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特許7565692送電装置、送電装置が行う方法、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】送電装置、送電装置が行う方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   H02J 50/60 20160101AFI20241004BHJP
   H02J 50/80 20160101ALI20241004BHJP
   H02J 50/12 20160101ALI20241004BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
H02J50/60
H02J50/80
H02J50/12
H02J7/00 301D
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020023666
(22)【出願日】2020-02-14
(65)【公開番号】P2021129457
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2023-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】七野 隆広
【審査官】辻丸 詔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/088760(WO,A1)
【文献】特開2013-135518(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0271908(US,A1)
【文献】特開2017-022999(JP,A)
【文献】国際公開第2019/221532(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 50/60
H02J 50/80
H02J 50/12
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送電装置であって、
電装置に無線で送電を行う送電手段と、
前記受電装置と交渉を行う交渉手段と、
前記交渉の後、送電を制限する期間で波の包絡線に基づいてQ値を測定する測定手段と、
前記受電装置から情報を取得する取得手段と、
前記測定手段により測定されたQ値と、前記取得手段により取得された情報に基づくQ値の基準値とに基づいて、異物の存否を判定し、電力損失に基づいて異物の存否を判定する判定手段と、を有し、
前記判定手段は、前記受電装置から受信した受電電力の情報であって前記交渉の後に前記測定手段により測定された前記Q値に基づいて異物が存在しないと判定された場合の情報に基づいて、前記電力損失に基づく異物の検出処理に用いるCalibrationカーブを生成する
ことを特徴とする送電装置。
【請求項2】
前記基準値は、WPC(Wireless Power Consortium)規格で定められたFOD(Foreign Object Detection) Statusパケットを介して、前記受電装置から取得される情報に基づいて決定されることを特徴とする請求項1に記載の送電装置。
【請求項3】
前記測定手段は、さらに、前記交渉の前に、周波数を変化させてQ値を測定し、
前記判定手段は、前記周波数を変化させて測定されたQ値に基づいて異物の存否をさらに判定することを特徴とする請求項1又は2に記載の送電装置。
【請求項4】
前記判定手段は、前記周波数を変化させて測定されたQ値と、他の基準値に基づいて異物の存否を判定することを特徴とする請求項3に記載の送電装置。
【請求項5】
前記他の基準値は、前記受電装置から取得した情報に基づいて決定されることを特徴とする請求項4に記載の送電装置。
【請求項6】
前記他の基準値は、WPC(Wireless Power Consortium)規格で定められたFOD(Foreign Object Detection) Statusパケットを介して、前記受電装置から取得される情報に基づいて決定されることを特徴とする請求項5に記載の送電装置。
【請求項7】
記波形は、送電コイルに印可される送電電圧の時間に対する波形であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の送電装置。
【請求項8】
記波形は、送電コイルに流れる送電電流の時間に対する波形であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の送電装置。
【請求項9】
電装置に無線で送電を行う送電装置が行う方法であって、
前記受電装置と交渉を行う交渉工程と、
前記交渉の後、送電を制限する期間で波の包絡線に基づいてQ値を測定する測定工程と、
前記受電装置から情報を取得する取得工程と、
前記測定工程において測定されたQ値と、前記取得工程において取得された情報に基づくQ値の基準値とに基づいて、異物の存否を判定し、電力損失に基づいて異物の存否を判定する判定工程と、を有し、
前記判定工程では、前記受電装置から受信した受電電力の情報であって前記交渉の後に前記測定工程において測定された前記Q値に基づいて異物が存在しないと判定された場合の情報に基づいて、前記電力損失に基づく異物の検出処理に用いるCalibrationカーブを生成する
ことを特徴とする送電装置が行う方法。
【請求項10】
コンピュータを、請求項1から8のいずれか1項に記載の送電装置として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線電力伝送技術に関する。
【背景技術】
【0002】
無線電力伝送システムの技術開発は広く行われている。特許文献1には、無線充電規格の標準化団体Wireless Power Consortium(WPC)が策定する規格(WPC規格)に準拠した送電装置および受電装置が開示されている。さらに、特許文献1には、送受電装置の近傍に異物が存在する場合に当該異物を検出し送受電を制限する異物検出方法が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、無線電力伝送システムのコイルのQ値(Quality factor)の測定方法が開示されている。さらに、特許文献2には、無線電力伝送システムの送電コイルにある期間高周波信号を印加し、送電コイル内部の電圧の時間変化からQ値を測定し、当該Q値の変化によって異物を検出する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017―70074号公報
【文献】特開2017-022999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に開示されているような送電コイル内部の電圧の時間変化からQ値を測定することによって異物を検出する技術について、より適切に行う方法が、これまでに提案されていなかった。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされてものであり、送電を停止した状態での前記送電コイルの送電波形に基づくQ値を用いた異物検出のためのより適切な制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための一手段として、本発明の送電装置は以下の構成を有する。すなわち、
送電装置であって、
電装置に無線で送電を行う送電手段と、
前記受電装置と交渉を行う交渉手段と、
前記交渉の後、送電を制限する期間で波の包絡線に基づいてQ値を測定する測定手段と、
前記受電装置から情報を取得する取得手段と、
前記測定手段により測定されたQ値と、前記取得手段により取得された情報に基づくQ値の基準値とに基づいて、異物の存否を判定し、電力損失に基づいて異物の存否を判定する判定手段と、を有し、
前記判定手段は、前記受電装置から受信した受電電力の情報であって前記交渉の後に前記測定手段により測定された前記Q値に基づいて異物が存在しないと判定された場合の情報に基づいて、前記電力損失に基づく異物の検出処理に用いるCalibrationカーブを生成することを特徴とする。

【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、送電を停止した状態での前記送電コイルの送電波形に基づくQ値を用いた異物検出のためのより適切な制御方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】無線電力伝送システムの構成例を示す図である。
図2】受電装置の構成例を示すブロック図である。
図3】送電装置の構成例を示すブロック図である。
図4】送電装置の制御部の機能構成例を示すブロック図である。
図5】(a)は従来技術における送電装置と受電装置の動作を説明するシーケンス図であり、(b)は実施形態における送電装置と受電装置の動作を説明するシーケンス図である。
図6A】第三異物検出方法をWPC規格に適用した場合の基準Q値の作成処理を示すフローチャートである。
図6B】第三異物検出方法をWPC規格に適用した場合の別の基準Q値の別の作成処理を示すフローチャートである。
図7】Calibration処理フローチャートである。
図8】時間領域におけるQ値(第二Q値)の測定処理を示すフローチャートである。
図9】第三異物検出処理における閾値の概念図である。
図10】FOD Statusパケットのフレームフォーマットである。
図11】時間領域におけるQ値の測定方法を説明するための概念図である。
図12】パワーロス手法による異物検出の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0011】
[実施形態1]
(システムの構成)
図1は、本実施形態による無線電力伝送システムの構成例を示す図である。本システムは、一例において、受電装置102と送電装置100を含んで構成される。受電装置102と送電装置100は、WPC(Wireless Power Consortium)規格に準拠しているものとする。受電装置102は、送電装置100から受電して内蔵バッテリに充電を行う電子機器である。また、受電装置102は、他の装置(カメラ、スマートフォン、タブレットPC、ラップトップ、自動車、ロボット、医療機器、プリンター)に内蔵される構成であってもよい。送電装置100は、カメラ、スマートフォン、タブレットPC、ラップトップ、自動車、ロボット、医療機器、プリンターであってもよい。
【0012】
送電装置100は、例えば自身に載置された受電装置102に対して無線で送電する電子機器である。送電装置100は送電コイル(送電アンテナ)101(後述する図3の送電コイル304に対応)を介して受電装置102へ無線で電力を送電する。図1では、導電性の異物103が、送電コイル101から送電される無線電力が影響を及ぼす範囲(operating volume)に存在していることを示している。また、矢印104は、受電装置102が送電装置100上を移動することを示しており、移動の前後で送電コイル101と受電装置102の受電コイル(受電アンテナ)の位置関係は変化している。
【0013】
(装置の構成)
図2は、受電装置102の構成例を示すブロック図である。制御部200は、受電装置102全体を制御する。制御部200の一例は1つ以上のCPU(Central Processing Unit)である。受電コイル201は、送電装置100の送電コイル304(図3)から電力を受電する。整流部202は、受電コイル201を介して受電した送電コイル304(図3)からの交流電圧および交流電流を直流電圧および直流電流に変換する。電圧制御部203は、整流部202から入力される直流電圧のレベルを、制御部200および充電部205などが動作する直流電圧のレベルに変換する。電圧制御部203はまた、変換されたレベルの電圧を充電部205へ供給する。充電部205は、バッテリ206を充電する。通信部204は、送電装置100の通信部305(図3)との間で、WPC規格に基づいた無線充電の制御通信を行う。この制御通信は、受電コイル201で受電した交流電圧および交流電流を負荷変調することにより実現される。
【0014】
図3は、送電装置100の構成例を示すブロック図である、制御部300は、送電装置100全体を制御する。制御部300の一例は1つ以上のCPUである。電源部302は、各機能ブロックに電源を供給する。電源部302は、例えば、商用電源又はバッテリである。バッテリには、商用電源から供給される電力が蓄電されうる。送電部303は、電源部302から入力される直流又は交流電力を、無線電力伝送に用いる周波数帯の交流電力に変換し、その交流電力を送電コイル304へ入力することによって、受電装置102に受電させるための電磁波を発生させる。例えば、送電部303は、電源部302により供給される直流電圧を、FET(Field Effect Transister)を使用したハーフブリッジ又はフルブリッジ構成のスイッチング回路で交流電圧に変換する。この場合、送電部303はFETのON/OFFを制御するゲ-トドライバを含む。
【0015】
また、送電部303は、送電コイル304に入力する電圧(送電電圧)又は電流(送電電流)、又はその両方または周波数を調節することにより、出力させる電磁波の強度を制御する。送電電圧又は送電電流を大きくすると電磁波の強度が強くなり、送電電圧又は送電電流を小さくすると電磁波の強度が弱くなる。また、送電部303は、制御部300の指示に基づいて、送電コイル304が開始又は停止されるように、送電部303を制御し交流電力の出力制御を行う。また、送電部303はWPC規格に対応した受電装置102の充電部205(図2)に15ワット(W)の電力を出力するだけの電力を供給する能力があるものとする。
【0016】
通信部305は、送電コイル304を介して、受電装置102との間で、WPC規格に基づく送電制御のための通信を行う。通信部305は、送電部303から出力される交流電圧および交流電流を周波数変調(FSK(Frequency Shift Keying))し、受電装置102へ情報を伝送する。また、通信部305は、受電装置102の通信部204(図2)において変調された交流電圧および交流電流を復調して、受電装置102が送信した情報を取得する。すなわち、通信部305で行う通信は、送電部303から送電される電磁波に信号が重畳されて行われる。また、通信部305は、送電コイル304とは異なるコイル(もしくはアンテナ)を用いたWPC規格とは異なる規格による通信で受電装置102と通信を行ってもよいし、複数の通信を選択的に用いて受電装置102と通信を行ってもよい。
【0017】
メモリ306は、制御プログラムを記憶するほかに、送電装置100及び受電装置102の状態なども記憶しうる。例えば、送電装置100の状態は制御部300により取得され、受電装置102の状態は制御部200(図2)により取得され、通信部305を介して受信されうる。
【0018】
図4は、本実施形態の送電装置100の制御部300の機能構成を示すブロック図である。第一Q値測定部400は、後述するような、周波数領域におけるQ値の測定(第一Q値測定)を行う。第二Q値測定部401は、後述するような、時間領域におけるQ値の測定(第二Q値測定)を行う。Calibration処理部402は、後述するような、Calibration data Pointの取得およびCalibrationカーブの作成処理を行う。第一異物検出処理部403は、第一Q値測定部400により測定された第一Q値に基づく異物検出処理(第一異物検出処理)を行う。第二異物検出処理部404は、後述するパワーロス手法に基づく異物検出処理(第二異物検出処理)を行う。第三異物検出処理部405は、第二Q値測定部401により測定された第二Q値に基づく異物検出処理(第三異物検出処理)を行う。送電制御部406は、送電部303(図3)の送電開始、送電停止、送電電力の増減に関する処理を行う。図4に示す各処理部は、それぞれが独立したプログラムとして構成され、イベント処理等によりプログラム間の同期をとりながら並行して動作しうる。なお、異物とは、例えば金属片等の導電性部材であり、受電装置とは異なる物体である。また、異物検出処理とは、受電装置と異なる物体の存否を判定する処理である。
【0019】
次に、WPC(Wireless Power Consortium)規格で規定されている異物検出方法として、周波数領域で測定されたQ値に基づく異物検出方法(第一異物検出方法)と、パワーロス手法に基づく異物検出方法(第二異物検出方法)について説明する。以下、送電装置100と受電装置102を例に説明する。
【0020】
(異物検出方法)
(1)周波数領域で測定されたQ値に基づく異物検出方法(第一異物検出方法)
まず、送電装置100は、異物の影響によって変化するQ値を、周波数領域において測定する(第一Q値測定)。本測定は、送電装置100がAnalog Pingを送電してから、Digital Pingを送電するまでに実施される(図5(a)の第一Q値測定(F501)を参照)。具体的には、Q値を測定する為に、送電部303は送電コイル304が出力する無線電力の周波数を掃引し、第一Q値測定部400は送電コイルと直列(または並列)に接続される共振コンデンサ(図示しない)の端部の電圧値を測定する。そして、第一Q値測定部400は、当該電圧値がピークとなる共振周波数を探索し、ピークの電圧値(共振周波数で測定される)から3dB下がった電圧値を示す周波数と当該共振周波数から、送電コイル304のQ値を算出する。
【0021】
また、別の方法でQ値を測定してもよい。例えば、送電部303は送電コイル304が出力する無線電力の周波数を掃引し、第一Q値測定部400は送電コイル304と直列に接続される共振コンデンサ(図示しない)の端部の電圧値を測定して、当該電圧値がピークとなる共振周波数を探索する。そして、第一Q値測定部400は、当該共振周波数において当該共振コンデンサの両端の電圧値を測定し、当該両端の電圧値の比から送電コイル304のQ値を算出する。
【0022】
送電コイル304のQ値を算出した後、送電装置100の第一異物検出処理部403は、通信部305を介して、異物検出の判断基準となるQ値を受電装置102から取得する。具体的には、第一異物検出処理部403は、WPC規格で規定された、送電コイル上に受電装置が置かれた場合の送電コイルのQ値(第一の特性値)を、受電装置102から基準値として受信する。当該Q値は、受電装置102から受信されるFOD(Foreign Object Detection) Statusパケットに格納されている。第一異物検出処理部403は、FOD Statusパケットに格納されているQ値から、送電装置100上に受電装置102が置かれた場合の、送電コイル304のQ値を類推する。当該類推したQ値を、本実施形態では、第一基準Q値と表現する。なお、FOD Statusパケットに格納するQ値(後述するQ1に対応)は、あらかじめ受電装置102の不揮発メモリ(図示しない)に記憶されうるものとする。
【0023】
そして、送電装置100の第一異物検出処理部403は、第一基準Q値と、第一Q値測定部400により測定されたQ値を比較し、比較結果に基づいて異物の有無を判定する。具体的には、第一異物検出処理部403は、第一基準Q値に対して、a%(第一の割合)低下したQ値を閾値として、測定されたQ値が当該閾値より低ければ、異物がある可能性が高いと判定し、そうでない場合は異物がない可能性が高いと判定する。
【0024】
(2)パワーロス手法に基づく異物検出方法(第二異物検出方法)
続いて、WPC規格で規定されているパワーロス手法に基づく異物検出方法について、図12を参照して説明する。図12は、パワーロス手法による異物検出の概念図であり、横軸は送電装置100の送電電力、縦軸は受電装置102の受電電力を示す。なお、送電装置100の送電部303よる送電電力の制御は、送電制御部406により行われる。
【0025】
まず、送電装置100の送電部303は、受電装置102に対してDigital Pingを送電し、通信部305は、受電装置102における受電電力値Pr1(Light Loadという)を、Received Power Packet(mode1)で受信する。なお、以降の説明では、Received Power Packet(mode1)をRP1と表現する。このとき、受電装置102は、受電電力を負荷(充電部205とバッテリ206など)に供給しない。そして送電装置100の制御部300は、当該Pr1とその時の送電電力値Pt1の関係(作成した点1200)をメモリ306に記憶する。これにより、送電装置100は、送電電力としてPt1を送電したときの、送電装置100と受電装置102間の電力損失量がPt1-Pr1(Ploss1)であることを認識することができる。
【0026】
次に、送電装置100の通信部305は、受電装置102における受電電力値Pr2(Connected Loadという)の値を、Received Power Packet(mode2)で受電装置102から受信する。なお、以降の説明では、Received Power Packet(mode2)をRP2と表現する。このとき、受電装置102は、受電電力を負荷に供給している。そして送電装置100の制御部300は、当該Pr2とその時の送電電力値Pt2の関係(作成した点1201)をメモリ306に記憶する。これにより、送電装置100は、送電電力としてPt2を送電したときの、送電装置と受電装置間の電力損失量はPt2-Pr2(Ploss2)であることを認識することができる。
【0027】
そして送電装置100のCalibration処理部402は、点1200と点1201を直線補間し直線1202を作成する。直線1202は、送電装置100と受電装置102の周辺に異物が存在しない状態における、送電電力と受電電力の関係を示している。よって、送電装置100は、送電電力値と直線1202から、異物がない可能性が高い状態における受電電力を予想することができる。例えば、送電電力値がPt3の場合は、直線1202上における、送電電力値がPt3に対応する点1203から、受電電力値はPr3であると予想することができる。
【0028】
ここで、送電装置100の送電部303がPt3の送電電力で受電装置102に対して送電した場合に、通信部305が受電装置102から受電電力値Pr3’という値を受信したとする。送電装置100の第二異物検出処理部404は、異物が存在しない状態における受電電力値Pr3から、実際に受電装置102から受信した受電電力値Pr3’を引いた値Pr3-Pr3’(=Ploss_FO)を算出する。このPloss_FOは、送電装置100と受電装置102間に異物が存在する場合に、その異物で消費される電力損失と考えることができる。よって、第二異物検出処理部404は、異物で消費されたであろう電力Ploss_FOがあらかじめ決められた閾値を超えた場合に、異物が存在すると判断することができる。当該閾値は、点1200と点1201の関係に基づいて導出され得る。
【0029】
あるいは送電装置100の第二異物検出処理部404は、事前に、異物が存在しない状態における受電電力値Pr3から、送電装置100と受電装置102間の電力損失量Pt3-Pr3(Ploss3)を求めておく。そして次に、第二異物検出処理部404は、異物が存在する状態において受電装置102から受信した受電電力値Pr3’から、異物が存在する状態での送電装置100と受電装置102間の電力損失量Pt3-Pr3’(Ploss3’)を求める。そして、第二異物検出処理部404は、Ploss3’-Ploss3 (=Ploss_FO)により、異物で消費されたであろう電力Ploss_FOを求めてもよい。
【0030】
以上述べたように、異物で消費されたであろう電力Ploss_FOの求め方としては、Pr3-Pr3’(=Ploss_FO)として求めてもよいし、Ploss3’-Ploss3 (=Ploss_FO)として求めてもよい。
【0031】
Calibration処理部402により直線1202が取得したのち、送電装置100の第二異物検出処理部404は、通信部305を介して、受電装置102から定期的に現在の受電電力値(例えば上記のPr3’)を受信する。受電装置102が定期的に送信する現在の受電電力値は、Received Power Packet(mode0)として送電装置100に送信される。送電装置100の第二異物検出処理部404は、Received Power Packet(mode0)に格納されている受電電力値と、直線1202に基づいて異物検出を行う。なお、以降の説明では、Received Power Packet(mode0)をRP0と表現する。
【0032】
なお、送電装置100と受電装置102の周辺に異物が存在しない状態における送電電力と受電電力の関係である直線1202を取得するための点1200および点1201を、本実施形態ではCalibration data Pointと表現する。また、少なくとも2つのCalibration data Pointを補間して取得される線分(直線1202)をCalibrationカーブと表現する。Calibration data PointおよびCalibrationカーブ(第二の基準)は、第二異物検出処理部404による異物検出処理のために使用される。
【0033】
(時間領域におけるQ値測定方法)
次に、時間領域におけるQ値の測定方法について、図11を参照して説明する。図11は、時間領域におけるQ値の測定(第二Q値測定)の方法を説明するための概念図である。当該説明は、特許文献2で開示されている技術に基づく。本実施形態では、第二Q値に基づく異物検出方法を第三異物検出方法と表現する。第二Q値測定は第二Q値測定部401により行われる。また、送電装置100の送電部303よる送電電力の制御は、送電制御部406により行われる。
【0034】
図11(a)における波形1100は、送電装置100の送電コイル304もしくは共振コンデンサ(図示しない)の端部に印可される高周波電圧の値(以降、単に送電コイルの電圧値と言う)の時間経過を示しており、横軸は時間、縦軸は電圧値である。時間Tにおいて高周波電圧の印加(送電)は停止される。点1101は、高周波電圧の包絡線(送電波形)上の一点であり、時間Tにおける高周波電圧である。図中の(T、A)は、時間Tにおける電圧値がAであることを示す。同様に、点1102は、高周波電圧の包絡線(送電波形)上の一点であり、時間Tにおける高周波電圧である。図中の(T、A)は、時間Tにおける電圧値がAであることを示す。ここでいう送電波形は、送電コイルに印加される電圧の時間に対する波形である。なお、送電波形は、送電コイルに流れる電流の時間に対する波形でもよい。
【0035】
Q値測定は、時間T以降の電圧値の時間変化に基づいて実施される。具体的には、Q値は、電圧値の包絡線である点1101および点1102の時間、電圧値、および、高周波電圧の周波数f(以降、動作周波数という)に基づいて、(式1)により算出される
【0036】
次に、本実施形態で送電装置100が時間領域でQ値を測定するための処理について図11(b)を参照して説明する。波形1103は、送電コイル304に印加される高周波電圧の値を示しており、その周波数はWPC規格で使用される110kHzから148.5kHzの間である。また、点1104および点1105は、電圧値の包絡線の一部である。送電装置100の送電部303は、時間TからTの区間、送電を停止する。送電装置100の第二Q値測定部401は、時間Tにおける電圧値A(点1104)、時間T4における電圧値A(点1104)および高周波電圧の動作周波数と(式1)に基づいて、Q値を測定する。なお、送電装置100の送電部303は、時間Tにおいて送電を再開する。このように、第二Q値測定は、送電装置100が送電を瞬断し時間経過と電圧値および動作周波数に基づいてQ値を測定することにより実現される。
【0037】
(送電装置および受電装置の動作(従来技術))
従来技術における送電装置100と受電装置102の動作について図5(a)を参照して説明する。図5(a)は、従来技術における送電装置100と受電装置102の動作を説明するシーケンス図である。図5(a)の説明では、送電装置100と受電装置102はそれぞれ、WPC規格v1.2.3に準拠した送電装置および受電装置であるとする。
【0038】
送電装置100は送電コイル304の近傍に存在する物体を検出する為にAnalog Pingを送電する(F500)。Analog Pingはパルス状の電力で、物体を検出するための電力である。また、受電装置102がAnalog Pingを受電したとしても、受電装置102の制御部200を起動することができないほど微小な電力である。送電装置100は、送電コイル304の近傍に存在する物体に起因する送電コイル304内部の電圧値の共振周波数のシフトや、送電コイル304を流れる電圧値・電流値の変化によって物体を検出する。送電装置100は、Analog Pingにより物体を検出すると、前述した第一Q値測定により送電コイルのQ値を測定する(F501)。送電装置100は、第一Q値測定につづいて、Digital Pingの送電を開始する(F502)。Digital Pingは受電装置102の制御部200を起動させるための電力で、Analog Pingよりも大きい電力である。また、Digital Pingは以後連続的に送電される。すなわち、送電装置100は、Digital Pingの送電を開始してから(F502)、受電装置102からEPT(End Power Transfer)パケットを受信するまで(F522)、Digital Ping以上の電力を送電し続ける。
【0039】
受電装置102は、Digital Pingを受電して起動すると、受電したDigital Pingの電圧値を格納したパケットであるSignal Strengthを送電装置100に送信する。続いて受電装置102は、受電装置102が準拠しているWPC規格のバージョン情報やデバイス識別情報を含むIDを格納したパケットを送信する(F504)。さらに受電装置102は、電圧制御部203が負荷(充電部205)へ供給する電力の最大値等を含む情報を含むConfigurationパケットを送電装置100に送信する(F505)。送電装置100は、IDおよびConfigurationパケットを受信することによって、受電装置102がWPC規格 v1.2以降の拡張プロトコル(後述するNegotiationを含む)に対応していると判断すると、ACKで応答する(F506)。
【0040】
受電装置102はACKを受信すると、送受電する電力の交渉などを行うNegotiationフェーズに遷移する。まず受電装置102は、送電装置100に対してFOD Statusパケットを送信する(F507)。本実施形態では当該FOD StatusパケットをFOD(Q1)と表現する。送電装置100は、受信したFOD(Q1)に格納されているQ値(周波数領域で測定されたQ値)と第一Q値測定で測定したQ値に基づいて、第一異物検出方法により異物検出を行い、異物がない可能性が高いと判定したことを示すACKを受電装置102に送信する(F508)。
【0041】
受電装置102はACKを受信すると、受電装置102が受電を要求する電力値の最大値であるGuaranteed Power(GP)の交渉を行う。具体的には、Guaranteed Powerは、送電装置100との間で合意された、受電装置102の負荷電力(バッテリ206が消費する電力)を示す。当該交渉は、WPC規格で規定されているSpecific Requestの内、受電装置102が要求するGuaranteed Powerの値を格納したパケットを送電装置100に送信することにより実現される(F509)。本実施形態では当該パケットをSRQ(GP)と表現する。
【0042】
送電装置100は自身の送電能力等を考慮して、SRQ(GP)に応答する。送電装置100は、Guaranteed Powerを受け入れられると判断し、当該要求を受入れたことを示すACKを送信する(F510)。本実施形態では、受電装置102がSRQ(GP)でGuaranteed Powerとして15ワットを要求したとする。
【0043】
受電装置102は、Guaranteed Powerを含む複数のパラメータの交渉が終了すると、Specific Requestの内、交渉の終了(End Negotiation)を要求するSRQ(EN)を送電装置に送信する(F511)。送電装置100は、SRQ(EN)に対してACKを送信し(F512)、Negotiationを終了し、Guaranteed Powerで定められた電力の送受電を行うPower Transferフェーズに遷移する。
【0044】
続いて、送電装置100は、上述したパワーロス手法に基づく異物検出(第二異物検出方法)を実施する(F513~F521)。まず、送電装置100は、RP1(Received Power Packet(mode1))を受電装置102から受信する(F513)。送電装置100は、RP1に格納されている受電電力値とその時の送電装置100の送電電力値を、Calibration data Point(図12の点1200に対応)として受け入れることを示すACKを受電装置に送信する(F514)。
【0045】
ACKを受信後、受電装置102は、送電装置100に対して受電電圧(または受電電流、受電電力)の増減を送電装置100に要求するControl Error(以後、CEと表現する)を送電装置100に送信する。CEには符号および数値が格納され、符号がプラスであれば、電力を上げることを、マイナスであれば電力を下げることを、数値がゼロであれば電力の維持を要求することを意味する。ここでは受電装置102は、電力を上げることを示すCE(+)を送電装置100に送信する(F515)。
【0046】
送電装置100はCE(+)を受信すると、送電部303の設定値を変更し送電電力を上げる(F516)。受電装置102は、CE(+)に応答して受電電力が上昇すると、受電した電力を負荷(充電部205やバッテリ206)に供給し、RP2(Received Power Packet(mode2))を送電装置100に送信する(F517)。送電装置100は、RP2に格納されている受電電力値とその時の送電装置100の送電電力値を、Calibration data Point(図12の点1201に対応)として受け入れることを示すACKを受電装置に送信する(F518)。この時点で送電装置は2つのCalibration data Point(図12の点1200と点1201)を作成(取得)しているため、Calibrationカーブ(図2の直線1202に対応)を作成(導出)することができる。
【0047】
送電装置100および受電装置102は、Power Transferフェーズに遷移しており、送電装置100は、受電装置102がNegotiationフェーズで交渉した最大15ワットを受電可能な電力を送電している。受電装置102は、送電装置100に対して、CEおよび現在の受電電力値を格納したRP0(Received Power Packet(mode0))を送電装置100に定期的に送信する(F519、F520)。
【0048】
送電装置100は、受電装置102からRP0を受信すると、上述の第二異物検出方法に基づいて異物検出を行う。送電装置100は、異物検出の結果、異物がない可能性が高いと判定した場合、ACKを受電装置102に送信する(F521)。
【0049】
受電装置102は、バッテリ206への充電が終了すると、送電装置100に対して送電を停止することを要求するEPT(End Power Transfer)パケットを送信する(F522)。以上がWPC規格v1.2.3に準拠した送電装置100および受電装置102の制御の流れである。
【0050】
(第一異物検出方法および第二異物検出方法に関する課題)
図5(a)に示したシーケンス図には異物検出における課題がある。例えば、第一異物検出方法についていえば、送電装置100が第一Q値測定(F501)を実施してから、Calibration data Pointを取得するまで(例えばF514でACKを送信するまで)に異物103がOperating Volume(送電装置100により送電される無線電力が影響を及ぼす範囲)におかれた場合、異物103を検出することができない。なぜなら、第一異物検出方法では、第一Q値測定(F501)を実施した時点の異物の有無のみを、FOD(Q1)を受信した時点で判定するからである。
【0051】
また、第二異物検出方法についていえば、送電装置100がF514でACKを送信することで最初のCalibration data Point(点1200)を取得してから、F518でACKを送信することで次のCalibration data Point(点1201)とCalibrationカーブ(直線1202)を作成するまでに異物103がOperating Volumeにおかれた場合も異物103を検出することができない。例えば、受電装置102がF515でCE(+)を送信した直後にOperating Volumeに異物が置かれた場合を考える。受電装置102はF517でPR2を送信するが、この時点でCalibration data Pointデータは作成できていないので、第二異物検出処理にもとづいて異物を検出することはできない。当然ながら、第一異物検出処理も行われない。
【0052】
さらには、送電装置100は、異物が存在する状態でCalibration data Pointを取得するため、正確に第二異物検出処理を行うことが不可能になる。図12を参照して具体的に説明すると、この時は異物が存在するので、送電装置100の送電電力は受電装置102に対する送電電力(Pt2)に異物で消費される電力が加算された値であるPt2’(≠Pt2)となる。よって送電装置100は、Calibration data Pointとして点1204を作成(取得)して、記憶する。その結果、送電装置100はCalibrationカーブとして直線1206を作成する。本来Calibrationカーブは異物がない状態で作成されるべきだが、直線1206は、異物がある可能性が高い状態で作成されたCalibrationカーブであるため、もはや第二異物検出方法において正確な異物検出が不可能である。
【0053】
また、送電装置100が第一Q値測定(F501)を実施してからF514でACKを送信することで最初のCalibration data Point(点1200)を作成するまでに異物103がOperating Volumeにおかれた場合も、第二異物検出方法において正確な異物検出は不可能である。なぜなら、点1200は異物がある可能性が高い状態で作成されたCalibration data Pointだからである。
【0054】
(第三異物検出方法をWPC規格に適用した場合の動作説明)
周波数領域において測定されたQ値(第一Q値)に基づく異物検出(第一異物検出方法)は、測定のたびに共振周波数を探すために周波数を掃引しなければならない。送電装置100がDigital PingやPower Transferフェーズのなど比較的大きな電力を送電中に、第一異物検出方法を行い、周波数を掃引することは、送電部303のスイッチングノイズの増大の原因となり好ましくない。
【0055】
一方で、時間領域において測定されたQ値(第二Q値)に基づく異物検出(第三異物検出方法)は、単一の周波数で実施可能であり、周波数を掃引する必要が無い。そのため、Digital PingやPower Transferフェーズの送電時の動作周波数で実施可能であり、スイッチングノイズへの影響が少ないというメリットがある。以下では、第三異物検出方法をWPC規格に適用した場合の動作について説明する。
【0056】
(1)基準作成処理
第二Q値に基づく第三異物検出方法をWPC規格に適用する場合に、異物の有無を判定するための基準Q値を作成する必要がある。そこではじめに、第三異物検出方法における基準Q値の作成処理について、図6Aを参照して説明する。図6Aは、送電装置100により実行される第三異物検出方法のための基準Q値作成処理のフローチャートである。
【0057】
送電装置100の送電部303はAnalog Pingを送電する(S600)。第一異物検出処理部403により、当該Analog PingによってOperating Volumeに物体があることが検出されると、第一Q値測定部400は、第一Q値測定を行う(S601)。そして、第一Q値測定の直後に、送電装置100の第二Q値測定部401は、第二Q値測定を行う(S602)。ここで、「直後」とは第一Q値測定(S601)と第二Q値測定(S602)の間に他の処理を行わないことを意味する。直後としたのは、第一Q値測定(S601)の状況とほぼ同じ状況で第二Q値測定を行うためである。このため、S602の第二Q値測定は、S601の直前であってもよい。
【0058】
ここで、第二Q値測定の処理について、図8図11を参照して説明する。図8は、送電装置100により実行される第二Q値測定処理のフローチャートである。図8において、送電制御部406は、まず送電部303による送電を一旦停止する(S800)。そして、第二Q値測定部401は、時間Tにおいて送電コイル304の電圧値Aを測定し(S801)、一定時間経過後のTで送電コイル304の電圧値Aを測定する(S802)。次に第二Q値測定部401は、上記の(式1)に基づいて、送電電力(波形1103)の動作周波数と、時間および電圧値からQ値を算出する(S803)。そして、送電制御部406は送電を再開するよう制御する(S804)。
【0059】
図6Aの説明に戻り、第二Q値測定部401が第二Q値の測定を終了すると、送電部303はDigital Pingを送電する(S603)。通信部305は、受電装置102から送信されたSignal Strengthを受信すると(S604でYES)、受電装置からIDおよびConfigurationパケットを受信する(S605、S606)。ここで制御部300は、ID内に格納されている、受電装置102が準拠しているWPC規格バージョンに基づいて、受電装置102がNegotiationに対応しているかを判断する。受電装置102がNegotiationに対応していれば(S607でYES)、通信部305はACKを送信する(S608)。
【0060】
続いて通信部305は、受電装置102からFOD(Q1)を受信する(S609)。そして、第一異物検出処理部403は、FOD(Q1)に格納されているQ値に基づいて、第一異物検出における基準Q値(第一基準Q値)を決定する。そして、第一異物検出処理部403は、当該第一基準Q値とS601で測定した第一Q値を比較し、測定した第一Q値が閾値以内かどうかを判定する。ここで、「閾値以内」とは、第一基準Q値に対してa%低下したQ値を閾値とした場合に、測定した第一Q値が当該閾値より高いこと(つまり、第一Q値が第一基準Q値と閾値の間であること)を示す。測定した第一Q値が閾値以内であれば(S610でYES)、第一異物検出処理部403は、第一異物検出処理の結果、異物がない可能性が高いと判断し、通信部305を介してACKを受電装置に送信する(S611)。
【0061】
この時点で、送電装置100は、S601の第一Q値測定時にOperating Volumeに異物は存在しないと判定するので、S601の直後にS602で実施した第二Q値測定時も異物が存在する可能性は極めて低い。よって、第三異物検出処理部405は、S602で測定した第二Q値を第三異物検出処理における基準Q値(第三基準Q値)に決定(設定)する(S612)。続いて、通信部305は、受電装置102からSRQ(EN)を受信し(S613)、ACKを送信して(S614)、送電装置100は、Negotiationフェーズを終了する。
【0062】
以上のように送電装置100は、第一異物検出処理の結果、閾値以内(異物がない可能性が高い)と判定した場合に、第三異物検出処理のための基準Q値(第三基準Q値)を決定(設定)した。こうすることで、第三異物検出処理をWPCの動作に適用した場合に、好適な制御が実現できる。また、第三異物検出方法における異物の有無を判定するための第三基準Q値をWPC規格のシーケンスの中で作成することができる。さらに、第三異物検出処理における第三基準Q値を異物がない可能性が高い状態で決定することができるので、第三異物検出処理に基づいてより精度の高い異物検出を行うことが可能となる。
【0063】
S604において、送電装置100の通信部305がSignal Strength を受信しなければ(S604でNO)、送電部303はDigital Pingを停止し、再びAnalog Pingを送電する(S600)。
【0064】
また、S610において、送電装置100の第一異物検出処理部403が、測定した第一Q値が閾値以内ではない(異物がある可能性が高い)と判断した場合は(S610でNO)、図示しない通知手段でユーザにエラー通知を行い(S616)処理を終了する。このようにすることで、異物がある可能性が高い状態で第三異物検出処理の基準Q値(第三基準Q値)を決定し、第三異物検出処理が正確に行えないという不具合を回避することができる。
【0065】
さらに、S607において、受電装置102がNegotiationに対応していない場合は(S607でNO)、第三異物検出処理部405は、第三基準Q値を作成せず、送電装置100は、制御部300による制御によりPower Transferフェーズへ遷移して、送電部303は受電装置102に送電する(S615)。さらにGuaranteed Powerを5ワットに制限してもよい。つまり、送電装置100は、受電装置102がNegotiation機能を持たず、Guaranteed Powerが5ワットであるWPC規格で規定されたBaseline Power Profileにのみ準拠していると捉えて、制御を行ってもよい。この場合は、送電装置100は第三異物検出処理を行わない。なぜなら、受電装置102がNegotiationに対応していない場合は、受電装置102はFOD(Q1)を送信する機能を持たず、第一異物検出処理の機能を持たない為、送電装置100は、異物がない可能性が高い状態で第三基準Q値を決定できるという確証が得られないからである。こうすることで、異物がある可能性が高い状態で第三基準Q値を決定し、第三異物検出処理が正確に行えないという不具合を回避することができる。
【0066】
また、送電装置100の制御部300は、受電装置102が「Negotiationに対応していない」ことを、Configurationパケットに格納されているNeg bitで判断してもよい。Neg bitが「1」であれば、送電装置100の通信部305はConfigurationパケットに対してACKで応答することで、受電装置102をNegotiationフェーズに遷移させ、自身もNegotiationフェーズに遷移する。また、Neg bitが「0」であれば、送電装置100はPower Transferフェーズに遷移する。このようにすることでも上記と同様の効果が得られる。
【0067】
(第三異物検出を行う場合のCalibration処理)
次に、Negotiationフェーズが終了した後のCalibration処理について説明する。まず、第三異物検出処理について図9を参照して説明する。図9は第三異物検出処理における閾値の概念図である。閾値901は、第三異物検出処理における基準Q値(第三基準Q値900)に対して、a%低下したQ値を示す。第三異物検出処理部405は、測定した第二Q値が第三基準Q値900と閾値901の間である範囲Aにあれば、異物がない可能性が高いと判断し、測定した第二Q値が閾値901以下であれば、異物がある可能性が高いと判断する。
【0068】
図7は、Negotiationフェーズが終了した後に送電装置100により実行されるCalibration処理フローチャートである。送電装置100の通信部305が受電装置102から送信されるRP1を受信すると(S700)、第二Q値測定部401は速やかに第二Q値測定を行う(S701)。第二Q値測定の処理は図8に示した通りである。測定された第二Q値が閾値901以内であれば(図9を参照)、受電装置102がPR1に格納されている受電電力を測定した時点で、Operating Volumeに異物がある可能性は低い。なぜなら、RP1に格納される受電電力はRP1を送信する直前に測定され、速やかにRP1で送信されるからである。よって、この場合、第三異物検出処理部405は、RP1を受信してCalibration data Pointを作成するときに異物は存在していないと判定し(S702でYES)、通信部305はRP1に対してACKで応答する(S703)。ACK応答後、Calibration処理部402は、RP1に相当するCalibration data Pointを作成する。送電装置100は、続くRP2を受信した際も同様の処理を行う。すなわち、RP2が受信されると(S704)、第二Q値測定部401は、速やかに第二Q値測定を行う(S705)。第三異物検出処理部405は、測定した第二Q値が閾値901以内であれば、RP2を受信してCalibration data Pointを作成するときに異物は存在していないと判定し(S706でYES)、通信部305はRP2に対してACKで応答する(S707)。ACK応答後、Calibration処理部402は、RP2に相当するCalibration data Pointを作成する。
【0069】
S702またはS706で、第三異物検出処理部405が、異物がある可能性が高いと判定した場合は(S702でNO、S706でNO)、通信部305は、Calibration data Pointを作成しないことを示すNAKを送信し(S708)、処理を終了する。
【0070】
このように、本実施形態における送電装置100は、Calibration data Pointを作成する度に第三異物検出処理を行い、異物がない可能性が高いと判断した場合にCalibration data Pointを作成する。一方、送電装置100は、異物がある可能性が高いと判断した場合にはCalibration data Pointを作成しない。そうすることで、異物がある可能性が高い状態でCalibration data PointおよびCalibrationカーブを作成することが原因で、第ニ異物検出処理が正確に行えないという課題を解決することができる。
【0071】
また、第二異物検出処理の課題として、送電装置100が第一Q値測定(S501)を実施してから、Calibration data Pointを作成するまで(例えばS514でACKを送信するまで)に異物103がOperating Volumeに おかれた場合、異物を検出することができないという課題があった。図7の処理により、送電装置100は、Calibration data Pointを作成するときに第三異物検出処理に基づく異物検出を行うので、このような課題は解決され、前述のような場合であっても異物を検出することができる。
【0072】
(本実施形態における送電装置および受電装置の動作)
本実施形態における送電装置100と受電装置102の動作について図5(b)を参照して説明する。図5(b)は、本実施形態における送電装置100と受電装置102の動作を説明するシーケンス図である。なお、図5(a)と同じ構成に関しては同じ符号を付与することにより説明を省略する。
【0073】
送電装置100は、第一Q値測定(F501)の後、速やかに第二Q値測定を実施する(F523)。そして、送電装置100は、FOD(Q1)(F507)に対してACKを送信(F508)した時点で、F523で測定した第二Q値を第三異物検出処理における基準Q値(第三基準Q値)とすることを決定する。ここで、図示はしないが、第二Q値測定(F523)の後から受電装置102がRP1を送信するまで(F513)の間にOperating Volumeに異物が置かれたとする。送電装置100は、F524において第二Q値測定を実施し、第三基準Q値と比較して異物検出を行い、異物の有無を検出することができる(S701、S702の処理に対応)。送電装置100は異物を検出した場合、送電装置100は、RP1に対してNAKを送信する(F525)。受電装置102は、NAKを受信すると(F525)、RP1を再送する(F526)。送電装置100は、RP1を受信すると再び第二Q値測定を実施し(F527)、異物が取り除かれていない場合は(異物が依然として存在する場合)、再度NAKを送信する(F528)。送電装置100によるCalibration data Pointの作成が行われないため、受電装置102はEPTを送信する(F522)。
【0074】
このように、本実施形態における送電装置100は、第二Q値測定(F523)の後から、受電装置102がRP1を送信するまで(F513)の間にOperating Volumeに異物が置かれた場合であっても、Calibration data Pointを作成する前に異物を検出することができる。
【0075】
また、図は示さないが、送電装置100がRP1に対してACKを送信してから、PR2を受信するまでに異物がOperating Volumeに置かれた場合であっても同様に、RP2に対する応答を送信する前に第二Q値測定を実施する。これにより、送電装置100は、RP2に対するCalibration data Pointを作成する前に異物を検出することができる。
【0076】
また、本実施形態における送電装置100は、受電装置102を起動させ、比較的大きな電力を開始してからは、第一Q値測定(第一異物検出処理)は行わず、第二Q値測定(第三異物検出処理)によってQ値に基づく異物検出を行う。これにより、送電装置100は、大きな電力を送電中に動作周波数を掃引する必要がなく、低ノイズな制御が可能となる。また、送電装置100は、動作周波数を掃引する場合には、動作周波数を切り替えた際に周波数が安定するまでの待ち時間が必要になるが、第二Q値測定は固定周波数のため当該待ち時間が必要なく、高速動作が可能となる。
【0077】
[変形例1]
実施形態1では、送電装置100が第二Q値測定(S602)の結果を第三異物検出処理における基準Q値(第三基準Q値)とした。変形例1では、送電装置100が受電装置102から受信した情報を元に、第三基準Q値を決定する構成について説明する。なお、本変形例で説明する送電装置100は、本変形例に特徴的な構成以外は、実施形態1で説明済みのいずれの構成であってもよい。
【0078】
図6Bは、送電装置100により実行される第三異物検出方法のための別の基準Q値作成処理のフローチャートである。なお、既に説明した構成に関しては、同一の符号を付与することにより説明を省略する。受電装置102は、FOD(Q1)に対してACKを受信した場合に、WPC規格で規定された送電コイル上に受電装置が置かれた状態で、第二Q値測定方法で測定された送電コイルのQ値(第二の特性値)を、基準値としてFOD Statusパケットに格納して送信する。当該FOD Statusパケットを本実施形態ではFOD(Q2)と表現する。なお、FOD Statusパケットに格納するQ値(Q2)は、あらかじめ受電装置102の不揮発メモリ(図示しない)に記憶されうるものとする。なお、第二の特性値は、異物がない状態で第二Q値測定方法により測定された送電コイルのQ値である。
【0079】
送電装置100は、FOD(Q1)を受信して、異物がない可能性が高いと判断した後に、FOD(Q2)を受信する(S617)。送電装置100は、FOD(Q2)を受信すると、当該パケットに格納されているQ値から、送電装置100自身に受電装置102が置かれた場合の自身の送電コイルのQ値を類推する。そして、送電装置100は、当該類推したQ値を、第三異物検出処理の基準Q値(第三基準Q値)に決定(設定)する(S620)。そして、送電装置100は、S602で測定した第二Q値と、第三基準Q値を、上述の手法で比較し(図9を参照)、閾値以内であれば(S618でYES)、ACKを送信する(S619)。また、送電装置100は、測定した第二Q値が閾値以内でないと判定した場合は(S618でNO)、ユーザに対してエラー通知を行い(S616)、処理を終了する。第三基準Q値が決定した後は、送電装置100は、上述した図7のフローに基づいて動作する。なお、送電装置100は、受信したFOD(Q2)に格納されているQ値を、第三異物検出処理の基準Q値(第三基準Q値)として決定(設定)してもよい。
【0080】
図10に、WPC規格で規定されているFOD Statusパケットのフレームフォーマットを示す。Bank1のbit0~1はmode(1000)であり、FOD Statusパケットの種別を指定することができる。本実施形態のFOD(Q2)を例えばmode2進数で「10」(10進数で「2」)とすることで、FOD(Q1)のmode「00」と区別することができる。また、第一Q値と第二Q値は同じQ値であっても、測定方法が異なるため、両者が一致する保証はない。よって、同じQ値であっても、測定方法ごとにQ値を送電装置100に送信する(FOD(Q1)およびFOD(Q2))ことにより、どちらか片方しか送信しない場合と比較して、より正確に各測定方法に基づいた異物検出処理を行うことが可能となる。
【0081】
また、本変形例の構成であっても、既に述べた効果と同様の効果があることは明らかである。さらに本変形例では、FOD(Q1)、FOD(Q2)に格納されているQ値と、第一Q値測定、第二Q値測定に基づいて、2種類の異物検出処理を行うようにした。そして、双方の異物検出処理で異物がない可能性が高いと判定しない限り、エラー通知後に終了(エラー終了)するようにした。それにより、一つの異物検出処理に基づいて異物検出を行う場合と比較して、異物検出の精度をより高めることが可能となる。
【0082】
また、本変形例では、2種類の異物検出処理で異物がない可能性が高いと判定しない限り、エラー終了するようにした。エラー終了に替えて、受電装置102の負荷電力(負荷が消費する電力)であり、送電装置100との間で合意された電力値を制限する構成でもよい。特に、上述の第二異物検出処理のCalibrationカーブを作成することなく、合意された電力値を5ワット以下に制限する構成でもよい。そのようにしてもすでに述べた効果と同様の効果をえることができる。
【0083】
また、本変形例では、受電装置102がFOD(Q1)とFOD(Q2)を個別に送信する構成とした。しなしながら、第一Q値測定と第二Q値測定で測定方法は異なるが、両者で測定したQ値が一致する保証がある場合は、受電装置102はFOD(Q2)を送信せず、FOD(Q1)だけを送信し、送電装置100はFOD(Q1)に基づいて第一異物検出処理と第三異物検出処理を実施してもよい。そうする事で、受電装置102は、FOD(Q2)を送信する必要がなく、処理を高速化することができる。
【0084】
[変形例2]
本変形例では、図6A図6BにおけるS602において複数の周波数で第二Q値測定を行う場合について説明する。なお、本変形例で説明する送電装置100は、本変形例に特徴的な構成以外は、実施形態1および変形例1で説明したいずれの構成であってもよい。
【0085】
例えば、図6A図6BにおけるS602において、110kHzから148.5kHzの周波数範囲の内、動作周波数が110kHz、125kHz、145kHzの3点で、送電装置100は、第二Q値測定を行い、3点の測定値を周波数に対して補間する。一例としては、動作周波数が100kHzの時のQ値が87、125kHzの時のQ値が84、145KHzの時のQ値が80だった時に、横軸に周波数、縦軸にQ値をプロットする。そして、3点の周波数とQ値を参考に、100kHzから125kHz間、125kHzから145kHz間、145kHzから148.5kHz間のQ値を線形補間する。送電装置100は、Calibration data Pointを作成する際の第二Q値測定(S701、S705)を行ったときの動作周波数に対応するQ値を、当該補完したデータから取得し、取得したQ値を、第三異物検出処理の基準Q値(第三基準Q値)として決定する。そして、送電装置100は、第二Q値測定の結果と第三基準Q値に基づいて第三異物検出処理を行う。
【0086】
こうすることで、すでに述べた効果に加え、動作周波数が逐次変化する可能性があるWPC規格において、Calibration data Pointを作成する度に動作周波数を考慮した第三異物検出処理が可能となる。これはQ値が110kHzから148.5kHzの間で無視できない周波数特性を持つ場合に、より正確な異物検出が可能になるという効果がある。
【0087】
[変形例3]
上述の実施形態1、変形例1、および変形例2では、受電装置102から送信されたRP1およびRP2に対する送電装置100の処理について説明した。変形例3では、受電装置102から送信されたRP0に対する送電装置100の処理について説明する。なお、本変形例で説明する送電装置100は、本変形例に特徴的な構成以外は、実施形態1、変形例1および2に説明したいずれの構成であってもよい。
【0088】
送電装置100は、RP0を受信した際に、第二異物検出処理と第三異物検出処理を実施する。送電装置100は、第二異物検出処理と第三異物検出処理の結果に基づいて、RP0に応答する。当該結果と応答の関係について説明する。
【0089】
第二異物検出処理と第三異物検出処理の結果が両方とも「異物がない可能性が高い」の場合、送電装置100は、RP0に対して異物がない可能性が高いことを示すACKで応答する。一方、第二異物検出処理の結果が「異物がない可能性が高い」で第三異物検出処理の結果が「異物がある可能性が高い」の場合、第二異物検出処理の結果が「異物がある可能性が高い」で第三異物検出処理の結果が「異物がない可能性が高い」の場合、および第二異物検出処理の結果が「異物がある可能性が高い」で第三異物検出処理の結果が「異物がある可能性が高い」の場合、はいずれも、送電装置100は、異物がある可能性が高いことを示すNAKで応答する。
【0090】
また、送電装置100は、NAKを送信することに替えて、受電装置102の負荷に供給する電力を下げさせるためのデータを、受電装置102に送信してもよい。具体的には、送電装置100は、受電装置102が上記のGuaranteed Powerに関する再交渉(Re-Negotiation)を行う能力があると判断した場合は、ACK、NAKとデータ長は同じであるが、異なるパターンでRP0に応答し、受電装置102に当該Guaranteed Powerに関する再交渉(Re-Negotiation)を行わせてもよい。また、送電装置100は、RP0に対して当該異なるパターンで応答した後、かつ、受電装置102が再交渉の要求を行う前に、交渉可能なGuaranteed Powerの最大値を受電装置に通知してもよい。また、当該交渉可能なGuaranteed Powerの最大値は、5ワットに制限してもよい。また、送電装置100は、受電装置102が当該Guaranteed Powerに関する再交渉(Re-Negotiation)を行う能力がないと判断した場合は、NAKを送信後、送電電力を5ワットに低減する、もしくは停止するなどしてもよい。
【0091】
以上のように実施形態1、変形例1および変形例2で説明した送電装置100の構成に、変形例3の構成を加えることで、これまで説明した効果に加え、第二異物検出を実施中に第三異物検出を行うことが可能となる。また、送電装置100は、2つの異物検出処理の結果、少なくともいずれかが異物がある可能性が高いと判断した場合に、送電電力を制限するようにした。こうすることで、より安全な無線電力伝送システムを実現することが可能となる。
【0092】
[変形例4]
実施形態1、変形例1、変形例2および変形例3では、異物によるQ値の変化と、当該変化に対する送電装置100の処理について説明した。しかしQ値の変化は、図1の矢印104に示すように、受電装置102が送電装置100上を移動し移動の前後で送電装置100と受電装置102の位置関係が変化した場合にも起こりうる。本変形例では、このような受電装置102の移動を考慮した構成について説明する。なお、本変形例で説明する送電装置は、本変形例に特徴的な構成以外は、先に説明したいずれの構成であってもよい。
【0093】
実施形態1、変形例1、変形例2および変形例3では、第三異物検出のための閾値は一つであった。送電装置100は、第三基準Q値に対して、a%低下したQ値を閾値(図9における閾値901)として、実測した第二Q値が当該閾値より低ければ、異物がある可能性が高いと判定し、そうでない場合は異物がない可能性が高いと判定した。本変形例では、第三異物検出の閾値を複数もつ構成について説明する。
【0094】
具体的には、第三基準Q値に対してb%(a>b)(第二の割合)低下したQ値を第二閾値として定義する。定義した2つの閾値に基づいて、送電装置100は以下の判定と対応を行う。なお、本変形例では、第三基準Q値に対してa%低下したQ値である閾値を、第一閾値と表現する。
・送電装置100は、第二Q値測定で測定されたQ値が、第三基準Q値と第二閾値との間である場合は、異物も受電装置の移動もない可能性が高いと判定し、ACKを送信する
・送電装置100は、第二Q値測定で測定したQ値が、第一閾値と第二閾値との間である場合は、異物はない可能性が高いが受電装置が移動した可能性は高いと判定する。送電装置100は、まだCalibration data Pointを作成していなければACKを送信する。すでに Calibration data Pointを作成済みであれば、送電装置100は、受電装置102に再Calibration(Re-Calibration)をさせる。
・送電装置100は、第二Q値測定で測定したQ値が、第一閾値より小さい場合は、異物がある可能性が高いと判定し、NAKを送信する。
【0095】
本変形例におけるCalibration処理について、図7を参照して説明する。S702において、第三異物検出処理部405は、S701で測定した第二Q値が、第三基準Q値と第二閾値との間である場合(第三基準Q値と第三基準Q値からb%低下したQ値の間である場合)は、異物も受電装置102の移動もない可能性が高いと判定し、通信部305はACKを送信する(S702でYES、S703)。一方、第三異物検出処理部405は、S701で測定した第二Q値が、第一閾値より小さい場合(第三基準Q値からa%低下したQ値より小さい場合)は、異物がある可能性が高いと判定し、通信部305は、NAKを送信する(S702でNO、S708)。また、S702において、第三異物検出処理部405は、S701で測定した第二Q値が、第一閾値と第二閾値との間である場合(第三基準Q値からb%低下したQ値と第三基準Q値からa%低下したQ値の間である場合)は、異物はない可能性が高いが受電装置102が移動した可能性は高いと判定する。S702の時点ではRP1に相当する最初のCalibration data Pointは作成されていないので、送電装置100の通信部305は、ACKを送信する(S702でYES、S703)。
【0096】
また、S706において、第三異物検出処理部405は、S705で測定した第二Q値が、第三基準Q値と第二閾値との間である場合、異物も受電装置102の移動もない可能性が高いと判定し、通信部305は、ACKを送信する(S706でYES、S707)。一方、S706において、第三異物検出処理部405は、S705で測定した第二Q値が第一閾値より小さい場合が、異物がある可能性が高いと判定し、通信部305は、NAKを送信する(S706でNO、S708)。また、S706において、第三異物検出処理部405は、S705で測定した第二Q値が、第一閾値と第二閾値との間である場合は、異物はない可能性が高いが受電装置102が移動した可能性は高いと判定する。送電装置100は、S703でACKを送信した時点で、RP1に対する最初のCalibration data Pointが作成されているので、送電装置100はRP1に関して、受電装置102に再Calibrationを実施させる。受電装置102に再Calibrationを実施させる手段としては、送電装置100の通信部305が、ACK、NAKとデータ長は同じであるが異なるパターンで、S704で受信したRP2に応答するなどがある。
【0097】
このように、RP2への応答としてACK、NAKとデータ長は同じであるが異なるパターンを受信した受電装置102は、RP2の再送を行わず、再度RP1を送信する。受電装置102が再度RP1を送信することは、送電装置100がS703ですでに作成したRP1に対するCalibration data Pointを無効もしくは破棄して、新たにRP1に対するCalibration data Pointを作成することを意味する。送電装置100の通信部305が、当該ACK、NAKとデータ長は同じであるが異なるパターンを送信後、一定時間以内にRP1を受信した場合、Calibration処理部407は、すでに作成したCalibration data PointRP1を無効もしくは破棄する。そして、第三異物検出処理部405は、第三異物検出処理の基準Q値(第三基準Q値)を、S705において測定された第二Q値に更新する。その後、処理は、S701(第二Q値測定処理)に戻る。そして、第三異物検出処理部405は、S701で測定した第二Q値と、当該更新された第三基準Q値に基づく第一閾値と第二閾値とを比較する。第三異物検出処理部405は、測定した第二Q値が第三基準Q値と第二閾値との間である場合、異物も受電装置102の移動もない可能性が高いと判定し、通信部305は、ACKを送信する。以降はすでに説明した手順にしたがって、Calibration処理部407は、Calibrationカーブを作成し、第二異物検出処理部404は、第二異物検出処理を行う。
【0098】
本変形例で説明した再Calibration処理の効果について、図12を用いて説明する。送電装置100はRP1に対するCalibration data Pointである点1200を作成済みであるとする。送電装置100は、受電装置102からCalibration data Pointである点1204に相当するRP2を受信した直後の第三異物検出処理において(S705、S706)、異物はない可能性が高いが受電装置102が移動した可能性は高いと判定する。送電装置100は、RP2に対してACKを送信した場合は、Calibrationカーブとしてすでに説明した直線1206を作成することになり正確なCalibrationカーブが得られず、正確な異物検出は不可能になる。よって送電装置100は、RP2に対して、ACK、NAKとデータ長は同じであるが異なるパターンで応答し、受電装置102に再Calibrationを実施させる。そして送電装置100は、点1207に相当するRP1を受信したときに、すでに作成したCalibration data Pointである点1200を無効もしくは破棄し、新たに点1207をCalibration data Pointとして受け入れる。そして、RP2に相当するCalibration data Pointである点1204を受け入れたときに、受電装置102が移動した場合のCalibrationカーブとして直線1208を作成し、以降は直線1208に基づいて第二異物検出処理を実施する。なお、送電装置100は、受電装置102が移動した判定したとしても、最初のCalibration data Point(点1200)が作成されていない場合は、RP1を受信したときに、点1207に相当するCalibration data Pointを受け入れる。
【0099】
このように、本変形例によれば、送電装置100は、第三異物検出処理におけるQ値に基づいて、Operating Volumeに異物が存在するのか、それとも受電装置102が移動したのかを判定した。そして、受電装置102が移動しており、かつすでにCalibration data Pointが作成されている場合は、送電装置100は、受電装置102に再Calibrationを実施させるようにした。これにより、すでに説明した効果に加え、受電装置102の移動によるQ値の変化も考慮した、より正確な第二異物検出処理が可能となる。
【0100】
また、上記例では、送電装置100は、ACK、NAKとデータ長は同じであるが異なるパターンを送信することで、受電装置102に再Calibrationを実施させ、新たにRP1を受信した時点で、すでに作成したCalibration data Pointを無効もしくは破棄するようにした。これに替えて、ACK、NAKとデータ長は同じであるが異なるパターンを送信した時点で、すでに作成したCalibration data Pointを無効もしくは破棄するようにしても同様の効果が得られる。
【0101】
また、上記例では、送電装置100は、第二Q値測定で測定した第二Q値が、第一閾値と第二閾値との間である場合(第三基準Q値からb%低下したQ値と第三基準Q値からa%低下したQ値の間である場合)は、異物はない可能性が高いが受電装置102が移動した可能性は高いと判定した。そして、すでにCalibration data Pointを作成済みであれば、送電装置100は、受電装置102に再Calibrationをさせるために、ACK、NAKとデータ長は同じであるが異なるパターンを送信するようにした。ここで、送電装置100は、さらに受電装置102が再Calibrationに対応しているか(ACK、NAKとデータ長は同じであるが異なるパターンを理解できるか)を判定し、対応していると判定した場合に、ACK、NAKとデータ長は同じであるが異なるパターンを送信するようにしてもよい。
【0102】
ここでいう「再Calibrationに対応しているか」とは、受電装置102が、ACK、NAKとデータ長は同じであるが異なるパターンを受信した場合に、RP2ではなくRP1を送信すべきと判断する機能を有するかとも言い換えることができる。また、例えば、受電装置102が送信するConfigurationパケットの予約(Reserved)領域に再Calibrationに対応しているかどうかを示すビットを設けてもよい。例えば、WPC規格v1.2.3のConfigurationパケットで予約領域となっているBank2のbit5を再Calibrationに対応しているかどうかを示すビットとしてもよい。具体的には、受電装置102は、再Calibrationに対応していれば「1」を、そうでなければ(対応していいなければ)「0」を当該パケットに格納する。これにより、送電装置100は、当該パケットを受信することで、受電装置102が再Calibrationに対応しているかを判断することができる。
【0103】
また、WPC規格v1.2.3では、送電装置は、すでにRP1を受信している状態で、再度PR1を受信した場合は、再度受信したRP1に対してNAKを送信する規定がある。しかし、本変形例における送電装置100は、受電装置102が再Calibrationに対応しており、受電装置102に再Calibrationを実施させた場合には、再度受信したRP1に対して、第二Q値測定と第三異物検出処理に基づいてACKもしくはNAKを送信するようにしてもよい。そして、受電装置102が再Calibrationに対応していない場合は、送電装置100は、再度受信したRP1に対してNAKを送信するようにしてもよい。このようにすることで、これまで説明した効果に加えて、後方互換性を確保することが可能となる。
【0104】
また、本変形例では、第二Q値測定で測定された第二Q値が、第一閾値と第二閾値との間である場合(第三基準Q値からb%低下したQ値と第三基準Q値からa%低下したQ値の間である場合)であり、かつ、すでに Calibration data Pointを作成済みであれば、送電装置100は受電装置102に再Calibration(Re-Calibration)をさせるようにした。そして、すでにCalibration data Pointを作成済みである例として、RP2を受信したとき(すでにRP1に相当するCalibration data Pointがある)について説明した。当該処理は、RP0を受信したときに適用されてもよい。具体的には、受電装置102がRP1を送信し、ACKを受信したのちに、RP2を送信する前にPR0を送信した場合や、送電装置100がすでにCalibrationカーブを作成済みで、第二異物検出処理を行っている場合が考えられる。それらの場合も、送電装置100は、受電装置102の移動を第三異物検出処理に基づいて検出し、再Calibrationを行うようにすることで、上記と同様の効果を得ることができる。
【0105】
また、本変形例では第三異物検出処理のみで前記再Calibrationの必要性を判断した。しかしこれは、第二異物検出処理の結果との組み合わせで判断してもよい。具体的には、送電装置100は前記RP0を受信したときに、第二異物検出の結果異物がない可能性が高いが、第三異物検出処理の結果、第二Q値が第二閾値よりも小さい場合は、再Calibrationが必要と判定してもよい。そして、送電装置100は受電装置102にすでに説明した再Calibrationさせるための処理を実施してもよい。
【0106】
また、送電装置100は第二異物検出の結果異物がある可能性が高いと判断した場合は、第三異物検出処理の結果によらず、前記RP0に対してNAKで応答してもよい。また、送電装置100は前記RP0を受信したときに、第二異物検出の結果異物がない可能性が高く、第三異物検出処理の結果第二Q値が第二閾値よりも大きい場合は、異物がない可能性が高くかつ再Calibrationも必要ないと判定し、前記RP0に対してACKで応答してもよい。以上のような構成とすることで、送電装置100は第二異物検出処理と第三異物検出処理の双方の結果に基づいた制御が可能となる。
【0107】
(その他の実施形態)
実施形態1および変形例1~変形例4では、第一Q値測定後に第二Q値測定を行うようにしたが、これは第二Q値測定が先であっても同様の効果が得られる。また、第二Q値測定は、RP1、RP2を受信した後に実施するようにしたが、これはRP1、RP2の測定前に実施しても同様の効果を得ることができる。また、第三異物検出処理のための第三基準Q値は、測定可能な電気特性であればよく、第二Q値そのものではなくてもよい。例えば、点1104と点1105の時間と電圧値の傾き(A-A/T-T)であってもよい。この場合は、送電装置100は、第二Q値測定において、Q値ではなく、時間と電圧値の傾きを算出する。この場合は、閾値901はQ値ではなく、時間と電圧値の傾きでもいい。また、第二基準Q値に替えて、送電コイルと受電コイル間の結合の強さを表す結合係数が用いられてもよい。この場合は、送電装置100は、第二Q値測定において、Q値ではなく結合係数を算出する。この場合は、閾値901はQ値ではなく、結合係数でもいい。いずれの構成でも、すでに述べた効果と同等の効果が得られる。
【0108】
また、Q値ではなく、時間差と、電流値の差あるいは電流値の比率とに基づいて、第三異物検出処理が行われてもよい。また、時間差と、電圧値の比率とに基づいて、第三異物検出処理が行われてもよい。
【0109】
また、受電装置102は、FOD(Q2)を送電装置に送信する際に、Q値をFOD Statusパケットに格納して送信したが、これに加えて第二Q値を測定した周波数を送電装置100に送信してもよい。また、第二Q値と周波数は、複数の第二Q値とそれらを測定した複数の周波数の組であってもよい。受電装置102は、第二Q値と周波数を同一パケット内に格納してもよいし、別のパケットで送信してもよい。受電装置102は、別のパケットで送信する際は、FOD Status Packet内のmodeを「11(2進)」として、前記の周波数に関する情報を送信してもよい。また、当該周波数に関する情報は、受電装置102の負荷に供給する電圧値と電流値およびそれらから算出される値(インピーダンス、負荷抵抗、電力)であってもよい。
【0110】
また、実施形態1および変形例1~変形例4では第二Q値測定は送電コイルの電圧値を測定する構成としたが、これは電流値であってもよい。また、最初の第二Q値測定(S602)はDigital Pingの送電を開始(S603)する前に実施するものとして説明したが、これは第二Q値測定(S602)をDigital Pingの送電を開始(S603)した後に実施してもよい。
【0111】
また、実施形態1および変形例1~変形例4では、最初の第二Q値測定をSignal Strengthを受信した直後に実施してもよい。こうすることで、前記Operating Volumeに受電装置が存在する状態に限って第二Q値測定を行うため、異物のみがある状態で第二Q値測定を行うという無駄を防止することができる。
【0112】
また、実施形態1および変形例1~変形例4の送電装置100は、第三異物検出処理に基づいて前記CE(+)を受信したときの処理を規定してもよい。具体的には、第三異物検出の結果異物が存在する可能性が高い、もしくは受電装置102に再Calibrationを実施させると判定した場合は、CE(+)に対して送電部303の設定値を変更し送電電力を上げる処理を行わないようにしてもよい。さらに、送電装置100はCE(+)を受信する度に第二Q値測定と第三異物検出処理を実施してもよい。そのようにすることで、従来はRP0、RP1およびPR2を受信したサイクルでのみ実施していた異物検出を、より短いサイクルで実施することが可能となる。
【0113】
また、実施形態1および変形例1~変形例4では、第三異物検出処理の閾値は、第一異物検出処理の閾値と異なる別個のものとして説明した。しかし第三異物検出処理の閾値は、第一異物検出処理の閾値と同一であってもよく、第一異物検出処理の閾値を流用してもよい。
【0114】
また、実施形態1および変形例1~変形例4では、第二Q値測定の際に送電装置100は送電を一旦停止するものとして説明したが、これは送電電力を制限する構成でもよい。具体的には送電電力をゼロでない任意の値に下げてもよい。
【0115】
[その他の実施形態]
また、本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0116】
具体的には、図5のフローチャ-トで示される処理の少なくとも一部がハードウェアにより実現されてもよい。ハードウェアにより実現する場合、例えば、所定のコンパイラを用いることで、各ステップを実現するためのプログラムからFPGA上に自動的に専用回路を生成すればよい。FPGAとは、Field Programmable Gate Arrayの略である。また、FPGAと同様にしてGate Array回路を形成し、ハードウェアとして実現するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0117】
100 送電装置、102 受電装置、303 送電部、304 送電コイル、
401 第二Q値測定部、403 第三異物検出処理部
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11
図12