(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】高周波基板及びアンテナモジュール
(51)【国際特許分類】
H01Q 11/10 20060101AFI20241004BHJP
H05K 3/46 20060101ALI20241004BHJP
H01Q 21/08 20060101ALI20241004BHJP
H01Q 21/24 20060101ALI20241004BHJP
H01Q 23/00 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
H01Q11/10
H05K3/46 Q
H01Q21/08
H01Q21/24
H01Q23/00
(21)【出願番号】P 2020217610
(22)【出願日】2020-12-25
【審査請求日】2023-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【氏名又は名称】田邊 淳也
(72)【発明者】
【氏名】山下 大輔
(72)【発明者】
【氏名】岩田 宗之
(72)【発明者】
【氏名】杉本 康宏
(72)【発明者】
【氏名】森 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】加賀 敦史
(72)【発明者】
【氏名】市川 順一
(72)【発明者】
【氏名】杉山 裕一
(72)【発明者】
【氏名】井場 政宏
【審査官】麻生 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-031412(JP,A)
【文献】登録実用新案第3171531(JP,U)
【文献】特開2005-176366(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 11/10
H05K 3/46
H01Q 21/08
H01Q 21/24
H01Q 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体層と導体層を交互に積層してなる高周波基板であって、
前記導体層に形成された複数の導体パターンと前記誘電体層を貫く複数のビア導体とを用いて構成された1又は複数の対数周期アンテナを備え、
前記1又は複数の対数周期アンテナが前記高周波基板の内部に埋設されていることを特徴とする高周波基板。
【請求項2】
前記高周波基板の厚さ方向から見た平面視で前記1又は複数の対数周期アンテナが配置される領域と重ならない領域に配置された1層又は複数層のグランド導体が設けられることを特徴とする請求項1に記載の高周波基板。
【請求項3】
前記1又は複数の対数周期アンテナのそれぞれに高周波信号を給電する給電構造が設けられることを特徴とする請求項2に記載の高周波基板。
【請求項4】
前記複数の対数周期アンテナは、水平偏波用対数周期アンテナと垂直偏波用対数周期アンテナとからなり、前記
高周波基板の厚さ方向に直交する第1の方向に並んで配置されることを特徴とする請求項3に記載の高周波基板。
【請求項5】
前記水平偏波用対数周期アンテナの個数と前記垂直偏波用対数周期アンテナの個数は同一であり、かつ、それぞれ2以上であることを特徴とする請求項4に記載の高周波基板。
【請求項6】
前記高周波基板の厚さ方向から見た平面視で前記複数の対数周期アンテナが配置される領域と重ならない領域に配置された1層又は複数のグランド導体と、
前記厚さ方向から見た平面視で中央領域において電子部品を収容可能な開口部と、
前記給電構造に含まれ、前記電子部品と前記複数の対数周期アンテナのそれぞれとの間を電気的に接続する複数の給電経路と、
を更に備え、
前記厚さ方向から見た平面視で前記開口部と重なる領域には、前記水平偏波用対数周期アンテナのみが配置されていることを特徴とする請求項5に記載の高周波基板。
【請求項7】
前記複数の対数周期アンテナは、前記第1の方向の中央位置に対して対称的な配置で並ぶことを特徴とする請求項6に記載の高周波基板。
【請求項8】
前記水平偏波用対数周期アンテナは、信号側及びグランド側で対をなす複数対の水平放射素子を含み、
前記複数対の水平放射素子は、前記複数の導体パターンを用いて構成され、かつ前記厚さ方向及び前記第1の方向と直交する第2の方向に並んで配置され、
前記垂直偏波用対数周期アンテナは、信号側及びグランド側で対をなす複数対の垂直放射素子を含み、
前記複数対の垂直放射素子は、前記複数のビア導体を用いて構成され、かつ前記第2の方向に並んで配置される、
ことを特徴とする請求項7に記載の高周波基板。
【請求項9】
少なくとも2個の前記水平偏波用対数周期アンテナの各々は、前記複数対の水平放射素子の基端から前記信号側及びグランド側の各先端までの延伸方向が前記第1の方向であることを特徴とする請求項8に記載の高周波基板。
【請求項10】
前記第1の方向の中央位置の近傍の少なくとも2個の前記水平偏波用対数周期アンテナの各々は、前記延伸方向が前記導体層の平面内で前記第1の方向から前記各先端が前記グランド導体と離れる方向に傾斜した方向であることを特徴とする請求項9に記載の高周波基板。
【請求項11】
少なくとも2個の前記垂直偏波用対数周期アンテナの各々は、前記複数対の垂直放射素子のそれぞれの延伸方向が前記厚さ方向であり、前記複数対の垂直放射素子の各々を構成する複数の信号側ビア導体及び複数のグランド側ビア導体は前記第1の方向に対向して配置され、かつ、それぞれの並び方向が前記第2の方向であることを特徴とする請求項8に記載の高周波基板。
【請求項12】
前記中央位置の近傍の少なくとも2個の前記垂直偏波用対数周期アンテナの各々は、前記複数対の垂直放射素子の前記延伸方向が前記厚さ方向であり、前記複数の信号側ビア導体及び前記複数のグランド側ビア導体は、前記第1の方向に対向して配置され、かつ、それぞれの並び方向が前記第2の方向から前記グランド導体に近付くほど前記対向側の複数のビア導体から離れるように傾斜した方向であることを特徴とする請求項11に記載の高周波基板。
【請求項13】
前記開口部に前記電子部品が載置された請求項6から12のいずれか1項に記載の高周波基板を備えるアンテナモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体層と導体層を交互に積層してなり、対数周期アンテナを構成した高周波基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、使用可能な周波数帯域を広げることができるアンテナとして、対数周期アンテナが知られている。例えば、特許文献1には、誘電体基板の表面に導体パターンを用いた対数周期アンテナを構成したアンテナ装置が開示されている。一般に対数周期アンテナは多数の放射素子を設けるための広い配置面積が必要となるため、例えば、特許文献1には、ミアンダ形状やV字形状で放射素子を形成することで対数周期アンテナの配置面積を縮小するための方策が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、無線通信の多様な規格に対応するために、多数のアンテナ素子をアレイ状に配置した構成が採用されることが一般的である。また、アンテナ装置の小型軽量化の観点から、誘電体基板を用いて複数のアンテナ素子を配置することが提案されている。しかし、異なる周波数帯域の共用を図るために対数周期アンテナの採用を前提とすると、前述の特許文献1のような構造では複雑なアンテナ形状を形成するための配置面積が増加し、アンテナ装置の大型化が避けられなくなる。また、近年では異なる偏波として水平偏波や垂直偏波を共用可能なアンテナ装置が要望されるが、特許文献1のような平面的な構成では、異なる偏波に対応し得るアンテナ装置の実現は困難である。
【0005】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、高周波基板の内部に対数周期アンテナを構成し、良好なアンテナ特性を保ちつつ、配置面積の増加を抑制して小型化が可能な高周波基板を実現するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の高周波基板は、誘電体層と導体層を交互に積層してなる高周波基板であって、前記導体層に形成された複数の導体パターンと前記誘電体層を貫く複数のビア導体とを用いて構成された1又は複数の対数周期アンテナを備え、前記1又は複数の対数周期アンテナが前記高周波基板の内部に埋設されていることを特徴としている。
【0007】
本発明の高周波基板によれば、1又は複数の対数周期アンテナを高周波基板の内部に埋設するとともに、複数の導体パターン及び複数のビア導体を用いて構成したので、周囲の誘電体層の波長短縮効果により対数周期アンテナを小型に構成できるとともに、平面方向の導体パターンと厚さ方向のビア導体を利用することで、平面形状だけではなく多様な立体的形状を有する対数周期アンテナを実現することができる。
【0008】
本発明において、1又は複数の対数周期アンテナに加えて、高周波基板の厚さ方向から見た平面視で1又は複数の対数周期アンテナが配置される領域と重ならない領域に配置された1層又は複数層のグランド導体を設けることができる。また、1又は複数の対数周期アンテナのそれぞれに高周波信号を給電する給電構造を設けることができる。
【0009】
本発明の複数の対数周期アンテナは、水平偏波用対数周期アンテナと垂直偏波用対数周期アンテナとにより構成し、高周波基板の厚さ方向に直交する第1の方向に並べる配置としてもよい。これにより、水平偏波と垂直偏波を共用可能な高周波基板を実現する場合、延伸方向に応じて導体パターンとビア導体を適切に組み合わせることで複雑な立体的形状を容易に構成できるとともに、波長短縮効果も相まって小型化が可能となる。
【0010】
本発明において、水平偏波用対数周期アンテナの個数と垂直偏波用対数周期アンテナの個数を同一とし、かつ、それぞれ2以上設けてもよい。この場合、高周波基板の厚さ方向から見た平面視で複数の対数周期アンテナが配置される領域と重ならない領域に配置された1層又は複数のグランド導体と、厚さ方向から見た平面視で中央領域において電子部品を収容可能な開口部と、前記給電構造に含まれ、前記電子部品と複数の対数周期アンテナのそれぞれとの間を電気的に接続する複数の給電経路とを高周波基板に更に設け、厚さ方向から見た平面視で前記開口部と重なる領域に、水平偏波用対数周期アンテナのみを配置することができる。さらに、複数の対数周期アンテナを、第1の方向の中央位置に対して対称的な配置で並べることができる。以上のような配置により、厚さ方向のサイズを必要とする垂直偏波用対数周期アンテナが開口部や電子部品と重ならないようにでき、良好なアンテナ性能を維持しつつ高周波基板のスペースの有効活用が可能となる。
【0011】
本発明の水平偏波用対数周期アンテナは、信号側及びグランド側で対をなす複数対の水平放射素子を含めて構成し、複数対の水平放射素子を複数の導体パターンを用いて構成し、かつ厚さ方向第1の方向と直交する第2の方向に並んで配置するとともに、本発明の垂直偏波用対数周期アンテナは、信号側及びグランド側で対をなす複数対の垂直放射素子を含めて構成し、複数対の垂直放射素子を複数のビア導体を用いて構成し、かつ第2の方向に並んで配置することができる。いずれの構造も、複数の導体パターンと複数のビア導体とを組み合わせた立体的構造であり、高周波基板の内部に容易に埋設することができる。
【0012】
本発明において、少なくとも2個の水平偏波用対数周期アンテナの各々は、複数対の水平放射素子の基端から信号側及びグランド側の各先端までの延伸方向が第1の方向に一致するようにしてよい。この場合において、第1の方向の中央位置の近傍の少なくとも2個の水平偏波用対数周期アンテナの各々は、延伸方向が導体層の平面内で第1の方向から各先端がグランド導体と離れる方向に傾斜した方向にしてもよい。これにより、複数の水平偏波用対数周期アンテナの中央近傍と外縁近傍における周囲との干渉の影響を抑制し、アンテナ利得の向上に効果がある。
【0013】
本発明において、少なくとも2個の垂直偏波用対数周期アンテナの各々は、複数対の垂直放射素子のそれぞれの延伸方向が厚さ方向であり、複数対の垂直放射素子の各々を構成する複数の信号側ビア導体及び複数のグランド側ビア導体を第1の方向に対向して配置し、かつ、それぞれの並び方向を第2の方向に一致させてもよい。この場合において、中央位置の近傍の少なくとも2個の垂直偏波用対数周期アンテナの各々は、複数対の垂直放射素子の延伸方向を厚さ方向に一致させ、複数の信号側ビア導体及び複数のグランド側ビア導体を、第1の方向に対向して配置し、かつ、それぞれの並び方向を第2の方向からグランド導体に近付くほど対向側の複数のビア導体から離れるように傾斜した方向にしてもよい。これにより、複数の垂直偏波用対数周期アンテナの中央近傍と外縁近傍における周囲との干渉の影響を抑制し、アンテナ利得の向上に効果がある。
【0014】
本発明の高周波基板は、開口部に電子部品を載置することができる。開口部に載置される電子部品としては、ICチップを挙げることができる。例えば、ICチップの所定の端子から、高周波基板の導体層に形成した給電経路を経由して、対数周期アンテナに給電することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高周波基板の内部に1又は複数の対数周期アンテナを埋設し、複数の導体パターンや複数のビア導体を活用して複雑な対数周期アンテナの形状を形成できるので、波長短縮効果により配置面積を増加させることなく高周波基板の小型化が可能であるとともに、周波数帯域を広げて異なる偏波にも容易に対応でき、良好なアンテナ性能を得られる高周波基板を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第1実施形態の高周波基板10の全体をZ方向の上方から見た平面図である
【
図2】
図1の高周波基板10をX方向に沿った矢印A方向から見た概略の断面図であり
【
図3】
図1の高周波基板10をY方向に沿った矢印B方向から見た概略の断面図である
【
図4】高周波基板10に構成される水平偏波用対数周期アンテナ41の構造を示す斜視図である。
【
図5】
図4の水平偏波用対数周期アンテナ41の構造を示す断面図である。
【
図6】高周波基板10に構成される垂直偏波用対数周期アンテナ31の構造を示す斜視図である。
【
図7】
図6の垂直偏波用対数周期アンテナ31の構造を示す断面図である。
【
図8】第2実施形態の高周波基板10の全体をZ方向の上方から見た平面図である
【
図9】
図8の水平偏波用対数周期アンテナ42aの平面形状を拡大して示す図である。
【
図10】
図8の垂直平偏波用対数周期アンテナ32aの平面形状を拡大して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。以下の説明では、本発明の技術思想を適用した形態の例として、高周波基板に構成されるアンテナ形状が異なる2つの実施形態について説明する。
【0018】
[第1実施形態]
図1~
図7を用いて、本発明の高周波基板の例である第1実施形態について説明する。
図1~
図7では、説明の便宜のため、互いに直交するX方向、Y方向、Z方向をそれぞれ矢印にて示している。
図1は、第1実施形態の高周波基板10の全体をZ方向の上方から見た平面図である。また、
図2は、
図1の高周波基板10をX方向に沿った矢印A方向から見た概略の断面図であり、
図3は、
図1の高周波基板10をY方向に沿った矢印B方向から見た概略の断面図である。また、
図4及び
図5は、高周波基板10に構成される水平偏波用対数周期アンテナ41の構造を示す斜視図及び断面図であり、
図6及び
図7は、高周波基板10に構成される垂直偏波用対数周期アンテナ31の構造を示す斜視図及び側面図である。
【0019】
第1実施形態の高周波基板10は、所定の誘電率を有する誘電体材料からなる誘電体基板であって、誘電体層と導体層とを交互に積層した多層構造を有し、X方向に沿う短辺と、Y方向に沿う長辺と、Z方向に沿う所定の厚さを有する直方体の板状部材である。
図1においては、Z方向の上方から見た平面視で高周波基板10の全体が透過して示され、多層のグランド導体11や高周波回路などを含むRF領域A1と、複数の対数周期アンテナ31~34、41~44を含むアンテナ領域A2とがそれぞれ配置される。すなわち、RF領域A1とアンテナ領域A2とはX方向(本発明の第2の方向)の境界位置XBで領域区分され、互いにX方向に対向している。
【0020】
アンテナ領域A1には、4個の垂直偏波用対数周期アンテナ31~34と、4個の水平偏波用対数周期アンテナ41~44とが、誘電体基板10の内部に埋設された状態で、Y方向(本発明の第1の方向)に並んで配置されている。ここで、対数周期アンテナは、長さの異なる放射素子対を規則的に配置することで広い周波数帯域と鋭い放射指向性を確保できるアンテナである。そして、4個の垂直偏波用対数周期アンテナ31~34はそれぞれ垂直偏波を放射し、4個の水平偏波用対数周期アンテナ41~44はそれぞれ水平偏波を放射する。第1実施形態では垂直偏波用対数周期アンテナの個数及び水平偏波用対数周期アンテナの個数がそれぞれ4個の場合を示すが、アンテナ特性の観点から、両者の個数を同一に保ちつつ増減させることができる。なお、後述するように、高周波基板10の内部に、少なくとも垂直偏波用対数周期アンテナ又は水平偏波用対数周期アンテナのいずれか1個のみを埋設する構造であってもよい。
【0021】
図1に示すように、8個の対数周期アンテナ31~34、41~44の並び方は、Y方向の中央位置YCに対して対称的な配置となっている。すなわち、中央位置YCの近傍では、2個の水平偏波用対数周期アンテナ42、43が隣接し、そこから両側に向かって、垂直偏波用対数周期アンテナ32、33、水平偏波用対数周期アンテナ41、44、垂直偏波用対数周期アンテナ31、34の並び順になっている。このような並び順を採用した理由については後述する。また、第1実施形態では、8個の対数周期アンテナ31~34、41~44がX方向に不等間隔で並んでいる。一般には、複数のアンテナを並べて配置する場合、使用波長に応じた等間隔に設定することが多いが、第1実施形態の配置においてアンテナ間隔をある程度ずらして設定した場合であってもアンテナ性能を確保することが可能である。
【0022】
以下、
図2及び
図3を参照して、
図1の高周波基板10の断面構造について説明する。
図2は、
図1の高周波基板10をX方向に沿った矢印A方向から見た断面図であり、
図3は、
図1の高周波基板10をY方向に沿った矢印B方向から見た断面図である。なお、
図2及び
図3においては、主にRF領域A1の構造を明確にするために、8個の対数周期アンテナ31~34、41~42については図示を省略している。
図2及び
図3に示すように、高周波基板10には、Z方向に対向する下部の表面10a及び上部の表面10bを含めた複数の導体層Lが形成され、それぞれの導体層Lには多様な導体パターンが形成されている。また、高周波基板10には、それぞれの誘電体層を厚さ方向であるZ方向に貫いて延伸する複数のビア導体Vが形成されている。複数の導体層Lには、前述の多層のグランド導体11(
図1)が形成され、Z方向に対向するグランド導体11同士が複数のビア導体Vを介して電気的に接続されている。
【0023】
また、
図2及び
図3に示すように、高周波基板10の表面10aの側の中央領域には開口部10cが形成され、その開口部10cにICチップ20が載置されている。ICチップ20は複数の端子20aを備えており、それぞれの端子20aが開口部10cに面した所定の導体層Lの複数のパッド(不図示)に接続されている。このICチップ20は、所定の8個の端子20aから、複数の導体層Lに形成された給電経路(不図示)を経由して8個の対数周期アンテナ31~34、41~44のそれぞれに対して給電する役割を有する。また、ICチップ20の近傍のRF領域A1には、ICチップ20の動作に必要なRF回路が構成されている。また、
図3に示すように、アンテナ領域A2におけるICチップ20の上部には、反射板12が配置されている。この反射板12はグランド導体11に接続され、ICチップ20と8個の対数周期アンテナ31~34、41~44との間での干渉を防止するシールド板として機能する。
図1から理解されるように、反射板12は、1対の水平偏波用対数周期アンテナ42、43の直下に配置されている。
【0024】
次に、
図4及び
図5を用いて、水平偏波用対数周期アンテナ41の構造について説明する。なお、他の水平偏波用対数周期アンテナ42~44についても基本的な構造は水平偏波用対数周期アンテナ41と共通である。
図4に示すように、水平偏波用対数周期アンテナ41は、信号側接続導体50a、50b及びグランド側接続導体60a、60bと、信号側及びグランド側のビア導体Va、Vbと、信号側の3個の水平放射素子51、52、53と、グランド側の3個の水平放射素子61、62、63とを備えて構成される。
図4においては境界位置XB(
図1参照)を示し、アンテナ領域A2における水平偏波用対数周期アンテナ41の構造のみを示している。
【0025】
以上の構成において、1対の信号側接続導体50a及びグランド側接続導体60aは同一の導体層La(
図5)に形成され、それぞれの端部Ea、EbからX方向に延伸する。信号側接続導体50bは直下の導体層Lb(
図5)に形成され、ビア導体Vaを介して信号側接続導体50aと接続され、信号側接続導体50aとはX方向を逆向きに延伸する。グランド側接続導体60bは直上の導体層Lc(
図5)に形成され、ビア導体Vbを介してグランド側接続導体60aと接続され、グランド側接続導体60aとはX方向を逆向きに延伸する。従って、
図5に示すように、連続する3層の導体層La、Lb、Lcのうち、中央の導体層Laに配置された1対の信号側接続導体50a及びグランド側接続導体60aを挟んで、下部に信号側接続導体50bが配置され、上部にグランド側接続導体60bが配置される構造となっている。なお、
図4には示されないが、信号側接続導体50aの端部Eaは、ICチップ20の所定の端子20aに至る給電経路13(
図5)に接続され、グランド側接続導体50bの端部Ebは、所定のグランド導体11と連結されている。
【0026】
信号側接続導体50b及びグランド側接続導体60bには、信号側及びグランド側の全部で3対をなす1対の水平放射素子51、61と、1対の水平放射素子52、62と、1対の水平放射素子53、63とが接続され、それぞれの基端から先端までY方向の両側に延伸している。X方向に並んで配置される1対の水平放射素子51、61と、1対の水平放射素子52、62と、1対の水平放射素子53、63は、境界位置XBに近付くにつれてY方向の長さが長くなり、かつ並び方向に沿ってY方向への延伸方向は互い違いとなっている。さらに、信号側とグランド側の各対のY方向の位置は共通であるが、
図5で説明したように、Z方向の位置は信号側とグランド側で異なっている。
【0027】
上記のように長さの異なる3種の水平放射素子を具備する水平偏波用対数周期アンテナ41は、主にX方向に沿って広い周波数帯域の水平偏波の電波を放射することができる。ただし、複数のグランド導体11の存在により、水平偏波用対数周期アンテナ41の放射指向性は、X方向に沿って主に高周波基板10のアンテナ領域A2の側の側面を向く方向で強くなり、RF領域A1の側を向く方向では相対的に弱くなる。また、高周波基板10の全体の水平偏波の放射指向性は、4個の水平偏波用対数周期アンテナ41~44を合成した指向性により定まる。
【0028】
次に、
図6及び
図7を用いて、垂直偏波用対数周期アンテナ31の構造について説明する。なお、他の垂直偏波用対数周期アンテナ32~34についても基本的な構造は垂直偏波用対数周期アンテナ31と共通である。
図6に示すように、垂直偏波用対数周期アンテナ31は、信号側接続導体70a、70b及びグランド側接続導体80a、80bと、信号側の4個の垂直放射素子71、72、73、74と、グランド側の4個の水平放射素子81、82、83、84とを備えて構成される。
図6においても、境界位置XBから一方側のアンテナ領域A2における垂直偏波用対数周期アンテナ31の構造のみを示している。
【0029】
以上の構成において、1対の信号側接続導体70a及びグランド側接続導体80aは、それぞれの端部Ed、EeからX方向に延伸し、逆側の端部で折り返して1対の信号側接続導体70b及びグランド側接続導体80bがX方向を逆向きに延伸する。この場合、信号側接続導体70a、70bは導体層Ld(
図5)に形成され、グランド側接続導体80a、80bは導体層Ldから僅かに直下の導体層Le(
図5)に形成される。なお、1対の信号側接続導体70a及びグランド側接続導体80aはZ方向に対向配置されるが、1対の信号側接続導体70b及びグランド側接続導体80bは互いにY方向にも間隔を置いてZ方向に対向配置される。また、
図6には示されないが、信号側接続導体70aの端部Edは、ICチップ20の所定の端子20aに至る給電経路13(
図7)に接続され、グランド側接続導体80bの端部Eeは、所定のグランド導体11と連結されている。
【0030】
折り返し側の信号側接続導体70b及びグランド側接続導体80bには、信号側及びグランド側の全部で4対をなす1対の垂直放射素子71、81と、1対の垂直放射素子72、82と、1対の垂直放射素子73、83と、1対の垂直放射素子74、84とが接続され、それぞれの基端から先端までZ方向の上下に延伸している。X方向に並んで配置される1対の垂直放射素子71、81と、1対の垂直放射素子72、82と、1対の垂直放射素子73、83と、1対の垂直放射素子74、84とは、境界位置XBに近付くにつれてZ方向の長さが長くなり、かつ並び方向に沿ってZ方向への延伸方向は互い違いとなっている。さらに、信号側とグランド側の各対のX方向の位置は共通であるが、前述したように、Y方向の位置は信号側とグランド側で異なっている。
【0031】
上記のように長さの異なる3種の垂直放射素子を具備する垂直偏波用対数周期アンテナ31は、主にX方向に沿って広い周波数帯域の垂直偏波の電波を放射することができる。ただし、複数のグランド導体11の存在により、垂直偏波用対数周期アンテナ31についても、前述の水平偏波用対数周期アンテナ41と同傾向のX方向に沿った放射指向性を持つ。また、高周波基板10の全体の垂直偏波の放射指向性は、4個の垂直偏波用対数周期アンテナ31~34を合成した指向性により定まる。
【0032】
次に
図1に戻って、8個の対数周期アンテナ31~34、41~44のY方向の並び順は、
図5及び
図7で説明したZ方向の配置が主な理由である。本来は、水平偏波と垂直偏波を共用可能とする場合には、アンテナ特性の観点から水平偏波用対数周期アンテナと個数と垂直偏波用対数周期アンテナの個数を同一とし、かつ交互に並べることが一般的な配置である。しかし、中央位置YCの近傍直下には、開口部10c内のICチップ20やその上部の反射板12(
図1)が存在するので、
図7に示すように、Z方向の両側に延伸する垂直偏波用対数周期アンテナ31~34を配置することは困難である。従って、本実施形態では、
図5に示すようにZ方向の厚さを十分小さくすることが可能な2個の水平偏波用対数周期アンテナ42、43を中央位置の近傍YCに配置することで、ICチップ20及び反射板12の配置の妨げになることを避けることができる。一方、水平偏波用対数周期アンテナ41~44と垂直偏波用対数周期アンテナ31~34は、中央位置YCに対して
図1の左側と右側で対称的な配置とし、両者を同数に保ったので、高周波基板10のサイズを大きくすることなくスペースを有効に活用しつつ、良好なアンテナ性能を保つことが可能となる。
【0033】
以上の第1実施形態では、高周波基板10に8個の対数周期アンテナ31~34、41~44を構成する例を説明したが、これに限られることなく、少なくとも1個の対数周期アンテナを高周波基板10の内部に埋設する構成を採用する場合であっても、本発明の適用が可能である。すなわち、従来の構成では、平面形状の対数周期アンテナの主要部を基板表面に配置することが一般的である(例えば、特許文献1参照)。これに対し、本発明に係る高周波基板は、複数の導体層Lの導体パターンと複数のビア導体Vを組み合わせて対数周期アンテナを構成し、その周囲には比較的誘電率の高い誘電体材料が存在するので、波長短縮効果により対数周期アンテナを小型に構成できるメリットがある。従来の構成では、本発明と同様のアンテナ特性を有する対数周期アンテナを構成すると、基板サイズの大型化は避けられないため、本発明の適用による高周波基板の小型化の効果は明らかである。
【0034】
第1実施形態においては、高周波基板10の開口部10cにICチップ20を載置した構造を示したが、ICチップ20に代えて所定の機能を有する多様な電子部品を開口部10cに載置することができる。また、外部から8個の対数周期アンテナ31~34、41~44に給電する場合には、それぞれの給電端子のみを設け、開口部10cやICチップ20等の電子部品を設けない構造を採用してもよい。このような構造を用いる場合、高周波基板10の露出部分に設けた給電端子から
図4~
図7に示す端部Ea、Eb、Ed、Eeに至る給電経路を含む給電構造を形成する必要がある。
【0035】
[第2実施形態]
次に
図8~
図10を用いて、本発明の高周波基板の例である第2実施形態について説明する。第2実施形態において、基本的な構成及び効果についての多くは第1実施形態と共通であるため、以下では主に第1実施形態との相違点について説明する。
図8は、第2実施形態の高周波基板10の全体をZ方向の上方から見た平面図であり、第1実施形態の
図1に対応する図である。なお、
図8の高周波基板10の各断面図については、
図2及び
図3と同様である。
【0036】
第2実施形態の高周波基板10において第1実施形態と異なるのは、
図8に示すように、
図1の2個の垂直偏波用対数周期アンテナ32、33及び2個の水平偏波用対数周期アンテナ42、43を、それぞれZ方向から見た平面形状が異なる2個の垂直偏波用対数周期アンテナ32a、33a及び2個の水平偏波用対数周期アンテナ42a、43aで置き換えた点である。ここで、
図9及び
図10は、
図8の水平偏波用対数周期アンテナ42a及び垂直偏波用対数周期アンテナ32aのそれぞれの平面形状を拡大して示す図である。なお、他の水平偏波用対数周期アンテナ42b及び垂直偏波用対数周期アンテナ32bについては、
図9及び
図10をY方向に対して対称的な配置で考えればよい。
【0037】
図9に示す水平偏波用対数周期アンテナ42aにおいて、
図4及び
図5を用いて説明した水平偏波用対数周期アンテナ42の構成部材と立体的構造は概ね共通しているが、水平放射素子の個数と延伸方向が異なっている。すなわち、水平偏波用対数周期アンテナ42aにおいては、全部で8個の水平放射素子51~54、61~64が信号側及びグランド側で4対をなし、それぞれの基端から先端に至る延伸方向がY方向から傾斜した方向になっている。具体的には、信号側接続導体50a及びグランド側接続導体60aの位置を基準に、両側の8個の水平放射素子51~54、61~64の各先端が境界位置XBと離れる方向(グランド導体11と離れる方向)に向かって傾斜し、それが両側で対称的な配置となっている。なお、8個の水平放射素子51~54、61~64のそれぞれの長さの変化や互い違いの配置については、第1実施形態の場合と共通である。
【0038】
また、
図10に示す垂直偏波用対数周期アンテナ32aにおいて、
図6及び
図7を用いて説明した垂直偏波用対数周期アンテナ32の構成部材と立体的構造は概ね共通しているが、垂直放射素子の並び方向が異なっている。すなわち、垂直偏波用対数周期アンテナ32aにおいては、信号側接続導体70bの延伸方向とそれに接続される4個の垂直放射素子71~74の並び方向がいずれも境界位置XBに近付くほど(グランド導体11に近付くほど)、中央の信号側接続導体70aから離れる方向に傾斜している。同様に、グランド側接続導体80bの延伸方向とそれに接続される4個の垂直放射素子81~84の並び方向がいずれも境界位置XBに近付くほど(グランド導体11に近付くほど)、中央のグランド側接続導体80aから離れる方向に傾斜している。そして、中央の信号側接続導体70a及びグランド側接続導体80aを基準に、両側で対称的な配置となっている。なお、8個の垂直放射素子71~74、81~84のそれぞれのZ方向の長さの変化や互い違いの配置については、第1実施形態の場合と共通である。
【0039】
図8に示すように、
図9及び
図10に示す平面形状は、Y方向の中央位置を挟んだ2個の水平偏波用対数周期アンテナ42a、43aと、その両側の2個の垂直偏波用対数周期アンテナ32a、33aのみに対して適用され、それ以外の2個の水平偏波用対数周期アンテナ41、44及び2個の垂直偏波用対数周期アンテナ31、34については第1実施形態と同一の平面形状となっている。複数の対数周期アンテナを並べて配置する場合、並び方向の外縁部に近い対数周期アンテナに比べて、並び方向の中央に近い対数周期アンテナは周囲の対数周期アンテナやグランドとの干渉の影響が増え、その結果としてアンテナ利得が低下しやすくなる傾向にある。発明者らの検証の結果、この点を改善するために、第2実施形態の
図8~
図10の構成を採用することが有効であることが判明した。シミュレーションの結果、第2実施形態の構成の採用により、
図9及び
図10の平面形状を有する水平偏波用対数周期アンテナ42a、43a及び垂直偏波用対数周期アンテナ32a、33aに関し、X方向に沿ったアンテナ利得の2~3dB程度の改善効果を確認することができた。
【0040】
なお、
図8~
図10において、水平偏波用対数周期アンテナ42a、43aは、各水平放射素子51~64、61~64の延伸方向が第1実施形態と比べて30°程度傾斜し、かつ垂直偏波用対数周期アンテナ32a、33aは、各垂直放射素子71~74、81~84の並び方向が第1実施形態と比べて5°程度傾斜している例を示したが、それぞれの傾斜角度は、所望のアンテナ性能に応じて適宜に変更することができる。
【0041】
第1及び第2実施形態の高周波基板10は作製するに際しては、例えば、ドクターブレード法により形成した低温焼成用の複数のセラミックグリーンシートを用意し、それぞれのセラミックグリーンシートに対して打ち抜き加工により複数のビアホールをする。そして、それぞれのビアホールに対してスクリーン印刷により導電性ペーストを充填することで、複数のビア導体を形成するとともに、それぞれのセラミックグリーンシートの表面に対してスクリーン印刷により導電性ペーストを塗布し、複数の導体パターンを形成する。このようにして形成される複数の導体パターンと複数のビア導体とにより、複数の対数周期アンテナやグランド導体等の基本構造を形成することができる。次いで、複数のセラミックグリーンシートを順に積層して加熱加圧し、得られた積層体を脱脂、焼成することにより高周波基板10を得ることができる。
【0042】
以上、第1及び第2実施形態に基づき本発明の内容を具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で変更を施すことができる。すなわち、
図1~
図10を用いて説明した配線基板10の構造は、本発明の作用効果を得られる限り、他の構造や材料を用いた多様な配線基板に対して広く本発明を適用することができる。特に、水平偏波用対数周期アンテナ41~44と垂直偏波用対数周期アンテナ31~34の個数、形状、放射素子の個数や長さ、その他の設計事項、あるいはグランド導体11の配置や形状などについては、本発明の作用効果を得られる限り、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0043】
10…高周波基板
10a、10b…表面
10c…開口部
11…グランド導体
12…反射板
13…給電経路
20…ICチップ
31、32、33、34…垂直偏波用対数周期アンテナ
41、42、43、44…水平偏波用対数周期アンテナ
51、52、53、61、62、63…水平放射素子
71、72、73、74、81、82、83、84…垂直放射素子
50a、50b、70a、70b…信号側接続導体
60a、60b、80a、80b…グランド側接続導体
L…導体層
V…ビア導体
A1…RF領域
A2…アンテナ領域