(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】眼内レンズ用流体充填支持部
(51)【国際特許分類】
A61F 2/16 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
A61F2/16
(21)【出願番号】P 2020533055
(86)(22)【出願日】2018-12-20
(86)【国際出願番号】 IB2018060468
(87)【国際公開番号】W WO2019123391
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-12-06
(32)【優先日】2017-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】319008904
【氏名又は名称】アルコン インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】クレイグ アラン ケーブル,ザ セカンド
【審査官】胡谷 佳津志
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-090772(JP,A)
【文献】特表平03-505687(JP,A)
【文献】特表2010-502358(JP,A)
【文献】国際公開第2017/096087(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/185017(WO,A1)
【文献】特開2007-089810(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0204787(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第1485015(CN,A)
【文献】特開昭63-267351(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外径と内径と内部容積とを有するトロイド部分であって、前記トロイド部分の前記内部容積は、少なくとも部分的に固化するように構成された流体が充填されるように構成されるトロイド部分と、
前記トロイド部分の前記内径上の、眼内レンズ光学部を受けるための受容機能部と、
を含み、
前記トロイド部分の前記受容機能部との隣接部分、及び、前記受容機能部の前記トロイド部分との隣接部分は、針によって穿刺可能な材料で形成されて
おり、
前記受容機能部は、前記眼内レンズ光学部が前記トロイド部分内の所定の位置にセットされたときに前記眼内レンズ光学部に対して力を加えて前記眼内レンズ光学部を所定の位置に保持するばね機構を含み、前記トロイド部分の内面が板ばね又はリーフクリップを含んでおり、前記板ばね又は前記リーフクリップは一方の端で固定され、反対の端で前記眼内レンズ光学部を半径方向に圧縮する、眼内レンズ支持部。
【請求項2】
前記受容機能部は、内部半径の少なくとも一部の溝として形成され、前記溝は、大きさにおいて前記眼内レンズ光学部の円周径に対応する、請求項1に記載の眼内レンズ支持部。
【請求項3】
前記溝は前記内径の周囲に円周方向に延びる、請求項2に記載の眼内レンズ支持部。
【請求項4】
前記受容機能部は、前記針によって穿刺されて、前記針を使って前記内部容積に前記流体を充填できるように構成される、請求項1に記載の眼内レンズ支持部。
【請求項5】
前記受容機能部は、前記針が抜去されたときに前記流体に対して自己シーリング性を有する、請求項4に記載の眼内レンズ支持部。
【請求項6】
前記トロイド部分の前記外径は、前記内部容積に前記流体が充填されたときに、水晶体嚢の赤道に円周方向にフィットするように構成される、請求項1に記載の眼内レンズ支持部。
【請求項7】
支持部であって、
外径と内径と内部容積とを有するトロイド部分であって、前記トロイド部分の前記内部容積は、少なくとも部分的に固化するように構成された流体が充填されるように構成されるトロイド部分と、
前記トロイド部分の前記内径上の受容機能部と、
を含む支持部と、
眼内レンズが患者の眼内に移植されたときに、前記受容機能部内にフィットするように構成された眼内レンズ光学部と、
を含み、
前記トロイド部分の前記受容機能部との隣接部分、及び、前記受容機能部の前記トロイド部分との隣接部分は、針によって穿刺可能な材料で形成されて
おり、
前記受容機能部は、前記眼内レンズ光学部が前記トロイド部分内の所定の位置にセットされたときに前記眼内レンズ光学部に対して力を加えて前記眼内レンズ光学部を所定の位置に保持するばね機構を含み、前記トロイド部分の内面が板ばね又はリーフクリップを含んでおり、前記板ばね又は前記リーフクリップは一方の端で固定され、反対の端で前記眼内レンズ光学部を半径方向に圧縮する、眼内レンズ。
【請求項8】
前記受容機能部は、内部半径の少なくとも一部の溝として形成され、前記溝は、大きさにおいて前記眼内レンズ光学部の円周径に対応し、前記内径の少なくとも一部にわたって円周方向に延びる、請求項7に記載の眼内レンズ。
【請求項9】
前記受容機能部は、前記針によって穿刺されて、前記針を使って前記内部容積に前記流体を充填できるように構成される、請求項7に記載の眼内レンズ。
【請求項10】
前記受容機能部は、前記針が抜去されたときに前記流体に対して自己シーリング性を有する、請求項9に記載の眼内レンズ。
【請求項11】
前記トロイド部分の前記外径は、前記内部容積に前記流体が充填されたときに、水晶体嚢の赤道に円周方向にフィットするように構成される、請求項7に記載の眼内レンズ。
【請求項12】
前記眼内レンズ光学部は前記受容機能部に取り付けられる、請求項7に記載の眼内レンズ。
【請求項13】
前記流体は、基本の成分と、前記トロイド部分への前記基本の成分の送達に続いて前記トロイド部分の内部容積に送達されるように適合された硬化剤とを含み、前記硬化剤は、前記基本の成分を少なくとも部分的に固化するように構成されている、請求項1に記載の眼内レンズ支持部。
【請求項14】
前記受容機能部は、前記トロイド部分の内周の少なくとも半分の周りに延在している、請求項1に記載の眼内レンズ支持部。
【請求項15】
前記流体は、基本の成分と、前記トロイド部分への前記基本の成分の送達に続いて前記トロイド部分の内部容積に送達されるように適合された硬化剤とを含み、前記硬化剤は、前記基本の成分を少なくとも部分的に固化するように構成されている、請求項7に記載の眼内レンズ。
【請求項16】
前記受容機能部は、前記トロイド部分の内周の少なくとも半分の周りに延在している、請求項7に記載の眼内レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は一般に、眼内レンズ(IOL:intraocular lens)に関し、より詳しくは、IOL用の流体充填支持部に関する。
【背景技術】
【0002】
人間の眼は、角膜と、眼の瞳孔に入射した光を網膜に合焦させるための水晶体を含む。しかしながら、眼は、様々な屈折異常を示し得、その結果、光は網膜上に適正に集光されず、それによって視力が低下し得る。様々な眼球収差を矯正するために、長年にわたり多くの介入が開発されてきた。これらには眼鏡、コンタクトレンズ、レーシック(LASIK:laser-assisted in situ keratomileusis)又は角膜移植等の角膜屈折矯正手術、及び眼内レンズ(IOL)が含まれる。特に、IOLは、患者の眼球の天然の病変水晶体と置換することによって白内障を治療するためにも使用される。典型的な白内障手術では、従来のワンピース型IOLが患者の水晶体嚢に挿入されて、天然の水晶体と置換される。
【0003】
移植が屈折異常のためにしろ、白内障治療のためにしろ、典型的なIOLは、水晶体嚢の中で時間が経つと旋回式若しくは軸方向に、又はその組合せで変位し得、これは患者の見え方の質にマイナスの影響を与え得る。具体的には、眼内におけるレンズの正確な位置付けは、実現される屈折力の種類と程度を決定し得る。したがって、眼内のIOLの正確な位置は、患者のための手術計画を計算する際に仮定される。IOLの正確な位置が手術計画の仮定からずれると、屈折異常がもたらされ得、これは好ましくない。
【0004】
また、従来のIOLには水晶体混濁の問題が伴い得、これは透明性の喪失と見え方の質の低下につながる可能性がある。従来のIOLの設計により影響を受けるその他の問題には、水晶体嚢内のしわ(ストリエ)及びIOLの支持部及びIOL自体の周囲の線維性化生が含まれ得るが、これらに限定されない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
特定の実施形態において、IOL支持部は、外径、内径、及び内部容積を有するトロイド部分を含む。トロイド部分の内部容積は、流体が充填されるように構成されてよい。IOL支持部は、トロイド部分の内径上にIOL光学部を受けるための受容機能部をさらに含む。
【0006】
特定の実施形態において、IOLは支持部と光学部を含む。支持部は、外径と内径と、流体が充填されるように構成された内部容積を有するトロイド部分を含んでいてよい。支持部は、トロイド部分の内径上に光学部を受けるための受容機能部をさらに含んでいてよく、光学部は、IOLが患者の眼内に移植される際に、受容機能部の中にフィットするように構成される。
【0007】
特定の実施形態において、IOLを移植する方法は、IOLの支持部を患者の無水晶体眼に挿入するステップを含み、支持部は、外径と内径と、流体が充填されるように構成される内部容積を有するトロイド部分を含む。支持部は、トロイド部分の内径上にIOL光学部を受けるための受容機能部をさらに含む。方法は、内部容積の少なくとも一部に流体を充填するステップと、IOL光学部を受容機能部内にセットするステップと、をさらに含む。
【0008】
本発明とその機能及び利点をより完全に理解するために、ここで、下記のような添付の図面と併せて以下の説明を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A-B】IOLのための流体充填支持部の図である。
【
図2A-C】IOLのための流体充填支持部の図である。
【
図3A-B】流体充填支持部を有するIOLの眼内への移植の図である。
【
図4】IOLのための流体充填支持部の断面図である。
【
図5】流体充填支持部を有するIOLの移植方法のうちの選択された要素のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
当業者であれば、以下に説明する図面は例示を目的としているにすぎないことがわかるであろう。図面は、出願人の開示の範囲を如何様にも限定しようとしていない。
【0011】
本開示は概して、IOLのための流体充填支持部に関する。本願で開示するIOLのための流体充填支持部は、水晶体嚢内に移植され、充填されると水晶体嚢の赤道へと圧力を半径方向に加える流体充填トロイドとして形成されてよい。本願で開示するIOLのための流体充填支持部はさらに、充填されると水晶体嚢の前部及び後部に圧力を加え得、それによって流体充填支持部を水晶体嚢の赤道に固定するのを助け、軸方向及び旋回安定性を向上させる。本願で開示するIOLのための流体充填支持部はさらに、前部嚢切開等による前部水晶体切除術後に、安定な、開放状態の水晶体嚢を保持してよい。本願で開示するIOLのための流体充填支持部はまた、水晶体嚢混濁又はその他の不利な効果を、赤道と後嚢の周囲に均等な力をかけて水晶体嚢を開放状態に保持することによって防止し得る。本願で開示するIOLのための流体充填支持部は、IOL光学部を受けるトロイド形の流体充填支持部を含む2ピース型機器として実装されてよい。したがって、本願で開示するIOLのための流体充填支持部により、流体充填支持部の移植に影響を与えることなく術後にIOL光学部を交換することが容易となり得る。
【0012】
ここで、図面を参照すると、
図1A及び1Bは、IOLのための流体充填支持部100の例示的な図を示している。
図1A及び1Bは、説明を目的とした概略図であり、正確な縮尺又は遠近法では描かれていない。
図1Aにおいて、流体充填支持部100は、トロイド部分102と、IOLの光学部(
図1Aでは図示せず)をトロイド部分102の中に同心円状に保持するための受容機能部104を含むように示されている。
図1Aにおいて、流体充填支持部100は充填(すなわち、膨張)状態で示され、これは患者の水晶体嚢内の術後形状に対応する。
【0013】
受容機能部104は、流体充填支持部100によるIOL光学部の保持を可能にするように形成される。
図1Bの流体充填支持部100-1の断面図で見えるように、受容機能部104は、トロイド部分102の中央内面から延びる円形のV字形溝として示されている。受容機能部104は、
図1Aでは説明のためにトロイド部分102の内周全体にわたって延びているV字形溝として示されているが、当然のことながら、受容機能部104は、IOL光学部を保持するための様々な形状の構造及び要素を使って形成されてよく、内周上の一部に形成されて、トロイド部分102の内周上の特定の角度位置には受容機能部104がなくてもよい。例えば、各種の実施例において、受容機能部104は、V溝、C溝、Cチャネル、磁気アンカ及びその他のうちの何れの1つであってもよい。特定の実施例において、受容機能部104は、IOL光学部を受容機能部104の中に固定するばね式要素(図示せず)を用いて形成されてもよい。例えば、ばね式機能部により、トロイド部分102の内径がIOL光学部の外径より小さくなる。
【0014】
特定の実施形態において、流体充填支持部100は、外科医により水晶体嚢の中に収縮した、すなわち空の状態で挿入されてよく、これは例えば、比較的小さい角膜切開創の中にフィットさせることができる小径ノズルを有するインジェクタを使用する挿入に適し得る。収縮した流体充填支持部100が水晶体嚢の中に挿入された後、流体充填支持部100に流体を充填して、
図1Aに示される形状を形成してよい。流体は気体、液体、ゲル、又はそれらの様々な組合せ等であってよい。術中の流体充填支持部100への充填中、外科医は流体充填支持部100を操作して、流体充填支持部100を水晶体嚢内に所望の向きでセットし、位置付けてよく、これは、流体充填支持部100の体積が充填前には小さいため、よりコントロール及び操作しやすくなり得る。特定の例では、外科医は術中の流体充填支持部100の充填を停止及び再開してよく、それによって、外科医は流体充填支持部100を水晶体内に正確に留置するための手順の最中によりコントロールしやすくなる。
【0015】
幾つかの実施例において、流体充填支持部100は充填ポート又はバルブを有していてよく、これは術中に流体又はその成分の充填と排出を可能にする。例えば、受容機能部104は、本明細書ではまとめて「針」と呼ぶシリンジ針若しくはブラントニードル又はカニューレ等の細いインジェクタ針により穿刺された際に自己シール性を有する材料で形成されてよい。したがって、受容機能部140は、自己シーリングが可能となるように内周において十分な材料で形成されてよい。他の実施例において、針により穿刺可能なスリットが受容機能部104に形成されて、流体の充填と排出を容易にしてもよい。このようにして、受容機能部104は、外科医がアクセスし直して、例えば流体充填支持部100の中への、又はそこから出る流体を滴定するために、流体を自在に追加したり減らしたりしてよい。滴定は、流体の交換を含むか、又は他の流体若しくはマイクロ粒子を流体充填支持部100のトロイド部分102の中に導入してよい。
【0016】
前述のように、流体充填支持部100のトロイド部分102を充填するために使用される流体は、ある液体、あるゲル、又は相互作用により所望の特性を有することになるような複数の流体であってよい。例えば、流体のハードニング又は硬化が望ましい特定の実施例では、硬化剤又は紫外線(UV)感受性材料が使用されてよい。特定のマイクロ粒子が特定の目的のために流体中に導入されてよく、これらはUV遮光物質、屈折率変更マイクロ粒子等であるが、これらに限定されない。幾つかの実施例において、流体充填支持部100への充填に使用される流体は、所望の効果を得るために混合される別々の成分を使って提供されてよい。例えば、流体充填支持部100への充填に使用される流体は2部式で提供されてもよく、これは例えば基本の成分と、エポキシの硬化と同様に、2つの部分を混合すると硬さ又は固化をより強力にするハードニング又は硬化作用剤である。このような混合物が流体に使用される場合でも、流体充填支持部100は特定の程度の柔軟性を保持してよく、移植中により柔軟なままであってよいが、特定の時間が経過した後、流体は硬化して、よりゲル状になるか、又は所望の程度まで硬化し、若しくは固化してよく、これは流体の構成成分の選択及び混合配分により制御可能であり得る。流体充填支持部100内の流体のハードニングが使用される場合、ハードニングは、硬化/ハードニング時間、温度、水分、UV光へのばく露、レーザ光へのばく露、触媒の使用等のうちの1つ又は複数の結果として生じてよい。
【0017】
他の実施例において、例えばトロイド部分102が自己シール材料を使って形成され、それによって外科医が自己シール材料を貫通して流体を充填又は排出するか、前述のような滴定法を実行することができる場合等、流体充填支持部100のトロイド部分102には、受容部分104をポートとして使用するのではなく、直接アクセスしてよい。
【0018】
各種の実施例において、流体充填支持部100のトロイド部分102を形成するために使用される材料は、流体の内圧に応じて膨張と収縮が可能となるようにある程度まで柔軟であってよい。このような柔軟性により、トロイド部分102の外周径が流体の内圧の上昇と共に増大することにもなり得る。トロイド部分102と受容機能部104の設計と構成に応じて、柔軟性により、トロイド部分102の内周径が流体の内圧の上昇と共に増減することになり得る。タイヤチューブと同様に内周径が内圧の上昇と共に減少する場合、IOL光学部に対する円周方向の圧力は低下し得、これがIOL光学部を受容機能部104の中で安定化させ得る。
【0019】
それに加えて、トロイド部分102の外周径が増大すると、流体充填支持部100は水晶体嚢を水晶体嚢の赤道に向かって充満させ、これが、流体充填支持部100とIOL光学部を、水晶体嚢内にきつく嵌ることにより安定化させ得、これは望ましい。さらに、流体充填支持部100には各患者のためにカスタマイズされた方法で充填できるため、トロイド部分102を水晶体嚢の赤道に合わせて調整することにより、流体充填支持部100をあらゆる人々に見られる、大きさの異なる水晶体に正確にぴったりとフィットさせることが可能となり、それによって流体充填支持部100の臨床応用が改善される。流体充填支持部100が示す柔軟性と膨張により、流体充填支持部100が移植される際に水晶体嚢の赤道全体に対して力を均等に分散させることができ、これは、流体充填支持部100とIOL光学部のための安定化効果から、望ましい。均等な力の分散はまた、水晶体嚢内のしわ(ストリエ)の防止にも役立ち得、それは、結果として水晶体嚢内に張力が生じ、これがしわを一様に防止し得るからである。流体充填支持部100の外周全体にわたって水晶体嚢と係合することによって水晶体嚢を開放状態に保つ流体充填支持部100の動作は、「後発白内障」とも呼ばれる後嚢水晶体混濁(PCO:posterior capsular opacification)の予防にも役立ち得る。幾つかの実施例において、流体充填支持部100は、PCO予防を改善するために、水晶体嚢と係合する尖った、又は角ばった縁を持つ後方縁(図示せず)を有していてよい。
【0020】
その結果、
図1Aに示される流体充填支持部100の設計は、水晶体嚢内の安定性の向上を示し得、これは、流体充填支持部100が水晶体嚢の赤道に固定され、術後は後嚢により前方に押されることに抵抗し得、それによって流体充填支持部100とIOL光学部の軸方向の高い安定性が提供され得るからである。流体充填支持部100を持たない従来のIOLの場合、後嚢は術後、従来のIOLの方に倒れ掛かる傾向があり得る。
図1Aに示される流体充填支持部100の設計はまた、旋回安定であり得、これは、流体充填支持部100が流体充填支持部100の外周全体にわたって水晶体嚢の赤道と接触し、それが望ましくない術後の旋回に対抗するからである。
【0021】
流体充填支持部100はまた、均等な力の分散が水晶体嚢を所定の位置に保持することによる安定性から、前嚢と後嚢を分離させ得る。前嚢と後嚢との分離は、流体充填支持部100と水晶体嚢の様々な部分との機械的接触と共に、水晶体嚢を開放状態に保つのに役立ち得、また、水晶体嚢のPCOの防止に役立ち得、これらは例えば、水晶体嚢への眼房水の水晶体嚢内循環の亢進、水晶体内への、又はそこからの細胞遊走を防止するための機械的バリアの保持、水晶体嚢の機械的圧縮(水晶体嚢を押し開いた状態に保つ)、及び水晶体嚢の術後の輪郭の保持等の結果であるが、これらに限定されない。
【0022】
図1Aに示されるように、流体充填支持部100は、いわゆる「2ピース型」で実装されてよく、そのうちの1部分は流体充填支持部100であり、2つ目の部分はIOL光学部(
図1Aでは図示せず)である。2ピース型は、例えばIOL光学部の周囲の線維性化生による水晶体嚢の混濁を防止することにより、及び移植されたIOL光学部の安定な設置を提供することにより、術後のIOL光学部の交換を容易にし得る。トロイド部分102はIOL光学部の混濁(又は、少なくとも線維性化生)を防止するのに役立ち得るため、IOL光学部は受容機能部104を使用するだけで固定され得、それ以外には眼内に自由にアクセス可能であり得る。流体充填支持部100を使ってIOLに容易にアクセスできることにより、外科医は最初の移植時にも、その後のIOL光学系の交換中にも、IOL光学部を容易に把持し、操作でき得る。また、水晶体嚢の直径と比較して、トロイド部分102の内周径が小さいことから、受容機能部104は、水晶体嚢の赤道における天然の水晶体より小さい直径を有するIOL光学部を受ける。流体充填支持部100と共に使用されるIOL光学部の直径が小さいため、IOL光学部は術中により簡単に操作でき、また、例えばIOL光学部のその後の交換のため等に、眼内への挿入とそこからの取出しがより簡単になり得る。
【0023】
上述の各種の実施形態には、流体充填支持部100に液体若しくはゲル又は術中に硬くなる流体を充填することが含まれるが、流体充填支持部100の基本構造は、流体の充填を行わずに実装されてもよいことがわかるであろう。例えば、トロイド部分102は中空(すなわち、充填されていない)のままでもよく、水晶体嚢に移植したときに所望の形状を保持する柔軟材料を使って形成されてよい。外側の支持部を中空にして、液体以外の何かを充填することが可能である。例えば、トロイド部分102は、所望の柔軟性と機械的特性を有する所望の作用剤で術前に形成され、又はそれが充填されてもよい。各種の実施例において、トロイド部分102はゲル、非晶体、エポキシ、熱可塑性材料、複合材料等、及びこれらの各種の組合せから構成されてよい。
【0024】
同じく
図1Aにおいて、受容機能部104は眼科で使用される様々なIOL光学部を受けてよい。例えば、流体充填支持部100は、例えばポリメチルメタクリレート(PMMA)レンズを含むもの等、非折り畳み式の硬質IOL光学部と共に使用されてもよい。幾つかの実施例において、流体充填支持部100と共に使用されるIOL光学部は柔軟IOL光学部であってよく、その場合、光学部領域はシリコーン、疎水性アクリル、親水性アクリル、ヒドロゲル、コラマ、又はそれらの組合せ等の各種の材料から構成されていてもよい。図のように、流体充填支持部100もまた、ポリプロピレン、PMMA、疎水性アクリル、親水性アクリル、シリコーン、又はそれらの組合せ等の各種の材料から構成されてもよい。
【0025】
流体充填支持部100をIOL光学部と共に無水晶体眼の中に移植している間に、様々な手順が行われてよい。第一に、天然の水晶体又は以前移植されたIOLが取り除かれて、無水晶体眼が準備されてもよい。2ピース型であると仮定すると、前述のように、流体充填支持部100が眼内に挿入されて水晶体内で位置決めされながら、流体が充填されてもよい。例えば、22~30ゲージのサイズの細針が、流体充填後の抜去時に自己シール状態となるように、受容機能部104を穿刺するために使用されてよい。幾つかの実施例において、針はブラントチップを有していてよい。流体は、特定の実施例では少なくとも100センチストークの粘度を有するように選択されてよい。次に、IOL光学部は、眼内に挿入された後、受容機能部104の中にセットされてよい。流体充填支持部100とIOL光学部が移植されると、測定システムを使って、流体充填支持部100とIOL光学部が案内され、それらの位置が検証されてよい。例えば、球面、円柱、及びその他の屈折度数アラインメントのためにORA(商標)システム(Alcon Laboratories Inc. Ft.Worth,Texas)が使用されてよい。他のケースでは、流体充填支持部100とIOL光学部の術中位置決めを支援するために、測定システム又は光干渉断層撮影法(OCT)若しくは超音波生体顕微鏡検査法(UBM)が使用されてもよい。流体充填支持部100とIOL光学部をぴったりとフィットさせ、留置するために、術中に流体を希望に応じて抜き取ったり、再充填したりしてよいことに留意されたい。
【0026】
図1Aに示され、上述した2ピース型に加えて、流体充填支持部100を有し、固定されたIOL光学部が組み込まれたIOLの、いわゆる「ワンピース型」での実装も想定される。ワンピース型は、IOLを1回挿入すればよい(2ピースの場合の、流体充填支持部100を最初に挿入し、その後IOL光学系を挿入する代わりに)ため、移植作業がより短時間かつより容易であるという利点を提供し得る。それゆえ、ワンピース型は、手術の時間を短縮し、コストを削減し得る。ワンピース型では、柔軟IOL光学部であろうIOL光学部は、ある数の取付け点を使って(車輪のスポークのように)トロイド部分102の内周に取り付けられてよい。それゆえ、トロイド部分102と取り付けられた柔軟IOL光学部の両方が一緒に折り曲げられて1回で挿入されてよい。取付け点は、幾つかの実施例において、例えば取付け点で切断することにより、後でIOL光学部を取り外すように構成されてよい。ワンピース型ではIOL光学部がトロイド部分102にすでに固定されているため、IOL光学部を受容機能部104の中にセットする手術のステップが省かれてよい。ワンピース型でも、受容機能部104を備えて、その後のIOL光学系の移植を可能にしてもよい。他の実施例では、トロイド部分102とIOL光学部は、一体につながれて、同じインジェクタを使って挿入され、術中に組み立てられてもよい。
【0027】
次に、
図2Aを参照すると、トロイド部分102と、トロイド部分102の中にIOL光学部(
図1Aでは図示せず)を同心円状に保持するための受容機能部204を含む流体充填支持部200が上に示されている。
図2Aは、説明のための概略図であり、正確な縮尺又は遠近法によって描かれてはいない。
図2Aは、受容機能部204が、針206が受容機能部204を穿刺したときに自己シール状態となるC溝として実装されている断面図である。具体的には、ニードルチップ208が受容機能部204を穿刺して、前述のようにトロイド部分102に所望の流体を充填できる状態であるように示されている。流体充填支持部200と共に示されているトロイド部分102の充填は、トロイド部分102を所望の充填レベル又は内圧まで充填又は膨張させるために、術中に希望に応じて実行されてよい。
【0028】
図2Bにおいて、流体充填支持部201が示され、トロイド部分102を収縮させ、又はその中身を排出する際にニードルチップ208がどのように使用されてよいかを示している。
図2Bは断面図であり、受容機能部204が、針206が受容機能部204を穿刺したときに自己シール状態となるC溝として実装されている断面図である。例えば、
図2Bに示されているように、流体充填支持部201はインジェクタの中にセットされて眼内に挿入されてよい。幾つかの実施例では、流体充填支持部201は、術中に、針206を使ってすでにトロイド部分102に充填されていた流体を抜き取ることによって、収縮させられ、又はその中身が排出されてよい。
【0029】
受容機能部104/204は、
図1A、1B、2A、及び2Cに示されているように、IOL光学部を受け、保持するための凹部を含むように描かれ、説明されているが、本開示は、IOL光学部をトロイド部分102の中に特定の位置に物理的に係合させ、保持し得る他の何れの適当な受容又は保持機能部を使ってIOL光学部が受容又は保持されてもよいことを想定している。例えば、他の実施例では、トロイド部分102の受容又は保持機能部は、IOL光学部に形成された、それに対応する凹部と嵌合してIOL光学部を所定の位置に保持する突起(図示せず)を含んでいてもよい。他の例示的な実装では、受容又は保持機能部は、IOL光学部がトロイド部分102内の所定の位置にセットされたときにIOL光学部に対して力を加えてIOL光学部を所定の位置に保持するばね機構を含んでいてもよい。例えば、トロイド部分102の内面は板ばね又はリーフクリップを含んでいてよく、これは一方の端で固定され、反対の端でIOL光学部を半径方向に圧縮し、IOL光学部が据え付けられたときにIOL光学部とトロイド部分102の内面との間に挟まれたまま残り、IOL光学部を所定の位置に保持する。当然のことながら、特定の実施例における希望に合わせて、IOL光学部のための様々な機能部及び保持機構が組み合わされ、又は選択されてよい。
【0030】
図2Cにおいて、インジェクタケーシング310の中にセットされた流体充填支持部100の例が、流体充填支持部を有するIOL 306がインジェクタの中にどのように予め装填されてよいかを示している。図のように、IOL 306は流体ライン308が取り付けられたインジェクタケーシング310の中に装填され、これは
図2A及び2Bに示される流体充填の代替的実施例を示す。充填後、流体ライン308は術中に取り外されてよい。
【0031】
次に、
図3Aを参照すると、流体充填支持部を有するIOL 306の挿入300が示されている。
図3Aにおいて、IOL 306は、インジェクタ302を使って患者の眼の水晶体嚢304の中に挿入されているように示されている。インジェクタは、外科的処置のために作られた、長さ2mmと小さくてよい切開創において角膜を穿刺する。挿入300の中に示されているように、IOL 306は挿入のために折り畳まれ、図の流体充填支持部100が最初に挿入され、その後、IOL光学部(図示せず)が挿入される2ピース型実施形態を表していてよい。
【0032】
次に、
図3Bを参照すると、流体充填支持部を有するIOL 306の移植301が、術後の患者の眼の水晶体嚢304の中で示されている。
図3Bにおいて、IOL光学部312は、IOL 306の受容機能部314内にセットされた状態で示され、IOL 306が術後、どのように水晶体嚢304内で動かないようにされるかを示している。
【0033】
次に、
図4を参照すると、IOLのための流体充填支持部400が断面で示され、これはV溝である受容機能部104を有する。
図4において、第一のトロイド部分102-1は、流体がほとんど、又は全く充填されていない状態の断面を示し、第二のトロイド部分102-2は、より多くの、又は増やした流体充填によって断面形状がどのように変化するかを示す。
図4のトロイド部分102の断面形状の変化は、どのように流体充填を利用して各患者に個別に流体充填支持部400を水晶体嚢304の中にフィットさせることができるかを示す。
【0034】
次に、
図5を参照すると、本願で開示するように、流体充填支持部を有するIOLを移植する方法500の実施形態のうちの選択された要素のフローチャート。方法500の中に記載されている特定の動作は、任意選択であってよく、又は別の実施形態では配置を変更してよいことに留意されたい。
【0035】
方法500は、ステップ502で、IOLの支持部を患者の無水晶体眼の中に挿入することから始まってよく、支持部は、外径、内径、及び流体が充填されるように構成された内部容積を有するトロイド部分と、トロイド部分の内径上の、IOL光学部を受けるための受容機能部をさらに含む。ステップ504で、内部容積の少なくとも一部に流体が充填される。ステップ506で、IOL光学部が受容機能部内にセットされる。方法の中で、受容機能部は、内側半径の少なくとも一部の溝として形成されてよく、溝は大きさにおいてIOL光学部の円周径に対応し、内径の少なくとも一部にわたって円周方向に延び、IOL光学部を受容機能部内にセットすることは、IOL光学部を溝の中にセットすることをさらに含んでいてよい。方法500の中で、内部容積の少なくとも一部に流体を充填することは、針を使って受容機能部を穿刺し、針を使って内部容積に流体を充填できるようにすることをさらに含んでいてよく、受容機能部は、針が抜去されたときに流体に対して自己シール状態となる。方法500の中で、IOLの支持部を患者の無水晶体眼の中に挿入することは、トロイド部分と受容機能部をインジェクタの中で折り畳むことと、インジェクタを使って支持部を無水晶体眼の中に挿入することをさらに含んでいてよい。方法500の中で、内部容積の少なくとも一部に流体を充填することは、トロイド部分の外径が無水晶体眼の水晶体嚢の赤道に円周方向にフィットするまで内部容積に流体を充填することをさらに含んでいてよい。方法500の中で、IOL光学部を受容機能部内にセットすることは、測定機器を使って眼内のトロイド部分の位置を特定することと、トロイド部分の位置に基づいてIOL光学部を選択することをさらに含んでいてよい。具体的には、測定機器は、受容機能部の正確な位置を特定又は測定するために使用されてよく、これは、受容機能部の位置がIOL光学部の術後の位置を決定することになるであろうからである。
【0036】
本願で開示するように、IOLは、患者の無水晶体眼の水晶体嚢の中にフィットするように構成されたトロイド部分として形成される支持部を利用する。トロイド部分はIOL光学部とは別であってもよく、IOL光学部のための受容機能部を含んでいてよい。トロイド部分は、IOL光学部を動かないようにするために、水晶体嚢の赤道においてぴったりとフィットするように術中に流体充填を行うように構成されてよい。
【0037】
上で開示した主旨は例示にすぎず、限定的ではないと考えるべきであり、付属の特許請求の範囲は、本開示の実際の主旨と範囲に含まれる変更、改良、及びその他の実施形態のすべてをカバーするものとする。それゆえ、法の下で可能な最大限に、本開示の範囲は以下の特許請求の範囲及びそれらの均等物の可能なかぎり最も広い解釈により特定されるものであり、上記の詳細な説明によって制限又は限定されることはないものとする。