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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】解析装置、解析方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 17/18 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
G06F17/18 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020120900
(22)【出願日】2020-07-14
(65)【公開番号】P2022017988
(43)【公開日】2022-01-26
【審査請求日】2023-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 太
【審査官】坂東 博司
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-191359(JP,A)
【文献】特開2008-282272(JP,A)
【文献】特開平05-040765(JP,A)
【文献】特開平04-135249(JP,A)
【文献】特開2020-013511(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 17/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着目事象の一因となる複数のイベントの発生とイベントの発生の確率が変動する変数と、前記着目事象の発生の有無との関係を取得する取得部と、
複数のイベントの発生と変数との関係を複数の変動パラメータとし、前記複数の変動パラメータを累積確率に変換する変換部と、
複数の前記累積確率と前記累積確率での前記着目事象の発生有無を確率座標内にマッピングするマッピング部と、
マッピングしたマッピング座標に基づき、前記確率座標内で、前記着目事象が発生すると判定される領域を特定する領域特定部と、
マップ全体の領域の大きさに対する着目事象が発生する領域の大きさに基づいて、前記着目事象の発生確率を算出する算出部と、を備える解析装置。
【請求項2】
前記マッピング座標での前記着目事象の発生の確率は、0または1である請求項1に記載の解析装置。
【請求項3】
前記マッピング部は、初期サンプリング点として、複数の前記累積確率の組合せに応じた前記着目事象の発生有無を前記確率座標の単位あたりそれぞれに1つずつマッピングする請求項1又は請求項2に記載の解析装置。
【請求項4】
前記マッピング部は、前記初期サンプリング点に追加する追加のサンプリング点を決定し、追加サンプリング点の複数の前記累積確率の組合せに応じた前記着目事象の発生有無をマッピングする請求項3に記載の解析装置。
【請求項5】
前記マッピング部は、関数に基づいて、前記確率座標の極値付近の一単位を他の領域よりも細分化する請求項1又は請求項2に記載の解析装置。
【請求項6】
前記算出部は、前記領域から前記着目事象の発生確率を算出し、前記着目事象の発生確率が以前の算出結果から収束したか否かを判定する収束判定部を有する請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の解析装置。
【請求項7】
着目事象の一因となる複数のイベントの発生とイベントの発生の確率が変動する変数と、前記着目事象の発生の有無との関係を取得するステップと、
複数のイベントの発生と変数との関係を複数の変動パラメータとし、前記複数の変動パラメータを累積確率に変換するステップと、
複数の前記累積確率と前記累積確率での前記着目事象の発生有無を確率座標内にマッピングするステップと、
マッピングしたマッピング座標に基づき、前記確率座標内で、前記着目事象が発生すると判定される領域を特定するステップと、
マップ全体の領域の大きさに対する着目事象が発生する領域の大きさに基づいて、前記着目事象の発生確率を算出するステップと、を備える解析方法。
【請求項8】
コンピュータに、
着目事象の一因となる複数のイベントの発生とイベントの発生の確率が変動する変数と、前記着目事象の発生の有無との関係を取得するステップと、
複数のイベントの発生と変数との関係を複数の変動パラメータとし、前記複数の変動パラメータを累積確率に変換するステップと、
複数の前記累積確率と前記累積確率での前記着目事象の発生有無を確率座標内にマッピングするステップと、
マッピングしたマッピング座標に基づき、前記確率座標内で、前記着目事象が発生すると判定される領域を特定するステップと、
マップ全体の領域の大きさに対する着目事象が発生する領域の大きさに基づいて、前記着目事象の発生確率を算出するステップと、を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、解析装置、解析方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、原子力発電設備、化学プラント等の各種プラント設備では、事故の可能性等を評価するため、種々の解析を行う。解析ではモンテカルロ法など、ランダムサンプリングで無作為で変数の値を選定し、選定した値を用いて試行計算を行う方法がある。特許文献1には、プラント設備を構成する機器ごとの故障確率を演算し、故障確率に応じてプラント設備の安全管理を行う技術が記載されている。特許文献2には、半導体装置の経時的な絶縁故障破壊寿命を演算し、絶縁故障破壊寿命を高精度で予測する技術が記載されている。特許文献3には、歩留まりの演算を用いるシミュレーションとして、1つの欠陥が複数の不良を引き起こす場合の高速な歩留まりシミュレーションを行う技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-191359号公報
【文献】特開2008-282272号公報
【文献】特開平5-40765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、ランダムサンプリングを用いた解析では、多くの試行計算回数を要する。本開示は、少ない試行計算回数で着目事象の発生確率を計算できる解析装置、解析方法及びプログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の解析装置は、着目事象の一因となる複数のイベントの発生とイベントの発生の確率が変動する変数と、前記着目事象の発生の有無との関係を取得する取得部と、複数のイベントの発生と変数との関係を複数の変動パラメータとし、前記複数の変動パラメータを累積確率に変換する変換部と、複数の前記累積確率と前記累積確率での前記着目事象の発生有無を確率座標内にマッピングするマッピング部と、マッピングしたマッピング座標に基づき、前記確率座標内で、前記着目事象が発生すると判定される領域を特定する領域特定部と、前記領域から前記着目事象の発生確率を算出する算出部と、を備える。
【0006】
本開示の解析方法は、着目事象の一因となる複数のイベントの発生とイベントの発生の確率が変動する変数と、前記着目事象の発生の有無との関係を取得するステップと、複数のイベントの発生と変数との関係を複数の変動パラメータとし、前記複数の変動パラメータを累積確率に変換するステップと、複数の前記累積確率と前記累積確率での前記着目事象の発生有無を確率座標内にマッピングするステップと、マッピングしたマッピング座標に基づき、前記確率座標内で、前記着目事象が発生すると判定される領域を特定するステップと、前記領域から前記着目事象の発生確率を算出するステップと、を備える。
【0007】
本開示のプログラムは、コンピュータに、着目事象の一因となる複数のイベントの発生とイベントの発生の確率が変動する変数と、前記着目事象の発生の有無との関係を取得するステップと、複数のイベントの発生と変数との関係を複数の変動パラメータとし、前記複数の変動パラメータを累積確率に変換するステップと、複数の前記累積確率と前記累積確率での前記着目事象の発生有無を確率座標内にマッピングするステップと、マッピングしたマッピング座標に基づき、前記確率座標内で、前記着目事象が発生すると判定される領域を特定するステップと、前記領域から前記着目事象の発生確率を算出するステップと、を実行させる。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、少ない試行計算回数で着目事象の発生の確率を計算できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本実施形態に係る解析装置を示すブロック図である。
図2図2は、各シナリオのイベントの発生と一次冷却材温度との時間変化を示すグラフである。
図3図3は、第1イベントと第2イベントの発生タイミングと着目事象の発生の有無との関係を示す説明図である。
図4図4は、本実施形態に係る解析方法の処理の一例を示すフローチャートである。
図5図5は、イベント発生の時間と、イベント発生の累積確率との関係の一例を示す説明図である。
図6図6は、確率座標にマッピングした結果の一例を示す説明図である。
図7図7は、確率座標内での着目事象が発生する領域の判定処理の一例を示す説明図である。
図8図8は、着目事象の発生確率の算出処理の一例を示す説明図である。
図9図9は、初期サンプリング点の配置の一例を示す説明図である。
図10図10は、サンプリング点の追加処理の一例を説明するための説明図である。
図11図11は、本実施形態に係る確率値を用いた確率座標へのプロットを示す説明図である。
図12図12は、本実施形態に係るロジット関数で変数変換した確率値を用いた確率座標へのプロットを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本開示に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能であり、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせることも可能である。
【0011】
<解析装置>
図1は、本実施形態に係る解析装置を示すブロック図である。図1に示す解析装置10は、原子力発電設備、化学プラント等の各種プラント設備で発生する故障等を着目事象とし、着目事象に影響を与える運転の複数の変化をそれぞれイベントとし、複数のイベントによる着目事象の発生の確率を解析する。解析装置10は、入力部12と、表示部14と、演算部16と、記憶部18と、を含む。入力部12は、キーボード及びマウス、タッチパネル、またはオペレータからの発話を集音するマイク等の入力装置を含み、オペレータが入力装置に対して行う操作に対応する信号を演算部16へ出力する。入力部12には、記録媒体のデータを取得するUSB(Universal Serial Bus)端子等も含む。表示部14は、ディスプレイ等の表示装置を含み、演算部16から出力される表示信号に基づいて、処理結果や処理対象の画像等、各種情報を含む画面を表示する。また、表示部14は、データを記録媒体で出力する記録装置を含んでもよい。また、解析装置10は、入力部12及び表示部14として、通信インターフェースを用いて、データの送信を行う通信部を含んでいてもよい。通信部は、外部機器と通信を行い取得した各種データ、プログラムを記憶部18に送り、保存する。通信部は、有線の通信回線で外部機器と接続しても、無線の通信回線で外部機器と接続してもよい。
【0012】
演算部16は、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)等の集積回路(プロセッサ)と、作業領域となるメモリとを含み、これらのハードウェア資源を用いて各種プログラムを実行することによって各種処理を実行する。具体的に、演算部16は、記憶部18に記憶されているプログラムを読み出してメモリに展開し、メモリに展開されたプログラムに含まれる命令をプロセッサに実行させることで、各種処理を実行する。
【0013】
演算部16は、解析対象のプラントで起こる事故、故障を着目事象とし、着目事象の発生に影響を与えるプラントの変化をイベントとする。演算部16は、複数のイベントの発生により着目事象が起こるか否かを評価し、着目事象の発生確率を評価する。以下では、複数のイベントの発生時間を設定して解析した結果を1つのシナリオをという。1つのシナリオのイベントの条件の組み合わせが1つのサンプリング点となる。シナリオには、着目事象の発生の有無の情報を含めてもよい。演算部16は、複数のシナリオについて解析を行い、着目事象の発生確率を算出する。演算部16は、取得部101と、変換部102と、マッピング部103と、領域特定部104と、算出部105と、を備える。
【0014】
取得部101は、着目事象の発生に影響を与える複数のイベントを取得する。つまり、取得部101は、解析対象の着目事象と複数のイベントの情報を取得する。取得部101は、複数のイベントについて解析で算出した各時間でイベントが発生する確率の情報を取得し、各イベントの発生する確率を時間の関数とした変動パラメータを取得する。
【0015】
変換部102は、複数のイベントのそれぞれについて、変動パラメータを累積確率に変換する。つまり、変換部102は、イベントが発生する累積確率を時間の関数として算出する。累積確率は、0から1の値となり、イベントが発生する確率がないときに0、その時間までにイベントが必ず発生している時点の累積確率が1となる。
【0016】
マッピング部103は、各シナリオについてイベントの情報に基づいて解析を行い、着目事象が発生するか否かを算出する。マッピング部103は、イベントの累積確率を軸としたマップ上に、算出結果をプロットする。マッピング部103は、シナリオ毎に計算を行い、算出結果をプロットすることで、着目事象が発生したサンプリング点と、着目事象が発生しないサンプリング点とをプロットしたマップを作成する。
【0017】
領域特定部104は、マッピング部103で作成したそれぞれのイベントの累積確率を軸としたマップに基づき、累積確率のマップ上で着目事象が発生するか否かの境界を算出する。また、領域特定部104は、境界の情報に基づいて、累積確率のマップ上で着目事象が発生する領域を特定する。
【0018】
算出部105は、領域特定部104で特定した領域の情報に基づいて、着目事象の発生確率を算出する。また、算出部105は、着目事象の発生確率を算出する繰り返し計算を終了するかを判定する収束判定部105aを有する。
【0019】
記憶部18は、磁気記憶装置や半導体記憶装置等の不揮発性を有する記憶装置を備え、各種のプログラムおよびデータを記憶する。記憶部18は、解析プログラム120と、イベントデータ122と、条件テーブル124と、を含む。
【0020】
解析プログラム120は、演算部16の各部の処理を実行するプログラムである。解析プログラムは、原子炉の状態を解析するMAAP,RELAP、簡易モデルを用いて原子炉の状態を解析するプログラムや、解析結果からイベントの組み合わせ毎の結果を整理するプログラム、パラメータを変換するプログラム、マッピングを行うプログラム、累積確率に変換するプログラム、累積確率の算出結果に基づいて着目事象の発生確率を算出するプログラム等を含む。イベントデータ122は、解析する対象のデータである。具体的には、イベントデータ122は、複数のイベントの発生タイミングと着目事象の発生の有無との関係をまとめたデータである。イベントデータ122は、複数のイベントの発生タイミングのみとし、情報に基づいて演算部16で処理して着目事象の発生の有無を算出し、結果を記録してもよい。イベントデータ122は、入力部12から入力されたデータを蓄積する。条件テーブル124は、解析プログラム120で実行する各種処理の条件である。
【0021】
〈解析方法〉
次に、解析装置10の処理動作、つまり解析方法について説明する。以下、本実施形態では、原子力発電設備を解析対象とする。具体的には、着目事象を炉心損傷とし、イベントを、冷却系の故障と、冷却系の復旧の2つとした場合で説明する。なお、着目事象、イベントは、一例であり、種々の対象を着目事象とし、着目事象に対する種々の変化をイベントとすることができる。また、イベントの数は、2つに限定されず、2つ以上であればよい。
【0022】
本実施形態では、着目事象を炉心損傷の発生とし、第1イベントを、冷却系の故障とし、第2イベントを冷却系の復旧とする。本実施形態において、第2イベントは、第1イベントよりも後に発生するイベントとなる。解析装置10は、第1イベントと第2イベントとの発生するタイミング(時間)が異なる複数の組み合わせを設定し、それぞれを別のシナリオとする。本実施形態のイベントの発生時間は、シナリオにおいてイベントが発生するタイミング、つまりシミュレーションにおいてイベントが発生する時点である。シナリオには、第1イベントが発生し、第2イベントが発生しないシナリオも含まれる。
【0023】
シナリオの条件に基づいてプラントの時間に応じた状態変化の解析(過渡解析)を行うことで、シナリオの条件での各時間のプラントの状態を算出する。解析装置10は、シナリオに基づいて、冷却系の故障と復旧が生じた場合の一次冷却材の温度の変化を解析する。解析装置10は、解析の結果、一次冷却材の温度が所定以上になった場合、着目事象である炉心損傷が発生すると判定する。
【0024】
図2は、各シナリオのイベントの発生と一次冷却材温度との時間変化を示すグラフである。図2は、横軸が時間であり、縦軸が一次冷却材温度である。線分60、62、64は、各シナリオで算出した一次冷却材の一次冷却温度である。図2では、符号を付していないその他のシナリオの結果も示している。また、図2は、多数のシナリオのうち、一部のシナリオについての結果を示している。線分60のシナリオは、タイミング90で第1イベントである冷却系の故障が発生し、タイミング92で第2イベントである冷却系の復旧が発生している。線分60は、タイミング90以降で一次冷却材の温度の上昇し、タイミング92以降で一次冷却材の温度が低下する。線分62のシナリオは、タイミング80で第1イベントである冷却系の故障が発生し、タイミング82で第2イベントである冷却系の復旧が発生している。このように、シナリオでの第1イベント、第2イベントの発生時間が異なり、プラントの解析対象の挙動が変化する。図2では、例えば、基準70の温度を上回った場合、炉心損傷すると判断する場合、線分60のシナリオは、炉心損傷し、線分62、64のシナリオでは炉心損傷しないと判断される。
【0025】
図3は、第1イベントと第2イベントの発生タイミングと着目事象の発生の有無との関係を示す説明図である。図3は、横軸が第1イベントの発生する時間、縦軸が第2イベントの発生する時間である。シナリオの第1イベントの発生する時間と第2イベントの発生する時間からプロットする位置を特定し、特定した位置に着目事象が発生したか否かの結果を示した図となる。図2に示すように、各シナリオについて解析を行い、イベントが発生するタイミングでプロットすると、図3に示すように、境界98で領域Aと領域Aに分かれる。領域Aは、着目事象である炉心損傷が発生しないシナリオのプロットとなる。領域Aは、着目事象である炉心損傷が発生するシナリオのプロットとなる。このように、イベントが発生する時間を評価の軸として、着目事象の発生の有無を評価すると、境界98で、着目事象が発生するか否かが切り替わることが見いだされる。ここで、着目事象が発生する確率をモンテカルロ法で算出する場合、図3に示すプロット点をランダムサンプリングで抽出し、抽出した点で着目事象が生じるかを評価する処理を繰り返し実行し、ランダムサンプリングでプロット点を多数抽出することで、着目事象の発生確率を算出している。これに対して、本実施形態の解析装置10は異なる方法で着目事象の発生確率を算出する。
【0026】
図4は、本実施形態に係る解析方法に関するフローチャートである。解析装置10は、取得部101を用いて複数のイベントに対する変動パラメータの情報を取得する(ステップS1)。解析装置10は、解析対象の着目事象の発生に影響を与える複数のイベントを取得し、複数のイベントについて解析で算出した各時間でイベントが発生する確率の情報を取得し、各イベントの発生する確率を時間の関数とした変動パラメータを取得する。解析装置10は、各時間でイベントが発生する確率の算出に、プラントの解析を用いてもよい。解析装置10は、プラントの解析を行わずに、各時間でイベントが発生する確率を算出することもできる。
【0027】
解析装置10は、変換部102を用いて、複数の変動パラメータを、累積確率に変換する(ステップS2)。具体的には、解析装置10は、複数の変動パラメータの情報に基づいて各イベントの発生時間と累積確率(発生時間までにイベントが発生している確率)との関係を算出し、シナリオのイベントの累積確率を特定する。
【0028】
図5は、イベント発生の時間と、イベント発生の累積確率との関係の一例を示す説明図である。図5は、横軸をイベントが発生する時間とし、縦軸をイベント発生の累積確率(P)としている。解析により各時間でイベントが発生する確率を算出し、算出結果に基づいて、各時間での累積確率を算出することができる。算出結果を用いることで、図5に示すように、イベントについて、時間と累積確率との関係110を算出する。変換部102は、図5の関係110に基づいて、各シナリオのイベントの発生時間に基づいて累積確率を対応付け、変動パラメータを累積確率に変換する。つまり評価に用いる軸を時間から累積確率に変換する。
【0029】
解析装置10は、マッピング部103を用いて、サンプリング点(シナリオ)について着目事象の発生有無を算出し、確率座標内にマッピングする(ステップS3)。解析装置10は、サンプリング点(シナリオ)でのイベントの発生時間の情報に基づいてプラントの解析を実行し、着目事象が発生するかを判定する。シナリオについて着目事象が発生するかは事前に解析で算出してもよい。また、図3のイベントの発生時間を軸とした情報を予め用意し、複数のイベントの発生時間の組み合わせに基づいて判定してもよい。また、本実施形態のサンプリング点は、イベントの累積確率の差が一定の間隔となる値の点を選定する。これにより、0から1の累積確率の座標上に均等にサンプリング点を設定することができる。なお、本実施形態では、初期のサンプリング点を、イベントの累積確率の差が一定の間隔となる値で設定したが、これに限定されない。例えば、着目事象の境界が推定できる場合、サンプリング点を、境界近傍のみに設定してもよい。また、サンプリング点の間隔も一定に限定されず、座標の位置に応じて間隔を変えて所定の間隔としてもよい。
【0030】
解析装置10は、イベントの累積確率を軸としたマップ上に、算出結果をプロットする。本実施形態では、シナリオの第1イベントの累積確率と第2イベントの累積確率とに基づいて、プロットする位置を選定し、選定した位置に着目事象の発生の有無の情報を対応付ける。解析装置10は、サンプリング点毎に計算の処理と、マップ上へのプロット処理を行うことで、累積確率を軸としたマップを作成する。
【0031】
図6は、確率座標にマッピングした結果の一例を示す説明図である。図6は、横軸を第1イベント発生の累積確率(P)とし、縦軸を第2イベント発生の累積確率(P)とした。図6は、着目事象が発生している、つまり炉心損傷のサンプリング点と、着目事象が発生していない、つまり炉心冷却成功したサンプリング点とを異なる形状の印とした。図6に示すように、炉心損傷のサンプリング点と、炉心冷却成功したサンプリング点とは、領域が2つにわかれる。
【0032】
次に、解析装置10は、領域特定部104を用いて、着目事象が確率座標内に占める領域を特定する(ステップS4)。解析装置10は、マッピング部103で作成した累積確率を軸としたマップを用いて、着目事象が発生する領域と着目事象が発生しない領域の境界を算出し、算出した境界の情報を用いて、着目事象が発生する領域を算出する。
【0033】
図7は、確率座標内での着目事象が発生する領域の判定処理の一例を示す説明図である。図8は、着目事象の発生確率の算出処理の一例を示す説明図である。なお、図7及び図8は、後述する図4のステップS7の処理を実行し、サンプリング点を追加した後の状態を示している。解析装置10は、図7に示すようにマップの情報を解析して、事象進展境界129を算出する。事象進展境界129は、炉心損傷のサンプリング点と、炉心冷却成功したサンプリング点との境界である。事象進展境界129は、境界の近傍にあるサンプリング点の累積確率の情報に基づいて、算出する。算出方法は特に限定されず、機械学習を用いても、設定した算出式から算出してもよい。
【0034】
次に、解析装置10は、事象進展境界129と、着目事象が発生するサンプリング点の情報に基づいてマップ上で、着目事象が発生する領域130を算出する。
【0035】
解析装置10は、算出部105を用いて領域から着目事象の発生確率を算出する(ステップS5)。具体的には、解析装置10は、確率座標内での領域130の面積に基づいて、着目事象の発生確率を算出する。なお、本実施形態では、イベントが2つ、つまりパラメータが2つであるため、領域の面積から発生確率を算出したが、イベントが3つ、つまりパラメータが3つでの場合、領域の体積から発生確率を算出することができる。イベントが4つ以上の場合でも、マップの全体の領域に対する着目事象が発生する領域に基づいて、発生確率を算出できる。
【0036】
解析装置10は、算出部105の収束判定部105aを用いて、領域から着目事象の発生確率を算出し、着目事象の発生確率が以前の算出結果から収束したか否かを判定する(ステップS6)。収束の判定基準は、特に限定されないが、前回の計算結果の発生確率との差分が例示される。
【0037】
解析装置10は、収束していないと判定した場合(ステップS6でNo)と判定した場合、サンプリング点の追加を行い(ステップS7)、ステップS3の処理を再度実行する。なお、解析装置10は、追加したサンプリング点以外は、前回の結果を流用し、追加したサンプリング点(シナリオ)の解析を行えばよい。
【0038】
図9及び図10を用いて、サンプリング点の追加処理について説明する。図9は、初期サンプリング点の配置の一例を示す説明図である。図10は、サンプリング点の追加処理の一例を説明するための説明図である。解析装置10は、例えば、マップ上に均等な大きさのマス目を形成し、各マス150の中央に初期サンプリング点152、154を設定する。初期サンプリング点152は、着目事象が発生すると判定した点である。図9では、着目事象が発生しないサンプリング点を0、着目事象が発生する場合を1とする。初期サンプリング点154は、対象事象が発生しないと判定した点である。図9のように初期サンプリング点152、154は、マップ上に均等に配置されるように設定されている。解析装置10は、初期サンプリング152、154の情報に基づいて、着目事象が発生するか否かの境界160を算出する。これにより、マップを2つの領域に分割する。
【0039】
解析装置10は、図10に示すように、境界160の近傍にサンプリング点170を追加する。追加するサンプリング点170の座標の算出方法は、種々の方法を用いることができる。図10に示す例では、第1サンプリング点の座標が同一で、境界160に近い、サンプリング点152、154との中点に追加のサンプリング点170を設定する。サンプリング点170の追加方法は特に限定されず、境界160から一定距離の座標に追加のサンプリング点を設定してもよく、一方の軸の各値において、境界160と境界160に最も近いサンプリング点152との間、境界160と境界160に最も近いサンプリング点154との間に、追加のサンプリング点を設定してもよい。
【0040】
解析装置10は、発生確率が収束している(ステップS6でYes)と判定した場合、本処理を終了する。
【0041】
解析装置10は、以上のように、複数のイベントの発生について、それぞれの累積確率の組み合わせでの着目事象の発生の有無を評価し、その結果に基づいて、着目事象の発生確率を評価することで、簡単な計算で、着目事象の発生確率を算出できる。
【0042】
例えば、モンテカルロ法を用いる場合、各イベントの発生時間をランダムサンプリングで設定し、設定した発生時間でイベントが発生した場合に着目事象が発生するか否かを算出する。モンテカルロ法を用いる場合、各イベントの発生時間をランダムサンプリングで設定し、その結果に基づいて評価する処理を結果が収束するまで実行する。モンテカルロ法を用いた場合、例えば、100万回から500万回の試行回数を設定し、収束条件を満足したら、試行回数前に処理を終了する。
【0043】
一例として、同様の評価対象を用いて、本実施形態の解析処理10による処理と、モンテカルロ法を用いた計算とで、評価を行った。ケース1では、本実施形態の発生確率が2.1×10-4、試行回数が204回、比較となるモンテカルロ法を用いた場合、発生確率が2.0×10-4、試行回数が80万回であった。ケース2では、本実施形態の発生確率が2.0×10-5、試行回数が198回、比較となるモンテカルロ法を用いた場合、発生確率が2.1×10-5、試行回数が80万回であった。ケース3では、本実施形態の発生確率が2.8×10-7、試行回数が180回、比較となるモンテカルロ法を用いた場合、発生確率が3.4×10-5、試行回数が500万回でも結果が収束しなかった。
【0044】
以上のように、解析装置10は、モンテカルロ法を用いて着目事象の発生を評価する場合と、同等の発生確率を算出することができ、かつ、計算回数(演算量)を大幅に低減することができる。例えば、上記例では、本実施形態の演算を行うことで、計算回数をモンテカルロ法を用いる場合の1000分の1以下とすることができる。
【0045】
本実施形態の解析装置10は、サンプリング点の確率座標上で均等間隔に初期配置したが、確率平面の極値付近の一単位を所定関数に基づいて細分化することが好ましい。図11は、本実施形態に係る確率値を用いた確率座標へのプロットを示す説明図である。図12は、本実施形態に係るロジット関数で変数変換した確率値を用いた確率座標へのプロットを示す説明図である。図11は、確率座標の軸を、数値を等分で分割した軸を示している。図12は、確率座標の軸をロジット関数で示している。ロジット関数は、確率をPとした場合、下記式で示す。なお、確率Pは、0から1の値となる。
【数1】
【0046】
上記実施形態では、確率座標のサンプリング点を座標上に均等に配置するとした。これに対して、確率を評価する場合、図11に示すように極値の近傍で複数点のサンプリングが求められる場合がある。このような場合、図12に示すように確率座標の軸をロジット関数の値とし、ロジット関数上の軸で均等配置を行うことで、図11に示すように局地近傍にサンプリング点が集中した配置とすることができる。具体的には、0から0.001、0.999から1の間に設定するサンプリング点の数を他の領域よりも多くすることができ、極値近傍での着目事象の発生をより多数の点で評価することができる。

【0047】
ここで、本実施形態では、イベントの発生とイベントの発生時間とを変動パラメータとして、累積確率に変換したが、上記に限定されない。変動パラメータの対象は、イベントの発生時間に限定されず、イベントの発生に対して確率的な挙動を示す種々の変数を対象とすることができる。なお、変数は、イベントの発生の情報と変数との情報に基づいて着目事象の発生の有無を評価できるパラメータとすることが好ましい。
【0048】
図示した解析装置10の各構成要素は、機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていなくてもよい。すなわち、各装置の具体的形態は、図示のものに限られず、各装置が実施する処理負担や使用状況などに応じて、その全部又は一部を任意の単位で機能的又は物理的に分散又は統合してもよい。解析装置10の構成は、例えば、ソフトウェアとして、解析方法、又は、メモリにロードされ、解析方法を動作させるコンピュータが実行するプログラムなどによって実現される。上記実施形態では、これらのハードウェア又はソフトウェアの連携によって実現される機能ブロックとして説明した。すなわち、これらの機能ブロックについては、ハードウェアのみ、ソフトウェアのみ、又は、それらの組み合わせによって種々の形で実現できる。
【0049】
上記に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるものや、実質的に同一のものを含む。さらに、上記に記載した構成は、適宜組み合わせ可能である。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲において構成の種々の省略、置換又は変更が可能である。
【符号の説明】
【0050】
10 解析装置
12 入力部
14 表示部
16 演算部
18 記憶部
101 取得部
102 変換部
103 マッピング部
104 領域特定部
105 算出部
105a 収束判定部
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