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特許7565529ヘッドセットおよび通話用マイクの指向性制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】ヘッドセットおよび通話用マイクの指向性制御方法
(51)【国際特許分類】
   H04R 1/10 20060101AFI20241004BHJP
   H04R 1/40 20060101ALI20241004BHJP
   H04R 3/00 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
H04R1/10 101A
H04R1/10 101B
H04R1/40 320A
H04R3/00 320
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023536619
(86)(22)【出願日】2022-03-28
(86)【国際出願番号】 JP2022014855
(87)【国際公開番号】W WO2023002714
(87)【国際公開日】2023-01-26
【審査請求日】2023-07-07
(31)【優先権主張番号】P 2021119990
(32)【優先日】2021-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【弁理士】
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【弁理士】
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】栗原 伸一郎
【審査官】川▲崎▼ 博章
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-39104(JP,A)
【文献】国際公開第2020/137585(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/10
H04R 1/40
H04R 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人の両耳のうちの一方の耳に装着される第1筐体と、
前記両耳のうちの他方の耳に装着される第2筐体と、
前記第1筐体および前記第2筐体の少なくとも一方に設けられた複数の通話用マイクと、
前記第1筐体に設けられたスピーカと、
前記第2筐体に設けられた収音マイクと、
第1音声信号を前記スピーカへ出力するコントローラと、
を備え、
前記スピーカは、前記第1音声信号に基づく音を出力し、
前記収音マイクは、前記スピーカから出力された音を前記人の頭部を介して収音し、収音した前記音に基づく第2音声信号を前記コントローラへ出力し、
前記コントローラは、前記第1音声信号に対する前記第2音声信号の遅れ量に基づいて、前記複数の通話用マイクの指向性を制御する
ヘッドセット。
【請求項2】
前記コントローラは、前記遅れ量に基づいて前記頭部の幅を算出し、算出した前記頭部の幅に基づいて、前記複数の通話用マイクの指向性を制御する
請求項1に記載のヘッドセット。
【請求項3】
前記コントローラは、前記複数の通話用マイクの指向性を示すビームフォームが前記人の口元から発せられる音声の位置座標に重なるように、前記複数の通話用マイクの指向性を制御する
請求項1または2に記載のヘッドセット。
【請求項4】
前記遅れ量は、前記コントローラが前記第1音声信号を出力してから前記コントローラに前記第2音声信号が入力されるまでの時間差である
請求項1~3のいずれか1項に記載のヘッドセット。
【請求項5】
前記遅れ量は、前記第1音声信号の信号波形と前記第2音声信号の信号波形との位相差である
請求項1~3のいずれか1項に記載のヘッドセット。
【請求項6】
さらに、前記複数の通話用マイクから出力された通話信号を同相化するための複数の同相化係数が記憶されているメモリを備え、
前記メモリには、基準となる前記頭部の幅に対応した前記複数の同相化係数が記憶され、
前記コントローラは、算出した前記頭部の幅と基準となる前記頭部の幅とを比較して、前記メモリに記憶されている前記複数の同相化係数を補正し、補正後の前記複数の同相化係数に基づいて、前記複数の通話用マイクの指向性を制御する
請求項2に記載のヘッドセット。
【請求項7】
さらに、前記複数の通話用マイクから出力された通話信号を同相化するための複数の同相化係数が記憶されているメモリを備え、
前記メモリには、複数の参照となる前記頭部の幅のそれぞれに対応した前記複数の同相化係数が記憶され、
前記コントローラは、算出した前記頭部の幅に応じて、前記複数の参照となる前記頭部の幅から参照となる前記頭部の幅を選択し、選択した前記頭部の幅に対応する前記複数の同相化係数を取得し、取得した前記複数の同相化係数に基づいて、前記複数の通話用マイクの指向性を制御する
請求項2に記載のヘッドセット。
【請求項8】
さらに、外部の通信端末に通信接続される通信モジュールを備え、
前記通信モジュールは、前記通信端末から送信された音声に関する信号を前記コントローラへ出力し、
前記コントローラは、前記通信モジュールから出力された前記音声に関する信号に基づいて、前記第1音声信号を出力する
請求項1~7のいずれか1項に記載のヘッドセット。
【請求項9】
前記コントローラは、前記収音マイクから出力された前記第2音声信号を受け付けている間、前記複数の通話用マイクの指向性を制御する
請求項1~8のいずれか1項に記載のヘッドセット。
【請求項10】
前記複数の通話用マイクは、2以上のマイクを1組として構成されるマイクロフォンアレイである
請求項1~9のいずれか1項に記載のヘッドセット。
【請求項11】
前記複数の通話用マイクは、前記第1筐体および前記第2筐体のそれぞれに設けられている
請求項10に記載のヘッドセット。
【請求項12】
人の両耳のうちの一方の耳側に配置されたスピーカから第1音声信号に基づく音を出力し、
他方の耳側に配置された収音マイクで、前記スピーカから出力された音を前記人の頭部を介して収音して、収音した前記音に基づく第2音声信号を出力し、
前記第1音声信号に対する前記第2音声信号の遅れ量に基づいて、前記一方の耳側および前記他方の耳側の両側または片側に設けられた複数の通話用マイクの指向性を制御する
通話用マイクの指向性制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、人体に装着されるヘッドセット、および、通話用マイクの指向性制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載されたヘッドセットは、ヘッドバンドの一端側から突出するアームと、アームの先端に設けられた第1マイクと、第1マイクよりもアームの根元側に設けられた第2マイクと、備えている。第1マイクは、ユーザの口元と第2マイクとを通る略直線上に配置されている。このヘッドセットによれば、騒音環境下においても音声をクリアにすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-83406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、ヘッドセットを装着する人の頭部の幅が異なる場合であっても、人の頭部の幅に応じて口元から発せられる音声を拾うことができるヘッドセット等を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示のヘッドセットは、人の両耳のうちの一方の耳に装着される第1筐体と、前記両耳のうちの他方の耳に装着される第2筐体と、前記第1筐体および前記第2筐体の少なくとも一方に設けられた複数の通話用マイクと、前記第1筐体に設けられたスピーカと、前記第2筐体に設けられた収音マイクと、第1音声信号を前記スピーカへ出力するコントローラと、を備え、前記スピーカは、前記第1音声信号に基づく音を出力し、前記収音マイクは、前記スピーカから出力された音を前記人の頭部を介して収音し、収音した前記音に基づく第2音声信号を前記コントローラへ出力し、前記コントローラは、前記第1音声信号に対する前記第2音声信号の遅れ量に基づいて、前記複数の通話用マイクの指向性を制御する。
【0006】
本開示の通話用マイクの指向性制御方法は、人の両耳のうちの一方の耳側に配置されたスピーカから第1音声信号に基づく音を出力し、他方の耳側に配置された収音マイクで、前記スピーカから出力された音を前記人の頭部を介して収音して、収音した前記音に基づく第2音声信号を出力し、前記第1音声信号に対する前記第2音声信号の遅れ量に基づいて、前記一方の耳側および前記他方の耳側の両側または片側に設けられた複数の通話用マイクの指向性を制御する。
【発明の効果】
【0007】
本開示のヘッドセットは、人の頭部の幅に応じて口元から発せられる音声を拾うのに有効である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、比較例のヘッドセットを示す図である。
図2図2は、実施の形態のヘッドセットを備える通話システムを示す概略図である。
図3図3は、実施の形態におけるヘッドセットを模式的に示す図である。
図4A図4Aは、実施の形態におけるヘッドセットのブロック構成図である。
図4B図4Bは、図4Aに示すブロック構成図の一部および図2に示す通信端末を模式的に示す図である。
図5図5は、ヘッドセットのメモリに記憶されている基準データの一例を示す図である。
図6図6は、ヘッドセットのメモリに記憶されている同相化係数の一例を示す図である。
図7図7は、ヘッドセットのメモリに記憶されている同相化係数の他の一例を示す図である。
図8図8は、ヘッドセットの通話用マイクの指向性制御方法を示すフローチャートである。
図9図9は、ヘッドセットの動作の一例を示すタイミングチャートである。
図10図10は、実施の形態の変形例1におけるヘッドセットを模式的に示す図である。
図11図11は、実施の形態の変形例2におけるヘッドセットを模式的に示す図である。
図12図12は、実施の形態の変形例3におけるヘッドセットを模式的に示す図である。
図13図13は、実施の形態の変形例3におけるヘッドセットの一部のブロック構成図である。
図14図14は、ヘッドセットのメモリに記憶されている同相化係数の他の一例を示す図である。
図15図15は、ヘッドセットのメモリに記憶されている同相化係数の他の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(本開示に至る経緯)
本開示に至る経緯について、図1を参照しながら説明する。
【0010】
図1は、比較例のヘッドセット101を示す図である。図1の(a)には、標準的な頭部のサイズを有する人にヘッドセット101が装着された例が示され、図1の(b)には、標準よりも大きな頭部のサイズを有する人にヘッドセット101が装着された例が示されている。
【0011】
比較例のヘッドセット101は、2つの筐体110、120と、各筐体110、120に設けられたスピーカ140と、2つの筐体110、120のうちの一方の筐体110に設けられた複数の通話用マイク130と、を備えている。
【0012】
図1の(a)に示すように、標準的な頭部のサイズを有する人にヘッドセット101が装着された場合、複数の通話用マイク130は、複数の通話用マイク130の指向性を示すビームフォームBFが人の口元から発せられる音声の位置座標PSに重なるように予め設定されている。
【0013】
しかしながら、ヘッドセット1が装着される頭部のサイズは、人によって様々である。例えば、図1の(b)に示すように、頭部の幅が大きな人にヘッドセット101が装着されると、ビームフォームBFの位置が、口元から発せられる音声の位置座標PSからずれてしまう。そのため、比較例のヘッドセット101では、口元から発せられた音声を拾いにくくなるという問題がある。
【0014】
それに対し、本開示のヘッドセットは、ヘッドセットを装着する人の頭の幅が異なる場合であっても、人の頭部の幅に応じて口元から発せられる音声を適切に拾うことができる構成を有している。
【0015】
以下、適宜図面を参照しながら、実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。添付図面は、当業者が本開示を十分に理解するために必要な説明を提供するのであって、これらによって請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。
【0016】
(実施の形態)
[ヘッドセットを備える通話システムの構成]
この実施の形態では、通話しながらリアルタイムにマイクの指向性制御を行うヘッドセットおよび通話システムについて説明する。
【0017】
まず、実施の形態のヘッドセットを備える通話システムの構成について、図2を参照しながら説明する。
【0018】
図2は、実施の形態のヘッドセット1を備える通話システム5を示す概略図である。同図には、ユーザAの通信相手であるユーザBの通信端末9も示されている。
【0019】
図2に示す通話システム5は、例えば、インターコミュニケーションシステムであり、ヘッドセット1と、通信端末2と、を備えている。
【0020】
ヘッドセット1は、ユーザAがフリーハンドで通話を行うために、ユーザAの頭部に装着される。ヘッドセット1は、無線r1によって通信端末2と通信接続される。無線r1は、例えば、Bluetooth(登録商標)のような2.4GHz帯の周波数帯を用いた通信方式である。
【0021】
通信端末2は、ユーザAが所持している装置であり、例えば、スマートフォンなどの携帯端末である。通信端末9は、ユーザBが所持している装置である。
【0022】
通信端末2および通信端末9のそれぞれは、ネットワークを介して通信可能となっている。例えば、ユーザBから発せられた音声は、通信端末9およびネットワークを介して通信端末2に入力され、さらに無線r1によって、ヘッドセット1に入力される。また、ユーザAから発せられた音声は、ヘッドセット1に設けられた通話用マイクによって拾われ(ピックアップされ)、無線r1によって通信端末2に送信され、さらに、ネットワークを介してユーザBの通信端末9に送信される。これにより、ユーザAおよびユーザBは、通信端末2および通信端末9を用いた通話が可能となる。ユーザAの通話内容をユーザBに適切に伝えるためには、ユーザAから発せられた音声を通話用マイクで適切に拾う必要がある。
【0023】
[ヘッドセットの構成]
実施の形態におけるヘッドセット1の構成について、図3図6を参照しながら説明する。
【0024】
図3は、実施の形態におけるヘッドセット1を模式的に示す図である。図4Aは、ヘッドセット1のブロック構成図である。図4Bは、図4Aに示すブロック構成図の一部および図2に示す通信端末2を模式的に示す図である。なお、図3では、人の耳の図示を省略している。
【0025】
図3に示すように、ヘッドセット1は、ヘッドバンド90と、第1筐体10と、第2筐体20と、複数の通話用マイク31、32、33および34と、スピーカ41および42と、収音マイク50と、コントローラ60と、を備えている。また、図3図4Aおよび図4Bに示すように、ヘッドセット1は、メモリ62と、通信モジュール80と、を備えている。複数の通話用マイク31~34、スピーカ41、42、収音マイク50、メモリ62および通信モジュール80のそれぞれは、コントローラ60に配線接続されている。
【0026】
図3に示すように、ヘッドバンド90は、略円弧状に湾曲した形状を有しており、弾性変形可能である。ヘッドバンド90の一端側には第1筐体10が接続され、他端側には第2筐体20が接続されている。ヘッドバンド90の内部には、コントローラ60と、スピーカ41および通話用マイク31、32とを繋ぐ配線が設けられている。
【0027】
第1筐体10および第2筐体20のそれぞれは、例えば、ケース状のハウジングと、ハウジングに取り付けられたイヤーパッドと、によって構成される(図示省略)。
【0028】
第1筐体10は、人の両耳のうちの一方の耳に装着される。第2筐体20は、両耳のうちの他方の耳に装着される。第1筐体10および第2筐体20のそれぞれは、耳介を覆うように装着されてもよいし、耳介に接するように装着されてもよい。第1筐体10および第2筐体20が両耳に装着されることで、第1筐体10および第2筐体20は、人の頭部を介して互いに対向し、人の頭部は、第1筐体10および第2筐体20によって挟まれた状態となる。
【0029】
複数の通話用マイク31~34は、第1筐体10および第2筐体20の少なくとも一方に設けられている。複数の通話用マイク31~34は、2以上のマイクを1組として構成されるマイクロフォンアレイである。この例では、第1筐体10に2つの通話用マイク31、32が設けられ、第2筐体20に2つの通話用マイク33、34が設けられている。なお、各通話用マイク31~34は、コントローラ60等によって制御されていない状態では、指向性を有さない無指向性マイクである。以下において、複数の通話用マイク31~34の2つまたは全部を指して、複数の通話用マイク30と呼ぶ場合がある。複数の通話用マイク30で拾われた音は、コントローラ60へ出力される。
【0030】
通信モジュール80は、無線r1によって外部の通信端末2に通信接続される。通信モジュール80は、複数の通話用マイク30で拾った音声に関する信号を、コントローラ60を介して取得し、通信端末2へ送信する。また、通信モジュール80は、通信端末2から送信された音声に関する信号をコントローラ60へ出力する。
【0031】
コントローラ60およびメモリ62は、第2筐体20の内部に設けられている。なお、コントローラ60およびメモリ62は、第2筐体20ではなく、第1筐体10の内部に設けられていてもよい。
【0032】
図4Aに示すコントローラ60は、CPU(Central Processing Unit)によって構成される。コントローラ60は、信号処理61を行う機能を有している。メモリ62は、フラッシュRAM(Random Access Memory)およびROM(Read Only Memory)などによって構成される。コントローラ60およびメモリ62は、DSP(Digital Signal Processor)65の中に実装されている。
【0033】
メモリ62には、ヘッドセット1の動作を制御するためのプログラムが格納されている。また、メモリ62には、頭部の幅を算出するためのデータおよび通話用マイク30の指向性を制御するためのデータなどが記憶されている。これについては後述する。
【0034】
コントローラ60内の各機能ブロックは、CPUがメモリ62に記憶されたプログラムを実行することにより実現される。したがって、コントローラ60の信号処理61は、プログラムによるソフト処理として実現される。なお、コントローラ60内の各機能ブロックは、ハードウェアとして実装されてもよい。
【0035】
コントローラ60は、複数の通話用マイク30の指向性を制御するため、以下に示す制御処理を行う。なおこの例では、信号処理61の処理も、コントローラ60が実行する処理として説明する。
【0036】
コントローラ60は、通信モジュール80から出力された音声に関する信号に基づいて、第1音声信号s1を出力する。
【0037】
音声に関する信号は、例えば、ユーザBの通信端末9から発信され、ネットワークおよび通信端末2を介して通信モジュール80に入力された後、コントローラ60に入力される。なお、音声に関する信号は、ネットワークを介して取得した動画の音声信号であってもよい。また、音声信号は、通信端末2のメモリ62に記憶された音楽の音声信号であってもよいし、メモリ62に記憶された単一波長からなる信号であってもよい。音声に関する信号は、通信端末9から受信した音声信号の他に、通信端末2が再生するコンテンツの音声信号であってもよい。
【0038】
コントローラ60から出力された第1音声信号s1は、DA変換器76によってアナログ信号に変換され、スピーカ41へ出力される。
【0039】
スピーカ41は第1筐体10に設けられ、スピーカ42は第2筐体20に設けられている。なお、スピーカ42は、必ずしもヘッドセット1に設けられている必要はない。また、少なくとも本実施の形態の使い方では、スピーカ42は音を出力しない。
【0040】
スピーカ41は、コントローラ60から出力された第1音声信号s1に基づく音Sを出力する。具体的には、スピーカ41は、第1筐体10が装着された一方の耳に向かって音を出力する。スピーカ41から出力された音Sは、一方の耳、脳および他方の耳を順に伝って、第2筐体20に設けられた収音マイク50に伝達される。
【0041】
収音マイク50は、第2筐体20の内部に設けられている。収音マイク50は、スピーカ41から出力された音Sを、人の頭部を介して収音する。収音マイク50は、指向性を制御されることがない無指向性のマイクである。収音マイク50は、周囲のノイズをキャンセルするために使われるフィードバック用マイクであってもよい。
【0042】
収音マイク50は、収音した音Sに基づく第2音声信号s2を出力する。第2音声信号s2は、第1音声信号s1に基づく音Sから生成されるので、第1音声信号s1に基づく信号波形を含んでいる。収音マイク50から出力された第2音声信号s2は、AD変換器77によってデジタル信号に変換され、コントローラ60へ出力される。
【0043】
コントローラ60は、自身が出力した第1音声信号s1、および、自身に入力された第2音声信号s2を用いて複数の通話用マイク30の指向性を制御する。具体的には、コントローラ60は、第1音声信号s1に対する第2音声信号s2の遅れ量d1を取得し、複数の通話用マイク30の指向性を制御する。
【0044】
遅れ量d1は、コントローラ60が第1音声信号s1を出力してからコントローラ60に第2音声信号s2が入力されるまでの時間差である。すなわち、遅れ量d1は、頭部を1つの入出力デバイスとみなした場合の入出力の遅延時間である。なお、遅れ量d1は、時間差に限られず、第1音声信号s1の信号波形と第2音声信号s2の信号波形との位相差であってもよい。スピーカ41から出力された音Sは可聴域の音の周期に対して十分に短い時間で頭部内を伝達して収音マイク50に収音されるので、位相差を用いても十分に遅れ量d1を計算可能である。
【0045】
コントローラ60は、遅れ量d1およびメモリ62に記憶されたデータに基づいて、ヘッドセット1が装着された人の頭部の幅を算出する。
【0046】
図5は、ヘッドセット1のメモリ62に記憶されている基準データの一例を示す図である。図5には、基準となる頭部の幅w0を有する人にヘッドセット1が装着された場合の第1音声信号s1に対する第2音声信号s2の遅れ量d0が示されている。基準となる頭部の幅w0とは、例えば、標準的な頭部のサイズを有する人の頭部の幅である。
【0047】
コントローラ60は、取得した遅れ量d1と基準となる遅れ量d0とを比較することで、ヘッドセット1を装着している人の頭部の幅w1を算出する。例えば、コントローラ60は、取得した遅れ量d1が基準となる遅れ量d0の1.1倍であれば、頭部の幅w1が基準となる頭部の幅w0の1.1倍であると算出する。例えば、コントローラ60は、取得した遅れ量d1が基準となる遅れ量d0の0.9倍である場合、頭部の幅w1が基準となる頭部の幅w0の0.9倍であると算出する。なお、頭部の媒質の大部分は水分であるので、頭部内における音Sの伝達速度に個体差はないとしている。
【0048】
コントローラ60は、算出した頭部の幅w1に基づいて、ヘッドセット1が装着された人の口元から発せられる音声の位置座標PSを推定する。推定のしかたは以下に示すとおりである。
【0049】
例えば、左右の耳を結ぶ線分の中点を原点とし、頭部の左右方向にX軸、上下方向にY軸、前後方向にZ軸を定義する。これにより、耳がX軸上に位置し、また、頭部にヘッドセットを装着した状態において、スピーカ41、42はX軸上に位置することとなる。ここで、音声の位置座標PSは、YZ平面上でかつ、Y座標、Z座標が所定値となる位置にあると仮定する(音声の位置座標PS(0,y0,z0))。なお、y0、z0は、このようにあらかじめ決められた値としてもよいし(音声の位置座標PSの位置を固定)、または、頭部の幅w1から算出してもよい。通話用マイクの位置は、この座標系において既知(例えばw1/2,0,0)であるので、この通話用マイクの位置から音声の位置座標PSに向かう方向に通話用マイクの指向性が向くように、同相化係数を制御する。本実施の形態では、頭部の幅w1から同相化係数が決まるので、音声の位置座標PSを、図5図7のテーブルを参照することで推定することができる。
【0050】
コントローラ60は、推定した音声の位置座標PSに対応するように、複数の通話用マイク30の指向性を制御する。複数の通話用マイク30の指向性は、複数の通話用マイク30から出力された通話信号を同相化するための同相化係数を変えることで制御される。
【0051】
図6は、ヘッドセット1のメモリ62に記憶されている同相化係数の一例を示す図である。
【0052】
図6に示すように、メモリ62には、複数の通話用マイク31~34から出力された通話信号を同相化するための複数の同相化係数a1、a2、a3、a4が記憶されている。これらの同相化係数a1~a4は、基準となる頭部の幅w0に対応した同相化係数である。
【0053】
コントローラ60は、算出した頭部の幅w1と基準となる頭部の幅w0とを比較して、メモリ62に記憶されている複数の同相化係数a1~a4を補正し、補正後の複数の同相化係数をメモリ62に保存する。そしてコントローラ60は、補正後の複数の同相化係数に基づいて、複数の通話用マイク30の指向性を制御する。すなわち、コントローラ60は、複数の通話用マイク30の指向性を示すビームフォームBFが音声の位置座標PSに重なるように、複数の同相化係数a1~a4を補正し、複数の通話用マイク30の指向性を制御する。
【0054】
以下、図4Aを参照しながら、コントローラ60の指向性合成処理等について説明する。
【0055】
4つの通話用マイク31~34で収音され出力された音声信号のそれぞれは、通話信号としてDSP65に出力される。DSP65に入力された通話信号のそれぞれは、AD変換器71、72、73および74でデジタル信号に変換され、コントローラ60へ出力される。デジタル信号に変換された各通話信号は、感度補正処理60aが行われ、FFT(高速フーリエ変換)処理60bが行われ、プリエンファシスによる増幅処理60cが行われた後、指向性合成処理60dが行われる。指向性合成処理60dでは、前述した補正後の複数の同相化係数を用いて、各通話信号に対する位相の同相化が行われる。また、位相の同相化が行われた各通話信号に基づいて、主ビームおよび参照ビームが形成され、残留音を抑制したビームフォームが形成される。指向性合成処理60dが行われた各通話信号は、ゲイン調整処理60eされ、デエンファシスによる増幅処理60fが行われた後、IFFT(逆高速フーリエ変換)処理60gされ、コントローラ60から出力される。コントローラ60から出力された通話信号は、通信モジュール80へ出力される。通信モジュール80に入力された通話信号は、無線r1によって通信端末2へ送信される。このようにして、複数の通話用マイク30で拾われた音声が指向性合成処理等され、通信モジュール80を介して、通信端末2へ送信される。
【0056】
このように本実施の形態では、スピーカ41が第1音声信号s1に基づく音Sを出力し、収音マイク50がスピーカ41から出力された音Sを人の頭部を介して収音し、収音した音Sに基づく第2音声信号s2をコントローラ60へ出力する。そしてコントローラ60が、第1音声信号s1に対する第2音声信号s2の遅れ量d1に基づいて、複数の通話用マイク30の指向性を制御する。これによれば、ヘッドセット1を装着する人の頭の幅が異なる場合であっても、人の頭部の幅に応じて口元から発せられる音声を適切に拾うことができる。
【0057】
なお、上記では、コントローラ60が、メモリ62に記憶されている複数の同相化係数a1~a4を補正することで、複数の通話用マイク30の指向性を制御する例を示したが、それに限られない。例えば、コントローラ60は、メモリ62に記憶されたテーブル内の同相化係数を用いて、複数の通話用マイク30の指向性を制御してもよい。
【0058】
図7は、ヘッドセット1のメモリ62に記憶されている同相化係数の他の一例を示す図である。図7には、メモリ62に、複数の参照となる頭部の幅wa、wb、wcのそれぞれに対応した複数の同相化係数a1~a4、b1~b4、c1~c4が記憶されたテーブルが示されている。コントローラ60は、算出した頭部の幅w1に応じて、複数の参照となる頭部の幅wa~wcから参照となる頭部の幅(例えばwa)を選択し、選択した頭部の幅に対応する複数の同相化係数(例えばa1~a4)を取得する。コントローラ60は、図7のテーブルを参照し、幅wa~wcから頭部の幅w1に近いものを選択し、選択した頭部の幅に対応する同相化係数を選択してもよい。また、コントローラ60は、選択した頭部の幅に対応する同相化係数を補間して新たに同相化係数を求めてもよい。例えばコントローラ60は、頭部の幅w1が幅waと幅wbとの間の値である場合、幅wa、wbに対応する同相化係数a1~a4、b1~b4を補間して新たに同相化係数を求めてもよい。このように、コントローラ60は、取得した複数の同相化係数に基づいて、複数の通話用マイク30の指向性を制御してもよい。
【0059】
[通話用マイクの指向性制御方法]
実施の形態における通話用マイクの指向性制御方法について説明する。
【0060】
図8は、ヘッドセット1の通話用マイク30の指向性制御方法を示すフローチャートである。図9は、ヘッドセット1の動作の一例を示すタイミングチャートである。
【0061】
まず、コントローラ60は、第1音声信号s1をスピーカ41へ出力する(ステップS11)。具体的には、コントローラ60は、通信モジュール80から出力された音声に関する信号に基づいて第1音声信号s1を生成し、生成した第1音声信号s1をスピーカ41へ出力する。通信モジュール80から出力された音声に関する信号は、例えば、通信相手であるユーザBの通信端末9から送信された信号である。コントローラ60は、通信モジュール80から出力された音声に関する信号が入力されている間、スピーカ41へ第1音声信号s1を出力し続ける(図9参照)。
【0062】
スピーカ41は、第1音声信号s1に基づく音Sを出力する(ステップS12)。スピーカ41から出力された音Sは、頭部内を伝達して収音マイク50に到達する。
【0063】
収音マイク50は、頭部内を通った音Sを収音し、収音した音Sに基づく第2音声信号s2をコントローラ60へ出力する(ステップS13)。スピーカ41から出力された音Sは、頭部内を伝達して収音マイク50に入力されるまでに時間を要するため、コントローラ60には、第1音声信号s1の出力時刻よりも遅れて第2音声信号s2が入力される(図9参照)。
【0064】
コントローラ60は、第1音声信号s1に対する第2音声信号s2の遅れ量d1に基づいて、頭部の幅w1を算出する(ステップS14)。例えばコントローラ60は、遅れ量d1およびメモリ62に記憶されている基準データに基づいて、ヘッドセット1が装着された人の頭部の幅w1を算出する。なお、コントローラ60が計測可能な遅れ量d1は、コントローラ60がスピーカ41に向けて第1音声信号s1を送信してから、コントローラ60が収音マイク50からの第2音声信号s2を受信するまでの時間である。本来であれば、スピーカ41から音が出てから収音マイク50で音が収音されるまでの時間に基づいて遅れ量を計測することが望ましいが、コントローラ60とスピーカ41との間の信号伝送時間、および、収音マイク50とコントローラ60との間の信号伝送時間はごく短時間であり、無視しても問題ないと考えられる。
【0065】
メモリ62には、基準となる頭部の幅w0に対応した複数の同相化係数が記憶されており、コントローラ60は、ステップS14で算出した頭部の幅w1に基づいて、メモリ62に記憶されている複数の同相化係数を補正する。そして、コントローラ60は、補正後の同相化係数をメモリ62に保存する(ステップS15)。これにより、ヘッドセット1を装着した人に適合したビームフォームBFが、ヘッドセット1に設定される。コントローラ60は、収音マイク50から出力された第2音声信号s2を受け付けている間、補正後の複数の同相化係数に基づいて、複数の通話用マイク30の指向性を制御する制御処理を実行する(ステップS16)(図9参照)。
【0066】
これらのステップS11~S16が実行されることで、複数の通話用マイク30の指向性制御が実現される。これによれば、ヘッドセット1を装着する人の頭の幅が異なる場合であっても、人の頭部の幅に応じて口元から発せられる音声を適切に拾うことができる。また、ステップS13~S15によれば、コントローラ60が第2音声信号s2を受け付けている間、複数の通話用マイク30の指向性制御が実行される。そのため、例えば、第1筐体10または第2筐体20の頭部に対する装着位置がずれた場合であっても、その位置に応じて口元から発せられる音声を適切に拾うことができる。
【0067】
[変形例1]
実施の形態の変形例1におけるヘッドセット1Aについて、図10を参照しながら説明する。変形例1では、通話用マイク30が第1筐体10のみに設けられている例について説明する。
【0068】
図10は、変形例1におけるヘッドセット1Aを模式的に示す図である。
【0069】
図10に示すように、ヘッドセット1Aは、ヘッドバンド90と、第1筐体10と、第2筐体20と、複数の通話用マイク31および32と、スピーカ41および42と、収音マイク50と、コントローラ60と、を備えている。また、ヘッドセット1Aは、メモリ62と、通信モジュール80と、を備えている。
【0070】
第1筐体10、第2筐体20、スピーカ41、42、収音マイク50、コントローラ60、メモリ62および通信モジュール80については、実施の形態と同様である。
【0071】
ヘッドセット1Aでは、第1筐体10に複数の通話用マイク31および32が設けられ、第2筐体20には通話用マイクが設けられていない。
【0072】
変形例1でも、スピーカ41が第1音声信号s1に基づく音Sを出力し、収音マイク50がスピーカ41から出力された音Sを人の頭部を介して収音し、収音した音Sに基づく第2音声信号s2をコントローラ60へ出力する。そしてコントローラ60が、第1音声信号s1に対する第2音声信号s2の遅れ量d1に基づいて、複数の通話用マイク31および32の指向性を制御する。これによれば、ヘッドセット1Aを装着する人の頭の幅が異なる場合であっても、人の頭部の幅に応じて口元から発せられる音声を適切に拾うことができる。
【0073】
なお、図10では、複数の通話用マイク31および32が第1筐体10のみに設けられている例を示したが、それに限られない。例えば、複数の通話用マイク31および32が第2筐体20のみに設けられ、第1筐体10には、通話用マイクが設けられていなくても同様である。
【0074】
[変形例2]
実施の形態の変形例2におけるヘッドセット1Bについて、図11を参照しながら説明する。変形例2では、通話用マイク31が第1筐体10に設けられ、通話用マイク32が第2筐体20に設けられている例について説明する。
【0075】
図11は、変形例2におけるヘッドセット1Bを模式的に示す図である。
【0076】
図11に示すように、ヘッドセット1Bは、ヘッドバンド90と、第1筐体10と、第2筐体20と、複数の通話用マイク31および32と、スピーカ41および42と、収音マイク50と、コントローラ60と、を備えている。また、ヘッドセット1Bは、メモリ62と、通信モジュール80と、を備えている。
【0077】
第1筐体10、第2筐体20、スピーカ41、42、収音マイク50、コントローラ60、メモリ62および通信モジュール80については、実施の形態と同様である。
【0078】
ヘッドセット1Bでは、第1筐体10に1つの通話用マイク31が設けられ、第2筐体20に1つの通話用マイク32が設けられている。
【0079】
変形例2でも、スピーカ41が第1音声信号s1に基づく音Sを出力し、収音マイク50がスピーカ41から出力された音Sを人の頭部を介して収音し、収音した音Sに基づく第2音声信号s2をコントローラ60へ出力する。そしてコントローラ60が、第1音声信号s1に対する第2音声信号s2の遅れ量d1に基づいて、複数の通話用マイク31および32の指向性を制御する。これによれば、ヘッドセット1Bを装着する人の頭の幅が異なる場合であっても、人の頭部の幅に応じて口元から発せられる音声を適切に拾うことができる。
【0080】
また、このヘッドセット1Bによれば、コントローラ60が第2音声信号s2を受け付けている間、複数の通話用マイク31および32の指向性制御が実行される。そのため、例えば、第1筐体10または第2筐体20の頭部に対する装着位置がずれた場合であっても、その位置に応じて口元から発せられる音声を適切に拾うことができる。
【0081】
[変形例3]
実施の形態の変形例3におけるヘッドセット1Cについて、図12および図13を参照しながら説明する。変形例3では、ヘッドセット1Cが、完全ワイヤレスステレオ(TWS:True Wireless Stereo)である例について説明する。
【0082】
図12は、変形例3におけるヘッドセット1Cを模式的に示す図である。図13は、変形例3におけるヘッドセット1Cの一部のブロック構成図である。なお、図13では、一部のAD変換器等の図示を省略している。
【0083】
図12および図13に示すように、変形例3のヘッドセット1Cは、第1筐体10と、第2筐体20と、複数の通話用マイク31および32と、スピーカ41および42と、収音マイク50と、コントローラ60と、を備えている。また、ヘッドセット1Cは、メモリ62と、第1の通信モジュール81と、第2の通信モジュール82と、を備えている。変形例3のヘッドセット1Cは、ヘッドバンドを有していない。
【0084】
スピーカ41、42、収音マイク50、コントローラ60、メモリ62および通話用マイク31、32は、変形例1と同様である。第1筐体10および第2筐体20は、形状、大きさが変形例1と異なるが、筐体としての機能は変形例1とほぼ同様である。
【0085】
第1の通信モジュール81は、第2筐体20に設けられている。第1の通信モジュール81は、実施の形態の通信モジュール80と同様の機能を有しており、無線r1によって通信端末2に通信接続される。
【0086】
第2の通信モジュール82は、第1筐体10に設けられている。第2の通信モジュール82は、第1の通信モジュール81に対し無線r2によって通信可能となっている(図13参照)。無線r2は、例えば、Bluetooth(登録商標)などの通信方式である。
【0087】
変形例3のヘッドセット1Cは、複数の通話用マイク31および32の指向性を制御するため、以下に示す制御処理を行う。
【0088】
コントローラ60は、第1の通信モジュール81から出力された音声に関する信号に基づいて、第1音声信号s1を出力する。コントローラ60から出力された第1音声信号s1は、第1の通信モジュール81および第2の通信モジュール82を介して、すなわち無線r2によってスピーカ41へ出力される。
【0089】
スピーカ41は、第1音声信号s1に基づく音Sを出力する。収音マイク50は、スピーカ41から出力された音Sを、人の頭部を介して収音する。収音マイク50は、収音した音Sに基づく第2音声信号s2を出力する。
【0090】
コントローラ60は、自身が出力した第1音声信号s1、および、自身に入力された第2音声信号s2を用いて複数の通話用マイク31および32の指向性を制御する。具体的には、コントローラ60は、第1音声信号s1に対する第2音声信号s2の遅れ量d1を取得し、複数の通話用マイク31および32の指向性を制御する。
【0091】
遅れ量d1は、遅れ量d1=(第2音声信号s2の受信時刻)-(第1音声信号s1の送信時刻)という式で求めることができるが、変形例3では、第1の通信モジュール81および第2の通信モジュール82の間の通信等による通信遅延時間を考慮して、遅れ量d1を求める。例えば、変形例3では、「第1音声信号s1の送信時刻」を、コントローラ60が第1音声信号s1を送信指示した時刻ではなく、コントローラ60が第2の通信モジュール82から受信完了通知を受け取った時刻とする。具体的には、第1の通信モジュール81から送信された第1音声信号s1を第2の通信モジュール82が受信し、第2の通信モジュール82から返信された受信完了信号を、第1の通信モジュール81を介してコントローラ60が受け取った時刻を上記の「第1音声信号s1の送信時刻」とする。「第1音声信号s1の送信時刻」を上記のように設定することで、通信モジュール間の通信等による通信遅延時間の影響を低減することができる。
【0092】
複数の通話用マイク31、32で拾われた通話信号のそれぞれは、AD変換およびパルス密度変調処理された後、第2の通信モジュール82から第1の通信モジュール81へ送信される。第1の通信モジュール81は、入力された通話信号をコントローラ60へ出力する。コントローラ60は、各通話信号に対して図4Aに示す演算処理を行った後、演算処理後の通話信号を、第1の通信モジュール81を介して通信端末2へ送信する。
【0093】
変形例3でも、スピーカ41が第1音声信号s1に基づく音Sを出力し、収音マイク50がスピーカ41から出力された音Sを人の頭部を介して収音し、収音した音Sに基づく第2音声信号s2をコントローラ60へ出力する。そしてコントローラ60が、第1音声信号s1に対する第2音声信号s2の遅れ量d1に基づいて、複数の通話用マイク31および32の指向性を制御する。これによれば、ヘッドセット1Cを装着する人の頭の幅が異なる場合であっても、人の頭部の幅に応じて口元から発せられる音声を適切に拾うことができる。
【0094】
[効果等]
以上のように、本実施の形態において、ヘッドセット1は、人の両耳のうちの一方の耳に装着される第1筐体10と、両耳のうちの他方の耳に装着される第2筐体20と、第1筐体10および第2筐体20の少なくとも一方に設けられた複数の通話用マイク30と、第1筐体10に設けられたスピーカ41と、第2筐体20に設けられた収音マイクと、第1音声信号s1をスピーカ41へ出力するコントローラ60と、を備える。スピーカ41は、第1音声信号s1に基づく音Sを出力する。収音マイク50は、スピーカ41から出力された音Sを人の頭部を介して収音し、収音した音Sに基づく第2音声信号s2をコントローラ60へ出力する。コントローラ60は、第1音声信号s1に対する第2音声信号s2の遅れ量d1に基づいて、複数の通話用マイク30の指向性を制御する。
【0095】
このように、スピーカ41が第1音声信号s1に基づく音Sを出力し、収音マイク50がスピーカ41から出力された音Sを人の頭部を介して収音し、収音した音Sに基づく第2音声信号s2を出力することで、コントローラ60は、第1音声信号s1に対する第2音声信号s2の遅れ量d1を求めることができる。コントローラ60は、この遅れ量d1に基づいて、複数の通話用マイク30の指向性を制御することで、人の頭部の幅に応じて口元から発せられる音声を適切に拾うことができる。
【0096】
また、本実施の形態において、コントローラ60は、遅れ量d1に基づいて頭部の幅w1を算出し、算出した頭部の幅w1に基づいて、複数の通話用マイク30の指向性を制御する。
【0097】
このように、遅れ量d1に基づいて頭部の幅w1を算出することで、ヘッドセット1を装着する人の頭の幅が異なる場合であっても、複数の通話用マイク30の指向性を制御し、人の頭部の幅に応じて口元から発せられる音声を拾うことができる。
【0098】
また、本実施の形態において、コントローラ60は、複数の通話用マイク30の指向性を示すビームフォームBFが人の口元から発せられる音声の位置座標PSに重なるように、複数の通話用マイク30の指向性を制御する。
【0099】
このように複数の通話用マイク30の指向性を制御することで、ヘッドセット1を装着する人の頭の幅が異なる場合であっても、人の頭部の幅に応じて口元から発せられる音声を拾うことができる。
【0100】
また、本実施の形態において、遅れ量d1は、コントローラ60が第1音声信号s1を出力してからコントローラ60に第2音声信号s2が入力されるまでの時間差である。
【0101】
これによれば、遅れ量d1を簡易に求めることができる。コントローラ60は、この遅れ量d1に基づいて、複数の通話用マイク30の指向性を制御することで、人の頭部の幅に応じて口元から発せられる音声を適切に拾うことができる。
【0102】
また、本実施の形態において、遅れ量d1は、第1音声信号s1の信号波形と第2音声信号s2の信号波形との位相差である。
【0103】
これによれば、遅れ量d1を簡易に求めることができる。コントローラ60は、この遅れ量d1に基づいて、複数の通話用マイク30の指向性を制御することで、人の頭部の幅に応じて口元から発せられる音声を適切に拾うことができる。
【0104】
また、本実施の形態において、ヘッドセット1は、さらに、複数の通話用マイク30から出力された通話信号を同相化するための複数の同相化係数が記憶されているメモリ62を備える。メモリ62には、基準となる頭部の幅w0に対応した複数の同相化係数a1~a4が記憶されている。コントローラ60は、算出した頭部の幅w1と基準となる頭部の幅w0とを比較して、メモリ62に記憶されている複数の同相化係数a1~a4を補正し、補正後の複数の同相化係数に基づいて、複数の通話用マイク30の指向性を制御する。
【0105】
このように、算出した頭部の幅w1と基準となる頭部の幅w0とを比較して、複数の同相化係数a1~a4を補正することで、ヘッドセット1を装着する人の頭の幅が異なる場合であっても、複数の通話用マイク30の指向性を制御し、人の頭部の幅に応じて口元から発せられる音声を拾うことができる。
【0106】
また、本実施の形態において、ヘッドセット1は、さらに、複数の通話用マイク30から出力された通話信号を同相化するための複数の同相化係数が記憶されているメモリ62を備える。メモリ62には、複数の参照となる頭部の幅wa、wb、wcのそれぞれに対応した複数の同相化係数a1~a4、b1~b4、c1~c4が記憶されている。コントローラ60は、算出した頭部の幅w1に応じて、複数の参照となる頭部の幅wa~wcから参照となる頭部の幅(例えばwa)を選択し、選択した頭部の幅に対応する複数の同相化係数(例えばa1~a4)を取得し、取得した複数の同相化係数に基づいて、複数の通話用マイク30の指向性を制御する。
【0107】
このように、複数の参照となる頭部の幅wa、wb、wcから参照となる頭部の幅を選択して、複数の同相化係数を取得することで、ヘッドセット1を装着する人の頭の幅が異なる場合であっても、複数の通話用マイク30の指向性を制御し、人の頭部の幅に応じて口元から発せられる音声を拾うことができる。
【0108】
また、本実施の形態において、ヘッドセット1は、さらに、外部の通信端末2に通信接続される通信モジュール80を備える。通信モジュール80は、通信端末2から送信された音声に関する信号をコントローラ60へ出力する。コントローラ60は、通信モジュール80から出力された音声に関する信号に基づいて、第1音声信号s1を出力する。
【0109】
これによれば、コントローラ60は、通信モジュール80から出力された音声に関する信号を利用して、複数の通話用マイク30の指向性を制御することができる。これにより、人の頭部の幅に応じて口元から発せられる音声を適切に拾うことができる。
【0110】
また、本実施の形態において、コントローラ60は、収音マイク50から出力された第2音声信号s2を受け付けている間、複数の通話用マイク30の指向性を制御する。
【0111】
これによれば、例えば、第1筐体10または第2筐体20の頭部に対する装着位置がずれた場合であっても、その位置に応じて口元から発せられる音声を適切に拾うことができる。
【0112】
また、本実施の形態において、複数の通話用マイク30は、2以上のマイクを1組として構成されるマイクロフォンアレイである。
【0113】
これによれば、コントローラ60が、複数の通話用マイク30の指向性を制御し、人の頭部の幅に応じて口元から発せられる音声を適切に拾うことができる。
【0114】
また、本実施の形態において、複数の通話用マイク30は、第1筐体10および第2筐体20のそれぞれに設けられている。
【0115】
これによれば、コントローラ60が、第1筐体10および第2筐体20のそれぞれの複数の通話用マイク30の指向性を制御し、人の頭部の幅に応じて口元から発せられる音声を適切に拾うことができる。
【0116】
また、本実施の形態において、通話用マイク30の指向性制御方法は、人の両耳のうちの一方の耳側に配置されたスピーカ41から第1音声信号s1に基づく音Sを出力し、他方の耳側に配置された収音マイク50で、スピーカ41から出力された音Sを人の頭部を介して収音して、収音した音Sに基づく第2音声信号s2を出力し、第1音声信号s1に対する第2音声信号s2の遅れ量d1に基づいて、一方の耳側および他方の耳側の両側または片側に設けられた複数の通話用マイク30の指向性を制御する。
【0117】
このように、第1音声信号s1に対する第2音声信号s2の遅れ量d1に基づいて、複数の通話用マイク30の指向性を制御することで、人の頭部の幅に応じて口元から発せられる音声を適切に拾うことができる。
【0118】
なお、頭部の幅を正確に求めるためには、スピーカとマイクとの間の距離が頭部の幅と等しくなるように、スピーカ41および収音マイク50を頭の幅方向の両端に位置させ、また、スピーカ41が音を出力してから収音マイク50が収音するまでの時間を測定することが望ましい。実際に製造されるヘッドセットでは、スピーカと収音マイクとの間の距離が頭部の幅と微妙に異なる場合があり、また、コントローラ60とスピーカ41との間の信号の入出力に関する遅延もある。本実施の形態のように、コントローラ60から第1音声信号s1を出力してからコントローラ60に第2音声信号s2が入力されるまでの時間を測定しても十分な精度が得られるものと考えられる。また、図5図7に示すテーブルの各値を、これらの差分を吸収できるように予め設定することで、より精度を上げることもできる。
【0119】
(他の実施の形態)
以上のように、本開示における技術の例示として、実施の形態および実施の形態の変形例を説明した。そのために、添付図面および詳細な説明を提供した。
【0120】
したがって、添付図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、上記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
【0121】
また、上述の実施の形態および変形例は、本開示における技術を例示するためのものであるから、請求の範囲またはその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。
【0122】
上記の実施の形態では、第1音声信号s1に対する第2音声信号s2の遅れ量d1に基づいて頭部の幅w1を算出した後に、複数の通話用マイク30の指向性を制御する例を示したが、頭部の幅w1は必ずしも算出されなくてもよい。例えば、メモリ62に遅れ量と同相化係数との対応関係が予め記憶されている場合、コントローラ60は、上記の対応関係を用いて、実際の遅れ量d1に対する同相化係数を取得し、複数の通話用マイク30の指向性を制御してもよい。
【0123】
図14は、ヘッドセット1のメモリ62に記憶されている同相化係数の他の一例を示す図である。メモリ62に記憶された複数の同相化係数a1~a4は、基準となる遅れ量d0に対応した同相化係数である。コントローラ60は、算出した遅れ量d1と基準となる遅れ量d0とを比較して、メモリ62に記憶されている複数の同相化係数a1~a4を補正し、補正後の複数の同相化係数に基づいて、複数の通話用マイク30の指向性を制御してもよい。
【0124】
図15は、ヘッドセット1のメモリ62に記憶されている同相化係数の他の一例を示す図である。メモリ62のテーブル内には、複数の参照となる遅れ量da、db、dcのそれぞれに対応した複数の同相化係数a1~a4、b1~b4、c1~c4が記憶されている。コントローラ60は、算出した遅れ量d1に応じて、複数の参照となる遅れ量da~dcから参照となる遅れ量(例えばda)を選択し、選択した遅れ量に対応する複数の同相化係数(例えばa1~a4)を取得し、取得した複数の同相化係数に基づいて、複数の通話用マイク30の指向性を制御してもよい。
【0125】
本実施の形態では、スピーカ41から第1音声信号s1に基づく音声を出力し、スピーカ42からは音声を出力しない例を示したが、それに限られず、もう一つのスピーカ42からも第1音声信号s1に基づく音声を出力してもよい。この場合、収音マイク50は、スピーカ41から頭部を介して伝達された音声と、スピーカ42から空気を介して伝達された音声と、を収音した音声信号(s2a)を出力する。したがって後の計算のために、この音声信号(s2a)から、スピーカ42からの音声に基づく音声信号(s42)をあらかじめ除去する必要がある。第1音声信号s1は、スピーカ42から出力され空気を伝わって収音マイク50で収音される過程で周波数特性が変化し、また振幅も減衰するが、この特性は既知とすることができる。コントローラ60は、スピーカ42から出力された第1音声信号s1にこの特性を反映した伝達関数をかけることで、音声信号(s42)を疑似的に再現できる。そして、スピーカ42から空気を介して収音マイク50に到達するまでの遅延時間も考慮して、音声信号(s2a)から音声信号(s42)を減算(逆位相の信号を加算)したものを第2音声信号s2とする。このようにして求めた第2音声信号s2を、後の計算に使用してもよい。
【0126】
本実施の形態では、入力される音声信号を再生しながらリアルタイムに指向性制御を行う例を示したが、それに限られない。例えば、ヘッドセットがマイクの指向性を調整する調整モードを有する場合、調整モードにおいてテスト信号をスピーカ41から出力し、収音マイク50で収音することにより指向性を調整してもよい。そしてその調整後に、通常のモードで通話の動作を行ってもよい。上記のテスト信号は、全周波数帯域の成分が含まれるホワイトノイズであってもよいし、あらかじめ決められた音楽や人の声等の音声信号であってもよい。調整モードにおいては、スピーカ42は音を出力しなくてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本開示は、人体に装着されるヘッドセットに適用可能である。また、本開示は、ヘッドフォンまたはインカム(インターコミュニケーション)など、頭部に装着される通話機器に適用可能である。
【符号の説明】
【0128】
1、1A、1B、1C ヘッドセット
2、9 通信端末
5 通話システム
10 第1筐体
20 第2筐体
30、31、32、33、34 通話用マイク
41、42 スピーカ
50 収音マイク
60 コントローラ
60a 感度補正処理
60b FFT処理
60c プリエンファシスによる増幅処理
60d 指向性合成処理
60e ゲイン調整処理
60f デエンファシスによる増幅処理
60g IFFT処理
61 信号処理
62 メモリ
65 DSP
71、72、73、74、77 AD変換器
76 DA変換器
80、81、82 通信モジュール
90 ヘッドバンド
a1、a2、a3、a4、b1、b2、b3、b4、c1、c2、c3、c4 同相化係数
BF ビームフォーム
d0、d1、da、db、dc 遅れ量
PS 音声の位置座標
r1、r2 無線
S 音
s1 第1音声信号
s2 第2音声信号
w0、w1、wa、wb、wc 頭部の幅
図1
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図3
図4A
図4B
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