(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】移動体無線通信システム
(51)【国際特許分類】
H04W 88/02 20090101AFI20241004BHJP
H04W 48/16 20090101ALI20241004BHJP
H04W 4/42 20180101ALI20241004BHJP
H04W 4/44 20180101ALI20241004BHJP
H04W 84/00 20090101ALI20241004BHJP
B61L 3/12 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
H04W88/02 140
H04W48/16 134
H04W4/42
H04W4/44
H04W84/00 110
B61L3/12 Z
(21)【出願番号】P 2020173340
(22)【出願日】2020-10-14
【審査請求日】2023-09-19
(73)【特許権者】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【氏名又は名称】安彦 元
(72)【発明者】
【氏名】児島 史秀
(72)【発明者】
【氏名】松村 武
(72)【発明者】
【氏名】伊深 和雄
(72)【発明者】
【氏名】川崎 耀
(72)【発明者】
【氏名】柴原 大樹
(72)【発明者】
【氏名】阿部 文俊
【審査官】望月 章俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-235849(JP,A)
【文献】特開2019-054645(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04W4/00-H04W99/00
H04B7/24-H04B7/26
B61L3/12
3GPP TSG RAN WG1-4
SA WG1-4
CT WG1、4
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行中の移動体が外部の地上無線局との間で無線通信する移動体無線通信システムにおいて、
上記移動体は、
上記地上無線局との間で伝送情報を無線通信する、走行方向に向けて互いに異なる2以上の位置に配設されたアンテナと、
上記アンテナに対して上記伝送情報をそれぞれ送受信する端末装置と、
現在の走行位置を取得する走行位置取得手段と、
上記走行位置取得手段により取得された現在の走行位置と、上記地上無線局の位置とに基づいて、上記端末装置に対して上記伝送情報を送受信するアンテナを選択する選択手段とを備え、
上記地上無線局は、走行方向に向けて2以上に亘り配設され、
上記選択手段は、上記走行位置取得手段により取得された現在の走行位置に応じた上記各アンテナの位置と、上記各地上無線局の位置とに基づいて、上記端末装置に対して上記伝送情報を送受信するアンテナを、上記各地上無線局毎に選択し、上記走行方向の一方側に位置する第1地上無線局から受信した伝送情報に基づき、上記走行方向の他方側に位置する第2地上無線局からの伝送情報を上記端末装置に送信するか否かを決定すること
を特徴とする移動体無線通信システム。
【請求項2】
上記選択手段は、上記走行位置取得手段により取得された現在の走行位置に応じた上記各アンテナの位置を複数回に亘り取得し、取得した各アンテナの位置(x
1、x
2、・・・、x
n)から下記式(1)又は(2)に基づいて算出位置Sを求め、求めた算出位置Sと、上記地上無線局の位置とに基づいて、上記端末装置に対して上記伝送情報を送受信するアンテナを選択すること
S=a
1×x
1+a
2×x
2+・・・+a
nx
n(1)
S=a
1×x
1×a
2×x
2×・・・×a
nx
n(2)
(a
1~a
nは、予め決定された係数、nはアンテナの位置の取得回数)
を特徴とする請求項1記載の移動体無線通信システム。
【請求項3】
上記端末装置は、一の上記アンテナを介して受信した伝送情報と、他の上記アンテナを介して受信した伝送情報とを合体させて一つの伝送情報とすること
を特徴とする請求項1又は2記載の移動体無線通信システム。
【請求項4】
上記移動体は、線路上を走行する電車であり、
上記地上無線局は、上記線路の路側に設けられ、上記移動体との間でミリ波帯域の無線通信を行うこと
を特徴とする請求項1~3のうち何れか1項記載の移動体無線通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行中の移動体が外部の地上無線局との間で無線通信する移動体無線通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電車や車両等の移動体が外部の地上無線局との間で無線通信を行う移動体無線通信システムが提案されている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0003】
この移動体無線通信システムは、例えば移動体が電車である場合において、電車が走行する線路に沿って予め地上無線局を点在させておく。そして、線路上を走行する電車に対して、地上無線局から伝送情報を無線通信により配信し、或いは走行する電車から発信される伝送情報を無線通信により地上無線局により送信する。これにより、電車を運転する運転士や電車内を掌握する車掌に地上無線局からの伝送情報を介して必要な情報を送ることができ、また電車内において発生した様々な事象や出来事に関する情報をこの伝送情報を介して地上無線局へ送信することが可能となる。
【0004】
特に地上無線局と電車間の無線通信はミリ波帯域を利用する場合が多い。ミリ波帯域は、直進性が強いため、サービスエリアが直線状に長い鉄道に適しており、利用できる周波数幅が広く、しかも大量の情報を短時間で伝送できる特徴がある。このため、ミリ波帯域の無線通信を活用することにより、電車の制御や車両の状態監視を行う上で多くの情報を伝送する必要があり、しかも乗客への大量の通信リソース確保と充実した情報提供を実現することが可能となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】立石幸也、服部鉄範、川崎邦弘、“鉄道におけるミリ波通信”、信学技報、MWP2013-48,pp.7-12,Nov.2013
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した移動体無線通信システムを実現する場合において、仮に電車のアンテナが1つしかない場合、特にミリ波帯域のような近距離の無線通信方式では、伝送情報を全て受信するまでに電車が地上無線局から離間してしまう場合がある。このため、伝送情報の送受信を無線通信により安定的に行うためには、走行方向に向けて互いに異なる複数箇所にアンテナを設け、走行方向の前方側のアンテナにおいて受信しきれない伝送情報を、走行方向の後方側のアンテナにおいて受信する必要があるが、従来においてこれを実現することができる技術は未だ提案されていないのが現状であった。
【0007】
そこで本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、走行中の移動体が外部の地上無線局との間で無線通信する移動体無線通信システムにおいて、ミリ波帯域のような近距離の無線通信方式の下で伝送情報を全て受信するまでに電車が地上無線局から離間してしまう場合を考慮し、走行方向に向けて互いに異なる複数箇所にアンテナを設け、走行方向の前方側のアンテナにおいて受信しきれない伝送情報を、走行方向の後方側のアンテナにおいて受信することで漏れなく安定的な移動体無線通信が実現可能な移動体無線通信システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上述した課題を解決するために、走行中の移動体が外部の地上無線局との間で無線通信する上で、移動体上に走行方向に向けて2以上の配設されたアンテナを配設し、現在の走行位置と、地上無線局の位置とに基づいて、端末装置に対して伝送情報を送受信するアンテナを選択する移動体無線通信システムを発明した。
【0009】
第1発明に係る移動体無線通信システムは、走行中の移動体が外部の地上無線局との間で無線通信する移動体無線通信システムにおいて、上記移動体は、上記地上無線局との間で伝送情報を無線通信する、走行方向に向けて互いに異なる2以上の位置に配設されたアンテナと、上記アンテナに対して上記伝送情報をそれぞれ送受信する端末装置と、現在の走行位置を取得する走行位置取得手段と、上記走行位置取得手段により取得された現在の走行位置と、上記地上無線局の位置とに基づいて、上記端末装置に対して上記伝送情報を送受信するアンテナを選択する選択手段とを備え、上記地上無線局は、走行方向に向けて2以上に亘り配設され、上記選択手段は、上記走行位置取得手段により取得された現在の走行位置に応じた上記各アンテナの位置と、上記各地上無線局の位置とに基づいて、上記端末装置に対して上記伝送情報を送受信するアンテナを、上記各地上無線局毎に選択し、上記走行方向の一方側に位置する第1地上無線局から受信した伝送情報に基づき、上記走行方向の他方側に位置する第2地上無線局からの伝送情報を上記端末装置に送信するか否かを決定することを特徴とする。
【0010】
第2発明に係る移動体無線通信システムは、第1発明において、上記選択手段は、上記走行位置取得手段により取得された現在の走行位置に応じた上記各アンテナの位置を複数回に亘り取得し、取得した各アンテナの位置(x1、x2、・・・、xn)から下記式(1)又は(2)に基づいて算出位置Sを求め、求めた算出位置Sと、上記地上無線局の位置とに基づいて、上記端末装置に対して上記伝送情報を送受信するアンテナを選択すること
S=a1×x1+a2×x2+・・・+anxn (1)
S=a1×x1×a2×x2×・・・×anxn (2)
(a1~anは、予め決定された係数、nはアンテナの位置の取得回数)
を特徴とする。
【0011】
第3発明に係る移動体無線通信システムは、第1発明又は第2発明において、上記端末装置は、一の上記アンテナを介して受信した伝送情報と、他の上記アンテナを介して受信した伝送情報とを合体させて一つの伝送情報とすることを特徴とする。
【0012】
第4発明に係る移動体無線通信システムは、第1発明~第3発明において、上記移動体は、線路上を走行する電車であり、上記地上無線局は、上記線路の路側に設けられ、上記移動体との間でミリ波帯域の無線通信を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
上述した構成からなる本発明によれば、地上無線局から送られるデータが車内広告情報や、各種映像コンテンツ等のように大容量のものである場合、ミリ波帯域による無線通信であっても走行方向の前方側に位置するアンテナのみで全ての伝送情報を受信し切れない場合がある。特に移動体が新幹線等のように移動速度が特に速い場合にはその様なケースが起こり得る。かかる場合には、走行方向の後方側に位置するアンテナにより地上無線局から残りの伝送情報を受信することができる。地上無線局の位置に対する各アンテナの位置関係に基づき、選択部によりアンテナを選択することで、そのような処理動作を実現できる。これにより、走行方向の前方側のアンテナにおいて受信しきれない伝送情報を、走行方向の後方側のアンテナにおいて受信することで漏れなく安定的な移動体無線通信が実現可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明を適用した移動体無線通信システムの全体概略図である。
【
図2】
図2は、移動体内部のブロック構成を示す図である。
【
図3】
図3は、本発明を適用した移動体無線通信システムの動作を説明するための図である。
【
図4】
図4は、本発明を適用した移動体無線通信システムの動作を説明するための他の図である。
【
図5】
図5は、地上無線局データを送信する場合におけるシミュレーションの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を適用した移動体無線通信システムについて、図面を参照しながら詳細に説明をする。
【0018】
図1は、本発明を適用した移動体無線通信システム1の全体概略図である。移動体無線通信システム1は、走行方向Aに向かって走行する移動体2と、移動体の走行方向に沿って点在させてなる複数の地上無線局3と、各地上無線局3との間で有線又は無線により通信可能な中央制御局4とを備えている。
【0019】
移動体2は、以下の説明において線路5上を走行する電車を例に上げて説明をするが、これに限定されるものではなく、モノレール、乗用車やバス、トラック等の車両、二輪車、航空機等、あらゆる移動体が含まれる。移動体2は、1又は2以上の端末装置6が内部に設定されている。
【0020】
地上無線局3は、移動体2が電車であると仮定した場合、その電車が走行する線路5の路肩等に配置されている固定基地局である。地上無線局3は、走行する移動体2に対して伝送情報を無線通信により送信する。また地上無線局3は、走行する移動体2から伝送情報を無線通信により受信する。地上無線局3は、移動体2との無線通信につき、ミリ波帯域を利用してもよい。この無線通信についてミリ波帯域を利用することにより、大量の情報を短時間で伝送することができ、電車の制御や車両の状態監視を行う上で多くの情報を伝送する必要ができ、移動体2に設置された端末装置6による大量の通信リソース確保と充実した情報提供を実現することが可能となる。この地上無線局3は、マイクロセルと呼ばれる小規模のサービスエリアを構成してもよく、それぞれから移動体2に対してサービスエリア特有のコンテンツを伝送情報として送信するようにしてもよい。
【0021】
中央制御局4は、地上無線局3から送信されてくる情報を受信してこれを蓄積するサーバである。地上無線局3では、多数の移動体2からの情報が送られ、当該情報が中央制御局4へ送られる。このため、中央制御局4は、各移動体2において取得された情報を一極に集中させることができる。中央制御局4は、このような情報を一極集中させることで、移動体2により取得された、各地域、各時間帯におけるより詳細な状況を示す情報を一つのデータベースに纏め上げることができ、様々な用途へ活用することが可能となる。
【0022】
また中央制御局4は、移動体2に対して配信すべきコンテンツや情報を地上無線局3へ送信する。これにより、地上無線局3は、中央制御局4から送信されてきた情報等を伝送情報化し、無線通信を介して移動体2へ配信することができる。特に各地における災害情報やリアルタイム性の高い情報等は、中央制御局4において一括して取得又は生成し、必要に応じてその情報等を地上無線局3の各拠点ごとにアレンジした方が配信の利便性を高くすることができる。
【0023】
次に、移動体2の詳細な構成について説明をする。
図2は、移動体2内部のブロック構成を示している。
【0024】
移動体2は、複数のアンテナ20a、20bと、このアンテナ20に対して情報の送受信が可能な端末装置6と、端末装置6に対して伝送情報を送受信するアンテナ20a、20bを選択する選択部24と、選択部24に接続された走行位置取得部23と、移動体2自体の運転を制御するための運転制御部21とを備えている。
【0025】
端末装置6は、移動体2の内部において走行方向Aに向けた互いに異なる位置において予め配設された電子機器であり、例えば、スマートフォン、タブレット型端末、PC、ディスプレイ端末等、乗客や乗員に情報を表示し、或いは命令を入力するためのユーザインタフェースが実装された機器で構成されているが、これに限定されるものではない。この端末装置6は、ユーザインタフェースが一切設けられていない各種電子機器やデバイス、センサ等で構成されていてもよい。また端末装置6は、移動体2の内部に予め配設されているものに限定されることなく、乗客や乗員が携帯するモバイル型の端末で構成されるものであってもよい。このモバイル型の端末の例としては、スマートフォン、タブレット型端末、ノートPC、ウェアラブル端末等が挙げられる。
【0026】
運転制御部21は、移動体2の運転を制御するあらゆる構成を含み、ハンドル、アクセル、ブレーキ、ギア等で構成され、運転士による運転操作が移動体2の移動に反映される。この運転制御部21は、自動操縦、自動運転の機能が実装される場合もあることは勿論である。
【0027】
走行位置取得部23は、この運転制御部21による運転により移動した移動体2の現時点における走行位置を取得するものである。この取得すべき走行位置は、走行方向Aに長く連なる移動体2のいかなる位置にするかは、都度システム側において設定してもよく、或いは移動体2の先頭や最後尾、先頭から2両目の車両の先頭等、少なくとも1箇所は設定しておく必要がある。走行位置取得部23は、移動体2の走行位置を例えばGPS(Global Positioning System)を利用することで取得するようにしてもよいし、ビーコンを通じて取得してもよいし、キャリア基地局としての地上無線局3からの電波による位置測位により取得してもよい。走行位置取得部23は、現在の走行位置を連続して取得し続けるようにしてもよい。その走行位置を取得する時間間隔は、秒単位、ミリ秒単位、マイクロ秒単位、ナノ秒、ピコ秒単位等、いかなる時間間隔であってもよい。走行位置取得部23は、このようにして取得した移動体2における現時点における走行位置を取得する都度、選択部24へ送信する。
【0028】
アンテナ20は、走行方向に向けて互いに異なる2以上の位置に配設されている。
図2の例では、走行方向の前方側に配設されたアンテナ20aと、走行方向の後方側に配設されたアンテナ20bとを備えている例を示している。地上無線局3からミリ波帯域の伝送情報を含む無線信号を受信し、これを電気信号に変換する。アンテナ20は、この電気信号に変換した伝送情報を各端末装置6へ配信する。またアンテナ20は、端末装置6から送信されてくる電気信号からなる伝送情報を無線信号に変換し、これを地上無線局3へ送信する。
【0029】
ちなみに、各アンテナ20の走行方向Aにおける位置に関する位置情報は既知となっており、これらが全て選択部24に記憶されていることが前提となる。
【0030】
選択部24は、アンテナ20a、20bのうち、地上無線局3と端末装置6との間で送受信すべきアンテナ20を選択する。伝送情報を送信するアンテナ20を選択する方法としては、端末装置6とアンテナ20a、20bとをそれぞれ接続する接続回路をオン又はオフを切り替えるようにしてもよいし、送信すべき伝送情報を一度選択部24が受信し、選択部24が自ら選択した端末装置6に改めて配信するか、或いは端末装置6に配信しないようにするか制御してもよい。
【0031】
選択部24は、端末装置6において生成された伝送情報をアンテナ20を介して地上無線局3へ送信する際、その地上無線局3へ無線通信するアンテナ20を選択することも行う。この伝送情報の無線通信を担わせるアンテナ20を選択する方法としては、端末装置6とアンテナ20とをそれぞれ接続する接続回路をオン又はオフを切り替えるようにしてもよいし、端末装置6から送信される伝送情報を一度選択部24が受信し、選択部24が自ら選択したアンテナ20a、20bのみにこれを送信するようにしてもよい。選択部24は、端末装置6から伝送情報が近距離無線通信により送信される場合には、これを制御することで、伝送情報を送信するアンテナ20a、20bを選択するようにしてもよい。
【0032】
更に選択部24は、各地上無線局3の走行方向Aにおける位置が記憶されている。選択部24は、走行位置取得部23により取得された移動体2の現在の走行位置が送られてくる。選択部24は、アンテナ20a、20bの走行方向Aにおける位置に関する位置情報は既知となっており、これらを全て記憶している。このような走行位置取得部23により取得された移動体2の現在の走行位置と、アンテナ20a、20bの走行方向Aにおける位置と、地上無線局3の位置とに基づいて、端末装置6との間で伝送情報を送受信するアンテナ20を選択する。以下、その選択部24による詳細な動作について説明をする。
【0033】
図3(a)~
図3(b)は、本発明を適用した移動体無線通信システム1の動作を説明する上で、移動体2における端末装置6、各アンテナ20a、20b、地上無線局3との位置関係のみを抽出して記載したものである。
【0034】
移動体2は、走行方向Aに向けて走行する過程で、ある地上無線局3へ接近してきたものとする。この地上無線局3からアンテナ20a、20bを介して端末装置6に伝送情報を送信する場合、選択部24は、走行位置取得部23により取得された移動体2の現在の走行位置を把握する。移動体2の実際の地図上の走行位置を取得することができれば、アンテナ20a、20bにおける移動体2内における位置情報を既に取得しており、既知であることから、アンテナ20a、20bにおける走行方向Aにおける実際の地図上の位置を取得することができる。
【0035】
また選択部24は、各地上無線局3の走行方向Aにおける実際の地図上の位置が記憶されていることが前提となっている。このため、選択部24は、アンテナ20a、20bにおける走行方向Aにおける実際の地図上の位置と、地上無線局3の走行方向Aにおける実際の地図上の位置との位置関係を把握することができる。そして、このアンテナ20a、20bと、地上無線局3の走行方向Aの位置関係を、走行位置取得部23により移動体2の位置を検出する都度、把握することができる。走行位置取得部23による移動体2の現在の位置検出を時系列的に連続して取得し続けることにより、アンテナ20a、20bと、地上無線局3の走行方向Aの位置関係を時系列的に連続して把握することが可能となる。
【0036】
選択部24は、この時系列的に連続して把握した位置関係が例えば
図3(a)に示すように、地上無線局3に対してアンテナ20aが最も近い場合、アンテナ20aのみ選択し、他のアンテナ20bは選択しないようにする。選択部24は、この時系列的に連続して把握した位置関係が例えば
図3(b)に示すように、地上無線局3に対してアンテナ20bが最も近い場合、アンテナ20bのみ選択し、他のアンテナ20aは配信先として選択しないようにする。
【0037】
つまり、移動体2が走行方向Aへ移動していく過程で、地上無線局3に近接するアンテナ20もアンテナ20a~アンテナ20bへと変化する。そして、地上無線局3に近接するアンテナ20がアンテナ20a~アンテナ20bへ変化する過程で、当該地上無線局3から送信する伝送情報の受信先となるアンテナ20の選択を入れ替える。つまり、地上無線局3により近接するアンテナ20を介して伝送情報を受信し、逆に近接しないアンテナ20を介して伝送情報を受信しない制御を行うことで、本発明は以下に説明する優れた効果を奏する。
【0038】
例えば地上無線局3から送られるデータが車内広告情報や、各種映像コンテンツ等のように大容量のものである場合、ミリ波帯域による無線通信であっても走行方向Aの前方側に位置するアンテナ20aのみで全ての伝送情報を受信し切れない場合がある。特に移動体2が新幹線等のように移動速度が特に速い場合にはその様なケースが起こり得る。かかる場合には、走行方向Aの後方側に位置するアンテナ20bにより地上無線局3から残りの伝送情報を受信する。地上無線局3の位置に対する各アンテナ20a、20bの位置関係に基づき、選択部24によりアンテナ20を選択することで、そのような処理動作を実現できる。
【0039】
即ち、本発明によれば、走行方向Aの前方側に位置するアンテナ20aにより受信した伝送情報と、走行方向Aの後方側に位置するアンテナ20bにより受信した伝送情報とを端末装置6側において互いに合体させて一つの伝送情報とするようにしてもよい。
【0040】
実際にアンテナ20a、20bにおいて受診した伝送情報はそれぞれ端末装置6へ送られるが、端末装置6側において、アンテナ20a、20bからそれぞれ送られてきた伝送情報を互いに結合する処理を行うようにしてもよいし、互いに別々のデータで管理、活用するようにしてもよいことは勿論である。
【0041】
上述した説明において、アンテナ20がアンテナ20a、20bの2つからなる場合を例にとり説明をしたが、これに限定されるものではなく、アンテナ20が3つ以上の場合も同様であり、地上無線局3に近接するアンテナ20が変化する過程で、当該地上無線局3から送信する伝送情報の受信先となるアンテナ20の選択を入れ替える。
【0042】
なお、本発明によれば、移動体2の現在の走行位置を介して把握可能な各アンテナ20の位置と、地上無線局3の位置とに基づくものであれば、いかなるアンテナ20を選択するようにしてもよく、上述した実施の形態に限定されるものではない。
【0043】
これに加えて、本発明によれば、移動体2の走行位置の検出を連続して取得し続け、この連続して取得した複数の走行位置に基づいて、アンテナ20を選択し、切り替えるようにしてもよい。
【0044】
かかる場合において、仮にある期間に亘り、複数の走行位置を取得した場合、各走行位置に応じた各アンテナ20a、20bにおける移動体2内における位置情報も同様に取得することができる。仮に所定期間内に2つの走行位置を取得した場合には、各走行位置に応じた各アンテナ20a、20bにおける位置情報P1、P2を取得することができる。この取得した各アンテナ20a、20bの位置情報P1、P2を演算式に基づいて演算する。これを一のアンテナ20aのみならず、他のアンテナ20bについても同様に実行する。そして、各アンテナ20の位置情報の演算結果と、地上無線局3との位置関係に基づいて、その地上無線局6との間で伝送情報を送受信するアンテナ20を選択するようにしてもよい。この演算式は従来のいかなる演算式を利用してもよいが、より単純化し、各アンテナ20の位置情報P1、P2を平均化した位置を演算結果として出力してもよい。また演算式は、位置情報を平均化する以外に、例えば最初に取得した位置情報、又は後に取得した位置情報のみを採用する式で構成されていてもよいし、位置情報P1、P2の何れかに所望の重み付けを設定した演算式で構成してもよい。また走行位置を所定期間内に3以上取得した場合には、同様に各アンテナ20の位置情報も3以上取得できることになる。かかる場合には、この3以上の位置情報を演算式に導入し、演算結果に基づいて各アンテナ20の位置を把握するようにしてもよい。
【0045】
取得された現在の走行位置に応じた各アンテナ20の位置を複数回に亘り取得し、取得した各アンテナ20の位置(x1、x2、・・・、xn)から式(1)又は(2)に基づいて算出位置Sを求め、求めた算出位置Sと、地上無線局3の位置とに基づいて、端末装置6に対して伝送情報を送受信するアンテナ20を選択するようにしてもよい。
S=a1×x1+a2×x2+・・・+anxn (1)
(a1~anは、予め決定された係数、nはアンテナの位置の取得回数)
【0046】
そして、求めた算出位置Sと、地上無線局3の位置とに基づいて、端末装置6に対して伝送情報を送受信するアンテナ20を選択する。
【0047】
例えば、単位時間について各アンテナ20について単位時間当たり、2回に亘り位置を取得する場合には、上記(1)式は、S=a1×x1+a2×x2で表される。仮に各アンテナ20の位置x1、x2の平均を求めるのであれば、a1、a2ともに1/2、換言すれば1/nとなる。また、各アンテナ20の位置x1、x2の何れか一方を採用するのであれば、a1又はa2の何れか一方が0となる。更に、アンテナ20の位置x1、x2に所望の重み付けをするのであれば、a1とa2にそれぞれ重み付けを予め設定することができる。
【0048】
ここでa1~anは、予めシステム側、或いはユーザ側において決定しておくことにより、各車両について、統一した運用の下でアンテナ20の算出位置Sを求めることができる。
【0049】
なお、本発明は、算出位置Sの算出は、上述した実施の形態に限定されるものでは無く、下記(2)式に基づくものであってもよい。
【0050】
S=a1×x1×a2×x2×・・・×anxn (2)
かかる(2)を利用しても同様に、算出位置Sを求めることが可能となる。
【0051】
図4(a)、(b)は、複数の地上無線局3から伝送情報を受信する例を示している。この
図4の例では、走行方向Aの前方側に位置する第1地上無線局3aと、走行方向Aの後方側に位置する第2地上無線局3bとから互いに異なる伝送情報を送信する例を示している。選択部24は、この時系列的に連続して把握した位置関係が例えば
図4(a)に示すように、地上無線局3aからアンテナ20aが最も近い場合には、アンテナ20aのみ選択し、他のアンテナ20bは選択しないようにする。これにより、地上無線局3aからの伝送情報は、このアンテナ20aを介して端末装置6へと送られることになる。選択部24は、この時系列的に連続して把握した位置関係が例えば
図4(b)に示すように、地上無線局3bからアンテナ20bが最も近い場合には、アンテナ20bのみ選択し、他のアンテナ20aは選択しないようにする。これにより、地上無線局3bからの伝送情報は、このアンテナ20bを介して端末装置6へと送られることになる。
【0052】
上述した例では、移動体2が走行方向Aへ移動し、地上無線局3に近接するアンテナ20もアンテナ20a~アンテナ20bへと変化する過程で、前方側の地上無線局3aから伝送情報をアンテナ20aを介して、また後方側の地上無線局3bから伝送情報をアンテナ20bを介して受信するものであるが、これに限定されるものではなく、各地上無線局3a、3bからの伝送情報を受信するアンテナ20a、20bの割り当てはいかなる組み合わせで構成されていてもよい。
【0053】
上述した説明において、アンテナ20がアンテナ20a、20bの2つからなり、地上無線局3a、3bの2つからなる場合を例にとり説明をしたが、これに限定されるものではない。アンテナ20又は地上無線局3が3つ以上の場合も同様であり、地上無線局3に近接するアンテナ20が変化する過程で、当該地上無線局3から送信する伝送情報の受信先となるアンテナ20の選択を入れ替えるとともに、地上無線局3からの伝送情報を受信するアンテナ20の割り当てを行う。
【0054】
なお、地上無線局3a、3bから送られる伝送情報は互いに相違するものであってもよい。例えば、地上無線局3から端末装置6を介して乗客に所望のコンテンツをこの伝送情報に重畳させて送る場合を考える。このとき、地上無線局3aから送られる伝送情報としては、そのコンテンツの基本的な概要を説明するための基本情報が含まれ、地上無線局3bから送られる伝送情報として、そのコンテンツの実データが含まれているものとする。
【0055】
かかる場合には、先ず地上無線局3aからアンテナ20aを介して伝送情報を受信し、その伝送情報に含まれる基本情報を見ることで、端末装置6へ配信すべきコンテンツであるか否かを判断する。この判断は、選択部24が行うようにしてもよいし、端末装置6が行うようにしてもよい。その結果、コンテンツの実データを配信すべきものと判断した場合、地上無線局3bからその実データが含まれる伝送情報をアンテナ20bを介して受信し、これを端末装置6へと送信するように選択部24が制御する。これに対して、コンテンツの実データを配信すべきでないものと判断した場合、地上無線局3bからその実データが含まれる伝送情報をアンテナ20bを介して受信した場合も、これを端末装置6へと送信することなくデータを廃棄するように選択部24が制御する。このとき、移動体2は、データを廃棄する代わりにアンテナ20bを介して伝送情報を受信しないように設定するようにしてもよい。
【0056】
このように、本発明によれば、走行方向Aの前方側に位置する地上無線局3aから受信した伝送情報に基づき、走行方向Aの後方側に位置する地上無線局3bからの伝送情報を端末装置6に送信するか否かを決定するようにしてもよい。これにより、不要な伝送情報を受信しないようにすることで受信効率が低下するのを防止することができる。
【0057】
かかる場合には、逆に、走行方向Aの後方側に位置する地上無線局3bから受信した伝送情報に基づき、走行方向Aの前方側に位置する地上無線局3aからの伝送情報を端末装置6に送信するか否かを決定するようにしてもよい。つまり、走行方向Aの一方側に位置する地上無線局3から受信した伝送情報に基づき、走行方向Aの他方側に位置する地上無線局3からの伝送情報を端末装置6に送信するか否かを決定するようにしてもよい。
【0058】
これに加えて、本発明によれば、アンテナ20の位置と地上無線局3の位置との相対位置関係を予め取得しておくようにしてもよい。ここでいう相対位置関係は、アンテナ20の位置と地上無線局3の位置がA方向において略同一である場合に限定されるものでは無く、互いに斜め方向とされていてもよい。例えば
図3(a)に示すように、アンテナ20bと、地上無線局3との相対位置関係は、斜め方向となっている。このような互いに斜め方向の相対位置関係であってもよいし、例えば
図3(a)に示すアンテナ20aと地上無線局3の相対位置関係のようにA方向において略同一である場合であってもよい。相対位置関係は、アンテナ20の位置と地上無線局3の位置との位置座標の関係やこれらの位置座標間を結ぶ線分の角度等で規定されるものであってもよい。
【0059】
このような相対位置関係を予め取得しておき、実際にアンテナ20の選択をする場合には、この取得した相対位置関係を参照する。そして、新たに取得した現在の走行位置に応じた一のアンテナ20の位置が、地上無線局3の位置との間で、参照する相対位置関係をほぼ満たす場合に、当該一端末装置を選択するようにしてもよい。
【0060】
上述した例では、地上無線局3から伝送情報を受信するアンテナ20を選択する場合を例に取り説明をしたが、これに限定されるものではない。逆にアンテナ20を介して地上無線局3へ伝送情報を送信する際に、その送信するアンテナ20を選択する場合も同様である。例えば、端末装置6において取得した各センシング情報や、端末装置6側においてコンテンツが上手く受信できていない旨を伝送情報化し、地上無線局3に送信したい場合、上述と同様に移動体2の現在の走行位置を介して把握可能な各アンテナ20の位置と、地上無線局3の位置とに基づいて、最適なアンテナ20を選択するようにしてもよいことは勿論である。
【実施例1】
【0061】
図5は、
図4に示すようにアンテナ20がアンテナ20a、20bからなり、地上無線局3a、3bからなり、地上無線局3aから基本情報を、地上無線局3bからコンテンツの実データを送信する場合におけるシミュレーションの例を示している。地上無線局3から送られるトータルのデータサイズは、地上無線局3aから前記情報のデータサイズと、地上無線局3bからの後期情報のデータサイズからなる。ここで、前記情報の内容を確認した結果、地上無線局3bからの後期情報を受信しないようにすることで、受信効率をどの程度改善できるかをシミュレーションする。前記情報のデータサイズの、後期情報のデータサイズに対する比率を0.1、0.5としたとき、横軸の「不要でない」情報の割合に対する受信効率がそれぞれ改善されているのが示されている。特に前記信号のデータサイズの比率が0.1であるとき、「不要でない」情報の割合が40%の場合に受信効率は2倍に改善できているのが分かる。
【符号の説明】
【0062】
1 移動体無線通信システム
2 移動体
3 地上無線局
4 中央制御局
6 端末装置
20 アンテナ
21 運転制御部
23 走行位置取得部
24 選択部