(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-02
(45)【発行日】2024-10-10
(54)【発明の名称】価格推定システム
(51)【国際特許分類】
G06Q 30/08 20120101AFI20241003BHJP
【FI】
G06Q30/08
(21)【出願番号】P 2024033547
(22)【出願日】2024-03-06
【審査請求日】2024-03-18
(73)【特許権者】
【識別番号】593230039
【氏名又は名称】株式会社QUICK
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】武井 昭仁
(72)【発明者】
【氏名】石井 陽子
【審査官】上田 智志
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2022/0229924(US,A1)
【文献】韓国登録特許第2457455(KR,B1)
【文献】韓国公開特許第2024-0003772(KR,A)
【文献】韓国公開特許第2023-0023600(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第111292125(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作品識別子、作家名、属性、取引価格、取引日、取引通貨に関する情報を含めたオークション情報を記憶した取引実績記憶部と、評価対象物の価格を算定する制御部と、を備えた価格推定システムであって、
前記制御部が、
前記オークション情報の属性から作品サイズを推定し、
前記オークション情報の属性からオリジナル又はコピーを識別し、
前記オークション情報の属性から作品ジャンルを特定し、
対数価格線形回帰モデルAのα
j、β
k、γ、δ
jk、ζ
j、η
k、θ
jk、bを最小2乗法で推定して、価格理論値算出式Bを算出することを特徴とする価格推定システム。
【数1】
P
ijk:k年に取引された作家jの作品iの落札価格
A[j]
i:作品iが作家jならば「1」、そうでなければ「0」となるダミー変数
T[k]
i:作品iの取引年次がkならば「1」、そうでなければ「0」となるダミー変数
O
i:「オリジナルフラグ」を使用して、作品iがオリジナル作品ならば「1」、そうでなければ「0」と設定するダミー変数
X
i:作品iに関するその他の多次元制御変数行列であり、次の変数を次元として含む。
・美術品の作品サイズ[号]
・作品サイズ[号]を2乗した変数
・オークションで使用された通貨単位についてのダミー変数
・オークションで使用された通貨単位についてのダミー変数と取引年次ダミー変数T[k]
iの交差項変数
・取引時点の四半期ダミー変数(第1四半期~第4四半期)
・作品ジャンルのダミー変数(「contemporary art」、「Post-war Art」のように作品のカテゴリー分けを示す変数)
・作品ジャンルのダミー変数
α
j,β
k,γ,δ
jk,ζ
j,η
k,θ
jk,b:推定すべき未知パラメータ
u
ijk:誤差項。
【数2】
【請求項2】
前記制御部が、前記オークション情報を用いて、作家名の名寄せを行なうことを特徴とする請求項1に記載の価格推定システム。
【請求項3】
前記制御部が、
各作家の前記オークション情報を用いて、所定期間の取引回数を特定し、
前記取引回数が基準回数以上の代表的作家について、前記代表的作家毎に、前記対数価格線形回帰モデルを算出することを特徴とする請求項1又は2に記載の価格推定システム。
【請求項4】
前記制御部が、前記取引回数が基準回数未満の非代表的作家をまとめた非代表的作家群について、前記非代表的作家をまとめて前記対数価格線形回帰モデルを算出することを特徴とする請求項3に記載の価格推定システム。
【請求項5】
前記制御部が、計算式Cを用いて、前記代表的作家毎にオリジナル作品の価格指数及びコピー作品の価格指数を算出することを特徴とする請求項3に記載の価格推定システム。
【数3】
【請求項6】
前記制御部が、計算式Dを用いて、前記非代表的作家群のオリジナル作品の価格指数及びコピー作品の価格指数を算出することを特徴とする請求項4に記載の価格推定システム。
【数4】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、作品の価格を算出するための価格推定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
美術品の価格は売買される場所により異なることがある。例えば、画廊や百貨店では材料費に加えて人件費や作家の経歴活動等を考慮して価格が決まる。また、オークションでは、出品者が公開した作品に対して最高価格を申し出た人が落札することにより、価格が決定される(例えば、特許文献1を参照)。この文献に記載された技術では、著作物の著作権者が受け取ることができる印税等の収入を将来にわたり算定する。具体的には、著作物について発生した実際の著作権使用料の情報を元に、過去の年収入の平均収入及び収入の分散を求める。更に、平均収入及び分散を変数とする計算式を用いて、評価価格を計算する。
【0003】
また、売り手への支払金額による仲介業者の金銭的リスクを低減するための美術品売買仲介支援システムも検討されている(例えば、特許文献2を参照)。この文献に記載された美術品売買仲介支援装置は、売り手が売却を希望する美術品の鑑定結果に基づき算定された査定価格を取得する。そして、査定価格に基づいて、オークション実施前に売り手に支払う第1支払金額として、美術品の査定価格からこの美術品に応じた安全金額を控除した金額を算出する。更に、入力した査定価格及びオークションで落札された美術品の落札価格に基づいて、オークション実施後に売り手に支払う第2支払金額を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2022-106684号公報
【文献】特許第7347878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
美術品の価値は材料や機能などのコストから算出することは一般的に不可能である。すなわち、美術品の視覚的要素を中心として、識者が価格を恣意的に推定している。このため、美術品の価格は価値を適正に反映した再現性のある数値とは言い難い。また、上述したように、同じ作品であっても、販売する場所によって価格が異なることもある。このように、価格が不透明であることから、美術品の取引の参加者が増加しないという課題がある。
【0006】
図6には、アートオークションの価格分布を示す。アートオークションの価格は、ある価格帯にデータが過集中するとともに、正規分布では示すことができないような高値を示す分布(所謂、ファット・テール)である特性を有する。このため、通常の財やサービスではない価格形成をしている。
【0007】
図7には、落札価格の年次変動を示す。ファット・テールを構成する高値は、出現頻度が高いだけではないとともに、毎年、発生している。
図8には、正規分布を前提とした単純な多変量解析(重回帰部分析)の分析結果を示す。横軸は、実績値であり、縦軸は多変量解析により推定した価格である。上記分布からも分かるように、価格推定の自由度調整済み決定係数は「0.36」であるため、良好な結果が得られない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する価格推定システムは、作品識別子、作家名、属性、取引価格、取引日、取引通貨に関する情報を含めたオークション情報を記憶した取引実績記憶部と、評価対象物の価格を算定する制御部と、を備える。そして、前記制御部が、前記オークション情報の属性から作品サイズを推定し、前記オークション情報の属性からオリジナル又はコピーを識別し、前記オークション情報の属性から作品ジャンルを特定し、対数価格線形回帰モデルAのパラメータを最小2乗法で推定して、価格理論値算出式を算出する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、美術品の価格を、効率的かつ的確に算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態の価格推定システムの説明図である。
【
図2】本実施形態のハードウェア構成の説明図である。
【
図5】本実施形態の多変量解析の分析結果の説明図であって、(a)はPablo Picasso、(b)はMarc Chagall、(c)は草間彌生、(d)はGerhard Richterの説明図である。
【
図6】従来のアートオークションの価格特性の説明図である。
【
図8】従来の多変量解析の分析結果の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、
図1~
図5に従って、価格推定システムの一実施形態を説明する。本実施形態では、美術品(アート)として絵画の価格を算出する場合を想定する。
図1に示すように、本実施形態では、オークションサイト10、ユーザ端末15、管理サーバ20を用いる。
【0012】
(ハードウェア構成)
図2を用いて、オークションサイト10、ユーザ端末15、管理サーバ20を構成する情報処理装置H10のハードウェア構成を説明する。情報処理装置H10は、通信装置H11、入力装置H12、表示装置H13、記憶装置H14、プロセッサH15を備える。なお、このハードウェア構成は一例であり、他のハードウェアにより実現することも可能である。
【0013】
通信装置H11は、他の装置との間で通信経路を確立して、データの送受信を実行するインタフェースであり、例えばネットワークインタフェースカードや無線インタフェース等である。
【0014】
入力装置H12は、利用者等からの入力を受け付ける装置であり、例えばマウスやキーボード等である。表示装置H13は、各種情報を表示するディスプレイ等である。
記憶装置H14は、オークションサイト10、ユーザ端末15、管理サーバ20の各種機能を実行するためのデータや各種プログラムを格納する記憶装置である。記憶装置H14の一例としては、ROM、RAM、ハードディスク等がある。
【0015】
プロセッサH15は、記憶装置H14に記憶されるプログラムやデータを用いて、オークションサイト10、ユーザ端末15、管理サーバ20における各処理を制御する。プロセッサH15の一例としては、例えばCPUやMPU等がある。このプロセッサH15は、ROM等に記憶されるプログラムをRAMに展開して、各サービスのための各種プロセスを実行する。
【0016】
(システム機能)
次に、
図1~
図5を用いて、オークションサイト10、ユーザ端末15、管理サーバ20の機能を説明する。
【0017】
オークションサイト10は、美術品(アート)について、売り手と買い手とのオークション取引を仲介するコンピュータシステムである。このオークションサイト10は、アートオークションに出品された美術品の属性情報、落札に関する情報を管理する。
ユーザ端末15は、美術品の価格を算出するユーザが用いるコンピュータ端末である。
【0018】
管理サーバ20は、美術品の価格を算出するコンピュータシステムである。この管理サーバ20は、制御部21、取引実績記憶部22、モデル情報記憶部23を備えている。
制御部21は、後述する処理(取得段階、前処理段階、作成段階、評価段階等の各処理)を行なう。このための価格算定プログラムを実行することにより、制御部21は、取得部211、前処理部212、作成部213、評価部214等として機能する。
【0019】
取得部211は、オークションサイト10やユーザ端末15から各種情報を取得する処理を実行する。
前処理部212は、美術品のサイズ規格化、オリジナル判定、作家名名寄せの各処理を実行する。サイズ規格化処理では、美術品の属性情報のサイズを用いて、面積を推定する。オリジナル判定処理では、美術品の属性情報において素材を特定し、オリジナル作品(1点もの)かコピー作品(版画等の複数枚同一作品があるもの)を判定する。作家名名寄せ処理では、美術品の属性情報の作家名を用いて、同一作家を推定する。このため、前処理部212は、同一作家について、異なる作家名についてまとめるための名寄せパターン情報を保持する。
【0020】
作成部213は、美術品の取引実績から価格を算出するためのモデルを作成する処理を実行する。
評価部214は、ユーザが指定した美術品の価格を算出する処理を実行する。
【0021】
取引実績記憶部22には、アートオークションにおいて落札された美術品の価格に関する取引実績管理データが記録される。取引実績管理データは、オークションサイト10から落札情報を取得した場合に記録される。この取引実績管理データには、落札日、落札価格、属性に関する情報が記録される。
【0022】
落札日情報は、アートオークションで落札された年月日(取引日)に関する情報である。
落札価格情報は、落札された取引価格に関する情報である。落札価格情報には、落札された取引通貨(米国のUSD、英国のGBP等)に関する情報を含む。
【0023】
属性情報は、アートオークション時に開示された作品に関する情報である。この属性情報には、例えば、作品名、作家名、完成年、構成素材、作品ジャンル、サイズ等に関するデータが含まれる。
【0024】
作品名は、各作品名称である。この作品名、作家名及び完成年等を用いて作品を特定することができる作品識別子となる。
作家名は、この作品の作家を特定するための作家識別子である。
完成年は、この作品の完成年を示す情報である。
【0025】
構成素材は、油絵、水彩画等のようなメディウムに関する情報である。この構成素材の分類はオリジナル判定で、その作品がオリジナルかコピーか判定するために使用される。
作品ジャンルは、「contemporary art」、「Post-war Art」のように作品のカテゴリー分けを示す情報である。
サイズは、この作品の大きさを示す情報である。
【0026】
モデル情報記憶部23には、美術品の価格を算出するための予測モデルが記録される。このモデル管理データは、学習段階に予測モデルを生成した場合に記録される。
【0027】
予測モデルは、美術品の価格を算出するための情報である。本実施形態では、以下の対数価格線形回帰モデル(A)、価格理論値算出式(B)、価格指数式(C)を用いる。
〔式1〕は、対数価格線形回帰モデル(A)を示す。対数価格線形回帰モデル(A)は、価格を各パラメータで推定するためのモデルであって、最小2乗法に当てはめて算出する。〔式1〕は、アートオークション情報から得られる作品のサンプルサイズは「n」、代表的作家群に含まれる作家の数は「J」、作品が落札された年次は最大で「K」年である場合を想定する。なお、作家は、オークション取引の頻度に応じて、代表的作家と非代表的作家とに分けられる。例えば、代表的作家は、所定期間の取引回数が基準回数(例えば、過去20年間で40回)以上のオークション取引が行なわれた作家とする。そして、代表的作家は個別に一作家として、非代表的作家はまとめて一作家として評価される。
【0028】
【0029】
Pijk:k年に取引された作家jの作品iの落札価格、
A[j]i:作品iが作家jならば「1」、そうでなければ「0」となるダミー変数、
T[k]i:作品iの取引年次がkならば「1」、そうでなければ「0」となるダミー変数、
Oi:「オリジナルフラグ」を使用して、作品iがオリジナル作品ならば「1」、そうでなければ「0」と設定するダミー変数、
Xi:作品iに関するその他の多次元制御変数行列であり、次の変数を次元として含む。
【0030】
・美術品の作品サイズ[号]
・作品サイズ[号]を2乗した変数
・オークションで使用された通貨単位についてのダミー変数
・オークションで使用された通貨単位についてのダミー変数と取引年次ダミー変数T[k]iの交差項変数
・取引時点の四半期ダミー変数(第1四半期~第4四半期)
・作品ジャンルのダミー変数(「contemporary art」、「Post-war Art」のように作品のカテゴリー分けを示す変数)
・作品ジャンルのダミー変数
αj,βk,γ,δjk,ζj,ηk,θjk,b:推定すべき未知パラメータ
uijk:誤差項
〔式2〕は、価格理論値を算出する価格理論値算出式(B)である。価格理論値算出式(B)は、作家名やサイズ、取引年次など必要な変数のデータが揃っているという前提条件の下で、該当作品の推定価格を算定する。
【0031】
【0032】
〔式3〕は代表的作家の価格指数式(C)である。価格指数は参照基準年(例えば、2000年)の価格を「1」として、経年後のある時点でその価格の伸び率を示す。価格指数式(C)は、ある作家の作品の価格を推定したい場合に、取引年次の取引実績がない場合であって、その取引年次のデータを補完するために用いる。
【0033】
【0034】
〔式4〕は非代表的作家の価格指数式(D)である。
【0035】
【0036】
価格指数式(C)、(D)から導いた価格指数の値を代理変数として用いて欠損を補完する。具体的には、価格指数式(C)、(D)を用いることにより、各代表的作家や非代表的作家について、作品に依存しない価格傾向を算出することができる。
【0037】
<処理手順の概要>
図3~
図5を用いて、処理手順の概要を説明する。ここでは、学習処理(
図3)、予測処理(
図4)の順番に説明する。
(学習処理)
図3を用いて、学習処理を説明する。
まず、管理サーバ20の制御部21は、オークション情報の取得処理を実行する(ステップS11)。具体的には、制御部21の取得部211は、アートオークションの開催後に、オークションサイトのウェブサイトへ掲載される落札価格データと付随する属性データ(作家名、構成素材、下限見積価格、上限見積価格、サイズ等)を収集する。そして、取得部211は、取得した落札情報を記録した取引実績管理データを生成し、取引実績記憶部22に記録する。
【0038】
次に、管理サーバ20の制御部21は、作品毎に以下の処理を繰り返す。
ここでは、管理サーバ20の制御部21は、サイズ判定処理を実行する(ステップS12)。具体的には、制御部21の前処理部212は、属性データを用いて、美術品サイズを特定する。ここでは、属性データのサイズ情報から、美術品サイズモデルとして面積を算出する。
【0039】
次に、管理サーバ20の制御部21は、オリジナル判定処理を実行する(ステップS13)。具体的には、制御部21の前処理部212は、属性データを用いて、オリジナルかコピーかを判定する。ここでは、属性データの素材情報を判定する。「油絵」、「水彩画」、「彫刻」のようなメディウム(構成素材)の分類は、その作品がオリジナルかコピーかを判定するために使用する。
【0040】
次に、管理サーバ20の制御部21は、名寄せ処理を実行する(ステップS14)。具体的には、制御部21の前処理部212は、属性データを用いて、作家名の名寄せを行なう。
そして、以上の処理(ステップS12~ステップS14)を、作品毎に繰り返し実行する。
【0041】
次に、管理サーバ20の制御部21は、モデル作成処理を実行する(ステップS15)。具体的には、まず、制御部21の作成部213は、各パラメータを推定する。ここで、各パラメータを、取引実績記憶部22に記録された前処理されたデータを用いて、対数価格線形回帰モデル(A)において最小2乗法を利用して算出する。更に、価格理論値算出式(B)を用いて、対数価格の理論値を計測する。なお、計算式(A)において、作品iが作家jならば「1」、そうでなければ「0」となる変数(作家ダミー変数)の参照基準は非代表的作家群である。作品iの取引年次がkならば「1」、そうでなければ「0」となる変数(年次ダミー変数)の参照基準は西暦2000年のデータである。「オリジナルフラグ」を使用して、作品iがオリジナル作品ならば「1」、そうでなければ「0」と設定する変数(オリジナルダミー変数)の参照基準はコピー作品のデータである。オークションで使用された通貨単位についての変数(通貨ダミー変数)の参照基準はUSDで取引されたデータである。取引時点の四半期ダミー変数の参照基準は第1四半期に取引されたデータである。作品ジャンルのダミー変数の参照基準は19世紀として分類された作品のデータである。
【0042】
そして、アーティスト毎に、管理サーバ20の制御部21は、価格指数の算出処理を実行する(ステップS16)。具体的には、制御部21の作成部213は、得られた回帰パラメータから、価格指数を算出する。ここでは、代表的作家それぞれのオリジナル作品の価格指数及びコピー作品の価格指数、それ以外の集約された非代表的作家のオリジナル作品の価格指数及びコピー作品の価格指数を算定する。
【0043】
価格指数式(C)の代表的作家それぞれのオリジナル作品の価格指数は、以下の内容を含む。
・代表的作家の個別効果(αj)の推定値
・年次の個別効果(βk)の推定値
・オリジナル作品効果(γ)の推定値
・代表的作家と年次の交互作用効果(δjk)の推定値
・代表的作家とオリジナル作品の交互作用効果(ζj)の推定値
・年次とオリジナル作品の交互作用効果(ηk)の推定値
・代表的作家、年次、及びオリジナル作品の交互作用効果(θjk)の推定値
代表的作家それぞれのコピー作品の価格指数は、代表的作家の個別効果(αj)、年次の個別効果(βk)、代表的作家と年次の交互作用効果(δjk)の推定値に基づいて求められる。
【0044】
非代表的作家のオリジナル作品の価格指数は、年次の個別効果(βk)、オリジナル作品効果(γ)、年次とオリジナル作品の交互作用効果(ηk)の推定値に基づいて求められる。
価格指数式(D)の非代表的作家のコピー作品の価格指数は、年次の個別効果(βk)の推定値に基づいて求められる。
【0045】
【0046】
まず、管理サーバ20の制御部21は、評価対象情報の取得処理を実行する(ステップS21)。具体的には、制御部21の評価部214は、ユーザ端末15から、評価対象物について評価対象情報を取得する。この評価対象情報には、作品、作家、取引年次に関する情報が含まれる。
【0047】
次に、管理サーバ20の制御部21は、価格推定処理を実行する(ステップS22)。具体的には、制御部21の前処理部212は、評価対象情報に基づいて、作家名名寄せ処理を実行する。そして、評価部214は、代表的作家、非代表的作家を識別する。
【0048】
次に、評価部214は、評価対象物の作品i、作家j、取引年次kに応じたパラメータ(αj,βk,γ,δjk,ζj,ηk,θjk,b)を価格理論値算出式(B)に代入して、価格を推定する。ここで、作家jは、識別した代表的作家、非代表的作家を用いる。更に、評価部214は、価格指数式(C)、(D)から導いた価格指数を算出することにより、作家の価格傾向を補完する。そして、評価部214は、推定した価格、作家の価格傾向を、ユーザ端末15の表示装置H13に出力する。
【0049】
図5は、多変量解析の分析結果の説明図である。ここでは、オークションの落札価格の実績値と価格理論値算出式(B)による理論値とを比較している。
図5(a)はPablo Picasso、
図5(b)はMarc Chagall、
図5(c)は草間彌生、
図5(d)はGerhard Richterの説明図である。価格推定の自由度調整済み決定係数は、(a:Pablo Picasso)は「0.8872」、(b:Marc Chagall)は「0.9568」、(c:草間彌生)は「0.8564」、(d:Gerhard Richter)は「0.9608」で、それぞれの良好な結果を示している。
【0050】
以上、本実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)本実施形態では、管理サーバ20の制御部21は、サイズ判定処理を実行する(ステップS12)。これにより、価格に影響を与える多様なサイズの美術品を、面積で規格化することができる。
【0051】
(2)本実施形態では、管理サーバ20の制御部21は、オリジナル判定処理を実行する(ステップS13)。オリジナル作品(1点もの)或いはコピー作品(版画等の複数枚同一作品があるもの)は、美術品の価格に影響を与える傾向が異なるので、識別して予測モデルを作成することができる。
【0052】
(3)本実施形態では、管理サーバ20の制御部21は、名寄せ処理を実行する(ステップS14)。これにより、表記の揺れ等により異なる名称で登録された同一作家を統一することができる。
【0053】
(4)本実施形態では、作家を、オークション取引の頻度に応じて、代表的作家と非代表的作家とに分ける。これにより、取引が少ない場合に、非代表的作家としてまとめて評価することができる。
【0054】
(5)本実施形態では、管理サーバ20の制御部21は、モデル作成処理を実行する(ステップS15)。これにより、作品、作家、取引年に応じた価格を推定する予測モデルを作成することができる。
【0055】
多次元制御変数行列Xiは、作品サイズ[号]を2乗した変数を用いる。これにより、非線形に価格が変化することを考慮することができる。
多次元制御変数行列Xiは、オークションで使用された通貨単位についてのダミー変数を用いる。これにより、通貨単位で、取引国の購買力を評価することができる。
【0056】
多次元制御変数行列Xiは、オークションで使用された通貨単位についてのダミー変数と取引年次ダミー変数T[k]iの交差項変数を用いる。これにより、交差項にすることで年次単位での国別の購買力を調整することができる。すなわち、取引場所(国)における参照基準(2000年)と取引時点(取引年次)の価格の差を、年次単位での国別の購買力として扱うことができる。
【0057】
多次元制御変数行列Xiは、取引時点の四半期ダミー変数を用いる。これにより、オークションは年間4回開催され、販売時期によって価格が変化することを考慮することができる。具体的には、同じ作品でも、第1四半期が最も安く、第3四半期が高くなる傾向に対応できる。
多次元制御変数行列Xiは、作品ジャンルのダミー変数を用いる。これにより、作品ジャンルに応じた価格に対応できる。
【0058】
(6)本実施形態では、管理サーバ20の制御部21は、価格指数の算出処理を実行する(ステップS16)。これにより、取引年次の取引実績がない場合であって、その取引年次のデータを補完するために用いることができる。
【0059】
(7)本実施形態では、管理サーバ20の制御部21は、価格推定処理を実行する(ステップS22)。これにより、定量的な手法により再現性のある美術品の対数価格を推定できる。その結果、美術品の取引時に信頼性の高い価格データを判断材料に使用することができる。また、本発明では、美術品の過去の価格から現在の価格が推定可能になる。すなわち、美術品の将来価格を推定することにもなるため、絵画を増価資産(投資対象)として検討することも可能になる。例えば、株式や債券等の他の金融商品を共に美術品を資産として保有する場合、金融商品とのリターンの優劣を比較することができる。また、美術品は金融市場で取引されている商品ではなく、異なる原理で価格が決まり値動きをするため、金融市場が急落した際に補完する効果を得られる可能性もある。
【0060】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態では、管理サーバ20の制御部21は、学習処理を説明する。この処理は、評価対象情報の取得時に行なってもよい。
【0061】
・上記実施形態では、美術品として絵画の価格を算出する場合を想定した。評価対象は、絵画に限定されず、彫刻等の他の美術品であってもよい。
・上記実施形態では、代表的作家は、過去20年間で40回以上のオークション取引が行なわれた作家とした。代表的作家として特定する作家は、これに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0062】
10…オークションサイト、15…ユーザ端末、20…管理サーバ、21…制御部、211…取得部、212…前処理部、213…作成部、214…評価部、22…取引実績記憶部、23…モデル情報記憶部。
【要約】
【課題】美術品の価格を、効率的かつ的確に算出するための価格推定システムを提供する。
【解決手段】価格推定システムは、作品識別子、作家名、属性、取引価格、取引日、取引通貨に関する情報を含めたオークション情報を記憶した取引実績記憶部22と、評価対象物の価格を算定する制御部21と、を備える。そして、制御部21が、オークション情報の属性から作品サイズを推定し、オークション情報の属性からオリジナル又はコピーを識別し、オークション情報の属性から作品ジャンルを特定し、対数価格線形回帰モデルのパラメータを最小2乗法で推定して、価格理論値算出式を算出する。
【選択図】
図1