(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】新型音叉型水晶発振片、その製造方法及び圧電デバイス
(51)【国際特許分類】
H03H 9/19 20060101AFI20241004BHJP
H03H 3/02 20060101ALI20241004BHJP
H03H 9/215 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
H03H9/19 K
H03H3/02 B
H03H9/215
H03H9/19 J
(21)【出願番号】P 2023030879
(22)【出願日】2023-03-01
【審査請求日】2023-03-01
(31)【優先権主張番号】202211462516.9
(32)【優先日】2022-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】516360775
【氏名又は名称】成都泰美克晶体技術有限公司
【氏名又は名称原語表記】CHENGDU TIMEMAKER CRYSTAL TECHNOLOGY CO., LTD
【住所又は居所原語表記】No. 103, Tianying Road, Hi-tech Zone(West Park)Chengdu, Sichuan 610041, China
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】李 輝
(72)【発明者】
【氏名】叶 竹之
(72)【発明者】
【氏名】劉 ▲ユー▼剣
(72)【発明者】
【氏名】陸 旺
(72)【発明者】
【氏名】李 歓
【審査官】石田 昌敏
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-113238(JP,A)
【文献】特開2012-161104(JP,A)
【文献】特開2013-232778(JP,A)
【文献】特開2010-088054(JP,A)
【文献】特開2004-320736(JP,A)
【文献】国際公開第2005/096493(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/00- 9/74
H03H 3/007-3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部と、基部から延設された1対の振動腕(1)と、を含む新型音叉型水晶発振片であって、
前記振動腕(1)の表裏面共に、厚さ方向においてフォトリソグラフィーにより形成された段差状座ぐり溝を有し、前記段差状座ぐり溝は振動腕(1)の長さ方向に沿ってフォトリソグラフィーにより形成されたものであり、
前記段差状座ぐり溝はn回のフォトリソグラフィーにより形成されたn段の段差を有し、nは自然数であって且つn≧
3であり、
前記段差状座ぐり溝の外面全体にわたって電極がメッキされていることを特徴とする新型音叉型水晶発振片。
【請求項2】
前記段差状座ぐり溝は中部段差(2)と少なくとも
2組の縁部段差(3)と、を含み、前記中部段差(2)は1つであり、前記縁部段差(3)はn-1組であり、各組の縁部段差(3)は2つの同じ段差であり、かつ中部段差(2)の両側に対称に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の新型音叉型水晶発振片。
【請求項3】
前記段差状座ぐり溝
は2組の縁部段差(3)又は3組の縁部段差(3)を有することを特徴とする請求項2に記載の新型音叉型水晶発振片。
【請求項4】
縁部段差(3)が2組である場合、2組の縁部段差(3)の幅が同じであり、同側にある2つの縁部段差(3)の幅の和が段差の全幅Wの28%~32%であり、2組の縁部段差(3)のいずれの高さも中部段差(2)の高さと同じであり、
縁部段差(3)が3組である場合、3組の縁部段差(3)の幅が同じであり、同側にある3つの縁部段差(3)の幅の和が段差の全幅Wの28%~32%であり、3組の縁部段差(3)のいずれの高さも中部段差(2)の高さと同じであることを特徴とする請求項2に記載の新型音叉型水晶発振片。
【請求項5】
縁部段差(3)が2組である場合、2組の縁部段差(3)の幅が同じであり、同側にある2つの縁部段差(3)の幅の和が段差の全幅Wの30%であり、2組の縁部段差(3)のいずれの高さも中部段差(2)の高さと同じであり、
縁部段差(3)が3組である場合、3組の縁部段差(3)の幅が同じであり、同側にある3つの縁部段差(3)の幅の和が段差の全幅Wの30%であり、3組の縁部段差(3)のいずれの高さも中部段差(2)の高さと同じであることを特徴とする請求項4に記載の新型音叉型水晶発振片。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の新型音叉型水晶発振片を含むことを特徴とする圧電デバイス。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の新型音叉型水晶発振片の製造方法であって、
水晶片フィンガーの表裏面に金属膜をメッキするステップS1と、
フォトリソグラフィーで1層目の溝を形成するステップであって、
金属膜がメッキされた水晶片フィンガーの表裏面に感光性フォトレジスト材料を塗布するステップS21と、
感光性フォトレジスト材料が塗布された水晶片に対して、1層目の溝のフォトリソグラフィーを受けた位置にパターン露光現像を行い、所望のパターンを形成するステップS22と、
露出させた領域に対して金属エッチングをエッチング液で行い、腐食対象の水晶片表面を露出させるステップS23と、
水晶片表面のフォトレジストを剥離して除去するステップS24と、
腐食溶液で腐食し、金属エッチングにより露出させた領域を下方へ腐食し、1層目の溝の初期輪郭形態を形成するステップS25と、を含むステップS2と、
フォトリソグラフィーで2層目の溝を形成するステップであって、
フォトリソグラフィーで1層目の溝を形成した水晶片フィンガーの表裏面に感光性フォトレジスト材料を塗布するステップS31と、
感光性フォトレジスト材料が塗布された水晶片に対して、2層目の溝のフォトリソグラフィーを受けた位置にパターン露光現像を行い、所望のパターンを形成するステップS32と、
露出させた領域に対して金属エッチングをエッチング液で行い、腐食対象の水晶片表面を露出させるステップS33と、
水晶片表面のフォトレジストを剥離して除去するステップS34と、
腐食溶液で腐食し、金属エッチングにより露出させた腐食対象の水晶片表面を下方へ腐食し、このとき、1層目の溝と2層目の溝の構造が全て腐食により形成されたため、段差状座ぐり溝構造を腐食により形成し、
段差状座ぐり溝がn段の段差を有し、n≧3であ
り、ステップS3をn-2回繰り返すステップS35と、を含むステップS3と、
エッチング液を用いて水晶片表面の金属を除去し、新型音叉型水晶発振片を得るステップS4と、を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項8】
前記ステップS1では、金属膜をメッキするときに、マグネトロンスパッタリング又は蒸発により膜をメッキし、クロムを下地層として、金属膜の厚さを5~50nmとし、トップ層は金を材料とし、厚さを100nmよりも大きくし、
前記ステップS23及びステップS33では、露出させた領域に対して金属エッチングをエッチング液で行うときに、金エッチング液とクロムエッチング液を用いて金属エッチングを順次行うことを特徴とする請求項
7に記載の新型音叉型水晶発振片の製造方法。
【請求項9】
前記ステップS25及びステップS35では、腐食溶液で腐食するときに、腐食溶液の流速は8~20L/min、腐食温度は30~90℃、腐食時間は15~130minとすることを特徴とする請求項
7に記載の新型音叉型水晶発振片の製造方法。
【請求項10】
前記ステップS25及びステップS35では、腐食溶液で腐食するときに、腐食溶液の流速は15~20L/min、腐食温度は50~70℃とすることを特徴とする請求項
7に記載の新型音叉型水晶発振片の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は圧電デバイスの分野に関し、具体的には、新型音叉型水晶発振片、その製造方法及び圧電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
音叉型水晶共振子は、圧電水晶の逆圧電効果を利用して、電場駆動により高精度の振動周波数を発生させる電子素子である。該音叉型水晶共振子は、音叉型水晶発振片、ベース、筐体、銀ペーストなどの構成要素で構成される。現在、電子情報に応用されている音叉は周波数が32.768KHzで、15回分周した後に標準的な1秒パルス信号を発生させ、電子システムのクロックの計時に用いられる場合、電子システムの重要なクロックユニットモジュールである。音叉型水晶共振子は携帯電話、コンピュータ、ワイヤレスイヤホン、スマートブレスレット、スマート家電、ヘルスケアデバイス、腕時計、クロックに広く使われている。通信端末の電子製品の小型化や超薄型化に伴い、特にスマートウェアラブル電子製品では、回線装着スペースが厳しく要求され、電子デバイスにも小寸法化や小型化が求められている。電子製品におけるクロック信号生成用の音叉型水晶共振子としても、パッケージサイズがますます小さくなり、これによって、水晶共振子における音叉型水晶発振片のサイズも小さくなる。
【0003】
小型音叉型発振子を設計する際には、パッケージベースに収納するように小型化する必要があり、現在は振動腕に溝を設けた形態が使用されており、
図1に示すような構造では、溝内に電極を構成することで電極面積を増加させ、電場効率を向上させ、抵抗値を低減する。また、小型音叉型水晶共振子のサイズの減少に伴い、従来の機械加工では要求を満たすことが困難になるため、現在、小型パッチ型SMD型音叉型水晶共振子のコア部品である水晶音叉型発振片の加工はすべてフォトリソグラフィープロセス(エッチングプロセスと略称)を用いて加工されている。
【0004】
圧電水晶は異方性材料を採用しているため、水晶のエッチング過程においては、水晶の軸方向に沿って腐食速度が異なり、その結果、音叉腕の溝の腐食断面図は
図2(a)に示すようになり、
図2(a)に示した場合、電場分布と振動分析は
図2(b)に示すようになる。従来設計されている音叉振動腕は四面に電極をメッキする必要があり、上面と下面の電極に正の電場が印加され、側面の電極に負の電場が印加され、その電場分布が
図3に示される。上記
図3に示す電場分布では、振動腕の受力分析を
図4に示し、
図4に示すように、T1はX方向の受力、T2はY方向の受力、T4はXZ方向のせん断力を表している。zカットの水晶の発生するT1とT2の圧電係数d11とd12は2.31e~12N/Cであり、発生するT4応力に対応する圧電係数d14は7.30e~13N/Cであるため、T4の受ける力は非常に小さく、無視される場合が多い。
図4の受力分析からわかるように、X方向のT1は方向が反対向きで、モーメントが0であって変形は生じず、Z方向の力T4はバランスを取っているが、モーメントが0ではないため、ねじれ変形が生じ、Y方向の力T2はバランスを取っており、モーメントが0ではなく、バランスを取っていないモーメントにより曲げが発生する。このため、電場E1の作用によりX方向に曲げ変形が発生する。
図4の受力分析原理に基づいて、
図2の受力分析は
図5に示すようになる。
図5に示すように、T
m
1とT
n
1の受ける力が対称ではなくなり、X方向の伸縮振動が出現し、
図6に示すように、単腕T
m
2とT
n
2の受ける力が非対称であって、Y方向の曲げ振動が非対称となり、さらに、音叉の振動腕全体にX方向の曲げだけでなく、Z方向の捩れ成分が出現した。さらに、音叉の2本の振動腕の腐食対称性は
図2に示すようになっているので、受ける力の非対称性により、
図7に示すように、X方向の電場E1の作用によりT
m
2はT
n
2よりも大きくなり、T
m
2により振動腕の側面が圧縮され、T
n
2により振動腕の側面が引っ張られるため、2本の音叉振動腕は
図7に示すように非対称に曲げられる。したがって、この結果、音叉全体の振動インピーダンスが過大になり、インピーダンスが過大になると、圧電デバイスのQ値が影響を受け、さらに周波数の精度が損なわれ、エネルギー消費量が増加してしまう。
【0005】
本出願人は、従来技術に少なくとも次の技術的課題が存在することを発見した。
【0006】
従来技術における音叉型水晶発振片には高インピーダンスの欠陥が存在し、インピーダンスが過大になると、圧電デバイスのQ値が影響を受け、さらに周波数の精度が損なわれ、エネルギー消費量が増加してしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、従来技術における音叉型水晶発振片に高インピーダンスの欠陥が存在し、インピーダンスが過大になると、圧電デバイスのQ値が影響を受け、周波数の精度が損なわれ、エネルギー消費量が増加するという技術的課題を解決する新型音叉型水晶発振片、その製造方法及び圧電デバイスを提供することである。本発明による多くの技術的解決手段のうち、好ましい技術的解決手段により生じ得る多くの技術的効果を以下で詳しく説明する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成させるために、本発明は以下の技術的解決手段を提供する。
【0009】
本発明による新型音叉型水晶発振片は、
基部と、基部から延設された1対の振動腕と、を含み、
前記振動腕の表裏面共に、厚さ方向においてフォトリソグラフィーにより形成された段差状座ぐり溝を有し、前記段差状座ぐり溝は振動腕の長さ方向に沿ってフォトリソグラフィーにより形成されたものであり、
前記段差状座ぐり溝はn回のフォトリソグラフィーにより形成されたn段の段差を有し、nは自然数であって且つn≧3であり、
前記段差状座ぐり溝の外面全体にわたって電極がメッキされている。
【0010】
さらに、前記段差状座ぐり溝は中部段差と少なくとも2組の縁部段差と、を含み、前記中部段差は1つであり、前記縁部段差はn-1組であり、各組の縁部段差は2つの同じ段差であり、かつ中部段差の両側に対称に設けられている。
【0011】
さらに、前記段差状座ぐり溝は2組の縁部段差又は3組の縁部段差を有する。
【0012】
さらに、縁部段差が2組である場合、2組の縁部段差の幅が同じであり、同側にある2つの縁部段差の幅の和が段差の全幅Wの28%~32%であり、2組の縁部段差のいずれの高さも中部段差の高さと同じであり、
縁部段差が3組である場合、3組の縁部段差の幅が同じであり、同側にある3つの縁部段差の幅の和が段差の全幅Wの28%~32%であり、3組の縁部段差のいずれの高さも中部段差の高さと同じである。
【0013】
さらに、縁部段差が2組である場合、2組の縁部段差の幅が同じであり、同側にある2つの縁部段差の幅の和が段差の全幅Wの30%であり、2組の縁部段差のいずれの高さも中部段差の高さと同じであり、
縁部段差が3組である場合、3組の縁部段差の幅が同じであり、同側にある3つの縁部段差の幅の和が段差の全幅Wの30%であり、3組の縁部段差のいずれの高さも中部段差の高さと同じである。
【0014】
本発明による圧電デバイスは、上記の新型音叉型水晶発振片を含む。
【0015】
本発明による新型音叉型水晶発振片の製造方法は、
水晶片フィンガーの表裏面に金属膜をメッキするステップS1と、
フォトリソグラフィーで1層目の溝を形成するステップであって、
金属膜がメッキされた水晶片フィンガーの表裏面に感光性フォトレジスト材料を塗布するステップS21と、
感光性フォトレジスト材料が塗布された水晶片に対して、1層目の溝のフォトリソグラフィーを受けた位置にパターン露光現像を行い、所望のパターンを形成するステップS22と、
露出させた領域に対して金属エッチングをエッチング液で行い、腐食対象の水晶片表面を露出させるステップS23と、
水晶片表面のフォトレジストを剥離して除去するステップS24と、
腐食溶液で腐食し、金属エッチングにより露出させた領域を下方へ腐食し、1層目の溝の初期輪郭形態を形成するステップS25と、を含むステップS2と、
フォトリソグラフィーで2層目の溝を形成するステップであって、
フォトリソグラフィーで1層目の溝を形成した水晶片フィンガーの表裏面に感光性フォトレジスト材料を塗布するステップS31と、
感光性フォトレジスト材料が塗布された水晶片に対して、2層目の溝のフォトリソグラフィーを受けた位置にパターン露光現像を行い、所望のパターンを形成するステップS32と、
露出させた領域に対して金属エッチングをエッチング液で行い、腐食対象の水晶片表面を露出させるステップS33と、
水晶片表面のフォトレジストを剥離して除去するステップS34と、
腐食溶液で腐食し、金属エッチングにより露出させた腐食対象の水晶片表面を下方へ腐食し、このとき、1層目の溝と2層目の溝の構造が全て腐食により形成されたため、段差状座ぐり溝構造を腐食により形成し、
段差状座ぐり溝がn段の段差を有し、n≧3であり、ステップS3をn-2回繰り返すステップS35と、を含むステップS3と、
エッチング液を用いて水晶片表面の金属を除去し、新型音叉型水晶発振片を得るステップS4と、を含む。
【0016】
さらに、前記ステップS1では、金属膜をメッキするときに、マグネトロンスパッタリング又は蒸発により膜をメッキし、クロムを下地層として、金属膜の厚さを5~50nmとし、トップ層は金を材料とし、厚さを100nmよりも大きくし、
前記ステップS23及びステップS33では、露出させた領域に対して金属エッチングをエッチング液で行うときに、金エッチング液とクロムエッチング液を用いて金属エッチングを順次行う。
【0017】
さらに、前記ステップS25及びステップS35では、腐食溶液で腐食するときに、腐食溶液の流速は8~20L/min、腐食温度は30~90℃、腐食時間は15~130minとする。
【0018】
さらに、前記ステップS25及びステップS35では、腐食溶液で腐食するときに、腐食溶液の流速は15~20L/min、腐食温度は50~70℃とする。
【発明の効果】
【0019】
上記の技術的解決手段によれば、本発明の実施例は少なくとも以下のような技術的効果を奏する。
【0020】
本発明による新型音叉型水晶発振片、その製造方法、及び製造された圧電発振片では、振動腕の表裏面共にフォトリソグラフィーにより形成された段差状座ぐり溝を有し、前記段差状座ぐり溝は振動腕の長さ方向に沿ってフォトリソグラフィーにより形成されたものであり、段差状座ぐり溝構造は、分極電場の面積を増大し、振動インピーダンスの改善に有利である一方、段差状座ぐり溝は複数回のフォトリソグラフィーにより形成されたため、1回の腐食によるX方向の腐食角を改善し、座ぐり溝がX方向において左右対称となることを確保し、音叉の両腕の振動対称性の改善に有利であり、しかも、X方向の伸縮振動を回避し、インピーダンスをさらに低下させ、圧電デバイスに用いられると、周波数の精度を向上させ、エネルギー消費量を減少させることができる。
【0021】
本発明による圧電デバイスは本発明における新型音叉型水晶発振片を含み、本発明で製造された圧電発振片では、振動腕の表裏面共にフォトリソグラフィーにより形成された段差状座ぐり溝を有し、前記段差状座ぐり溝は振動腕の長さ方向に沿ってフォトリソグラフィーにより形成されたものであり、段差状座ぐり溝構造は、分極電場の面積を増大し、振動インピーダンスの改善に有利である一方、段差状座ぐり溝は複数回のフォトリソグラフィーにより形成されたため、1回の腐食によるX方向の腐食角を改善し、座ぐり溝がX方向において左右対称となることを確保し、音叉の両腕の振動対称性の改善に有利であり、しかも、X方向の伸縮振動を回避し、インピーダンスをさらに低下させ、このため、本発明による圧電デバイスは、周波数精度が高く、エネルギー消費量が小さいというメリットを有する。
【0022】
本発明の実施例又は従来技術における技術的解決手段をより明確に説明するために、以下では、実施例又は従来技術を説明するために使用する必要がある図面を簡単に説明するが、明らかに、以下で説明される図面は本発明の一部の実施例に過ぎず、当業者であれば、創造的な労働をせずにこれらの図面に基づいて他の図面を得ることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】従来技術における音叉型水晶発振片の設計図である。
【
図2】従来技術における音叉型水晶発振片の振動腕が腐食されたときの断面構造模式図及び電場模式図である。
【
図3】従来技術において溝が開けられていない振動腕の電場分布の模式図である。
【
図5】
図2に示す構造振動腕の電場駆動及び振動方向を分析した図である。
【
図6】
図2に示す構造のX方向の伸縮振動の模式図である。
【
図7】
図2に示す構造の受力分析及び振動の模式図である。
【
図8】
比較例1における音叉型水晶発振片の設計図である。
【
図9】
比較例1における設計図と従来技術の音叉型水晶発振片の設計図の電場分布を比較した図である。
【
図10】
比較例1で製造された新型音叉型水晶発振片の振動腕の断面構造図及び電場分布図である。
【
図11】
比較例1で製造された新型音叉型水晶発振片の振動腕の受力分析図である。
【
図12】
比較例1及び従来技術における音叉型水晶発振片の変位分布を比較した図である。
【
図13】
比較例1及び従来技術における音叉型水晶発振片の電荷分布を比較した図である。
【
図14】
比較例1及び従来技術における音叉型水晶発振片のインピーダンスを分析して比較した図である。
【
図15】
比較例1~比較例4、実施例3、実施例
4における単一の振動腕の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の目的、技術的解決手段及び利点をさらに明確にするために、以下では、本発明の技術的解決手段について詳細に説明する。明らかに、説明する実施例は本発明の一部の実施例に過ぎず、すべての実施例ではない。本発明に係る実施例に基づいて、当業者が創造的な労働をせずに得る他の全ての実施形態は本発明が保護する範囲に属する。
【実施例1】
【0025】
本発明による新型音叉型水晶発振片は、基部と、基部から延設された1対の振動腕1と、を含むものであり、
前記振動腕1の表裏面共に、厚さ方向においてフォトリソグラフィーにより形成された段差状座ぐり溝を有し、前記段差状座ぐり溝は振動腕1の長さ方向に沿ってフォトリソグラフィーにより形成されたものであり、
前記段差状座ぐり溝はn回のフォトリソグラフィーにより形成されたn段の段差を有し、nは自然数であって且つn≧3であり、
前記段差状座ぐり溝の外面全体にわたって電極がメッキされていることを特徴とする。
【0026】
本発明による新型音叉型水晶発振片、その製造方法、及び製造された圧電発振片では、振動腕1の表裏面共にフォトリソグラフィーにより形成された段差状座ぐり溝を有し、前記段差状座ぐり溝は振動腕1の長さ方向に沿ってフォトリソグラフィーにより形成されたものであり、段差状座ぐり溝構造は、分極電場の面積を増大し、振動インピーダンスの改善に有利である一方、段差状座ぐり溝は複数回のフォトリソグラフィーにより形成されたため、1回の腐食によるX方向の腐食角を改善し、座ぐり溝がX方向において左右対称となることを確保し、音叉の両腕の振動対称性の改善に有利であり、しかも、X方向の伸縮振動を回避し、インピーダンスをさらに低下させ、圧電デバイスに用いられると、周波数の精度を向上させ、エネルギー消費量を減少させることができる。
【0027】
好ましい実施形態としては、前記段差状座ぐり溝は中部段差2と少なくとも2組の縁部段差3と、を含み、前記中部段差2は1つであり、前記縁部段差3はn-1組であり、各組の縁部段差3は2つの同じ段差であり、かつ中部段差2の両側に対称に設けられている。
【0028】
好ましい実施形態としては、前記段差状座ぐり溝は2組の縁部段差3又は3組の縁部段差3を有する。
【0029】
好ましい実施形態としては、
縁部段差3が2組である場合、2組の縁部段差3の幅が同じであり、同側にある2つの縁部段差3の幅の和が段差の全幅Wの28%~32%であり、2組の縁部段差3のいずれの高さも中部段差2の高さと同じであり、
縁部段差3が3組である場合、3組の縁部段差3の幅が同じであり、同側にある3つの縁部段差3の幅の和が段差の全幅Wの28%~32%であり、3組の縁部段差3のいずれの高さも中部段差2の高さと同じである。
【0030】
好ましい実施形態としては、
縁部段差3が2組である場合、2組の縁部段差3の幅が同じであり、同側にある2つの縁部段差3の幅の和が段差の全幅Wの30%であり、2組の縁部段差3のいずれの高さも中部段差2の高さと同じであり、
縁部段差3が3組である場合、3組の縁部段差3の幅が同じであり、同側にある3つの縁部段差3の幅の和が段差の全幅Wの30%であり、3組の縁部段差3のいずれの高さも中部段差2の高さと同じである。
【実施例2】
【0031】
本発明による圧電デバイスは、上記の新型音叉型水晶発振片を含む。
【0032】
本発明による圧電デバイスは本発明における新型音叉型水晶発振片を含み、本発明で製造された圧電発振片では、振動腕1の表裏面共にフォトリソグラフィーにより形成された段差状座ぐり溝を有し、前記段差状座ぐり溝は振動腕1の長さ方向に沿ってフォトリソグラフィーにより形成されたものであり、段差状座ぐり溝構造は、分極電場の面積を増大し、振動インピーダンスの改善に有利である一方、段差状座ぐり溝は複数回のフォトリソグラフィーにより形成されたため、1回の腐食によるX方向の腐食角を改善し、座ぐり溝がX方向において左右対称となることを確保し、音叉の両腕の振動対称性の改善に有利であり、しかも、X方向の伸縮振動を回避し、インピーダンスをさらに低下させ、このため、本発明による圧電デバイスは、周波数精度が高く、エネルギー消費量が小さいというメリットを有する。
【比較例1】
【0033】
図8を設計図として新型音叉型水晶発振片を製造し、段差状座ぐり溝構造は
図15(a)に示され、縁部段差3は1組であり、縁部段差3の幅W1は段差の全幅Wの20%であり、縁部段差3の高さH1と中部段差2の高さH2との比は1:1.5であり、その製造には、具体的には、下記のステップが含まれている。
S1、水晶片フィンガーの表裏面に金属膜をメッキする。
S2、フォトリソグラフィーで1層目の溝を形成する。
S21、金属膜がメッキされた水晶片フィンガーの表裏面に感光性フォトレジスト材料を塗布する。
S22、感光性フォトレジスト材料が塗布された水晶片に対して、1層目の溝のフォトリソグラフィーを受けた位置にパターン露光現像を行い、所望のパターンを形成する。
S23、金エッチング液とクロムエッチング液を用いて、露出させた領域に対して金属エッチングを順次行い、腐食対象の水晶片表面を露出させる。
S24、水晶片表面のフォトレジストを剥離して除去する。
S25、腐食溶液で腐食し、金属エッチングにより露出させた領域を下方へ腐食し、腐食溶液で腐食するときに、腐食溶液の流速を18L/min、腐食温度を60℃、腐食時間を60minとし、1層目の溝の初期輪郭形態を形成する。
S3、フォトリソグラフィーで2層目の溝を形成する。
S31、フォトリソグラフィーで1層目の溝を形成した水晶片フィンガーの表裏面に感光性フォトレジスト材料を塗布する。
S32、感光性フォトレジスト材料が塗布された水晶片に対して、2層目の溝のフォトリソグラフィーを受けた位置にパターン露光現像を行い、所望のパターンを形成する。
S33、金エッチング液とクロムエッチング液を用いて、露出させた領域に対して金属エッチングを順次行い、腐食対象の水晶片表面を露出させる。
S34、水晶片表面のフォトレジストを剥離して除去する。
S35、腐食溶液で腐食し、金属エッチングにより露出させた腐食対象の水晶片表面を下方へ腐食し、腐食溶液で腐食するときに、腐食溶液の流速を18L/min、腐食温度を60℃、腐食時間を90minとし、このとき、1層目の溝と2層目の溝構造が全て腐食により形成されたため、段差状座ぐり溝構造を腐食により形成する。
段差状座ぐり溝がn段の段差を有し、n≧3である場合
(後述する実施例3、実施例4)、ステップS3をn回繰り返す。
S4、エッチング液を用いて水晶片表面の金属を除去し、新型音叉型水晶発振片を得る。
【0034】
比較例1で製造された新型音叉型水晶発振片について有限要素分析計算を行う。
【0035】
図9には、電場分布の模式図が示されており、
図9(a)は
図1に示す構造の電場分布の模式図であり、
図9(b)は
図8に示す構造の電場分布の模式図である。
【0036】
図10には、
比較例1で得られた新型音叉型水晶発振片の振動腕1の断面構造模式図及び電場分布図が示されており、
図10から、腐食グルーブの左右対称性は
図2よりも大幅に改善したことが認められ、X方向の対称性が確保できた。
【0037】
図11には、
比較例1における構造の受力及び振動の分析が示されており、
図11に示すように、T2応力が電場E1(x方向電場)の駆動作用を受けて、振動方向の偏向角度βが極めて小さくなり、また、X方向のT1応力も対称になる傾向を示し、
図7のような伸縮振動が生じない。
【0038】
図12には、変位分布を比較した図が示されており、12(a)は
図2に示す構造の変位分布図であり、12(b)は
図9に示す構造の変位分布図であり、
図12(a)における有限要素分析計算の結果、
図12(a)では、矩形溝のX方向の振動変位が5.8e~5mmであり、一方、図(b)では、段差状座ぐり溝の振動変位が5.6e~4mmであり、このことから、振動変位が1桁だけ増大することが明らかとなっており、振動インピーダンスの低下が示唆された。
【0039】
図13には、電荷分布を比較した図が示されており、13(a)は
図2に示す構造の電荷分布図であり、13(b)は
図10に示す構造の電荷分布図であり、
図14には、インピーダンスを分析して比較した図が示されており、14(a)は
図2に示す構造のインピーダンス分析図であり、14(b)は
図10に示す構造のインピーダンス分析図であり、
図13の電荷分布図及び
図14のインピーダンス分析図から、インピーダンスの大きさが分かり、
図2に示す構造のインピーダンスは35KΩであり、一方、
図9に示す構造のインピーダンスは18.6KΩであり、全体的にはインピーダンスは半分低下した。このため、段差状座ぐり溝は、電場の分極面積を増大することや腐食溝を対称的なものとすることによって、音叉の振動インピーダンスに非常に有利である。
【比較例2】
【0040】
段差状座ぐり溝構造は
図15(b)に示されており、縁部段差3は1組であり、縁部段差3の幅W1は段差の全幅Wの5%であり、縁部段差3の高さH1と中部段差2の高さH2との比が1:1であり、段差状座ぐり溝を製造するステップは
比較例1と同様であるが、本
比較例では、具体的な腐食パラメータ(腐食溶液の流速、腐食温度、腐食時間)が以下の表1に示される点は
比較例1と相違する。
【0041】
新型音叉型水晶発振片が得られる。
【比較例3】
【0042】
段差状座ぐり溝構造は
図15(c)に示されており、縁部段差3は1組であり、縁部段差3の幅W1は段差の全幅Wの30%であり、縁部段差3の高さH1と中部段差2の高さH2との比が1:2であり、段差状座ぐり溝構造を製造するステップは実施例3と同様であるが、本
比較例では、具体的な腐食パラメータ(腐食溶液の流速、腐食温度、腐食時間)が以下の表1に示される点は
比較例1と相違する。
【0043】
新型音叉型水晶発振片が得られる。
【比較例4】
【0044】
段差状座ぐり溝構造は
図15(d)に示されており、縁部段差3は1組であり、縁部段差3の幅W1は段差の全幅Wの30%であり、縁部段差3の高さH1と中部段差2の高さH2との比が1:3であり、段差状座ぐり溝構造を製造するステップは
比較例1と同様であるが、本実施例では、具体的な腐食パラメータ(腐食溶液の流速、腐食温度、腐食時間)が以下の表1に示される点は
比較例1と相違する。
【0045】
新型音叉型水晶発振片が得られる。
【実施例3】
【0046】
段差状座ぐり溝構造は
図15(e)に示されており、縁部段差3は2組であり、縁部段差3の幅W1とW2は等しく、かつW1+W2の和は段差の全幅Wの20%であり、縁部段差3の高さH1とH2は等しく、かつ中部段差2の高さH3とH1は等しく、段差状座ぐり溝構造を製造するステップは
比較例1と同様であるが、本実施例では、縁部段差3が2組であるため、ステップS3をもう一度繰り返し、3層目の溝のフォトリソグラフィーを行う必要がある点、本実施例の具体的な腐食パラメータ(腐食溶液の流速、腐食温度、腐食時間)が以下の表1に示される点は
比較例1と相違する。
【0047】
新型音叉型水晶発振片が得られる。
【実施例4】
【0048】
段差状座ぐり溝構造は
図15(f)に示されており、縁部段差3は3組であり、縁部段差3の幅W1とW2とW3は等しく、かつW1+W2+W3の和は段差の全幅Wの30%であり、縁部段差3の高さH1とH2とH3は等しく、中部段差2の高さH4とH1は等しく、段差状座ぐり溝構造を製造するステップは
比較例1と同様であるが、本実施例では、縁部段差3が3組であるため、ステップS3をもう2回繰り返し、3回目の溝のフォトリソグラフィーと4回目の溝のフォトリソグラフィーを行う必要がある点や、本実施例の具体的な腐食パラメータ(腐食溶液の流速、腐食温度、腐食時間)が以下の表1に示される点は
比較例1と相違する。
【0049】
新型音叉型水晶発振片が得られる。
【0050】
上記の
比較例1~比較例4、実施例3、実施例
4、及び
図1に示す従来技術では、
(1)段差の全幅Wは全て同じであり、また、従来技術における溝の幅と同じである。
(2)段差の全深さ(すなわち、中部段差の深さ)は全て同じであり、また、従来技術における溝の深さと同じである。
【0051】
有限要素分析によって比較例1~比較例4、実施例3、実施例4、及び従来技術における音叉型水晶発振片の振動インピーダンスを算出し、結果を以下の表1に示す。
【0052】
【0053】
表1から分かるように、本発明で製造された新型音叉型水晶発振片の振動インピーダンスは従来技術における音叉型水晶発振片の振動インピーダンスよりも明らかに低く、特に、実施例3及び実施例4では、振動インピーダンスの低下の度合が大きく、明らかなメリットがあり、これらの音叉型水晶発振片は圧電デバイスに用いられると、周波数の精度を大幅に向上させ、エネルギー消費量を大幅に減らすことができる。
【0054】
以上は本発明の具体的な実施形態であるが、本発明の保護範囲はこれらに限定されるものではなく、当業者であれば、本発明で開示された技術的範囲を逸脱することなく容易に想到し得る変化や置換は本発明の保護範囲に含まれるものとする。
【符号の説明】
【0055】
1 振動腕
2 中部段差
3 縁部段差