(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】バインダーを使用しない多孔体への粉塵捕集層形成方法
(51)【国際特許分類】
B01D 39/16 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
B01D39/16 H
(21)【出願番号】P 2020194500
(22)【出願日】2020-11-24
【審査請求日】2023-05-26
(31)【優先権主張番号】P 2020124888
(32)【優先日】2020-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000227250
【氏名又は名称】日鉄鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 博道
(72)【発明者】
【氏名】小倉 慎一
(72)【発明者】
【氏名】二瓶 雄次
(72)【発明者】
【氏名】篠田 賢
(72)【発明者】
【氏名】星 徹
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-141022(JP,A)
【文献】特開平08-309125(JP,A)
【文献】特開平11-347323(JP,A)
【文献】特開平08-257331(JP,A)
【文献】特開2002-193670(JP,A)
【文献】特表平10-505531(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 39/00-41/04
B01D 46/00-46/90
C08J 9/00-9/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂焼結体からなるフィルタエレメント素材の表面に粉塵捕集層を構成する、バインダーを含まない樹脂微粒子の層を、前記樹脂焼結体からなるフィルタエレメント素材を吸引しながらその表面に堆積させて形成し、当該樹脂微粒子の層を、熱線を照射する加熱手段により加熱するとともに、フィルタ素材の裏面からも加熱すること、若しくは粉塵捕集層を形成したフィルタ素材全体を、オーブンなどの高温雰囲気下で加熱する加熱手段により
、当該樹脂微粒子の軟化点付近の温度まで加熱し、軟化点付近の温度に達した時点で加熱を止め、室温まで徐冷することにより、前記樹脂微粒子を焼結させて粉塵捕集層を形成することを含むフィルタエレメントの製造方法。
【請求項2】
粉塵捕集層を構成する樹脂微粒子の粒径が、フィルタエレメント素材を構成する樹脂と比較して小さいことを特徴とする樹脂粉である請求項1記載のフィルタエレメントの製造方法。
【請求項3】
粉塵捕集層を構成する樹脂微粒子の軟化点が、フィルタエレメント素材を構成する樹脂よりも低いことを特徴とする樹脂粉である請求項1または2記載のフィルタエレメントの製造方法。
【請求項4】
熱線を照射する加熱手段が、赤外線ヒーターである請求項1ないし3の何れかに記載のフィルタエレメントの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バインダーを使用しない集塵フィルタの表面への粉塵捕集層の形成方法に係る技術である。
具体的には、樹脂を焼結することによって形成されたラメラ構造のフィルタエレメント素材の表面に粉塵捕集層を形成する際に、当該粉塵捕集層を構成する微粒子に赤外線を照射することで融着させ、バインダーを用いることなく高い捕集性能を備えながら粉塵捕集層に一定の強強度を有する粉塵捕集層を形成することにより、圧力損失が低くエネルギー効率のよいフィルタの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
集塵フィルタのフィルタエレメントは、樹脂焼結体からなるフィルタエレメント素材と、樹脂微粒子からなる粉塵捕集層とから構成される。また、フィルタエレメントの仕様によっては、導電性を呈するカーボン層を追加して構成することがある。
【0003】
フィルタエレメント素材は、特許文献1,2などに例示された方法によって、合成樹脂粉末を焼結して得ることができ、得られた合成樹脂の焼結体を構成する個々の合成樹脂の粒子の間には、空気の通過が可能な空隙が形成されている。
【0004】
集塵フィルタエレメントの粉塵捕集層は、粉塵捕集層として使用する樹脂微粒子を水系の溶媒に懸濁させて、粉塵捕集層として使用する樹脂微粒子を含有した塗工液を調製し、樹脂焼結体からなるフィルタエレメント素材の表面に、前記塗工液を塗布後、乾燥することにより、粉塵捕集層を形成する。
【0005】
また、帯電防止仕様のフィルタエレメントに於いては、導電性を呈するカーボン粉を水系の溶媒に懸濁させて、導電性を呈するカーボン粉を含有する塗工液を調製し、樹脂焼結体からなるフィルタエレメント素材の表面に前記カーボン塗工液を塗布後、乾燥することにより、導電性を呈するカーボン層を形成する。その後、粉塵捕集層として使用する樹脂微粒子を含有した塗工液を塗布後、乾燥することにより、粉塵捕集層を形成する。
【0006】
粉塵捕集層として使用する樹脂の微粒子は、集塵フィルタを用いて捕集する粉塵の性質および粒子径に応じて、樹脂の材質および粒子径を選択する。粉塵捕集層として使用する樹脂の材質としては、ポリエチレン(PE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、などから選択し、樹脂の粒子径は、1~100μmの範囲から選択する。
【0007】
粉塵捕集層は、該捕集層に使用する樹脂の微粒子を個々に積層して形成し、該捕集層を構成する個々の樹脂微粒子の間には、空気の通過が可能な空隙を有する構造を有する。捕集対象粒子を含有する含塵空気の塵分は、粉塵捕集層で捕捉され、前記粉塵捕集層によって塵分が捕集された後の清浄空気は、前記捕集層に形成された空気の通過が可能な空隙及びフィルタエレメント素材の空隙を通過して前記フィルタエレメントの内側に流れ込む。
【0008】
ここで、一般的な集塵機の構造について
図1で説明する。
集塵機10は、密閉されたケーシング12を有し、その内部は区画壁である上部天板14によって下部の集塵室16と、上部の清浄空気室18とに分けられ、ケーシングの中腹に下部の集塵室へ連通する含塵空気の供給口20が設けられる。またケーシングの上部には、清浄空気室へ連通する清浄空気の排出口22が設けられている。さらに上部天板の下面には、中空扁平状のフィルタエレメント24が所定の間隔で取り付けられており、ケーシングの下部には、除塵された粉塵を排出するホッパ26と、その粉塵の取り出し口28が設けられている。
【0009】
フィルタエレメント24は、
図1(2)にその外観の概略を示すように、上端部に大径部32が形成され、大径部はフレーム34を収容するように膨らんだ形状に形成されている。大径部内に収容されたフレームの両端部は、締付ボルト36を介して大径部と一体的に上部天板14に取り付けられている。なお上部天板とフレームとの間には、パッキン38が介装されている。
【0010】
そしてフィルタエレメント外観図のP-P断面を斜視図(
図1(3))で示したように、フィルタエレメント内部は、上端部が開口した中空の室24aが複数形成されており、エレメントの粉塵付着表面は、波形形状或いは蛇腹形状となって付着面積を増大させている。含塵空気供給口20からケーシングの集塵室16内に供給された含塵空気は、中空形状のフィルタエレメントの濾過体を通過して内側に流れ込む。このとき粉塵は、フィルタエレメントの表面に付着・堆積して捕集され、フィルタエレメントの内側に流れ込んだ清浄空気は、フレームの通路を経てケーシングの上部の清浄空気室18に入り、その排出口22から所定の場所に導かれる。
【0011】
フィルタエレメントの表面に粉塵が付着・堆積すると、空気通路が閉塞されて圧力損失が増加するため、フィルタエレメント24をそれぞれ一定の時間間隔をおいて順次逆洗し、フィルタエレメントの表面に付着・堆積した粉塵を除去する。即ち、タイマー制御等により一定の間隔をおいて図示しない逆洗バルブを順次開閉して、それぞれの対応する噴射管から逆洗のためのパルスエアを噴射する。これにより、パルスエアがそれぞれのフィルタエレメント24の内側から外側に向かって逆流し、フィルタエレメント表面に付着・堆積した粉塵が飛散することなく、堆積したままの状態で払い落とされる。これにより払い落とされた粉塵は、ホッパ26を通じて取り出し口28から回収される。
【0012】
前述の集塵機の装置構成および含塵空気からの粉塵の除去工程、フィルタエレメントの構成との相乗効果によって、樹脂焼結体からなるフィルタエレメント素材と、樹脂微粒子からなる粉塵捕集層とから構成されるフィルタエレメントは、長期間に亘って連続使用が可能な集塵フィルタエレメントとして、国内外の鉱山、砕石所、製鉄所等に於ける発塵箇所の環境集塵手段として広く採用されてきた。
【0013】
しかしながら、従来の塗工液をフィルタエレメント素材表面に塗工することにより形成された粉塵捕集層は、フィルタエレメント素材の表面に対して水溶性バインダーによる接着力により付着していることから、高強度とは言えず、フィルタエレメントの表面に付着・堆積した集塵粉をパルスエア噴射によって除去する時に粉塵捕集層の一部が剥落して、集塵粉にコンタミネーションすることが懸念されていた。そのため、食品等のコンタミネーション防止が重視される用途には使用できなかった。
【0014】
また近年、マイクロプラスチックによる海洋生物や人体への影響が懸念され、一般的なエアフィルタにおいても、コンタミネーション防止が求められる土壌が整いつつある。
【0015】
さらに、一般的なバグ式集じんフィルタと比較し、運転開始時における、濾過面積当たりの圧力損失(初期圧損)がやや大きく、イニシャルコストを低減したいユーザーの要望には応えられていなかった。これらの背景から、樹脂焼結体からなるフィルタエレメント素材の表面に形成する粉塵捕集層として、より強固かつ低い初期圧損を有するものの開発が求められている。
【0016】
樹脂の微粒子を強固に固着する手段としては焼結法が知られているが、樹脂の焼結によって形成されたフィルタエレメント素材の片面に粉塵捕集層を形成する場合、焼結法は適用できなかった。それは、フィルタ表面側から内側に向けて熱が加わるため、どうしてもフィルタに反りや歪みが生じてしまうからである。
【0017】
また、塗工液を調製しての粉塵捕集層の形成は、当該塗工液をフィルタエレメント素材表面に塗工後、乾燥する工程を経ていた。このため、フィルタエレメント素材表面への塗工のための複雑な機構を有するロボットや塗工後の粉塵捕集層の乾燥のための乾燥機、塗工液の廃液処理設備のみならず、フィルタエレメント作製のために、多くの工数ならびに人手、製作時間を要していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【文献】特開2003-126627号公報
【文献】特開2004-202326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、樹脂焼結体からなるフィルタエレメント素材の表面に粉塵捕集層を形成するフィルタエレメントの製造方法であって、フィルタに反りや歪みが生ぜず、より強固かつ低い初期圧損を有するフィルタエレメントの製造方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、上記従来技術の課題に鑑み、さらに粉塵捕集層の形成法について試行錯誤を重ねた結果、フィルタ素材の片面に形成した粉塵捕集層を、熱線を照射する加熱手段により加熱するとともに、フィルタ素材の裏面からも加熱すること、若しくは粉塵捕集層を形成したフィルタ素材全体を、オーブンなどの高温雰囲気下で加熱する加熱手段により加熱すること、さらに、フィルタ素材を構成する樹脂よりも軟化点が低い樹脂粉を使用すること、若しくはフィルタ素材を構成する樹脂よりも粒径が小さい樹脂粉を使用することを、前記加熱手段と適宜組み合わせることにより焼結すれば、フィルタの反りや歪みが生じないことを突き止め、本発明に至ったものである。なお、熱線を照射する加熱手段としては、赤外ヒーターが例示され、高温雰囲気下で加熱する加熱手段としてはギアオーブンが例示される。
【0021】
本発明の技術による粉塵捕集層には樹脂微粉を用い、その粒子径は、0.1~200μmの範囲から選択が可能で、好ましくは平均粒子径が0.1μm~50μmの樹脂微粉を用いる。ここで述べる平均粒子径とは、マイクロトラックなどの粒度分布測定装置で測定した際のD50値を指す。
【0022】
本発明の技術による粉塵捕集層を構成する PTFE 微粒子に代えて使用する微粒子としては、超高分子量ポリエチレン(セラニーズジャパン社製、GUR2126)または低分子量ポリエチレン(三井化学ファイン社製、ハイワックスHP10A)が例示される。
前記粉塵捕集層の形成にあたり、フィルタエレメント素材表面に付着させる超高分子量ポリエチレンまたは低分子量ポリエチレンの付着量は、1g~100g/m2の範囲から適当な量を指定することが出来、より好ましくは、10g~20g/m2の範囲で付着させる。
また、粉塵捕集層を構成する微粒子は、捕捉対象の粉塵の粒子径に応じて微粒子の粒子径を選択して使用することが可能である。即ち、フィルタ素材を構成する樹脂の粒子径と比較して小さい粒径のものを使用した場合は、より微細な粒子を捕捉することが可能となる。
【0023】
フィルタエレメント素材表面に付着させる超高分子量ポリエチレンまたは低分子量ポリエチレンの量が少ない場合は、これらが全体に行き渡らず、焼結体の気孔が十分に満たされない。過剰な場合は、表層で塊となり、初期圧損上昇の原因となる。
【0024】
フィルタエレメント素材表面に超高分子量ポリエチレンまたは低分子量ポリエチレンの微粒子を付着させる方法としては、例えば刷毛を用いて塗付することが簡便である。
【0025】
また、フィルタエレメントラボ試験素材を
図3(1)および(2)に示したラボ試験片用吸引用治具にセットし、前記治具に配設された空気吸引口からの吸引によるフィルタエレメントラボ試験素材の粉塵捕集層を形成する側から前記エレメント素材の粉塵捕集層を形成しない側に向けての陰圧によって、粉塵捕集層を構成する微粒子を吸引させながら刷毛を用いて付着せしめることにより、前記エレメント素材の表面に粉塵捕集層を構成する微粒子をより緻密に付着させることが可能となる。また、前記エレメント素材の粉塵捕集層を形成しない側からエアブローすることにより、フィルタエレメント素材の粉塵捕集層を形成する側に付着した微粒子の緻密さを低下させ、本発明による方法によって形成された粉塵捕集層の初期圧損を低下させることも可能である。
図3(1)および(2)に示される治具は、粉塵捕集層を形成するための開口51を有する上枠52と図示しない吸引ポンプと接続される接続管53を備えた底枠54から成り、上枠52と底枠54の間にフィルタエレメント素材55をクランプ56などの手段により挟持し、使用するものである。
【0026】
粉塵捕集層を構成する粒子を舞わせ、シンターラメラーフィルタエレメント素材の表面に吸引して付着させる方法も有効である。
例えば、本願実施例4~8および比較例2に記載した、2コア一体型エレメントまたは2コア貼り合わせエレメント(以下、これらを2コアエレメントと称する)においては、エレメント素材に粉塵捕集層を形成するには
図8に示した治具を利用する。
図8に示した治具は、2コアエレメント素材87を収納可能な函体81、前記2コアエレメントの開口部90と対応する開口を備え前記函体81の上面開口部を塞ぐ天板83、及び前記天板83の開口83aに吸引ブロワを接続する吸引管接続部86から構成され、函体81、天板83及び吸引管接続部86の各接触部には、パッキン84を介在させることにより吸引管接続部86に連通するエレメント内部のコア空間と、エレメントの外側と函体とによって形成される空間との気密性を確保している。
この治具を使用して2コアエレメント素材87表面に粉塵集塵層を形成するには、コア開口部90と天板83の開口83aとが一致するよう2コアエレメント素材87を天板83に押圧固定し、2コアエレメント素材87が函体81内に収納されるように天板83で筐体81の上面開口部を塞ぐとともに、前記天板の開口83aに吸引管接続部86を接続しておく。次いで、2コアエレメント素材87の外面と函体81内部との空間内に粉塵捕集層を構成する粉末を分散浮遊させ、この状態でブロアを作動させ2コアエレメント素材87の粉塵捕集層を形成する側から形成しない側に向けて陰圧を形成させることにより、前記粉末を2コアエレメント素材87の表面に均一に付着させることが可能となる。
2コアエレメント素材87の外面と函体81内部との空間内に粉塵捕集層を形成する粉末を分散浮遊させるには、実施例7のように筐体側壁に複数個所設けられた粉体導入部より噴霧器などを利用して均一に導入させることや、実施例8のように予め筐体内に必要な粉末を収納しておき、これを例えばパルス噴流や旋回噴流などを利用し、容器内空間に前記粉末を舞い上がらせることが考えられる。
なお、2コアエレメント素材87とは、
図1に示した様態のフィルタエレメントのスケールアップ試験用フィルタであって、フィルタエレメント内部に上端部が開口した中空の室(コア)を二組備えた構造を有し、一体焼結またはエレメントを構成する部材を接着剤等によって張り合わせて作製することによって得られたエレメント素材である。
【0027】
前記方法によってフィルタエレメント素材の粉塵捕集層を形成する側に付着させた微粒子を粉塵捕集層として形成させる方法としては、赤外線ヒーター(
図2)に例示される加熱手段を用いる。赤外線ヒーターによって、フィルタエレメント素材の超高分子量ポリエチレン微粒子を付着させた側を、その軟化点付近まで加温し、樹脂微粒子相互間を融着させることで、粉塵捕集層を形成する。この際、粉塵捕集層を形成する側に超高分子量ポリエチレン微粒子を付着させたフィルタエレメント素材をそのまま置いた、あるいは吊るした状態で加温すると、フィルタエレメント素材が湾曲し、その後の機械的な加工が極めて困難になる。
【0028】
そこで、フィルタエレメント素材の粉塵捕集層を形成する側に超高分子量ポリエチレン微粒子を付着させた状態で、
図4に示した金属製のリテーナーに差し込み、倒れた、倒立した、あるいは吊り下げた状態で赤外線ヒーターにより粉塵捕集層を形成させる側と粉塵捕集層を形成させない側との両側から赤外線を照射する。
これにより、取り出したフィルタエレメントの湾曲が機械的に一定の寸法まで抑えられ、その後の機械的な加工が容易になる。
【0029】
また、フィルタエレメント素材の粉塵捕集層を形成する側に樹脂微粒子として軟化点の低い低分子量ポリエチレン微粒子を付着させた状態で、そのまままたは
図4に示した金属製のリテーナーに差し込み、倒れた、倒立した、あるいは吊り下げた状態で赤外線ヒーターにより粉塵捕集層を形成させる側、または粉塵捕集層を形成させる側と粉塵捕集層を形成させない側との両側から赤外線を照射する。
これにより、取り出したフィルタエレメントの湾曲が機械的あるいは物性的に一定の寸法まで抑えられ、その後の機械的な加工が容易になる。
【0030】
本発明の方法によれば、フィルタエレメント素材の表層には粉塵捕集層が強固に形成される。すなわち、フィルタエレメント素材の表面に付着し、かつフィルタエレメント素材内部の空隙にも侵入した樹脂微粒子が、赤外線照射によってフィルタエレメント素材を構成している粒子との融着も進行するので、粉塵捕集層はフィルタエレメント素材と強固に融着される。これにより、フィルタエレメント素材の空隙が微細なポリエチレン粉で満たされた上で、粉塵捕集層を構成している粒子、及びフィルタエレメント素材を構成している粒子の粒子形状が保たれるので、初期圧損の抑制と捕集性能を両立させることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の技術により形成された粉塵捕集層は、従前のものよりもフィルタエレメント素材と強固に融着していることから、エアブローや高圧の流水による洗浄が可能となるだけでなく、粉塵捕集層を構成する微粒子の集塵粉へのコンタミネーションを防止することが出来る。
【0032】
フィルタエレメント素材の表面に粉塵捕集層を構成する微粒子として付着させる超高分子量ポリエチレンの粒子径を調整することによって、粉塵捕集層に於ける気孔の大きさを調整することが可能である。また、付着させる超高分子量ポリエチレンの粒子に予め他の粒子を混合しておくことで、粉塵捕集層の性能を変化させることも可能である。
【0033】
このことにより、本発明により、ユーザーに対し、低圧損等の要求性能に必要十分な細孔径を有するフィルタの提供が可能となる。更に、集塵粉へのコンタミネーションを防止し、今までに無い用途の開拓や集塵機保守の効率化および生産性の向上に資することが期待できる。
【0034】
本発明の技術により、複雑な機構を持つロボットや多くの人手をかけて塗工していた粉塵捕集層のコーティングの設備と工程を簡略化することが可能となる。
工程としては、パッキンを挟んで天板にエレメント素材をステーおよびナットを用いて仮止めし、ブロワのスイッチを入れ、粉を供給すればエレメント素材表面に粉塵捕集層を構成する粒子を均一に付着させることができる。これを取り外してラックに複数枚置き、電熱式の乾燥炉に入れて加温すれば、粉塵捕集層を形成できる。これにより従来のコーティング液調整→塗工→乾燥&廃液処理の4工程から、塗工→乾燥の2工程で可能となる上、工程当たりの作業量も大幅に低減される。
設備面では、
図8に示したブロワの吸い込み口と天板を繋いだ装置にビニール製の囲いを用意さえすれば塗工でき、乾燥は一般的な乾燥炉でも処理可能である。
本発明の技術により、ブロワを用いた単純な治具を用いることで、維持にコストのかかるロボットや人手の取られる廃液処理設備を必要とせず、工程も簡略化できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】(1)一般的な集塵機の外観図、(2)フィルタエレメント(シンターラメラー)の外観図、及び(3)そのP-P断面の斜視図
【
図3】(1)ラボ試験片用吸引用治具の外観平面図、(2) ラボ試験片用吸引用治具の断面図
【
図6】加熱手段(2コアエレメント用赤外線ヒーター)
【
図8】(1)治具の外観正面図、(2)治具内部に2コアフィルタエレメント素材を取付けた状態の正面図及び側面図、(3)2コアエレメント素材のQ-Q断面図、(4) 治具の天板に2コアフィルタエレメント素材を取付けた状態の正面図及び断面図
【
図9】(1) 治具内部に於ける2コアフィルタエレメント素材への粉塵捕集層構成粉の付着(実施例7の容態)、(2) 治具内部に於ける2コアフィルタエレメント素材への粉塵捕集層構成粉の付着(実施例8の容態)
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施例に基づき具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
また、本発明の実施例及び比較例で使用したフィルタエレメントは、ラボ試験片、2コア一体型エレメント、2コア貼り合わせエレメントである。ラボ試験片は、板状のエレメント素材片に本発明の粉塵捕集層を形成して得られた試験片である。2コア一体型エレメントおよび2コア貼り合わせエレメントは、フィルタエレメント内部の中空の室を二組備えた構造のスケールアップ試験用フィルタエレメントである。2コア一体型エレメントは、これを一体焼結することによって得られたエレメント素材に本発明の粉塵捕集層を形成して得られる。2コア貼り合わせエレメントは、エレメントを構成する板状の部材を接着剤等によって貼り合わせて作製したエレメント素材に本発明の粉塵捕集層を形成して得られる。
【実施例1】
【0037】
フィルタエレメント素材吸引用治具(
図3)にフィルタエレメントラボ試験素材を設置し、前記ラボ試験素材の表面に超高分子量ポリエチレン粉(セラニーズジャパン社製、GUR2126)を2g置いた。フィルタエレメント素材吸引用治具の裏側から真空ポンプで濾過風速1m/min.で吸引しながらポリエチレン粉を刷毛で10往復塗付し、前記ポリエチレン粉を前記ラボ試験素材の気孔の空隙間に充分行き渡らせた。
前記ポリエチレン粉を塗付した前記ラボ試験素材を
図4に示したリテーナーに挿入した後、リテーナーを吊り下げた。
図2に示した加熱手段に配設された赤外線ヒーター2台の照射部をリテーナーの両側からリテーナーの表面に向け、リテーナー表面から30cmの距離に設置した。赤外線ヒーターにより赤外線を照射し、リテーナーの内側の温度が150℃になった時点で照射を止め、室温まで徐冷し、本発明の粉塵捕集層を備えたラボ試験片を完成した。
【実施例2】
【0038】
フィルタエレメントラボ試験素材の表面に置いた粉体を低分子量ポリエチレン(三井化学ファイン社製、ハイワックスHP10A、D50=45μm)を0.5g、赤外線ヒーターによる赤外線の照射を止めた温度を110℃とした以外は、実施例1と同様の方法で、本発明の粉塵捕集層を備えたラボ試験片を完成した。
【実施例3】
【0039】
フィルタエレメントラボ試験素材の表面に置いた粉体を低分子量ポリエチレン(三井化学ファイン社製、ハイワックスHP10A)の分級品(D50=24μm)を0.5gとした以外は、実施例2と同様の方法で、本発明の粉塵捕集層を備えたラボ試験片を完成した。
【実施例4】
【0040】
2コア貼合わせエレメント素材片の表面に低分子量ポリエチレン紛(三井化学ファイン社製、ハイワックスHP10A、D50=45μm)を1.5g置き、前記低分子量ポリエチレン粉を刷毛で10往復塗付して、前記素材片内部の気孔の空隙間に充分行き渡らせた。
図6に示した加熱手段に配設された2台の赤外線ヒーターにより、前記低分子量ポリエチレン粉を塗付した前記素材片の上下両側から10cmの距離から赤外線を照射した。前記低分子ポリエチレン粉を塗付した前記素材片の表面の温度が110℃になった時点で、赤外線の照射を止め室温まで放冷し、本発明の粉塵捕集層を備えた2コア貼合わせエレメント片を作製した。
前記試験用貼合わせエレメント片を2枚使用し、エポキシ樹脂を主成分とする接着剤を用いて、これらを貼り合わせ、2コア貼合わせエレメントを完成した。
【実施例5】
【0041】
2コア貼合わせエレメント素材片の表面に置いた粉体を低分子量ポリエチレン紛(三井化学ファイン社製、ハイワックスHP10A)の分級品(D50=24μm)を1.5gとした以外は、実施例4と同様の方法で、2コア貼合わせエレメントを完成した。
【実施例6】
【0042】
2コア一体型エレメント素材87を
図8に示した治具に設置し、前記治具に対して配管によって連通して配設されたリングブロワを用いて1.5m/minで吸引しながら、
図9(1)に示した様態のエアロゾル吹き出し口91から4gの低分子量ポリエチレン紛(三井化学ファイン社製、ハイワックスHP10A)の分級品(D50=24μm)93を吹付け、前期エレメント表面の気孔の空隙間に十分行き渡らせた。ギアオーブンを用いて雰囲気温度130℃で30min加温し本発明の粉塵捕集層を備えた2コア一体型エレメントを作製した。
【実施例7】
【0043】
2コア一体型エレメント素材87への低分子量ポリエチレン紛の吹付けを実施例6と同様に行い、
図6に示した加熱手段に配設された2台の赤外線ヒーターにより、前記低分子量ポリエチレン粉を塗付した前記素材の上下両側から10cmの距離から赤外線を照射した。前記低分子ポリエチレン粉を塗付した前記素材の表面の温度が115℃になった時点で、赤外線の照射を止め室温まで放冷し、本発明の粉塵捕集層を備えた2コア一体型エレメントを作製した。
【実施例8】
【0044】
2コア一体型エレメント素材87を
図8に示した治具に設置し、
図9(2)の様態として治具の底部に5gの低分子量ポリエチレン紛(三井化学ファイン社製、ハイワックスHP10A)の分級品(D50=24μm)93を置き、前記治具に対して配管によって連通して配設されたリングブロワを用いて1.5m/minで吸引しながら、治具下部の圧縮空気吹き出し口92からコンプレッサエアを吹き込み、前記低分子量ポリエチレン粉93を舞い上がらせながら、前期エレメント表面の気孔の空隙間に十分行き渡らせた。ギアオーブンを用いて雰囲気温度130℃で30min加温し、本発明の粉塵捕集層を備えた2コア一体型エレメントを作製した。
【0045】
[比較例1]
平均粒子径が20μmの超高分子量ポリエチレン粉(セラニーズジャパン社製、GUR2126)を20.0wt%、接着剤として酢酸ビニールとアクリル酸エステルの共重合体(商品名:モビニールDM5 日本合成化学工業社製)を4.0wt%、消泡剤としてパラフィンオイルおよび疎水性シリカと乳化剤の混合物(商品名:アジタン 楠本化成社製)を0.3wt%、水を75.7wt%の割合で調合し、塗工液を調製した。前記塗工液4mlをシリンジを用いて、フィルタエレメントラボ試験素材片の表面に乗せ、刷毛で10往復塗工した。その後50℃で2時間乾燥し、ポリエチレン粉によって構成された粉塵捕集層が形成されたラボ試験片を完成した。
【0046】
[比較例2]
2コア貼合わせエレメント素材片2枚使用し、エポキシ樹脂を主成分とする接着剤を用いて、これらを貼り合わせ、2コア貼合わせエレメント素材を作製した。
平均粒子径が20μmの超高分子量ポリエチレン粉(セラニーズジャパン社製、GUR2126)を20.0wt%、接着剤として酢酸ビニールとアクリル酸エステルの共重合体(商品名:モビニールDM5 日本合成化学工業社製)を4.0wt%、消泡剤としてパラフィンオイルおよび疎水性シリカと乳化剤の混合物(商品名:アジタン 楠本化成社製)を0.3wt%、水を75.7 wt%の割合で調合し、塗工液を調製した。前記塗工液20mlをシリンジを用いて2コアエレメント素材の表面に乗せ、刷毛で10往復塗工した。その後50℃で2時間乾燥し、ポリエチレン粉によって構成された粉塵捕集層が形成された2コア貼合わせエレメントを完成した。
【0047】
前記実施例1~3および比較例1によって得られた試験片をシンターラメラーラボ集塵負荷試験装置(
図5 日鉄鉱業製)に装着し、実験集塵粉として、日鉄鉱業製の排煙脱硫用タンカル粉(平均粒子径:12μm)を用いて、濾過風速6m/min(処理風量.30L/min)、粉塵フィード濃度10g/m
3の条件下で集塵負荷確認試験を5分間行った。集塵負荷確認試験に於いては、試験初期および終了時の圧力損失(kPa)について評価を行った。
実施例1~3および比較例1によって得られた試験片に対し、クロスカッター(オールグッド社製、クロスカット試験(碁盤目試験)多重刃カッター)を用い、JIS K 5600-5-6 : 1999 (ISO 2409 : 1992) 付着性(クロスカット法)試験を実施した。
【0048】
なお、集じん負荷確認試験終了後の試験片には、前記試験片の80cmの高さの一定位置から金属球を落とし、払い落とした後重量を測定し、事前に量った重量との差を侵入粉とした。この集塵負荷確認試験の結果を表1に示す。
【0049】
【0050】
前記実施例4~5および比較例2によって得られた2コア貼り合わせエレメントを2コアエレメント用ラボ集塵負荷試験装置(
図7 日鉄鉱業製)に装着し、実験集塵粉として、日鉄鉱業製の排煙脱硫用タンカル粉(平均粒子径:12μm)を用いて、濾過風速1m/min(処理風量.100L/min)、粉塵フィード濃度10g/m
3の条件下で集塵負荷確認試験を5分間行った。集塵負荷確認試験に於いては、試験初期および終了時の圧力損失(kPa)について評価を行った。
【0051】
前記実施例6~8によって得られた2コア一体型エレメントを2コアエレメント用ラボ集塵負荷試験装置(
図7 日鉄鉱業製)に装着し、実験集塵粉として、日鉄鉱業製の排煙脱硫用タンカル粉(平均粒子径:12μm)を用いて、濾過風速1m/min(処理風量.160L/min)、粉塵フィード濃度10g/m
3の条件下で集塵負荷確認試験を5分間行った。集塵負荷確認試験に於いては、試験初期および終了時の圧力損失(kPa)について評価を行った。
【0052】
なお、集じん負荷確認試験終了後の2コア一体型エレメントおよび2コア貼り合わせエレメントには、前記試験用エレメントから50cmの位置から圧力4kg/fの圧縮空気を開口径5mmのノズルからブローし、前記試験用エレメントの表面に付着した試験粉を払い落とした後重量を測定し、事前に量った重量との差を侵入粉とした。この集塵負荷確認試験の結果を表2に示す。
【0053】
【0054】
なお、クロスカット法試験による「分類」は以下の通り。
【0055】
表1、表2の結果から明らかなように、実施例1は比較例1と比べ、初期圧損は高いものの、侵入粉が0.00gであることから、試験終了時の圧力損失は近くなった。クロスカット試験により、比較例1に対し本発明の粉塵捕集層は圧倒的な付着強さを持つことが判明した。
特に実施例2、実施例3では、実施例1と比較して粉塵捕集走を構成する微粒子に軟化点の低い低分子量ポリエチレンを用いることで、前記フィルタエレメント素材の加温による変形を抑制でき、ラメラ状フィルタエレメントへの適用が可能となった。
また、ラボ試験片と比較して大きな試験片の2コア貼合わせエレメントを用いた実施例4では比較例2と比べ、初期圧損が低下した一方で侵入粉はやや増加した。粉塵捕集層を構成する微粒子に、実施例4と比較して小さな粒子径を有する粒子を用いた実施例5では、比較例2と比して初期圧損が低く、侵入粉も少ない粉塵捕集層を形成することができた。
なお、実施例4および実施例5、実施例6~8で形成された粉塵捕集層は、クロスカット試験は行わなかったが、実施例2および実施例3と同じ構成成分であることから、エレメント素材への付着強さを有することは言うまでもない。
【符号の説明】
【0056】
10 シンターラメラー集塵機
12 ケーシング
14 上部天板
16 集塵室
18 清浄空気室
20 含塵空気の供給口
22 清浄空気の排出口
24 フィルタエレメント
24a 中空の室
26 ホッパ
28 粉塵の取り出し口
32 大径部
34 フレーム
36 締付ボルト
38 パッキン
51 開口
52 上枠
53 接続管
54 底枠
55 フィルタエレメントラボ試験素材
56 クランプ
81 函体
82 粉体導入部
83 天板
83a 天板の開口
84 パッキン
85 フランジ
86 吸引管接続部
87 2コアフィルタエレメント素材
88 2コアフィルタエレメント素材固定ステー
89 2コアフィルタエレメント素材固定ナット
90 2コアフィルタエレメント素材中空の室
91 エアロゾル吹き出し口
92 圧縮空気吹き出し口
93 粉塵捕集層構成粉