(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】トレーニング器具用負荷伝達機構部及びこれを用いたトレーニング器具
(51)【国際特許分類】
A63B 21/062 20060101AFI20241004BHJP
A63B 23/00 20060101ALI20241004BHJP
A63B 23/12 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
A63B21/062
A63B23/00 F
A63B23/00 L
A63B23/12
(21)【出願番号】P 2023542182
(86)(22)【出願日】2021-12-27
(86)【国際出願番号】 JP2021048581
(87)【国際公開番号】W WO2023021720
(87)【国際公開日】2023-02-23
【審査請求日】2023-11-13
(31)【優先権主張番号】P 2021132129
(32)【優先日】2021-08-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503059301
【氏名又は名称】株式会社ワールドウィングエンタープライズ
(74)【代理人】
【識別番号】110002516
【氏名又は名称】弁理士法人白坂
(72)【発明者】
【氏名】小山 裕史
【審査官】渡辺 慶人
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-187317(JP,A)
【文献】特開2006-110226(JP,A)
【文献】特開2000-014855(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111714841(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 1/00 - 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザが握持する握持部が第1端部に接続されて回動する握持軸部と、
前記握持軸部の回動と連動して回動する中間軸部と、
前記握持軸部と前記中間軸部との間に懸架され前記握持軸部と前記中間軸部の互いの回動を伝達する伝達部と、
前記中間軸部と直交するクランク軸部に設けられる前記中間軸部の回転を伝達する回転変換部と、前記クランク軸部の回転を前記中間軸部と平行となる位置に配置した摺動軸部の上下動作に変換するクランク軸部とが、筐体部に収容され、
前記握持軸部の前記第1端部は前記伝達部と直交する向きで前記筐体部に形成された軸開口部から突出され、
前記握持軸部の前記第1端部は前記筐体部に揺動可能に支持され、前記握持軸部の前記第1端部と反対側の第2端部は前記軸開口部内において揺動する
ことを特徴とするトレーニング器具用負荷伝達機構部。
【請求項2】
前記回転変換部は、
前記中間軸部に備えられる中間軸傘歯車と、
前記クランク軸部に備えられ前記中間軸傘歯車と歯合するクランク軸傘歯車とを備え、
前記クランク軸部には、前記クランク軸部に対して回動自在に接続される連結片部と、
前記連結片部に接続され前記中間軸部と平行となる位置に配置され前記クランク軸部の回動が前記連結片部を介して前後動作に変換される摺動軸部とが、筐体部に収容される請求項1に記載のトレーニング器具用負荷伝達機構部。
【請求項3】
前記軸開口部における前記握持軸部の前記第1端部側の揺動を規制する規制板部が前記筐体部に備えられる請求項1に記載のトレーニング器具用負荷伝達機構部。
【請求項4】
前記規制板部は爪部を備え前記爪部により前記握持軸部と係合する請求項3に記載のトレーニング器具用負荷伝達機構部。
【請求項5】
前記規制板部は前記軸開口部へ前進して前記爪部により前記握持軸部と係合するとともに、前記規制板部は前記軸開口部から後退して前記握持軸部の前記第1端部側との係合を解除する請求項4に記載のトレーニング器具用負荷伝達機構部。
【請求項6】
前記伝達部は伝達チェーンであり、
前記握持軸部に握持軸スプロケットが備えられ、
前記中間軸部に中間軸スプロケットが備えられ、
前記伝達チェーンが前記握持軸スプロケットと前記中間軸スプロケットとの間に懸架される請求項1に記載のトレーニング器具用負荷伝達機構部。
【請求項7】
前記握持軸部と前記中間軸部との間に前記伝達部の張力を付勢する付勢軸部が備えられる請求項1に記載のトレーニング器具用負荷伝達機構部。
【請求項8】
前記付勢軸部に前記伝達部と接触する円盤部が備えられる請求項7に記載のトレーニング器具用負荷伝達機構部。
【請求項9】
前記握持部が環状物である請求項1に記載のトレーニング器具用負荷伝達機構部。
【請求項10】
前記握持部が半円柱状物である請求項1に記載のトレーニング器具用負荷伝達機構部。
【請求項11】
前記握持軸部の前記第2端部に球状部が備えられている請求項1に記載のトレーニング器具用負荷伝達機構部。
【請求項12】
前記摺動軸部はトレーニング器具の負荷の大きさを調整自在な負荷付与部に連結される請求項1に記載のトレーニング器具用負荷伝達機構部。
【請求項13】
前記筐体部にトレーニング器具と接続するための接続部が備えられる請求項1に記載のトレーニング器具用負荷伝達機構部。
【請求項14】
請求項1に記載のトレーニング器具用負荷伝達機構部を備えたことを特徴とするトレーニング器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレーニング器具用負荷伝達機構部及びこれを用いたトレーニング器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ユーザの腕、肩等の部位を鍛える各種のトレーニング器具が存在する。例えば、特許文献1は、両腕の運動をすることができるトレーニング器具を開示している。特許文献1に記載のトレーニング器具によると、筋肉の硬化を伴うことなく、筋肉痛、疲労等の身体へ与える負担が少なく、また、柔軟で弾力性の富んだ肩部や背部の筋肉等を得ることができる。
【0003】
特許文献1のトレーニング器具は、トレーニング器具側のウェイト(錘)から延びるワイヤーとユーザが握る握持部との間に、昇降揺動部材と称される回動軸と歯車等を備える負荷伝達機構部を設けている。単純にウェイト側のワイヤーをユーザが握る握持部と接続する構成のトレーニング器具と比較して、特許文献1のトレーニング器具のように昇降揺動部材(負荷伝達機構部)が設けられていることにより、ユーザが鍛えようとする腕の筋肉にひねり等の複雑な動きが加わる。そのため、単調方向の筋肉の鍛錬に留まらず、腕の骨の周りの筋肉をより多く動かすこととなり、柔軟性を高めた筋肉の鍛錬が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明者は特許文献1のトレーニング器具の昇降揺動部材(負荷伝達機構部)について鋭意検討を重ねた。そして、発明者は昇降揺動部材(負荷伝達機構部)における軸の動きを改良するに至った。
【0006】
本発明は前記の点に鑑みなされたものであり、負荷伝達機構部を構成する軸の動きの自由度を高めることにより、ユーザが鍛えようとする筋肉に複雑な動きを加えることができるトレーニング器具用負荷伝達機構部及びこれを用いたトレーニング器具を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、実施形態のトレーニング器具用負荷伝達機構部は、ユーザが握持する握持部が第1端部に接続されて回動する握持軸部と、握持軸部の回動と連動して回動する中間軸部と、握持軸部と中間軸部との間に懸架され握持軸部と中間軸部の互いの回動を伝達する伝達部と、中間軸部と直交するクランク軸部に設けられる中間軸部の回転を伝達する回転変換部と、クランク軸部の回転を中間軸部と平行となる位置に配置した摺動軸部の上下動作に変換するクランク軸部とが、筐体部に収容され、握持軸部の第1端部は伝達部と直交する向きで筐体部に形成された軸開口部から突出され、握持軸部の第1端部は筐体部に揺動可能に支持され、握持軸部の第1端部と反対側の第2端部は軸開口部内において揺動することを特徴とする。
【0008】
トレーニング器具用負荷伝達機構部において、回転変換部は、中間軸部に備えられる中間軸傘歯車と、クランク軸部に備えられ中間軸傘歯車と歯合するクランク軸傘歯車とを備え、クランク軸部には、クランク軸部に対して回動自在に接続される連結片部と、連結片部に接続され中間軸部と平行となる位置に配置されクランク軸部の回動が連結片部を介して前後動作に変換される摺動軸部とが、筐体部に収容されることとしても良い。
【0009】
さらに、軸開口部における握持軸部の第1端部側の揺動を規制する規制板部が筐体部に備えられてもよい。
【0010】
さらに、規制板部は爪部を備え爪部により握持軸部と係合することとしてもよい。また、規制板部は軸開口部へ前進して爪部により握持軸部と係合するとともに、規制板部は軸開口部から後退して握持軸部の第1端部側との係合を解除することとしてもよい。
【0011】
伝達部は伝達チェーンであり、握持軸部に握持軸スプロケットが備えられ、中間軸部に中間軸スプロケットが備えられ、伝達チェーンが握持軸部スプロケットと中間軸部スプロケットとの間に懸架されることとしてもよい。
【0012】
握持軸部と中間軸部との間に伝達部の張力を付勢する付勢軸部が備えられることとしてもよい。
【0013】
付勢軸部に伝達部と接触する円盤部が備えられることとしてもよい。
【0014】
握持部が環状物であることとしてもよく、または、握持部が半円柱状物であることとしてもよい。
【0015】
握持軸部の第2端部に球状部が備えられていることとしてもよい。
【0016】
摺動軸部はトレーニング器具の負荷の大きさを調整自在な負荷付与部に連結されることとしてもよい。
【0017】
筐体部にトレーニング器具と接続するための接続部が備えられることとしてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明のトレーニング器具用負荷伝達機構部によると、ユーザが握持する握持部が第1端部に接続されて回動する握持軸部と、握持軸部の回動と連動して回動する中間軸部と、握持軸部と中間軸部との間に懸架され握持軸部と中間軸部の互いの回動を伝達する伝達部と、中間軸部と直交するクランク軸部に設けられる中間軸部の回転を伝達する回転変換部と、クランク軸部の回転を中間軸部と平行となる位置に配置した摺動軸部の上下動作に変換するクランク軸部とが、筐体部に収容され、握持軸部の第1端部は伝達部と直交する向きで筐体部に形成された軸開口部から突出され、握持軸部の第1端部は筐体部に揺動可能に支持され、握持軸部の第1端部と反対側の第2端部は軸開口部内において揺動するため、負荷伝達機構部を構成する軸の動きの自由度を高めることにより、ユーザが鍛えようとする腕の筋肉に複雑な動きを加えることが可能となる。同時に、本発明のトレーニング器具用負荷伝達機構部を用いたトレーニング器具とすることにより、ユーザの希望に添うトレーニングが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1実施形態のトレーニング器具用負荷伝達機構部の内部構成例を示す側面斜視図である。
【
図4】(A)規制板部の前進時の模式図であり、(B)規制板部の後退時の模式図である。
【
図5】(A)他の規制板部の前進時の模式図であり、(B)他の規制板部の後退時の模式図である。
【
図6】第2実施形態のトレーニング器具用負荷伝達機構部の側面斜視図である。
【
図8】第3実施形態のトレーニング器具用負荷伝達機構部の側面斜視図である。
【
図12】第1トレーニング器具の第1使用形態の斜視図である。
【
図13】第1トレーニング器具の第1使用形態の正面図である。
【
図14】第1トレーニング器具の第2使用形態の斜視図である。
【
図15】第1トレーニング器具の第2使用形態の正面図である。
【
図18】第2トレーニング器具の使用形態の斜視図である。
【
図19】第2トレーニング器具の使用形態の正面斜視面図である。
【
図20】第1実施形態のトレーニング器具用負荷伝達機構部を備えた第1トレーニング器具の使用時についての(A)第1写真、(B)第2写真、(C)第3写真、(D)第4写真、(E)第5写真である。
【
図21】さらに(A)第6写真、(B)第7写真、(C)第8写真、(D)第9写真、(E)第10写真である。
【
図22】さらに(A)第11写真、(B)第12写真、(C)第13写真、(D)第14写真、(E)第15写真である。
【
図23】(A)握持軸部の揺動があるときの筋電図のグラフであり、(B)握持軸部の揺動がないときの筋電図のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1、
図2、
図6ないし
図9に開示の形態のトレーニング器具用負荷伝達機構部1A、1B、及び1Cは、後述するトレーニング器具100または200に接続される。トレーニング器具用負荷伝達機構部1A、1B、及び1Cは、トレーニング器具側のウェイト等の負荷をトレーニング器具のユーザに伝達するための機構を備えた機械部材である。
【0021】
<第1実施形態のトレーニング器具用負荷伝達機構部>
図1及び
図2は、第1実施形態のトレーニング器具用負荷伝達機構部1Aの内部構造を示す斜視図である。トレーニング器具用負荷伝達機構部1Aは、筐体部2に握持軸部10と、中間軸部20と、クランク軸部40と、摺動軸部50を備える。握持軸部10と摺動軸部50の間の各軸部を介して握持軸部10と摺動軸部50の相互に動力が伝達可能である。
【0022】
第1実施形態のトレーニング器具用負荷伝達機構部1Aでは、中間軸部20、クランク軸部40、及び摺動軸部50の各軸部は、筐体部2に回動可能に軸支される。
図1及び
図2から理解されるように、各軸部は、筐体部2の上面2a及び下面2b、さらには、筐体部2の内部の面部分に軸支される。円滑な回動のため、軸支箇所には適宜のベアリングが介在される。また、第1実施形態のトレーニング器具用負荷伝達機構部1Aを後述するトレーニング器具100(
図9等参照)に接続するため、接続部7が筐体部2に備えられる。トレーニング器具用負荷伝達機構部1Aの接続部7が採用する形態は、筒状の接続筒部8である。案内支柱140(
図10等参照)が接続筒部8内に挿通される。接続筒部8には、例えば、フッ素樹脂等の摺動抵抗の低い部材が用いられる。結果、トレーニング器具用負荷伝達機構部1Aはトレーニング器具100において円滑に上下に昇降かつ旋回可能となる。
【0023】
握持軸部10は第1端部11と第2端部12からなり、第1端部11にユーザが握持する握持部160(
図10等参照)が接続される。そして、ユーザの手、腕の動きは握持部160を介して握持軸部10に伝わり握持軸部10自体も回動する。後出のトレーニング器具100から理解されるように、握持軸部10に接続される握持部160は環状物、特には手の指により握られるため、矩形の環状である。
図10等に示されるように、握持部160は平面視において矩形(四角形)状であり、切れ目無くつながった環を形成している。
【0024】
中間軸部20は握持軸部10の回動と連動して回動する。そして、握持軸部10と中間軸部20との間に懸架され握持軸部10と中間軸部20の互いの回動を伝達する伝達部15が備えられる。握持軸部10と中間軸部20は互いに平行となる配置である。握持軸部10と筐体部2との接続は後出の
図4にて説明する。中間軸部20の両端は筐体部2の壁面により軸支されている。
【0025】
トレーニング器具用負荷伝達機構部1Aでは、伝達部15は伝達チェーン16である(
図1中、二点鎖線で示される。)。伝達部15の伝達チェーン16の懸架と噛み合わせのため、握持軸部10に握持軸スプロケット13と中間軸部20に中間軸スプロケット23が備えられる。伝達部15は、伝達チェーン16を採用する代わりにベルトとプーリーの組み合わせ(図示せず)としてもよい。
【0026】
図示のように、中間軸部20とクランク軸部40は直交する関係にあり、中間軸部20とクランク軸部40には中間軸部20の回転を伝達する回転変換部が備えられる。実施形態において、当該回転変換部は、中間軸部20に備えられる中間軸傘歯車22と、クランク軸部40に備えられ中間軸傘歯車20と歯合するクランク軸傘歯車42を備える。そこで、中間軸部20の回動動作はクランク軸部40に直角に連動する。なお、中間軸部とクランク軸部とを直交して接続する回転変換部の機構として、例えば、クラウンギヤと平歯車、ウォームとウォームホイールの組み合わせ等の機構が挙げられる。
【0027】
クランク軸部40には連結片部41が接続される。連結片部41はクランク軸部40から突設された連結片部41との接続部に対して回動自在に接続される。さらに、摺動軸部50の末端は連結片部41に対して回動自在に接続される。摺動軸部50は中間軸部20と平行となる位置に配置される。クランク軸部40の回動は連結片部41を介して紙面上では上下動の動作に変換され、摺動軸部50に伝達される。摺動軸部50は、トレーニング器具100(
図10参照)の負荷の大きさを調整自在な負荷付与部130に連結される。
【0028】
クランク軸部40の回動に伴って連結片部41も動かされる。そこで、連結片部41を介して摺動軸部50に上下動の動作が生じる。つまり、握持軸部10の軸回転により摺動軸部50が上下動し、摺動軸部50に連結されたトレーニング器具100(
図10参照)の負荷付与部130(ウェイト)が上下動する。なお、トレーニング器具用負荷伝達機構部1Aにおいて、回転伝達部1Sは握持軸部10に設けられた握持軸スプロケット13と、中間軸スプロケット23と、握持軸スプロケット13と中間軸スプロケット23の間に懸架された伝達部15(伝達チェーン16)と、中間軸部20に設けられた中間軸部傘歯車22と、同中間軸部傘歯車22と歯合するクランク軸傘歯車42とを備える。これにより、握持軸部10の回転によりクランク軸部40も回転する。
【0029】
トレーニング器具用負荷伝達機構部1Aにおいて、クランク機構部1Kは、クランク軸部40と、同クランク軸部40の中央部から突出する突起に一端側が回転自在に連結され、摺動軸部50側の端部に回転自在に連結された連結片部41を備える。これにより、クランク軸部40の回動により摺動軸部50が進退動する。こうして、握持軸部10(握持部160)は負荷付与部130(ともに
図10等参照)の負荷に比例する力によって回転付勢される。そして、ユーザが、握持部160を握持軸部10に対して回転付勢力に抗して軸回転させることにより、回転伝達部1S及びクランク機構部1Kを介して摺動軸部50は筐体部2の内部に引き込まれ、摺動軸部50に連結された負荷付与部130は引張される(引き上げられる)。
【0030】
実施形態のトレーニング器具用負荷伝達機構部1A(後出の1B及び1C)の特徴として、握持軸部10は筐体部2に完全に軸支されているのではなく、適度な揺動が許容されている。
図2の下方側からの斜視図のとおり、筐体部2の下面2bに軸開口部3が形成される。実施形態では、軸開口部3は伝達部15(伝達チェーン16の懸架の向き)と直交する向きを成して開口している。さらに詳しくは、実施形態では、軸開口部3はクランク軸部40の向きと直交する向きを成して開口している。図示から理解されるように、筐体部2に形成された軸開口部3は筐体部2の長手方向と直交する向きの細長の矩形形状である。握持軸部10の第1端部11は軸開口部3から突出する。握持軸部10では第2端部12を支点として軸開口部3の開口の長さ方向(伝達部15と直交する向き)に第1端部11を揺動可能とする(
図1参照)。
【0031】
図3の断面模式図は握持軸部10の第2端部12近傍を示す。筐体部2には握持軸部10が貫通する揺動開口部4が形成される。図示では第2端部12が揺動開口部4に挿入されている。握持軸部10の第2端部12には球状部12rが形成される。そして、揺動開口部4には、球状部12rと対応する摺動面部4rが形成される。つまり、球状部12rと摺動面部4rにより、ボールジョイントが形成される。握持軸部10の第2端部12の球状部12rを揺動自在に保持するため、揺動保持板部14が球状部12rに被せられる。球状部12rが摺動面部4rと円滑に摺動する際の摩擦の加減のため、揺動保持板部14と筐体部2との間隔は間隔部材14vにより調整される。球状部12rと摺動面部4rとの間のボールジョイントの接続構造のため、握持軸部10は第2端部12(球状部12r)を中心として円弧状に揺動可能となる(図中の二点鎖線参照)。ただし、軸開口部3の開口の向きにより、握持軸部10の第1端部11の揺動は制約される。実施形態の握持軸部10の球状部12rにおけるボールジョイントの摺動の構成に加え、例えば、図示を省略するものの、握持軸部の第2端部側に軸を挿通する穴が形成され、筐体部側に備えられた軸を介して前出の穴において揺動可能とすることができる。さらに、握持軸部の揺動時に握持軸部に生じる捻れに対応するため、握持軸部にベアリング等の旋回機構が備えられる。
【0032】
さらに、トレーニング器具用負荷伝達機構部1Aは、
図2の斜視図のとおり、筐体部2の下面2bに規制板部5が備えられる。規制板部5は軸開口部3における握持軸部10の第1端部11側の揺動を規制する。詳しくは、
図4または
図5の模式図が参照される。
図4と
図5では爪部の本数の相違であり、規制板部自体の動作は共通である。
図4(A)の模式図は
図2の状態に対応する。筐体部2の下面2bに備えられる規制板部5は紙面左右方向の両側がスライド保持部6にスライド移動自在に収容されている(後退位置)。この規制板部5には爪部5eが軸開口部3側への向きに突出して備えられる。
【0033】
続いて、
図4(B)の模式図では、規制板部5が軸開口部3側へスライド移動により前進して爪部5eが握持軸部10と係合している状態である(前進位置)。この場合、握持軸部10は2本の爪部5eに挟まれて紙面の左右方向に動かなくなる。このように、規制板部5は握持軸部10との係合状態と係合解除状態のいずれもスライド移動により容易に移行できる。なお、規制板部5を前進位置に固定する場合、規制板部5は適宜ボルト(図示せず)により筐体部2の下面2bに仮固定される。
【0034】
図5の模式図は、
図4の規制板部5の他の形態例となる規制板部5wを表している。
図5の規制板部5wでは2本の爪部5eの左右にさらに爪部5fが備えられている(
図5(A)参照)。
図4の規制板部5では、2本の爪部5eの位置から握持軸部10は軸開口部3の長手方向の中央部分に位置が規制される。これに対し、
図5の規制板部5wでは、爪部5eに爪部5fも加わるため、握持軸部10は爪部5eと爪部5fの間に挟まれて軸開口部3の端の位置に規制可能となる(
図5(B)参照)。従って、規制板部5wが採用されると、ユーザの動き、トレーニング内容等により対応させた位置に握持軸部10が規制される。
【0035】
<第2実施形態のトレーニング器具用負荷伝達機構部>
図6及び
図7は、第2実施形態のトレーニング器具用負荷伝達機構部1Bの内部構造を示す斜視図及び側面図である。トレーニング器具用負荷伝達機構部1Bは、主に後出のトレーニング器具200(
図16等参照)に接続されることを前提としている。
図1及び
図2と共通する構成には同一符号を付して説明を省略する。
【0036】
トレーニング器具用負荷伝達機構部1Bにおいて、回転伝達部1S及びクランク機構部1Kの機構、装置構成は前述のトレーニング器具用負荷伝達機構部1Aと同様である。ただし、握持軸部10の第1端部11と第2端部12の向きは上下逆になる。また、握持軸部10が軸開口部3側において揺動するための揺動保持板部14も備えられる。なお、トレーニング器具用負荷伝達機構部1Bにおいても前出の規制板部5(
図4参照)は装備可能であり、規制板部5により握持軸部10の軸開口部3での揺動は規制可能となる。
【0037】
トレーニング器具用負荷伝達機構部1Bは、トレーニング器具200(
図16等参照)との接続に際しての接続部7を備える。図示のトレーニング器具用負荷伝達機構部1Bの接続部7は複数のローラ9から構成される。トレーニング器具200の案内支柱240は複数のローラ9に挟持されトレーニング器具用負荷伝達機構部1Bは上下動及び旋回動可能となる。
【0038】
トレーニング器具用負荷伝達機構部1Bの握持軸部10に接続される握持部260は、半円柱状物であり、ユーザは握持部260の曲面部分に掌(手のひら)を載せて握持部260を指で掴む。なお、トレーニングの内容により、ユーザは握持部260を握持軸部10に接続する向き、角度は適宜調整される。また、握持部260を掴む際の指先の向きも任意である。
【0039】
<第3実施形態のトレーニング器具用負荷伝達機構部>
図8及び
図9は、第3実施形態のトレーニング器具用負荷伝達機構部1Cの内部構造を示す斜視図及び側面図である。トレーニング器具用負荷伝達機構部1Cは、主に後出のトレーニング器具200(
図16等参照)に接続されることを前提としている。
図1及び
図2と共通する構成には同一符号を付して説明を省略する。
【0040】
トレーニング器具用負荷伝達機構部1Cにおいて、回転伝達部1S及びクランク機構部1Kの機構、装置構成は前述のトレーニング器具用負荷伝達機構部1A及び1Bと共通である。ただし、握持軸部10の第1端部11と第2端部12の向きは上下逆になる。また、握持軸部10が軸開口部3側において揺動するための揺動保持板部14も備えられる。なお、トレーニング器具用負荷伝達機構部1Cにおいても前出の規制板部5(
図4参照)は装備可能であり、規制板部5により握持軸部10の軸開口部3での揺動は規制可能となる。また、トレーニング器具200(
図16等参照)との接続に際しての接続部7及び複数のローラ9の構成はトレーニング器具用負荷伝達機構部1Bと同様である。
【0041】
トレーニング器具用負荷伝達機構部1Cの特徴として、回転伝達部1Sの握持軸部10と中間軸部20の間に付勢軸部30が備えられる。付勢軸部30は、握持軸部10の握持軸スプロケット13と中間軸部20の中間軸スプロケット23の間に懸架された伝達部15(伝達チェーン16)に対して張力を付勢する。特に、図示の付勢軸部30では付勢軸部30に円盤部31が備えられる。そこで、伝達部15(伝達チェーン16)は円盤部31の直径の広がりに応じて引張される。
【0042】
図8及び
図9に開示のトレーニング器具用負荷伝達機構部1Cから明らかなように、握持部260は握持軸部10の上方側となる第1端部11に接続される。ここで、握持軸部10は軸開口部3において揺動自在である。トレーニング器具用負荷伝達機構部1Aのように、握持部160が鉛直にぶら下がっている場合、握持軸部10はほぼ軸開口部3の中央に位置する。ここで、伝達部15(伝達チェーン16)を強固に握持軸部10と中間軸部20に懸架すると、回動時の握持軸部10と中間軸部20との抵抗が大きくなることに加え伝達部15(伝達チェーン16)自体の摩耗が大きくなる。結果、トレーニング器具の使用時のユーザの動きに余分な負担が生じる。そのため、握持軸部10を始めとする各部の円滑な回動のため、伝達部15(伝達チェーン16)は適度に緩めて握持軸部10と中間軸部20に懸架される。当該構成については、トレーニング器具用負荷伝達機構部1A及び1Bについても同様である。
【0043】
伝達部15(伝達チェーン16)は緩めて懸架されるため、前出のトレーニング器具用負荷伝達機構部1Bの握持軸部10は握持部260の自重の影響を受けて軸開口部3のいずれかの端に倒れやすい。トレーニング器具用負荷伝達機構部1Cでは、付勢軸部30(その円盤部31)の直径は握持軸スプロケット13と中間軸スプロケット23の直径より大きい。そのため、伝達部15(伝達チェーン16)に適度な張力が生じるとしても、伝達部15(伝達チェーン16)、握持軸スプロケット13、及び中間軸スプロケット23の間の歯合(噛み合わせ)は低減される。結果、握持軸部10側の回動時、伝達部15(伝達チェーン16)、握持軸スプロケット13、及び中間軸スプロケット23の間の抵抗も低減される。こうして、トレーニング器具の使用時のユーザの動きに余分な負担は生じなくなる。このような伝達部15(伝達チェーン16)に引張を付与する機構は、前出のトレーニング器具用負荷伝達機構部1A及び1Bに対しても同様に適用可能である。
【0044】
<第1トレーニング器具>
第1トレーニング器具100の構成は
図10ないし
図15にて示される。第1トレーニング器具100は、第1実施形態のトレーニング器具用負荷伝達機構部1Aを装着した器具である。
【0045】
第1トレーニング器具100は、
図10ないし
図15に示すように、着座部110と、同着座部110を支持する枠組120と、同枠組120に設けられた負荷の大きさが調整自在の負荷付与部130と、枠組120に着座部110がその中央位置となるように所定の間隔をあけて鉛直方向に固定された2本の案内支柱140と、2本の案内支柱140のその一端側が上下動自在で且つ水平方向に回転自在にそれぞれ嵌合された2個のトレーニング器具用負荷伝達機構部1Aと、この2個のトレーニング器具用負荷伝達機構部1Aの握持軸部10の第1端部11に連結された握持部160と、一端が負荷付与部130に連結され、他端が枠組120に設けた方向転換案内車170を巻回してトレーニング器具用負荷伝達機構部1Aの案内支柱140の嵌合位置よりも他端側に連結された引張部材180とが備えられ、トレーニング器具用負荷伝達機構部1A内において引張部材180の他端側と連結して負荷付与部130により握持部160の軸を中心とする回転に負荷が与えられる。
【0046】
着座部110は、トレーニング器具100を使用するユーザが正面方向を向いて着座するために適切な座席111と、当該座席111の下面に鉛直に設けられた座席支柱112とからなる。
【0047】
枠組120は、トレーニング器具100を床面に安定させて設置するとともに、トレーニング器具100全体の骨格となり、着座部110、負荷付与部130、2本の案内支柱140等が固定される。枠組120の下面中央部より前方にて鉛直方向に貫設された孔に、座席支柱112は挿通され、着座部110は枠組120に支持される。枠組120は、座席111に着座した使用者の大腿部が浮き上がることを防止する大腿部押え部121を備える。大腿部押え部121は、使用者がトレーニング中に背中に適切なアーチを作るために備えることが好ましい。
【0048】
負荷付与部130は、枠組120に設けられた負荷の大きさを調整自在とし、金属製の重量部材である複数枚の板状プレートからなるウェイト131と、同ウェイト131を枠組120に上下動自在に支持するウェイト案内支柱132と、ウェイト131を相互に連結離別自在とすることが可能なクランプ(図示せず)を具備する。ウェイト131の枚数が加減されて負荷付与部130の荷重(負荷)は調整される。一対の円柱状のウェイト案内支柱132は、着座部110の後方にて枠組120に上下端が所定の左右の間隔を隔ててそれぞれ鉛直方向に固定され、ウェイト131の各板状プレートがその貫通孔を挿通され積層し、枠組120に上下動自在に支持されている。
【0049】
2個のトレーニング器具用負荷伝達機構部1Aは、2本の案内支柱140に接続部7により上下動自在、かつ水平方向に回動自在にそれぞれ嵌合されている。トレーニング器具用負荷伝達機構部1Aの握持軸部10に接続される握持部160は、ユーザが手でそれぞれ把持する環状物のハンドルである。各握持部160はトレーニング器具用負荷伝達機構部1Aに対してそれぞれ水平方向に軸回転できる。また、握持軸部10の揺動も可能である。各握持部160は、初期状態(
図10及び
図11参照)においては、各握持部160を把持した使用者の手の甲がトレーニング器具100の外側を向く位置である。各握持部160は、初期状態においては、座席111に着座したユーザが腕を上方に伸ばした手の位置よりさらに上方に位置する。そして、ユーザは握持部160を通じてトレーニング器具用負荷伝達機構部1Aを下降させることが可能である。このとき、ユーザは両腕を正中から外側へ胸元にて開くことができる(
図12及び
図13参照)。
【0050】
引張部材180は、同長のロープまたはワイヤーであり、引張部材180の一端はウェイト131に連結されている。ウェイト131に一端が固定された引張部材180は、それぞれ方向転換案内車170に巻回されている。当該方向転換案内車70は、ウェイト131によって引張部材80に付与される下方向への負荷を上方向への負荷に転換している。
【0051】
図10及び
図11に示す初期状態の場合、トレーニング器具用負荷伝達機構部1Aの回転は規制される。これに対し、
図12及び
図13の状態では、トレーニング器具用負荷伝達機構部1Aが正面方向を向くように回転付勢させる力に抗して、ユーザがトレーニング器具用負荷伝達機構部1Aを所定角度まで回転させることが可能となる。トレーニング器具用負荷伝達機構部1Aが正面方向を向くように回転付勢する力は、負荷付与部130の負荷に比例するとともに、トレーニング器具用負荷伝達機構部1Aの上下位置におおよそ逆比例している。
【0052】
なお、
図14及び
図15のように、トレーニング器具100では左右のトレーニング器具用負荷伝達機構部1Aの昇降動作を異ならせてトレーニングすることも可能である。
【0053】
<第1トレーニング器具の使用方法>
トレーニング器具100について、代表的な使用方法を順に説明する。始めにユーザの筋力、目的等を考慮した負荷に合わせて重量のウェイト131が配置される。ユーザは正面を向いて座席111に着座し、足裏が床面に接地するように座席111を適切な高さに調整して固定する。さらに、座席111に着座したユーザの大腿部の上面と接する程度に大腿部押え部121を適切な高さに調整して固定する。
【0054】
次に、使用者は立ち上がり、正面方向を向いたトレーニング器具用負荷伝達機構部1Aの初期状態(
図10及び
図11参照)に合わせ、手の甲をトレーニング器具100の左右に向けて、握持部160をそれぞれ把持する。そして、握持部160を上方に伸ばした手で把持しながら、また握持部160を下方に引っ張りながら座席111に正面方向を向いて着座する。
【0055】
次に、ユーザは負荷付与部130の負荷に比例した力によって握持部160に作用する回転付勢力に抗して、両上腕を外側に捻り、各握持部160をトレーニング器具用負荷伝達機構部1Aに対して水平方向に軸回転させて、各握持部160を把持した手の甲をそれぞれトレーニング器具100の正面方向に向ける。この「かわし動作」のポジションをとることにより、屈筋と伸筋とが共に「弛緩」して肩や腕がリラックスした状態になる。また、負荷付与部130の負荷により握持部160が上方向に付勢されており、肩甲帯付近等の筋肉が適度に「伸張」される。
【0056】
次に、ユーザは、適度に「伸張」された肩甲帯付近等の筋肉が「反射」を引き起こすように、負荷付与部130の負荷に抗して両腕を屈曲し筋肉を「短縮」させて握持部160を引き下げる。このとき、さらに上腕を外側に捻る「弛緩」と「伸張」の動作を加えながら、両手で握持部160を引き下げる。この上腕を外側に捻る動作によって各握持部160をトレーニング器具用負荷伝達機構部1Aに対してさらに外側水平方向に軸回転することにより、ウェイト131を引き上げることになり、両腕を引き下げる初動作における負荷が減少する。このように、両腕を屈曲して握持部160を引き下げて筋肉を「短縮」させるとき、さらに上腕を外側に捻ることによって、「弛緩」と「伸張」の動作を加えながら適切な「短縮」のタイミングを出現させることより、各筋肉群が「弛緩-伸張-短縮」のタイミングを得て、連動性よく動作を行うことができる。
【0057】
ユーザは、両腕を屈曲して握持部160を引き下げるとき、各トレーニング器具用負荷伝達機構部1Aが正面方向を向くように回転付勢される力に抗して、各トレーニング器具用負荷伝達機構部1Aがそれぞれ外側を向くように両腕を外側に漸次広げる。トレーニング器具用負荷伝達機構部1Aが正面方向を向くように回転付勢される力はトレーニング器具用負荷伝達機構部1Aの位置(高さ)に略逆比例するため、両腕を屈曲させて握持部160を引き下げることに伴い、両腕を外側に広げることに対する抗力が減少する。そのため、両腕を屈曲させて握持部160を引き下げるとき、使用者は両腕を外側に広げるように略一定の筋力を出力させることにより、握持部160を引き下げながら、両腕を漸次外側に広げる動作を滑らかに行うことができ、筋の共縮を防ぐことが可能となる。
【0058】
次に、ユーザは、各握持部160を略肩部の高さまで引き下げた後、負荷付与部130の負荷による各付勢力に従いながら、上腕を内側に捻り両腕を内側に閉じながら両腕を伸ばすことにより、手の甲を握持部160に従って着座した状態にゆっくりと戻す。これにより、トレーニングの1サイクルが終了する。そして、このトレーニングを適切な回数のサイクルだけ繰り返す。
【0059】
<第2トレーニング器具>
第2トレーニング器具200の構成は
図16ないし
図19にて示される。第2トレーニング器具200は、第2実施形態のトレーニング器具用負荷伝達機構部1Bまたは第2実施形態のトレーニング器具用負荷伝達機構部1Cを装着した器具である。
【0060】
第2トレーニング器具200は、
図16ないし
図19に示すように、着座部210と、同着座部210を支持する枠組220と、同枠組220に設けられ負荷の大きさが調整自在な負荷付与部230と、枠組220に着座部210がその中央位置となるように左右方向に所定の間隔をあけて鉛直方向に延びる左右各2本からなる案内支柱240と、左右の案内支柱240に案内され上下方向に移動自在な2個のトレーニング器具用負荷伝達機構部1B(1C)と、2個のトレーニング器具用負荷伝達機構部1B(1C)に備えられる握持軸部10に接続され回動自在な握持部260と、一端が負荷付与部230に連結され、他端が枠組220に設けられた方向転換案内車270を巻回してトレーニング器具用負荷伝達機構部1B(1C)に連結された引張部材280と、トレーニング器具用負荷伝達機構部1B(1C)内において引張部材280の他端と連結して負荷付与部230により握持部260の軸を中心とする回転に負荷が与えられる。
【0061】
着座部210は、トレーニング器具200を使用するユーザが後方向(負荷付与部230側)を向いて着座するために適切な座席211と、当該座席211の下面に鉛直に設けられた2本の座席支柱212とからなる。
【0062】
枠組220は、少なくとも四隅部が床面に載置される下部枠組221と、下部枠組221の後部から所定の左右間隔をあけて鉛直に固定された2本の鉛直柱222と、2本の鉛直柱222に支持固定された上部枠組223とからなる。そして、枠組220には、着座部210、負荷付与部230、左右の案内支柱240、方向転換案内車270等が設けられる。枠組220は、座席211に着座したユーザの大腿部が浮き上がることを防止する大腿部押え部225を支持する。この大腿部押え部225は、ユーザがトレーニング中に背中に適切なアーチを作るために備えられる。
【0063】
負荷付与部230は、枠組220に設けられ負荷の大きさが調整自在であり、金属製の重量部材である複数枚の板状プレートからなるウェイト231と、同ウェイト231を枠組220に上下動自在に支持するウェイト案内支柱232と、ウェイト231を相互に連結離別自在とすることが可能なクランプ(図示せず)を具備する。ウェイト231の枚数が加減されて負荷付与部230の荷重(負荷)は調整される。一対の円柱状のウェイト案内支柱232は、2本の鉛直柱222の間に左右方向に所定の間隔をあけて鉛直方向に延びており、下部枠組221と上部枠組223に上下端がそれぞれ固定されている。ウェイト231の各板状プレートは、その両側の貫通孔がウェイト案内支柱232にそれぞれ挿通され積層しており、ウェイト案内支柱232に上下動自在に支持されている。
【0064】
2個のトレーニング器具用負荷伝達機構部1B(1C)は、2本の案内支柱240に接続部7(そのローラ9)により上下動自在、かつ水平方向に回動自在に設けられている。2個のトレーニング器具用負荷伝達機構部1B(1C)は、ユーザが掌でそれぞれ掴み押え付ける半円柱状物の握持部260を備える。握持部260はトレーニング器具用負荷伝達機構部1B(1C)に対してそれぞれ水平方向に軸回転させることができる。さらに、握持部260は握動軸部10により揺動可能である。各握持部260は、初期状態(
図16及び
図17参照)においては、トレーニング器具用負荷伝達機構部1B(1C)と平行に位置している。各握持部260は、初期状態においては、負荷付与部230の作用によってトレーニング器具用負荷伝達機構部1B(1C)とともに座席211に着座したユーザの肩より上方に位置している。そして、ユーザが負荷付与部230の作用に抗して握持部260を最下降させた状態においては、各握持部260は座席211に着座した使用者の腰部付近もしくは腰部より下方に位置することができるようになっている。
【0065】
引張部材280は、同長のロープまたはワイヤーであり、引張部材280の一端はウェイト231に連結されている。ウェイト131に一端が固定された引張部材280は、それぞれ方向転換案内車270に巻回されている。当該方向転換案内車270は、ウェイト231によって引張部材280に付与される下方向への負荷を上方向への負荷に転換している。
【0066】
<第2トレーニング器具の使用方法>
トレーニング器具200について、代表的な使用方法を順に説明する。始めにユーザの筋力、目的等を考慮した負荷に合わせて重量のウェイト231が配置される。ユーザはウェイト231側を向いて座席211に着座し、足裏が床面に接地するように座席211を適切な高さに調整して固定する。さらに、座席211に着座したユーザの大腿部の上面と接する程度に大腿部押え部225を適切な高さに調整して固定する。
【0067】
次に、ユーザは、立ち上がり、各握持部260の互いに向い合う側を掌で上から掴み押え付けながら、握持部260とともにトレーニング器具用負荷伝達機構部1B(1C)を押し下げて、座席211に着座する。このとき、ユーザは、肩を持ち上げ、肘を曲げ、前腕を内側に少し引き寄せ、手首を前腕から前方に曲げている。
【0068】
次に、ユーザは握持部260の高さ位置を保ちながら、負荷付与部230の負荷に比例する回転付勢力に抗して、手首を内側に捻り、握持部260をトレーニング器具用負荷伝達機構部1B(1C)に対し軸回転させて、握持部260を掴む手をそれぞれ正面方向より内側と外側に動かす(
図18及び
図19参照)。
【0069】
ユーザは
図18及び
図19のような「かわし動作」の体勢(ポジション)をとることにより、屈筋と伸筋とが共に「弛緩」して肩部、腕部、背部がリラックスした状態になる。また、負荷付与部230の負荷により握持部260は上方向にも付勢されていることから、広肩筋等の背部の筋肉が適度に「伸張」される。なお、ユーザは握持部260を軸回転させるので、回転付勢力に抗してより少ない力で握持部260を軸回転させることができる。
【0070】
次に、ユーザは
図18及び
図19のトレーニング器具用負荷伝達機構部1B(1C)位置と逆の位置(図示せず)に動かすことにより、適度に「伸張」された背部の筋肉が「反射」を引き起こすように、負荷付与部230の負荷に抗して両腕を伸ばし筋肉を「短縮」させ、さらに手首を外側に捻る「弛緩」と「伸張」の動作を加えながら、握持部260の押し下げとその解除を行う。この手首を外側に捻る動作によって握持部260をトレーニング器具用負荷伝達機構部1B(1C)に対して逆方向に軸回転することとなり、押し下げの初動作における負荷は減少する。このように、握持部260を押し下げて筋肉を「短縮」させるとき、さらに手首を外側に捻ることによって、「弛緩」と「伸張」の動作を加えながら適切な「短縮」のタイミングを出現させることより、各筋肉群が「弛緩-伸張-短縮」のタイミングを得て、連動性よく動作を行うことができる。また、ユーザは、両腕を伸ばして握持部260を押し下げるとき、トレーニング器具用負荷伝達機構部1B(1C)は案内支柱240に案内されて握持部260とともに鉛直下方に移動するので、ユーザは両腕を伸ばし握持部260を押し下げる動作を滑らかに行うことができ、筋の共縮を防ぐことが可能となる。
【0071】
ユーザは、握持部260を腰部の高さまで押し下げた後、握持部260を掌で掴み押え付けながら、負荷付与部230の負荷による上方への付勢力に従い、上腕を内側に捻り肘を曲げることにより、着座した状態にゆっくりと戻す。これにより、トレーニングの1サイクルが終了する。そして、このトレーニングを適切な回数のサイクルだけ繰り返す。
図21及び
図22はトレーニング器具用負荷伝達機構部1B(1C)の昇降を左右で互い違いとする例を開示している。これとは別に左右の昇降を同時としてもよい。
【0072】
<トレーニング器具のまとめ>
前述のトレーニング器具100及び200は、初動負荷トレーニング(登録商標)により肩部、腕部、背部の筋肉等に対するトレーニングを適切に行う器具である。ここで、初動負荷トレーニングとは、「反射の起こるポジションへの身体変化及びそれに伴う重心位置変化等を利用し、主働筋の弛緩-伸張-短縮の一連動作過程を促進させるとともに、その拮抗筋並びに拮抗的に作用する筋の共縮を防ぎながら行うトレーニング」と定義される。初動負荷トレーニングは、最後まで負荷を与えて筋肉の緊張状態(硬化)を伴いながら筋肉を肥大化する終動負荷トレーニングとは全く異なるトレーニングである。初動負荷トレーニングは、負荷を与えるポイント、負荷を解き放つポイントと角度、リズム、筋出力の連続性など全体としての動作イメージを把握してトレーニングを行うことが必要である。従来の負荷トレーニングは身体のバランスや部分的硬化等によって適切な動作やフォームを取ることが困難であるという問題を内包している。しかし、初動負荷トレーニングを実現するトレーニング器具100または200により理想的な一連動作やフォームを伴ったトレーニングが容易に誘導される。
【0073】
トレーニング器具100及び200を用いた初動負荷トレーニングによって、「中心部(身体根幹部)から末端部への分節間の力伝達」、すなわち、自らは伸びようとせず縮む特性を持つ人体の筋を弛緩させリラックスした状態とし、感覚受容器である筋紡錘・腱器官に適切な負荷を与え、適度に筋を伸張したところから、あるいは受動的に伸張されたところから筋が短縮する時の力発揮を誘発し、瞬時、連続性をもって負荷が漸減することにより、共縮を起こさないのは心筋だけと言われてきた人体の他の筋が心筋のように共縮を起こすことのない活動状態を得ることができ、神経筋制御を促進・発達させることが可能となる。
【0074】
トレーニング器具100及び200を用いた初動負荷トレーニングは、当該トレーニング器具の負荷を利用して筋肉に反射を起こし、本来働かなければならない筋肉がうまく働き、筋肉と神経の機能を高めるトレーニングである。弛緩した筋肉にタイミングの良い伸縮、短縮を促すための触媒として負荷を用いている。そして、このようなトレーニングによって、弛緩-伸張-短縮の一連動作の促進が図られ、さらに共縮が防止されることにより、神経と筋肉の機能や協調性を高め、筋肉痛や疲労など身体への負担が少なく、筋肉の硬化を伴うことなく、柔軟で弾力性の富んだ筋肉が得られる。又、強制的な心拍数や血圧の上昇が少なく有酸素的に代謝を促進させることにより、糖尿病、高血圧など生活習慣病の予防や靭帯損傷、骨折等の治癒促進に有効であるとともに、神経・筋肉・関節のストレスの解除、老廃物の除去等、身体に有益な状態を作り出すことができる。
【0075】
<第1トレーニング器具の使用時の様子>
ここで、第1トレーニング器具100に第1実施形態のトレーニング器具用負荷伝達機構部1Aを装着して実際にユーザに第1トレーニング器具を使用してもらった。そして、ユーザの手首、腕の動きを0.5秒間隔で撮影した。
図20、
図21、
図22の写真は撮影時の様子である。各図において写真は(A)ないし(E)の5枚ずつ示されている。
【0076】
図20の写真では、ユーザはトレーニング器具用負荷伝達機構部の握持軸部に接続された握持部に右手をかけた状態である。器具の負荷(ウェイト荷重)により同トレーニング器具用負荷伝達機構部は持ち上がった位置である。トレーニング器具用負荷伝達機構部の握持軸部の備えられている先端側が水平方向の向きが外向きから内向きになる様子は
図20(A)、(B)、(C)、(D)、(E)の順のとおりである。最初、ユーザは腕を持ち上げて伸びた状態から、徐々に腕を曲げてトレーニング器具用負荷伝達機構部を引き寄せている。ここで、
図20(C)、(D)の写真より、握持軸部は紙面手左側に傾斜している。そこで、各器具の配置によりユーザの手首に加わるひねりの角度が、握持軸部の傾斜に伴い緩和されて動作の受け流しが可能となっている。
【0077】
図21の写真では、前出の
図20の位置よりもトレーニング器具用負荷伝達機構部がユーザにより再度器具の負荷(ウェイト荷重)に抗して引っ張り下げられている様子が示されている。
図21(A)、(B)、(C)、(D)、(E)の順にトレーニング器具用負荷伝達機構部は降下し、さらに、水平方向の向きが外向きとなっている。
【0078】
図22の写真では、ユーザはトレーニング器具用負荷伝達機構部の握持軸部に接続された握持部に右手をかけ、器具の負荷(ウェイト荷重)に抗して同トレーニング器具用負荷伝達機構部を引っ張り下げている様子が示されている。
図22(A)のとおり、ユーザの右手の甲が胴体を向く側となっている。
図22(A)では、トレーニング器具用負荷伝達機構部の握持軸部が揺動可能であることから、握持軸部は紙面手前側(ユーザの正面方向)に傾斜している。そして、トレーニング器具の負荷(ウェイト荷重)に順応してトレーニング器具用負荷伝達機構部は上昇し、その握持部に引っ張られてユーザの腕が持ち上がっている。この様子は
図22(B)、(C)、(D)、(E)の順に示される。
【0079】
図示のトレーニング器具において握持軸部は揺動可能であるため、トレーニング器具用負荷伝達機構部の位置(トレーニング器具における高さ)及び向きが
図20、
図21、
図22の写真のとおり刻々と変化する場合であっても、握持部を掴むユーザの手首に加わる曲げの量の緩和が可能となり、手首への負担が軽減されると考えられる。なお、図示の写真の第1トレーニング器具100に第1実施形態のトレーニング器具用負荷伝達機構部1Aを適用したトレーニング器具に加えて、第2トレーニング器具200に第2実施形態のトレーニング器具用負荷伝達機構部1Bまたは1Cを適用したトレーニング器具においても、当該トレーニング器具の動作において握持部を掴むユーザの手首に加わる曲げの量の緩和が予想される。
【0080】
以上のとおり、実際のトレーニング器具に実施形態のトレーニング器具用負荷伝達機構部を装着し、ユーザを通じての動作等を検証した。結果、従前のトレーニング器具用負荷伝達機構部の握持軸部(握持部)自体の旋回に加えて、軸自体の揺動が伴うことにより、握持部を握るユーザの手首に加わる捻れの負荷が緩和され、ユーザはより自然にトレーニング動作を実施できる。従って、これまで以上にトレーニング時に無理のない動きが可能となり、筋肉の「弛緩-伸張-短縮」の一連の動きが円滑化しやすくなる。
【0081】
<トレーニング器具用負荷伝達機構部の検証>
発明者は、前出のトレーニング器具用負荷伝達機構部1A(
図1等参照)を第1トレーニング器具100(
図10ないし
図15参照)に接続した。そして、握持軸部10が揺動可能な状態として被験者に第1トレーニング器具100を用いてトレーニングしてもらい筋電位を測定した。同時に、前出のトレーニング器具用負荷伝達機構部1Aにおいて規制板部5を用いて握持軸部10が揺動しない状態として被験者に第1トレーニング器具100を用いてトレーニングしてもらい筋電位を測定した。
【0082】
筋電位の測定の結果は
図23のグラフである。
図23(A)は握持軸部の揺動があるときの筋電図のグラフであり、
図23(B)握持軸部の揺動がないときの筋電図のグラフである。両グラフとも、上段から、「前鋸筋、広背筋、三角筋(中部)、上腕二頭筋、上腕三頭筋、前腕屈筋(長掌筋)、前腕伸筋(撓側手根伸筋)、そしてGonio(角度計)」である。
【0083】
握持軸部10が揺動可能な状態のとき、前鋸筋の活動が活発となる(両図の実線枠参照)。これに対し、握持軸部10が揺動しない状態のとき、前腕屈筋の活動が活発となる(両図の破線枠参照)。つまり、握持軸部10の揺動の有無を選択することにより、鍛錬する筋肉の調整が可能となる。このため、トレーニングするユーザの体調、体格、強化したい筋肉等の個別要因に柔軟に対応することができる。
【符号の説明】
【0084】
1A,1B,1C トレーニング器具用負荷伝達機構部
2 筐体部
3 軸開口部
4 揺動開口部
5,5w 規制板部
5e,5f 爪部
6 スライド保持部
7 接続部
8 接続筒部
9 ローラ
10 握持軸部
11 第1端部
12 第2端部
12r 球状部
13 握持軸スプロケット
14 揺動保持板部
15 伝達部
16 伝達チェーン
20 中間軸部
22 中間軸部傘歯車
23 中間軸スプロケット
30 付勢軸部
31 円盤部
40 クランク軸部
41 連結片部
42 クランク軸傘歯車
50 摺動軸部
1S 回転伝達部
1K クランク機構部
100,200 トレーニング器具
130,230 負荷付与部
160,260 握持部