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特許7565751熱可塑性樹脂組成物及びそれからなる成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物及びそれからなる成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 53/02 20060101AFI20241004BHJP
   C08L 23/10 20060101ALI20241004BHJP
   A61J 1/05 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C08L53/02
C08L23/10
A61J1/05 311
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020177129
(22)【出願日】2020-10-22
(65)【公開番号】P2022068450
(43)【公開日】2022-05-10
【審査請求日】2023-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】515107720
【氏名又は名称】MCPPイノベーション合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100117400
【弁理士】
【氏名又は名称】北川 政徳
(72)【発明者】
【氏名】佐野 二朗
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-271482(JP,A)
【文献】特開2014-024936(JP,A)
【文献】特開2015-034284(JP,A)
【文献】特開2017-019923(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08F 6/00-246/00、251/00-283/00、
283/02-289/00、291/00-297/08、
301/00
A61J 1/00-19/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状ポリオレフィン(A)と、ポリプロピレン系樹脂(B)とを含有する熱可塑性樹脂組成物であって、
さらにスチレン系エラストマー(C)を含有し、
該環状ポリオレフィン(A)が、少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー単位及び少なくとも1種の共役ジエンモノマー単位を含むブロックコポリマーの水素化体である水素化ブロックコポリマーからなり、
該水素化ブロックコポリマーは、前記芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び前記共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有し、
該水素化ブロックコポリマーは、前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位を少なくとも2個有すると共に、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位を少なくとも1個有し、
[前記環状ポリオレフィン(A)の含有率]/[前記ポリプロピレン系樹脂(B)の含有率]で表される質量比が、5/95~95/5であり、
前記環状ポリオレフィン(A)と前記ポリプロピレン系樹脂(B)の合計100質量部に対し、前記スチレン系エラストマー(C)の含有量が1~100質量部である、熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が90%以上の水素化レベルをもち、且つ、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位が95%以上の水素化レベルをもつ、請求項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が水素化ポリスチレンからなる単位であり、前記環状ポリオレフィン(A)中の含有率が30~99モル%である、請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位が水素化ポリブタジエンからなる単位であり、前記環状ポリオレフィン(A)中の含有率が1~70モル%である、請求項1~のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記スチレン系エラストマー(C)が、少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー単位からなる芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び少なくとも1種の共役ジエンモノマー単位からなる共役ジエンポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有するスチレン系水添ブロック共重合体を有する、請求項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
前記スチレン系エラストマー(C)中の芳香族ビニルポリマーブロック単位の含有率が25~35質量%である、請求項1~5のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
前記スチレン系エラストマー(C)の重量平均分子量が10,000~200,000である、請求項1~6のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形体。
【請求項9】
医療用成形体である、請求項に記載の成形体。
【請求項10】
前記医療用成形体が、プラスチックスライドガラス、点眼容器、薬瓶アンプル、バイアル、これらに用いるキャップ、試験管、採血管、検体容器、プレフィルドシリンジ、又は注射器シリンジである請求項に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性、低吸着性、耐薬品性の優れた熱可塑性樹脂組成物及び成形体を提供することを目的とする。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン系樹脂は耐薬品性に優れることから、一般に医療用成形体として広く使用されている。また、ノルボルネンを開環重合し、水素添加した環状ポリオレフィン(以下「COP」と称する。)は、透明性及び低吸着性に優れた医療用成形体として知られている(特許文献1)。
ノルボルネンとエチレン等のオレフィンを原料とした共重合体や、テトラシクロドデセンとエチレン等のオレフィンを原料とした共重合体である環状ポリオレフィンコポリマー(以下「COC」と称する。)や、COPからなる医療用成形体は、透明且つ蛋白質低吸着医療用容器として知られている。(特許文献2)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平5-317411号公報
【文献】特開2006-116345号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ポリプロピレン系樹脂は透明性や低吸着性が劣り、COPやCOCは耐薬品性が劣る。
本発明者の検討によれば、今後、医療用成形体には、透明性、低吸着性、耐薬品性が要求されることがわかっている。
本発明は、このような問題を鑑みてなされたものである。即ち、本発明の課題は、透明性、低吸着性、耐薬品性の優れた樹脂組成物及び成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は鋭意検討した結果、特定の環状ポリオレフィンとポリプロピレン系樹脂を含有する熱可塑性樹脂組成物が、透明性、低吸着性、耐薬品性に優れることを見出し、本発明に至った。
即ち、本発明は以下の特徴を有する。
【0006】
[1]環状ポリオレフィン(A)と、ポリプロピレン系樹脂(B)とを含有する熱可塑性樹脂組成物であって、該環状ポリオレフィン(A)が、少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー単位及び少なくとも1種の共役ジエンモノマー単位を含むブロックコポリマーの水素化体である水素化ブロックコポリマーからなり、該水素化ブロックコポリマーは、前記芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び前記共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有し、該水素化ブロックコポリマーは、前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位を少なくとも2個有すると共に、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位を少なくとも1個有する、熱可塑性樹脂組成物。
[2][前記環状ポリオレフィン(A)の含有率]/[前記ポリプロピレン系樹脂(B)の含有率]で表される質量比が、5/95~95/5である、[1]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[3]前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が90%以上の水素化レベルをもち、且つ、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位が95%以上の水素化レベルをもつ、[1]又は[2]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[4]前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が水素化ポリスチレンからなる単位であり、前記環状ポリオレフィン(A)中の含有率が30~99モル%である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[5]前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位が水素化ポリブタジエンからなる単位であり、前記環状ポリオレフィン(A)中の含有率が1~70モル%である、[1]~[4]のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[6]更にスチレン系エラストマー(C)を含有する、[1]~[5]のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[7]前記スチレン系エラストマー(C)が、少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー単位及び少なくとも1種の共役ジエンモノマー単位を含むブロックコポリマー及び/又はその水素化体であるブロックコポリマーからなり、該ブロックコポリマーは、前記芳香族ビニルモノマー単位からなる芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び前記共役ジエンモノマー単位からなる共役ジエンポリマーブロック単位を有し、該水素化体は、前記芳香族ビニルモノマー単位からなる芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び前記共役ジエンモノマー単位からなる共役ジエンポリマーブロック単位の水素化体を有する、[6]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[8]前記スチレン系エラストマー(C)中の芳香族ビニルポリマーブロック単位の含有率が25~35質量%である、[6]又は[7]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[9]前記スチレン系エラストマー(C)の重量平均分子量が10,000~200,000である、[6]~[8]のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[10]前記環状ポリオレフィン(A)と前記ポリプロピレン系樹脂(B)の合計100質量部に対し、前記スチレン系エラストマー(C)の含有量が1~100質量部である、[6]~[9]のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[11][1]~[10]のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形体。
[12]医療用成形体である、[11]に記載の成形体。
[13]前記医療用成形体が、プラスチックスライドガラス、点眼容器、薬瓶アンプル、バイアル、これらに用いるキャップ、試験管、採血管、検体容器、プレフィルドシリンジ、又は注射器シリンジである[12]に記載の成形体。
【発明の効果】
【0007】
この発明にかかる環状ポリオレフィンと、ポリプロピレン系樹脂とを含有する熱可塑性樹脂組成物及び成形体は、透明性、低吸着性、耐薬品性に優れることから、医療用成形体の材料として好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に本発明について詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施の形態の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
以下において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
【0009】
本願に係る発明は、環状ポリオレフィン(A)と、ポリプロピレン系樹脂(B)とを含有する熱可塑性樹脂組成物についての発明である。
【0010】
<環状ポリオレフィン(A)>
本発明の環状ポリオレフィン(A)(以下、「成分(A)」と称することがある。)は、少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー単位及び少なくとも1種の共役ジエンモノマー単位を含むブロックコポリマーの水素化体である水素化ブロックコポリマーからなる。
該水素化ブロックコポリマーは、前記芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び前記共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有する。
また、該水素化ブロックコポリマーは、前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位を少なくとも2個有すると共に、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位を少なくとも1個有するものである。
【0011】
本発明の環状ポリオレフィン(A)は、透明性及び耐候性の観点から、前記水素化ブロックコポリマーからなることが好ましい。
尚、「ブロック」とは、後記するように、本明細書において、コポリマーの構造的又は組成的に異なった重合セグメントからのミクロ層分離を表すコポリマーの重合セグメントをいう。このため、例えば「ブロック単位を少なくとも2個有する」とは、水素化ブロックコポリマーの中に、構造的又は組成的に異なった重合セグメントからのミクロ層分離を表すコポリマーの重合セグメントを少なくとも2個有することをいう。
【0012】
前記の芳香族ビニルモノマー単位の原料となる芳香族ビニルモノマーは、一般式(1)で示されるモノマーである。
【0013】
【化1】
【0014】
ここでRは、水素又はアルキル基、Arはフェニル基、ハロフェニル基、アルキルフェニル基、アルキルハロフェニル基、ナフチル基、ピリジニル基、又はアントラセニル基である。
【0015】
前記アルキル基は、ハロ基、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシ基、シアノ基、カルボニル基、及びカルボキシル基のような官能基で単置換若しくは多重置換されたアルキル基であってもよい。また、前記アルキル基の炭素数は1~6がよい。
また、前記のArは、フェニル基又はアルキルフェニル基が好ましく、フェニル基がより好ましい。
【0016】
前記芳香族ビニルモノマーとしては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン(全ての異性体を含み、特にp-ビニルトルエン)、エチルスチレン、プロピルスチレン、ブチルスチレン、ビニルビフェニル、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン(全ての異性体)、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0017】
前記の共役ジエンモノマー単位の原料となる共役ジエンモノマーは、2個の共役二重結合を持つモノマーであればよく、特に限定されるものではない。
共役ジエンモノマーとしては、例えば、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)、2-メチル-1,3-ペンタジエンとその類似化合物、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0018】
前記1,3-ブタジエンの重合体であるポリブタジエンは、水素化で1-ブテン繰り返し単位の等価物を与える1,2配置、又は水素化でエチレン繰り返し単位の等価物を与える1,4配置のいずれかを含むことができる。
【0019】
前記の芳香族ビニルモノマーや、1,3-ブタジエンを含む前記共役ジエンモノマーから構成される重合性ブロックの水素化体は、本発明で使用される水素化ブロックコポリマーに含まれる。好ましくは、水素化ブロックコポリマーは官能基のないブロックコポリマーである。
尚、「官能基のない」とはブロックコポリマー中に如何なる官能基、即ち、炭素と水素以外の元素を含む基が存在しないことを意味する。
【0020】
前記の水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の好ましい例としては、水素化ポリスチレンからなる単位が挙げられ、前記の水素化共役ジエンポリマーブロック単位の好ましい例としては、水素化ポリブタジエンからなる単位が挙げられる。
そして、水素化ブロックコポリマーの好ましい一態様としては、スチレンとブタジエンの水素化トリブロック又はペンタブロックコポリマーが挙げられ、他の如何なる官能基又は構造的変性剤も含まないことが好ましい。
「ブロック」とは、コポリマーの構造的又は組成的に異なった重合セグメントからのミクロ層分離を表すコポリマーの重合セグメントとして定義される。ミクロ層分離は、ブロックコポリマー中で重合セグメントが混じり合わないことにより生ずる。
尚、ミクロ層分離とブロックコポリマーは、PHYSICS TODAYの1999年2月号32-38頁の“Block Copolymers-Designer Soft Materials”で広範に議論されている。
【0021】
水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の含有率は、前記環状ポリオレフィン(A)に対して、好ましくは30~99モル%、より好ましくは40~90モル%である。
水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の比率が上記下限値以上であれば剛性が低下することがなく、上記上限値以下であれば脆性が悪化することがない。
【0022】
また、水素化共役ジエンポリマーブロック単位の含有率は、前記環状ポリオレフィン(A)に対して、好ましくは1~70モル%、より好ましくは10~60モル%である。
水素化共役ジエンポリマーブロック単位の比率が上記下限値以上であれば脆性が悪化することがなく、上記上限値以下であれば剛性が低下することがない。
【0023】
尚、前記のとおり、本願発明にかかるポリオレフィンは、「環状ポリオレフィン」であるが、この「環状」とは、前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が有する、芳香族環の水素化により生じる脂環式構造のことをいう。
【0024】
本発明の水素化ブロックコポリマーはSBS、SBSBS、SIS、SISIS、及びSISBS(ここで、Sはポリスチレン、Bはポリブタジエン、Iはポリイソプレンを意味する。)のようなトリブロック、マルチブロック、テーパーブロック、及びスターブロックコポリマーを含むブロックコポリマーの水素化によって製造される。
【0025】
本発明の水素化ブロックコポリマーはそれぞれの末端に芳香族ビニルポリマーからなるセグメントを含む。このため、本発明の水素化ブロックコポリマーは、少なくとも2個の水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位を有することとなる。そして、この2個の水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の間には、少なくとも1つの水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有することとなる。
【0026】
前記水素化ブロックを構成する水素化前のブロックコポリマーは、何個かの追加ブロックを含んでいてもよく、これらのブロックはトリブロックポリマー骨格のどの位置に結合していてもよい。このように、線状ブロックは例えばSBS、SBSB、SBSBS、そしてSBSBSBを含む。コポリマーは分岐していてもよく、重合連鎖はコポリマーの骨格に沿ってどの位置に結合していてもよい。
【0027】
環状ポリオレフィン(A)の重量平均分子量(Mw)の下限は、好ましくは30,000以上、より好ましくは40,000以上、更に好ましくは45,000以上、特に好ましくは50,000以上である。また、Mwの上限は、好ましくは120,000以下、より好ましくは100,000以下、更に好ましくは95,000以下、特に好ましくは90,000以下、最も好ましくは85,000以下、極めて好ましくは80,000以下である。
Mwが上記下限値以上であれば機械強度が低下せず、上記上限値以下であれば成形加工性が悪化しない。
【0028】
ここで、環状ポリオレフィン(A)のMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて下記条件で測定したポリスチレン換算の数値である。
・機器 :東ソー(株)製「GPC HLC-832GPC/HT」
・カラム:昭和電工(株)製「AD806M/S」3本(カラムの較正は東ソー(株)製単分散ポリスチレン(A500,A2500,F1,F2,F4,F10,F20,F40,F288の各0.5mg/mL溶液)の測定を行ない、溶出体積と分子量の対数値を3次式で近似した。)
・検出器:MIRAN社製「1A赤外分光光度計」
・波長:3.42μm
・溶媒:o-ジクロロベンゼン
・温度:135℃
・流速:1.0mL/分
・注入量:200μL
・濃度:20mg/10mL
【0029】
ブロックコポリマーの水素化レベルは、好ましくは水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が90%以上、水素化共役ジエンポリマーブロック単位が95%以上;より好ましくは水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が95%以上、水素化共役ジエンポリマーブロック単位が99%以上;更に好ましくは水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が98%以上、水素化共役ジエンポリマーブロック単位が99.5%以上;特に好ましくは水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が99.5%以上、水素化共役ジエンポリマーブロック単位が99.5%以上である。
尚、水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の水素化レベルとは、芳香族ビニルポリマーブロック単位が水素化によって飽和される割合を示し、水素化共役ジエンポリマーブロック単位の水素化レベルとは、共役ジエンポリマーブロック単位が水素化によって飽和される割合を示す。このように高レベルの水素化は、耐熱性及び透明性のために好ましい。
【0030】
水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の水素化レベルと、水素化共役ジエンポリマーブロック単位の水素化レベルは、プロトンNMRを用いて決定される。
【0031】
本発明の環状ポリオレフィン(A)のメルトフローレート(MFR)は、好ましくは0.1g/10分以上であり、成形方法や成形体の外観の観点から、より好ましくは0.2g/10分以上である。また、好ましくは200g/10分以下であり、材料強度の観点から、より好ましくは100g/10分以下、更に好ましくは50g/10分以下である。
MFRは、ISO R1133に従って、測定温度230℃、測定荷重2.16kgの条件で測定した。
【0032】
環状ポリオレフィン(A)は、1種を単独で用いてもよく、モノマー単位の組成や物性等の異なる2種以上を併用してもよい。
本発明の環状ポリオレフィン(A)としては、市販品を用いることができる。具体的には、三菱ケミカル(株)製「ゼラス(商標登録)」が挙げられる。
【0033】
<ポリプロピレン系樹脂(B)>
本発明のポリプロピレン系樹脂(B)(以下、「成分(B)」と称することがある。)は、全単量体単位に対するプロピレン単位の含有率が50質量%以上のポリオレフィン樹脂である。本発明の熱可塑性樹脂組成物において、ポリプロピレン系樹脂(B)は耐薬品性に寄与する。
【0034】
ポリプロピレン系樹脂(B)としては、プロピレン単独重合体、プロピレンランダム共重合体、プロピレンブロック共重合体のいずれも使用することができる。
【0035】
ポリプロピレン系樹脂(B)がプロピレンランダム共重合体である場合、プロピレンと共重合する単量体としては、例えば、エチレン、1-ブテン、2-メチルプロピレン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテンが挙げられる。
ポリプロピレン系樹脂(B)がプロピレンブロック共重合体である場合、多段階で重合して得られるプロピレンブロック共重合体が挙げられ、より具体的には、第一段階でポリプロピレンを重合し、第二段階でプロピレン・エチレン共重合体を重合して得られるプロピレンブロック共重合体が挙げられる。
【0036】
ポリプロピレン系樹脂(B)におけるプロピレン単位の含有率は、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは75質量%以上であり、更に好ましくは90質量%以上である。プロピレン単位の含有率が上記下限値以上であれば耐熱性及び剛性が良好となる。ポリプロピレン系樹脂(B)におけるプロピレン単位の含有率の上限は、通常100質量%である。尚、ポリプロピレン系樹脂(B)のプロピレン単位の含有率は、赤外分光法により求めることができる。
【0037】
ポリプロピレン系樹脂(B)のMFRは、好ましくは0.05g/10分以上であり、流動性の観点から、より好ましくは0.1g/10分以上、更に好ましくは0.5g/10分以上である。また、好ましくは100g/10分以下であり、成形性の観点から、より好ましくは70g/10分以下、更に好ましくは50g/10分以下である。
MFRは、ISO R1133に従って、測定温度230℃、測定荷重2.16kgの条件で測定した。
【0038】
ポリプロピレン系樹脂(B)の製造方法としては、オレフィン重合用触媒を用いた公知の重合方法が用いられる。例えば、チーグラー・ナッタ系触媒を用いた多段重合法が挙げられる。この多段重合法には、スラリー重合法、溶液重合法、塊状重合法、気相重合法等を用いることができ、これらを2種以上組み合わせて製造してもよい。
【0039】
ポリプロピレン系樹脂(B)は、1種を単独で用いてもよく、プロピレン単位の含有率や含まれる単量体単位の種類、物性等の異なる2種以上を併用してもよい。
【0040】
本発明のポリプロピレン系樹脂(B)としては、市販品を用いることができる。具体的には、日本ポリプロ(株)製「ノバテック(登録商標)PP」、(株)プライムポリマー製「Prim Polypro(登録商標)」、住友化学(株)製「住友ノーブレン(登録商標)」、サンアロマー(株)製「ポリプロピレンブロックコポリマー」、LyondellBasell社製「Moplen(登録商標)」、ExxonMobil社製「ExxonMobil PP」、Formosa Plastics社製「Formolene(登録商標)」、Borealis社製「Borealis PP」、LG Chemical社製「SEETEC PP」、A.Schulman社製「ASI POLYPROPYLENE」、INEOS Olefins&Polymers社製「INEOS PP」、Braskem社製「Braskem PP」、SAMSUNG TOTAL PETROCHEMICALS社製「Sumsung Total」、Sabic社製「Sabic(登録商標)PP」、TOTAL PETROCHEMICALS社製「TOTAL PETROCHEMICALS Polypropylene」、SK社製「YUPLENE(登録商標)」が挙げられる。
【0041】
本願の熱可塑性樹脂組成物は、更にスチレン系エラストマー(C)を含有することができる。
【0042】
<スチレン系エラストマー(C)>
本発明のスチレン系エラストマー(C)(以下、「成分(C)」と称することがある。)は、少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー単位及び少なくとも1種の共役ジエンモノマー単位を含む共重合体である。そしてこの共重合体の中でも、前記の両単位を含むブロックコポリマーやこのブロックコポリマーの水素化体である水素化ブロックコポリマーが好ましい。
このブロックコポリマーは、少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー単位からなる芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び少なくとも1種の共役ジエンモノマー単位からなる共役ジエンポリマーブロック単位を有するスチレン系ブロック共重合体(以下、単に「ブロック共重合体」と称する場合がある。)である。
【0043】
また、前記水素化ブロックコポリマーは、前記の芳香族ビニルモノマー単位からなる芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び前記共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有するスチレン系水添ブロック共重合体(以下、単に「水添ブロック共重合体」と称する場合がある。)である。
【0044】
前記のスチレン系ブロック共重合体やスチレン系水添ブロック共重合体の2つのブロック単位の関係は、下記式(2)又は式(3)で表すことができる。
S-(D-S)m …(2)
(S-D)n …(3)
(式中、Sは芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックを表し、Dは共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロック又はその水素化体(水添体)を表し、m及びnは1~5の整数を表す。)
【0045】
前記スチレン系エラストマー(C)としては、前記のスチレン系水添ブロック共重合体がより好ましい。
また、前記スチレン系ブロック共重合体やスチレン系水添ブロック共重合体は、直鎖状、分岐状及び/又は放射状のいずれであってもよい。
【0046】
前記スチレン系ブロック共重合体の原料となる芳香族ビニルモノマーとしては、スチレン又はα-メチルスチレン等のスチレン誘導体が好ましい。また、前記スチレン系ブロック共重合体の原料となる共役ジエンモノマーとしては、ブタジエン及び/又はイソプレンが好ましく、ブタジエンがより好ましい。
【0047】
前記スチレン系ブロック共重合体としては、スチレン/ブタジエン共重合体ゴムやスチレン/イソプレン共重合体ゴムが好ましく、前記スチレン系水添ブロック共重合体としては、スチレン/ブタジエン共重合体ゴムやスチレン/イソプレン共重合体ゴムのうち、ポリブタジエンブロック単位やポリイソプレンブロック単位が水素化(水添)されたものが好ましい。
【0048】
前記の式(2)及び/又は式(3)で表されるのが水添ブロック共重合体であり、Dのポリマーブロックがポリブタジエンブロック単位の水素化物(水添物)のみから構成される場合、Dブロックのミクロ構造中の1,2-付加構造が20~70質量%であることが、水添後のエラストマーとしての性質を保持する上で好ましい。
【0049】
前記のm及びnは、秩序-無秩序転移温度を下げるという意味では大きい方がよいが、製造しやすさ及びコストの点では小さい方がよい。
スチレン系エラストマー(C)としては、ゴム弾性に優れることから式(2)で表されるブロック共重合体や水添ブロック共重合体が好ましく、mが3以下である式(2)で表されるブロック共重合体や水添ブロック共重合体がより好ましく、mが2以下である式(2)で表されるブロック共重合体や水添ブロック共重合体が更に好ましい。
【0050】
前記の式(2)及び/又は式(3)で表されるブロック共重合体や水添ブロック共重合体中の「Sのポリマーブロック」の割合は、スチレン系エラストマーの剛性の点から多い方が好ましく、また、一方、柔軟性及びブリードアウトのし難さの点から少ない方が好ましい。
【0051】
前記スチレン系エラストマー(C)、即ち、ブロック共重合体や水添ブロック共重合体中の「Sのポリマーブロック」の割合は、25質量%以上が好ましく、26質量%以上がより好ましく、27質量%以上が更に好ましい。また、35質量%以下が好ましく、34質量%以下がより好ましく、33質量%以下が更に好ましい。この範囲を満たすことにより、本発明の熱可塑性樹脂組成物として、透明性に優れたものを得ることができる。
【0052】
前記スチレン系エラストマー(C)の重量平均分子量(Mw)は、機械的強度の点では大きい方が好ましいが、透明性、成形外観、及び流動性、成形歪を低くすることによる耐熱収縮の点では小さい方が好ましい。
スチレン系エラストマー(C)のMwは、10,000以上が好ましく、30,000以上がより好ましい。また、200,000以下が好ましく、150,000以下がより好ましく、100,000以下が更に好ましい。
【0053】
ここで、スチレン系エラストマー(C)のMwは、GPCを用いて下記条件で測定したポリスチレン換算の数値である。
・機器 :日本ミリポア(株)製「150CALC/GPC」
・カラム:昭和電工(株)製「AD80M/S」3本
・検出器:FOXBORO社製赤外分光光度計「MIRANIA」
・波長:3.42μm
・溶媒:o-ジクロロベンゼン
・温度:140℃
・流速:1.0mL/分
・注入量:200μL
・濃度:20mg/10mL
・酸化防止剤として2,6-ジ-t-ブチル-p-フェノール0.2質量%を添加
【0054】
スチレン系エラストマー(C)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明のスチレン系エラストマー(C)としては、市販品を用いることができる。
スチレン系水添ブロック共重合体の市販品としては、例えば、TSRC社製「タイポール(登録商標)」、クレイトンポリマー社製「クレイトン(登録商標)G」、(株)クラレ製「セプトン(登録商標)」、旭化成(株)製「タフテック(登録商標)」が挙げられる。
【0055】
<熱可塑性樹脂組成物>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、[環状ポリオレフィン(A)の含有率]/[ポリプロピレン系樹脂(B)の含有率]で表される質量比が、5/95~95/5が好ましく、10/90~90/10がより好ましく、20/80~80/20が更に好ましく、30/70~70/30が最も好ましい。上記範囲内であれば、透明性、低吸着性、耐薬品性に優れる。
[環状ポリオレフィン(A)の含有率]/[ポリプロピレン系樹脂(B)の含有率]で表される質量比は、上記範囲の下限以上であれば耐薬品性が良好となり、上記範囲の上限以下であれば透明性と低吸着性が良好となる。
【0056】
本発明の熱可塑性樹脂組成物が、更にスチレン系エラストマー(C)を含有量する場合、環状ポリオレフィン(A)とポリプロピレン系樹脂(B)の合計100質量部に対し、スチレン系エラストマー(C)の含有量は1質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましい。また、100質量部以下が好ましく、80質量部以下がより好ましい。
スチレン系エラストマー(C)の含有量が上記範囲内であれば、透明性、低吸着性、耐薬品性に優れ、更に耐衝撃性を付与することができる。
【0057】
<その他の成分>
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、その他の成分として、樹脂組成物に常用されている配合剤を、本発明の効果を損なわない範囲で含有させることができる。
このような配合剤としては、例えば、熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、防錆剤、無機充填材、発泡剤及び顔料が挙げられる。
この内、酸化防止剤、特にフェノール系、硫黄系又はリン系の酸化防止剤を含有させることが好ましい。酸化防止剤は、前記熱可塑性樹脂組成物100質量部に対して0.01~2質量部含有させることが好ましい。
【0058】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、前記スチレン系エラストマー(C)以外の樹脂成分やエラストマー成分を含有させてもよい。
このような樹脂成分としては、例えば、ポリエチレン樹脂、エチレン/α-オレフィン共重合樹脂、プロピレン/α-オレフィン共重合樹脂、エチレン/酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン/アクリル酸エステル共重合樹脂、エチレン/(メタ)アクリル酸共重合樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、エチレン/ビニルアルコール共重合体、アクリル系樹脂、石油樹脂が挙げられる。
【0059】
またエラストマー成分としては、例えば、オレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、アクリル系エラストマー、ナイロン系エラストマーが挙げられる。
【0060】
その他の成分の配合は、熱可塑性樹脂の溶融混練に常用されている混練方法にて成分(A)及び成分(B)に添加してもよいし、成分(A)と共に有機溶媒へ溶解させて混合してもよい。
その他の樹脂成分やエラストマー成分の含有率は、全成分の50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましい。
【0061】
<熱可塑性樹脂組成物の製造方法>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、成分(A)、成分(B)、及び必要に応じて、成分(C)、その他の成分を、通常の押出機やバンバリーミキサー、ロール、ブラベンダープラストグラフ、ニーダーブラベンダー等を用いて常法で混練して製造することができる。
これらの製造方法の中でも、押出機、特に二軸押出機を用いることが好ましい。
本発明の熱可塑性樹脂組成物を押出機等で混練して製造する際には、通常180~300℃、好ましくは200~280℃に加熱した状態で溶融混練する。
【0062】
<成形体及びその製造方法>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、成形することにより、各種成形体を得ることができる。
成形方法としては、通常の射出成形法、ガスインジェクション成形法、射出圧縮成形法、ショートショット発泡成形法等の各種成形法が挙げられる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、射出成形して成形体とすることが好ましく、射出成形する際の成形条件は以下の通りである。
成形温度は210~300℃であり、好ましくは220~280℃である。
射出圧力は5~100MPaであり、好ましくは10~80MPaである。
金型温度は0~100℃であり、好ましくは20~80℃、より好ましくは30~70℃である。
【0063】
<用途>
本発明の熱可塑性樹脂組成物及び成形体は、透明性、低吸着性、耐薬品性に優れることから、医療用成形体として好適に用いることができる。
【0064】
前記医療用成形体としては、例えば、プラスチックスライドガラス;点眼容器、薬瓶アンプル、バイアル、これらに用いるキャップ等の医薬品収納容器;試験管、採血管、検体容器等のサンプリング容器;プレフィルドシリンジ、注射器シリンジ等のシリンジ類が挙げられる。
【実施例
【0065】
以下、実施例を用いて本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限または下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限または下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
尚、以下の記載において、「部」は「質量部」を表す。
【0066】
[物性]
<環状ポリオレフィン(A)のポリマーブロックの比率>
[カーボンNMRによる測定]
・装置:Bruker社製「AVANCE400分光計」
・溶媒:o-ジクロロベンゼン-h/p-ジクロロベンゼン-d混合溶媒
・濃度:0.3g/2.5mL
・測定:13C-NMR
・共鳴周波数:400MHz
・積算回数:1536
・フリップ角:45度
・データ取得時間:1.5秒
・パルス繰り返し時間:15秒
・測定温度:100℃
H照射:完全デカップリング
【0067】
<水素化レベル>
[プロトンNMRによる測定]
・装置:日本分光社製「400YH分光計」
・溶媒:重クロロホルム
・濃度:0.045g/1.0mL
・測定:H-NMR
・共鳴周波数:400MHz
・積算回数:8
・測定温度:18.5℃
・環状ポリオレフィン(A)の水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の水素化レベル:6.8~7.5ppmの積分値低減率
・環状ポリオレフィン(A)の水素化共役ジエンポリマーブロック単位の水素化レベル:5.7~6.4ppmの積分値低減率
【0068】
<メルトフローレート(MFR)>
ISO R1133に従って、下記の条件で測定した。
・装置:(株)東洋精機製作所製「メルトインデクサー」
・温度:230℃
・オリフィス孔径:2mm
・荷重:2.16kg
【0069】
<ヘーズ>
得られた熱可塑性樹脂組成物を用いて、インラインスクリュウタイプ射出成形機(JSW社製「J110AD」)により、射出圧力50MPa、シリンダー温度220~280℃、金型温度40~90℃にて、厚さ1mm×幅100mm×長さ100mmの試験片を成形した。
この試験片を用いて、ISO14782に準拠して透明性の指標であるヘーズを測定した。
本発明の熱可塑性樹脂組成物のヘーズは、透明性の指標であり、好ましくは30%以下、より好ましく20%以下、更に好ましく15%以下である。値が小さいほど透明性に優れる。
【0070】
<曲げ弾性率>
プランジャータイプ射出成形機(Xplore Instruments社製 小型混練機XploreMC15付属射出成形機)を用いて、射出圧力3.5bar、シリンダー温度220~280℃、金型温度40~90℃にて、厚さ4mm×幅10mm×長さ80mmの試験片を成形した。
この試験片を用い、ISO178に準拠してスパン間64mm、曲げ速度2mm/分で、剛性の指標である曲げ弾性率を測定した。
本発明の熱可塑性樹脂組成物の曲げ弾性率は、靭性と成形体の剛性の指標であり、好ましくは500~3000MPa、より好ましくは700~2800MPa、更に好ましくは1000~2500MPaである。上記範囲内であれば、靭性と成形体に必要な剛性が得られる。
【0071】
<吸着量>
得られた熱可塑性樹脂組成物を用いて、インラインスクリュウタイプ射出成形機(JSW社製「J110AD」)により、射出圧力50MPa、シリンダー温度220~280℃、金型温度40~90℃にて、厚さ1mm×幅100mm×長さ100mmのプレートを成形し、直径10mmに打ち抜き、試験片を作製した。
この試験片を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)に溶解させたアルブミン(ウシ由来、BSA)溶液1mg/mLに37℃で2時間浸漬させる。2時間浸漬後、PBSで試験片を洗浄した後、ドデシル硫酸ナトリウム水溶液6mLに浸し、5分間超音波洗浄を行なう。
96ウェルプレートに超音波洗浄後の溶液を150μL入れ、市販のBCAキットのタンパク質定量試薬150μLを超音波洗浄後の溶液に入れた部分に入れ、37℃で2時間保持する。2時間保持後、プレートリーダーにて562nmの吸光度を測定し、濃度既知のアルブミン溶液から得られる検量線に当てはめることでアルブミンの吸着量を算出する。
本発明の熱可塑性樹脂組成物の吸着量は、低吸着性の指標であり、好ましくは1.3μg/cm以下、より好ましく1.2μg/cm以下、更に好ましく1.1μg/cm以下である。値が小さいほど低吸着性に優れる。
【0072】
<耐薬品性>
得られた熱可塑性樹脂組成物を用いて、インラインスクリュウタイプ射出成形機(住友重機械工業(株)製「SE18D」)により、射出圧力50MPa、シリンダー温度220~280℃、金型温度40~90℃にて、厚さ2mm×幅40mm×長さ80mmの試験片を成形した。
この試験片を金属製の治具(R150)に長さ方向に湾曲させて固定する。試験片表面にスキンケアクリーム(ニベア花王(株)製 ニベアクリームc)を塗布し、1時間後に試験片に発生したクラックの有無を目視にて確認した。
クラックが発生しないものを「〇」、クラックが発生したものを「×」とした。クラックが発生しないものが好ましい。
【0073】
[原料]
<環状ポリオレフィン(A-1)>
三菱ケミカル(株)製 ゼラス(商標登録)MC931
・密度(ASTM D792):0.94g/cm
・MFR(230℃、2.16kg):35g/10分
・曲げ弾性率:2100MPa
・水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位:含有率60モル%、水素化レベル99.5%以上の水素化ポリスチレン
・水素化共役ジエンポリマーブロック単位:含有率40モル%、水素化レベル99.5%以上の水素化ポリブタジエン
・ブロック構造:ペンタブロック構造、合計水素化レベル:99.5%以上
・Mw:51,000
【0074】
<ポリプロピレン系樹脂(B-1)>
日本ポリプロ(株)製 ノバテック(登録商標)PP MA2HA プロピレン単独重合体
・MFR(230℃、2.16kg):17g/10分
・曲げ弾性率:2330MPa
【0075】
<スチレン系エラストマー(C-1)>
クレイトンポリマー社製クレイトン(登録商標) G1652MU
・スチレン/ブタジエン/スチレンブロック共重合体の水素添加物
・芳香族ビニルポリマーブロック単位:30質量%
・ブタジエンの水素化レベル:99%以上
・Mw:69,000
【0076】
<ノルボルネンを開環重合し、水素添加した環状ポリオレフィン(d-1)>
日本ゼオン(株)製 ZEONEX(商標登録)690R
・密度(ASTM D792):1.01g/cm
・MFR(230℃、2.16kg):1.4g/10分
・曲げ弾性率:2400MPa
d-1は水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び、水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有さず、本発明の環状ポリオレフィン(A)に該当しない環状ポリオレフィンである。
【0077】
参考例1>
環状ポリオレフィン(A-1)51部、ポリプロピレン系樹脂(B-1)49部、及び酸化防止剤としてBASF社製イルガフォス168 0.05部を加え、同方向2軸押出機(テクノベル社製KZW15-45MG Φ15、L/D=45)にて2kg/hの速度で投入し、220℃の範囲で昇温させて溶融混練を行ない、熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。
得られたペレットを用いて各種物性を評価した。結果を表1に示す。
【0078】
<実施例
表1に示す配合に従い、参考例1と同様にして各種物性を評価した。結果を表1に示す。
【0079】
<比較例1~3>
A-1、B-1及びd-1を用い、参考例1と同様にして各種物性を評価した。結果を表1に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
表1より、本発明に該当する環状ポリオレフィン(A)とポリプロピレン系樹脂(B)からなる参考例1は透明性、低吸着性、耐薬品性に優れ、さらにスチレン系エラストマー(C)を含む実施例は更に透明性と低吸着性が優れることがわかった。
これに対して、ポリプロピレン系樹脂(B)を含まない比較例1や比較例3は、透明性や吸着性が優れるものの、耐薬品性が乏しい。また環状ポリオレフィン(A)を含まない比較例2は、耐薬品性は優れるものの、透明性と吸着性が乏しいことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、透明性、低吸着性、耐薬品性に優れることから、医療用成形体の材料として非常に有用である。