(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】電力遮断装置
(51)【国際特許分類】
H02H 3/08 20060101AFI20241004BHJP
H02H 3/093 20060101ALI20241004BHJP
H02H 3/087 20060101ALI20241004BHJP
B60L 3/00 20190101ALI20241004BHJP
【FI】
H02H3/08 D
H02H3/093 D
H02H3/087
B60L3/00 S
(21)【出願番号】P 2021532698
(86)(22)【出願日】2020-05-13
(86)【国際出願番号】 JP2020019155
(87)【国際公開番号】W WO2021010007
(87)【国際公開日】2021-01-21
【審査請求日】2023-03-01
(31)【優先権主張番号】P 2019131530
(32)【優先日】2019-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】廣部 貴志
(72)【発明者】
【氏名】岡本 竜也
(72)【発明者】
【氏名】風間 俊
【審査官】辻丸 詔
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2018-0096985(KR,A)
【文献】特開平08-251907(JP,A)
【文献】特開2016-127769(JP,A)
【文献】特開平09-312172(JP,A)
【文献】国際公開第2016/185711(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0371392(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第106483846(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02H 3/08
H02H 3/093
H02H 3/087
B60L 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導通している接続状態と導通していない遮断状態とを有するスイッチ部を有するリレー部と、
前記リレー部の前記スイッチ部に直列に接続された、導通している接続状態と導通していない不可逆的遮断状態とを有する遮断部と、
前記遮断部に流れる被検出電流を第1検出期間に検出するように構成された電流検出部と、
前記リレー部と前記遮断部とを制御するように構成された制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記第1検出期間における前記被検出電流の時間に対する第1変化率を得て、
前記第1変化率が閾変化率よりも大きくないと判断した場合に前記リレー部の前記スイッチ部を前記接続状態にしかつ前記遮断部を前記接続状態にして、
前記第1変化率が前記閾変化率よりも大きいと判断した場合に、
前記遮断部を前記接続状態から前記不可逆的遮断状態に切替え、その後、前記リレー部を前記接続状態から前記遮断状態に切り替える、
ように構成されている、電力遮断装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記第1変化率が前記閾変化率よりも大きいと判断した場合に、前記被検出電流が前記リレー部における所定過電流閾値に到達する前に、前記リレー部を前記遮断状態にしかつ前記遮断部を前記不可逆的遮断状態にするように構成されている、請求項1に記載の電力遮断装置。
【請求項3】
前記制御部は前記閾変化率を予め記憶するように構成されており、
前記閾変化率は、前記被検出電流が過電流閾値よりも低い値において前記被検出電流が変動する場合での、時間に対する前記被検出電流の極小値から極大値までの上昇率に基づいて設定されている、請求項1に記載の電力遮断装置。
【請求項4】
前記制御部は前記閾変化率を予め記憶するように構成されており、
前記閾変化率は、前記被検出電流が過電流閾値よりも低い値において前記被検出電流が変動する場合での、駆動負荷へ電力供給しているときの前記被検出電流の変動率に基づいて設定されている、請求項1に記載の電力遮断装置。
【請求項5】
導通している接続状態と導通していない遮断状態とを有するスイッチ部を有するリレー部と、
前記リレー部の前記スイッチ部に直列に接続された、導通している接続状態と導通していない不可逆的遮断状態とを有する遮断部と、
第1検出期間と、前記第1の検出期間より後の第2検出期間とを含む複数の検出期間のそれぞれに前記遮断部に流れる被検出電流を検出するように構成された電流検出部と、
前記リレー部と前記遮断部とを制御するように構成された制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記第1検出期間における前記被検出電流の時間に対する第1変化率を得て、
前記第2検出期間における前記被検出電流の時間に対する第2変化率を得て、
前記第1変化率が閾変化率よりも大きくないと判断した場合に前記リレー部の前記スイッチ部を前記接続状態にしかつ前記遮断部を前記接続状態にして、
前記第1変化率と前記第2変化率とが前記閾変化率よりも大きいと判断した場合に前記リレー部を前記遮断状態にしかつ前記遮断部を前記不可逆的遮断状態にする、
ように構成されている、電力遮断装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記第1変化率が前記閾変化率よりも大きくかつ前記第2変化率が前記閾変化率よりも大きいと判断した場合に、前記被検出電流が前記リレー部における所定過電流閾値に到達する前に、前記リレー部を前記遮断状態にしかつ前記遮断部を前記不可逆的遮断状態にするように構成されている、請求項5に記載の電力遮断装置。
【請求項7】
前記制御部は前記閾変化率を予め記憶するように構成されており、
前記閾変化率は、前記被検出電流が過電流閾値よりも低い値において前記被検出電流が変動する場合での、時間に対する前記被検出電流の極小値から極大値までの上昇率に基づいて設定されている、請求項5に記載の電力遮断装置。
【請求項8】
前記制御部は前記閾変化率を予め記憶するように構成されており、
前記閾変化率は、前記被検出電流が過電流閾値よりも低い値において前記被検出電流が変動する場合での、駆動負荷へ電力供給しているときの前記被検出電流の変動率に基づいて設定されている、請求項5に記載の電力遮断装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記第1変化率と前記第2変化率とが前記閾変化率よりも大きいと判断した場合に前記遮断部を前記接続状態から前記不可逆的遮断状態に切替え、その後、前記リレー部を前記接続状態から前記遮断状態に切り替えるように構成されている、請求項5から8のいずれか一項に記載の電力遮断装置。
【請求項10】
前記制御部は、前記第1変化率と前記第2変化率との少なくとも一方が前記閾変化率よりも大きくないと判断した場合に前記リレー部の前記スイッチ部を前記接続状態にしかつ前記遮断部を前記接続状態にするように構成されている、請求項5から9のいずれか一項に記載の電力遮断装置。
【請求項11】
前記第2検出期間は前記第1検出期間に引き続く期間である、請求項5から10のいずれか一項に記載の電力遮断装置。
【請求項12】
前記電流検出部は、
前記第1検出期間での互いに異なる複数のタイミングで前記被検出電流の複数の第1値を検出し、
前記第2検出期間での互いに異なる複数のタイミングで前記被検出電流の複数の第2値を検出する、
ように構成されており、
前記制御部は、
前記被検出電流の前記複数の第1値に基づいて前記第1変化率を得て、
前記被検出電流の前記複数の第2値に基づいて前記第2変化率を得る、
ように構成されている、請求項5から11のいずれか一項に記載の電力遮断装置。
【請求項13】
前記複数の検出期間は連続している、請求項5から12のいずれか一項に記載の電力遮断装置。
【請求項14】
前記複数の検出期間の長さは互いに同じである、請求項5から12のいずれか一項に記載の電力遮断装置。
【請求項15】
導通している接続状態と導通していない遮断状態とを有するスイッチ部を有するリレー部と、
前記リレー部の前記スイッチ部に直列に接続された、導通している接続状態と導通していない不可逆的遮断状態とを有する遮断部と、
第1検出期間と、前記第1の検出期間より後の第2検出期間とを含む複数の検出期間のそれぞれに前記遮断部に流れる被検出電流を検出するように構成された電流検出部と、
前記リレー部と前記遮断部とを制御するように構成された制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記第1検出期間における前記被検出電流の時間に対する第1変化率を得て、
前記第2検出期間における前記被検出電流の時間に対する第2変化率を得て、
前記第1変化率が閾変化率よりも大きくないと判断した場合に前記リレー部の前記スイッチ部を前記接続状態にしかつ前記遮断部を前記接続状態にして、
前記第2変化率が前記第1変化率よりも大きくかつ前記第1変化率が前記閾変化率よりも大きいと判断した場合に前記リレー部を前記遮断状態にしかつ前記遮断部を前記不可逆的遮断状態にする、
ように構成されている、電力遮断装置。
【請求項16】
前記制御部は、前記第2変化率が前記第1変化率よりも大きくかつ前記第1変化率が前記閾変化率よりも大きいと判断した場合に、前記被検出電流が前記リレー部における所定過電流閾値に到達する前に、前記リレー部を前記遮断状態にしかつ前記遮断部を前記不可逆的遮断状態にするように構成されている、請求項15に記載の電力遮断装置。
【請求項17】
前記制御部は前記閾変化率を予め記憶するように構成されており、
前記閾変化率は、前記被検出電流が過電流閾値よりも低い値において前記被検出電流が変動する場合での、時間に対する前記被検出電流の極小値から極大値までの上昇率に基づいて設定されている、請求項15に記載の電力遮断装置。
【請求項18】
前記制御部は前記閾変化率を予め記憶するように構成されており、
前記閾変化率は、前記被検出電流が過電流閾値よりも低い値において前記被検出電流が変動する場合での、駆動負荷へ電力供給しているときの前記被検出電流の変動率に基づいて設定されている、請求項15に記載の電力遮断装置。
【請求項19】
前記制御部は、前記第2変化率が前記第1変化率よりも大きくかつ前記第1変化率が前記閾変化率よりも大きいと判断した場合に前記遮断部を前記接続状態から前記不可逆的遮断状態に切替え、その後、前記リレー部を前記接続状態から前記遮断状態に切り替えるように構成されている、請求項15から18のいずれか一項に記載の電力遮断装置。
【請求項20】
前記制御部は、前記第1変化率が前記閾変化率よりも大きくないと判断するまたは前記第2変化率が前記第1変化率よりも大きくないと判断した場合に前記リレー部を前記接続状態にしかつ前記遮断部を前記接続状態にするように構成されている、請求項15から19のいずれか一項に記載の電力遮断装置。
【請求項21】
前記第2検出期間は前記第1検出期間に引き続く期間である、請求項15から20のいずれか一項に記載の電力遮断装置。
【請求項22】
前記電流検出部は、
前記第1検出期間での互いに異なる複数のタイミングで前記被検出電流の複数の第1値を検出し、
前記第2検出期間での互いに異なる複数のタイミングで前記被検出電流の複数の第2値を検出する、
ように構成されており、
前記制御部は、
前記被検出電流の前記複数の第1値に基づいて前記第1変化率を得て、
前記被検出電流の前記複数の第2値に基づいて前記第2変化率を得る、
ように構成されている、請求項15から21のいずれか一項に記載の電力遮断装置。
【請求項23】
前記複数の検出期間は連続している、請求項15から22のいずれか一項に記載の電力遮断装置。
【請求項24】
前記複数の検出期間の長さは互いに同じである、請求項15から22のいずれか一項に記載の電力遮断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種車両に使用することができる電力遮断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の遮断装置では、蓄電池と車両駆動負荷との間の電力経路に通常の溶断ヒューズとリレーが接続されている。異常な大電流が電力経路に流れたときや、車両の衝突が検出されたとき、その電流により発生した熱によりヒューズが溶断されること、およびリレーが遮断状態へ切り換えられることによって、蓄電池と車両駆動負荷との電気的接続が遮断される。
【0003】
特許文献1は上記の遮断装置に類似の従来の遮断装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
本発明のある態様に係る電力遮断装置は、導通している接続状態と導通していない遮断状態とを有するスイッチ部を有するリレー部と、リレー部のスイッチ部に直列に接続された、導通している接続状態と導通していない不可逆的遮断状態とを有する遮断部と、遮断部に流れる被検出電流を検出するように構成された電流検出部と、リレー部と遮断部とを制御するように構成された制御部とを備える。制御部は、被検出電流の時間に対する変化率を得る。制御部は、前記遮断部を前記接続状態から前記不可逆的遮断状態に切替え、その後、前記リレー部を前記接続状態から前記遮断状態に切り替える。
本発明の他の態様に係る電力遮断装置は、導通している接続状態と導通していない遮断状態とを有するスイッチ部を有するリレー部と、前記リレー部の前記スイッチ部に直列に接続された、導通している接続状態と導通していない不可逆的遮断状態とを有する遮断部と、第1検出期間と、前記第1の検出期間より後の第2検出期間とを含む複数の検出期間のそれぞれに前記遮断部に流れる被検出電流を検出するように構成された電流検出部と、前記リレー部と前記遮断部とを制御するように構成された制御部とを備える。前記制御部は、前記第1検出期間における前記被検出電流の時間に対する第1変化率を得る。前記制御部は、前記第2検出期間における前記被検出電流の時間に対する第2変化率を得る。前記制御部は、前記第1変化率が閾変化率よりも大きくないと判断した場合に前記リレー部の前記スイッチ部を前記接続状態にしかつ前記遮断部を前記接続状態にする。前記制御部は、前記第1変化率と前記第2変化率とが前記閾変化率よりも大きいと判断した場合に前記リレー部を前記遮断状態にしかつ前記遮断部を前記不可逆的遮断状態にする。
本発明のさらに他の態様に係る電力遮断装置は、導通している接続状態と導通していない遮断状態とを有するスイッチ部を有するリレー部と、前記リレー部の前記スイッチ部に直列に接続された、導通している接続状態と導通していない不可逆的遮断状態とを有する遮断部と、第1検出期間と、前記第1の検出期間より後の第2検出期間とを含む複数の検出期間のそれぞれに前記遮断部に流れる被検出電流を検出するように構成された電流検出部と、前記リレー部と前記遮断部とを制御するように構成された制御部とを備える。前記制御部は、前記第1検出期間における前記被検出電流の時間に対する第1変化率を得る。前記制御部は、前記第2検出期間における前記被検出電流の時間に対する第2変化率を得る。前記制御部は、前記第1変化率が閾変化率よりも大きくないと判断した場合に前記リレー部の前記スイッチ部を前記接続状態にしかつ前記遮断部を前記接続状態にする。前記制御部は、前記第2変化率が前記第1変化率よりも大きくかつ前記第1変化率が前記閾変化率よりも大きいと判断した場合に前記リレー部を前記遮断状態にしかつ前記遮断部を前記不可逆的遮断状態にする。
【0006】
この電力遮断装置は小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は実施の形態における電力遮断装置の回路ブロック図である。
【
図2】
図2は実施の形態における電力遮断装置を搭載した車両の回路ブロック図である。
【
図3】
図3は実施の形態における電力遮断装置の動作特性を示す図である。
【
図4】
図4は実施の形態における電力遮断装置を搭載した車両の駆動負荷のブロック図である。
【
図5】
図5は実施の形態における電力遮断装置を搭載した車両の駆動負荷の電流を示す図である。
【
図6】
図6は実施の形態における電力遮断装置の他の動作特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1は実施の形態における電力遮断装置の回路ブロック図である。電力遮断装置1は、リレー部2と遮断部3と電流検出部4と制御部5とを含む。リレー部2と遮断部3とは直列に接続されている。電流検出部4は遮断部3に流れる被検出電流IDを検出期間ごとに検出する。また、電流検出部4は制御部5に接続されている。制御部5は、リレー部2と遮断部3に対して開閉の動作を制御するように構成されている。
【0009】
遮断部3は、制御部5から発信される遮断信号SG1を受信することによって、接続状態から不可逆的遮断状態へと切り替えられる。リレー部2は、制御部5から発信される遮断信号SG2を受信することによって、接続状態から遮断状態へと切り替えられる。ここで遮断信号SG1および遮断信号SG2は、被検出電流IDの検出期間における変化率が閾変化率CTよりも大きくなったと制御部5が判断したときに発せられる。
【0010】
以上の構成及び動作により、リレー部2および遮断部3に流れる被検出電流IDが許容値から大きな値へと変化する過渡期の初期段階で、被検出電流IDが大きな値となることを制御部5は判断することができる。そして被検出電流IDが大きな値となる事前に、リレー部2および遮断部3は接続状態から遮断状態へと切り替えられる。
【0011】
これにより、リレー部2における被検出電流IDが過剰に大きな値に達する前の段階で、リレー部2および遮断部3は遮断状態となり、リレー部2の接点に発生するアークと、アークの発生に伴う不完全な遮断状態の発生が抑制される。そして、被検出電流IDは大きな値となる事前に遮断されるので、リレー部2の動作信頼性を保証するためにリレー部2を大型化する必要は無く、結果として電力遮断装置1の小型化が可能となる。
【0012】
前述の従来の遮断装置では、短時間でヒューズが溶断されて電力を遮断するには非常に大きな電流が流れる。短時間でヒューズを溶断可能な大きな電流が流れる状態でリレーが正常に動作するためには、そのリレーは大きな電流容量を有する必要がある。リレーの電流容量が小さい場合、リレーに閾値よりも大きな電流が流れると、リレーの接点間に生じるアーク放電によりリレーが遮断状態とならず通電状態が継続することによってリレーの破損などが生じ、遮断装置の動作信頼性が低下する恐れがある。このため、遮断装置での遮断動作の信頼性を向上させるにはリレーの大型化が避けられない。
【0013】
それに対して、実施の形態における電力遮断装置1は上述のように小型化が可能となる。
【0014】
以下で、電力遮断装置1の構成および動作の詳細を説明する。
図2は電力遮断装置1を搭載した車両6の回路ブロック図である。
図3は電力遮断装置1の動作特性を示す。
【0015】
電力遮断装置1は、推進駆動に電力が用いられる車両6に搭載されていて車両6の車体7に配置されている。車体7には高電圧バッテリー8と駆動負荷9とが配置されている。高電圧バッテリー8は電力遮断装置1の入力端10に接続され、駆動負荷9は電力遮断装置1の出力端11に接続箱12を介して接続されている。電力遮断装置1は車両6に搭載されているが、電力遮断装置1は高電圧バッテリー8と駆動負荷9と共に電力遮断システムを構成していてもよい。
【0016】
車両6は上記のように推進駆動に電力が用いられることから、高電圧バッテリー8は数百ボルトから1000ボルト程度の直流高電圧を有する蓄電池である。また、駆動負荷9はインバータをはじめとする電力変換装置9Aや駆動用モータ9Bを含んでいる。接続箱12は高電圧バッテリー8の電力を、駆動負荷9以外の他の負荷にも電力供給を可能とするために分配する。
【0017】
リレー部2は、導通している接続状態と導通していない遮断状態とを有するスイッチ部2Sを有する。リレー部2は制御端2Cを有する。スイッチ部2Sは、制御端2Cで遮断信号SG2を受信していないときには接続状態となり、制御端2Cで遮断信号SG2が受信されていときには遮断状態となる。遮断部3は、制御端リレー部2のスイッチ部2Sに直列に接続された、導通している接続状態と導通していない不可逆的遮断状態とを有する遮断体3Aを有する。遮断部3は制御端3Cを有する。遮断体3Aは通常は接続状態になっているが、制御端3Cで遮断信号SG1を受信すると不可逆的遮断状態になる。電流検出部4は遮断部3の遮断体3Aに流れる被検出電流IDを検出する。
【0018】
車両6は搭乗者が起動操作部13を操作することによって駆動され始める。また、搭乗者が起動操作部13を操作することによって起動信号SV1が起動操作部13から制御部5へ発信される。制御部5は起動信号SV1を受信することによって、リレー部2を接続状態とする。リレー部2は機械的接点よりなるスイッチ部2Sを有する電磁開閉式リレー2Aや、電磁開閉式リレー2Aを開閉させるためのリレー回路2Bを含んでいてよい。また、半導体スイッチがリレーとして電磁開閉式リレー2Aに代えて用いられてもよい。
【0019】
遮断部3は車両6が起動される以前から定常的に接続状態となっている。後に動作については説明するが、遮断部3の遮断体3Aはパイロイグナイタのように遮断信号を外部から受信することに応じて遮断が実行され、その後は遮断状態が継続されて接続状態には戻らない不可逆的遮断状態となる。制御部5は、遮断体3Aを遮断させるための遮断回路3Bを含んでいてよい。
【0020】
遮断部3の遮断体3Aにパイロイグナイタが用いられる場合には、遮断回路3Bは制御部5から発せられた遮断信号SG1を制御端3Cで受信することによって遮断体3Aのパイロイグナイタの火工部の火薬を発火させるための回路である。そして、遮断体3Aの火工部が発火して爆発することに伴うエネルギーによって遮断部3の導体部が破壊され、遮断部3は遮断状態となる。
【0021】
また、遮断体3Aに、被検出電流IDで発生するジュール熱により溶断する溶断ヒューズが用いられる場合には、遮断回路3Bは遮断信号SG1を受信することによって遮断体3Aに冗長電流を供給する。
【0022】
言い換えると遮断部3には能動的ヒューズが用いられる。あるいは遮断部3は遮断部3を構成する要素全体が能動的ヒューズとして動作する。
【0023】
電力遮断装置1の状態や動作を以下に説明する。
図3は電力遮断装置1の動作特性を示す。
図3において、縦軸は遮断部3の遮断体3Aに流れる被検出電流IDを示し、横軸は時間を示す。
図3は、実施の形態における電力遮断装置1の被検出電流ID0を示す。
図3は、被検出電流IDが過電流閾値ITを超えたことを検出して遮断部が遮断される比較例の電力遮断装置の被検出電流ID1を併せて示す。
図3は、破線の直線で表された閾変化率CTを示す。過電流閾値ITは、車両6や車体7に短絡が生じた際に流れる電流に設定する。あるいは、過電流閾値ITは、車両6や車体7に短絡が生じた際に、特に高電圧バッテリー8に関連した短絡が生じた際に流れる電流の下限値に設定してもよい。
【0024】
電流検出部4には電流検出素子としてホール素子やシャント抵抗などが用いられ、遮断部3の遮断体3Aとリレー部2のスイッチ部2Sとに流れる被検出電流IDの電流値を検出し、電流値に対応した電気信号を制御部5へ発信する。本実施例では、電流検出部4はリレー部2と遮断部3との間に配置されているが、電流検出部4はリレー部2と入力端10との間に配置されていてもよい。あるいは、電流検出部4は遮断部3と出力端11との間に配置されていてもよい。
【0025】
図3の動作特性図における、タイミングT0で搭乗者によって起動操作部13が操作されることによって車両6が駆動され始める。その後、タイミングT1で短絡電流が発生する。タイミングT0からタイミングT1までの定常期間PT0では、車両6および電力遮断装置1が定常状態であり、電流検出部4で検出される被検出電流ID、ID1は共に定常値Icである、あるいは定常値Icの上下の許容範囲内で変動する値である。
【0026】
定常期間PT0では、被検出電流ID、ID1は共に定常値Icとして
図3においては直線で示されている。しかしながら定常状態であっても実際には駆動負荷9で消費される電力は常に変動しているため、定常値Icは脈流となっている。この一方で、定常値Icは脈流となっているものの、定常値Icと電力遮断装置1に短絡電流などの異常電流が流れた場合に、異常電流は電力遮断装置1の遮断の目安となる過電流閾値ITとは大きな隔たりがあり、定常値Icにおける脈流の極大値と極小値との差Ivnは、定常値Icと過電流閾値ITとの差に比較して非常に小さい。また、定常値Icにおける脈流の極大値から極小値への変動は短絡電流が発生した場合の電流の変動に比較してゆっくりと起こる。
【0027】
車両6が駆動されはじめると、電流検出部4による被検出電流IDの検出、および、被検出電流IDに対する制御部5での演算が始められる。被検出電流IDの検出と、被検出電流IDに対する演算と、演算結果と閾変化率CTとの比較と判断とは所定の長さ△Tを有する複数の検出期間のそれぞれに対して実行される。言い換えると、タイミングTbで検出された被検出電流IDの値IDbの、タイミングTaで検出された値IDaからの被検出電流IDの変化量をタイミングTa~Tbまでの検出期間PTabでの単位時間当たりの変化量である変化率CTabへと演算により変換する。変化率CTabは閾変化率CTと比較される。同様に、タイミングTcで検出された被検出電流IDの値IDcの、値IDbからの被検出電流IDの変化量をタイミングTb~Tcまでの検出期間PTbcでの変化率CTbcへと演算により変換する。変化率CTbcは閾変化率CTと比較される。タイミングTdで検出された被検出電流IDの値IDdの、値IDcからの被検出電流IDの変化量をタイミングTc~Tdまでの検出期間PTcdでの変化率CTcdへと演算により変換する。変化率CTcdは閾変化率CTと比較される。このように、電流検出部4は、複数の検出期間PTab、PTbc、PTcdのそれぞれに被検出電流IDを検出するように構成されている、電流検出部4は、検出期間PTbcでの互いに異なる複数のタイミングTb、Tcで被検出電流IDの複数の値IDb、IDcを検出し、検出期間PTcdでの互いに異なる複数のタイミングTc、Tdで被検出電流IDの複数の値IDc、IDdを検出するように構成されている。制御部5は、被検出電流IDの複数の値IDb、IDcに基づいて変化率CTbcを得て、被検出電流IDの複数の値IDc、IDdに基づいて変化率CTcdを得るように構成されている。複数の検出期間PTab、PTbc、PTcdの長さは互いに同じ長さΔTであってもよく、互いに異なっていてもよい。
【0028】
タイミングT0からタイミングT1までの定常状態の定常期間PT0では、被検出電流IDは概ね変化しない。あるいは、定常期間PT0では、被検出電流IDの変動は短絡電流などの異常電流が流れた場合の被検出電流IDの変化に比較して非常に小さい。このため、変化率CTabはほぼ0となる。このため、変化率CTabは閾変化率CTとの比較結果で、変化率CTabは閾変化率CTよりも小さいと制御部5は判断する。そして、制御部5は遮断信号SG1および遮断信号SG2を発信しないで、定常状態を継続させる。このように、制御部5は、変化率CTabが閾変化率CTよりも大きくないと判断した場合にリレー部2のスイッチ部2Sを接続状態にしかつ遮断部3を接続状態にする。
【0029】
ここで、定常期間PT0での被検出電流IDについて詳述する。過電流閾値ITよりもはるかに小さな値で生じることとなる定常値Icにおける被検出電流IDの脈流の極大値から極小値への変動は、短絡電流が発生する場合の電流変動に比較して先にも述べたようにゆっくりと起こることから、定常値Icにおいて通常に生じる脈流の極大値から極小値への単位時間当たりの変化量である上昇率に、制御部5が比較判定する際に用いる閾変化率CTを設定してもよい。あるいは、定常値Icにおいて想定され得る最大の極大値と、想定され得る最小の極小値と、これらの極大値と極小値が想定され得る短時間の間で生じた際の単位時間当たりの変化量である上昇率に閾変化率CTを設定してもよい。
【0030】
さらに上記で求めた単位時間当たりの変化量である上昇率に1より大きい定数を乗じた、余裕度の大きな値の閾変化率CTが設定されてもよい。いいかえると、閾変化率CTは車両が正常な状態で動作する場合での、被検出電流IDが最も急に上昇するときの単位時間当たりの変化量である上昇率を用いて決定する。これにより、以下で説明する短絡が生じた際の異常状態と、定常状態とを制御部5は明確にかつ容易に判定できる。
【0031】
ここで、閾変化率CTは予め制御部5の記憶回路などに与えられた値として予め記憶されていてもよい。あるいは、閾変化率CTは予め制御部5の記憶回路などに予め記憶された値から、車両6が起動するごとに定常状態での被検出電流IDの変動により随時更新されてもよい。
【0032】
一例として閾変化率CTの決定について説明する。
図4は電力遮断装置1を搭載した車両6の駆動負荷9のブロック図である。
図5は駆動負荷9に流れる電流I9を示す。先にも述べたように、車両6が推進駆動に電力を用いる場合、駆動負荷9には電力遮断装置1を通じて高電圧バッテリー8から直流の電圧が印加される。そして高電圧バッテリー8の直流電圧を電力変換装置9Aが交流電圧V9Fへと変換し、交流電圧V9Fにより駆動用モータ9Bが駆動される。
【0033】
ここで、電力変換装置9Aには、電力変換用に高電位側に接続された上側アームスイッチ9Cと、低電位側に接続された下側アームスイッチ9Dとが配置されている。また、電力変換装置9Aの導体に存在する誘導成分9Eが配置されている。ここでは説明の便宜上で誘導成分9Eが電力変換装置9Aの集中定数の1つの部品として記載されているが、厳密には誘導成分9Eは電力遮断装置1をはじめとして、電力遮断装置1と高電圧バッテリー8とを接続する導体部8Aや導電路14など、すべての導体部分に分散して配置されている。また、駆動用モータ9Bは、上側アームスイッチ9Cと下側アームスイッチ9Dとの接続点9Jに接続されている。そして駆動用モータ9Bの巻線部9Fが駆動用モータ9Bにおける回路上の負荷として接続されている。
【0034】
電力変換装置9Aから駆動用モータ9Bへ供給される交流電圧V9Fは実際の波形としては
図5に示す滑らかな正弦波R1ではなく、正弦はR1を中心に上昇と下降とが繰り返される脈動が連続した波形となる。上記の脈動での上昇期間と下降期間とは、上側アームスイッチ9Cと下側アームスイッチ9Dとのそれぞれのオン時間とオフ時間との比率で決定される。また上側アームスイッチ9Cと下側アームスイッチ9Dとのそれぞれのオン時間とオフ時間とは、車両6に設けられた駆動制御部15から発せられる例えばPWM(パルス幅変調)信号に同期して制御される。
【0035】
電力変換装置9Aから駆動用モータ9Bへ電力が正常に供給されていて、実線で示した脈流が電流波形として示される場合、上昇期間の傾きである変化率CT0は、高電圧バッテリー8の電圧Vと、巻線部9Fと誘導成分9Eのインダクタンスの総和L1により、CT0=di/dt=V/L1として求められる。ここで、巻線部9Fのインダクタンスは10mH水準の値であり、一方で誘導成分9Eのインダクタンスは10μH水準の値であるため、計算の上で誘導成分9Eは無視される。その結果、電力変換装置9Aから駆動用モータ9Bへ電力が正常に供給されているときに検出されることが可能な電流の上昇期間の傾きの値、言い換えると検出されることが可能な電流の上昇率すなわち上昇率CT0の値は、概ねV/L1=0.05A/μsecとなる。
【0036】
上記の正常な状態に対して、電力変換装置9Aからの電力が駆動用モータ9Bへ供給されずに、例えば導電路14において短絡が発生した場合、短絡によって電流は急上昇することとなる。このときの電流上昇の傾きである変化率CT1は、高電圧バッテリー8の電圧Vと誘導成分9EのインダクタンスL2により、CT1=di/dt=V/L2として求められる。誘導成分9Eのインダクタンスは10μH水準の値であるため、電力変換装置9Aや電力遮断装置1に流れる電流の上昇期間の傾きである上昇率すなわち変化率CT1の値は、概ねV/L2=50A/μsecとなる。
【0037】
このように、正常に電力が駆動負荷9に供給された場合と、短絡電流がながれた場合とでは10の3乗水準の差異が生じる。このため、閾変化率CTは通常の動作時に検出される変化率CT0(=V/L1)に基づいて設定されてもよい。いいかえると、閾変化率CTは、駆動負荷9に電力が供給されているときに検出される変化率CT0(=V/L1)に基づいて設定されてもよい。
【0038】
あるいは、閾変化率CTは短絡事故などの緊急事態を想定した異常時の変化率CT1(=V/L1)に基づいて設定されてもよい。いいかえると、閾変化率CTは、概ね誘導成分9Eのみに電力が供給されているときに検出される変化率CT1(=V/L1)に基づいて設定されてもよい。
【0039】
このため、閾変化率CTは変化率CT0(=V/L1)から変化率CT1(=V/L2)までの広い範囲の間の任意の値として設定することが可能である。例えば、短絡に対して過剰に感度が高く誤判定を行わないようにするために、閾変化率CTは誘導成分9Eのみが負荷となる場合の変化率CT1の10分の1程度の値で、上記の例に当てはめると5A/μsec程度に設定してもよい。あるいは、人体に対して短時間での悪影響の上限直流電圧とされる概ね60Vを目安として電圧V1を設定し、V1/L2として求められる値を閾変化率CTとして設定してもよい。上記の例では誘導成分9Eのインダクタンスは計算の便宜上で10μHとしたが、当然ながら適切な値が与えられることが望ましい。いいかえると、閾変化率CTは誘導成分9Eのインダクタンスに基づいて設定されてもよい。
【0040】
ここで、電流検出部4はリレー部2と入力端10との間に配置されることがのぞましい。これにより、短絡が発生する領域の対象を広げることができ、電力遮断装置1の動作信頼性は向上する。
【0041】
図3を参照しての電力遮断装置1の動作の説明に戻る。次に、タイミングT1で、車両6が衝突事故などの何らかの理由で、駆動負荷9や導電路14が短絡や地絡を起こし、定常値Icから急増し続けて異常電流Iaまで直線状の傾きを有して変化した場合、タイミングTbにおける値IDbからタイミングTcにおける値IDcへと被検出電流IDが変化する。言い換えると、定常状態であるタイミングTbから、異常状態となったタイミングTcまでに被検出電流IDが大幅に上昇する。そしてこれまでと同様に、タイミングTcでの値IDcのタイミングTbの値IDbからの被検出電流IDの変化量を単位時間当たりの変化量である変化率CTbc(=IDc-IDb)/△T)へと演算して変換する。そして、制御部5は変化率CTbcを閾変化率CTと比較する。
【0042】
図3に示すように、変化率CTbcを示す二点鎖線は閾変化率CTを示す破線よりも傾きが大きく、制御部5は変化率CTbcが閾変化率CTよりも大きいと判断する。すると、制御部5は遮断信号SG1を遮断部3へ発信し、遮断信号SG2をリレー部2へと発信する。遮断部3は遮断信号SG1を受信することによって、遮断体3Aが接続状態から不可逆的遮断状態へと切り替わる。そして、リレー部2は遮断信号SG2を受信することによって、スイッチ部2Sが接続状態から遮断状態へと切り替わる。
図3においては、タイミングT2においてリレー部2および遮断部3が遮断状態となり、電力遮断装置1が高電圧バッテリー8からの放電経路を遮断する。ここでは図示の便宜上、異常電流Iaへの変化および被検出電流IDの変化率が閾変化率CTよりも大きくなったことを検出したタイミングTcからタイミングT2までは時間差があるが、タイミングTcはタイミングT2と概ね同時であってもよい。厳密には、制御部5における処理時間や遮断部3での遮断完了速度により、タイミングT2はタイミングTcの後になる。
【0043】
なお、制御部5は変化率CTbcが閾変化率CTよりも大きいと判断しないと、遮断信号SG1、SG2のいずれも発信しない。
【0044】
以上の動作により、リレー部2および遮断部3に流れる被検出電流IDが許容値から大きな値へと変化する過渡期における初期段階の被検出電流IDの値が小さな時点で、後に被検出電流IDが大きな値の過電流状態となることを制御部5は判断することができる。そして被検出電流IDが大きな値となる事前に、リレー部2および遮断部3は接続状態から遮断状態へと切り替えられる。
【0045】
これにより、リレー部2における被検出電流IDが過剰に大きな値に達する前の段階で、リレー部2および遮断部3は遮断状態となり、リレー部2のスイッチ部2Sの接点に発生するアークの発生と、そのアークの発生に伴う不完全な遮断状態の発生が抑制される。そして、被検出電流IDは大きな値となる事前に遮断されるので、リレー部2の動作信頼性を保証するために短絡耐量電流ISを大きな値とする必要はない。そして、これに伴いリレー部2を大型化する必要は無く、結果として電力遮断装置1の小型化が可能となる。
【0046】
図3は、過電流閾値ITを超越したことを検出したうえで遮断部が遮断状態となる比較例の電力遮断装置の被検出電流ID1を示す。被検出電流ID1では、タイミングTeで被検出電流ID1が過電流閾値ITを超越したことが検知されて遮断部の遮断の動作が始まり、タイミングT3で遮断が完了する。この場合、タイミングTzで被検出電流ID1が過電流閾値ITを超越し、短絡耐量電流ISに接近することとなるため、リレー部2の動作信頼性を保証するために短絡耐量電流ISを大きな値とし、これに伴いリレー部2を大型化する必要が生じてしまう。
【0047】
これに対し、本実施例の電力遮断装置1は、被検出電流IDが過電流閾値ITに至ったことを検出することなく、被検出電流IDがタイミングTd以降のタイミングで過電流が生じることをタイミングTdにおいて予測し、判断することができる。これは、被検出電流IDの変化率CTbcが閾変化率CTよりも大きくなったことを電流検出部4と制御部5とが検出し判断することによって、被検出電流IDがタイミングTd以降で過電流閾値ITを超越することをタイミングTzより事前のタイミングTdで制御部5が判断できることによるものである。このため、先に述べた電力遮断装置1の小型化が可能となることに加えてさらに、異常発生のタイミングであるタイミングT1から遮断が完了するタイミングT2までの時間を比較例の電力遮断装置よりも大幅に短縮でき、車両6の安全状態への保全が短時間で可能にする。
【0048】
制御部5が遮断信号SG1と遮断信号SG2とをリレー部2と遮断部3とへ発信したときには、まず遮断部3が接続状態から不可逆的遮断状態へと切り替えられ、その後でリレー部2が接続状態から遮断状態へと切り替えられることが好ましい。ここで、遮断信号SG1と遮断信号SG2とは同時に発信されても、遮断信号SG1が遮断信号SG2より先に発信されてもいずれであってもよい。そして、遮断部3には遮断体3Aとしてリレー部2に比較して遮断速度が速いパイロイグナイタのような能動ヒューズが用いられることが好ましい。
【0049】
リレー部2よりも、遮断信号SG1によって遮断部3が先に遮断されることにより、遮断部3が遮断された時点で仮に遮断部3にアーク放電が発生しても電力遮断装置1の入力端10と出力端11との間の直流抵抗は上昇し、電流値は低下することとなる。そして、電流値が低下したうえでリレー部2が遮断される。このため、仮にリレー部2に機械的接点を有するスイッチ部2Sを備えた電磁開閉式リレー2Aが用いられている場合であっても、機械的接点の開放時にアーク放電が発生することが抑制される。
【0050】
これにより、電力遮断装置1において、リレー部2の接点に発生するアークと、アークの発生に伴う不完全な遮断状態の発生が一層抑制される。このため、リレー部2の動作信頼性を保証するために短絡耐量電流ISを大きな値とする必要はない。そして、これに伴いリレー部2を大型化する必要は無く、結果として電力遮断装置1の小型化が可能となる。そして同時に電力遮断装置1の動作信頼性は向上する。
【0051】
図6は実施の形態における電力遮断装置1の他の動作特性を示す。
図6において、
図3と同じ要素には同じ参照符号を付す。異常電流Iaの発生と、異常電流Iaの検出を用いた過電流状態に対する判断には、先に述べた被検出電流IDの変化率CTbcに加えて変化率CTcdが用いられてもよい。
図3に示す動作では、被検出電流IDのタイミングTbからタイミングTcまでの検出期間PTbcにおける変化率CTbcが閾変化率CTよりも大きくなったことを制御部5が判断することで、後に被検出電流IDが大きな値の過電流状態となることを制御部5は判断する。
【0052】
図6に示す動作では、電流検出部4はタイミングTdで被検出電流IDの値IDdを検出する。検出期間PTbcにおける変化率CTbc(=(IDc-IDb)/△T)が閾変化率CTよりも大きくなったことと、検出期間PTbcの後に続く、被検出電流IDのタイミングTcからタイミングTdまでの検出期間PTcdにおける変化率CTcd(=(IDd-IDc)/△T)が閾変化率CTよりも大きいことを検出期間PTbcと連続して制御部5が判断することで、後に被検出電流IDが大きな値の過電流状態となると制御部5は判断する。そして、連続して制御部5が、後に被検出電流IDが大きな値の過電流状態となることを連続して判断したことによって、制御部5は遮断信号SG1および遮断信号SG2とを発信する。そしてタイミングTdの直後のタイミングT2で、リレー部2を接続状態から遮断状態にし、遮断部3を接続状態から不可逆的遮断状態にして、電力遮断装置1が高電圧バッテリー8からの放電経路を遮断する。
【0053】
この動作では、制御部5は、変化率CTbc、CTcdの少なくとも一方が閾変化率CTよりも大きくないと判断した場合にリレー部2のスイッチ部2Sを接続状態にしかつ遮断部3を接続状態のままに維持する。
【0054】
これにより、偶発的な検出異常や演算の異常による誤判定を抑制することができるので、電力遮断装置1の動作信頼性は向上する。ここでは、検出期間PTbcにおける変化率CTbcと、検出期間PTbcに続く検出期間PTcdでの変化率CTcdと、が制御部5は閾変化率CTよりも大きいか否かを判断する。実施の形態における電力遮断装置1は、電流検出部4がタイミングTeで被検出電流IDの値IDeを検出し、検出期間PTcdに続くタイミングTdからタイミングTeまでの検出期間PTdeでの変化率CTde(=(IDe-IDd)/△T)や、さらに続く検出期間での変化率を制御部5は閾変化率CTと比較して判断に用いてもよい。そして、それらの変化率に至る複数の検出期間における変化率の全てが閾変化率CTよりも大きくなったことを連続して制御部5が判断することで、後に被検出電流IDが大きな値の過電流状態となることを制御部5は判断し、リレー部2と遮断部3とを遮断状態にしてもよい。
【0055】
実施の形態における電力遮断装置1のさらに他の動作を説明する。
図4に示すように、検出期間PTbcにおける被検出電流IDの変化率CTbc(=(IDc-IDb)/△T)が閾変化率CTよりも大き
くかつ、検出期間PTbcの後に続く検出期間PTcdにおける被検出電流IDの変化率CTcd(=(IDd-IDc)/△T)が変化率CTbcよりも大きいと制御部5が判断することで、後に被検出電流IDが大きな値の過電流状態となることを制御部5は判断する。そして、連続して制御部5が、後に被検出電流IDが大きな値の過電流状態となることを連続して判断したことによって、制御部5は遮断信号SG1および遮断信号SG2とを発信する。これにより、リレー部2は遮断状態となり、遮断部3は不可逆的遮断状態となる。
【0056】
制御部5は、変化率CTbcが閾変化率CTよりも大きくないと判断するまたは変化率CTcdが変化率CTbcよりも大きくないと判断した場合にリレー部2を接続状態にしかつ遮断部3を接続状態にする。
【0057】
図3および
図6に示すように、直線の傾きからも明らかなように変化率CTbc、CTcdは共に閾変化率CTよりも大きい。ここで、変化率CTcdは(IDc-IDb)/△Tとして被検出電流IDの検出と制御部5による演算によって求められる。先にも述べた、定常値Icから異常電流Iaへと被検出電流IDが急増するタイミングT1は、必ずしも所定の期間△T毎に設定されている被検出電流IDの検出のタイミングTa~Te、…
とは一致しない。この一方で、演算を行ううえでの電流値の起点であるタイミングTcが、所定の期間△T毎に設定されている検出のタイミングの一つであるタイミングTcと一致する。
【0058】
このため、一般的に変化率CTbcは被検出電流IDが正しく検出され、制御部5で正しく演算されていても、変化率CTcdよりも小さい。言い換えると、変化率CTbcが変化率CTcdよりも大きい場合には、偶発的な検出異常や演算の異常による誤判定が生じている可能性がある。したがって、変化率CTbcが変化率CTcdよりも小さいことで、後に被検出電流IDが大きな値の過電流状態となることを制御部5は判断する基準とすることにより、偶発的な検出異常や演算の異常による誤判定を抑制することができるので、電力遮断装置1の動作信頼性は向上する。
【0059】
ここでは、検出期間PTbcでの変化率CTbcと、検出期間PTbcに続く検出期間PTcdでの変化率CTcdとが制御部5における判断に用いられるが、検出期間PTcdに続く検出期間PTdeでの変化率CTdeや、さらにその後の検出期間での変化率が、制御部5における判断に用いられてもよい。すなわち、変化率CTdeやその後の変化率に至る複数の検出期間における変化率の値が変化率CTbcよりも大きいことを連続して制御部5が判断することで、後に被検出電流IDが大きな値の過電流状態となることを制御部5は判断し、遮断信号SG1、SG2を発信してリレー部2を接続状態から遮断状態に切替え、遮断部3を接続状態から不可逆的遮断状態に切り替えてもよい。
【0060】
また、先に述べた変化率CTbc、CTcdが連続して閾変化率CTよりも大きくなったことで後に被検出電流IDが大きな値の過電流状態となることを制御部5が判断する動作と、変化率CTbcが変化率CTcdよりも小さいことで後に被検出電流IDが大きな値の過電流状態となることを制御部5が判断する動作との双方が実施されてもよい。すなわち、変化率CTbc、CTcdが閾変化率CTよりも大きくかつ変化率CTbcが変化率CTcdよりも小さい場合に、制御部5は遮断信号SG1、SG2を発信してリレー部2を接続状態から遮断状態に切替え、遮断部3を接続状態から不可逆的遮断状態に切り替えてもよい。この場合には、変化率CTbc、CTcdが閾変化率CTよりも大きくないまたは変化率CTbcが変化率CTcdよりも小さくない場合には、制御部5は遮断信号SG1、SG2を発信せずにリレー部2と遮断部3とを接続状態に維持する。これにより、偶発的な検出異常や演算の異常による誤判定を一層抑制することができるので、電力遮断装置1の動作信頼性は向上する。
【符号の説明】
【0061】
1 電力遮断装置
2 リレー部
2A 電磁開閉式リレー
2B リレー回路
3 遮断部
3A 遮断体
3B 遮断回路
4 電流検出部
5 制御部
6 車両
7 車体
8 高電圧バッテリー
8A 導体部
9 駆動負荷
9A 電力変換装置
9B 駆動用モータ
9C 上側アームスイッチ
9D 下側アームスイッチ
9E 誘導成分
9F 巻線部
9J 接続点
10 入力端
11 出力端
12 接続箱
13 起動操作部
14 導電路
15 駆動制御部