(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】細菌、遺伝子発現上昇剤及び製剤
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20241004BHJP
A61K 35/74 20150101ALI20241004BHJP
A61P 17/16 20060101ALI20241004BHJP
A61K 8/9728 20170101ALI20241004BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C12N1/20 A ZNA
A61K35/74 A
A61K35/74 G
A61P17/16
A61K8/9728
A61Q19/00
(21)【出願番号】P 2024057839
(22)【出願日】2024-03-29
【審査請求日】2024-05-02
【微生物の受託番号】NPMD NITE P-04076
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504095173
【氏名又は名称】株式会社バイオジェノミクス
(73)【特許権者】
【識別番号】507382393
【氏名又は名称】ペレ・グレイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106220
【氏名又は名称】大竹 正悟
(72)【発明者】
【氏名】本多 英俊
(72)【発明者】
【氏名】渕上 太郎
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-70307(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2022/0288135(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
A61K
A61P
A61K
A61Q
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミド合成酵素3遺伝子発現を上昇させ、かつヒアルロン酸合成酵素3遺伝子発現を上昇させる受託番号:NITE P-04076として寄託されたスタフィロコッカス・エピデルミディス(
Staphylococcus epidermidis)種に属するBG-PG180株である細菌。
【請求項2】
請求項1記載の細菌の培養上清を主成分として含有するセラミド合成酵素3遺伝子発現を上昇させヒアルロン酸合成酵素3遺伝子発現を上昇させる遺伝子発現上昇剤。
【請求項3】
請求項1記載の細菌を有効成分として含有するセラミド合成酵素3遺伝子発現を上昇させヒアルロン酸合成酵素3遺伝子発現を上昇させる遺伝子発現上昇剤。
【請求項4】
請求項1記載の細菌又は請求項2若しくは請求項3記載の遺伝子発現上昇剤を有効成分として含有する製剤。
【請求項5】
皮膚外用剤である請求項4記載の製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スタフィロコッカス・エピデルミディス種に属する細菌並びにその細菌を用いたセラミド合成及びヒアルロン酸合成を促進させる遺伝子発現上昇剤並びにその細菌を用いた皮膚外用剤等の製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚には、感覚器としてのセンサ機能、体温調節機能、そして、水分が体内から蒸散するのを防ぐ一方で外界からの刺激や異物の侵入を防ぐバリア機能又は保護機能を有している。
これらの機能を奏する皮膚は、表皮、真皮、皮下組織の3層から構成され、皮膚の最外層にある表皮では、バリア機能に大きな影響を与えており、中間に位置する真皮は厚い層であり柔軟性や耐久性を与えている。そして最も内側にある皮下組織は、外部からの衝撃を和らげ、またエネルギーを蓄える役割を担っている。
【0003】
このように種々の機能を有する皮膚の性状が悪化すると肌の綺麗さが保たれないばかりではなく、皮膚病や精神的疾患など、その他の様々な害悪を及ぼすこともあり、皮膚の健康を良好に保つために種々の技術が提案されている。
【0004】
例えば、セラミド合成促進作用を有する成分を備えた皮膚外用組成物に関する発明が特開2022-077501号公報(特許文献1)に記載されている。また、皮膚における小じわ形成変化を抑制する物質に関する発明が特開2016-169238公報(特許文献2)に記載されている。あるいはまたアセチルスペルミン等を有効成分として含有するヒアルロン酸産生促進剤に関する発明が特開2021-050179号公報(特許文献3)に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2022-077501号公報
【文献】特開2016-169238公報
【文献】特開2021-050179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の技術に加え、皮膚を良好に保持するための皮膚外用剤の成分となるような物質を開発する研究は種々なされているが、皮膚に悪影響を及ぼす原因を究明し、その原因を取り除く手段を検討することは時間も費用もかかるものであり、また開発された物質の安全性を担保することも大変な作業であった。
【0007】
そうした一方で本発明者らは、バリア機能に大きな影響を及ぼす表皮の角質層(角層)に備わる細胞間脂質であるセラミドの減少が乾燥した皮膚に見られること等や、センサとしての知覚機能に関係する神経繊維があり、また肌の弾力性にも大きな影響を及ぼす真皮にはヒアルロン酸が多量に含まれること等の知見に鑑み、表皮及び真皮の健康に資する成分の開発を試みた。本発明はこうした研究の成果として生まれたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の第1の態様は、セラミド合成酵素3遺伝子発現を上昇させ、かつヒアルロン酸合成酵素3遺伝子発現を上昇させる受託番号:NITE P-04076として寄託されたスタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)種に属するBG-PG180株である細菌である。
【0009】
本開示の第1の態様は、セラミド合成酵素3遺伝子発現を上昇させ、かつヒアルロン酸合成酵素3遺伝子発現を上昇させる受託番号:NITE P-04076として寄託されたスタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)種に属するBG-PG180株である細菌としたため、ヒトの皮膚から取得できるスタフィロコッカス・エピデルミディス種に属する細菌が、セラミド合成酵素3遺伝子の発現を上昇させ、ヒアルロン酸合成酵素3遺伝子の発現を上昇させることができる。
【0010】
本開示の第2の態様は、上記細菌の培養上清を主成分として含有するセラミド合成酵素3遺伝子発現を上昇させヒアルロン酸合成酵素3遺伝子発現を上昇させる遺伝子発現上昇剤である。
【0011】
本開示の第2の態様は、上記細菌の培養上清を主成分として含有するセラミド合成酵素3遺伝子発現を上昇させヒアルロン酸合成酵素3遺伝子発現を上昇させる遺伝子発現上昇剤としたため、セラミド合成酵素3遺伝子の発現を上昇させ、ヒアルロン酸合成酵素3遺伝子の発現を上昇させることができる。
【0012】
本開示の第3の態様は、前記細菌を有効成分として含有するセラミド合成酵素3遺伝子発現を上昇させヒアルロン酸合成酵素3遺伝子発現を上昇させる遺伝子発現上昇剤である。
【0013】
本開示の第3の態様は、前記細菌を有効成分として含有するセラミド合成酵素3遺伝子発現を上昇させヒアルロン酸合成酵素3遺伝子発現を上昇させる遺伝子発現上昇剤としたため、セラミド合成酵素3遺伝子の発現を上昇させ、ヒアルロン酸合成酵素3遺伝子の発現を上昇させることができる。
【0014】
本開示の第4の態様は、前記細菌又は前記遺伝子発現上昇剤を有効成分として含有する製剤である。
本開示の第4の態様は、前記細菌又は前記遺伝子発現上昇剤を有効成分として含有する製剤としたため、セラミド合成酵素3遺伝子の発現を上昇させ、ヒアルロン酸合成酵素3遺伝子の発現を上昇させることができる。そして、例えば医薬製剤、化粧品等に利用できる。
【0015】
本開示の第5の態様は、皮膚外用剤である前記製剤である。
本開示の第5の態様は、皮膚外用剤である前記製剤としたため、表皮の水分保持やバリア機能を維持、改善する基礎化粧品、スキンケア製品等のクリーム製品、化粧液等として利用することができる。
【0016】
前記何れかの態様による製剤は、液状、固形状、粉末状、ゼリー状、ゲル状等の種々の態様を採ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本開示の一態様によれば、セラミド合成酵素3遺伝子発現を上昇させ、ヒアルロン酸合成酵素3遺伝子発現を上昇させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本開示の一態様について、例示される実施形態に基づき説明する。以下の実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0019】
本開示に含む全ての実施形態及び選択可能な実施形態は、互いに組み合わせて新たな実施形態を形成してもよい。また、本開示に含む全ての技術的特徴及び選択可能な技術的特徴は、互いに組み合わせることにより新たな技術的特徴を形成できる。
【0020】
本開示で使用する用語「又は」は包括的な用語として使用される。例えば、「A又はB」は「A、B、又はAとBの両方」を意味する。「A」、「B」、「AとBの両方」は、何れもそれぞれが「A又はB」を満たす。
【0021】
本明細書及び特許請求の範囲において「第1」、「第2」及び「第n(但しnは自然数)」と記載する場合、それは異なる要素を区別するために使用するものであり、特定の順序や優劣等を示すことを意図しない。各実施形態で共通する構成については、同一符号を付して重複説明を省略する。
【0022】
本明細書及び特許請求の範囲で使用される「上」、「下」、「前」、「後」、「左」、「右」等の用語及びそれらの用語を含む用語で表された方向又は位置関係は、図面に基づくものであり、実施形態を便宜的に及び簡略に説明するためのものにすぎない。従って、明確な定義や限定がない限り、特定の要素やその使用が、特定の方向に構成されることを明示又は暗示するものではなく、また特許請求の範囲及び実施形態を限定するものではないと理解すべきである。
【0023】
本明細書及び特許請求の範囲で使用される「約」、「およそ」、「ほぼ」、「実質的に」との用語によって修飾される数値又は要素については、その数値とその数値を中心とする前後の数値を含むものとして、またその要素と、その要素と同じと言えるものとを含むものとして理解される。例えば「約3」と記載する場合、本開示で主張する技術的特徴、技術的意義が異ならなければ、「3」とそれに連続する数値も「約3」に含まれ得る。また、「Aと実質的に同一のB」という場合、BはAと完全同一である場合のほか、本開示で主張する技術的特徴、技術的意義が共通する限り、相違点を有していても「実質的」の範囲に含み得る。
【0024】
本明細書及び特許請求の範囲で使用される記号「~」は、特段の説明の無い限り、下限値と上限値とを含み、且つ、下限値と上限値との間の値を含むものとして理解される。例えば「3~5」という場合は「3以上5以下」を意味し、「2.5~6g」という場合は「2.5g以上6g以下」を意味するものとして理解される。
【0025】
セラミド合成及びヒアルロン酸合成促進作用を有する細菌に関係する技術について詳しく説明する。より具体的には、セラミド合成を促進するとともにヒアルロン酸合成を促進する細菌と、この細菌から得られる上清と、この細菌を含む混合液と、これらを用いたセラミド及びヒアルロン酸合成促進剤と、これらを用いた皮膚外用剤等の製剤である。
【0026】
好適な実施形態において、セラミド合成及びヒアルロン酸合成を促進する細菌は、スタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)種に属する細菌であり、特にBG-PG180株がより好適に挙げられる。このBG-PG180株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に、受託番号:NITE P-04076、受託日:2024年2月2日として寄託されている。また、この菌株の16S rRNA塩基配列を配列番号1として配列表に示す。
【0027】
BG-PG180株については、その16S rRNA遺伝子の塩基配列をデータベース上の配列と相同性検索を行って種を同定したところ、相同値が98.52%以上であったスタフィロコッカス・エピデルミディス種に属する菌株であることがわかった。なお、BG-PG180株の菌学的特徴は、スタフィロコッカス・エピデルミディスの菌学的特徴と同じである。
【0028】
BG-PG180株の菌体は、以下に説明する手法によって培養することができ、培養物からの遠心分離等の手段によって分離、精製した菌体及び上清を利用することができる。
また、BG-PG180株の菌体、又は菌体から調製した上清は、賦形剤、崩壊剤、結合剤、安定化剤、湿潤剤等と適宜混合して、BG-PG180(細菌)を有効成分とする、又はBG-PG180(細菌)の培養上清を主成分とする製剤として調製することができる。この製剤は、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、溶液剤、乳剤、クリーム等の形態として、皮膚外用剤等とすることができる。
【0029】
そしてまた、BG-PG180(細菌)を有効成分として含有するもの、又はBG-PG180(細菌)の培養上清を主成分として含有するものは、セラミド合成酵素3遺伝子発現を上昇させヒアルロン酸合成酵素3遺伝子発現を上昇させる遺伝子発現上昇剤として、若しくはセラミド合成促進剤又はヒアルロン酸合成促進剤とすることができ、この遺伝子発現上昇剤、若しくはセラミド合成促進剤又はヒアルロン酸合成促進剤を有効性分として含有する製剤は、セラミド合成、そしてヒアルロン酸合成を高め、表皮の水分保持やバリア機能を維持し、改善する用途に用いることができる。
【実施例】
【0030】
実験1:<細菌の取得>
蒸留水90mLに、0.45gのKH2PO4、0.6gのNa2HPO4、0.1gの寒天、50μLのTween80(商品名、バイオメディカルサイエンス社製)、50μLのグリセロールを混合した後、蒸留水で100mLにメスアップし、121℃で15分、オートクレーブ滅菌を行って作製したAG液に、滅菌綿棒を用いてヒトの顔から採取した細菌を懸濁した採取液を作製した。この採取液は、PBS(-)を用いて1倍、10倍、100倍、1000倍に段階希釈し、TS寒天培地に塗布して、37℃で48時間培養した。培地表面に形成されたスタフィロコッカス・エピデルミディス候補のコロニーを複数選択し、dH2O 50μLに溶解後、これをテンプレートにリアルタイムPCR法でスタフィロコッカス・エピデルミディスの検出を行なった。スタフィロコッカス・エピデルミディスの検出に使用したプライマーの配列は、sense 5’-TCAGCAGTTGAAGGGACAGAT-3’とantisense 5’-CCAGAACAATGAATGGTTAAGG-3’とし、KOD SYBR qPCR Mix(TOYOBO社製)を用いてリアルタイムPCRを実施した。
【0031】
これによってスタフィロコッカス・エピデルミディスと断定されたコロニーをPBSに溶かして、薬剤耐性の有無を確認した。すなわち、コロニー懸濁液をミューラーヒントン寒天培地に塗布し、BDセンシ・ディスク セフォキシチン30(日本ベクトン・ディッキンソン(BD)社製)を中心に配置した後、35℃、24時間培養した。阻止円2.1cm以上のものを薬剤耐性なしと判定し、薬剤耐性がなしと判定されたスタフィロコッカス・エピデルミディスをTS寒天培地(BD社製)に塗布して、37℃、48h培養した。形成されたコロニー(直径1mm)をピックアップして、TS液体培地(BD社製)で37℃、24時間培養後、10%グリセロールで-80℃下で保管した。
【0032】
このようにしてストックした細菌からDNAを抽出し、シーケンス解析に供した。より具体的には、ストックしていた各菌株から形成されるコロニーをピペットチップで掻き取り、dH2O 50μLに懸濁し、100mMのNaOHを50μL添加して、混合後、95℃で15分間処理を行なった。その後、1MTris-HCl(pH7.0)を11μL添加し、遠心後、上清を回収してDNA液とした。得られたDNA液をテンプレートに、Bacterial 16S rDNA PCR Kit(タカラバイオ社製)を用いて、メーカーのプロトコールに従って、シーケンス解析に供するPCR増幅産物を得た。
【0033】
PCR増幅産物の一部をアガロースゲル電気泳動(100V、30分間)に供し、目的とする増幅産物が得られているのかを確認した後、QIAquick PCR Purificatiuon Kit(QIAGEN社製)によってメーカーのプロトコールに従って、PCR反応液からPCR増幅産物の精製を行なった。
【0034】
PCR増幅産物のシーケンス解析から得られた塩基配列を、配列編集ソフトのAqEを用いて編集を行い、各コロニーの16S rRNA遺伝子の塩基配列をデータベース上の配列と相同性検索を行って種を同定した。データベースとしてはNCBIを用いた。結果として、スタフィロコッカス・エピデルミディス種に属する細菌が認められた。得られた複数の菌株はグリセロールで、-80℃下で凍結保存した。
【0035】
実験2:<セラミド合成を促進するスタフィロコッカス・エピデルミディス株の探索>
2-1:スタフィロコッカス・エピデルミディス発酵液の作製
以下の手順に従ってスタフィロコッカス・エピデルミディス発酵液を作製した。
実験1で得られ凍結保存したスタフィロコッカス・エピデルミディスの100株のそれぞれについて、融解後、5%ヒツジ血液含有TS平板培地にて37℃下で単離培養した。形成された単一コロニーをTS平板培地に接種し、37℃下で48時間培養した。直径1mm程度のコロニー1個を釣菌し、豆乳様培地10mLに懸濁して24時間培養を行い、得られたスタフィロコッカス・エピデルミディス豆乳発酵物をオートクレーブで121℃、15分間滅菌処理した。そして、その発酵物を遠心(14,000g、15分間)後、上清を回収し、0.22μmフィルターに通して濾過滅菌を行なった。こうして前記100株のそれぞれのスタフィロコッカス・エピデルミディスについての発酵液を得た。これらの発酵液は4℃下で保存した。
【0036】
2-2:PSVK-1細胞の培養とスタフィロコッカス・エピデルミディス発酵液の添加処理
国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所(NIBIOHN)より購入したヒト表皮由来不死化細胞PSVK-1を用いて本実験を実施した。
PSVK-1細胞は、無血清培養液で培養した。この無血清培養液は、インシュリン、ヒドロコルチゾン、トランスフェリン、ホスホリルエタノールアミン、エタノールアミン、EGF(上皮成長因子)、ウシ脳下垂体抽出物(BPE: Bovine Pituitary Extract)をMCDB153培地に加え、得られた培養液中のそれぞれの成分濃度が、インシュリン5μg/mL、ヒドロコルチゾン0.5μg/mL、トランスフェリン10μg/mL、ホスホリルエタノールアミン0.1mM、エタノールアミン0.1mM、EGF10μg/L、ウシ脳下垂体抽出物50μg/mLとなるように調製したものである。
【0037】
培養したPSVK-1細胞は、24ウェルプレートに播種し、80%コンフルエンシーとなるまでさらに培養し、新しい培養液に交換した後、これに前記2-1で得た100株それぞれのスタフィロコッカス・エピデルミディス発酵液を、最終濃度が10%(v/v)となるように加えて24時間暴露した。
【0038】
2-3:RNA抽出と逆転写
前記2-2で得られたPSVK-1細胞培養液から培養液を廃棄した後、PSVK-1細胞からトータルRNAを抽出した。RNAの抽出は、RNA抽出用試薬(ISOGEN II;ニッポンジーン社製)を用いてメーカーのプロトコールに従った。抽出したRNAは、dH2Oで溶解した後、DNaseI(Sigma社製)でゲノムDNAを除去し、これをテンプレートにリアルタイムPCR用逆転写反応キット(ReverTra(商標) Ace qPCR RT Master Mix;TOYOBO社製)で逆転写してcDNAを合成した。
【0039】
2-4:遺伝子発現解析
定量的遺伝子発現解析は、試薬(THUNDERBURD(商標) SYBR qPCR Mix ;TOYOBO社製)を用いて、リアルタイムPCR検出システム(CFX ConnectTM Real-Time PCR Detection System、Bio-Rad社製)で実施した。
セラミド合成酵素3遺伝子(CERS3遺伝子)の検出に使用したプライマーの配列は、
sense 5’-CATGATCTTGCAGGTCCTTCACC-3’と
antisense 5’-CTCGTCATCACTCCTCACATCC-3’であり、
リファレンス遺伝子を、
beta-actin (sense 5’-CACCATTGGCAATGAGCGGTTC-3’と
antisense 5’-AGGTCTTTGCGGATGTCCACGT-3’)とした。こうしたΔΔCt法によって遺伝子発現量を評価した。
【0040】
2-5:結果
上記のとおり各100株のスタフィロコッカス・エピデルミディスの発酵液をPSVK-1細胞に暴露した際におけるセラミド合成酵素3遺伝子発現変動を定量的リアルタイムPCR法で調べたところ、セラミド合成酵素3遺伝子の発現を低下させるものから上昇させるものまで、株ごとに挙動が様々であった。未処理の対照と比較してセラミド合成酵素3遺伝子の発現を低下させるものは100株中の約半数も存在したが、未処理の対照と比較してセラミド合成酵素3遺伝子の発現を2.0倍以上に上昇させたものを有意と判定した。100株のうち有意と判定できたものは11株あった。また、これら11株の中でBG-PG180株とBG-S174株はセラミド合成酵素3遺伝子の発現が4.0倍以上であり特に優れていた。
【0041】
実験3:<ヒアルロン酸合成を促進するスタフィロコッカス・エピデルミディス株の探索>
3-1:遺伝子発現解析
上記実験2で得られたスタフィロコッカス・エピデルミディスの発酵液のうち、上記11株から得られた発酵液について、実験2と同様にして、PSVK-1細胞に暴露した際におけるヒアルロン酸合成酵素3遺伝子(HAS3遺伝子)発現変動を定量的リアルタイムPCR法で調べた。
ヒアルロン酸合成酵素3遺伝子(HAS3遺伝子)の検出に使用したプライマー配列は、
sense 5’-AGCACCTTCTCGTGCATCATGC-3’と
antisense 5’- TCCTCCAGGACTCGAAGCATCT-3’とした。
【0042】
3-2:結果
スタフィロコッカス・エピデルミディスの上記11株の何れの発酵液の場合も、ヒアルロン酸合成酵素3遺伝子の発現を上昇させることが観察されたが、実験数6のうちの中央値で比較した場合に、BG-PG180株は、ヒアルロン酸合成酵素3遺伝子発現を4.1倍に上昇させ特に優れていた。
【要約】
【課題】表皮及び真皮の健康に資する成分を有する製剤を得ること。
【解決手段】セラミド合成酵素3遺伝子発現を上昇させ、かつヒアルロン酸合成酵素3遺伝子発現を上昇させる受託番号:NITE P-04076として寄託されたスタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)種に属するBG-PG180株である細菌を提供する。この菌株を利用した製剤は、セラミド合成酵素3遺伝子発現を上昇させ、かつヒアルロン酸合成酵素3遺伝子発現を上昇させることができる。
【選択図】なし
【配列表】