(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】導電性ペースト
(51)【国際特許分類】
H01B 1/22 20060101AFI20241004BHJP
H01G 4/30 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
H01B1/22 A
H01G4/30 201G
H01G4/30 201P
H01G4/30 516
(21)【出願番号】P 2019230489
(22)【出願日】2019-12-20
【審査請求日】2022-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】ノリタケ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【氏名又は名称】安部 誠
(72)【発明者】
【氏名】西部 香帆
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 夕子
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-313427(JP,A)
【文献】特開2016-130354(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106010155(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/22
H01G 4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性粒子と、
樹脂成分と、
有機溶剤と、
を含み、
前記樹脂成分は、相互に単体のブレンドとしてポリイミド樹脂とシリコーン樹脂とを含み、
前記シリコーン樹脂は、
室温(25℃)において液体状である付加硬化型シリコーンレジンであり、
前記ポリイミド樹脂と前記
液体状付加硬化型シリコーンレジンとの割合は、質量基準で、95:5~50:50となるよう調整されている、導電性ペースト。
【請求項2】
前記導電性粒子を100質量部としたとき、前記樹脂成分は10質量部以上30質量部以下の割合で含まれる、請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項3】
前記導電性粒子は、ニッケル、白金、パラジウム、金、銀および銅のうちの少なくとも1つを含む、請求項1または2に記載の導電性ペースト。
【請求項4】
セラミック電子部品の外部電極を形成するために用いられる、請求項1~3のいずれか一項に記載の導電性ペースト。
【請求項5】
セラミック素地と前記セラミック素地内に配設された内部電極とを含む部品本体と、
前記部品本体の表面に備えられる外部電極と、
を備え、
前記外部電極は、請求項1~4のいずれか一項に記載の導電性ペーストの乾燥膜を少なくとも一部に含む、セラミック電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ペーストに関する。より詳しくは、セラミック電子部品の未焼成電極を形成するのに好適な導電性ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化や高性能化に伴い、電子機器に実装されるセラミック電子部品にも小型化および高性能化が求められている。とりわけ、車載用の電子部品については、車両のコネクティッド化により、小型化に加えて高耐熱化と高い信頼性とを兼ね備えることが求められる。
【0003】
セラミック電子部品は、一般に、部品本体と、部品本体の対向する一対の端面に形成される外部電極とを備え、外部電極を基板に半田付けすることによって基板に実装される。ここで、車載用電子機器等においては、セラミック電子部品を実装した基板が急激な温度変化によって撓み得ることが知られている。このとき、セラミック電子部品と基板とでは熱膨張係数が異なることから、基材に実装されているセラミック電子部品には熱衝撃が生じ、脆性なセラミック電子部品がクラック等により破損することが懸念される。そこで、セラミック電子部品の外部電極に、樹脂成分を含む導電性膜(樹脂電極層)を介在させ、この樹脂電極層でセラミック電子部品に加わる熱衝撃を緩和させることが行われている(例えば、特許文献1~2参照)。また、半田に代えて樹脂成分を含む導電性ペーストによってセラミック電子部品を基板に実装する(ボンディングする)ことも提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-104820号公報
【文献】特表2018-516755号公報
【文献】特開2006-073812号公報
【発明の概要】
【0005】
ところで、従来の樹脂成分を含む導電性膜を形成するための導電性ペーストには、樹脂成分として、エポキシ樹脂やウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂が使用されている。しかしながら、これらのエポキシ樹脂やウレタン樹脂は、高温で連続使用する場合の耐熱温度が150℃程度であり、これ以上の温度環境に晒されると樹脂成分が劣化するという課題がある。なお、高い耐熱性を有する樹脂として、ポリテトラフルオロエチレンやPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂に代表されるスーパーエンプラ(スーパーエンジニアリングプラスチック)が知られている。しかしながら、耐熱性の高いスーパーエンプラは基材に対する接着性が十分でないといった課題がある。例えば車載用のセラミック電子部品等のように、高温環境に長時間晒される可能性のある電子部品に用いられる導電性膜については、180℃以上280℃以下程度の高い耐熱性と接着性とを兼ね備えることが望まれる。
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、耐熱性と接着性とが両立された樹脂成分を含む導電性膜を形成することができる導電性ペーストを提供することにある。
【0007】
本発明者らは、150℃以上の高温で長期間使用できるスーパーエンプラを樹脂成分として含む導電性ペーストから形成される導電性膜について、様々な角度から検討を行った。その結果、樹脂成分としてスーパーエンプラを単体で含む導電性膜では、膜特性が剛直すぎて所望の接着性が得られないことがわかった。そこで、本発明者らは、スーパーエンプラのなかでも非常に高い耐熱性を有するポリイミド樹脂に着目し、このポリイミド樹脂に異種の樹脂成分をブレンドすることで、形成される導電性膜に柔軟性を付与し、基材との接着性を改善することを目指して鋭意研究を重ねた。その結果、接着性に劣ると考えられていた一つの樹脂成分をポリイミド樹脂にブレンドすることで、導電性膜の接着性を改善し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、ここに開示される導電性ペーストは、導電性粒子と、樹脂成分と、有機溶剤と、を含む。そして樹脂成分は、ポリイミド樹脂とシリコーン樹脂とを含み、ポリイミド樹脂とシリコーン樹脂との割合は、質量基準で、95:5~50:50となるよう調整されている。
【0009】
上記構成によると、ポリイミド樹脂とシリコーン樹脂との相乗効果によって、これらの樹脂を単独で含む導電性膜において発現される接着性を超えた、優れた接着性を備える導電性膜を形成できる導電性ペーストが実現される。詳細は明らかではないが、ポリイミド樹脂はその化学構造に基づいて主骨格が剛直であり、ガラス転移点(Tg)が高いことに加え、温度条件により軟化しづらいために基材に濡れ広がり難い。これに対し、ポリイミド樹脂中にシリコーン樹脂を分散させることで、ポリイミドの分子構造が適度に乱され、シリコーン樹脂の軟化とともにポリイミド樹脂が基板に濡れ広がり易くなる効果が発現されると考えられる。その結果、この導電性ペーストを乾燥させて得られる導電性膜については、高い耐熱性(例えば、180℃以上280℃以下程度)と接着性(例えば、4N/mm2以上)とが好適に高められる。これにより、高耐熱性を有しながらも基材への接着性が良好な導電性膜を形成できる、導電性ペーストが提供される。
【0010】
ここで開示される導電性ペーストの好ましい一態様では、上記シリコーン樹脂は、付加硬化型のシリコーン樹脂である。これにより、この導電性ペーストから形成される導電性膜の接着強度を、例えば6N/mm2以上と接着性に優れたものとして実現することができる。
【0011】
ここで開示される導電性ペーストの好ましい一態様では、上記シリコーン樹脂は、レジン系のシリコーン樹脂である。このような構成によっても、この導電性ペーストから形成される導電性膜の接着強度を、例えば6N/mm2以上と接着性に優れたものとして実現することができる。
【0012】
ここで開示される導電性ペーストの好ましい一態様では、上記導電性粒子を100質量部としたとき、上記樹脂成分は10質量部以上30質量部以下の割合で含まれる。これにより、電気伝導性に優れた導電性膜を好適に形成することができる。
【0013】
ここで開示される導電性ペーストの好ましい一態様では、上記導電性粒子は、ニッケル、白金、パラジウム、金、銀および銅のうちの少なくとも1つを含む。このような構成によっても、電気伝導性に優れた導電性膜を好適に形成することができる。
【0014】
ここで開示される導電性ペーストは、上記のとおり、高い耐熱性と接着性とを両立する導電性膜を形成することができる。このような特性は、例えば、高温で振動が発生する環境で使用されるセラミック電子部品の外部電極に含まれる樹脂電極層や、ボンディング用導電性樹脂を形成するために用いることで、その利点を如何無く発揮させることができる。例えば、ここに開示される導電性ペーストの好ましい一態様では、セラミック電子部品の外部電極の樹脂電極層を形成するために用いられる。
【0015】
他の観点から、ここに開示されるセラミック電子部品は、セラミック素地と前記セラミック素地内に配設された内部電極とを含む部品本体と、前記部品本体の表面に備えられる外部電極と、を備える。そして上記外部電極は、上記のいずれかに記載の導電性ペーストから形成される導電性膜(典型的には乾燥膜)を少なくとも一部に含む。これにより、高温環境においても、回部からの振動で剥離や破損が生じにくい高い信頼性を有するセラミック電子部品が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る積層セラミックコンデンサを模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、一実施形態に係る導電性ペーストにおけるシリコーン樹脂の配合と樹脂電極層の接着性との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項(例えば、導電性ペーストの構成)以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、導電性ペーストの調製方法やセラミック電子部品の構成等)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0018】
なお、以下の説明では、導電性ペーストを基材上に付与して、導電性ペーストに含まれる樹脂成分の熱分解温度以下の温度で(例えば300℃以下で)乾燥した未焼成の膜状体を、「導電性膜」という。本明細書において「導電性膜」は、「樹脂電極膜」や「ボンディング用導電性樹脂」等の意味を包含する。また、本明細書において数値範囲を示す「A~B」の表記は、A以上B以下を意味する。
【0019】
≪導電性ペースト≫
ここで開示される導電性ペースト(以下、単に「ペースト」ということがある。)は、乾燥させることによって導電性膜を形成することができる。ここで開示される導電性ペーストは、導電性粒子(A)と、樹脂成分(B)と、有機溶剤(C)と、を含んでいる。また、この導電性ペーストから形成される導電性膜(典型的には、樹脂電極膜やボンディング用導電性樹脂)は、導電性粒子(A)と、樹脂成分(B)とを含んでいる。なお、本明細書において「ペースト」とは、組成物、インク、スラリー、サスペンション等を包含する用語である。以下、各成分について順に説明する。
【0020】
(A)導電性粒子
導電性粒子は、典型的には粉末の形態で用意される。導電性粒子は、乾燥後に得られる導電性膜に電気伝導性を付与する成分である。導電性粒子の種類等については特に限定されず、一般的に使用される各種の導電性粒子の中から用途等に応じて1種または2種以上を適宜用いることができる。導電性粒子としては、導電性金属粉末が好ましい例として挙げられる。具体的には、ニッケル(Ni)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、オスミウム(Os)、アルミニウム(Al)等の金属の単体、およびこれらの混合物や合金等が例示される。
【0021】
特に限定されるものではないが、例えば積層セラミック電子部品の樹脂電極膜やボンディング用導電性樹脂等を形成する用途では、焼成することなく高い電気電導性を有することが求められる。そのような高い導電性金属種の一例として、ニッケル、白金、パラジウム、銀、銅が挙げられる。なかでも、化学的に安定で耐熱性にも優れた銀や銀合金が好ましい。
【0022】
導電性粒子を構成する粒子の性状、例えば粒子のサイズや形状等は、所望の導電性膜の断面における最小寸法(典型的には、導電性膜の厚みおよび/または幅)に収まる限りにおいて、特に限定されない。導電性粒子の平均粒子径(レーザ回折式の粒度分布測定装置により求められる体積基準の粒度分布において、小粒径側から累積50%に相当する粒径。以下同じ。)は、概ね数10nm~数十μm程度、例えば1μm~10μmであるとよい。
【0023】
導電性粒子の形状は、例えば、球形あるいは非球形であってよい。非球形とは、例えば、板状、鱗片状、フレーク状、不定形状等であってよい。導電性粒子の充填密度を高め易いとの観点から、球形の導電性粒子としては、例えば、アスペクト比が1.2以下、好ましくは1.15以下、例えば1.1以下のものを好ましく用いることができる。また、導電性粒子の接触面積を増大させ易いとの観点からは、非球形の導電性粒子は、例えば、アスペクト比が1.2超過、好ましくは1.3以上、1.5以上、例えば1.7以上、さらに好ましくは2以上のものを用いるとよい。上記効果を相乗させる観点から、導電性粒子は、球形のものと非球形のものとが混合されていてもよい。これにより、ペーストから乾燥によって溶剤が除去されたときに、複数の導電性粒子が好適に接触し、導電性膜の電気伝導性を高めることができる。なお、アスペクト比は、電子顕微鏡観察に基づき、導電性粒子の最小外接長方形の(長辺÷短辺)により算出される値である。
【0024】
導電性粒子(A)の含有割合は特に限定されないが、導電性ペーストの全体を100質量%としたときに、概ね30質量%以上、典型的には40~95質量%、例えば50~85質量%であるとよい。上記範囲を満たすことで、電気伝導性や緻密性の高い導電性膜を好適に実現することができる。また、ペーストのハンドリング性や、成膜時の作業性を向上することができる。
【0025】
(B)樹脂成分
樹脂成分は、ポリイミド樹脂(B1)とシリコーン樹脂(B2)とを含む。
(B1)ポリイミド樹脂
ポリイミド樹脂は、繰返し単位にイミド結合を含む高分子である。高分子とは、分子量が大きい(例えば、重量平均分子量が1000以上の)分子で、分子量が小さい(例えば、重量平均分子量が500以下の)分子から実質的または概念的に得られる単位(繰返し単位と同意)の多数回(例えば5回以上)の繰り返しで構成した構造を有する。ポリイミド樹脂は、典型的には、以下の式(1)で表される繰り返し単位構造を含む。ここで、式中のR,R’は独立して、任意の有機官能基、または酸素原子である。
【0026】
【0027】
ポリイミド樹脂は、典型的にはイミド結合を含む繰り返し単位が主鎖を構成する結晶性または非結晶性の高分子である。より付着性の高い電極を形成するとの観点からは、結晶性の高分子であってよい。また、より高い耐熱性を備えるとの観点からは、非結晶性の高分子であってよい。さらに、ポリイミド樹脂は、ホモポリマーの状態で、耐熱温度が250℃以上であるとよく、例えばガラス転移点については200℃以上であってよく、好ましくは210℃以上、より好ましくは220℃以上であり得る。ポリイミド樹脂において、全繰返し単位のモル数に占める、イミド結合を含む繰り返し単位のモル数の割合は、通常は50%以上(例えば50%~95%)であり、好ましくは65%以上、より好ましくは75%以上、例えば85%以上である。例えば、全繰返し単位が脂肪族又は環状脂肪族を含む単位から構成されていてもよい。
【0028】
ポリイミド樹脂において、イミド結合の繰返し単位の種類は特に限定されない。イミド結合を含む単位としては、これに限定されるものではないが、例えば、s-ODPA、i-ODPA、a-ODPA、2,2’-BAPB、4,4’-BAPB、1,5-NBOA、2,3-NBOA、3,3’-ODA、4,4’-ODA、PMDA、BPDA、BPADA、BTDA、BAFL、2,2-TFMB、1,3,3-APB、1,3,4-APB、DDS等が例示される。これらはいずれか1種が単独であってもよいし、2種以上の任意の組み合わせであってもよい。
【0029】
このようなポリイミド樹脂は、例えば、JFEケミカル株式会社、京セラケミカル株式会社、サビック社製、PI技術研究所製のポリイミド材料のなかから、所望の用途に応じて上記特徴を満たすものを適宜選択して入手することができる。
【0030】
(B2)シリコーン樹脂
シリコーン樹脂としては、ケイ素(Si)と酸素(O)とからなるシロキサン結合(Si-O-Si)による主骨格を有する高分子有機化合物のうち、分岐鎖を含む高分子有機化合物を用いることができる。すなわち、いわゆるシリコーンオイル、シリコーンラバー、シリコーンレジンと呼ばれるシロキサン化合物のうち、直鎖型のシリコーンオイルを除く、シリコーンラバーおよび/またはシリコーンレジンであってよい。シリコーンゴムは、分岐度(架橋度)が低く、室温(例えば25℃)でゴム弾性を有するエラストマーである。シリコーンレジンは、分岐度(架橋度)が高く、三次元ポリマー構造が発達している。シリコーンラバーとシリコーンレジンのうち、シリコーン樹脂としてはシリコーンレジンを用いることがより好ましい。シリコーン樹脂は、室温(例えば25℃)において、固体状であってもよいし、液体状であってもよい。
【0031】
主骨格部分を形成するシリコーン樹脂としては、例えば、一般式:HO[-Si(R)2O-]nH、Rは水素または任意の官能基;で示されるシロキサン単位を含むポリシロキサンや、Rが任意のアルキル基であるポリアルキルシロキサン、または、シロキサン単位とこれとは異なるケイ素含有モノマーとが重合されてなるポリマーであってよい。具体的には、シリコーン樹脂としては、ポリジメチルシロキサン,ポリジエチルシロキサン,ポリメチルエチルシロキサン等のポリジアルキルシロキサン、ポリアルキルアリールシロキサン、ポリ(ジメチルシロキサン-メチルシロキサン)等が挙げられる。特に好適な主骨格を構成する高分子は、例えば、ポリジメチルシロキサンであり得る。また、シリコーン樹脂としては、ポリエーテル基、エポキシ基、アミン基、カルボキシル基、アルキル基、水酸基等の他の置換基を主骨格の側鎖、末端、または両者に導入した直鎖変性シリコーンであってもよい。
【0032】
また、シリコーン樹脂には、付加硬化型のシリコーン樹脂と、脱水縮合硬化型のシリコーン樹脂とがあることが知られている。このうち、脱水縮合硬化型のシリコーン樹脂の場合、反応副生成物としての水が形成される電極膜に悪影響を与える虞がある。したがって、必ずしもこれに限定されるものではないが、シリコーン樹脂としては、付加硬化型のシリコーン樹脂であることがより好ましい。
【0033】
このようなシリコーン樹脂は、例えば、信越化学工業社、旭化成ワッカーシリコーン社製のシリコーンレジンまたはシリコーンゴムから、所望の用途に応じて上記特徴を満たすものを適宜選択して入手することができる。
【0034】
ポリイミド樹脂とシリコーン樹脂とは、ポリイミド樹脂にごく少量でもシリコーン樹脂がブレンドされることで、ポリイミド樹脂の接着性の向上効果を得ることができる。しかしながら、例えば、4N/mm2以上の高い接着性を有する導電性膜を形成するために用いられる導電性ペーストにおいては、ポリイミド樹脂とシリコーン樹脂との合計を100質量%としたとき、シリコーン樹脂の割合が、2質量%を超過するとよく、3質量%以上であってよく、5質量%以上や、7質量%以上、例えば8質量%以上、さらには10質量%以上であるとより好ましい。しかしながら、過剰な割合でシリコーン樹脂をブレンドすると、ポリイミド樹脂の優れた特性が阻害されうる点において好ましくない。シリコーン樹脂の割合は、60質量%未満であるとよく、50質量%以下が好ましく、例えば40質量%以下、30質量%以下、さらには25質量%以下であると好ましい。
【0035】
また、(A)導電性粒子100質量部に対する(B)樹脂成分の割合が多いほど、この導電性膜に加えられる外部からの振動や熱衝撃を、より多く緩衝して低減できる点において好ましい。樹脂成分の割合は、例えば3質量%以上であるとよく、5質量%以上や、8質量%以上、例えば10質量%以上であるとより好ましい。しかしながら、樹脂成分の割合が過剰な場合は、導電性粒子間に存在する樹脂成分が抵抗となり得るために好ましくない。樹脂成分の割合は、例えば30質量%以下であるとよく、25質量%以下が好ましく、例えば20質量%以下であってよい。
【0036】
この導電性ペーストは、上記のとおり、ポリイミド樹脂とシリコーン樹脂との含有が欠かせない。その一方で、市場には、ポリイミド鎖にシリコーン構造を導入した、ポリイミド樹脂とシリコーン樹脂とのブロック共重合体が提供されてもいる。このシリコン変性ポリイミドブロック共重合体は、ポリイミドに密着性や可撓性を付与したものと理解することができる。しかしながら、ポリイミド樹脂とシリコーン樹脂とが共重合してしまうと、その重合部において耐熱性が損なわれるという大きなデメリットがある。そのため、ポリイミド樹脂とシリコーン樹脂とは、共重合体の形態ではなく、単体のブレンドとして、導電性ペーストに含まれることが好ましい。換言すると、ここに開示される導電性ペーストは、ポリイミド樹脂とシリコーン樹脂との共重合体は含まない構成であることが好ましい。
【0037】
また、ここに開示される導電性ペーストは、上記特徴を損ねない範囲において、他の樹脂成分を含んでいてもよい。そのような樹脂成分としては、ゴム系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリアミド系樹脂、フッ素系樹脂等の公知の各種の樹脂成分の1種または2種以上であり得る。しかしながら、公知の樹脂成分のうち、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)系樹脂やアクリル系樹脂については、上記のシリコーン樹脂のようにポリイミド樹脂の難接着性を改善する効果が見られないために含まなくてもよい。なお、従来の導電性樹脂ペーストとの差別化の観点から、例えば、エポキシ系樹脂やウレタン系樹脂は含まない構成であってもよい。導電性ペーストに、ポリイミド樹脂およびシリコーン樹脂以外の他の樹脂成分が含まれる場合、これら他の樹脂成分の割合は、合計で10質量%以下(好ましくは5%以下)の含有であることが好ましい。
【0038】
(C)有機溶剤
有機溶剤としては、上記のポリイミド樹脂とシリコーン樹脂とに相溶性を示す溶剤を特に制限なく用いることができる。有機溶剤は、成膜時の作業性や保存安定性等の観点からは、沸点が概ね200℃以上、例えば200~300℃の高沸点有機溶剤を主成分(50体積%以上を占める成分。)とするとよい。有機溶剤の一好適例としては、ターピネオール、テキサノール、ジヒドロターピネオール、ベンジルアルコール等の、-OH基を有するアルコール系溶剤;エチレングリコール、ジエチレングリコール等の、グリコール系溶剤;ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ブチルカルビトール(ジエチレングリコールモノブチルエーテル)、トリエチレングリコールジメチルエーテル等の、グリコールエーテル系溶剤;イソボルニルアセテート、エチルジグリコールアセテート、ブチルグリコールアセテート、ブチルジグリコールアセテート、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート(ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセタート)、γ-ブチロラクトン、安息香酸メチル等の、エステル結合基(R-C(=O)-O-R’)を有するエステル系溶剤;トルエン、キシレン等の炭化水素系溶剤;N-メチルピロリドン(NMP)等の非プロトン性極性溶媒、ミネラルスピリット等が挙げられる。なかでも、上記樹脂成分を好適に溶解するとの観点から、NMPやγ-ブチロラクトン等の有機溶剤を好ましく用いることができる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を適宜混合して用いることができる。
【0039】
有機溶剤(C)の含有割合は特に限定されないが、導電性ペーストの全体を100質量%としたときに、概ね70質量%以下、典型的には5~60質量%、例えば10~50質量%程度であるとよい。上記範囲を満たすことで、ペーストに適度な流動性を付与することができ、成膜時の作業性を向上することができる。また、ペーストのセルフレベリング性を高めて、より滑らかな表面の導電性膜を実現することができる。
【0040】
(D)その他の成分
ここで開示されるペーストは、上記(A)~(C)の成分のみで構成されていてもよく、上記(A)~(C)の成分に加えて、必要に応じて種々の添加成分を含んでいてもよい。添加成分としては、ここに開示される技術の効果を著しく損なわない限りにおいて、一般的な導電性ペーストに使用し得ることが知られているものを適宜用いることができる。
【0041】
添加成分は、無機添加剤(D1)と有機添加剤(D2)とに大別される。無機添加剤(D1)の一例としては、焼結助剤や無機フィラー、ガラスフリット等が挙げられる。無機添加剤(D1)は、平均粒子径が、概ね10nm~10μm程度であり、導電性膜の算術平均粗さRaを小さく抑える観点からは、例えば0.3μm以下であることが好ましい。また、有機添加剤(D2)の一例としては、レベリング剤、消泡剤、増粘剤、可塑剤、pH調整剤、安定剤、酸化防止剤、防腐剤、着色剤(顔料、染料等)等が挙げられる。なお、有機添加剤(D2)は、酸価を有していても良く、酸価を有していなくても良い。添加成分の含有割合は特に限定されないが、導電性ペーストの全体を100質量%としたときに、概ね20質量%以下、典型的には10質量%以下、例えば5質量%以下であってもよい。
【0042】
このようなペーストは、上述した材料を所定の含有割合(質量比)となるよう秤量し、均質に撹拌混合することで調製し得る。材料の撹拌混合は、従来公知の種々の攪拌混合装置、例えばロールミル、マグネチックスターラー、プラネタリーミキサー、ディスパー等を用いて行うことができる。また、基材へのペーストの付与は、例えば、チップインディップ法や、ディスペンサー供給法、スクリーン印刷、グラビア印刷、オフセット印刷およびインクジェット印刷等の印刷法、スプレー塗布法等を用いて行うことができる。積層セラミック電子部品の外部電極の樹脂電極層を形成する用途では、例えば、ディップ法が好適である。また、積層セラミック電子部品を基板に実装する際のボンディング用途では、例えば、ディスペンサー供給法が好適である。
【0043】
<ペーストの用途>
ここに開示される導電性ペーストによれば、任意の基材上に耐熱性と接着性とに優れた導電性膜を形成することができる。この導電性膜は、乾燥によって硬化され、未焼成の状態で導電性膜を構成する。そのため、ここで開示されるペーストは、焼成などの温度変化に弱いセラミック電子部品の樹脂電極層等を形成するための導電性ペースト等として好ましく用いることができる。その他、セラミック電子部品を基板実装する際に、半田に代わる接着のためのボンディング用導電性樹脂を形成するために用いることもできる。
【0044】
なお、本明細書において、「セラミック電子部品」とは、非晶質のセラミック基材(ガラスセラミック基材)あるいは結晶質(すなわち非ガラス)のセラミック基材を有する電子部品一般を指す用語である。例えば、セラミック製の基材を有するチップインダクタ、高周波フィルター、セラミックコンデンサ、低温焼成積層セラミック基材(Low Temperature Co-fired Ceramics Substrate:LTCC基材)、高温焼成積層セラミック基材(High Temperature Co-fired Ceramics Substrate:HTCC基材)等は、ここでいう「セラミック電子部品」に包含される典型例である。
【0045】
図1は、セラミック電子部品1としての積層セラミックコンデンサ(MLCC)の構成を模式的に示す断面図である。セラミック電子部品1は、典型的には、部品本体10と、部品本体10の対向する一対の端面に形成されている外部電極30とを備えている。
【0046】
部品本体10は、複数の内部電極20が誘電体層12を介して積層されている。各誘電体層12は、例えばセラミック誘電体を含むセラミックグリーンシートの積層焼結体から構成される。実際のMLCCにおいては、誘電体層12の間の接合境界が視認できない程度に一体化されている。ここで、内部電極20の一部は、部品本体10の端面(
図1では左右の端部)に露出されている。
【0047】
外部電極30は、部品本体10の外表面上に配設されている。外部電極30は、部品本体10の対向する一対の端面(
図1では左右の端部)のそれぞれに形成されている。外部電極30は、第1の金属電極層32と、導電性膜(樹脂電極層)34と、第2の金属電極層36と、第3の金属電極層38とを有している。
【0048】
第1の金属電極層32は、卑金属である銅(Cu)を主成分として含有しており、内部電極20と物理的且つ電気的に接続されている。第1の金属電極層32は、部品本体10の左右の一対の端面と、そこに連なる4つの側面の外表面に連続して形成されている。第1の金属電極層32は、Cu粉末を含有する導電性ペーストを、部品本体10の一対の端面およびそこに連なる4つの側面の外表面に、塗布して焼き付けることによって形成されている。第1の金属電極層32の厚みは、例えば、10~30μmである。
【0049】
導電性膜34は、金属(Ag)粉末を導電性粒子として含有しており、ここに開示される導電性ペーストを乾燥により硬化させてなる層である。導電性膜34は、第1の金属電極層32の周縁を残して、部品本体10の一対の端面およびそこに連なる4つの側面の外表面に、ここに開示される導電性ペーストを塗布して乾燥させることによって形成されている。ここで、乾燥の温度は、使用するイミド樹脂およびシリコーン樹脂によって変わり得るものの、おおよそ180℃以上300℃以下である。導電性膜34の厚みは、例えば、20~100μmである。これによりここに開示される導電性ペーストを硬化させて、外部電極30の一部としての導電性膜34を形成することができる。
【0050】
第2の金属電極層36は、NiあるいはNi合金を主成分として含む。導電性膜34は、例えば第1の金属電極層32および導電性膜34の表面をNiめっきすることによって形成されている。第2の金属電極層36の厚みは、例えば、1~5μmである。
第3の金属電極層38は、SnあるいはSn合金を主成分として含む。第3の金属電極層38は、第2の金属電極層36の表面をSnまたはSn合金でめっき処理することによって形成されている。第3の金属電極層38の厚みは、例えば、1~5μmである。
【0051】
以上のようにして、セラミック電子部品1を製造することができる。ここで、外部電極30は、部品本体10の両方の端面に露出された内部電極20に電気的に接続されている。これにより、外部から、一方の外部電極30を通じて内部電極20に送られた電流を、そのまま他方の外部電極33に送ることなく、MLCC内に蓄えて絶縁することができる。また、外部負荷に電流を流すときは、MLCC内に蓄えられた電荷が、順次、外部電極30を通じて外部回路に送られる。このとき、MLCCがあることによって、電源電圧が不安定な場合であっても、安定して外部回路に電荷を供給することができる。このようなMLCCは、外部電極30に高耐熱性と接着性とに優れた導電性膜34を含む。このことにより、MLCCが搭載された電子機器が、連続走行する車両等の高温環境に晒されて、MLCCが実装された基板が撓んだ場合であっても、導電性膜34が第1の金属電極層32と第2の金属電極層36とに密着性よく接着し、例えばかかる撓みを緩衝し、部品本体10との電気的接続を安定して維持することができる。これにより、高温環境においても高い信頼性を有するセラミック電子部品1が提供される。なお、具体的には示さないが、かかる導電性ペーストは、セラミック電子部品1を基板に実装する場合のボンディングペーストとしても利用できる。
【0052】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明を係る実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0053】
[導電性ペースト]
表1に示す配合で、導電性粒子と、樹脂成分と、溶剤とを混合することで、例1~19の導電性ペーストを調製した。
導電性粒子としては、平均粒子径が4.7μmのフレーク状のAg粉末(タップ密度3.1g/cm3)を全例で共通して用いた。溶剤としては、γ-ブチロラクトンを共通して用いた。ただし、具体的には示さないが、導電性粒子および溶剤の種類を変更しても、後述する電極特性の傾向に大幅な違いは見られないことを確認している。
【0054】
樹脂成分としては、表1に示す10通りの樹脂を、単独で、または、組み合わせて用いた。なお、表1に示した樹脂は、以下のものを示す。また、下記のTD1,TD2,TD5は、それぞれ1%,2%,5%重量減少温度を、Tgはガラス転移温度を、意味する。
【0055】
「ポリイミド樹脂1」:溶剤可溶型フッ素含有ポリイミド樹脂(Tg:360℃、TD1:500℃、TD5:540℃)
「ポリイミド樹脂2」:溶剤可溶型ポリエーテルイミド樹脂(Tg:260℃、TD1:400℃、TD5:450℃)
「シリコーン樹脂1」:付加硬化型シリコーンレジン(二液型)
「シリコーン樹脂2」:付加硬化型シリコーンレジン(一液型)
「シリコーン樹脂3」:付加硬化型シリコーンレジン(フェニルシリコーン)
「シリコーン樹脂4」:縮合型シリコーンレジン(フレーク状)
「シリコーン樹脂5」:縮合型シリコーンレジン(フレーク状、シリコーン樹脂4とは他メーカ品)
「シリコーン樹脂6」:付加硬化型シリコーンゴム(室温硬化型)
「アクリル樹脂」:重量平均分子量:30万、Tg:56℃
「NBR樹脂」:ニトリルブタジエンゴム、結合AN量:28.0、ムーニー粘度:50
【0056】
[導電性膜とその評価]
(基板接着性)
用意した各例の導電性ペーストを、2枚の銅板(2cm×5cm、表面加工なし)の先端に、面積:2cm×1cm、厚み:約50μmで塗布した。そして、導電性ペーストを塗布した銅板を、先ずは180℃で15分間、次いで280℃で45分間乾燥させることで、導電性ペーストを硬化させた。これにより、銅板上に所定の寸法の導電性膜を形成した。次いで、導電性膜を形成した2枚の銅板の導電性膜の部分にエポキシ接着剤を塗布し、銅板部分が互いに反対側に配置されるように向きを整えて、導電性膜同士を重ね合わせて接着した。これにより、各例の導電性膜の基板接着性の評価用試験片を用意した。
【0057】
評価用試験片の両端の銅板部分を、引張試験機((株)島津製作所製、万能試験機オートグラフ)の上下のチャックにそれぞれ固定し、JIS K6850:1999(剛性被着材の引張せん断接着強さ試験方法)に準じて引張せん断試験を実施した。引張せん断試験においては、評価用試験片の接着面に垂直な引張り荷重(せん断力)を所定の荷重速度で負荷し、評価用試験片が破断したときの引張せん断荷重(破断力)から、接着強度(せん断強さ)を測定した。その結果を、接着強度が6N/mm
2以上の場合を「A」、5N/mm
2以上6N/mm
2未満の場合を「B」、4N/mm
2以上5N/mm
2未満の場合を「C」、4N/mm
2未満を「D」として、表1の「接着性」の欄に示した。また、例1~10について、シリコーン樹脂の配合量と接着性(接着強度)との関係を
図2に示した。
なおここで、評価用試験片の作製に用いたエポキシ接着剤の単体での引張せん断試験による接着強度は15N/mm
2以上であり、導電性膜よりも先にエポキシ接着剤部分が剥離または破断することはない。
【0058】
(耐熱性)
用意した各例の導電性ペーストを、先ずは180℃で15分間、次いで280℃で45分間乾燥させたのち、280℃で2時間保持した時の重量減少率を測定した。その結果、重量減少率が3%以下の場合を「OK」とし、3%超過の場合を「NG」として、表1の「耐熱性」の欄に示した。
【0059】
【0060】
[評価]
例1~11は、ポリイミド樹脂とブレンドするシリコーン樹脂の量を0~100質量%の範囲で変化させて導電性ペーストを調製した例である。例1~11の導電性ペーストにより得られる導電性膜は、例えば280℃まで加熱保持したときの重量減少率がいずれも3%未満と少なく、280℃に於ける耐熱性を備えていることが確認できた。
【0061】
なお、例11に示すように、ポリイミド樹脂をブレンドせずシリコーン樹脂のみを用いて導電性ペーストを調製した場合、形成される導電性膜の接着強度は概ね0N/mm2であり、このような導電性膜は基材に対する接着性を殆ど備えていない。したがって、このような導電性ペーストでセラミック電子部品の外部電極中の導電性膜(すなわち樹脂導電層による緩衝層)を形成したとしても、当該樹脂導電層と他の外部電極とが熱衝撃などによって容易に剥離し、断線に繋がり得る。
一方で、シリコーン樹脂をブレンドせずにポリイミド樹脂のみを用いて導電性ペーストを調製した例1では、形成される導電性膜はポリイミド樹脂が有する特性により2N/mm2程度の接着力を発現する。しながらこのような接着力は4N/mm2未満であり、外部電極の各層の接着を熱衝撃が加わる環境で維持し続けるには十分とは言えない。
【0062】
これに対し、例2~10に示すように、ポリイミド樹脂にシリコーン樹脂をブレンドすることで、そのブレンド割合に応じて形成される導電性膜の接着性が変化することがわかった。すなわち、
図2に示すように、ポリイミド樹脂にシリコーン樹脂をわずかでもブレンドすることで、ポリイミド樹脂自体が有する接着力が向上されることがわかった。
また、例2~6に示すように、シリコーン樹脂のブレンド量が増えるにつれて、接着力の向上効果が急激に高められることがわかった。これは、樹脂成分としてポリイミドの単体を含む導電性膜は比較的剛性が高く、例えば熱衝撃や外部応力等によって基材(例えば、外部電極の最下層である銅層等)が伸縮したり移動した場合にその変化に追随できないのに対し、シリコーン樹脂がポリイミド樹脂の分子間に好適に入り込むことで、ポリイミド樹脂に適度な柔軟性と基材への密着性と追随性とを付与するものと考えられる。
【0063】
しかしながら、例6~10に示すように、シリコーン樹脂によるこのようなポリイミド樹脂導電性膜の接着力の改善効果は、シリコーン樹脂の割合が過剰になると逆に低減する傾向にあることがわかった。すなわち、過剰なシリコーン樹脂の存在によって、ポリイミド樹脂が本来有する接着性が損なわれるものと考えられる。
以上の結果から、ポリイミド樹脂にブレンドするシリコーン樹脂の割合は、ポリイミド樹脂とシリコーン樹脂とを100質量部としたときに、凡そ2質量部を超過させるとよく、3質量部以上が適切であり、5質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましいことがわかった。また、ポリイミド樹脂にブレンドするシリコーン樹脂の割合は、凡そ50質量部以下とするのが適切であり、40質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましいことがわかった。
【0064】
例5、12~18は、表1に示すように、ポリイミド樹脂1と組み合わせて用いる樹脂成分を、シリコーン樹脂1~6、アクリル樹脂、NBR樹脂と様々に変化させた例である。例5、12~18の導電性ペーストから形成される導電性膜の耐熱性に関しては、全ての例において重量減少率が3%未満であり、十分な耐熱性を有することが確認された。
【0065】
そして、例5、12~16に示すように、ポリイミド樹脂1とシリコーン樹脂とを組み合わせた場合、シリコーン樹脂のタイプに依らずに、接着強度が4N/mm2以上の接着性に優れた導電性膜を形成できることがわかった。なかでも、ポリイミド樹脂に組み合わせるシリコーン樹脂として、付加硬化型のシリコーンレジンを用いた場合(例5,12~13)は接着強度が6N/mm2以上と、縮合型シリコーンレジン(例14,15)や、レジンではないシリコーンゴム(例16)を用いた場合の接着強度4N/mm2以上5N/mm2以下よりも、大幅に接着性に優れた導電性膜を形成できることがわかった。詳細は明らかではないが、付加硬化型のシリコーンレジンは、縮合型シリコーンレジンやシリコーンゴムよりも、ポリイミド樹脂のポリマー構造中に架橋しやすく、ポリイミド樹脂に柔軟性を付与しやすいためであると予想される。
【0066】
しかしながら、ポリイミド樹脂に組み合わせる樹脂成分として、アクリル樹脂やNBR樹脂を用いた例17および例18では、導電性膜の接着強度は4N/mm2に満たず、十分な接着性を有する導電性膜を形成することができないことがわかった。
以上のことから、導電性ペーストに耐熱性の高いポリイミド樹脂を用いる場合、シリコーン樹脂を組み合わせて用いることでポリイミド樹脂の剛性が緩和されて、柔らかく基材への密着性が高く接着性に優れた導電性膜を形成できることがわかった。これにより、耐熱性と接着性とが両立された導電性膜を形成できる導電性ペーストが実現される。なお、シリコーン樹脂によるポリイミド樹脂の剛性の緩和効果は、アクリル樹脂やNBR樹脂においては発揮されず、シリコーン樹脂に特有の効果であることがわかった。また、このような効果は、シリコーン樹脂のうちでも、レジン系のシリコーン樹脂や、さらには付加硬化型のシリコーン樹脂において顕著に発揮されることがわかった。
【0067】
例19は、例12の導電性ペーストにおけるポリイミド樹脂1を、ポリイミド樹脂2に変更した例である。例12と例19との比較から、ポリイミド樹脂の種類を変えた場合であっても、上記と同様の効果が得られることがわかった。
【0068】
以上、本発明を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、本発明はその主旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得るものである。
【符号の説明】
【0069】
1 セラミック電子部品
10 部品本体
20 内部電極
30 外部電極
32 第1の金属電極層
34 導電性膜
36 第2の金属電極層
38 第3の金属電極層