に回転する。ただし、上記方向は説明の便宜上定めた方向に過ぎず、クラッチ装置10の設置態様を何ら限定するものではなく、本発明を何ら限定するものでもない。
【0015】
図1に示すように、クラッチ装置10は、出力軸15と、入力側回転板20と、出力側回転板22と、クラッチハウジング30と、クラッチセンタ40と、プレッシャプレート70と、ストッパプレート100と、を備えている。
【0016】
図1に示すように、出力軸15は、中空状に形成された軸体である。出力軸15の一方側の端部は、ニードルベアリング15Aを介して後述する入力ギア35およびクラッチハウジング30を回転自在に支持する。出力軸15は、ナット15Bを介してクラッチセンタ40を固定的に支持する。即ち、出力軸15は、クラッチセンタ40と一体的に回転する。出力軸15の他方側の端部は、例えば、自動車二輪車の変速機(図示せず)に連結されている。
【0017】
図1に示すように、出力軸15は、その中空部15Hにプッシュロッド16Aと、プッシュロッド16Aに隣接して設けられたプッシュ部材16Bと、を備えている。中空部15Hは、クラッチオイルの流通路としての機能を有する。クラッチオイルは、出力軸15内、即ち中空部15H内を流動する。プッシュロッド16Aおよびプッシュ部材16Bは、出力軸15の中空部15H内を摺動可能に設けられている。プッシュロッド16Aは、一方の端部(図示左側の端部)が自動二輪車のクラッチ操作レバー(図示せず)に連結されており、クラッチ操作レバーの操作によって中空部15H内を摺動してプッシュ部材16Bを第2の方向D2に押圧する。プッシュ部材16Bの一部は出力軸15の外方(ここでは第2の方向D2)に突出しており、プレッシャプレート70に設けられたレリーズベアリング18に連結している。プッシュロッド16Aおよびプッシュ部材16Bは、中空部15Hの内径よりも細く形成されており、中空部15H内においてクラッチオイルの流通性が確保されている。
【0018】
クラッチハウジング30は、アルミニウム合金から形成されている。クラッチハウジング30は、有底円筒状に形成されている。図1に示すように、クラッチハウジング30は、略円形状に形成された底壁31と、底壁31の縁部から第2の方向D2に延びる側壁33と、を有する。クラッチハウジング30は、複数の入力側回転板20を保持する。
【0019】
図1に示すように、クラッチハウジング30の底壁31には、入力ギア35が設けられている。入力ギア35は、トルクダンパ35Aを介してリベット35Bによって底壁31に固定されている。入力ギア35は、エンジンの入力軸の回転駆動によって回転する駆動ギア(図示せず)と噛み合っている。入力ギア35は、出力軸15から独立してクラッチハウジング30と一体的に回転駆動する。
【0020】
入力側回転板20は、入力軸の回転駆動によって回転駆動する。図1に示すように、入力側回転板20は、クラッチハウジング30の側壁33の内周面に保持されている。入力側回転板20は、クラッチハウジング30にスプライン嵌合によって保持されている。入力側回転板20は、クラッチハウジング30の軸線方向に沿って変位可能に設けられている。入力側回転板20は、クラッチハウジング30と一体的に回転可能に設けられている。
【0021】
入力側回転板20は、出力側回転板22に押し当てられる部材である。入力側回転板20は、環状に形成された平板である。入力側回転板20は、SPCC(冷間圧延鋼板)材からなる薄板を環状に打ち抜いて成形されている。入力側回転板20の表面および裏面には、複数の紙片からなる摩擦材(図示せず)が貼り付けられている。摩擦材の間にはクラッチオイルを保持するための深さ数μm~数十μmの溝が形成されている。
【0022】
図1に示すように、クラッチセンタ40は、クラッチハウジング30に収容されている。クラッチセンタ40は、クラッチハウジング30と同心に配置されている。クラッチセンタ40は、円筒状の本体42と、本体42の外周縁から径方向外側に延びるフランジ68とを有する。クラッチセンタ40は、入力側回転板20と方向Dに交互に配置された複数の出力側回転板22を保持する。クラッチセンタ40は、出力軸15と共に回転駆動する部材である。
【0023】
図2に示すように、本体42は、環状のベース壁43と、ベース壁43の径方向外側に位置しかつ第2の方向D2に向けて延びる外周壁45と、ベース壁43の中央に設けられた出力軸保持部50と、ベース壁43および外周壁45に接続された複数のセンタ側カム部60と、センタ側嵌合部58と、を備えている。
【0024】
出力軸保持部50は、円筒状に形成されている。出力軸保持部50には、出力軸15が挿入されてスプライン嵌合する挿入孔51が形成されている。挿入孔51は、ベース壁43を貫通して形成されている。出力軸保持部50のうち挿入孔51を形成する内周面50Aには、軸線方向に沿って複数のスプライン溝が形成されている。出力軸保持部50には、出力軸15が連結されている。
【0025】
図2に示すように、クラッチセンタ40の外周壁45は、出力軸保持部50よりも径方向外側に配置されている。外周壁45の外周面には、スプライン嵌合部46が設けられている。スプライン嵌合部46は、外周壁45の外周面に沿ってクラッチセンタ40の軸線方向に延びる複数のセンタ側嵌合歯47と、隣り合うセンタ側嵌合歯47の間に形成されかつクラッチセンタ40の軸線方向に延びる複数のスプライン溝48と、オイル排出孔49とを有する。センタ側嵌合歯47は、出力側回転板22を保持する。複数のセンタ側嵌合歯47は、周方向Sに並ぶ。複数のセンタ側嵌合歯47は、周方向Sに等間隔に形成されている。複数のセンタ側嵌合歯47は、同じ形状に形成されている。センタ側嵌合歯47は、外周壁45の外周面から径方向外側に突出する。センタ側嵌合歯47の数は、センタ側カム部60の数の倍数であるとよい。本実施形態では、後述するようにセンタ側カム部60の数は3であり、センタ側嵌合歯47の数は30である。なお、センタ側嵌合歯47の数は、センタ側カム部60の数の倍数でなくてもよい。図3に示すように、センタ側嵌合歯47は、径方向に延びる一対の側面47Pと、一対の側面47Pの径方向外側の端部を接続する頂面47Qとを備えている。側面47Pは、第1側面の一例である。頂面47Qは、第1頂面の一例である。頂面47Qは、周方向Sに延びる。オイル排出孔49は、外周壁45を径方向に貫通して形成されている。オイル排出孔49は、隣り合うセンタ側嵌合歯47の間に形成されている。即ち、オイル排出孔49は、スプライン溝48に形成されている。オイル排出孔49は、センタ側カム部60の側方に形成されている。オイル排出孔49は、センタ側カム部60のセンタ側スリッパーカム面60Sの側方に形成されている。オイル排出孔49は、センタ側スリッパーカム面60Sよりも第2の周方向S2側に形成されている。オイル排出孔49は、後述するボス部54よりも第1の周方向S1側に形成されている。本実施形態では、オイル排出孔49は、外周壁45の周方向Sの3か所に3つずつ形成されている。オイル排出孔49は、周方向Sに等間隔の位置に配置されている。オイル排出孔49は、クラッチセンタ40の内部と外部とを連通する。オイル排出孔49は、出力軸15からクラッチセンタ40内に流出したクラッチオイルを、クラッチセンタ40の外部に排出する孔である。
【0026】
出力側回転板22は、クラッチセンタ40のスプライン嵌合部46およびプレッシャプレート70に保持されている。出力側回転板22の一部は、クラッチセンタ40のセンタ側嵌合歯47およびスプライン溝48にスプライン嵌合によって保持されている。出力側回転板22の他の一部は、プレッシャプレート70の後述するプレッシャ側嵌合歯77(図4参照)に保持されている。出力側回転板22は、クラッチセンタ40の軸線方向に沿って変位可能に設けられている。出力側回転板22は、クラッチセンタ40と一体的に回転可能に設けられている。
【0027】
出力側回転板22は、入力側回転板20に押し当てられる部材である。出力側回転板22は、環状に形成された平板である。出力側回転板22は、SPCC材からなる薄板材を環状に打ち抜いて成形されている。出力側回転板22の表面および裏面には、クラッチオイルを保持するための深さ数μm~数十μmの溝が形成されている。出力側回転板22の表面および裏面には、耐摩耗性を向上させるために表面硬化処理がそれぞれ施されている。なお、入力側回転板20に設けられた摩擦材は、入力側回転板20に代えて出力側回転板22に設けられていてもよいし、入力側回転板20および出力側回転板22のそれぞれに設けてもよい。
【0028】
センタ側カム部60は、入力側回転板20と出力側回転板22との押圧力(圧接力)を増加させる力であるアシストトルクまたは入力側回転板20と出力側回転板22とを早期に離隔させて半クラッチ状態に移行させる力であるスリッパートルクを生じさせるアシスト&スリッパー(登録商標)機構を構成する傾斜面からなるカム面を有した台状に形成されている。センタ側カム部60は、ベース壁43から第2の方向D2に突出するように形成されている。図3に示すように、センタ側カム部60は、クラッチセンタ40の周方向Sに等間隔に配置されている。本実施形態では、クラッチセンタ40は、3つのセンタ側カム部60を有しているが、センタ側カム部60の数は3に限定されない。
【0029】
図3に示すように、センタ側カム部60は、出力軸保持部50の径方向外側に位置する。センタ側カム部60は、センタ側アシストカム面60Aと、センタ側スリッパーカム面60Sとを有する。センタ側アシストカム面60Aは、プレッシャプレート70に対して相対回転した際に、入力側回転板20と出力側回転板22との押圧力(圧接力)を増加させるためにプレッシャプレート70をクラッチセンタ40に接近させる方向の力を発生させるように構成されている。本実施形態では、上記力が発生するときにはクラッチセンタ40に対するプレッシャプレート70の位置は変化せず、プレッシャプレート70がクラッチセンタ40に対して物理的に接近する必要はない。なお、プレッシャプレート70がクラッチセンタ40に対して物理的に変位してもよい。センタ側スリッパーカム面60Sは、プレッシャプレート70に対して相対回転した際に、入力側回転板20と出力側回転板22との押圧力(圧接力)を減少させるためにプレッシャプレート70をクラッチセンタ40から離隔させるように構成されている。周方向Sに関して隣り合うセンタ側カム部60において、一方のセンタ側カム部60Lのセンタ側アシストカム面60Aと他方のセンタ側カム部60Mのセンタ側スリッパーカム面60Sとは周方向Sに対向して配置されている。
【0030】
図2に示すように、クラッチセンタ40は、複数(本実施形態では3つ)のボス部54を備えている。ボス部54は、プレッシャプレート70を支持する部材である。複数のボス部54は、周方向Sに等間隔に配置されている。ボス部54は、円筒状に形成されている。ボス部54は、出力軸保持部50より径方向外側に位置する。ボス部54は、プレッシャプレート70に向けて(即ち第2の方向D2に向けて)延びる。ボス部54は、ベース壁43に設けられている。ボス部54には、ボルト28(図1参照)が挿入されるねじ穴54Hが形成されている。ねじ穴54Hは、クラッチセンタ40の軸線方向に延びる。
【0031】
図2に示すように、センタ側嵌合部58は、出力軸保持部50より径方向外側に位置する。センタ側嵌合部58は、センタ側カム部60より径方向外側に位置する。センタ側嵌合部58は、センタ側カム部60よりも第2の方向D2側に位置する。センタ側嵌合部58は、外周壁45の内周面に形成されている。センタ側嵌合部58は、後述するプレッシャ側嵌合部88(図4参照)に摺動可能に外嵌するように構成されている。センタ側嵌合部58の内径は、プレッシャ側嵌合部88に対して出力軸15の先端部15Tから流出するクラッチオイルの流通を許容する嵌め合い公差を有して形成されている。即ち、センタ側嵌合部58と後述するプレッシャ側嵌合部88との間には隙間が形成されている。本実施形態では、例えば、センタ側嵌合部58は、プレッシャ側嵌合部88の外径に対して0.1mmだけ大きな内径に形成されている。このセンタ側嵌合部58の内径とプレッシャ側嵌合部88の外径との寸法公差は、流通させたいクラッチオイル量に応じて適宜設定されるが、例えば、0.1mm以上かつ0.5mm以下である。
【0032】
図2および図3に示すように、クラッチセンタ40は、ベース壁43の一部を貫通するセンタ側カム孔43Hを有する。センタ側カム孔43Hは、出力軸保持部50の側方から外周壁45まで延びる。センタ側カム孔43Hは、センタ側カム部60のセンタ側アシストカム面60Aとボス部54との間に形成されている。クラッチセンタ40の軸線方向から見て、センタ側アシストカム面60Aとセンタ側カム孔43Hの一部とは重なる。
【0033】
図1に示すように、プレッシャプレート70は、クラッチセンタ40に対して接近または離隔可能かつ相対回転可能に設けられている。プレッシャプレート70は、入力側回転板20および出力側回転板22を押圧可能に構成されている。プレッシャプレート70は、クラッチセンタ40およびクラッチハウジング30と同心に配置されている。プレッシャプレート70は、本体72と、本体72の第2の方向D2側の外周縁に接続しかつ径方向外側に延びるフランジ98とを有する。本体72は、フランジ98よりも第1の方向D1に突出している。プレッシャプレート70は、入力側回転板20と交互に配置された複数の出力側回転板22を保持する。
【0034】
図4に示すように、本体72は、筒状部80と、複数のプレッシャ側カム部90と、プレッシャ側嵌合部88と、スプリング収容部84(図6も参照)とを備えている。
【0035】
筒状部80は、円筒状に形成されている。筒状部80は、プレッシャ側カム部90と一体に形成されている。筒状部80は、出力軸15の先端部15T(図1参照)を収容する。筒状部80には、レリーズベアリング18(図1参照)が収容される。筒状部80は、プッシュ部材16Bからの押圧力を受ける部位である。筒状部80は、出力軸15の先端部15Tから流出したクラッチオイルを受け止める部位である。
【0036】
プレッシャ側カム部90は、センタ側カム部60に摺動してアシストトルクまたはスリッパートルクを発生させるアシスト&スリッパー(登録商標)機構を構成する傾斜面からなるカム面を有した台状に形成されている。プレッシャ側カム部90は、フランジ98よりも第1の方向D1に突出するように形成されている。図5に示すように、プレッシャ側カム部90は、プレッシャプレート70の周方向Sに等間隔に配置されている。本実施形態では、プレッシャプレート70は、3つのプレッシャ側カム部90を有しているが、プレッシャ側カム部90の数は3に限定されない。
【0037】
図5に示すように、プレッシャ側カム部90は、筒状部80の径方向外側に位置する。プレッシャ側カム部90は、プレッシャ側アシストカム面90A(図7および図9も参照)と、プレッシャ側スリッパーカム面90Sとを有する。プレッシャ側アシストカム面90Aは、センタ側アシストカム面60Aと接触可能に構成されている。プレッシャ側アシストカム面90Aは、クラッチセンタ40に対して相対回転した際に、入力側回転板20と出力側回転板22との押圧力(圧接力)を増加させるためにプレッシャプレート70をクラッチセンタ40に接近させる方向の力を発生させるように構成されている。プレッシャ側スリッパーカム面90Sは、センタ側スリッパーカム面60Sと接触可能に構成されている。プレッシャ側スリッパーカム面90Sは、クラッチセンタ40に対して相対回転した際に、入力側回転板20と出力側回転板22との押圧力(圧接力)を減少させるためにプレッシャプレート70をクラッチセンタ40から離隔させるように構成されている。周方向Sに関して隣り合うプレッシャ側カム部90において、一方のプレッシャ側カム部90Lのプレッシャ側アシストカム面90Aと他方のプレッシャ側カム部90Mのプレッシャ側スリッパーカム面90Sとは周方向Sに対向して配置されている。
【0038】
図8に示すように、プレッシャ側カム部90のプレッシャ側アシストカム面90Aの周方向Sの端部には、直線状に面取りされた面取り部90APが形成されている。面取り部90APの角(第1の方向D1かつ第1の周方向S1側の角)は直角である。より詳細には、面取り部90APは、プレッシャ側アシストカム面90Aの第1の周方向S1の端部90ABに形成されている。
【0039】
ここで、センタ側カム部60およびプレッシャ側カム部90の作用について説明する。エンジンの回転数が上がり、入力ギア35およびクラッチハウジング30に入力された回転駆動力がクラッチセンタ40介して出力軸15に伝達され得る状態となったときには、図11Aに示すように、プレッシャプレート70には第1の周方向S1の回転力が付与される。このため、センタ側アシストカム面60Aおよびプレッシャ側アシストカム面90Aの作用により、プレッシャプレート70には第1の方向D1への力が発生する。これにより、入力側回転板20と出力側回転板22との圧接力を増加させるようになっている。
【0040】
一方、出力軸15の回転数が入力ギア35およびクラッチハウジング30の回転数を上回ってバックトルクが生じた際には、図11Bに示すように、クラッチセンタ40には第1の周方向S1の回転力が付与される。このため、センタ側スリッパーカム面60Sおよびプレッシャ側スリッパーカム面90Sの作用により、プレッシャプレート70を第2の方向D2へ移動させて入力側回転板20と出力側回転板22との圧接力を解放させるようになっている。これにより、バックトルクによるエンジンや変速機に対する不具合を回避することができる。
【0041】
図4に示すように、プレッシャ側嵌合部88は、プレッシャ側カム部90より径方向外側に位置する。プレッシャ側嵌合部88は、プレッシャ側カム部90よりも第2の方向D2側に位置する。プレッシャ側嵌合部88は、センタ側嵌合部58(図2参照)に摺動可能に内嵌するように構成されている。
【0042】
図4および図5に示すように、プレッシャプレート70は、本体72およびフランジ98の一部を貫通するプレッシャ側カム孔73Hを有する。プレッシャ側カム孔73Hは、筒状部80よりも径方向外側に位置する。プレッシャ側カム孔73Hは、筒状部80の側方からプレッシャ側嵌合部88よりも径方向外側まで延びる。プレッシャ側カム孔73Hは、隣り合うプレッシャ側カム部90のプレッシャ側アシストカム面90Aとプレッシャ側スリッパーカム面90Sとの間に形成されている。図5および図7に示すように、プレッシャプレート70の軸線方向から見て、プレッシャ側アシストカム面90Aとプレッシャ側カム孔73Hの一部とは重なる。
【0043】
図4に示すように、プレッシャプレート70は、フランジ98に配置された複数のプレッシャ側嵌合歯77と、フランジ98に形成された複数の貫通部78と、を備えている。プレッシャ側嵌合歯77は、出力側回転板22を保持する。プレッシャ側嵌合歯77は、フランジ98から第1の方向D1に向けて突出する。プレッシャ側嵌合歯77は、筒状部80よりも径方向外側に位置する。プレッシャ側嵌合歯77は、プレッシャ側カム部90より径方向外側に位置する。プレッシャ側嵌合歯77は、プレッシャ側嵌合部88より径方向外側に位置する。複数のプレッシャ側嵌合歯77は、周方向Sに並ぶ。複数のプレッシャ側嵌合歯77は、周方向Sに等間隔に配置されている。図5に示すように、プレッシャ側嵌合歯77は、径方向に延びる一対の側面77Pと、一対の側面77Pの径方向外側の端部を接続する頂面77Qとを備えている。側面77Pは、第2側面の一例である。頂面77Qは、第2頂面の一例である。頂面77Qは、周方向Sに延びる。なお、本実施形態では、一部のプレッシャ側嵌合歯77が取り除かれているため、該部分の間隔は広がっているが、その他の隣り合うプレッシャ側嵌合歯77は等間隔に配置されている。貫通部78は、隣り合うプレッシャ側嵌合歯77の間に形成されている。貫通部78は、径方向に貫通する。貫通部78は、径方向および第1の方向D1に開口している。
【0044】
図12に示すように、プレッシャ側嵌合歯77は、センタ側嵌合歯47から出力軸15の径方向に離隔するようにセンタ側嵌合歯47よりも径方向外側に位置する。プレッシャ側嵌合歯77とセンタ側嵌合歯47との径方向の間には、隙間が形成されている。図13に示すように、センタ側アシストカム面60Aとプレッシャ側アシストカム面90Aとが接触したとき、プレッシャ側嵌合歯77の第1の方向D1の端部77Tは、センタ側嵌合歯47の第2の方向D2の端部47Tよりも第1の方向D1側に位置する。なお、図12図16は、クラッチセンタとプレッシャプレートとの関係を表す図であり、説明の便宜上、入力側回転板20および出力側回転板22の図示を省略している。また、後述するプレッシャ側嵌合歯77とセンタ側嵌合歯47との重なりの状態は、クラッチセンタ40およびプレッシャプレート70に入力側回転板20および出力側回転板22が取り付けられたときの状態と、クラッチセンタ40およびプレッシャプレート70に入力側回転板20および出力側回転板22が取り付けられていない状態とで同じである。
【0045】
図12に示すように、クラッチ装置10の通常時(即ち、プレッシャ側アシストカム面90Aとセンタ側アシストカム面60Aとが接触している状態)では、複数のプレッシャ側嵌合歯77のうち一部のプレッシャ側嵌合歯77は、出力軸15の径方向から見たときにセンタ側嵌合歯47と少なくとも一部が重なる。ここでは、プレッシャ側嵌合歯77とセンタ側嵌合歯47とが出力軸15の径方向から見たときに重なるとは、例えば、プレッシャ側嵌合歯77の頂面77Qと、センタ側嵌合歯47の頂面47Qとが出力軸15の径方向から見たときに重なることを意味する。また、プレッシャ側嵌合歯77が出力軸15の径方向から見たときにセンタ側嵌合歯47と少なくとも一部が重なるとは、プレッシャ側嵌合歯77の頂面77Qの面積の50%から100%、好ましくは60%から100%がセンタ側嵌合歯47の頂面47Qと重なることである。また、複数のプレッシャ側嵌合歯77のうち、一部のプレッシャ側嵌合歯77は、出力軸15の径方向から見たときにセンタ側嵌合歯47とプレッシャ側嵌合歯77の周方向Sの長さの半分以上の部分が重なる。本実施形態では、頂面47Qの周方向Sの長さは、頂面77Qの周方向Sの長さより長い。例えば、プレッシャ側嵌合歯77の1つであるプレッシャ側嵌合歯77Aは、出力軸15の径方向から見たときにセンタ側嵌合歯47Aとプレッシャ側嵌合歯77Aの周方向Sの長さの全てが重なっている。また、クラッチ装置10の通常時では、複数の貫通部78のうちの少なくとも1つの貫通部78Aは、少なくとも一部が出力軸15の径方向から見たときにセンタ側嵌合歯47と重なる。また、クラッチ装置10の通常時では、複数のプレッシャ側嵌合歯77のうち、一部のプレッシャ側嵌合歯77の頂面77Qは出力軸15の径方向から見たときにセンタ側嵌合歯47の頂面47Qと少なくとも一部が重なる。
【0046】
図12に示すように、クラッチ装置10の通常時では、複数のプレッシャ側嵌合歯77のうち他の一部のプレッシャ側嵌合歯77は、出力軸15の径方向から見たときにセンタ側嵌合歯47と少なくとも一部が重ならない。ここでは、プレッシャ側嵌合歯77とセンタ側嵌合歯47とが出力軸15の径方向から見たときに重ならないとは、例えば、プレッシャ側嵌合歯77の頂面77Qと、センタ側嵌合歯47の頂面47Qとが出力軸15の径方向から見たときに重ならないことを意味する。また、プレッシャ側嵌合歯77が出力軸15の径方向から見たときにセンタ側嵌合歯47と少なくとも一部が重ならないとは、プレッシャ側嵌合歯77の頂面77Qの面積の50%から100%、好ましくは60%から100%がセンタ側嵌合歯47の頂面47Qと重ならないことである。また、複数のプレッシャ側嵌合歯77のうち、他の一部のプレッシャ側嵌合歯77は、出力軸15の径方向から見たときにセンタ側嵌合歯47とプレッシャ側嵌合歯77の周方向Sの長さの半分以上の部分が重ならない。例えば、プレッシャ側嵌合歯77の1つであるプレッシャ側嵌合歯77Bは、出力軸15の径方向から見たときにセンタ側嵌合歯47Bおよびセンタ側嵌合歯47Cとプレッシャ側嵌合歯77Bの周方向Sの長さの半分以上が重なっていない。また、クラッチ装置10の通常時では、複数のプレッシャ側嵌合歯77のうち、他の一部のプレッシャ側嵌合歯77の頂面77Qは出力軸15の径方向から見たときにセンタ側嵌合歯47の頂面47Qと少なくとも一部が重ならない。
【0047】
図14に示すように、プレッシャ側スリッパーカム面90Sとセンタ側スリッパーカム面60Sとが接触している状態では、複数のプレッシャ側嵌合歯77のうち一部のプレッシャ側嵌合歯77(例えばプレッシャ側嵌合歯77の頂面77Q)は、出力軸15の径方向から見たときにセンタ側嵌合歯47(例えばセンタ側嵌合歯47の頂面47Q)と少なくとも一部が重なり、複数のプレッシャ側嵌合歯77のうち他の一部のプレッシャ側嵌合歯77(例えばプレッシャ側嵌合歯77の頂面77Q)は、出力軸15の径方向から見たときにセンタ側嵌合歯47(例えばセンタ側嵌合歯47の頂面47Q)と少なくとも一部が重ならない。また、プレッシャ側スリッパーカム面90Sとセンタ側スリッパーカム面60Sとが接触している状態では、複数の貫通部78のうちの少なくとも1つの貫通部78Aは、少なくとも一部が出力軸15の径方向から見たときにセンタ側嵌合歯47と重なる。また、プレッシャ側スリッパーカム面90Sとセンタ側スリッパーカム面60Sとが接触している状態では、複数のプレッシャ側嵌合歯77のうち、一部のプレッシャ側嵌合歯77の頂面77Qは出力軸15の径方向から見たときにセンタ側嵌合歯47の頂面47Qと少なくとも一部が重なり、他の一部のプレッシャ側嵌合歯77の頂面77Qは出力軸15の径方向から見たときにセンタ側嵌合歯47の頂面47Qと少なくとも一部が重ならない。
【0048】
図14に示す状態からプレッシャプレート70がクラッチセンタ40に所定の距離だけ接近したとき、プレッシャ側スリッパーカム面90Sとセンタ側スリッパーカム面60Sとは接触せず、プレッシャ側アシストカム面90Aとセンタ側アシストカム面60Aとは接触しない(図15参照)。図15に示すように、プレッシャ側スリッパーカム面90Sとセンタ側スリッパーカム面60Sとは接触せず、かつ、プレッシャ側アシストカム面90Aとセンタ側アシストカム面60Aとは接触していない状態では、複数のプレッシャ側嵌合歯77のうち一部のプレッシャ側嵌合歯77(例えばプレッシャ側嵌合歯77の頂面77Q)は、出力軸15の径方向から見たときにセンタ側嵌合歯47(例えばセンタ側嵌合歯47の頂面47Q)と少なくとも一部が重なり、複数のプレッシャ側嵌合歯77のうち他の一部のプレッシャ側嵌合歯77(例えばプレッシャ側嵌合歯77の頂面77Q)は、出力軸15の径方向から見たときにセンタ側嵌合歯47(例えばセンタ側嵌合歯47の頂面47Q)と少なくとも一部が重ならない。また、プレッシャ側スリッパーカム面90Sとセンタ側スリッパーカム面60Sとは接触せず、かつ、プレッシャ側アシストカム面90Aとセンタ側アシストカム面60Aとは接触していない状態では、複数の貫通部78のうちの少なくとも1つの貫通部78Aは、少なくとも一部が出力軸15の径方向から見たときにセンタ側嵌合歯47と重なる。また、プレッシャ側スリッパーカム面90Sとセンタ側スリッパーカム面60Sとは接触せず、かつ、プレッシャ側アシストカム面90Aとセンタ側アシストカム面60Aとは接触していない状態では、複数のプレッシャ側嵌合歯77のうち、一部のプレッシャ側嵌合歯77の頂面77Qは出力軸15の径方向から見たときにセンタ側嵌合歯47の頂面47Qと少なくとも一部が重なり、他の一部のプレッシャ側嵌合歯77の頂面77Qは出力軸15の径方向から見たときにセンタ側嵌合歯47の頂面47Qと少なくとも一部が重ならない。
【0049】
図15に示す状態からプレッシャプレート70がクラッチセンタ40にさらに所定の距離だけ接近したとき、プレッシャ側アシストカム面90Aとセンタ側アシストカム面60Aとが接触する(図16参照)。図16に示すように、プレッシャ側アシストカム面90Aとセンタ側アシストカム面60Aとが接触している状態(即ち通常時)では、複数のプレッシャ側嵌合歯77のうち一部のプレッシャ側嵌合歯77(例えばプレッシャ側嵌合歯77の頂面77Q)は、出力軸15の径方向から見たときにセンタ側嵌合歯47(例えばセンタ側嵌合歯47の頂面47Q)と少なくとも一部が重なり、複数のプレッシャ側嵌合歯77のうち他の一部のプレッシャ側嵌合歯77(例えばプレッシャ側嵌合歯77の頂面77Q)は、出力軸15の径方向から見たときにセンタ側嵌合歯47(例えばセンタ側嵌合歯47の頂面47Q)と少なくとも一部が重ならない。
【0050】
図12に示すように、クラッチ装置10の通常時では、オイル排出孔49が形成されたスプライン溝48は、出力軸15の径方向から見たときにプレッシャ側嵌合歯77と少なくとも一部が重ならない。ここでは、オイル排出孔49が形成されたスプライン溝48とプレッシャ側嵌合歯77とが出力軸15の径方向から見たときに重ならないとは、例えば、プレッシャ側嵌合歯77の頂面77Qの一部と、オイル排出孔49が形成された外周壁45の外周面45Sの一部とが出力軸15の径方向から見たときに重ならないことを意味する。また、スプライン溝48が出力軸15の径方向から見たときにプレッシャ側嵌合歯77と少なくとも一部が重ならないとは、プレッシャ側嵌合歯77の頂面77Qの面積の50%から100%、好ましくは60%から100%が外周壁45の外周面45Sと重ならないことである。図12および図14に示すように、例えば、スプライン溝48Aは、出力軸15の径方向から見たときにプレッシャ側嵌合歯77Cおよびプレッシャ側嵌合歯77Dと60%重なっていない。
【0051】
図6および図7に示すように、スプリング収容部84は、プレッシャ側カム部90に形成されている。スプリング収容部84は、第2の方向D2から第1の方向D1に凹むように形成されている。スプリング収容部84は、楕円形状に形成されている。スプリング収容部84は、プレッシャスプリング25(図1参照)を収容する。スプリング収容部84には、ボス部54(図2参照)が挿入される挿入孔84Hが貫通形成されている。即ち、挿入孔84Hは、プレッシャ側カム部90に貫通形成されている。挿入孔84Hは、楕円形状に形成されている。
【0052】
図1に示すように、プレッシャスプリング25は、スプリング収容部84に収容されている。プレッシャスプリング25は、スプリング収容部84の挿入孔84Hに挿入されたボス部54に保持されている。プレッシャスプリング25は、プレッシャプレート70をクラッチセンタ40に向けて(即ち第1の方向D1に向けて)付勢する。プレッシャスプリング25は、例えば、ばね鋼を螺旋状に巻いたコイルスプリングである。
【0053】
図10は、クラッチセンタ40とプレッシャプレート70とが組み合わされた状態を示す平面図である。図10に示す状態では、プレッシャ側アシストカム面90Aとセンタ側アシストカム面60Aとは接触せず、かつ、プレッシャ側スリッパーカム面90Sとセンタ側スリッパーカム面60Sとは接触していない。このとき、プレッシャプレート70はクラッチセンタ40に最も接近している。この状態をクラッチ装置10の通常時の状態とする。図10に示すように、通常時のボス部54と挿入孔84Hのプレッシャ側アシストカム面90A側(即ち第1の周方向S1側)の端部84HAとの周方向Sの距離L5は、通常時のボス部54と挿入孔84Hのプレッシャ側スリッパーカム面90S側(即ち第2の周方向S2側)の端部84HBとの周方向Sの距離L6よりも短い。
【0054】
図1に示すように、ストッパプレート100は、プレッシャプレート70と接触可能に設けられている。ストッパプレート100は、プレッシャプレート70がクラッチセンタ40から第2の方向D2に所定の距離以上離隔することを抑制する部材である。ストッパプレート100は、クラッチセンタ40のボス部54にボルト28によって固定されている。プレッシャプレート70は、スプリング収容部84にクラッチセンタ40のボス部54およびプレッシャスプリング25が配置された状態でストッパプレート100を介してボルト28がボス部54に締め付けられて固定されている。ストッパプレート100は、平面視で略三角形状に形成されている。
【0055】
ここで、プレッシャプレート70がストッパプレート100と接触するとき、プレッシャ側スリッパーカム面90Sとセンタ側スリッパーカム面60Sとは、それぞれ、プレッシャ側スリッパーカム面90Sの面積の50%以上90%以下、かつ、センタ側スリッパーカム面60Sの面積の50%以上90%以下で互いに接触している。また、プレッシャプレート70がストッパプレート100に接触するとき、プレッシャスプリング25は、スプリング収容部84の側壁から離隔している。即ち、プレッシャスプリング25は、ボス部54とスプリング収容部84とによって挟み込まれておらず、ボス部54に過度な応力が加わることが抑制されている。
【0056】
ここで、周方向Sに関して隣り合うプレッシャ側カム部90のうち一方のプレッシャ側カム部90Lの第1の周方向S1側に位置するプレッシャ側アシストカム面90Aの第1の方向D1の端部90AAから他方のプレッシャ側カム部90Mの第2の周方向S2側に位置するプレッシャ側スリッパーカム面90Sの第1の方向D1の端部90SAまでの周方向Sの長さL1(図5参照)は、1つのセンタ側カム部60のセンタ側アシストカム面60Aの第2の方向D2の端部60AAからセンタ側スリッパーカム面60Sの第2の方向D2の端部60SAまでの周方向の長さL2(図3参照)より長い。
【0057】
また、出力軸15の軸線方向から見て、プレッシャプレート70の中心(ここでは筒状部80の中心80C)と、周方向Sに関して隣り合うプレッシャ側カム部90のうち一方のプレッシャ側カム部90Lの第1の周方向S1側に位置するプレッシャ側アシストカム面90Aの第1の周方向S1の端部90ABと、他方のプレッシャ側カム部90Mの第2の周方向S2側に位置するプレッシャ側スリッパーカム面90Sの第1の周方向S1の端部90SBとのなす角度θ1(図5参照)は、出力軸保持部50の中心50Cと、1つのセンタ側カム部60のセンタ側アシストカム面60Aの第2の周方向S2の端部60ABと、センタ側スリッパーカム面60Sの第2の周方向S2の端部60SBとのなす角度θ2(図3参照)より大きい。角度θ1は、筒状部80の中心80Cと端部90ABとを通る直線と、中心80Cと端部90SBとを通る直線とのなす角度である。角度θ2は、出力軸保持部50の中心50Cと端部60ABとを通る直線と、中心50Cと端部60SBとを通る直線とのなす角度である。
【0058】
また、センタ側アシストカム面60Aの第2の方向D2の端部60AAからボス部54までの周方向Sの長さL3(図3参照)は、プレッシャ側アシストカム面90Aの第1の方向D1の端部90AAから挿入孔84Hまでの周方向Sの長さL4(図5参照)よりも長い。
【0059】
また、出力軸15の軸線方向から見て、出力軸保持部50の中心50Cと、センタ側カム部60のセンタ側アシストカム面60Aの第2の周方向S2の端部60ABと、ボス部54の中心54Cとのなす角度θ3(図3参照)は、プレッシャプレート70の中心(ここでは筒状部80の中心80C)と、プレッシャ側アシストカム面90Aの第1の周方向S1の端部90ABと、挿入孔84Hの中心84HCとのなす角度θ4(図5参照)より大きい。角度θ3は、出力軸保持部50の中心50Cと端部60ABとを通る直線と、中心50Cとボス部54の中心54Cとを通る直線とのなす角度である。角度θ4は、筒状部80の中心80Cと端部90ABとを通る直線と、中心80Cと挿入孔84Hの中心84HCとを通る直線とのなす角度である。
【0060】
図12に示すように、出力軸15の軸線方向(即ち方向D)から見て、筒状部80の中心80C(即ち出力軸15の中心15C)と周方向Sに関して隣り合うプレッシャ側嵌合歯77の一方のプレッシャ側嵌合歯77Eの第1の周方向S1側の端部77SAとを通る直線と、筒状部80の中心80Cと周方向Sに関して隣り合うプレッシャ側嵌合歯77の他方のプレッシャ側嵌合歯77Fの第2の周方向S2側の端部77SBとを通る直線とのなす角度のうち最小の角度θ5は、出力軸保持部50の中心50Cと周方向Sに関して隣り合うセンタ側嵌合歯47の一方のセンタ側嵌合歯47Dの第1の周方向S1側の端部47SAとを通る直線と、出力軸保持部50の中心50Cと周方向Sに関して隣り合うセンタ側嵌合歯47の他方のセンタ側嵌合歯47Eの第2の周方向S2側の端部47SBとを通る直線とのなす角度θ6よりも大きい。なお、角度θ5は、角度θ6よりも小さくてもよい。なお、本実施形態では、一部のプレッシャ側嵌合歯77が取り除かれているため、例えば、筒状部80の中心80Cと周方向Sに関して隣り合うプレッシャ側嵌合歯77の一方のプレッシャ側嵌合歯77Gの第1の周方向S1側の端部77SAとを通る直線と、筒状部80の中心80Cと周方向Sに関して隣り合うプレッシャ側嵌合歯77の他方のプレッシャ側嵌合歯77Hの第2の周方向S2側の端部77SBとを通る直線とのなす角度θ7は、θ5およびθ6よりも大きくなる。
【0061】
クラッチ装置10内には、所定量のクラッチオイルが充填されている。クラッチオイルは、出力軸15の中空部15Hを介してクラッチセンタ40およびプレッシャプレート70内に流通し、その後センタ側嵌合部58とプレッシャ側嵌合部88との隙間やオイル排出孔49を介して入力側回転板20および出力側回転板22に供給される。クラッチオイルは、熱の吸収や摩擦材の摩耗を抑止する。本実施形態のクラッチ装置10は、いわゆる湿式多板摩擦クラッチ装置である。
【0062】
次に、本実施形態のクラッチ装置10の作動について説明する。クラッチ装置10は、上述のように、自動二輪車のエンジンと変速機との間に配置されるものであり、運転者がクラッチ操作レバーを操作することによって、エンジンの回転駆動力を変速機へ伝達および遮断する。
【0063】
クラッチ装置10は、自動二輪車の運転者がクラッチ操作レバーを操作しない場合には、クラッチレリーズ機構(図示せず)がプッシュロッド16Aを押圧しないため、プレッシャプレート70がプレッシャスプリング25の付勢力(弾性力)によって入力側回転板20を押圧する。これにより、クラッチセンタ40は、入力側回転板20と出力側回転板22とが互いに押し当てられて摩擦連結されたクラッチONの状態となって回転駆動する。即ち、エンジンの回転駆動力がクラッチセンタ40に伝達されて出力軸15が回転駆動する。
【0064】
クラッチON状態において、出力軸15の中空部H内を流動しかつ出力軸15の先端部15Tから流出したクラッチオイルは、筒状部80内に落下または飛翔して付着する(図1の矢印F参照)。筒状部80内に付着したクラッチオイルは、クラッチセンタ40内に導かれる。これにより、クラッチオイルは、オイル排出孔49を介してクラッチセンタ40の外部に流出する。また、クラッチオイルは、センタ側嵌合部58とプレッシャ側嵌合部88との隙間を介してクラッチセンタ40の外部に流出する。そして、クラッチセンタ40の外部に流出したクラッチオイルは、入力側回転板20および出力側回転板22に供給される。
【0065】
一方、クラッチ装置10は、クラッチON状態において自動二輪車の運転者がクラッチ操作レバーを操作した場合には、クラッチレリーズ機構(図示せず)がプッシュロッド16Aを押圧するため、プレッシャプレート70がプレッシャスプリング25の付勢力に抗してクラッチセンタ40から離隔する方向(第2の方向D2)に変位する。これにより、クラッチセンタ40は、入力側回転板20と出力側回転板22との摩擦連結が解消されたクラッチOFFの状態となるため、回転駆動が減衰または回転駆動が停止する状態となる。即ち、エンジンの回転駆動力がクラッチセンタ40に対して遮断される。
【0066】
クラッチOFF状態において、出力軸15の中空部H内を流動しかつ出力軸15の先端部15Tから流出したクラッチオイルは、クラッチON状態と同様に、クラッチセンタ40内に導かれる。このとき、プレッシャプレート70は、クラッチセンタ40に対して離隔するため、センタ側嵌合部58およびプレッシャ側嵌合部88との嵌合量が少なくなる。この結果、筒状部80内のクラッチオイルは、より積極的にクラッチセンタ40の外部に流出してクラッチ装置10の内部の各所に流動する。特に、互いに離隔する入力側回転板20と出力側回転板22との間にクラッチオイルを積極的に導くことができる。
【0067】
そして、クラッチOFF状態において運転者がクラッチ操作レバーを解除した場合には、クラッチレリーズ機構(図示せず)によるプッシュ部材16Bを介したプレッシャプレート70の押圧が解除されるため、プレッシャプレート70はプレッシャスプリング25の付勢力によってクラッチセンタ40に接近する方向(第1の方向D1)に変位する。
【0068】
以上のように、本実施形態のクラッチ装置10によると、出力軸15等から流出したクラッチオイルはオイル排出孔49等を介してクラッチセンタ40の外部に排出される。ここで、クラッチセンタ40の外部には、入力側回転板20および出力側回転板22が保持されているため、プレッシャプレート70およびクラッチセンタ40が回転しているときには、入力側回転板20および出力側回転板22にクラッチオイルの一部が供給される。さらに、プレッシャ側嵌合歯77は、センタ側嵌合歯47よりも径方向外側に位置する。そして、プレッシャ側嵌合歯77の第1の方向D1の端部77Tは、センタ側嵌合歯47の第2の方向D2の端部47Tよりも第1の方向D1側に位置する。ここで、複数のプレッシャ側嵌合歯77のうち、一部のプレッシャ側嵌合歯77はセンタ側嵌合歯47と径方向に関して少なくとも一部が重なる。このため、該部分では、プレッシャプレート70およびクラッチセンタ40が回転しているときであっても、クラッチオイルの一部は外部に飛散せずクラッチオイルを保持することができる。これにより、プレッシャプレート70付近の出力側回転板22および入力側回転板20にクラッチオイルを少しずつ供給することができる。一方、複数のプレッシャ側嵌合歯77のうち、他の一部のプレッシャ側嵌合歯77はセンタ側嵌合歯47と径方向に関して少なくとも一部が重ならない。このため、該部分では、プレッシャプレート70およびクラッチセンタ40が回転すると、クラッチオイルは外部に飛散するため、出力側回転板22および入力側回転板20に直ちにクラッチオイルを供給することができる。
【0069】
本実施形態のクラッチ装置10では、複数のプレッシャ側嵌合歯77のうち、一部のプレッシャ側嵌合歯77は、センタ側嵌合歯47と径方向に関して、プレッシャ側嵌合歯77の周方向Sの長さの半分以上の部分が重なり、他の一部のプレッシャ側嵌合歯77は、センタ側嵌合歯47と径方向に関して、プレッシャ側嵌合歯77の周方向Sの長さの半分以上の部分が重ならない。上記態様によれば、プレッシャ側嵌合歯77において、クラッチオイルの保持と外部への飛散をバランスよく実現することができる。
【0070】
本実施形態のクラッチ装置10では、クラッチセンタ40は、出力軸保持部50の径方向外側に位置し、かつ、プレッシャプレート70に対して相対回転した際に、入力側回転板20と出力側回転板22との押圧力を増加させるためにプレッシャプレート70をクラッチセンタ40に接近させる方向の力を発生させるセンタ側アシストカム面60A、および、入力側回転板20と出力側回転板22との押圧力を減少させるためにプレッシャプレート70をクラッチセンタ40から離隔させるセンタ側スリッパーカム面60Sを有する複数のセンタ側カム部60を有し、複数のセンタ側カム部60の側方には、オイル排出孔49がそれぞれ形成され、センタ側嵌合歯47の数は、センタ側カム部60の数の倍数である。上記態様によれば、センタ側カム部60とオイル排出孔49との位置関係をそれぞれ同じにすることができる。このため、オイル排出孔49からそれぞれ外部に排出されるクラッチオイルの量のばらつきが低減される。
【0071】
本実施形態のクラッチ装置10では、センタ側カム部60の数は3であり、センタ側嵌合歯47の数は3の倍数である。上記態様によれば、クラッチセンタ40がプレッシャプレート70に対して相対回転したときに、入力側回転板20と出力側回転板22との押圧力の増加および減少をバランスよく実現することができる。
【0072】
本実施形態のクラッチ装置10では、オイル排出孔49が形成されたスプライン溝48は、プレッシャ側嵌合歯77と径方向に関して少なくとも一部が重ならない。上記態様によれば、オイル排出孔49からクラッチセンタ40の外部に流出したクラッチオイルを、入力側回転板20および出力側回転板22に効果的に供給することができる。
【0073】
本実施形態のクラッチ装置10では、オイル排出孔49が形成されたスプライン溝48は、プレッシャ側嵌合歯77と径方向に関して重ならない。上記態様によれば、オイル排出孔49からクラッチセンタ40の外部に流出したクラッチオイルを、入力側回転板20および出力側回転板22により効果的に供給することができる。
【0074】
本実施形態のクラッチ装置10では、出力軸15の軸線方向(即ち方向D)から見て、出力軸15の中心15Cと周方向Sに関して隣り合うプレッシャ側嵌合歯77の一方のプレッシャ側嵌合歯77Eの第1の周方向S1側の端部77SAとを通る直線と、出力軸15の中心15Cと周方向Sに関して隣り合うプレッシャ側嵌合歯77の他方のプレッシャ側嵌合歯77Fの第2の周方向S2側の端部77SBとを通る直線とのなす角度のうち最小の角度θ5は、出力軸保持部50の中心50Cと周方向Sに関して隣り合うセンタ側嵌合歯47の一方のセンタ側嵌合歯47Dの第1の周方向S1側の端部47SAとを通る直線と、出力軸保持部50の中心50Cと周方向Sに関して隣り合うセンタ側嵌合歯47の他方のセンタ側嵌合歯47Eの第2の周方向S2側の端部47SBとを通る直線とのなす角度θ6よりも小さい。上記態様によれば、プレッシャ側嵌合歯77において、クラッチオイルの保持と外部への飛散をバランスよく実現することができる。
【0075】
本実施形態のクラッチ装置10では、クラッチセンタ40は、外周壁45を貫通するようにスプライン溝48に形成され、出力軸15から流出したクラッチオイルをクラッチセンタ40の外部に排出するオイル排出孔49を備え、プレッシャプレート70は、出力軸15の先端部15Tを収容する筒状部80を備え、プレッシャ側嵌合歯77は、筒状部80よりも径方向外側に位置する。上記態様によれば、オイル排出孔49を介して出力軸15の先端部15Tから筒状部80に流出したクラッチオイルをクラッチセンタ40の外部により効率よく排出することができる。
【0076】
以上、本発明の好適な実施形態について説明した。しかし、上述の実施形態は例示に過ぎず、本発明は他の種々の形態で実施することができる。
【0077】
なお、クレームで規定しているプレッシャ側嵌合歯とセンタ側嵌合歯との重なりの状態は、クラッチセンタおよびプレッシャプレートに入力側回転板および出力側回転板が取り付けられているか否かは問わない。すなわち、クラッチセンタおよびプレッシャプレートに入力側回転板および出力側回転板が取り付けられていない状態で、プレッシャ側嵌合歯とセンタ側嵌合歯との重なりの状態がクレームに規定しているようになっていれば、クレームの範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0078】
10 クラッチ装置
15 出力軸
20 入力側回転板
22 出力側回転板
40 クラッチセンタ
45 外周壁
47 センタ側嵌合歯
47T 第2の方向の端部
48 スプライン溝
49 オイル排出孔
50 出力軸保持部
58 センタ側嵌合部
60 センタ側カム部
60A センタ側アシストカム面
60S センタ側スリッパーカム面
70 プレッシャプレート
77 プレッシャ側嵌合歯
77T 第1の方向の端部
78 貫通部
80 筒状部
88 プレッシャ側嵌合部
90 プレッシャ側カム部
90A プレッシャ側アシストカム面
90S プレッシャ側スリッパーカム面
D1 第1の方向
D2 第2の方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12
図13
図14
図15
図16