(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】クエン酸マンガンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 51/41 20060101AFI20241004BHJP
C07C 51/43 20060101ALI20241004BHJP
C07C 55/22 20060101ALI20241004BHJP
C07F 13/00 20060101ALN20241004BHJP
【FI】
C07C51/41
C07C51/43
C07C55/22
C07F13/00 A
(21)【出願番号】P 2021075442
(22)【出願日】2021-04-27
【審査請求日】2022-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(73)【特許権者】
【識別番号】393012046
【氏名又は名称】恵和興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 賢
(72)【発明者】
【氏名】鄭 慶新
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 秀喜
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-031716(JP,A)
【文献】特開2021-042444(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102208611(CN,A)
【文献】渡邉 賢、未来社会創造事業 探索加速型「持続可能な社会の実現」領域 研究開発課題名:リチウムイオン電池完全循環システム 令和元年度 終了報告書、[online]、2020年、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST) 、[2024年 1月19日検索]、インターネット<URL:https://www.jst.go.jp/mirai/jp/uploads/final2019/JPMJMI18C5_end.pdf>
【文献】JST MIRAI 未来社会創造事業ウェブサイトに掲載された2019年度終了報告書の情報、[online]、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST) 、[2024年 1月19日検索]、インターネット<URL:https://www.jst.go.jp/mirai/jp/evaluation/final-report/2019.html>
【文献】JST MIRAI 未来社会創造事業ウェブサイトに掲載された2022年度終了報告書の情報、[online]、2023年、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST) 、[2024年 1月19日検索]、インターネット<URL:https://www.jst.go.jp/mirai/jp/evaluation/final-report/2022.html>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C,C07F
CAPLUS/REGISTRY
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムマンガン酸化
物から、クエン酸マンガンを製造する方法であって、
温度が90℃以上200℃以下であるクエン酸の水溶液を用いた前記
リチウムマンガン酸化物に対する水熱酸浸出を含む一段階の工程により、前記
リチウムマンガン酸化物からマンガンを前記水溶液中に浸出させ、さらに固体であるマンガンのクエン酸錯体の一水和物を析出させるクエン酸マンガンの製造方法。
【請求項2】
前記一段階の工程の反応が下記式(A)で示される
請求項1に記載のクエン酸マンガンの製造方法。
【化3】
【請求項3】
前記水熱酸浸出を含む一段階の工程の処理時間が5分以上180分以下である
請求項1又は2に記載のクエン酸マンガンの製造方法。
【請求項4】
前記水溶液のクエン酸の濃度が0.3mol/L以上2mol/L以下である
請求項1~3のいずれか1項に記載のクエン酸マンガンの製造方法。
【請求項5】
前記
リチウムマンガン酸化物の重量(S)と前記水溶液の重量(L)の比率である固体濃度S/Lが1wt%以上4wt%以下である
請求項1~4のいずれか1項に記載のクエン酸マンガンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムマンガン酸化物を含んだ材料からクエン酸を用いた水熱酸浸出処理によりクエン酸マンガンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クエン酸マンガンは、マンガンにクエン酸が1つ配位した錯体であり、クエン酸マンガン一水和物は結晶状態で存在する。
【0003】
クエン酸マンガンは、焼成することで電池電極材料等として用いられるマンガンを得る原料となる。この他、クエン酸マンガンは、ポリアミドや高分子組成物等の分野等、様々な分野での利用が知られている。
【0004】
非特許文献1には、まずMnCl2とNaOHとからMn(OH)2を生成し、次にMn(OH)2とクエン酸とを反応させることにより、多段階の工程を経てクエン酸マンガンを製造する方法が記載されている。
【0005】
非特許文献2には、まずMnCl2とクエン酸とからそれらを含有する溶液を生成し、次に上記で得られた溶液を数日冷蔵保存することにより、多段階の工程を経てクエン酸マンガンを製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Fujita T., Structural Investigation of the Divalent Iron and Manganese Complexes with Citric Acid by Infrared Spectroscopy, Chemical & Pharmaceutical Bulletin, 30(10) 3461-5 (1982)
【文献】Deng Y. F, Zhou Z. H, Wan H. L, Ng S. W., Δ- Aqua- S- citrato (2-) manganese (II), Acta Crystallographica Section E 59(6) m310-m312 (2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のクエン酸マンガンの製造方法は、多段階の工程を経て製造する方法であり、より簡便に実施することができるクエン酸マンガンの製造方法が求められている。
【0008】
そこで、本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、従来よりも簡便にクエン酸マンガンの製造を実施できるクエン酸マンガンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、リチウムマンガン酸化物を含んだ材料から、クエン酸マンガンを製造する方法であって、温度が90℃以上200℃以下であるクエン酸の水溶液を用いた前記材料に対する水熱酸浸出を含む一段階の工程により、前記材料からマンガンを前記水溶液中に浸出させ、さらに固体であるマンガンのクエン酸錯体の一水和物を析出させるクエン酸マンガンの製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、クエン酸マンガンの生成反応が一段階の工程で完了するため、従来よりも簡便にクエン酸マンガンの製造を実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、検証実験1で用いたリチウムマンガン酸化物及び検証実験1で得られた白色の析出物のXRDスペクトルである。
【
図2】
図2は、検証実験3に係るリチウム及びマンガンの浸出率の温度依存性を示す図である。
【
図3A】
図3Aは、検証実験4に係るクエン酸濃度0.2Mにおけるリチウム及びマンガンの浸出率の時間依存性を示す図である。
【
図3B】
図3Bは、検証実験4に係るクエン酸濃度0.3Mにおけるリチウム及びマンガンの浸出率の時間依存性を示す図である。
【
図3C】
図3Cは、検証実験4に係るクエン酸濃度0.4Mにおけるリチウム及びマンガンの浸出率の時間依存性を示す図である。
【
図3D】
図3Dは、検証実験4に係るクエン酸濃度1.0Mにおけるリチウム及びマンガンの浸出率の時間依存性を示す図である。
【
図4A】
図4Aは、検証実験5に係る処理時間15分におけるリチウム及びマンガンの浸出率のクエン酸濃度依存性を示す図である。
【
図4B】
図4Bは、検証実験5に係る処理時間60分におけるリチウム及びマンガンの浸出率のクエン酸濃度依存性を示す図である。
【
図5】
図5は、検証実験6に係るリチウム及びマンガンの浸出率の、材料の重量(S)と水溶液の重量(L)の比率(S/L)依存性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<本発明の概略>
本発明者らは、リチウムマンガン酸化物に対し、錯体形成性の酸であるクエン酸の水溶液を用いて水熱酸浸出処理を行った。ここで、クエン酸を用いた水熱酸浸出処理とは、クエン酸を浸出剤とし、さらなる還元剤を用いずに反応温度を所定の温度以上に保った液体水中で浸出を行う、湿式精錬プロセスの一つである。
【0013】
その結果、水熱酸処理を行う温度を所定温度に制御して行うことで、リチウムマンガン酸化物からマンガンを水溶液中に浸出させ、さらに固体であるマンガンのクエン酸錯体の一水和物を析出させることができ、クエン酸マンガンの生成反応が一段階の工程で完了することを見出した。本発明は、この知見に基づくものである。
【0014】
<実施形態>
本発明の実施形態のクエン酸マンガンの製造方法は、まず、クエン酸水溶液を用意し、クエン酸水溶液にリチウムマンガン酸化物を投入し、混合する。次いで、リチウムマンガン酸化物を投入したクエン酸水溶液を所定温度に加熱してマンガンイオンを浸出させる。
【0015】
上記のようにクエン酸水溶液にマンガンイオンを浸出させる際に、クエン酸水溶液の温度を所定範囲に設定することで、クエン酸水溶液を用いたリチウムマンガン酸化物に対する水熱酸浸出を含む一段階の工程により、リチウムマンガン酸化物からマンガンをクエン酸水溶液中に浸出させ、さらに固体であるマンガンのクエン酸錯体の一水和物を析出させる。
【0016】
水熱有機酸浸出処理により液相内(クエン酸水溶液内)にはリチウム及びマンガンが浸出される。マンガンは、一段階の工程により、リチウムマンガン酸化物からマンガンをクエン酸水溶液中に浸出させ、さらに固体であるマンガンのクエン酸錯体の一水和物を析出させる。リチウムは、そのまま溶液として慣用の方法で処理し、最終的には、析出条件を変えてそれぞれの不溶性塩、例えば炭酸塩として沈殿させることで回収できる。
【0017】
上記の一段階の工程の反応は、例えば下記式(A)で示される。
【0018】
【0019】
<クエン酸水溶液について>
クエン酸は、還元性を有し、且つ錯体形成性の有機酸である。クエン酸は、リチウムマンガン酸化物からマンガンを水溶液中に浸出させ、さらに固体であるマンガン錯体一水和物を析出させることができる。
【0020】
クエン酸は、3個の酸解離可能な水素を有する有機酸であり、第1酸解離定数Ka1は7.4×10―4であり、第2酸解離定数Ka2は1.7×10―5であり、第3酸解離定数Ka3は4.0×10―7である。2価のクエン酸イオンと2価のマンガンイオンとから中性の錯体が形成され、錯体の一水和物が固体となって析出する。
【0021】
クエン酸以外の有機酸については、マンガンを水熱酸浸出することが可能であり、さらにマンガンと錯体を形成して固体になって析出可能であれば用いることができる。クエン酸水溶液のクエン酸濃度は、0.3mol/L以上2mol/L以下が好ましい。クエン酸濃度は、さらに好ましくは0.3mol/L以上0.5mol/L以下である。クエン酸濃度が薄すぎると浸出が十分ではなく、濃すぎると析出収率が低下する。また、リチウムマンガン酸化物の重量(S)とクエン酸水溶液の重量(L)の比率(固体濃度)S/Lは、1wt%以上4wt%以下が好ましい。固体濃度S/Lが低すぎるとマンガンが錯体を形成し固体となり析出しても、再度マンガン錯体が浸出してしまい析出収率は低下する。高すぎると浸出率が低下し全体の析出率も減少する。溶媒としては、水、アルコール水溶液など、特に水又は10~90%エタノール水溶液が挙げられる。
【0022】
<水熱酸浸出の反応温度について>
リチウム及びマンガンの水熱酸浸出の温度条件について、より詳細に説明する。
【0023】
マンガンの水熱酸浸出処理は、90℃未満でも可能であるが、クエン酸水溶液を用いたリチウムマンガン酸化物に対する水熱酸浸出を含む上記式(A)で示される一段階の工程を生じさせるために、90℃以上200℃以下の温度で行われる。90℃未満、あるいは200℃超の温度では、マンガンのクエン酸錯体の一水和物の析出収率が低下する。
【0024】
リチウムの水熱酸浸出処理は、60℃以上150℃以下が好ましい。上記のマンガンが浸出される反応温度では、リチウムは水熱酸浸出可能である。
【0025】
<水熱酸浸出の処理時間について>
水熱酸浸出に適した処理時間は、反応温度により変化する。マンガンの浸出のための処理時間は、5分以上180分以下が好ましく、さらに好ましくは15分以上60分以下である。処理時間が短すぎると析出が不十分であり、長すぎると再度浸出する。リチウムの浸出のための処理時間は、3分以上30分以下が好ましく、さらに好ましくは5分以上15分以下である。
【0026】
好ましい態様では、マンガンは、90℃以上200℃以下の温度にて5分以上180分以下の処理時間で水熱酸浸出処理を行うのが良い。リチウムは、60℃以上150℃以下の温度にて5分以上15分以下の処理時間で水熱酸浸出処理を行うのが良い。
【0027】
<作用及び効果>
以上の構成において、本発明の実施形態のクエン酸マンガンの製造方法は、リチウムマンガン酸化物を含んだ材料に対する、温度が90℃以上200℃以下であるクエン酸の水溶液を用いた水熱酸浸出を含む一段階の工程により、上記材料からマンガンを水溶液中に浸出させ、さらに固体であるマンガンのクエン酸錯体の一水和物を析出させる構成である。
【0028】
上記の一段階の工程の反応は、例えば下記式(A)で示される。
【0029】
【0030】
よって、本発明の実施形態のクエン酸マンガンの製造方法は、クエン酸マンガンの生成反応が一段階の工程で完了するため、従来よりも簡便にクエン酸マンガンの製造を実施できる。
【0031】
<検証実験>
(検証実験1)
検証実験1において、0.4mol/Lの濃度のクエン酸水溶液にリチウムマンガン酸化物を固体濃度S/Lが1wt%となるように投入して混合し、120℃に60分加熱して水熱酸浸出を含む反応により白色の析出物を得た。XRD(X線回折分析)により、上記で原料として用いたリチウムマンガン酸化物及び上記で得られた白色の析出物のXRDスペクトルを測定した。
【0032】
図1は、検証実験1で用いたリチウムマンガン酸化物及び検証実験1で得られた白色の析出物のXRDスペクトルである。
図1の下段に、原料のリチウムマンガン酸化物のXRDスペクトルと、リチウムマンガン酸化物(LiMn
2O
4)について既に知られているXRDスペクトルのピーク位置を示すデータとを並べて示す。原料として用いたリチウムマンガン酸化物は、XRDスペクトルから確かにリチウムマンガン酸化物であることが確認できた。
【0033】
図1の上段に、検証実験1で得られた白色の析出物のXRDスペクトルと、クエン酸マンガン一水和物(C
6H
8MnO
8)について既に知られているXRDスペクトルのピーク位置を示すデータとを並べて示す。検証実験1で得られた白色の析出物は、XRDスペクトルからクエン酸マンガン一水和物であることが確認できた。
【0034】
(検証実験2)
検証実験2では、表1の実施例1~16に示すように、反応温度(T[℃])、処理時間(Time[min])、固体濃度(S/L[wt%])クエン酸濃度(H3Cit concentration[mol/L])について異なる種々の条件で、クエン酸水溶液にリチウムマンガン酸化物を投入して水熱酸浸出を含む反応によりクエン酸マンガン一水和物を得た。得られたクエン酸マンガン一水和物の析出収率(100%からMnの浸出率を差し引いた値)を算出した。
【0035】
【0036】
表1に示すように、水溶液の反応温度が90℃以上200℃以下であるときに、クエン酸マンガン一水和物が得られた。このときの水熱酸浸出を含む一段階の工程の処理時間は、5分以上180分以下であった。また、水溶液のクエン酸の濃度が0.3mol/L以上2mol/L以下であった。固体濃度S/Lは1wt%以上4wt%以下であった。上記の条件において、一段階の工程で水熱酸浸出を含む反応によりクエン酸マンガン一水和物を得た。得られたクエン酸マンガン一水和物の析出収率は25%以上79%以下であった。
【0037】
(検証実験3)
検証実験3では、0.4mol/Lの濃度のクエン酸水溶液にリチウムマンガン酸化物を固体濃度S/Lが1wt%となるように投入して混合し、所定の反応温度で60分加熱し、水熱酸浸出を含む反応によりクエン酸マンガン一水和物を得た。反応温度は90℃、120℃、150℃、180℃とした。
【0038】
図2は、検証実験3に係るリチウム(Li)及びマンガン(Mn)の浸出率の温度依存性を示す図である。マンガンの浸出率は、反応温度を90℃から上げると浸出率はやや低下するが、150℃を超えると増加した。
図2に示されるように、浸出率が低い90℃~150℃の範囲が、クエン酸マンガンの析出収率が高くなる好ましい温度範囲であった。
【0039】
(検証実験4)
検証実験4では、所定の濃度のクエン酸水溶液にリチウムマンガン酸化物を固体濃度S/Lが1wt%となるように投入して混合し、120℃あるいは180℃の反応温度で所定時間加熱し、水熱酸浸出を含む反応によりクエン酸マンガン一水和物を得た。クエン酸濃度は0.2M、0.3M、0.4M、1.0M([M]は[mol/L]を示す)とした。処理時間は0分~90分の範囲で変化させた。
【0040】
図3A~3Dは、検証実験4に係るそれぞれクエン酸濃度0.2M、0.3M、0.4M、1.0Mにおけるリチウム(Li)及びマンガン(Mn)の浸出率の時間依存性を示す図である。
図3A、
図3B、及び
図3Dは反応温度120℃としたときの結果を示し、
図3Cは反応温度を120℃としたときの結果(図中120の符号を付けて示す)と、反応温度180℃としたときの結果(図中180の符号を付けて示す)を示す。
【0041】
図3Aに示すように、クエン酸濃度0.2Mでは、処理時間によらずに浸出率は高いままであり、クエン酸マンガンの析出収率は高まらなかった。
【0042】
図3Bに示すように、クエン酸濃度0.3Mでは、15分以上で浸出率が低くなり、クエン酸マンガンの析出収率が高くなった。
【0043】
図3Cに示すように、クエン酸濃度0.4Mでは、反応温度120℃において50分以上で浸出率は低くなり、クエン酸マンガンの析出収率が高くなった。反応温度180℃においては処理時間によらずに浸出率は高いままであり、クエン酸マンガンの析出収率は高まらなかった。
【0044】
図3Dに示すように、クエン酸濃度1.0Mでは、処理時間によらずに浸出率は高いままであり、クエン酸マンガンの析出収率は高まらなかった。
【0045】
(検証実験5)
検証実験5では、所定の濃度のクエン酸水溶液にリチウムマンガン酸化物を固体濃度S/Lが1wt%となるように投入して混合し、120℃の反応温度で所定時間加熱し、水熱酸浸出を含む反応によりクエン酸マンガン一水和物を得た。クエン酸濃度は0、0.1M、0.2M、0.3M、0.4M、0.5M、0.6M、0.7M、1.0Mとした。
【0046】
図4A~4Bは、検証実験5に係るそれぞれ処理時間15分、60分におけるリチウム及びマンガンの浸出率のクエン酸濃度依存性を示す図である。
図4Aは処理時間15分としたときの結果を示し、
図4Bは処理時間60分としたときの結果を示す。
【0047】
図4Aに示すように、処理時間15分では、クエン酸濃度を高めるにつれて浸出率が高くなり、クエン酸マンガンの析出収率が高くなる傾向は見られなかった。
図4Bに示すように、処理時間60分では、クエン酸濃度が0.3M~0.5Mの範囲で浸出率が低くなり、クエン酸マンガンの析出収率が高くなる傾向が見られた。
【0048】
(検証実験6)
検証実験6では、2.0Mの濃度のクエン酸水溶液にリチウムマンガン酸化物を所定の固体濃度S/Lとなるように投入して混合し、120℃の反応温度で15分加熱し、水熱酸浸出を含む反応によりクエン酸マンガン一水和物を得た。固体濃度S/Lは1wt%、2wt%、4wt%とした。これらの固体濃度は、Mn/クエン酸のモル比に換算すると、それぞれ0.01、0.017、0.035に相当する。
【0049】
図5は、検証実験6に係るリチウム及びマンガンの浸出率の、材料の重量(S)と水溶液の重量(L)の比率(S/L)依存性を示す図である。クエン酸濃度が1.0M以上の高濃度の場合でも、固体濃度S/L(Mn/クエン酸のモル比)を高めることで、溶出率が低くなり、クエン酸マンガンの析出収率が高くなる傾向が見られた。
【0050】
上記の実施例から、リチウムマンガン酸化物を含んだ材料に対する、温度が90℃以上200℃以下であるクエン酸の水溶液を用いた水熱酸浸出を含む一段階の工程により、マンガンを水溶液中に浸出させ、さらに固体であるマンガンのクエン酸錯体の一水和物を析出させることで、クエン酸マンガンの生成反応が一段階の工程で完了し、従来よりも簡便にクエン酸マンガンを製造できることが確認された。