IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社キノテック・ソーラーエナジーの特許一覧

<>
  • 特許-炭酸亜鉛の製造方法 図1
  • 特許-炭酸亜鉛の製造方法 図2
  • 特許-炭酸亜鉛の製造方法 図3
  • 特許-炭酸亜鉛の製造方法 図4
  • 特許-炭酸亜鉛の製造方法 図5
  • 特許-炭酸亜鉛の製造方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】炭酸亜鉛の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 9/00 20060101AFI20241004BHJP
   B09B 3/80 20220101ALI20241004BHJP
   B09B 5/00 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C01G9/00 A ZAB
B09B3/80
B09B5/00 N
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020202011
(22)【出願日】2020-12-04
(65)【公開番号】P2022089546
(43)【公開日】2022-06-16
【審査請求日】2023-10-16
(73)【特許権者】
【識別番号】503107255
【氏名又は名称】株式会社キノテック
(74)【代理人】
【識別番号】100145023
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 学
(74)【代理人】
【識別番号】100105887
【弁理士】
【氏名又は名称】来山 幹雄
(74)【代理人】
【識別番号】100182028
【弁理士】
【氏名又は名称】多原 伸宜
(72)【発明者】
【氏名】庵崎 雅章
(72)【発明者】
【氏名】玉井 芳恵
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2008/0210537(US,A1)
【文献】特表2013-542321(JP,A)
【文献】特開2017-115196(JP,A)
【文献】特開昭61-261446(JP,A)
【文献】特開2002-011429(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 9/00
B09B 3/80
B09B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電炉ダスト又は前記電炉ダストを還元炉で還元した際に発生する2次ダストを原料とて、前記原料中の亜鉛成分を選択的に抽出して前記亜鉛成分を含有する亜鉛含有水溶液を生成する亜鉛含有水溶液生成工程と、
前記亜鉛含有水溶液中の前記亜鉛成分を炭酸亜鉛として分離して、前記炭酸亜鉛を製品として得る炭酸亜鉛分離工程と、
を備える炭酸亜鉛の製造方法であって、
前記亜鉛含有水溶液生成工程における前記亜鉛成分を選択的に抽出する抽出溶媒として、水酸化アルカリ水溶液を用い、
前記炭酸亜鉛分離工程で生成された副生アルカリ成分を水酸化アルカリ成分に転換して、前記水酸化アルカリ成分を前記亜鉛含有水溶液生成工程における前記水酸化アルカリ水溶液中に送るアルカリ再生工程を更に備え
前記炭酸亜鉛分離工程で、前記亜鉛含有水溶液に二酸化炭素を接触させることにより前記炭酸亜鉛を分離すると共に、前記副生アルカリ成分として炭酸アルカリ成分又は炭酸水素アルカリ成分を生成し、
前記炭酸亜鉛分離工程で副生された前記炭酸アルカリ成分又は前記炭酸水素アルカリ成分に、前記アルカリ再生工程で水酸化カルシウムを接触させることにより前記水酸化アルカリ成分を生成し、
前記アルカリ再生工程で前記炭酸アルカリ成分又は前記炭酸水素アルカリ成分に接触させる前記水酸化カルシウムは、前記亜鉛含有水溶液生成工程で得られた残渣中のカルシウム成分を用いて得られる炭酸亜鉛の製造方法。
【請求項2】
前記亜鉛含有水溶液生成工程で生成された前記亜鉛含有水溶液に金属亜鉛を接触させて、前記亜鉛含有水溶液中における亜鉛よりも貴な金属不純物成分を還元析出する置換工程を更に有し、
前記炭酸亜鉛分離工程は、前記置換工程を経た前記亜鉛含有水溶液中の前記亜鉛成分を前記炭酸亜鉛として分離する請求項に記載の炭酸亜鉛の製造方法。
【請求項3】
前記亜鉛含有水溶液生成工程で生成された前記亜鉛含有水溶液に酸化剤を接触させて、前記亜鉛含有水溶液中における鉄成分及びマンガン成分を分離する脱鉄脱マンガン工程と、
前記脱鉄脱マンガン工程を経た前記亜鉛含有水溶液に金属亜鉛を接触させて、前記亜鉛含有水溶液中における亜鉛よりも貴な金属不純物成分を還元析出する置換工程と、
を更に有し、
前記炭酸亜鉛分離工程は、前記置換工程を経た前記亜鉛含有水溶液中の前記亜鉛成分を前記炭酸亜鉛として分離する請求項1又は2に記載の炭酸亜鉛の製造方法。
【請求項4】
前記亜鉛含有水溶液生成工程における前記原料として、前記電炉ダストに炭酸カルシウムを混合してか焼するか焼工程で得られたか焼ダストを用いる請求項1から3のいずれかに記載の炭酸亜鉛の製造方法。
【請求項5】
前記炭酸亜鉛分離工程では、前記亜鉛含有水溶液に、前記か焼工程で得られた二酸化炭素を接触させて、前記炭酸亜鉛を分離する請求項4に記載の炭酸亜鉛の製造方法。
【請求項6】
前記アルカリ再生工程で前記炭酸アルカリ成分又は前記炭酸水素アルカリ成分に接触させる前記水酸化カルシウムは、前記か焼工程で用いる前記炭酸カルシウム由来のカルシウム成分を用いて得られる請求項4又は5に記載の炭酸亜鉛の製造方法。
【請求項7】
前記亜鉛含有水溶液生成工程で、前記原料と、前記水酸化アルカリ水溶液と、を接触させてろ過し、前記水酸化アルカリ水溶液から、前記水酸化アルカリ水溶液に溶解しない固形分を分離することにより、前記亜鉛含有水溶液を得る請求項1から6のいずれかに記載の炭酸亜鉛の製造方法。
【請求項8】
前記亜鉛含有水溶液生成工程で、前記原料と、前記水酸化アルカリ水溶液と、を接触させてろ過して得られたろ液を、前記亜鉛成分を選択的に抽出する前記抽出溶媒として繰り返して用いる請求項1から7のいずれかに記載の炭酸亜鉛の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸亜鉛の製造方法に関し、特に、製鉄プロセスの一つである電炉法においてスクラップの溶解製錬時に発生する電炉ダストに加え、電炉ダストの一部を亜鉛原料としてリサイクルする際に還元炉で発生した2次ダスト(粗酸化亜鉛)や製鉄プロセスの一つである高炉法において発生する高炉ダストを回転炉床炉で亜鉛含有の酸化物として回収する2次ダスト(粗酸化亜鉛)のようないわゆる2次ダストを原料とする炭酸亜鉛の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄プロセスの一つである電炉法では、スクラップの溶解製錬時に製鋼量の約1.5%から2.0%に相当すると共に酸化亜鉛成分を含む産業廃棄物としての電炉ダストが発生する。電炉ダストは、世界では800万トン発生し、日本では40万トン発生するといわれている。
【0003】
鉄スクラップの多くは、廃建築物、廃家電又は廃自動車である。廃建築物、廃家電又は廃自動車の塗装下地には、亜鉛メッキが施されている。また、スクラップの中には、塗料、プラスチック及び油分等が含まれている。このため、電炉ダストには、亜鉛又は鉛等の重金属に加えて、塩化物及びダイオキシン類等の有害な有機物も含まれている。一方で、電炉ダストには、約20~30%の鉄と20~30%の亜鉛とが含まれている。また、粗酸化亜鉛は約10%の鉄と約60%の亜鉛を含有する。従って、電炉ダスト及び2次ダスト(粗酸化亜鉛)は、資源として非常に有用である。
【0004】
かかる状況下で、特許文献1は、亜鉛地金の製造方法に関し、電炉ダスト又は電炉ダストを還元炉で還元した際に発生する2次ダストを原料として、亜鉛成分を含有する亜鉛含有水溶液を生成する工程と、亜鉛含有水溶液中の亜鉛成分を炭酸塩、水酸化物及び酸化物の少なくとも1つの形態の亜鉛含有化合物とし、亜鉛含有化合物の亜鉛成分を塩化することにより、精製された塩化亜鉛を含有する精製塩化亜鉛を生成する工程と、精製塩化亜鉛を無水化することにより、無水化された溶融精製塩化亜鉛を含有する無水溶融精製塩化亜鉛を生成する工程と、無水溶融精製塩化亜鉛を電気分解することにより、亜鉛地金を電解生成物として生成する工程と、を備えた構成を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-119895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者の検討によれば、特許文献1が開示する構成では、炭酸塩、水酸化物及び酸化物の少なくとも1つの形態の亜鉛含有化合物を分離した後のろ液を、電炉ダスト又は2次ダストから亜鉛成分を選択的に抽出するためのアルカリ剤として繰り返し使用するものであるが、これは、ろ液中に残存するアルカリ成分を循環させているのみであるため、より適切な形態のアルカリ成分を効率よく亜鉛抽出工程に送ることについては改良の余地がある。
【0007】
特に、本発明者の検討によれば、電炉ダスト又は電炉ダストを還元炉で還元した際に発生する2次ダストを原料として用いる場合に、原料中の亜鉛成分を水酸化アルカリ水溶液を抽出溶媒として選択的に抽出し、その抽出した亜鉛成分を炭酸塩の形態の亜鉛含有化合物とすることで炭酸亜鉛を製造する際に、炭酸アルカリ成分又は炭酸水素アルカリ成分が副生される場合があるが、かかる副生成分を亜鉛含有水溶液中の亜鉛成分を抽出することができるアルカリ成分に転換することができれば、より適切な形態のアルカリ剤を効率よく用いることが可能となる。
【0008】
本発明は、以上の検討を経てなされたもので、電炉ダスト又は電炉ダストを還元炉で還元した際に発生する2次ダストを原料として生成した亜鉛含有水溶液中の亜鉛成分を、水酸化アルカリ水溶液を抽出溶媒として選択的に抽出し、その抽出した亜鉛成分を炭酸塩の形態の亜鉛含有化合物とすることで炭酸亜鉛を製造する際に、副生された炭酸アルカリ成分又は炭酸水素アルカリ成分を、亜鉛含有水溶液中の亜鉛成分を抽出することができるアルカリ成分に転換することができる炭酸亜鉛の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の目的を達成すべく、本発明の第1の局面における炭酸亜鉛の製造方法は、電炉ダスト又は前記電炉ダストを還元炉で還元した際に発生する2次ダストを原料として、前記原料中の亜鉛成分を選択的に抽出して前記亜鉛成分を含有する亜鉛含有水溶液を生成する亜鉛含有水溶液生成工程と、前記亜鉛含有水溶液中の前記亜鉛成分を炭酸亜鉛として分離して、前記炭酸亜鉛を製品として得る炭酸亜鉛分離工程と、を備える炭酸亜鉛の製造方法であって、前記亜鉛含有水溶液生成工程における前記亜鉛成分を選択的に抽出する抽出溶媒として、水酸化アルカリ水溶液を用い、前記炭酸亜鉛分離工程で生成された副生アルカリ成分を水酸化アルカリ成分に転換して、前記水酸化アルカリ成分を前記亜鉛含有水溶液生成工程における前記水酸化アルカリ水溶液中に送るアルカリ再生工程を更に備え、前記炭酸亜鉛分離工程で、前記亜鉛含有水溶液に二酸化炭素を接触させることにより前記炭酸亜鉛を分離すると共に、前記副生アルカリ成分として炭酸アルカリ成分又は炭酸水素アルカリ成分を生成し、前記炭酸亜鉛分離工程で副生された前記炭酸アルカリ成分又は前記炭酸水素アルカリ成分に、前記アルカリ再生工程で水酸化カルシウムを接触させることにより前記水酸化アルカリ成分を生成し、前記アルカリ再生工程で前記炭酸アルカリ成分又は前記炭酸水素アルカリ成分に接触させる前記水酸化カルシウムは、前記亜鉛含有水溶液生成工程で得られた残渣中のカルシウム成分を用いて得られる。
【0012】
また、本発明は、かかる第の局面に加えて、前記亜鉛含有水溶液生成工程で生成された前記亜鉛含有水溶液に金属亜鉛を接触させて、前記亜鉛含有水溶液中における亜鉛よりも貴な金属不純物成分を還元析出する置換工程を更に有し、前記炭酸亜鉛分離工程は、前記置換工程を経た前記亜鉛含有水溶液中の前記亜鉛成分を前記炭酸亜鉛として分離することを第の局面とする。
【0013】
また、本発明は、かかる第1又は第2の局面に加えて、前記亜鉛含有水溶液生成工程で生成された前記亜鉛含有水溶液に酸化剤を接触させて、前記亜鉛含有水溶液中における鉄成分及びマンガン成分を分離する脱鉄脱マンガン工程と、前記脱鉄脱マンガン工程を経た前記亜鉛含有水溶液に金属亜鉛を接触させて、前記亜鉛含有水溶液中における亜鉛よりも貴な金属不純物成分を還元析出する置換工程と、を更に有し、前記炭酸亜鉛分離工程は、前記置換工程を経た前記亜鉛含有水溶液中の前記亜鉛成分を前記炭酸亜鉛として分離することを第の局面とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の第1の局面における炭酸亜鉛の製造方法によれば、亜鉛含有水溶液生成工程における亜鉛成分を選択的に抽出する抽出溶媒として、水酸化アルカリ水溶液を用い、炭酸亜鉛分離工程で生成された副生アルカリ成分を水酸化アルカリ成分に転換して、水酸化アルカリ成分を亜鉛含有水溶液生成工程における水酸化アルカリ水溶液中に送るアルカリ再生工程を更に備えるものであるため、副生されたアルカリ成分を、亜鉛含有水溶液中の亜鉛成分を抽出することができるアルカリ成分に転換することができて、より適切な形態のアルカリ剤を効率よく用いて、炭酸亜鉛をより効率的に製造することができる。
【0015】
また、本発明の第の局面における炭酸亜鉛の製造方法によれば、炭酸亜鉛分離工程で、亜鉛含有水溶液に二酸化炭素を接触させることにより炭酸亜鉛を分離すると共に、副生アルカリ成分として炭酸アルカリ成分又は炭酸水素アルカリ成分を生成し、炭酸亜鉛分離工程で副生された炭酸アルカリ成分又は炭酸水素アルカリ成分に、アルカリ再生工程で水酸化カルシウムを接触させることにより水酸化アルカリ成分を生成するものであるため、副生された炭酸ナトリウムや炭酸水素ナトリウムといったアルカリ成分を水酸化ナトリウムといったアルカリ成分に転換して、亜鉛含有水溶液中の亜鉛成分を抽出することができる抽出溶媒に再利用することができ、抽出溶媒を廃棄することなく循環使用して、炭酸亜鉛をより効率的に製造することができることとなる。
【0016】
また、本発明の第の局面における炭酸亜鉛の製造方法によれば、アルカリ再生工程で炭酸アルカリ成分又は炭酸水素アルカリ成分に接触させる水酸化カルシウムが、亜鉛含有水溶液生成工程で得られた残渣中のカルシウム成分を用いて得られたものであるため、亜鉛含有水溶液の原料中のカルシウム成分を有効利用することができて、炭酸亜鉛をより効率的に製造することができることとなる。
【0017】
また、本発明の第の局面における炭酸亜鉛の製造方法によれば、亜鉛含有水溶液生成工程で生成された亜鉛含有水溶液に金属亜鉛を接触させて、亜鉛含有水溶液中における亜鉛よりも貴な金属不純物成分を還元析出する置換工程を更に有し、炭酸亜鉛分離工程が、置換工程を経た亜鉛含有水溶液中の亜鉛成分を炭酸亜鉛として分離するものであるため、金属不純物成分が低減された炭酸亜鉛を歩留まりよく安定して量産することができる。
【0018】
また、本発明の第の局面における炭酸亜鉛の製造方法によれば、亜鉛含有水溶液生成工程で生成された亜鉛含有水溶液に酸化剤を接触させて、亜鉛含有水溶液中における鉄成分及びマンガン成分を分離する脱鉄脱マンガン工程と、脱鉄脱マンガン工程を経た亜鉛含有水溶液に金属亜鉛を接触させて、亜鉛含有水溶液中における亜鉛よりも貴な金属不純物成分を還元析出する置換工程と、を更に有し、炭酸亜鉛分離工程が、置換工程を経た亜鉛含有水溶液中の亜鉛成分を炭酸亜鉛として分離するものであるため、鉄成分やマンガン成分が低減された炭酸亜鉛を歩留まりよく安定して量産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1(a)は、本発明の第1の実施形態における炭酸亜鉛の製造方法の工程図であり、図1(b)は、本実施形態における炭酸亜鉛の製造方法の原料として用い得る2次ダストを生成する工程図である。
図2図2は、本発明の第2の実施形態における炭酸亜鉛の製造方法の工程図である。
図3図3は、本発明の第3の実施形態における炭酸亜鉛の製造方法の工程図である。
図4図4は、本発明の第1の実施形態の実験例の結果を示す表1である。
図5図5は、本発明の第2の実施形態の実験例の結果を示す表2である。
図6図6は、本発明の第3の実施形態の実験例の結果を示す表3である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を適宜参照して、本発明の各実施の形態における炭酸亜鉛の製造方法につき、詳細に説明する。
【0021】
(第1の実施形態)
まず、図1を参照して、本発明の第1の実施形態における炭酸亜鉛の製造方法につき、詳細に説明する。
【0022】
図1(a)は、本実施形態における炭酸亜鉛の製造方法の工程を示す図であり、図1(b)は、本実施形態における炭酸亜鉛の製造方法の原料として用い得る2次ダストを生成する工程図である。
【0023】
図1(a)に示すように、本実施形態では、亜鉛抽出工程101及び炭酸亜鉛分離工程102を順に実行すると共に、アルカリ再生工程103を実行する。亜鉛抽出工程101は、亜鉛含有水溶液生成工程に相当する。原料としての電炉ダスト又は2次ダストから亜鉛成分を抽出した水溶液を生成することを優先し、その水溶液中の亜鉛成分から生成した炭酸塩の形態の亜鉛含有化合物として炭酸亜鉛を生成するという製造コンセプトに基づいている。
【0024】
具体的には、まず、亜鉛抽出工程101では、酸化亜鉛等である亜鉛含有化合物及び酸化鉄等である鉄化合物を含む原料としての電炉ダスト1と、亜鉛の抽出溶媒としてのアルカリ剤3の水溶液と、を直接接触させて、かかる亜鉛含有化合物から亜鉛成分を選択的に抽出した亜鉛抽出液として、亜鉛成分を含む亜鉛含有アルカリ剤水溶液5を生成すると共に、アルカリ剤3の水溶液に溶解しない固形分を残渣4とした。
【0025】
典型的には、電炉ダスト1中の酸化亜鉛に対してアルカリ剤3として水酸化ナトリウムを使用して亜鉛成分を選択的に抽出した亜鉛含有水溶液である亜鉛含有アルカリ剤水溶液5を得る場合の化学式を、以下の(化1)に示す。
【化1】
【0026】
亜鉛抽出工程101で用いる原料としては、電炉ダスト1の代わりに電炉ダスト1を還元炉で還元して得られる2次ダスト2を用いてもよい。また、亜鉛抽出工程101で用いる原料としては、図1(b)に示すか焼工程104を採用している場合にはその工程で、
電炉ダスト1に炭酸カルシウム10を混合しか焼して得た2次ダスト2を用いてもよい。
かかるか焼によれば、電炉ダスト1の亜鉛フェライト成分に含まれる亜鉛成分をアルカリ
剤による抽出が容易な酸化亜鉛成分に転換することができる。このように炭酸カルシウム10を混合するか焼で得られた2次ダスト2を原料として用いる場合には、亜鉛抽出工程
101で得られる残渣4中のカルシウム成分を増加することができる。また、かかるか焼
で得られた二酸化炭素6は、次の炭酸亜鉛分離工程102で用いることができる。また、亜鉛抽出工程101で用いる原料としては、電炉ダスト1由来で得られる粗水酸化亜鉛等の2次ダストを用いてもよい。
【0027】
次に、炭酸亜鉛分離工程102では、亜鉛抽出工程101で抽出された亜鉛成分を含む亜鉛含有アルカリ剤水溶液5と、二酸化炭素(炭酸ガス)6と、を直接接触させて、亜鉛抽出工程101で抽出された亜鉛成分を含む亜鉛含有アルカリ剤水溶液5から炭酸亜鉛7を析出させ、それを固液分離して固体として回収して、これをそのまま製品とした。
【0028】
典型的には、化学式(化1)で示す亜鉛含有アルカリ剤水溶液5中の亜鉛成分に、以下の化学式(化2)に示すように、二酸化炭素6を吹き込んで炭酸亜鉛7を析出させ、このように析出させた炭酸亜鉛7をろ過すれば、固形分としての炭酸亜鉛7が得られる。
【化2】
【0029】
炭酸亜鉛分離工程102では、亜鉛含有アルカリ剤水溶液5に接触させる二酸化炭素6の代わりに、炭酸イオンを含む液体を用いてもよい。また、化学式(化2)から明らかなように、水酸化亜鉛がアルカリ水溶液に溶存するためには過剰の水酸イオンが必要なので、炭酸亜鉛分離工程102では、炭酸亜鉛7の代わりに又は炭酸亜鉛と共に、水酸化亜鉛を析出させることもできる。なお、炭酸亜鉛や水酸化亜鉛は、加熱されると酸化亜鉛となる特性を有するため、炭酸亜鉛の一部が水酸化亜鉛のみならず酸化亜鉛になっていてもよい。また、亜鉛成分を含む亜鉛含有アルカリ剤水溶液5の加熱、冷却及びpH調整等の手法により、炭酸亜鉛や水酸化亜鉛の析出と再溶解とを繰り返して、精製効果を積極的に利用して更に高純度の生成物を得ることもできる。
【0030】
ここで、アルカリ再生工程103では、炭酸亜鉛分離工程102での炭酸亜鉛7の固液分離後のろ液8中に炭酸アルカリ成分や炭酸水素アルカリ成分が副生されて含有されているため、かかる炭酸アルカリ成分や炭酸水素アルカリ成分を水酸化アルカリ成分に転換して、このように転換した水酸化アルカリ成分から成るアルカリ剤3を亜鉛抽出工程101におけるアルカリ剤3の水溶液中に戻す。
【0031】
典型的には、炭酸亜鉛分離工程102での炭酸亜鉛7の固液分離後のろ液8に対して水酸化カルシウム9を添加して、炭酸ナトリウムや炭酸水素ナトリウムを水酸化ナトリウムに転換し、このように転換した水酸化ナトリウムをアルカリ剤3として、亜鉛抽出工程101におけるアルカリ剤3の水溶液中に戻す。炭酸ナトリウムと水酸化カルシウムとから水酸化ナトリウムを得る場合の化学式を、以下の(化3)に示す。
【化3】
【0032】
アルカリ再生工程103では、炭酸亜鉛分離工程102での炭酸亜鉛7の固液分離後のろ液8に添加する水酸化カルシウム9として、亜鉛抽出工程101で亜鉛含有アルカリ剤水溶液5を生成した際に得られる残渣4中に含まれるカルシウム成分を含んだ水酸化カルシウム9を用いてもよい。かかる残渣4中のカルシウム成分としては、電炉ダスト1や2次ダスト2中にカルシウム成分が含まれている場合にはそれを用いることもできるし、電炉ダスト1に炭酸カルシウム10を混合してか焼するか焼工程104を採用する場合には
、その炭酸カルシウム10由来のカルシウム成分を用いることもできる。また、かかる水酸化カルシウム9には、このようなカルシウム成分由来のもののみならず、市販の消石灰を用いてもよい。
【0033】
以上の本実施形態の炭酸亜鉛の製造方法においては、亜鉛含有水溶液生成工程101における亜鉛成分を選択的に抽出する抽出溶媒として、水酸化アルカリ水溶液を用い、炭酸亜鉛分離工程102で生成された副生アルカリ成分を水酸化アルカリ成分に転換して、水酸化アルカリ成分を亜鉛含有水溶液生成工程における水酸化アルカリ水溶液中に送るアルカリ再生工程103を更に備えるものであるため、副生されたアルカリ成分を、亜鉛含有水溶液中の亜鉛成分を抽出することができるアルカリ成分に転換することができて、より適切な形態のアルカリ剤を効率よく用いて、炭酸亜鉛をより効率的に製造することができる。
【0034】
また、本実施形態の炭酸亜鉛の製造方法においては、炭酸亜鉛分離工程102で、亜鉛含有水溶液に二酸化炭素を接触させることにより炭酸亜鉛を分離すると共に、副生アルカリ成分として炭酸アルカリ成分又は炭酸水素アルカリ成分を生成し、炭酸亜鉛分離工程102で副生された炭酸アルカリ成分又は炭酸水素アルカリ成分に、アルカリ再生工程103で水酸化カルシウムを接触させることにより水酸化アルカリ成分を生成するものであるため、副生された炭酸ナトリウムや炭酸水素ナトリウムといったアルカリ成分を水酸化ナトリウムといったアルカリ成分に転換して、亜鉛含有水溶液中の亜鉛成分を抽出することができる抽出溶媒に再利用することができ、抽出溶媒を廃棄することなく循環使用して、炭酸亜鉛をより効率的に製造することができることとなる。
【0035】
また、本実施形態の炭酸亜鉛の製造方法においては、アルカリ再生工程103で炭酸アルカリ成分又は炭酸水素アルカリ成分に接触させる水酸化カルシウムが、亜鉛含有水溶液生成工程で得られた残渣中のカルシウム成分を用いて得られたものであるため、亜鉛含有水溶液の原料中のカルシウムを有効利用することができて、炭酸亜鉛をより効率的に製造することができることとなる。
【0036】
(第2の実施形態)
次に、図2を参照して、本発明の第2の実施形態における炭酸亜鉛の製造方法につき、詳細に説明する。
【0037】
図2は、本実施形態における炭酸亜鉛の製造方法の工程を示す図である。
【0038】
図2に示すように、本実施形態に係る炭酸亜鉛の製造方法は、第1の実施形態に係る炭酸亜鉛の製造方法と比較して、亜鉛抽出工程101と炭酸亜鉛分離工程102との間に、置換工程(セメンテーション工程)105を有していることが、主たる相違点である。本実施形態においては、かかる相違点に着目して説明するものとし、同一な構成要素には同じ符号を付して、その説明を省略又は簡略化する。
【0039】
具体的には、亜鉛抽出工程101に続く置換工程105では、亜鉛抽出工程101で抽出された亜鉛成分を含む亜鉛抽出液としての亜鉛含有アルカリ剤水溶液5と、亜鉛微粒子等の金属亜鉛11と、を直接接触させて、亜鉛含有アルカリ剤水溶液5中における亜鉛よりも貴な銅、鉛、カドミウム等の金属不純物成分12を還元析出して、亜鉛含有アルカリ剤水溶液5中の不純物成分の濃度を低減している。
【0040】
次に、炭酸亜鉛分離工程102では、置換工程105で不純物成分の濃度が低減された亜鉛含有アルカリ剤水溶液13と、二酸化炭素6と、を接触させて、亜鉛含有アルカリ剤水溶液13から炭酸亜鉛7を析出させ、それを固液分離して固体物として回収することになる。
【0041】
以上の本実施形態の炭酸亜鉛の製造方法によれば、第1の実施形態の構成に加えて、亜鉛含有水溶液生成工程101で生成された亜鉛含有水溶液に金属亜鉛を接触させて、亜鉛含有水溶液中における亜鉛よりも貴な金属不純物成分を還元析出する置換工程105を更に有するものであるため、金属不純物成分が低減された炭酸亜鉛を歩留まりよく安定して量産することができる。
【0042】
(第3の実施形態)
次に、図3を参照して、本発明の第3の実施形態における炭酸亜鉛の製造方法につき、詳細に説明する。
【0043】
図3は、本実施形態における炭酸亜鉛の製造方法の工程を示す図である。
【0044】
図3に示すように、本実施形態に係る炭酸亜鉛の製造方法は、第2の実施形態に係る炭酸亜鉛の製造方法と比較して、亜鉛抽出工程101と置換工程105との間に、脱鉄脱マンガン工程106を有していることが、主たる相違点である。本実施形態においては、かかる相違点に着目して説明するものとし、同一な構成要素には同じ符号を付して、その説明を省略又は簡略化する。
【0045】
本実施形態で、かかる脱鉄脱マンガン工程106を設けていることは、電炉ダスト等に含まれる鉄成分又はマンガン成分がアルカリに可溶性のFe(II)及びMn(II)等である場合に特に有効であるし、また、鉄成分又はマンガン成分がアルカリに不溶性の場合であっても、例えば、アルカリに不溶性のFe(III)及びMn(IV)等が懸濁した状態の亜鉛含有水溶液を置換工程で処理すると、それらがアルカリに可溶性のFe(II)等に還元されて亜鉛含有水溶液中に溶存するものであるため有効である。また、置換工程105でアルカリに可溶性の鉄成分又はマンガン成分が生じることがあるため、脱鉄脱マンガン工程の後段に置換工程を設けることのみならず、脱鉄脱マンガン工程の前段に置換工程を設けてもよい。かかる脱鉄脱マンガン工程106の具体的な方法としては、エアレーションや過マンガン酸塩の添加による酸化法が挙げられ、また、溶解性のマンガン成分がMn(VII)である場合には、活性炭と接触させる方法が挙げられる。
【0046】
具体的には、亜鉛抽出工程101に続く脱鉄脱マンガン工程106では、亜鉛抽出工程101で抽出された亜鉛成分を含む亜鉛抽出液としての亜鉛含有アルカリ剤水溶液5に含まれる鉄成分及び溶解性マンガンを除去するために、かかる亜鉛含有アルカリ剤水溶液5に含まれる鉄又は溶解性マンガン成分の酸化を行うと共に、亜鉛含有アルカリ剤水溶液5中の鉄成分及びマンガン成分を不溶解性の沈殿物のスラッジ17として分離除去する。具体的には、亜鉛含有アルカリ剤水溶液5に酸素を含むガスの吹込み(例えば、空気吹込み、即ちエアレーション)、過マンガン酸塩、塩素酸塩、二酸化塩素等の酸化剤15を添加などをして亜鉛含有アルカリ剤水溶液5中の第1鉄成分を第2鉄成分に酸化し、溶解性マンガンを酸化して不溶解性のマンガン化合物に転換しスラッジ17として分離除去する。また、亜鉛含有アルカリ剤水溶液5中の鉄成分は、温度、アルカリ濃度及び酸化還元電位(ORP)値を制御して第一鉄成分及び第二鉄成分双方を含むマグヘマイトのような磁性酸化鉄にすることもできる。
【0047】
なお、酸化剤15として過マンガン酸塩を用いる場合、過剰の過マンガン酸が亜鉛含有アルカリ剤水溶液5に残存するまで過マンガン酸塩を供給して脱マンガンの終点を判断することができ、また、残存した過マンガン酸は、それを活性炭と直接接触させて不溶解性の二酸化マンガンに転換して除去される。
【0048】
次に、置換工程105では、脱鉄脱マンガン工程106で不純物成分の濃度が低減された亜鉛含有アルカリ剤水溶液16と、亜鉛微粒子等の金属亜鉛11と、を接触させて、亜鉛含有アルカリ剤水溶液16中における亜鉛よりも貴な銅、鉛、カドミウム等の金属不純物成分12を還元析出して、亜鉛含有アルカリ剤水溶液16中の不純物成分の濃度を更に低減している。
【0049】
ここで、脱鉄脱マンガン工程106と置換工程105との実施順序については、置換工程105の後工程が脱鉄脱マンガン工程106であってもよい。例えば、原料が2次ダストのような、鉄の還元工程を経たものの場合は原料に含まれる鉄成分が2価(Fe(II):第1鉄成分)を多く含むケースがあり、このような原料を処理する場合は先に置換工程105を実施する方が合理的だからである。また、かかる事情は、脱鉄脱マンガン工程106を脱鉄工程及び脱マンガン工程に分離して、各々個別に実行する実施形態においても同様である。
【0050】
以上の本実施形態の炭酸亜鉛の製造方法によれば、第2の実施形態の構成に加えて、亜鉛含有水溶液生成工程101で生成された亜鉛含有水溶液に酸化剤を接触させて、亜鉛含有水溶液中における鉄成分及びマンガン成分を分離する脱鉄脱マンガン工程106を更に有するものであるため、鉄成分やマンガン成分が低減された炭酸亜鉛を歩留まりよく安定して量産することができる。
【0051】
最後に、以上説明した本実施形態に対し、代表的に第1から第3の実施形態に対応する実験例につき、図4から図6をも参照して詳細に説明する。
【0052】
図4は、本発明の第1の実施形態の実験例1の結果を対応して示す表1であり、図5は、本発明の第2の実施形態の実験例2の結果を示す表2であり、図6は、本発明の第3の実施形態の実験例2の結果を示す表3である。なお、表中のNDは、検出せずであることを示す。また、表中の空欄は、電炉ダスト、2次ダスト及び残渣については、検出限界未満又は検出せずであることを示し、電炉ダスト、2次ダスト及び残渣以外については、分析項目外であることを示す。
【0053】
(実験例1)
本実験例は、本発明の第1の実施形態に対応した実験例であり、その結果は図4の表1に示される。
【0054】
まず、亜鉛抽出工程101では、予めか焼工程104で、441gの重量の炭酸カルシ
ウムと、762.8gの重量の電炉ダスト1と、を混合しか焼して得た870gの2次ダ
ストから60.5gの重量の2次ダスト2を分取し、分取した2次ダスト2と、アルカリ剤3の水溶液として16.5%の濃度のNaOH水溶液と、を接触させ、アルカリ剤3の水溶液に溶解しない固形分をろ過により分離したその残りの液体として、395mlの体積の亜鉛抽出液(亜鉛含有アルカリ剤水溶液)5を得た。また、アルカリ剤3の水溶液に溶解しない固形分をろ過して純水で洗浄した後に乾燥して、43.3gの重量の残渣4を得た。亜鉛抽出工程101における抽出条件では、温度が95℃及び圧力が常圧であり、アルカリ剤3の水溶液と2次ダスト2との接触時間は、8時間とした。なお、残渣4をろ別したろ液(不溶解固形分から抽出可能な成分を抽出したろ液)は、次に2次ダスト2を溶解するためのアルカリ剤3として繰り返し利用し、残渣4を純水で洗浄した後の洗浄水は精製工程における希釈水として繰り返し利用した。
【0055】
次に、炭酸亜鉛分離工程102では、亜鉛含有アルカリ剤水溶液5に二酸化炭素6を吹込み、炭酸亜鉛7を析出させ、GF(グラスファイバ)/Cろ紙を使用した吸引及びろ過により炭酸亜鉛7を分離し、この炭酸亜鉛7をそのまま製品とした。二酸化炭素6は、か
焼工程104の電炉ダスト1をか焼する際に炭酸カルシウム10の分解により発生したも
のを利用した。かかる炭酸亜鉛7等の組成を表1に示し、炭酸亜鉛7について値は、便宜上、その加熱乾燥時の酸化亜鉛に転換したものの分析値である。
【0056】
そして、アルカリ再生工程103では、炭酸亜鉛7を分離した後のろ液8に消石灰9を接触させて、炭酸亜鉛分離工程102で亜鉛含有アルカリ剤水溶液5に二酸化炭素6を吹込んだ際に副生されたNa2CO3及びNaHCO3をNaOHに転換し、このNaOHをアルカリ剤3として亜鉛抽出工程101に送り亜鉛抽出に繰り返し使用した。消石灰9は、か焼工程104の電炉ダスト1をか焼する際に用いた炭酸カルシウム10由来のカル
シウム成分で、亜鉛抽出工程101の残渣4中に含まれるカルシウム成分を利用して得られたものを用いた。
【0057】
(実験例2)
本実験例は、本発明の第2の実施形態に対応した実験例であり、その結果は図5の表2に示される。
【0058】
まず、亜鉛抽出工程101では、電炉ダスト1由来の100gの重量の2次ダスト(粗水酸化亜鉛試料)2と、アルカリ剤3の水溶液として16.5%の濃度のNaOH水溶液と、を接触させて攪拌後にその全量をろ過した。次に、そのアルカリ剤3の水溶液に溶解しなかった固形分と、新たなアルカリ剤3の水溶液として16.5%の濃度のNaOH水溶液と、を接触させて攪拌後にその全量をろ過した。これら各々のアルカリ剤3の水溶液に溶解しない固形分をろ過により分離したものを残渣4とし、残渣4を分離した残りの各々の液体を用いて、その中の亜鉛の濃度が45800ppmの亜鉛抽出液(亜鉛含有アルカリ剤水溶液)5を得た。なお、本実験例の亜鉛抽出工程101における温度等の条件は、実験例1のものと同じにした。
【0059】
次に、置換工程105では、亜鉛含有アルカリ剤水溶液5に平均粒子径が約6μmの粉末状の亜鉛粒子11を5g投入した後に加熱して撹拌し、この撹拌物をろ過精度0.1μmのメンブレンフィルタで吸引しろ過して、そのろ液として亜鉛含有アルカリ剤水溶液13を得た。また、メンブレンフィルタ上の固形分を分離したものは、亜鉛粒子11の溶解に伴い還元されて析出した金属粉12と、溶解せず残った粉末状亜鉛と、の混合物であった。
【0060】
次に、置換工程105に引き続く炭酸亜鉛分離工程102を、亜鉛含有アルカリ剤水溶液13を用いて実験例1のものと同じ内容で実行し、分離した炭酸亜鉛7をそのまま製品とした。本実験例で得られた炭酸亜鉛7の組成は、表2に示す通りであり、実験例1のものに比較すると銅、鉛、カドミウム等の金属不純物成分が低減されていた。なお、炭酸亜鉛7について値は、便宜上、その加熱乾燥時の酸化亜鉛に転換したものの分析値である。
【0061】
そして、アルカリ再生工程103では、炭酸亜鉛7を分離した後のろ液8に水酸化カルシウム9を接触させて、炭酸亜鉛分離工程102で亜鉛含有アルカリ剤水溶液5に二酸化炭素6を吹込んだ際に副生されたNa2CO3及びNaHCO3をNaOHに転換し、このNaOHをアルカリ剤3として亜鉛抽出工程101に送り亜鉛抽出に繰り返し使用した。水酸化カルシウム9は、亜鉛抽出工程101で用いた2次ダスト2由来のカルシウム成分で、亜鉛抽出工程101の残渣4中に含まれるカルシウム成分を利用して得られたものを用いた。
【0062】
(実験例3)
本実験例は、本発明の第3の実施形態に対応した実験例であり、その結果は図6の表3に示される。
【0063】
まず、亜鉛抽出工程101では、電炉ダスト1由来の300gの重量の2次ダスト(粗水酸化亜鉛試料)2と、アルカリ剤3の水溶液として16.5%の濃度のNaOH水溶液と、を接触させて攪拌後にその全量をろ過し、アルカリ剤3の水溶液に溶解しない固形分を分離した残りの液体として1800mlの体積の亜鉛抽出液(亜鉛含有アルカリ剤水溶液)5を得た。次に、そのアルカリ剤3の水溶液に溶解しなかった固形分と、新たなアルカリ剤3の水溶液として16.5%の濃度のNaOH水溶液と、を接触させて攪拌後にその全量をろ過し、アルカリ剤3の水溶液に溶解しない固形分をろ過により分離して161gの重量の残渣2を得た。なお、本実験例の亜鉛抽出工程101における条件は、実験例1のものと同じにした。
【0064】
次に、亜鉛抽出工程101に引き続く脱鉄脱マンガン工程106では、加熱下で亜鉛含有アルカリ剤水溶液5に酸化剤11として空気を吹き込んで析出した茶色の沈殿物を、ろ過精度が0.1μmのメンブレンフィルタで吸引しろ過したろ液(脱鉄及び脱マンガンした亜鉛含有アルカリ剤水溶液16)を得た。ろ紙上の固形分として、263mgの重量の脱鉄脱マンガンスラッジ17を得た。
【0065】
次に、脱鉄脱マンガン工程106に引き続く置換工程103を、亜鉛含有アルカリ剤水溶液16を用いて実験例2のものと同じ内容で実行し、また、炭酸亜鉛分離工程102及びアルカリ再生工程103を実験例2のものと同じ内容で実行すると共に、炭酸亜鉛分離工程102で分離した炭酸亜鉛7をそのまま製品とした。本実験例で得られた炭酸亜鉛7の組成は、表3に示す通りであり、実験例2のものに比較すると鉄、マンガン等の金属不純物成分が低減されていた。なお、炭酸亜鉛7について値は、便宜上、その加熱乾燥時の酸化亜鉛に転換したものの分析値である。
【0066】
なお、本発明は、構成要素の形状、配置、個数等は前述の実施形態に限定されるものではなく、かかる構成要素を同等の作用効果を奏するものに適宜置換する等、発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることはもちろんである。
【産業上の利用可能性】
【0067】
以上のように、本発明においては、電炉ダスト又は電炉ダストを還元炉で還元した際に発生する2次ダストを原料として生成した亜鉛含有水溶液中の亜鉛成分を、水酸化アルカリ水溶液を抽出溶媒として選択的に抽出し、その抽出した亜鉛成分を炭酸塩の形態の亜鉛含有化合物とすることで炭酸亜鉛を製造する際に、副生された炭酸アルカリ成分又は炭酸水素アルカリ成分を、亜鉛含有水溶液中の亜鉛成分を抽出することができるアルカリ成分に転換することができる炭酸亜鉛の製造方法を提供することができるものであるため、その汎用普遍的な性格から広範に製鉄プロセスの一つである電炉法においてスクラップの溶解製錬時に発生する電炉ダスト、又は電炉ダストの一部を製鉄原料としてリサイクルする際に還元炉で発生する2次ダストを原料とする炭酸亜鉛の製造方法に適用され得るものと期待される。
【符号の説明】
【0068】
1…電炉ダスト
2…2次ダスト
3…アルカリ剤
4…残渣
5…亜鉛含有アルカリ剤水溶液
6…二酸化炭素
7…炭酸亜鉛
8…ろ液
9…水酸化カルシウム
10…炭酸カルシウム
11…亜鉛粒子
12…金属不純物成分
13…亜鉛含有アルカリ剤水溶液
15…酸化剤
16…亜鉛含有アルカリ剤水溶液
17…スラッジ
101…亜鉛含有水溶液生成工程
101…亜鉛抽出工程
102…炭酸亜鉛分離工程
103…アルカリ再生工程
104…か焼工程
105…置換工程
106…脱鉄脱マンガン工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6