(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームに適した平面展開データを作成する方法、その平面展開データの作成プログラム、及び、3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームを生産する方法
(51)【国際特許分類】
G06F 30/10 20200101AFI20241004BHJP
G06F 30/23 20200101ALI20241004BHJP
B29C 70/38 20060101ALI20241004BHJP
B29C 70/54 20060101ALI20241004BHJP
G06F 113/26 20200101ALN20241004BHJP
【FI】
G06F30/10 100
G06F30/23
B29C70/38
B29C70/54
G06F113:26
(21)【出願番号】P 2020185687
(22)【出願日】2020-11-06
【審査請求日】2023-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】592032636
【氏名又は名称】学校法人トヨタ学園
(73)【特許権者】
【識別番号】000219749
【氏名又は名称】株式会社TISM
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下田 昌利
(72)【発明者】
【氏名】梅村 元稀
(72)【発明者】
【氏名】吉川 勝治
【審査官】松浦 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-091477(JP,A)
【文献】国際公開第2014/157013(WO,A1)
【文献】特開2013-131214(JP,A)
【文献】「自動車軽量化炭素繊維強化複合材料の研究開発」事後評価報告書 [online],独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構研究,2009年02月,pp. III-11 - III-26,[検索日 2014.06.06],インターネット<URL:https://web.archive.org/web/20130221164734/https://www.nedo.go.jp/content/100096702.pdf>
【文献】枡井大亮 外1名,進化的計算による自由曲面の領域分割,2004年度人工知能学会全国大会(第18回)論文集 [CD-ROM],社団法人人工知能学会,2004年,pp. 1 - 2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00 -30/28
B29C 70/00 -70/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺の連続繊維が曲面をなすように配置された構成をなす3次元構造体である3次元繊維強化複合材料シェル構造物について、
前記連続繊維が平面をなすように配置された構成をなす平面物であり、
かつ、
前記3次元繊維強化複合材料シェル構造物をなすようにたわめることが可能とされた平面物である、
プリフォームの設計データたる平面展開データを作成する、3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームに適した平面展開データを作成する方法であって、
前記曲面を表す3次元有限要素モデルであり、3種類以上の弾性率を含む材料物性値が各節点に設定された3次元有限要素モデルである第1のモデルに対して、当該第1のモデルに強制変位を与える函数である強制変位函数を適用し、もって前記第1のモデルを平面状の2次元有限要素モデルである第2のモデルにする、対応する点への写像を行う、対応する点への写像ステップと、
前記第2のモデルにおける、前記強制変位函数によってもたらされたひずみエネルギーに対応するパラメーターの分布を求める第1のパラメーター分布導出ステップと、
前記第2のモデルにおける境界上の節点のうち、前記パラメーターが所定の基準たる第1の基準に照らして大となる部分の節点を分離するカットラインを前記第2のモデルに入れ、もって前記カットラインが入れられた2次元有限要素モデルである第3のモデルを作成する第3のモデル作成ステップと、
前記第3のモデルを、当該第3のモデルに対応するモデルであり、前記連続繊維の配置の情報を付加することが可能なモデルである第4のモデルとする第4のモデル作成ステップと、
前記第4のモデルに前記連続繊維の配置の情報を付加し、もって前記第4のモデルを前記平面展開データとする配置情報付加ステップと、
を有している、
3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームに適した平面展開データを作成する方法。
【請求項2】
請求項1に記載された3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームに適した平面展開データを作成する方法であって、
前記第3のモデル作成ステップが、
前記第2のモデルにおける境界上の節点のうち、前記パラメーターが前記第1の基準に照らして大となる部分の節点を分離し、もって前記第2のモデルの内部側に延びる亀裂を前記第2のモデルに形成する亀裂形成ステップと、
前記亀裂を、当該亀裂の先端に隣接する前記第2のモデルの節点のうちの1つを進展先として進展させる進展ステップと、
前記進展ステップを経た前記第2のモデルにおける前記パラメーターの分布を求める第2のパラメーター分布導出ステップと、
前記第2のパラメーター分布導出ステップによって求められる前記パラメーターが、所定の基準たる第2の基準に照らして少ないと判定されるまでの間、前記進展ステップと前記第2のパラメーター分布導出ステップとを繰り返す(iterate)繰り返しステップと、
前記繰り返しステップを経た前記第2のモデルにおける前記亀裂を前記カットラインとして設定し、もって前記第2のモデルを前記第3のモデルとするカットライン設定ステップと、
を有している、
3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームに適した平面展開データを作成する方法。
【請求項3】
請求項2に記載された3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームに適した平面展開データを作成する方法であって、
前記亀裂形成ステップを経た前記第2のモデルにおいて、前記亀裂の先端に隣接して前記進展先に設定されうる節点をピックアップするピックアップステップと、
前記ピックアップステップにてピックアップされた各節点について、前記亀裂の先端をなす節点から見た前記パラメーターの勾配を求める勾配導出ステップと、
前記進展先の候補となる節点を、
前記ピックアップステップにてピックアップされた節点のうち、節点が前記進展先に設定されて前記進展ステップが実行された際の前記亀裂の変曲が最小となる節点と、
前記ピックアップステップにてピックアップされた節点のうち、前記勾配が最小となる節点と、
に絞り込む絞り込みステップと、
を有している、
3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームに適した平面展開データを作成する方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のうちのいずれか1項に記載された3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームに適した平面展開データを作成する方法であって、
前記第2のモデルが、所定のエネルギー最小化問題の最適解とみなすことができる形状の2次元有限要素モデルであり、
エネルギー最小化問題は、
その制約条件を、2次元有限要素モデルの面積が所定値であるという条件とし、
かつ、
その目的函数を、前記制約条件を満たす2次元有限要素モデルを、前記曲面を表す3次元有限要素モデルである第5のモデルにする、対応する点への写像を行うことで、当該第5のモデルにもたらされるひずみエネルギーとしたものである、
3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームに適した平面展開データを作成する方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のうちのいずれか1項に記載された3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームに適した平面展開データを作成する方法であって、
前記第4のモデル作成ステップにおいて、前記第4のモデルを、前記第3のモデルの形状を調整することによって作成し、
前記第4のモデルの形状が、所定のエネルギー最小化問題の最適解とみなすことができる形状であり、
エネルギー最小化問題は、
その初期形状を前記第3のモデルとし、
その制約条件を、2次元有限要素モデルの面積が前記第3のモデルの面積と等しい所定値であるという条件とし、
かつ、
その目的函数を、前記制約条件を満たす2次元有限要素モデルが前記曲面を表す3次元有限要素モデルである第5のモデルにする、対応する点への写像がされた際に、当該第5のモデルにもたらされるひずみエネルギーとしたものである、
3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームに適した平面展開データを作成する方法。
【請求項6】
長尺の連続繊維が曲面をなすように配置された構成をなす3次元構造体である3次元繊維強化複合材料シェル構造物について、
前記連続繊維が平面をなすように配置された構成をなす平面物であり、
かつ、
前記3次元繊維強化複合材料シェル構造物をなすようにたわめることが可能とされた平面物である、
プリフォームの設計データたる平面展開データを作成する、3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームに適した平面展開データを作成する方法を、コンピューターに実現させる平面展開データの作成プログラムであって、
前記コンピューターに、
前記曲面を表す3次元有限要素モデルであり、3種類以上の弾性率を含む材料物性値が各節点に設定された3次元有限要素モデルである第1のモデルに対して、当該第1のモデルに強制変位を与える函数である強制変位函数を適用し、もって前記第1のモデルを平面状の2次元有限要素モデルである第2のモデルに対応する点への写像を行う対応する点への写像機能と、
前記第2のモデルにおける、前記強制変位函数によってもたらされたひずみエネルギーに対応するパラメーターの分布を求める第1のパラメーター分布導出機能と、
前記第2のモデルにおける境界上の節点のうち、前記パラメーターが所定の基準たる第1の基準に照らして大となる部分の節点を分離するカットラインを前記第2のモデルに入れ、もって前記カットラインが入れられた2次元有限要素モデルである第3のモデルを作成する第3のモデル作成機能と、
前記第3のモデルを、当該第3のモデルに対応するモデルであり、前記連続繊維の配置の情報を付加することが可能なモデルである第4のモデルとする第4のモデル作成機能と、
前記第4のモデルに前記連続繊維の配置の情報を付加し、もって前記第4のモデルを前記平面展開データとする配置情報付加機能と、
を含む機能を実現させる、
平面展開データの作成プログラム。
【請求項7】
請求項6に記載された平面展開データの作成プログラムであって、
前記コンピューターに前記第3のモデル作成機能を実現させるにあたり、前記コンピューターに、
前記第2のモデルにおける境界上の節点のうち、前記パラメーターが前記第1の基準に照らして大となる部分の節点を分離し、もって前記第2のモデルの内部側に延びる亀裂を前記第2のモデルに形成する亀裂形成機能と、
前記亀裂を、当該亀裂の先端に隣接する前記第2のモデルの節点のうちの1つを進展先として進展させる進展機能と、
前記進展機能を経て得られる前記第2のモデルにおける前記パラメーターの分布を求める第2のパラメーター分布導出機能と、
前記第2のパラメーター分布導出機能によって求められる前記パラメーターが、所定の基準たる第2の基準に照らして少ないと判定されるまでの間、前記進展機能と前記第2のパラメーター分布導出機能とを繰り返し(iterate)前記コンピューターに実現させる繰り返し機能と、
前記繰り返し機能を経て得られる前記第2のモデルにおける前記亀裂を前記カットラインとして設定し、もって前記第2のモデルを前記第3のモデルとするカットライン設定機能と、
を含む機能を実現させる、
平面展開データの作成プログラム。
【請求項8】
請求項7に記載された平面展開データの作成プログラムであって、
さらに、前記コンピューターに、
前記亀裂形成機能を経て得られる前記第2のモデルにおいて、前記亀裂の先端に隣接して前記進展先に設定されうる節点をピックアップするピックアップ機能と、
前記ピックアップ機能によってピックアップされた各節点について、前記亀裂の先端をなす節点から見た前記パラメーターの勾配を求める勾配導出機能と、
前記進展先の候補となる節点を、
前記ピックアップ機能によってピックアップされた節点のうち、節点が前記進展先に設定されて前記進展機能が実現された際の前記亀裂の変曲が最小となる節点と、
前記ピックアップ機能によってピックアップされた節点のうち、前記勾配が最小となる節点と、
に絞り込む絞り込み機能と、
を含む機能を実現させる、
平面展開データの作成プログラム。
【請求項9】
請求項6ないし請求項8のうちのいずれか1項に記載された平面展開データの作成プログラムであって、
前記第2のモデルが、所定のエネルギー最小化問題の最適解とみなすことができる形状の2次元有限要素モデルであり、
エネルギー最小化問題は、
その制約条件を、2次元有限要素モデルの面積が所定値であるという条件とし、
かつ、
その目的函数を、前記制約条件を満たす2次元有限要素モデルを、前記曲面を表す3次元有限要素モデルである第5のモデルにする、対応する点への写像を行うことで、当該第5のモデルにもたらされるひずみエネルギーとしたものである、
平面展開データの作成プログラム。
【請求項10】
請求項6ないし請求項9のうちのいずれか1項に記載された平面展開データの作成プログラムであって、
前記第4のモデル作成機能が、前記第4のモデルを、前記第3のモデルの形状を調整することによって作成する機能であり、
前記第4のモデルの形状が、所定のエネルギー最小化問題の最適解とみなすことができる形状であり、
エネルギー最小化問題は、
その初期形状を前記第3のモデルとし、
その制約条件を、2次元有限要素モデルの面積が前記第3のモデルの面積と等しい所定値であるという条件とし、
かつ、
その目的函数を、前記制約条件を満たす2次元有限要素モデルを、前記曲面を表す3次元有限要素モデルである第5のモデルにする、対応する点への写像がされた際に、当該第5のモデルにもたらされるひずみエネルギーとしたものである、
平面展開データの作成プログラム。
【請求項11】
長尺の連続繊維が曲面をなすように配置された構成をなす3次元構造体である3次元繊維強化複合材料シェル構造物について、
前記連続繊維が平面をなすように配置された構成をなす平面物であり、
かつ、
前記3次元繊維強化複合材料シェル構造物をなすようにたわめることが可能とされた平面物である、
プリフォームを生産する、3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームを生産する方法であって、
前記曲面を表す3次元有限要素モデルであり、3種類以上の弾性率を含む材料物性値が各節点に設定された3次元有限要素モデルである第1のモデルに対して、当該第1のモデルに強制変位を与える函数である強制変位函数を適用し、もって前記第1のモデルを平面状の2次元有限要素モデルである第2のモデルに対応する点への写像を行う対応する点への写像ステップと、
前記第2のモデルにおける、前記強制変位函数によってもたらされたひずみエネルギーに対応するパラメーターの分布を求める第1のパラメーター分布導出ステップと、
前記第2のモデルにおける境界上の節点のうち、前記パラメーターが所定の基準たる第1の基準に照らして大となる部分の節点を分離するカットラインを前記第2のモデルに入れ、もって前記カットラインが入れられた2次元有限要素モデルである第3のモデルを作成する第3のモデル作成ステップと、
前記第3のモデルを、当該第3のモデルに対応するモデルであり、前記連続繊維の配置の情報を付加することが可能なモデルである第4のモデルとする第4のモデル作成ステップと、
前記第4のモデルに前記連続繊維の配置の情報を付加し、もって前記第4のモデルを前記プリフォームの設計データたる平面展開データとする配置情報付加ステップと、
前記平面展開データをCAMデータとし、当該CAMデータに基づいて前記プリフォームを生産する生産ステップと、
を有している、
3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームを生産する方法。
【請求項12】
請求項11に記載された3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームを生産する方法であって、
前記第3のモデル作成ステップが、
前記第2のモデルにおける境界上の節点のうち、前記パラメーターが前記第1の基準に照らして大となる部分の節点を分離し、もって前記第2のモデルの内部側に延びる亀裂を前記第2のモデルに形成する亀裂形成ステップと、
前記亀裂を、当該亀裂の先端に隣接する前記第2のモデルの節点のうちの1つを進展先として進展させる進展ステップと、
前記進展ステップを経た前記第2のモデルにおける前記パラメーターの分布を求める第2のパラメーター分布導出ステップと、
前記第2のパラメーター分布導出ステップによって求められる前記パラメーターが、所定の基準たる第2の基準に照らして少ないと判定されるまでの間、前記進展ステップと前記第2のパラメーター分布導出ステップとを繰り返す(iterate)繰り返しステップと、
前記繰り返しステップを経た前記第2のモデルにおける前記亀裂を前記カットラインとして設定し、もって前記第2のモデルを前記第3のモデルとするカットライン設定ステップと、
を有している、
3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームを生産する方法。
【請求項13】
請求項12に記載された3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームを生産する方法であって、
前記亀裂形成ステップを経た前記第2のモデルにおいて、前記亀裂の先端に隣接して前記進展先に設定されうる節点をピックアップするピックアップステップと、
前記ピックアップステップにてピックアップされた各節点について、前記亀裂の先端をなす節点から見た前記パラメーターの勾配を求める勾配導出ステップと、
前記進展先の候補となる節点を、
前記ピックアップステップにてピックアップされた節点のうち、節点が前記進展先に設定されて前記進展ステップが実行された際の前記亀裂の変曲が最小となる節点と、
前記ピックアップステップにてピックアップされた節点のうち、前記勾配が最小となる節点と、
に絞り込む絞り込みステップと、
を有している、
3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームを生産する方法。
【請求項14】
請求項11ないし請求項13のうちのいずれか1項に記載された3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームを生産する方法であって、
前記第2のモデルが、所定のエネルギー最小化問題の最適解とみなすことができる形状の2次元有限要素モデルであり、
エネルギー最小化問題は、
その制約条件を、2次元有限要素モデルの面積が所定値であるという条件とし、
かつ、
その目的函数を、前記制約条件を満たす2次元有限要素モデルを、前記曲面を表す3次元有限要素モデルである第5のモデルに対応する点への写像を行うことで、当該第5のモデルにもたらされるひずみエネルギーとしたものである、
3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームを生産する方法。
【請求項15】
請求項11ないし請求項14のうちのいずれか1項に記載された3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームを生産する方法であって、
前記第4のモデル作成ステップにおいて、前記第4のモデルを、前記第3のモデルの形状を調整することによって作成し、
前記第4のモデルの形状が、所定のエネルギー最小化問題の最適解とみなすことができる形状であり、
エネルギー最小化問題は、
その初期形状を前記第3のモデルとし、
その制約条件を、2次元有限要素モデルの面積が前記第3のモデルの面積と等しい所定値であるという条件とし、
かつ、
その目的函数を、前記制約条件を満たす2次元有限要素モデルが前記曲面を表す3次元有限要素モデルである第5のモデルにする、対応する点への写像がされた際に、当該第5のモデルにもたらされるひずみエネルギーとしたものである、
3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームを生産する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームに適した平面展開データを作成する方法、その平面展開データの作成プログラム、及び、3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームを生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、3次元形状の曲面をなす3次元繊維強化複合材料シェル構造物を、例えばプリプレグテープなどの、長尺の連続繊維を含んでなる複合材料によって生産することがあった。これに関しては、連続繊維が平面をなす配置で複合材料が積層された平面状のプリフォームを作成し、このプリフォームをたわめたものを、3次元繊維強化複合材料シェル構造物に固めて成形する技術が公知であった(例えば下記の特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の技術では、曲面の3次元形状を扁平化するシミュレーションを行い、平面形状に広げられたプリフォームが得られるようにこのプリフォームにカットラインを設定するところ、このカットラインによる3次元繊維強化複合材料シェル構造物の強度への影響を考慮していなかった。すなわち、プリプレグテープは、その連続繊維が延びる方向についての強度が他の方向についての強度よりも大であるため、プリフォームにおいてその連続繊維を断ち切るカットラインが設定されると、このプリフォームから生産される3次元繊維強化複合材料シェル構造物の強度が低下するおそれがあった。
【0005】
本開示は、3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームに設定されるカットラインの配置を、このプリフォームにおける連続繊維の断ち切りがより少なくなるように設定することで、このカットラインによる3次元繊維強化複合材料シェル構造物の強度低下の度合いを減らすことを可能とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示における1つの特徴によると、長尺の連続繊維が曲面をなすように配置された構成をなす3次元構造体である3次元繊維強化複合材料シェル構造物について、この3次元繊維強化複合材料シェル構造物をなすようにたわめることが可能とされた平面物である、プリフォームの設計データたる平面展開データを作成する、3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームに適した平面展開データを作成する方法が提供される。ここで、プリフォームは、連続繊維が平面をなすように配置された構成をなす平面物である。上記3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームに適した平面展開データを作成する方法は、上記曲面を表す3次元有限要素モデルであり、3種類以上の弾性率を含む材料物性値が各節点に設定された3次元有限要素モデルである第1のモデルに対して、この第1のモデルに強制変位を与える函数である強制変位函数を適用し、もって第1のモデルを平面状の2次元有限要素モデルである第2のモデルとする、対応する点への写像を行う、対応する点への写像ステップを有している。また、上記3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームに適した平面展開データを作成する方法は、第2のモデルにおける、強制変位函数によってもたらされたひずみエネルギーに対応するパラメーターの分布を求める第1のパラメーター分布導出ステップを有している。また、上記3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームに適した平面展開データを作成する方法は、第2のモデルにおける境界上の節点のうち、上記パラメーターが所定の基準たる第1の基準に照らして大となる部分の節点を分離するカットラインを第2のモデルに入れ、もってカットラインが入れられた2次元有限要素モデルである第3のモデルを作成する第3のモデル作成ステップを有している。また、上記3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームに適した平面展開データを作成する方法は、第3のモデルを、この第3のモデルに対応するモデルであり、連続繊維の配置の情報を付加することが可能なモデルである第4のモデルとする第4のモデル作成ステップを有している。また、上記3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームに適した平面展開データを作成する方法は、第4のモデルに連続繊維の配置の情報を付加し、もって第4のモデルを平面展開データとする配置情報付加ステップを有している。
【0007】
上記の3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームに適した平面展開データを作成する方法によれば、第1のモデルの各節点に3種類以上の弾性率を含む材料物性値が設定されることで、方向によって強度や性質が違う異方性材料からなる3次元繊維強化複合材料シェル構造物のモデル化が可能となる。さらに、平面展開データを、3次元有限要素モデルと2次元有限要素モデルとの対応する点への写像において生じるひずみエネルギーが第1の基準に照らして大となる部分が、カットラインによって分離された第4のモデルに、連続繊維の配置の情報を付加したものとして作成することができる。これにより、プリフォームにおける連続繊維の断ち切りがより少なくなるようにカットラインを設定して、このカットラインによる3次元繊維強化複合材料シェル構造物の強度低下の度合いを減らすことができる。
【0008】
上記の3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームに適した平面展開データを作成する方法においては、第3のモデル作成ステップが、後述する亀裂形成ステップと、進展ステップと、第2のパラメーター分布導出ステップと、繰り返しステップと、カットライン設定ステップと、を有しているものが好ましい。ここで、亀裂形成ステップは、第2のモデルにおける境界上の節点のうち、上記パラメーターが第1の基準に照らして大となる部分の節点を分離し、もって第2のモデルの内部側に延びる亀裂を第2のモデルに形成するステップである。また、進展ステップは、亀裂を、この亀裂の先端に隣接する第2のモデルの節点のうちの1つを進展先として進展させるステップである。また、第2のパラメーター分布導出ステップは、進展ステップを経た第2のモデルにおける上記パラメーターの分布を求めるステップである。また、繰り返しステップは、第2のパラメーター分布導出ステップによって求められるパラメーターが、所定の基準たる第2の基準に照らして少ないと判定されるまでの間、進展ステップと第2のパラメーター分布導出ステップとを繰り返す(iterate)ステップである。また、カットライン設定ステップは、繰り返しステップを経た第2のモデルにおける亀裂をカットラインとして設定し、もって第2のモデルを第3のモデルとするステップである。
【0009】
上記の3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームに適した平面展開データを作成する方法によれば、プリフォームの平面展開データにおけるカットラインは、3次元有限要素モデルと2次元有限要素モデルとの対応する点への写像において生じるひずみエネルギーを、第2の基準に照らして少ないと判定される程度にまで小さくする。これにより、平面展開データから得られるプリフォームを、3次元繊維強化複合材料シェル構造物をなすようにたわめる際におけるひずみエネルギーを減らすことができる。
【0010】
上記の3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームに適した平面展開データを作成する方法においては、下記の各ステップを有しているものが好ましい。すなわち、3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームに適した平面展開データを作成する方法は、亀裂形成ステップを経た第2のモデルにおいて、亀裂の先端に隣接して進展先に設定されうる節点をピックアップするピックアップステップを有している。また、3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームに適した平面展開データを作成する方法は、ピックアップステップにてピックアップされた各節点について、亀裂の先端をなす節点から見た上記パラメーターの勾配を求める勾配導出ステップを有している。また、3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームに適した平面展開データを作成する方法は、上記進展先の候補となる節点を、ピックアップステップにてピックアップされた節点のうち、節点が進展先に設定されて進展ステップが実行された際の亀裂の変曲が最小となる節点と、ピックアップステップにてピックアップされた節点のうち、上記勾配が最小となる節点と、に絞り込む絞り込みステップを有している。
【0011】
有限要素モデルにおいて隣接する節点同士は、これらにかかる応力の条件が近しいため、これら節点の間の上記パラメーターの勾配には、各節点におけるひずみの条件の違い、ひいては、各節点における弾性率の違いが強く表れる。これに対し、上記の3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームに適した平面展開データを作成する方法によれば、亀裂の進展先の候補を、亀裂の変曲および弾性率の変化の少なくとも一方が抑えられるように選択することで、プリフォームに設定されるカットラインがこのプリフォームにおいて強度の高い部分を断ち切るものとなり、このカットラインにより3次元繊維強化複合材料シェル構造物の強度が低下されるおそれを減らすことができる。
【0012】
上記の3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームに適した平面展開データを作成する方法においては、第2のモデルが、所定のエネルギー最小化問題の最適解とみなすことができる形状の2次元有限要素モデルであるものが好ましい。ここで、エネルギー最小化問題は、その制約条件を、2次元有限要素モデルの面積が所定値であるという条件としている。かつ、エネルギー最小化問題は、その目的函数を、制約条件を満たす2次元有限要素モデルを、上記曲面を表す3次元有限要素モデルである第5のモデルにする、対応する点への写像を行うことで、この第5のモデルにもたらされるひずみエネルギーとしている。
【0013】
上記の3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームに適した平面展開データを作成する方法によれば、プリフォームの平面展開データは、3次元有限要素モデルと2次元有限要素モデルとの対応する点への写像において生じるひずみエネルギーが最小となる2次元有限要素モデルに基づいて作成される。これにより、平面展開データから生産されるプリフォームをたわめて曲面をなす3次元繊維強化複合材料シェル構造物にする際に生じるひずみエネルギーを抑えることができる。
【0014】
上記の3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームに適した平面展開データを作成する方法においては、第4のモデル作成ステップにおいて、第4のモデルを、第3のモデルの形状を調整することによって作成するものが好ましい。ここで、第4のモデルの形状は、所定のエネルギー最小化問題の最適解とみなすことができる形状である。このエネルギー最小化問題は、その初期形状を第3のモデルとしている。かつ、エネルギー最小化問題は、その制約条件を、2次元有限要素モデルの面積が第3のモデルの面積と等しい所定値であるという条件としている。かつ、エネルギー最小化問題は、その目的函数を、制約条件を満たす2次元有限要素モデルが上記曲面を表す3次元有限要素モデルである第5のモデルにする、対応する点への写像がされた際に、この第5のモデルにもたらされるひずみエネルギーとしている。
【0015】
上記の3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームに適した平面展開データを作成する方法によれば、プリフォームの平面展開データは、3次元有限要素モデルと2次元有限要素モデルとの対応する点への写像において生じるひずみエネルギーが最小となるように第3のモデルを変形したものとして作成される。これにより、平面展開データから生産されるプリフォームをたわめて曲面をなす3次元繊維強化複合材料シェル構造物にする際に生じるひずみエネルギーを抑えることができる。
【0016】
また、長尺の連続繊維が曲面をなすように配置された構成をなす3次元構造体である3次元繊維強化複合材料シェル構造物について、この3次元繊維強化複合材料シェル構造物をなすようにたわめることが可能とされた平面物である、プリフォームの設計データたる平面展開データを作成する方法を、コンピューターに実現させる平面展開データの作成プログラムの開示も提供される。ここで、プリフォームは、連続繊維が平面をなすように配置された構成をなす平面物である。上記平面展開データの作成プログラムは、コンピューターに、上記曲面を表す3次元有限要素モデルであり、3種類以上の弾性率を含む材料物性値が各節点に設定された3次元有限要素モデルである第1のモデルに対して、この第1のモデルに強制変位を与える函数である強制変位函数を適用し、もって第1のモデルを平面状の2次元有限要素モデルである第2のモデルに対応する点への写像を行う対応する点への写像機能を含む機能を実現させる。また、上記平面展開データの作成プログラムは、コンピューターに、第2のモデルにおける、強制変位函数によってもたらされたひずみエネルギーに対応するパラメーターの分布を求める第1のパラメーター分布導出機能を含む機能を実現させる。また、上記平面展開データの作成プログラムは、コンピューターに、第2のモデルにおける境界上の節点のうち、上記パラメーターが所定の基準たる第1の基準に照らして大となる部分の節点を分離するカットラインを第2のモデルに入れ、もってカットラインが入れられた2次元有限要素モデルである第3のモデルを作成する第3のモデル作成機能を含む機能を実現させる。また、上記平面展開データの作成プログラムは、コンピューターに、第3のモデルを、この第3のモデルに対応するモデルであり、連続繊維の配置の情報を付加することが可能なモデルである第4のモデルとする第4のモデル作成機能を含む機能を実現させる。また、上記平面展開データの作成プログラムは、第4のモデルに連続繊維の配置の情報を付加し、もって第4のモデルを平面展開データとする配置情報付加機能を含む機能を実現させる。
【0017】
上記の平面展開データの作成プログラムによれば、第1のモデルの各節点に3種類以上の弾性率を含む材料物性値が設定されることで、方向によって強度や性質が違う異方性材料からなるシェル構造体のモデル化が可能となる。さらに、平面展開データを、3次元有限要素モデルと2次元有限要素モデルとの対応する点への写像において生じるひずみエネルギーが第1の基準に照らして大となる部分が、カットラインによって分離された第4のモデルに、連続繊維の配置の情報を付加したものとして作成することができる。これにより、プリフォームにおける連続繊維の断ち切りがより少なくなるようにカットラインを設定して、このカットラインによる3次元繊維強化複合材料シェル構造物の強度低下の度合いを減らすことができる。
【0018】
上記の平面展開データの作成プログラムにおいては、コンピューターに第3のモデル作成機能を実現させるにあたり、コンピューターに、後述する亀裂形成機能と、進展機能と、第2のパラメーター分布導出機能と、繰り返し機能と、カットライン設定機能と、を含む機能を実現させるものが好ましい。ここで、亀裂形成機能は、第2のモデルにおける境界上の節点のうち、上記パラメーターが第1の基準に照らして大となる部分の節点を分離し、もって第2のモデルの内部側に延びる亀裂を第2のモデルに形成する機能である。また、進展機能は、亀裂を、この亀裂の先端に隣接する第2のモデルの節点のうちの1つを進展先として進展させる機能である。また、第2のパラメーター分布導出機能は、進展機能を経て得られる第2のモデルにおける上記パラメーターの分布を求める機能である。また、繰り返し機能は、第2のパラメーター分布導出機能によって求められるパラメーターが、所定の基準たる第2の基準に照らして少ないと判定されるまでの間、進展機能と第2のパラメーター分布導出機能とを繰り返し(iterate)コンピューターに実現させる機能である。また、カットライン設定機能は、繰り返し機能を経て得られる第2のモデルにおける亀裂をカットラインとして設定し、もって第2のモデルを第3のモデルとする機能である。
【0019】
上記の平面展開データの作成プログラムによれば、プリフォームの平面展開データにおけるカットラインは、3次元有限要素モデルと2次元有限要素モデルとの対応する点への写像において生じるひずみエネルギーを、第2の基準に照らして少ないと判定される程度にまで小さくする。これにより、平面展開データから得られるプリフォームを、3次元繊維強化複合材料シェル構造物をなすようにたわめる際におけるひずみエネルギーを減らすことができる。
【0020】
上記の平面展開データの作成プログラムにおいては、コンピューターに下記の各機能を実現させるものが好ましい。この機能には、亀裂形成機能を経て得られる第2のモデルにおいて、亀裂の先端に隣接して進展先に設定されうる節点をピックアップするピックアップ機能が含まれる。また、上記機能には、ピックアップ機能によってピックアップされた各節点について、亀裂の先端をなす節点から見た上記パラメーターの勾配を求める勾配導出機能が含まれる。また、上記機能には、上記進展先の候補となる節点を、ピックアップ機能によってピックアップされた節点のうち、節点が進展先に設定されて進展機能が実現された際の亀裂の変曲が最小となる節点と、ピックアップ機能によってピックアップされた節点のうち、上記勾配が最小となる節点と、に絞り込む絞り込み機能を有している。
【0021】
有限要素モデルにおいて隣接する節点同士は、かかる応力の条件が近しいため、これら節点の間の上記パラメーターの勾配には、各節点におけるひずみの条件の違い、ひいては、各節点における弾性率の違いが強く表れる。これに対し、上記の平面展開データの作成プログラムによれば、亀裂の進展先の候補を、亀裂の変曲および弾性率の変化の少なくとも一方が抑えられるように選択することで、プリフォームに設定されるカットラインがこのプリフォームにおいて強度の高い部分を断ち切るものとなり、このカットラインにより次元繊維強化複合材料シェル構造物の強度が低下されるおそれを減らすことができる。
【0022】
上記の平面展開データの作成プログラムにおいては、第2のモデルが、所定のエネルギー最小化問題の最適解とみなすことができる形状の2次元有限要素モデルであるものが好ましい。ここで、エネルギー最小化問題は、その制約条件を、2次元有限要素モデルの面積が所定値であるという条件としている。かつ、エネルギー最小化問題は、その目的函数を、制約条件を満たす2次元有限要素モデルを、上記曲面を表す3次元有限要素モデルである第5のモデルにする、対応する点への写像を行うことで、この第5のモデルにもたらされるひずみエネルギーとしている。
【0023】
上記の平面展開データの作成プログラムによれば、プリフォームの平面展開データは、3次元有限要素モデルと2次元有限要素モデルとの対応する点への写像において生じるひずみエネルギーが最小となる2次元有限要素モデルに基づいて作成される。これにより、平面展開データから生産されるプリフォームをたわめて曲面をなす3次元繊維強化複合材料シェル構造物にする際に生じるひずみエネルギーを抑えることができる。
【0024】
上記の平面展開データの作成プログラムにおいては、第4のモデル作成機能が、第4のモデルを、第3のモデルの形状を調整することによって作成する機能であるものが好ましい。ここで、第4のモデルの形状は、所定のエネルギー最小化問題の最適解とみなすことができる形状を呈するモデルである。このエネルギー最小化問題は、その初期形状を第3のモデルとしている。かつ、エネルギー最小化問題は、その制約条件を、2次元有限要素モデルの面積が第3のモデルの面積と等しい所定値であるという条件としている。かつ、エネルギー最小化問題は、その目的函数を、制約条件を満たす2次元有限要素モデルが上記曲面を表す3次元有限要素モデルである第5のモデルにする、対応する点への写像がされた際に、この第5のモデルにもたらされるひずみエネルギーとしている。
【0025】
上記の平面展開データの作成プログラムによれば、プリフォームの平面展開データは、3次元有限要素モデルと2次元有限要素モデルとの対応する点への写像において生じるひずみエネルギーが最小となるように第3のモデルを変形したものとして作成される。これにより、平面展開データから生産されるプリフォームをたわめて曲面をなす3次元繊維強化複合材料シェル構造物にする際に生じるひずみエネルギーを抑えることができる。
【0026】
また、長尺の連続繊維が曲面をなすように配置された構成をなす3次元構造体である3次元繊維強化複合材料シェル構造物について、この3次元繊維強化複合材料シェル構造物をなすようにたわめることが可能とされた平面物であるプリフォームを生産する、3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームを生産する方法の開示も提供される。ここで、プリフォームは、連続繊維が平面をなすように配置された構成をなす平面物である。上記3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームを生産する方法は、上記曲面を表す3次元有限要素モデルであり、3種類以上の弾性率を含む材料物性値が各節点に設定された3次元有限要素モデルである第1のモデルに対して、この第1のモデルに強制変位を与える函数である強制変位函数を適用し、もって第1のモデルを平面状の2次元有限要素モデルである第2のモデルに対応する点への写像を行う対応する点への写像ステップを有している。また、上記3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームを生産する方法は、第2のモデルにおける、強制変位函数によってもたらされたひずみエネルギーに対応するパラメーターの分布を求める第1のパラメーター分布導出ステップを有している。また、上記3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームを生産する方法は、第2のモデルにおける境界上の節点のうち、上記パラメーターが所定の基準たる第1の基準に照らして大となる部分の節点を分離するカットラインを第2のモデルに入れ、もってカットラインが入れられた2次元有限要素モデルである第3のモデルを作成する第3のモデル作成ステップを有している。また、上記3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームを生産する方法は、第3のモデルを、この第3のモデルに対応するモデルであり、連続繊維の配置の情報を付加することが可能なモデルである第4のモデルとする第4のモデル作成ステップを有している。また、上記3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームを生産する方法は、第4のモデルに連続繊維の配置の情報を付加し、もって第4のモデルを平面展開データとする配置情報付加ステップを有している。また、上記3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームを生産する方法は、平面展開データをCAMデータとし、このCAMデータに基づいてプリフォームを生産する生産ステップを有している。
【0027】
ここで、「CAMデータ」とは、物品の生産装置に入力されることで、この生産装置が上記物品を生産することを実現させるデータのことをいう。このようなCAMデータの具体例としては、例えば、刺しゅう機に入力される刺しゅうデータ、NC加工装置に入力されるNCデータ、および、産業用ロボットに入力されるティーチングデータなどが挙げられる。
【0028】
上記の3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームを生産する方法によれば、第1のモデルの各節点に3種類以上の弾性率を含む材料物性値が設定されることで、方向によって強度や性質が違う異方性材料からなる3次元繊維強化複合材料シェル構造物のモデル化が可能となる。さらに、プリフォームを、3次元有限要素モデルと2次元有限要素モデルとの対応する点への写像において生じるひずみエネルギーが第1の基準に照らして大となる部分が、カットラインによって分離された第4のモデルに、連続繊維の配置の情報を付加してなる平面展開データから生産することができる。これにより、プリフォームにおける連続繊維の断ち切りがより少なくなるようにカットラインを設定して、このカットラインによる3次元繊維強化複合材料シェル構造物の強度低下の度合いを減らすことができる。
【0029】
上記の3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームを生産する方法においては、第3のモデル作成ステップが、後述する亀裂形成ステップと、進展ステップと、第2のパラメーター分布導出ステップと、繰り返しステップと、カットライン設定ステップと、を有しているものが好ましい。ここで、亀裂形成ステップは、第2のモデルにおける境界上の節点のうち、上記パラメーターが第1の基準に照らして大となる部分の節点を分離し、もって第2のモデルの内部側に延びる亀裂を第2のモデルに形成するステップである。また、進展ステップは、亀裂を、この亀裂の先端に隣接する第2のモデルの節点のうちの1つを進展先として進展させるステップである。また、第2のパラメーター分布導出ステップは、進展ステップを経た第2のモデルにおける上記パラメーターの分布を求めるステップである。また、繰り返しステップは、第2のパラメーター分布導出ステップによって求められるパラメーターが、所定の基準たる第2の基準に照らして少ないと判定されるまでの間、進展ステップと第2のパラメーター分布導出ステップとを繰り返す(iterate)ステップである。また、カットライン設定ステップは、繰り返しステップを経た第2のモデルにおける亀裂をカットラインとして設定し、もって第2のモデルを第3のモデルとするステップである。
【0030】
上記の3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームを生産する方法によれば、プリフォームの平面展開データにおけるカットラインは、3次元有限要素モデルと2次元有限要素モデルとの対応する点への写像において生じるひずみエネルギーを、第2の基準に照らして少ないと判定される程度にまで小さくする。これにより、3次元繊維強化複合材料シェル構造物をなすようにプリフォームをたわめる際におけるひずみエネルギーを減らすことができる。
【0031】
上記の3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームを生産する方法においては、下記の各ステップを有しているものが好ましい。すなわち、3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームを生産する方法は、亀裂形成ステップを経た第2のモデルにおいて、亀裂の先端に隣接して進展先に設定されうる節点をピックアップするピックアップステップを有している。また、3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームを生産する方法は、ピックアップステップにてピックアップされた各節点について、亀裂の先端をなす節点から見た上記パラメーターの勾配を求める勾配導出ステップを有している。また、3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームを生産する方法は、上記進展先の候補となる節点を、ピックアップステップにてピックアップされた節点のうち、節点が進展先に設定されて進展ステップが実行された際の亀裂の変曲が最小となる節点と、ピックアップステップにてピックアップされた節点のうち、上記勾配が最小となる節点と、に絞り込む絞り込みステップを有している。
【0032】
有限要素モデルにおいて隣接する節点同士は、これらにかかる応力の条件が近しいため、これら節点の間の上記パラメーターの勾配には、各節点におけるひずみの条件の違い、ひいては、各節点における弾性率の違いが強く表れる。これに対し、上記の3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームを生産する方法によれば、亀裂の進展先の候補を、亀裂の変曲および弾性率の変化の少なくとも一方が抑えられるように選択することで、プリフォームに設定されるカットラインがこのプリフォームにおいて強度の高い部分を断ち切るものとなり、このカットラインにより3次元繊維強化複合材料シェル構造物の強度が低下されるおそれを減らすことができる。
【0033】
上記の3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームを生産する方法においては、第2のモデルが、所定のエネルギー最小化問題の最適解とみなすことができる形状の2次元有限要素モデルであるものが好ましい。ここで、エネルギー最小化問題は、その制約条件を、2次元有限要素モデルの面積が所定値であるという条件としている。かつ、エネルギー最小化問題は、その目的函数を、制約条件を満たす2次元有限要素モデルを、上記曲面を表す3次元有限要素モデルである第5のモデルに対応する点への写像を行うことで、この第5のモデルにもたらされるひずみエネルギーとしている。
【0034】
上記の3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームを生産する方法によれば、プリフォームは、3次元有限要素モデルと2次元有限要素モデルとの対応する点への写像において生じるひずみエネルギーが最小となる2次元有限要素モデルに基づいて生産される。これにより、プリフォームをたわめて曲面をなす3次元繊維強化複合材料シェル構造物にする際に生じるひずみエネルギーを抑えることができる。
【0035】
上記の3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームを生産する方法においては、第4のモデル作成ステップにおいて、第4のモデルを、第3のモデルの形状を調整することによって作成するものが好ましい。ここで、第4のモデルの形状は、所定のエネルギー最小化問題の最適解とみなすことができる形状である。このエネルギー最小化問題は、その初期形状を第3のモデルとしている。かつ、エネルギー最小化問題は、その制約条件を、2次元有限要素モデルの面積が第3のモデルの面積と等しい所定値であるという条件としている。かつ、エネルギー最小化問題は、その目的函数を、制約条件を満たす2次元有限要素モデルが上記曲面を表す3次元有限要素モデルである第5のモデルにする、対応する点への写像がされた際に、この第5のモデルにもたらされるひずみエネルギーとしている。
【0036】
上記の3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームを生産する方法によれば、プリフォームは、3次元有限要素モデルと2次元有限要素モデルとの対応する点への写像において生じるひずみエネルギーが最小となるように第3のモデルを変形した平面展開データから生産される。これにより、プリフォームをたわめて曲面をなす3次元繊維強化複合材料シェル構造物にする際に生じるひずみエネルギーを抑えることができる。
【発明の効果】
【0037】
本開示によれば、プリフォームに設定されるカットラインによる3次元繊維強化複合材料シェル構造物の強度低下の度合いを減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】本開示の一実施形態にかかる3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームを生産する方法を実現させるための概略構成を表したブロック図である。
【
図2】
図1の「CAMデータ」を作成する方法の概略を説明するための説明図である。
【
図3】
図1の「CAMデータ」を作成する方法を表したフローチャートである。
【
図4】
図3のサブルーチン1を表したフローチャートである。
【
図5】
図3における「節点の強制変位」のステップを説明するための説明図である。
【
図6】
図4における「亀裂形成ステップ」を説明するための説明図である。
【
図7】
図4における「絞り込みステップ」を説明するための説明図である。
【
図8】
図4における「進展ステップ」を説明するための説明図である。
【
図9】
図3のサブルーチン2を表したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下に、図面を用いて、本開示の一実施形態にかかる3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームを生産する方法について説明する。この3次元繊維強化複合材料シェル構造物のプリフォームを生産する方法は、
図1に示すように、刺しゅう機12が、コンピューター10から刺しゅう機12に出力されるCAMデータ12Cに従ってトウ12Aをテーラード・ファイバー・プレースメント法で加工することで、プリフォーム12Bを生産する方法である。
【0040】
ここで、トウ12Aは、長尺の連続繊維(本実施形態では炭素連続繊維)をその長手方向がそろった状態に並べ、もってこれら連続繊維を長尺の帯をなすようにまとめたものである。また、プリフォーム12Bは、トウ12Aが平面をなすように配置されたひとつながりの平面物であり、曲面をなす3次元構造体である3次元繊維強化複合材料シェル構造物をなすようにたわめることが可能とされた平面物である。したがって、プリフォーム12Bは、トウ12Aの連続繊維が平面をなすように配置され、それゆえにこの平面の面内方向によって強度や性質が違う面内異方性を有する。また、3次元繊維強化複合材料シェル構造物は、トウ12Aの連続繊維が曲面をなすように配置され、それゆえにこの曲面の面内方向によって強度や性質が違う面内異方性を有する。
【0041】
コンピューター10は、外部との間で情報の入出力を行うインターフェース10Aと、種々のデータおよびプログラムをコンピューター読み取りが可能な態様で記録する記録媒体11とを備えている。本実施形態においては、インターフェース10Aは、刺しゅう機12にCAMデータ12Cを出力する出力ポート(図示せず)と、コンピューター10の使用者(図示せず。以下、単に「使用者」とも称する。)によるコンピューター10の操作を実現させるヒューマンマシンインターフェース(図示せず)と、を含む。
【0042】
記録媒体11には、CAMデータ作成プログラム11Aと、材料配向角決定プログラム11Bと、構造解析プログラム11Cと、CAEプログラム11Dとが、それぞれ、コンピューター読み取りが可能な態様で記録されている。本実施形態においては、材料配向角決定プログラム11Bと、構造解析プログラム11Cと、CAEプログラム11Dとは、それぞれが市販のプログラムであり、コンピューター10にて実行される他のプログラムに呼び出されて実行されることが可能なものである。
【0043】
CAEプログラム11Dは、コンピューター10に、使用者の操作入力に応じた任意の3次元有限要素モデルのデータ(図示省略)を作成して、このデータを記録媒体11にコンピューター読み取りが可能な態様で記録する機能を実現させる。また、構造解析プログラム11Cは、コンピューター10に、3次元有限要素モデルおよびこの3次元有限要素モデルが置かれた状況のデータに基づいて、この3次元有限要素モデルの各部分における力学性状(具体的には例えばひずみエネルギーや応力など)を導出する機能を実現させる。
【0044】
また、材料配向角決定プログラム11Bは、コンピューター10に、面状の3次元有限要素モデルおよびトウ12Aの連続繊維のデータに基づいて、この3次元有限要素モデルに対応する面状部材(図示せず)をトウ12Aによって生産する場合に、この面状部材におけるひずみエネルギーの総量を最小化するトウ12Aの配向角を導出する機能を実現させる。本実施形態においては、上記トウ12Aの連続繊維のデータは、あらかじめ記録媒体11にコンピューター読み取りが可能な態様で記録されているものが使用される。
【0045】
また、CAMデータ作成プログラム11Aは、コンピューター10をCAMデータ作成手段として機能させ、もってプリフォーム12BのCAMデータ12C(具体的には例えば刺しゅう機12用の刺しゅうデータ)を作成する方法をコンピューター10に実行させる。なお、本開示において、「データを作成する方法」は、該データを成果物ととらえることで、この成果物を生産する方法ということができるものである。言いかえると、本開示において、「データを作成する方法」は、「物を生産する方法」のカテゴリーに属する。
【0046】
ここで、上記CAMデータ12Cを作成する方法の概略について、
図2を用いて説明する。
【0047】
このCAMデータ12Cを作成する方法においては、コンピューター10は、まず、3次元繊維強化複合材料シェル構造物がなす曲面を表す3次元有限要素モデルである第1のモデル20を取得し、これを平面状の2次元有限要素モデルである変形モデル20Cにする、対応する点への写像を行う。また、コンピューター10は、変形モデル20Cの平面形状の調整を行い、もってこの変形モデル20Cを第2のモデル30にする、対応する点への写像を行う。
【0048】
ついで、コンピューター10は、第2のモデル30にカットライン31を入れ、もって第2のモデル30を第3のモデル40とする。また、コンピューター10は、第3のモデル40の形状の調整を行い、もってこの第3のモデル40を第4のモデル50にする、対応する点への写像を行う。
【0049】
続いて、コンピューター10は、第4のモデル50にトウ12Aの配向角の情報を付加し、もって第4のモデル50からプリフォーム12Bの設計データたる平面展開データ60を作成する。すなわち、CAMデータ作成プログラム11A(
図1参照)は、本開示における「平面展開データの作成プログラム」に相当する。
【0050】
そして、コンピューター10は、平面展開データ60を刺しゅう機12への入力が可能な刺しゅうデータの形式に変換することで、CAMデータ12Cを作成する。
【0051】
以下においては、CAMデータ作成プログラム11Aによりコンピューター10が実行する一連の各ステップについて、
図3ないし
図9を用いて説明する。この一連の各ステップにおいて、コンピューター10は、まず、
図3のステップM10を実行する。
【0052】
ステップM10において、コンピューター10は、後述する各ステップを実行するために必要となる初期設定を行い、その処理をステップM20に進める。ここで、上記初期設定には、種々の処理において想定される誤差の許容値を、処理ごとに異なる定数として設定する処理が含まれる。
【0053】
ステップM20において、コンピューター10は、このコンピューター10にコンピューター読み取りが可能な態様で記録された3次元有限要素モデルのデータ群のうち、3次元繊維強化複合材料シェル構造物がなす曲面を表す3次元有限要素モデルである第1のモデル20(
図2参照)のデータを1つ選択して取得する。
【0054】
本実施形態においては、コンピューター10は、上記データ群に含まれる3次元有限要素モデルのリストを、インターフェース10A(
図1参照)を介して使用者に提示し、もって上記データ群に含まれる第1のモデル20のデータの選択を使用者に促す。そして、コンピューター10は、使用者が選択した1つのデータを、第1のモデル20のデータとして取得する。しかるのちに、コンピューター10は、取得した第1のモデル20のデータのバックアップ(以下、「第5のモデル」とも称する。)を取り、その処理をステップM30に進める。
【0055】
ここで、上記データ群に含まれる3次元有限要素モデルのデータは、コンピューター10の使用者が、CAEプログラム11D(
図1参照)を使用して前もって作成しておいたものである。また、上記データ群に含まれる3次元有限要素モデルのデータは、5種類の弾性率(ヤング率、ポアソン比、体積弾性率、ラメの第1定数、ラメの第2定数)のうちの3種類以上を含む材料物性値が各節点に設定されたものとして作成される。本実施形態においては、上記データ群に含まれる3次元有限要素モデルのデータにおける、各節点に設定される材料物性値は、上記5種類の弾性率のすべてを含む。
【0056】
ステップM30において、コンピューター10は、第1のモデル20たる3次元有限要素モデルに含まれる節点20Aのうちの1つを選択してこれを原点20Bとする(
図5参照)。そして、コンピューター10は、その処理をステップM40に進める。なお、
図5においては、簡単のため、第1のモデル20を、その節点20Aの数を6つ(すなわち、原点20B、および、節点20D、20E、20F、20G、20H)にまで減らした状態で描いている。
【0057】
ステップM40において、コンピューター10は、直前に実行されたステップM30において原点20Bとされた第1のモデル20の節点20Aを通る平面21を設定する。続いて、コンピューター10は、設定した平面21上に、第1のモデル20における原点20B以外の各節点20Aを強制変位させ、もって第1のモデル20を平面21上に広がる2次元有限要素モデルである変形モデル20Cにする、対応する点への写像を行う。なお、本実施形態において、「対応する点への写像」は、「同相写像」である(
図5参照)。具体的には、
図5において、節点21Dは、節点20Dが強制変位された節点である。また、節点21Eは、節点20Eが強制変位された節点である。また、節点21Fは、節点20Fが強制変位された節点である。また、節点21Gは、節点20Gが強制変位された節点である。また、節点21Hは、節点20Hが強制変位された節点である。
【0058】
本実施形態においては、コンピューター10は、上記節点20Aの強制変位を、平面21における面内方向(
図5参照)の拘束をかけることなく実行する。このため、各節点20Aは、平面21に対して垂直な高さ方向で見た高さ21A(
図5参照)に応じた変位量で変位する際に、平面21の面内方向に位置ずれする。そして、コンピューター10は、その処理をステップM50に進める。
【0059】
ステップM50において、コンピューター10は、変形モデル20Cの形状の調整を行い、もってこの変形モデル20Cを平面状の2次元有限要素モデルである第2のモデル30(
図2参照)にする。そして、コンピューター10は、その処理をステップM60に進める。
【0060】
ここで、第2のモデル30は、下記のエネルギー最小化問題の最適解とみなすことができる形状の2次元有限要素モデルである。このエネルギー最小化問題は、その初期形状を変形モデル20Cとしている。また、エネルギー最小化問題は、その制約条件を、2次元有限要素モデルの面積が変形モデル20Cの面積と等しい所定値であるという条件としている。また、エネルギー最小化問題は、その目的函数を、制約条件を満たす2次元有限要素モデルを上述した第5のモデルにする、対応する点への写像を行うことで、この第5のモデルにもたらされるひずみエネルギーとしている。なお、ステップM50の具体的な処理については後述するものとし、ここではその詳細な説明を省略する。
【0061】
本実施形態においては、コンピューター10は、ステップM30からステップM50に至る一連のステップを、1つの定義済み函数として実行する。この定義済み函数は、第1のモデル20に強制変位を与えて、この第1のモデル20について対応する点への写像がされた第2のモデル30を得る函数であり、本開示における「強制変位函数」に相当する。
【0062】
ここから、ステップM30からステップM50に至る一連のステップは、第1のモデル20に強制変位函数を適用し、もって第1のモデル20を第2のモデル30にする、対応する点への写像を行うステップ(すなわち本開示における「対応する点への写像ステップ」)であるということができる。また、コンピューター10がステップM30からステップM50に至る一連のステップを実行する機能は、本開示における「対応する点への写像機能」に相当する。
【0063】
ステップM60において、コンピューター10は、第2のモデル30における、上記強制変位函数によってもたらされたひずみエネルギー密度(ひずみエネルギーに対応する値であり、以下においては「パラメーター」とも称する。)の分布を求め、その処理をステップM70に進める。すなわち、ステップM60は、本開示における「第1のパラメーター分布導出ステップ」に相当する。また、コンピューター10がステップM60を実行する機能は、本開示における「第1のパラメーター分布導出機能」に相当する。
【0064】
本実施形態においては、コンピューター10は、ステップM60を、構造解析プログラム11C(
図1参照)を呼び出して、第2のモデル30の各節点30A(
図6参照)における全ひずみエネルギー(total strain energy)の値を算定することによって実行する。
【0065】
ステップM70は、コンピューター10が
図4に示すサブルーチン1を呼び出して実行するステップであり、このサブルーチン1の処理を行った後に処理をステップM80に進めるステップである。このサブルーチン1の処理において、コンピューター10は、第2のモデル30における境界30B上の節点30Aのうち、上記パラメーターが所定の基準たる第1の基準に照らして大となる部分の節点30Aを分離するカットライン31を第2のモデル30に入れ(
図8参照)、もってカットライン31が入れられた2次元有限要素モデルである第3のモデル40(
図2参照)を作成する。すなわち、ステップM70は、本開示における「第3のモデル作成ステップ」に相当する。また、コンピューター10がステップM70を実行する機能は、本開示における「第3のモデル作成機能」に相当する。なお、本実施形態においては、境界30B上の節点30Aのうち、上記パラメーターが最大となる節点30Aを、上記パラメーターが第1の基準に照らして大となる部分の節点30Aであるとして処理を行う。
【0066】
サブルーチン1の呼び出しにおいては、コンピューター10は、直前に実行されたステップM60(
図3参照)において求められた上記パラメーターの分布(すなわち各節点30Aにおけるひずみエネルギー密度の値)を引数に含める。そして、コンピューター10は、
図4に示すステップS10を実行する。
【0067】
ステップS10において、コンピューター10は、第2のモデル30における境界30B上の節点30Aのうち、上記パラメーターが最大となる部分の節点30Aを2つに分離し、もって第2のモデル30の内部側に延びる亀裂31Aを第2のモデル30に形成する(
図6の仮想線を参照。)。そして、コンピューター10は、形成された亀裂31Aをカットライン31に進展されるべき進展対象に設定し、その処理をステップS20に進める。すなわち、ステップS10は、本開示における「亀裂形成ステップ」に相当する。また、コンピューター10がステップS10を実行する機能は、本開示における「亀裂形成機能」に相当する。
【0068】
本実施形態においては、コンピューター10は、上記パラメーターが最大値をとる節点30A(
図6の節点30Dを参照)に加えて、上記パラメーターの値が誤差の許容値に照らして上記最大値と同等であると判定される節点30A(
図6の節点30Eを参照)も分離して進展対象たる亀裂31Aとする。ここで、上記誤差の許容値は、上述したステップM10(
図3参照)にて設定されたものである。なお、
図6においては、節点30Dの分離により形成される亀裂31Aを亀裂31Dとし、節点30Eの分離により形成される亀裂31Aを亀裂31Eとしている。
【0069】
ステップS20において、コンピューター10は、現時点において進展対象に設定されている亀裂31Aのすべてを対象として、後述するステップS30からステップS100に至る一連のステップを繰り返す(iterate)繰り返しステップを実行する。なお、コンピューター10は、現時点において進展対象に設定されている亀裂31Aが存在しないと判定したときには、ステップS20(繰り返しステップ)を終了させてステップS110を実行する。
【0070】
ステップS30において、コンピューター10は、ステップS10を経て亀裂31Aが形成された第2のモデル30(
図7参照)において、亀裂31Aの先端31Bをなす節点30Aに隣接して亀裂31Aの進展先に設定されうる節点30Aであるピックアップ節点30Cをピックアップする。そして、コンピューター10は、その処理をステップS40に進める。
【0071】
このステップS30は、本開示における「ピックアップステップ」に相当する。また、コンピューター10がステップS30を実行する機能は、本開示における「ピックアップ機能」に相当する。本実施形態においては、コンピューター10は、第2のモデル30の節点30Aのうち、第2のモデル30の境界30Bまたは亀裂31A上にある節点30Aについて、これをピックアップの対象から外す。また、コンピューター10は、進展対象に設定されている亀裂31Aが複数存在する場合に、これら亀裂31Aのそれぞれに対応して上記処理を行う。
図7においては、亀裂31Dの先端31Bに隣接する3つの節点32A、32B、32Cが、亀裂31Dにおけるピックアップ節点30Cとしてピックアップされている。また、亀裂31Eの先端31Bに隣接する3つの節点32D、32E、32Fが、亀裂31Eにおけるピックアップ節点30Cとしてピックアップされている。
【0072】
ステップS40において、コンピューター10は、直前に実行されたステップS30にてピックアップされた各ピックアップ節点30Cについて、亀裂31Aの先端31Bをなす節点30Aから見た上記パラメーターの勾配を求める。そして、コンピューター10は、その処理をステップS50に進める。
【0073】
このステップS40は、本開示における「勾配導出ステップ」に相当する。また、コンピューター10がステップS40を実行する機能は、本開示における「勾配導出機能」に相当する。本実施形態においては、コンピューター10は、進展対象に設定されている亀裂31Aが複数存在する場合に、これら亀裂31Aのそれぞれに対応して上記処理を行う。
【0074】
ステップS50において、コンピューター10は、直前に実行されたステップS40にて求められた上記パラメーターの勾配が最小となるピックアップ節点30Cを勾配最小節点32(
図7参照)とし、この勾配最小節点32を亀裂31Aの進展先の候補として設定する。
図7においては、亀裂31Dにおけるピックアップ節点30Cとしてピックアップされた3つの節点32A、32B、32Cのうち、節点32Bが勾配最小節点32とされている。また、亀裂31Eにおけるピックアップ節点30Cとしてピックアップされた3つの節点32D、32E、32Fのうち、節点32Fが勾配最小節点32とされている。
【0075】
また、コンピューター10は、各ピックアップ節点30Cの中から、ピックアップ節点30Cが亀裂31Aの進展先に設定されてこの進展先に向けて亀裂31Aが進展した際の、該亀裂31Aの変曲が最小となるピックアップ節点30Cを変曲最小節点33(
図7参照)とし、この変曲最小節点33を亀裂31Aの進展先の候補として設定する。
【0076】
本実施形態においては、コンピューター10は、
図7に示す方位角33Aの大きさが最小となるピックアップ節点30Cを変曲最小節点33とする。ここで、方位角33Aは、亀裂31Aの先端31Bを延長した延長線31Cが延びる方向を基準とした、亀裂31Aの先端31Bから見たピックアップ節点30Cの方向の方位角である。
図7においては、亀裂31Dにおけるピックアップ節点30Cとしてピックアップされた3つの節点32A、32B、32Cのうち、その方位角33Aが最小となるピックアップ節点30Cである節点32Aが変曲最小節点33とされている。また、亀裂31Eにおけるピックアップ節点30Cとしてピックアップされた3つの節点32D、32E、32Fのうち、その方位角33Aが最小となるピックアップ節点30Cである節点32Eが変曲最小節点33とされている。
【0077】
そして、コンピューター10は、勾配最小節点32および変曲最小節点33のいずれにも該当しないピックアップ節点30Cを亀裂31Aの進展先の候補から外すことで、この候補を勾配最小節点32および変曲最小節点33に絞り込む。そして、コンピューター10は、その処理をステップS60に進める。
【0078】
すなわち、ステップS50は、本開示における「絞り込みステップ」に相当する。また、コンピューター10がステップS50を実行する機能は、本開示における「絞り込み機能」に相当する。本実施形態においては、コンピューター10は、進展対象に設定されている亀裂31Aが複数存在する場合に、これら亀裂31Aのそれぞれに対応して上記処理を行う。
【0079】
ステップS60において、コンピューター10は、勾配最小節点32および変曲最小節点33のいずれかから亀裂31Aの進展先を選択し、その処理をステップS70に進める。本実施形態においては、コンピューター10は、勾配最小節点32における上記パラメーターの勾配および方位角33Aの値と、変曲最小節点33における上記パラメーターの勾配および方位角33Aの値とを判定用函数に代入した際の代入結果に基づいて、亀裂31Aの進展先を選択する。ここで、上記判定用函数は、上述したステップM10(
図3参照)にて設定されたものである。本実施形態においては、上記判定用函数は、勾配最小節点32における上記パラメーターの勾配および方位角33Aの加重平均と、変曲最小節点33における上記パラメーターの勾配および方位角33Aの加重平均と、の差を導出する函数である。
【0080】
ステップS70において、コンピューター10は、
図8に示すように、直前に実行されたステップS60にて選択された節点30A(勾配最小節点32および変曲最小節点33のいずれか)を進展先として、亀裂31Aを進展させる。この際、亀裂31Aの先端31Bをなしていた節点30A(
図7参照)は、2つに分離される。
【0081】
ここで、勾配最小節点32および変曲最小節点33は、いずれも、亀裂31Aの先端31Bに隣接する、第2のモデル30の節点30Aのうちの1つといえるものである。すなわち、ステップS70は、本開示における「進展ステップ」に相当する。また、コンピューター10がステップS70を実行する機能は、本開示における「進展機能」に相当する。
【0082】
ステップS80において、コンピューター10は、第2のモデル30における現時点での上記パラメーターの分布を求め、その処理をステップS90に進める。すなわち、ステップS80は、本開示における「第2のパラメーター分布導出ステップ」に相当する。また、コンピューター10がステップS80を実行する機能は、本開示における「第2のパラメーター分布導出機能」に相当する。本実施形態においては、コンピューター10は、ステップS80を、構造解析プログラム11C(
図1参照)を呼び出して、第2のモデル30の各節点30A(
図6参照)における全ひずみエネルギー(total strain energy)の値を算定することによって実行する。
【0083】
ステップS90において、コンピューター10は、各亀裂31Aのうち、該亀裂31Aの構成要素たる各節点30Aにおける、直前に実行されたステップS80にて求められたひずみエネルギーの総和が所定の基準たる第2の基準に照らして少ないと判定される亀裂31Aを、上記進展対象から除外する。
【0084】
本実施形態においては、上記「第2の基準」として、「亀裂31Aの構成要素たる各節点30Aにおける、直前に実行されたステップS80にて求められた全ひずみエネルギーの値の総和が、該亀裂31Aが形成される部分に存在していた各節点30Aにおける、直近に実行されたステップM60(
図3参照)にて求められた全ひずみエネルギーの値の総和の、X倍である」という基準を使用する。ここで、上記Xは、上述したステップM10(
図3参照)にて設定された、0<X<1の条件を満たす定数である。
【0085】
また、コンピューター10は、各亀裂31Aのうち、直近に実行されたステップS70によって新たに先端31Bとされた節点30Aに隣接する節点30Aのすべてが、第2のモデル30の境界30Bまたは亀裂31A上にある亀裂31Aについて、これを上記進展対象から除外する。そして、コンピューター10は、その処理をステップS100に進める。
【0086】
ステップS100は、上述したステップS20(繰り返しステップ)における戻り処理である。すなわち、コンピューター10は、現時点において進展対象に設定されている亀裂31Aが存在しないときはステップS110を実行し、そうでない場合はステップS30を実行する。これにより、現時点において進展対象に設定されている亀裂31A(
図8の亀裂31Dを参照)は進展を進める。また、同じく進展対象とされていない亀裂31A(同じく亀裂31Eを参照)は、カットライン31として設定されるべき亀裂31Aとして、その形状を維持する。
【0087】
ステップS110において、コンピューター10は、上述したステップS20(繰り返しステップ)を経た第2のモデル30に存在するすべての亀裂31Aをカットライン31として設定し、もって第2のモデル30を第3のモデル40(
図2参照)とする。そして、コンピューター10は、上記第3のモデル40を含むデータを戻り値としてサブルーチン1の処理を終了させ、その処理を
図3に示すステップM80に進める。このステップS110は、本開示における「カットライン設定ステップ」に相当する。また、コンピューター10がステップS110を実行する機能は、本開示における「カットライン設定機能」に相当する。
【0088】
ステップM80において、コンピューター10は、上記第3のモデル40の形状を調整する対応する点への写像を行い、もってこの第3のモデル40から第4のモデル50(
図2参照)を作成する。そして、コンピューター10は、その処理をステップM90に進める。
【0089】
ここで、第4のモデル50は、第3のモデル40に対応する2次元有限要素モデルであり、下記のエネルギー最小化問題の最適解とみなすことができる形状を呈する。このエネルギー最小化問題は、その初期形状を第3のモデル40としている。また、エネルギー最小化問題は、その制約条件を、2次元有限要素モデルの面積が上記第3のモデル40の面積と等しい所定値であるという条件としている。また、エネルギー最小化問題は、その目的函数を、制約条件を満たす2次元有限要素モデルを上述した第5のモデルにする、対応する点への写像を行うことで、この第5のモデルにもたらされるひずみエネルギーとしている。
【0090】
また、第4のモデル50は、プリフォーム12Bの形状と同じ形状を表すモデルであり、プリフォーム12Bにおいてトウ12Aの連続繊維をどのように配置するかという配置情報を付加することが可能なモデルである。すなわち、ステップM80は、本開示における「第4のモデル作成ステップ」に相当する。また、コンピューター10がステップM80を実行する機能は、本開示における「第4のモデル作成機能」に相当する。
【0091】
本実施形態においては、コンピューター10は、上述したステップM50およびステップM80の処理を、下記のサブルーチン2(
図9参照)を呼び出すことによって実行する。ここで、コンピューター10は、ステップM50にてサブルーチン2を呼び出す際には、この呼び出し時点における変形モデル20Cを処理モデルとして、同じく変形モデル20Cの面積を所定値である面積値として引数に含める。また、コンピューター10は、ステップM80にてサブルーチン2を呼び出す際には、この呼び出し時点における第3のモデル40を処理モデルとして、同じく第3のモデル40の面積を所定値である面積値として引数に含める。
【0092】
サブルーチン1の呼び出しにおいては、コンピューター10は、まず、
図9に示すステップP10を実行する。
【0093】
ステップP10において、コンピューター10は、上記処理モデルおよび面積値を含む引数を取得し、その処理をステップP20に進める。
【0094】
ステップP20において、コンピューター10は、現時点において保持している処理モデルのバックアップを作成し、その処理をステップP30に進める。本実施形態においては、コンピューター10は、処理モデルのバックアップがすでに保持されているときに、このバックアップを現時点において保持している処理モデルのバックアップによって上書きする。
【0095】
ステップP30において、コンピューター10は、現時点において保持している処理モデル(2次元有限要素モデル)を上述した第5のモデル(3次元有限要素モデル)にする、対応する点への写像を行い、その処理をステップP40に進める。
【0096】
ステップP40において、コンピューター10は、上記第5のモデルとなるように対応する点への写像がされた処理モデル(3次元有限要素モデル)における現時点での上記パラメーターの分布を求め、その処理をステップP50に進める。本実施形態においては、コンピューター10は、ステップP40を、構造解析プログラム11C(
図1参照)を呼び出して、処理モデルの各節点における全ひずみエネルギー(total strain energy)の値と、同じく感度函数とを算定することによって実行する。
【0097】
ステップP50において、コンピューター10は、現時点において保持している処理モデルのバックアップ(2次元有限要素モデル)から処理モデルの復元を行い、その処理をステップP60に進める。
【0098】
ステップP60において、コンピューター10は、直前に実行されたステップP50にて復元された処理モデルを、直近に実行されたステップP40にて算定された感度函数にあてはめ、もって処理モデルの形状を変更する処理を実行する。この際、コンピューター10は、形状変更後の処理モデルの面積が、上記面積値と等しくなるように、処理モデルの形状を変更する。そして、コンピューター10は、その処理をステップP70に進める。
【0099】
ステップP70において、コンピューター10は、直前に実行されたステップP60にて形状を変更する処理が実行された処理モデルの形状と、現時点において保持している処理モデルのバックアップの形状とが同じであるか否かを判定する。
【0100】
本実施形態においては、コンピューター10は、形状を変更する処理が実行された後の処理モデルにおける各節点の相対的な位置関係と、処理モデルのバックアップにおける各節点の相対的な位置関係とが、誤差の許容値に照らして同等であると判定したときに、これらの形状が同じであると判定する。ここで、上記誤差の許容値は、上述したステップM10(
図3参照)にて設定されたものである。
【0101】
上記の判定において、形状を変更する処理が実行された処理モデルの形状と、処理モデルのバックアップの形状とが同じでないという判定結果が出た場合(
図9の「いいえ」)、コンピューター10は、その処理をステップP20に進める。また、上記の判定において、形状を変更する処理が実行された処理モデルの形状と、処理モデルのバックアップの形状とが同じであるという判定結果が出た場合(
図9の「はい」)、コンピューター10は、形状を変更する処理が実行された処理モデルを戻り値に含めて、サブルーチン2の処理を終了させる。
【0102】
ステップM90において、コンピューター10は、材料配向角決定プログラム11B(
図1参照)を呼び出して、第4のモデル50にトウ12Aの配向角の情報(トウ12Aにおける連続繊維の配置の情報)を付加することで、プリフォーム12Bの設計データたる平面展開データ60(
図2参照)を作成する。(したがって、平面展開データ60のモデルおよびプリフォーム12Bは、上述したステップM80にて考慮したエネルギー最小化問題の最適解とみなすことができる形状を呈することになる。)そして、コンピューター10は、その処理をステップM100に進める。
【0103】
すなわち、ステップM90は、本開示における「配置情報付加ステップ」に相当する。また、コンピューター10がステップM90を実行する機能は、本開示における「配置情報付加機能」に相当する。
【0104】
本実施形態においては、コンピューター10は、上述した第5のモデル(すなわち第1のモデル20のバックアップ)、および、あらかじめ記録媒体11にコンピューター読み取りが可能な態様で記録されているトウ12Aの連続繊維のデータに基づいて、上記配向角の情報を導出する。この配向角の情報は、第5のモデルに対応する3次元繊維強化複合材料シェル構造物(図示せず)をトウ12Aによって生産する場合に、この3次元繊維強化複合材料シェル構造物におけるひずみエネルギーの総量を最小化する、配向角の情報である。
【0105】
ステップM100において、コンピューター10は、直前に実行されたステップM90にて作成された平面展開データ60を刺しゅう機12への入力が可能な刺しゅうデータの形式に変換し、もってCAMデータ12Cを作成する。そして、コンピューター10は、その処理をステップM110に進める。
【0106】
ステップM110において、コンピューター10は、直前に実行されたステップM100にて作成されたCAMデータ12Cを、インターフェース10Aの出力ポートを介して刺しゅう機12に出力し、その処理を終了させる。このとき、刺しゅう機12は、コンピューター10から入力されるCAMデータ12Cに従ってトウ12Aをテーラード・ファイバー・プレースメント法で加工し、もってプリフォーム12Bを生産する。
【0107】
ここで、コンピューター10が行う、ステップM100からステップM110に至る一連のステップと、刺しゅう機12が行う、CAMデータ12Cに基づいてプリフォーム12Bを生産するステップとをあわせたステップは、本開示における「生産ステップ」に相当する。
【0108】
上述した開示の態様によれば、第1のモデル20の各節点20Aに3種類以上の弾性率を含む材料物性値が設定されることで、方向によって強度や性質が違う異方性材料からなるシェル構造体のモデル化が可能となる。さらに、平面展開データ60を、3次元有限要素モデルと2次元有限要素モデルとの対応する点への写像において生じるひずみエネルギーが第1の基準に照らして大となる部分が、カットライン31によって分離された第4のモデル50に、トウ12Aの連続繊維の配置情報を付加したものとして作成することができる。言いかえると、プリフォーム12Bを、3次元有限要素モデルと2次元有限要素モデルとの対応する点への写像において生じるひずみエネルギーが第1の基準に照らして大となる部分が、カットライン31によって分離された第4のモデル50に、トウ12Aの連続繊維の配置情報を付加してなる平面展開データ60から生産することができる。これにより、プリフォーム12Bにおけるトウ12Aの連続繊維の断ち切りがより少なくなるようにカットライン31を設定して、このカットラインによる3次元繊維強化複合材料シェル構造物の強度低下の度合いを減らすことができる。
【0109】
また、上述した開示の態様によれば、プリフォーム12Bの平面展開データ60におけるカットライン31は、3次元有限要素モデルと2次元有限要素モデルとの対応する点への写像において生じるひずみエネルギーを、第2の基準に照らして少ないと判定される程度にまで小さくする。これにより、平面展開データ60から得られるプリフォーム12Bを、3次元繊維強化複合材料シェル構造物をなすようにたわめる際におけるひずみエネルギーを減らすことができる。
【0110】
ところで、有限要素モデルにおいて隣接する節点同士は、これらにかかる応力の条件が近しいため、これら節点の間のひずみエネルギーの勾配には、各節点におけるひずみの条件の違い、ひいては、各節点における弾性率の違いが強く表れる。これに対し、上述した開示の態様によれば、亀裂31Aの進展先の候補を、亀裂31Aの変曲および弾性率の変化の少なくとも一方が抑えられるように選択することで、プリフォーム12Bに設定されるカットライン31がこのプリフォーム12Bにおいて強度の高い部分を断ち切るものとなり、このカットライン31により3次元繊維強化複合材料シェル構造物の強度が低下されるおそれを減らすことができる。
【0111】
また、上述した開示の態様によれば、上述したピックアップステップ(
図4のステップS30)において、第2のモデル30の境界30Bまたは亀裂31A上にある節点30Aをピックアップの対象から外すことで、この亀裂31Aが進展したものとして設定されるカットライン31が、第2のモデル30を複数の部分に分割することをさけることができる。これにより、ひとつながりの平面状に形成されたプリフォーム12Bの生産が容易となる。
【0112】
また、上述した開示の態様によれば、プリフォーム12Bの平面展開データ60は、3次元有限要素モデルと2次元有限要素モデルとの対応する点への写像において生じるひずみエネルギーが最小となる2次元有限要素モデルに基づいて作成される。これにより、平面展開データ60から生産されるプリフォーム12Bをたわめて曲面をなす3次元繊維強化複合材料シェル構造物にする際に生じるひずみエネルギーを抑えることができる。
【0113】
また、上述した開示の態様によれば、プリフォーム12Bの平面展開データ60は、3次元有限要素モデルと2次元有限要素モデルとの対応する点への写像において生じるひずみエネルギーが最小となるように第3のモデル40を変形したものとして作成される。これにより、平面展開データ60から生産されるプリフォーム12Bをたわめて曲面をなす3次元繊維強化複合材料シェル構造物にする際に生じるひずみエネルギーを抑えることができる。
【0114】
本開示は、フローチャートなどを用いて上述した実施形態に限定されず、本開示の要旨を変更しない範囲で種々の変更、追加、削除が可能である。例えば、以下のような形態を実施することができる。
【0115】
(1)本開示は、刺しゅう機にCAMデータたる刺しゅうデータを出力し、トウをテーラード・ファイバー・プレースメント法で加工することでプリフォームを生産するためのものに限定されない。すなわち、本開示は、例えば、NC加工装置にCAMデータたるNCデータを出力し、シート材をカッティング加工してプリフォームを生産するために用いることができる。この場合において、シート材は、例えば連続繊維たる炭素繊維を平織りに織り上げてなる炭素繊維シート、連続繊維たる炭素繊維のニットからなる炭素繊維シート、または、連続繊維たる炭素繊維を一方向に引きそろえてなるフィルム状の炭素繊維シートなど、適宜選択した種類の炭素繊維シートとすることができる。また、上記シート材は、例えば炭素繊維以外の物質からなるシート材とすることもできる。また、本開示は、例えば、産業用ロボットにCAMデータたるティーチングデータを出力し、この産業用ロボットに所望の作業を行わせてプリフォームを生産するために用いることができる。
【0116】
(2)本開示において、カットラインにより分離されるべき節点の選定基準たる第1の基準は、「ひずみエネルギー密度が最大となる」という基準に限定されない。すなわち、本開示においては、上記第1の基準を、例えば、「ひずみエネルギー密度が所定の基準値よりも大きい」、または、「ひずみエネルギー密度が上位Y%以内である(Yは所定値)」などの、適宜選択した種類の基準とすることができる。また、第1の基準に用いられるパラメーターは、ひずみエネルギー密度に限定されず、ひずみエネルギーに対応する、任意の種類パラメーターとすることができる。このようなパラメーターの具体例としては、例えば節点における応力(と弾性率との組み合わせ)、または、ひずみエネルギーの総量(と節点に対応する領域のサイズとの組み合わせ)などが挙げられる。
【0117】
(3)本開示の方法におけるステップの流れは、上述したものに限定されない。すなわち、本開示の方法においては、例えば、第1のモデルを平面上に強制変位させる、対応する点への写像をしてなる変形モデルを、その形状の調整を行うことなく、そのまま第2のモデルとすることができる。また、本開示の方法においては、例えば、第3のモデル作成ステップにて作成された第3のモデルを、その形状の調整を行うことなく、そのまま第4のモデルとすることができる。また、本開示の方法においては、例えば、第3のモデル作成ステップにてカットラインが入れられた第3のモデルに、再度第3のモデル作成ステップの各ステップを適用し、もって第3のモデルをカットラインが複数回にわたって入れられたものとすることができる。この場合においては、亀裂を進展対象から除外するための第2の基準を、上記各ステップを適用するたびに徐々に厳しくすることで、カットラインによるひずみエネルギーの減少度合いを大きくすることができる。
【符号の説明】
【0118】
10 コンピューター
10A インターフェース
11 記録媒体
11A CAMデータ作成プログラム
11B 材料配向角決定プログラム
11C 構造解析プログラム
11D CAEプログラム
12 刺しゅう機
12A トウ
12B プリフォーム
12C CAMデータ
20 第1のモデル
20A 節点
20B 原点
20C 変形モデル
20D 節点
20E 節点
20F 節点
20G 節点
20H 節点
21 平面
21A 高さ
21D 節点
21E 節点
21F 節点
21G 節点
21H 節点
30 第2のモデル
30A 節点
30B 境界
30C ピックアップ節点
30D 節点
30E 節点
31 カットライン
31A 亀裂
31B 先端
31C 延長線
31D 亀裂
31E 亀裂
32 勾配最小節点
32A 節点
32B 節点
32C 節点
32D 節点
32E 節点
32F 節点
33 変曲最小節点
33A 方位角
40 第3のモデル
50 第4のモデル
60 平面展開データ