(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】組成物、光電変換素子および撮像装置
(51)【国際特許分類】
H10K 30/60 20230101AFI20241004BHJP
H10K 30/30 20230101ALI20241004BHJP
H10K 39/32 20230101ALI20241004BHJP
H10K 85/30 20230101ALI20241004BHJP
C07D 487/22 20060101ALI20241004BHJP
C09B 47/00 20060101ALI20241004BHJP
C09B 67/20 20060101ALI20241004BHJP
H01L 27/146 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
H10K30/60
H10K30/30
H10K39/32
H10K85/30
C07D487/22
C09B47/00
C09B67/20 G
H01L27/146 E
(21)【出願番号】P 2021545199
(86)(22)【出願日】2020-08-26
(86)【国際出願番号】 JP2020032205
(87)【国際公開番号】W WO2021049298
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】P 2019165539
(32)【優先日】2019-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】飯島 浩章
(72)【発明者】
【氏名】平出 雅哉
(72)【発明者】
【氏名】岸本 有子
(72)【発明者】
【氏名】井土 眞澄
【審査官】原 俊文
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-028607(JP,A)
【文献】特開2018-188617(JP,A)
【文献】特開2019-137654(JP,A)
【文献】特開2010-003902(JP,A)
【文献】特表平08-503994(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0262222(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 30/00-30/89
H10K 39/00-39/38
H10K 85/30
C07D 487/22
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるナフタロシアニン誘導体を含む、
組成物。
【化1】
但し、R
1からR
8は、それぞれ独立してアルキル基であり、R
9及びR
10は、それぞれ独立してアリール基であ
り、
R
9
およびR
10
からなる群から選択される少なくとも1つにおける少なくとも1つの水素原子が、電子求引基で置換されている。
【請求項2】
前記一般式(1)において、R
1からR
8は、それぞれ独立して炭素数4以下のアルキル基である、
請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記一般式(1)において、R
9及びR
10は、それぞれ独立してフェニル基であ
る、
請求項1
または請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記電子求引基は、シアノ基、フルオロ基およびカルボニル基のいずれかである、
請求項
3に記載の組成物。
【請求項5】
前記ナフタロシアニン誘導体は、下記構造式(2)から(6)で表される化合物のいずれか1つである、
請求項
4に記載の組成物。
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【請求項6】
第1の電極と、
第2の電極と、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に設けられ、請求項1から請求項
5のいずれか1項に記載の組成物を含む光電変換膜と、を備える、
光電変換素子。
【請求項7】
前記光電変換膜における前記組成物の濃度が5重量%以上かつ50重量%以下である、
請求項
6に記載の光電変換素子。
【請求項8】
前記光電変換膜の吸収スペクトルにおける吸収極大波長が、900nm以上である、
請求項
6または請求項
7に記載の光電変換素子。
【請求項9】
基板と、
前記基板に設けられた電荷検出回路、前記基板上に設けられた光電変換部、および、前記電荷検出回路と前記光電変換部とに電気的に接続された電荷蓄積ノードを含む画素と、を備え、
前記光電変換部は請求項
6から請求項
8のいずれか1項に記載の光電変換素子を含む、
撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ナフタロシアニン誘導体を含む組成物、光電変換素子および撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機半導体材料は、シリコンなどの従来の無機半導体材料にはない物性、機能等を備える。このため、非特許文献1および特許文献3に記載されているように、新しい半導体デバイス及び電子機器を実現し得る半導体材料として、近年有機半導体材料が活発に研究されている。
【0003】
例えば、有機半導体材料を薄膜化し、光電変換材料として用いることにより、光電変換素子を実現することが研究されている。非特許文献2に記載されているように、有機材料薄膜を用いた光電変換素子は、光によって発生するキャリアである電荷をエネルギーとして取り出すことにより有機薄膜太陽電池として利用することができる。あるいは、特許文献1に記載されているように、上記光電変換素子は、光によって発生する電荷を電気信号として取り出すことにより、固体撮像素子などの光センサとして利用することができる。
【0004】
また、近赤外光領域に感度を有する有機半導体材料として、フタロシアニン誘導体およびナフタロシアニン誘導体が知られている。例えば、特許文献2には吸収極大波長が805nmから825nmであるナフタロシアニン誘導体が開示されている。さらに、特許文献4には、ナフタロシアニン誘導体と重合性モノマーおよび/または重合性バインダー樹脂とを含有する近赤外線吸収組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-234460号公報
【文献】特許第5216279号公報
【文献】特開2010-232410号公報
【文献】特開2016-160270号公報
【文献】特許第5553727号公報
【文献】特開2016-225456号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】JANA ZAUMSEIL et. al., “Electron and Ambipolar Transport in Organic Field-Effect Transistors”, Chemical Reviews,American Chemical Society, 2007年, Vol.107, No.4, pp.1296-1323
【文献】SERAP GUNES et. al., “Conjugated Polymer-Based Organic Solar Cells”, Chemical Reviews, American Chemical Society, 2007年, Vol.107, No.4, pp.1324-1338
【文献】MOHAMED AOUDIA et. al., “Synthesis of a Series of Octabutoxy- and Octabutoxybenzophthalocyanines and Photophysical Properties of Two Members of the Series”, Journal of American Chemical Society, American Chemical Society, 1997年, Vol.119, No.26, pp.6029-6039
【文献】白井汪芳、小林長夫編・著、「フタロシアニン-化学と機能-」、アイピーシー社、1997年、第1から62頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示では、近赤外光領域に高い光吸収特性を有し、かつ、高い光電変換効率を発現することが可能な組成物、光電変換素子および撮像装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様に係る組成物は、下記一般式(1)で表されるナフタロシアニン誘導体を含む。
【0009】
【0010】
但し、R1からR8は、それぞれ独立してアルキル基であり、R9及びR10は、それぞれ独立してアリール基である。
【0011】
また、本開示の一態様に係る光電変換素子は、第1の電極と、第2の電極と、前記第1の電極と前記第2の電極との間に設けられ、前記組成物を含む光電変換膜と、を備える。
【0012】
また、本開示の一態様に係る撮像装置は、基板と、前記基板に設けられた電荷検出回路、前記基板上に設けられた光電変換部、および前記電荷検出回路と前記光電変換部とに電気的に接続された電荷蓄積ノードを含む画素と、を備え、前記光電変換部は上記光電変換素子を含む。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、近赤外光領域に高い光吸収特性を有し、かつ、高い光電変換効率を発現する組成物、光電変換素子および撮像装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、実施の形態に係る近赤外光電変換素子の一例を示す概略断面図である。
【
図2】
図2は、実施の形態に係る近赤外光電変換素子の他の例を示す概略断面図である。
【
図3】
図3は、
図2に示す近赤外光電変換素子のエネルギーバンド図の一例である。
【
図4】
図4は、実施の形態に係る撮像装置の回路構成の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、実施の形態に係る撮像装置における画素のデバイス構造の一例を示す概略断面図である。
【
図6】
図6は、実施例1から実施例5および比較例1のナフタロシアニン誘導体の吸収スペクトルの図である。
【
図7A】
図7Aは、実施例6の近赤外光電変換膜の吸収スペクトルの図である。
【
図7B】
図7Bは、実施例6の近赤外光電変換膜の光電子分光測定の測定結果を示す図ある。
【
図8A】
図8Aは、実施例7の近赤外光電変換膜の吸収スペクトルの図である。
【
図8B】
図8Bは、実施例7の近赤外光電変換膜の光電子分光測定の測定結果を示す図ある。
【
図9A】
図9Aは、実施例8の近赤外光電変換膜の吸収スペクトルの図である。
【
図9B】
図9Bは、実施例8の近赤外光電変換膜の光電子分光測定の測定結果を示す図ある。
【
図10】
図10は、比較例2の近赤外光電変換膜の吸収スペクトルの図である。
【
図11】
図11は、実施例9の近赤外光電変換素子の分光感度特性の測定結果を示す図である。
【
図12】
図12は、実施例10の近赤外光電変換素子の分光感度特性の測定結果を示す図である。
【
図13】
図13は、実施例11の近赤外光電変換素子の分光感度特性の測定結果を示す図である。
【
図14】
図14は、比較例3の近赤外光電変換素子の分光感度特性の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(本開示に至った知見)
有機半導体材料では、使用する有機化合物の分子構造を変えると、エネルギー準位が変化し得る。このため、例えば、有機半導体材料を光電変換材料として用いる場合、吸収波長の制御が可能であり、シリコン(Si)が分光感度を有さない近赤外光領域においても分光感度を持たせることができる。つまり、有機半導体材料を用いれば、従来、光電変換に用いられることのなかった波長領域の光を活用することが可能であり、太陽電池の高効率化および近赤外光領域での光センサを実現することが可能となる。このため、近年、近赤外光領域に感度を有する有機半導体材料を用いた光電変換素子および撮像素子が活発に検討されている。
【0016】
近年、近赤外光領域に感度を有する撮像素子が検討されている。フタロシアニン誘導体およびナフタロシアニン誘導体はπ共役系が広く、π-π*吸収に由来する近赤外光領域での強い吸収を有することから、撮像素子に用いる材料の有力な候補となる。しかしながら、従来のフタロシアニン誘導体およびナフタロシアニン誘導体の吸収極大波長は、大きいもので850nm程度である。そのため、撮像素子に用いるフタロシアニン誘導体およびナフタロシアニン誘導体において、近赤外光領域における光電変換効率の向上には、更なる吸収極大波長の長波長化と撮像素子特性とを両立する分子構造が求められている。
【0017】
本発明者らは、ナフタロシアニン環の電子状態を制御することにより、有機材料光電変換膜の応答波長を制御できることを見出した。
【0018】
そこで、本開示では、近赤外光領域に高い光吸収特性を有し、かつ、光電変換素子化した場合に、高い光電変換効率を発現する組成物、および、それを用いた光電変換素子ならびに撮像装置を提供する。
【0019】
本開示の一態様の概要は、以下の通りである。
【0020】
本開示の一態様に係る組成物は、下記一般式(1)で表されるナフタロシアニン誘導体を含む。
【0021】
【0022】
但し、R1からR8は、それぞれ独立してアルキル基であり、R9及びR10は、それぞれ独立してアリール基である。
【0023】
このように、本開示の一態様に係る組成物は、前記一般式(1)で表されるナフタロシアニン誘導体が電子供与性のα位側鎖であるアルコキシ基を有し、それぞれ独立してアリールオキシ基が中心金属に配位する軸配位子を有する。その結果、上記ナフタロシアニン誘導体は、HOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)エネルギー準位およびLUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital)エネルギー準位の差であるエネルギーギャップ(Eg)が狭くなり、近赤外光領域における吸収波長が長波長化し、900nm以上に吸収ピークを持つことになる。
【0024】
これにより、本開示の一態様に係る組成物は、上記一般式(1)で表されるナフタロシアニン誘導体を含むため、近赤外光領域に高い光吸収特性を有することができる。そのため、本開示の一態様に係る組成物を用いることにより、高い光電変換効率を発現する光電変換素子および撮像装置を得ることができる。
【0025】
また、例えば、本開示の一態様に係る組成物は、前記一般式(1)において、R1からR8は、それぞれ独立して炭素数4以下のアルキル基であってもよい。
【0026】
これにより、本開示の一態様に係る組成物では、精製が容易なため、前記一般式(1)で表されるナフタロシアニン誘導体を容易に合成することができる。
【0027】
例えば、本開示の一態様に係る組成物は、前記一般式(1)において、R9およびR10からなる群から選択される少なくとも1つにおける少なくとも1つの水素原子が、電子求引基で置換されていてもよい。
【0028】
これにより、本開示の一態様に係る組成物では、前記一般式(1)で表されるナフタロシアニン誘導体が有する軸配位子の電子求引性が増し、ナフタロシアニン環の電子密度が低下し、HOMOエネルギー準位およびLUMOエネルギー準位が共に深くなる。そのため、当該組成物は、HOMOエネルギー準位が深くなる。また、HOMOエネルギー準位に比べ、LUMOエネルギー準位の方が深くなることから、エネルギーギャップ(Eg)がさらに狭くなる。よって、本開示の一態様に係る組成物は、エネルギーギャップがさらに狭くなり、近赤外光領域における吸収ピークがさらに長波長化することから、近赤外光領域に高い光吸収特性を有する。さらに、本開示の一態様に係る組成物では、HOMOエネルギー準位が深くなりイオン化ポテンシャルが下がる、すなわち、真空準位とHOMOエネルギー準位との差であるイオン化ポテンシャルの数値は大きくなる。このことから、本開示の一態様に係る組成物は、光電変換素子等に用いた場合に暗電流を抑制することができる。そのため、本開示の一態様に係る組成物を用いることにより、高い光電変換効率を発現する光電変換素子および撮像装置を得ることができる。
【0029】
また、例えば、本開示の一態様に係る組成物は、前記一般式(1)において、R9及びR10は、それぞれ独立してフェニル基であり、R9およびR10からなる群から選択される少なくとも1つにおける少なくとも1つの水素原子が、電子求引基で置換されていてもよい。
【0030】
これにより、本開示の一態様に係る組成物では、軸配位子の導入が容易になり、前記一般式(1)で表されるナフタロシアニン誘導体を容易に合成することができる。
【0031】
また、例えば、前記電子求引基は、シアノ基、フルオロ基およびカルボニル基のいずれかであってもよい。
【0032】
これにより、本開示の一態様に係る組成物では、電子求引基で置換された軸配位子が容易に合成されるため、前記一般式(1)で表されるナフタロシアニン誘導体を容易に合成することができる。
【0033】
また、例えば、本開示の一態様に係る組成物は、下記構造式(2)から(6)で表される化合物のいずれか1つであってもよい。
【0034】
【0035】
これにより、本開示の一態様に係る組成物は、容易に準備できる軸配位子を用いることができるため、合成が比較的容易になる。
【0036】
また、本開示の一態様に係る光電変換素子は、第1の電極と、第2の電極と、前記第1の電極と前記第2の電極との間に設けられ、上記のいずれかの組成物を含む光電変換膜と、を備える。
【0037】
これにより、本開示の一態様に係る光電変換素子は、上記組成物を含むため、光電変換膜は近赤外光領域において高い光吸収特性を有することができる。そのため、本開示の一態様に係る光電変換素子は、近赤外光領域の広い範囲において高い光電変換効率を発現することができる。
【0038】
また、例えば、本開示の一態様に係る光電変換素子では、前記光電変換膜における前記組成物の濃度が5重量%以上かつ50重量%以下であってもよい。
【0039】
これにより、本開示の一態様に係る光電変換素子は、近赤外光領域における感度を高くすることができる。
【0040】
また、例えば、本開示の一態様に係る光電変換素子では、前記光電変換膜の吸収スペクトルにおける吸収極大波長が、900nm以上であってもよい。
【0041】
これにより、本開示の一態様に係る光電変換素子は、近赤外光領域の広範囲に亘り高い光吸収特性を有することができる。
【0042】
また、本開示の一態様に係る撮像装置は、基板と、前記基板に設けられた電荷検出回路、前記基板上に設けられた光電変換部、および前記電荷検出回路と前記光電変換部とに電気的に接続された電荷蓄積ノードを含む画素と、を備え、前記光電変換部は上記のいずれかの光電変換素子を含む。
【0043】
これにより、本開示の一態様に係る撮像装置では、画素の光電変換部が上記光電変換素子を含むため、撮像装置は、近赤外光領域に高い光吸収特性を有し、かつ、高い光電変換効率を発現することができる。
【0044】
以下、本実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0045】
なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置および接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本開示を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。また、各図は、必ずしも厳密に図示されたものではない。各図において、実質的に同一の構成については同一の符号を付し、重複する説明は省略または簡略化することがある。
【0046】
(実施の形態)
以下、本開示に係る組成物、近赤外光電変換素子および撮像装置の実施の形態について説明する。なお、本明細書において、近赤外光電変換素子は、光電変換素子の一例である。
【0047】
[組成物]
まず、本実施の形態に係る組成物について説明する。本実施の形態に係る組成物は、下記一般式(1)で表されるナフタロシアニン誘導体を含む。
【0048】
【0049】
上記一般式(1)で表されるナフタロシアニン誘導体において、R1からR8は、それぞれ独立してアルキル基であり、R9及びR10は、それぞれ独立してアリール基である。
【0050】
本実施の形態に係る組成物は、上記一般式(1)で表されるナフタロシアニン誘導体を含むことにより、近赤外光領域に高い光吸収特性を有することができる。
【0051】
上記一般式(1)で表されるナフタロシアニン誘導体は、中心金属としてシリコン(Si)を有し、分子平面に対して上下に2つの軸配位子を有する軸配位子型の構造を有する。これにより、分子間の相互作用が緩和されるため、蒸着による成膜が容易になる。
【0052】
また、上記一般式(1)で表されるナフタロシアニン誘導体が、α位側鎖として電子供与性のアルコキシ基を有し、それぞれ独立してアリールオキシ基が中心金属に配位する軸配位子を有することで、900nm以上に吸収ピークを持つことになる。つまり、ナフタロシアニン誘導体の吸収極大波長が長波長化する。
【0053】
これにより、本実施の形態に係る組成物は、上記一般式(1)で表される化合物を含むため、近赤外光領域に高い光吸収特性を有することができる。そのため、本実施の形態における組成物を用いることにより、高い光電変換効率を発現する近赤外光電変換素子および撮像装置を得ることができる。
【0054】
上記一般式(1)において、R1からR8は、光電変換効率の観点から、アルキル基である。また、アルキル基は、直鎖または分岐のアルキル基を含む。中でも、上記一般式(1)においてR1からR8は、それぞれ独立して炭素数4以下のアルキル基であってもよい。炭素数4以下のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。
【0055】
本実施の形態に係る組成物は、上記一般式(1)で表されるナフタロシアニン誘導体がα位側鎖として電子供与性のアルコキシ基を有することにより、900nm以上の近赤外光領域に吸収波長のピークを有する。すなわち、α位側鎖として電子供与性のアルコキシ基を有さないナフタロシアニン誘導体に比べて長波長側に、吸収波長のピークを有し、近赤外光領域の広範囲に亘り、高い光吸収特性を有することができる。
【0056】
さらに、本実施の形態に係る組成物は、上記一般式(1)で表されるナフタロシアニン誘導体がR1からR8に炭素数4以下のアルキル基を有することにより、精製が容易となるため、合成が容易になる。
【0057】
なお、本願発明者らは、本開示における実施例1の出発原料と類似の構造を有するナフタロシアニン化合物のα位側鎖の炭素数が2の化合物が合成できることを確かめている。詳細は、本出願人による特許出願である特開2018-188617号公報に記載されている。この知見から、上記一般式(1)においても、R1からR8が炭素数2以下のアルキル基であっても同様に合成可能であると考えられる。
【0058】
また、R9及びR10は、同じであっても異なってもよく、それぞれ独立してアリール基である。
【0059】
また、アリール基とは、例えば、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、フェナントリル基、アントリル基、ターフェニル基、ピレニル基、フルオレニル基、ペリレニル基などの芳香族炭化水素基、または、ヘテロアリール基であり、無置換でも置換されていてもよい。
【0060】
上記アリール基は、さらに置換基を有していてもよい。つまり、上記アリール基の水素原子が置換基で置換されていてもよい。かかる置換基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、水酸基、アミノ基、チオール基、シリル基、エステル基、アリール基、ヘテロアリール基、およびその他の公知の置換基が挙げられる。ハロゲン原子で置換されたアリール基としては、例えば、フルオロフェニル基、ジフルオロフェニル基、パーフルオロフェニル基、フルオロナフチル基などが挙げられる。シアノ基で置換されたアリール基としては、例えば、シアノフェニル基、ジシアノフェニル基、ジシアノナフチル基などが挙げられる。水酸基で置換されたアリール基としては、ヒドロキシフェニル基、ジヒドロキシフェニル基、ヒドロキシナフチル基等が挙げられる。アミノ基で置換されたアリール基としては、例えば、ジメチルアミノ-フェニル基、ジフェニルアミノ-フェニル基、メチルフェニルアミノ-フェニル基、メチルアミノ-フェニル基、エチルアミノ-フェニル基、ジメチルアミノ-ナフチル基、ジフェニルアミノ-ナフチル基等の2級または3級のアミノ基が挙げられる。チオール基で置換されたアリール基としては、例えば、エチルチオ-フェニル基、エチルチオナフチル等が挙げられる。シリル基で置換されたアリール基としては、例えば、トリメチルシリル-フェニル基、トリエチルシリル-フェニル基、トリプロピルシリル-フェニル基、トリイソプロピルシリル-フェニル基、ジメチルイソプロピルシリル-フェニル基、ジメチルtert-ブチルシリル-ナフチル基等が挙げられる。エステル基で置換されたアリール基としては、例えば、メトキシカルボニル-フェニル基、エトキシカルボニル-フェニル基、プロポキシカルボニル-フェニル基、イソプロポキシカルボニル-フェニル基、tert-ブトキシカルボニル-フェニル基、フェノキシカルボニル-フェニル基、アセチルオキシ-フェニル基、ベンゾイルオキシ-フェニル基、ビス(メトキシカルボニル)-フェニル基等が挙げられる。
【0061】
合成の容易性の観点から、R9及びR10は、置換されたまたは無置換のフェニル基であってもよい。
【0062】
また、本実施の形態に係る組成物は、上記一般式(1)において、R9およびR10からなる群から選択される少なくとも1つにおける少なくとも1つの水素原子が、電子求引基で置換されていてもよい。つまり、上記一般式(1)において、R9およびR10からなる群から選択される少なくとも1つは、無置換のアリール基の少なくとも1つの水素原子が電子求引基で置換されたアリール基であってもよい。アリール基の水素原子が複数置換されている場合、同一の電子求引基で置換されていてもよく、異なる電子求引基で置換されていてもよい。また、本実施の形態に係る組成物は、合成容易性の観点から、上記一般式(1)において、R9及びR10は、それぞれ独立してフェニル基であり、R9およびR10からなる群から選択される少なくとも1つにおける少なくとも1つの水素原子が、電子求引基で置換されていてもよい。つまり、上記一般式(1)において、R9およびR10からなる群から選択される少なくとも1つは、無置換のフェニル基の少なくとも1つの水素原子が、電子求引基で置換されたフェニル基であってもよい。言い換えると、R9及びR10のアリール基は、フェニル基であってもよい。
【0063】
電子求引基は、誘起効果および共鳴効果などにより説明される、水素原子よりも電子求引性の高い置換基である。アリール基の水素原子が置換される置換基の場合、電子求引基としては、ニトロ基、シアノ基、フルオロ基、含フッ素基、ジアゾ基、スルホニル基、カルボニル基、イソチオシアネート基、チオシアネート基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基等が挙げられる。これらの中でも、ナフタロシアニン誘導体のHOMOエネルギー準位をより深くできる観点から、電子求引基は、電子求引性の高いニトロ基、シアノ基、フルオロ基、含フッ素基、ジアゾ基等であってもよく、ニトロ基またはシアノ基であってもよい。
【0064】
カルボニル基の場合、カルボニル基の炭素原子の一方の結合がR9からR10のアリール基と結合する。カルボニル基の炭素原子の他方の結合と結合する置換基は、特に制限されない。カルボニル基の炭素原子の他方の結合と結合する置換基としては、水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アミノ基、水酸基、アルケニル基、クロロ基等が挙げられる。R9及びR10の水素原子を置換する電子求引基に用いられるカルボニル基には、例えば、エステル基、アルデヒド基、ケトン骨格を有する置換基、アミド基、カルボキシ基、エノン骨格を有する置換基、酸塩化物骨格を有する置換基、酸無水物骨格を有する置換基等が含まれる。R9及びR10の水素原子を置換する電子求引基は、合成の容易性および化合物の扱いやすさの観点から、エステル基であってもよい。エステル基は、アルコキシカルボニル基と称される場合もある。
【0065】
スルホニル基の場合、スルホニル基の硫黄原子の一方の結合がR9及びR10のアリール基と結合する。スルホニル基の硫黄原子の他方の結合と結合する置換基は、特に制限されない。スルホニル基の硫黄原子の他方の結合と結合する置換基としては、アルキル基、アリール基、アミノ基、水酸基等が挙げられる。R9及びR10の水素原子を置換する電子求引基に用いられるスルホニル基には、例えば、トシル基、メシル基、スルホ基等が含まれる。
【0066】
本実施の形態に係る組成物では、R9およびR10からなる群から選択される少なくとも1つにおける少なくとも1つの水素原子が電子求引基で置換されることにより、エネルギーギャップがさらに狭くなり、近赤外光領域における吸収極大波長が長波長化する。このことから、本実施の形態に係る組成物は、従来よりも長波長側の近赤外光領域に高い光吸収特性を有する。さらに、本実施の形態に係る組成物では、アリール基またはフェニル基の水素原子が電子求引基で置換されることにより、HOMOエネルギー準位が深くなる。このことから、本実施の形態に係る組成物は、近赤外光電変換素子等に用いた場合に暗電流を抑制することができる。
【0067】
また、本実施の形態に係る組成物は、合成容易性の観点から、電子求引基は、シアノ基、フルオロ基およびカルボニル基のいずれかであってもよい。アリール基の水素原子が複数置換されている場合、これらの置換基のうち、同一の置換基で置換されていてもよく、異なる置換基で置換されていてもよい。
【0068】
少なくとも1つの水素原子が電子求引基としてフルオロ基で置換されたアリール基としては、例えば、4-フルオロフェニル基、3,5-ジフルオロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基等が挙げられる。
【0069】
少なくとも1つの水素原子が電子求引基としてシアノ基で置換されたアリール基としては、例えば、4-シアノフェニル基、3,5-ジシアノフェニル基、α-シアノチエニル等が挙げられる。
【0070】
少なくとも1つの水素原子が電子求引基としてカルボニル基で置換されたアリール基としては、例えば、4-メトキシカルボニルフェニル基、3,5-ビスメトキシカルボニルフェニル基、4-カルボキシフェニル基、4-アセチルフェニル基等が挙げられる。
【0071】
以下、上記一般式(1)で表されるナフタロシアニン誘導体について、より具体的に説明する。
【0072】
本実施の形態では、上記一般式(1)において、R1からR8はブチル基であり、R9及びR10は、それぞれ独立して、置換されたまたは無置換のフェニル基であってもよい。例えば、R9及びR10がそれぞれ4-シアノフェニル基である場合、上記一般式(1)で表されるナフタロシアニン誘導体は、下記構造式(2)で表される化合物である。
【0073】
【0074】
本実施の形態では、上記一般式(1)において、R1からR8はプロピル基であり、R9及びR10は、それぞれ独立して、置換されたまたは無置換のフェニル基であってもよい。例えば、R9及びR10がそれぞれ4-シアノフェニル基である場合、上記一般式(1)で表されるナフタロシアニン誘導体は、下記構造式(3)で表される化合物である。
【0075】
【0076】
また、例えば、R9及びR10がそれぞれ3,5-ジシアノフェニル基である場合、上記一般式(1)で表されるナフタロシアニン誘導体は、下記構造式(4)で表される化合物である。
【0077】
【0078】
また、例えば、R9及びR10がそれぞれ3-フルオロ-4-シアノフェニル基である場合、上記一般式(1)で表されるナフタロシアニン誘導体は、下記構造式(5)で表される化合物である。
【0079】
【0080】
例えば、R9及びR10がそれぞれ4-メトキシカルボニル-フェニル基である場合、上記一般式(1)で表されるナフタロシアニン誘導体は、下記構造式(6)で表される化合物である。
【0081】
【0082】
上記一般式(1)で表されるナフタロシアニン誘導体が、上記構造式(2)から(6)で表される化合物のいずれか1つであることにより、本実施の形態に係る組成物は、容易に準備できる軸配位子を用いることができるため、合成が容易になる。
【0083】
以下、本実施の形態における上記一般式(1)で表される化合物の合成方法について説明する。
【0084】
上記一般式(1)で表される化合物のナフタロシアニン環形成反応は、白井汪芳、小林長夫編・著「フタロシアニン-化学と機能-」(アイピーシー社、1997年刊)の第1から62頁(非特許文献4)に準じて行うことができる。
【0085】
ナフタロシアニン誘導体の代表的な合成方法としては、上記の非特許文献4に記載のワイラー法、フタロニトリル法、リチウム法、サブフタロシアニン法、および塩素化フタロシアニン法などが挙げられる。本実施の形態では、ナフタロシアニン環形成反応において、いかなる反応条件を用いてもよい。環形成反応においては、ナフタロシアニンの中心金属となるSi金属を添加してもよいが、中心金属を持たないナフタロシアニン誘導体を合成した後に、Si金属を導入してもよい。反応溶媒としては、いかなる溶媒を用いてもよいが、高沸点の溶媒であるとよい。また、環形成反応促進のために、酸または塩基を用いてもよく、特に、塩基を用いるとよい。最適な反応条件は、目的とするナフタロシアニン誘導体の構造により異なるが、上記の非特許文献4に記載された具体的な反応条件を参考に設定することができる。
【0086】
上記のナフタロシアニン誘導体の合成に使用する原料としては、無水ナフタル酸、ナフタルイミド、ナフタル酸およびその塩、ナフタル酸ジアミド、ナフタロニトリル、1,3-ジイミノベンゾイソインドリンなどの誘導体を用いることができる。これらの原料は公知のいかなる方法で合成してもよい。
【0087】
本実施の形態では、中心金属を持たないナフタロシアニン誘導体を合成した後に、HSiCl3を含む試薬を組み合わせることでナフタロシアニン環の中心にSi金属を導入してもよい。中心金属を有するナフタロシアニン誘導体の合成方法は、中心金属としてSi金属を有する場合、イソインドリン前駆体とテトラクロロケイ素とを用いて、中心にSi金属を導入しながらナフタロシアニン環の形成を行う反応が一般的である。しかしながら、アルコキシ側鎖を有するイソインドリン前駆体の合成が困難であるため、中心金属を持たないナフタロシアニン誘導体を合成した後、ナフタロシアニン環の中心にSi金属を導入する方法を選択することも有効である。
【0088】
[近赤外光電変換素子]
以下、本実施の形態に係る近赤外光電変換素子について
図1および
図2を用いて説明する。
図1は、本実施の形態に係る近赤外光電変換素子の一例である近赤外光電変換素子10Aの概略断面図である。
【0089】
本実施の形態に係る近赤外光電変換素子10Aは、一対の電極である上部電極4および下部電極2と、上部電極4と下部電極2との間に設けられ、上述のいずれかの組成物を含む近赤外光電変換膜3と、を備える。なお、本明細書において、上部電極は、第1の電極の一例であり、下部電極は、第2の電極の一例であり、近赤外光電変換膜は、光電変換膜の一例である。
【0090】
本実施の形態に係る近赤外光電変換素子10Aは、例えば支持基板1に支持されている。
【0091】
支持基板1は近赤外光に対して透明であり、支持基板1を介して近赤外光電変換素子10Aに近赤外光を含む光が入射する。支持基板1は、一般的な光電変換素子にて使用される基板であればよく、例えば、ガラス基板、石英基板、半導体基板、または、プラスチック基板等であってもよい。なお、「近赤外光に対して透明である」とは、近赤外光に対して実質的に透明であることをいい、例えば、近赤外光領域の光の透過率が60%以上であってもよく、80%以上であってもよく、90%以上であってもよい。
【0092】
以下、本実施の形態に係る近赤外光電変換素子10Aの各構成要素について説明する。
【0093】
近赤外光電変換膜3は、例えば、下記一般式(1)で表されるナフタロシアニン誘導体を含む組成物を用いて作製される。
【0094】
【0095】
但し、R1からR8は、それぞれ独立してアルキル基であり、R9及びR10は、それぞれ独立してアリール基である。
【0096】
本実施の形態では、上記一般式(1)で表されるナフタロシアニン誘導体は、例えば、下記構造式(2)、(3)、(4)、(5)および(6)で表される化合物のいずれかであってもよい。
【0097】
【化15】
【化16】
【化17】
【化18】
【化19】
【0098】
近赤外光電変換膜3の作製方法は、例えば、スピンコートなどによる塗布法、真空下で加熱することにより膜の材料を気化し、基板上に堆積させる真空蒸着法などを用いることができる。スピンコートの場合は、大気下またはN2雰囲気下などで成膜ができ、回転数は300rpmから3000rpmで成膜してもよい。また、スピンコート後に溶媒を蒸発させ、膜を安定化するためにベーク処理を行ってもよい。ベーク温度はいかなる温度でも良いが、例えば、60℃から250℃である。
【0099】
不純物の混入を防止し、高機能化のための多層化をより自由度を持って行うことを考慮する場合には蒸着法を用いてもよい。蒸着装置は、市販の装置を用いてもよい。蒸着中の蒸着源の温度は、100℃から500℃であってもよく、150℃から400℃であってもよい。蒸着時の真空度は、1×10-6Paから1Paであってもよく、1×10-6Paから1×10-4Paであってもよい。また、蒸着源に金属微粒子等を添加して蒸着速度を高める方法を用いてもよい。
【0100】
近赤外光電変換膜3の材料の配合割合は、塗布法では重量比、蒸着法では体積比で示される。より具体的には、塗布法では、溶液調整時の各材料の重量で配合割合を規定し、蒸着法では、蒸着時に膜厚計で各材料の蒸着膜厚をモニタリングしながら各材料の配合割合を規定する。
【0101】
上記材料の配合割合は、例えば、近赤外光電変換素子10A、および
図2を用いて後述する近赤外光電変換素子10Bでは、近赤外光電変換膜3における上記組成物の濃度は、5重量%以上50重量%以下であってもよい。これにより、近赤外光電変換素子10Aおよび10Bは、近赤外光領域における感度を高くすることができる。
【0102】
本願発明者らの研究により、中心金属にSiを有し、α位側鎖にアルコキシ基を有し、かつ、軸配位子にホスフィナート(phosphinate)誘導体を有するナフタロシアニン誘導体を含む組成物では、近赤外光電変換膜3における組成物の濃度は、5体積%以上50体積%以下であるとよいことが分かっている。詳細は、本出願人による特許出願である特願2018-215957に記載されている。近赤外光電変換膜に含まれるナフタロシアニン誘導体では、電子は、ナフタロシアニン全体に広がる電子雲から、近赤外光電変換膜に含まれるアクセプター性有機半導体、例えば、フラーレン(すなわち、C60)側に移動する。そのため、軸配位子をアリールオキシ基に置き換えても、光電変換効率に大きな影響を与えないと考えられる。
【0103】
また、本実施の形態では、近赤外光電変換膜3の吸収波長のピークは900nm以上であってもよい。これにより、本実施の形態に係る近赤外光電変換素子は、近赤外光領域の広範囲に亘り、高い光吸収特性を有することができる。
【0104】
上部電極4および下部電極2の少なくとも一方は、近赤外光に対して透明な導電性材料で構成された透明電極である。下部電極2および上部電極4には配線(不図示)によってバイアス電圧が印加される。例えば、バイアス電圧は、近赤外光電変換膜3で発生した電荷のうち、電子が上部電極4に移動し、正孔が下部電極2に移動するように、極性が決定される。また、近赤外光電変換膜3で発生した電荷のうち、正孔が上部電極4に移動し、電子が下部電極2に移動するように、バイアス電圧を設定してもよい。
【0105】
また、バイアス電圧は、印加する電圧値を下部電極2と上部電極4との間の距離で割った値、つまり近赤外光電変換素子10Aに生じる電界の強さが、1.0×103V/cmから1.0×107V/cmの範囲内となるように印加されてもよく、1.0×104V/cmから1.0×107V/cmの範囲内であってもよい。このようにバイアス電圧の大きさを調整することにより、上部電極4に電荷を効率的に移動させ、電荷に応じた信号を外部に取り出すことが可能となる。
【0106】
下部電極2および上部電極4の材料としては、近赤外光領域の光の透過率が高く、抵抗値が小さい透明導電性酸化物(TCO:Transparent Conducting Oxide)を用いてもよい。金(Au)などの金属薄膜を透明電極として用いることもできるが、近赤外光領域の光の透過率を90%以上得ようとすると、透過率を60%から80%得られるように透明電極を作製した場合に比べ、抵抗値が極端に増大することがある。そのため、Auなどの金属材料よりもTCOを用いる方が近赤外光に対する透明性が高く、かつ、抵抗値が小さい透明電極を得ることができる。TCOは、特に限定されないが、例えば、ITO(Indium Tin Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)、AZO(Aluminum-doped Zinc Oxide)、FTO(Florine-doped Tin Oxide)、SnO2、TiO2、ZnO2等を用いることができる。なお、下部電極2および上部電極4は、所望の透過率に応じて、適宜、TCOおよびAuなどの金属材料を単独でまたは複数組み合わせて作製してもよい。
【0107】
なお、下部電極2および上部電極4の材料は、上述した近赤外光に対して透明な導電性材料に限られず、他の材料を用いてもよい。
【0108】
下部電極2および上部電極4の作製には、使用する材料によって種々の方法が用いられる。例えばITOの場合、電子ビーム法、スパッタリング法、抵抗加熱蒸着法、ゾル-ゲル法などの化学反応法、酸化インジウムスズの分散物の塗布などの方法を用いてもよい。この場合、ITO膜を成膜した後に、さらに、UV-オゾン処理、プラズマ処理などを施してもよい。
【0109】
近赤外光電変換素子10Aによれば、支持基板1および下部電極2を介して入射した近赤外光によって、近赤外光電変換膜3において、光電変換が生じる。これにより生成した正孔電子対のうち、正孔は下部電極2に集められ、電子は上部電極4に集められる。よって、例えば、下部電極2の電位を測定することによって、近赤外光電変換素子10Aに入射した近赤外光を検出することができる。
【0110】
なお、近赤外光電変換素子10Aは、さらに、後述する電子ブロッキング層5および正孔ブロッキング層6を備えてもよい。電子ブロッキング層5および正孔ブロッキング層6により近赤外光電変換膜3を挟むことにより、下部電極2から近赤外光電変換膜3に電子が注入されること、および、上部電極4から近赤外光電変換膜3に正孔が注入されることを抑制することができる。これにより、暗電流を抑制することができる。なお、電子ブロッキング層5および正孔ブロッキング層6の詳細については、後述する。
【0111】
次に、本実施の形態に係る近赤外光電変換素子の他の例について
図2および
図3を用いて説明する。
図2は、本実施の形態に係る光電変換素子の他の例である近赤外光電変換素子10Bの概略断面図である。
図3は、近赤外光電変換素子10Bのエネルギーバンド図の一例を示す。なお、
図2に示される近赤外光電変換素子10Bにおいて、
図1に示される近赤外光電変換素子10Aと同じ構成要素には同じ参照符号を付している。
【0112】
図2に示されるように、近赤外光電変換素子10Bは、少なくとも、下部電極2、上部電極4、および下部電極2と上部電極4との間に配置される光電変換層3Aを備えている。光電変換層3Aは、例えば、近赤外光電変換膜3と、正孔輸送層として機能するp型半導体層7と、電子輸送層として機能するn型半導体層8とを含んでおり、近赤外光電変換膜3は、p型半導体層7およびn型半導体層8の間に配置される。さらに、近赤外光電変換素子10Bは、下部電極2と光電変換層3Aとの間に配置される電子ブロッキング層5、および上部電極4と光電変換層3Aとの間に配置される正孔ブロッキング層6を備える。なお、近赤外光電変換膜3については、
図1に示される近赤外光電変換素子10Aの説明で上述したとおりであるため、ここでの説明は省略する。
【0113】
光電変換層3Aは、近赤外光電変換膜3、p型半導体層7およびn型半導体層8を含む。ここで、p型半導体層7に含まれるp型半導体およびn型半導体層8に含まれるn型半導体の少なくともいずれかが後述する有機半導体であってもよい。
【0114】
また、光電変換層3Aは、上述した組成物と、有機p型半導体および有機n型半導体の少なくとも一方とを含んでいてもよい。
【0115】
また、光電変換層3Aは、p型半導体とn型半導体とを混合したバルクヘテロ接合構造層を含んでいてもよい。光電変換層3Aは、バルクへテロ接合構造層を含むことにより、光電変換層3Aにおけるキャリア拡散長が短いという欠点を補い、光電変換効率を向上させることができる。
【0116】
さらに、光電変換層3Aは、p型半導体層7およびn型半導体層8の間にバルクヘテロ接合構造層を配置してもよい。バルクヘテロ接合構造層をp型半導体層7およびn型半導体層8で挟むことにより、正孔および電子の整流性がバルクヘテロ接合構造層よりも高くなり、電荷分離した正孔および電子の再結合などによるロスが低減され、さらに高い光電変換効率を得ることができる。なお、バルクへテロ接合構造層については、特許文献5においてバルクヘテロ型活性層について詳細に説明されているとおりである。
【0117】
バルクへテロ接合構造層では、p型半導体とn型半導体とが接触することにより、暗状態においても電荷が発生する場合がある。そのため、p型半導体とn型半導体との接触を少なくすることにより、暗電流が抑制することができる。電荷移動度の観点から、バルクヘテロ接合構造層がフラーレン誘導体などのn型半導体を多く含む場合、素子抵抗を抑制することができる。この場合、バルクへテロ接合構造層におけるp型半導体に対するn型半導体の体積比、および重量比率は、4倍以上であってもよい。しかしながら、バルクへテロ接合構造層において、p型半導体の割合を少なくなると、近赤外光領域における感度が低下する。そのため、感度の観点から、バルクへテロ接合構造層において、p型半導体に対するn型半導体の体積比率が大きすぎなくてもよい。例えば、20倍以下であってもよい。バルクへテロ接合構造層におけるp型半導体に対するn型半導体の体積比率が4倍以上20倍以下であれば、暗電流の抑制と近赤外光領域における感度とを両立させることができる(例えば、特許文献6参照)。
【0118】
有機化合物のp型半導体は、ドナー性有機半導体であり、主に、正孔輸送性有機化合物に代表され、電子を供与しやすい性質がある有機化合物をいう。さらに詳しくは、2つの有機材料を接触させて用いたときにイオン化ポテンシャルの小さい方の有機化合物をいう。したがって、ドナー性有機半導体は、電子供与性のある有機化合物であればいずれの有機化合物も使用可能である。例えば、トリアリールアミン化合物、ベンジジン化合物、ピラゾリン化合物、スチリルアミン化合物、ヒドラゾン化合物、トリフェニルメタン化合物、カルバゾール化合物、ポリシラン化合物、チオフェン化合物、フタロシアニン化合物、シアニン化合物、メロシアニン化合物、オキソノール化合物、ポリアミン化合物、インドール化合物、ピロール化合物、ピラゾール化合物、ポリアリーレン化合物、縮合芳香族炭素環化合物(ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、フェナントレン誘導体、テトラセン誘導体、ピレン誘導体、ペリレン誘導体、フルオランテン誘導体)、含窒素ヘテロ環化合物を配位子として有する金属錯体等を用いることができる。なお、これに限らず、上記したように、アクセプター性半導体として用いた有機化合物よりもイオン化ポテンシャルの小さい有機化合物であればドナー性有機半導体として用いてよい。
【0119】
有機化合物のn型半導体は、アクセプター性有機半導体であり、主に、電子輸送性有機化合物に代表され、電子を受容しやすい性質がある有機化合物をいう。さらに詳しくは、2つの有機化合物を接触させて用いたときに電子親和力の大きい方の有機化合物をいう。したがって、アクセプター性有機化合物は、電子受容性のある有機化合物であればいずれの有機化合物も使用可能である。例えば、フラーレン、フラーレン誘導体、縮合芳香族炭素環化合物(例えばナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、フェナントレン誘導体、テトラセン誘導体、ピレン誘導体、ペリレン誘導体、フルオランテン誘導体)、5ないし7員のヘテロ環化合物であって窒素原子、酸素原子または硫黄原子を含有するヘテロ環化合物(例えばピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、キノリン、キノキサリン、キナゾリン、フタラジン、シンノリン、イソキノリン、プテリジン、アクリジン、フェナジン、フェナントロリン、テトラゾール、ピラゾール、イミダゾール、チアゾール、オキサゾール、インダゾール、ベンズイミダゾール、ベンゾトリアゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール、カルバゾール、プリン、トリアゾロピリダジン、トリアゾロピリミジン、テトラザインデン、オキサジアゾール、イミダゾピリジン、ピロリジン、ピロロピリジン、チアジアゾロピリジン、ジベンズアゼピン、トリベンズアゼピン等)、ポリアリーレン化合物、フルオレン化合物、シクロペンタジエン化合物、シリル化合物、含窒素ヘテロ環化合物を配位子として有する金属錯体などが挙げられる。なお、これに限らず、上記したように、ドナー性有機化合物として用いた有機化合物よりも電子親和力の大きな有機化合物であればアクセプター性有機半導体として用いてよい。
【0120】
電子ブロッキング層5は、下部電極2から電子が注入されることによる暗電流を低減するために設けられており、下部電極2から電子が光電変換層3Aに注入されることを抑制する。電子ブロッキング層5には上述のp型半導体または正孔輸送性有機化合物を用いることもできる。
図3に示されるように、電子ブロッキング層5は、光電変換層3Aのp型半導体層7よりも低いHOMOエネルギー準位および高いLUMOエネルギー準位を有する。言い換えると、光電変換層3Aは、電子ブロッキング層5との界面近傍において、電子ブロッキング層5よりも高いエネルギー準位のHOMOおよび電子ブロッキング層5よりも低いエネルギー準位のLUMOを有する。
【0121】
正孔ブロッキング層6は、上部電極4から正孔が注入されることによる暗電流を低減するために設けられており、上部電極4からの正孔が光電変換層3Aに注入されるのを抑制する。正孔ブロッキング層6の材料は、例えば、銅フタロシアニン、PTCDA(3,4,9,10-Perylenetetracarboxylic dianhydride)、アセチルアセトネート錯体、BCP(Bathocuproine)、Alq(Tris(8-quinolinolate)aluminum)などの有機物、もしくは、有機-金属化合物、または、MgAg、MgOなどの無機物を用いてもよい。また、正孔ブロッキング層6は、近赤外光電変換膜3の光吸収を妨げないために、近赤外光の透過率が高くてもよく、可視光領域に吸収を持たない材料を選択してもよく、正孔ブロッキング層6の厚さを小さくしてもよい。正孔ブロッキング層6の厚さは、光電変換層3Aの構成、上部電極4の厚さ等に依存するが、例えば、2nm以上50nm以下の厚さであってもよい。正孔ブロッキング層6は上述のn型半導体または電子輸送性有機化合物を用いることもできる。
【0122】
電子ブロッキング層5を設ける場合、下部電極2の材料には、上述した材料の中から電子ブロッキング層5との密着性、電子親和力、イオン化ポテンシャル、および安定性等を考慮して選ばれる。なお、上部電極4についても同様である。
【0123】
図3に示されるように、上部電極4の仕事関数が比較的大きい(例えば、4.8eV)と、バイアス電圧印加時に正孔が近赤外光電変換膜3へと移動する際の障壁が低くなる。そのため、上部電極4から光電変換層3Aへの正孔注入が起こりやすくなり、結果として暗電流が大きくなると考えられる。本実施の形態に係る近赤外光電変換素子10Bでは、正孔ブロッキング層6を設けているため、暗電流が抑制されている。
【0124】
[撮像装置]
以下、本実施の形態に係る撮像装置について
図4および
図5を用いて説明する。
図4は、本実施の形態に係る撮像装置100の回路構成の一例を示す図である。
図5は、本実施の形態に係る撮像装置100における画素24のデバイス構造の一例を示す概略断面図である。
【0125】
図4および
図5に示されるように、本実施の形態に係る撮像装置100は、基板である半導体基板40と、半導体基板40に設けられた電荷検出回路35、半導体基板40上に設けられた光電変換部10C、および電荷検出回路35と光電変換部10Cとに電気的に接続された電荷蓄積ノード34を含む画素24と、を備える。画素24の光電変換部10Cは上記の近赤外光電変換素子10Aまたは10Bを含む。電荷蓄積ノード34は、光電変換部10Cで得られた電荷を蓄積し、電荷検出回路35は、電荷蓄積ノード34に蓄積された電荷を検出する。なお、半導体基板40に設けられた電荷検出回路35は、半導体基板40上に設けられていてもよく、半導体基板40中に直接設けられていてもよい。
【0126】
図4に示されるように、撮像装置100は、複数の画素24と、垂直走査回路25および水平信号読出し回路20などの周辺回路と、を備えている。撮像装置100は、1チップの集積回路で実現される有機イメージセンサであり、2次元に配列された複数の画素24を含む画素アレイを有する。
【0127】
複数の画素24は、半導体基板40上に2次元、すなわち行方向および列方向に配列されて、感光領域(いわゆる、画素領域)を形成している。
図4では、画素24は、2行2列のマトリックス状に配列される例を示している。なお、
図4では、図示の便宜上、画素24の感度を個別に設定するための回路(例えば、画素電極制御回路)を省略している。また、撮像装置100は、ラインセンサであってもよい。その場合、複数の画素24は、1次元に配列されていてもよい。なお、行方向および列方向とは、行および列がそれぞれ伸びる方向をいう。つまり、
図4において、紙面における縦方向が列方向であり、横方向が行方向である。
【0128】
図4に示されるように、各画素24は、光電変換部10Cと、電荷検出回路35とに電気的に接続された電荷蓄積ノード34とを含む。
図5に示される電荷検出回路35は、増幅トランジスタ21と、リセットトランジスタ22と、アドレストランジスタ23とを含む。
【0129】
光電変換部10Cは、画素電極として設けられた下部電極2および対向電極として設けられた上部電極4を含む。光電変換部10Cには上述した近赤外光電変換素子10Aまたは10Bを用いてもよい。上部電極4には、対向電極信号線26を介して所定のバイアス電圧が印加される。
【0130】
下部電極2は、増幅トランジスタ21のゲート電極に接続され、下部電極2によって集められた信号電荷は、下部電極2と増幅トランジスタ21のゲート電極との間に位置する電荷蓄積ノード34に蓄積される。本実施の形態では、信号電荷は正孔であるが、信号電荷は電子であってもよい。
【0131】
電荷蓄積ノード34に蓄積された信号電荷は、信号電荷の量に応じた電圧として増幅トランジスタ21のゲート電極に印加される。増幅トランジスタ21は、この電圧を増幅し、信号電圧として、アドレストランジスタ23によって、選択的に読み出される。リセットトランジスタ22は、そのソース/ドレイン電極が、下部電極2に接続されており、電荷蓄積ノード34に蓄積された信号電荷をリセットする。換言すると、リセットトランジスタ22は、増幅トランジスタ21のゲート電極および下部電極2の電位をリセットする。
【0132】
複数の画素24において上述した動作を選択的に行うため、撮像装置100は、電源配線31と、垂直信号線27と、アドレス信号線36と、リセット信号線37とを有し、これらの線が画素24にそれぞれ接続されている。具体的には、電源配線31は、増幅トランジスタ21のソース/ドレイン電極に接続され、垂直信号線27は、アドレストランジスタ23のソース/ドレイン電極に接続される。アドレス信号線36は、アドレストランジスタ23のゲート電極に接続される。またリセット信号線37は、リセットトランジスタ22のゲート電極に接続される。
【0133】
周辺回路は、垂直走査回路25と、水平信号読出し回路20と、複数のカラム信号処理回路29と、複数の負荷回路28と、複数の差動増幅器32とを含む。垂直走査回路25は、行走査回路とも称される。水平信号読出し回路20は、列走査回路とも称される。カラム信号処理回路29は、行信号蓄積回路とも称される。差動増幅器32は、フィードバックアンプとも称される。
【0134】
垂直走査回路25は、アドレス信号線36およびリセット信号線37に接続されており、各行に配置された複数の画素24を行単位で選択し、信号電圧の読出しおよび下部電極2の電位のリセットを行う。ソースフォロア電源として機能する電源配線31は、各画素24に所定の電源電圧を供給する。水平信号読出し回路20は、複数のカラム信号処理回路29に電気的に接続されている。カラム信号処理回路29は、各列に対応した垂直信号線27を介して、各列に配置された画素24に電気的に接続されている。負荷回路28は、各垂直信号線27に電気的に接続されている。負荷回路28と増幅トランジスタ21とは、ソースフォロア回路を形成する。
【0135】
複数の差動増幅器32は、各列に対応して設けられている。差動増幅器32の負側の入力端子は、対応した垂直信号線27に接続されている。また、差動増幅器32の出力端子は、各列に対応したフィードバック線33を介して画素24に接続されている。
【0136】
垂直走査回路25は、アドレス信号線36によって、アドレストランジスタ23のオンおよびオフを制御する行選択信号をアドレストランジスタ23のゲート電極に印加する。これにより、読出し対象の行が走査され、選択される。選択された行の画素24から垂直信号線27に信号電圧が読み出される。また、垂直走査回路25は、リセット信号線37を介して、リセットトランジスタ22のオンおよびオフを制御するリセット信号をリセットトランジスタ22のゲート電極に印加する。これにより、リセット動作の対象となる画素24の行が選択される。垂直信号線27は、垂直走査回路25によって選択された画素24から読み出された信号電圧をカラム信号処理回路29へ伝達する。
【0137】
カラム信号処理回路29は、相関二重サンプリングに代表される雑音抑圧信号処理およびアナログ-デジタル変換(AD変換)などを行う。
【0138】
水平信号読出し回路20は、複数のカラム信号処理回路29から水平共通信号線(不図示)に信号を順次読み出す。
【0139】
差動増幅器32は、フィードバック線33を介してリセットトランジスタ22のドレイン電極に接続されている。したがって、差動増幅器32は、アドレストランジスタ23とリセットトランジスタ22とが導通状態にあるときに、アドレストランジスタ23の出力値を負端子に受ける。増幅トランジスタ21のゲート電位が所定のフィードバック電圧となるように、差動増幅器32はフィードバック動作を行う。このとき、差動増幅器32の出力電圧値は、0Vまたは0V近傍の正電圧である。フィードバック電圧とは、差動増幅器32の出力電圧を意味する。
【0140】
図5に示されるように、画素24は、半導体基板40と、電荷検出回路35と、光電変換部10Cと、電荷蓄積ノード34(
図4参照)とを含む。
【0141】
半導体基板40は、感光領域(いわゆる、画素領域)が形成される側の表面に半導体層が設けられた絶縁性基板などであってもよく、例えば、p型シリコン基板である。半導体基板40は、不純物領域(ここではn型領域)21D、21S、22D、22Sおよび23Sと、画素24間の電気的な分離のための素子分離領域41とを有する。ここでは、素子分離領域41は、不純物領域21Dと不純物領域22Dとの間にも設けられている。これにより、電荷蓄積ノード34で蓄積される信号電荷のリークが抑制される。なお、素子分離領域41は、例えば、所定の注入条件の下でアクセプターのイオン注入を行うことによって形成される。
【0142】
不純物領域21D、21S、22D、22Sおよび23Sは、典型的には、半導体基板40内に形成された拡散層である。
図5に示すように、増幅トランジスタ21は、不純物領域21Sおよび21Dと、ゲート電極21Gとを含む。不純物領域21Sおよび21Dは、それぞれ、増幅トランジスタ21の例えばソース領域およびドレイン領域として機能する。不純物領域21Sおよび21Dの間に、増幅トランジスタ21のチャネル領域が形成される。
【0143】
同様に、アドレストランジスタ23は、不純物領域23Sおよび21Sと、アドレス信号線36に接続されたゲート電極23Gとを含む。この例では、増幅トランジスタ21およびアドレストランジスタ23は、不純物領域21Sを共有することによって互いに電気的に接続されている。不純物領域23Sは、アドレストランジスタ23の例えばソース領域として機能する。不純物領域23Sは、
図3に示す垂直信号線27との接続を有する。
【0144】
リセットトランジスタ22は、不純物領域22Dおよび22Sと、リセット信号線37に接続されたゲート電極22Gとを含む。不純物領域22Sは、リセットトランジスタ22の例えばソース領域として機能する。不純物領域22Sは、
図4に示されるリセット信号線37との接続を有する。
【0145】
半導体基板40上には、増幅トランジスタ21、アドレストランジスタ23およびリセットトランジスタ22を覆うように層間絶縁層50が積層されている。
【0146】
また、層間絶縁層50中には、配線層(不図示)が配置され得る。配線層は、典型的には、銅などの金属から形成され、例えば、上述の垂直信号線27などの配線をその一部に含み得る。層間絶縁層50中の絶縁層の層数、および、層間絶縁層50中に配置される配線層の層数は、任意に設定可能である。
【0147】
層間絶縁層50中には、リセットトランジスタ22の不純物領域22Dと接続されたコンタクトプラグ54、増幅トランジスタ21のゲート電極21Gと接続されたコンタクトプラグ53、下部電極2と接続されたコンタクトプラグ51、および、コンタクトプラグ51とコンタクトプラグ54とコンタクトプラグ53とを接続する配線52が配置されている。これにより、リセットトランジスタ22のドレイン電極として機能する不純物領域22Dが増幅トランジスタ21のゲート電極21Gと電気的に接続されている。
【0148】
電荷検出回路35は、下部電極2によって捕捉された信号電荷を検出し、信号電圧を出力する。電荷検出回路35は、増幅トランジスタ21と、リセットトランジスタ22と、アドレストランジスタ23とを含み、半導体基板40に形成されている。
【0149】
増幅トランジスタ21は、半導体基板40内に形成され、それぞれドレイン電極およびソース電極として機能する不純物領域21Dおよび21Sと、半導体基板40上に形成されたゲート絶縁層21Xと、ゲート絶縁層21X上に形成されたゲート電極21Gとを含む。
【0150】
リセットトランジスタ22は、半導体基板40内に形成され、それぞれドレイン電極およびソース電極として機能する不純物領域22Dおよび22Sと、半導体基板40上に形成されたゲート絶縁層22Xと、ゲート絶縁層22X上に形成されたゲート電極22Gとを含む。
【0151】
アドレストランジスタ23は、半導体基板40内に形成され、それぞれドレイン電極およびソース電極として機能する不純物領域21Sおよび23Sと、半導体基板40上に形成されたゲート絶縁層23Xと、ゲート絶縁層23X上に形成されたゲート電極23Gとを含む。不純物領域21Sは、増幅トランジスタ21とアドレストランジスタ23とに共用されており、これにより、増幅トランジスタ21とアドレストランジスタ23とが直列に接続される。
【0152】
層間絶縁層50上には、上述の光電変換部10Cが配置される。換言すれば、本実施の形態では、画素アレイを構成する複数の画素24が、半導体基板40上に形成されている。そして、半導体基板40上に2次元に配列された複数の画素24は、感光領域(いわゆる、画素領域)を形成する。隣接する2つの画素24間の距離(すなわち、画素ピッチ)は、例えば2μm程度であってもよい。
【0153】
光電変換部10Cは、上述した近赤外光電変換素子10Aまたは近赤外光電変換素子10Bの構造を備える。
【0154】
光電変換部10Cの上方には、カラーフィルタ60、その上方にマイクロレンズ61が設けられている。カラーフィルタ60は、例えば、パターニングによるオンチップカラーフィルタとして形成され、染料または顔料が分散された感光性樹脂等が用いられる。マイクロレンズ61は、例えば、オンチップマイクロレンズとして設けられ、紫外線感光材等が用いられる。
【0155】
撮像装置100は、一般的な半導体製造プロセスを用いて製造することができる。特に、半導体基板40としてシリコン基板を用いる場合には、種々のシリコン半導体プロセスを利用することによって製造することができる。
【0156】
以上から、本実施の形態によれば、近赤外光領域に高い光吸収特性を有し、かつ暗電流を低減可能な組成物を用いることにより、高い光電変換効率を発現することが可能な近赤外光電変換素子および撮像装置を実現することができる。
【実施例】
【0157】
以下、実施例にて本開示に係る組成物、近赤外光電変換膜および近赤外光電変換素子を具体的に説明するが、本開示は以下の実施例のみに何ら限定されるものではない。
【0158】
なお、実施例1、実施例2、実施例3および比較例1で得られた化合物を含む組成物を成膜した近赤外光電変換膜を、それぞれ実施例6、実施例7、実施例8および比較例2とする。また、実施例6、実施例7、実施例8および比較例2で得られた近赤外光電変換膜を用いた近赤外光電変換素子を、それぞれ実施例9、実施例10、実施例11および比較例3とする。
【0159】
以下、プロピル基C3H7をPr、ブチル基C4H9をBu、ヘキシル基C6H13をHex、ナフタロシアニン骨格C48H26N8をNcと表すことがある。
【0160】
[ナフタロシアニン誘導体]
以下、実施例1から実施例5および比較例1を示し、本開示に係る組成物に含まれるナフタロシアニン誘導体についてより具体的に説明する。
【0161】
(実施例1)
<(OBu)8Si(O-4-CNPh)2Ncの合成>
以下に説明するステップ(1)および(2)に従い、下記構造式(2)で表される化合物(OBu)8Si(O-4-CNPh)2Ncを合成した。
【0162】
【0163】
ステップ(1)(OBu)8Si(OH)2Nc(化合物(A-2))の合成
この合成は、非特許文献3を参考に検討し合成した。
【0164】
【0165】
アルゴン置換された1000mL反応容器に、(OBu)8H2Nc0.95g(化合物(A-1))と、トリブチルアミン92mLと、脱水トルエン550mLとを加え、さらにHSiCl33.7mLを加え、80℃で24h加熱攪拌した。次いで、反応溶液を室温まで放冷し、HSiCl33.7mLを加え、80℃で24h加熱攪拌した。次いで、反応溶液を室温まで放冷し、HSiCl31.9mLを加え、80℃で24h加熱攪拌した。
【0166】
反応溶液を室温まで放冷し、反応溶液に蒸留水360mLを加えて1時間攪拌した。そこにトリエチルアミンを180mL加え、トルエン100mLにて4回抽出した。抽出した有機層は、蒸留水で洗浄し、有機層を濃縮し1.54gの粗生成物を得た。得られた粗生成物を中性アルミナカラムで精製し、褐色固体の目的化合物(OBu)8Si(OH)2Nc(化合物(A-2))を得た。目的化合物の収量は0.53g、収率は50%であった。
【0167】
ステップ(2)(OBu)8Si(O-4-CNPh)2Nc(化合物(A-3))の合成
【0168】
【0169】
アルゴン置換された200mL反応容器に、上記ステップ(1)で合成された(OBu)8Si(OH)2Nc(化合物(A-2))0.2gと、4-シアノフェノール0.88gと加えて、それらを1,2,4-トリメチルベンゼン(TMB)15mLに溶解させ、180℃で3時間加熱還流した。室温まで冷却した後、反応溶液にメタノール30mlを加えて固体成分を析出させ、析出した固体成分をろ取した。ろ取した固体成分をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒はトルエン)にて精製し、更に得られた精製物をメタノールにより再沈殿させ、得られた沈殿物を100℃で3時間減圧乾燥させ、目的化合物(OBu)8Si(O-4-CNPh)2Nc(化合物(A-3))を得た。目的化合物の収量は159mg、収率は69%であった。
【0170】
得られた化合物の同定は1HNMR(proton nuclear magnetic resonance:プロトン核磁気共鳴分光法)、MALDI-TOF-MS(Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization Time Of Flight Mass Spectrometry:マトリックス支援レーザ脱離イオン化-飛行時間型質量分析)にて行った。結果を以下に示す。
【0171】
1HNMR(400 MHz, C6D6): δ(ppm)=9.14(8H)、7.60(8H)、5.65(4H)、5.11(16H)、3.75(4H)、2.28(16H)、1.62(16H)、0.98(24H)
MALDI-TOF-MS 実測値:m/z=1553.95(M+)
【0172】
目的化合物の化学式がC94H96N10O10Siであり、Exact Massが1553.71である。
【0173】
以上の結果から、上記合成手順により、目的化合物が得られたことが確認できた。
【0174】
得られた化合物をテトラヒドロフランに溶解させ、吸収スペクトルを測定した。結果を
図6に示す。
図6に示すように、近赤外光領域での吸収ピークの波長は、905nmであった。したがって、実施例1で得られた化合物は、近赤外光領域に吸収極大波長を持つ材料であることが分かった。
【0175】
(実施例2)
<(OPr)8Si(O-4-CNPh)2Ncの合成>
以下に説明するステップ(3)および(4)に従い、下記構造式(3)で表される化合物(OPr)8Si(O-Ph-4-CN)2Ncを合成した。
【0176】
【0177】
ステップ(3)(OPr)8Si(OH)2Nc(化合物(A-5))の合成
この合成は、非特許文献3を参考に検討し合成した。
【0178】
【0179】
アルゴン置換された50mL反応容器に、(OPr)8H2Nc(化合物(A-4))50mgと、トリアミルアミン5mLと、脱水トルエン25mLとを加え、さらにHSiCl30.5mLを加え、90℃で24h加熱攪拌した。
【0180】
反応溶液を室温まで放冷し、反応溶液に蒸留水20mLを加えて1時間攪拌した。反応溶液をトルエン60mLにて4回抽出した。抽出した有機層を蒸留水で洗浄した後に、有機層を濃縮し48mgの粗生成物を得た。得られた粗生成物を中性アルミナカラムで精製し、褐色固体の目的化合物(OPr)8Si(OH)2Nc(化合物(A-5))を得た。目的化合物の収量は25mg、収率は49%であった。
【0181】
ステップ(4)(OPr)8Si(O-4-CNPh)2Nc(化合物(A-6))の合成
【0182】
【0183】
アルゴン置換された200mL反応容器に、上記ステップ(3)で合成された(OPr)8Si(OH)2Nc(化合物(A-5))0.75gと、4-シアノフェノール0.91gとを加え、それらを1,2,4-トリメチルベンゼン(TMB)30mLに溶解させ、180℃で3時間加熱還流した。反応溶液を室温まで冷却した後、反応溶液にヘプタン50mlを加えて固体成分を析出させ、析出した固体成分をろ取した。ろ取した固体成分をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒は、トルエン:酢酸エチル=1:1)にて精製し、更に得られた精製物をヘプタンにより再沈殿させた。得られた沈殿物を100℃で3時間減圧乾燥させ、目的化合物(OBu)8Si(O-4-CNPh)2Nc(化合物(A-6))を得た。目的化化合物の収量は557mg、収率は74%であった。
【0184】
得られた化合物の同定は1HNMR、MALDI-TOF-MSにて行った。結果を以下に示す。
【0185】
1HNMR(400 MHz, C6D6): δ(ppm)=9.11(8H)、7.58(8H)、5.58(4H)、5.06(16H)、3.70(4H)、2.24(16H)、1.11(24H)
MALDI-TOF-MS 実測値:m/z=1441.82(M+)
【0186】
目的化合物の化学式がC86H80N10O10Siであり、Exact Massが1441.82である。
【0187】
以上の結果から、上記合成手順により、目的化合物が得られたことが確認できた。
【0188】
得られた化合物をテトラヒドロフランに溶解させ、吸収スペクトルを測定した。結果を
図6に示す。
図6に示すように、近赤外光領域での吸収ピークの波長は、904nmであった。したがって、実施例2で得られた化合物は、近赤外光領域に吸収極大波長を持つ材料であることが分かった。
【0189】
(実施例3)
<(OPr)8Si(O-3,5-diCNPh)2Nc>
以下に説明するステップ(3)、(5)に従い、下記構造式(4)で表される化合物(OPr)8Si(O-3,5-diCNPh)2Ncを合成した。
【0190】
【0191】
(OPr)8Si(OH)2Nc(化合物(A-5))の合成までのステップ(3)は実施例2と同様の方法で行った。
【0192】
ステップ(5)(OPr)8Si(O-3,5-diCNPh)2Nc(化合物(A-7))の合成
【0193】
【0194】
アルゴン置換された200mL反応容器に、上記ステップ(3)で合成された(OPr)8Si(OH)2Nc(化合物(A-5))0.64gと、3,5-ジシアノフェノール1.13gとを加え、それらを1,2,4-トリメチルベンゼン(TMB)40mLに溶解させ、180℃で5時間加熱還流した。反応溶液を室温まで冷却した後、反応溶液にヘプタン50mlを加えて固体成分を析出させ、析出した固体成分をろ取した。ろ取した固体成分を、展開溶媒としてジクロロメタンを用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、更に精製物をヘプタンにより再沈殿させた。得られた沈殿物を100℃で3時間減圧乾燥させ、目的生成物(OPr)8Si(O-3,5-diCNPh)2Nc(化合物(A-7))を得た。目的化合物の収量は528mg、収率は68%であった。
【0195】
得られた化合物の同定は1HNMR、MALDI-TOF-MSにて行った。結果を以下に示す。
【0196】
1HNMR(400 MHz, C6D6): δ(ppm)=9.08(8H)、7.55(8H)、5.22(2H)、4.08(4H)、2.36(16H)、1.23(24H) MALDI-TOF-MS 実測値:m/z=1491.83(M+)
【0197】
目的化合物の化学式がC88H78N12O10Siであり、Exact Massが1491.75である。
【0198】
以上の結果から、上記合成手順により、目的化合物が得られたことが確認できた。
【0199】
得られた化合物をテトラヒドロフランに溶解させ、吸収スペクトルを測定した。結果を
図6に示す。
図6に示すように、近赤外光領域での吸収ピークの波長は、918nmであった。したがって、実施例3で得られた化合物は、近赤外光領域に吸収極大波長を持つ材料であることが分かった。
【0200】
(実施例4)
<(OPr)8Si(O-3-F-4-CNPh)2Nc>
以下に説明するステップ(3)および(6)に従い、下記構造式(5)で表される化合物(OPr)8Si(O-3-F-4-CNPh)2Ncを合成した。
【0201】
【0202】
(OPr)8Si(OH)2Nc(化合物(A-5))の合成までのステップ(3)は実施例2と同様の方法で行った。
【0203】
ステップ(6)(OPr)8Si(O-3-F-4-CNPh)2Nc(化合物(A-8))の合成
【0204】
【0205】
アルゴン置換された200mL反応容器に、上記ステップ(3)で合成された(OPr)8Si(OH)2Nc(化合物(A-5))0.4gと、3-フルオロ-4-シアノフェノール0.6gとを加え、それらを1,2,4-トリメチルベンゼン(TMB)40mLに溶解させ、180℃で5時間加熱還流した。反応溶液を室温まで冷却した後、反応溶液にヘプタン50mlを加えて固体成分を析出させ、析出した固体成分をろ取した。ろ取した固体成分をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーでは、展開溶媒としてトルエン及び酢酸エチルをトルエン:酢酸エチル=1:1の比率で混合した溶媒を用いた。更に精製物をヘプタンにより再沈殿させ、得られた沈殿物を100℃で3時間減圧乾燥させ、目的化合物(OPr)8Si(O-3-F-4-CNPh)2Nc(化合物(A-8))を得た。目的化合物の収量は0.27g、収率は59%であった。
【0206】
得られた化合物の同定は1HNMR、MALDI-TOF-MSにて行った。結果を以下に示す。
【0207】
1HNMR(400 MHz, C6D6): δ(ppm)=9.07(8H)、7.57(8H)、5.42(2H)、5.08(16H)、3.58(2H)、3.51(2H)、2.22(16H)、1.10(24H)
MALDI-TOF-MS 実測値:m/z=1476.56(M+)
【0208】
目的化合物の化学式がC86H78F2N10O10Siであり、Exact Massが1476.90である。
【0209】
以上の結果から、上記合成手順により、目的化合物が得られたことが確認できた。
【0210】
得られた化合物をテトラヒドロフランに溶解させ、吸収スペクトルを測定した。結果を
図6に示す。
図6に示すように、近赤外光領域での吸収ピークの波長は、914nmであった。したがって、実施例4で得られた化合物は、近赤外光領域に吸収極大波長を持つ材料であることが分かった。
【0211】
(実施例5)
<(OPr)8Si(O-4-PhCOOMe)2Nc>
以下に説明するステップ(3)および(7)に従い、下記構造式(6)で表される化合物(OPr)8Si(O-4-PhCOOMe)2Ncを合成した。
【0212】
【0213】
(OPr)8Si(OH)2Nc(化合物(A-5))の合成までのステップ(3)は実施例2と同様の方法で行った。
【0214】
ステップ(7)(OPr)8Si(O-4-PhCOOMe)2Nc(化合物(A-9))の合成
【0215】
【0216】
アルゴン置換された200mL反応容器に、上記ステップ(3)で合成された(OPr)8Si(OH)2Nc(化合物(A-5))91mgと、4-ヒドロキシ安息香酸メチル180mgとを加え、それらを1,2,4-トリメチルベンゼン(TMB)9mLに溶解させ、180℃で5時間加熱還流した。反応溶液を室温まで冷却した後、反応溶液にヘプタン10mlを加えて固体成分を析出させ、析出した固体成分をろ取した。ろ取した固体成分をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーの展開溶媒としては、トルエン及び酢酸エチルをトルエン:酢酸エチル=1:1の比率で混合した溶媒を用いた。更に精製物をヘプタンにより再沈殿させた。得られた沈殿物を100℃で3時間減圧乾燥させ、目的化合物(OPr)8Si(O-4-PhCOOMe)2Nc(化合物(A-9))を得た。目的化合物の収量は57mg、収率は51%であった。
【0217】
得られた化合物の同定は1HNMR、MALDI-TOF-MSにて行った。結果を以下に示す。
【0218】
1HNMR(400 MHz, C6D6): δ(ppm)=9.08(8H)、7.56(8H)、6.77(4H)、5.12(16H)、3.98(4H)、2.89(6H)2.21(16H)、1.07(24H)
MALDI-TOF-MS 実測値:m/z=1506.84(M+)
【0219】
目的化合物の化学式がC88H86N8O14Siであり、Exact Massが1506.60である。
【0220】
以上の結果から、上記合成手順により、目的化合物が得られたことが確認できた。
【0221】
得られた化合物をテトラヒドロフランに溶解させ、吸収スペクトルを測定した。結果を
図6に示す。
図6に示すように、近赤外光領域での吸収ピークの波長は、900nmであった。したがって、実施例5で得られた化合物は、近赤外光領域に吸収極大波長を持つ材料であることが分かった。
【0222】
(比較例1)
<Sn(OSiHex3)2Ncの合成>
以下に説明するステップ(8)から(10)に従い、下記構造式(7)で表される化合物Sn(OSiHex3)2Ncを合成した。
【0223】
【0224】
ステップ(8)(C6H13)3SiOH(化合物(A-11))の合成
【0225】
【0226】
三ツ口フラスコにSiCl(C6H13)3(化合物(A-10))15g、THF75mLを入れ、三ツ口フラスコを水と氷の入った冷却バスに入れて10℃以下に冷やした。滴下漏斗にアンモニア水75mLを入れ、10分かけて三ツ口フラスコ内に全量滴下し、室温で2時間攪拌した。
【0227】
次いで、酢酸エチル150mLと市水150mLを添加し、10分間攪拌した後、分液漏斗で分液し、有機層を分取した。分液された水層に酢酸エチルを150mL加え、酢酸エチルで水層中の反応生成物を抽出した。この酢酸エチルによる抽出は、2回行った。分取および抽出により得られた有機層に飽和塩化アンモニウム水溶液150mLを加え、分液洗浄を3回行った後、市水150mLを加え、分液洗浄を1回行った。続いて、有機層に飽和食塩水150mLを加え、分液洗浄を行った。洗浄により得られた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、硫酸マグネシウムをろ過した。得られたろ液を減圧下濃縮し、得られた残渣を60℃で減圧乾燥させることにより、目的化合物(C6H13)3SiOH(化合物(A-11))を得た。目的化合物の収量は13.8g、収率は97%であった。
【0228】
ステップ(9)Sn(OH)2Nc(化合物(A-13))の合成
【0229】
【0230】
三ツ口フラスコにSnCl2Nc(化合物(A-12))6.2g、水酸化ナトリウム1.1g、ピリジン45mLおよび蒸留水90mLをこの順に入れ、100℃で25時間加熱還流させた。加熱後、反応溶液を室温まで放冷し、粗生成物を析出させた。析出した粗生成物をろ取し、蒸留水300mLで懸濁洗浄した。懸濁洗浄された固体をろ取した後、ろ取した固体を40℃で5時間減圧乾燥させ、目的化合物Sn(OH)2Nc(化合物(A-13))を得た。目的化合物の収量は7.5g、収率は86%であった。
【0231】
ステップ(10)Sn(OSiHex3)2Nc(化合物(A-14))の合成
【0232】
【0233】
リボンヒーターと冷却管とを備えた500mL三ツ口フラスコを設置し、三ツ口フラスコに、上記ステップ(9)で合成されたSn(OH)2Nc(化合物(A-13))5.1g、上記ステップ(8)で合成された(C6H13)3SiOH(化合物(A-11))13.8g、および、1,2,4-トリメチルベンゼン450mlを入れ、200℃で3時間加熱攪拌した。反応溶液を室温まで放冷した後、0℃で3時間程度冷却し、粗生成物を析出させ、析出した粗生成物をろ取した。得られた粗生成物の固体をエタノール100mLで2回懸濁洗浄した。洗浄に用いたエタノールをアセトン50mLで洗浄して、エタノール中の目的物を再析出させた後、析出した目的物ろ取した。得られた目的物の固体を120℃で3時間減圧乾燥することにより、目的化合物Sn(OSiHex3)2Nc(化合物(A-14))を得た。目的化合物の収量は6.9g、収率は82%であった。
【0234】
得られた化合物の同定は1HNMR、MALDI-TOF-MSにて行った。結果を以下に示す。
【0235】
1HNMR(400 MHz、C6D6): δ(ppm)=10.2(8H)、8.27(8H)、7.47(8H)、0.68(12H)、0.5から0.2(42H)、-0.42(12H)、-1.42(12H)
MALDI-TOF-MS 実測値:m/z=1428.69(M+)
【0236】
目的化合物の化学式がC84H102N6O2Si2Snであり、Exact Massが1430.7である。
【0237】
以上の結果から、上記合成手順により、目的化合物が得られたことが確認できた。
【0238】
得られた化合物をクロロベンゼンに溶解させ、吸収スペクトルを測定した。結果を
図6に示す。
図6に示すように、近赤外光領域での吸収ピークの波長は、794nmであった。したがって、比較例1で得られた化合物は、近赤外光領域に吸収極大波長を持つ材料であることが分かった。
【0239】
[近赤外光電変換膜]
以下、実施例6から実施例8および比較例2を示し、本開示における近赤外光電変換膜についてより具体的に説明する。
【0240】
(実施例6)
支持基板として厚さ0.7mmの石英ガラスを用い、その上に実施例1で得られた(OBu)8Si(O-4-CNPh)2Nc(化合物(A-3))とPCBM([6,6]-Phenyl-C61-Butyric Acid Methyl Ester)誘導体とを重量比1:9で混ぜたクロロホルム混合溶液をスピンコート法により塗布し、膜厚208nm、イオン化ポテンシャル5.17eVの近赤外光電変換膜を得た。
【0241】
(吸収スペクトルの測定方法)
得られた近赤外光電変換膜について、吸収スペクトルを測定した。測定には、分光光度計(日立ハイテクノロジーズ製、U4100)を用いた。吸収スペクトルの測定波長域は、400nmから1200nmであった。結果を
図7Aに示す。
【0242】
図7Aに示すように、実施例6の近赤外光電変換膜は、吸収ピークが944nm付近に見られた。
【0243】
(イオン化ポテンシャルの測定方法)
実施例6で得られた近赤外光電変換膜について、イオン化ポテンシャルを測定した。イオン化ポテンシャルの測定には、実施例1で得られた化合物を、それぞれITO基板上に成膜し、大気中光電子分光装置(理研計器製、AC-3)を用いて測定を行った。結果を
図7Bに示す。
【0244】
イオン化ポテンシャルの測定は紫外線照射のエネルギーを変化させたときの光電子数として検出される。そのため光電子が検出され始めるエネルギー位置をイオン化ポテンシャルとすることができる。
図7Bにおいては、2本の直線の交点が、光電子が検出され始めるエネルギー位置である。
【0245】
(実施例7)
支持基板として厚さ0.7mmの石英ガラスを用い、その上に実施例2で得られた(OPr)
8Si(O-4-CNPh)
2Nc(化合物(A-6))とPCBM誘導体とを重量比1:9で混ぜたクロロホルム混合溶液をスピンコート法により塗布し、膜厚219nm、イオン化ポテンシャル5.17eVの近赤外光電変換膜を得た。得られた近赤外光電変換膜の吸収スペクトルの測定は、実施例6と同様の方法で行った。結果を
図8Aに示す。また、イオン化ポテンシャルの測定は、実施例2で得られた化合物を用いること以外、実施例6と同様の方法で行った。結果を
図8Bに示す。
【0246】
図8Aに示すように、実施例7の近赤外光電変換膜は、吸収ピークが946nm付近に見られた。
【0247】
(実施例8)
支持基板として厚さ0.7mmの石英ガラスを用い、その上に実施例3で得られた(OPr)
8Si(O-3,5-diCNPh)
2Nc(化合物(A-7))とPCBM誘導体とを重量比1:9で混ぜたクロロホルム混合溶液をスピンコート法により塗布し、膜厚215nm、イオン化ポテンシャル5.20eVの近赤外光電変換膜を得た。得られた近赤外光電変換膜の吸収スペクトルの測定は、実施例6と同様の方法で行った。結果を
図9Aに示す。また、イオン化ポテンシャルの測定は、実施例3で得られた化合物を用いること以外、実施例6と同様の方法で行った。結果を
図9Bに示す。
【0248】
図9Aに示すように、実施例8の近赤外光電変換膜は、吸収ピークが960nm付近に見られた。
【0249】
(比較例2)
支持基板として厚さ0.7mmの石英ガラスを用い、その上に比較例1で得られたSn(OSiHex
3)
2Nc(化合物(A-14))とフラーレン(すなわち、C60)とを体積比1:9で蒸着し、膜厚400nmの近赤外光電変換膜を得た。得られた近赤外光電変換膜の吸収スペクトルの測定は、実施例6と同様の方法で行った。結果を
図10に示す。
【0250】
図10に示すように、比較例2の近赤外光電変換膜は、吸収ピークが816nm付近に見られた。
【0251】
[近赤外光電変換素子]
以下、実施例9から実施例11および比較例3を示し、本開示に係る近赤外光電変換素子についてより具体的に説明する。
【0252】
(実施例9)
基板として150nmのITO電極が成膜された厚さ0.7mmのガラス基板を用い、このITO電極を下部電極とした。さらに、ITO電極の上に、近赤外光電変換膜として実施例1で得られた(OBu)8Si(O-4-CNPh)2Nc(化合物(A-3))とPCBM誘導体とを重量比1:9で混ぜたクロロホルム混合溶液をスピンコート法により塗布し、混合膜を厚さ208nmとなるように成膜した。さらに、近赤外光電変換膜の上に、上部電極として厚さ30nmのITO電極を成膜し、近赤外光電変換素子を得た。
【0253】
(分光感度の測定方法)
得られた近赤外光電変換素子について、分光感度を測定した。測定には、長波長対応型分光感度測定装置(分光計器製、CEP-25RR)を用いた。より具体的には、近赤外光電変換素子を、窒素雰囲気下のグローブボックス中で密閉できる測定治具に導入し、分光感度の測定を行った。結果を
図11に示す。
【0254】
図11に示すように、実施例9の近赤外光電変換素子は、近赤外光領域における外部量子効率が920nm付近の波長で最も高く、46%程度であった。
【0255】
(実施例10)
光電変換層の材料として実施例1で得られた化合物の代わりに実施例2で得られた(OPr)
8Si(O-4-CNPh)
2Nc(化合物(A-6))を用いること以外は、実施例9と同様に行い、膜厚219nmの近赤外光電変換膜を有する近赤外光電変換素子を得た。実施例9と同様に、得られた近赤外光電変換素子の分光感度を測定した。結果を
図12に示す。
【0256】
図12に示すように、実施例10の近赤外光電変換素子は、近赤外光領域における外部量子効率が940nm付近の波長で最も高く、38%程度であった。
【0257】
(実施例11)
光電変換層の材料として実施例1で得られた化合物の代わりに実施例3で得られた(OPr)
8Si(O-3,5-diCNPh)
2Nc(化合物(A-7))を用いること以外は、実施例9と同様に行い、膜厚215nmの近赤外光電変換膜を有する近赤外光電変換素子を得た。実施例9と同様に、得られた近赤外光電変換素子の分光感度を測定した。結果を
図13に示す。
【0258】
図13に示すように、実施例11の近赤外光電変換素子は、近赤外光領域における外部量子効率が940nm付近の波長で最も高く、36%程度であった。
【0259】
(比較例3)
光電変換層の材料として、実施例1で得られた化合物の代わりに比較例1で得られたSn(OSiHex
3)
2Nc(化合物(A-14))を用い、PCBM誘導体の代わりにフラーレンを用いること以外は、実施例9と同様に行い、膜厚400nmの近赤外光電変換膜を有する近赤外光電変換素子を得た。実施例9と同様に、得られた近赤外光電変換素子の分光感度を測定した。結果を
図14に示す。
【0260】
図14に示すように、比較例3の近赤外光電変換素子は、外部量子効率が820nm付近の波長で最も高く、84%程度であった。しかしながら、900nm付近では外部量子効率が10%未満であり、外部量子効率が低かった。
【0261】
(まとめ)
図6に示すように、実施例1、実施例2、実施例3、実施例4および実施例5のナフタロシアニン誘導体は、それぞれ吸収ピークが905nm、904nm、918nm、914nmおよび900nm付近に見られ、比較例1のナフタロシアニン誘導体は、吸収ピークが794nm付近に見られた。
【0262】
これらのナフタロシアニン誘導体の化学構造および吸収スペクトルの結果から、ナフタロシアニン骨格のα位側鎖の有無および軸配位子の構造の違いにより、近赤外光電変換膜の吸収特性に差異が生じることが分かった。また、実施例1から実施例5のように、ナフタロシアニン誘導体は、ナフタロシアニン骨格のα位にアルコキシ基を有し、アリールオキシ基が中心金属に配位する軸配位子を有すると、近赤外光に対して感度を有する波長が長波長化されることが確認できた。
【0263】
図7A、
図8Aおよび
図9Aに示すように、実施例6、実施例7および実施例8の近赤外光電変換膜は、それぞれ吸収ピークが944nm、946nmおよび960nmに見られ、吸収ピークの吸収係数は、それぞれ1.8/μm、2.3/μmおよび1.9/μmであった。
図10に示すように、比較例1のナフタロシアニン誘導体を用いた近赤外光電変換膜、すなわち、比較例2の近赤外光電変換膜は、吸収ピークが816nmに見られ、吸収ピークの吸収係数は、1.8/μmであった。
【0264】
これらの結果から、実施例6から実施例8のように、ナフタロシアニン骨格のα位の側鎖にアルコキシ基を有し、アリールオキシ基が中心金属に配位する軸配位子を有するナフタロシアニン誘導体を含む組成物を用いると、当該組成物を含む近赤外光電変換膜は、近赤外光に対して感度を有する波長が長波長化されることが確認できた。
【0265】
また、
図7B、
図8Bおよび
図9Bに示すように、実施例6、実施例7および実施例8の近赤外光電変換膜は、それぞれイオン化ポテンシャルが、5.17eV、5.17eVおよび5.20eVであり、5.1eV以上であった。したがって、実施例1、実施例2および実施例3のナフタロシアニン誘導体を含む組成物を用いると、イオン化ポテンシャル5.1eV以上の近赤外光電変換膜が得られることが確認できた。
【0266】
図11に示すように、実施例9の近赤外光電変換素子は、近赤外光領域における外部量子効率が920nm付近の波長で最も高く、46%程度であった。
【0267】
図12に示すように、実施例10の近赤外光電変換素子は、近赤外光領域における外部量子効率が940nm付近の波長で最も高く、38%程度であった。
【0268】
図13に示すように、実施例11の近赤外光電変換素子は、近赤外光領域における外部量子効率が940nm付近の波長で最も高く、36%程度であった。
【0269】
図14に示すように、比較例3の近赤外光電変換素子は、外部量子効率が820nm付近の波長で最も高く、84%程度であった。しかしながら、900nm以上の波長では外部量子効率が10%未満であり、外部量子効率が低かった。
【0270】
これらの材料の化学構造および外部量子効率の結果から、実施例1から実施例3で得られた中心金属としてSiを有し、ナフタロシアニン骨格のα位に側鎖を有し、アリールオキシ基が中心金属に配位する軸配位子を有するナフタロシアニン誘導体を近赤外光電変換膜の材料に用いると、900nm以上の比較的長い波長域で外部量子効率のピークが得られることが分かった。また、実施例9から実施例11の結果から、ナフタロシアニン骨格のα位の側鎖のアルキル基の炭素数が4以下であると、高い外部量子効率が得られることも分かった。
【0271】
本開示に係る化合物は母骨格であるナフタロシアニン環、軸配位子およびα位側鎖から構成されている。ナフタロシアニン環は、平面構造をとっており、軸配位子が平面に対して垂直に伸びた構造をとっている。820nm付近の波長では比較例3で高い外部量子効率が得られているため、軸配位子は電子移動に影響を与えていないと考えられ、ナフタロシアニン誘導体からアクセプター材料への電子移動はナフタロシアニン環の周辺で生じていると考えられる。そのため、周辺にアクセプターが存在することを阻害するα位の側鎖の炭素数が少ない各実施例において、20%を超える高い外部量子効率が得られたと考えられる。
【0272】
以上のように、実施例6から実施例8および比較例2の近赤外光電変換膜、ならびに、実施例9から実施例11および比較例3の近赤外光電変換素子に関して、近赤外光に対する光吸収特性、光電変換効率を評価した。その結果、中心金属としてSiを有し、ナフタロシアニン骨格のα位の側鎖に炭素数4以下のアルキル基を有し、アリールオキシ基が中心金属に配位する軸配位子を有する上記一般式(1)で表されるナフタロシアニン誘導体を含む組成物を用いることにより、近赤外光に対する感度の長波長化と高い外部量子効率とを実現できることが確認できた。
【0273】
なお、実施例1では、上記一般式(1)におけるR1からR8が炭素数4のブチル基であるナフタロシアニン誘導体を合成し、実施例2から5ではR1からR8が炭素数3のプロピル基であるナフタロシアニン誘導体を合成したが、これに限らない。ナフタロシアニン誘導体の前駆体の1,4-ブトキシ-2,3-ナフタレンジカルボニトリル、または、1,4-プロピオキシ-2,3-ナフタレンジカルボニトリルのアルコキシ基の炭素数を変更することで、実施例1から5のナフタロシアニン誘導体のR1からR8と炭素数が異なるナフタロシアニン誘導体を得ることができる。例えば、実施例1のナフタロシアニン誘導体のR1からR8が炭素数1のメチル基または炭素数2のエチル基である場合、1,4-メトキシ-2,3-ナフタレンジカルボニトリル、または、1,4-エトキシ-2,3-ナフタレンジカルボニトリルを用いることで合成できる。
【0274】
また、実施例1では、上記一般式(1)におけるR9及びR10がアリール基である一例として4-シアノフェニル基を有するナフタロシアニン誘導体を合成したが、同様の手法にて、R9及びR10が4-シアノフェニル基以外のアリール基であるナフタロシアニン誘導体を合成することができる。例えば、R9及びR10が無置換のフェニル基の場合、実施例1のステップ(2)に示す(OBu)8Si(O-3,5-diCNPh)2Ncの合成において、ステップ(2)に示す反応式中の4-シアノフェノールをフェノールに置き換える。これにより、R9及びR10を無置換のフェニル基とすることができる。
【0275】
以上、本開示に係る組成物、近赤外光電変換素子および撮像装置について、実施の形態および実施例に基づいて説明したが、本開示は、これらの実施の形態および実施例に限定されるものではない。本開示の主旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を実施の形態および実施例に施したもの、並びに、実施の形態および実施例における一部の構成要素を組み合わせて構築される別の形態も、本開示の範囲に含まれる。
【0276】
なお、本開示に係る組成物および近赤外光電変換素子は、光によって発生する電荷をエネルギーとして取り出すことにより、太陽電池に利用してもよい。
【0277】
また、本開示に係る組成物は、近赤外光カット素材としてフィルム、シート、ガラス、建材等に利用してもよい。また、赤外線吸収剤としてインク、樹脂、ガラス等に混合して使用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0278】
本開示に係る組成物、光電変換素子および撮像素子は、イメージセンサなどに適用可能であり、特に、近赤外光領域において高い光吸収特性を有するイメージセンサに好適である。
【符号の説明】
【0279】
1 支持基板
2 下部電極
3 近赤外光電変換膜
3A 光電変換層
4 上部電極
5 電子ブロッキング層
6 正孔ブロッキング層
7 p型半導体層
8 n型半導体層
10A、10B 近赤外光電変換素子
10C 光電変換部
20 水平信号読出し回路
21 増幅トランジスタ
22 リセットトランジスタ
23 アドレストランジスタ
21G、22G、23G ゲート電極
21D、21S、22D、22S、23S 不純物領域
21X、22X、23X ゲート絶縁層
24 画素
25 垂直走査回路
26 対向電極信号線
27 垂直信号線
28 負荷回路
29 カラム信号処理回路
31 電源配線
32 差動増幅器
33 フィードバック線
34 電荷蓄積ノード
35 電荷検出回路
36 アドレス信号線
37 リセット信号線
40 半導体基板
41 素子分離領域
50 層間絶縁層
51、53、54 コンタクトプラグ
52 配線
60 カラーフィルタ
61 マイクロレンズ
100 撮像装置