(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】エビ様食品
(51)【国際特許分類】
A23J 3/00 20060101AFI20241004BHJP
A23L 17/40 20160101ALI20241004BHJP
A23J 3/26 20060101ALI20241004BHJP
A23J 3/16 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
A23J3/00 507
A23L17/40 A
A23J3/26 502
A23J3/16 501
(21)【出願番号】P 2020136340
(22)【出願日】2020-08-12
【審査請求日】2023-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】白木 孝憲
(72)【発明者】
【氏名】中村 真也
(72)【発明者】
【氏名】酒井 純
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-176548(JP,A)
【文献】国際公開第2015/108142(WO,A1)
【文献】特開2013-094079(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23J 3/00
A23L 17/40
A23J 3/26
A23J 3/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織化された植物性蛋白と、保湿ゲルと、これらを被覆する被膜とを有する植物性蛋白素材を含むエビ様食品であって、
前記組織化された植物性蛋白は大豆蛋白を含み、
前記被膜は凝固したアルギン酸ナトリウムを含み、
前記保湿ゲルは、寒天、カラギーナンおよびキサンタンガムからなる群から選択される少なくとも1種を含み、
前記組織化された植物性蛋白は、前記植物性蛋白素材の全体の重量に対して、5~80重量%であり、
前記エビ様食品についてレオメーターにより25℃で測定した硬さの測定において、侵入距離70%までの地点で硬さが極大値を取り、前記極大値をとる侵入距離から侵入距離が10%増加した地点で測定した硬さの比率が、前記極大値である硬さに対して0%を超え、70%以下であり、前記植物性蛋白素材の油分が10重量%未満であることを特徴とするエビ様食品。
【請求項2】
前記植物性蛋白素材が繊維状であり、長手方向に対して垂直方向の断面の長径の平均値が1000μm未満である請求項1に記載のエビ様食品。
【請求項3】
前記極大値が500kN/m
2以上である請求項1または2に記載のエビ様食品。
【請求項4】
前記組織化された植物性蛋白が、層状又は繊維状である請求項1~3のいずれか1項に記載のエビ様食品。
【請求項5】
前記保湿ゲルが、炭水化物を含む請求項1~4のいずれか1項に記載のエビ様食品。
【請求項6】
エビ様に着色及び成形されている請求項1~5のいずれか1項に記載のエビ様食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エビ様食品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水産物の世界的な需要が高まっており、特にエビについてもその供給が不安定になることが懸念されている。
そのため、エビの食感を再現した代替食品が望まれている。
【0003】
例えば、特許文献1には、タンパク質を含む繊維物質表面上にアルギン酸カルシウムフイルムを形成し、この繊維をゲルで固めた模造海老が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、特許文献1に開示された技術を基に、エビの食感を再現することを試みたが、エビに特有のプリプリとした食感を再現することは難しく、改良の余地があった。
【0006】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、エビに特有のプリプリとした食感を有するエビ様食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のエビ様食品は、組織化された植物性蛋白と、保湿ゲルと、これらを被覆する被膜とを有する植物性蛋白素材を含むエビ様食品であって、上記エビ様食品についてレオメーターにより25℃で測定した硬さの測定において、侵入距離70%までの地点で硬さが極大値を取り、上記極大値をとる侵入距離から侵入距離が10%増加した地点で測定した硬さの比率が、上記極大値である硬さに対して0%を超え、70%以下であり、上記植物性蛋白素材の油分が10重量%未満であることを特徴とする。
【0008】
本発明のエビ様食品において、「硬さ」とは、エビ様食品を歯で噛んで組織化された植物性蛋白と複合化された保湿ゲルを変形させるのに必要な力の大きさの程度である。
本発明のエビ様食品によれば、レオメーターにより25℃で測定した硬さの測定において、侵入距離70%までの地点で硬さが極大値を取り、上記極大値をとる侵入距離から侵入距離が10%増加した地点で測定した硬さの比率が、上記極大値である硬さに対して0%を超え、70%以下である。
これは、エビ様食品を噛むと所定深さまでは硬さが増す(歯ごたえがある)が、極大値を過ぎると、破断はしないが、硬さが急に低下することを意味している。これは、エビを食した際に所定深さまで噛むとエビの身がはじける、プリプリとした食感がすることに対応する。
【0009】
なお、本発明のエビ様食品において、レオメーターにより測定した硬さとは、直径3mmの円柱のプランジャーを押し込んだときにプランジャーが受ける圧力で定義する。
また、測定対象のエビ様食品の厚さを100%の侵入距離とする。
測定温度は25℃とする。
【0010】
さらに、本発明のエビ様食品では、上記植物性蛋白素材の油分が10重量%未満であるので、油分の多い畜肉の食感とは異なり、エビに近い食感となる。
【0011】
本明細書において、「組織化された植物性蛋白」とは、植物性蛋白であり、「植物性たん白の日本農林規格」に規定された粒状植物性蛋白及び/又は繊維状植物性蛋白からなる肉様の組織を有するもののことを意味する。また、「組織化された植物性蛋白」には、「層状」に組織化されたものを含む。「層状」とは、「植物性たん白の日本農林規格」に規定されたものとは若干異なり、2次元的に広がる所定の厚さの組織が複数積層されて層状となった構造のものを意味する。
【0012】
本発明のエビ様食品では、上記植物性蛋白素材が繊維状であり、長手方向に対して垂直方向の断面の長径の平均値が1000μm未満であることが好ましい。
上記のようであると、天然のエビと同様の繊維質の食感を付与することができる。
また、本発明のエビ様食品において、上記植物性蛋白素材の長手方向に対して垂直方向の断面の長径とは、上記断面が楕円、長円等の閉曲線により構成された形状であり、重心を通る直線が断面を構成する2つの曲線に到達するまでの長さを断面の径とした際、最も長い径を長径とする。植物性蛋白素材の断面の最も長い径を長径とし、スケール付きの光学顕微鏡で30本の植物性蛋白素材の長径を測定してその平均値を長径の平均値とする。
【0013】
本発明のエビ様食品では、上記極大値が500kN/m2以上であることが好ましい。
上記極大値が500kN/m2以上であると、エビに特有のプリプリとした食感をより感じることができる。
【0014】
本発明のエビ様食品では、上記組織化された植物性蛋白は、層状又は繊維状であることが好ましい。
本発明のエビ様食品において、上記組織化された植物性蛋白が、層状又は繊維状であると、保湿ゲルを層状又は繊維状の植物性蛋白と複合化させることができ、植物性蛋白素材にエビ様の食感を付与することができる。
【0015】
本発明のエビ様食品では、保湿ゲルは、炭水化物を含むことが好ましい。
本発明のエビ様食品において、保湿ゲルが炭水化物を含むと、炭水化物が保湿ゲルに含まれる水分を水和することで、保湿性を高められる。また、天然のエビが有する風味を付与することができる。
【0016】
本発明のエビ様食品は、エビ様に着色及び成形されていることが好ましい。外見もエビ様にすることによって、エビを食している感覚をより高めることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のエビ様食品によれば、レオメーターにより25℃で測定した硬さの測定において、侵入距離70%までの地点で硬さが極大値を取り、上記極大値をとる侵入距離から侵入距離が10%増加した地点で測定した硬さの比率が、上記極大値である硬さに対して0%を超え、70%以下であるので、エビに特有のプリプリとした食感を有するエビ様食品を提供することができる。
さらに、本発明のエビ様食品では、上記植物性蛋白素材中の油分が10重量%未満であるので、油分が比較的少なく、喫食した際に、エビのようにあっさりした味を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、実施例1で得られたエビ様食品と、ボイルしたエビについてレオメーターにより硬さを測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のエビ様食品は、組織化された植物性蛋白と、保湿ゲルと、これらを被覆する被膜とを有する植物性蛋白素材を含むエビ様食品であって、上記エビ様食品についてレオメーターにより25℃で測定した硬さの測定において、侵入距離70%までの地点で硬さが極大値を取り、上記極大値をとる侵入距離から侵入距離が10%増加した地点で測定した硬さの比率が、上記極大値である硬さに対して0%を超え、70%以下であり、上記植物性蛋白素材の油分が10重量%未満であることを特徴とする。
【0020】
本発明のエビ様食品では、レオメーターにより25℃で測定した硬さの測定において、侵入距離70%までの地点で硬さが極大値を取り、上記極大値をとる侵入距離から侵入距離が10%増加した地点で測定した硬さの比率が、上記極大値である硬さに対して0%を超え、70%以下である。
これは、エビ様食品を噛むと所定深さまでは硬さが増す(歯ごたえがある)が、極大値を過ぎると破断はしないが、硬さが急に低下することを意味している。これは、エビを食した際に所定深さまで噛むとエビの身がはじける、プリプリとした食感がすることに対応する。
上記硬さの測定において極大値を取らないような場合、エビ様食品のような食感が得られない。また、上記極大値をとる侵入距離から侵入距離が10%増加した地点で測定した硬さの比率が、上記極大値である硬さに対して70%を超えて大きい場合は、硬さの変化が乏しいのでエビの身がはじけるような、プリプリとした食感とはならない。
また、上記極大値をとる侵入距離から侵入距離が10%増加した地点で測定した硬さの比率が、上記極大値である硬さに対して0%、つまりエビ様食品が破断してしまっても、柔らかくなりすぎてプリプリとした食感とならない。
【0021】
また、上記極大値が500kN/m2以上であることが好ましい。上記極大値が低すぎると、食品が柔らかすぎてエビを喫食した際のような弾力を感じにくくなる。上記極大値が500kN/m2以上であると、エビに特有のプリプリとした食感をより感じることができる。
【0022】
また、本発明のエビ様食品では、上記植物性蛋白素材の油分が10重量%未満である。このため、油分の多い畜肉の食感とは異なり、エビに近い食感となる。
【0023】
また、本発明のエビ様食品では、上記植物性蛋白素材が繊維状であり、長手方向に対して垂直方向の断面の長径の平均値が1000μm未満であることが好ましい。
上記のようであると、天然のエビと同様の繊維質の食感を付与することができる。
【0024】
(組織化された植物性蛋白)
本発明のエビ様食品を構成する植物性蛋白素材は、組織化された植物性蛋白を有する。
【0025】
組織化された植物性蛋白は、蛋白質原料を用いて形成されることが好ましい。
蛋白質原料としては、例えば、大豆、エンドウマメ、黄色エンドウ、ソラマメ、緑豆、米、カボチャ、アルファルファ、レンズマメ、ビーン、クローバ、ハッショウマメ、フリホールアカマメ、フリホールクロマメ、アオイマメ、ひよこ豆、小麦、トウモロコシ、キャノーラ、ハギ属、甘草、ハウチワマメ、メスキート、イナゴマメ、ピーナッツ、タマリンド、フジ属、カシア属、ガルバンゾ、コロハ、及び、グリーンピース等の植物に由来する蛋白が挙げられる。
【0026】
本発明のエビ様食品では、植物性蛋白として、これらの植物性原料をそのまま用いてもよいが、上記植物性原料から、蛋白質を抽出したものや、蛋白質以外の成分、すなわち脂質、可溶性糖質、澱粉、不溶性繊維(オカラ)、ミネラルなどの一部又は全部を除去し、蛋白質の含量がより濃縮されたものを植物性蛋白として用いてもよい。また、蛋白質原料としては、粉末状のものであってもよく、ペースト状のものであってもよい。上記植物性蛋白は、上記植物性原料の1種を用いたものであってもよく、2種以上を組み合わせて用いたものであってもよい。
【0027】
組織化された植物性蛋白は、蛋白質原料と、炭水化物、脂質、栄養分、及び、調味成分等とを複合して形成することもできる。
【0028】
炭水化物としては、例えば、糖類や食物繊維が挙げられ、具体的には、果糖、ブドウ糖、砂糖、麦芽糖、乳糖、トレハロース、水飴、カップリングシュガー、はちみつ、異性化糖、転化糖、オリゴ糖(イソマルトオリゴ糖,還元キシロオリゴ糖、還元ゲンチオオリゴ糖、キシロオリゴ糖、ゲンチオオリゴ糖、ニゲロオリゴ糖、テアンデオリゴ糖、大豆オリゴ糖等)、糖アルコール(マルチトール、エリスリトール、ソルビトール、パラチニット、キシリトール、ラクチトール、還元水飴等)、デキストリン、及び、澱粉類(生澱粉、加工澱粉等)が挙げられる。
また、食物繊維としては、寒天、アルギン酸塩、大豆レシチン、ポリデキストロース、難消化性デキストリン、結晶セルロース、及び、増粘多糖類(カラギーナン、カシアガム、セルロースガム、カードランガム、グアーガム、ヒドロキシプロピルセルロース、こんにゃく、ローカストビーンガム、ペクチン、キサンチンガム)等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0029】
脂質としては、例えば、アマニ油、エゴマ油、ゴマ油、シソ油、くるみ油、サフラワー油、ぶどう油、大豆油、ひまわり油、とうもろこし油、綿実油、ごま油、なたね油、落花生油、オリーブ油、パーム油、やし油、エッセンシャルオイル、アーモンド油、アロエベラ油、キョウニン油、アボカド油、バオバブ油、キンセンカ油、キャノーラ油、ツキミソウ油、グレープシードオイル、ヘーゼルナッツ油、ホホバ油、マカダミア油、天然油、ニーム油、非水素化油、部分的水素化油、ラッカセイ油、合成油、植物油、ω-脂肪酸( 例えば、アラキドン酸、ω-3-脂肪酸、ω-6-脂肪酸、ω-7-脂肪酸、ω-9-脂肪酸)、牛脂、豚脂、鶏脂、羊脂、鯨油、及び、魚油等が挙げられる。その他の油脂としては、炭素数6~12程度の中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸などが挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
脂質としては、植物由来のものが好ましい。宗教上の理由から動物性食品を摂取できない者でも食することができるからである。
【0030】
栄養分としては、例えば、ビタミン類、ミネラル(ナトリウム、マグネシウム、カリウム、鉄、カルシウム、及び、亜鉛等)、ポリフェノール類やカロテノイド類やサポニン類等が挙げられる。これらの栄養分は単独で用いてよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
調味成分として、エビの殻や身などから抽出したエビエキスを使用することが好ましい。
また、エビエキスの他の調味成分として、例えば、ジンジャーエキス、ニンジンエキス、トマトエキス等の野菜エキス、カニエキス、牡蠣エキス、ホタテエキス等の魚介エキスもしくは魚介風味の植物性エキス、ビーフエキス、ボークエキス、チキンエキス等の畜肉系エキスもしくは畜肉風味の植物性エキス、酵母エキス、砂糖、塩、お酢、醤油、味噌、みりん、コンソメ、グルタミン酸ソーダ等のアミノ酸調味成分、こしょう等の香辛料、及び、香料(草根、木皮、花、果実、果皮又はその他動植物を素材として調製された天然香料や、コーヒー由来、紅茶由来、緑茶由来、ウーロン茶由来、ココア由来、ハーブ由来、スパイス由来、フルーツ由来の合成香料等)等の調味成分が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0032】
従来の作用剤放出システムとして、ろう分子等を閉じ込めたカプセルを使用した場合には、食肉構造化タンパク質製品(組織化された植物性蛋白)とカプセルとが別々の構成として存在するために、作用剤放出システムが局在化して味が不均一になるといった問題があった。被膜により被覆された領域内(組織化された植物性蛋白)に調味成分が含まれることにより、調味成分が局在化せず、カプセル内に調味成分を閉じ込めた場合と比べて、咀嚼時に均一な味わいを得ることができる。
また、調味成分としては、植物由来のものが好ましい。宗教上の理由から動物性食品を摂取できない者でも食することができるからである。
【0033】
組織化された植物性蛋白を、蛋白質原料と、炭水化物、脂質、栄養分、及び、調味成分等とを複合して形成する場合、炭水化物、脂質、栄養分、及び、調味成分等は、蛋白質原料100重量部に対して、0.1~500重量部含むことが好ましく、50~300重量部含むことがより好ましい。
【0034】
組織化された植物性蛋白は、必要に応じて、pH調整剤、消泡剤、界面活性剤、着色剤、可塑剤等を含んでもよい。
pH調整剤としては、例えば、リン酸又はその重縮合物、フィチン酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、フマール酸、酢酸、アジピン酸、酒石酸、炭酸、グルコン酸、グルコノデルタラクトン、又は、これらのカリウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム等の塩類等が挙げられる。これらのpH調整剤は単独で用いてよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
組織化された植物性蛋白は、その形状は特に限定されないが、粒状、層状、繊維状等、いかなる形状であっても用いることができる。
なかでも、層状又は繊維状であることが好ましい。上記組織化された植物性蛋白が、層状又は繊維状であると、保湿ゲルを層状又は繊維状の植物性蛋白と複合化させることができ、植物性蛋白素材にエビ様の食感を付与することができる。
【0036】
組織化された植物性蛋白が「層状」である場合、「植物性たん白の日本農林規格」に規定されたものとは若干異なり、2次元的に広がる所定の厚さの組織が複数積層されて層状となった構造を有する。
この場合、構成する層状植物性蛋白の厚みが0.01μm~1000μmであることが好ましく、外力により層状方向に引き裂くことができる構造であることが好ましい。
なお、組織化された植物性蛋白が層状である場合、厚みとは、乾燥状態における層状の組織状植物性蛋白の任意の30個について測定した最も短い部分を計測して得られた値の平均値を意味し、積層数は、層状の組織状植物性蛋白の任意の30個について測定した平均値を意味する。
【0037】
組織化された植物性蛋白が「繊維状」である場合、「植物性たん白の日本農林規格」に規定された繊維状植物性蛋白からなるエビ肉様の組織を有する。
この場合、平均繊維径が0.01μm~1000μmであることが好ましく、外力により繊維方向に引き裂くことができる構造であることが好ましい。
また、アスペクト比が、10以上であることが好ましい。
アスペクト比は、繊維長/平均繊維径により計算される。
なお、組織化された植物性蛋白が繊維状である場合、平均繊維径及びアスペクト比は、乾燥状態における繊維状の組織状植物性蛋白の任意の30個について測定した平均値を意味する。
【0038】
組織化された植物性蛋白は、吸水率が200%以上、600%未満であることが好ましい。
後述する保湿ゲルと好適に複合化させることができ、エビ様の食感を好適に付与することができるからである。
吸水率の測定方法としては、例えば、組織化された植物性蛋白の10gを試料として200mLビーカーに入れ、そこに98℃の水を200g加えて5分間静置する。その後、篩を用いて5分間水切りを行った後、湯戻し後の試料の重量を測定し、下記数式により吸水率を算出することができる。
吸水率(%)=(湯戻し後の試料の重量/試料10g中の固形分重量)×100
【0039】
組織化された植物性蛋白は、植物性蛋白素材の全体の重量に対して、5~80重量%であることが好ましく、10~30重量%であることがより好ましい。
組織化された植物性蛋白の重量が上記範囲であると、植物性蛋白素材に天然のエビと同様の食感を付与するとともに、保湿ゲルと好適に複合化させることができる。
【0040】
(保湿ゲル)
本発明のエビ様食品を構成する植物性蛋白素材は、保湿ゲルを有する。
【0041】
保湿ゲルの融点は、100℃未満であることが好ましく、80℃未満であることがより好ましく、60℃未満であることがさらに好ましい。保湿ゲルの融点が上記の範囲であると、咀嚼することにより被膜が崩壊すると融解した保湿ゲルが流出するのでジューシー感に優れ、エビの旨味が溢れる感覚に類似した食感を感じることができる。
【0042】
保湿ゲルとしては、例えば、カラギーナン(κタイプ、ιタイプ、λタイプ)、カルボキシメチルセルロースナトリウム、セルロースガム、ヒドロキシプロピルセルロース、タラガム、ジェランガム、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸エステル、グアガム、アラビアガム、トラガントガム、カラヤガム、ペクチン、キサンタンガム、カードラン、プルラン、コラーゲン、アミノ酸各種及びそれらのペプチド、ゼラチン、寒天、ローカストビーンガム、ガラクトマンナン、グルコマンナン、コンニャクマンナン、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、ガッティガム、アラビノガラクタン、大豆レシチン、昆布酸、大豆蛋白、並びに、結晶セルロース等のゲル化剤を含むものが挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、保湿ゲルとしては、植物由来のものが好ましい。宗教上の理由から動物性食品を摂取できない者でも食することができるからである。
【0043】
保湿ゲルにおけるゲル化剤の含有量としては、保湿ゲルの全体の重量に対して、0.3~20重量%であることが好ましく、0.5~5重量%であることがより好ましい。
【0044】
保湿ゲルは、水を含有することが好ましい。
水の含有量としては、保湿ゲルの全体の重量に対して、40~99.7重量%であることが好ましく、80~99重量%であることがより好ましい。
【0045】
保湿ゲルは、炭水化物を含むことが好ましい。
保湿ゲルが炭水化物を含むことにより、炭水化物が保湿ゲルに含まれる水分を水和することで、保湿性を高められる。また、天然のエビが有する風味を好適に付与することもできるからである。
炭水化物としては、上述した組織化された植物性蛋白に含むことが可能である炭水化物として記載したものや、ゲル化剤として記載したものを適宜選択して用いることができる。
【0046】
保湿ゲルは、油脂を含むことができる。
本発明のエビ様食品において、保湿ゲルが、油脂を含むが、その量は少ないので、喫食した際、油脂が放出され、油脂に起因する味は感じるが、しつこさはなく、天然のエビの身のようなあっさりとした触感を付与する一方、豊かな風味を付与することができる。
【0047】
油脂としては、上述した組織化された植物性蛋白に含むことが可能である脂質として記載したものを適宜選択して用いることができる。
また、油脂は、固形分油脂であることが好ましい。
【0048】
油脂は、乳化剤で乳化させて含有させることもできる。
乳化剤としては、例えば、アニオン性乳化剤、非イオン性乳化剤、カチオン性乳化剤、両性乳化剤を用いることができ、具体例としては、グリセリン脂肪酸エステル、レシチン、糖脂質、オリゴペプチド、リポペプチド、リン脂質、及び、サポニン等が挙げられる。
【0049】
油脂は、植物性原料からなることが好ましい。
保湿ゲルに含まれる油脂が、植物性原料からなることにより、宗教上の理由から動物性食品を摂取できない者でも食することができるからである。また、飽和脂肪酸や脂質の含有量が少なくなるので、健康の観点からも好ましい。
【0050】
油脂の含有量としては、保湿ゲルの全体の重量に対して、0.1~10重量%であることが好ましく、1~3重量%であることがより好ましい。
【0051】
保湿ゲルは、調味成分及び栄養分を含むことが好ましい。
調味成分及び栄養分としては、上述した組織化された植物性蛋白で記載したものを適宜選択して用いることができる。
保湿ゲルに調味成分が含まれていると、調味成分が局在化せず、従来のカプセル内に調味材を閉じ込めた場合と比べて、咀嚼時に均一な味わいを得ることができる。
また、調味成分としては、植物由来のものが好ましい。宗教上の理由から動物性食品を摂取できない者でも食することができるからである。
【0052】
保湿ゲルにおける調味成分の含有量は、付与したい味や風味に応じて適宜調整すればよい。
【0053】
保湿ゲルは、必要に応じて、pH調整剤、消泡剤、界面活性剤、着色剤、可塑剤、増粘剤、結着剤等を添加してもよい。
【0054】
(被膜)
本発明のエビ様食品を構成する植物性蛋白素材は、植物性蛋白と保湿ゲルとを被覆する被膜を有する。
【0055】
被膜の融点は、保湿ゲルの融点よりも35℃以上高いことが好ましい。
被膜の融点を所定の範囲に制御することにより、加熱調理をしたとしても、保湿ゲルが流出することを抑制することができ、加熱調理後においてもジューシー感を維持することができる。
【0056】
被膜としては、例えば、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸カルシウム、寒天、こんにゃく、カラギーナン(κタイプ、ιタイプ、λタイプ)、ジェランガム、ペクチン、及び、キサンタンガム等の炭水化物を含むものが挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0057】
また、被膜としては、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、タラガム、ジェランガム、グアガム、アラビアガム、トラガントガム、カラヤガム、カードラン、プルラン、コラーゲン、ゼラチン、寒天、ローカストビーンガム、ガラクトマンナン、グルコマンナン、コンニャクマンナン、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、ガッティガム、アラビノガラクタン、昆布酸、大豆蛋白、セルロースガム、ヒドロキシプロピルセルロース、大豆レシチン、及び、結晶セルロース等のゲル化剤を含むものが挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
また、被膜としては、植物由来のものが好ましい。宗教上の理由から動物性食品を摂取できない者でも食することができるからである。
これらの中でも、アルギン酸ナトリウム、ペクチン等の金属イオンにより凝固する成分が好ましい。
【0058】
金属イオンとしては、例えば、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アンモニウム、及び、アルミニウムイオン等が挙げられる。
カルシウムイオンを供給するカルシウム塩として、例えば、乳酸カルシウム、塩化カルシウム、グルコン酸カルシウム、炭酸カルシウム、クエン酸カルシウム、硫酸カルシウム、リン酸一水素カルシウム等、マグネシウムイオンを供給するマグネシウム塩として、塩化マグネシウム、炭酸マグネシウム等、及び、アルミニウムイオンを供給するアルミニウム塩として、硫酸アルミニウムアンモニウム、硫酸アルミニウムカリウム等が挙げられる。
【0059】
被膜の厚みとしては、0.01μm~1000μmであることが好ましく、10μm~300μmであることがより好ましい。
被膜の厚みが上記範囲であることにより、加熱調理をしたとしても、保湿ゲルが流出することを好適に抑制することができ、加熱調理後においてもジューシー感を維持することができる。
なお、マイクロスコープで観察し、最も厚みが小さくなる部分を計測して得られた値を被膜の厚みとする。
【0060】
(植物性蛋白素材の製造方法)
本発明のエビ様食品を構成する植物性蛋白素材の製造方法としては特に限定されないが、例えば、組織化された植物性蛋白を作製し、組織化された植物性蛋白に保湿ゲルを複合化させた後、被膜を形成して植物性蛋白素材を製造する方法等が挙げられる。
【0061】
組織化された植物性蛋白の作製方法としては特に限定されないが、例えば、蛋白質原料と、必要に応じて、炭水化物、脂質、栄養分、及び、調味成分等をエクストルーダー(押出成型機)に投入し、その後、加圧加熱処理し熱可塑性となった蛋白質原料をスクリューの先端部に設けたダイ(口金)より押し出し、組織を所望な程度に膨化させる。
この段階でエビの形状に成形する場合、蛋白質原料をくり抜き、又は、射出成形等の方法によりエビの形状に成形することにより、エビの形状で組織化された植物性蛋白を作製することができる。
【0062】
また、成形の際にエビ様に着色することも好ましい。着色に関しては、茹でた後のエビの色(白及び朱色)の模様とすることもできる。
【0063】
加圧加熱処理は、公知のエクストルーダーを用い、公知の方法に従って行なうことができる。混練が強く安定的に組織化しやすい二軸以上の軸を有するエクストルーダーを用いることが望ましい。
【0064】
エクストルーダーの加熱条件は、80~150℃が望ましい。また、整粒方法としてはふるいや風力分級などの方法を採用することができる。さらに、パワーミルのように破砕とふるいによる整粒を同時に行う方法でもよい。吸水率は、原料組成、エクストルーダーの加熱温度により調整することができる。
【0065】
保湿ゲルの作製方法としては特に限定されないが、例えば、沸騰水中にゲル化剤を加えて保湿ゲル水溶液を作製し、この保湿ゲル水溶液中に組織化された植物性蛋白を加えた後、静置をして組織化された植物性蛋白に、保湿ゲル水溶液を複合化させる。その後、保湿ゲル水溶液と複合化された植物性蛋白を取り出し、冷却を行うことにより保湿ゲル水溶液をゲル化させて保湿ゲルを形成することができる。
【0066】
保湿ゲル水溶液において、ゲル化剤は、保湿ゲル水溶液の重量に対して、0.3~70重量%であることが好ましく、0.5~10重量% であることがより好ましい。
【0067】
被膜の形成方法としては、金属塩を添加して金属イオンを含む水溶液に、上述した保湿ゲルと組織化された植物性蛋白の複合化物を浸漬させる。その後、この複合化物をアルギン酸ナトリウムやペクチン等の炭水化物を溶解させた水溶液に浸漬させ、金属イオンと炭水化物とを接触させて凝固させることにより被膜を形成することができる。これにより植物性蛋白素材を製造することができる。
【0068】
金属イオンを含む水溶液における金属イオンは、0.2~5重量%であることが好ましく、0.5~2重量%であることがより好ましい。
【0069】
炭水化物を溶解させた水溶液の炭水化物の重量としては、0.5~10重量%であることが好ましく、1~5重量%であることがより好ましい。
【0070】
金属イオンを含む水溶液には、必要に応じて、pH調整剤、消泡剤、界面活性剤、着色剤、可塑剤、増粘剤、結着剤、調味成分等を添加してもよい。
【0071】
(食品)
本発明のエビ様食品は、上記植物性蛋白素材を含むことを特徴とする。
そのため、加熱調理後においてもエビのプリプリとした食感を維持することができる。
【0072】
上記植物性蛋白素材のエビの形状への成形、加工については、上述のように、組織化された植物性蛋白をエビ形状に加工しておいて、これに保湿ゲルを複合化させ、さらに被膜を設けることで植物性蛋白素材としてもよく、また、植物性蛋白素材の製造後にエビ形状に成形、加工することも可能である。
【0073】
具体的には、上記植物性蛋白素材を円柱状、楕円柱状等の凹型成形治具に入れ、凸型成形治具を用いて加圧して、得られた食品成形体をエビの形状に加工してエビ様食品としてもよい。
成形治具の形状は円柱状や楕円柱状に限定されず、エビ形状の凹部を持つ凹型成形治具とこれに嵌合する凸部を持つ凸型成形治具でもよい。また、加圧成形は、凹型、凸型治具を用いた一軸プレス以外に、多軸プレス、等方プレス(冷間静水圧プレス)等を使用してもよい。
【0074】
上記植物性蛋白素材を成形した食品成形体をゲル化剤溶液や被膜を形成するための溶液中に浸漬して食品成形体中にゲル化剤を浸透させたり、食品成形体の表面に被膜を形成してエビ様食品としてもよい。例えば、植物性蛋白素材の被膜形成のためにアルギン酸ナトリウム水溶液およびカルシウム塩水溶液を使用した場合には、当該植物性蛋白素材を含む食品成形体を塩化カルシウムや乳酸カルシウム等のカルシウム塩水溶液に浸漬して被膜の凝固反応を進行させることで、エビ様食品が加熱調理中に崩れないように植物性蛋白素材同士の結着性を改善することができる。
さらに、植物性蛋白素材にデンプン、トランスグルタミナーゼ等の結着剤や市販の植物性蛋白粒子、着色剤、調味成分等を加えて、成形してエビ様食品とすることもできる。
【0075】
本発明のエビ様食品は、焼成加熱、蒸し加熱、ボイル加熱、フライ加熱、電磁波加熱等を適宜組み合わせて調理することができる。
【実施例】
【0076】
次に本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明の主旨を逸脱しない限り本発明は実施例に限定されるものではない。なお、特記しない限り部は重量部、%は重量%を意味する。
【0077】
(実施例1)
[組織化された植物性蛋白の作製]
分離大豆タンパク85量部、小麦タンパク10重量部、コーンスターチ5重量部からなる主原料粉を混合し二軸エクストルーダーにて原料混合粉に対し120重量部の水を供給しながらダイヘッド温度140℃、スクリュー回転数450RPMの条件で、3×15mmの冷却スリットダイから押出してシート状の組織化された植物性蛋白を作製した。
組織化された植物性蛋白は、エビ状にくりぬき、85℃の恒温器にて乾燥を行い、乾燥体を得た。
【0078】
[保湿ゲルの作製]
沸騰水中にカッパー型カラギーナン(WR-78-J)を1重量%、キサンタンガム(SATIAKINE CX90)1重量%、ココナッツオイル2重量%、海藻エキス1重量%を添加し攪拌し、保湿ゲル水溶液を得た。
組織化された植物性蛋白に対し、重量比で10倍量の本保湿ゲル水溶液を加え、92℃で5分静置し、植物性蛋白と保湿ゲル水溶液とを複合化させた。その後、保湿ゲルと複合化され、組織化された植物性蛋白を取り出し、冷蔵庫にて30分静置し冷却させ、保湿ゲル含有植物性蛋白を得た。
【0079】
[被膜の形成]
10%の乳酸カルシウムを含む水溶液に、保湿ゲル含有植物性蛋白を浸漬させた後、2重量%の濃度のアルギン酸ナトリウム溶液(IL-6M)に室温で10秒程度浸漬させ、アルギン酸ナトリウムを凝固させて被膜を形成し、エビ形状の植物性蛋白素材を作製した。
【0080】
(実施例2)
[組織化された植物性蛋白の作製]
脱脂大豆100重量部からなる主原料粉を混合し二軸エクストルーダーにて原料混合粉に対し120重量部の水を供給しながらダイヘッド温度140℃、スクリュー回転数450RPMの条件で、3×15mmの冷却スリットダイから押出してシート状の組織化された植物性蛋白を作製した。
組織化された植物性蛋白は、エビ状にくりぬき、85℃の恒温器にて乾燥を行い、乾燥体を得た。
【0081】
[保湿ゲルの作製]
沸騰水中に寒天2重量%、ココナッツオイル1重量%、植物性エビ香料を添加し攪拌し、保湿ゲル水溶液を得た。
組織化された植物性蛋白に対し、重量比で10倍量の本保湿ゲル水溶液を加え、92℃で5分静置し、植物性蛋白と保湿ゲル水溶液とを複合化させた。その後、保湿ゲルと複合化され、組織化された植物性蛋白を取り出し、冷蔵庫にて30分静置し冷却させ、保湿ゲル含有植物性蛋白を得た。
【0082】
[被膜の形成]
10%の硫酸カルシウムを含む水溶液に、保湿ゲル含有植物性蛋白を浸漬させた後、2重量%の濃度のアルギン酸ナトリウム溶液(IL-6M)に室温で10秒程度浸漬させ、アルギン酸ナトリウムを凝固させて被膜を形成し、エビ形状の植物性蛋白素材を作製した。
【0083】
(実施例3)
実施例3は組織化された植物性蛋白をミンチにした形態の例である。
実施例1で得た組織化された植物性蛋白をフードプロセッサーにてミンチ状に粉砕したこと以外は実施例1と同様にして植物性蛋白素材を作製した。
【0084】
[エビ様食品への加工]
上記植物性蛋白素材を楕円柱状の凹型成形型に入れた後、凸型成形型にて加圧成形し、成形品を静置してカルシウムイオンを分散させて被膜成分を凝固させた後、エビ状にくりぬき、このくり抜いた成形品をさらに10%の乳酸カルシウム溶液に含浸させることで被膜成分を完全に凝固させ、エビ様食品を作製した。
【0085】
(比較例1)
保湿ゲルおよび被膜を形成しなかったこと以外は実施例1と同様にしてエビ形状の植物性蛋白素材を作製した。
【0086】
(比較例2)
比較例2は特許文献1相当の例である。
[組織化された植物性蛋白の作製]
脱脂大豆85重量部、粉末状大豆蛋白15重量部からなる主原料粉を混合し、二軸エクストルーダーにて原料混合粉に対し20重量部の水を供給しながらダイヘッド温度120℃、スクリュー回転数450RPMの条件で、厚み1mm幅15mmのスリットダイから押出してシート状の組織化された植物性蛋白を作製した。組織化された植物性蛋白は出口にて押出方向に対して垂直方向にカットし、平均幅5mmの棒状の組織化された植物性蛋白を作製した。
【0087】
[保湿ゲルの作製]
沸騰水中にアルギン酸ナトリウム2重量、サラダ油5重量%、コンソメエキスを添加し攪拌し、保湿ゲル水溶液を得た。
組織化された植物性蛋白に対し、重量比で10倍量の本保湿ゲル水溶液を加え、92℃で5分静置し、植物性蛋白と保湿ゲル水溶液とを複合化させた。その後、保湿ゲルと複合化され、組織化された植物性蛋白を取り出し、冷蔵庫にて30分静置し冷却させ、保湿ゲル含有植物性蛋白を得た。
5%の硫酸カルシウムを含む水溶液に、保湿ゲル含有植物性蛋白を浸漬させた後、2重量%の濃度のアルギン酸ナトリウム溶液(IL-6M)に室温でカルシウムイオンが十分に拡散するように一晩浸漬させ、アルギン酸ナトリウムを凝固させて被膜を形成し、植物性蛋白素材を作製した。
【0088】
[エビ様食品への加工]
植物性蛋白素材を、エビ形状の凹部を持つ凹型成形型に入れて凹部に嵌合する凸部を持つ凸型成形体を用いて加圧成形し模造エビとした。
【0089】
(試験例1)
試験例1は硬さが極大値を持たない場合の例である。
[組織化された植物性蛋白の作製]
脱脂大豆40重量部、粉末状大豆蛋白45重量部、小麦蛋白15重量部からなる主原料粉を混合し二軸エクストルーダーにて原料混合粉に対し120重量部の水を供給しながらダイヘッド温度140℃、スクリュー回転数450RPMの条件で、直径14mmの開口を持つ冷却ダイから押出してシート状の組織化された植物性蛋白を作製した。
シート状の組織化された植物性蛋白をフードプロセッサーにより粉砕し、ミンチ状の組織化された植物性蛋白を作製した。組織化された植物性蛋白を、エビ状の成形型に入れて加圧成形し、85℃の恒温器にて乾燥を行い、エビ状の乾燥体を得た。
【0090】
[保湿ゲルの作製]
沸騰水中にカッパー型カラギーナン(WR-78-J)を1重量%、キサンタンガム(SATIAKINE CX90)1重量%、ココナッツオイル10重量%、パーム油5重量%、牛肉風エキスを添加し攪拌し、保湿ゲル水溶液を得た。
組織化された植物性蛋白に対し、重量比で10倍量の本保湿ゲル水溶液を加え、92℃で5分静置し、植物性蛋白と保湿ゲル水溶液とを複合化させた。その後、保湿ゲルと複合化され、組織化された植物性蛋白を取り出し、冷蔵庫にて30分静置し冷却させ、保湿ゲル含有植物性蛋白を得た。
【0091】
[被膜の形成]
10%の塩化カルシウムを含む水溶液に、保湿ゲル含有植物性蛋白を浸漬させた後、2重量%の濃度のアルギン酸ナトリウム溶液(IL-6M)に室温で10秒程度浸漬させ、アルギン酸ナトリウムを凝固させて被膜を形成し、エビ形状の植物性蛋白素材を作製した。
【0092】
(試験例2)
試験例2は油分が10重量%を超える場合の例である。
実施例1と同様であるが、以下の方法で保湿ゲルを作成した。
沸騰水中にカッパー型カラギーナン(WR-78-J)を1重量%、キサンタンガム(SATIAKINE CX90)1重量%、ココナッツオイル10重量%、パーム油5重量%、海藻エキス1重量%を添加し攪拌し、保湿ゲル水溶液を得た。
組織化された植物性蛋白に対し、重量比で10倍量の本保湿ゲル水溶液を加え、92℃で5分静置し、植物性蛋白と保湿ゲル水溶液とを複合化させた。その後、保湿ゲルと複合化され、組織化された植物性蛋白を取り出し、冷蔵庫にて30分静置し冷却させ、保湿ゲル含有植物性蛋白を得た。
【0093】
[エビ様食品への加工]
上記植物性蛋白素材を楕円柱状の凹型成形型に集束して重ね合わせた後、凸型成形型にて加圧成形し、成形品を静置してカルシウムイオンを分散させて被膜成分を凝固させた後、エビ状にくりぬき、このくり抜いた成形品をさらに10%の乳酸カルシウム溶液に含浸させることで被膜成分を完全に凝固させ、エビ様食品を作製した。
【0094】
<評価結果>
(侵入距離-硬さ曲線の測定)
作製したエビ様食品の硬さについてレオメーターにて評価した。
直径3mmのプランジャーを備えるレオメーター(SUN RHEO METER CR-100)を用い、プランジャーが受ける圧力を測定し、その値を硬さ(kN/m2)とした。測定温度は25℃とした。
プランジャーの侵入距離を横軸に、硬さを縦軸に取ってグラフを描き、硬さが極大値となる侵入距離と極大値を求めた。極大値がプランジャーの侵入距離の70%までの地点に現れた場合は、その極大値を硬さAとした。
極大値である硬さ(硬さA)、極大値をとる侵入距離、極大値を取る侵入距離から侵入距離が10%増加した地点で測定した硬さ(硬さB)、上記硬さBの硬さAに対する比率(%)を求めて表1に記載した。
比較例1及び試験例1では、極大値がプランジャーの侵入距離の70%までの地点に現れなかったので、参考として硬さAには侵入距離95%の地点での硬さを示した。比較例1及び試験例1では硬さBは存在しない。
【0095】
【0096】
図1は、実施例1で得られたエビ様食品と、ボイルしたエビについてレオメーターにより硬さを測定した結果である。
実施例1で得られたエビ様食品は、侵入距離と硬さの関係がボイルしたエビと類似していることがわかる。
【0097】
(官能評価)
作製したエビ様食品を加熱後、食感およびジューシーさを、5名の評価者の官能評価の平均により評価した。下記の評価基準で評価し、評価結果を表2に示した。
【0098】
(食感)
5点 本物のエビ同等のプリプリ感がある
4点 本物のエビに近いプリプリ感がある
3点 やや柔らかい又はやや硬い
2点 やや脆く崩れやすい又は硬い
1点 脆く崩れやすい又は非常に硬い
【0099】
(口当たり)
5点 本物のエビ肉同等にみずみずしい
4点 本物のエビ肉に近いみずみずしさがある
3点 ややパサパサした食感である
2点 パサパサした食感である
1点 粉っぽい食感である
【0100】
【0101】
実施例1~3のエビ様食品は、いずれも本物のエビに近い又は同等のプリプリ感があり、また、口当たりも本物のエビに近い又は同等にみずみずしいものであった。
比較例1のエビ様食品は、保湿ゲル及び被膜を形成していないので食感及び口当たりに劣っていた。
比較例2のエビ様食品は、硬さAが低く、硬さBは0となっていた。すなわちエビ様食品が破断していた。そのため、柔らかすぎてプリプリとした食感が得られなかった。
試験例1のエビ様食品は、極大値がプランジャーの侵入距離の70%までの地点に現れず、硬い状態を保っていたので、噛んだ際の食感が硬かった。
試験例2のエビ様食品は、油分が10重量%を超えて多いために油分が多い食感であり、エビとは異なる食感となっていた。