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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】基板保持部材、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/683 20060101AFI20241004BHJP
   H02N 13/00 20060101ALI20241004BHJP
   C04B 37/02 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
H01L21/68 R
H02N13/00 D
C04B37/02 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020160678
(22)【出願日】2020-09-25
(65)【公開番号】P2022053832
(43)【公開日】2022-04-06
【審査請求日】2023-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099793
【弁理士】
【氏名又は名称】川北 喜十郎
(74)【代理人】
【識別番号】100154586
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 正広
(72)【発明者】
【氏名】千葉 理大
(72)【発明者】
【氏名】神 航介
【審査官】宮久保 博幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-079588(JP,A)
【文献】特開2016-031956(JP,A)
【文献】特開2017-178663(JP,A)
【文献】特開2014-139989(JP,A)
【文献】特開2003-258065(JP,A)
【文献】特開2016-072478(JP,A)
【文献】特開2019-165193(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
H02N 13/00
C04B 37/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板保持部材であって、
セラミックスにより平板状に形成され、一方の主面に基板載置面を有し、内部に電極が埋設されたセラミックス部材と、
前記セラミックス部材の他方の主面に形成された第1の溶射膜と、
内部に冷媒の流路を有する金属製の冷却部材と、
前記冷却部材の平面状の主面に形成された第2の溶射膜と、
前記第1の溶射膜と前記第2の溶射膜とを接合するシリコーン接着層と、を備えることを特徴とする基板保持部材。
【請求項2】
前記セラミックス部材はAlNを主成分とするセラミックスで形成され、
前記セラミックス部材の厚み方向の単位面積当たりの熱抵抗をRe(mK/W)、前記第1の溶射膜の厚み方向の単位面積当たりの熱抵抗をRf1(mK/W)、前記シリコーン接着層の厚み方向の単位面積当たりの熱抵抗をRb(mK/W)、前記第2の溶射膜の厚み方向の単位面積当たりの熱抵抗をRf2(mK/W)、前記冷却部材の前記シリコーン接着層側の主面から前記冷媒の流路までの領域における厚み方向の単位面積当たりの熱抵抗をRm(mK/W)としたとき、
0.75≧(Re+Rf1)/(Re+Rf1+Rb+Rf2+Rm)≧0.24
であることを特徴とする請求項1に記載の基板保持部材。
【請求項3】
前記セラミックス部材はAlを主成分とするセラミックスで形成され、
前記セラミックス部材の厚み方向の単位面積当たりの熱抵抗をRe(mK/W)、前記第1の溶射膜の厚み方向の単位面積当たりの熱抵抗をRf1(mK/W)、前記シリコーン接着層の厚み方向の単位面積当たりの熱抵抗をRb(mK/W)、前記第2の溶射膜の厚み方向の単位面積当たりの熱抵抗をRf2(mK/W)、前記冷却部材の前記シリコーン接着層側の主面から前記冷媒の流路までの領域における厚み方向の単位面積当たりの熱抵抗をRm(mK/W)としたとき、
0.77≧(Re+Rf1)/(Re+Rf1+Rb+Rf2+Rm)≧0.20
であることを特徴とする請求項1に記載の基板保持部材。
【請求項4】
前記基板保持部材において、
(Rf1+Rb+Rf2)/(Re+Rf1+Rb+Rf2+Rm)≧0.83
であることを特徴とする請求項2に記載の基板保持部材。
【請求項5】
前記基板保持部材において、
(Rf1+Rb+Rf2)/(Re+Rf1+Rb+Rf2+Rm)≧0.63
であることを特徴とする請求項3に記載の基板保持部材。
【請求項6】
基板保持部材の製造方法であって、
セラミックス原料粉を成形して焼成し、内部に電極が埋設されたセラミックス部材を作製する工程と、
複数の金属部材を準備し、冷媒の流路となる溝部を形成する工程と、
前記溝部が形成された前記複数の金属部材を接合し、前記流路を有する冷却部材を作製する工程と、
前記セラミックス部材の基板載置面に対向する面に所定のセラミックスを含む第1の溶射原料粉を溶射し、第1の溶射膜を形成する工程と、
前記冷却部材の一方の主面に所定のセラミックスを含む第2の溶射原料粉を溶射し、第2の溶射膜を形成する工程と、
前記第1の溶射膜または前記第2の溶射膜の少なくとも一方にシリコーン接着剤を塗布し、前記セラミックス部材および前記冷却部材を接着する工程と、
前記シリコーン接着剤を硬化させシリコーン接着層とする工程と、を含むことを特徴とする基板保持部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板保持部材、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置に用いられる基板保持部材、例えば、静電チャックは、半導体のプロセス中に基板を所定の温度に保つために、冷却部材が備えられているものがある。
【0003】
特許文献1には、表面に溶射によって絶縁体膜が形成された金属プレートと、表面に電極が形成された誘電体基板とが、電極が対向するように絶縁性接着剤を介在して接合され、絶縁体膜の厚みが0.3mm以上、0.6mm以下であり、また、絶縁性接着剤の熱伝導率が1W/mK以上であり、絶縁体膜の熱伝導率は絶縁性接着剤の熱伝導率より大きい静電チャックが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、冷却流路を有する基材と、基材の上方に配置され、発熱体を有するヒータ部と、基材とヒータ部との間に配置された断熱層と、を有するヒータユニットが開示されている。また、断熱層の熱伝導率は、基材の熱伝導率よりも低くてもよい、と記載され、断熱層は、気孔を包含するSUSであってもよい、と記載され、ヒータユニットは発熱体を覆う絶縁体をさらに有し、断熱層の熱伝導率は絶縁体の熱伝導率よりも低くてもよい、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-243139号公報
【文献】特開2017-037721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、静電チャックの冷却プレートは、その加工性および冷却効果より金属材料、とりわけAl合金が用いられてきた。静電チャックは、AlやAlNからなるセラミックス焼結体が用いられてきた。これらを一体化するには、一体化の簡便さから有機接着剤が提案されてきた。しかし、接合層として有機接着材を使用する場合、その耐熱性が問題となり、特に200℃以上のプロセスで静電チャックを使用すると、有機接着層が分解する温度に到達するため使用することができなかった。
【0007】
また、近年のプロセスのハイパワー化にともない、静電チャックの基板載置面の温度分布の均熱性の要求が高度化しているが、金属製冷却プレートを使用する場合はそれ自体熱伝導がよいため金属プレート内部に設けられた冷媒流路の影響が静電チャックの載置面に現れ載置面の温度分布均一性が阻害されることが生じていた。
【0008】
しかしながら、特許文献1は、絶縁性接着剤層の耐熱性は考慮していない。また、特許文献2は、断熱層と基材または断熱層とヒータ部との接合を考慮していないため、有機接着剤を使用した場合の耐熱性は考慮していない。また、引用文献1も2も基板を冷却する際の温度分布均一性は考慮していない。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、基板の温度がシリコーン接着層の耐熱温度以上となるプロセスで使用しても、シリコーン接着層の温度が耐熱温度以下となり、かつ、基板載置面の温度分布均一性が高い基板保持部材、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の基板保持部材は、基板保持部材であって、セラミックスにより平板状に形成され、一方の主面に基板載置面を有するセラミックス部材と、前記セラミックス部材の他方の主面に形成された第1の溶射膜と、内部に冷媒の流路を有する金属製の冷却部材と、前記冷却部材の平面状の主面に形成された第2の溶射膜と、前記第1の溶射膜と前記第2の溶射膜とを接合するシリコーン接着層と、を備えることを特徴としている。このように、セラミックス部材とシリコーン接着層との接合面および冷却部材とシリコーン接着層との接合面にそれぞれ溶射膜を設けることで、シリコーン接着層の耐熱温度より高い温度のプロセスで基板保持部材を使用しても、シリコーン接着層の温度を耐熱温度以下にすることができ、シリコーン接着層の劣化を防ぐことができると共に、基板保持部材の基板載置面の熱ムラを低減することができる。同時にシリコーン接着層の有する柔軟性により基板保持部材と冷却部材間に生じる応力を緩和することができる。その結果、基板保持部材の基板載置面の温度分布の均一化をしつつ、シリコーン接着層の耐熱温度より高い温度のプロセスで基板保持部材を使用することが可能となる。
【0011】
(2)また、本発明の基板保持部材において、前記セラミックス部材はAlNを主成分とするセラミックスで形成され、前記セラミックス部材の厚み方向の単位面積当たりの熱抵抗をRe(mK/W)、前記第1の溶射膜の厚み方向の単位面積当たりの熱抵抗をRf1(mK/W)、前記シリコーン接着層の厚み方向の単位面積当たりの熱抵抗をRb(mK/W)、前記第2の溶射膜の厚み方向の単位面積当たりの熱抵抗をRf2(mK/W)、前記冷却部材の前記シリコーン接着層側の主面から前記冷媒の流路までの領域における厚み方向の単位面積当たりの熱抵抗をRm(mK/W)としたとき、0.75≧(Re+Rf1)/(Re+Rf1+Rb+Rf2+Rm)≧0.24であることを特徴としている。このように、セラミックス部材を形成するセラミックスの材料に応じて、セラミックス部材、第1の溶射膜、シリコーン接着層、第2の溶射膜、および冷却部材の単位面積当たりの熱抵抗を調整することで、250℃以上の高温のプロセスであっても基板保持部材を使用できる。
【0012】
(3)また、本発明の基板保持部材において、前記セラミックス部材はAlを主成分とするセラミックスで形成され、前記セラミックス部材の厚み方向の単位面積当たりの熱抵抗をRe(mK/W)、前記第1の溶射膜の厚み方向の単位面積当たりの熱抵抗をRf1(mK/W)、前記シリコーン接着層の厚み方向の単位面積当たりの熱抵抗をRb(mK/W)、前記第2の溶射膜の厚み方向の単位面積当たりの熱抵抗をRf2(mK/W)、前記冷却部材の前記シリコーン接着層側の主面から前記冷媒の流路までの領域における厚み方向の単位面積当たりの熱抵抗をRm(mK/W)としたとき、0.77≧(Re+Rf1)/(Re+Rf1+Rb+Rf2+Rm)≧0.20であることを特徴としている。このように、セラミックス部材を形成するセラミックスの材料に応じて、セラミックス部材、第1の溶射膜、シリコーン接着層、第2の溶射膜、および冷却部材の単位面積当たりの熱抵抗を調整することで、250℃以上の高温のプロセスであっても基板保持部材を使用できる。
【0013】
(4)また、本発明の基板保持部材は、前記基板保持部材において、前記セラミックス部材はAlNを主成分とするセラミックスで形成され、(Rf1+Rb+Rf2)/(Re+Rf1+Rb+Rf2+Rm)≧0.83であることを特徴としている。このように、セラミックス部材を形成するセラミックスの材料に応じて、セラミックス部材、第1の溶射膜、シリコーン接着層、第2の溶射膜、および冷却部材の厚み方向の単位面積当たりの熱抵抗を調整することで、所定のプロセス温度を保つために必要な供給熱量を低減することができる。
【0014】
(5)また、本発明の基板保持部材は、前記基板保持部材において、前記セラミックス部材はAlを主成分とするセラミックスで形成され、(Rf1+Rb+Rf2)/(Re+Rf1+Rb+Rf2+Rm)≧0.63であることを特徴としている。このように、セラミックス部材を形成するセラミックスの材料に応じて、セラミックス部材、第1の溶射膜、シリコーン接着層、第2の溶射膜、および冷却部材の厚み方向の単位面積当たりの熱抵抗を調整することで、所定のプロセス温度を保つために必要な供給熱量を低減することができる。
【0015】
(6)また、本発明の基板保持部材の製造方法は、基板保持部材の製造方法であって、セラミックス原料粉を成形して焼成し、セラミックス部材を作製する工程と、複数の金属部材を準備し、冷媒の流路となる溝部を形成する工程と、前記溝部が形成された前記複数の金属部材を接合し、前記流路を有する冷却部材を作製する工程と、前記セラミックス部材の基板載置面に対向する面に所定のセラミックスを含む第1の溶射原料粉を溶射し、第1の溶射膜を形成する工程と、前記冷却部材の一方の主面に所定のセラミックスを含む第2の溶射原料粉を溶射し、第2の溶射膜を形成する工程と、前記第1の溶射膜または前記第2の溶射膜の少なくとも一方にシリコーン接着剤を塗布し、前記セラミックス部材および前記冷却部材を接着する工程と、前記シリコーン接着剤を硬化させシリコーン接着層とする工程と、を含むことを特徴としている。このように、セラミックス部材とシリコーン接着層との接合面および冷却部材とシリコーン接着層との接合面にそれぞれ溶射膜を設けることで、シリコーン接着層の耐熱温度より高い温度のプロセスで基板保持部材を使用しても、シリコーン接着層の温度を耐熱温度以下にすることができ、シリコーン接着層の劣化を防ぐことができると共に、基板保持部材の基板載置面の熱ムラを低減することができる。同時にシリコーン接着層の有する柔軟性により基板保持部材と冷却部材間に生じる応力を緩和することができる。その結果、基板保持部材の基板載置面の温度分布の均一化をしつつ、シリコーン接着層の耐熱温度より高い温度のプロセスで静電チャックを使用することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、シリコーン接着層の耐熱温度より高い温度のプロセスで基板保持部材を使用しても、シリコーン接着層の温度を耐熱温度以下にすることができ、シリコーン接着層の劣化を防ぐことができると共に、基板保持部材の基板載置面の熱ムラを低減することができる。その結果、基板保持部材の基板載置面の温度分布の均一化をしつつ、シリコーン接着層の耐熱温度より高い温度のプロセスで静電チャックを安定して使用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施形態の基板保持部材を示す正断面図である。
図2】各試料の製造条件および温度の測定値を示す表である。
図3】各試料の製造条件および温度の測定値を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。なお、構成図において、各構成要素の大きさは概念的に表したものであり、必ずしも実際の寸法比率を表すものではない。
【0019】
[実施形態]
[基板保持部材の構成]
図1は、基板保持部材10を示す正断面図である。基板保持部材10は、セラミックス部材12と、第1の溶射膜14と、冷却部材16と、第2の溶射膜18と、シリコーン接着層20と、を備える。また、基板保持部材10は、必要に応じて、1または複数の電極が埋設されていてもよい。基板保持部材10は、例えば、静電チャック、ヒーター等に適用することができる。
【0020】
セラミックス部材12は、セラミックスにより平板状に形成され、一方の主面に基板載置面28を有する。セラミックス部材12を構成するセラミックスは、AlN、またはAlを主成分とするセラミックスであることが好ましい。主成分とするとは、セラミックス部材12の重量に対する主成分の重量割合が90wt%以上であることをいう。セラミックス部材12は、主成分とするセラミックス以外に、熱伝導率を上げる等、種々の目的のために添加物が含まれていてもよい。例えば、熱伝導率や体積抵抗率を調整するために2a族元素や3a族元素の酸化物や遷移金属酸化物からなる添加物を添加してもよい。
【0021】
一般的に、AlNを主成分とするセラミックスの場合、Y等の添加物の添加量は、量を増やすと熱伝導率が高くなるが、一定量以上添加すると熱伝導率の低下を引き起こすことが知られている。したがって、2a族元素、3a族元素の酸化物や遷移金属酸化物からなる添加物の含有量は、10wt%以下とすることが望ましい。Alを主成分とするセラミックスの場合も、2a族元素、3a族元素の酸化物や遷移金属酸化物からなる添加物の含有量は、10wt%以下とすることが望ましい。2a族元素の添加物としては、Mg、Ca、Sr、Ba等が挙げられ、3a族元素の添加物としては、Y、La、Sm、Ce等が挙げられる。遷移金属の添加物としてはTi、Cr、Mn、Ni等が挙げられる。
【0022】
第1の溶射膜14は、セラミックス部材12の基板載置面28に対向する面に形成される。第1の溶射膜14は、セラミックスで形成される。また、第1の溶射膜14は、Al、Y、ZrOなどの熱伝導率の小さいセラミックスで形成されることが好ましい。第1の溶射膜14は、プラズマ溶射法や乾式のプラズマ溶射法のほか既知の溶射法により作製することができる。第1の溶射膜14の厚みは、0.05mm以上2mm以下であることが好ましい。
【0023】
第1の溶射膜14は所定の気孔率を有することが好ましい。これにより、断熱効果をより発揮する。気孔率は2%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましい。気孔率の上限は、第1の溶射膜14の熱伝導率を所定の範囲にすることができればよいため、特に限定する必要はないが、例えば、10%以下とすることができる。
【0024】
冷却部材16は、金属により形成され、内部に冷媒の流路22を有する。冷却部材16を構成する金属は加工性や高い熱伝導率からAl合金が最も好適であるが、銅、チタン、ニッケルを含む合金、SUSなどを用いてもよい。冷媒は水、エチレングリコール、フロンなどが使用でき、冷媒温度は沸点未満で使用できる。
【0025】
第2の溶射膜18は、冷却部材16の一方の主面に形成される。冷却部材16の第2の溶射膜18が形成される主面は、平面である。第2の溶射膜18は、セラミックスで形成される。また、第2の溶射膜18は、Al、Y、ZrOなどのセラミックスで形成されることが好ましい。第2の溶射膜は、熱伝導率が低すぎると冷却部材の効果が弱くなることから、熱伝導率がある程度高いことが好ましい。よって、気孔率は5%以下であることが好ましく、2%以下であることがより好ましい。第2の溶射膜18の厚みは、0.05mm以上2mm以下であることが好ましい。第1の溶射膜14と第2の溶射膜18を形成する材料や厚みは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0026】
第1の溶射膜14と第2の溶射膜18に気孔率は、同一の値であってもよいし、異なる値であってもよい。
【0027】
シリコーン接着層20は、第1の溶射膜14と第2の溶射膜18とを接合する。これにより、セラミックス部材12と冷却部材16とを接合することができる。シリコーン接着層20は、シリコーン樹脂や変性シリコーン樹脂、などシリコーンを主成分とするシリコーン接着剤により形成される。シリコーン接着剤の硬化型は脱水、脱アルコール、付加重合タイプなどが選択できる。また一液硬化、二液硬化、紫外線硬化などが選択できる。シリコーン接着剤は、熱伝導調整のためAlやAlNなどのセラミックスやCuなどの金属フィラーが添加されていてもよい。シリコーン接着層20の厚みは、0.1mm以上、2.0mm以下であることが好ましい。シリコーン接着層はヤング率がセラミックスや金属に比べ十分に小さいため柔軟性を保たせることができる。
【0028】
図1に示されるセラミックス部材12は、2の電極24、26が埋設されている。図1の電極24は、静電吸着用電極であり、電極26は発熱抵抗体としての電極である。このように、基板保持部材10は、必要に応じて、1または複数の電極が埋設されていてもよい。図1に示される基板保持部材10は、発熱抵抗体を有する静電チャックである。
【0029】
このように、セラミックス部材12とシリコーン接着層20との接合面および冷却部材16とシリコーン接着層20との接合面にそれぞれ第1の溶射膜14、および第2の溶射膜18を設けることで、シリコーン接着層20の耐熱温度より高い温度のプロセスで基板保持部材10を使用しても、シリコーン接着層20の温度を耐熱温度以下にすることができ、シリコーン接着層20の劣化を防ぐことができると共に、基板保持部材10の基板載置面28の熱ムラを低減することができる。同時にシリコーン接着層の有する柔軟性により基板保持部材と冷却部材間に生じる応力を緩和することができる。その結果、基板保持部材10の基板載置面28の温度分布の均一化をしつつ、シリコーン接着層20の耐熱温度より高い温度のプロセスで基板保持部材10を使用することが可能となる。
【0030】
(熱抵抗の設計)
上記の構成により、シリコーン接着層20の耐熱温度より高い温度のプロセスで基板保持部材10を使用することが可能となるが、さらに、高い温度のプロセスでの使用や、所定のプロセス温度を保つために必要な供給熱量を低減することを考慮する場合、基板保持部材10の熱抵抗の設計をすることが好ましい。基板保持部材10の厚み方向の単位面積当たりの熱抵抗(mK/W)を下記のような計算により設定する(以下熱抵抗は単位面積当たりの値とする)。セラミックス部材12の厚み方向の単位面積当たりの熱抵抗Re(mK/W)は、セラミックスの厚さ(m)/セラミックスの熱伝導率(W/mK)とする。第1の溶射膜14の厚み方向の単位面積当たりの熱抵抗Rf1(mK/W)は、第1の溶射膜の厚さ(m)/第1の溶射膜の熱伝導率(W/mK)とする。冷却部材16の厚み方向の単位面積当たりの熱抵抗Rm(mK/W)は、冷媒の流路と冷却部材表面までの距離(m)/冷却部材の熱伝導率(W/mK)とする。シリコーン接着層の厚み方向の単位面積当たりの熱抵抗Rb(mK/W)は、シリコーン接着層の厚さ(m)/シリコーン接着層の熱伝導率(W/mK)とする。なお、厚み方向とは、基板保持部材10の基板載置面28に垂直な方向とする。
【0031】
ここで、セラミックス部材12がAlNを主成分とするセラミックスで形成されている場合、0.75≧(Re+Rf1)/(Re+Rf1+Rb+Rf2+Rm)≧0.24であることが好ましい。このように、セラミックス部材12を形成するセラミックスの材料に応じて、セラミックス部材12、第1の溶射膜14、シリコーン接着層20、第2の溶射膜18、および冷却部材16の厚み方向の単位面積当たりの熱抵抗を調整することで、250℃以上の高温のプロセスであっても基板保持部材10を使用できる。(Re+Rf1)/(Re+Rf1+Rb+Rf2+Rm)の値は、シリコーン接着層20の温度の程度を示すと考えられる。(Re+Rf1)/(Re+Rf1+Rb+Rf2+Rm)の値は、シリコーン接着層20と第1の溶射膜14の界面の温度に関連し、この値が大きいとシリコーン接着層20の温度は低くなり、値が小さいと温度は高くなる傾向にある。
【0032】
また、セラミックス部材がAlを主成分とするセラミックスで形成されている場合、0.77≧(Re+Rf1)/(Re+Rf1+Rb+Rf2+Rm)≧0.20であることが好ましい。このように、セラミックス部材12を形成するセラミックスの材料に応じて、セラミックス部材12、第1の溶射膜14、シリコーン接着層20、第2の溶射膜18、および冷却部材16の厚み方向の単位面積当たりの熱抵抗を調整することで、250℃以上の高温のプロセスであっても基板保持部材10を使用できる。
【0033】
また、セラミックス部材12がAlNを主成分とするセラミックスで形成されている場合、(Rf1+Rb+Rf2)/(Re+Rf1+Rb+Rf2+Rm)≧0.83であることが好ましい。このように、セラミックス部材12を形成するセラミックスの材料に応じて、セラミックス部材12、第1の溶射膜14、シリコーン接着層20、第2の溶射膜18、および冷却部材16の厚み方向の単位面積当たりの熱抵抗を調整することで、所定のプロセス温度を保つために必要な供給熱量を低減することができる。(Rf1+Rb+Rf2)/(Re+Rf1+Rb+Rf2+Rm)の値は、半導体プロセスへの適用の容易性の程度を示すと考えられる。(Rf1+Rb+Rf2)/(Re+Rf1+Rb+Rf2+Rm)の値が小さいと所定の基板処理温度に到達させるために必要な供給熱量が過大となり、半導体のプロセスに使用することが困難になる傾向にある。
【0034】
また、セラミックス部材12がAlを主成分とするセラミックスで形成される場合、セラミックス部材12の厚み方向の単位面積当たりの熱抵抗Re、冷却部材16のシリコーン接着層18側の主面から冷媒の流路までの領域における厚み方向の単位面積当たりの熱抵抗Rmに対して、(Rf1+Rb+Rf2)/(Re+Rf1+Rb+Rf2+Rm)≧0.63であることが好ましい。このように、セラミックス部材12を形成するセラミックスの材料に応じて、セラミックス部材12、第1の溶射膜14、シリコーン接着層20、第2の溶射膜18、および冷却部材16の厚み方向の単位面積当たりの熱抵抗を調整することで、所定のプロセス温度を保つために必要な供給熱量を低減することができる。
【0035】
なお、上記の熱抵抗の設計に当たっては、各部材の厚みおよび熱伝導率は、以下の範囲であることが好ましい。セラミックス部材12の厚みは1mm以上30mm以下であることが好ましく、セラミックス部材12の熱伝導率は4W/mK以上250W/mKであることが好ましい。また、第1の溶射膜14の厚みは0.3mm以上、2.0mm以下であることが好ましく、第1のセラミックス溶射膜14の熱伝導率は0.4W/mK以上16.0W/mK以下であることが好ましい。また、第2のセラミックス溶射膜18の厚みは0.1mm以上、2.0mm以下であることが好ましく、第2のセラミックス溶射膜18の熱伝導率は0.4W/mK以上、16.0W/mK以下であることが好ましい。また、シリコーン接着層20の厚みは0.1mm以上、2.0mm以下であることが好ましく、シリコーン接着層20の熱伝導率は0.1W/mK以上、4.0W/mK以下であることが好ましい。また、冷却部材16のシリコーン接着層側の主面から冷媒の流路までの厚み(最短距離)は2mm以上30mm以下であることが好ましく、冷却部材16の熱伝導率は10W/mK以上300W/mK以下であることが好ましい。各部の熱伝導率は、25℃で測定した値を採用する。
【0036】
[基板保持部材の製造方法]
次に、上記のように構成された基板保持部材の製造方法を説明する。セラミックス部材の製造方法、冷却部材の製造方法、溶射方法、およびシリコーン接着層の形成方法の順に説明する。
【0037】
(セラミックス部材の製造方法)
以下のセラミックス部材の製造方法は、AlNを主成分とする原料から粉末ホットプレス法によりセラミックス部材を作製する方法について説明するが、原料、製法は本方法に限られず、Alを主成分とするセラミックス部材にも適用できる。また、粉末ホットプレス法のほかグリーンシート積層法やその他従前の製法を採用することが可能である。まず、AlNセラミックス原料粉を造粒する。造粒粉は、内比で0.3wt%以上6wt%以下のYを添加し、バインダを添加して造粒粉を造粒する。次に、造粒粉を有底のカーボン型(成形型)充填し、カーボン型のパンチを載せた後、焼成する。
【0038】
このとき、セラミックス部材には静電吸着用電極や発熱抵抗体としての電極を埋設してもよい。静電吸着用電極または発熱抵抗体としては、タングステン、モリブデン等の耐熱金属を用いることができる。例えば、板、箔、線またはメッシュ等で形成された静電吸着用電極または発熱抵抗体を成形時に埋設し焼結する。例えば、1層の電極を埋設する場合は、成形型にセラミックス部材の絶縁層に対応する造粒粉を充填し、一軸プレス後に電極を成形体上に配置する。その上に同じ造粒粉を充填しカーボン型のパンチを載せた後、焼成する。2層以上の電極を埋設する場合は、造粒粉を充填し、一軸プレス後に電極を成形体上に配置する工程を繰り返す。
【0039】
焼成工程は、常圧焼成、一軸ホットプレス焼成が好ましい。常圧焼成では1800℃以上、一軸ホットプレス焼成では1700℃以上、1MPa以上の圧力、温度条件で焼成する。尚、焼成方法はこれらに限られない。焼成後は、基板を載置する基板載置面および第1の溶射膜を設ける裏面を形成するほか、所定の形状に加工する。セラミックス部材の外形は、円形、四角形等、被載置基板の形状に応じて選択することができる。
【0040】
(冷却部材の製造方法)
まず、複数の金属部材を準備し、冷媒の流路となる溝部を形成する。次に、溝部が形成された複数の金属部材を接合し、流路を有する冷却部材を作製する。流路の形成は複数の金属部材に所定の機械加工を行った後、ロウ付、電子ビーム溶接や拡散接合など従前の金属の接合方法を用いて作製される。金属は加工性や高い熱伝導率からAl合金が最も好適であるが、銅、チタン、ニッケルを含む合金、SUSなどが使用できる。金属製冷却部材の内部には冷媒を流す流路を形成する。冷媒の流路の大きさ、形状は、セラミックス部材を均一に冷却できる大きさ、形状であれば、どのようなものであってもよい。
【0041】
(溶射方法)
セラミックス部材の基板載置面に対向する面に所定のセラミックスを含む第1の溶射原料粉を溶射し、第1の溶射膜を形成する。また、これとは別に、冷却部材の一方の主面に所定のセラミックスを含む第2の溶射原料粉を溶射し、第2の溶射膜を形成する。溶射膜は、セラミックス原料粉を含むスラリーを用いた大気プラズマ溶射法や、原料粉を顆粒にしてフィードする乾式のプラズマ溶射法のほか既知の溶射法により作製することができる。第1の溶射膜および第2の溶射膜の膜種は、Al、Y、ZrOなどが好適である。溶射膜は一定の気孔率を有し、気孔が断熱効果を発揮する。そのため、特に第1の溶射膜は、気孔率は2%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましい。これらの原料、気孔率により第1の溶射膜および第2の溶射膜の熱伝導率は、0.4~16W/mKで調節することができる。溶射膜の厚みは0.05mm以上2mm以下であることが好ましい。
【0042】
(シリコーン接着層の形成方法)
シリコーン接着剤の硬化型は脱水、脱アルコール、付加重合タイプなどが選択できる。また一液硬化、二液硬化、紫外線硬化などが選択できる。これらの中で、シリコーン接着層を形成するシリコーン接着剤は、熱硬化するものが好ましい。以下の説明では、熱硬化するシリコーン接着剤を使用したシリコーン接着層の形成方法を説明する。
【0043】
シリコーン接着剤は、適量秤量撹拌の後、第1のセラミックス溶射膜または第2のセラミックス溶射膜の少なくとも一方に塗布され、脱気後両者を積層し荷重を負荷して大気中または窒素雰囲気または減圧下、オーブン中で熱硬化させる。シリコーン接着剤からのシロキサン成分のアウトガスを抑制するために100℃以上で硬化後200℃以上で一定時間処理することが好ましい。また、シリコーン接着層の厚みを調整するために所定の厚みのスペーサーを同時に配置してもよい。上記処理により第1のセラミックス溶射膜を裏面に被覆したセラミックス部材と第2のセラミックス溶射膜を表面に被膜した金属製冷却部材は、シリコーン接着剤で接着され、シリコーン接着層が形成される。なお、シリコーン接着剤は、溶射膜の中心線平均粗さRaが1μm以上であれば、溶射膜の粗さ曲線の間隙に浸透し良好に密着することができる。
【0044】
このような方法により、基板保持部材を製造することができる。
【0045】
[実施例および比較例]
[試料a1~a15]
次に、実施例および比較例について説明する。まず、セラミックス部材の材料としてAlNを用いた試料として、静電チャック用電極を埋設したAlNを主成分とするセラミックス部材とAl合金製の冷却部材とをシリコーン接着層により接着した静電チャックを作製した。第1の溶射膜または第2の溶射膜の有無、材料、厚み、シリコーン接着層の熱伝導率、厚みを様々変化させて、試料a1~a15とした。以降、試料a1~a15を合わせて試料aという。図2は、試料a1~a15の各試料の製造条件および温度の測定値を示す表である。
【0046】
(試料aに用いるセラミックス部材の作製)
AlNに添加物として5wt%のYを添加した原料を用い、電極としてMoのメッシュ(線径0.1mm、メッシュサイズ#50)を裁断した電極を埋設した。一軸ホットプレス焼成後所定の形状に機械加工し、表面に基板載置面を、表面に対向する裏面に溶射膜を溶射する平面を設け、直径300mm、厚さ15mmのセラミックス部材を作製した。基板載置面の表面粗さRaは0.5μm、溶射面の表面粗さRaは1.5μmとした。これらはJIS B 0601およびISO25178に準拠して測定した。セラミックス部材単体で測定した熱伝導率は、25℃で160W/mKであった。なお、熱伝導率の測定は、JIS R 1611-1997に準拠したレーザーフラッシュ法を用いて行なった。
【0047】
[試料b1~b6]
また、セラミックス部材の材料としてAlを用いた試料として、静電チャック用電極を埋設したAlを主成分とするセラミックス部材とAl合金製の冷却部材とをシリコーン接着層により接着した静電チャックを作製した。第1の溶射膜または第2の溶射膜の材料、厚み、シリコーン接着層の熱伝導率、厚みを様々変化させて、試料b1~b6とした。以降、試料b1~b6を合わせて試料bという。図3は、試料b1~b6の各試料の製造条件および温度の測定値を示す表である。
【0048】
(試料bに用いるセラミックス部材の作製)
Alに添加物として0.05wt%のMgOを添加した原料を用い、電極としてMoのメッシュ(線径0.1mm、メッシュサイズ#50)を裁断した電極を埋設した。一軸ホットプレス焼成後所定の形状に機械加工し、表面に基板載置面を、表面に対向する裏面に溶射膜を溶射する平面を設け、直径300mm、厚さ15mmのセラミックス部材を作製した。基板載置面の表面粗さRaは0.4μm、溶射面の表面粗さRaは1.2μmとした。セラミックス部材単体で測定した熱伝導率は、25℃で30W/mKであった。
【0049】
(冷却部材の作製)
金属としてAl合金(6061T6)を使用した。冷媒の流路は断面が幅10mm、高さ5mmの矩形とし、半径方向に20mm離間して配置した。冷却部材の表面から流路までの垂直方向の最短距離は15mmとした。冷却部材の溶射面の表面粗さRaは1.6μmとした。冷却部材は、試料aと試料bとで共通である。冷却部材の熱伝導率は、25℃で138W/mKであった。
【0050】
(溶射膜の形成)
セラミックス部材の基板載置面に対向する面および冷却部材の平面で形成された主面に、それぞれ第1の溶射膜または第2の溶射膜を形成するためのスラリー原料としてAl、Y、またはZrOを用いた。ZrO溶射膜の熱伝導率は0.8(W/mK)、Y溶射膜の熱伝導率は2(W/mK)、Al溶射膜の熱伝導率は4(W/mK)となるような気孔率に調整して溶射した。なお、上記の熱伝導率は、同一の条件で作製された単体の溶射膜について25℃で測定した。溶射膜の厚みは、300μm~2000μmとした。
【0051】
試料の溶射膜の製造方法を詳しく説明する。高速プラズマ溶射機を用いて非酸化性ガスプラズマをセラミックス静電チャックの裏面の被溶射面に対して照射または噴射し、被溶射面の予熱を行った。非酸化性ガスとして、Arガス、NガスおよびHガスの混合ガスが用いられた。溶射機を構成するノズルに対するArガスの供給量が100l/minに制御され、Nガスの供給量70l/minに制御され、かつ、Hガスの供給量が60l/minに制御された。高速プラズマ溶射機を構成するノズルに対する印加電流を250Aに制御することにより、当該ノズルへの供給電力が65kWに調節された。ノズルの先端とセラミックス部材または冷却部材の被溶射面との間隔を75mmに調節した。セラミックス部材または冷却部材に対するノズルの走査速度または変位速度を850mm/sに調節した。これにより、Arガス、NガスおよびHガスの混合ガスのプラズマが生成され、当該プラズマがノズルの先端からセラミックス部材または冷却部材の被溶射面に対して照射または噴射された。プラズマの照射または噴射による被溶射面の予熱は、10分間行った。
【0052】
そして、高速プラズマ溶射機をそのまま用いて、溶射原料粉を含むセラミックススラリーを、非酸化性ガスを用いてセラミックス静電チャックの裏面の被溶射面に対してプラズマ溶射した。スラリーは、平均粒子径D50が0.5μmである純度99.9%以上のセラミックス原料粉末300gと、水700gとを混合することによりスラリーを調整した。非酸化性ガスとして、Arガス、NガスおよびHガスの混合ガスが用いられた。溶射機を構成するノズルに対するArガスの供給量を100l/minに制御し、Nガスの供給量を70l/minに制御し、かつ、Hガスの供給量を60l/minに制御した。これにより、溶射速度が600~700mm/sに制御された。高速プラズマ溶射機を構成するノズルに対する印加電流を250Aに制御することにより、当該ノズルへの供給電力が65kWに調節された。ノズルの先端とセラミックス部材または冷却部材の被溶射面との間隔を75mmに調節した。セラミックス部材または冷却部材に対するノズルの走査速度または変位速度を850mm/sに調節した。これにより、Arガス、NガスおよびHガスの混合ガスのプラズマが生成され、当該プラズマにより溶融された原料粉末がノズルの先端からセラミックス部材または冷却部材の被溶射面に対して噴射された。このように、セラミックス部材または冷却部材の一方の面がセラミック溶射膜により被覆されているセラミックス部材および冷却部材を形成した。
【0053】
(シリコーン接着層)
一般のシリコーン樹脂に熱伝導率を高めるためアルミナや金属などのフィラーが分散配合されたものを用いた。シリコーン接着層の熱伝導率は0.9W/mK~2.0W/mK、シリコーン接着層の厚みは500μm~2000μmとした。
【0054】
(評価方法)
得られた静電チャックを所定の評価プロセスに供試した。このとき、冷媒は水とエチレングリコールを混合したものを使用し、熱伝達率が2500W/mKとなるように調整した。また、冷媒温度は20℃とし、冷媒の流量は3L/minとした。そして、以下の評価を行った。
【0055】
静電チャック載置面に熱量供給用の別のAlNセラミックス製のプレート状外部ヒーターを載置して加熱した。試料a1~a7、a11~a13、a15および試料b1、b2、b4、b6では、静電チャックの基板載置面の平均温度が250℃の定常状態となるように制御した。試料a8、a9およびa14では、供給熱量を10000(W/m)とした。試料a10では、静電チャックの基板載置面の平均温度が300℃の定常状態となるように制御した。試料b3では、静電チャックの基板載置面の平均温度が240℃の定常状態となるように制御した。なお、試料b3は、静電チャックの基盤載置面の温度が250℃のときはシリコーン接着層の温度が200℃を超えていた。試料b5では、静電チャックの基板載置面の平均温度が400℃の定常状態となるように制御した。そして、そのときの静電チャックの側面に露出している各部の温度とともにシリコーン接着層の温度を熱電対を用いて直接接触して測定する方法、または光温度計で側面の各部の温度を測定する方法を適宜併用した。
【0056】
(評価結果)
試料a8は、第1の溶射膜が形成されていない静電チャックである。試料8は、静電チャックの基板載置面の温度が232℃になったときに、シリコーン接着層の温度が206℃となり、シリコーン接着層の耐熱温度を超えた。これに対し、第1の溶射膜および第2の溶射膜が形成された試料a1~a6、a9~a15および試料b1~b6では、静電チャックの基板載置面の温度を240℃以上としたときに、シリコーン接着層の温度を200℃以下にすることができた。なお、試料a6は、静電チャックの基盤載置面の温度が250℃のときはシリコーン接着層の温度が200℃を超えたが、基板載置面の温度が240℃のときはシリコーン接着層の温度は200℃を下回っていた。すなわち、第1の溶射膜および第2の溶射膜が形成された試料a1~a6、a9~a15および試料b1~b6は、シリコーン接着層の耐熱温度より高い温度のプロセスで静電チャック(基板保持部材)を使用しても、シリコーン接着層の温度を耐熱温度以下にすることができ、シリコーン接着層の劣化を防ぐことができることが分かった。
【0057】
試料a7は、第2の溶射膜が形成されていない静電チャックである。第1の溶射膜および第2の溶射膜が形成された試料a1、b1は、基板載置面の温度分布ΔTは、それぞれ1.2℃、1.0℃であったのに対し、試料a7の基板載置面の温度分布ΔTは、2.1℃であった。これは、静電チャックから冷却部材の冷媒流路に向かう熱流が冷却部材表面に形成された第2のセラミックス溶射膜によって影響を受け、静電チャックの基板載置面にもその影響が表れたものと推定される。これにより、第1の溶射膜および第2の溶射膜が形成された試料a1、b1は、静電チャックの基板載置面の熱ムラを低減することができることが分かった。第1の溶射膜および第2の溶射膜が形成された試料a2~a6、a9~a15および試料b2~b6も同様の効果を奏するものと推定される。なお、基板載置面の温度分布ΔTは、赤外線(IR)カメラで直径290mmより内側領域で最大値-最小値として求めた。
【0058】
また、試料a1~a5、a9~a15では、供給される熱量を調節することによって静電チャックの基板載置面の温度を250℃とすることができ、そのときのシリコーン接着層の温度を200℃以下にすることができた。このとき、試料a1~a5、a11~a13は、セラミックス部材がAlNを主成分とするセラミックスで形成され、0.75≧(Re+Rf1)/(Re+Rf1+Rb+Rf2+Rm)≧0.24を満たしていた。これにより、セラミックス部材がAlNを主成分とするセラミックスで形成され、0.75≧(Re+Rf1)/(Re+Rf1+Rb+Rf2+Rm)≧0.24を満たす基板保持部材は、少なくとも250℃以上のプロセスで使用することができることが確かめられた。なお、当該条件を満たす試料a9およびa14は、供給熱量を10000(W/m)で固定したため基板載置面の温度を250℃にできなかったが、試料a9およびa14とそれぞれ同一の静電チャックで供給熱量を増大させた試料a11およびa15は、基板載置面の温度を250℃にできた。また、当該条件を満たす試料a10は、基板載置面の温度を300℃とした場合であっても、シリコーン接着層の温度を200℃以下にすることができた。
【0059】
また、試料b1、b2、b4~b6では、供給される熱量を調節することによって静電チャックの基板載置面の温度を250℃とすることができ、そのときのシリコーン接着層の温度を200℃以下にすることができた。このとき、試料b1、b2、b4~b6は、セラミックス部材がAlを主成分とするセラミックスで形成され、0.77≧(Re+Rf1)/(Re+Rf1+Rb+Rf2+Rm)≧0.20を満たしていた。これにより、セラミックス部材がAlを主成分とするセラミックスで形成され、0.77≧(Re+Rf1)/(Re+Rf1+Rb+Rf2+Rm)≧0.20を満たす基板保持部材は、少なくとも250℃以上のプロセスで使用することができることが確かめられた。なお、当該条件を満たす試料b5は、基板載置面の温度を400℃とした場合であっても、シリコーン接着層の温度を200℃以下にすることができた。
【0060】
また、試料a1~a5、a10、a12、a13では、供給熱量が10000(W/m)未満であっても静電チャックの基板載置面の温度を250℃とすることができた。このとき、試料a1~a5、a10、a12、a13は、セラミックス部材がAlNを主成分とするセラミックスで形成され、(Rf1+Rb+Rf2)/(Re+Rf1+Rb+Rf2+Rm)≧0.83を満たしていた。これにより、セラミックス部材がAlNを主成分とするセラミックスで形成され、(Rf1+Rb+Rf2)/(Re+Rf1+Rb+Rf2+Rm)≧0.83を満たす静電チャックは、所定のプロセス温度を保つために必要な供給熱量を低減することができることが確かめられた。
【0061】
また、試料b1、b2、b4~b6では、供給熱量が10000(W/m)未満であっても静電チャックの基板載置面の温度を250℃とすることができた。このとき、試料b1、b2、b4~b6は、セラミックス部材がAlを主成分とするセラミックスで形成され、(Rf1+Rb+Rf2)/(Re+Rf1+Rb+Rf2+Rm)≧0.63を満たしていた。これにより、セラミックス部材がAlを主成分とするセラミックスで形成され、(Rf1+Rb+Rf2)/(Re+Rf1+Rb+Rf2+Rm)≧0.63を満たす静電チャックは、所定のプロセス温度を保つために必要な供給熱量を低減することができることが確かめられた。
【0062】
以上により、本発明の基板保持部材は、基板の温度がシリコーン接着層の耐熱温度以上となるプロセスで使用しても、シリコーン接着層の温度が耐熱温度以下となり、かつ、基板載置面の温度分布均一性が高いことが確かめられた。また、本発明の製造方法は、そのような基板保持部材を製造できることが確かめられた。
【0063】
本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形および均等物に及ぶことはいうまでもない。また、各図面に示された構成要素の構造、形状、数、位置、大きさ等は説明の便宜上のものであり、適宜変更しうる。
【符号の説明】
【0064】
10 基板保持部材
12 セラミックス部材
14 第1の溶射膜
16 冷却部材
18 第2の溶射膜
20 シリコーン接着層
22 流路
24、26 電極
28 基板載置面
図1
図2
図3