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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】逐次比較AD変換器
(51)【国際特許分類】
   H03M 1/38 20060101AFI20241004BHJP
   H03M 1/68 20060101ALI20241004BHJP
   H03M 1/74 20060101ALI20241004BHJP
   H03M 1/78 20060101ALI20241004BHJP
   H03M 1/46 20060101ALN20241004BHJP
【FI】
H03M1/38
H03M1/68
H03M1/74
H03M1/78
H03M1/46
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020020110
(22)【出願日】2020-02-07
(65)【公開番号】P2021125852
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2022-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】303046277
【氏名又は名称】旭化成エレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【弁理士】
【氏名又は名称】神 紘一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100161148
【弁理士】
【氏名又は名称】福尾 誠
(72)【発明者】
【氏名】金野 翔太
【審査官】及川 尚人
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-152715(JP,A)
【文献】特開平05-252043(JP,A)
【文献】特開平08-330966(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0303933(US,A1)
【文献】特開2010-063055(JP,A)
【文献】特開2018-007128(JP,A)
【文献】特開2017-158074(JP,A)
【文献】特開2018-107771(JP,A)
【文献】特開2002-100991(JP,A)
【文献】米国特許第10128867(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03M 1/00-1/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力アナログ信号と参照信号の大小比較の判定結果を示す判定信号を出力する比較器と、
前記判定信号に基づいて、第1ビット信号及び第2ビット信号で構成されるレジスタ信号を逐次出力するとともに、前記入力アナログ信号のAD変換値を出力する逐次比較レジスタと、
AD変換の1サイクル中に、異なる複数のサーモメータコード変換規則を切替えて前記第1ビット信号を前記異なる複数のサーモメータコード変換規則に対応したサーモメータコードに変換するサーモメータデコーダと、
前記サーモメータコードを第1アナログ信号に変換する第1DA変換器と、
前記第2ビット信号を第2アナログ信号に変換する第2DA変換器と、
前記第1アナログ信号及び前記第2アナログ信号に基づいて前記参照信号を生成する参照信号生成器と、
前記異なるサーモメータコードに応じた前記AD変換値の平均値を算出する平均値算出器と、
を備え、
前記逐次比較レジスタは、前記サーモメータデコーダが前記AD変換の1サイクル中に前記サーモメータコード変換規則を切替えた後は、前記第1ビット信号を、前記サーモメータデコーダが前記サーモメータコード変換規則を切替える直前の前記第1ビット信号に固定し、
前記異なるサーモメータコードは、中間コードのビット値が同一であり、2つのサーモメータコードは、該中間コードを中心として、上位コードのビット値と下位コードのビット値とを互いに入れ替えた値である逐次比較AD変換器。
【請求項2】
前記サーモメータデコーダは、
前記第1ビット信号を、前記サーモメータコードの中間コードを中心に“0”と“1”の配置が互いに点対称な関係となる第1サーモメータコード及び第2サーモメータコードに変換する、請求項に記載の逐次比較AD変換器。
【請求項3】
前記サーモメータデコーダは、
前記第1ビット信号をさらに、第3サーモメータコード及び第4サーモメータコードに変換し、
前記第3サーモメータコードは、該第3サーモメータコードの上位コードのビット値が前記第1サーモメータコードの上位コード中の中間コードを中心に“0”と“1”の配置が互いに点対称な関係となり、該第3サーモメータコードの下位コードのビット値が前記第1サーモメータコードの下位コード中の中間コードを中心に“0”と“1”の配置が互いに点対称な関係となり、
前記第4サーモメータコードは、該第4サーモメータコードの上位コードのビット値が前記第2サーモメータコードの上位コード中の中間コードを中心に“0”と“1”の配置が互いに点対称な関係となり、該第4サーモメータコードの下位コードのビット値が前記第2サーモメータコードの下位コード中の中間コードを中心に“0”と“1”の配置が互いに点対称な関係となる、請求項に記載の逐次比較AD変換器。
【請求項4】
第3ビット信号を第3アナログ信号に変換に変換する第3DA変換器を更に備え、
前記逐次比較レジスタは、
前記判定信号に基づいて、前記第1ビット信号、前記第2ビット信号、及び前記第3ビット信号で構成されるレジスタ信号を逐次出力し、
前記参照信号生成器は、前記第1アナログ信号、前記第2アナログ信号、及び前記第3アナログ信号に基づいて前記参照信号を生成する、請求項1からのいずれか一項に記載の逐次比較AD変換器。
【請求項5】
前記逐次比較レジスタは、
前記サーモメータデコーダが前記サーモメータコード変換規則を切替える前は、前記第3ビット信号を0に固定し、
前記サーモメータデコーダが前記サーモメータコード変換規則を切替えた後は、前記第1ビット信号及び前記第2ビット信号を、前記サーモメータデコーダが前記サーモメータコード変換規則を切替える直前の前記第1ビット信号及び前記第2ビット信号に固定し、前記判定信号に基づいて前記第3ビット信号を逐次出力する、請求項に記載の逐次比較AD変換器。
【請求項6】
前記第1ビット信号は、前記レジスタ信号の上位ビットにおける信号であり、
前記第2ビット信号は、前記レジスタ信号の下位ビットにおける信号であり、
前記第3ビット信号は、前記レジスタ信号の下位ビットに追加した追加下位ビットにおける信号であり、
前記逐次比較レジスタは、
前記サーモメータデコーダが前記サーモメータコード変換規則を切替える前は、前記第1ビット信号と前記第2ビット信号のみを逐次出力し、
前記サーモメータデコーダが前記サーモメータコード変換規則を切替えた後は、前記第3ビット信号のみを逐次出力する、請求項に記載の逐次比較AD変換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逐次比較AD変換器に関する。
【背景技術】
【0002】
入力されるアナログ信号をデジタル信号に変換するAD変換器として、逐次比較AD変換器が知られている。逐次比較AD変換器は、DA変換器、比較器、逐次比較論理回路などを備えている。そして、このDA変換器の入力として、バイナリコードをサーモメータコードに変換することが行われている。
【0003】
一般的に、バイナリコードを用いたDA変換器(バイナリDA変換器)と、サーモメータコードを用いたDA変換器(サーモメータDA変換器)とを比較すると、微分非直線性誤差はサーモメータDA変換器の方が大きく改善する。この理由を、例として、図16及び図17に示すDA変換器を用いて説明する。図16は、上位3ビットをサーモメータDA変換素子、下位5ビットをバイナリDA変換素子で構成したDA変換器100を示している。図17は、全8ビットをバイナリDA変換素子で構成したDA変換器200を示している。
【0004】
AD変換の遷移がバイナリビットで“01111111”から“10000000”に変化したとすると、図17に示すDA変換器200では、キャパシタC4が基準電圧のマイナス側(VREFN)からプラス側(VREFP)に接続され、キャパシタC5,C6,C8~C12がVREFPからVREFNに接続されるという変化が起こる。それはすなわち、上位3ビット“011”、下位5ビット“11111”で表現されていたDA変換器出力値と、上位3ビット“100”、下位5ビット“00000”で表現されるDA変換器出力値との差分が、1コードに相当する理想的なアナログ値からのエラーとなって発生することを意味する。この差分が微分非直線性誤差と等価である。そのため、遷移変化に与する全てのDA変換素子のばらつきの総和が微分非直線性誤差を構成する。
【0005】
一方、図16に示すDA変換器100では、下位5ビットの変化はさきほどと同様に“11111”から“00000”に変化するが、上位3ビットのDA変換素子の変化は異なる。上位3ビットがバイナリで“011”から“100”に変化することをDA変換器100の制御コードで表現すると“0000111”から“0001111”への変化となる。そのため、キャパシタC3がVREFNからVREFPに変化するのみである。
【0006】
すなわち、上位ビットのDA変換素子だけを比較すると、DA変換器200では重み4のキャパシタC4、重み2のキャパシタC5、及び重み1のキャパシタC6(計キャパシタ6個分)が変化するが、DA変換器100では重み1のキャパシタC3(計キャパシタ1個分)が変化するのみである。DA変換素子のばらつき量はキャパシタ数が増加するほど大きくなることが見込まれるため、微分非直線性誤差は、キャパシタの変化量が少ないDA変換器100では顕著に改善する。
【0007】
しかし、素子ばらつきの誤差を蓄積したものである積分非線形性誤差は、素子ばらつきが同一であれば、両者に差異は無い。これは単純にキャパシタ数に依存する量と解釈できる。上位“100”で表現されているDA変換器200であれば、キャパシタC4の素子ばらつき量(計キャパシタ4個分)に基づいて積分非線形性誤差が決定される。DA変換器100であれば、C0~C3の素子ばらつき量(計キャパシタ4個分)に基づいて積分非線形性誤差が決定される。製造ばらつきによって、それぞれの素子のばらつき量は変化するが、総数が同じ素子値であれば、ばらつき量も同一であるため、積分非線形性誤差のばらつきも同等となる。
【0008】
この積分非線形性誤差を改善する手法として、例えば特許文献1には、積分非直線性誤差を実測し、その劣化を補正するコード値を生成し、その値を不揮発性メモリに格納することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】米国特許第8164495号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来技術のように素子ミスマッチ自体を測定することでキャリブレーションを実施するためには、測定シーケンスを行う制御回路や、補正コードを算出する回路や、保持するメモリなどが必要となり、回路面積及びコストが増加してしまう。
【0011】
かかる事情に鑑みてなされた本発明は、DA変換器の素子ミスマッチに対するキャリブレーションを実施することなく積分非直線性誤差を改善することが可能な逐次比較AD変換器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明に係る逐次比較AD変換器は、入力アナログ信号と参照信号の大小比較の判定結果を示す判定信号を出力する比較器と、前記判定信号に基づいて、第1ビット信号及び第2ビット信号で構成されるレジスタ信号を逐次出力するとともに、前記入力アナログ信号のAD変換値を出力する逐次比較レジスタと、AD変換の1サイクル中に、異なる複数のサーモメータコード変換規則を切替えて前記第1ビット信号を前記異なる複数のサーモメータコード変換規則に対応したサーモメータコードに変換するサーモメータデコーダと、前記サーモメータコードを第1アナログ信号に変換する第1DA変換器と、前記第2ビット信号を第2アナログ信号に変換する第2DA変換器と、前記第1アナログ信号及び前記第2アナログ信号に基づいて前記参照信号を生成する参照信号生成器と、前記異なるサーモメータコードに応じた前記AD変換値の平均値を算出する平均値算出器と、を備え、前記逐次比較レジスタは、前記サーモメータデコーダが前記AD変換の1サイクル中に前記サーモメータコード変換規則を切替えた後は、前記第1ビット信号を、前記サーモメータデコーダが前記サーモメータコード変換規則を切替える直前の前記第1ビット信号に固定し、前記異なるサーモメータコードは、中間コードのビット値が同一であり、2つのサーモメータコードは、該中間コードを中心として、上位コードのビット値と下位コードのビット値とを互いに入れ替えた値である。

【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、DA変換器の素子ミスマッチをキャリブレーション不要で、積分非直線性誤差を改善することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1の実施形態に係る逐次比較AD変換器の構成例を示すブロック図である。
図2】第1の実施形態に係る逐次比較AD変換器におけるサーモメータコード変換規則を示す図である。
図3】第1の実施形態に係る逐次比較AD変換器の動作シーケンスを示す図である。
図4】第1の実施形態に係る逐次比較AD変換器における微分非直線性誤差及び積分非直線性誤差の一例を示す図である。
図5】第1の実施形態に係る逐次比較AD変換器の効果を示す図である。
図6】DA変換素子として抵抗を用いたDA変換器の一例を示す図である。
図7】第1の実施形態に係る逐次比較AD変換器において、サーモメータデコーダがサーモメータコード変換規則を切替えたことで生じる変換誤差の一例を示す図である。
図8図3で示した動作シーケンスにおいて、第1サーモメータコード変換規則によるAD変換結果を利用して第2サーモメータコード変換規則によるAD変換を行う例を示す図である。
図9】下位側に3ビットのDA変換素子が追加されたDA変換器の一例を示す図である。
図10】第2の実施形態に係る逐次比較AD変換器の構成例を示すブロック図である。
図11】第2の実施形態に係る逐次比較AD変換器の動作シーケンスを示す図である。
図12】第3の実施形態に係る逐次比較AD変換器の構成例を示すブロック図である。
図13】第3の実施形態に係る逐次比較AD変換器におけるサーモメータコード変換規則を示す図である。
図14】第3の実施形態に係る逐次比較AD変換器における積分非直線性誤差の一例を示す図である。
図15】第3の実施形態に係る逐次比較AD変換器の効果を示す図である。
図16】上位3ビットをサーモメータDA変換素子、下位5ビットをバイナリDA変換素子で構成したDA変換器の一例を示す図である。
図17】全8ビットをバイナリDA変換素子で構成したDA変換器の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、明細書及び図面において、「AD変換」及び「DA変換」をそれぞれ「ADC」及び「DAC」と表記することがある。
【0016】
(第1の実施形態)
第1の実施形態に係る逐次比較AD変換器について、以下に説明する。図1は、第1の実施形態に係る逐次比較AD変換器の構成例を示すブロック図である。図1に示す逐次比較AD変換器1は、入力サンプル/ホールド回路11と、比較器12と、制御回路13と、上位サーモメータDAC(第1DA変換器)14と、下位DAC(第2DA変換器)15と、参照信号生成器16と、を備える。
【0017】
入力サンプル/ホールド回路11は、入力アナログ信号をサンプリングして、保持する。
【0018】
比較器12は、入力サンプル/ホールド回路11に保持されている入力アナログ信号と、参照信号との大小を比較判定し、判定結果を示す判定信号を制御回路13に出力する。参照信号は、後述する参照信号生成器16によって生成される信号である。
【0019】
制御回路13は、変換タイミング生成回路131と、逐次比較レジスタ(SAR:Successive Approximation Register)132と、サーモメータデコーダ133と、平均値算出器134と、を備える。
【0020】
変換タイミング生成回路131は、逐次比較レジスタ132に対し、入力アナログ信号をデジタル信号に変換するタイミングを示すタイミング信号(変換トリガ信号)を出力する。また、変換タイミング生成回路131は、サーモメータデコーダ133に対し、デコード方法を切り替えるタイミングを示すデコード切替信号を出力する。デコード方法の詳細については、後述する。
【0021】
逐次比較レジスタ132は、比較器12から入力された判定信号に基づいて、レジスタ値の上位ビットである上位DACコード(第1ビット信号)、及びレジスタ値の下位ビットである下位DACコード(第2ビット信号)で構成されるレジスタ信号を逐次出力する。つまり、逐次比較レジスタ132は、変換タイミング生成回路131からタイミング信号が入力されると、比較器12から判定信号が入力されるたびにレジスタ信号をMSBから順番に逐次更新する。そして、逐次比較レジスタ132は、上位DACコードをサーモメータデコーダ133に出力し、下位DACコードを下位DAC15に出力する。逐次比較レジスタ132は、判定信号に基づきAD変換が完了すると、入力アナログ信号のAD変換値を平均値算出器134に出力する。逐次比較レジスタ132は、変換タイミング生成回路131から次のタイミング信号が入力されると、上記動作を繰り返す。
【0022】
サーモメータデコーダ133は、逐次比較レジスタ132から入力されたバイナリコードである上位DACコードを、バイナリコードをサーモメータコードに変換するサーモメータコード変換規則に従って、上位DACサーモメータコードに変換し、生成した上位DACサーモメータコードを上位サーモメータDAC14に出力する。サーモメータデコーダ133は、AD変換の1サイクル中(すなわち、タイミング信号の1サイクル中)に、サーモメータコード変換規則を切替える(すなわち、デコード方法を切替える)。そして、サーモメータデコーダ133は、上位DACコードを異なる複数のサーモメータコード変換規則に対応した上位DACサーモメータコードに変換する。
【0023】
サーモメータデコーダ133は、AD変換の1サイクル中に、n個のサーモメータコード変換規則を用いて、上位DACコードをn個の上位DACサーモメータコードに変換するため、逐次比較レジスタ132は、AD変換の1サイクル中に、n個のAD変換値を生成し、平均値算出器134に出力することになる。nの値に制限はないが、本実施形態では、n=2とする。
【0024】
平均値算出器134は、AD変換の1サイクル中の異なる上位DACサーモメータコードに応じたAD変換値(第1AD変換値及び第2AD変換値)の平均値を、例えば加算回路とビットシフト回路を用いて算出し、平均値を最終的なAD変換結果を示す出力デジタル信号として外部に出力する。
【0025】
上位サーモメータDAC14は、上位サーモメータDAC14及び下位DAC15で構成されるDA変換器の上位ビットに該当し、サーモメータデコーダ133から入力された上位DACサーモメータコードを第1アナログ信号に変換し、参照信号生成器16に出力する。
【0026】
下位DAC15は、上位サーモメータDAC14及び下位DAC15で構成されるDA変換器の下位ビットに該当し、逐次比較レジスタ132から入力された下位DACコードを第2アナログ信号に変換し、参照信号生成器16に出力する。
【0027】
参照信号生成器16は、上位サーモメータDAC14によって変換された第1アナログ信号、及び下位DAC15によって変換された第2アナログ信号を加算して参照信号を生成し、比較器12に出力する。
【0028】
上位サーモメータDAC14は、バイナリコードと対応するように一つずつキャパシタがオンする。例えば、上位サーモメータDAC14が、図16に示した3ビットの上位サーモメータDACである場合には、バイナリコードが“000”のとき、7個のキャパシタはすべてL(負の基準電圧VREFN)に接続される。
【0029】
次に、サーモメータデコーダ133がデコードする際に用いる複数のサーモメータコード変換規則について説明する。複数のサーモメータコード変換規則により生成される複数の上位DACサーモメータコードは、中間ビット値が同一であり、そのうちの2つの上位DACサーモメータコードは、該中間ビットを中心として、該中間ビットよりも上位の上位ビットと該中間ビットよりも下位の下位ビットの値を互いに入れ替えた値となる。例えば、第1サーモメータコード変換規則により変換される第1上位DACサーモメータコードが“c6 c5 c4 c3 c2 c1 c0”(各値は“0”又は“1”)であった場合、第2サーモメータコード変換規則により変換される第2上位DACサーモメータコードは、中間ビットの値が第1上位DACサーモメータコードの中間ビットであるc3と同一となる。そして、第2上位DACサーモメータコードの上位ビットの値は、第1上位DACサーモメータコードの下位ビットの値となり、第2上位DACサーモメータコードの下位ビットの値は、第1上位DACサーモメータコードの上位ビットの値となる。したがって、第2上位DACサーモメータコードは、“c0 c1 c2 c3 c4 c5 c6”、“c2 c1 c0 c3 c6 c5 c4”などとなる。
【0030】
図2は、サーモメータコード変換規則の一例を示す図である。図2(a)に示す第1サーモメータコード変換規則を用いた第1のデコード方法では、バイナリコードが“001”のとき、キャパシタC0がH(正の基準電圧VREFP)に接続され、バイナリコードの増加に応じてキャパシタC1,C2と順次Hに接続され、キャパシタC6がHになると7個のキャパシタすべてがHに接続される。すなわち、サーモメータデコーダ133は、図2(a)に示す第1サーモメータコード変換規則を用いた場合、入力された上位DACコードが“001”のとき、“0000001”の上位DACサーモメータコードに変換する。
【0031】
図2(b)に示す第2サーモメータコード変換規則を用いた第2のデコード方法では、図2(a)とは逆順でキャパシタを順次オンしていく。すなわち、バイナリコードが“001”のとき、キャパシタC6がH(正の基準電圧VREFP)に接続され、バイナリコードの増加に応じてキャパシタC5,C4と順次Hに接続され、キャパシタC0がHに接続されると7個のキャパシタすべてがオンする。すなわち、サーモメータデコーダ133は、図2(b)に示す第2サーモメータコード変換規則を用いた場合、入力された上位DACコードが“001”のとき、“1000000”の上位DACサーモメータコードに変換する。
【0032】
この2つのデコード方法は、バイナリ値の遷移に対応するキャパシタが、C0に対しC6、C1に対しC5、C2に対しC4へと変化させることに相当し、C3はどちらのデコード方法においても同じバイナリ値の遷移に対応する。すなわち、サーモメータデコーダ133は、図2に示す第1サーモメータコード変換規則及び第2サーモメータコード変換規則を用いて上位DACコードを変換することにより、AD変換の1サイクル中に、サーモメータコードの中間ビット(C3に対応)を中心に“0”と“1”の配置が互いに点対称な関係となる第1上位DACサーモメータコード及び第2上位DACサーモメータコードに変換する。
【0033】
(動作シーケンス)
以下に、図3及び図4を参照して、逐次比較AD変換器1の動作シーケンスを説明する。図4は、サーモメータデコーダ133が図2に示すサーモメータコード変換規則に従ってデコードした場合の微分非直線性誤差(DNL)及び積分非直線性誤差(INL)の一例を示す図である。図3は、逐次比較AD変換器1の動作シーケンスを示す図であり、図4に示すDA変換素子ばらつきがある場合に、入力アナログ信号が入力された場合の変換シーケンスとその時の具体的なビット値を示している。本実施形態では、逐次比較AD変換器1は入力アナログ信号を8ビットの出力デジタル信号に変換するものとし、サーモメータデコーダ133は上位3ビットをデコードし、重みの大きい上位3ビットのみ積分非直線性誤差が生じるものとする。
【0034】
初めに、入力サンプル/ホールド回路11により、入力アナログ信号をサンプリングする。サンプリングされた入力アナログ値は、デコード切替信号の一周期にわたって保持される。図3に示す例では、入力アナログ値を“112”とする。
【0035】
逐次比較レジスタ132は、サンプリングされた入力アナログ値を、デコード切替信号がLの期間中に第1のデコード方法に従って逐次比較変換し、第1AD変換値を得る。
【0036】
具体的には、逐次比較レジスタ132は最初にレジスタ出力値を“128”とする。サーモメータデコーダ133は、上位3ビット“100”を第1サーモメータコード変換規則に従ってデコードし、キャパシタC0~C3をHに接続する。この時、図4を参照すると積分非直線性誤差が+3であるため、上位サーモメータDAC14及び下位DAC15が出力するDAC出力値は“131”となる。比較器12は入力アナログ値“112”と参照信号であるDAC出力値とを比較し、1回目判定では参照信号のほうが大きいことを示す判定信号を逐次比較レジスタ132に出力する。逐次比較レジスタ132は、判定信号に基づき最上位ビット(MSB)を“0”に決定する。
【0037】
次に、逐次比較レジスタ132はレジスタ出力値を“64”とする。サーモメータデコーダ133は、上位3ビット“010”を第1サーモメータコード変換規則に従ってデコードし、キャパシタC0,C1をHに接続する。この時、図4を参照すると積分非直線性誤差が+5であるため、上位サーモメータDAC14及び下位DAC15が出力するDAC出力値は“69”となる。比較器12は入力アナログ値“112”と参照信号であるDAC出力値とを比較し、2回目判定では参照信号のほうが小さいことを示す判定信号を逐次比較レジスタ132に出力する。逐次比較レジスタ132は、判定信号に基づき6ビット目を“1”に決定する。
【0038】
同様にして判定を続け、最終判定では、逐次比較レジスタ132はレジスタ出力値を“109”とする。サーモメータデコーダ133は、上位3ビット“011”を第1サーモメータコード変換規則に従ってデコードし、キャパシタC0~C2をHに接続する。この時、図4を参照すると積分非直線性誤差が+3であるため、上位サーモメータDAC14及び下位DAC15が出力するDAC出力値は“112”となり、入力アナログ値と一致する。よって、逐次比較レジスタ132は最下位ビット(LSB)を“1”に決定し、第1AD変換値として“109”を平均値算出器134に出力する。
【0039】
次に、逐次比較レジスタ132は、サンプリングされた入力アナログ信号を、デコード切替信号がHの期間中に第2のデコード方法に従って逐次比較変換し、第2AD変換値を得る。
【0040】
具体的には、逐次比較レジスタ132は最初にレジスタ出力値を“128”とする。サーモメータデコーダ133は、上位3ビット“100”を第2サーモメータコード変換規則に従ってデコードし、キャパシタC3~C6をHに接続する。この時、図4を参照すると積分非直線性誤差が-3であるため、上位サーモメータDAC14及び下位DAC15が出力するDAC出力値は“125”となる。比較器12は入力アナログ値“112”と参照信号であるDAC出力値とを比較し、1回目判定では参照信号のほうが大きいことを示す判定信号を逐次比較レジスタ132に出力する。逐次比較レジスタ132は、判定信号に基づき最上位ビット(MSB)を“0”に決定する。
【0041】
次に、逐次比較レジスタ132はレジスタ出力値を“64”とする。サーモメータデコーダ133は、上位3ビット“010”を第2サーモメータコード変換規則に従ってデコードし、キャパシタC5,C6をHに接続する。この時、図4を参照すると積分非直線性誤差が-1であるため、上位サーモメータDAC14及び下位DAC15が出力するDAC出力値は“63”となる。比較器12は入力アナログ値112と参照信号であるDAC出力値とを比較し、2回目判定では参照信号のほうが小さいことを示す判定信号を逐次比較レジスタ132に出力する。逐次比較レジスタ132は、判定信号に基づき6ビット目を“1”に決定する。
【0042】
同様にして判定を続け、最終判定では、逐次比較レジスタ132はレジスタ出力値を“115”とする。サーモメータデコーダ133は、上位3ビット“011”を第2サーモメータコード変換規則に従ってデコードし、キャパシタC4~C6をHに接続する。この時、図4を参照すると積分非直線性誤差が-3であるため、上位サーモメータDAC14及び下位DAC15が出力するDAC出力値は“112”となり、入力アナログ値と一致する。よって、逐次比較レジスタ132は最下位ビット(LSB)を“1”に決定し、第2AD変換値として“115”を平均値算出器134に出力する。
【0043】
次に、平均値算出器134により、第1AD変換値と第2AD変換値の平均値を求めて最終的なAD変換値とし、出力デジタル信号として外部に出力する。この例では、平均値算出器134は、“109”と“115”の平均値“112”を求める。この動作によって、デコード方法の違いに応じた積分非直線性誤差をもつ異なるAD変換曲線を、平均化することができる。
【0044】
図5は、逐次比較AD変換器1の効果を示す図であり、図4に示すDA変換素子ばらつきがある場合に、上記処理によって積分非直線性誤差が減少することを示している。キャパシタC0~C6がある素子ばらつきを持っているときの積分非直線性誤差は、デコード方法に応じて変化する。図4で説明した第1のデコード方法と第2のデコード方法では、その積分非直線性誤差を示す波形(INL波形)は、中心に対して点対称の関係になる。したがって、第1のデコード方法におけるINL波形と第2のデコード方法におけるINL波形とを平均すると、波形ひずみのうち偶関数の成分が消えることとなり、INL波形が改善する。INL波形のばらつきはランダムであるため、その波形に含まれる偶関数の成分と奇関数の成分は確率的に同等であることが期待される。よって、素子ばらつきによるINL波形ひずみの確率分布の平均と分散を改善させる効果を有する。図4の例の素子ばらつきにおいては、積分非直線性誤差がほぼ半減していることが分かる。
【0045】
なお、DA変換素子はキャパシタに限定されるものではなく、抵抗を用いてもよい。図6は、DA変換素子として抵抗を用いたDA変換器の一例を示す図である。このDA変換器110は、図Xに示したDA変換器100に対応するものであり、上位3bitをサーモメータDACとし、下位5bitをバイナリDACとしている。
【0046】
以上説明したように、第1の実施形態に係る逐次比較AD変換器1は、入力アナログ信号と参照信号の大小比較の判定結果を示す判定信号を出力する比較器12と、上位DACコード(第1ビット信号)及び下位DACコード(第2ビット信号)で構成されるレジスタ信号を出力するとともに、入力アナログ信号のAD変換値を出力する逐次比較レジスタ132と、AD変換の1サイクル中に、デコード方法を切替えて上位DACコードを異なるサーモメータコード(上位DACサーモメータコード)に変換するサーモメータデコーダ133と、上位DACサーモメータコードを第1アナログ信号に変換する第1DA変換器(上位サーモメータDAC)14と、下位DACコードを第2アナログ信号に変換する第2DA変換器(下位DAC)15と、第1アナログ信号及び第2アナログ信号とに基づいて参照信号を生成する参照信号生成器16と、逐次比較レジスタ132から出力される、複数の上位DACサーモメータコードに応じたレジスタ信号の平均値を算出する平均値算出器134と、を備える。そのため、逐次比較AD変換器1によれば、積分非直線性誤差を改善することが可能となる。
【0047】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係る逐次比較AD変換器について説明する。上述したように、デコード方法を切替えることでINL波形が変化するが、その差分は最大でも、それぞれの波形のピーク-ピーク値である。すなわち、第1のデコード方法で変換し終えた逐次比較AD変換結果に対し、最大のINL誤差の高々2倍のエラー量しか存在しないことを意味する。図16に示すDA変換器を有する8ビットのAD変換器では、その変換レンジは±128コードである。
【0048】
図7は、サーモメータデコーダ133がサーモメータコード変換規則を切り替えたことで生じる変換誤差の一例を示す図である。ここでは、図4と同じ積分非直線性誤差を示しており、上位DACコードが“011”である場合、第1サーモメータコード変換規則から第2サーモメータコード変換規則に切り替えた後で、変換誤差が-6コード生じることを示している。すなわち、第1のデコード方法で変換し終えた第1AD変換値から6コード加算した結果が、第2のデコード方法で変換し終えた第2AD変換値となる。そのため、図3では、第1AD変換値が“109”であるのに対して、第2AD変換値は“115”となっている。このことから、サーモメータコード変換規則の切替え後のAD変換は、サーモメータコード変換規則の切替え前のAD変換結果を利用することができ、変化する可能性のある下位数ビットを補正すればよい。
【0049】
したがって、逐次比較レジスタ132は、サーモメータデコーダ133がサーモメータコード変換規則を切替えた後は、上位DACコードを、サーモメータデコーダ133がサーモメータコード変換規則を切替える直前の上位DACコードに固定する。
【0050】
図8は、図3で示した動作シーケンスにおいて、デコード切替信号がHの期間中の第2のデコード方法による逐次比較変換に、第1のデコード方法によるAD変換結果を利用した例を示す図である。図8には、デコード切替信号がHになった後、空白の期間が示されているが、これは図3と対比し易くするために便宜上設けたものであり、実際には存在しない。
【0051】
逐次比較レジスタ132は、デコード切替信号がHになると、第1のデコード方法によるAD変換結果を利用して上位DACコード(本実施形態では上位3ビット)を“011”に固定する。すなわち、デコード方法切替え後のAD変換においては、上位3ビットの判定を省略することができ、判定時間を短縮することが可能となる。他の処理は第1の実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0052】
また、図9のように下位側だけにDA変換素子を追加することで、さらに変換時間を大幅に削減できる。この例では、DA変換器は、下位側にさらに3ビットのDA変換素子を有する。以下、第2の実施形態では追加のDA変換素子を有するものとして説明する。
【0053】
図10は、第2の実施形態に係る逐次比較AD変換器の構成例を示すブロック図である。本実施形態の逐次比較AD変換器2は、第1の実施形態に係る逐次比較AD変換器1と比較して、追加下位DAC(第3DA変換器)17を更に備え、制御回路13に代えて制御回路13aを備える点が相違する。以下、第1の実施形態に係る逐次比較AD変換器1と異なる点についてのみ説明する。
【0054】
追加下位DAC17は、第1AD変換値を第2のデコード方法を用いて比較器12で比較したときに生じる残差に対して、逐次比較処理を行うために使用される。
【0055】
制御回路13aは、変換タイミング生成回路131と、逐次比較レジスタ132aと、サーモメータデコーダ133と、平均値算出器134と、加算器135と、を備える。
【0056】
逐次比較レジスタ132aは、比較器12から入力された判定信号に基づいて、レジスタ値の上位ビットである上位DACコード(第1ビット信号)、レジスタ値の下位ビットである下位DACコード(第2ビット信号)、及びレジスタ値の追加下位ビットである追加下位DACコード(第3ビット信号)で構成されるレジスタ信号を逐次出力する。
【0057】
具体的には、逐次比較レジスタ132aは、サーモメータデコーダ133が第1サーモメータコード変換規則に従って上位DACコードを第1上位DACサーモメータコードに変換する場合には、第1の実施形態と同様に、判定結果に基づく上位DACコード及び下位DACコードを出力する。追加下位DACコードは使用しないため、“0”に固定される。
【0058】
また、逐次比較レジスタ132aは、サーモメータデコーダ133が第2サーモメータコード変換規則に従って上位DACコードを第2上位DACサーモメータコードに変換する場合には、上位DACコード及び下位DACコードの値として、第1サーモメータコード変換規則を用いて逐次比較処理を行って得られた第1AD変換値をそのまま利用する。そのため、逐次比較レジスタ132aは、サーモメータデコーダ133がサーモメータコード変換規則を切替えた後は、上位DACコード及び下位DACコードを、サーモメータデコーダ133がサーモメータコード変換規則を切替える直前の上位DACコード及び下位DACコードに固定する。追加下位DACコードは、判定信号に基づく値とする。
【0059】
以下に、図11及び図4を参照して、逐次比較AD変換器1の動作シーケンスを説明する。図11は、第2の実施形態に係る逐次比較AD変換器の動作シーケンスを示す図である。図11は、図3で示した動作シーケンスにおいて、デコード切替信号がHの期間中の第2のデコード方法に従う逐次比較変換に、第1のデコード方法によるAD変換結果を利用した例を示している。図11には、デコード切替信号がHになった後、空白の期間が示されているが、これは図3と対比し易くするために便宜上設けたものであり、実際には存在しない。
【0060】
追加下位DACコードの最上位ビットの極性は、他のビットと反転させてもよい。本実施形態では、デコード切替信号がHの場合に、追加下位DACコードの2ビット目の重みを-8とし、1ビット目の重みを4とし、0ビット目の重みを2とする。この場合には、上位DACコード及び下位DACコードで表される値に対して、追加下位DACコードにより-8~+6を加えることができる。
【0061】
逐次比較レジスタ132aは、デコード切替信号がHになると、第1のデコード方法によるAD変換結果を利用して上位DACコード(本実施形態では上位3ビット)を“011”に固定し、下位DACコード(本実施形態では上位5ビット)を“01101”に固定する。また、追加下位DACコードの初期値を“000”とする。すなわち、逐次比較レジスタ132aは最初にレジスタ出力値を“109”とする。サーモメータデコーダ133は、上位3ビット“011”を第2サーモメータコード変換規則に従ってデコードし、キャパシタC4~C6をHに接続する。この時、図4を参照すると積分非直線性誤差が-3であるため、上位サーモメータDAC14、下位DAC15、及び追加下位DAC17が出力するDAC出力値は“106”となる。比較器12は入力アナログ値“112”と参照信号であるDAC出力値とを比較し、1回目判定では参照信号のほうが小さいことを示す判定信号を逐次比較レジスタ132aに出力する。逐次比較レジスタ132aは、判定信号に基づき追加下位DACコードの2ビット目を“0”に決定する。
【0062】
次に、逐次比較レジスタ132aはレジスタ出力値を“113”とする。サーモメータデコーダ133は、上位3ビット“011”を第2サーモメータコード変換規則に従ってデコードし、キャパシタC4~C6をHに接続する。この時、図4を参照すると積分非直線性誤差が-3であるため、上位サーモメータDAC14、下位DAC15、及び追加下位DAC17が出力するDAC出力値は“110”となる。比較器12は入力アナログ値112と参照信号であるDAC出力値とを比較し、2回目判定では参照信号のほうが小さいことを示す判定信号を逐次比較レジスタ132aに出力する。逐次比較レジスタ132aは、判定信号に基づき追加下位DACコードの1ビット目を“1”に決定する。
【0063】
最終判定では、逐次比較レジスタ132aはレジスタ出力値を“115”とする。サーモメータデコーダ133は、上位3ビット“011”を第2サーモメータコード変換規則に従ってデコードし、キャパシタC4~C6をHに接続する。この時、図4を参照すると積分非直線性誤差が-3であるため、上位サーモメータDAC14、下位DAC15、及び追加下位DAC17が出力するDAC出力値は“112”となり、入力アナログ値と一致する。よって、逐次比較レジスタ132aは、追加下位DACコードの0ビット目を“1”に決定する。
【0064】
以上説明したように、第2の実施形態に係る逐次比較AD変換器2は、デコード方法切替後のAD変換においては、第1AD変換値を利用する。そのため、最終的なAD変換値を決定するまでにかかる時間を大幅に短縮することが可能となる。
【0065】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態に係る逐次比較AD変換器について説明する。第1の実施形態及び第2の実施形態において、サーモメータデコーダ133がAD変換の1サイクル中に2種類のサーモメータコード変換規則を用いて、上位DACコードを異なる上位DACサーモメータコードに変換する例を説明した。本実施形態では、サーモメータデコーダ133がAD変換の1サイクル中に4種類のサーモメータコード変換規則を用いて、上位DACコードを異なる上位DACサーモメータコードに変換する例を説明する。
【0066】
図12は、第3の実施形態に係る逐次比較AD変換器3の構成例を示すブロック図である。本実施形態の逐次比較AD変換器3は、第1の実施形態に係る逐次比較AD変換器1と比較して、制御回路13に代えて制御回路13bを備える点が相違する。以下、第1の実施形態に係る逐次比較AD変換器1と異なる点についてのみ説明する。
【0067】
制御回路13bは、変換タイミング生成回路131と、逐次比較レジスタ132bと、サーモメータデコーダ133と、平均値算出器134と、加算器135と、を備える。
【0068】
変換タイミング生成回路131は、サーモメータデコーダ133に対し、デコード方法を切替えるタイミングを示すデコード切替信号を出力する。第1の実施形態ではAD変換の1サイクル中にデコード方法を切替えるタイミングは1回であるが、本実施形態では4種類のサーモメータコード変換規則を用いるため、AD変換の1サイクル中にデコード方法を切替えるタイミングは3回となる。
【0069】
逐次比較レジスタ132bは、比較器12から入力された判定信号に基づいて、レジスタ値の上位ビットである上位DACコード(第1ビット信号)、及びレジスタ値の下位ビットである下位DACコード(第2ビット信号)で構成されるレジスタ信号を逐次出力する。逐次比較レジスタ132bは、判定信号に基づきAD変換が完了すると、入力アナログ信号のAD変換値を平均値算出器134に出力する。本実施形態では4種類のサーモメータコード変換規則を用いるため、AD変換の1サイクル中に第1AD変換値、第2AD変換値、第3AD変換値、及び第4AD変換値を生成する。
【0070】
平均値算出器134は、AD変換の1サイクル中の異なる上位DACサーモメータコードに応じたAD変換値(第1AD変換値~第4AD変換値)の平均値を、例えば加算回路とビットシフト回路を用いて算出し、平均値を最終的なAD変換結果を示す出力デジタル信号として外部に出力する。
【0071】
図13は、本実施形態のサーモメータコード変換規則の一例を示す図である。本実施形態では、サーモメータデコーダ133は、図2(a)の第1サーモメータコード変換規則、図2(b)の第2サーモメータコード変換規則、図13(a)の第3サーモメータコード変換規則、及び図13(b)の第4サーモメータコード変換規則を用いて、上位DACコードを異なる上位DACサーモメータコードに変換する。
【0072】
図13(a)に示す第3サーモメータコード変換規則は、図2(a)に示した第1サーモメータコード変換規則に対し、キャパシタC6とキャパシタC4の関係を反転させ、かつキャパシタC2とキャパシタC0の関係を反転させている。図13(b)に示す第4サーモメータコード変換規則は、図2(b)に示した第2サーモメータコード変換規則に対し、キャパシタC6とキャパシタC4の関係を反転させ、かつキャパシタC2とキャパシタC0の関係を反転させている。
【0073】
サーモメータデコーダ133は、図2に示した第1サーモメータコード変換規則及び第2サーモメータコード変換規則を用いて、上位DACコードを、中間ビット(C3に対応)を中心に“0”と“1”の配置が互いに点対称な関係となる第1上位DACサーモメータコード及び上位DAC第2サーモメータコードに変換する。
【0074】
さらに、サーモメータデコーダ133は、図13(a)に示す第3サーモメータコード変換規則を用いて、上位DACコードを、第3上位DACサーモメータコードに変換する。第3上位DACサーモメータは、該第3サーモメータコードの中間ビットよりも上位の上位ビットの値が第1上位DACサーモメータコードの上位ビット中の中間ビット(C5に対応)を中心に“0”と“1”の配置が互いに点対称な関係となり、該第3サーモメータコードの中間ビットよりも下位の下位ビットの値が第1上位DACサーモメータコードの下位ビット中の中間ビット(C1に対応)を中心に“0”と“1”の配置が互いに点対称な関係となる。また、サーモメータデコーダ133は、図13(b)に示す第4サーモメータコード変換規則を用いて、上位DACコードを、第4サーモメータコードに変換する。第4サーモメータコードは、該第4サーモメータコードの中間ビットよりも上位の上位ビットの値が第2上位DACサーモメータコードの上位ビット中の中間ビット(C5に対応)を中心に“0”と“1”の配置が互いに点対称な関係となり、該第4サーモメータコードの中間ビットよりも下位の下位ビットの値が第2上位DACサーモメータコードの下位ビット中の中間ビット(C1に対応)を中心に“0”と“1”の配置が互いに点対称な関係となる。
【0075】
図14は、図13(a)に示す第3サーモメータコード変換規則を用いた第3のデコード方法、及び図13(b)に示す第4サーモメータコード変換規則を用いた第4のデコード方法における積分非直線性誤差(INL)の一例を示す図である。
【0076】
図15は、逐次比較AD変換器3の効果を示す図であり、図4及び図14に示すDA変換素子ばらつきがある場合に、平均値算出器134で平均化処理を行うことにより積分非直線性誤差が減少することを示している。
【0077】
図15は、図4及び図14に示した4つのINL波形を平均した波形である。横軸をxとし、左端をx=-1、右端をx=+1とすると、この波形は原点Oに対し点対称で、かつxが-1~0の範囲にてx=-1/2の点を中心に点対称、同様にxが0~+1の範囲にてx=+1/2の点を中心に点対称となる。これは、x=-1~+1の範囲で奇関数の成分に対し、xが-1~0と、xが0~+1の範囲における部分波形をそれぞれの範囲の中点に関する偶関数成分と奇関数成分の混合とみなし、そのうちの偶関数成分を消すことに相当する。すなわち、x=-1~+1の範囲で奇関数の成分、たとえば3次の高調波成分などが減少する。したがって、本実施形態ではINL波形を更に改善することができる。
【0078】
サーモメータDA変換器が3ビット7値の場合、サーモメータコード変換規則は上述の4種類が考えられ、これはx=0に反転なデコード方法を、さらにx=1/2とx=-1/2において反転させることで作られたものである。上位サーモメータDACをさらに4ビット、5ビットと拡張していく場合に、さらにデコード方法を複数用意することで、更なるINL波形の改善を実現できる。その場合には、x=1/4,1/8・・・の位置に対称なデコード方法を用意することによって、より多くの高調波成分を削減することができる。
【0079】
上述の実施形態は代表的な例として説明したが、本発明の趣旨及び範囲内で、多くの変更及び置換ができることは当業者に明らかである。したがって、本発明は、上述の実施形態によって制限するものと解するべきではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形及び変更が可能である。
【0080】
例えば、第2の実施形態に係る逐次比較AD変換器2において、サーモメータデコーダ133が第3の実施形態で説明したように、AD変換の1サイクル中に4種類のサーモメータコード変換規則を用いて上位DACコードを異なる上位DACサーモメータコードに変換してもよい。また、実施形態に記載の複数の構成ブロックを1つに組合せたり、あるいは1つの構成ブロックを分割したりすることも可能である。
【符号の説明】
【0081】
1,2,3 逐次比較AD変換器
11 入力サンプル/ホールド回路
12 比較器
13,13a,13b 制御回路
14 上位サーモメータDAC(第1DA変換器)
15 下位DAC(第2DA変換器)
16 参照信号生成器
17 追加下位DAC(第3DA変換器)
131 変換タイミング生成回路
132,132a,132b 逐次比較レジスタ
133 サーモメータデコーダ
134 平均値算出器
135 加算器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17