(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】圧電モータ、圧電モータ用の摺動材、圧電モータの製造方法、及び注入機器
(51)【国際特許分類】
H02N 2/16 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
H02N2/16
(21)【出願番号】P 2021091504
(22)【出願日】2021-05-31
(62)【分割の表示】P 2021002326の分割
【原出願日】2019-08-02
【審査請求日】2022-08-02
(31)【優先権主張番号】P 2018151666
(32)【優先日】2018-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】518287320
【氏名又は名称】株式会社Piezo Sonic
(74)【代理人】
【識別番号】100099645
【氏名又は名称】山本 晃司
(74)【代理人】
【識別番号】100154162
【氏名又は名称】内田 浩輔
(72)【発明者】
【氏名】多田 興平
【審査官】服部 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-280184(JP,A)
【文献】特開平04-091672(JP,A)
【文献】特開2018-099002(JP,A)
【文献】特開2001-016875(JP,A)
【文献】特開平03-018280(JP,A)
【文献】特開2003-253073(JP,A)
【文献】特開平09-191672(JP,A)
【文献】特開2009-077603(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02N 2/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性体と、前記弾性体に貼り付けられた圧電素子及び摺動材とを有しているステータと、
前記摺動材と当接する基体部分を有するロータとを備え、
前記摺動材は、スリットを挟んで対向する複数の摺動片と、前記複数の摺動片を連結するブリッジとを備えており、
前記ブリッジは、前記弾性体の上面上に配置されて
おり、
前記摺動材は分割されており、それぞれが前記複数の摺動片及び前記ブリッジを含む複数の摺動部分を有している、圧電モータ。
【請求項2】
前記ブリッジは、前記基体部分と接触しない位置に配置されている、請求項1に記載の圧電モータ。
【請求項3】
前記摺動材は、
二つ又は三つ以上の前記摺動部分を有している、請求項1又は2に記載の圧電モータ。
【請求項4】
前記ブリッジは、前記摺動材の内側及び外側の縁部の少なくとも一方に形成されている、請求項1から3のいずれか一項に記載の圧電モータ。
【請求項5】
前記ロータと共に回転するシャフトをさらに備え、
前記ロータは、皿バネ部分と前記基体部分とを有する環状部材と、前記環状部材が固定される固定部とをさらに有し、
前記環状部材の前記皿バネ部分は、前記シャフトに固定された前記固定部に固定されており、
前記ロータには、前記皿バネ部分と前記シャフトとの間に環状溝が形成されている、請求項1から4のいずれか一項に記載の圧電モータ。
【請求項6】
前記固定部の剛性は、前記環状部材の剛性よりも低い、請求項5に記載の圧電モータ。
【請求項7】
前記ステータは、前記弾性体とは別の弾性体と、前記圧電素子とは別の圧電素子と、前記摺動材とは別の摺動材とをさらに有しており、
前記ロータは、前記基体部分とは別の基体部分と、前記皿バネ部分とは別の皿バネ部分とを含む別の環状部材をさらに有している、請求項5又は6に記載の圧電モータ。
【請求項8】
前記皿バネ部分は、前記固定部の一方側に固定されており、
前記別の皿バネ部分は、前記固定部の他方側に固定されている、請求項7に記載の圧電モータ。
【請求項9】
前記ロータは、前記固定部とは別の固定部をさらに有しており、
前記別の皿バネ部分は、前記別の固定部に固定されている、請求項7に記載の圧電モータ。
【請求項10】
薬液を注入するための注入機器であって、
請求項1から9のいずれか一項に記載の圧電モータと、
前記圧電モータによって駆動される駆動機構と、
前記圧電モータを制御する制御装置とを備える、注入機器。
【請求項11】
基体部分を有するロータと、弾性体及び圧電素子を有するステータとを備える圧電モータにおいて、前記基体部分と当接するように前記ステータに設けられる圧電モータ用の摺動材であって、
前記摺動材は、スリットを挟んで対向する複数の摺動片と、前記複数の摺動片を連結するブリッジとを備えており、
前記複数の摺動片及び前記ブリッジを含む前記摺動材は、平坦な形状を有
し且つ分割されているとともに、それぞれが前記複数の摺動片及び前記ブリッジを含む複数の摺動部分を有している、圧電モータ用の摺動材。
【請求項12】
前記摺動材は、強化繊維を含み、JISK7218A法に準拠した滑り摩耗試験によって測定した場合の比摩耗量が、1×10
-6mm
3/N・m未満である架橋フッ素樹脂からなり、
前記滑り摩耗試験は、算術平均粗さが0.2μmのADC12を相手材とし、128m/minの速度及び0.4MPaの荷重で、50時間行うという試験条件である、請求項11に記載の圧電モータ用の摺動材。
【請求項13】
基体部分を有するロータと、弾性体及び圧電素子を有するステータとを備える圧電モータの製造方法であって、
スリットを挟んで対向する複数の摺動片と、前記複数の摺動片を連結するブリッジとを
それぞれが含む複数の摺動部分であって、互いに分割されている複数の摺動部分を備える摺動材を準備し、
前記弾性体の上面上に前記ブリッジ及び前記複数の摺動片が位置するように、前記
複数の摺動
部分を位置合わせし、
前記摺動材を前記弾性体に貼り付ける、圧電モータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電モータ、及び圧電モータを備える注入機器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の
図3及び
図4には、圧電素子を利用して駆動力を生じさせる圧電モータ(例えば、超音波モータ)が記載されている。この圧電モータは、ベースに固定されたステータと、シャフトのつばに固定されたロータとを備えている。そして、ステータは、順に配置された、圧電素子、弾性体及び摺動材を有している。また、ロータは、皿バネ部分と、ステータの摺動体に接触する基体部分とを有している。この皿バネ部分は、ロータをステータに対して付勢するためのスプリングとして機能すると共に、基体部分からロータの中心まで延在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【0004】
ステータの圧電素子に高周波電圧が印可されると、圧電素子の伸縮によって弾性体にたわみ振動が生じ、円周方向に進行波が発生する。ロータは、摺動材を介して弾性体と接触しているので、進行波が発生すると進行波とは反対の方向に回転する。この回転に伴い、シャフトがロータと同じ方向に回転する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ロータの基体部分は、弾性体のたわみによって一方向に移動した後に、皿バネ部分の付勢力によって反対方向に移動する。そのため、基体部分と一体的に形成されている皿バネ部分には、基体部分の往復運動に起因する振動が生じることがある。そして、皿バネ部分の振動が継続する場合には、異音が生じる原因となる。さらに、振動によって皿バネ部分が損傷する可能性があるため、圧電モータの寿命が短くなってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の一例としての圧電モータは、弾性体と、前記弾性体に貼り付けられた圧電素子及び摺動材とを有しているステータと、前記摺動材と当接する基体部分と皿バネ部分とを有する環状部材と、前記環状部材が固定される固定部とを有するロータと、前記ロータと共に回転するシャフトとを備え、前記環状部材の前記皿バネ部分は、前記シャフトに固定された前記固定部に固定されていることを特徴とする。
【0007】
また、本発明の他の例としての注入機器は、薬液を注入するための注入機器であって、上記圧電モータと、前記圧電モータによって駆動される駆動機構と、前記圧電モータを制御する制御装置とを備えることを特徴とする。
【0008】
本発明のさらなる特徴は、添付図面を参照して例示的に示した以下の実施例の説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る圧電モータの概略斜視図である。
【
図6】本発明の第2実施形態に係る圧電モータの概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための例示的な実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。ただし、以下の実施形態において説明する寸法、材料、形状及び構成要素の相対的な位置は任意に設定でき、本発明が適用される装置の構成又は様々な条件に応じて変更できる。また、特別な記載がない限り、本発明の範囲は、以下に具体的に記載された実施形態に限定されるものではない。
【0011】
[第1実施形態]
図1から
図4を用いて第1実施形態の圧電モータ100について説明する。
図1は、第1実施形態の圧電モータ100の斜視図であり、ケース134側から見た外観を示している。
図2は、シャフト135の長手方向に沿った概略断面図であり、シャフト135の回転軸を通る断面を示している。
図3は、摺動材114の概略斜視図である。
図4は、圧電モータ100のロータ121の概略斜視図である。
【0012】
図1に示すように、圧電モータ100は、ベース141と、ベース141にねじ止めされているケース134を備えている。さらに、圧電モータ100は、ベース141及びケース134を貫通してベース141及びケース134から突出するシャフト135を備えている。また、略板状のベース141の側面には、外部と接続するためのコネクタ144が、端子支持板を介して取り付けられている。
【0013】
続いて
図2に示すように、圧電モータ100は、シャフト135の回転軸を中心に略回転対称の構成を備えている。この圧電モータ100は、ベース141に固定されたステータ111と、ステータ111に対向するロータ121とを備えている。そして、ステータ111及びロータ121は、ケース134内の略円柱状のスペースに格納されている。このステータ111は、弾性体113と、弾性体113に貼り付けられた圧電素子112及び摺動材114とを有している。また、ロータ121は、摺動材114と当接する基体部分122と、当該基体部分122と一体的に形成されている皿バネ部分123とを有している環状部材120を備えている。また、シャフト135は、それぞれ略リング状のステータ111及びロータ121を貫通しており、ステータ111とロータ121はシャフト135の回転軸と同軸である。
【0014】
また、圧電モータ100は、圧電素子112と電気的に接続されているフレキシブル基板115を備えている。このフレキシブル基板115は、コネクタ144と電気的に接続されている。そして、圧電素子112には、コネクタ144及びフレキシブル基板115を介して、外部電源から高周波電圧が印可される。高周波電圧が印可されると、圧電素子112の伸縮によって弾性体113にたわみ振動が生じ、円周方向に進行波が発生する。この進行波の各頂点において、ロータ121は、摺動材114を介して弾性体113と接触している。そして、各頂点は楕円運動しており、当該楕円運動の軌跡は、進行波の進む方向とは逆方向である。そのため、ロータ121は、進行波とは反対の方向に回転する。
【0015】
ベース141からロータ121に向かって、ピエゾ素子等の圧電素子112と、圧電素子112が貼り付けられた弾性体113と、弾性体113に貼り付けられた摺動材114とが、この順に配置されている。この摺動材114は、基体部分122を強く押し付けても変形を抑制できるように構成してもよい。一例として、摺動材114は、強化繊維を含む架橋フッ素樹脂により形成できる。フッ素樹脂としては、PTFE、PFA、又はFEPを用いることができ、2種以上のフッ素樹脂を用いることもできる。また強化繊維としては、例えば炭素繊維、ガラス繊維、金属繊維、炭化ケイ素繊維、窒化ケイ素繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、ポリアミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリエステル繊維、セラミック繊維、PTFE繊維、又はボロン繊維を用いることができる。強化繊維を含む架橋フッ素樹脂を用いることによって、ロータ121の基体部分122が摺動材114に押し付けられた際に、強化繊維が摺動材114の変形を抑制する。これにより、ロータ121がステータ111に押し付けられる際の押し付け力(両者の間の摩擦力)をより強くして、圧電モータ100を高トルク化することができる。
【0016】
また、摺動材114は、架橋フッ素樹脂(上記強化繊維を含む架橋フッ素樹脂を含む)として、JISK7218A法(リング対ディスク)に準拠した滑り摩耗試験によって測定した場合の比摩耗量が、1×10-6mm3/N・m未満である架橋フッ素樹脂によって形成できる。より望ましくは、摺動材114は、比摩耗量が、1×10-7mm3/N・m未満である架橋フッ素樹脂によって形成できる。ここで、試験条件は、相手材:算術平均粗さ(Ra)が0.2μmのADC12、速度:128m/min、時間:50時間、荷重:0.4MPaである。比較例として、未架橋のPTFEを同条件で測定した場合の比摩耗量は、1×10-3mm3/N・mであった。この架橋フッ素樹脂を用いることにより、耐摩耗性を向上させて、摺動材114の寿命、ひいては圧電モータ100の寿命を長くできる。また、弾性体113は、複数の櫛歯を備えている。そして、当該櫛歯同士の間には、弾性体113の中心から弾性体113の外周に向かって放射状に延在する矩形状の溝が形成されている。一例として、弾性体113は、鉄、鋼、ジュラルミン、銅合金及びチタン合金等の金属によって形成できる。
【0017】
図3に示すように、摺動材114は、略半円形の外形を有する第1摺動部分114A及び第2摺動部分114Bを備えている。そして、第1摺動部分114A及び第2摺動部分114Bのそれぞれは、スリットを挟んで対向する複数の摺動片114Cと、複数の摺動片114Cを連結するブリッジ114Dとを備えている。また、第1摺動部分114A及び第2摺動部分114Bは、
図3中点線で示す分割ラインDを境に分割されている。代替的に、分割せずに略円形の外形を有するような摺動材114を形成し、当該摺動材114が複数の摺動片114Cとブリッジ114Dとを有するように構成してもよい。また、摺動材114を3つ以上に分割して、略円弧状の外形を有するような複数の摺動部分を形成してもよい。
【0018】
複数の摺動片114Cは、摺動材114の内側の縁部であるブリッジ114Dによって連結されている。そして、第1摺動部分114A及び第2摺動部分114Bのブリッジ114Dの位置を合わせることにより、2つのブリッジ114Dが略リング状に配置されている。また、
図2に示すように、ブリッジ114Dは、基体部分122と接触しない位置に設定されている。そのため、ブリッジ114Dにスリットが形成されていなくとも、摺動材114の楕円運動に与える影響を少なくすることができる。代替的に、ブリッジ114Dは、摺動材114の外側の縁部に形成してもよい。さらに、ブリッジ114Dは、摺動材114の外側の縁部及び内側の縁部の両方に形成してもよい。この場合、摺動材114には、略矩形状の外形を有するスリットが形成される。
【0019】
一例として、摺動材114の貼り付けは、以下のように行うことができる。まず、摺動材114のシート状の母材を準備する。次に、第1摺動部分114A及び第2摺動部分114Bとなる複数の部分を、それぞれが略半円形の外形を有するように母材から切り抜く。そして、弾性体113の複数の櫛歯上に複数の摺動片114Cがそれぞれ位置するように、第1摺動部分114A及び第2摺動部分114Bを位置合わせして、摺動材114を弾性体113に接着剤によって貼り付ける。このとき、ブリッジ114Dによって複数の摺動片114Cが連結されているため、貼り付けの作業性が向上する。
【0020】
その後、接着剤によって圧電素子112を弾性体113に貼り付け、さらに接着剤によって圧電素子112にフレキシブル基板115を貼り付ける。そして、弾性体113をベース141にねじ止めする。代替的に、圧電素子112を弾性体113に貼り付けた後に、摺動材114の貼り付けを行ってもよい。ここで、摺動材114には貼り付け前にスリットが形成されている。そのため、貼り付け後に、基体部分122と接触する部分の周辺にスリットを形成することによって摺動材114の表面が歪んでしまうことを抑制できる。ただし、弾性体113の櫛歯同士の間の溝に対応する位置においてブリッジ114Dが分割されるように、摺動材114の貼り付け後にプレス加工を施してもよい。この場合、基体部分122と接触する部分にはスリットを形成する必要がないので、当該部分において摺動材114の表面が歪むことは防止される。
【0021】
図2に戻り、シャフト135は、ロータ121の回転に伴い、ロータ121と同じ方向に回転する。また、ベース141にはシャフト135が貫通する穴が形成されており、この穴にはブッシュ137が圧入により取り付けられている。代替的に、このブッシュ137に代えてベアリングを用いてもよい。さらに、ケース134にもシャフト135が貫通する穴が形成されており、この穴に対応する位置にはベアリング138が取り付けられている。シャフト135は、ブッシュ137及びベアリング138をそれぞれ貫通している。
【0022】
ステータ111は、複数のステータネジ116によってベース141に固定されている。具体的に、弾性体113のシャフト135側の縁部は、不図示のネジ穴を有している。また、ベース141は、弾性体113のネジ穴に対応するネジ穴を有している。そして、ステータネジ116が両ネジ穴と螺合することにより、ステータ111がベース141に固定されている。
【0023】
ロータ121は、環状部材120の皿バネ部分123が固定される固定部の一例として、シャフト135に固定されるスタビライザー125を有している。
図4に示すように、この環状部材120の中央には穴が形成されており、環状部材120とスタビライザー125とは別体である。そして、ロータ121は、複数の第1ロータネジ124と、スタビライザー125と、複数の第2ロータネジ126とを介して、シャフト135のフランジ136に固定されている。そして、環状部材120の皿バネ部分123のシャフト135側に位置する内縁部127は、ネジ穴を有している。また、スタビライザー125の外縁部は、当該ネジ穴に対応するネジ穴を有している。そして、第1ロータネジ124(
図2)が両ネジ穴と螺合することにより、皿バネ部分123がスタビライザー125に固定されている。
【0024】
皿バネ部分123は、ロータ121をステータ111に対して付勢するためのスプリングとして機能する。これにより、基体部分122が、ステータ111の摺動材114に押し付けられている。すなわち、皿バネ部分123が基体部分122をステータ111に対して付勢することにより、ロータ121が摺動材114に密着する。皿バネ部分123がスプリングとして機能することにより、圧電モータ100のサイズを小さくすることができる。
【0025】
また、
図2に示すように、皿バネ部分123は、圧電モータ100の半径方向において、基体部分122とスタビライザー125との間に設けられている。換言すると、スタビライザー125は、皿バネ部分123よりもシャフト135に近い位置において、シャフト135に固定されている。具体的に、スタビライザー125の内縁部及びシャフト135のフランジ136には、それぞれ対応するネジ穴が形成されている。そして、第2ロータネジ126が両ネジ穴と螺合することにより、スタビライザー125がフランジ136に固定されている。
【0026】
このスタビライザー125は、皿バネ部分123の湾曲した薄肉部よりも厚く形成されている。すなわち、シャフト135の回転軸方向において、スタビライザー125は、皿バネ部分123の薄肉部よりも厚い。そして、スタビライザー125は、皿バネ部分123の振動が伝搬するように構成されている。これにより、皿バネ部分123の振動を抑制し、異音を低減することができる。また、振動を抑制する結果、圧電モータ100の寿命をより長くすることができる。なお、スタビライザー125は厚いため、皿バネ部分123から振動が伝搬しても損傷する可能性は低い。また、スタビライザー125は、環状部材120よりも質量が大きくなるように形成してもよい。なお、スタビライザー125には、アルマイト処理、又はアニール処理を施してもよい。
【0027】
さらに、スタビライザー125によって、皿バネ部分123の内縁部127から皿バネ部分123の外縁部128までの距離をより短くできる。換言すると、ロータ121の半径方向における皿バネ部分123の長さを、従来よりも短くできる。これにより、損傷しやすい薄肉部を短くできるため、皿バネ部分123が損傷する可能性を減少させることができる。その結果、圧電モータ100の寿命をより長くすることができる。また、より強い力でロータ121をステータ111に押し付けても損傷しないため、圧電モータ100を高トルク化することができる。さらに、高精度の加工を要する薄肉部を短くできるため、皿バネ部分123の製造コストを削減することもできる。また、皿バネ部分123の変形量を低く抑えて、圧電モータ100を高トルク化することができる。また、スタビライザー125より外側に位置する環状部材120の質量が低くなる結果、ロータ121の慣性モーメントを下げることができる。そのため、圧電モータ100の応答性を向上させることができる。
【0028】
ここで、皿バネ部分123は、第1ロータネジ124によって、スタビライザー125にねじ止めされている。そして、スタビライザー125は、第2ロータネジ126によって、シャフト135のフランジ136にねじ止めされている。ねじ止めにより、皿バネ部分123をスタビライザー125に強固に固定できると共に、スタビライザー125をシャフト135に強固に固定できる。
【0029】
図2における第2ロータネジ126のねじ止め方向は、第1ロータネジ124のねじ止め方向とは反対方向である。すなわち、第1ロータネジ124は、ケース134側からベース141側に向かってねじ込まれている。これに対して、第2ロータネジ126は、ベース141側からケース134側に向かってねじ込まれている。一例として、まず一方向から螺入される第1ロータネジ124によって、ロータ121をスタビライザー125に取り付けられる。次に、反対方向から螺入される第2ロータネジ126によって、スタビライザー125をシャフト135に取り付ける。
【0030】
ただし、スタビライザー125をシャフト135に固定するときのねじ止め方向は、皿バネ部分123をスタビライザー125に固定するときのねじ止め方向と同一方向であってもよい。すなわち、第2ロータネジ126をケース134側からベース141側に向かってねじ込めるように、スタビライザー125及びフランジ136にネジ穴を形成してもよい。第2ロータネジ126及び第1ロータネジ124を同一方向にねじ込むことにより、両ネジによる締め付け方向が一致する。そのため、ロータ121をシャフト135により強固に固定できる。
【0031】
ここで、スタビライザー125は、金属製であってもよい。一例として、スタビライザー125は、5000系アルミニウム合金(例えばA5052)によって形成できる。これにより、ケース134をベース141に取り付ける際に、スタビライザー125の変形量を低く抑えることができる。そのため、ロータ121がステータ111に押し付けられる際の押し付け力(両者の間の摩擦力)をより強くして、圧電モータ100を高トルク化することができる。さらに、両者の間の押し付け力がばらつくことも抑制できる。すなわち、ケース134を取り付ける際に、スタビライザー125は、ベース141(ステータ111)側に押し付けられる。これにより、ロータ121がステータ111に押し付けられるが、その際にスタビライザー125の大きな変形に起因して、押し付け力がばらつくことを抑制できる。なお、環状部材120は、一例として、7000系アルミニウム合金(例えばA7075)によって形成できる。
【0032】
また、スタビライザー125は、環状部材120よりも低剛性となるように(縦弾性係数が低くなるように)構成してもよい。これにより、スタビライザー125が振動を吸収することによって、皿バネ部分123の振動をより抑制することができる。そのために、スタビライザー125は、
図4に点線で示したシャフト135の回転軸Rを中心とする環状溝129を有している。この環状溝129は、断面略U字状の形状を有しており、環状溝129の底はスタビライザー125の他の部分よりも薄い。この環状溝129により、スタビライザー125の剛性をより低くできる。その結果、皿バネ部分123の振動をより抑制することができる。このようにスタビライザー125を低剛性に構成することにより、ロータ121をステータ111に押し付ける際にスタビライザー125がわずかに変形する。その結果、ロータ121をステータ111に押し付ける力を均等に分散させることができる。なお、スタビライザー125は、環状部材120と同じ剛性、または環状部材120よりも高剛性となるように構成してもよい。ただし、低剛性となるように構成することにより、皿バネ部分123の振動をより抑制することができる。なお、
図4においては、環状溝129が1つであるが、2つ以上の環状溝129を形成してもよい。
【0033】
また、略リング状のスタビライザー125の半径方向における幅は、同じく略リング状の皿バネ部分123の半径方向における幅よりも長く設定されている。これにより、皿バネ部分123の全周に渡って、スタビライザー125の質量を、皿バネ部分123の対応する部分よりも大きくできる。そのため、皿バネ部分123の全周に渡って、スタビライザー125の剛性を、皿バネ部分123よりも低くできる。ただし、一変形例として、スタビライザー125の形状はリング状には限定されず、多角形等の他の形状であってもよい。
【0034】
なお、ベアリング138とスタビライザー125との間には、スペーサーを配置してもよい。これにより、ケース134をベース141に取り付ける際に、ロータ121がステータ111に押し付けられる際の押し付け力を調整することができる。さらに、このスペーサーに代えてまたはスペーサーに加えて、ベアリング138とスタビライザー125との間にスプリング、例えば皿バネを配置してもよい。これにより、ロータ121がステータ111に押し付けられる際の押し付け力をより強くして、圧電モータ100を高トルク化することができる。具体的には、スタビライザー125に向かって凸状の皿バネを配置することによって、ロータ121をステータ111に押し付けることができる。
【0035】
上記第1実施形態に係る圧電モータ100によれば、スタビライザー125を備えることにより、基体部分122と一体的に形成されている皿バネ部分123の振動を抑制できる。そのため、異音を低減できると共に、皿バネ部分123の損傷を抑制して、圧電モータ100の寿命をより長くできる。
【0036】
[注入機器]
続いて、ブロック図である
図5を参照して、注入機器201について説明する。なお、圧電モータ100の構成は上述しているため、その説明は省略する。
【0037】
図5に示すように、薬液を注入するための注入機器201は、圧電モータ100と、圧電モータ100によって駆動される駆動機構204と、圧電モータ100を制御する制御装置205とを備えている。この駆動機構204は、圧電モータ100が正転するときに薬液を送り出すように駆動される。また、駆動機構204及び圧電モータ100は、注入機器201の注入ヘッド202のフレーム221内に格納されている。そして、圧電モータ100は、フレーム221内においてシリンジホルダー292が位置する側を前側とした場合に、後側に配置されている。
【0038】
フレーム221は、2つのシリンダ291を保持するために2つのシリンジホルダー292を有している。さらに、注入機器201は、薬液の注入状況等が表示されるコンソール206を有している。このコンソール206は光ケーブルを介して制御装置205に接続されており、制御装置205は注入ヘッド202に接続されている。また、制御装置205及びコンソール206は検査室内又は検査室外の外部電源に接続されており、制御装置205はパワーサプライとしても機能している。
【0039】
制御装置205は、圧電モータ100を制御するCPU251と、圧電モータ100に高周波電圧を印可する駆動回路252とを有している。このCPU251は、駆動信号を圧電モータ100に送信するために駆動回路252に電気的に接続されている。また、駆動回路252は、圧電モータ100に電気的に接続されている。圧電モータ100にはエンコーダ239が接続されており、圧電モータ100の回転数及び回転の有無等の情報を制御装置205に送信している。
【0040】
駆動機構204は、伝達機構241と、ボールネジ軸211と、ボールネジナット212と、アクチュエータ213とを備えている。この駆動機構204は、シリンジホルダー292と圧電モータ100との間に配置されている。伝達機構241は圧電モータ100のシャフト135に接続されており、ボールネジ軸211は伝達機構241に接続されている。また、ボールネジナット212はボールネジ軸211に取り付けられており、アクチュエータ213はボールネジナット212に接続されている。
【0041】
伝達機構241は、シャフト135に接続されたピニオンギアと、ボールネジ軸211に接続されたスクリューギアとを有している(不図示)。そして、伝達機構241は、圧電モータ100からの回転をボールネジ軸211に伝達する。そのため、圧電モータ100のシャフト135の回転は、ピニオンギア及びスクリューギアを介してボールネジ軸211に伝達される。
【0042】
ボールネジ軸211は、シャフト135から伝達された回転に従って回転する。そして、ボールネジナット212は、ボールネジ軸211の回転に伴い前進方向(前側方向)又は後進方向(後側方向)に摺動する。その結果、ボールネジナット212の摺動に伴い、アクチュエータ213が前進又は後進する。すなわち、シャフト135が正転するとアクチュエータ213が前進し、シャフト135が逆転するとアクチュエータ213が後進する。
【0043】
シリンジホルダー292に搭載される各シリンダ291には、シリンダ291内において摺動可能であるピストン293が取り付けられている。そして、シリンダ291は、ピストン293のロッドがアクチュエータ213の先端に当接するように搭載される。これにより、シリンダ291が搭載された状態でボールネジナット212が前進方向に摺動すると、アクチュエータ213がピストン293を前進方向に押すことになる。そして、ピストン293が前進するとシリンダ291内の薬液が押し出され、シリンダ291の先端に接続されるカテーテル等を介して患者の体内に注入される。また、ボールネジナット212が後進方向に摺動すると、アクチュエータ213がピストン293を後進方向に引くことになる。
【0044】
薬液を注入する場合、使用者は、薬液が充填された2つのシリンダ291をシリンジホルダー292に搭載し、注入機器201の電源をオンする。その後、使用者が注入ボタンを押すと、制御装置205は圧電モータ100に駆動信号として正転信号を送る。この正転信号に応じて圧電モータ100が駆動し、シャフト135が正転する。シャフト135が正転すると薬液が注入され、エンコーダ239は回転を検出して制御装置205にパルス信号を送る。
【0045】
注入が終了しシリンダ291を外す場合、ピストン293を後進させるために、制御装置205は圧電モータ100に駆動信号として逆転信号を送る。この逆転信号に応じて圧電モータ100が駆動し、シャフト135が逆転する。なお、圧電モータ100に送信される駆動信号は交流信号であり、位相が異なる2種類の信号のうち一方が他方に対して遅れている場合を正転信号としたときに、他方が一方に対して遅れている場合が逆転信号となる。
【0046】
制御装置205は予め注入プロトコルを記憶しており、薬液の注入は注入プロトコルに従って自動的に行われる。この注入プロトコルは、例えば、注入時間、注入速度、注入量及び注入圧力リミット値を含んでいる。そして、制御装置205は注入状況を監視し、注入圧力の低下等の異常を検知した場合には薬液の注入を自動で停止する。なお、注入圧力は、アクチュエータ213の先端に取り付けられているロードセルによって検出できる。
【0047】
ここで圧電モータ100は、非磁性体材料を用いて構成できる。非磁性体材料の一例として、弾性体113の材料はリン青銅であり、シャフト135、第2ロータネジ126、第1ロータネジ124、及びステータネジ116の材料は真鍮である。また、ケース134、ベース141、皿バネ部分123、及びスタビライザー125の材料はアルミニウムであり、ブッシュ137の材料はフッ素樹脂である。
【0048】
非磁性体材料を用いて圧電モータ100を構成することにより、MRI(Magnetic Resonance Imaging)装置等の、磁気を利用する機器の近傍で注入機器201を使用できる。また、注入機器201は、例えば、CT(Computed Tomography)装置、アンギオ撮像装置、PET(Positron Emission Tomography)装置、SPECT(Single Photon Emission Computed Tomography)装置、CTアンギオ装置、MRアンギオ装置、超音波診断装置、又は血管撮像装置と共に用いてもよい。この場合、圧電モータ100は、磁性体材料を用いて構成できる。
【0049】
上記注入機器201においても、圧電モータ100がスタビライザー125を備えることにより、皿バネ部分123の振動を抑制できる。そのため、異音を低減できると共に、皿バネ部分123の損傷を抑制して、圧電モータ100の寿命をより長くできる。ひいては、注入機器201の寿命をより長くすることができる。
【0050】
[第2実施形態]
図6から
図8を用いて第2実施形態の圧電モータ300について説明する。
図6は、第2実施形態の圧電モータ300の斜視図である。
図7は、シャフト335の長手方向に沿った概略断面図であり、シャフト335の回転軸を通る断面を示している。
図8は、圧電モータ300のロータ321の概略斜視図である。第2実施形態においては、ステータが、別の弾性体と、別の圧電素子と、別の摺動材とをさらに有している。また、ロータも、別の基体部分と、別の皿バネ部分とをさらに有している。
【0051】
図6に示すように、圧電モータ300は、一対のベース341に固定されるケース334を有する。一対のベース341はそれぞれ略板状であり、ケース334に対してネジ止めされている。さらに、圧電モータ300は、ベース341及びケース334を貫通してベース341及びケース334から突出するシャフト335を備えている。そして、シャフト335は、それぞれ略リング状のステータ311及びロータ321を貫通しており、ロータ321と共に回転する。また、一対のベース341のそれぞれの側面には、外部と接続するためのコネクタ344が、端子支持板を介して取り付けられている。
【0052】
続いて
図7に示すように、圧電モータ300は、シャフト335の回転軸を中心に略回転対称の構成を備えている。この圧電モータ300は、ベース341に固定されたステータ311と、ステータ311に対向するロータ321とを備えている。そして、ステータ311及びロータ321は、ケース334内の略円柱状のスペースに格納されている。また、シャフト335は、それぞれ略リング状のステータ311及びロータ321を貫通しており、ステータ311とロータ321はシャフト335の回転軸と同軸である。
【0053】
第2実施形態のステータ311は、2つの弾性体313と、2つの圧電素子312と、2つの摺動材314とを有している。そして、各圧電素子312及び各摺動材314は、各弾性体313に貼り付けられている。また、ロータ321は、それぞれ基体部分322と皿バネ部分323とを有している2つの環状部材320を備えている。各基体部分322は各摺動材314と当接し、皿バネ部分323はそれぞれ基体部分322と一体的に形成されている。さらに、ロータ321は、2つの環状部材320の皿バネ部分323が固定されると共に、シャフト335に固定される固定部の一例として、スタビライザー325を有している。
【0054】
圧電モータ300の両側において、圧電素子312と、弾性体313と、摺動材314とは、ベース341からロータ321に向かってこの順に配置されている。さらに、圧電モータ300は、各圧電素子312と電気的に接続されているフレキシブル基板315を備えている。この2つのフレキシブル基板315は、コネクタ344と電気的に接続されている。そして、圧電素子312には、コネクタ344及びフレキシブル基板315を介して、外部電源から高周波電圧が印可される。
【0055】
一対のベース341にはシャフト335が貫通する穴が形成されており、各穴にはブッシュ337が圧入により取り付けられている。そして、シャフト335は、2つのブッシュ337をそれぞれ貫通している。代替的に、ブッシュ337に代えてベアリングを用いてもよい。また、各ステータ311は、複数のステータネジ316によって各ベース341に固定されている。具体的に、弾性体313のシャフト335側の縁部は、ネジ穴を有している。また、ベース341は、弾性体313のネジ穴に対応するネジ穴を有している。そして、ステータネジ316が両ネジ穴と螺合することにより、ステータ311がベース341に固定されている。
【0056】
ロータ321は、複数の第1ロータネジ324と、スタビライザー325と、複数の第2ロータネジ326とを介して、シャフト335のフランジ336に固定されている。また、ロータ321は、2つの皿バネ部分323が固定される1つのスタビライザー325を有している。具体的に、各皿バネ部分323のシャフト335側に位置する内縁部327(
図8)は、ネジ穴を有している。また、スタビライザー325の外縁部は、当該ネジ穴に対応するネジ穴を有している。そして、第1ロータネジ324が両ネジ穴と螺合することにより、各皿バネ部分323がスタビライザー325に固定されている。
【0057】
皿バネ部分323の一方はスタビライザー325の一方側に固定されており、当該一方側とは反対の他方側に皿バネ部分323の他方が固定されている。そして、スタビライザー325の外縁部は、2つの皿バネ部分323の内縁部327に挟まれている。また、皿バネ部分323は、圧電モータ300の半径方向において、基体部分322とスタビライザー325との間に設けられている。換言すると、スタビライザー325は、皿バネ部分323よりもシャフト335に近い位置において、シャフト335に固定されている。具体的に、スタビライザー325の内縁部及びシャフト335のフランジ336には、それぞれ対応するネジ穴が形成されている。そして、第2ロータネジ326が両ネジ穴と螺合することにより、スタビライザー325がフランジ336に固定されている。
【0058】
代替的に、ロータ321は、別のスタビライザー325をさらに有していてもよい。この場合、皿バネ部分323の一つは、別のスタビライザー325に固定される。すなわち、2つのスタビライザー325が、それぞれ弾性体313と対向する位置に配置される。また、シャフト335には、2つのスタビライザー325がねじ止めされる2つのフランジ336が形成される。別のスタビライザー325を設ける場合、第1実施形態のスタビライザー125を用いることができるため、部品点数を削減できる。一方、ロータ321がスタビライザー325を1つのみ備える場合には、圧電モータ300を小型化することができる。
【0059】
シャフト335の回転軸方向において、スタビライザー325は、皿バネ部分323の薄肉部よりも厚い。そして、スタビライザー325は、皿バネ部分323の振動が伝搬するように構成されている。これにより、皿バネ部分323の振動を抑制し、異音を低減することができる。また、振動を抑制する結果、圧電モータ300の寿命をより長くすることができる。さらに、スタビライザー325は、皿バネ部分323よりも剛性が低くなるように構成してもよい。これにより、スタビライザー325によって、皿バネ部分323の振動をより抑制することができる。
【0060】
スタビライザー325によって、皿バネ部分323の内縁部327から皿バネ部分323の外縁部328までの距離を従来よりも短くできる。これにより、損傷しやすい薄肉部を短くできるため、皿バネ部分323が損傷する可能性を減少させることができる。その結果、圧電モータ300の寿命をより長くすることができる。さらに、高精度の加工を要する薄肉部を短くできるため、皿バネ部分323の製造コストを削減することもできる。また、皿バネ部分323の変形量を低く抑えて、圧電モータ300を高トルク化することができる。
【0061】
図7における第2ロータネジ326のねじ止め方向は、第1ロータネジ324のねじ止め方向と同一方向である。すなわち、スタビライザー325をシャフト335に固定するときのねじ止め方向は、皿バネ部分323をスタビライザー325に固定するときのねじ止め方向と同一方向である。これにより、両ネジによる締め付け方向が一致する。そのため、ロータ321をシャフト335により強固に固定できる。
【0062】
ここで、スタビライザー325は、金属製であってもよい。これにより、ケース334をベース341に取り付ける際に、スタビライザー325の変形量を低く抑えることができる。そのため、ロータ321がステータ311に押し付けられる際の押し付け力(両者の間の摩擦力)をより強くして、圧電モータ300を高トルク化することができる。さらに、両者の間の押し付け力がばらつくことも抑制できる。
【0063】
さらに、スタビライザー325は、
図8に点線で示したシャフト335の回転軸Rを中心とする環状溝329を有している。この環状溝329は、断面略U字状の形状を有しており、環状溝329の底はスタビライザー325の他の部分よりも薄い。この環状溝329により、スタビライザー325の剛性をより低くできる。その結果、皿バネ部分323の振動をより抑制することができる。なお、
図8においては、環状溝329が1つであるが、2つ以上の環状溝329を形成してもよい。
【0064】
圧電モータ300の半径方向において、スタビライザー325の幅は、皿バネ部分323の幅よりも長く設定されている。これにより、皿バネ部分323の全周に渡って、スタビライザー325の質量を、皿バネ部分323の対応する部分よりも大きくできる。そのため、皿バネ部分323の全周に渡って、スタビライザー325の剛性を、皿バネ部分323よりも低くできる。
【0065】
なお、シャフト335のフランジ336とスタビライザー325との間にスペーサーを配置してもよい。これにより、ケース334をベース341に取り付ける際に、ロータ321がステータ311に押し付けられる際の押し付け力を調整することができる。さらに、このスペーサーに代えてまたはスペーサーに加えて、フランジ336とスタビライザー325との間にスプリング、例えば皿バネを配置してもよい。これにより、ロータ321がステータ311に押し付けられる際の押し付け力をより強くして、圧電モータ300を高トルク化することができる。
【0066】
上記第2実施形態に係る圧電モータ300は、スタビライザー325を備えることにより、皿バネ部分323の振動を抑制できる。そのため、異音を低減できると共に、皿バネ部分323の損傷を抑制して、圧電モータ300の寿命をより長くできる。さらに、第1実施形態と比較して、圧電モータ300のトルクをより高くすることができる。
【0067】
以上、各実施形態を参照して本発明について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明に反しない範囲で変更された発明、及び本発明と均等な発明も本発明に含まれる。また、各実施形態及び各変形形態は、本発明に反しない範囲で適宜組み合わせることができる。
【0068】
例えば、スタビライザー125と、基体部分122と、皿バネ部分123とを有する複数のロータ121を設けてもよい。この場合、圧電素子112と、弾性体113と、摺動材114とを有する複数のステータ111を、複数のロータ121の数に対応して設けることができる。また、シャフト135には、スタビライザー125の数に対応する数のフランジ136を形成できる。例えば、3つのロータ121を設ける場合、3つのステータ111を設けると共に、シャフト135には3つのフランジ136を形成する。なお、4つ以上のロータ121及びステータ111を設けてもよい。
【0069】
また、皿バネ部分123、323の固定と、スタビライザー125、325の固定は、ねじ止めには限定されず、それぞれ溶接等の他の固定方法を用いることもできる。また、上記実施形態では、基体部分122、322と皿バネ部分123、323とが一体的に形成されている。ただし、基体部分122、322と皿バネ部分123、323とをそれぞれ形成した後に、両者を溶接等の方法によって一体化させてもよい。また、環状溝129、329に代えて、格子状、放射状、又は同心円状に配列されるように複数の穴又は凹部を形成してもよい。さらに、多数の穴又は凹部を等間隔で形成してもよく、スタビライザー125、325内に多数の中空の空間又はリング状の空間を形成してもよい。この場合、金属材料を使用した三次元造形によってスタビライザー125、325を形成できる。
【0070】
上記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下には限られない。なお、振動を抑制する必要がない場合(例えば、異音を無視できる場合)、ロータ121、321は、スタビライザー125、325を備えていなくともよい。この場合、皿バネ部分123、323は、シャフト135、335まで延在し、フランジ136、336に直接固定される。
【0071】
(付記1)
弾性体と、前記弾性体に貼り付けられた圧電素子及び摺動材とを有しているステータと、
前記摺動材と当接する基体部分と皿バネ部分とを含む環状部材を有するロータと、
前記ロータと共に回転するシャフトとを備え、
前記摺動材は、スリットを挟んで対向する複数の摺動片と、前記複数の摺動片を連結するブリッジとを備えている、圧電モータ。
【0072】
(付記2)
前記複数の摺動片は、前記基体部分と接触する位置に配置されており、
前記ブリッジは、前記基体部分と接触する位置を避けて配置されている、付記1に記載の圧電モータ。
【0073】
(付記3)
前記摺動材は、強化繊維を含む架橋フッ素樹脂からなる、付記1又は2に記載の圧電モータ。
【0074】
(付記4)
前記摺動材は、比摩耗量が1×10-6mm3/N・m未満である、付記1から3のいずれか一つに記載の圧電モータ。
【0075】
(付記5)
弾性体と、前記弾性体に貼り付けられた圧電素子及び摺動材とを有しているステータと、
前記摺動材と当接する基体部分と皿バネ部分とを含む環状部材を有するロータと、
前記ロータと共に回転するシャフトとを備え、
前記摺動材は、強化繊維を含む架橋フッ素樹脂からなる、圧電モータ。
【0076】
(付記6)
前記摺動材は、比摩耗量が1×10-6mm3/N・m未満である、付記5に記載の圧電モータ。
【0077】
この出願は2018年8月10日に出願された日本国特許出願第2018-151666号からの優先権を主張し、その全内容を引用してこの出願の一部とする。
【符号の説明】
【0078】
100:圧電モータ、111:ステータ、112:圧電素子、113:弾性体、114:摺動材、121:ロータ、122:基体部分、123:皿バネ部分、125:固定部、129:環状溝、135:シャフト、201:注入機器、204:駆動機構、205:制御装置、300:圧電モータ、311:ステータ、312:圧電素子、313:弾性体、314:摺動材、321:ロータ、322:基体部分、323:皿バネ部分、325:固定部、329:環状溝、335:シャフト