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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】シアリル化糖の発酵産生
(51)【国際特許分類】
   C12P 19/28 20060101AFI20241004BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20241004BHJP
   C12N 15/52 20060101ALI20241004BHJP
   C12N 15/54 20060101ALI20241004BHJP
   C12N 15/61 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C12P19/28 ZNA
C12N1/21
C12N15/52 Z
C12N15/54
C12N15/61
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020566820
(86)(22)【出願日】2019-05-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-27
(86)【国際出願番号】 EP2019063669
(87)【国際公開番号】W WO2019228993
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2022-05-26
(31)【優先権主張番号】18174643.9
(32)【優先日】2018-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】511149751
【氏名又は名称】クリスチャン.ハンセン・ハー・エム・オー・ゲー・エム・ベー・ハー
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イェネバイン,シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】ワルテンベルク,ディルク
【審査官】白井 美香保
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/122225(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/153253(WO,A1)
【文献】Journal of Biotechnology,2008年,Vol.134,p.261-265
【文献】Journal of Biotechnology,2017年,Vol.258,p.79-91
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12P 1/00-41/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのN-アセチルノイラミン酸部分を含む糖の発酵産生のための方法であって、
a)以下を含む、少なくとも1つの遺伝子操作された大腸菌細胞を提供するステップ
(i)グルコサミン-6-リン酸N-アセチルトランスフェラーゼ、N-アセチルグルコサミン-6-リン酸ホスファターゼ、及びN-アセチルグルコサミン2-エピメラーゼを含む、シアル酸生合成経路、
(ii)N-アセチルノイラミン酸をシチジン5’-一リン酸に移してCMP活性化シアル酸を生成するためのシチジン5’-モノホスホ-(CMP)-N-アセチルノイラミン酸シンテターゼ、
ここで、前記遺伝子操作された大腸菌細胞は、
i)配列番号91で表されるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、
ii)配列番号92で表されるヌクレオチド配列、
iii)配列番号91で表されるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列と少なくとも90%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、
iv)配列番号92で表されるヌクレオチド配列と少なくとも90%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、及び
v)i.、ii.、iii.、及びiv.のヌクレオチド配列のいずれか1つの機能的断片
からなる群から選択される、シチジン5’-モノホスホ-(CMP)-N-アセチルノイラミン酸シンターゼをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子を含み、かつ発現する、
及び
(iii)供与体基質としてのCMP活性化シアル酸から受容体分子にN-アセチルノイラミン酸部分を移すための異種シアリルトランスフェラーゼ、
b)前記少なくとも1つの遺伝子操作された大腸菌細胞を、発酵ブロス中で、少なくとも1つのN-アセチルノイラミン酸部分を含む前記糖の産生を許容する条件下で培養するステップ、並びに任意選択的に
c)少なくとも1つのN-アセチルノイラミン酸部分を含む前記糖を回収するステップ
を含む、方法。
【請求項2】
前記遺伝子操作された大腸菌細胞が、
i)配列番号91で表されるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列と少なくとも95%、96%、97%、98%、99%又は99%超の配列同一性を有するヌクレオチド配列、及び
ii)配列番号92で表されるヌクレオチド配列の1つと少なくとも95%、96%、97%、98%、99%又は99%超の配列同一性を有するヌクレオチド配列
からなる群から選択される、シチジン5’-モノホスホ-(CMP)-N-アセチルノイラミン酸シンターゼをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子を含み、かつ発現する、請求項1に記載された方法。
【請求項3】
前記遺伝子操作された大腸菌細胞が、
I.配列番号34~66のいずれか1つによって表されるアミノ酸配列を含むか、又はこれからなるポリペプチド、
II.配列番号34~66のいずれか1つによって表されるアミノ酸配列のいずれか1つと少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、又はこれからなるポリペプチド、
III.I.及びII.のポリペプチドのいずれか1つの機能的断片
からなる群から選択される異種シアリルトランスフェラーゼを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記遺伝子操作された大腸菌細胞が、
i.配列番号1~33のいずれか1つで表されるヌクレオチド配列、
ii.配列番号34~66のいずれか1つで表されるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、
iii.配列番号1~33のいずれか1つで表されるヌクレオチド配列の1つと少なくとも90%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、
iv.配列番号34~66で表されるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列のいずれか1つと少なくとも90%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、及び
v.i.、ii.、iii.、及びiv.のヌクレオチド配列のいずれか1つの機能的断片
からなる群から選択される、異種シアリルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子を含み、かつ発現する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記受容体分子が、N-アセチルグルコサミン、ガラクトース、N-アセチルガラクトサミン、ラクトース、ラクツロース、N-アセチルガラクトサミン、ラクト-N-ビオース、ラクツロース、メリビオース、ラフィノース、ラクト-N-トリオースII、2’-フコシルラクトース、3-フコシルラクトース、3’-シアリルラクトース、6’-シアリルラクトース、3’-シアリル-N-アセチルラクトサミン、6’-シアリル-N-アセチルラクトサミン、3’-ガラクトシルラクトース、6’-ガラクトシルラクトース、ラクト-N-テトラオース、ラクト-N-ネオテトラオース、2’3-ジコシルラクトース、3-フコシル-3’-シアリルラクトース、3-フコシル-6’-シアリルラクトース、シアリルラクト-N-テトラオースa、シアリルラクト-N-テトラオースb、シアリルラクト-N-テトラオースc、ラクト-N-フコペンタオースI、ラクト-N-フコペンタオースII、ラクト-N-フコペンタオースIII、ラクト-N-フコペンタオースV、ラクト-N-ネオフコペンタオースI及びラクト-N-ネオフコペンタオースVからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記発酵ブロスが、少なくとも1つの炭素源を含有し、前記少なくとも1つの炭素源が、グルコース、フルクトース、スクロース、グリセロール及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つの遺伝子操作された大腸菌細胞が、グルコサミン、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルマンノサミン及びN-アセチルノイラミン酸からなる群から選択される1つ以上の非存在下及び/又は添加なしで培養される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
少なくとも1つのN-アセチルノイラミン酸部分を含む前記糖が、3’-シアリルガラクトース、6’-シアリルガラクトース、3’-シアリル-N-アセチルラクトサミン、6’-シアリル-N-アセチルラクトサミン、3’-シアリルラクトース、6’-シアリルラクトース、シアリルラクト-N-テトラオースa、シアリルラクト-N-テトラオースb、シアリルラクト-N-テトラオースc、フコシル-シアリルラクト-N-テトラオースa、フコシル-シアリルラクト-N-テトラオースb、フコシル-シアリルラクト-N-テトラオースc、ジシアリルラクト-N-テトラオース、フコシルジシアリルラクト-N-テトラオースI、フコシルジシアリルラクト-N-テトラオースIIからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
少なくとも1つのN-アセチルノイラミン酸部分を含む糖の発酵生産のための遺伝子操作された大腸菌細胞であって、前記遺伝子操作された大腸菌細胞は、
(i)グルコサミン-6-リン酸N-アセチルトランスフェラーゼ、N-アセチルグルコサミン-6-リン酸ホスファターゼ、及びN-アセチルグルコサミン2-エピメラーゼを含む、合成シアル酸生合成経路、
(ii)N-アセチルノイラミン酸をシチジン5’-一リン酸に移してCMP活性化シアル酸を生成するためのシチジン5’-モノホスホ-(CMP)-N-アセチルノイラミン酸シンテターゼ、
ここで、前記遺伝子操作された大腸菌細胞は、
i)配列番号91で表されるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、
ii)配列番号92で表されるヌクレオチド配列、
iii)配列番号91で表されるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列と少なくとも90%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、
iv)配列番号92で表されるヌクレオチド配列と少なくとも90%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、及び
v)i.、ii.、iii.、及びiv.のヌクレオチド配列のいずれか1つの機能的断片
からなる群から選択される、シチジン5’-モノホスホ-(CMP)-N-アセチルノイラミン酸シンターゼをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子を含み、かつ発現する、
及び
(iii)供与体基質としてのCMP活性化シアル酸から受容体分子にN-アセチルノイラミン酸部分を移すための異種シアリルトランスフェラーゼ
を含む、遺伝子操作された大腸菌細胞。
【請求項10】
前記遺伝子操作された大腸菌細胞が、
i)配列番号91で表されるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列と少なくとも95%、96%、97%、98%、99%又は99%超の配列同一性を有するヌクレオチド配列、及び
ii)配列番号92で表されるヌクレオチド配列の1つと少なくとも95%、96%、97%、98%、99%又は99%超の配列同一性を有するヌクレオチド配列
からなる群から選択される、シチジン5’-モノホスホ-(CMP)-N-アセチルノイラミン酸シンターゼをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子を含み、かつ発現する、請求項9に記載の遺伝子操作された大腸菌細胞。
【請求項11】
前記遺伝子操作された大腸菌細胞が、
I.配列番号34~66のいずれか1つによって表されるアミノ酸配列を含むか、又はこれからなるポリペプチド、
II.配列番号34~66のいずれか1つによって表されるアミノ酸配列のいずれか1つと少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、又はこれからなるポリペプチド、
III.I.及びII.のポリペプチドのいずれか1つの機能断片
からなる群から選択される異種シアリルトランスフェラーゼを含む、請求項9に記載の遺伝子操作された大腸菌細胞。
【請求項12】
前記遺伝子操作された大腸菌細胞が、
i.配列番号1~33のいずれか1つで表されるヌクレオチド配列、
ii.配列番号34~66のいずれか1つで表されるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、
iii.配列番号1~33のいずれか1つで表されるヌクレオチド配列の1つと少なくとも90%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、
iv.配列番号34~66で表されるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列のいずれか1つと少なくとも90%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、及び
v.i.、ii.、iii.、及びiv.のヌクレオチド配列のいずれか1つの機能的断片
からなる群から選択される、異種シアリルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子を含み、かつ発現する、請求項9に記載の遺伝子操作された大腸菌細胞。
【請求項13】
前記受容体分子が、N-アセチルグルコサミン、ガラクトース、N-アセチルガラクトサミン、ラクトース、ラクツロース、N-アセチルガラクトサミン、ラクト-N-ビオース、ラクツロース、メリビオース、ラフィノース、ラクト-N-トリオースII、2’-フコシルラクトース、3-フコシルラクトース、3’-シアリルラクトース、6’-シアリルラクトース、3’-シアリル-N-アセチルラクトサミン、6’-シアリル-N-アセチルラクトサミン、3’-ガラクトシルラクトース、6’-ガラクトシルラクトース、ラクト-N-テトラオース、ラクト-N-ネオテトラオース、2’3-ジコシルラクトース、3-フコシル-3’-シアリルラクトース、3-フコシル-6’-シアリルラクトース、シアリルラクト-N-テトラオースa、シアリルラクト-N-テトラオースb、シアリルラクト-N-テトラオースc、ラクト-N-フコペンタオースI、ラクト-N-フコペンタオースII、ラクト-N-フコペンタオースIII、ラクト-N-フコペンタオースV、ラクト-N-ネオフコペンタオースI及びラクト-N-ネオフコペンタオースVからなる群から選択される、請求項9に記載の遺伝子操作された大腸菌細胞。
【請求項14】
少なくとも1つのN-アセチルノイラミン酸部分を含む前記糖が、3’-シアリルガラクトース、6’-シアリルガラクトース、3’-シアリル-N-アセチルラクトサミン、6’-シアリル-N-アセチルラクトサミン、3’-シアリルラクトース、6’-シアリルラクトース、シアリルラクト-N-テトラオースa、シアリルラクト-N-テトラオースb、シアリルラクト-N-テトラオースc、フコシル-シアリルラクト-N-テトラオースa、フコシル-シアリルラクト-N-テトラオースb、フコシル-シアリルラクト-N-テトラオースc、ジシアリルラクト-N-テトラオース、フコシルジシアリルラクト-N-テトラオースI、フコシルジシアリルラクト-N-テトラオースIIからなる群から選択される、請求項9に記載の遺伝子操作された大腸菌細胞。
【請求項15】
全細胞発酵方法におけるシアリル化糖の産生のための、請求項9~14のいずれか一項に記載の遺伝子操作された大腸菌細胞の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
背景
本発明は、シアリル化糖の発酵産生のための方法、及びその中で使用される組換え又は遺伝子操作された微生物細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでに150を超える構造的に異なるヒトミルクオリゴ糖(HMO)が同定されている。HMOは総人乳栄養素のわずかな量に過ぎないが、母乳で育てられている乳幼児の発達に対するそれらの有益な効果は過去数十年にわたって明らかになった。
【0003】
HMOの中で、シアリル化HMO(SHMO)が腸管病原性細菌及びウイルスに対する耐性を後押しすることが観察された。興味深いことに、最近の研究はさらに、早産児において最も一般的で致死的な疾患の1つである壊死性腸炎に対する長鎖SHMOの保護効果を実証した。さらに、SHMOは、乳幼児の脳の発達及びその認知能力を支援すると考えられている。また、シアリル化オリゴ糖は、大腸菌、コレラ菌及びサルモネラ菌をはじめとする様々な病原性微生物のエンテロトキシンを中和することが示されている。さらに、シアリル化オリゴ糖は、ピロリ菌による消化管のコロニー形成を妨げ、それによって胃潰瘍及び十二指腸潰瘍を予防又は抑制することがわかった。
【0004】
シアリル化オリゴ糖の中で、3’-シアリルラクトース、6’-シアリルラクトース、シアリルラクト-N-テトラオースa、シアリルラクト-N-テトラオースb、シアリルラクト-N-テトラオースc及びジシアリルラクト-N-テトラオースは人乳中に最も多く存在する要素である。
【0005】
シアリル化オリゴ糖は複雑な構造を持つので、その化学的あるいは(化学-)酵素的合成は困難であり、立体化学の制御、特定の結合の形成、原料の入手可能性等多くの難点を伴う。その結果、市販のシアリル化オリゴ糖は、天然源での量が少ないため、非常に高価であった。
【0006】
このため、シアリル化オリゴ糖を産生する微生物の代謝工学における努力がなされてきた。何故ならばこのアプローチが工業規模でHMOを産生するための最も有望な方法であるからである。微生物発酵によるSHMOの産生のために、微生物は、典型的には、外因性シアル酸の存在下で培養される。
【0007】
国際公開WO2007/101862A1号は、微生物を培養培地中で培養することによって細胞内UDP-GlcNAcプールに依存するシアリル化オリゴ糖の大規模なインビボ合成のための方法を開示しており、ここで、微生物は、CMP-Neu5Acシンテターゼ、シアル酸シンターゼ、GlcNAc-6-リン酸2エピメラーゼ及びシアリルトランスフェラーゼをコードする異種遺伝子を含む。さらに、シアル酸アルドラーゼ(NanA)及びManNacキナーゼ(NanK)をコードする内在性遺伝子を欠失させた。
【0008】
国際公開WO2014/153253A1号には、シアリル化オリゴ糖を産生するように細菌を操作する方法及び組成物、並びに細菌中でシアリル化オリゴ糖を産生する方法が開示されており、この細菌は、外因性シアリルトランスフェラーゼ、欠損シアル酸異化経路、シアル酸合成能、及び機能的ラクトースパーミアーゼ遺伝子を含み、ここで前記細菌はラクトースの存在下で培養される。シアル酸合成能は、外因性CMP-Neu5Acシンテターゼ、外因性シアル酸シンターゼ、及び外因性UDP-GlcNAc-2-エピメラーゼを発現することを含む。
【0009】
しかし、発酵中に外因性シアル酸の存在及び/又は添加を必要としない微生物発酵によりシアル化オリゴ糖を産生することが望ましい。また、UDP-N-アセチル-グルコサミン(UDP-GlcNAc)の細胞内プールにアクセスする必要なく微生物によりシアル化オリゴ糖を産生することが望ましく、何故ならばこれは細胞にとってエネルギー的に有益であると考えられているためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】国際公開第2007/101862号
【文献】国際公開第2014/153253号
【発明の概要】
【0011】
概要
この目的は、特に、外因性シアル酸の添加を必要としないシアリル化糖の全細胞発酵生産の方法を提供することにより、及び外因性シアル酸の非存在下でシアリル化糖を合成することができる遺伝子操作された微生物細胞により解決される。
【0012】
一態様によれば、(a)(i)N-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac、NeuNAc)の細胞内生合成のためのシアル酸生合成経路であって、グルコサミン-6-リン酸N-アセチルトランスフェラーゼを含むシアル酸生合成経路、(ii)シチジン5’-モノホスホ-(CMP)-シアル酸シンテターゼ、(iii)異種シアリルトランスフェラーゼを含む少なくとも1つの遺伝子操作された微生物細胞を提供するステップ、b)該少なくとも1つの遺伝子操作された微生物細胞を、発酵ブロス中で、及び該シアリル化糖の産生を許容する条件下で培養するステップ、並びに任意選択的c)該シアリル化糖を回収することを含むシアリル化糖の産生方法が提供される。
【0013】
別の態様によれば、シアリル化糖を産生するための遺伝子操作された微生物細胞が提供され、ここで、該微生物細胞は、(i)N-アセチルノイラミン酸の細胞内生合成のためのシアル酸生合成経路であって、グルコサミン-6-リン酸N-アセチルトランスフェラーゼを含むシアル酸生合成経路、(ii)N-アセチルノイラミン酸をシチジン5’-一リン酸塩に移してCMP活性化N-アセチルノイラミン酸を生成するためのシチジン5’-モノホスホ-(CMP)-N-アセチルノイラミン酸シンテターゼ、及び(iii)異種シアリルトランスフェラーゼを含む。
【0014】
別の態様によると、本発明による方法又は遺伝子操作された微生物細胞によって産生可能なシアル化糖が提供される。
【0015】
別の態様によれば、栄養組成物、好ましくは乳児用組成物を製造するための、本発明による方法又は遺伝子操作された微生物細胞によって産生されるシアリル化糖の使用が提供される。
【0016】
さらに別の態様によれば、本発明による方法又は遺伝子操作された微生物細胞によって産生された少なくとも1種のシアリル化糖を含む栄養組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】シアリル化糖の発酵産生のために遺伝子操作された微生物細胞によっ使用され得るシアル酸生合成経路であって、UDP-GlcNAcを利用するシアル酸生合成経路の模式図である。
図2】シアリル化糖の発酵産生のために本発明の遺伝子操作された微生物細胞によって使用され得るシアル酸生合成経路の模式図である。
図3】シアリル化糖の発酵産生のために本発明の遺伝子操作された微生物細胞によって使用され得る別のシアル酸生合成経路の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
詳細な説明
第一の態様によれば、シアリル化糖の発酵産生のための方法が提供される。この方法は、a)シアリル化糖を合成することができる少なくとも1つの遺伝子操作された微生物細胞を、提供するステップであって、該少なくとも1つの遺伝子操作された微生物細胞は、(i)グルコサミン-6-リン酸N-アセチルトランスフェラーゼを含むシアル酸生合成経路、(ii)シチジン5’-モノホスホ-(CMP)-N-アセチルノイラミン酸シンテターゼ、及び(iii)異種シアリルトランスフェラーゼを含むステップ、b)該少なくとも1つの遺伝子操作された微生物細胞を、発酵ブロス中で、該シアリル化糖の産生を許容する条件下で培養するステップ、任意選択的にc)該シアリル化糖を回収するステップを含む。
【0019】
したがって、第2の態様において、本発明はまた、シアリル化糖の発酵産生のための、遺伝子操作された微生物細胞に関するものであり、ここで、該微生物細胞は、(i)N-アセチルノイラミン酸の細胞内生合成のためのシアル酸生合成経路であって、グルコサミン-6-リン酸N-アセチルトランスフェラーゼを含むシアル酸生合成経路、(ii)N-アセチルノイラミン酸をシチジン5’-一リン酸塩に移してCMP活性化シアル酸を生成するためのシチジン5’-モノホスホ-(CMP)-シアル酸シンテターゼ、及び(iii)供与体基質としてのCMP活性化シアル酸から受容体分子にN-アセチルノイラミン酸部分を移すためのシアリルトランスフェラーゼであって、受容体分子は糖分子であるシアリルトランスフェラーゼを含み、シアリル化糖の細胞内生合成をもたらす。
【0020】
遺伝子操作された微生物細胞はUDP-GlcNAcを利用しないN-アセチルノイラミン酸の細胞内生合成のためのシアル酸生合成経路を含む。この遺伝子操作された微生物細胞は、グルコサミン-6-リン酸N-アセチルトランスフェラーゼによるN-アセチルノイラミン酸の細胞内生合成のためのシアル酸生合成経路を含む。N-アセチルノイラミン酸の細胞内生合成にグルコサミン-6-リン酸N-アセチルトランスフェラーゼを用いるシアル酸生合成経路は、シアル酸の生合成にUDP-GlcNAcを利用しない(図2及び図3)。
【0021】
シアル酸生合成経路は、グルタミン:フルクトース-6-リン酸アミノトランスフェラーゼ及びN-アセチルノイラミン酸シンターゼの酵素活性を有する。シアル酸生合成経路はさらに、a)グルコサミン-6-リン酸N-アセチルトランスフェラーゼ、N-アセチルフルコサミン-6-リン酸ホスファターゼ及びN-アセチルグルコサミン2-エピメラーゼの酵素活性(図2)、及び/又はb)グルコサミン-6-リン酸N-アセチルトランスフェラーゼ、N-アセチル-グルコサミン-6-リン酸エピメラーゼ及びN-アセチルマンノサミン-6-リン酸ホスファターゼの酵素活性(図3)を有する。したがって、遺伝子操作された微生物細胞が、ホスホグルコサミンムターゼ、N-アセチルグルコサミン-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼ、UDP N-アセチルグルコサミン2-エピメラーゼの酵素活性と、それに付随するUDPの放出(図1)を細胞内シアル酸生合成のために有する必要はない。このため、追加的及び/又は代替的な実施形態において、シアル酸を合成することができる遺伝子操作された微生物細胞は、ホスホグルコサミンムターゼ、N-アセチルグルコサミン-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼ及びUDP N-アセチルグルコサミン-2-エピメラーゼの酵素活性からなる群から選択される1つ以上の酵素活性と、それに付随するUDPの放出とを有さない。
【0022】
グルタミン:フルクトース-6-リン酸アミノトランスフェラーゼ(EC2.6.1.16)という酵素は、グルタミンを用いてフルクトース-6-リン酸塩(Frc-6P)からグルコサミン-6-リン酸塩(GlcN-6P)への変換を触媒する。この酵素反応は、典型的にはヘキソサミン生合成経路の最初のステップであると考えられている。グルタミン:フルクトース-6-リン酸アミノトランスフェラーゼの別名は、D-フルクトース-6-リン酸アミノトランスフェラーゼ、GFAT、グルコサミン-6-リン酸シンターゼ、ヘキソースリン酸アミノトランスフェラーゼ、及びL-グルタミン-D-フルクトース-6-リン酸アミノトランスフェラーゼである。
【0023】
追加的及び/又は代替的な実施形態では、遺伝子操作された微生物細胞は、グルタミン:フルクトース-6-リン酸アミノトランスフェラーゼ、好ましくは異種グルタミン:フルクトース-6-リン酸アミノトランスフェラーゼ、より好ましくは大腸菌(大腸菌GlmS(UniProtKB-P17169、配列番号67)、又は大腸菌GlmSの機能的バリアントに由来するグルタミン:フルクトース-6-リン酸アミノトランスフェラーゼを有する。最も好ましくは、機能的バリアントは、野生型酵素が示すようにグルコサミン-6-リン酸塩阻害に対して有意に低下した感受性を示す大腸菌GlmSの型である。グルコサミン-6-リン酸塩阻害に対して有意に低下した感受性を示す大腸菌GlmSの機能的バリアントの例は、配列番号68によって表される。
【0024】
追加的及び/又は代替的な実施形態において、遺伝子操作された微生物細胞は、グルタミン:フルクトース-6-リン酸アミノトランスフェラーゼ、好ましくは大腸菌グルタミン:フルクトース-6-リン酸アミノトランスフェラーゼGlmS(配列番号69)をコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子を含むか、又は機能的バリアントをコードするヌクレオチド配列は、野生型酵素(glmS54又はglmS(配列番号70で表される)と比較してグルコサミン-6-リン酸塩阻害に対して有意に低下した感受性を示す大腸菌GlmSの型である。
【0025】
したがって、追加的及び/又は代替的な実施形態において、遺伝子操作された微生物細胞は、
i)配列番号67及び配列番号68のいずれか1つによって表される、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、
ii)配列番号69及び配列番号70のいずれか1つによって表されるヌクレオチド配列、
iii)配列番号67及び配列番号68のいずれか1つによって表されるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の1つと少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は99%超の配列同一性を有するヌクレオチド配列、
iv)配列番号69及び配列番号70のいずれか1つによって表されるヌクレオチド配列の1つと少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は99%超の配列同一性を有するヌクレオチド配列、
v)i.、ii.、iii.及びivのヌクレオチド配列のいずれか1つと相補的なヌクレオチド配列、
vi)i.、ii.、iii.、iv.及びv.のヌクレオチド配列のいずれか1つの断片
からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含み、かつ発現する核酸分子を含み、該ヌクレオチド配列は、細胞内グルタミン:フルクトース-6-リン酸アミノトランスフェラーゼ活性を提供するために、遺伝子操作された微生物細胞において該ヌクレオチド配列の転写及び/又は翻訳を実施する少なくとも1つの核酸発現制御配列に操作可能に結合される。
【0026】
追加的及び/又は代替的な実施形態において、遺伝子操作された微生物細胞は、グルコサミン-6-リン酸N-アセチルトランスフェラーゼ活性を有する。前記グルコサミン-6-リン酸N-アセチルトランスフェラーゼ活性は、GlcN-6PをN-アセチルグルコサミン-6-リン酸塩(GlcNAc-6P)に変換する。グルコサミン-6-リン酸N-アセチルトランスフェラーゼの一例は出芽酵母Gna1(UniProtKB-P43577、配列番号77)である。
【0027】
追加的及び/又は代替的な実施形態において、遺伝子操作された微生物細胞は、グルコサミン-6-リン酸N-アセチルトランスフェラーゼ、好ましくは異種グルコサミン-6-リン酸N-アセチルトランスフェラーゼ、より好ましくは出芽酵母Gna1(配列番号78で表されるようなヌクレオチド配列によってコードされる)又はその機能的バリアントを含む。
【0028】
したがって、追加的及び/又は代替的な実施形態において、遺伝子操作された微生物細胞は、
i)配列番号77によって表される、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、
ii)配列番号78によって表されるヌクレオチド配列、
iii)配列番号77によって表されるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の1つと少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は99%超の配列同一性を有するヌクレオチド配列、
iv)配列番号78によって表されるヌクレオチド配列の1つと少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は99%超の配列同一性を有するヌクレオチド配列、
v)i.、ii.、iii.及びivのヌクレオチド配列のいずれか1つと相補的なヌクレオチド配列、
vi)i.、ii.、iii.、iv.及びv.のヌクレオチド配列のいずれか1つの断片
からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含み、かつ発現する核酸分子を含み、該ヌクレオチド配列は、細胞内グルコサミン:フルクトース-6-リン酸アミノトランスフェラーゼ活性を提供するために、遺伝子操作された微生物細胞において該ヌクレオチド配列の転写及び/又は翻訳を実施する少なくとも1つの核酸発現制御配列に操作可能に結合される。
【0029】
追加的及び/又は代替的な実施形態において、遺伝子操作された微生物細胞は、N-アセチルグルコサミン-6-リン酸ホスファターゼ活性を有する。前記N-アセチルグルコサミン-6-リン酸ホスファターゼ活性は、GlcNAc-6PをN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)に変換する。N-アセチルグルコサミン-6-リン酸ホスファターゼの例は、GlcNAcへのGlcNAc6Pの変換を触媒するHAD様上科の糖ホスファターゼである。酵素のHAD様上科は細菌の酵素であるハロ酸デヒドロゲナーゼにちなんで命名され、ホスファターゼを含む。GlcNAcへのGlcNAc6Pの変換を触媒するHAD型上科の適切なホスファターゼを、フルクトース-1-リン酸ホスファターゼ(YqaB、UniProtKB-P77475、配列番号79)及びアルファ-D-グルコース1-リン酸ホスファターゼ(YihX、UniProtKB-P0A8Y3、配列番号80)からなる群から選択することができる。大腸菌YqaB及び大腸菌YihX酵素は、GlcNAc6Pにも作用すると考えられている(Lee,S.-W.及びOh,M.-K.(2015)Metabolic Engineering 28:143-150)。
【0030】
追加的及び/又は代替的な実施形態において、GlcNAcへのGlcNAc-6Pの変換を触媒するHAD様上科の糖ホスファターゼは、遺伝子操作された微生物細胞における異種酵素である。追加的及び/又は代替的な実施形態において、GlcNAcへのGlcNAc6Pの変換を触媒するHAD様上科の糖ホスファターゼは、大腸菌YqaB、大腸菌YihX、及びそれらの機能的バリアントからなる群から選択される。
【0031】
追加的及び/又は代替的な実施形態において、遺伝子操作された微生物細胞は、GlcNAcへのGlcNAc6Pの変換を触媒するHAD様上科の糖ホスファターゼをコードするヌクレオチド配列を含み、かつ発現する核酸分子を含む。追加的及び/又は代替的な実施形態において、GlcNAcへのGlcNAc6Pの変換を触媒するHAD様上科の糖ホスファターゼをコードするヌクレオチド配列は、異種ヌクレオチド配列である。追加的及び/又は代替的な実施形態において、GlcNAcへのGlcNAc6Pの変換を触媒するHAD様上科の糖ホスファターゼをコードするヌクレオチド配列は、大腸菌フルクトース-1-リン酸ホスファターゼ又は大腸菌アルファ-D-グルコース1-リン酸ホスファターゼ又はこれら2つの酵素のうちの1つの機能的断片をコードする。
【0032】
大腸菌YqaBは、配列番号81で表されるヌクレオチド配列によってコードされており、大腸菌YihXは、配列番号82で表されるヌクレオチド配列によってコードされる。したがって、追加的及び/又は代替的な実施形態において、遺伝子操作された微生物細胞は、
i)配列番号79及び配列番号80のいずれか1つによって表される、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、
ii)配列番号81及び配列番号82のいずれか1つによって表されるヌクレオチド配列、
iii)配列番号79及び配列番号80のいずれか1つによって表されるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の1つと少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は99%超の配列同一性を有するヌクレオチド配列、
iv)配列番号81及び配列番号82のいずれか1つによって表されるヌクレオチド配列の1つと少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は99%超の配列同一性を有するヌクレオチド配列、
v)i.、ii.、iii.及びivのヌクレオチド配列のいずれか1つと相補的なヌクレオチド配列、
vi)i.、ii.、iii.、iv.及びv.のヌクレオチド配列のいずれか1つの断片
からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含み、かつ発現する核酸分子を含み、該ヌクレオチド配列は、GlcNAcへのGlcNAc6Pの変換を触媒する細胞内糖ホスファターゼ活性を提供するために、遺伝子操作された微生物細胞において該ヌクレオチド配列の転写及び/又は翻訳を実施する少なくとも1つの核酸発現制御配列に操作可能に結合される。
【0033】
追加的及び/又は代替的な実施形態において、GlcNAcへのGlcNAc6Pの変換を触媒するHAD様上科の糖ホスファターゼ又は該HADホスファターゼの機能的断片をコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子を含み、及び/又はHAD様の糖ホスファターゼを含むように、自然に存在しない微生物を遺伝子操作した。
【0034】
追加的及び/又は代替的な実施形態において、遺伝子操作された微生物細胞は、N-アセチルグルコサミン2-エピメラーゼ活性を有する。N-セチルグルコサミン2-エピメラーゼ(EC5.1.3.8)はN-アセチルマンノサミン(ManNAc)へのN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)の変換を触媒する酵素である。本酵素は炭水化物及びその誘導体に作用するラセマーゼである。この酵素クラスの系統名はN-アシル-D-グルコサミン2-エピメラーゼである。この酵素は、アミノ-糖代謝及びヌクレオチド-糖代謝に関与し、好ましくは異種N-アセチルグルコサミン2-エピメラーゼである。
【0035】
追加的及び/又は代替的な実施形態において、遺伝子操作された微生物細胞は、N-アセチルグルコサミン2-エピメラーゼ、好ましくは異種N-アセチルグルコサミン2-エピメラーゼを含む。N-アセチルグルコサミン2-エピメラーゼの例は、アナベナ・バリアビリス(Anabena variabilis)、アカリオクロリス種(Acaryochloris)、ノストク種(Nostoc)、ノストク・プンクチフォルメ(punctiforme)、バクテロイデス・オバツス(Bacteroides ovatus)又はシネコシスティス種(Synechocystis)から説明された。適切なN-アセチルグルコサミン2-エピメラーゼの例は、遺伝子BACOVA_01816(配列番号85)によってコードされるB.オバツスATCC8483(UniProtKB-A7LVG6、配列番号83)のN-アセチルグルコサミン2-エピメラーゼである。別の例はシネコシスティス種(PCC6803株)(UniProtKB-P74124、配列番号84)のN-アセチルグルコサミン2-エピメラーゼであり、これはレニン結合タンパク質としても知られており、slr1975遺伝子(配列番号86)によってコードされる。
【0036】
追加的及び/又は代替的な実施形態において、遺伝子操作された微生物細胞は、N-アセチルグルコサミン2-エピメラーゼ、好ましくはB.オバツスATCC8483又はシネコシスティス種(PCC6803株)のN-アセチルグルコサミン2-エピメラーゼ、又はその機能的バリアントをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子を含む。
【0037】
したがって、追加的及び/又は代替的な実施形態において、遺伝子操作された微生物細胞は、
i)配列番号83及び配列番号84のいずれか1つによって表される、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、
ii)配列番号85及び配列番号86のいずれか1つによって表されるヌクレオチド配列、
iii)配列番号83及び配列番号84のいずれか1つによって表されるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の1つと少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は99%超の配列同一性を有するヌクレオチド配列、
iv)配列番号85及び配列番号86のいずれか1つによって表されるヌクレオチド配列の1つと少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は99%超の配列同一性を有するヌクレオチド配列、
v)i.、ii.、iii.及びivのヌクレオチド配列のいずれか1つと相補的なヌクレオチド配列、
vi)i.、ii.、iii.、iv.及びv.のヌクレオチド配列のいずれか1つの断片
からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含み、かつ発現する核酸分子を含み、該ヌクレオチド配列は、細胞内N-アセチルグルコサミン2-エピメラーゼ活性を提供するために、遺伝子操作された微生物細胞において該ヌクレオチド配列の転写及び/又は翻訳を実施する少なくとも1つの核酸発現制御配列に操作可能に結合される。
【0038】
追加的及び/又は代替的な実施形態において、遺伝子操作された微生物細胞は、N-アセチルグルコサミン-6-リン酸エピメラーゼ活性及びN-アセチルマンノサミン-6-リン酸ホスファターゼ活性を有する。N-アセチルグルコサミン-6-ホスファターゼエピメラーゼは、N-アセチルグルコサミン-6-リン酸塩(GlcNAc-6P)をN-アセチルマンノサミン-6-リン酸塩(ManNAc-6P)に変換し、N-アセチルマンノサミン-6-リン酸ホスファターゼは、ManNAc-6Pを脱リン酸化してN-アセチルマンノサミン(ManNAc)を与える。N-アセチルグルコサミン-6-リン酸エピメラーゼ活性及びN-アセチルマンノサミン-6-リン酸ホスファターゼ活性を有することにより、Neu5Ac産生のためにManNAcを提供する追加的又は代替的な方法が提供される。
【0039】
追加的及び/又は代替的な実施形態において、遺伝子操作された微生物細胞は、N-アセチルグルコサミン-6-リン酸エピメラーゼを含む。適切なN-アセチルグルコサミン-6-リン酸エピメラーゼの例は、大腸菌nanE遺伝子(配列番号88)によってコードされる大腸菌NanE(UniprotKB P0A761、配列番号87)である。
【0040】
したがって、追加的及び/又は代替的な実施形態において、遺伝子操作された微生物細胞は、N-アセチルグルコサミン-6-リン酸エピメラーゼをコードするヌクレオチド配列、好ましくは大腸菌NanEをコードするヌクレオチド配列を含み、かつ発現する核酸分子を含む。
【0041】
したがって、追加的及び/又は代替的な実施形態において、遺伝子操作された微生物細胞は、
i)配列番号87によって表される、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、
ii)配列番号88によって表されるヌクレオチド配列、
iii)配列番号87によって表されるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列と少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は99%超の配列同一性を有するヌクレオチド配列、
iv)配列番号88によって表されるヌクレオチド配列の1つと少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は99%超の配列同一性を有するヌクレオチド配列、
v)i.、ii.、iii.及びivのヌクレオチド配列のいずれか1つと相補的なヌクレオチド配列、
vi)i.、ii.、iii.、iv.及びv.のヌクレオチド配列のいずれか1つの断片
からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含み、かつ発現する核酸分子を含み、該ヌクレオチド配列は、細胞内N-アセチルグルコサミン-6-リン酸エピメラーゼ活性を提供するために、遺伝子操作された微生物細胞において該ヌクレオチド配列の転写及び/又は翻訳を実施する少なくとも1つの核酸発現制御配列に操作可能に結合される。
【0042】
追加的及び/又は代替的な実施形態において、遺伝子操作された微生物細胞は、N-アセチルマンノサミン-6-リン酸ホスファターゼを含む。
【0043】
したがって、追加的及び/又は代替的な実施形態において、遺伝子操作された微生物細胞は、N-アセチルマンノサミン-6-リン酸ホスファターゼをコードするヌクレオチド配列を含み、かつ発現する核酸分子を含む。
【0044】
追加的及び/又は代替的な実施形態において、遺伝子操作された微生物細胞は、シアル酸シンターゼ活性を含む。シアル酸シンターゼは、N-アセチルノイラミン酸(NeuNAc)へのManNAcとホスホエノールピルビン酸塩(PEP)の縮合を触媒する。
【0045】
追加的及び/又は代替的な実施形態において、遺伝子操作された微生物細胞は、シアル酸シンターゼ又はその機能的バリアント、好ましくは異種シアル酸シンターゼを含む。シアル酸シンターゼの例は、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)、ストレプトコッカス・アガラクティエ(Streptococcus agalactiae)、ブチリビブリオ・プロテオクラスティカス(Butyrivibrio proteoclasticus)、メタノブレビバクター・ルミナティウム(Methanobrevibacter ruminatium)、アセトバクテリウム・ウッディー(Acetobacterium woodii)、デスルフォバクラ・トルオリカ(Desulfobacula toluolica)、大腸菌、プレボテラ・ニグレセンス(Prevotella nigescens)、ハロルハブヅス・ティアマテ(Halorhabdus tiamatea)、デスルフォティグヌム・ホスフィトキシダンス(Desulfotignum phosphitoxidans)、又はカンディダツス・スカリンドゥア種(Candidatus Scalindua)、イディオマリナ・ロイヒエンシス(Idomarina loihiensis)、フソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)又はナイセリア・メニンギティディス(Neisseria meningitidis)のような種々の細菌種から知られている。好ましくは、シアル酸シンターゼは、C.ジェジュニneuB遺伝子(配列番号90)によってコードされるC.ジェジュニのN-アセチルノイラミン酸シンターゼNeuB(配列番号89)である。
【0046】
したがって、追加的及び/又は代替的な実施形態において、遺伝子操作された微生物細胞は、
i)配列番号89によって表される、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、
ii)配列番号90によって表されるヌクレオチド配列、
iii)配列番号89によって表されるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列と少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は99%超の配列同一性を有するヌクレオチド配列、
iv)配列番号90によって表されるヌクレオチド配列の1つと少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は99%超の配列同一性を有するヌクレオチド配列、
v)i.、ii.、iii.及びivのヌクレオチド配列のいずれか1つと相補的なヌクレオチド配列、
vi)i.、ii.、iii.、iv.及びv.のヌクレオチド配列のいずれか1つの断片
からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含み、かつ発現する核酸分子を含み、該ヌクレオチド配列は、細胞内N-アセチルノイラミン酸シンターゼ活性を提供するために、遺伝子操作された微生物細胞において該ヌクレオチド配列の転写及び/又は翻訳を実施する少なくとも1つの核酸発現制御配列に操作可能に結合される。
【0047】
遺伝子操作された微生物細胞は、シチジン5’-一リン酸塩をN-アセチルノイラミン酸に移してCMP活性化N-アセチルノイラミン酸(CMP-NeuNAc)を生成するためのシチジン5’-モノホスホ-(CMP)-N-アセチルノイラミン酸シンテターゼ活性を有する。いくつかの5’-モノホスホ-(CMP)-シアル酸シンテターゼが当技術分野で知られ、記載されており、例えば、大腸菌、ナイセリア・メニンギティディス、カンピロバクター・ジェジュニ、ストレプトコッカス種等由来の5’-モノホスホ(CMP)-シアル酸シンテターゼがある。
【0048】
追加的及び/又は代替的な実施形態において、遺伝子操作された微生物細胞は、シチジン5’-モノホスホ-(CMP)-N-アセチルノイラミン酸シンテターゼ、好ましくは異種シチジン5’-モノホスホノ-(CMP)-N-アセチルノイラミン酸シンセテーゼ、より好ましくは大腸菌由来のN-アセチルノイラミン酸シチジルトランスフェラーゼNeuAを含む。大腸菌NeuA(UnitProtKB-P13266、配列番号91)は、大腸菌neuA遺伝子(配列番号92)によってコードされている。
【0049】
したがって、追加的及び/又は代替的な実施形態において、遺伝子操作された微生物細胞は、
i)配列番号91によって表される、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、
ii)配列番号92によって表されるヌクレオチド配列、
iii)配列番号91によって表されるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列と少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は99%超の配列同一性を有するヌクレオチド配列、
iv)配列番号92によって表されるヌクレオチド配列の1つと少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は99%超の配列同一性を有するヌクレオチド配列、
v)i.、ii.、iii.及びivのヌクレオチド配列のいずれか1つと相補的なヌクレオチド配列、
vi)i.、ii.、iii.、iv.及びv.のヌクレオチド配列のいずれか1つの断片
からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含み、かつ発現する核酸分子を含み、該ヌクレオチド配列は、N-アセチルノイラミン酸シチジルトランスフェラーゼ活性を提供するために、遺伝子操作された微生物細胞において該ヌクレオチド配列の転写及び/又は翻訳を実施する少なくとも1つの核酸発現制御配列に操作可能に結合される。
【0050】
遺伝子操作された微生物細胞は、シアリルトランスフェラーゼ活性、好ましくは異種シアリルトランスフェラーゼ活性、より好ましくはα-2,3-シアリルトランスフェラーゼ活性、α-2,6-シアリルトランスフェラーゼ活性及び/又はα-2,8-シアリルトランスフェラーゼ活性からなる群から選択されるシアリルトランスフェラーゼ活性を有する。シアリルトランスフェラーゼ活性は、N-アセチルノイラミン酸部分をCMP-NeuNAcから受容体分子に移すことができ、ここで、受容体分子は糖分子であり、シアリル化糖を提供する。
【0051】
追加的及び/又は代替的な実施形態において、遺伝子操作された微生物細胞は、少なくとも1種のシアリルトランスフェラーゼ、好ましくは少なくとも1種の異種シアリルトランスフェラーゼを含み、ここで、シアリルトランスフェラーゼは、供与体基質としてのCMP-NeuNAcから受容体糖へNeuNAc部分を移すためのα-2,3-シアリルトランスフェラーゼ活性及び/又はα-2,6-シアリルトランスフェラーゼ活性及び/又はα-2,8-シアリルトランスフェラーゼ活性を有することができる。
【0052】
本明細書中で使用される「シアリルトランスフェラーゼ」という用語は、シアリルトランスフェラーゼ活性を有することができるポリペプチドを指す。「シアリルトランスフェラーゼ活性」とは、シアル酸残基、好ましくはN-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)残基を供与体基質から受容体分子へ移すことを指す。「シアリルトランスフェラーゼ」という用語は、本明細書に記載されているシアリルトランスフェラーゼの機能的断片、本明細書に記載されているシアリルトランスフェラーゼの機能的バリアント、及び該機能的バリアントの機能的断片を含む。この点で「機能的」とは、断片及び/又はバリアントがシアリルトランスフェラーゼ活性を有することができることを意味する。シアリルトランスフェラーゼの機能的断片は、自然に存在する遺伝子によってコードされるシアリルトランスフェラーゼの切断型を包含し、この切断型はシアリルトランスフェラーゼ活性を有することができる。切断型の例は典型的にはポリペプチドを特定の細胞内局在化に導く、いわゆるリーダー配列を含まないシアリルトランスフェラーゼである。典型的には、そのようなリーダー配列は、その細胞内輸送の間にポリペプチドから除去され、自然界に存在する成熟シアリルトランスフェラーゼにも存在しない。
【0053】
異種シアリルトランスフェラーゼは、シアル酸残基を供与体基質から受容体分子に移すことができる。異種シアリルトランスフェラーゼに関して「できる」という用語は、異種シアリルトランスフェラーゼのシアリルトランスフェラーゼ活性を指し、異種シアリルトランスフェラーゼがその酵素活性を有するためには適切な反応条件が必要であるという条件を指す。適切な反応条件が欠ける場合、異種シアリルトランスフェラーゼはその酵素活性を持たないが、その酵素活性を保持し、適切な反応条件が回復するとその酵素活性を有する。適切な反応条件は、適切な供与体基質の存在、適切な受容体分子の存在、例えば、-一価又は二価イオン等の必須補因子の存在、適切な範囲のpH値、適切な温度等を含む。異種シアリルトランスフェラーゼの酵素反応に影響するありとあらゆる因子の最適値を満たす必要はないが、反応条件は異種シアリルトランスフェラーゼがその酵素活性を及ぼすようなものでなければならない。したがって、「できる」という用語は、異種シアリルトランスフェラーゼの酵素活性が不可逆的に損なわれたあらゆる条件を除外し、また異種シアリルトランスフェラーゼのそのような条件への曝露を除外する。その代わりに、「できる」とは、シアリルトランスフェラーゼが酵素活性を有する、すなわち、許容反応条件(シアリルトランスフェラーゼがその酵素活性を及ぼすために必要な全ての要件)をシアリルトランスフェラーゼに提供するなら、そのシアリルトランスフェラーゼ活性を有することを意味する。
【0054】
シアリルトランスフェラーゼは、それらが形成する糖結合の種類について区別することができる。本明細書中で使用される「α-2,3-シアリルトランスフェラーゼ」及び「α-2,3-シアリルトランスフェラーゼ活性」という用語は、ガラクトース、N-アセチルガラクトサミン又は受容体分子のガラクトース残基又はN-アセチルガラクトサミン残基にα-2,3結合を有するシアル酸残基を付加するポリペプチド及びそれらの酵素活性を指す。同様に、「α-2,6-シアリルトランスフェラーゼ」及び「α-2,6-シアリルトランスフェラーゼ活性」という用語は、ガラクトース、N-アセチルガラクトサミン又は受容体分子のガラクトース残基又はN-アセチルガラクトサミン残基にα-2,6結合を有するシアル酸残基を付加するポリペプチド及びそれらの酵素活性を指す。同様に、「α-2,8-シアリルトランスフェラーゼ」及び「α-2,8-シアリルトランスフェラーゼ活性」という用語は、ガラクトース、N-アセチルガラクトサミン又は受容体分子のガラクトース残基又はN-アセチルガラクトサミン残基にα-2,8結合を有するシアル酸残基を付加するポリペプチド及びそれらの酵素活性を指す。
【0055】
したがって、追加的及び/又は代替的な実施形態において、遺伝子操作された微生物細胞は、
I.配列番号1~33のいずれか1つによって表される、アミノ酸配列を含むか、これからなるポリペプチド、
II.配列番号1~33のいずれか1つによって表される、アミノ酸配列のいずれか1つと少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は99%超の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、これからなるペプチド、
III.I.及びII.のポリペプチドのいずれか1つの断片
からなる群から好ましくは選択される異種シアリルトランスフェラーゼを含む。
【0056】
追加的及び/又は代替的な実施形態において、遺伝子操作された微生物細胞は、異種シアリルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列を含み、かつ発現する核酸分子を含むように形質転換されている。好ましくは、ヌクレオチド配列は、表1から推測できる。追加的及び/又は代替的な実施形態において、このヌクレオチド配列は、
i.配列番号1~33のいずれか1つによって表される、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、
ii.配列番号34~66のいずれか1つによって表されるヌクレオチド配列、
iii.配列番号1~33のいずれか1つによって表されるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の1つと少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は99%超の配列同一性を有するヌクレオチド配列、
iv.配列番号34~66によって表されるヌクレオチド配列のいずれか1つと少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は99%超の配列同一性を有するヌクレオチド配列、
v.i.、ii.、iii.及びivのヌクレオチド配列のいずれか1つと相補的なヌクレオチド配列、
vi.i.、ii.、iii.、iv.及びv.のヌクレオチド配列のいずれか1つの断片
からなる群から選択され、該ヌクレオチド配列は、シアリルトランスフェラーゼ活性を提供するために、遺伝子操作された微生物細胞において該ヌクレオチド配列の転写及び/又は翻訳を実施する少なくとも1つの核酸発現制御配列に操作可能に結合される。
【0057】
【表1】
【0058】
表1:シアリルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列の一覧。シアリルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列を、野生型タンパク質コード領域と比較して、全長構築物(FL)として、又は予測シグナルペプチド(Δ)なしでクローニングした。Δの後ろの数は、対応する配列から欠失したN末端アミノ酸を示す。
【0059】
「配列番号1~33のいずれか1つ」という表現は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32及び配列番号33からなる群のいずれか1つを指す。同じ原則が、「配列番号34~66のいずれか1つ」という表現にもあてはまる。一般的に言えば、「配列番号X~Zのいずれか1つ」という表現であって、「X」及び「Z」が自然数を表すものは、XからZまでの識別番号を含む「配列番号」のいずれか1つによって表される全ての配列(ヌクレオチド配列又はアミノ酸配列)を指す。
【0060】
さらに、遺伝子操作された微生物細胞は、異種シアリルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列を発現するように遺伝子操作されている。この目的のために、異種シアリルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列は、遺伝子操作された細胞において、異種シアリルトランスフェラーゼをコードする該ヌクレオチド配列の転写及び/又は翻訳を実施する少なくとも1つの発現制御に操作可能に結合される。
【0061】
本明細書中で使用される「操作可能に結合される」という用語は、異種シアリルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列、第2のヌクレオチド配列、核酸発現制御配列(プロモーター、オペレーター、エンハンサー、調節因子、転写因子結合部位のアレイ、転写ターミネーター、リボソーム結合部位等)間の機能的結合を指し、ここで、発現制御配列は、異種シアリルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列に対応する核酸の転写及び/又は翻訳に影響を及ぼす。したがって、「プロモーター」という用語は、DNAポリマー中の遺伝子に通常「先行」し、mRNAへの転写の開始部位を提供するDNA配列を指定する。「調節因子」DNA配列も、通常、所定のDNAポリマー中の遺伝子の「上流」に位置し(すなわち、先行し)、転写開始の頻度(又は速度)を決定するタンパク質と結合する。「プロモーター/調節因子」又は「制御」DNA配列と総称される、機能的DNAポリマー中の選択された遺伝子(又は一連の遺伝子)に先行するこれらの配列は、遺伝子の転写(及び最終的な発現)が起こるか否かを決定するために協働する。DNAポリマー中の遺伝子に「続き」、mRNAへの転写の終了のシグナルを提供するDNA配列は、転写「ターミネーター」配列と呼ばれる。
【0062】
追加的及び/又は代替的な実施形態において、α-2,3-シアリルトランスフェラーゼ活性を有することができる異種シアリルトランスフェラーゼは、
I.配列番号1~27のいずれか1つによって表される、アミノ酸配列を含むか、これからなるポリペプチド、
II.配列番号1~27のいずれか1つによって表される、アミノ酸配列のいずれかと少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は99%超の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、これからなるペプチド、
III.I.及びII.のポリペプチドのいずれか1つの断片
からなる群から選択される。
【0063】
追加的及び/又は代替的な実施形態において、遺伝子操作された微生物細胞は、α-2,3-シアリルトランスフェラーゼ活性を有することができる異種シアリルトランスフェラーゼをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列を含む核酸分子を含み、ここで、少なくとも1つのヌクレオチド配列は、
i.配列番号1~27のいずれか1つによって表される、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、
ii.配列番号34~60のいずれか1つによって表されるヌクレオチド配列、
iii.配列番号1~27のいずれか1つによって表されるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の1つと少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は99%超の配列同一性を有するヌクレオチド配列、
iv.配列番号34~60によって表されるヌクレオチド配列のいずれか1つと少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は99%超の配列同一性を有するヌクレオチド配列、
v.i.、ii.、iii.及びivのヌクレオチド配列のいずれか1つと相補的なヌクレオチド配列、
vi.i.、ii.、iii.、iv.及びv.のヌクレオチド配列のいずれか1つのいずれか1つの断片
からなる群から選択され、該ヌクレオチド配列は、α-2,3-シアリルトランスフェラーゼ活性を提供するために、遺伝子操作された微生物細胞において該ヌクレオチド配列の転写及び/又は翻訳を実施する少なくとも1つの核酸発現制御配列に操作可能に結合される。
【0064】
追加的及び/又は代替的な実施態様において、α-2,3-シアリルトランスフェラーゼ活性を有することができる異種シアリルトランスフェラーゼは、LC-MS/MSを用いるLLTシアリル化の定量分析による配列番号27で表されるシアリルトランスフェラーゼの相対的効力と比較して、少なくとも100倍、少なくとも200倍、少なくとも300倍、少なくとも1000倍、少なくとも10,000倍の相対的効力を有する。
【0065】
別の実施形態において、異種シアリルトランスフェラーゼは、α-2,6-シアリルトランスフェラーゼ活性を有することができる。
【0066】
追加的な実施形態において、α-2,6-シアリルトランスフェラーゼ活性を有することができる異種シアリルトランスフェラーゼは、
I.配列番号28~33のいずれか1つによって表される、アミノ酸配列を含むか、これからなるポリペプチド、
II.配列番号28~33のいずれか1つによって表される、アミノ酸配列のいずれかと少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は99%超の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、これからなるペプチド、
III.I.及びII.のポリペプチドのいずれか1つの断片
からなる群から好ましくは選択される。
【0067】
追加的及び/又は代替的な実施形態において、遺伝子操作された微生物細胞は、α-2,6-シアリルトランスフェラーゼ活性を有することができる異種シアリルトランスフェラーゼをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列を含む核酸分子を含み、ここで少なくとも1つのヌクレオチド配列は、
i.配列番号28~33のいずれか1つによって表される、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、
ii.配列番号61~66のいずれか1つによって表されるヌクレオチド配列、
iii.配列番号28~33のいずれか1つによって表されるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の1つと少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は99%超の配列同一性を有するヌクレオチド配列、
iv.配列番号61~66によって表されるヌクレオチド配列のいずれか1つと少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は99%超の配列同一性を有するヌクレオチド配列、
v.i.、ii.、iii.及びivのヌクレオチド配列のいずれか1つと相補的なヌクレオチド配列、
vi.i.、ii.、iii.、iv.及びv.のヌクレオチド配列のいずれか1つの断片
からなる群から選択され、該ヌクレオチド配列は、α-2,6-シアリルトランスフェラーゼ活性を提供するために、遺伝子操作された微生物細胞において該ヌクレオチド配列の転写及び/又は翻訳を実施する少なくとも1つの核酸発現制御配列に操作可能に結合される。
【0068】
追加的及び/又は代替的な実施態様において、α-2,6-シアリルトランスフェラーゼ活性を有することができる異種シアリルトランスフェラーゼは、LNTシアリル化の定量分析による配列番号33で表されるシアリルトランスフェラーゼの相対的効力と比較して、少なくとも100倍、より好ましくは少なくとも200倍、最も好ましくは少なくとも300倍の相対的効力を有する。
【0069】
追加的及び/又は代替的な実施態様において、異種シアリルトランスフェラーゼは、α-2,8-シアリルトランスフェラーゼ活性を有することができる。α-2,8-シアリルトランスフェラーゼ活性を有することができる異種シアリルトランスフェラーゼの例は、カンピロバクター・ジェジュニOH4384のシアリルトランスフェラーゼCstIIである。
【0070】
シアリルトランスフェラーゼは、例えばN-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)残基のようなシアル酸残基を、例えばCMP-Neu5Acのような供与体基質から受容体分子に移すことができる。受容体分子は糖分子であり、好ましくは表2に示す糖分子である。
【0071】
【表2】
【0072】
表2:シアリル化糖の産生のための受容体基質として用いられ得る糖の一覧。シアリル化糖自体もまた、さらなるシアリル化糖の産生のための受容体基質として使用され得る。
【0073】
追加的及び/又は代替的な実施形態において、受容体分子は単糖であり、好ましくはN-アセチルグルコサミン、ガラクトース及びN-アセチルガラクトサミンからなる群から選択される単糖である。
【0074】
追加的及び/又は代替的な実施形態において、受容体分子は二糖であり、好ましくはラクトース、ラクツロース、N-アセチルラクトサミン、ラクト-N-ビオース、ラクツロース及びメリビオースからなる群から選択される二糖である。
【0075】
追加的及び/又は代替的な実施形態において、受容体分子は三糖であり、好ましくはラフィノース、ラクト-N-トリオースII、2’-フコシルラクトース、3-フコシルラクトース、3’-シアリルラクトース、6’-シアリルラクトース、3’-シアリル-N-アセチルラクトサミン、6’-シアリル-N-アセチルラクトサミン、3’-ガラクトシルラクトース及び6’-ガラクトシルラクトースからなる群から選択される三糖である。
【0076】
追加的及び/又は代替的な実施形態において、受容体分子は四糖であり、好ましくはラクト-N-テトラオース、ラクト-N-ネオテトラオース、2’3-ジフコシルラクトース、3-フコシル-3’-シアリルラクトース及び3-フコシル-6’-シアリルラクトースからなる群から選択される四糖である。
【0077】
追加的及び/又は代替的な実施形態において、受容体分子は五糖であり、好ましくはシアリルラクト-N-テトラオースa、シアリルラクト-N-テトラオースb、シアリルラクト-N-テトラオースc、ラクト-N-フコペンタオースI、ラクト-N-フコペンタオースII、ラクト-N-フコペンタオースIII、ラクト-N-フコペンタオースV、ラクト-N-ネオフコペンタオースI及びラクト-N-ネオフコペンタオースVからなる群から選択される五糖である。
【0078】
本明細書において言及される酵素に関して本明細書で使用される「機能的バリアント」という用語は、活性を喪失することなく指定された酵素のポリペプチドバリアントを指し、そのポリペプチドバリアントは、指定された酵素のアミノ酸配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%の同一性を共有する。このことは、これらのポリペプチドが由来するゲノム配列データにある程度のばらつきがある可能性、また、これらのポリペプチドに存在するアミノ酸のいくつかが、酵素の触媒活性に大きな影響を与えずに置換できる可能性を考慮に入れている。
【0079】
「機能的バリアント」という用語はまた、触媒活性の有意な損失を伴わない酵素の切断されたバリアントを表す、指定された酵素のポリペプチドバリアントを含む。したがって、切断されたバリアントのアミノ酸配列は、1つ、2つ又は3つ以上の連続したアミノ酸の伸長が存在しないという点で、指定された酵素のアミノ酸配列とは異なる可能性がある。切断はアミノ末端(N末端)、カルボキシル末端(C末端)及び/又は指定された酵素のアミノ酸配列内であり得る。
【0080】
「操作可能に結合された」という用語は、核酸発現制御配列(例えば、プロモーター、シグナル配列、又は転写因子結合部位のアレイ)と第2の核酸配列との間の機能的結合を指し、ここで、発現制御配列は、第2の配列に対応する核酸の転写及び/又は翻訳に影響を及ぼす。
【0081】
前記酵素をコードする1つ以上の遺伝子を既に保有し、かつNeuNAc、CMP-NeuNAc及び/又はシアリル化糖を産生するのに十分な方法で前記遺伝子を発現する微生物細胞は、シアル酸生合成を完了し、シアル酸部分を糖受容体に移すように遺伝子操作される必要はないが、それにもかかわらず、例えばグルタミン:フルクトース-6-リン酸アミノトランスフェラーゼ、グルコサミン-6-リン酸N-アセチルトランスフェラーゼ、N-アセチルグルコサミン-6-リン酸ホスファターゼ、N-アセチルグルコサミン2-エピメラーゼ並びに/又はN-アセチルノイラミン酸シンターゼの量等、前記1つ以上の遺伝子産物の細胞内濃度を増加させるように前記遺伝子の1つ以上の発現レベルを変化させるように遺伝子操作されてもよく、その結果、遺伝子操作された細胞においてNeu5Ac生合成速度を増加させ、その結果シアリル化糖の速度を増加させることができる。
【0082】
追加的及び/又は代替的な実施形態において、遺伝子操作された微生物細胞は、該細胞の野生型よりも多くのPEPを合成する。追加的及び/又は代替的な実施形態において、遺伝子操作された微生物細胞は、増強されたPEP生合成経路を有するように遺伝子操作されている。好ましくは、遺伝子操作された微生物細胞は、例えばホスホエノールピルビン酸シンターゼ遺伝子をコードするppsA遺伝子が過剰発現される、及び/又は自然に存在しない微生物がホスホエノールピルビン酸シンターゼ又はその機能的バリアントの発現を可能にするヌクレオチド配列の少なくとも1つの追加コピーを含むという点で、向上したホスホエノールピルビン酸シンターゼ活性を有するように遺伝子操作されている。ppsAの過剰発現は、シアル酸の産生のためにより多くのPEPが利用できるように、細胞内PEP合成を高める。例えば適切なホスホエノールピルビン酸シンターゼは大腸菌のPpsAである。
【0083】
追加的及び/又は代替的な実施形態において、遺伝子操作された微生物細胞は、大腸菌PpsA又はその機能的バリアントをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子を含む。大腸菌PpsA又はその機能的バリアントをコードする前記ヌクレオチド配列は、大腸菌ppsA遺伝子と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%の配列同一性を有する。
【0084】
追加的及び/又は代替的な実施形態において、遺伝子操作された微生物細胞は、スクロースパーミアーゼ、スクロースヒドロラーゼ、フルクトキナーゼ、L-グルタミン:D-フルクトース-6-リン酸アミノトランスフェラーゼ、グルコサミン-6-リン酸-N-アセチルトランスフェラーゼ、N-アセチルグルコサミン-2-エピメラーゼ、シアル酸シンターゼ、ホスホエノールピルビン酸シンターゼからなる群から選択される酵素活性を有することができるポリペプチドをコードする1つ以上の遺伝子をさらに含んでおり、これらの遺伝子の少なくとも1つ、好ましくは全てが、野生型微生物細胞と比較して遺伝子操作された微生物細胞内で過剰発現される。
【0085】
追加的及び/又は代替的な実施形態において、遺伝子操作された微生物細胞の前駆細胞株において自然に生じるシアル酸異化経路が、遺伝子操作された微生物細胞において障害される。
【0086】
前記方法及び遺伝子操作された微生物細胞の追加的及び/又は代替的な実施形態において、遺伝子操作された微生物細胞は、遺伝子操作された微生物細胞の前駆細胞と比較して、α-N-アセチルガラクトサミニダーゼ(例えば、NagA)、N-アセチルグルコサミンキナーゼ(例えば、NagK)、N-アセチルノイラミン酸リアーゼ(=N-アセチルノイラミン酸アルドラーゼ、例えばNanA等)、β-ガラクトシダーゼ、グルコサミン-6-リン酸デアミナーゼ、N-アセチル-グルコサミン-6-リン酸デアセチラーゼ、N-アセチルマンノサミンキナーゼ及び/又はN-アセチルマンノサミン-6-リン酸エピメラーゼからなる群から選択される1つ以上の酵素活性を欠くか、又は該活性が低下している。
【0087】
前記方法及び遺伝子操作された微生物細胞の追加的及び/又は代替的な実施形態において、遺伝子操作された微生物細胞は、N-アセチルグルコサミン-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼ、グルコサミン-1-リン酸アセチルトランスフェラーゼ、ホスホグルコサミンムターゼ、UDP-N-アセチルグルコサミン-2-エピメラーゼ、UDP-ガラクトース-4-エピメラーゼ、ガラクトース-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼ、ホスホグルコムターゼ、グルコース-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼ、ホスホマンノムターゼ、マンノース-1-リン酸グアノシルトランスフェラーゼ、GDP-マンノース-4,6-デヒドラターゼ、GDP-L-フコースシンターゼ及びフコースキナーゼ/L-フコース-1-リン酸グアニルトランスフェラーゼからなる群から選択される酵素活性を有することができるポリペプチドをコードする1つ以上の遺伝子をさらに含む。
【0088】
追加的及び/又は代替的な実施形態において、遺伝子操作された微生物細胞は、機能的ラクトースパーミアーゼ、機能的シアル酸トランスポーター(エクスポーター)からなる群から選択される少なくとも1つを含み、好ましくは機能的ラクトースパーミアーゼ、機能的スクロースパーミアーゼ、機能的シアル酸トランスポーター(エクスポーター)からなる群から選択される1つをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列を含み、かつ発現し、好ましくはこれらのヌクレオチド配列の少なくとも1つが細胞内で過剰発現される。
【0089】
追加的及び/又は代替的な実施形態において、遺伝子操作された微生物細胞は、PEPを消費しない機構により前記唯一の炭素源を細胞内に移すことができるようにさらに組み換えられる。
【0090】
追加的及び/又は代替的な実施形態において、遺伝子操作された微生物細胞は、機能的スクロース利用システムを有する。前記機能的スクロース利用システムは、外因的に供給されたスクロースの細胞持ち込み及びその加水分解を可能にし、得られた単糖であるグルコース及びフルクトースを、遺伝子操作された細胞の代謝によって及び所望のシアリル化オリゴ糖産生のために代謝的に利用することができるようにする。
【0091】
追加的及び/又は代替的な実施形態において、遺伝子操作された微生物細胞は、機能的スクロース利用システムを有するように遺伝子組み換えされている。追加的及び/又は代替的な実施形態において、自然に存在しない微生物のスクロース利用システムは、スクロースプロトン共輸送系、フルクトキナーゼ、インベルターゼ及びスクロースオペロンリプレッサーを含む。
【0092】
適切なスクロースプロトン共輸送系はCscBであり、大腸菌のcscB遺伝子によってコードされており、例えば大腸菌のcscB遺伝子によってコードされている大腸菌のCscB(UniProtKB-P30000)である。
【0093】
適切なフルクトキナーゼ(EC2.7.1.4)は、cscK遺伝子によってコードされるCscKであり、例えば大腸菌のcscK遺伝子によってコードされる大腸菌のCscK(UniProtKB-P40713)である
【0094】
β-D-フルクトフラノシド中の末端非還元β-D-フルクトフラノシド残基を加水分解する適切なインベルターゼ(EC3.2.1.26)はCscAであり、例えば大腸菌のcscA遺伝子によってコードされる大腸菌のCscA(UniProtKB-O86076)である。
【0095】
適切なスクロースオペロンリプレッサーは、cscR遺伝子によってコードされるCscRであり、例えば大腸菌のcscR遺伝子によってコードされる大腸菌のCscR(UniProtKB-P62604)である。
【0096】
追加的及び/又は代替的な実施形態において、遺伝子操作された細胞は、スクロースプロトン共輸送系、フルクトキナーゼ、インベルターゼ及びスクロースオペロンリプレッサー又はこれらのタンパク質のいずれか1つの機能的バリアントを有するように遺伝子操作されている。
【0097】
追加的及び/又は代替的な実施形態において、遺伝子操作された細胞は、スクロースプロトン共輸送系、フルクトキナーゼ、インベルターゼ及びスクロースオペロンリプレッサーの発現のために、スクロースプロトン共輸送系、フルクトキナーゼ、インベルターゼ及びスクロースオペロンリプレッサーをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子を有するように遺伝子操作されている。追加的及び/又は代替的な実施形態において、遺伝子操作された細胞は、遺伝子cscB、cscK、cscA、好ましくは大腸菌遺伝子cscB、cscK、cscA及びcscRを発現するように遺伝子操作されている。
【0098】
追加的及び/又は代替的な実施形態において、CscB、CscK、CscA又はCscRの機能的バリアントをコードするヌクレオチド配列は、それぞれ大腸菌cscB、cscK、cscA又はcscRと少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%の配列同一性を有する。
【0099】
追加的及び/又は代替的な実施形態において、自然に存在しない微生物は、β-ガラクトシドパーミアーゼ及びβ-ガラクトシダーゼを発現する。
【0100】
追加的及び/又は代替的な実施形態において、自然には存在しない微生物は、β-ガラクトシドパーミアーゼ、好ましくは大腸菌ラクトースパーミアーゼLacY(配列番号93)又はその機能的バリアント、及びβ-ガラクトシダーゼ、好ましくは大腸菌LacZ(配列番号95)又はその機能的バリアントを発現するように遺伝子操作されている。追加的及び/又は代替的な実施形態において、自然に存在しない微生物は、β-ガラクトシドパーミアーゼをコードするヌクレオチド配列、好ましくは大腸菌LacY(配列番号94)又はその機能的バリアントをコードするヌクレオチド配列、及び/又はβ-ガラクトシダーゼをコードするヌクレオチド配列、好ましくは大腸菌LacZ(配列番号96)又はその機能的バリアントをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子を保有するように遺伝子操作されている。
【0101】
追加的及び/又は代替的な実施形態において、大腸菌LacY又はその機能的バリアントをコードするヌクレオチド配列は、大腸菌LacYと少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%の配列同一性を有する。
【0102】
追加的及び/又は代替的な実施形態において、大腸菌LacZ又はその機能的バリアントをコードするヌクレオチド配列は、大腸菌LacZと少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%の配列同一性を有する。
【0103】
CMP-Neu5Acを産生することができ、かつ機能的β-ガラクトシドパーミアーゼ及び機能的β-ガラクトシダーゼを発現する自然に存在しない微生物は、唯一の炭素源としてのラクトース上で前記自然に存在しない微生物の培養を可能にする。
【0104】
シアリル化糖を生産できる遺伝子操作された微生物細胞は、任意選択的に追加の特徴を含むことができ、これらの追加の特徴を有するように遺伝子操作され得る。これらの追加の特徴は、より高いシアリル化糖収率をもたらす自然に存在しない微生物の生産性を向上させると考えられる。
【0105】
追加的及び/又は代替的な実施形態において、遺伝子操作された微生物細胞は、UDP-グルコース:ウンデカプレニルリン酸グルコース-1-リン酸トランスフェラーゼ活性を消失させるために、好ましくは、wcaJ遺伝子若しくはその機能的バリアントを欠失させることにより、wcaJ遺伝子若しくはその機能的バリアントの発現を損なうことにより、又は改変されたヌクレオチド配列によりコードされるポリペプチドがWcaJの酵素活性を有さないように、そのタンパク質コード領域に突然変異を導入することによりWcaJ酵素の活性を消失させることにより遺伝子操作されている。WcaJはUDP-グルコース:ウンデカプレニルリン酸グルコース-1-リン酸トランスファーゼをコードする。前記UDP-グルコース:ウンデカプレニルリン酸グルコース-1-リン酸トランスファーゼは、コラン酸生合成における最初の酵素である。
【0106】
追加的及び/又は代替的な実施形態において、β-ガラクトシダーゼ遺伝子(lacZ)が欠失しているか、β-ガラクトシダーゼ遺伝子(lacZ)の発現が損なわれているか、又はβ-ガラクトシダーゼ遺伝子のタンパク質コード領域のヌクレオチド配列が改変されており、改変されたヌクレオチド配列によってコードされるポリペプチドがβ-ガラクトシダーゼの酵素活性を有さない点で、遺伝子操作された微生物細胞が遺伝子操作されている。
【0107】
追加的及び/又は代替的な実施形態において、ガラクトースキナーゼをコードする遺伝子(例えばgalK遺伝子)が欠失しているか、galK遺伝子の発現が損なわれているか、又はgalK遺伝子のタンパク質コード領域のヌクレオチド配列が改変されており、改変されたヌクレオチド配列によってコードされるポリペプチドがガラクトースキナーゼの酵素活性を有さない点で、遺伝子操作された微生物細胞が遺伝子操作されている。galK遺伝子/GalKの欠失又は不活性化は、遺伝子操作された微生物細胞がシアリル化反応のみの受容体基質としてガラクトースを利用できる点で有利である。
【0108】
追加的及び/又は代替的な実施形態において、N-アセチルガラクトサミニダーゼ(nagA)をコードする遺伝子が欠失しているか、その発現が損なわれているか、又はそのタンパク質コード領域のヌクレオチド配列が改変されており、改変されたヌクレオチド配列によってコードされるポリペプチドがN-アセチルガラクトサミニダーゼの酵素活性を有さない点で、遺伝子操作された微生物細胞が遺伝子操作されている。nagA/NagAの欠失又は不活性化は、遺伝子操作された微生物細胞がシアリル化反応のみの受容体としてGlcNAc又はGlcNAc-6-リン酸塩を利用できる点で有利である。
【0109】
追加的及び/又は代替的な実施形態において、遺伝子操作された微生物細胞は、フコースイソメラーゼ活性を消失させるために、好ましくはfucI遺伝子の欠失によって、又はfucI遺伝子の発現を損なうことによって、又は改変されたヌクレオチド配列によってコードされるポリペプチドがフコースイソメラーゼ活性を有さないようにfucI遺伝子のタンパク質コード領域を改変することによって、遺伝子操作されている。例えば大腸菌のL-フコースイソメラーゼFucI(UniProtKB-P69922)は、大腸菌のfucI遺伝子によってコードされる。
【0110】
フクロキナーゼはフコースのリン酸化を触媒する。フクロキナーゼは、L-フコースからL-ラクトアルデヒド及びグリセロンリン酸塩を合成する副経路の第2の酵素である。大腸菌フクロキナーゼFucK(UniProtKB-P11553)は大腸菌fucK遺伝子によってコードされる。また、大腸菌フクロキナーゼは、D-リブロース、D-キシルロース及びD-フルクトースを低効率ではあるが、リン酸化することができる。
【0111】
追加的及び/又は代替的な実施形態において、遺伝子操作された細胞は、フコースイソメラーゼ活性を消失させるために、好ましくはfucK遺伝子の欠失によって、又はfucK遺伝子の発現を損なうことによって、又は改変されたヌクレオチド配列によってコードされるポリペプチドがフコースイソメラーゼ活性を有さないように、fucK遺伝子のタンパク質コード領域に突然変異を導入することによって、遺伝子操作されている。
【0112】
N-アセチルガラクトサミン-6-リン酸デアセチラーゼは次の反応、すなわちN-アセチル-D-ガラクトサミン6-リン酸+HO→D-ガラクトサミン6-リン酸塩+酢酸塩を触媒する。N-アセチルガラクトサミン-6-リン酸デアセチラーゼはagaA遺伝子によってコードされる。大腸菌では、N-アセチルガラクトサミン-6-リン酸デアセチラーゼAgaA(UniProtKB-P42906)は大腸菌agaA遺伝子によってコードされる。
【0113】
追加的及び/又は代替的な実施形態において、遺伝子操作された微生物細胞は、N-アセチルガラクトサミン-6-リン酸デアセチラーゼ活性を消失させるために、好ましくはagaA遺伝子の欠失、agaA遺伝子の発現の障害、又は改変されたヌクレオチド配列によってコードされるポリペプチドがN-アセチルガラクトサミン-6-リン酸デアセチラーゼ活性を有さないようにagaA遺伝子のタンパク質コード領域に突然変異を導入することによって、遺伝子操作されている。
【0114】
追加的及び/又は代替的な実施形態において、少なくとも1つの遺伝子操作された微生物細胞は、UDP-N-アセチルグルコサミン、UDP-ガラクトース及びGDP-フコースからなる群から選択される1つ以上のヌクレオチド活性化糖の産生増加を有する。好ましくは、少なくとも1つの遺伝子操作された微生物細胞は、ヌクレオチド活性化糖の1つ以上の産生増加を有するようにさらに遺伝子操作されている。前記ヌクレオチド活性化糖の少なくとも1つの産生は、該ヌクレオチド活性化糖の少なくとも1つの産生増加を有するようにさらに遺伝子操作される前に、さらに遺伝子操作された微生物細胞の前駆細胞における同じヌクレオチド活性化糖の産生と比較して、さらなる遺伝子操作された細胞において増加する。
【0115】
追加的及び/又は代替的な実施態様において、少なくとも1つの微生物細胞は、L-グルタミン:D-フルクトース-6-リン酸アミノトランスフェラーゼ、N-アセチル-グルコサミン-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼ、グルコサミン-1-リン酸アセチルトランスフェラーゼ、ホスホグルコサミンムターゼ、UDP-ガラクトース-4-エピメラーゼ、ガラクトース-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼ、ホスホグルコムターゼ、グルコース-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼ、ホスホマンノムターゼ、マンノース-1-リン酸グアノシルトランスフェラーゼ、GDP-マンノース-4,6-デヒドラターゼ、GDP-L-フコースシンターゼ及びフコースキナーゼ/L-フコース-1-リン酸グアニルトランスフェラーゼからなる群から選択される酵素活性を有することができるポリペプチドをコードする1つ以上の遺伝子を過剰発現するようにさらに遺伝子操作されている。
【0116】
現在、そして一般分野において理解されており、ここではそれぞれ本明細書で論じる全てのポリヌクレオチド又は核酸に関して、1つ以上の遺伝子又はポリペプチドの過剰発現は、1以上の遺伝子又はポリペプチドの過剰発現を有するようにさらに遺伝子操作される前に、さらなる遺伝子操作された微生物細胞の前駆細胞と比較して過剰発現する。
【0117】
前記遺伝子の1以上の過剰発現は、遺伝子操作された微生物細胞内の対応するポリペプチド、すなわち酵素の量を増加させ、そのため細胞内の対応する酵素活性を増加させて、シアリル化糖類の細胞内産生を高める。
【0118】
追加的及び/又は代替的な実施形態において、少なくとも1つの遺伝子操作された細胞は、遺伝子操作される前の細胞と比較して、β-ガラクトシダーゼ活性、グルコサミン-6-リン酸デアミナーゼ、N-アセチルグルコサミン-6-リン酸デアセチラーゼ、N-アセチルマンノサミンキナーゼ、N-アセチルマンノサミン-6-リン酸エピメラーゼ及びN-アセチルノイラミン酸アルドラーゼからなる群から選択される1つ以上の酵素活性を欠くか、又は該活性が低下している。
【0119】
追加的及び/又は代替的な実施形態において、β-ガラクトシダーゼ、グルコサミン-6-リン酸デアミナーゼ、N-アセチルグルコサミン-6-リン酸デアセチラーゼ、N-アセチルマンノサミンキナーゼ、N-アセチルマンノサミン-6-リン酸エピメラーゼ及びN-アセチルノイラミン酸アルドラーゼをコードする遺伝子の1つ以上が、遺伝子操作された細胞のゲノムから欠失しているか、又はβ-ガラクトシダーゼ、グルコサミン-6-リン酸デアミナーゼ、N-アセチルグルコサミン-6-リン酸デアセチラーゼ、N-アセチルマンノサミンキナーゼ、N-アセチルマンノサミン-6-リン酸エピメラーゼ及びN-アセチルノイラミン酸アルドラーゼをコードする遺伝子の1つ以上の発現が、細胞のさらなる遺伝子操作によって遺伝子操作された細胞において不活性化又は少なくとも低下している。前記遺伝子の発現は、前記遺伝子の発現を低下させるようにさらに遺伝子操作される前に、さらなる遺伝子操作された細胞の前駆細胞と比較して、さらなる遺伝子操作された細胞において低下している。
【0120】
遺伝子操作された微生物細胞、好ましくは原核細胞。適切な微生物細胞には、酵母細胞、細菌細胞、古細菌細胞、藻類細胞、及び真菌細胞が含まれる。
【0121】
追加的及び/又は代替的な実施形態において、遺伝子操作された微生物細胞は、細菌細胞であり、好ましくは、バチルス(Bacillus)、ラクトバチルス(Lactobacillus)、ラクトコッカス(Lactococcus)、エンテロコッカス(Enterococcus)、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)、スポロラクトバチルス種(Sporolactobacillus)、ミクロモモスポラ種(Micromomospora)、ミクロコッカス種(Micrococcus)、ロドコッカス種(Rhodococcus)、及びプセウドモナス(Pseudomonas)からなる群から選択される細菌細胞である。適切な細菌種は、バチルス・スブティリス(subtilis)、バチルス・リケニフォルミス(licheniformis)、バチルス・コアグランス(coagulans)、バチルス・サーモフィルス(thermophilus)、バチルス・ラテロスポルス(laterosporus)、バチルス・メガテリウム(megaterium)、バチルス・ミコイデス(mycoides)、バチルス・プミルス(pumilus)、バチルス・レンツス(lentus)、バチルス・セレウス(cereus)、バチルス・シルクランス(circulans)、ビフィドバクテリウム・ロングム(longum)、ビフィドバクテリウム・インファンティス(infantis)、ビフィドバクテリウム・ビフィドゥム(bifidum)、シトラバクター・フレウンディイ(Citrobacter freundii)、クロストリジウム・セルロリティクム(Clostridium cellulolyticum)、クロストリジウム・リュングダリ(ljungdahlii)、クロストリジウム・オートエタノゲヌム(autoethanogenum)、クロストリジウム・アセトブチリクム(acetobutylicum)、コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)、エンテロコッカス・フェシウム(faecium)、エンテロコッカス・サーモフィレス(thermophiles)、大腸菌、エルウィニア・ヘルビコラ(Erwinia herbicola(ポントエア・アグロメランス(Pantoea agglomerans))、ラクトバチルス・アシドフィルス(acidophilus)、ラクトバチルス・サリバリウス(salivarius)、ラクトバチルス・プランタルム(plantarum)、ラクトバチルス・ヘルベティカス(helveticus)、ラクトバチルス・デルブルエッキイ(delbrueckii)、ラクトバチルス・ラムノサス(rhamnosus)、ラクトバチルス・ブルガリクス(bulgaricus)、ラクトバチルス・クリスパタス(crispatus)、ラクトバチルス・ガセリ(gasseri)、ラクトバチルス・カゼイ(casei)、ラクトバチルス・ロイテリ(reuteri)、ラクトバチルス・ジェンセニイ(jensenii)、ラクトコッカス・ラクティス(lactis)、パントエア・シトレア(pantoea citreaz)、ペクトバクテリウム・カロトボラム(Pectobacterium carotovorum)、プロプリオニバクテリウム・フロイデンライシイ(Proprionibacterium freudenreichii)、プセウドモナス・フルオレセンス(fluorescens)、プセウドモナス・アエルギノーサ(aeruginosa)、ストレプトコッカス・サーモフィレス(thermophiles)及びキサントモナス・カンペストリス(Xanthomonas campestris)である。
【0122】
代替的な実施態様において、遺伝子操作された細胞は、酵母細胞であり、好ましくは、サッカロマイセス種(Saccharomyces)、特にサッカロマイセス・セレビシエ(cerevisiae)、サッカロマイセス種、ピキア種(Pichia)、特にピキア・パストリス(pastoris)、ハンゼヌラ種(Hansenula)、クルイベロマイセス種(Kluyveromyces)、ヤロウィア種(Yarrowia)、ロドトルラ種(Rhodotorula)、及びシゾサッカロマイセス種(Schizosaccharomyces)からなる群から選択される。
【0123】
遺伝子操作された細胞は、NeuNAc生合成経路、シチジン5’-モノホスホ(CMP)-シアル酸シンテターゼ活性、及びシアリルトランスフェラーゼ活性を含むように遺伝子操作されている。
【0124】
本明細書中で使用される「遺伝子操作された」という用語は、分子生物学的方法を用いる微生物細胞の遺伝子構成の組み換えを指す。微生物細胞の遺伝子構成の組み換えは、遺伝子発現を媒介及び/又は制御するヌクレオチド、トリプレット、遺伝子、オープンリーディングフレーム、プロモーター、エンハンサー、ターミネーター及び他のヌクレオチド配列を挿入、欠失、置き換え及び組み換えする、種の境界内及び/又は種の境界を越えた遺伝子の移入を含み得る。微生物細胞の遺伝子構成の組み換えは、特定の所望の特性を有する遺伝子組換え生物を生成することを目的とする。遺伝子操作された微生物細胞は、細胞の天然型(遺伝子操作されていない)には存在しない1つ以上の遺伝子を含むことができる。細胞の遺伝情報のヌクレオチド配列を挿入、欠失又は変更するために、外因性核酸分子(組換え、異種)を細胞の遺伝情報に導入する及び/又は外因性核酸分子(組換え、異種)を挿入するための技術は、当業者に知られている。遺伝子操作された微生物細胞は、細胞の天然型に存在する1つ以上の遺伝子を含むことができ、ここで、この遺伝子は人工的手段によって組み換えられ、微生物細胞に再導入される。「遺伝子操作された」という用語はまた、細胞に対して内因性である核酸分子を含み、かつ細胞からこの核酸分子を除去することなく組み換えられた微生物細胞を包含する。このような組み換えには、遺伝子置換、部位特異的突然変異、及び関連技術によって得られるものが含まれる。
【0125】
本明細書で使用される「異種性」という用語は、細胞又は生物にとって異物であるポリペプチド、アミノ酸配列、核酸分子又はヌクレオチド配列、すなわち、該細胞又は生物において自然には生じないポリペプチド、アミノ酸配列、核酸分子又はヌクレオチド配列を指す。本明細書で使用される「異種配列」又は「異種核酸」又は「異種ポリペプチド」とは、特定の宿主細胞(例えば、異なる種由来)にとって異物の供給源に由来するもの、又は、同一の供給源に由来する場合は、その原形から組み換えられたものである。したがって、プロモーターに操作可能に結合された異種核酸は、プロモーターが由来したものとは異なる供給源由来であるか、又は同じ供給源に由来する場合には、その原形から組み換えられる。異種配列は、例えば、トランスフェクション、形質転換、接合又は形質導入によって、宿主微生物である宿主細胞のゲノムに安定に導入され得、このようにして、遺伝子的に組み換えられた宿主細胞を表す。配列を導入する宿主細胞に依存する技術を適用することができる。様々な技術は当業者に知られており、例えばSambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.(1989)に開示されている。したがって、「異種ポリペプチド」は、細胞内で自然には生じないポリペプチドであり、「異種シアリルトランスフェラーゼ」は、微生物細胞内で自然には生じないシアリルトランスフェラーゼである。
【0126】
態様において、シアリル化糖を、本明細書に記載されているように遺伝子操作された微生物細胞を用いる発酵によって、すなわち、全細胞生体触媒作用によって産生することができる方法が提供される。シアリル化糖の産生は、発酵ブロスへのN-アセチルグルコサミン、N-アセチルマンノサミン及び/又はN-アセチルノイラミン酸の添加及び/又はシアリル化糖の細胞内生合成のためのN-アセチルグルコサミン、N-アセチルマンノサミン及び/又はN-アセチルノイラミン酸の存在下での遺伝子操作された微生物細胞の培養を必要としない。
【0127】
この方法では、少なくとも1つの遺伝子操作された微生物細胞を、発酵ブロス中で、及び少なくとも1つのN-アセチルノイラミン酸部分を含む糖の産生を許容する条件下で培養する。
【0128】
追加的及び/又は代替的な実施形態において、発酵ブロスは少なくとも1つの炭素源を含み、少なくとも1つの炭素源は、グルコース、フルクトース、スクロース、グリセロール及びそれらの組合せからなる群から選択されることが好ましい。
【0129】
この方法及び遺伝子組換え/遺伝子操作された微生物細胞は発酵ブロス中に炭素源を用いるが、N-アセチルノイラミン酸は該遺伝子操作された微生物細胞により細胞内で生産されるので、発酵ブロスにグルコサミン及び/又はN-アセチルノイラミン酸及び/又はN-アセチルグルコサミン及び/又はN-アセチルマンノサミンを加える必要はない。したがって、追加的及び/又は代替的な実施形態において、少なくとも1つの遺伝子操作された微生物細胞は、グルコサミン、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルマンノサミン及びN-アセチルノイラミン酸からなる群から選択される1つ以上の非存在下及び/又は添加なしで培養される。ガラクトースがシアリルトランスフェラーゼ反応の受容体基質として供給されない限り、遺伝子操作された微生物細胞をガラクトースの非存在下及び/又はガラクトースの添加なしで培養することができる。追加的及び/又は代替的な実施形態において、少なくとも1つの遺伝子操作された微生物細胞は、1つ以上の単糖(例えば、ガラクトース)、二糖(例えば、ラクトース)、三糖(例えば、ラクト-N-トリオースII)、四糖(例えば、ラクト-N-テトラオース)及び/又は五糖(例えば、シアリルラクト-N-テトラオースa)の存在下で培養される。
【0130】
追加的及び/又は代替的な実施形態によれば、少なくとも1つの遺伝子操作された微生物細胞は、ガラクトース、N-アセチルガラクトサミン、N-アセチルグルコサミン、ラクトース、ラクツロース、N-アセチルラクトサミン、ラクト-N-ビオース、ラクト-N-トリオース、2’-フコシルラクトース、3-フコシルラクトース、3’-シアリルラクトース、6’-シアリルラクトース、3’-シアリル-N-アセチルラクトサミン、6’-シアリル-N-アセチルラクトサミン、3’-ガラクトシルラクトース、6’-ガラクトシルラクトース、ラクト-N-トリオースII、ラクト-N-テトラオース、ラクト-N-ネオテトラオース、2’3-ジフコシルラクトース、3-フコシル-3’-シアリルラクトース、及び3-フコシル-6’-シアリルラクトースからなる群から選択される少なくとも1つの受容体基質の存在下で培養される。これらの基質は細胞内に取り込まれ、細胞内で受容体分子として用いられる。
【0131】
遺伝子操作された細胞は、成長、増殖及びシアリル化オリゴ糖の産生のための炭素源を必要とする。追加的及び/又は代替的な実施形態において、遺伝子操作された細胞は、例えばグリセロール、グルコース又はスクロースのような、安価な唯一の炭素源上で増殖することができる。前記唯一の炭素源は、遺伝子操作された細胞においてCMP-シアル酸生合成のための遊離体を提供する。したがって、シアリル化オリゴ糖の産生のために、Neu5Ac、ManNAc、GlcNAc又はグルコサミン(GlcN)の存在下で遺伝子操作された細胞を培養する必要はない。
【0132】
この方法は、発酵ブロス中でのその培養の間に、少なくとも1つの遺伝子操作された微生物細胞によって産生されたシアル化糖を回収する任意のステップを含む。シアリル化糖は、遺伝子操作された微生物細胞が、例えば遠心分離によって除去された後に発酵ブロスから回収することができ、及び/又は、例えば、細胞が遠心分離によって発酵ブロスから回収され、細胞溶解工程に供されるという点で、細胞から回収することができる。続いて、シアリル化糖は、当業者に既知の適切な技術によって、発酵ブロス及び/又は細胞溶解物からさらに精製することができる。適切な技術としては、精密ろ過、限外濾過、透析ろ過、模擬移動床型クロマトグラフィー、電気透析、逆浸透、ゲルろ過、陰イオン交換クロマトグラフィー、陽イオン交換クロマトグラフィー等が挙げられる。
【0133】
この方法及びこの方法で用いられる遺伝子操作された微生物細胞は、シアリル化糖の産生に用いられる。「シアリル化糖」という用語は、少なくとも1つのN-アセチルノイラミン酸部分を含む糖分子を指す。
【0134】
追加的及び/又は代替的な実施形態において、シアリル化糖はオリゴ糖である。本明細書で使用される「オリゴ糖」という用語は、単糖残基のポリマーであって、該ポリマーが少なくとも2つの単糖残基を含むが、10を超える単糖残基を含まないもの、好ましくは7を超えない単糖残基を含むものを指す。オリゴ糖は単糖の直鎖であるか、又は分岐しているもののいずれかである。さらに、オリゴ糖の単糖残基は多数の化学修飾を特徴とし得る。したがって、オリゴ糖は1つ以上の非糖部分を含むことができる。本明細書で使用される「シアリル化オリゴ糖」という用語は、1つ以上のN-アセチルノイラミン酸部分を含むオリゴ糖を指す。
【0135】
追加的及び/又は代替的な実施形態によれば、シアリル化オリゴ糖は、3’-シアリルラクトース、6’-シアリルラクトース(lactse)、シアリルラクト-N-テトラオースa、シアリルラクト-N-テトラオースb、シアリルラクト-N-テトラオースc、フコシル-シアリルラクト-N-テトラオースa、フコシル-シアリルラクト-N-テトラオースb、フコシル-シアリルラクト-N-テトラオースc、ジシアリルラクト-N-テトラオース、フコシルジシアリルラクト-N-テトラオースI、フコシルジシアリルラクト-N-テトラオースII、3’-シアリルガラクトース、6’-シアリルガラクトース、3’-シアリル-N-アセチルラクトサミン及び6’-シアリル-N-アセチルラクトサミンからなる群から選択される。
【0136】
本発明の別の態様において、全細胞発酵法においてシアリル化糖の産生のための、本明細書に記載された遺伝子操作された微生物細胞の使用が提供され、すなわち、シアリル化糖は遺伝子操作された微生物細胞によって合成される。
【0137】
本発明の別の態様において、上記の方法によって、及び/又は先に本明細書に記載された遺伝子操作された微生物細胞を用いることによって産生されたシアリル化糖が提供される。追加的及び/又は代替的な実施形態において、シアリル化糖はシアリル化オリゴ糖であり、3’-シアリルラクトース、6’--シアリルラクトース(lacotse)、シアリルラクト-N-テトラオースa、シアリルラクト-N-テトラオースb、シアリルラクト-N-テトラオースc、フコシル-シアリルラクト-N-テトラオースa、フコシル-シアリルラクト-N-テトラオースb、フコシル-シアリルラクト-N-テトラオースc、ジシアリルラクト-N-テトラオース、フコシルジシアリルラクト-N-テトラオースI、フコシルジシアリルラクト-N-テトラオースII、3’-シアリルガラクトース、6’-シアリルガラクトース、3’-シアリル-N-アセチルラクトサミン及び6’-シアリル-N-アセチルラクトサミンからなる群から選択されるシアリル化オリゴ糖であることが好ましい。
【0138】
本発明の別の態様において、栄養組成物の製造のために、本明細書に先に記載された方法及び/又は本明細書に先に記載された遺伝子操作された微生物細胞を使用することによって産生されたシアリル化糖の使用が提供される。
【0139】
したがって、本発明の別の態様によれば、本明細書に先に記載された方法によって及び/又は遺伝子操作された微生物細胞によって産生された、少なくとも1つのシアリル化糖、好ましくは少なくとも1つのシアリル化オリゴ糖を含有する栄養組成物が提供される。追加的及び/又は代替的な実施形態において、シアリル化オリゴ糖は、3’-シアリルラクトース、6’-シアリルラクトース(lacotse)、シアリルラクト-N-テトラオースa、シアリルラクト-N-テトラオースb、シアリルラクト-N-テトラオースc、フコシル-シアリルラクト-N-テトラオースa、フコシル-シアリルラクト-N-テトラオースb、フコシル-シアリルラクト-N-テトラオースc、ジシアリルラクト-N-テトラオース、フコシルジシアリルラクト-N-テトラオースI、フコシルジシアリルラクト-N-テトラオースIIからなる群から選択される。
【0140】
追加的及び/又は代替的な実施形態において、栄養組成物は、さらに少なくとも1つの中性HMO、好ましくは2’-FLを含む。
【0141】
追加的及び/又は代替的な実施形態において、栄養組成物は3-SL、6-SL及び2’-FLを含む。
【0142】
追加の実施形態において、栄養組成物は、医薬、薬物、製剤、乳児用調製物及び栄養補助食品からなる群から選択される。
【0143】
栄養組成物は、液体形態で存在するか、又は粉末、顆粒、フレーク及びペレットを含むが、これらに限定されない固形形態で存在し得る。
【0144】
本発明は、特定の実施態様に関してさらに記載されるが、本発明は、これに限定されるものではなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。さらに、説明及び特許請求の範囲における第1、第2等の用語は、類似の要素を区別するために使用され、時間的、空間的、ランク付け又は他のいずれかの方法で順番を記述するために使用されるものでは必ずしもない。このように使用される用語は、適切な状況下では互換可能であり、本明細書に記載されている本発明の実施形態は、ここに記載又は図示されている以外の順番で操作可能であることが理解されるべきである。
【0145】
特許請求の範囲において使用される「含む」という用語は、その後に列挙された手段に限定されると解釈されるべきではない。したがって、それは他の要素又はステップを除外しない。よって、記載された特徴、言及された整数、ステップ又は構成要素の存在を特定するものと解釈されるが、一つ以上の他の特徴、整数、ステップ若しくは構成要素、又はそれらの群の存在又は追加を排除するものではない。したがって、「手段A及びBを含む装置」という表現の範囲は、構成要素A及びBのみからなる装置に限定されるべきではない。それは、本発明に関して、装置の唯一の関連する構成要素がA及びBであることを意味する。
【0146】
この明細書全体にわたる「1つの実施形態」又は「実施形態」に対する言及は、実施形態に関連して記載された特定の特徴、構造又は特性が本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、この明細書全体にわたる様々な場所における「1つの実施形態」又は「実施形態」という語句の外観は、必ずしも全てが同じ実施形態を参照しているわけではないが、それも可能である。さらに、特定の特徴、構造又は特性は、本開示から当業者に明らかなように、任意の適切な方法で、1つ以上の実施形態で組み合わされてもよい。
【0147】
同様に、本発明の例示的な実施形態の説明において、本発明の様々な特徴は、開示を合理化し、様々な発明の態様の1つ以上の理解を助ける目的で、時に単一の実施形態、図、又はその説明にまとめられることが認識されるべきである。しかし、開示のこの方法は、請求された発明が各請求項において明示されているものを超える特徴を必要とするという意図を反映していると解釈されるべきではない。むしろ、以下の特許請求の範囲が示すように、先に開示した単一の実施形態の全ての特徴よりも少ない特徴に発明的要素が存在する。したがって、詳細な説明に続く特許請求の範囲はこの詳細な説明に明示的に組み込まれ、各請求項は本発明の別個の実施形態としてそれ自体に基づく。
【0148】
さらに、本明細書に記載されるいくつかの実施形態は、他の実施形態に含まれるが他の特徴ではないいくつかの特徴を含むが、異なる実施形態の特徴の組合せは、本発明の範囲内であることを意味し、当業者によって理解されるであろうように、異なる実施形態を形成する。例えば、以下の特許請求の範囲では、請求された実施形態のいずれかを任意の組み合わせで用いることができる。
【0149】
さらに、実施形態のいくつかは、本明細書中では、コンピュータシステムの処理装置によって、又は機能を実行する他の手段によって実施することができる方法又は方法の要素の組合せとして記述される。このように、このような方法又は方法の要素を実施するために必要な指示を有する処理装置は、方法又は方法の要素を実施するための手段を形成する。さらに、装置の実施形態の本明細書に記載された要素は、本発明を実施する目的で該要素によって実行される機能を実施するための手段の一例である。
【0150】
本明細書に提供された説明及び図において、多数の具体的な詳細が示される。しかし、本発明の実施形態を、こうした特定の詳細なしで実施し得るということが理解される。他の例では、この記述の理解を不明瞭にしないために、周知の方法、構造及び技術は詳細には示されていない。
【0151】
以後、本発明は、本発明のいくつかの実施形態の詳細な説明によって記述される。本発明の他の実施形態は、本発明の真の精神又は技術的教示から逸脱することなく、当業者の知識に従って構成することができ、本発明は添付の特許請求範囲の用語によってのみ限定されることは明らかである。
【実施例
【0152】
図1~3は、NeuNAc、CMP-NeuNAc及びシアリル化糖の細胞内生合成の代替経路を表示するスキームを示す。
【0153】
本明細書に記載するように遺伝子組み換えされた細胞では、シアリル化糖類の発酵産生を達成することができる。提供された唯一の炭素源(例えば、スクロース)が微生物細胞に取り込まれ、代謝されてフルクトース6-リン酸塩が得られる(図1図3)。次に、L-グルタミン:D-フルクトース-6-リン酸アミノトランスフェラーゼ(GlmS)がフルクトース-6-リン酸塩をグルコサミン-6-リン酸塩へ変換し(図1図3)、これが次にグルコサミン-6-リン酸N-アセチルトランスフェラーゼ(Gna1)によってN-アセチルグルコサミン-6-リン酸塩へと代謝される(図2及び図3)。N-アセチルグルコサミン-6-リン酸塩は、i)N-アセチルマンノサミン-6-リン酸エピメラーゼ(NanE)によりN-アセチルマンノサミン-6-リン酸塩に、さらにN-アセチルマンノサミン-6-リン酸ホスファターゼによりN-アセチルマンノサミンに(図3)変換され、又はii)N-アセチルグルコサミン-6-リン酸塩ホスファターゼ(YihX/YqaB)によりN-アセチルグルコサミンに変換され、さらにN-アセチルグルコサミン2-エピメラーゼ(Slr1975)によりN-アセチルマンノサミンへさらに代謝される(図2)。シアル酸シンターゼ(NanA)はN-アセチルマンノサミンをN-アセチルノイラミン酸に変換し、これがCMP-シアル酸シンテターゼによりCMP-N-アセチルノイラミン酸に変換される(図1図3)。受容体基質を培養ブロスに供給し、細胞内に取り込み、組換え宿主細胞によって改変又は新規に合成することができる。シアリルトランスフェラーゼ(SiaT)が触媒する反応において受容体基質をN-アセチルノイラミン酸で結合し、シアリル化糖を作り、シアリル化糖は培養ブロス中に放出される。
【0154】
[実施例1:種々のシアリル化オリゴ糖の産生]
【0155】
特性決定された又は推定されるシアリルトランスフェラーゼの遺伝子配列を文献及び公的データベースから得た。シアリルトランスフェラーゼは、それらのシグナルペプチドが欠失するとより高い活性を示すとしばしば記載されているので、オンライン予測ツールSignalP(Petersenら、Nature Methods、2011年9月29日、8(10):785-6)により対応するタンパク質配列を分析した。遺伝子を、GenScriptの協働によって、注釈されているように、全長型として、あるいはシグナルペプチドが予測される場合には、N末端シグナルペプチドを欠く切断されたバリアントとして合成した。
【0156】
シアリルトランスフェラーゼ1~26を、遺伝子特異的プライマーを用いてSLICによりpDEST14にneuAを有するオペロンとしてそれぞれサブクローニングし、一般種のプラスミド、すなわちpDEST14-siaT-neuAを得た。残りのシアル酸転移酵素27~100を、制限部位NdeI及びBamHIを用いて、GenScriptの協働によりプラスミドpET11aに直接サブクローニングした。どちらの発現系もIPTG誘導性遺伝子発現を可能にする。インビトロ活性スクリーニングのために、プラスミドをLacZ活性を欠く大腸菌BL21(DE3)株に形質転換した。
【0157】
siaT9(α-2,3-シアリルトランスフェラーゼ)及びsiaT18(α-2,6-シアリルトランスフェラーゼ)発現のためのプラスミドを含む大腸菌株を、アンピシリン100μg ml-1を補充した2YT媒体20mlで満たした100ml振盪フラスコ中で30℃で増殖させた。培養物が0.1~0.3のOD600に達すると、0.3mMのIPTGの添加により遺伝子発現を誘導し、インキュベーションを12~16時間継続した。細胞を遠心分離により回収し、ガラスビーズを用いて規定容量の50mMのTris-HCl pH7.5中で機械的に破壊した。タンパク質抽出物は、アッセイを開始するまで氷上に保持した。インビトロアッセイを、50mMのTris-HCl pH7.5、5mMのMgCl、10mMのCMP-Neu5Ac及び5~20mMの適切な受容体基質を含む総容量25μlで実施した。アッセイを、3μlタンパク質抽出物の添加で開始し、16時間継続させた。シアリルトランスフェラーゼの活性により生じたシアリル化オリゴ糖の形成を薄層クロマトグラフィーで決定した。
【0158】
そこで、シリカゲル60 F254(独国ダルムシュタットのMerck KGaA)プレート上に試料を塗布した。移動相としてブタノール:アセトン:酢酸:HO(35/35/7/23(v/v/v/v))の混合物を用いた。分離した物質の検出のために、TLCプレートをチモール試薬(95mlのエタノールに溶かした0.5gのチモール、5mlの硫酸添加)に浸し、加熱した。シアリル化された反応生成物は、その受容体基質よりも遅く進む。
【0159】
【表3】
【0160】
表3:供給された受容体基質に依存する2つの例示的シアリルトランスフェラーゼのシアリルトランスフェラーゼ活性を決定するインビトロ分析。シアリル化糖の形成は薄層クロマトグラフィーで決定した。(+)シアリル化反応生成物が検出可能であった。(-)シアリル化反応生成物は検出されなかった。
【0161】
両シアリルトランスフェラーゼは、ガラクトース又は少なくとも1つのガラクトース残基を含む多様なオリゴ糖をシアリル化することができた。反応にスクロースを適用した場合、シアリル化オリゴ糖は検出されなかった(表3)。
【0162】
[実施例2:N-アセチルノイラミン酸の産生のための大腸菌BL21(DE3)株の代謝工学]
【0163】
代謝工学は、特定の内在性遺伝子の突然変異生成及び欠失、並びに異種遺伝子のゲノム組み込みによって達成された。Ellisらによって記載されているように(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 98: 6742-6746(2001))、ミスマッチ-オリゴヌクレオチドを用いる突然変異生成によって遺伝子lacZ及びaraAを不活性化した。
【0164】
Datsenko及びWannerの方法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97:6640-6645 (2000))に従ってゲノム欠失を生じさせた。N-アセチルグルコサミンの分解を防止するために、以下の遺伝子、すなわちN-アセチルグルコサミン特異的PTS酵素II(nagE)、N-アセチルグルコサミン-6-リン酸デアセチラーゼ(nagA)、及びグルコサミン-6-リン酸デアミナーゼ(nagB)を大腸菌株BL21(DE3)のゲノムから欠失させた。N-アセチルマンノサミンキナーゼ(nanK)、N-アセチルマンノサミン-6-リン酸エピメラーゼ(nanE)、N-アセチルノイラミン酸アルドラーゼ(nanA)及びシアル酸パーミアーゼ(nanT)をコードする全N-アセチルノイラミン酸異化遺伝子クラスターも欠失させた。グルコサミンの取り込みを促進するホスホエノールピルビン酸依存性ホスホトランスフェラーゼ系をコードする遺伝子manX、manY及びmanZも欠失させた。wzxC-wcaJ遺伝子も欠失させた。wcaJ遺伝子は、コラン酸合成の最初のステップを触媒するUDP-グルコース、すなわちウンデカプレニルリン酸グルコース-1-リン酸トランスフェラーゼをコードする(Stevensonら、J. Bacteriol.1996、178:4885-4893)。さらに、遺伝子fucI及びfucK及びagaAを欠失させ、これらはそれぞれL-フコースイソメラーゼ、L-フクロースキナーゼ、N-アセチルガラクトサミン-6-リン酸デアセチラーゼをコードする。
【0165】
異種遺伝子のゲノムの組み込みは、EZ-Tn5(商標)トランスポザーゼ(Epicentre、米国)又はマリナートランスポザーゼHimar1の高活性C9-突然変異体(Proc.Natl.Acad.Sci.1999、USA 96:11428-11433)のいずれかを用いて、転位によって達成した。EZ-Tn5トランスポソームを作製するために、FRT部位に隣接する抗生物質耐性マーカー(あるいは耐性マーカー遺伝子をlox66-lox71部位に挟まれた)と共に目的の遺伝子を増幅した。得られたPCR生成物は、両末端にEZ-Tn5トランスポザーゼの19bpモザイク末端認識部位を持っていた。目的のHimar1トランスポザーゼを用いて組込むために、抗生物質耐性マーカーに隣接したFRT部位/lox66-lox71部位と共に同様に目的の発現構築物(オペロン)をクローン化し、アラビノース誘導性プロモーターParaBの制御下でマリナートランスポザーゼHimar1の高活性C9-変異体をコードするpEcomarベクターに移入した。全ての遺伝子を大腸菌での発現のためにコドンを最適化し、GenScript Corp社により合成的に調製した。
【0166】
発現断片<Ptet-lacY-FRT-aadA-FRT>をEZ-Tn5トランスポザーゼを用いて組み込んだ。大腸菌K12 TG1由来のラクトースインポーターLacY(GenBank:ABN72583)の遺伝子の組み込みに成功した後、プラスミドpCP20上にコードされたFLPリコンビナーゼによって耐性遺伝子をストレプトマイシン耐性クローンから排除した(Proc.Natl.Acad.Sci.2000、USA 97:6640-6645)。唯一の炭素源としてのスクロース上で前記株が増殖することを可能にするスクロースパーミアーゼ、フルクトキナーゼ、スクロースヒドロラーゼ、転写リプレッサの遺伝子(それぞれ遺伝子cscB、cscK、cscA及びcscR)を含む大腸菌W(GenBank:CP002185.1)由来のcsc遺伝子クラスターも、をゲノムに挿入した。このクラスターを、プラスミドpEcomar-cscABKRを用いた転位により、大腸菌BL21(DE3)株のゲノムに組み込んだ。
【0167】
得られた株をさらに、以下の発現カセット、すなわち<Ptet-slr1975-gna1-lox66-aacC1-lox71>(配列番号97)、<Ptet-neuB-lox66-kanR-lox71>(配列番号98)、<Ptet-slr1975-Pt5-neuB-FRT-dhfr-FRT>(配列番号99)、<Ptet-glmS-gna1-lox66-aacC1-lox71>(配列番号100)及び<Ptet-ppsA-lox66-aacC1-lox71>(配列番号101)のゲノム組み込みによりNeuNAcの産生のために組み換えた。dhfr発現カセットを除き、プラスミドpKD-Cre(配列番号102)を導入してゲノム(遺伝子組み込みの次のラウンド以前)から全ての抵抗マーカー遺伝子を段階的に除去し、次に30℃でアンピシリン100μg mL-1及びの100mMのL-アラビノースを含む2YT寒天プレートでの選択を行った。その後、耐性クローンをアンピシリン及びゲノム組み込みに使用される選択的抗生物質を欠く2YT寒天プレートに移入した。このプレートを42℃でインキュベートし、プラスミドの細胞を硬化させた。アンピシリン及び選択的抗生物質に感受性を示したクローンを用いて、さらなる実験及び組み換えを行った。
【0168】
遺伝子slr1975(GenBank:BAL35720)は、シネコシスティス種PCC6803 N-アセチルグルコサミン2-エピメラーゼをコードする。遺伝子gna1(GenBank:NP_116637)はサッカロマイセス・セレビシエ由来のグルコサミン-6-リン酸アセチルトランスフェラーゼをコードする。遺伝子neuB(GenBank:AF305571)はカンピロバクター・ジェジュニ由来のシアル酸シンターゼをコードする。遺伝子glmSは、大腸菌L-グルタミン:D-フルクトース-6-リン酸アミノトランスフェラーゼ遺伝子の変異型である(Metab Eng 2005年5月;7(3):201-14)。遺伝子ppsA(GenBank:ACT43527)は大腸菌BL21(DE3)のホスホエノールピルビン酸シンターゼをコードする。
【0169】
<Ptet-slr1975-gna1-lox66-aacC1-lox71>の生成のために、遺伝子slr1975及びgna1を構成的プロモーターPtetの後にあるオペロンとしてサブクローニングし、ゲンタマイシン耐性遺伝子(lox66/lox71部位に挟まれている)に融合させ、平滑末端ライゲーションによりpEcomarベクターに挿入した。得られた発現カセットを、アラビノース誘導性プロモーターParaBの制御下でベクターpEcomar-slr195-gna1-aacC1及びマリナートランスポザーゼHimar1の高活性C9-変異体を用いてゲノムに組み込んだ。
【0170】
<Ptet-neuB-lox66-kanR-lox71>の生成のために、neuBを構成的プロモーターPtetの後ろにクローニングし、カナマイシン耐性遺伝子(lox66/lox71部位に挟まれている)に融合させた。得られた発現カセットを、EZ-Tn5トランスポザーゼを用いてゲノムに組み込んだ。<Ptet-slr1975-Pt5-neuB-FRT-dhfr-FRT>の生成のために、遺伝子slr1975及びneuBをそれぞれ構成的プロモーターPtet及びPt5の後ろに別々にサブクローニングし、トリメトプリム耐性遺伝子(FRT部位に挟まれている)に融合させた。得られた発現カセットを、EZ-Tn5トランスポザーゼを用いることによってゲノムに組み込んだ。
【0171】
発現カセット<Ptet-glmS-gna1-lox66-aacC1-lox71>は、構成的プロモーターPtetの後ろのオペロンとしてglmS*及びgna1をクローニングすることによって作製した。この構築物をさらにゲンタマイシン耐性遺伝子(lox66/lox71部位に挟まれている)に融合させた。得られた発現カセットを、EZ-Tn5トランスポザーゼを用いることによってゲノムに組み込んだ。
【0172】
<Ptet―ppsA―lox66―aacC1―lox71>の生成のために、ppsA遺伝子を構成的プロモーターPtetの後ろにクローン化し、ゲンタマイシン耐性遺伝子(lox66/lox71部位に挟まれている)に融合させた。得られた発現カセットを、EZ-Tn5トランスポザーゼを用いることによってゲノムに組み込んだ。
【0173】
要するに、累積的なゲノム組み換えにより、Neu5Ac産生株大腸菌#NANA1を生じさせた。
【0174】
[実施例3:3’-シアリルラクトース産生のための微生物細胞株の生成及び培養]
【0175】
EZ-Tn5トランスポザーゼを用いることにより、<Ptet-siaT9-Pt5-neuA-lox66-aacC1-lox71>(配列番号:103)のゲノム組み込みによって、大腸菌#NANA1株をさらに組み換えて、3’-SL産生株を生じさせた。遺伝子siaT9(GenBank:BAF91160)は、大腸菌での発現のためにコドンを最適化し、GenScriptにより合成的に調製し、ビブリオ種JT-FAJ-16由来のα-2,3-シアリルトランスフェラーゼをコードする。遺伝子neuA (GenBank:AF305571)は、カンピロバクター・ジェジュニ由来のCMP-シアル酸シンテターゼをコードする。
【0176】
株の培養は96ウェルプレートで行った。したがって、寒天プレートから、7g l-1のNHPO、7g l-1のKHPO、2g l-1のKOH、0.3g l-1のクエン酸、5g l-1のNHCl、1ml-1の消泡剤、0.1mMのCaCl、8mMのMgSO、微量元素及び炭素源として2%のスクロースを含む最小培地200μLを含むマイクロタイタープレートに前記株の単一コロニーを移した。微量元素は、0.101g l-1のニトリロ三酢酸、pH6.5、0.056g l-1のクエン酸アンモニウム第二鉄、0.01g l-1のMnCl×4HO、0.002g l-1のCoCl×6HO、0.001g l-1のCuCl×2HO、0.002g l-1のホウ酸、0.009g l-1のZnSO×7HO、0.001g l-1のNaMoO×2HO、0.002g l-1のNaSeO、0.002g l-1のNiSO×6HOからなった。培養は激しく振盪させながら30℃で約20時間行った。続いて、培養ブロス50μLをウェルあたり最小培地400μLを含むディープウェル96ウェルプレート(2.0mL)に移した。
【0177】
さらに48時間のインキュベーション後、培養を停止し、上清中の3’-シアリルラクトース濃度を質量分析法により決定した。質量分析はLC Triple-Quadrupole MS検出システムを用いてMRM(多重反応モニタリング)により行った。前駆体イオンを選択して四重極1で分析し、CIDガスとしてアルゴンを用いた衝突セルで断片化が起こり、四重極3で断片イオンの選択を行う。培養上清をHO(LC/MSグレード)で1:100で希釈した後のラクトース、3’-シアリルラクトース及び6’-シアリルラクトースのクロマトグラフィーによる分離を、XBridge Amideガードカートリッジ(3.5μm、2.1 10mm)(Waters社、米国)を用いてXBridge Amide HPLCカラム(3.5μm、2.1 50mm(Waters社、米国))で行った。HPLCシステムのカラムオーブン温度は50℃であった。移動相をアセトニトリル:HOと10mMの酢酸アンモニウムで構成した。1μlの試料を装置に注入し、流速400μl/分で3.60分間ランを行った。ESI正イオン化モードで3’-シアリルラクトース及び6’-シアリルラクトースをMRMで分析した。質量分析計は単位分解能で操作した。シアリルラクトースはm/z656.2[M+Na]のイオンを形成する。シアリルラクトースの前駆体イオンを、衝突セル内で断片イオンm/z612.15、m/z365.15及びm/z314.15へさらに断片化した。衝突エネルギー、Q1及びQ3 Pre Biasを、各分析物に対して個々に最適化した。定量法は、市販の規格品(英国コンプトンのCarbosynth社)を用いて確立させた。培養終了時、培養上清中の3’-SL力価は約0.6g L-1に達した。
【0178】
[実施例4:6’-シアリルラクトース産生のための微生物細胞株の生成及び培養]
【0179】
大腸菌#NANA1株を、EZ-Tn5トランスポザーゼを用いて<Ptet-siaT18-Pt5-neuA-lox66-aacC1-lox71>(配列番号:104)のゲノム組み込みによってさらに組み換え、6’-SL産生株を得た。遺伝子siaT18(GenBank:AB500947)は、大腸菌での発現のためにコドンを最適化し、GenScriptにより合成的に調製し、フォトバクテリウム・レイオグナティ(Photobacterium leiognathi)JT―SHIZ―119由来のα-2,6-シアリルトランスフェラーゼをコードする。遺伝子neuA(GenBank:AF305571)は、カンピロバクター・ジェジュニ由来のCMP-シアル酸シンテターゼをコードする。
【0180】
実施例2に記載したように、この6’-SL産生株を用いて96ウェルプレートでの培養を行った。培養終了時、培養上清中の6’-SL力価は約0.9g L-1に達した。
【0181】
[実施例5:シアリルラクトースを含む乳児用調製物の組成]
【0182】
【表4】
図1
図2
図3
【配列表】
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