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特許7565713挿し口を有する管体及び挿し口を有する管体の製造方法
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  • 特許-挿し口を有する管体及び挿し口を有する管体の製造方法 図1
  • 特許-挿し口を有する管体及び挿し口を有する管体の製造方法 図2
  • 特許-挿し口を有する管体及び挿し口を有する管体の製造方法 図3
  • 特許-挿し口を有する管体及び挿し口を有する管体の製造方法 図4
  • 特許-挿し口を有する管体及び挿し口を有する管体の製造方法 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】挿し口を有する管体及び挿し口を有する管体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/04 20060101AFI20241004BHJP
   F16L 21/00 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
B23K9/04 Q
F16L21/00 D
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020105893
(22)【出願日】2020-06-19
(65)【公開番号】P2022000310
(43)【公開日】2022-01-04
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【氏名又は名称】田川 孝由
(74)【代理人】
【識別番号】100167380
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 隆
(72)【発明者】
【氏名】太田 慧
(72)【発明者】
【氏名】山本 尚嗣
(72)【発明者】
【氏名】高 業飛
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-156534(JP,A)
【文献】特開昭62-124077(JP,A)
【文献】特開2008-185114(JP,A)
【文献】特開平09-150265(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/04
F16L 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管軸方向一端の挿し口(1)に半径方向外側に突出する突部(10)を備えた管体(P)の製造方法において、
第1の溶接材料(21)及び第2の溶接材料(22)を用い、前記第1の溶接材料(21)に通電させて発生したアークにより前記挿し口(1)の外面(1a)に溶融部(W)を形成し、前記溶融部(W)が硬化する前に前記第2の溶接材料(22)を非通電で前記溶融部(W)に宛がうことにより、前記突部(10)を溶接肉盛りで形成する管体の製造方法。
【請求項2】
前記第1の溶接材料(21)及び前記第2の溶接材料(22)による溶接金属と前記挿し口(1)の母材とが融合した溶け込み部(11)を、前記挿し口(1)の外面(1a)から前記挿し口(1)の母材の肉厚(t0)に対して10%以上80%未満の深さに形成する請求項1に記載の管体の製造方法。
【請求項3】
管軸方向一端の挿し口(1)に半径方向外側に突出する突部(10)を備え遠心力鋳造により製造された管体(P)において、
前記挿し口(1)に設けられ前記挿し口(1)の外面(1a)よりも半径方向外側に突出する溶接金属からなる突部(10)と、
前記突部(10)の内径側に位置し前記挿し口(1)の母材と溶接金属とが融合した溶け込み部(11)と、を備え、
前記溶け込み部(11)は、前記挿し口(1)の外面(1a)から前記挿し口(1)の母材の肉厚(t0)に対して10%以上80%未満の深さに至っており、
前記突部(10)は、耐震管継手部の抜け止め機能を発揮するようにその外面に円筒部(10d)が成形されている管体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、挿し口を有する管体、及び、挿し口を有する管体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、各種の流体を移送するために使用される管体として、その継ぎ手部に伸縮機能と離脱防止機能を備えたものがある。この種の継ぎ手構造は耐震管継手とも呼ばれ、例えば、図5に示すように、管体Pの挿し口1の外周に設けた突部10が、対向する別の管体Pの受口2の内周溝に嵌め込んだロックリング4に係合して、抜け止め機能を発揮するようになっている。また、挿し口1の突部10が、受口2の内面の奥端面3とロックリング4との間で所定距離だけ(図中の区間A及び区間Bに相当)移動することで、管軸方向への伸縮が可能となっている。また、挿し口1と受口2との間にゴム輪5を備えたことで、挿し口1の外面1aと受口2の内面2aとの間の液密性も確保されている。挿し口1を有する管体Pとして、例えば、特許文献1に記載されたものがある。
【0003】
挿し口の外周の突部は、管体の外周に金属製のリングを嵌めて、そのリングを管体の外面に溶接等で固定するのが一般的である。リングを管体の外面に溶接して挿し口の突部を形成する手法として、例えば、特許文献2に記載されたものがある。また、溶接金属を肉盛りすることによって挿し口の突部を形成する手法として、例えば、特許文献3に記載されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-77788号公報
【文献】特開平9-122910号公報
【文献】特許第6082087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献2のように、リングの溶接で突部を形成する手法は、リングの嵌め込みに手間がかかる上、溶接作業とその溶接前後の処理に多くの時間が必要であるという問題がある。また、特許文献3のように、溶接金属の肉盛りで突部を形成する手法は、ビードの溶接量が多いため、溶接に時間を要するという問題がある。また、溶接を伴う手法の場合、溶接箇所の品質を維持することが難しく、施工不良によって母材である管体に対して過度に深く溶け込みを生じさせて、材料を無駄にしたり管体を破断しやすくしてしまう場合もある。
【0006】
そこで、この発明の課題は、挿し口の外周の突部を溶接により容易に且つ精度よく形成することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、この発明は、管軸方向一端の挿し口に半径方向外側に突出する突部を備えた管体の製造方法において、第1の溶接材料と第2の溶接材料を用い、前記第1の溶接材料に通電させて発生したアークにより前記挿し口の外面に溶融部を形成し、前記溶融部が硬化する前に前記第2の溶接材料を非通電で前記溶融部に宛がうことにより前記突部を溶接肉盛りで形成する管体の製造方法を採用した。
【0008】
このとき、前記第1の溶接材料及び前記第2の溶接材料による溶接金属と前記挿し口の母材とが融合した溶け込み部を、前記挿し口の外面から前記挿し口の母材の肉厚に対して10%以上80%未満の深さに形成する構成を採用することができる。
【0009】
また、上記の課題を解決するために、この発明は、管軸方向一端の挿し口に半径方向外側に突出する突部を備えた管体において、前記挿し口に設けられ前記挿し口の外面よりも半径方向外側に突出する溶接金属からなる突部と、前記突部の内径側に位置し前記挿し口の母材と溶接金属とが融合した溶け込み部と、を備え、前記溶け込み部は、前記挿し口の外面から前記挿し口の母材の肉厚に対して10%以上80%未満の深さに至っている管体を採用した。
【発明の効果】
【0010】
この発明は、挿し口の外周の突部を溶接により容易に且つ精度よく形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】この発明の一実施形態を示す断面図
図2】溶接時における母材と溶接装置の位置関係を示す断面図
図3】溶接時における母材と溶接装置の位置関係を示す斜視図
図4図1の変形例を示す断面図
図5】継手部の縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0012】
この発明の一実施形態を図1図4に基づいて説明する。この実施形態は、管軸方向一端の挿し口1に半径方向外側に突出する突部10を備えた管体P、及び、その管体Pの製造方法である。管体Pの主たる構成は、従来例の説明で利用した図5の通りであるのでその説明を省略し、以下、この発明の特徴である挿し口1の突部10の構成を中心に説明する。
【0013】
管体Pは、管軸方向一端に挿し口1を、管軸方向他端に受口2を備えるものであり、挿し口1には、挿し口1の外面1aよりも半径方向外側に突出する突部10を、管軸周り全周に亘って連続的に備えている(図5参照)。この突部10は、溶接金属によって形成された溶接肉盛りで構成されている。すなわち、挿し口1を構成する金属製の母材に対して溶接肉盛り(溶接ビード)が形成されており、その溶接金属により形成された部分が突部10となっている。ここで、突部10は溶接金属から構成されているとしているが、突部10を構成する素材に溶接金属内に溶融した挿し口1の母材が含まれていることを排除するものではない。
【0014】
また、図1及び図4に示すように、突部10の内径側には、挿し口1の外面1aよりも内径側に深さt1だけ入り込んで、挿し口1の母材と溶接金属とが融合した溶け込み部11を備えている。溶け込み部11の最大の深さt1は、挿し口1の外面1aから挿し口1の母材の肉厚t0に対して10%~80%の深さに至っている。
【0015】
挿し口1の突部10を形成する前の管体Pは、遠心鋳造法によって製造される。遠心鋳造法は、円筒状の金型を駆動力によって回転するローラ上に載せて、金型を軸周りに回転させながら、その金型内に金属の溶湯を注入し、その溶湯を硬化させることで管体Pを形成する。金型には、注入された溶湯が外部に漏れ出ることを防止する堰が設けられている。硬化後の管体Pは金型の外に引き抜かれる。管体Pは、所定の熱処理等によって材質を整えられ、その後、挿し口1の突部10の加工が行われる。
【0016】
突部10の加工を行う溶接装置20を、図2及び図3に示す。この溶接装置20は、コールドタンデム溶接を行うための装置であり、アーク溶接用の第1の溶接材料21を通電状態で供給するアーク溶接用トーチ23と、非通電状態の第2の溶接材料22を供給する溶接材料供給装置24とを備えている。アーク溶接用トーチ23と溶接材料供給装置24とは、連結部材25で連結されて所定の間隔に維持されている。この所定の間隔は、調整により増減することもできる。
【0017】
アーク溶接用トーチ23は、送り出し装置28によって第1の溶接材料21を母材である挿し口1の外面1aの溶接位置aに送り出す。第1の溶接材料21は電流を流す電極として機能し、電源27から供給された溶接電流が第1の溶接材料21に通電することで、母材との間にアークを発生させる。第1の溶接材料21としては、周知の溶接ワイヤ、例えば、FeNi φ0.8~1.6mmを用いることができる。このほかにも、第1の溶接材料21として、周知のソリッドワイヤ、フラックスワイヤ、各種溶接棒、帯状電極等、各種の素材を用いることができる。この実施形態では、第1の溶接材料21として溶接ワイヤを用いているので、以下これを第1の溶接ワイヤ21と称する。
【0018】
溶接材料供給装置24は、送り出し装置26によって第2の溶接材料22を、通電することなく、母材である挿し口1の外面の溶接位置bに向かって送り出す。第2の溶接材料22としては、例えば、FeNi φ0.8~1.6mmを用いることができる。このほかにも、第2の溶接材料22として、周知のソリッドワイヤ、フラックスワイヤ、各種溶接棒、帯状電極等、各種の素材を用いることができる。この実施形態では、第2の溶接材料22として溶接ワイヤを用いているので、以下これを第2の溶接ワイヤ22と称する。
【0019】
つぎに、この実施形態に係る管体Pの製造方法に関し、特に、挿し口1の突部10の形成方法について説明する。
【0020】
図3に示すように、管体Pは、把持装置Hによって保持されて、図中に矢印Rで示すように、管軸周りに回転することができる。この管体Pの回転により、連結部材25で連結された状態のアーク溶接用トーチ23及び溶接材料供給装置24が、母材である管体Pの挿し口1に対して管周に沿って相対移動する。この相対移動の際に、溶接材料供給装置24は、管体Pの回転方向Rに沿って、アーク溶接用トーチ23よりも前方に配置されることが望ましい。すなわち、第1の溶接ワイヤ21の位置aは、挿し口1の外面1a上での溶接箇所の進行方向(管体Pの回転方向Rと反対の方向)に対して、第2の溶接ワイヤ22の位置bよりも前方であることが望ましい。
【0021】
このように、第1の溶接ワイヤ21と第2の溶接ワイヤ22を用い、第1の溶接ワイヤ21に通電させて発生したアークにより、図2に示すように、挿し口1の外面1aに溶融部Wを形成し、その溶融部Wが硬化する前に、第2の溶接ワイヤ22を非通電の状態で溶融部Wに宛がう。これにより、挿し口1の外面1aに、外径側へ突出する突部10が溶接肉盛り(溶接ビード)によって形成される。このとき、第2の溶接ワイヤ22は非通電の状態であるが、第1の溶接ワイヤ21のアークによって生じた溶融部Wに宛がわれることで熱を帯び、その第2の溶接ワイヤ22の金属が溶け出して、溶接金属として溶融部Wに供給されている。
【0022】
また、同時に、第1の溶接ワイヤ21及び第2の溶接ワイヤ22による溶接金属と、挿し口1の母材とが融合した溶け込み部11が、挿し口1の外面1aから挿し口1の母材の肉厚t0に対して10%以上80%未満の深さに形成される。ここで、溶け込み部11の最大の深さt1の母材の肉厚t0に対する比率は、20%以上60%未満であればさらに好ましい。この深さの比率が低すぎると溶け込み不足によって突部10の強度が不足する可能性があり、また、この深さの比率が大きすぎると母材が貫通してしまう可能性があるからである。このような深さの比率を設定するのに際し、上記のコールドタンデム溶接の手法が最適であることを、発明者らは発見した。
【0023】
すなわち、挿し口1の突部10を溶接肉盛りで形成するに際し、コールドタンデム溶接を用いたことにより、単位時間当たりの溶接金属の供給量が増加し、単位時間当たりの溶融量(溶接速度)の増大を図ることができる。また、非通電の第2の溶接ワイヤ22を溶融部Wに添えることにより、溶融部Wにおける金属素材の溶融プールの冷却を図ることができ、溶け込み深さの低減と、溶接金属のたれ防止を可能としている。これらの効果により、従来のリングを用いた溶接手法と同等の速度で、所望の突部10のビード形状を得ることができた。
【0024】
突部10の完成形状は、図1に鎖線で示すように、中央のフラットな円筒部10dを挟んで、図中右側の挿し口1の先端1b側は、その先端1bに向かって徐々に縮径するテーパ面10cである。また、後端側は、挿し口1の外面1aとの間で段部10bを構成している。これにより、突部10の断面は、管軸を通る任意の断面において台形状となっている。
【0025】
溶接直後の突部10の形状は、図1に実線で示すように、完成形状の突部10よりもやや大きいビード表面12を有する断面形状であるので、これを削って完成形状に成形していく。なお、図1では、突部10の先端10aが挿し口1の先端1bに一致しているので、図中の符号Sで示すラインで管体Pを切断する構成となっているが、この切断は突部10の先端10aと挿し口1の先端1bとの位置関係に応じて行えばよく、必須の工程ではない。完成形状への突部10の成形は、高周波グラインダや旋盤加工を組み合わせて行うことができる。
【0026】
なお、図1では、管軸周りに2回転させる間に全周の突部10を仕上げる2層溶接を行ったことにより、溶接直後の突部10の形状は、ビード表面12に2つの山部12a,12bを有する形態である。また、溶け込み部11も同様に、溶け込み深さが周囲よりもやや深い谷部11a,11bを2つ有する形態である。このような2層溶接、あるいは、3層以上の溶接を行うことで、突部10の成形はより容易に且つより精度のよいものとなる。ただし、図4に示すように、管軸周りに1回転させる間に全周の突部10を仕上げる1層溶接を行うことも可能である。1層溶接の場合、溶接直後の突部10の形状は、ビード表面12に1つの山部12aを有し、溶け込み部11に、溶け込み深さが周囲よりもやや深い谷部11aを1つ有する形態である。
【0027】
実験では、第1の溶接ワイヤ21及び第2の溶接ワイヤ22として、FeNi φ1.6mmを用い、管厚6mmの管体Pの周面での回転速度25mm/sに対して、第1の溶接ワイヤ21の供給量を900cm/min、第2の溶接ワイヤ22の供給量を500cm/minとして、2層溶接で溶接金属量を突部10全体で160gとし、管厚に対する溶け込み深さの比率約33%を確保して良好な結果を得た。また、1層溶接では、同じくFeNi φ1.6mmを用い、管体Pの周面での回転速度12.5mm/sに対して、第1の溶接ワイヤ21の供給量を900cm/min、第2の溶接ワイヤ22の供給量を600cm/minとして、溶接金属量を突部10全体で170gとし、管厚に対する溶け込み深さの比率約60%を確保して良好な結果を得た。この点、従来のリングを用いた突部10の形成方法では、FeNi φ1.2mmを用いた場合、管体Pの周面での回転速度25mm/sに対して、溶接ワイヤの供給量を920cm/minとした場合、溶接金属量は突部10全体で59gであった。すなわち、この発明において、コールドタンデム溶接を用いたことにより、単位時間当たりの溶融量(溶接速度)の増大が実現していることが理解できる。
【0028】
この実施形態では、挿し口1の突部10を形成する前の管体Pを遠心鋳造法によって製造したが、突部10を形成する前の管体Pの製造方法は、遠心鋳造法以外、例えば、重力で鋳型内に溶湯を注ぎ込んで凝固させる置注鋳造法等であってもよい。また、突部10を形成する挿し口1が、溶接に対応した金属製のものであれば、種々の管体Pにこの発明を適用できる。
【符号の説明】
【0029】
1 挿し口
1a 外面
10 突部
11 溶け込み部
20 溶接装置
21 第1の溶接材料(第1の溶接ワイヤ)
22 第2の溶接材料(第2の溶接ワイヤ)
P 管体
図1
図2
図3
図4
図5