(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】温度応答性材料およびこれを用いた遮光材
(51)【国際特許分類】
C08L 101/14 20060101AFI20241004BHJP
C08L 33/26 20060101ALI20241004BHJP
C08L 1/00 20060101ALI20241004BHJP
C08L 5/08 20060101ALI20241004BHJP
C08L 65/00 20060101ALI20241004BHJP
G02F 1/19 20190101ALI20241004BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20241004BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C08L101/14
C08L33/26
C08L1/00
C08L5/08
C08L65/00
G02F1/19
C08K7/02
C09K3/00 E
(21)【出願番号】P 2020083233
(22)【出願日】2020-05-11
【審査請求日】2022-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】591202155
【氏名又は名称】熊本県
(73)【特許権者】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100158067
【氏名又は名称】江口 基
(74)【代理人】
【識別番号】100147854
【氏名又は名称】多賀 久直
(72)【発明者】
【氏名】堀川 真希
(72)【発明者】
【氏名】永岡 昭二
(72)【発明者】
【氏名】高藤 誠
(72)【発明者】
【氏名】伊原 博隆
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/172008(WO,A1)
【文献】特開2020-142991(JP,A)
【文献】特開2021-098784(JP,A)
【文献】特開2012-189746(JP,A)
【文献】特開2014-005469(JP,A)
【文献】特開平08-082809(JP,A)
【文献】特開2020-013763(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
G02F 1/15-1/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水に対する下限臨界溶液温度を有する温度応答性高分子と、
保水性を有するナノ多糖類と、
水と、
近赤外線吸収材料と、を含み、
前記ナノ多糖類は、カルボキシメチルセルロース、キチン脱アセチル化物、TEMPO酸化セルロース又は硫酸化セルロースであ
り、
前記近赤外線吸収材料は、ポリチオフェンまたはポリチオフェン誘導体に、硫酸化セルロースナノファイバーもしくは硫酸化セルロースナノクリスタルをドープしたものである
ことを特徴とする温度応答性材料。
【請求項2】
前記ナノ多糖類は、ナノファイバーまたはナノクリスタルである請求項
1に記載の温度応答性材料。
【請求項3】
前記温度応答性高分子は、ポリ(メタ)アクリルアミド誘導体、または少なくとも(メタ)アクリルアミドモノマーを含む複数のモノマーからなるポリ(メタ)アクリルアミド共重合体である請求項1
又は2に記載の温度応答性材料。
【請求項4】
請求項1~
3の何れか一項に記載の温度応答性材料を、対向する透明板の間に配置したことを特徴とする遮光材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、温度に応じて透明度が変わる温度応答性材料およびこの温度応答性材料を用いた遮光材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、機械的な方法に代えて機能性材料を組み込んだ複合ガラスを使用して物理化学的に光線を可逆的に制御する調光ガラスが提案されている。例えば、液晶、エレクトロミック、微粒子分極配向、フォトクロミック、サーモクロミック等の方式がある。また、近年窓は、単純単板ガラスの使用からガラス組成、表面処理、多層化等の加工処理を施した機能性ガラスの使用により高度化されてきている。例えば、破壊し難い強化ガラスや合わせガラス、断熱特性をもつ複層ガラス、太陽光エネルギーの居住空間への侵入を防ぐ熱線吸収ガラスや熱線反射ガラス等が窓に使用されている。しかし、熱線吸収ガラスや熱線反射ガラスは、確かに日射エネルギーの居住空間への侵入を防ぐが着色や表面のぎらつきが残り、ガラス本来の無色透明の良さを低減する欠点をもち、さらに省エネルギーの面からも太陽光線の約半分のエネルギーをもつ可視光線の制御がまだ不十分である。
【0003】
そこで、下限臨界溶液温度(lower critical solution temperature:LCST)を有する温度応答性高分子の特性を用いた感温性遮光材料が提案されている(例えば、特許文献1参照)。N-イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)などの温度応答性高分子は、水と共存させると、LCSTより低い温度で親水性となって水に溶けるので、感温性遮光材料が透明になる。また、温度応答性高分子は、水との共存下において、LCST以上の温度で疎水性となって水に溶けないので、感温性遮光材料が白濁して不透明になり、これにより光の透過を妨げるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述した特許文献に記載された感温性遮光材料は、温度変化に応じた温度応答性高分子の透明化または不透化が均一に生じないことがある。
【0006】
本発明は、従来の技術に係る前記問題に鑑み、これらを好適に解決するべく提案されたものであって、温度に応じた透明度の変化の均一性が向上する温度応答性材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、本発明に係る温度応答性材料は、
水に対する下限臨界溶液温度を有する温度応答性高分子と、
保水性を有するナノ多糖類と、
水と、を含むことを要旨とする。
【0008】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、本発明に係る遮光材は、
前記本発明に係る温度応答性材料を、対向する透明板の間に配置したことを要旨とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る温度応答性材料によれば、温度に応じた透明度の変化の均一性を向上することができる。
本発明に係る遮光材によれば、温度に応じて温度応答性材料の透明度が均一に変化するので、適切に遮光・遮熱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】水に分散されたポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAM)の変化を示すイメージ図であり、(a)はLCST以下のときであり、(b)はLCSTを上回ったときである。
【
図2】ナノ多糖の2wt%の水分散溶液を105℃で乾燥させた場合について、乾燥時間と水の蒸発率との関係を示すグラフ図である。
【
図3】カルボキシメチルセルロースナノファイバーを示す構造式である。
【
図4】(a)はキチンナノファイバーを示す構造式であり、(b)は(a)の表面に形成されたキトサンを示す構造式である。
【
図5】温度応答性材料を用いた遮光材を示す説明図であって、(a)はLCST以下の温度のときであり、(b)はLCSTを上回る温度のときである。
【
図6】実施例1の温度応答性高分子の重合を示す模式図である。
【
図7】実施例2の温度応答性高分子の重合を示す模式図である。
【
図8】実施例3の温度応答性高分子の重合を示す模式図である。
【
図9】実施例4の温度応答性材料および比較例1の温度応答性材料の透過率測定および粒径測定の結果を示すグラフ図である。
【
図11】実施例5の温度応答性材料および比較例1の温度応答性材料の透過率測定および粒径測定の結果を示すグラフ図である。
【
図12】実施例6の温度応答性材料および比較例2の温度応答性材料の透過率測定および粒径測定の結果を示すグラフ図である。
【
図13】実施例7の温度応答性材料および比較例3の温度応答性材料の透過率測定および粒径測定の結果を示すグラフ図である。
【
図14】実施例8の温度応答性材料および比較例1の温度応答性材料の透過率測定および粒径測定の結果を示すグラフ図である。
【
図16】温度抑制効果の測定装置を示す説明図である。
【
図17】実施例5の遮光材の温度抑制効果の測定結果を示すグラフ図である。
【
図18】実施例6の遮光材の温度抑制効果の測定結果を示すグラフ図である。
【
図19】実施例7の遮光材の温度抑制効果の測定結果を示すグラフ図である。
【
図20】実施例9および実施例12の遮光材の温度抑制効果の測定結果を示すグラフ図である。
【
図21】実施例10および実施例13の遮光材の温度抑制効果の測定結果を示すグラフ図である。
【
図22】実施例11および実施例14の遮光材の温度抑制効果の測定結果を示すグラフ図である。
【
図23】実施例13の遮光材の白濁化を示す写真である。
【
図24】対比例1の遮光材の白濁化を示す写真である。
【
図25】実施例14の遮光材の白濁化を示す写真である。
【
図26】対比例2の遮光材の白濁化を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(概要)
本開示に係る温度応答性材料は、水に対するLCSTを有する温度応答性高分子と、保水性を有するナノ多糖類と、水と、を含んでいる。また、温度応答性材料は、温度応答性高分子、ナノ多糖類および水を加えて、近赤外線吸収材料を含んでいてもよい。温度応答性材料は、LCST以上になると、LCSTを下回っているときと比べて、白濁するなどによって透明度が下がる。例えば、温度応答性材料を、温度の上昇に応じて温度応答性高分子によって白濁することによる遮光用途(遮光ガラスなど)に用いるのであれば、LCST以下の温度において透明とし、LCSTを上回ると不透明になるようにすればよい。このように、温度応答性材料は、LCSTを境にして、透明度(光透過率)が変化するようになっている。
【0012】
(温度応答性高分子)
温度応答性高分子は、LCSTより温度が低いと水に溶けるが、LCST以上になると水に溶けない性質を持つものである。例えば、代表的な温度応答性高分子であるポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAM)の場合、LCST以下の温度において、アミド基と水での水素結合により高分子鎖は水和して引き延ばされ、
図1(a)に示すようなランダムコイル状になる。LCSTよりも高温では、アミド基と水との水素結合が不安定になり疎水部の脱水和を起こす。この疎水効果によって、
図1(b)に示すように、高分子鎖が凝集したグロビュール状態となる。
【0013】
温度応答性高分子としては、非イオン性の親水性(水溶性)高分子が挙げられる。具体的には、例えば、ポリ(メタ)アクリルアミド誘導体、ポリビニルアミド誘導体、ポリビニルメチルエーテル、セルロース誘導体などを用いることができる。また、その他として、例えば、ポリオキサゾリドン、ポリアルキレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸およびそれらの誘導体が挙げられる。更に、温度応答性高分子としては、ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコールブロック共重合体を用いてもよい。ポリビニルアルコール誘導体としては、例えば、ポリビニルアルコールの部分アセトアセタール化合物、部分ホルマール化合物、部分ブチラール化合物などが挙げられる。
【0014】
(ポリ(メタ)アクリルアミド誘導体)
ポリ(メタ)アクリルアミド誘導体しては、例えば、ポリN-置換(メタ)アクリルアミド誘導体が挙げられる。N-置換(メタ)アクリルアミドとしては、例えば、N-シクロプロピル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-n-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-メチル-N-エチルアクリルアミド、N-メチル-N-イソプロピルアクリルアミド、N-メチル-N-n-プロピルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N-アクリロイルピペリジン、N-アクリロイルピロリジン、N-テトラヒドロフリルアクリルアミド等を重合して得られるポリマーが挙げられる。また、ポリ(メタ)アクリルアミド誘導体としては、複数種類の(メタ)アクリルアミドや、(メタ)アクリルアミドとその他のモノマーを共重合して得られる、ポリ(メタ)アクリルアミド共重合体であってもよい。
【0015】
(ポリビニルアミド誘導体)
ポリビニルアミド誘導体としては、例えば、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニル-N-メチルアセトアミド、N-ビニル-N-メチルホルムアミド、N-ビニルプロピオンアミド等を重合して得られるポリマーが挙げられる。好ましくはN-ビニルアセトアミド、N-ビニル-N-メチルアセトアミドである。また、ポリビニルアミド誘導体としては、複数種類のビニルアミドモノマーや、ビニルアミドモノマーとその他のモノマーを共重合して得られる、ポリビニルアミド共重合体であってもよい。
【0016】
(セルロース誘導体)
セルロース誘導体としては、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロースなどのアルキル置換セルロース誘導体などを用いることができる。
【0017】
温度応答性高分子は、各々固有のLCSTを有している。温度応答性材料を、温度の上昇に応じて温度応答性高分子によって白濁(不透化)することによる遮光用途(遮光ガラス)に用いるのであれば、例えば25℃~45℃の間のLCSTを有する温度応答性高分子を用いるとよい。このように、温度応答性材料は、用途や要求する機能などに応じて、必要なLCSTを有する温度応答性高分子を選択すればよい。例えば30℃~40℃の間のLCSTを有する温度応答性高分子としては、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-シクロプロピル(メタ)アクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N-メチル-N-エチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N-アクリロイルピロリジンなどから得られる誘導体(共重合体)や、ポリビニルメチルエーテルなどが挙げられる。
【0018】
(温度応答性高分子のサイズ)
温度応答性高分子の粒径は、1nm~1000nmの範囲であることが好ましく、より好ましくは20nm~500nmである。温度応答性高分子の粒径がLCST以下で前述の範囲であると、適切な温度応答性を示すと共に、白濁等を抑えて透明性を確保できるので好ましい。また、温度応答性高分子の粒径は、LCSTを上回る温度において、200nm~50μmの範囲にあることが好ましく、より好ましくは300nm~35μmである。温度応答性高分子の粒径がLCSTを上回る温度で前述の範囲であると、波長700nmの光透過率が60%以下となるような好適な遮光性を確保できると共に、白濁化が均一に進み、温度応答性材料のひび割れを防止できるので好ましい。
【0019】
(LCSTの制御)
ポリ(メタ)アクリルアミド誘導体やポリビニルアミド誘導体などの共重合体を作製し得る温度応答性高分子は、ポリ(メタ)アクリルアミドあるいはポリビニルアミドに導入するモノマー単位によって、LCSTを制御することができる。例えば、ポリ(メタ)アクリルアミドに疎水性のモノマー単位を導入した共重合体として、得られる温度応答性高分子の極性を、ポリ(メタ)アクリルアミドよりも疎水性に傾けると、LCSTが下がる。ポリ(メタ)アクリルアミドに親水性のモノマー単位を導入した共重合体として、得られる温度応答性高分子の極性を、ポリ(メタ)アクリルアミドよりも親水性に傾けると、LCSTが上がる。これは、ポリビニルアミド共重合体の場合であっても、ポリ(メタ)アクリルアミド重合体と同様の作用を奏する。
【0020】
(温度応答性高分子の配合量)
温度応答性材料において、温度応答性高分子の濃度は、0.05wt%~10wt%の範囲が好ましく、より好ましくは0.1wt%~1.0wt%である。温度応答性材料における温度応答性高分子の濃度が前述の範囲であると、LCSTを上回る温度で白濁化した際、波長700nmの光透過率が60%より小さくなり、好適な遮光効果を得られる。また、温度応答性材料における温度応答性高分子の濃度が前述の範囲であると、温度応答性材料の粘度を適度にすることができ、温度応答性材料の製膜を行い易くなる。
【0021】
(多糖類)
多糖類は、保水性を有しているものが用いられる。また、多糖類は、水に溶け難いあるいは水に溶けない難水溶性を有していることが好ましい。保水性を有する多糖類としては、例えば、セルロース、キチン、キトサン、グルコマンナン、プルラン、でんぷん、アガロース、デキストラン、サクランなどを用いることができ、これらの多糖の塩類または誘導体であってもよい。更に、温度応答性材料を遮光用途に用いる場合、多糖類としては、水に分散したとき透明性が高いものが好ましく、このような透明性が高い多糖類として、例えば、キチン、キチン脱アセチル化物、カルボキシメチルセルロース、TEMPO酸化セルロース、硫酸化セルロース、リン酸化セルロース等が挙げられる。
【0022】
(多糖類のサイズ)
多糖類は、その平均繊維幅が1nm~999nmの範囲にあるナノサイズである所謂ナノ多糖類を用いている。ナノ多糖類は、保水性に優れているので、温度応答性材料に用いたとき、温度応答性高分子へ水を十分に供給することができる。この中でも、平均繊維幅が4nm~100nmの範囲にあると共に、平均繊維長さが5μm以上である多糖ナノファイバーと呼ばれるものや、平均繊維幅が4nm~50nmの範囲にあると共に、平均繊維長さが100nm~400nmの範囲にある多糖ナノクリスタルと呼ばれるものを用いるとよい。
【0023】
(多糖類の保水性)
ナノ多糖類は、未解繊多糖と比べて保水性が高いことが示されている(参考:小倉孝太、“セルロースナノファイバー添加による高付加価値複合材料の開発”、セルロースナノファイバーの解繊、樹脂への分散性向上と複合材料の開発、技術情報協会、令和元年11月14日、p.1~41)。例えば、ナノ多糖および未解繊多糖2wt%の水分散溶液を105℃で乾燥させた場合、未解繊多糖は加熱時間57分程で残質量率5wt%になるのに対して、解繊度が高いナノ多糖は加熱時間70分で残質量率5wt%になる。ナノ多糖は、比表面積が大きくなり、水と接する水酸基の量が増えることから、水素結合することによって保水性が向上する。また、ナノ多糖は、比較的繊維長が短いほど、比表面積が大きくなるため、吸水性も高くなる。
【0024】
図2は、ナノ多糖類および未解繊多糖の2wt%の水分散溶液を105℃で乾燥させた場合において、乾燥時間と水の蒸発率との関係を示している。丸囲い1はキチンナノファイバーであり、丸囲い2はカルボキシメチルセルロースナノファイバーであり、丸囲い3はセルロースナノファイバーであり、丸囲い4はキトサンナノファイバーであり、丸囲い5はセルロース(未解繊)である。
図2に示すように、ナノ多糖類の中でも、キチンナノファイバーおよびカルボキシメチルセルロースナノファイバーは、保水性が高い。このことから、温度応答性材料に用いる多糖類としては、保水性が高く、かつ、分散液の透明性が高いことから、キチンナノファイバーおよびカルボキシメチルセルロースナノファイバーが好ましい。
【0025】
温度応答性高分子のLCSTにおける透明から白濁化への可逆的なスイッチングを行なうためには、ナノ多糖類が透明である必要がある。セルロースナノファイバーを修飾して親水性を高め、透明性を向上させたナノ多糖として、カルボキシメチルセルロース、TEMPO酸化セルロース、硫酸化セルロース、リン酸化セルロースなどが挙げられ、これらは遮光・遮熱用途において温度応答性高分子との相性が良い。
【0026】
図3に示すように、カルボキシメチルセルロースナノファイバーは、C6位の水酸基が水中でマイナスの荷電を有するため、浸透圧効果によってミクロフィブリル単位にまでナノ分散化が進み、その状態でミクロフィブリル間の荷電反発作用により水中でナノ分散状態を安定に維持することができる。
【0027】
図4(a)に示すキチンは、白色であるため、キチンの表面を脱アセチル化させ、キトサン(
図4(b)参照)にすることが好ましい。このような表面をキトサン化したキチン脱アセチル化物ナノファイバーである場合、乳酸を加え、pHを酸性にすることで表面のキトサンのアミノ基がカチオン性になり、電荷反発により分散し、半透明にすることができる。また、電荷の反発によりキチンのアミド同士での水素結合を抑制し、水との水素結合を促進できる。
【0028】
(多糖類の配合量)
温度応答性材料における多糖類の濃度は、0.02wt%~10wt%の範囲が好ましく、より好ましくは0.1wt%~1.0wt%の範囲である。温度応答性材料における多糖類の濃度が前記範囲であると、水を適切に保持できると共に、温度応答性材料を3.0 mPa・sよりも大きい適度な粘度にすることができ、製膜し易くできる。また、温度応答性材料における多糖類の濃度が前記範囲であると、適度な粘度にすることができると共に、温度応答性高分子の可逆的な白濁を適切に発現させることができる。
【0029】
(近赤外線吸収材料)
温度応答性材料は、赤外線を吸収する近赤外線吸収材料を1種類または複数種類含んでいてもよい。近赤外線吸収材料としては、特に近赤外線の吸収特性に優れたものが好ましい。近赤外線吸収材料としては、例えば、チオフェンおよびその誘導体や、ポリアニオンがドープされた導電性高分子や、半導体材料などが挙げられる。この中でも、環境負荷やコストなどを勘案すると、半導体材料よりも、チオフェンおよびその誘導体やポリアニオンがドープされた導電性高分子の方が好ましい。なお、半導体材料としては、例えば、スズ酸化インジウム(ITO)、アンチモン酸化スズ(ATO)、六ホウ化ランタン(LaB6)、セシウム酸化タングステン(CWO)などを用いることができる。
【0030】
導電性高分子としては、無置換、あるいはアルキル基、カルボキシ基、スルホ基、アルコキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基等の官能基を導入したπ共役系導電性高分子を用いることができる。導電性高分子としては、例えば、ポリピロール、ポリ(N-メチルピロール)、ポリ(3-メチルピロール)、ポリ(3-エチルピロール)、ポリ(3-n-プロピルピロール)、ポリ(3-ブチルピロール)、ポリ(3-オクチルピロール)、ポリ(3-デシルピロール)、ポリ(3-ドデシルピロール)、ポリ(3,4-ジメチルピロール)、ポリ(3,4-ジブチルピロール)、ポリ(3-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルピロール)、ポリ(3-ヒドロキシピロール)、ポリ(3-メトキシピロール)、ポリ(3-エトキシピロール)、ポリ(3-ブトキシピロール)、ポリ(3-ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-ヘキシルオキシピロール)、ポリ(チオフェン)、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリ(3-エチルチオフェン)、ポリ(3-プロピルチオフェン)、ポリ(3-ブチルチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルチオフェン)、ポリ(3-オクチルチオフェン)、ポリ(3-デシルチオフェン)、ポリ(3-ドデシルチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルチオフェン)、ポリ(3-ブロモチオフェン)、ポリ(3-クロロチオフェン)、ポリ(3-ヨードチオフェン)、ポリ(3-シアノチオフェン)、ポリ(3-フェニルチオフェン)、ポリ(3,4-ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4-ジブチルチオフェン)、ポリ(3-ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3-メトキシチオフェン)、ポリ(3-エトキシチオフェン)、ポリ(3-ブトキシチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3-デシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ブテンジオキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-メトキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-エトキシチオフェン)、ポリ(3-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルチオフェン)、ポリアニリン、ポリ(2-メチルアニリン)、ポリ(3-イソブチルアニリン)、ポリ(2-アニリンスルホン酸)、ポリ(3-アニリンスルホン酸)等が挙げられる。中でも、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリ(N-メチルピロール)、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリ(3-メトキシチオフェン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が挙げられ、これらから選ばれる1種又は2種以上からなる(共)重合体を用いることができる。
【0031】
導電性高分子にドープするポリアニオンとして、アニオン性化合物であれば、特に制約なく用いることができる。アニオン性化合物とは、分子中に、π共役系導電性高分子への化学酸化ドーピングが起こりうるアニオン基を有する化合物である。アニオン基としては、製造の容易さ及び高い安定性の観点から、リン酸基、カルボキシ基、スルホン酸基、などが好ましい。これらのアニオン基の内、π共役系導電性高分子へのドープ効果に優れる理由から、スルホン酸基あるいはカルボキシ基がより好ましい。
【0032】
近赤外線吸収材料としては、ポリチオフェンまたはポリチオフェン誘導体に、ポリアニオンをドープしたものが好ましい。このようなものとしては、例えば、ポリスチレンスルホン酸(PSS)をポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)にドープしたPEDOT/PSSがある。また、ポリチオフェンまたはポリチオフェン誘導体(以下、PTという。)に、硫酸化セルロースナノファイバー(CS)もしくは硫酸化セルロースナノクリスタル(CS)をドープしたPT/CSであってもよい。このようなものとしては、例えば、CSをPEDOTにドープしたPEDOT/CSがある。
【0033】
(PT/CS)
PT/CSは、硫酸化セルロースナノファイバーあるいは硫酸化セルロースナノクリスタルと、この硫酸化セルロースナノファイバーあるいは硫酸化セルロースナノクリスタルがドーピングされたポリチオフェンとを含んでいる。ここで、PT/CSの硫酸化セルロースナノファイバーあるいは硫酸化セルロースナノクリスタルは、以下の化学式1のように表される。PT/CSは、硫酸化セルロースナノファイバーあるいは硫酸化セルロースナノクリスタルを骨格として構成されて、ポリチオフェンが硫酸化セルロースナノファイバーあるいは硫酸化セルロースナノクリスタルの表面に配向している。PT/CSは、可視光の吸収が小さく、近赤外線の吸収が大きく、また、透明性を有しており、近赤外線吸収材料として必要とされる特性を備えている。PT/CSは、親水性を有しており、水に分散させることができる。PT/CSは、塗膜し易く、高い導電性を付与することが可能である。PT/CSは、アンチモンやセシウムなどの環境に不適な物質を含んでいないので、環境に対する負荷が低く、インジウムなどのレアメタルを使用していないので、低コストで得ることができる。
【0034】
【化1】
化学式1に示すR
1~R
6は、それぞれ独立に水素原子、スルホン酸基または炭素鎖数1~6のアルキルスルホン酸基を表し、かつ、R
1~R
6の少なくとも1つはスルホン酸基または炭素鎖数1~6のアルキルスルホン酸基である。また、化学式1のnは、括弧内の繰り返しを示す。
【0035】
PT/CSは、例えば、化学式1のR1、R2、R4およびR5が水素原子であると共に、R3およびR6がスルホン酸基である硫酸化セルロースナノファイバー(CS)あるいは硫酸化セルロースナノクリスタル(CS)と、PEDOTとも略されるポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)とを複合化したもの(PEDOT/CS)を具体例として挙げることができる。
【0036】
(近赤外線吸収材料のサイズ)
近赤外線吸収材料の粒径は、5nm~1000nmの範囲が好ましく、より好ましくは20nm~400nmである。近赤外線吸収材料の粒径が前記範囲にあると、温度応答性材料において熱伝導パスを適切に形成することができ、熱線吸収性能を高くすることができるので好ましい。また、近赤外線吸収材料の粒径が前記範囲にあると、水中で適切に分散させて凝集を抑えることができ、温度応答性材料を塗布し易くすることができる。
【0037】
(近赤外線吸収材料の配合量)
温度応答性材料における近赤外線吸収材料の濃度は、0.001wt%~2wt%の範囲が好ましく、より好ましくは0.01wt%~0.5wt%の範囲である。温度応答性材料における近赤外線吸収材料の濃度が前記範囲であると、適度な熱線吸収率が生じて、熱線吸収材としての性能を発揮することができる。また、温度応答性材料における近赤外線吸収材料の濃度が前記範囲であると、近赤外線吸収材料に由来する着色を抑えることができ、LCST以下の温度において、透明性を確保することができる。
【0038】
(温度応答性高分子と多糖類との関係)
温度応答性材料に配合する温度応答性高分子と多糖類との重量比(温度応答性高分子:多糖類)は、0.5:99.5~99.5:0.5の範囲が好ましく、より好ましくは20:80~80:20の範囲である。前記範囲であると、LCSTを上回る温度での波長700nmの光透過率が50%以下となり、好適な遮光効果を得られる。また、温度応答性材料に配合する温度応答性高分子と多糖類との重量比が前述の範囲であると、多糖類によって適切に水を保持することができる。
【0039】
(近赤外線吸収材料と温度応答性高分子との関係)
温度応答性材料に配合する近赤外線吸収材料と温度応答性高分子との重量比(近赤外線吸収材料:温度応答性高分子)は、0.1:99.9~99.9:0.1の範囲が好ましく、より好ましくは0.5:99.5~99.5:0.5の範囲である。温度応答性材料に配合する近赤外線吸収材料と温度応答性高分子との重量比が前記範囲であると、適度な熱線吸収率が生じて、熱線吸収材としての性能が発揮することができる。また、温度応答性材料における近赤外線吸収材料の濃度が前記範囲であると、LCST以下での温度の波長700nmの光透過率が50%を上回り、透明性を確保できる。
【0040】
(近赤外線吸収材料と多糖類との関係)
温度応答性高分子とナノ多糖類との混合物に対する近赤外線吸収材料の割合(温度応答性高分子+ナノ多糖類:近赤外線吸収材料(重量比))は、0.1:99.9~99.9:0.1の範囲が好ましく、より好ましくは0.5:99.5~99.5:0.5の範囲である。温度応答性高分子とナノ多糖類との混合物に対する近赤外線吸収材料の割合が前記範囲であると、適度な熱線吸収率が生じて、熱線吸収材としての性能を発揮することができる。また、温度応答性高分子とナノ多糖類との混合物に対する近赤外線吸収材料の割合が前記範囲であると、LCST以下での温度の波長700nmの光透過率が50%を上回り、透明性を確保できる。
【0041】
温度応答性高分子の中でも、PNIPAMもしくはNIPAM-アクリルアミド誘導体共重合体は室温から温度を上げていった場合、LCSTにおいて、狭い温度範囲で白濁する。近赤外線吸収材である、PEDOT/PSSもしくはPEDOT/CSとの組み合わせることによって、白濁変化の速度が速くなるため、温度応答性材料として最も好ましい。PEDOT/PSSとPEDOT/CSは、水中にコロイド状態で分散しており、NIPAMあるいはNIPAM共重合体の水溶液と容易に混合することができる。
【0042】
保水性が高いナノ多糖類としては、カルボキシメチルセルロース、TEMPO酸化セルロース、硫酸化セルロース、リン酸化セルロースおよびキチン脱アセチル化物を用い、近赤外線吸収材料としては、PEDOT/PSSあるいはPEDOT/CSを用いる組み合わせが好ましい。ナノ多糖類である、カルボキシメチルセルロース、TEMPO酸化セルロース、硫酸化セルロース、リン酸化セルロースおよびキチン脱アセチル化物は透明性が高く、近赤外線吸収材料であるPEDOT/PSSあるいはPEDOT/CSと混ぜ合わせた場合においても、透明性が保持される。
【0043】
(温度応答性材料の製造方法)
温度応答性高分子の水溶液は、温度応答性モノマーの水溶液を調製して、窒素バブリングを行いながら、重合開始剤を加えて重合反応を行った後、精製し調製することができる。重合方法としては、レドックス重合、γ線重合、熱重合、溶液重合、乳化重合、懸濁重合など、高分子化できる方法であればいずれの方法でもよく、特に限定されない。精製方法は透析、沈殿など、精製できる方法であればいずれの方法でもよく、特に限定されない。
【0044】
温度応答性材料は、温度応答性高分子と、ナノ多糖類と、必要に応じて近赤外線吸収材とを加えて調製される。溶液の混合は、温度応答性高分子のLCST以下あるいはLCSTを上回る温度条件に関わらず実施できる。
【0045】
(温度応答性材料の作用効果)
温度応答性材料は、LCST以下の温度のとき、温度応答性高分子が溶けた水を、保水性を有する多糖類が保持するので、水の蒸発を防止できる。温度応答性材料は、LCSTより温度が上がると、温度応答性高分子が溶けている水が多糖類に保持されているので、温度応答性高分子が水から離れやすくなって温度応答性高分子の不溶化が誘引される。これにより、温度応答性材料の白濁化が均一に生じる。温度応答性材料は、LCSTより温度が高いとき、水を多糖類が保持しているので、水の蒸発を防止できる。温度応答性材料は、LCSTより温度が下がると、多糖類に保持された水に温度応答性高分子が溶けるので、温度応答性高分子の水溶化が誘引される。これにより、温度応答性材料の透明化が均一に生じる。
【0046】
このように、温度応答性材料は、保水性を有する多糖類によって水が保持されて水分量が変化しないので、LCSTに応じた温度応答性高分子の溶解・析出に際して水を十分に供給することができる。従って、温度応答性材料は、透明化または白濁化が、良好な応答速度で均一に発現される。そして、温度応答性材料がひび割れるように見える不良を回避できる。
【0047】
(遮光材)
温度応答性材料を、ガラス板や樹脂板や透明フィルムなどの透明材上に塗布して、温度応答性材料を間にするように2枚の透明材を対向配置することで、遮光材を構成することができる。例えば
図5に示すように、遮光材10は、対向して配置された2枚の透明材12,12と、2枚の透明材12,12の間に配置された温度応答性材料14とを備えている。また、遮光材10は、2枚の透明材12,12の間に、温度応答性材料14を囲うようにスペーサー16が配置されている。このように、遮光材10は、透明材12およびスペーサー16に囲われて閉塞した空間に、薄膜状に形成された温度応答性材料14が配置されている。
【0048】
遮光材10は、LCST以下の温度において温度応答性高分子が水に溶けることで温度応答性材料14が透明になり、光の透過を許容する。これにより、遮光材10は、LCST以下の低温のとき、適度に光を通して明るさを確保したり、温度を上昇させたりすることができる。これに対して、遮光材10は、LCSTを上回る温度において温度応答性高分子が不溶化することで温度応答性材料14が白濁し、光の透過を規制する。これにより、遮光材10は、LCSTを上回る高温のとき、適度に光の透過を規制して温度上昇を遮ったり、眩しさを軽減したりすることができる。遮光材10は、温度応答性材料14の透明化または白濁化が、良好な応答速度で均一に発現されるので、通光状態および遮光状態迅速にかつ均一に切り替わる。また、遮光材10は、温度応答性材料14がひび割れるように見える不良を回避できる。
【0049】
次に、本発明に係る温度応答性材料および遮光材につき、好適な実施例を挙げて以下に説明する。
【実施例】
【0050】
(LCSTの制御)
三つ口フラスコ内でNIPAM15.0g(0.133mol)を水100mlに撹拌しながら溶解させた。TMED1.9ml(14.7mmol)を重合促進剤として加え、氷浴下(5℃)で窒素置換を行なった。APS303mg(1.33mmol)を水20mlに溶解したものを重合開始材として加え、氷浴下で3時間反応させた。これにより、透明で粘度の高い反応液が得られたため、反応液をイオン交換水で希釈し、12~14kDaの透析膜で透析を3日行なった。
図6に示すように、NIPAMを重合してPNIPAM(実施例1の温度応答性高分子)を得た。
【0051】
三つ口フラスコ内でNIPAM14.25g(0.126mol)を水100mlに撹拌しながら溶解させた。更に、DEAA0.75g(5.90mmol)を加え攪拌した。TMED1.9ml(14.7mmol)を重合促進剤として加え、氷浴下(5℃)で窒素置換を行なった。APS303mg(1.33mmol)を水20mlに溶解したものを重合開始材として加え、氷浴下で3時間反応させた。これにより、透明で粘度の高い反応液が得られたため、反応液をイオン交換水で希釈し、12~14kDaの透析膜で透析を3日行なった。
図7に示すように、NIPAMとDEAAとを共重合してPoly(NIPAM-co-DEAA)重合体(実施例2の温度応答性高分子)を得た。
【0052】
三つ口フラスコ内でNIPAM14.25g(0.126mol)を水100mlに撹拌しながら溶解させた。更に、HEAA0.75g(6.51mmol)を加え攪拌した。TMED1.9ml(14.7mmol)を重合促進剤として加え、氷浴下(5℃)で窒素置換を行なった。APS303mg(1.33mmol)を水20mlに溶解したものを重合開始材として加え、氷浴下で3時間反応させた。これにより、透明で粘度の高い反応液が得られたため、反応液をイオン交換水で希釈し、12~14kDaの透析膜で透析を3日行なった。
図8に示すように、NIPAMとHEAAとを共重合してPoly(NIPAM-co-HEAA)重合体(実施例3の温度応答性高分子)を得た。
【0053】
なお、実施例では、以下の試薬を用いている。
・N-イソプロピルアクリルアミド(NIPAM):KJケミカルズ(株)製
・トリメチルエチレンジアミン(TMED):東京化成工業(株)製
・ペルオキソ二硫酸アンモニウム(APS):和光純薬(株)製
・ジエチルアクリルアミド(DEAA):KJケミカルズ(株)製
・ヒドロキシエチルアクリルアミド(HEAA):KJケミカルズ(株)製
・臭化リチウム:ナカライテスク(株)製
・カルボキシメチルセルロース(CM-CNF又はCMCと表記):スギノマシン(株)製
・キチン/キトサンナノファイバー(キチン脱アセチル化物ナノファイバー):(株)マリンナノファイバー製
【0054】
(多糖類とのコンポジット)
三つ口フラスコ内でNIPAM(2.1g)とCM-CNF(105.0g)とを水172.9mlに溶解し、TMED(0.266ml)を重合促進剤として加え、氷浴下(5℃)で窒素置換を行なった。APS(0.126mg)を水20mlに溶解したものを重合開始材として加え、氷浴下で3時間反応させた。これにより、透明で粘度の高い反応液が得られたため、反応液をイオン交換水で希釈し、12~14kDaの透析膜で透析を3日行なった。このように、多糖類を共存させたもとで、NIPAMを重合してPNIPAMを重合し、実施例4の温度応答性材料を得た。
【0055】
(実施例5~7の温度応答性材料)
実施例1の温度応答性高分子(0.5g)と、CM-CNF(0.5g)と、水(99ml)を配合して、実施例5の温度応答性材料を作製した。
実施例2の温度応答性高分子(0.5g)と、CM-CNF(0.5g)と、水(99ml)を配合して、実施例6の温度応答性材料を作製した。
実施例3の温度応答性高分子(0.5g)と、CM-CNF(0.5g)と、水99ml)を配合して、実施例7の温度応答性材料を作製した。
【0056】
(比較例1~3の温度応答性材料)
実施例1の温度応答性高分子(0.5g)と、水(99.5ml)を配合して、比較例1の温度応答性材料を作製した。
実施例2の温度応答性高分子(0.5g)と、水(99.5ml)を配合して、比較例2の温度応答性材料を作製した。
実施例3の温度応答性高分子(0.5g)と、水(99.5ml)を配合して、比較例3の温度応答性材料を作製した。
【0057】
実施例4の温度応答性材料および比較例1の温度応答性材料(実施例1の温度応答性高分子)について、紫外可視分光光度計(V-670、Spectrophotometer、JASCO製)による光透過率測定を行うと共に、動的光散乱計(Malvern製、Zetasizer Nano ZS)を用いて動的光散乱法(DLS)による粒子径測定を行ない、LCSTを確認した。それぞれ、20℃から40℃に温度を2℃ずつ上げて測定を行なった。光透過率測定については一定の波長において濁度を見るため700nmでの透過率をプロットした。その結果を
図9に示す。その結果、光透過率測定では32℃から34℃にかけて、波長700nmでの透過率が92.1%から30.8%にまで減少した。一方で、DLSによる結果では同様に32℃から34℃にかけて粒径が303nmから4320nmへと大きくなったことから、実施例4のLCSTは34℃であることが判った。また、波長700nmでの透過率は、比較例1と比較してあまり下がらなかったのでコンポジットとすることでPNIPAMの凝集を抑制することができていると考えられる。
【0058】
実施例7および比較例3について、105℃で乾燥させた場合、乾燥時間と水の蒸発率との関係から保水性を比較した。その結果を
図10に示す。実施例7において対応の比較例3よりも保水性が高くなっていることが判る。また、CM-CNFは、グルコース単位あたり水酸基を3つ持っているため高い保水性を示す。これは、HEAAが水酸基を持つため、LCSTを上回る温度で実施例3の温度応答性高分子であるPoly(NIPAM-co-HEAA)の疎水部の疎水効果によりがミセルのようにして集まることで,親水部がむき出しになり、水を離しやすくなっていると考えられる。
【0059】
実施例5~7および比較例1~3の温度応答性材料について、紫外可視分光光度計(V-670、Spectrophotometer、JASCO製)による光透過率測定を行うと共に、動的光散乱計(Malvern製、Zetasizer Nano ZS)を用いて動的光散乱法(DLS)による粒子径測定を行ない、LCSTを確認した。それぞれ、20℃から40℃に温度を2℃ずつ上げて測定を行なった。光透過率測定については一定の波長において濁度を見るため700nmでの透過率をプロットした。
【0060】
(比較例1の温度応答性材料(実施例1の温度応答性高分子)のLCSTと粒径)
図11に示すように、比較例1の温度応答性材料について、光透過率測定では32℃から34℃にかけて、波長700nmでの透過率が93.0%から7.65%にまで減少した。DLSによる結果では同様に32℃から34℃にかけて粒径が47.3nmから347nmへと大きくなったことから、実施例1の温度応答性高分子のLCSTは34℃であることが判った。
【0061】
(比較例2の温度応答性材料(実施例2の温度応答性高分子)のLCSTと粒径
図12に示すように、比較例2の温度応答性材料について、光透過率測定では30℃から32℃にかけて、波長700nmでの透過率が92.6%から7.65%にまで減少した。DLSによる結果では同様に30℃から32℃にかけて粒径が46.8nmから330nmへと大きくなったことから、実施例2の温度応答性高分子のLCSTは32℃であることが判った。比較例2では、36℃以上では粒径は約30000nmほどになる。このように比較例2では、粒径が徐々に大きくなっていったことからランダム共重合体になっているのではないかと考えられる。
【0062】
(比較例3の温度応答性材料(実施例2の温度応答性高分子)のLCSTと粒径
図13に示すように、比較例3の温度応答性材料について、光透過率測定では36℃から38℃にかけて、波長700nmでの透過率が92.8%から2.89%にまで減少した。DLSによる結果では同様に36℃から38℃にかけて粒径が5.36nmから13500nmへと大きくなったことから、実施例3の温度応答性高分子のLCSTは38℃であることが判った。比較例3では、温度応答性高分子の粒径が36℃から38℃にかけて急に大きくなったことから、ブロック共重合体になっているのではないかと考えられる。
【0063】
このように、NIPAMより極性の低いモノマー(DEAA)を導入することで、LCSTを低くするように制御できる。また、NIPAMより極性の高いモノマー(HEAA)を導入することで、LCSTを高くするように制御できる。すなわち、主となるモノマーに疎水性のモノマー単位を導入して、得られる温度応答性高分子の極性を、主となるモノマーよりも疎水性に傾けると、LCSTが下がる。主となるモノマーに親水性のモノマー単位を導入して、得られる温度応答性高分子の極性を、親水性に傾けると、LCSTが上がる。
【0064】
図11に示すように、比較例1のLCSTを上回る温度での粒子径は300nmであるが、実施例5のようにCM-CNFを混ぜると10000nmと大きくなった。これは実施例5では、CM-CNFを取り込みながら凝集したことに起因すると考えられる。一方で、透過率はどちらも同じようなグラフの変化が得られた。よってCM-CNFをブレンドすることでLCSTの変化は生じなかった。
【0065】
図12に示すように、比較例2のLCSTを上回る温度での粒子径は、31000nmであるが、実施例6のようにCM-CNFを混ぜると10000nmと小さくなった。これは、CM-CNFがコポリマーの凝集を阻害し、ガラス上で不均一の巨大な凝集体を形成し、凝集体間で相分離を生じたことに起因すると考えられる。一方で、透過率はどちらも同じようなグラフの変化が得られた。よってCM-CNFをブレンドすることでLCSTの変化は生じなかった。
【0066】
図13に示すように、比較例3のLCSTを上回る温度での粒子径は、14000nmであるが、実施例7のようにCM-CNFを混ぜると10000nmと小さくなった。これは、CM-CNFがコポリマーの凝集を阻害し、ガラス上で不均一の巨大な凝集体を形成し、凝集体間で相分離を生じたことに起因すると考えられる。一方で、透過率はどちらも同じようなグラフの変化が得られた。よってCM-CNFをブレンドすることでLCSTの変化は生じなかった。
【0067】
実施例1の温度応答性高分子(0.5g)と、キチン/キトサンナノファイバー(0.5g)と、水(99ml)を配合して、実施例8の温度応答性材料を作製した。実施例8および比較例1の温度応答性材料について、紫外可視分光光度計V-670、Spectrophotometer、JASCO製)による光透過率測定を行うと共に、動的光散乱計(Malvern製、Zetasizer Nano ZS)を用いて動的光散乱法(DLS)による粒子径測定を行ない、LCSTを確認した。それぞれ、20℃から40℃に温度を2℃ずつ上げて測定を行なった。その結果を
図14に示す。光透過率測定については一定の波長において濁度を見るため700nmでの透過率をプロットした。
【0068】
実施例5~7および比較例1~3の温度応答性材料を用いて、遮光材を作製した。
図15に示すように、ガラス板(厚み:3mm)2枚の間に、スペーサー枠としてシリコンシート(厚み:1mm)を用いた。はじめに、1枚のガラス上にスペーサー枠を設置し、枠中に実施例5~7および比較例1~3の温度応答性材料を流し入れ、もう1枚のガラスで挟み込み、ガラスの縁をクリップで固定化して、実施例5~7の遮光材および比較例1~3の遮光材を作製した。
【0069】
実施例5~7の遮光材および比較例1~3の遮光材を用いて、遮熱特性を以下のように測定した。
図16に示すように、断熱箱の内部に気温記録装置を設置し、断熱箱の天井にあけた開口を覆うように遮光材を載置した。なお、
図16では遮光材を遮熱合わせガラスと表記している。そして、断熱箱の上方に設置した疑似太陽光照射機(光源)から光を、断熱箱の開口に向けて照射し、気温記録装置によって1秒毎の温度を記録した。結果を
図17~
図19に示す。
【0070】
図17~
図19に示すように、実施例5~7の遮光材は、ガラス板のみ参考例と比較して30分経過後、約8℃~9℃程度温度上昇抑制ができた。遮光材の中間に温度応答性材料が入ることによりエネルギーが分子の振動に使われたこと、また温度応答性材料が白濁することで熱線を吸収したことが原因であると考えられる。実施例5と比較例1とでは温度上昇抑制効果にあまり差は見られなかった(
図17参照)。一方で、実施例6と比較例2との関係や実施例7と比較例3との関係が示すように、多糖類の存在により温度上昇抑制効果の高くなっている(
図18および
図19参照)。
【0071】
表1に示すNIPAMおよび所定のモノマーを水に撹拌しながら溶解させた。TMEDを重合促進剤として加え、氷浴下(5℃で窒素置換を行なった。APS水溶液を重合開始材として加え、氷浴下で3時間反応させた。これにより、透明で粘度の高い反応液が得られたため、反応液をイオン交換水で希釈し、12~14kDaの透析膜で透析を3日行って、温度応答性高分子を得た。なお、各原料の仕込み量は、表1に示す通りである。得られた温度応答性高分子の1wt%水溶液とカルボキシメチルセルロースナノファイバー1wt%の水溶液を49.5mlずつ混ぜ合わせた。さらにPEDOT/CSの1wt%水溶液を1ml加えて、合計100mlの実施例9~11の温度応答性材料を調製した。
【0072】
【0073】
(近赤外線吸収材料)
図15に示すように、ガラス板(厚み:3mm)2枚の間に、スペーサー枠としてシリコンシート(厚み:1mm)を用いた。はじめに、1枚のガラス上にスペーサー枠を設置し、枠中に実施例9~11の温度応答性材料を流し入れ、もう1枚のガラスで挟み込み、ガラスの縁をクリップで固定化して、実施例9~11の遮光材を作製した。また、近赤外線吸収材料が配合されていない以外は、実施例9と同じ実施例12の遮光材、近赤外線吸収材料が配合されていない以外は、実施例10と同じ実施例13の遮光材、近赤外線吸収材料が配合されていない以外は、実施例11と同じ実施例14の遮光材をそれぞれ作製した。
【0074】
実施例9~14の遮光材を用いて、遮熱特性を以下のように測定した。
図16に示すように、断熱箱の内部に気温記録装置を設置し、断熱箱の天井にあけた開口を覆うように遮光材を載置した。なお、
図16では遮光材を遮熱合わせガラスと表記している。
【0075】
実施例9の遮光材および実施例12の遮光材について、断熱箱の上方に設置した疑似太陽光照射機(光源)から光を、断熱箱の開口に向けて照射し、気温記録装置によって1秒毎の温度を記録した。結果を
図20に示す。実施例9の遮光材は、白濁開始が3.06分で全面が白濁するまでに10分かかったのに対して、近赤外吸収材が無添加である実施例12の遮光ガラスは、白濁開始が3.21分で全面が白濁するまでに10.5分であった。また、疑似太陽光を30分間照射後の断熱箱の温度を比較したところ、実施例9の遮光材では、36.5℃であったのに対して、赤外吸収材が無添加である実施例12遮熱合わせガラスを用いた場合は、37.3℃であった。このように、実施例9の遮光材の方が、近赤外線吸収材料が配合されていない実施例12よりも白濁化が早く起こり、温度抑制効果も高いことが判る。
【0076】
実施例10の遮光材および実施例13の遮光材について、断熱箱の上方に設置した疑似太陽光照射機(光源)から光を、断熱箱の開口に向けて照射し、気温記録装置によって1秒毎の温度を記録した。結果を
図21に示す。実施例10の遮光材は、白濁開始が1.50分で全面が白濁するまでに7.72分かかったのに対して、近赤外吸収材が無添加である実施例13の遮光ガラスは、白濁開始が2.07分で全面が白濁するまでに8.73分であった。また、疑似太陽光を30分間照射後の断熱箱の温度を比較したところ、実施例10の遮光材では、35.5℃であったのに対して、赤外吸収材が無添加である実施例13遮熱合わせガラスを用いた場合は、36.8℃であった。このように、実施例10の遮光材の方が、近赤外線吸収材料が配合されていない実施例13よりも白濁化が早く起こり、温度抑制効果も高いことが判る。
【0077】
実施例11の遮光材および実施例14の遮光材について、断熱箱の上方に設置した疑似太陽光照射機(光源)から光を、断熱箱の開口に向けて照射し、気温記録装置によって1秒毎の温度を記録した。結果を
図22に示す。実施例11の遮光材は、白濁開始が5.17分で全面が白濁するまでに12.6分かかったのに対して、近赤外吸収材が無添加である実施例14の遮光ガラスは、白濁開始が6.48分で全面が白濁するまでに16.0分であった。また、疑似太陽光を30分間照射後の断熱箱の温度を比較したところ、実施例11の遮光材では、35.5℃であったのに対して、赤外吸収材が無添加である実施例14遮熱合わせガラスを用いた場合は、37.1℃であった。このように、実施例11の遮光材の方が、近赤外線吸収材料が配合されていない実施例14よりも白濁化が早く起こり、温度抑制効果も高いことが判る。
【0078】
前述の実施例13および実施例14の遮光材について、白濁時の状況を観察した。また、多糖類が配合されていない以外は、実施例13と同じ対比例1の遮光材、多糖類が配合されていない以外は、実施例14と同じ対比例2の遮光材をそれぞれ作製し、これらについても白濁時の状況を観察した。
図23および
図25に示すように、多糖類が配合されている温度応答性材料を用いた実施例は、均一に白濁していることが判る。これに対して、
図24および
図26に示すように、多糖類が配合されていない温度応答性材料を用いた対比例は、白濁時にひび割れが生じてしまう。このように、実施例の温度応答性材料は、多糖類を配合することで、LCSTを上回る温度になったときに透明度を均一に変化させることができる。
【符号の説明】
【0079】
10 遮光材,12 透明材,14 温度応答性材料