(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】掘削ビット
(51)【国際特許分類】
E21B 10/38 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
E21B10/38
(21)【出願番号】P 2020180553
(22)【出願日】2020-10-28
【審査請求日】2023-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】511213410
【氏名又は名称】MMCリョウテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】太田 博士
(72)【発明者】
【氏名】松瀬 大洋
(72)【発明者】
【氏名】井岡 賢志
(72)【発明者】
【氏名】デーチラカジョンナサクル タナキット
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0348442(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0066477(US,A1)
【文献】特開2016-196764(JP,A)
【文献】特開2020-111902(JP,A)
【文献】特表昭62-502269(JP,A)
【文献】国際公開第2020/043504(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/113694(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21B 10/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具中心軸を中心とするビット本体と、
前記ビット本体の先端面から突出する複数の掘削チップと、
前記ビット本体の先端面から外周面にわたって配置される排出流路と、
前記ビット本体の内部を延び、前記先端面に開口するブロー孔と、を備え、
前記排出流路は、
前記先端面に位置して工具径方向に延びる溝状であり、前記ブロー孔が開口する第1流路と、
前記先端面のうち前記ブロー孔よりも工具径方向の外側に位置して前記第1流路と連通し、工具周方向に延びる第2流路と、を有
し、
前記第1流路は、前記ブロー孔よりも工具径方向の外側に配置される流速増加部を有し、
前記流速増加部は、工具周方向において互いに対向する一対の溝壁を有し、
前記一対の溝壁のうち、前記流速増加部の反工具回転方向の端部に位置して工具回転方向を向く一方の溝壁の工具軸方向の高さは、前記流速増加部の工具回転方向の端部に位置して反工具回転方向を向く他方の溝壁の工具軸方向の高さよりも低く、
前記流速増加部を流れる流体の一部は、前記一方の溝壁を越えて、前記流速増加部の反工具回転方向に隣接する前記第2流路へと流れる、
掘削ビット。
【請求項2】
前記第2流路は、前記第1流路との接続部分から、工具周方向のうち少なくとも工具回転方向とは反対側へ向けて延びる、
請求項1に記載の掘削ビット。
【請求項3】
前記排出流路は、前記外周面に位置して工具軸方向に延びる溝状であり、前記第1流路の工具径方向の外端部と接続される第3流路を有する、
請求項1または2に記載の掘削ビット。
【請求項4】
前記先端面は、
工具軸方向の先端側を向くフェイス面と、
前記フェイス面の工具径方向の外側に配置され、工具径方向の外側へ向かうに従い工具軸方向の後端側に位置するゲージ面と、を有し、
複数の前記掘削チップは、
前記フェイス面に配置されるフェイスチップと、
前記ゲージ面に配置されるゲージチップと、を含み、
工具軸方向から見て、前記フェイスチップの前記工具中心軸回りの回転軌跡に対して、前記ブロー孔が、工具径方向の内側に位置し、または重なる、
請求項1から3のいずれか1項に記載の掘削ビット。
【請求項5】
前記先端面は、
工具軸方向の先端側を向くフェイス面と、
前記フェイス面の工具径方向の外側に配置され、工具径方向の外側へ向かうに従い工具軸方向の後端側に位置するゲージ面と、を有し、
複数の前記掘削チップは、
前記フェイス面に配置されるフェイスチップと、
前記ゲージ面に配置される複数のゲージチップと、を含み、
前記ゲージ面は、工具周方向に並ぶ複数の座面を有し、
前記ゲージチップは、各前記座面にそれぞれ設けられ、
前記座面は、工具周方向の一方側へ向かうに従い、工具軸方向の後端側に位置し、
前記第2流路は、前記座面上に位置し、前記第1流路との接続部分から工具周方向の他方側に延びる、
請求項1から4のいずれか1項に記載の掘削ビット。
【請求項6】
複数の前記掘削チップのうち、前記第1流路と工具周方向に隣り合う所定の掘削チップのチップ中心軸は、工具軸方向の後端側へ向かうに従い、工具周方向において前記第1流路から離れる、
請求項1から5のいずれか1項に記載の掘削ビット。
【請求項7】
前記先端面は、
工具軸方向の先端側を向くフェイス面と、
前記フェイス面の工具径方向の外側に配置され、工具径方向の外側へ向かうに従い工具軸方向の後端側に位置するゲージ面と、を有し、
複数の前記掘削チップは、
前記フェイス面に配置されるフェイスチップと、
前記ゲージ面に配置されるゲージチップと、を含み、
前記ゲージチップのチップ中心軸が、工具軸方向の後端側へ向かうに従い、工具周方向のうち工具回転方向とは反対側に向けて延びる、
請求項1から6のいずれか1項に記載の掘削ビット。
【請求項8】
前記先端面は、
工具軸方向の先端側を向くフェイス面と、
前記フェイス面の工具径方向の外側に配置され、工具径方向の外側へ向かうに従い工具軸方向の後端側に位置するゲージ面と、を有し、
複数の前記掘削チップは、
前記フェイス面に配置されるフェイスチップと、
前記ゲージ面に配置されるゲージチップと、を含み、
前記フェイスチップのチップ中心軸が、工具軸方向の後端側へ向かうに従い、工具周方向のうち工具回転方向とは反対側に向けて延びる、
請求項1から7のいずれか1項に記載の掘削ビット。
【請求項9】
前記掘削チップは、チップ軸方向の先端部に配置される凸曲面状の刃先部を有し、
前記刃先部の曲率半径が、前記掘削チップの外径寸法の1/2未満である、
請求項1から8のいずれか1項に記載の掘削ビット。
【請求項10】
前記排出流路は、前記外周面に位置して工具軸方向に延びる溝状であり、前記第2流路と連通する第4流路を有する、
請求項1から9のいずれか1項に記載の掘削ビット。
【請求項11】
前記流速増加部は、工具径方向の外側へ向かうに従い溝幅が狭くな
る、
請求項1から10のいずれか1項に記載の掘削ビット。
【請求項12】
前記第1流路は、工具径方向の外側へ向かうに従い溝幅が広くなる流量増加部を有し、
前記ブロー孔は、前記流量増加部に開口する、
請求項1から11のいずれか1項に記載の掘削ビット。
【請求項13】
前記第1流路は、工具周方向に並んで複数設けられ、
複数の前記第1流路は、各前記第1流路の工具径方向の内端部を介して、互いに接続される、
請求項1から12のいずれか1項に記載の掘削ビット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、掘削ビットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の掘削ビットとして、例えば特許文献1に記載のものが知られている。掘削ビットは、工具中心軸を中心とするビット本体と、ビット本体の先端面から突出する複数の掘削チップと、ビット本体の先端面から外周面にわたって配置される排出流路と、ビット本体の内部を延び、先端面に開口するブロー孔と、を備える。特許文献1では、排出流路として、ビット本体の先端面に工具径方向に延びる溝および工具周方向に延びる溝が設けられており、これらの溝の交差部(接続部)に、ブロー孔が開口している。この構成により、ブロー孔から流出した水や圧縮エア等の流体を、ビット本体の先端面に広範囲に行き渡らせて、繰粉(地盤や岩盤を破砕して生じた土砂。ズリ)の排出性を高めているものと思われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の掘削ビットでは、ブロー孔から流出した流体の流速が低下しやすく、繰粉をより効率よく排出させる点に改善の余地があった。
【0005】
本発明は、ビット本体の先端面に広範囲に流体を供給しつつ、繰粉を効率よく排出できる掘削ビットを提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の掘削ビットの一つの態様は、工具中心軸を中心とするビット本体と、前記ビット本体の先端面から突出する複数の掘削チップと、前記ビット本体の先端面から外周面にわたって配置される排出流路と、前記ビット本体の内部を延び、前記先端面に開口するブロー孔と、を備え、前記排出流路は、前記先端面に位置して工具径方向に延びる溝状であり、前記ブロー孔が開口する第1流路と、前記先端面のうち前記ブロー孔よりも工具径方向の外側に位置して前記第1流路と連通し、工具周方向に延びる第2流路と、を有し、前記第1流路は、前記ブロー孔よりも工具径方向の外側に配置される流速増加部を有し、前記流速増加部は、工具周方向において互いに対向する一対の溝壁を有し、前記一対の溝壁のうち、前記流速増加部の反工具回転方向の端部に位置して工具回転方向を向く一方の溝壁の工具軸方向の高さは、前記流速増加部の工具回転方向の端部に位置して反工具回転方向を向く他方の溝壁の工具軸方向の高さよりも低く、前記流速増加部を流れる流体の一部は、前記一方の溝壁を越えて、前記流速増加部の反工具回転方向に隣接する前記第2流路へと流れる。
【0007】
本発明の掘削ビットによれば、排出流路が、工具径方向に延びる第1流路と、工具周方向に延びる第2流路と、を有するので、ビット本体の先端面に広範囲に流体を行き渡らせることができる。
具体的に、第2流路は、ブロー孔よりも工具径方向の外側に位置している。このため、ブロー孔から第1流路に流出した流体は、第1流路に沿って工具径方向に流れ、その後、第2流路に流入して工具周方向にも流れる。このように、ブロー孔から第1流路に流出した流体が、まず工具径方向の外側へ向けて流れることにより、流体の流速の低下が抑えられ、繰粉をビット本体の後端側へ向けて押し出す力が安定して高められる。したがって、繰粉を効率よく安定して排出させることができる。
【0008】
また本発明によれば、繰粉を効率よく排出できるので、掘削チップによる破砕性つまり掘削性能が良好に維持される。具体的には、例えば従来のように破砕された繰粉がビット先端に残ることで2次破砕されるような不具合が、本発明では抑制される。このため、削孔速度を向上でき、単位時間あたりの掘進距離を延ばすことができる。その結果、掘削ビットが疲労限界を迎えるまでに掘削できる時間(距離)を延長することができ、つまり工具寿命の長寿命化を図ることができる。
【0009】
上記掘削ビットにおいて、前記第2流路は、前記第1流路との接続部分から、工具周方向のうち少なくとも工具回転方向とは反対側へ向けて延びることが好ましい。
【0010】
この場合、掘削時に、掘削ビットが工具中心軸回りの工具回転方向に回転させられたときに、第2流路を流れる流体が、工具回転方向とは反対側へ向けて、つまり工具周方向において第1流路から離れる向きへと流れやすくなる。このため、繰粉をより効率よく排出できる。
【0011】
上記掘削ビットにおいて、前記排出流路は、前記外周面に位置して工具軸方向に延びる溝状であり、前記第1流路の工具径方向の外端部と接続される第3流路を有することが好ましい。
【0012】
この場合、第1流路を工具径方向の外側へ向けて流れる流体が、第3流路を通してビット本体の後端側へと流される。排出流路においてビット本体の後端側へ向かう流体の流速の低下が抑えられるため、繰粉を後端側へ押し出す力が良好に維持され、繰粉の排出性が安定して高められる。
【0013】
上記掘削ビットにおいて、前記先端面は、工具軸方向の先端側を向くフェイス面と、前記フェイス面の工具径方向の外側に配置され、工具径方向の外側へ向かうに従い工具軸方向の後端側に位置するゲージ面と、を有し、複数の前記掘削チップは、前記フェイス面に配置されるフェイスチップと、前記ゲージ面に配置されるゲージチップと、を含み、工具軸方向から見て、前記フェイスチップの前記工具中心軸回りの回転軌跡に対して、前記ブロー孔が、工具径方向の内側に位置し、または重なることが好ましい。
【0014】
この場合、フェイスチップが掘削して生じた繰粉が、ブロー孔から流出した流体によって工具径方向の外側へ向けて流れやすい。このため、ビット先端に繰粉が残されるような不具合が抑制される。
なお、フェイスチップの工具中心軸回りの回転軌跡と、ブロー孔とが、互いに重なる場合には、ブロー孔から流出した流体が、流出直後に工具周方向へと流れるようなことがフェイスチップにより抑えられる。このため、ブロー孔から工具径方向へ向けた流体の流れがより安定し、流体の流速が高められる。
【0015】
上記掘削ビットにおいて、前記先端面は、工具軸方向の先端側を向くフェイス面と、前記フェイス面の工具径方向の外側に配置され、工具径方向の外側へ向かうに従い工具軸方向の後端側に位置するゲージ面と、を有し、複数の前記掘削チップは、前記フェイス面に配置されるフェイスチップと、前記ゲージ面に配置される複数のゲージチップと、を含み、前記ゲージ面は、工具周方向に並ぶ複数の座面を有し、前記ゲージチップは、各前記座面にそれぞれ設けられ、前記座面は、工具周方向の一方側へ向かうに従い、工具軸方向の後端側に位置し、前記第2流路は、前記座面上に位置し、前記第1流路との接続部分から工具周方向の他方側に延びることが好ましい。
【0016】
この場合、ゲージチップが配置される座面が第2流路としても機能するので、ビット本体の先端面の構造を簡素化しつつ、上述の本発明による作用効果が得られる。
【0017】
上記掘削ビットにおいて、複数の前記掘削チップのうち、前記第1流路と工具周方向に隣り合う所定の掘削チップのチップ中心軸は、工具軸方向の後端側へ向かうに従い、工具周方向において前記第1流路から離れることが好ましい。
【0018】
本発明では、第1流路を流れる流体の流速が高められる分、第1流路近傍の摩耗の進行が早まる可能性がある。そこで上記構成を採用することにより、第1流路と隣り合う所定の掘削チップと、第1流路との間の肉厚が大きく確保されて、第1流路近傍の摩耗による掘削チップのビット本体からの脱落が抑制される。
【0019】
上記掘削ビットにおいて、前記先端面は、工具軸方向の先端側を向くフェイス面と、前記フェイス面の工具径方向の外側に配置され、工具径方向の外側へ向かうに従い工具軸方向の後端側に位置するゲージ面と、を有し、複数の前記掘削チップは、前記フェイス面に配置されるフェイスチップと、前記ゲージ面に配置されるゲージチップと、を含み、前記ゲージチップのチップ中心軸が、工具軸方向の後端側へ向かうに従い、工具周方向のうち工具回転方向とは反対側に向けて延びることが好ましい。
【0020】
この場合、掘削時にゲージチップは、工具回転方向への回転力によりゲージチップに作用する曲げ応力を、チップ軸方向への圧縮応力として受け止めて緩和することができる。このため、ゲージチップの折損等が抑制される。
【0021】
上記掘削ビットにおいて、前記先端面は、工具軸方向の先端側を向くフェイス面と、前記フェイス面の工具径方向の外側に配置され、工具径方向の外側へ向かうに従い工具軸方向の後端側に位置するゲージ面と、を有し、複数の前記掘削チップは、前記フェイス面に配置されるフェイスチップと、前記ゲージ面に配置されるゲージチップと、を含み、前記フェイスチップのチップ中心軸が、工具軸方向の後端側へ向かうに従い、工具周方向のうち工具回転方向とは反対側に向けて延びることが好ましい。
【0022】
この場合、掘削時にフェイスチップは、工具回転方向への回転力によりフェイスチップに作用する曲げ応力を、チップ軸方向への圧縮応力として受け止めて緩和することができる。このため、フェイスチップの折損等が抑制される。
【0023】
上記掘削ビットにおいて、前記掘削チップは、チップ軸方向の先端部に配置される凸曲面状の刃先部を有し、前記刃先部の曲率半径が、前記掘削チップの外径寸法の1/2未満であることが好ましい。
【0024】
この場合、掘削チップはいわゆるスパイクチップ等である。すなわち、掘削チップの先端部が尖って形成されるため、削孔速度をより高めることができる。また、掘削チップが先鋭形状とされることにより、掘削チップの先端部近傍において流体が流れるスペースが確保され、繰粉の排出性がより高められる。
【0025】
上記掘削ビットにおいて、前記排出流路は、前記外周面に位置して工具軸方向に延びる溝状であり、前記第2流路と連通する第4流路を有することが好ましい。
【0026】
この場合、第2流路を流れる流体が、第4流路を通してビット本体の後端側へと流される。このため、繰粉の排出性がより高められる。
【0027】
上記掘削ビットにおいて、前記流速増加部は、工具径方向の外側へ向かうに従い溝幅が狭くなることが好ましい。
【0028】
この場合、ブロー孔から第1流路に流出した流体が、工具径方向の外側へ向けて流速増加部を流れることによって、より流速が高められる。このため、繰粉の排出性が安定して高められる。
【0029】
上記掘削ビットにおいて、前記第1流路は、工具径方向の外側へ向かうに従い溝幅が広くなる流量増加部を有し、前記ブロー孔は、前記流量増加部に開口することが好ましい。
【0030】
この場合、ブロー孔から流量増加部に流出した直後の流体が、溝幅が広い方向へ向けて、つまり工具径方向の外側へ向けて流れやすくなる。すなわち、ブロー孔から流量増加部に流出した流体のうち、工具径方向の内側へ向けて流れる流体の流量に比べて、工具径方向の外側へ向けて流れる流体の流量が多くなるため、流体が全体として工具径方向の外側へ向けて流れやすくなる。このため、第1流路の流体が、工具径方向の外側へ向けて安定して流れやすくなり、繰粉の排出性を高めることができる。
【0031】
上記掘削ビットにおいて、前記第1流路は、工具周方向に並んで複数設けられ、複数の前記第1流路は、各前記第1流路の工具径方向の内端部を介して、互いに接続されることが好ましい。
【0032】
この場合、ビット本体の先端面の中央部(工具中心軸上)近傍においても、繰粉の排出性を安定して高めることができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明の一つの態様の掘削ビットによれば、ビット本体の先端面に広範囲に流体を供給しつつ、繰粉を効率よく排出できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】
図1は、本実施形態の掘削ビットを示す斜視図である。
【
図2】
図2は、本実施形態の掘削ビットを示す正面図である。
【
図3】
図3は、
図2の掘削ビットのIII矢視を示す側面図である。
【
図4】
図4は、
図2の掘削ビットのIV矢視を示す側面図である。
【
図5】
図5は、本実施形態の変形例の掘削ビットを示す斜視図である。
【
図6】
図6は、本実施形態の変形例の掘削ビットを示す正面図である。
【
図7】
図7は、
図6の掘削ビットのVII矢視を示す側面図である。
【
図8】
図8は、
図6の掘削ビットのVIII矢視を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の一実施形態の掘削ビット1について、図面を参照して説明する。
本実施形態の掘削ビット1は、図示しない中継ロッドを介してドリフター等の掘削装置と連結され、地盤や岩盤の掘削つまり削孔の形成に用いられる。
【0036】
図1から
図4に示すように、掘削ビット1は、工具中心軸Oを中心とする柱状のビット本体2と、ビット本体2の両端部(第1端部2aおよび第2端部2b)のうち第1端部2aに配置され、チップ中心軸Cを中心とする柱状の掘削チップ3と、ブロー孔5と、排出流路4と、備える。
【0037】
〔方向の定義〕
本実施形態では、ビット本体2の工具中心軸Oが延びる方向を工具軸方向と呼ぶ。工具軸方向のうち、ビット本体2の第2端部2bから第1端部2aへ向かう方向を、工具軸方向の先端側または単に先端側と呼び、第1端部2aから第2端部2bへ向かう方向を、工具軸方向の後端側または単に後端側と呼ぶ。
工具中心軸Oと直交する方向を工具径方向と呼ぶ。工具径方向のうち、工具中心軸Oに近づく方向を工具径方向の内側と呼び、工具中心軸Oから離れる方向を工具径方向の外側と呼ぶ。
工具中心軸O回りに周回する方向を工具周方向と呼ぶ。工具周方向のうち、掘削時に掘削装置および中継ロッドによって掘削ビット1が回転させられる方向を、工具回転方向Tと呼び、これとは反対の回転方向を、工具回転方向Tとは反対側または単に反工具回転方向と呼ぶ。なお本実施形態では、工具周方向の一方側が、工具回転方向Tに相当し、工具周方向の他方側が、反工具回転方向に相当する。
【0038】
また、掘削チップ3のチップ中心軸Cが延びる方向をチップ軸方向と呼ぶ。掘削チップ3は、その一端部がビット本体2の表面から突出しており、その他端部がビット本体2の内部に埋め込まれている。本実施形態では、チップ軸方向のうち、掘削チップ3の他端部から一端部へ向かう方向を、チップ軸方向の先端側と呼び、一端部から他端部へ向かう方向を、チップ軸方向の後端側と呼ぶ。
チップ中心軸Cと直交する方向をチップ径方向と呼ぶ。
チップ中心軸C回りに周回する方向をチップ周方向と呼ぶ。
【0039】
〔ビット本体〕
ビット本体2は、例えば鋼製である。ビット本体2は、工具軸方向に延びる円柱状である。
図3および
図4に示すように、ビット本体2の第1端部2aつまり先端部は、先端部以外の部分よりも外径が大きい。特に図示しないが、ビット本体2は、工具軸方向の後端側を向く端面つまり後端面に開口し、工具軸方向に延びる雌ネジ穴を有する。雌ネジ穴は、ビット本体2の第1端部2a以外の部分、つまり先端部以外の部分に配置される。この構成より、ビット本体2は、工具軸方向の後端側に開口する有底円筒状であるとも言える。
【0040】
特に図示しないが、ビット本体2の雌ネジ穴には、中継ロッドの先端部の雄ネジが螺着される。ビット本体2には、掘削装置から中継ロッドを介して、工具中心軸O回りの回転力、工具軸方向の先端側への推力および打撃力が伝えられる。これにより掘削ビット1は、地盤や岩盤を破砕しながら進むことができ、削孔を形成する。またビット本体2の内部(雌ネジ穴内)には、中継ロッド等を介して水や圧縮エア等の流体が供給される。
【0041】
ビット本体2は、先端面21と、外周面22と、を有する。
先端面21は、工具軸方向の先端側を向くフェイス面23と、フェイス面23の工具径方向の外側に配置され、工具径方向の外側へ向かうに従い工具軸方向の後端側に位置するゲージ面24と、を有する。すなわちゲージ面24は、工具軸方向の先端側かつ工具径方向の外側を向く。
【0042】
図1および
図2に示すように、フェイス面23は、工具周方向に並ぶ複数のフェイス座面23aを有する。本実施形態ではフェイス座面23aが、フェイス面23に工具周方向に並んで3つ設けられる。
図3および
図4に示すように、フェイス座面23aは、工具中心軸Oと垂直な方向に拡がる平面状である。各フェイス座面23aには、図示しない円穴状の取付穴がそれぞれ開口する。各取付穴は、フェイス座面23aと直交する方向、つまり工具中心軸Oと平行(工具軸方向)に延びる。
【0043】
図1および
図2に示すように、ゲージ面24は、工具周方向に並ぶ複数のゲージ座面(座面)24aを有する。本実施形態ではゲージ座面24aが、ゲージ面24に工具周方向に並んで6つ設けられる。ゲージ座面24aは、工具軸方向の先端側かつ工具径方向の外側を向く平面状である。ゲージ座面24aは、工具周方向の一方側つまり工具回転方向Tへ向かうに従い、工具軸方向の後端側に位置する傾斜面状である。またゲージ座面24aは、工具回転方向Tへ向かうに従い、工具径方向の内側に位置する傾斜面状でもある。各ゲージ座面24aには、図示しない円穴状の取付穴がそれぞれ開口する。各取付穴は、ゲージ座面24aと直交する方向、つまり工具中心軸Oに対して傾斜する方向に延びる。具体的に、各取付穴の中心軸と工具中心軸Oとは、ねじれの位置にある。
【0044】
図3および
図4に示すように、外周面22のうち先端部は、先端部以外の部分よりも外径が大きい。外周面22の先端部は、工具軸方向の先端側へ向かうに従い外径が大きくなるテーパ状である。外周面22の先端部は、ゲージ面24の工具径方向の外端部と接続される。
【0045】
〔掘削チップ〕
掘削チップ3は、例えば超硬合金製である。なお掘削チップ3は、そのチップ軸方向の先端部に、多結晶ダイヤモンド焼結体製等の硬質層が被覆されていてもよい。
【0046】
掘削チップ3は、ビット本体2の先端面21から突出する。掘削チップ3は、先端面21に複数設けられる。各掘削チップ3は、フェイス座面23aおよびゲージ座面24aの各取付穴に対して、圧入や焼き嵌め等によって締まり嵌めされたり、ロウ付けされたりすることにより固定される。各掘削チップ3のチップ中心軸Cは、各掘削チップ3が配置されるフェイス座面23aまたはゲージ座面24aに対して、直交する方向に延びる。
【0047】
具体的に、掘削チップ3のチップ軸方向の先端部は、ビット本体2の先端面21から突出し、外部に露出される。特に図示しないが、掘削チップ3のチップ軸方向の先端部以外の部分は、取付穴内に埋め込まれる。掘削チップ3のチップ軸方向の先端部は、チップ軸方向の先端側へ向かうに従い外径が小さくなる。掘削チップ3のチップ軸方向の先端部以外の部分は、チップ軸方向に沿って外径が一定とされた円柱状である。
【0048】
本実施形態の掘削チップ3は、チップ軸方向の先端部が略円錐状とされた、いわゆるスパイクチップである。
掘削チップ3は、チップ軸方向の先端部に配置される凸曲面状の刃先部3aと、チップ軸方向の先端部に配置され、刃先部3aよりもチップ軸方向の後端側に位置するテーパ部3bと、を有する。
【0049】
刃先部3aは、掘削チップ3のチップ軸方向の最先端に位置する。刃先部3aは、略半球状である。例えばチップ中心軸Cを含む掘削チップ3の縦断面視において、刃先部3aの曲率半径は、掘削チップ3の外径寸法(チップ径方向の直径寸法)の1/2未満である。なお、上記掘削チップ3の外径寸法とは、掘削チップ3の最大径部分の外径寸法を指しており、具体的には、掘削チップ3の先端部以外の部分(円柱状部分)の外径寸法である。
テーパ部3bは、刃先部3aのチップ軸方向の後端部に接続される。テーパ部3bは、チップ軸方向の後端側へ向かうに従い外径が大きくなるテーパ状である。
【0050】
図1に示すように、複数の掘削チップ3は、フェイス面23に配置されるフェイスチップ3Aと、ゲージ面24に配置されるゲージチップ3Bと、を含む。本実施形態では、フェイスチップ3Aの外径寸法に比べて、ゲージチップ3Bの外径寸法が大きい。また、フェイスチップ3Aのチップ軸方向の先端部がフェイス面23から突出する突出量に比べて、ゲージチップ3Bのチップ軸方向の先端部がゲージ面24から突出する突出量が大きい。
【0051】
フェイスチップ3Aは、フェイス面23に複数設けられる。すなわち、複数の掘削チップ3には、複数のフェイスチップ3Aが含まれる。本実施形態ではフェイスチップ3Aが、フェイス面23に工具周方向に並んで3つ設けられる。フェイスチップ3Aは、各フェイス座面23aにそれぞれ設けられる。本実施形態では、1つのフェイス座面23aに対して、1つのフェイスチップ3Aが配置される。
図2から
図4に示すように、フェイスチップ3Aのチップ中心軸Cは、工具軸方向に延びる。
【0052】
図1に示すように、ゲージチップ3Bは、ゲージ面24に複数設けられる。すなわち、複数の掘削チップ3には、複数のゲージチップ3Bが含まれる。本実施形態ではゲージチップ3Bが、ゲージ面24に工具周方向に並んで6つ設けられる。ゲージチップ3Bは、各ゲージ座面24aにそれぞれ設けられる。本実施形態では、1つのゲージ座面24aに対して、1つのゲージチップ3Bが配置される。
図2から
図4に示すように、ゲージチップ3Bのチップ中心軸Cは、工具軸方向の後端側へ向かうに従い、工具径方向の内側へ向けて延びる。ゲージチップ3Bのチップ中心軸Cは、工具軸方向の後端側へ向かうに従い、工具周方向のうち工具回転方向Tとは反対側に向けて延びる。
【0053】
〔ブロー孔〕
図1および
図2に示すように、ブロー孔5は、ビット本体2の内部を延び、先端面21に開口する。ブロー孔5は、円孔状である。ブロー孔5は、ビット本体2の先端面21から工具軸方向の後端側へ向かうに従い、工具径方向の内側に位置する。つまりブロー孔5は、工具中心軸Oに対して傾斜して延びる。特に図示しないが、ブロー孔5は、ビット本体2の雌ネジ穴の内部と連通する。
【0054】
工具軸方向から見て、フェイスチップ3Aの工具中心軸O回りの回転軌跡(図示省略)に対して、ブロー孔5は、工具径方向の内側に位置し、または重なる。本実施形態では、
図2に示すように工具軸方向から見て、フェイスチップ3Aの工具中心軸O回りの回転軌跡と、ブロー孔5とが、互いに重なる。
ブロー孔5は、複数設けられる。本実施形態ではブロー孔5が、工具周方向に並んで3つ設けられる。
【0055】
〔排出流路〕
図1および
図2に示すように、排出流路4は、ビット本体2の先端面21から外周面22にわたって配置される。排出流路4は、ビット本体2の先端面21から外周面22の先端部にわたって延びる。排出流路4には、ビット本体2の内部からブロー孔5を通して流体が供給される。排出流路4は、掘削チップ3が地盤や岩盤を破砕して生じた繰粉を、流体とともにビット本体2の先端面21から外周面22へ流し、ビット本体2の後端側へ送るための流路である。
【0056】
排出流路4は、第1流路41と、第2流路42と、第3流路43と、第4流路44と、を有する。排出流路4は、第1流路41、第2流路42、第3流路43および第4流路44の組を、複数組有する。本実施形態では、第1流路41、第2流路42、第3流路43および第4流路44の組が、工具周方向に並んで3組設けられる。すなわち、第1流路41、第2流路42、第3流路43および第4流路44はそれぞれ、工具周方向に並んで複数(各3つ)設けられる。
【0057】
第1流路41は、先端面21に位置して工具径方向に延びる溝状であり、ブロー孔5が開口する。第1流路41は、工具径方向において、工具周方向に隣り合う一対のフェイスチップ3A,3A間、および、工具周方向に隣り合う一対のゲージチップ3B,3B間にわたって配置される。第1流路41は、工具周方向に隣り合う一対のフェイス座面23a,23a間、および、工具周方向に隣り合う一対のゲージ座面24a,24a間を、工具径方向に延びる。具体的に、第1流路41は、工具径方向の外側へ向かうに従い、工具軸方向の後端側に位置する。特に図示しないが、工具中心軸Oを含む縦断面視で、第1流路41の溝底は、直線状に延びる。
【0058】
複数の掘削チップ3のうち、第1流路41と工具周方向に隣り合う所定の掘削チップ3のチップ中心軸Cは、工具軸方向の後端側へ向かうに従い、工具周方向において第1流路41から離れる。具体的に本実施形態では、複数の掘削チップ3のうち、第1流路41の反工具回転方向に隣り合う所定のゲージチップ3Bのチップ中心軸Cが、工具軸方向の後端側へ向かうに従い、第1流路41から反工具回転方向に離れる。
【0059】
第1流路41は、流量増加部41aと、流速増加部41bと、を有する。
流量増加部41aは、第1流路41のうち工具径方向の内側部分に配置される。流量増加部41aは、工具径方向の外側へ向かうに従い溝幅が広くなる。流量増加部41aには、ブロー孔5が開口する。
【0060】
流速増加部41bは、第1流路41のうち工具径方向の外側部分に配置される。流速増加部41bは、工具径方向の外側へ向かうに従い溝幅が狭くなる。流速増加部41bは、ブロー孔5よりも工具径方向の外側に配置される。
【0061】
流速増加部41bは、工具周方向において互いに対向する一対の溝壁を有する。一対の溝壁のうち、流速増加部41bの反工具回転方向の端部に位置して工具回転方向Tを向く一方の溝壁の工具軸方向の高さは、流速増加部41bの工具回転方向Tの端部に位置して反工具回転方向を向く他方の溝壁の工具軸方向の高さよりも低い。このため、流速増加部41bを流れる流体の一部は、一方の溝壁を越えて、流速増加部41bの反工具回転方向に隣接するゲージ座面24a上へと流れる。
【0062】
複数の第1流路41は、各第1流路41の工具径方向の内端部を介して、互いに接続される。本実施形態では、3つの第1流路41の各流量増加部41aの工具径方向の内端部同士が、互いに直接的に接続される。複数の第1流路41は、工具中心軸O上を通して互いに連通する。
【0063】
第2流路42は、先端面21のうちブロー孔5よりも工具径方向の外側に位置して第1流路41と連通し、工具周方向に延びる。第2流路42は、第1流路41との接続部分から、工具周方向のうち少なくとも工具回転方向Tとは反対側へ向けて延びる。本実施形態では第2流路42が、第1流路41の流速増加部41bの反工具回転方向に隣接するゲージ座面24a上を含む。すなわち、第2流路42は、ゲージ座面24a上に位置し、第1流路41との接続部分から工具周方向の他方側つまり反工具回転方向に延びる。なお第2流路42は、工具周方向に隣り合う一対の第1流路41,41間に位置する複数(2つ)のゲージ座面24aにわたって延びていてもよい。
【0064】
第3流路43は、外周面22に位置して工具軸方向に延びる溝状であり、第1流路41の工具径方向の外端部と接続される。第3流路43は、外周面22の先端部に配置され、その工具軸方向の先端部が先端面21に開口する。具体的に、第3流路43は、流速増加部41bの工具径方向の外端部と接続され、ゲージ面24に開口する。第3流路43は、工具周方向において一対のゲージチップ3B,3B間に位置する。第3流路43の溝幅は、第1流路41の溝幅以上である。第3流路43の溝底は、工具軸方向の後端側へ向かうに従い、工具径方向の外側に位置する。つまり第3流路43は、工具軸方向の後端側へ向かうに従い溝深さが浅くなる。
【0065】
第4流路44は、外周面22に位置して工具軸方向に延びる溝状であり、第2流路42と連通する。第4流路44は、外周面22の先端部に配置され、その工具軸方向の先端部が先端面21に開口する。具体的に、第4流路44は、ゲージ面24に開口する。第4流路44は、工具周方向において一対のゲージチップ3B,3B間に位置する。第4流路44は、第1流路41および第3流路43の反工具回転方向に位置する。第4流路44の溝幅は、第1流路41の溝幅以上である。本実施形態では、第4流路44の溝幅と第3流路43の溝幅とが、互いに略同じである。第4流路44の溝底は、工具軸方向の後端側へ向かうに従い、工具径方向の外側に位置する。つまり第4流路44は、工具軸方向の後端側へ向かうに従い溝深さが浅くなる。
【0066】
〔本実施形態による作用効果〕
以上説明した本実施形態の掘削ビット1によれば、排出流路4が、工具径方向に延びる第1流路41と、工具周方向に延びる第2流路42と、を有するので、ビット本体2の先端面21に広範囲に流体を行き渡らせることができる。
具体的に、第2流路42は、ブロー孔5よりも工具径方向の外側に位置している。このため、ブロー孔5から第1流路41に流出した流体は、第1流路41に沿って工具径方向に流れ、その後、第2流路42に流入して工具周方向にも流れる。このように、ブロー孔5から第1流路41に流出した流体が、まず工具径方向の外側へ向けて流れることにより、流体の流速の低下が抑えられ、繰粉をビット本体2の後端側へ向けて押し出す力が安定して高められる。したがって、繰粉を効率よく安定して排出させることができる。
【0067】
また本実施形態によれば、繰粉を効率よく排出できるので、掘削チップ3による破砕性つまり掘削性能が良好に維持される。具体的には、例えば従来のように破砕された繰粉がビット先端に残ることで2次破砕されるような不具合が、本実施形態では抑制される。このため、削孔速度を向上でき、単位時間あたりの掘進距離を延ばすことができる。その結果、掘削ビット1が疲労限界を迎えるまでに掘削できる時間(距離)を延長することができ、つまり工具寿命の長寿命化を図ることができる。
【0068】
また本実施形態では、第2流路42が、第1流路41との接続部分から、工具周方向のうち少なくとも工具回転方向Tとは反対側へ向けて延びる。
この場合、掘削時に、掘削ビット1が工具中心軸O回りの工具回転方向Tに回転させられたときに、第2流路42を流れる流体が、工具回転方向Tとは反対側へ向けて、つまり工具周方向において第1流路41から離れる向きへと流れやすくなる。このため、繰粉をより効率よく排出できる。
【0069】
また本実施形態では、排出流路4が、工具軸方向に延びる第3流路43を有しており、第1流路41を工具径方向の外側へ向けて流れる流体が、第3流路43を通してビット本体2の後端側へと流される。排出流路4においてビット本体2の後端側へ向かう流体の流速の低下が抑えられるため、繰粉を後端側へ押し出す力が良好に維持され、繰粉の排出性が安定して高められる。
【0070】
また本実施形態では、
図2に示すように工具軸方向から見て、フェイスチップ3Aの工具中心軸O回りの回転軌跡(図示省略)に、ブロー孔5の少なくとも一部が重なる。または、特に図示しないが工具軸方向から見て、フェイスチップ3Aの工具中心軸O回りの回転軌跡よりも、ブロー孔5が工具径方向の内側に位置する。
この場合、フェイスチップ3Aが掘削して生じた繰粉が、ブロー孔5から流出した流体によって工具径方向の外側へ向けて流れやすい。このため、ビット先端に繰粉が残されるような不具合が抑制される。
なお本実施形態のように、フェイスチップ3Aの工具中心軸O回りの回転軌跡と、ブロー孔5とが、互いに重なる場合には、ブロー孔5から流出した流体が、流出直後に工具周方向へと流れるようなことがフェイスチップ3Aにより抑えられる。このため、ブロー孔5から工具径方向へ向けた流体の流れがより安定し、流体の流速が高められる。
【0071】
また本実施形態では、ゲージチップ3Bが設けられるゲージ座面(座面)24aが、工具周方向の一方側(工具回転方向T)へ向かうに従い、工具軸方向の後端側に位置し、第2流路42は、ゲージ座面24a上に位置し、第1流路41との接続部分から工具周方向の他方側(反工具回転方向)に延びる。
この場合、ゲージチップ3Bが配置されるゲージ座面24aが第2流路42としても機能するので、ビット本体2の先端面21の構造を簡素化しつつ、上述の本実施形態による作用効果が得られる。
【0072】
また本実施形態では、複数の掘削チップ3のうち、第1流路41と工具周方向に隣り合う所定の掘削チップ3、具体的には、第1流路41の反工具回転方向に隣り合う所定のゲージチップ3Bのチップ中心軸Cが、工具軸方向の後端側へ向かうに従い、工具周方向において第1流路41から離れる。
本実施形態では、上述のように第1流路41を流れる流体の流速が高められる分、第1流路41近傍の摩耗の進行が早まる可能性がある。そこで上記構成を採用することにより、第1流路41と隣り合う所定の掘削チップ3(ゲージチップ3B)と、第1流路41との間の肉厚が大きく確保されて、第1流路41近傍の摩耗による掘削チップ3のビット本体2からの脱落が抑制される。
【0073】
また本実施形態では、ゲージチップ3Bのチップ中心軸Cが、工具軸方向の後端側へ向かうに従い、工具周方向のうち工具回転方向Tとは反対側に向けて延びる。
この場合、掘削時にゲージチップ3Bは、工具回転方向Tへの回転力によりゲージチップ3Bに作用する曲げ応力を、チップ軸方向への圧縮応力として受け止めて緩和することができる。このため、ゲージチップ3Bの折損等が抑制される。
【0074】
また本実施形態では、掘削チップ3の刃先部3aの曲率半径が、掘削チップ3の先端部以外の部分の外径(直径)寸法の1/2未満である。
この場合、掘削チップ3はいわゆるスパイクチップ等であり、掘削チップ3の先端部が尖って形成されるため、削孔速度をより高めることができる。また、掘削チップ3が先鋭形状とされることにより、掘削チップ3の先端部近傍において流体が流れるスペースが確保され、繰粉の排出性がより高められる。
【0075】
また本実施形態では、排出流路4が、工具軸方向に延びる第4流路44を有しており、第2流路42を流れる流体が、第4流路44を通してビット本体2の後端側へと流される。このため、繰粉の排出性がより高められる。
【0076】
また本実施形態では、第1流路41が流速増加部41bを有し、流速増加部41bは、ブロー孔5よりも工具径方向の外側に配置され、工具径方向の外側へ向かうに従い溝幅が狭くなる。
この場合、ブロー孔5から第1流路41に流出した流体が、工具径方向の外側へ向けて流速増加部41bを流れることによって、より流速が高められる。このため、繰粉の排出性が安定して高められる。
【0077】
また本実施形態では、第1流路41が流量増加部41aを有し、流量増加部41aは、工具径方向の外側へ向かうに従い溝幅が広くなり、流量増加部41aにブロー孔5が開口する。
この場合、ブロー孔5から流量増加部41aに流出した直後の流体が、溝幅が広い方向へ向けて、つまり工具径方向の外側へ向けて流れやすくなる。すなわち、ブロー孔5から流量増加部41aに流出した流体のうち、工具径方向の内側へ向けて流れる流体の流量に比べて、工具径方向の外側へ向けて流れる流体の流量が多くなるため、流体が全体として工具径方向の外側へ向けて流れやすくなる。このため、第1流路41の流体が、工具径方向の外側へ向けて安定して流れやすくなり、繰粉の排出性を高めることができる。
【0078】
また本実施形態では、第1流路41が、工具周方向に並んで複数設けられ、複数の第1流路41は、各第1流路41の工具径方向の内端部を介して、互いに接続される。
この場合、ビット本体2の先端面21の中央部(工具中心軸O上)近傍においても、繰粉の排出性を安定して高めることができる。
【0079】
また本実施形態では、掘削チップ3のチップ中心軸Cが、掘削チップ3が配置されるフェイス座面23aまたはゲージ座面24aに対して、直交する方向に延びる。
この場合、掘削チップ3が摩耗して再研磨を行う際には、各座面23a,24aを基準とすることにより正確に再研磨を行うことができる。
【0080】
〔本発明に含まれるその他の構成〕
なお、本発明は前述の実施形態に限定されず、例えば下記に説明するように、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において構成の変更等が可能である。なお、変形例の図示においては、前述の実施形態と同じ構成要素に同一の符号を付し、主として異なる点について説明する。
【0081】
図5から
図8は、前述の実施形態で説明した掘削ビット1の変形例を示す。この変形例では、掘削ビット1の排出流路4が、複数の第1流路41の工具径方向の内端部に接続される接続流路45を有する。接続流路45は、ビット本体2の先端面21から工具軸方向の後端側に窪む凹状であり、工具中心軸O上に位置する。接続流路45は、各第1流路41同士を互いに連通させる。
【0082】
またこの変形例では、フェイス座面23aが、工具周方向の一方側つまり工具回転方向Tへ向かうに従い、工具軸方向の後端側に位置する傾斜面状である。そして、フェイスチップ3Aのチップ中心軸Cは、工具軸方向の後端側へ向かうに従い、工具周方向のうち工具回転方向Tとは反対側に向けて延びる。
この場合、掘削時にフェイスチップ3Aは、工具回転方向Tへの回転力によりフェイスチップ3Aに作用する曲げ応力を、チップ軸方向への圧縮応力として受け止めて緩和することができる。このため、フェイスチップ3Aの折損等が抑制される。
【0083】
またこの変形例では、複数の掘削チップ3のうち、第1流路41の反工具回転方向に隣り合う所定のフェイスチップ3Aのチップ中心軸Cが、工具軸方向の後端側へ向かうに従い、第1流路41から反工具回転方向に離れる。つまり、第1流路41と工具周方向に隣り合う所定の掘削チップ3のチップ中心軸Cは、工具軸方向の後端側へ向かうに従い、工具周方向において第1流路41から離れる。
上記構成を採用することにより、第1流路41と隣り合う所定の掘削チップ3(フェイスチップ3A)と、第1流路41との間の肉厚が大きく確保されて、第1流路41近傍の摩耗による掘削チップ3のビット本体2からの脱落が抑制される。
【0084】
なお上記変形例において、排出流路4の第2流路42は、ゲージ座面24a上に位置するほか、フェイス座面23a上の一部(工具径方向の外端部)にも位置していてもよい。
【0085】
また前述の実施形態では、1つのフェイス座面23aに対して、1つのフェイスチップ3Aが配置され、1つのゲージ座面24aに対して、1つのゲージチップ3Bが配置されている例を挙げたが、これに限らない。1つのフェイス座面23aに対して、複数のフェイスチップ3Aが配置されていたり、1つのゲージ座面24aに対して、複数のゲージチップ3Bが配置されていたりしてもよい。
【0086】
また前述の実施形態では、工具周方向の一方側が、工具回転方向Tに相当し、工具周方向の他方側が、反工具回転方向に相当する例を挙げたが、これに限らない。工具周方向の一方側が、反工具回転方向に相当し、工具周方向の他方側が、工具回転方向Tに相当してもよい。
【0087】
また前述の実施形態では、掘削チップ3がスパイクチップである例を挙げたが、これに限らない。掘削チップ3は、例えば、その先端部が砲弾型とされたいわゆるバリスティックチップ等であってもよい。
また、チップ中心軸Cを含む掘削チップ3の縦断面視において、刃先部3aの曲率半径が、掘削チップ3の外径寸法の1/2未満であると説明したが、例えばチップ中心軸Cに対して傾斜する断面視において、刃先部3aの曲率半径が、掘削チップ3の外径寸法の1/2未満であってもよい。
【0088】
本発明は、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において、前述の実施形態および変形例等で説明した各構成を組み合わせてもよく、また、構成の付加、省略、置換、その他の変更が可能である。また本発明は、前述した実施形態等によって限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の掘削ビットによれば、ビット本体の先端面に広範囲に流体を供給しつつ、繰粉を効率よく排出できる。したがって、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0090】
1…掘削ビット
2…ビット本体
3…掘削チップ
3A…フェイスチップ
3B…ゲージチップ
3a…刃先部
4…排出流路
5…ブロー孔
21…先端面
22…外周面
23…フェイス面
24…ゲージ面
24a…ゲージ座面(座面)
41…第1流路
41a…流量増加部
41b…流速増加部
42…第2流路
43…第3流路
44…第4流路
C…チップ中心軸
O…工具中心軸
T…工具回転方向