(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】変異型イソプレン合成酵素及びそのスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/60 20060101AFI20241004BHJP
C12N 9/88 20060101ALI20241004BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20241004BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C12N15/60 ZNA
C12N9/88
C12N1/21
C12Q1/02
(21)【出願番号】P 2020036812
(22)【出願日】2020-03-04
【審査請求日】2023-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【氏名又は名称】大杉 卓也
(72)【発明者】
【氏名】梅野 太輔
(72)【発明者】
【氏名】荒木 道備
【審査官】安川 聡
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-502148(JP,A)
【文献】特表2015-521036(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104762275(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C12Q
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変異を導入したイソプレン合成酵素遺伝子ライブラリを、ジメチルアリルアルコールからジメチルアリル二リン酸を合成可能な細胞に導入し、該細胞の細胞増殖速度の増加又は低下を指標とする、
変異型イソプレン合成酵素のスクリーニング方法であって、
該細胞が配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子により形質転換された細胞である、スクリーニング方法。
【請求項2】
前記細胞の細胞増殖速度の増加が、ジメチルアリル二リン酸を基質とするイソプレン合成量の増加である、請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
前記細胞の細胞増殖速度が、ジメチルアリルアルコール存在下における細胞増殖速度である、請求項1~2のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
前記細胞が大腸菌である、請求項1~3のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
【請求項5】
配列番号7で示されるアミノ酸配列において、1位~52位にアミノ酸欠失を有し、並びに、H218R及びT587Aのみのアミノ酸置換を有することを特徴とする、変異型イソプレン合成酵素。
【請求項6】
前記変異型イソプレン合成酵素は、野生型イソプレン合成酵素と比較して、イソプレン合成量が高いことを特徴とする、請求項5に記載の変異型イソプレン合成酵素。
【請求項7】
配列番号7で示されるアミノ酸配列において、1位~52位にアミノ酸欠失を有し、並びに、F593Lのみのアミノ酸置換を有することを特徴とする、変異型イソプレン合成酵素。
【請求項8】
以下の(1)~(2)のいずれか1である遺伝子からなる変異型イソプレン合成酵素遺伝子、
(1)配列番号11又は12に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子、及び
(2)配列番号13又は14に記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変異型イソプレン合成酵素及びそのスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テルペン、テルペノイド、カロテノイドなど、イソプレンユニットからなる化合物は7万にのぼるが、これらの生合成酵素は非常に活性が低い。その改良の必要性が広く認識されている。
【0003】
しかし、いずれのテルペン・イソプレノイド合成でも、その生産物は無色かつ揮発性があり、テルペン・イソプレン合成酵素の活性を簡便に見る方法はなかった。HPLC、GC-MSなど、クロマトグラフィーを用いた方法を数万の変異体ライブラリを一つ一つ調べ、活性の高い変異体を取得した例がある(特許文献1)。テルペン・イソプレノイドの生合成酵素の改良のためには、ハイスループットな活性検出技術が必要である(非特許文献1)。
【0004】
本発明者らは以前、「基質消費」を可視化する方法を開発した(特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5)。これらは、「カロテノイド生合成経路をもつ大腸菌株を作製し、その細胞の中にテルペン合成酵素の遺伝子群を導入する」という方法である。テルペン酵素の活性が高いほど、同居するカロテノイド生合成経路から基質を奪うため、その基質消費力が高いものほどカロテノイド生合成量が減ることになる。結果として、コロニー色の薄いクローンを選抜することによって、活性の高いテルペン酵素変異体が得られた。
【0005】
真核生物などの持つイソプレノイド前駆体経路であるメバロン酸経路にも、培地添加できる中間体であるメバロン酸がある。メバロン酸を培地に入れすぎると、同じようにDMAPP(ジメチルアリル二リン酸)を過剰蓄積して細胞増殖阻害が起きることは、知られていた(非特許文献2)。最近、それを用いてイソプレン合成酵素を改良できた例も報告されている(非特許文献3)。この報告では、酵母内在のメバロン酸経路の律速酵素、HMG1の過剰発現によって増殖低下状態をつくり、その増殖回復をもとにイソプレン合成酵素(IspS)の活性変異体を取得している。ただしこの方法で得られる細胞毒性は大変低く、一晩で創り出せる細胞密度差はわずか2倍であった。スクリーニング・セレクション技術としては実用化は困難である。
【0006】
イソプレン合成酵素の活性改良の例は、特許文献1のほかは、非特許文献3が報告されている。この論文では、F340L、I478V、A570Tの3つの活性変異が見出されており、このうちF340L+A570TのW-mutantsが最良とされていると報告されている。
しかし、本発明で得られた変異型イソプレン合成酵素は、先で報告された変異体とは明らかに構造が異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許第9.273,298号明細書
【文献】特開2019-170350号公報
【文献】特開2018-198576号公報
【文献】特開2014-223038号公報
【文献】特開2011-125334号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】田代美希、梅野太輔: 化学と生物、54、 562-567 (2016)
【文献】VJJ Martin et al., Nat. Biotech., 21, 796 (2003)
【文献】Wang, Metabolic Engineering, 39, 257 (2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、変異型イソプレン合成酵素及びそのスクリーニング方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討した結果、ランダム変異を導入したイソプレン合成酵素遺伝子をジメチルアリルアルコール(DMAOH)のリン酸化活性を有する酵素の遺伝子を発現する細胞に導入し、DMAOH感受性を指標とする、変異型イソプレン合成酵素のスクリーニング方法を完成し、さらに該方法により変異型イソプレン合成酵素が得られることを確認して本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は以下の通りである。
1.配列番号7で示されるアミノ酸配列における1位~52位にアミノ酸欠失を有し、並びに、218位、587位及び593位からなる群より選択される1、2又は3つの部位にアミノ酸置換を有することを特徴とする、変異型イソプレン合成酵素又はその誘導体。
2.前記変異型イソプレン合成酵素は、野生型イソプレン合成酵素と比較して、イソプレン合成量が高いことを特徴とする、前項1に記載の変異型イソプレン合成酵素又はその誘導体。
3.前記アミノ酸置換は、以下の群より選択される少なくとも1以上からなる前項1又は2に記載の変異型イソプレン合成酵素又はその誘導体、
H218R、T587A及びF593L。
4.前記アミノ酸置換は、以下の(1)又は(2)から選択される1からなる前項1~3のいずれか1項に記載の変異型イソプレン合成酵素又はその誘導体、
(1)H218R、T587A、及び
(2)F593L。
5.配列番号7で示されるアミノ酸配列において、1位~52位にアミノ酸欠失を有し、並びに、H218R及びT587Aのアミノ酸置換を有することを特徴とする、変異型イソプレン合成酵素又はその誘導体。
6.配列番号7で示されるアミノ酸配列において、1位~52位にアミノ酸欠失を有し、並びに、F593Lのアミノ酸置換を有することを特徴とする、変異型イソプレン合成酵素又はその誘導体。
7.以下の(1)~(7)のいずれか1である遺伝子からなる変異型イソプレン合成酵素遺伝子、
(1)配列番号11又は12に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子、
(2)配列番号11又は12に記載のアミノ酸配列において、1~20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号11又は12に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するジメチルアリル二リン酸を基質としてイソプレンを生成する活性と実質的同等の活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(3)配列番号11又は12に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列番号11又は12に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するジメチルアリル二リン酸を基質としてイソプレンを生成する活性と実質的同等の活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(4)配列番号13又は14に記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、
(5)配列番号13又は14に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ配列番号11又は12に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するジメチルアリル二リン酸を基質としてイソプレンを生成する活性と実質的同等の活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(6)配列番号13又は14に記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1~50個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加しているDNAからなる遺伝子、及び、
(7)配列番号13又は14に記載の塩基配列からなるDNAと相同性が90%以上のDNAからなる遺伝子。
8.以下の(1)~(3)のいずれか1であるアミノ酸配列からなる変異型イソプレン合成酵素、
(1)配列番号11又は12に記載のアミノ酸配列、
(2)配列番号11又は12に記載のアミノ酸配列において、1~20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号11又は12に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するジメチルアリル二リン酸を基質としてイソプレンを生成する活性を有するアミノ酸配列、及び、
(3)配列番号11又は12に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列番号11又は12に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するジメチルアリル二リン酸を基質としてイソプレンを生成する活性を有するアミノ酸配列。
9.変異を導入したイソプレン合成酵素遺伝子ライブラリを、ジメチルアリルアルコールからジメチルアリル二リン酸を合成可能な細胞に導入し、該細胞の細胞増殖速度の増加又は低下を指標とする、変異型イソプレン合成酵素のスクリーニング方法。
10.前記細胞の細胞増殖速度の増加が、ジメチルアリル二リン酸を基質とするイソプレン合成量の増加である、前項9に記載のスクリーニング方法。
11.前記細胞の細胞増殖速度が、ジメチルアリルアルコール存在下における細胞増殖速度である、前項9又は10に記載のスクリーニング方法。
12.前記細胞が大腸菌である、前項9~11のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
13.前記細胞が配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子により形質転換された細胞である、前項9~12のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
14.ジメチルアリルアルコールを、ジメチルアリルアルコールからジメチルアリル二リン酸を合成可能な細胞に導入又は添加する工程を含む、ジメチルアリル二リン酸を含む細胞の作製方法であって、
該細胞は変異型イソペンテニルホスフェートキナーゼにより形質転換された細胞であることを特徴とする作製方法。
15.前記細胞は、野生型細胞と比較して、ジメチルアリル二リン酸を多く含むことを特徴とする前項14に記載の作製方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、野生型イソプレン合成酵素と比較してイソプレン合成量が高い変異型イソプレン合成酵素並びに該酵素の変異体のスクリーニング方法を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】プラスミドMAP(pJ211-J23119-IPK
mut)。
【
図2】IPK
mut変異体のコロニー数。IPK変異体の発現により、宿主細胞はDMAOHに対する感受性を得た。
【
図3】IPK発現による宿主細胞のDMAOH感受性(液体培養)。
【
図4】IPK発現株の生菌数に対する培地中のDMAOH濃度の影響。
【
図5】プラスミドMAP(pT5/lacO-IspS)。
【
図6】プラスミドMAP(PJ211-pJ23119-IPK
mut)。
【
図7】IspS変異体のDMAOH/IPK
mut耐性(セカンドスクリーニング)。実験は日をあけて二回にわけて実施した。
【
図11】野生型IspSと活性変異体のイソプレン合成能比較(ドデカン上層)(N=5)。
【
図12】野生型と活性変異体のイソプレン合成能比較(N=2)。
【
図13】変異体および野生型IspSを発現する大腸菌株のDMAPP感受性。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(本発明の概要)
本発明は、「変異型イソプレン合成酵素」、並びに「変異型イソプレン合成酵素のスクリーニング方法」に関する。
【0015】
本発明は、イソプレン合成酵素の活性を改良するための方法、加えて、変異型イソプレン合成酵素(IspS)に関するものである。
本発明では、(1)異性体IPPの蓄積による毒性ではなくIspSの直接基質DMAPP(ジメチルアリル二リン酸)の蓄積による毒性回避をもとにしたセレクション系を確立して、(2)単独酵素で実現する前駆体供給経路であり、そして(3)基質過剰状態が内在経路ではなく、培地に添加する前駆体(DMAOH)の量によって変えることができたので、高活性の変異型IspSを効率的に取得できるスクリーニング方法を確立した。
本発明では、人工の一酵素で実現する低ステップ数(2ステップ)の酵素をつかってDMAPP過剰を創り出す。以下に示すように、この方式では、選択率1000~10,000倍のセレクション・選抜系が簡単に実現する。さらに、その選択圧は培地添加するDMAOH溶液によって自由に設定できる。
【0016】
また、本発明は、上記スクリーニング方法で使用する「大量のDMAPPを含む細胞の作製方法(細胞中のDMAOHのリン酸化によってDMAPP異常蓄積を引き起こす方法)」も対象とする。
【0017】
(変異型イソプレン合成酵素又はその誘導体)
本発明の変異型イソプレン合成酵素又はその誘導体は、野生型イソプレン合成酵素と比較して、アミノ酸又は塩基が1以上異なる酵素を意味する。
野生型イソプレン合成酵素(IspS)は、Populus属等の植物で産出され、ジメチルアリル二リン酸(DAMPP)を基質としてイソプレンを生成する酵素として知られている。
特に、本発明の変異型イソプレン合成酵素又はその誘導体は、野生型イソプレン合成酵素と比較して、イソプレン合成量が高い(合成活性が高い)ことが好ましい。
また、本発明の誘導体とは、変異型イソプレン合成酵素の保護化誘導体、糖鎖修飾体、アシル化誘導体、若しくはアセチル化誘導体を対象とする。
なお、保護化誘導体、糖鎖修飾体、アシル化誘導体、若しくはアセチル化誘導体は、自体公知の方法で得ることができる。
また、本発明の変異体は、発現酵素の酵素活性、発現量又は安定性が高くなる変異体が好ましい。また基質特異性を高めるような変異体も好ましい。特に、酵素活性を高める変異体が好ましい。
本発明のスクリーニング方法では、変異体のライブラリ(野生型に置換、欠損、挿入及び/又は付加が導入された遺伝子ライブラリ)を作成し、そのライブラリから、その宿主において酵素活性、発現量又は安定性が高い変異体を取得することができる。
天然の細胞から抽出した遺伝子、作製したライブラリの遺伝子、化学合成遺伝子、PCR増幅遺伝子など由来は問わない。本発明のスクリーニング方法は、発現する酵素の基質消費能を指標とするため、未同定の遺伝子もスクリーニングすることができる。
イソプレン合成酵素遺伝子(野生型に置換、欠損、挿入及び/又は付加が導入された遺伝子ライブラリ)の、ジメチルアリルアルコールからジメチルアリル二リン酸を合成可能な細胞への導入は、遺伝子組み換え技術で用いられている常法によることができる。例えば、ベクターにスクリーニング対象の遺伝子を組み込み、細胞を形質転換する等である。
【0018】
本発明の変異型イソプレン合成酵素又はその誘導体は、Populus alba由来のイソプレン合成酵素(配列番号7)と比較して、アミノ酸配列に以下で示される変異を有する。
1位~52位の欠失、並びに、218位、587位及び/又は593位の置換。
また、本発明の変異型イソプレン合成酵素は、Populus alba由来のイソプレン合成酵素(配列番号7)と比較して、アミノ酸配列に以下で示される変異を有する。
M1-T52del、並びに、H218R、T587A及び/又はF593L。
【0019】
本発明の変異型イソプレン合成酵素は、Populus alba由来のイソプレン合成酵素(配列番号7)と比較して、アミノ酸配列に以下のいずれか1で示される変異を有する。
(1)M1-T52del、H218R、T587A(配列番号11)
(2)M1-T52del、F593L(配列番号12)
【0020】
本発明の変異型イソプレン合成酵素は、Populus alba由来のイソプレン合成酵素(配列番号7)と比較して、以下のいずれか1以上のアミノ酸変異を有することにより、Populus alba由来の野生型イソプレン合成酵素と比較して、イソプレン合成量が高いことを下記の実施例で確認している。
(1)M1-T52del、H218R、T587A(配列番号11)
(2)M1-T52del、F593L(配列番号12)
【0021】
イソプレン合成量(イソプレン合成活性)が高いとは、Populus alba由来の野生型イソプレン合成酵素(配列番号7)と比較して、1.1倍以上、1.2倍以上、1.3倍以上、1.4倍以上、1.5倍以上、2.0倍以上、2.1倍以上、2.2倍以上、2.3倍以上、2.4倍以上、2.5倍以上、2.6倍以上、2.7倍以上、2.8倍以上、2.9倍以上、3.0倍以上、約4.0倍(以上)、約5.0倍(以上)、約6.0倍(以上)、約7.0倍(以上)、約8.0倍(以上)、約9.0倍(以上)、約10倍(以上)、約11倍(以上)、約12倍(以上)、約13倍(以上)、約14倍(以上)、約15倍(以上)、約16倍(以上)、約17倍(以上)、約18倍(以上)、約19倍(以上)、約20倍(以上)、約21倍(以上)、約22倍(以上)、約23倍(以上)、約24倍(以上)、約25倍(以上)、約26倍(以上)、約27倍(以上)、約28倍(以上)、約29倍(以上)、約30倍(以上)、約31倍(以上)、約35倍(以上)、約40倍(以上)のイソプレン合成量を例示することができる。
【0022】
(変異型イソプレン合成酵素遺伝子)
本発明の変異型イソプレン合成酵素遺伝子は、(1)配列番号11又は12に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子、(2)配列番号11又は12に記載のアミノ酸配列において、1~20個のアミノ酸、好ましくは1~15個、より好ましくは1~10個、最も好ましくは1~5個が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号11又は12に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するジメチルアリル二リン酸を基質としてイソプレンを生成する活性と実質的同等の活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、(3)配列番号11又は12に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列番号11又は12に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するジメチルアリル二リン酸を基質としてイソプレンを生成する活性と実質的同等の活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、(4)配列番号13又は14に記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、(5)配列番号13又は14に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ配列番号11又は12に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するジメチルアリル二リン酸を基質としてイソプレンを生成する活性と実質的同等の活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、(6)配列番号13又は14に記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1~50個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加しているDNAからなる遺伝子、(7)配列番号13又は14に記載の塩基配列からなるDNAと90%以上の相同性を有するDNAからなる遺伝子を、含む。
上記(1)の遺伝子は、好ましくは、本発明の変異型イソプレン合成酵素のスクリーニング方法から得られた変異型イソプレン合成酵素をコードする遺伝子である。該変異型イソプレン合成酵素は、ジメチルアリル二リン酸を基質としてイソプレンを生成する活性を持つ。
上記(2)の遺伝子は、本発明の変異型イソプレン合成酵素に対して酵素活性を失わせない程度の変異を導入したポリペプチドをコードする遺伝子である。このような変異は、自然界において生じる変異のほかに、人為的な変異をも含む。人為的変異を生じさせる手段としては、部位特異的変異誘発法(Nucleic Acids Res. 10,6487-6500, 1982)などを挙げることができる。変異したアミノ酸の数は、通常は、20アミノ酸以内であり、好ましくは10アミノ酸以内であり、更に好ましくは5アミノ酸以内であり、最も好ましくは3アミノ酸である。変異を導入したポリペプチドが酵素活性を保持しているかどうかは、例えば、変異を導入したポリペプチドをコードする遺伝子を大腸菌等に導入し、発現させ、その大腸菌等がジメチルアリル二リン酸を基質としてイソプレンを生成することができるかどうか調べることによりわかる。これらのアミノ酸の位置・部位に変異が導入されると酵素活性が失われる可能性が高いので、変異はこれらのアミノ酸以外のアミノ酸に導入されることが好ましい。
上記(2)、(3)及び/又は(5)の「配列番号11又は12に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するジメチルアリル二リン酸を基質としてイソプレンを生成する活性と実質的同等の活性」とは、その活性程度が、配列番号11又は12に記載のアミノ酸配列のジメチルアリル二リン酸を基質としてイソプレンを生成する活性と比較して強くても弱くてもよい。例えば、0.1倍、0.2倍、0.3倍、0.4倍、0.5倍、0.6倍、0.7倍、0.8倍、0.9倍、1.0倍、1.1倍、1.2倍、1.3倍、1.4倍、1.5倍、2.0倍、2.1倍、2.2倍、2.3倍、2.4倍、2.5倍、2.6倍、2.7倍、2.8倍、2.9倍、3.0倍、4.0倍、5.0倍、10倍、15倍、20倍、30倍、40倍、50倍の活性を例示することができる。
また、相同性は、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool at the NationalCenter forBiological Information)等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータを用いて)を用いて計算することができる。
上記(3)の遺伝子は、配列番号11又は12に記載のアミノ酸配列と90%以上、好ましくは93%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上の相同性、最も好ましくは99%以上の相同性を有するポリペプチドをコードする遺伝子を含む。
上記(5)の遺伝子は、DNA同士のハイブリダイゼーションを利用することにより得られる遺伝子である。この遺伝子における「ストリンジェントな条件」とは、特異的なハイブリダイゼーションのみが起き、非特異的なハイブリダイゼーションが起きないような条件をいう。このような条件は、通常、5×SSC、1%SDSを含む緩衝液中の37℃でのハイブリダイゼーション及び1×SSC、0.1%SDSを含む緩衝液による37℃での洗浄処理といった条件であり、好ましくは、5×SSC、1%SDSを含む緩衝液中の42℃でのハイブリダイゼーション及び0.5×SSC、0.1%SDSを含む緩衝液による42℃での洗浄処理といった条件であり、更に好ましくは、5×SSC、1%SDSを含む緩衝液中の65℃でのハイブリダイゼーション及び0.2×SSC、0.1%SDSを含む緩衝液による65℃での洗浄処理といった条件である。ハイブリダイゼーションを利用することにより得られたDNAが、活性を有するポリペプチドをコードするかどうかは、例えば、そのDNAを大腸菌等に導入し、発現させ、その大腸菌等がジメチルアリル二リン酸を基質としてイソプレンを生成することができるかどうか調べることによりわかる。ハイブリダイゼーションにより得られるDNAは、上記(4)の遺伝子(配列番号13又は14)と通常、高い相同性を有する。高い相同性とは、90%以上の相同性、好ましくは95%以上の相同性、更に好ましくは98%以上の相同性、最も好ましくは99%以上の相同性を指す。
上記(6)の遺伝子は、配列番号13又は14に記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1~50個、好ましくは1~30個、より好ましくは1~20個、特に好ましくは1~10個、最も好ましくは1~5個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加しているDNAからなる遺伝子である。
上記(7)の遺伝子は、配列番号13又は14に記載の塩基配列からなるDNAと90%以上、好ましくは93%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上の相同性、最も好ましくは99%以上の相同性を有するDNAからなる遺伝子を、含む。
【0023】
(変異型イソプレン合成酵素)
本発明の変異型イソプレン合成酵素は、(1)配列番号11又は12に記載のアミノ酸配列、(2)配列番号11又は12に記載のアミノ酸配列において、1~20個、好ましくは1~15個、より好ましくは1~10個、最も好ましくは1~5個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号11又は12に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するジメチルアリル二リン酸を基質としてイソプレンを生成する活性と実質的同等の活性を有するアミノ酸配列、(3)配列番号11又は12に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列番号11又は12に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するジメチルアリル二リン酸を基質としてイソプレンを生成する活性と実質的同等の活性を有するアミノ酸配列を、含む。
なお、ペプチドの変異の導入において、当該ペプチドの基本的な性質(物性、機能、生理活性又は免疫学的活性等)を変化させないという観点からは、例えば、同族アミノ酸(極性アミノ酸、非極性アミノ酸、疎水性アミノ酸、親水性アミノ酸、陽性荷電アミノ酸、陰性荷電アミノ酸及び芳香族アミノ酸等)の間での相互の置換は容易に想定される。
【0024】
(本発明のスクリーニング方法)
本発明の変異型イソプレン合成酵素のスクリーニング方法は、変異型イソプレン合成酵素の探索を行うため、ジメチルアリルアルコール(DMAOH)からジメチルアリル二リン酸(DAMPP)を合成可能な細胞(好ましくはイソペンテニルホスフェートキナーゼ(IPK)を導入した細胞、より好ましくは変異型イソペンテニルホスフェートキナーゼを導入した大腸菌)に、変異型イソプレン合成酵素遺伝子(好ましくはイソプレン合成酵素遺伝子ライブラリ、特に、ランダム変異を導入したイソプレン合成酵素遺伝子ライブラリ)を導入し、該導入細胞の段階的濃度のジメチルアリルアルコール存在下(DMAOHが細胞内に存在すればどのような方法でもよい。例えば、DMAOHを細胞に添加する、DMAOHを培地に添加する等を例示することができる)における細胞増殖速度の増加又は低下(好ましくは細胞増殖の可否)を指標とする、変異型イソプレン合成酵素のスクリーニング方法に関する。
さらに、本発明は、該導入細胞の段階的濃度のジメチルアリルアルコール存在下における細胞増殖速度を、野生型イソプレン合成酵素を導入した細胞と比較して、細胞増殖速度が高い細胞(又は細胞増殖の停止に要するジメチルアリルアルコール濃度が高い細胞)を選抜することにより、野生型イソプレン合成酵素と比較して活性の高い変異型イソプレン合成酵素遺伝子のスクリーニング方法に関する。
さらに、本発明は、イソプレン合成酵素遺伝子ライブラリ、好ましくはランダム変異を導入したイソプレン合成酵素遺伝子ライブラリを導入して得られた2種以上のクローン由来細胞の段階的濃度のジメチルアリルアルコール存在下における細胞増殖速度を比較して、細胞増殖速度が少なくとも1の他のクローン由来細胞よりも高い細胞(又は細胞増殖の停止に要するジメチルアリルアルコール濃度が少なくとも1の他のクローン由来細胞よりも高い細胞)、好ましくは細胞増殖速度が1~5番目に高い細胞、1~10番目に高い細胞若しくは1~50番目に高い細胞(又は細胞増殖の停止に要するジメチルアリルアルコール濃度が1~5番目に高い細胞、1~10番目に高い細胞若しくは1~50番目に高い細胞)のうちいずれか1以上の細胞、より好ましくは細胞増殖速度が最も高い細胞(又は細胞増殖の停止に要するジメチルアリルアルコール濃度が最も高い細胞)を選抜することにより、イソプレン合成酵素遺伝子ライブラリ、好ましくはランダム変異を導入したイソプレン合成酵素遺伝子ライブラリ導入細胞の中で、イソプレン合成酵素活性の高い変異型イソプレン合成酵素遺伝子を得ることができるスクリーニング方法に関する。
【0025】
(変異型イソペンテニルホスフェートキナーゼ)
野生型イソペンテニルホスフェートキナーゼ(IPK)は、Thermoplasma acidophilum属等の古細菌で産出され、イソペンテニル化合物の基本的な構成要素であるリン酸イソペンテニル(IP)またはリン酸ジメチルアリル(DMAP)を触媒して、イソペンテニル二リン酸(IPP)またはジメチルアリル二リン酸(DAMPP)を生成する。
同様に、IPKの3つのアミノ酸変異V73I、Y141V、K204Gを導入した変異型イソペンテニルホスフェートキナーゼは、ジメチルアリルアルコール(DMAOH、DMAともいう)のモノリン酸化活性を獲得し、DMAOHをDMAPに変換することが報告されている(LIU, Ying, et al. Scientific reports, 2016, 6: 24117.)。
本発明での「変異型イソペンテニルホスフェートキナーゼ」とは、ジメチルアリルアルコールの消費に関与する酵素(複数の酵素群も含む)である。特に、変異型イソペンテニルホスフェートキナーゼは、ジメチルアリルアルコール(DMAOH)を直接又は間接的にジメチルアリル二リン酸(DAMPP)に転換する作用を有すれば特に限定されない。
【0026】
(ジメチルアリルアルコールからジメチルアリル二リン酸を合成可能な細胞)
本発明での「ジメチルアリルアルコールからジメチルアリル二リン酸を合成可能な細胞」は、ジメチルアリルアルコールからジメチルアリル二リン酸を生合成することができる細胞であれば制限されない。天然の細胞でも、遺伝子組み換えにより形質転換されている細胞でもよい。遺伝子組み換え細胞は、遺伝子組み換えの操作に簡便な細胞である、大腸菌、枯草菌、酵母などが挙げられる。
【0027】
(ジメチルアリルアルコール存在下における細胞増殖速度の増加又は低下)
本発明での「ジメチルアリルアルコール存在下における細胞増殖速度の増加又は低下」は、細胞におけるジメチルアリル二リン酸(DAMPP)を基質とするイソプレン合成活性が増加又は低下することによって、ジメチルアリルアルコール存在下における細胞増殖速度が増加又は低下することである。
すなわち、本発明のスクリーニング方法では、変異型イソプレン合成酵素遺伝子を導入したジメチルアリルアルコールからジメチルアリル二リン酸を合成可能な細胞のジメチルアリルアルコール存在下における細胞増殖速度(又は、ランダム変異を導入したイソプレン合成酵素遺伝子を導入したジメチルアリルアルコールからジメチルアリル二リン酸を合成可能な細胞におけるジメチルアリルアルコール存在下における細胞増殖速度)を指標として、変異型イソプレン合成酵素遺伝子を取得する。
また、本発明のスクリーニング方法では、変異型イソプレン合成酵素遺伝子を導入したジメチルアリルアルコールからジメチルアリル二リン酸を合成可能な細胞のジメチルアリルアルコール存在下における細胞増殖速度を、野生型イソプレン合成酵素遺伝子を導入したジメチルアリルアルコールからジメチルアリル二リン酸を合成可能な細胞におけるジメチルアリルアルコール存在下における細胞増殖速度と比較し、ジメチルアリルアルコール存在下における細胞増殖速度の増加した細胞を選択し、その細胞に導入された該遺伝子を野生型イソプレン合成酵素と比較して活性の高い変異型イソプレン合成酵素遺伝子であると決定する。
また、本発明のスクリーニング方法では、イソプレン合成酵素遺伝子ライブラリ、好ましくはランダム変異を導入したイソプレン合成酵素遺伝子ライブラリを導入して得られた2種以上のクローン由来のメチルアリルアルコールからジメチルアリル二リン酸を合成可能な細胞のジメチルアリルアルコール存在下における細胞増殖速度を比較し、ジメチルアリルアルコール存在下における細胞増殖速度の増加した(速い)細胞を選択し、その細胞に導入された該遺伝子をイソプレン合成酵素活性の高い変異型イソプレン合成酵素遺伝子であると決定する。
変異型イソプレン合成酵素のジメチルアリル二リン酸(DAMPP)を基質とするイソプレン合成活性が高いほど、ジメチルアリル二リン酸をより多く消費できるため、ジメチルアリル二リン酸による細胞増殖抑制作用をより打ち消すことができる。
したがって、変異型イソプレン合成酵素遺伝子を導入された、ジメチルアリルアルコール(DMAOH)からジメチルアリル二リン酸を合成可能な細胞は、イソプレン合成活性が高いほど、ジメチルアリルアルコール存在下における細胞増殖速度が増加し、より高い濃度のジメチルアリルアルコール存在下で細胞増殖できる。
【0028】
(DMAOHのリン酸化によって高濃度のDMAPP蓄積方法)
本発明では、ジメチルアリルアルコールからジメチルアリル二リン酸を合成可能な細胞にジメチルアリルアルコールを添加することにより、該細胞にDMAPPを高濃度に蓄積させる方法(多量のDMAPPを含む細胞の作製方法)も対象である。詳しくは、上記で述べたイソペンテニルホスフェートキナーゼ遺伝子(特に、変異型イソペンテニルホスフェートキナーゼ遺伝子)を細胞に導入し、さらにジメチルアリルアルコールを該細胞に導入すれば、高濃度のDMAPP蓄積が達成することができる。該細胞は、変異型イソペンテニルホスフェートキナーゼにより形質転換された細胞であることが好ましい。
さらに、該細胞は、野生型細胞と比較して、DMAPPを多く含むことを特徴としている。「DMAPPを多く含む」とは、野生型と比較して、1.05倍以上、1.1倍以上、1.2倍以上、1.3倍以上、1.4倍以上、1.5倍以上、2.0倍以上、2.1倍以上、2.2倍以上、2.3倍以上、2.4倍以上、2.5倍以上、2.6倍以上、2.7倍以上、2.8倍以上、2.9倍以上、3.0倍以上、約4.0倍(以上)、約5.0倍(以上)、約6.0倍(以上)、約7.0倍(以上)、約8.0倍(以上)、約9.0倍(以上)、約10倍(以上)、約11倍(以上)、約12倍(以上)、約13倍(以上)、約14倍(以上)、約15倍(以上)、約16倍(以上)、約17倍(以上)、約18倍(以上)、約19倍(以上)、約20倍(以上)、約21倍(以上)、約22倍(以上)、約23倍(以上)、約24倍(以上)、約25倍(以上)、約26倍(以上)、約27倍(以上)、約28倍(以上)、約29倍(以上)、約30倍(以上)、約31倍(以上)、約35倍(以上)、約40倍(以上)の細胞中のDMAPP量を例示することができる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0030】
[IPK
mut発現株のDMAOH感受性]
1.発現系の構築
学名(Thermoplasma acidophilum)由来のIPKの遺伝子を大腸菌にコドン最適化したかたちで合成した(全長260アミノ酸、783-bases:配列番号6)。このとき、報告に従って、天然の配列からN末端の2個のアミノ酸「MM」を取り除き、17個のアミノ酸「MRGSHHHHHHTDPALRA」を付加し(M1-M2delinsMRGSHHHHHHTDPALRA)、3つのアミノ酸変異V73I、Y141V、K204Gを導入している。報告によれば、これらの変異の導入によって、DMAOHのモノリン酸活性を獲得する。これをJ23119-promoter下流に、制限酵素BamHI、XhoIによって挿入し、pJ211-J23119-IPK
mutを得た(RBSスコアは2048に設定)(参考:LIU, Ying, et al. Scientific reports, 2016, 6: 24117.)。
プラスミドMAP(pJ211-J23119-IPK
mut:配列番号1)を
図1に示す。
【0031】
2.IPK
mut変異体の発現株のDMAOH感受性(寒天培地)
pJ211-J23119-IPK
mutを用いて大腸菌XL1 Blueを形質転換し、コロニーを形成させた。これをつつき、LB培地にて一晩培養したのち、希釈して300細胞相当をさまざまな濃度のジメチルアリルアルコール(DMAOH)を含むLB寒天培地に撒いた。37℃で24時間静置し、形成されたコロニーの数を数えた(
図2)。
IPK変異体(IPK
mut)を発現させた大腸菌は、それを発現しない株にくらべると、明らかに高いDMAOH感受性を示した。IPK
mut発現株は、DMAOHを添加するとcfuが低下し、10 mM以上ではもはや生存率は0%となった(
図2の青の線)。DMAOHそのものに毒性は少なく、IPK発現をしていない(かわりにGFPを発現させた)大腸菌は、20 mMまで添加してもコロニー数が減ることはなかった(
図2の緑線)。
【0032】
3.IPK
mut変異体の発現株のDMAOH感受性(液体培地)
DMAOH感受性が、液体培養系でも発現するかどうかを調べた(
図3)。
詳しくは、PJ211-IPK
mutを導入した大腸菌株(XL1 blue:
図3の青線)とPJ211-emptyを導入した大腸菌株(
図3の黄線)を、さまざまなDMAOH濃度のLB培地に入れて、37℃で12時間震盪培養した。それぞれの細胞密度(OD)を測定した。
液体培養系では、IPK
mutの発現株の示すDMAPP感受性は、固体培地上よりもはるかに顕著であった。すなわち、わずか2 mMのDMAOH濃度で、細胞密度の増加は実質的には完全に停止している。この濃度では、IPK
mutを発現していない対照株では、まったく増殖に影響がない。
【0033】
4.IPK
mut変異体の発現株のDMAOH感受性(固体培地)
本方法でおこすDMAPP過剰によって、どれほどの効率で細胞増殖を抑えられるかを調べるために、プレートに播く細胞の数を200~200万までふって、各種濃度(0-20mM)におけるDMAOH添加での生菌数を調べた(
図4)。
DMAOH濃度が高いほど、その生菌数が低下することを確認した。DMAOH濃度5 mM、10 mM、20 mMでの生菌数比は、それぞれ、DMAOHのない培地に比べ、555分の1,670分の1、20,000分の1であった。これはメバロン酸経路の強化がもたらす弱い制菌効果(菌密度が半減する)とは明らかに異なり、単純に計算して、1000~20,000倍の濃縮効率である。
【0034】
以上の実験によって、該発現株において、IPKmutを発現すると培地に添加したDMAOH濃度に応じて、漸進的にDMAPP濃度が高まることを確認した。すなわち、毒性の少ないDMAOHを出発物質として、IPKmutが2ステップのリン酸化によってDMAPPを過剰蓄積させることによって細胞の増殖が非常に効率よく止まることが明らかになった。このDMAPPの「異常蓄積」は、DMAPPを消費する強い酵素活性によってのみ解消される。より高い酵素活性をもつDMAPP消費酵素を持つ宿主細胞だけを選択的に増殖させることが可能になった。
【0035】
本発明の方法の優れた点は、1) DMAOHを与えなければ、DMAPPの異常蓄積は起こらないことにある(その細胞毒性が常時発現しておらず、DMAOHというプロドラッグ添加してはじめて発揮される「条件付き」のものであること)、2)極めて高い増殖阻害効果(~20,000倍)である。
本発明の方法は、IPP(イソプレン族骨格形成における付加ユニット)ではなく、DMAPP(イソプレン類の直接の原料)の消費活性をスクリーニングできる点で従来の方法とは異なり、さらにDMAOH添加によって3桁にもおよぶ生菌数低下を生み出すことができた。
【実施例2】
【0036】
[IspSの進化工学]
1.発現系の構築
Populus alba由来のIspS(全長595アミノ酸(1815-bases)(配列番号7)のN末端52アミノ酸を切除した573アミノ酸(M1-T52del)および終止コドン、計1722-bases)の遺伝子(配列番号10)をPT5/LacO下流に、制限酵素BamHI、XhoIによって挿入した。RBScalculator(https://salislab.net/software/predict_rbs_calculator)によって計算されたRBSスコアは17,091であった。
プラスミドMAP(pT5/lacO-IspS:配列番号2)を
図5に示す。
【0037】
2.ライブラリ(第一世代)
IspS遺伝子をepPCR法によって増幅した。
反応条件は以下のとおりである。
テンプレートplamsid 量:5 ng/ 反応体積50 μL
PCRバッファNEB 10×Thermo Pol Reaction Buffer
dNTP濃度0.2 mM each、Mg濃度0.2 mM、Mn濃度10、20、および50 μM
NEB Taq DNA Polymerase、5 units
最終収量5000 ng、増幅率1000倍
プライマー配列1:Fwd:5-CTCGAAAATAATAAAGGGAAAATCAG-3(配列番号8)
プライマー配列2:Rev:5- GTAGGGAACTGCCAGGCATCAAATA-3(配列番号9)
【0038】
得られたDNAをゲル抽出、さらに精製して、以下の反応条件でベクターにライゲーションした。
vector:100 ng、insert:122 ng、反応体積10 μL
反応時間16時間、反応温度16℃、NEB T4 DNA Ligase、40 units
【0039】
得られたLigation液を脱塩し、大腸菌株BW25113にエレクトポレーションした。コンピテントセル60 μLにSOC 1440 μL加えて37度で1hキュレーション培養した(総量1.5 mL)。うち10 μL(150分の1)をAgar Plateにまいた。残り1490 μLは40 mLのLBに希釈して一晩(12h)37度で震盪培養した。得られた菌体懸濁液のうち2 mLをミニプレップした。
翌日、寒天プレート上にMn10:196個、Mn20個:512、Mn50:396個のコロニーを得たことから、それぞれのライブラリサイズは、Mn10:2.9×104、Mn20:7.7×104、Mn50:5.9×104であると決定した。
【0040】
3.高活性クローンの選抜(1次スクリーニング)
得たIspSライブラリを、IPK
mut発現株(pJ211-IPK
mutを導入したXL1-Blue株)に導入した。具体的には、IspSライブラリplasmid 5 μLとコンピテントセル100 μLを混合し、氷上に15分静置した。SOC 1150 μLを加えて37度で1時間キュレーション培養した(総量1250 μL)。
プラスミドMAP(PJ211-pJ23119-IPK
mut:配列番号3)を
図6に示す。
得た形質転換体を、0mM、 12mM、 14 mM (0、 0.86 g/L、1.01 g/L)のDMAOHを含むLB-Agar Plate (9 cm直径)に、それぞれ、およそ500細胞/plates程度になるように播いた(それぞれ5枚ずつ播いたので、スクリーニングサイズは、それぞれおよそ2,500)。全スクリーニングサイズ:2500×2条件×3ライブラリ=1.5×10
4であった。
37度で24h静置してコロニーを形成させた。表1に示すように、12 mM DMAOHを含むプレートからは12、 14 mM DMAOHを含むプレートでは1個のコロニーが生えてきた(一次スクリーニングのヒット率は:13÷1.5×10
4×100=0.087%)。
【0041】
【表1】
一次スクリーニングの結果。このコンストラクトでは、野生型IspS発現株は~ 11 mM以上で、生菌率が1/100以下になることを確認した。
【0042】
4.セカンドスクリーニング
上記で得た合計13個のクローンを単離・ミニプレした。これらに制限酵素Hind IIIおよびEcoRIで処理して混入しているIPK
mutプラスミドを選択切断した。単離した13個のクローンおよび野生型をそれぞれフレッシュなIPK
mut発現株(pJ211-IPK
mutを導入したXL1-Blue株)に再び導入した。
形質転換体を、0、11、12、13又は14 mol/LのDMAOHを含むLB-Agar Plate (9cm直径)に、それぞれ2000細胞/platesに播き、37度で24h静置してコロニーを形成させた。れぞれの変異体について、DMAOH(11、12、13、14 mM)含有培地上の生菌数比(対DMAOHを含まない培地)を
図7に示す。
13個のうち9個(図中灰色で示すもの)は、野生型と比べて顕著なDMAOH耐性を示さなかった。しかし、4つの変異体を発現する株は、親(野生型、wt)よりも明らかに高いDMAOH耐性を示した(
図7)。
【0043】
5.シーケンシング
上記で活性亢進と判断された4個(Mn10-12A、Mn10-12B、Mn20-12E、Mn50-12A)の配列を表2に示す。
【0044】
【0045】
Mn10-12A、Mn50-12Aの2個はispSの構造遺伝子には変異が見出されなかったが、LacOに塩基置換が導入されていた。これらは、lacIへの親和性低下によって転写レベルが高まった「発現変異体」である。一方、発現変異体と考えづらい変異体は2個であった。そこに見出された変異の中にみつかったアミノ酸置換は、Mn10-12B(H218R、T587A)、Mn20-12E(F593L)にはアミノ酸置換が見つかった。これらは、構造(PDB 3N0G)上、
図8の位置にMapされた。いずれも反応ポケットの中というよりは表面に位置する残基であった。
【0046】
6.プラスミドの載せ替え(発現系の変換)
Mn10-12BおよびMn20-12E酵素が、酵素活性が高い発現変異体ではなく、大腸菌活性を高める性質を有するかを調べるために、Reading Frameを、制限酵素BamHI、XhoIによって切り出し、lacOのない定常プロモータ(PT5)下流に載せ替えた。
プラスミドMAP(pT5-IspS:配列番号4)を
図9に示す。
【0047】
7.GC-解析によるプロダクト特性の比較
pMEV-idi(配列番号5)によって前駆体供給路(メバロン酸経路)を導入した大腸菌株XL1 BlueにpT5-IspS(wt)、pT5-IspS(Mn10-12B)、pT5-IspS(Mn10-12E)を、それぞれ導入した。
プラスミドMAP(pMEV-idi)を
図10に示す。
【0048】
7-1.ドデカン上層解析
こうして得られた形質転換体のイソプレン生産能を測定した。具体的には、形質転換体(OD2のプレ培液を50 μL:5×10
7cells相当)を5 mLのTB培地に植菌し、培地体積の5分の1のドデカン(1 mL)を培地に上層したのち、37度で24時間震盪培養した。その後、ドデカン(0.25 mL)を回収し、うち0.5 μL(1/500: 培地上層したドデカン総量の1/2000)をGC-FIDにインジェクトした。
GC分析条件:Rtx-5(Shimadzu)、オーブン温度250℃
昇温プロトコル35℃5min、30℃/minで150℃、20℃/minで200℃まで昇温した。
Mn10-12B、Mn20-12Eを発現する大腸菌は、ともにIspS(wt)を発現する大腸菌よりも高いイソプレン生産量を示した(
図11)。
【0049】
7-2.ヘッドスペース解析
顕著な活性を示したMn10-12B変異体について、上記とは異なる培養・測定プロトコルで再評価した。具体的には、形質転換体(OD~2のプレ培液を100 μL:1×10
8 cells相当)を50 mLのフラスコ内の10 mL TB培地に植菌し、30度で48時間震盪培養した。培養中は、一貫して、フラスコはアルミホイルと輪ゴムで硬く縛り気密状態を保持した。その後、それぞれのサンプルのヘッドスペース部の空気を10 mL分、ガス採取器(NeedlEx、信和化工)で回収した。回収気体から、固相吸着材に吸着した成分を、GC-FIDにインジェクトした。
GC分析条件: Rtx-5(Shimadzu)、オーブン温度250℃
昇温プロトコル:30℃ 5min、20℃/minで200℃まで昇温した。
結果を
図12に示す。
Mn10-12Bを発現する大腸菌は、IspS(wt)を発現する大腸菌よりも高いイソプレン生産量を示した(
図12)。
以上の結果から、IPK
mutによるDMAOHのリン酸化が与えるDMAPPの過剰蓄積からのレスキュー能を指標とすることによって、活性の高い変異型イソプレン合成酵素が得られた。
【0050】
8.DMAOH抵抗性の進化
得られた変異体プラスミドをIPK
mut発現させた大腸菌XL1 Blueに導入し、そのDMAOH感受性を調べた(
図13)。変異体は、野生型よりも明らかに高いDMAOH抵抗性を示した。再び、IPK
mut発現株の、DMAOH感受性をしらべた。DMAOHの添加量に従って細胞の生存能力は急速に落ちてゆき、この発現系の場合、5 mMのDMAOHで完全に死滅した(
図13濃青線)、野生型IspSの発現している株は、DMAPPの除去活性を持っているので、生存性は高まる(
図13薄青線)。そして今回得られた変異体は(
図13紫・赤線)を発現する株は、明らかにDMAOH耐性を獲得しており、これらの高いDMAOH消費活性(イソプレン合成活性:
図13)を反映している。
活性変異体でも、さらに多くのDMAOHを与えると、細胞増殖は止まってしまう(IC99~12mM)。DMAOH=12 mMに設定すれば、この変異体を親(出発点)にして、より活性の高い2nd generation変異体が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、野生型イソプレン合成酵素と比較してイソプレン合成量が高い変異型イソプレン合成酵素並びに該酵素の変異体のスクリーニング方法を提供することができる。
【配列表】