(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】核酸増幅反応用多層化プレミクス試薬およびReady to use核酸増幅反応キット
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6844 20180101AFI20241004BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20241004BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C12Q1/6844 Z ZNA
C12Q1/686 Z
C12M1/00 A
(21)【出願番号】P 2020102479
(22)【出願日】2020-06-12
【審査請求日】2023-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲桑▼原 正靖
(72)【発明者】
【氏名】藤田 博仁
【審査官】斉藤 貴子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-045279(JP,A)
【文献】特開2007-300899(JP,A)
【文献】特開2004-065199(JP,A)
【文献】FUJITA, Hiroto et al.,Novel One-Tube-One-Step Real-Time Methodology for Rapid Transcriptomic Biomarker Detection: Signal Amplification by Ternary Initiation Complexes,Anal. Chem.,2016年06月27日,Vol. 88,p. 7137-7144
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q
C12M
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応容器と、該反応容器内に収容された核酸増幅反応用試薬を含む核酸増幅反応用キットであって、
前記核酸増幅反応はSATIC法であり、
前記試薬は、核酸ポリメラーゼを含む第1試薬層と、
プライマーオリゴヌクレオチドを含む第2試薬層と
、
前記第1試薬層と前記第2試薬層の間に第1一本鎖環状DNAおよび第2一本鎖環状DNAを含む中間試薬層と、
を含
み、
前記中間試薬層は前記第1試薬層および前記第2試薬層のそれぞれと、0℃未満では固体であるが0~35℃の間で水溶液に溶解する物質で構成される、第一の膜および第二の膜で隔離され、
前記第2試薬層は第1プライマーおよび第2プライマーを含み、
前記各層および前記各膜が、前記第1試薬層上に、前記第1試薬層からみて、前記第一の膜、前記中間試薬層、前記第二の膜、前記第2試薬層の順の積層状態で凍結保存された多層化試薬プレミックスであることを特徴とする、核酸増幅反応用キット。
【請求項2】
中間試薬層はさらに核酸基質および反応緩衝剤を含む、請求項
1に記載の核酸増幅反応用キット。
【請求項3】
前記第1プライマーおよび第2プライマーは担体に固定化されている、請求項
1または
2に記載の核酸増幅反応用キット。
【請求項4】
前記0℃未満では固体であるが0~35℃の間で水溶液に溶解する物質は、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、糖鎖化合物、ポリアミド鎖化合物、または自己組織化能を有する水溶性複素環式化合物である、請求項1~
3のいずれか一項に記載の核酸増幅反応用キット。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか一項に記載の核酸増幅反応用キットを温度制御装置に配置する工程と、核酸含有試料を反応容器内に添加する工程とを含む、核酸含有試料中の核酸の増幅方法。
【請求項6】
核酸増幅反応容器に核酸ポリメラーゼを含む液体を添加して第1試薬層を形成する工程、第1試薬層上に0℃未満では固体であるが0~35℃の間で水溶液に溶解する物質で構成される膜を積層する工程、
0℃未満の温度下で、当該膜上に第1一本鎖環状DNAおよび第2一本鎖環状DNAを含む液体を添加して中間試薬層を形成する工程、
0℃未満の温度下で、中間試薬層上に0℃未満では固体であるが0~35℃の間で水溶液に溶解する物質で構成される膜を積層する工程、ならびに
0℃未満の温度下で、当該膜上に第1プライマーおよび第2プライマーを含む液体を添加して第2試薬層を形成する工程、を含む、反応容器内に多層化試薬プレミックスを収容する、SATIC反応用キットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は核酸増幅反応用多層化プレミクス試薬とそれを含むReady to use核酸増幅反応キットに関する。
【背景技術】
【0002】
PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)やLAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法など遺伝子検査の検査反応液には、プライマーオリゴヌクレオチドやヌクレオシド三リン酸、反応緩衝剤に加え、核酸ポリメラーゼが含有される。反応操作の簡便化のためにこれらの複数を事前に混合したプレミックス試薬やその凍結乾燥試薬も販売されているが、一般的には核酸ポリメラーゼが比較的不安定なため、少なくとも核酸ポリメラーゼとそれ以外に分けて試薬を調製することが好ましい。そして実際に反応液を調製する際には、精密に容量を取り分けられるマイクロピペット等を使用する慎重な操作を要する。これは、ポリメラーゼ(酵素)の量が、検出反応の効率を大きく作用し、時として、擬陽性や偽陰性をもたらすからである。
【0003】
現在、世界的にパンデミックを引き起こしているCOVID-19の感染検査にRT-PCR法が用いられているが、専用の試薬キットを用いれば比較的容易に反応液を調製できるとはいえ、上記理由で、ある程度トレーニングを受けた者による慎重なオペレーションとマイクロピペット等の一般人にとって馴染みのない理化学機材を要するのが現状であり、これは、RT-LAMP法やSATIC法(特許文献1および非特許文献1)等の他の遺伝子検査法でも同様である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Anal. Chem., 2016, 88 (14), pp 7137-7144
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、検体を混合するだけで核酸増幅反応を簡便に行うことのでき、保存安定性に優れた、核酸増幅反応用プレミクス試薬とそれを含むReady to use核酸増幅反応キットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべき鋭意検討を行った。その結果、核酸ポリメラーゼを含む第1試薬層と、プライマーオリゴヌクレオチドセットを含む第2試薬層と、第1試薬層と第2試薬層を隔てる、0℃未満では固体であるが0~35℃の間で水溶液に溶解する物質で構成される膜と、を含む積層状態で凍結保存された多層化試薬プレミックスを開発することに成功し、この多層化試薬プレミックスを容器に収容した核酸増幅反応キットを用いることで、試薬の性能を維持した状態で、核酸増幅反応に基づく遺伝子検査を簡便に実施することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明の要旨は以下の通りである。
[1]反応容器と、該反応容器内に収容された核酸増幅反応用試薬を含む核酸増幅反応用
キットであって、
前記試薬は、核酸ポリメラーゼを含む第1試薬層と、
プライマーオリゴヌクレオチドを含む第2試薬層と、
第1試薬層と第2試薬層を隔てる、0℃未満では固体であるが0~35℃の間で水溶液に溶解する物質で構成される膜と、
を含む積層状態で凍結保存された多層化試薬プレミックスであることを特徴とする、核酸増幅反応用キット。
[2]第2試薬層はさらに核酸基質および反応緩衝剤を含む、[1]に記載の核酸増幅反応用キット。
[3]核酸増幅反応がPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)である、[1]または[2]に記載の核酸増幅反応用キット。
[4]核酸増幅反応がLAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法である、[1]または[2]に記載の核酸増幅反応用キット。
[5]核酸増幅反応がSATIC法であり、第2試薬層は第1プライマーおよび第2プライマーを含み、さらに、第1試薬層と第2試薬層の間に第1一本鎖環状DNAおよび第2一本鎖環状DNAを含む中間試薬層を含み、当該中間試薬層は第1試薬層および第2試薬層のそれぞれと、0℃未満では固体であるが0~35℃の間で水溶液に溶解する物質で構成される膜で隔離されている、[1]に記載の核酸増幅反応用キット。
[6]中間試薬層はさらに核酸基質および反応緩衝剤を含む、[5]に記載の核酸増幅反応用キット。
[7]前記第1プライマーおよび第2プライマーは担体に固定化されている、[5]または[6]に記載の核酸増幅反応用キット。
[8]前記0℃未満では固体であるが0~35℃の間で水溶液に溶解する物質は、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、糖鎖化合物、ポリアミド鎖化合物、または自己組織化能を有する水溶性複素環式化合物である、[1]~[7]のいずれかに記載の核酸増幅反応用キット。
[9][1]~[8]のいずれかに記載の核酸増幅反応用キットを温度制御装置に配置する工程と、核酸含有試料を反応容器内に添加する工程とを含む、核酸含有試料中の核酸の増幅方法。
[10]核酸増幅反応容器に核酸ポリメラーゼを含む液体を添加して第1試薬層を形成する工程、
第1試薬層上に0℃未満では固体であるが0~35℃の間で水溶液に溶解する物質で構成される膜を積層する工程、および
0℃未満の温度下で、前記膜上にプライマーオリゴヌクレオチドを含む液体を添加して第2試薬層を形成する工程、を含む、反応容器内に多層化試薬プレミックスを収容する、核酸増幅反応用キットの製造方法。
[11]前記核酸増幅反応がPCRまたはLAMP法である、[10]に記載の核酸増幅反応用キットの製造方法。
[12]核酸増幅反応容器に核酸ポリメラーゼを含む液体を添加して第1試薬層を形成する工程、
第1試薬層上に0℃未満では固体であるが0~35℃の間で水溶液に溶解する物質で構成される膜を積層する工程、
0℃未満の温度下で、当該膜上に第1一本鎖環状DNAおよび第2一本鎖環状DNAを含む液体を添加して中間試薬層を形成する工程、
0℃未満の温度下で、中間試薬層上に0℃未満では固体であるが0~35℃の間で水溶液に溶解する物質で構成される膜を積層する工程、
0℃未満の温度下で、当該膜上に第1プライマーおよび第2プライマーを含む液体を添加して第2試薬層を形成する工程、を含む、反応容器内に多層化試薬プレミックスを収容する、SATIC反応用キットの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、検体をプレミックスに加えるだけで核酸増幅反応を簡便に行うことができるので、複数回のマイクロピペット等による操作が必要とせず、特別な技能を持たない一般人でも取り扱いが可能となるとともに、PCR検査等、遺伝子検査のスループットを大幅に向上できる。そして、操作を大幅に簡略化できるため、コンタミネーションによる擬陽性や、試薬の入れ忘れ等による偽陰性を大幅に低減できる。また、反応直前まで核酸ポリメラーゼとプライマーオリゴヌクレオチド等が混合されないので、試薬劣化等の問題がなく、保存安定性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】多層化試薬プレミックスの第一の態様の模式図。
【
図1B】多層化試薬プレミックスの第二の態様(中間層を含む場合)の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<核酸増幅反応用キット>
本発明の核酸増幅反応用キットは、
反応容器と、該反応容器内に収容された核酸増幅反応用試薬を含む核酸増幅反応用キットであって、
前記試薬は、核酸ポリメラーゼを含む第1試薬層と、
プライマーオリゴヌクレオチドを含む第2試薬層と、
第1試薬層と第2試薬層を隔てる、0℃未満では固体であるが0~35℃の間で水溶液に溶解する物質で構成される膜と、
を含む積層状態で凍結(0℃未満、例えば-10℃~-30℃)保存された多層化試薬プレミックスであることを特徴とする。
【0012】
核酸増幅反応としては、標的核酸にプライマーをハイブリダイズさせ、そこから核酸ポリメラーゼによってポリヌクレオチド鎖を伸長させる反応であればよく、PCR、LAMP法、SATIC法、SmartAmp法などが挙げられるがこれらには限定されず、本発明のキットは幅広く核酸増幅反応に利用できる。
【0013】
本発明の核酸増幅反応用キットでは、反応容器内に収容された核酸増幅反応用試薬において、核酸ポリメラーゼを含む第1試薬層とプライマーオリゴヌクレオチドを含む第2試薬層とが「少なくとも0℃未満では固体であるが0~35℃の間で水溶液に溶解する物質で構成される膜」を介して分離されている(
図1A)。
【0014】
この膜に上記物質を用いることにより、凍結保存時には、核酸ポリメラーゼとプライマーオリゴヌクレオチド等が分離された状態にあり、使用時に試薬を解凍し、温度を上げていく途中で0℃から35℃の間で当該膜が第1試薬層および第2試薬層の水溶液に溶解してそれらが混合されることで(
図1A)、反応液が自動的に調製され、そこに検体(核酸含有試料)を添加し、反応容器を反応温度にセットするだけで核酸増幅反応を進行させることができる。
【0015】
当該物質としては、少なくとも0℃未満では固体であるが0~35℃(好ましくは10~30℃)の間で水溶液に溶解する物質であればよいが、ポリメラーゼ反応に干渉しない物質が好ましく、具体的には、所定範囲(600~8000、好ましくは1000~6000)の分子量を有するポリエチレングリコール(例えばPEG1000またはその代替物(分子
量の異なるPEG、分岐PEGおよびそれらの混合物)、ポリビニルアルコール、デンプン・セルロース・アガロース・デキストラン・デキストリン・オリゴ糖などの分岐していてもよい糖鎖化合物およびそれらの混合物、ポリ(オリゴ)リシン・ポリ(オリゴ)グルタミン酸・コラーゲンなどの分岐していてもよいポリアミド鎖化合物およびそれらの混合物、メラミン・グアニンなどの自己組織化能を有する水溶性複素環式化合物などが挙げられる。
【0016】
第1試薬層は核酸ポリメラーゼを含む水溶液である。核酸ポリメラーゼはDNAポリメラーゼであってもよいし、RNAポリメラーゼであってもよい。DNAポリメラーゼは目的とする反応によって任意に選択することができるが、耐熱性DNAポリメラーゼ(TaqやPfuなど)、鎖置換型DNAポリメラーゼ、逆転写酵素などが例示される。鎖置換型DNAポリメラーゼとしては、phi29 polymerase、Klenow DNA Polymerase (5'-3', 3'-5' exo minus)、Aac DNA Polymerase、Sequenase(登録商標)Version 2.0 T7 DNA Polymerase (USB社)、Bsu DNA Polymerase, Large Fragment (NEB社)などの中温性の鎖置換型DNAポリメラーゼや、Bst DNA Polymerase (Large Fragment) 、Bsm DNA Polymerase, Large Fragment (Fermentas社)、BcaBEST DNA polymerase (TakaraBio社)、Vent DNA polymerase (NEB社)、Deep Vent DNA polymerase (NEB社)、DisplaceAce (登録商標) DNA Polymerase (Epicentre社)等の耐熱性の鎖置換型DNAポリメラーゼなどが挙げられる。
【0017】
例えば、PCRには耐熱性DNAポリメラーゼが使用でき、LAMP法やSATIC法には鎖置換型DNAポリメラーゼが使用できる。
核酸ポリメラーゼの含有量は核酸増幅反応に必要な量であれば特に制限はなく、酵素の比活性などに応じて必要量含有させればよい。核酸ポリメラーゼは2種類以上組み合わせてもよい。
第1試薬層は核酸ポリメラーゼを安定化させるためにグリセロールなどの安定化剤を含んでもよい。
【0018】
第2試薬層はプライマーオリゴヌクレオチドを含む水溶液である。プライマーオリゴヌクレオチドは核酸増幅反応の種類によって必要な数のプライマーオリゴヌクレオチドを使用することができる。例えば、PCRのためには標的核酸の目的部位を増幅するためのフォワードプライマーとリバースプライマーのセットであればよいが、nested PCRなどでは3種類以上のプライマーオリゴヌクレオチドを含有させることもできる。
また、LAMP法(参考文献:LAMP法の原理と応用 モダンメディア60巻、7号、2014年、p211-213)では、FIP、BIP、F3プライマー、B3プライマーの4種類でもよいし、FIP、BIP、Loop プライマーB、Loop プライマーFの4種類でもよいし、FIP、BIP、F3プライマー、B3プライマー、Loop プライマーB、Loop プライマーFの6種類でもよい。
また、SmartAmp法(参考文献:PLoS ONE, 2012, doi:10.1371/journal.pone.0030236)では、TP、FP、OP、BPの4種類でもよい。
また、SATIC法では、後述のような、第1プライマーと第2プライマーの2種類でもよい。
なお、RNAポリメラーゼ反応や逆転写反応の場合はプライマーは1種類でもよい。
【0019】
第2試薬層はさらに核酸基質(デオキシヌクレオシド3リン酸など)および反応緩衝剤を含んでもよい。反応緩衝剤は酵素に応じて適宜選択できる。
また、第2試薬層はさらに塩や界面活性剤、発色試薬や発光試薬などの検出試薬などを含んでもよい。
プライマー、核酸基質などの濃度は最終的な反応液の容量を考慮して適宜調整すればよい。
なお、SATIC法用プレミックスにおいて、後述のように、中間試薬層を設ける場合は、中間試薬層に核酸基質(デオキシヌクレオシド3リン酸など)および反応緩衝剤、さらには塩や界面活性剤、発色試薬や発光試薬などの検出試薬などを含有させてもよい。
【0020】
なお、第1試薬層と第2試薬層はどちらが上層でもよいが、第1試薬層を下層とすることが好ましい。
【0021】
以下、SATIC法について説明する。
SATIC法は、特許文献1に開示されている一本鎖環状DNAとプライマーを用い、標的(鋳型)核酸と一本鎖環状DNAとプライマーの三者複合体を形成させ、等温(37℃)で核酸を増幅させる方法であり、好ましくは以下で説明する第1および第2の一本鎖環状DNAと第1および第2のプライマーを用いる方法を意味する。
【0022】
好ましいSATIC法の態様においては、
(i)標的核酸の第1の部位に相補的な10~30塩基の配列と、
該配列の5’側に隣接した、7~8塩基の第1プライマー結合配列と、
第2一本鎖環状DNA結合配列と、
を含む第1一本鎖環状DNAと、
(ii)標的核酸の、第1の部位の3’側に隣接した第2の部位に相補的な8~15塩基の配列と、
該配列の3’側に隣接した、第1一本鎖環状DNAの第1プライマー結合部位に相補的な7~8塩基の配列と、
を含む第1のオリゴヌクレオチドプライマーと、
(iii)第1一本鎖環状DNAの第2一本鎖環状DNA結合配列と同一の配列と、
該配列の5’側に隣接した、第2プライマー結合配列と、
を含む、第2一本鎖環状DNAと、
(iv)第1一本鎖環状DNAの第2一本鎖環状DNA結合配列の5’側に隣接した部位と同一の配列と、
該配列の3’側に隣接した、第2一本鎖環状DNAの第2プライマー結合配列に相補的な配列と、
を含む、第2のオリゴヌクレオチドプライマーと、
が使用され、
より好ましくは、
前記第1のオリゴヌクレオチドプライマーは、その5’末端を介して、担体と結合しており、
前記第2のオリゴヌクレオチドプライマーは、その5’末端を介して、前記第1のオリゴヌクレオチドプライマーが結合している前記担体と結合している。
【0023】
<第1一本鎖環状DNA>
第1一本鎖環状DNAは、標的核酸の第1の部位に相補的な10~30塩基の配列と、
該配列の5’側に隣接した、7~8塩基のプライマー結合配列と、
第2一本鎖環状DNA結合配列と、
を含む。
【0024】
SATIC法について、
図2を参照して説明する。ただし、一本鎖環状DNAでは、時計回りに5’→3’である。また、
図2では、便宜上、担体は記載していない。
第1一本鎖環状DNA20は標的核酸21の第1の部位211に相補的な配列201と、その5’側に連結したプライマー結合配列202と、第2一本鎖環状DNA結合配列203を含む。
配列201の長さは、通常、10~30塩基であり、好ましくは15~25塩基であり、GC含量は好ましくは30~70%である。配列202の長さは7塩基または8塩基であり、配列は特に制限されないが、GC含量は好ましくは30~70%である。第1一本鎖環状DNA20全体の長さは、好ましくは35~100塩基である。
【0025】
第1一本鎖環状DNA20は、一本鎖DNA(ssDNA)を環状化することによって得ることができる。一本鎖DNAの環状化は、任意の手段によって行うことができるが、例えば、CircLigase(登録商標)、CircLigase II(登録商標)、ssDNA Ligase(Epicentre社)、ThermoPhage ligase(登録商標) single-stranded DNA(Prokzyme社)を用いて行うことができる。
【0026】
<第1オリゴヌクレオチドプライマー>
第1オリゴヌクレオチドプライマー22は、標的核酸21の、第1の部位211の3’側に隣接した第2の部位212に相補的な8~15塩基の配列221と、その3’側に連結された、第1一本鎖環状DNA20のプライマー結合部位202に相補的な7~8塩基の配列222と、を含む。
【0027】
第1のオリゴヌクレオチドプライマー22は、その5’末端を介して、担体と結合している。
第1のオリゴヌクレオチドプライマー22の5’末端として、例えば、ビオチン、アミノ基、アルデヒド基、又はSH基で修飾されたものなどが挙げられる。担体としては、これらのそれぞれと結合できる担体が挙げられ、例えば、アビジン(その誘導体、すなわち、例えば、ストレプトアビジン、ニュートラビジンなどを含む。)が固定されている担体、また、アミノ基、アルデヒド基、エポキシ基などを有するシランカップリング剤で表面処理された担体などが挙げられる。固定化は常法に従えばよい。
【0028】
担体は、第1のオリゴヌクレオチドプライマー22と後述する第2オリゴヌクレオチドプライマー25とを近傍に固定できるものが好ましい。両者が近傍に存在することで、第1オリゴヌクレオチドプライマー22から第1増幅産物23が増幅される段階と、第2オリゴヌクレオチドプライマー25から第2増幅産物26が増幅される段階とが、溶液中に遊離の状態にある2種類のプライマーを用いた場合と比較して、効率的に行われ、結果として検出感度の著しい向上が達せられるからである。
【0029】
好ましい担体として、例えばビーズや、センサー等で用いる基板のような平面担体が挙げられる。ビーズとは、粒子状の不溶性担体であり、その平均粒径は例えば10 nm~100 μmであり、好ましくは30nm~10μmであり、より好ましくは30nm~1μm、さらに好ましくは30nm~500nmである。ビーズの材質は特に限定されない。例えば、磁性体(フェライトやマグネタイトなどの酸化鉄、酸化クロム、コバルトなどの磁性材料)、シリカ、アガロース、セファロースなどが挙げられる。磁性体ビーズは、「磁気ビーズ」と称されることがある。また、金コロイドなどの金属コロイド粒子も使用できる。
【0030】
<第2一本鎖環状DNA>
第2一本鎖環状DNA24は、第1一本鎖環状DNA20の第2一本鎖環状DNA結合配列203と同一の配列241と、
該配列の5’側に隣接した、第2プライマー結合配列242と、
を含む。
配列203の長さは、通常、10~30塩基であり、好ましくは15~25塩基であり、GC含量は好ましくは30~70%である。配列242の長さは7塩基または8塩基であり、配列は特に制限されないが、GC含量は好ましくは30~70%である。配列242の長さは7塩基または8塩基であり、配列は特に制限されないが、GC含量は好ましくは30~70%である。第2一本鎖環状DNA24全体の長さは、好ましくは35~100塩基である。第2一本鎖環状DNA24は上述した方法で、一本鎖DNA(ssDNA)を環状化することによって得ることができる。
【0031】
第2一本鎖環状DNA24は、検出用試薬結合配列に相補的な配列を含むことが好ましい。該検出用試薬結合配列としては、例えばグアニン四重鎖形成配列が挙げられる。
グアニン四重鎖形成配列としては、Nat Rev Drug Discov. 2011 Apr; 10(4): 261-275.に記載されたような配列が挙げられ、G3N1-10G3N1-10G3N1-10G3で表されるが、具体的には、特許文献1に記載の配列などが例示される。よって、グアニン四重鎖形成配列に相補的な配列243としては、C3N1-10C3N1-10C3N1-10C3が例示される。すなわち、連続する3つのCが、1~10個(好ましくは1~5個)の任意の塩基(N=A,T,GまたはC)からなる配列をスペーサーとして、4回繰り返される配列である。
【0032】
なお、
図2では、第2一本鎖環状DNA24がグアニン四重鎖形成配列に相補的な配列243を含む場合について説明したが、第2一本鎖環状DNA24はこのほかにも、例えば、検出試薬結合配列をアプタマー配列もしくは分子ビーコン(FRETを生じさせる蛍光基(ドナー)と消光基(アクセプター)を有するヘアピン状のオリゴヌクレオチド)結合配列とし、検出試薬として、アプタマー結合性発色分子もしくは分子ビーコンを用いて検出することも可能である(ChemBioChem 2007, 8, 1795-1803;J. Am. Chem. Soc. 2013, 135, 7430-7433)。
【0033】
<第2オリゴヌクレオチドプライマー>
第2オリゴヌクレオチドプライマー25は、第1一本鎖環状DNA20の第2一本鎖環状DNA結合配列203の5’側に隣接した部位204と同一の配列251(好ましくは8~15塩基の配列)と、
該配列の3’側に隣接した、第2一本鎖環状DNA24の第2プライマー結合配列242に相補的な配列252(好ましくは7~8塩基の配列)と、
を含む。
【0034】
第2のオリゴヌクレオチドプライマー25は、その5’末端を介して、第1のオリゴヌクレオチドプライマー22が結合している前記担体と結合している。
すなわち、第1のオリゴヌクレオチドプライマー22は、その5’末端がビオチンで修飾されており、該ビオチンを介して、アビジンが固定されている担体と結合しており、第2のオリゴヌクレオチドプライマー25は、その5’末端がビオチンで修飾されており、該ビオチンを介して、第1のオリゴヌクレオチドプライマー22が結合している前記担体と結合していることが好ましい。
【0035】
担体に固定化された、第1オリゴヌクレオチドプライマー22と第2オリゴヌクレオチドプライマー25の量比は、モル比で、好ましくは1:10~1:100であり、より好ましくは1:10~1:30であり、さらに好ましくは1:10~1:25である。
【0036】
増幅反応時(使用時)の第1オリゴヌクレオチドプライマー22の濃度は、モル比で、好ましくは0.0025 pmol/μL以上、より好ましくは0.005 pmol/μL以上であり、一方で、好ましくは0.04 pmol/μL以下、より好ましくは0.02 pmol/μL以下である。
また、増幅反応時(使用時)の第2オリゴヌクレオチドプライマー25の濃度は、モル比で、好ましくは0.0125 pmol/μL以上、より好ましくは0.025 pmol/μL以上であり、一方で、0.8 pmol/μL以下、より好ましくは0.4 pmol/μL以下である。
【0037】
増幅反応時(使用時)の第1一本鎖環状DNA20と第2一本鎖環状DNA24の量比は、モル比で、好ましくは1:2~1:1000、より好ましくは1:3~1:500、さらに好ましくは1:4~1:400である。
また、増幅反応時(使用時)の第1一本鎖環状DNA20の濃度は、下限が例えば0.1nM以上、1nM以上、10nM以上、50nM以上であり、一方で、上限が例えば500nM以下、200nM以下である。
また、増幅反応時(使用時)の第2一本鎖環状DNA24の濃度は、下限が例えば20nM以上、40nM以上、100nM以上、200nM以上であり、一方で、上限が例えば1000nM以下、500nM以下である。
【0038】
<増幅方法>
図2に示されるように、まず、標的核酸21に第1一本鎖環状DNA20およびプライマー22をハイブリダイズさせて三者の複合体を形成させた後、ローリングサークル増幅(RCA)法によって標的核酸21に基づく核酸増幅反応を行う。
【0039】
ハイブリダイゼーションの条件は、当業者であれば、一本鎖環状DNA20と標的核酸21とプライマーの組み合わせを検討し、適宜設定できる。
【0040】
RCA法はLizardi et al., Nature Genet. 19: 225-232 (1998);米国特許第5,854,033号及び同第6,143,495号;PCT出願WO97/19193などに記載されている。RCA法は、例えば、上述したようなphi29 DNA polymeraseなどの鎖置換型DNAポリメラーゼを用いることで行うことができる。
【0041】
RCAによるDNAの伸長反応は、例えば、25℃~65℃の範囲の一定の温度において実施される。反応温度は、酵素の至適温度とプライマー鎖長に基づく変性温度(プライマーがDNAに結合(アニール)/解離する温度帯)に基づいて通常の手順により適宜設定される。さらに、一定の比較的低温においても実施される。例えば、鎖置換型DNA合成酵素としてphi29DNAポリメラーゼを使用する場合は、好ましくは25℃~42℃、より好ましくは約30~37℃で反応する。
【0042】
RCAによって、標的核酸21依存的に、プライマー22から第1一本鎖環状DNA20に沿って第1増幅産物23が増幅される。
【0043】
増幅産物23は、第1一本鎖環状DNA20の第2一本鎖環状DNA結合配列203に相補的な配列233を含むため、この配列203と同一の配列241を含む第2一本鎖環状DNA24は、第1増幅産物23の配列233に、配列241を介してハイブリダイズする。
このようにしてできた、第1増幅産物23と、第2一本鎖環状DNA24の複合体に、第2オリゴヌクレオチドプライマー25がハイブリダイズして三者の複合体ができる。
【0044】
すなわち、第2オリゴヌクレオチドプライマー25は、第1一本鎖環状DNA20の第2一本鎖環状DNA結合配列203の5’側に隣接した部位204と同一の配列251を有するので、第1増幅産物23の、第1一本鎖環状DNA20の部位204に相補的な領域234に、配列251を介してハイブリダイズする。
【0045】
また、第2オリゴヌクレオチドプライマー25は、配列251の3’側に、第2一本鎖環状DNA24の第2プライマー結合配列242に相補的な配列252を有するので、第2一本鎖環状DNA24にも配列252を介してハイブリダイズする。
【0046】
この第1増幅産物23と、第2一本鎖環状DNA24と、第2オリゴヌクレオチドプライマー25との三者複合体から、RCAにより、第2増幅産物26が増幅される。第2増幅産物26は、例えばグアニン四重鎖を含む配列261を含んでおり、グアニン四重鎖検出試薬262によって検出される。第1増幅産物23に含まれる領域231のそれぞれに第2一本鎖環状DNA24がハイブリダイズしてRCA反応が起こる。
【0047】
第1オリゴヌクレオチドプライマー22と第2オリゴヌクレオチドプライマー25が同一担体上に固定化されることにより、第1オリゴヌクレオチドプライマー22から第1増幅
産物23が増幅される段階と、第2オリゴヌクレオチドプライマー25から第2増幅産物26が増幅される段階とが、近傍で行われるため、検出感度の著しい向上が達せられる。
【0048】
第2一本鎖環状DNA24が検出用試薬結合配列に相補的な配列を含むことにより、RCAによって得られる第2増幅産物26には検出用試薬結合配列が含まれる。該検出用試薬結合配列がグアニン四重鎖形成配列等である場合には、RCAによって得られる増幅産物は、グアニン四重鎖結合試薬を用いて検出することができる。グアニン四重鎖結合試薬としては、特許文献1に開示されたチオフラビンT(ThT)またはその誘導体などが挙げられる。
【0049】
また、以下のPEG鎖を含むThT誘導体(ThT-PEG)を使用することもできる。
ここで、R
5はアミノ基、水酸基、アルキル基、またはカルボキシル基であり、nは4~50の整数であり、好ましくは5~20の整数であり、より好ましくは8~15の整数であり、特に好ましくは11である。ThT-PEGとしては、R
5がアミノ基の化合物がより好ましい。
【化1】
【0050】
以下のThTがPEG鎖で連結されたThT誘導体(ThT-PEG-ThT)を使用することもできる。
ここで、nは4~50の整数であり、好ましくは5~20の整数であり、より好ましくは8~15の整数であり、特に好ましくは11である。また、ThT-PEG-ThTのPEG鎖はスペルミンリンカーで置換されてもよい。
【化2】
【0051】
検出は、例えば、ThT誘導体と、RCA産物を含む試料を接触させ、グアニン四重鎖構造に結合したThT誘導体を、ThT誘導体が発する蛍光に基づいて検出することにより、被検DNA中のグアニン四重鎖構造を検出することができる。ThT誘導体はあらかじめ反応液に添加されていることが好ましい。
【0052】
なお、グアニン四重鎖結合試薬としてThT-PEGやThT-PEG-ThTを使用する場合には、RCA産物にThT-PEGまたはThT-PEG-ThTが結合すると特異的な凝集が起こるため、その凝集を目視で観察することによって蛍光検出装置を用いなくとも簡便にRCA増幅の有無を確認できる。なお、ThT-PEGとThT-PEG-ThTを同時に使用してもよい。ThT-PEGまたはThT-PEG-ThTの濃度は例えば、5~50μM、好ましくは5~20μMである。
【0053】
SATIC法用の試薬プレミックスは、第1試薬層にphi29 DNA polymeraseなどの核酸ポリメラーゼが含まれ、第2試薬層にそれ以外の試薬、すなわち、第1および第2のプライマー、第1および第2の環状DNAさらにはdNTPや緩衝剤や検出試薬(ThT-PEGなど)が含まれてもよいが、第2試薬層が第1プライマーと第2プライマーを含むとき、第1および第2の環状DNAさらにはdNTPや緩衝剤や検出試薬(ThT-PEGなど)を含む中間試薬層を第1試薬層と第2試薬層の間に、それぞれ前記PEGなどの少なくとも0℃未満では固体であるが0~35℃の間で水溶液に溶解する物質で構成される膜で隔離して設けてもよい(
図1B)。そして、第2試薬層に含まれる第1プライマーと第2プライマーは同一の担体に固定化されていてもよい。
【0054】
<核酸増幅方法>
本発明の核酸増幅反応用キットを使用して核酸増幅反応を行うには、核酸増幅反応用キットを温度制御装置に配置する工程と、核酸含有試料を反応容器内に添加する工程を行えばよい。
温度制御装置に配置する工程と、核酸含有試料を反応容器内に添加する工程はいずれを先に行ってもよい。
温度制御装置としては、PCRの場合はサーマルサイクラーが挙げられ、LAMP法やSATIC法などの等温増幅法の場合は恒温装置(槽)が挙げられる。
【0055】
<核酸増幅反応用キットの製造方法>
本発明の核酸増幅反応用キットは、核酸増幅反応容器に核酸ポリメラーゼを含む液体(水溶液)を添加して第1試薬層を形成する工程、
第1試薬層上に0℃未満では固体であり0~35℃で水溶液に溶解する物質で構成される膜を積層する工程、
0℃未満の温度下で、すなわち、前記膜が溶解しない状態で、前記物質の膜上にプライマーオリゴヌクレオチド等を含む液体(水溶液)を添加して第2試薬層を形成する工程、により製造することができる。
なお、第1試薬層が上層に配置される場合は、第2試薬層を先に形成し、その上に、膜を積層し、さらに第2試薬層を形成してもよい。
【0056】
反応容器としては、エッペンドルフチューブのような反応チューブ(マイクロチューブ)でもよいし、マルチウェルプレートのような容器でもよい。
【0057】
第1試薬層の上に、0℃未満では固体であり0~35℃で水溶液に溶解する物質で構成される膜を積層するには、当該物質を適当な溶媒に溶解し、溶解液を第1試薬層の上に積層し、真空乾燥などにより、溶媒を揮発させる方法が挙げられる。溶媒は物質の種類によって適宜選択できるが、有機溶媒が好ましい。積層法は特に制限されないが、薄膜を形成するためにはスプレー法が好ましい。当該物質の濃度は、膜が溶解したときに、核酸増幅反応系の終濃度として3~20w/v%となるような濃度が好ましく、5~12w/v%となるような濃度がより好ましい。
【0058】
その後、当該膜が水に溶解しない温度、好ましくは0℃未満(例えば、氷上)に反応容器を置き、膜上に、プライマーオリゴヌクレオチド等を含む水溶液を添加することで第2試薬層を形成することができる。
【0059】
そして、得られた多層化プレミックス試薬を含む核酸増幅反応キットを膜が溶解しない程度の低温、好ましくは0℃未満(例えば、-10~-30℃)に凍結した状態で使用時まで保存することができる。
【0060】
なお、SATIC法用に、核酸ポリメラーゼを含む第1試薬層と、第1および第2プライマーを含む第2試薬層と、これらの間に位置し、第1試薬層および第2試薬層のそれぞれと上記物質の膜を介して配置された、ポリヌクレオチドプライマー等を含む中間試薬層を含む多層化プレミックス試薬を製造する場合は、以下のような工程を行うことで製造することができる。
【0061】
核酸増幅反応容器に核酸ポリメラーゼを含む液体を添加して第1試薬層を形成する工程、第1試薬層上に0℃未満では固体であるが0~35℃の間で水溶液に溶解する物質で構成される膜を積層する工程、
0℃未満の温度下で、当該膜上に第1一本鎖環状DNAおよび第2一本鎖環状DNAを含む液体を添加して中間試薬層を形成する工程、
0℃未満の温度下で、中間試薬層上に0℃未満では固体であるが0~35℃の間で水溶液に溶解する物質で構成される膜を積層する工程、ならびに
0℃未満の温度下で、当該膜上に第1プライマーおよび第2プライマーを含む液体を添加して第2試薬層を形成する工程。
【0062】
それぞれの膜を積層する工程は、上述したのと同様にすることができる。
また、中間試薬層や第2試薬層の積層方法も上記で述べたのと同様にすることができる。なお、第1プライマーおよび第2プライマーが担体に固定化されているときは、当該担体を含む懸濁液を積層すればよい。
【実施例】
【0063】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例の態様には限
定されない。
【0064】
実施例1. 多層化プレミックスの作製と検証(SATIC法)
1-1) プライマー固定化ナノ粒子の調製
a) ビオチン化プライマーの調製
ビオチン化プライマー(P1-1(ターゲット領域1に対応))とビオチン化プライマー(P2)を1×φ29 DNA polymerase reaction bufferに溶解させ、P1(1μM)、P2(20μM)のP1・P2混合溶液を調製した。
b) ナノ粒子の使用前の準備・洗浄
FGビーズ(FG beads streptavidin)をよくボルテックスし、均一な粒子になるまで撹拌し、40μLすくいとり、1.5 mLのエッペンドルフ社製チューブに入れた。
磁気ラック(磁石のついたチューブたて)にチューブをセットして、磁気ビーズと上清を分離した(5 分)。上清を抜き取り、1×φ29 DNA polymerase reaction bufferを40μL加えてピペッティングした。
上記操作をさらに2回行った。
c) ナノ粒子にプライマーを固定化・洗浄
磁気ラック(磁石のついたチューブたて)にチューブをセットして、磁気ビーズと上清を分離した(5 分)。上清を抜きとった。
洗浄したFGビーズに上記P1・P2混合溶液4μLを加えた。
25°C、30分間インキュベーションした。その際、5分おきにボルテックスを行った。
磁気ラック(磁石のついたチューブたて)にチューブをセットして、磁気ビーズと上清を分離した(5 分)。上清を抜き取り、1×φ29 DNA polymerase reaction bufferを40μL加えてピペッティングした。
上記操作をさらに2回行った。
磁気ラック(磁石のついたチューブたて)にチューブをセットして、磁気ビーズと上清を分離した(5 分)。上清を抜き取り、水を40μL加えてピペッティングした。
上記操作をさらに2回行った。これを使用するまで冷蔵保存した。
プレミックスの作製時に磁気ラック(磁石のついたチューブたて)にチューブをセットして、磁気ビーズと上清を分離した(5 分)。上清を抜き取った。その後、加熱溶解したPEG1000 20μLと10μg/μL BSA 20μLを加えた(液2)。
【0065】
1-2)多層化プレミックスの作製
i.チューブの底に1μLの10U/μLのφ29 DNA polymeraseを入れた。
ii.チューブ上から0.5g/mL PEG 1000 ジクロロメタン溶液を霧吹で吹きかけた。(ポリメラーゼの上にPEG1000をコーティングし層を作る)
iii.チューブ冷やしながら(0℃)真空乾燥させた(5分)。
iv.チューブを-21℃に冷却した。チューブを氷上で冷却しながらiiの上に冷却した液1を加えた。43μLを加えた。
v.チューブを-21℃に冷却した(液1を氷結させる)。
vi. チューブを冷やしながら(0℃)、チューブ上から0.5g/mL PEG 1000 ジクロロメタン溶液を霧吹で吹きかけた。(氷結した液1の上にPEG1000をコーティングし層を作る)
vii. 液2を1μL丁寧にPEG1000の層の上に加えた。
viii. これをSATICプレミックス試薬とし冷凍保管した。
【0066】
【0067】
1-3) プライマー固定化ナノ粒子を用いた反応
SATICプレミックス試薬に、さらにターゲットDNA(精製した1kbp DNA断片(10pM)または、細胞破砕液)を5μL加えた。
37°C、1500rpmの振動で20分反応させた。
【0068】
【0069】
1-4) 目視による観察
ナノ粒子の変化を目視で観察した。
【0070】
結果
SATIC反応で冷凍凍結したプレミックス試薬を用いたところターゲットDNAを特異的に検出した(
図3)。
【0071】
実施例2. 多層化プレミックスの作製と検証(PCR用)
2-1)多層化プレミックスの作製
i.チューブの底に1μLの5U/μLのTaq DNA polymeraseを入れた。
ii.チューブ上から0.5g/mL PEG 1000 ジクロロメタン溶液を霧吹で吹きかけた。(ポリメラーゼの上にPEG1000をコーティングし層を作る)
iii.チューブ冷やしながら(0℃)真空乾燥させた(5分)。
iv.チューブを-21℃に冷却した。チューブを氷上で冷却しながらiiの上に冷却した液3を加えた。44μLを加えた。チューブを-21℃に冷却した(液3を氷結させる)。
v.これをPCRプレミックス試薬とし冷凍保管した。
【0072】
【0073】
2-2) PCR反応
PCRプレミックス試薬に、ターゲットDNA(精製した1kbp DNA断片(10pM)または、細胞破砕液)を5μL加えた(陰性対照には水を5μL加えた)。
PCRサイクルを行なった
1. 95℃ 5min
2. 95℃ 0.5min
3. 62℃ 0.5min
4. 72℃ 2min
2→4のサイクルを28回
5. 72℃ 5min
【0074】
【0075】
2-3) アガロース電気泳動
アガロース電気泳動でPCR産物の観察をした。
【0076】
結果:
冷凍凍結したプレミックス試薬を用いたところ1kbpのPCR産物が得られた(
図4)。
【0077】
実施例3. 多層化プレミックスの作製と検証(LAMP法)
3-1)多層化プレミックスの作製
i.チューブの底に1μLの1.6U/μLのBst3.0 DNA polymeraseを入れた。
ii.チューブ上から0.5g/mL PEG 1000 ジクロロメタン溶液を霧吹で吹きかけた。(ポリメラーゼの上にPEG1000をコーティングし層を作る)
iii.チューブ冷やしながら(0℃)真空乾燥させた(5分)。
iv.チューブを-21℃に冷却した。チューブを氷上で冷却しながらiiの上に冷却した液4を加えた。44μLを加えた。チューブを-21℃に冷却した(液4を氷結させる)。
v. これをLAMPプレミックス試薬とし冷凍保管した。
【0078】
【0079】
3-2) LAMP反応
LAMPプレミックス試薬に、ターゲットDNA(精製した1kbp DNA断片(10pM)または、細胞破砕液)を5μL加えた。
60°C、30分反応させた。
【0080】
【0081】
3-3) 目視による観察
HNBの呈色変化を目視で観察した。
【0082】
結果:
LAMP反応で冷凍凍結したプレミックス試薬を用いたところターゲットDNAを特異的に検出した(
図5)。
【0083】
使用した鋳型DNAおよびプライマー等の配列
精製した1kbp DNA断片:
TTGTCTACAGACTTTGCAGACTGATGTGATTCCCTCTGAAACTTGAATTATTTGGTTTCTAAAAAAGTCTCTTTTTTTCTTTCCAAAGTAAAAGACAAATAGGCCGGGAATGTAAATTTAGCATTTGAGCAACCATTATTTAACCAGCTAGGCTGTAATTGTTAATTCGAGATTAATGTAAAAGTGATGTGTTGATTTTATGCATGCCAAACTCTTTTTTGCTTTTAAGGGAATTCATAGGTAAGATATTACTTAAAATTTCTAAACTATTATTATCTGTTAACAAATATGAAGTGTTTTATATCTAATGTTTACTCATATTTTAAAATTGTTTCCAATCATTTAGCTTCACCCTGTGATCCCACTTTCATCCTGGGCTGTGCTCCCTGCAATGTGATCTGCTCCATTATTTTCCAGAAACGTTTCGATTATAAAGATCAGCAATTTCTTAACTTGATGGAAAAATTGAATGAAAACATCAGGATTGTAAGCACCCCCTGGATCCAGGTAAGGCCAAGTTTTTTGCTTCCTGAGAAACCACTTACAGTCTTTTTTTCTGGGAAATCCAAAATTCTATATTGACCAAGCCCTGAAGTACATTTTTGAATACTACAGTCTTGCCTAGACAGCCATGGGGTGAATATCTGGAAAAGATGGCAAAGTTCTTTATTTTATGCACAGGAAATGAATATCCCAATATAGATCAGGCTTCTAAGCCCATTAGCTCCCTGATCAGTGTTTTTTCCACTAAACTCCAAAGCCCTGTTTCTATAAAGTACTTTGGTGACAGCCCCAAAGCGTGCTTATATCACTCCATGGACATCCAGGCACTTTGGAGTCTTCCATTACTCACAAGGCTTGTCCTTCAATTCACACTTTGTCATATTGTGTGACAGAAATATCCTAATCTAAAAGACATTATCTCCTTCAAGGACAGAGAATATTTGGAACCACAGAAGCTGCCAAGAAACACTGAATAGGGCAGAGGTGTTTGATGTCTC(配列番号1)長さ:1001bp
cT1(CYP2C19*3):CAA AAA ACA GGG GGT GCT TAC AAT CCT AGG ATT GTA TAG AAG CTG TTG TAT TGT TGT CGA AGA AGA AAA GTC C(配列番号2)長さ:73base
cT2 CCC AAC CCT ACC CAC CCT CAA GAA AAA AAA GTG ATA ATT GTT GTC GAA GAA GAA AAA AAA TT(配列番号3)長さ:62base
P1(CYP2C19*3): TTA CCT GGA TCT TTT TTG(配列番号4)長さ:18base
P2 GAA GCT GTT GTT ATC ACT(配列番号5)長さ:18base
PCR-FP(CYP2C19*3): TTGTCTACAGACTTTGCAGACTGATGTGAT (配列番号6)長さ:30base
PCR-RP(CYP2C19*3): GAGACATCAAACACCTCTGCCCTATTCAGT (配列番号7)長さ:30base
FIP(CYP2C19*3): TCCAGGGGTCTTAACTTGATGGAAAAAT (配列番号8)長さ:28base
BIP(CYP2C19*3):GGATCCAGGCCCAGAAAAAAAGACTGT(配列番号9)長さ:28base
F3(CYP2C19*3): TCCAGAAACGTTTCG(配列番号10)長さ:15base
B3(CYP2C19*3): AGGGCTTGGTCAATAT(配列番号11)長さ:16base
LoopF(CYP2C19*3): GCTTACAATCCTGATGTT(配列番号12)長さ:18base
LoopB(CYP2C19*3): GTAAGGCCAAGTTTTTTG(配列番号13)長さ:18base
【0084】
[合成例]
ThT誘導体の合成
以下のスキームに従ってThT-PEG-ThTを合成した。なお、ThT-AEの合成法は参考文献(Kataoka, Y.; Fujita, H.; Afanaseva, A.; Nagao, C.; Mizuguchi, K.; Kasahara, Y.; Obika, S.; Kuwahara, M. Biochemistry, 2019, 58, 493.)に記載の通りである。
【化3】
【0085】
[化合物T1の合成]
ThT-AE (32 mg, 0.10 mmol)にdry Dichloromethane (CH2Cl2) (0.30 mL)を加えて撹拌し、そこにTriethylamine (TEA) (85 μL, 0.61 mmol)を加えた後にSuccinic anhydride (11 mg, 0.11 mmol)を加え、室温で30分撹拌した。反応混合物を減圧留去した後、残渣を水で懸濁させ、CH2Cl2で洗浄した。水層を減圧留去することで化合物T1を定量的に得た。ESI-MS (positive ion mode) m/z, found =412.15, calculated for [M+] =412.17.
【0086】
[ThT-PEG-ThTの合成]
ThT-PEG (10 mg, 10 μmol)にdry DMF (0.3 mL)を加えて撹拌し、そこにHOBt・H2O (4.
2 mg, 26 μmol)、PyBOP (14 mg, 26 μmol)を加えた後にDIPEA (14 μL, 80 μmol)を
加えた。そこに、dry DMF (0.2 mL)に溶解した化合物T1 (5.6 mg, 13 μmol)を加え、室温で5時間撹拌した。反応混合物を減圧留去した後、残渣をCH2Cl2で溶解し、水で洗浄した。有機層を減圧留去し、ジエチルエーテルで固液抽出した後にHPLCを用いて精製することでThT-PEG-ThTを得た。
収量 : 0.82 mg 収率 : 6.1%
【0087】
1H NMR (500 MHz, Deuterium oxide) δ 8.01 (2H, d) 7.97 (2H, s) 7.75 (6H, t) 6.95
(4H, d) 5.12 (4H, t) 3.86 (4H, s) 3.68 (44H, q) 3.61 (4H, q) 3.42-3.35 (4H, m) 3.10 (12H, s) 2.65 (4H, t) 2.57 (3H, s) 2.54 (3H, t); ESI-MS (positive ion mode)
m/z, found = 1348.51, calculated for [H+]= 1348.67.
【符号の説明】
【0088】
20・・・一本鎖環状DNA、21・・・標的核酸、22・・・第1オリゴヌクレオチドプライマー、23・・・第1増幅産物、24・・・第2一本鎖環状DNA、25・・・第2オリゴヌクレオチドプライマー、26・・・第2増幅産物、201・・・第1の部位に相補的な配列、202・・・第1プライマー結合配列、203・・・第2一本鎖環状DNA結合配列、204・・・203の5’側に隣接した部位、211・・・第1の部位、212・・・第2の部位、221・・・第2の部位に相補的な配列、222・・・第1プライマー結合部位に相補的な配列、231・・・、203の相補領域、232・・・部位204に相補的な領域、233・・・配列203に相補的な配列、241・・・第2一本鎖環状DNA結合配列203と同一の配列、242・・・第2プライマー結合配列、243・・・グアニン四重鎖形成配列に相補的な配列、251・・・部位204と同一の配列、252・・・第2一本鎖環状DNAの第2プライマー結合配列242に相補的な配列、261・・・グアニン四重鎖を含む配列、262・・・グアニン四重鎖検出試薬
【配列表】