(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】品質推定装置および方法
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/04 20120101AFI20241004BHJP
【FI】
G06Q50/04
(21)【出願番号】P 2021566785
(86)(22)【出願日】2020-06-29
(86)【国際出願番号】 JP2020025488
(87)【国際公開番号】W WO2021131108
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-05-18
(31)【優先権主張番号】P 2019238683
(32)【優先日】2019-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100135703
【氏名又は名称】岡部 英隆
(74)【代理人】
【識別番号】100199314
【氏名又は名称】竹内 寛
(72)【発明者】
【氏名】市村 大治郎
(72)【発明者】
【氏名】沖本 純幸
(72)【発明者】
【氏名】秦 秀彦
(72)【発明者】
【氏名】嶺岸 瞳
(72)【発明者】
【氏名】多鹿 陽介
【審査官】久宗 義明
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-318263(JP,A)
【文献】特開2005-284650(JP,A)
【文献】国際公開第2019/202700(WO,A1)
【文献】特開2008-165832(JP,A)
【文献】特開2000-012640(JP,A)
【文献】特開2017-045143(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の単位物品が少なくとも1つの工程のための複数の設備を用いて得られる品質に関する情報を生成する品質推定装置であって、
各単位物品を得る際の工程においてそれぞれ経由した設備と、得られた単位物品の品質とを関連付けた品質管理データを格納する記憶部と、
前記記憶部に格納された品質管理データに基づく演算処理を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、
前記品質管理データから、前記単位物品毎に経由した設備の組み合わせと当該単位物品の品質とを示す経由情報を複数、抽出し、
抽出した複数の経由情報に基づいて、前記
経由情報毎に立式される連立方程式において前記複数の設備の各々の品質を示す数値解を求める演算処理により前記複数の設備のうちの一の設備当たりの品質を示す設備品質情報を生成し、
前記複数の経由情報の各単位物品が経由する工程であって、且つ前記数値解において前記設備の品質が所定値を含まない工程の個数が少ないほど高精度となるように、前記設備品質情報の推定精度を判定する
品質推定装置。
【請求項2】
前記単位物品は、複数の工程において各々の設備を経由して得られ、
前記制御部は、
前記単位物品が特定の設備を経由した時期を取得し、
取得した時期を基準とする所定期間内に前記単位物品が前記特定の設備と同じ工程のための設備を経由した複数の経由情報を抽出して、前記特定の設備に関する設備品質情報を生成する
請求項1に記載の品質推定装置。
【請求項3】
前記設備品質情報は、前記複数の単位物品における特定の単位物品が経由した組み合わせにおける各設備の品質を示す
請求項1
または2に記載の品質推定装置。
【請求項4】
前記設備品質情報は、所定期間における時系列に沿った特定の設備の品質を示す
請求項1
または2に記載の品質推定装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記設備の個数よりも多い複数の経由情報を抽出して、前記設備品質情報を生成する
請求項1~
4のいずれか1項に記載の品質推定装置。
【請求項6】
前記単位物品は、前記複数の設備においてロット毎に生産される製品であり、
前記設備品質情報は、前記一の設備当たりの歩留を示す
請求項1~
5のいずれか1項に記載の品質推定装置。
【請求項7】
複数の単位物品が少なくとも1つの工程のための複数の設備を用いて得られる品質に関する情報を生成する品質推定方法であって、
コンピュータの制御部が、
各単位物品を得る際の工程においてそれぞれ経由した設備と、得られた単位物品の品質とを関連付けた品質管理データから、前記単位物品毎に経由した設備の組み合わせと当該単位物品の品質とを示す経由情報を複数、抽出するステップと、
抽出した複数の経由情報に基づ
いて前記経由情報毎に立式される連立方程式において前記複数の設備の各々の品質を示す数値解を求める演算処理により、前記複数の設備のうちの一の設備当たりの品質を示す設備品質情報を生成するステップと、
前記複数の経由情報の各単位物品が経由する工程であって、且つ前記数値解において前記設備の品質が所定値を含まない工程の個数が少ないほど高精度となるように、前記設備品質情報の推定精度を判定するステップと
を含む品質推定方法。
【請求項8】
請求項
7に記載の品質推定方法をコンピュータの制御部に実行させるためのプログラム。
【請求項9】
前記制御部は、前記複数の設備のうちの一部又は全体の設備についての前記設備品質情報に基づき、前記推定精度を判定する
請求項1に記載の品質推定装置。
【請求項10】
前記制御部は、前記複数の設備のうちの一群の設備についての前記設備品質情報に基づき、前記一群の設備についての前記設備品質情報が示す品質と所定の基準値とを比較することによって、前記推定精度を判定する
請求項1に記載の品質推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、品質推定装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、複数の処理工程の各々について複数個の製造設備の何れかを用いて製品を製造する製造システムにおいて、製品の品質低下の原因となる製造設備を推定するための異常設備推定装置を開示している。異常設備推定装置は、製品の識別情報ごとに品質検査結果と製造設備の識別情報とを対応付けた解析データを作成する。異常設備推定装置は、決定木分析手法を用いて解析データの分類を行い、作成された決定木の下位ノードによる分類が、その上位ノードによる分類に与える影響度を算出する。このように、各ノードに割り当てられた製造設備が品質低下に与える影響度を算出することによって、製品の品質低下の原因となる製造設備を推定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、複数の単位物品が複数の設備を用いて得られる際の品質において、設備当たりの品質を精度良く推定することができる品質推定装置および方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様の品質推定装置は、複数の単位物品が少なくとも1つの工程のための複数の設備を用いて得られる品質に関する情報を生成する。品質推定装置は、記憶部と、制御部とを備える。記憶部は、各単位物品を得る際の工程においてそれぞれ経由した設備と、得られた単位物品の品質とを関連付けた品質管理データを格納する。制御部は、記憶部に格納された品質管理データに基づく演算処理を制御する。制御部は、品質管理データから、単位物品毎に経由した設備の組み合わせと当該単位物品の品質とを示す経由情報を複数、抽出する、制御部は、抽出した複数の経由情報に基づいて、演算処理により複数の設備のうちの一の設備当たりの品質を示す設備品質情報を生成する。
【0006】
これらの概括的かつ特定の態様は、システム、方法、及びコンピュータプログラム、並びに、それらの組み合わせにより、実現されてもよい。
【発明の効果】
【0007】
本開示における品質推定装置および方法によると、複数の単位物品が複数の設備を用いて得られる際の品質において、設備当たりの品質を精度良く推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の実施形態1に係る品質推定装置の概要を説明するための図
【
図3】品質推定装置における機能的構成を示す機能ブロック図
【
図4】品質推定装置における品質管理データのデータ構造を例示する図
【
図5】実施形態1における品質推定装置の動作を例示するフローチャート
【
図6】品質推定装置における低歩留ロット検出部の表示例を示す図
【
図7】品質推定装置におけるボトルネック設備判定部の表示例を示す図
【
図8】品質推定装置における時系列分析部の表示例を示す図
【
図10】実施形態1の品質推定装置における設備歩留の分析の処理を例示するフローチャート
【
図11】実施形態1の品質推定装置における時系列分析の処理を例示するフローチャート
【
図12】設備歩留の推定方法の数値シミュレーションを説明した図
【
図13】実施形態2の品質推定装置における設備歩留の分析の処理を例示するフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、適宜図面を参照しながら、実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
【0010】
なお、出願人は、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。
【0011】
(実施形態1)
以下、本開示の実施形態1について、図面を参照しながら説明する。
【0012】
1.構成
1-1.概要
図1は、本実施形態に係る品質推定装置2の概要を説明するための図である。本実施形態の品質推定装置2は、例えば、電子部品などの製品を数万個といったロット単位で生産する工場設備において、管理者等のユーザ1が品質を管理するためのデータ分析に適用される。工場設備は、例えば複数のロットを同時並行で生産するための複数の設備Ea-1~Ec-nを含む。ロット単位の製品は、本実施形態における単位物品の一例である。
【0013】
図1では、各ロットの製品を生産する一連の工程Sa~Scと、その後に最終的な検査工程Szとがある場合を例示している。本例において、複数の設備Ea-1~Ec-nは3つの工程Sa,Sb,Scに区分される。各々の工程Sa,Sb,Scの設備Ea-1~Ea-n,Eb-1~Eb-n,Ec-1~Ec-nは、例えば工程Sa,Sb,Sc毎に同様の処理を行うように、1つ又は複数の工場に設けられる。なお、工程の数、及び設備の数は特に限定されず、例えば工程毎の設備の個数は、異なってもよい。以下、設備Ea-1~Ec-nの総称を「設備E」という場合がある。
【0014】
複数のロットには、工程Sa,Sb,Sc毎に様々な設備Eの組み合わせが用いられる。例えば、
図1の例において特定のロットLは、工程Saを設備Ea-2で処理され、工程Sbを設備Eb-1で処理され、工程Scを設備Ec-nで処理される。その後、最終の検査工程Szにおいては、種々の検査項目により、特定のロットLの製品において不良品を除いた分の割合である最終歩留が計測される。最終歩留などの各ロットを管理する各種情報を含んだロット管理データD1は、逐次収集されて蓄積される。ロット管理データD1は、本実施形態における品質管理データの一例である。
【0015】
以上のような工場設備においては、最終歩留の低下が検査工程Szで発覚した場合に、管理者等が対策を講じるために、検査工程Szに到るまでの途中の工程Sa~Scにおいて品質低下の原因となった設備を特定したいといった要求がある。しかしながら、従来技術によると、例えば決定木分析手法を用いて下位ノードから上位ノードへの影響として設備が最終の不良率に与えると推定される影響度が算出されるに過ぎず(特許文献1参照)、個々の設備Eの歩留自体を直接的に推定することが困難であった。
【0016】
これに対して、本実施形態では、ロット管理データD1に基づいて、各々の設備E当たりの歩留すなわち設備歩留を直接推定できる品質推定装置2を提供する。これにより、設備E毎の品質が精度良く推定され、ユーザ1は、品質推定装置2から得られる設備E毎の設備歩留に応じて、例えば設備Ea-1~Ec-n間に優先順位を付けてメンテナンス等を行うなど、有効な対策を講じることができる。
【0017】
1-2.品質推定装置の構成
本実施形態における品質推定装置2の構成について、
図2~4を参照して説明する。
図2は、品質推定装置2の構成を例示するブロック図である。
【0018】
品質推定装置2は、例えばPCなどの情報処理装置で構成される。
図2に例示する品質推定装置2は、制御部20と、記憶部21と、操作部22と、表示部23と、機器インタフェース24と、ネットワークインタフェース25とを備える。以下、インタフェースを「I/F」と略記する。
【0019】
制御部20は、例えばソフトウェアと協働して所定の機能を実現するCPU又はMPUを含み、品質推定装置2の全体動作を制御する。制御部20は、記憶部21に格納されたデータ及びプログラムを読み出して種々の演算処理を行い、各種の機能を実現する。
【0020】
図3は、品質推定装置2における機能的構成を示す機能ブロック図である。品質推定装置2は、例えば制御部20の機能的構成として、ロット管理データD1に基づき設備歩留の推定情報D2を生成する設備歩留推定部30と、低歩留ロット検出部31と、ボトルネック設備判定部32と、時系列分析部33とを備える。
図4に、ロット管理データD1のデータ構造を例示する。
【0021】
ロット管理データD1は、例えば
図4に示すように、ロットを識別する「ロット番号」と、工程Sa,Sb,Sc毎の「日付」及び「設備」と、最終歩留の各種検査項目とを関連付けて、ロット経路情報D10として管理する。最終歩留の検査項目は、本例では、「電圧不良」、「外観不良」及び「漏れ電流」を含んでいる。最終歩留の項目は、特に上記に限らず、他の検査項目を含んでもよい。また、検査項目毎の計測値に加えて、各検査項目を総合的に考慮した最終歩留の総合値が更にロット管理データD1で管理されてもよい。
【0022】
ロット経路情報D10は、ロット番号で識別されるロットが、各工程Sa,Sb,Scを「日付」に経由した「設備」を示すことにより、設備の組み合わせによる当該ロットの経路を示している。例えば、ロット番号「6」のロットの経路は、工程Saの設備Ea-9を「11月8日」に経由し、工程Sbの設備Eb-1を「11月9日」に経由し、工程Scの設備Ec-11を「12月3日」に経由している。
【0023】
図3の設備歩留推定部30は、こうしたロット管理データD1における複数のロット経路情報D10を用いて、後述する演算処理を行うことにより、設備歩留の推定情報D2を算出する。設備歩留の推定情報D2は、本実施形態における設備品質情報の一例である。
【0024】
低歩留ロット検出部31は、ロット管理データD1に基づいて、顕著に低い最終歩留を有するロットである低歩留ロットを検出する。ボトルネック設備判定部32は、例えば低歩留ロットが経由した設備Eの中から、品質低下の原因と考えられる設備であるボトルネック設備を判定する。時系列分析部33は、例えばボトルネック設備の設備歩留の時間変化を示す情報を生成する。ボトルネック設備判定部32及び時系列分析部33の機能は、各々の条件に該当した設備歩留の推定情報D2を用いて実現される(詳細は後述)。
【0025】
図2に戻り、制御部20は、例えば上記のような品質推定装置2の機能或いは品質推定方法を実現するための命令群を含んだプログラムを実行する。上記のプログラムは、インターネット等の通信ネットワークから提供されてもよいし、可搬性を有する記録媒体に格納されていてもよい。また、制御部20は、上記各機能を実現するように設計された専用の電子回路又は再構成可能な電子回路などのハードウェア回路であってもよい。制御部20は、CPU、MPU、GPU、GPGPU、TPU、マイコン、DSP、FPGA及びASIC等の種々の半導体集積回路で構成されてもよい。
【0026】
記憶部21は、品質推定装置2の機能を実現するために必要なプログラム及びデータを記憶する記憶媒体である。記憶部21は、
図2に示すように、格納部21a及び一時記憶部21bを含む。
【0027】
格納部21aは、所定の機能を実現するためのパラメータ、データ及び制御プログラム等を格納する。格納部21aは、例えばHDD又はSSDで構成される。例えば、格納部21aは、上記のプログラム、及び品質管理データD1などを格納する。
【0028】
一時記憶部21bは、例えばDRAM又はSRAM等のRAMで構成され、データを一時的に記憶(即ち保持)する。例えば、一時記憶部21bは、設備歩留の推定情報D2などを保持する。また、一時記憶部21bは、制御部20の作業エリアとして機能してもよく、制御部20の内部メモリにおける記憶領域で構成されてもよい。
【0029】
操作部22は、ユーザが操作を行う操作部材の総称である。操作部22は、表示部23と共にタッチパネルを構成してもよい。操作部22はタッチパネルに限らず、例えば、キーボード、タッチパッド、ボタン及びスイッチ等であってもよい。操作部22は、ユーザの操作によって入力される諸情報を取得する取得部の一例である。
【0030】
表示部23は、例えば、液晶ディスプレイ又は有機ELディスプレイで構成される出力部の一例である。表示部23は、操作部22を操作するための各種アイコン及び操作部22から入力された情報など、各種の情報を表示してもよい。
【0031】
機器I/F24は、品質推定装置2に外部機器を接続するための回路である。機器I/F24は、所定の通信規格にしたがい通信を行う通信部の一例である。所定の規格には、USB、HDMI(登録商標)、IEEE1395、WiFi、Bluetooth(登録商標)等が含まれる。機器I/F24は、品質推定装置2において外部機器に対し、諸情報を受信する取得部あるいは送信する出力部を構成してもよい。
【0032】
ネットワークI/F25は、無線または有線の通信回線を介して品質推定装置2を通信ネットワークに接続するための回路である。ネットワークI/F25は所定の通信規格に準拠した通信を行う通信部の一例である。所定の通信規格には、IEEE802.3,IEEE802.11a/11b/11g/11ac等の通信規格が含まれる。ネットワークI/F25は、品質推定装置2において通信ネットワークを介して、諸情報を受信する取得部あるいは送信する出力部を構成してもよい。
【0033】
以上のような品質推定装置2の構成は一例であり、品質推定装置2の構成はこれに限らない。品質推定装置2は、サーバ装置を含む各種のコンピュータで構成されてもよい。本実施形態の品質推定方法は、分散コンピューティングにおいて実行されてもよい。また、品質推定装置2における取得部は、制御部20等における各種ソフトウェアとの協働によって実現されてもよい。品質推定装置2における取得部は、各種記憶媒体(例えば格納部21a)に格納された諸情報を制御部20の作業エリア(例えば一時記憶部21b)に読み出すことによって、諸情報の取得を行うものであってもよい。
【0034】
2.動作
以上のように構成される品質推定装置2の動作について、以下説明する。
【0035】
本実施形態の品質推定装置2は、例えば記憶部21に予め格納されたロット管理データD1に基づいて、設備歩留推定部30として設備歩留を推定するための演算処理を実行する。本実施形態における設備歩留の推定方法では、種々のロットが工程Sa~Sc毎に様々な設備Ea-1~Ec-nを経由する状況に着目した定式化により、各々の設備Ea―1~Ec-nによる設備歩留の直接的な推定を実現する。本実施形態における設備歩留の推定方法の詳細は後述する。
【0036】
上記処理から得られる設備歩留の推定情報D2を活用した、本実施形態の品質推定装置2の全体動作について、
図5~8を用いて説明する。
図5は、本実施形態における品質推定装置2の動作を例示するフローチャートである。本フローチャートに示す処理は、例えば品質推定装置2の制御部20によって実行される。
【0037】
まず、品質推定装置2の制御部20は、例えば低歩留ロット検出部31として機能し、記憶部21からロット管理データD1を取得して(S1)、低歩留ロットを検出する(S2)。ステップS2の表示例を
図6に示す。本表示例において、品質推定装置2の表示部23は、例えば低歩留ロット検出部31としての制御部20に制御されて、最終歩留テーブルD3を表示している。最終歩留テーブルD3は、例えば、ロット番号毎に各ロットにおける最終歩留として各種検査項目の計測値を示す。
【0038】
ステップS2において、低歩留ロット検出部31は、例えばロット管理データD1における各ロットの最終歩留と、所定のしきい値とをそれぞれ比較して、最終歩留がしきい値以下のロットを低歩留ロットとして検出する。当該しきい値は、顕著に低い最終歩留の基準を示す。しきい値の比較対象は、最終歩留の各種検査項目における何れかの計測値、或いは項目間の総合値に適宜、設定可能である。
図6の例では、ロット番号「6」のロットが、低歩留ロット検出部31によって検出され、強調表示されている。
【0039】
本実施形態において、制御部20は、例えば低歩留ロット検出部31の検出結果に基づきボトルネック設備判定部32として機能し、低歩留ロットのような特定の1ロットの経路内の設備歩留の分析を行う(S3)。ステップS3の処理は、ボトルネック設備判定部32が、特定のロットが経由した全設備Eに関して設備歩留の推定情報D2を取得することによって行われる。ステップS3における設備歩留の分析の処理については後述する。ステップS3の表示例を
図7に示す。
【0040】
図7の例において、表示部23は、例えばボトルネック設備判定部32としての制御部20に制御されて、設備歩留テーブルD4を表示している。設備歩留テーブルD4は、例えば、特定のロットが経由した各工程Sa,Sb,Scの設備Eと、各設備Eにおいて処理された日付と、各設備Eの設備歩留として検査項目毎の推定値とを含む。ユーザ1は、例えば低歩留ロットを特定した際に設備歩留テーブルD4により、低歩留ロットの経路内の各設備Eの設備歩留を確認することができる。また、例えば
図7の例において、ボトルネック設備判定部32は、設備歩留テーブルD4において最も低い設備歩留を有する設備Ea-9をボトルネック設備と判定する。
【0041】
図5に戻り、本実施形態の制御部20は、例えばボトルネック設備判定部32の判定結果に基づき時系列分析部33として機能し、設備歩留の時系列分析を行う(S4)。ステップS4の処理は、時系列分析部33が、ボトルネック設備などの特定の設備に関する設備歩留の推定情報D2を取得することによって行われる。ステップS4の表示例を
図8に示す。
【0042】
図8の例において、表示部23は、例えば時系列分析部33としての制御部20に制御されて、設備歩留グラフG1を表示している。設備歩留グラフG1は、特定の設備における設備歩留の時系列的な変化を示し、例えば検査項目毎の曲線を含む。
図8の例では、低歩留ロットの処理時期に突発的な歩留の低下が発生したことが、設備歩留グラフG1から確認できる。このように、ステップS4における時系列分析の処理により、設備E毎に異常なロットが生産された時期を可視化することができる。ステップS4の処理については後述する。
図5のフローチャートに示す処理は、例えばステップS4の実行後に終了する。
【0043】
以上のように、本実施形態の品質推定装置2によると、設備歩留の推定情報D2を活用して、低歩留ロットにおけるボトルネックの設備を確認したり、設備歩留の時系列変化を確認したりできるユーザインタフェースを提供することができる。
【0044】
上記のステップS2,S3において、低歩留ロット検出部31による検出およびボトルネック設備判定部32による判定は、それぞれ適宜省略されてもよい。その代わりに、品質推定装置2は、表示部23に各テーブルD3,D4を表示中に、操作部22においてユーザ1が特定のロット或いは設備を指定するユーザ操作を受け付けてもよい。
【0045】
2-1.設備歩留の推定方法について
本実施形態における設備歩留の推定方法の詳細を、
図9を用いて説明する。
図9は、設備歩留の推定方法の定式化を説明した図である。
【0046】
図9では、M個のロットによる最終歩留y
i(i=1,2,…,M)と、N個の設備Eによる設備歩留x
j(j=1,2,…,N)との関係を例示している。ロット数M及び設備数Nは、例えばM>Nにおいて適宜、設定可能である。
図9では一例として、設備数Nが9個であり、3つの工程Sa,Sb,Scにそれぞれ3つの設備Ea-1~Ea-3,Eb-1~Eb-3,Ec-1~Ec-3がある場合を図示している。
【0047】
本推定方法においては、各ロットの最終歩留yiは、当該ロットが固有の経路内の設備Eを経由する毎に、各設備Eが個々に有する潜在的な設備歩留xjの影響が累積して生じると考える。すると、各ロットの最終歩留yiが、ロット経路情報D10に応じた組み合わせの設備歩留xjを互いに乗算する積の形式で記述できる。
【0048】
例えば
図9において、1番目のロットの最終歩留y
1は、工程Saに属する1番目の設備歩留x
1と、工程Sbに属する5番目の設備歩留x
5と、工程Scに属する7番目の設備歩留x
7との積で記述される。ロットの順番は、例えば、ロット管理データD1における所定範囲内のロット番号と対応する。設備Eの順番は、例えば工程Saの設備Ea-1から順番に、全行程Sa~Scに亘って設定される。
【0049】
また、上記のような積の形式は、
図9に示すように、対数を取ることによって和の形式に変換される。このことから、ロット経路情報D10に基づく最終歩留y
iと設備歩留x
j間の関係は、対数を用いて線形の連立方程式に定式化することができる。連立方程式における個々の方程式は、例えば一経路分のロット経路情報D10から立式される。本実施形態では、
図9に示すように行列形式の定式化を採用し、式(1)のように最終歩留ベクトルY、設備歩留ベクトルX、及び経路行列Aを用いる。
【0050】
最終歩留ベクトルYは、M次元ベクトルであり、i=1~M番目の各成分としてi番目の最終歩留yiの対数値log(yi)を有する。設備歩留ベクトルXは、N次元ベクトルであり、j=1~N番目の各成分としてj番目の設備歩留xjの対数値log(xj)を有する。各ベクトルX,Yに用いる対数は、特に限定されず、例えば常用対数、自然対数又は二進対数などであってもよい。
【0051】
経路行列Aは、ロット経路情報D10に基づき設定されるM行N列の行列である。経路行列Aは、
図9に示すように、「1」又は「0」となる経由フラグa
i,jをi行目及びj列目の行列要素として構成される。経由フラグa
i,jは、i番目のロットがj番目の設備を経由したか否かを示す。本実施形態では、各ロットが工程Sa,Sb,Sc毎に1つの設備Eを経由することから、経路行列Aの各行において、経由フラグa
i,jは工程Sa,Sb,Sc毎の列番号の範囲内で「1」を1つずつ有する。
【0052】
式(1)は、ロット数Mを設備数Nよりも大きくすることにより、過剰条件の連立線形方程式にすることができる。そこで、本実施形態では、ロット管理データD1において充分に多いM個のロット経路情報D10を用いて式(1)を立式し、次式(10)のように最小二乗法によって式(1)の数値解の設備歩留ベクトルXを求める。
【0053】
【0054】
こうした数値解による設備歩留xjは、立式に用いた範囲内のロット管理データD1において、それぞれ対応する設備Eを経由するロット間にわたる潜在的な歩留の平均値に対応している。上式(10)の条件X<0は、設備歩留xjが0以上1以下であることに基づく。最小二乗法における求解には、例えば準ニュートン法のBFGS-B法を用いることができる。
【0055】
2-2.設備歩留の分析の処理について
以上のような設備歩留の推定方法を用いた
図5のステップS3の処理について、
図10を用いて説明する。
【0056】
図10は、本実施形態の品質推定装置2における設備歩留の分析の処理(
図5のS3)を例示するフローチャートである。
図10のフローチャートに示す処理は、例えば低歩留ロットなどの1ロットが特定された状態で開始される。
【0057】
まず、制御部20は、例えばボトルネック設備判定部32として機能し、特定のロットに関するロット経路情報D10に基づいて、当該ロットの経路内における1つの設備を処理対象として選択する(S11)。ステップS11の選択は、本実施形態において工程Sa,Sb,Sc毎に順次、行われる。例えばボトルネック設備判定部32は、ロット経路情報D10において処理対象の設備に対応する工程及び日付を取得し、設備歩留推定部30に処理の基準時として設定する。
【0058】
次に、制御部20は、例えば設備歩留推定部30として設定された日付を基準時として、ロット管理データD1から、設定された工程の日付が基準時近傍の所定期間内にあるロット経路情報D10を複数、抽出する(S12)。抽出されるロット経路情報D10の個数としてのロット数Mは、予め設定されていてもよいし、特に設定されなくてもよい。
例えば、
図4に示すロット番号「6」のロット経路情報D10において、工程Saに関して設備Ea-9の日付「11月8日」を基準時として、同日付を含む1週間「11月5日~11月11日」の範囲内で工程Saの日付を有するロット経路情報D10が、ステップS12で収集される。
【0059】
次に、制御部20は、例えば設備歩留推定部30として、抽出されたM個のロット経路情報D10に基づいて経路行列Aを設定する(S13)。例えば、制御部20は、収集されたロット経路情報D10の個数分の行数及び全ての工程Sa~Scの全設備Eの分の列数を設けて、各行においてロット経路情報D10毎に含まれた設備の列番号の経由フラグai,jを「1」に設定し、他の経由フラグai,jを「0」に設定する。
【0060】
次に、制御部20は、抽出したロット経路情報D10において、複数の検査項目のうちの一検査項目を選択し、選択した検査項目の最終歩留を表すように最終歩留ベクトルYを設定する(S14)。例えば、制御部20は、各ロット経路情報D10において選択された検査項目の計測値の対数を演算して、算出した対数値を最終歩留ベクトルYの各成分に設定する。
【0061】
次に、制御部20は、設定した経路行列Aおよび最終歩留ベクトルYに基づいて、式(10)に従う演算処理を行って、式(1)の数値解を求めることにより設備歩留ベクトルXを算出する(S15)。この際、制御部20は、例えば算出した設備歩留ベクトルXにおいて対応する成分の指数を演算することにより、ステップS11で選択した一設備の設備歩留を算出して(S16)、記憶部21に記録する。
【0062】
制御部20は、各々の検査項目に関してステップS14~S16の処理を行い(S17でNO)、選択した一設備に関する各検査項目の設備歩留を算出する。この際、経路行列Aとしては、ステップS13で設定された共通のものが用いられる。
【0063】
制御部20は、一設備に関する全項目の設備歩留を算出すると(S17でYES)、特定のロットに関するロット経路情報D10に基づき、同ロットの経路内の他の設備に関して、ステップS11以降の処理を行う(S18でNO)。
【0064】
制御部20は、特定のロットの経路内における全ての設備Eの設備歩留を算出すると(S18でYES)、算出した設備歩留に基づき設備歩留テーブルD4を生成し(S19)、例えば
図7に示すように表示部23に表示させる。設備歩留テーブルD4は、本実施形態における設備品質情報の一例である。ステップS19において、例えば制御部20は、算出した設備歩留に基づきボトルネック設備判定部32としてボトルネック設備を判定すると、設備歩留テーブルD4において対応する設備の情報を強調表示する。
【0065】
また、本実施形態において、制御部20は、生成した設備歩留テーブルD4による推定精度の検証を行う(S19)。例えば、制御部20は、検査項目毎に、算出した全設備Eの設備歩留を乗算し、算出された積が特定のロットの最終歩留に近いほど推定精度が高いと判定する。推定精度は、
図7に例示するように数値表示されてもよいし、高精度か否か等のメッセージで表示されてもよい。
【0066】
制御部20は、例えば推定精度を検証すると(S20)、ロット経路内の設備歩留の分析の処理(
図5のS3)を終了する。
【0067】
以上の処理によると、特定のロットの経路内の各設備の設備歩留が、当該設備を経由した日付を基準とする同様の時期に、当該設備と同じ工程の設備を経由したロット経路情報D10を逐次、抽出して式(1)を立式することにより、算出される(S16)。式(1)の演算処理(S15)から全ての設備Eに対応する設備歩留ベクトルXが求められるが、対応する成分のみが用いられる。これにより、設備歩留を推定する基となるデータを適切化して、設備歩留の推定精度を良くすることができる。
【0068】
2-3.時系列分析の処理について
図5のステップS4の処理について、
図11を用いて説明する。
【0069】
図11は、本実施形態の品質推定装置2における設備歩留の時系列分析の処理(
図5のS4)を例示するフローチャートである。
図11のフローチャートに示す処理は、例えばボトルネック設備などの一設備が特定された状態で開始される。
【0070】
まず、制御部20は、時系列分析部33として機能し、例えば
図5のステップS2,S3の処理結果に基づいて、時系列分析の対象として特定の設備を示す情報を取得し、当該設備の時系列分析の範囲とする期間すなわち分析期間を決定する(S30)。例えば、低歩留ロットにおけるボトルネック設備を分析対象とする場合、制御部20は、低歩留ロットのロット経路情報D10における当該設備の日付を基準として、その日付を含む数ヶ月などの期間を分析期間に決定する。
【0071】
ステップS3の処理では、特定のロットの経路内の設備毎に設備歩留の算出に用いるロット経路情報D10を収集した(
図10のS11~S18)。時系列分析の処理(S4)は、特定の設備が用いられた日付毎に、ロット経路情報D10を収集して設備歩留を算出する(S31~S38)。
【0072】
例えば、制御部20は、決定した分析期間内において順次、日付を基準時に設定し(S31)、分析対象とする設備と同じ工程に属する設備に関して、
図11のステップS12と同様に複数(M個)のロット経路情報D10を抽出する(S32)。次に、制御部20は、抽出したロット経路情報D10に基づいて、ステップS13~S17と同様に式(1)を立式して演算処理を実行する(S33~S37)。また、制御部20は、分析期間中の各日付に関して順次、ステップS31以降の処理を繰り返す(S38でNO)。
【0073】
分析期間中の全日付の設備歩留が算出されると(S38でYES)、制御部20は、算出結果に基づき設備歩留グラフG1を生成して(S39)、例えば
図8に示すように表示部23に表示させる。設備歩留グラフG1は、本実施形態における設備品質情報の一例である。例えば設備歩留グラフG1の表示後、本フローチャートによる処理は終了する。
【0074】
以上の設備歩留の時系列分析処理によると、分析期間中の日付ごとに設備歩留を推定するためのロット経路情報D10を逐次、変えることにより(S31~S38)、刻々と変化する設備歩留を可視化することができる。
【0075】
3.まとめ
以上のように、本実施形態における品質推定装置2は、複数の単位物品の一例である複数のロットが、例えば複数の工程Sa~Scのための複数の設備Eを用いて得られる品質に関する情報を生成する。品質推定装置2は、記憶部21と、制御部20とを備える。記憶部21は、各ロットの製品を得る際の工程Sa~Scにおいてそれぞれ経由した設備と、得られたロットの製品の品質とを関連付けた品質管理データの一例であるロット管理データD1を格納する。制御部20は、記憶部21に格納されたロット管理データD1に基づく演算処理を制御する。制御部20は、ロット管理データD1から、ロット毎に経由した設備の組み合わせと当該ロットの品質とを示す経由情報の一例であるロット経路情報D10を複数、抽出する(S12,S32)。制御部20は、抽出した複数の経由情報に基づいて、演算処理により複数の設備のうちの一の設備当たりの品質の一例として設備歩留を示す設備品質情報を生成する(S19,S39)。
【0076】
以上の品質推定装置2によると、ロット毎に経由した設備による経路を示す複数のロット経路情報D10に基づく演算処理によって生成される設備品質情報が生成される。これにより、複数の単位物品が複数の設備を用いて得られる際の品質において、設備当たりの品質を精度良く推定することができる。
【0077】
本実施形態において、ロット単位の製品は、複数の工程Sa~Scにおいて各々の設備Ea-1~Ea-n,Eb-1~Eb-n,Ec-1~Ec-nを経由して得られる。制御部20は、ロットが特定の設備を経由した時期を取得し(S11,S31)、取得した時期を基準とする所定期間内に単位物品が特定の設備と同じ工程のための設備を経由した複数のロット経路情報D10を抽出して(S12,S32)、特定の設備に関する設備品質情報を生成する。これにより、適切なロット経路情報D10に基づいて、設備当たりの品質の推定精度を向上することができる。
【0078】
本実施形態において、制御部20は、ロット経路情報D10毎に立式される連立方程式(式(1))において各設備の品質を示す数値解を求める式(10)の演算処理によって、設備品質情報を生成する。これにより、高精度の設備品質情報を生成することができる。
【0079】
本実施形態において、設備品質情報は、例えば複数の単位物品における特定の単位物品が経由した組み合わせ、即ちロットの経路における各設備の品質を示す設備歩留テーブルD4である。これにより、ロットの経路内の各設備の品質を確認することができる。
【0080】
本実施形態において、設備品質情報は、分析期間などの所定期間における時系列に沿った特定の設備の品質を示す設備歩留グラフである。これにより、時系列に沿った設備当たりの品質を確認することができる。
【0081】
本実施形態において、制御部20は、設備の個数N個よりも多い複数M個のロット経路情報D10を抽出して、設備品質情報を生成する。これにより、例えば式(1)を過剰条件にして、高精度の設備品質情報を生成できる。
【0082】
本実施形態において、単位物品は、複数の設備においてロット毎に生産される製品である。設備品質情報は、一の設備当たりの歩留を示す。こうした設備品質情報により、工場設備における歩留を精度良く推定することができる。
【0083】
本実施形態の品質推定方法は、複数の単位物品が少なくとも1つの工程のための複数の設備を用いて得られる品質に関する情報を生成する方法である。本方法は、コンピュータの制御部20が、各単位物品を得る際の工程においてそれぞれ経由した設備と、得られた単位物品の品質とを関連付けた品質管理データ品質管理データから、単位物品毎に経由した設備の組み合わせと当該単位物品の品質とを示す経由情報を複数、抽出するステップを含む。本方法は、抽出した複数の経由情報に基づいて、演算処理により複数の設備のうちの一の設備当たりの品質を示す設備品質情報を生成するステップを含む。
【0084】
本実施形態において、以上のような品質推定方法をコンピュータの制御部に実行させるためのプログラムが提供される。本実施形態の品質推定方法によると、数の単位物品が複数の設備を用いて得られる際の品質において、設備当たりの品質を精度良く推定することができる。
【0085】
(実施形態2)
以下、
図12~13を用いて実施形態2を説明する。実施形態2では、以上のような設備歩留の推定方法において、本願発明者の鋭意研究により明らかとなった理論上の問題及びその実用上の回避手段について説明する。
【0086】
以下、実施形態1に係る品質推定装置2と同様の構成、動作の説明は適宜、省略して、本実施形態に係る品質推定装置2及び品質推定方法を説明する。
【0087】
1.ランク落ちの知見
一般的に、行列のランクはM>NであるM行N列の行列において最大値「N」を有する。また、同じ経路を経由するロットが複数あると経路行列Aに同じ数値を持つ行が複数現れてランクが下がる。しかし、「M」が十分に大きな数であっても、例えば実施形態1の経路行列Aでは、各工程において一つの設備を経由するという制約があることから、経路行列Aのランクは、最大値「N」から(工程の総数-1)だけ小さくなる。こうしたランク落ちによると、例えば式(10)の演算処理において不定解に陥るという問題が考えられる。
【0088】
上記の問題に対して本願発明者は鋭意研究を重ね、例えば工場設備において正常に稼働する設備が充分にあるような実用的に通常の状況下においては、上記の問題を下記のように回避して、精度良く推定可能であることを見出した。
【0089】
すなわち、正常な設備は、特に不具合なく稼働することにより、適宜許容誤差の範囲内で設備歩留「1」を有すると考えられる。こうした設備に対応する設備歩留ベクトルXの成分の値は対数を取り「0」となり、ひいては経路行列Aにおいて当該設備に対応する列の経由フラグai,jが、「1」であっても「0」とみなすことができるようになる。即ち、当該設備が属する工程に関して、その工程内の何れか1つの設備を必ず経由するという制約が実質的に外れ、その分だけ経路行列Aのランクが回復したことと等価になる。よって、設備歩留「1」を有する設備が少なくとも各工程に1つずつあれば、結果的に経路行列Aのランクが回復し、精度良い設備歩留の推定を実現できることを見出した。
【0090】
1-1.数値シミュレーションについて
図12は、設備歩留の推定方法の数値シミュレーションを説明した図である。本願発明者は、上記の知見が確認される数値シミュレーションとして、正常な設備が極端に少ない異常な工程がある場合の数値計算を行った。本シミュレーションでは、異常な工程Sbを含む4つの工程Sa,Sb,Sc,Sdを設定した。また、ロット数Mは、500であり、設備の総数は140台であった。工程Saの設備は50台であり、工程Sbの設備は30台であり、工程Scの設備は20台であり、工程Sdの設備は40台であった。
【0091】
図12(A)は、工程Sa,Sc,Sdには設備歩留「1」の設備が含まれ、異常な工程Sbに設備歩留「1」の設備が1台もない場合のシミュレーション結果を示す。
図12(B)は、異常な工程Sbに設備歩留「1」の設備が1台だけある場合のシミュレーション結果を示す。
図12(A),(B)において、横軸は設備の番号を示し、縦軸は設備歩留を示す。
【0092】
図12(A),(B)では、シミュレーション環境において設定した真値のグラフG2と、本推定方法を適用した推定結果のグラフG3とをそれぞれ示している。各シミュレーションにおいて、異常な工程Sb以外の工程Sa,Sc,Sdは、正常であることを想定して、各々の設備歩留の真値に「1」近傍の値を設定した。また、異常な工程Sbにおける設備歩留の真値については、設備間で平均的に「0.5」程度に設定した。
【0093】
図12(A)における推定結果のグラフG3によると、推定結果の設備歩留が、異常な工程Sbでは真値のグラフG2よりも高くなる一方、他の工程Sa,Sc,Sdでは真値よりも低くなっている。このように、
図12(A)のシミュレーション結果によると、設備歩留「1」の設備が1台もない異常な工程Sbがある場合、推定結果のグラフG3が、異常な工程Sbと正常な工程Sa,Sc,Sdとの間に位置するようなオフセット状の誤差を生じることが確認された。
【0094】
これに対して、
図12(B)における推定結果のグラフG3によると、異常な工程Sbの設備歩留が低い一方で他の工程Sa,Sc,Sdの設備歩留が高いという真値のグラフG2が再現されている。このように、
図12(B)のシミュレーション結果により、
図12(A)と同様の異常な工程Sbに1台だけ設備歩留が「1」の設備があるだけで、本推定方法による設備歩留の推定結果の誤差は、
図12(A)の場合よりも格段に低減することが確認できた。
【0095】
2.動作
実施形態2では、
図12(B)のように精度良く推定が行われているかどうかを検証する品質推定装置2を提供する。本実施形態の品質推定装置2の動作について、
図13を用いて説明する。
【0096】
図13は、実施形態2の品質推定装置2における設備歩留の分析の処理を例示するフローチャートである。本実施形態の品質推定装置2は、実施形態1と同様の設備歩留の分析の処理(
図10)において、例えばステップS20の処理の代わりに、上述したランク落ちの影響に関する推定精度を検証する(S20A)。
【0097】
例えばステップS20Aにおいて、品質推定装置2の制御部20は、ステップS15で求めた数値解に基づき、設備歩留ベクトルXにおいて工程毎に値「0」の成分があるか否かを判断する。設備歩留ベクトルXにおける値「0」の成分は、対応する設備の設備歩留が「1」であることを示す。制御部20は、例えば、値「0」の成分があると判断した工程が多いほど推定精度を高く判定するように、予め設定された工程の数に応じた多段階で推定精度を検証する。
【0098】
以上の処理によると、例えば工場設備において、
図12(B)のように高精度の推定が行われていることを確認したり、
図12(A)のように精度が低下したとしてもその状況を確認したりすることが可能になる。また、ステップS20Aの処理によると、例えば一設備の一検査項目の設備歩留が算出される(S16)毎に、各々の設備歩留に対する推定精度を検証することができる。
【0099】
以上の説明では、ランク落ちに関する推定精度の検証が、ロット経路内の設備歩留の分析処理において行われる例を説明したが、例えば時系列分析の処理において行われてもよい。例えば
図11のステップS36において算出される設備歩留に対して、ステップS20Aと同様の処理が行われてもよい。
【0100】
また、本実施形態では、ロット単位の製品の中に、1つまたは複数の工程が行われない製品が含まれてもよい。即ち、対応する工程の設備を経由しないロットが含まれてもよい。こうしたロットの経路は、ロット管理データD1において、上記の工程をスキップしたロット経路情報D10として管理できる。こうしたロット経路情報D10が経路行列Aに用いられると、スキップした工程に関する制約が外れることから、経路行列Aのランクがその分、上がることとなる。
【0101】
そこで、上記のステップS20Aにおいて、制御部20は、経路行列Aに用いたロット経路情報D10において、スキップされた工程があるか否かを更に判断してもよい。スキップされた工程は、設備歩留が「1」の設備を有する工程と同様に扱うことができる。よって、制御部20は、経路行列Aに用いたロット経路情報D10の全てが経由する工程の中で、値「0」の成分がないと判断した工程が少ないほど推定精度を高く判定する(S20A)。これにより、経路行列Aのランク落ちに起因した推定精度の低下を的確に検証できる。
【0102】
3.まとめ
以上のように、実施形態2において、制御部20は、経路行列Aに用いたロット経路情報D10の各ロットが経由する工程であって、且つ数値解の設備歩留ベクトルXにおいて「0」などの設備の品質が所定値を含まない工程の個数が少ないほど高精度となるように、設備品質情報の推定精度を判定する(S20A)。これにより、設備品質情報の推定精度を精度良く検証することができる。
【0103】
(他の実施形態)
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、実施形態1~2を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、適宜、変更、置換、付加、省略などを行った実施の形態にも適用可能である。また、上記各実施形態で説明した各構成要素を組み合わせて、新たな実施の形態とすることも可能である。そこで、以下、他の実施形態を例示する。
【0104】
上記の実施形態1,2においては、ロット単位の製品の一例として電子部品を例示した。本実施形態において、ロット単位の製品は特に限定されず、例えば半導体部品または機械部品などの各種部品、或いは電子機器などの完成品であってもよい。1ロットが1部品である工程を対象として、最終歩留がOKもしくはNG、すなわち、「1」か「0」である場合にも適用できる。また、幾つかのロットが特定の工程をスキップする場合にも本開示の思想は適用できる。
【0105】
また、上記の各実施形態においては、品質推定装置2を工場設備に適用する例を説明した。本実施形態において、品質推定装置2は、例えば物流、データ通信など種々の分野に適用可能である。また、単位物品はロット単位の製品に限らず、種々の単位別に扱われる各種の有体物であってもよいし、パケット等の単位を有するデータであってもよい。
【0106】
例えば、物流における工程としては、荷受けから配送元の拠点に向かい、更に長距離移動を行って、配送先の拠点に到着すると、宅配を行うといった一連の工程が挙げられる。この際の設備としては、それぞれ集配車、拠点、及び長距離移動手段が挙げられる。長距離移動手段は、例えば新幹線、航空便或いはトラック等である。この場合の歩留のような品質は、例えば物流における顧客の満足率(=1.0-クレーム率)に設定できる。
【0107】
また、データ通信においては、例えば工程が1つであり、1工程の中で複数の設備を経由する際の品質を推定可能である。設備は、例えば基地局およびルータである。この場合の歩留のような品質は、例えばパケット通過率に設定できる。このように、同一の工程を複数回、経由する場合も、適宜、経路行列Aを設定することによって上記と同様に数値解を求められ、設備あたりの品質を推定可能である。
【0108】
また、上記の各実施形態においては、各種設備歩留の分析の処理において設備歩留を算出する演算処理(S13~S16,S33~S36)を行ったが、こうした演算処理は事前に行われてもよい。例えば、予め種々のロット経路情報D10を用いて求解された設備歩留の推定情報D2が、適宜データベース化して記憶部21或いは外部記憶装置などに格納されてもよい。分析の処理時に、制御部20は、各々の条件に該当するロット経路情報D10に応じた設備歩留をデータベースから取得して、設備品質情報を生成することができる。
【0109】
以上のように、本開示における技術の例示として、実施の形態を説明した。そのために、添付図面および詳細な説明を提供した。
【0110】
したがって、添付図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、上記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
【0111】
また、上述の実施の形態は、本開示における技術を例示するためのものであるから、特許請求の範囲またはその均等の範囲において、種々の変更、置換、付加、省略などを行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本開示は、例えば工場設備、物流およびデータ通信など各種の分他に適用可能である。