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特許7565591ウェハ研磨用キャリアおよびウェハ研磨装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】ウェハ研磨用キャリアおよびウェハ研磨装置
(51)【国際特許分類】
   B24B 37/28 20120101AFI20241004BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
B24B37/28
H01L21/304 622G
H01L21/304 621A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021001034
(22)【出願日】2021-01-06
(65)【公開番号】P2022106193
(43)【公開日】2022-07-19
【審査請求日】2023-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000236687
【氏名又は名称】不二越機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001726
【氏名又は名称】弁理士法人綿貫国際特許・商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】金山 敬
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼坂 英樹
(72)【発明者】
【氏名】春日 崇志
【審査官】マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-340711(JP,A)
【文献】特開2008-200834(JP,A)
【文献】特開2000-024912(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 37/28 - 37/32
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円板状のボディにおいて開口形成されたワークホール内にウェハを保持し、定盤上で回転させて前記ウェハの研磨を行うためのウェハ研磨用キャリアであって、
前記ボディは、前記ワークホールの内周部から径方向外方に向かって切欠かれた切欠き部を有すると共に、前記切欠き部に係止されて前記内周部に保持される環状のインナーが設けられており、
前記切欠き部は、平面視において、前記内周部に設けられた2つの起点にそれぞれ接続された2つの基線と、前記2つの基線の終端部にそれぞれ接続されて径方向外方に向かって相互に周方向距離が拡大するように配置された2つの中間線と、前記2つの中間線の終端部にそれぞれ接続されて相互に内円部が対向するように配置された2つの第1円弧と、前記2つの第1円弧の終端部同士を結ぶ接続線と、を有する形状に形成されており、
前記接続線は、平面視において、前記ワークホールの中心からの半径が一定の円弧状に形成されていること
を特徴とするウェハ研磨用キャリア。
【請求項2】
前記2つの基線は、平面視において、相互に外円部が対向するように配置された2つの第2円弧を有する形状に形成されていること
を特徴とする請求項1記載のウェハ研磨用キャリア。
【請求項3】
前記接続線は、平面視において、前記2つの第1円弧と接続された2つの接続位置における半径が相対的に小さく、前記2つの接続位置の中間位置における半径が相対的に大きい円弧状に形成されていること
を特徴とする請求項1または請求項2記載のウェハ研磨用キャリア。
【請求項4】
前記2つの中間線は、平面視において、なす角θが30°~90°となる形状に形成されていること
を特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載のウェハ研磨用キャリア。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載のウェハ研磨用キャリアと、
上面に研磨面が設けられた下定盤と、
前記下定盤の上方に上下動可能に支持され、下面に研磨面が設けられた上定盤と、
前記下定盤および前記上定盤を回転駆動する駆動装置と、
前記ウェハ研磨用キャリアを回転駆動するキャリア駆動装置と、
スラリーの供給を行うスラリー供給装置と、を備え、
前記ワークホールに前記ウェハが保持された前記ウェハ研磨用キャリアを前記下定盤と前記上定盤とで挟持した状態で、前記スラリーを前記下定盤上に供給しつつ、前記下定盤、前記上定盤、および前記ウェハ研磨用キャリアをそれぞれ設定された方向に回転させて前記ウェハの両面の研磨を行うこと
を特徴とするウェハ研磨装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェハ研磨用キャリアおよびウェハ研磨装置に関し、さらに詳細には、ウェハを保持し、定盤上で回転させて当該ウェハの研磨を行うためのウェハ研磨用キャリア、および当該ウェハ研磨用キャリアを備えて構成されるウェハ研磨装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンウェハ等に例示されるウェハの研磨を行う装置の一例として、ウェハの両面の研磨を同時に行うことができるウェハ研磨装置が従来より知られている(特許文献1:特開2011-066342号公報参照)。このウェハ研磨装置においては、被加工物であるウェハがワークホール内に保持されたキャリアを、上下の定盤によって挟持された状態とし、各定盤およびキャリアを回転させることによって当該ウェハの両面の同時研磨が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-066342号公報
【文献】特開2000-024912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に例示されるウェハ研磨装置においては、研磨時にウェハと金属製のキャリアとが衝突することによってウェハに欠陥(傷)が生じてしまうことを防止するため、キャリアのワークホールの内周部に樹脂製のインナーを備える構成が好適である。例えば、キャリアにインナーを備える従来の研磨装置の例として、特許文献2(特開2000-024912号公報参照)に開示する構成が知られている。
【0005】
本願発明者らが鋭意研究した結果、上記のインナーを備える構成においては、インナーを取付けるキャリア(具体的には、ボディ)の欠損が少なく(すなわち、平面視において欠損領域が小さく)なるように、インナーを薄く(径方向寸法を小さく)且つリング状(環状)に近い形状(平面視において径方向の凹凸が少ない形状)に形成することが好ましいことが確認された。そのような形状とすることによって、研磨布が欠損領域で沈み込んでウェハのエッジ部がアール状に削られる不具合(いわゆる「ダレ」形状が生じる不具合)の発生を抑制することができるためである。
【0006】
その一方で、インナーを薄く且つリング状に近い形状とした場合には、ボディとインナーとの係合力が弱くなってしまい、ウェハの研磨時にボディからインナーが脱落してウェハを破損してしまうリスクが高くなることが究明された。特に、特許文献2に例示される構成のように、係合部におけるインナー形状が平面視円形の場合には、欠損領域が小さい程、係合力が弱くなってインナーが脱落し易くなる課題が生じ得る。また、係合部におけるインナー形状が平面視クサビ形の場合には、欠損領域を挟む対辺の挟角が小さい程、係合力が弱くなってインナーが脱落し易く、挟角が大きい程、欠損領域の増加によってエッジ部のダレが生じ易く、また、インサート成形時に樹脂の未充填部が生じて異物が入り込み、研磨時にウェハに傷がつき易くなる課題が生じ得る。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされ、キャリアのボディとインナーとの係合部に関して、欠損領域を小さくすることができ、また、樹脂の未充填部の発生を抑制することができ、さらに、高い係合力を生じさせることができるウェハ研磨用キャリアおよびウェハ研磨装置を実現することを目的とする。
【0008】
本発明は、一実施形態として以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
【0009】
本発明に係るウェハ研磨用キャリアは、円板状のボディにおいて開口形成されたワークホール内にウェハを保持し、定盤上で回転させて前記ウェハの研磨を行うためのウェハ研磨用キャリアであって、前記ボディは、前記ワークホールの内周部から径方向外方に向かって切欠かれた切欠き部を有すると共に、前記切欠き部に係止されて前記内周部に保持される環状のインナーが設けられており、前記切欠き部は、平面視において、前記内周部に設けられた2つの起点にそれぞれ接続された2つの基線と、前記2つの基線の終端部にそれぞれ接続されて径方向外方に向かって相互に周方向距離が拡大するように配置された2つの中間線と、前記2つの中間線の終端部にそれぞれ接続されて相互に内円部が対向するように配置された2つの第1円弧と、前記2つの第1円弧の終端部同士を結ぶ接続線と、を有する形状に形成されており、前記接続線は、平面視において、前記ワークホールの中心からの半径が一定の円弧状に形成されていることを要件とする。
【0010】
また、本発明に係るウェハ研磨装置は、前記ウェハ研磨用キャリアと、上面に研磨面が設けられた下定盤と、前記下定盤の上方に上下動可能に支持され、下面に研磨面が設けられた上定盤と、前記下定盤および前記上定盤を回転駆動する駆動装置と、前記ウェハ研磨用キャリアを回転駆動するキャリア駆動装置と、スラリーの供給を行うスラリー供給装置と、を備え、前記ワークホールに前記ウェハが保持された前記ウェハ研磨用キャリアを前記下定盤と前記上定盤とで挟持した状態で、前記スラリーを前記下定盤上に供給しつつ、前記下定盤、前記上定盤、および前記ウェハ研磨用キャリアをそれぞれ設定された方向に回転させて前記ウェハの両面の研磨を行うことを要件とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、キャリアのボディとインナーとの係合部に関して、欠損領域を小さくすることができるため、研磨布が欠損領域で沈み込んでウェハのエッジ部がアール状に削られる不具合(ダレ形状)の発生を抑制し、ウェハの平坦度を高めることができる。また、インサート成形時に樹脂の未充填部の発生を抑制することができるため、未充填部に異物が入り込み、当該異物によって研磨時にウェハに傷がつくことを防止することができる。さらに、高い係合力を生じさせることができるため、研磨時にボディからインナーが脱落してウェハを破損してしまうリスクを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係るウェハ研磨装置の例を示す正面図である。
図2図1のウェハ研磨装置の平面図である。
図3図1のウェハ研磨装置のウェハ研磨用キャリアの例を示す平面図である。
図4図1のウェハ研磨装置のウェハ研磨用キャリアの他の例を示す平面図である。
図5図1のウェハ研磨装置のウェハ研磨用キャリアの切欠き部の例を示す平面図である。
図6図1のウェハ研磨装置のウェハ研磨用キャリアの切欠き部の他の例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳しく説明する。図1は、本発明の実施形態に係るウェハ研磨装置1の例を示す正面図(概略図)である。また、図2は、図1に示すウェハ研磨装置1の平面図(概略図)であって、上定盤14から上の機構についての図示を省略することで、キャリア20およびその周辺構造の理解が容易となるようにしている。なお、各実施形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰返しの説明は省略する場合がある。
【0014】
本実施形態に係るウェハ研磨装置1は、ウェハWがワークホール22内に保持されたウェハ研磨用キャリア(単に、「キャリア」と称する場合がある)20を、上下の定盤12、14によって挟持させた状態とし、各定盤12,14およびキャリア20を回転させることによって当該ウェハWの両面の同時研磨を行ういわゆる両面研磨装置である。なお、加工対象(研磨対象)のウェハWは、大きさが8~12インチ程度のものが主であるが、これに限定されるものではない。
【0015】
より具体的に、ウェハ研磨装置1は、上面に研磨面が設けられた下定盤12と、下定盤12の上方に上下動可能に支持され、下面に研磨面が設けられた上定盤14とを具備する。下定盤12および上定盤14は、いずれも金属材料(一例として、ステンレス合金)を用いて平面視円形状に形成されている。なお、上記研磨面には、通常、研磨布(不図示)が貼付された状態で、研磨工程が実施される(したがって、本願における「研磨面」は、研磨布が貼付された状態を主たる構成とする)。
【0016】
上下定盤12、14は、駆動装置により軸線を中心として互いに反対方向に回転される。すなわち、上定盤14は、支持フレーム10に配設された駆動装置(一例として、電気モータを備えた駆動機構)40によって、軸線を中心に回転自在に設けられている。また、上定盤14は、上下動機構として例えばシリンダ装置41により上下動可能となっている。一方、下定盤12は駆動装置(一例として、電気モータを備えた駆動機構)42によって回転駆動される。また、下定盤12は、その下面をリング状の支持ベアリング43によって支持されている。なお、上定盤14上には、複数本の支持ロッド50を介して上定盤14に取付けられ、上定盤14と共に回転する回転円板52が配設されている。
【0017】
また、下定盤12と上定盤14との間には、ウェハWを保持するワークホール22を有するキャリア20が配置される。ここで、キャリア20を下定盤12と上定盤14とで挟持した状態で、当該キャリア20を回転駆動するキャリア駆動装置の例として、以下の構成を備えている。具体的に、下定盤12の中心孔と軸線を一致させて配置された太陽ギヤ(内側ピン歯車)16とインターナルギヤ(外側ピン歯車)18とにより、自転、且つ公転するように回転駆動される。太陽ギヤ16、インターナルギヤ18も公知の機構により回転される。なお、本実施形態では、太陽ギヤ16とインターナルギヤ18との間に、5個のキャリア20が配設される構成としているが、これに限定されるものではない。
【0018】
また、ウェハ研磨装置1は、スラリーの供給を行うスラリー供給装置を備えている。構成例として、回転円板52上には、複数(本実施形態では2個)のリング状樋54、56が同心状に固定されている。さらに、リング状樋54、56の底面には、スラリーの流下孔(不図示)が設けられている。リング状樋54、56には、配管62を介してスラリー貯留部(不図示)からスラリーが供給される。また、上定盤14には、放射状にスラリーの流下孔76が形成され、この上定盤14の流下孔76と、リング状樋54、56に設けられた流下孔とが供給パイプ78により連絡されている。この供給パイプ78を通じて、下定盤12の研磨面上にスラリーが供給される。
【0019】
したがって、供給パイプ78を通じてスラリーを下定盤12上に供給しつつ、上定盤14を矢印A方向(ここでは、反時計回り)、下定盤12を矢印B方向(ここでは、時計回り)にそれぞれ回転させ、それに伴う上記キャリア駆動装置の作動によってキャリア20を矢印C方向(ここでは、反時計回り)に回転させることにより、ウェハWは上下定盤12、14に対して相対移動して、上下定盤12、14間に挟まれた当該ウェハWの両面の研磨を行うことができる。なお、上記実施の形態では2つのリング状樋を設けたが、1つのリング状樋を設ける構成でもよく、また3つ以上の複数のリング状樋を同心状に配設するようにしてもよい。
【0020】
また、ウェハ研磨装置1は、複数のウェハWを収容することが可能な収容手段(ここでは、ウェハカセット)19を備えている。さらに、ウェハカセット19とキャリア20(ワークホール22)との間でウェハWの搬送を行う搬送手段(ここでは、ロボットハンド)58を備えている。動作の概要として、ロボットハンド58は、ウェハカセット19から、研磨対象となる所定のウェハWを1枚取り出すと共に、当該ウェハWをキャリア20のワークホール22内へ搬送し、保持させる。また、研磨が終了したウェハWをキャリア20のワークホール22内から取り出して、当該ウェハWをウェハカセット19へ搬送し、所定の収容位置に収容させる。
【0021】
次に、キャリア20の構成について詳しく説明する。前述の通り、キャリア20は、ウェハWを保持して、定盤上で(下定盤12と上定盤14とで挟持した状態で)回転させることによりウェハWの研磨を行うものである。図3は、キャリア20の一例を示す平面図(概略図)である。本実施形態におけるキャリア20は、円板状のボディ21において円形状もしくは多角形状に開口形成(板面を貫通する穴状に形成)されたワークホール22を備えており、このワークホール内にウェハWが保持される。ボディ21の厚みは、ウェハWの仕上がり寸法とほぼ同一の厚さ、例えば、0.7mm~0.8mmに構成されている。本実施形態においては、ワークホール22が周方向に同一間隔をおいて3つ設けられた例を挙げているが、これに限定されるものではない。一方、図4は、キャリア20の他の例を示す平面図(概略図)である。このようにワークホール22を1つのみ設ける構成としてもよい。なお、上記いずれの例においても、スラリーを通過させるための透孔24が設けられている。
【0022】
また、ボディ21は、チタンや、ステンレス合金等の金属材料を用いて形成されている。ここで、ワークホール22の周縁部(ボディ21の上下面)には、耐摩耗性を有する材料を用いて、所定幅、所定厚さのコーティング層(不図示)が設けられている。一例として、コーティング層の厚さは、2μm程度、コーティング層の幅は8mm~15mm(より好ましくは、10mm)程度の形状に形成されている。なお、コーティング層の具体的な材料としては、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)が好適である。ここで、DLC膜の形成は、公知のプラズマCVD法によって行うことができる。DLC膜は、ダイヤモンド並みの高い硬度を有し、またダイヤモンドにはない優れた平滑性と耐摩耗性を備えている。したがって、ボディ21にDLC膜が形成されることによって、ボディ21の磨耗を減じることができ、キャリア20の寿命を延ばすことができる。ただし、上記構成に限定されるものではなく、DLCに代えて硬度の高い硬質セラミックスを用いて形成してもよく、あるいは、コーティング層を設けない構成としてもよい。
【0023】
また、キャリア20は、ボディ21に形成されたワークホール22の内周部に環状のインナー26が設けられている。具体的に、ワークホール22の内周部から径方向外方に向かって切欠かれた切欠き部30が設けられており、インナー26は、この切欠き部30に係止されることによってワークホール22の内周部に保持される構成となっている。一例として、インナー26は、樹脂材料(例えば、ナイロン、POM等)を用いて形成されており、ボディ21とほぼ同一厚さで、1mm~2mm程度の幅(径方向寸法)を有する形状に形成されている。インナー26を備えることによって、内部に保持されるウェハWの緩衝材として作用し、ウェハWの外周に傷がつくのを防止することができる。
【0024】
なお、本実施形態においては、インナー26は、ボディ21(ここでは、ワークホール22内周部の切欠き部30)に対して、インサート成形によって係止される構成となっている。ただし、この構成に限定されるものではなく、接着(融着等を含む)によって係止される構成としてもよい。
【0025】
ここで、図5図3におけるV部拡大図)に示すように、本実施形態に係る切欠き部30は、平面視において、ワークホール22の内周部に設けられた2つの起点a、bにそれぞれ接続される2つの基線31A、31Bと、2つの基線31A、31Bの終端部c、dにそれぞれ接続されて径方向外方に向かって相互に周方向距離が拡大するように配置された2つの中間線32A、32Bと、当該2つの中間線32A、32Bの終端部e、fにそれぞれ接続されて相互に内円部33a、33bが対向するように配置された2つの第1円弧(一例として、半径0.1mm~0.8mm程度)33A、33Bと、当該2つの第1円弧33A、33Bの終端部g、h同士を結ぶ接続線34とを有する形状に形成されている。なお、上記構成には、基線および中間線(31Aおよび32A、ならびに/または、31Bおよび32B)が直線で且つ同一線上に配置されることで一つの直線のようになる形状が含まれる。
【0026】
これによれば、インナー26を取付けるキャリア20(ここでは、ボディ21)の欠損領域が小さく(すなわち、平面視において切欠き部30の面積が小さく)なる構成であって、インナー26を薄く(径方向寸法を小さく)且つリング状(環状)に近い形状(平面視において径方向の凹凸が少ない形状)に形成された構成を実現することができる。したがって、研磨布が欠損領域で沈み込んでウェハWのエッジ部がアール状に削られる不具合(いわゆる「ダレ」形状が生じる不具合)の発生を抑制することができ、研磨加工された状態におけるウェハWの平坦度を高めることができる。
【0027】
しかしながら、前述の通り、インナー26が係止されるボディ21(ここでは、切欠き部30)の欠損領域が小さく、薄いリング状の形状を有するインナー26の場合には、ウェハW研磨時におけるインナー26脱落のリスクが高まる要因となってしまう。このような課題に対しても、本実施形態に係る上記の構成によって解決を図ることができる。特に、相互に周方向距離が拡大するように配置された2つの中間線32A、32Bによって、インナー26のボディ21からの脱落防止効果を高めることができ、且つ、中間線32A、32Bの終端部e、fにそれぞれ接続される第1円弧33A、33Bによって、欠損領域(切欠き部30の平面視面積)をより一層小さくする効果を得つつ、インサート成形時に切欠き部30内における樹脂の未充填部の発生を抑制することができるため、未充填部に異物が入り込み、当該異物によって研磨時にウェハWに傷がつくことを防止できる。さらに副次的な効果として、インサート成形の際に、樹脂の射出圧力を高めなくてすむため、インナー26が意図せず厚くなってしまう不具合や、厚さにムラが出る不具合の発生を防止できる。
【0028】
ここで、本実施形態に係る2つの中間線32A、32Bは、平面視において、なす角θが30°~90°(一例として、50°)程度となる形状に形成されている。なす角θは、例えば、中間線32A、32Bが主たる直線を有する場合は直線同士の挟角として定義することができ、主たる直線を有さない場合(曲線や連続する短直線等で構成される場合)は終端部cおよび終端部eを結ぶ直線と終端部dおよび終端部fを結ぶ直線との挟角として定義することができる。
【0029】
これによれば、インナー26の脱落防止の観点で高い効果を得ることができる。特に、本実施形態においては、上記の通り、第1円弧33A、33Bを備えることによって、欠損領域(切欠き部30の平面視面積)を小さくすることができ、且つ、インサート成形時に切欠き部30内における樹脂の未充填部の発生を抑制することができるため、従来技術と比較して、θの角度をより大きく設定することができ、インナー26の脱落防止効果をより高めることができる。
【0030】
また、本実施形態に係る2つの基線31A、31Bは、平面視において、相互に外円部35a、35bが対向するように配置された2つの第2円弧(一例として、半径0.1mm~0.8mm程度)35A、35Bを有する形状に形成された構成となっている。なお、上記構成には、基線31A、31Bが角丸め加工によって形成される曲面(平面視における曲線)の形状や、半径が一定でない曲面の形状が含まれる。
【0031】
これによれば、インナー26をインサート成形によって形成する際に、起点a、bおよびその近傍の位置において、樹脂の回り込みを良好にすることができる。したがって、インサート成形時に樹脂の未充填部の発生を抑制することができるため、未充填部に異物が入り込み、当該異物によって研磨時にウェハWに傷がつくことを防止できる。さらに、当該第2円弧35A、35Bを設けなければ、起点a、bの形状が鋭角に尖った構成となってしまうため、ウェハW研磨時に研磨布等を傷つけてしまう可能性が高くなるが、その防止を図ることができる。
【0032】
次に、本実施形態に係る接続線34は、図5に示すように、平面視において、ワークホール22の中心からの半径r1が一定の円弧状に形成された構成となっている。これによれば、切欠き部30における径方向の幅寸法を一定化することができる。したがって、周方向位置によって研磨布の沈み込み状態にばらつきが発生することを回避でき、ウェハW研磨時にエッジ部にダレが発生することを防止できる。
【0033】
一方、接続線34の他の例としては、図6図5と同位置の対応図)に示すように、平面視において、2つの第1円弧33A、33Bと接続された2つの接続位置(具体的には、g、h)における半径r2、r3が相対的に小さく、2つの接続位置(g、h)の中間位置における半径r4が相対的に大きい円弧状に形成された構成としてもよい。これによれば、図5に示す構成と比較して、インナー26をインサート成形によって形成する際に、特に第1円弧33A、33Bの半径が小さい場合等、終端部g、hおよびその近傍の位置において、樹脂の回り込みをより一層良好にすることができる。
【0034】
以上、説明した通り、本発明によれば、キャリアのボディとインナーとの係合部に関して、欠損領域を小さくすることができるため、研磨布が欠損領域で沈み込んでウェハのエッジ部がアール状に削られる不具合(ダレ形状)の発生を抑制することができる。また、インサート成形時に樹脂の未充填部の発生を抑制することができるため、未充填部に異物が入り込み、当該異物によって研磨時にウェハに傷がつくことを防止することができる。さらに、高い係合力を生じさせることができるため、研磨時にボディからインナーが脱落してウェハを破損してしまうリスクを低減することができる。
【0035】
なお、本発明は、以上説明した実施例に限定されることなく、本発明を逸脱しない範囲において種々変更可能である。例えば、研磨を行う対象物としてウェハ(シリコンウェハ)を例に挙げて説明を行ったが、これに限定されるものではなく、他の平板状(特に円板状)のワークに対しても同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0036】
1 ウェハ研磨装置
12 下定盤
14 上定盤
20 ウェハ研磨用キャリア
21 ボディ
22 ワークホール
26 インナー
30 切欠き部
31A、31B 基線
32A、32B 中間線
33A、33B 第1円弧
34 接続線
35A、35B 第2円弧
W ウェハ
図1
図2
図3
図4
図5
図6