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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】侵入防止具、及び、侵入防止構造
(51)【国際特許分類】
   E02B 9/04 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
E02B9/04 E
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021024725
(22)【出願日】2021-02-18
(65)【公開番号】P2022126564
(43)【公開日】2022-08-30
【審査請求日】2023-10-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000243803
【氏名又は名称】未来工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100203460
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 肇
(72)【発明者】
【氏名】中村 敦
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-307041(JP,A)
【文献】特開2013-135627(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 9/00-13/02
E02B 5/00- 7/18
E02B 8/00,06,08
E02B 15/00-15/10
A01M 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
用水路の取水口に取り付けられて用いられ、水生生物の侵入を抑制する侵入防止具であって、
取水口に少なくとも一部が挿入可能な中空筒状の本体部材と、
前記本体部材に取り付けられて前記取水口の前記用水路側に配置される、複数の孔を有する第1網体と、
前記本体部材に取り付けられて前記取水口の内部側において前記第1網体と当該取水口の流路方向に間隔を空けて配置される、複数の孔を有する第2網体と、を備え、
前記第1網体が前記本体部材に取り付けられた状態で、前記用水路側から前記第2網体へと至ることが可能な、前記第1網体が有する孔及び前記第2網体が有する孔よりも大きい開口が形成されている、侵入防止具。
【請求項2】
記開口は、前記用水路の底側又は前記用水路の下流側を向くように形成されている、請求項1に記載の侵入防止具。
【請求項3】
前記第1網体は、前記用水路側へ向けて膨出している、請求項1又は2に記載の侵入防止具。
【請求項4】
前記第2網体は、前記取水口の内側に向けて膨出している、請求項1~3のいずれか1項に記載の侵入防止具。
【請求項5】
前記第1網体は、前記開口の位置を変更可能である、請求項1~4のいずれか1項に記載の入防止具。
【請求項6】
前記第2網体の少なくとも一部は、前記本体部材の内部に入り込んでいる、請求項1~5のいずれか1項に記載の侵入防止具。
【請求項7】
前記第1網体および前記第2網体を保持可能なベース部をさらに備え、
前記本体部材は、前記ベース部を着脱可能に取り付けることができる、請求項1~6のいずれか1項に記載の入防止具。
【請求項8】
前記第1網体と前記第2網体の間に挿入可能であり、前記第1網体と前記第2網体との間を流れる水の流量を調整可能な止水板をさらに備える、請求項1~のいずれか1項に記載の侵入防止具。
【請求項9】
請求項1に記載の侵入防止具の前記本体部材の少なくとも一部が用水路の取水口に挿入された状態で取り付けられて、水生生物の侵入を抑制する侵入防止構造であって
記開口は、前記用水路の底側又は下流側を向いている、侵入防止構造。
【請求項10】
水生生物の侵入を抑制する侵入防止構造であって、
中空筒状の本体部材の一方側端部を用水路内に向けた状態で、他方側端部が前記用水路の取水口内に挿入されており、
複数の孔を有する部分球殻状の第1網体が、前記一方側端部に配置されており、
複数の孔を有する部分球殻状の第2網体が、前記本体部材の内部に入り込むように配置されており、
前記第1網体と前記第2網体とは、互いの頂部が最も離間するように配置されており、
前記第1網体が前記本体部材に取り付けられた状態で、前記用水路側から前記第2網体へと至ることが可能な、前記第1網体が有する孔及び前記第2網体が有する孔よりも大きい開口が形成されており、その開口は、前記用水路の底側又は下流側を向いている、侵入防止構造。
【請求項11】
前記第2網体の前記孔は、直径が5mm~10mmの円形、若しくは、短軸が5mm~10mmの長円形又は楕円形、若しくは、短辺が5~10mmの矩形である、請求項1~8のいずれか1項に記載の侵入防止具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、用水路に設置され、スクミリンゴガイ等の水生生物の侵入を防止する侵入防止具、侵入防止部材、及び、その侵入防止具による侵入防止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
用水路の取水口からスクミリンゴガイ等の水生生物が水田等へと侵入し、その水生生物による農作物の被害が生じている。そして、このような水生生物の水田等への侵入を抑制することが、農業における喫緊の課題となっている。水生生物の水田等への侵入抑制を目的としたものとして、特許文献1に記載の侵入防止具がある。特許文献1に記載の侵入防止具では、網部を有する侵入防止具を取り付け、スクミリンゴガイの侵入を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実用新案登録第3129760号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の侵入防止具では、スクミリンゴガイ等の水生生物の侵入を好適に抑制することができるものの、水草等が網部に付着した場合に、その水草等により網部の目詰まりが生じて水田等への用水の供給量を十分に確保できないおそれがある。また、侵入防止具に付着した水草等を除去する作業を行うことで用水の供給量を回復することはできるものの、用水の供給量を十分に確保するには、水草等の除去作業を頻繁に行う必要がある。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、スクミリンゴガイ等の水生生物の取水口への侵入を好適に抑制しつつ、水草等による目詰まりも好適に抑制可能な侵入防止具、及び、その侵入防止具による侵入防止構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の構成は、用水路の取水口に取り付けられて用いられ、水生生物の侵入を抑制する侵入防止具であって、前記取水口の前記用水路側に配置される、複数の孔を有する第1網体と、前記取水口の内部側において前記第1網体と当該取水口の流路方向に間隔を空けて配置される、複数の孔を有する第2網体と、を備え、複数の孔を有する第2網体と、を備え、前記第1網体は、前記孔よりも大きい開口が形成されている。
【0007】
第1の構成では、第1網体に水草等が引っ掛かり孔が覆われたとしても、開口の開放状態は維持されるため、取水口へ流入する用水の流量を維持することができる。また、水生生物が開口から第1網体と第2網体との間に侵入したとしても、第2網体により取水口内部への水生生物の侵入は抑制することができる。
【0008】
第2の構成は、第1の構成に加えて、前記第1網体の前記開口は、前記用水路の底側又は前記用水路の下流側を向くように形成されている。
【0009】
第2の構成では、用水路における水流に載って流れてくる水草等の開口内への侵入をより好適に抑制することができる。
【0010】
第3の構成は、第1又は第2の構成に加えて、前記第1網体は、用水路の内側へ向けて膨出している。
【0011】
第3の構成では、平面状である場合よりも露出面積が大きいため、ゴミやスクミリンゴガイ等により網目が部分的に閉塞された場合においても、閉塞されていない網目を確保できるため、通水性を確保することができる。
【0012】
第4の構成は、第1~第3のいずれかの構成に加えて、前記第2網体は、前記取水口の内側に向けて膨出している。
【0013】
第4の構成では、第2網体についても第2の構成と同等の効果を得ることができる。
【0014】
第5の構成は、第1~第4のいずれかの構成に加えて、前記第1網体は、前記開口の位置を変更可能である。
【0015】
第5の構成では、用水路の構造等に応じて、水草や水生生物が開口へ侵入しづらくなるように開口の位置を変更できるため、第1網体の目詰まりをより好適に抑制することができる。
【0016】
第6の構成は、第1~第5のいずれかの構成に加えて、前記取水口に少なくとも一部が挿入可能な中空筒状の本体部材をさらに備え、前記第1網体及び前記第2網体は、前記本体部材に取り付けられている。
【0017】
第6の構成では、本体部材を取水口に挿入することで、取水口に対して第1網体及び第2網体を取り付けることができ、進入防止具を取り付ける際の作業工程を単純化することができる。
【0018】
第7の構成は、第6の構成に加えて、前記第2網体の少なくとも一部は、前記本体部材の内部に入り込んでいる。
【0019】
第7の構成では、第2網体の用水路内への突出を軽減できるため、用水路の水流の阻害や、第2網体への水草等の接触をより好適に抑制することができる。
【0020】
第8の構成は、第6又は第7の構成に加えて、前記第1網体および前記第2網体を保持可能なベース部をさらに備え、前記本体部材は、前記ベース部を着脱可能に取り付けることができる。
【0021】
第8の構成では、ベース部を本体部材から着脱することにより、第1網体及び第2網体を纏めて着脱することができるため、第1網体及び第2網体の清掃時等に、用水路の取水口に挿入した本体部材を取水路から取り外すことなく、第1網体及び第2網体の着脱を行うことができる。
【0022】
第9の構成は、第1~第8のいずれかの構成に加えて、前記第1網体と前記第2網体の間に挿入可能であり、前記第1網体と前記第2網体との間を流れる水の流量を調整可能な止水板をさらに備える。
【0023】
第9の構成では、水生生物の侵入防止を目的とする侵入防止具に、用水路の流量調整の機能を付加することができる。加えて、止水板が第1網体と第2網体との間に挿入されるため、第1網体と第2網体との間に侵入した水生生物をその間から押し出して除去することができ、水生生物による目詰まりをさらに好適に抑制することができる。
【0024】
第10の構成は、水生生物の侵入を抑制する侵入防止構造であって、複数の孔を有する第1網体が、用水路の取水口に取り付けられおり、複数の孔を有する第2網体が、前記第1網体よりも前記取水口の内部側に、当該第1網体と離間して配置されており、前記第1網体は、前記孔よりも大きい開口を備え、その開口は、前記用水路の底側又は下流側を向いている。
【0025】
第10の構成では、第2の構成に準ずる効果を奏する侵入防止構造を提供することができる。
【0026】
第11の構成は、水生生物の侵入を抑制する侵入防止構造であって、中空筒部の一方側端部を用水路内に向けた状態で、他方側端部が前記用水路の取水口内に挿入されており、複数の孔を有する部分球殻状の第2網体が、前記中空筒部の一方側端部内にその一部が入り込むように配置されて、当該一方側端部の全体を覆っており、複数の孔を有する部分球殻状の第1網体が、頂部が前記第2網体から最も離間するようして、前記第2網体よりも前記用水路の内側に配置されており、前記第1網体は、前記孔よりも大きい開口を備え、その開口は、前記用水路の底側又は下流側を向いている。
【0027】
第11の構成では、第7の構成に準ずる効果を奏する侵入防止構造を提供することができる。
【0028】
第12の構成は、用水路の取水口に取り付けられて用いられ、水生生物の侵入を抑制する侵入防止具であって、一方側の端側が前記用水路内に臨むように前記取水口に挿入される中空筒状の本体部材と、複数の孔を備え、前記本体部材の用水路側の端部を覆うように前記本体部材に取り付けられている網部材と、を備え、前記網部材の前記孔は、直径が5mm~10mmの円形、若しくは、短軸が5mm~10mmの長円形又は楕円形、若しくは、短辺が5~10mmの矩形である。
【0029】
第12の構成では、殻高が2cmを超えるようなスクミリンゴガイの成貝の侵入を好適に抑制しつつ、水草等は孔を通過することができる。
【0030】
第13の構成は、用水路の取水口における水生生物の侵入を抑制する侵入防止構造であって、複数の孔を備える網部材が前記取水口を覆うように取り付けられており、前記孔は、直径が5mm~10mmの円形、若しくは、短軸が5mm~10mmの長円形又は楕円形、若しくは、短辺が5~10mmの矩形である。
【0031】
第13の構成では、第12の構成に準ずる効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】侵入防止具の斜視図である。
図2】侵入防止具の正面図である。
図3】侵入防止具の背面図である。
図4】侵入防止具の側面図である。
図5】本体部材の斜視図である。
図6】本体部材の正面図である。
図7】本体部材の平面図である。
図8】本体部材の側面図である。
図9】A-A線断面図である。
図10】本体部材のハンドル部を回動させた状態を示す図である。
図11】前側ベース部材の斜視図である。
図12】前側ベース部材の正面図である。
図13】前側ベース部材の背面図である。
図14】後側ベース部材の斜視図である。
図15】後側ベース部材の正面図である。
図16】後側ベース部材の背面図である。
図17】第1網体の斜視図である。
図18】第1網体の正面図である。
図19】第1網体の側面図である。
図20】第2網体の斜視図である。
図21】第2網体の背面図である。
図22】第2網体の側面図である。
図23】止水板の斜視図である。
図24】止水板の正面図である。
図25】止水板の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
<実施形態>
本実施形態に係る侵入防止具10は、図1に示すように、円筒形の導水管100の用水路側である取水口に取り付けられて用いられるものであり、水生生物、特にスクミリンゴガイの導水管100への侵入を抑制するために用いられるものである。以下の説明では、導水管100の天地方向を上下方向とし、導水管100の幅方向を左右方向とし、導水管100の延在方向(流路方向)を前後方向と定義して説明する。また、導水管100の用水路側を前側とし、導水管100の内部側を後側と定義して説明する。
【0034】
侵入防止具10は、図1~4に示すように、本体部材20、前側ベース部材30、後側ベース部材40、第1網体50、第2網体60、止水板70を備えている。なお、これらの各構成部材20~70は、硬質の樹脂又は金属により形成されている。
【0035】
まず、図5~9を参照して本体部材20について説明する。本体部材20は、円筒形の後側筒部21と、その後側筒部21と中心軸を共有し、後側筒部21の前方に設けられている前側筒部22とを備えている。前側筒部22の外径は侵入防止具10が取り付けられる導水管100の内径と略等しく、厚みは略一定である。また、後側筒部21の外径は、前側筒部22の外径よりも若干小さい。後側筒部21の前側筒部22寄りの外周には、拡幅されたリング部23が設けられている。このリング部23の外径は、前側筒部22の外径よりも若干小さい。このリング部23が設けられることで、リング部23と前側筒部22の後端との間には溝が形成されており、その溝にOリング等を嵌め込んだうえで導水管100に挿入することで、導水管100と本体部材20とを密接させることができる。
【0036】
前側筒部22の前端側には、略円環状に拡径され、厚みが略均一なフランジ部24が設けられている。このフランジ部24の右上側及び左上側のそれぞれには、右上方向、左上方向に向けて膨出し、正面視にて略半円形の膨出部25が設けられている。この膨出部25の厚みはフランジ部24よりもやや厚く、且つ、それぞれの中心には前後方向に貫通した孔(図示略)が形成されている。膨出部25に設けられている孔には、L字型のハンドル部26が挿入されて取り付けられており、ハンドル部26とフランジ部24との間には、前後方向に所定の間隔を有する空隙が設けられている。ハンドル部26は孔を中心として回動可能であり、図5~9で示す先端を中心側へ向けて対向するようにした第1位置と、図10で示す先端を鉛直上方へ向けた第2位置とを、選択することができる。
【0037】
フランジ部24の右下側及び左下側のそれぞれには、正面側へ隆起しつつ右下方向及び左下方向のそれぞれへ張り出した支持部27が設けられている。この支持部27は、上方から下方へ向けて凹みを有する凹形状であり、その凹みの前後幅は、略一定である。
【0038】
続いて、図11~13を参照して前側ベース部材30について説明する。前側ベース部材30は、下方の一部が開放された円環板状の前側円環部31を備えている。この前側円環部31は、厚み及び径方向の幅が略均一であり、下方の概ね90°に亘る範囲が開放されている。前側円環部31の正面側には、中央前方へ向かって湾曲しつつ隆起した、隆起部32が設けられている。この隆起部32の上端、左下側、及び右下側のそれぞれには、前側係止部33が設けられている。この前側係止部33は、前側円環部31の中心周りに120度の間隔で設けられている。前側円環部31の右下側及び左下側のそれぞれには、それぞれ右下方向、左下方向に突出した被支持部34が設けられている。この被支持部34の形状は、本体部材20の支持部27の内側の形状と略等しい形状である。
【0039】
前側円環部31の右端側、左端側のそれぞれには、鉛直上方へ向けて延びる前側支持部35,36が設けられている。前側支持部35,36は、断面がL字形であり、正面側及び左右端の側面が平面となっている。この前側支持部35,36のそれぞれの背面側には、後方へ向けて突出した突起37が、上下方向に所定の間隔を空けて4つずつ設けられている。
【0040】
右側の前側支持部35の上下方向の略中間には、左上から右下に向けて切り込まれた下側切り欠き35aが設けられており、その下側切り欠き35aのやや上側には、左上から右下に向けて切り込まれた上側切り欠き35bが設けられている。加えて、前側支持部35の上端近傍には、左上から右下に向けて切り込まれた上端切り欠き35cが設けられている。また、下側切り欠き35aの近傍には「1/4」の表示がなされており、上側切り欠き35bの近傍には「1/2」の表示がなされており、上端切り欠き35cの近傍には「全開」の表示がなされている。
【0041】
一方、左側の前側支持部36の上下方向の中間近傍、右上から左下に向けて切り込まれた下側切り欠き36aが設けられている。この下側切り欠き36aの上下方向の位置は、右側の前側支持部35に設けられている下側切り欠き35aよりもやや上に位置している。その下側切り欠き36aのやや上側には、右上から左下に向けて切り込まれた上側切り欠き36bが設けられている。この上側切り欠き36bの上下方向の位置は、右側の前側支持部35に設けられている上側切り欠き35bよりもやや上に位置している。また、下側切り欠き36aの近傍には「1/3」の表示がなされており、上側切り欠き36bの近傍には「2/3」の表示がなされている。
【0042】
続いて、図14~16を参照して後側ベース部材40について説明する。後側ベース部材40は、円環板状の後側円環部41を備えている。この後側円環部41は、厚み及び径方向の幅が略均一である。後側円環部41の背面側において、下端、左上側、及び右上側のそれぞれには、後側係止部43が設けられている。この後側係止部43は、後側円環部41の中心周りに120度の間隔で設けられている。
【0043】
後側円環部41の右端側、左端側のそれぞれには、鉛直上方へ向けて延びる略四角柱状の後側支持部45,46が設けられている。この後側支持部45,46のそれぞれの正面側には、後方へ向けて陥没した孔47が、上下方向に所定の間隔を空けて4つずつ設けられている。この孔47の大きさは、前側ベース部材30の突起37と略同形状であり、孔47の上下方向の位置は、前側円環部31と後側円環部41との位置を一致させた場合に、突起37の位置と同位置である。また、後側支持部45,46の間には、後側支持部45,46どうしを繋ぐ補強部48が設けられている。この補強部48により、後側支持部45,46の撓みが抑制される。
【0044】
続いて、図17~19を参照して第1網体50について説明する。第1網体50は、前側へ向けて膨らんだ部分球殻状である。第1網体50は、正面視にて、両端を下端とする概ね270°程度の弧と、その両端を結ぶ弦とにより外形が規定されており、中心が正面へ向けて最も膨出している。この第1網体50の直径は、前側ベース部材30の隆起部32の外径と略等しい。また、第1網体50の上端、右下側、及び左下側のそれぞれには、120度の間隔を空けて、前側ベース部材30の前側係止部33と係合可能な前側被係止部51が形成されている。
【0045】
この第1網体50には、厚み方向(前後方向)に貫通する複数の孔53が設けられている。孔52の形状は長円形であり均一であるが、第1網体50の周縁近傍に設けられている孔52については、第1網体50の形状に合わせて、左右方向の長さが短く形成されている。より具体的には、孔52の上下幅(短軸の長さ)は10mmであり、中央近傍の孔52の左右幅は30mmである。これは、侵入防止の対象であるスクミリンゴガイの成貝の殻高が、概ね30mm以上であるためである。なお、孔52の上下幅は10mm以下であってもよいが、孔52を小さくすれば水草等が通過せずに目詰まりが生ずるおそれが増加するため、5mm以上であることが好ましい。
【0046】
これらの孔52は、左右方向で隣接する孔52どうしの長軸の上下方向の位置が一致するように、等間隔で直列に配置されている。また、上下方向で隣接する孔52どうしについては、左右方向に並ぶ孔52どうしの中間位置の上方に、上方の孔52の中心が位置するように、互い違いに配置されている。
【0047】
続いて、図20~22を参照して第2網体60について説明する。第2網体60は、後側へ向けて膨らんだ部分球殻状である。第2網体60は、背面視にて円形であり、中心が背面へ向けて最も膨出している。この第2網体60の直径は、後側ベース部材40の後側円環部41の内径と略等しい。また、第2網体60の下端、左上側、及び、右上側のそれぞれには、120度の間隔を空けて、後側ベース部材40の後側係止部43と係合可能な後側被係止部61が形成されている。
【0048】
この第2網体60には、第1網体50と同様に、厚み方向(前後方向)に貫通する複数の孔62が設けられている。この孔63の形状及び配置については、第1網体50が備える孔53と同等であるため、具体的な説明は援用する。
【0049】
続いて、図23~25を参照して止水板70について説明する。止水板70は、略円板状の止水部71を備えている。この止水部71の直径は、前側ベース部材30の前側円環部31及び後側ベース部材40の後側円環部41の外径と略等しい。この止水部71の上端側には止水部71と厚みが略等しい台形板状の台形部72が設けられている。この台形部72の左下端側及び右下端側は止水部71との連接箇所よりも左右の両側へ向けて張り出しており、その左下端及び右下端には、前方を突出した係止ピン73が設けられている。また、台形部72の上端には、前方へ向けて突出し、且つ左右方向へ延びる略板状の、操作部74が設けられている。
【0050】
以上のように構成されている各部材の組み合わせ方について説明する。まず、前側ベース部材30の突起37が後側ベース部材40の孔47に挿入されることで、前側ベース部材30と後側ベース部材40とが組み合わされる。前側ベース部材30の前側係止部33には、第1網体50の前側被係止部51が係止されることで、前側ベース部材30に対して第1網体50が取り付けられる。一方、後側ベース部材40の後側係止部43には、第2網体60の後側被係止部61が係止されることで、後側ベース部材40に対して第2網体60が取り付けられる。このとき、第1網体50の下端側の領域は、前後方向に開放された領域となっており、正面から第2網体60へと至ることが可能な開口が形成されているといえる。また、前側係止部33及び前側被係止部51が共に120度の間隔で設けられているため、第1網体50を120度又は240度回転させて取り付けることができ、こうすることで、開口が形成される位置を変更することができる。同様に、第2網体60についても回転させて取り付けることができる。
【0051】
前側ベース部材30と後側ベース部材40との間には、止水板70が上方から差し込まれる。このとき、止水板70の係止ピン73を、切り欠き35a,35b,35c,36a,36bのいずれかに配置することで、前側ベース部材30の前側円環部31と後側ベース部材40の後側円環部41との間への止水板の進入割合を調節することができる。具体的には、切り欠き35a,35b,35c,36a,36bに付随している表示の割合だけ、前側円環部31と後側円環部41との間が止水板70の止水部71により遮蔽されず、開放されている。図1~5では、左側の下側切り欠き36aに係止ピン73が配置されているため、前側円環部31と後側円環部41との間の1/3だけが開放されている。
【0052】
また、係止ピン73を切り欠き35a,35b,35c,36a,36bに配置せず、止水板70を最下端に位置させるようにすれば、前側円環部31と後側円環部41との間の全面が止水板70により遮蔽されて全閉となる。なお、止水板70を差し込んだり引き抜いたりする際には、操作部74を摘まんで操作すればよい。
【0053】
以上のように前側ベース部材30と後側ベース部材40とを組み合わせ、第1網体50、第2網体60、及び止水板70を取り付けることでフィルター体を構成したうえで、そのフィルター体を本体部材20に対して組み付ける。このとき、本体部材20のハンドル部26を鉛直上方へ向けた第2位置としておき、前側ベース部材30の被支持部34が本体部材20の支持部27に支持されるようにしつつ、第2網体60の後端部を前側筒部22の内部へと進入させる。そして、ハンドル部26を先端どうしが対向するように回動させることで、前側ベース部材30及び後側ベース部材40はハンドル部26とフランジ部24とにより挟まれて保持されるため、フィルター体を本体部材20に取り付けることができる。
【0054】
侵入防止具10を使用するうえで、導水管100を通過する水の流量の変更が必要となった場合には、止水板70の操作部74を操作して係止ピン73が配置される切り欠き35a,35b,35c,36a,36bを変更すればよい。また、導水管100内部の水の流通を遮断する必要が生じた場合には、係止ピン74を切り欠き35a,35b,35c,36a,36bに配置せず、下端まで下降させればよい。さらに、第1網体50により形成されている開口から、第1網体50と第2網体60との間に水生生物が侵入する場合も起こりうる。この場合には、止水板70を下降させることで、止水板70によりその水生生物を第1網体50と第2網体60との間から押し出すことができる。
【0055】
一方、第1網体50及び第2網体60の清掃が必要となった場合には、フィルター体を本体部材20から取り外す作業を行う。具体的には、ハンドル部26の先端が鉛直上方を向くように回動させ、フィルター体を非保持状態としたうえで、フィルター体を上方へと引き抜く。このとき、第2網体60は本体部材20内に位置しているため、フィルター体の上端をやや前傾させつつ行うのが好ましい。こうすることで、本体部材20が導水管100に取り付けられている状態を維持しつつ、フィルター体を取り外すことができる。フィルター体を取り外した後は、第1網体50及び第2網体60が前側ベース部材30及び後側ベース部材40に取り付けられた状態を維持しつつ、清掃を行ってもよいし、第1網体50及び第2網体60を取り外して清掃を行ってもよい。
【0056】
なお、以上の説明及び各図において、前側網体50により形成される開口が、導水管100の取水口の底側、すなわち用水路の底側に位置するように前側網体50を取り付けているが、前側網体50を120度回転させ、開口が用水路の下流側に位置するようにしてもよい。水草等は、用水の流れに乗って侵入防止具10へと至るため、開口を下流側に位置させることにより、水草等の第1網部50と第2網部60との間への侵入を好適に抑制できる。
【0057】
また、以上の説明では、導水管100の用水路側に位置する取水口に侵入防止具10として説明しているが、取水口に侵入防止具10が取り付けられた場合には、その取水口に第1網体50及び第2網体60等が取り付けられている侵入防止構造と称することができる。
【0058】
上記構成により、本実施形態に係る侵入防止具10は、以下の効果を奏する。
【0059】
・第1網体50及び第2網体60の孔の短軸の幅を10mmとしているため、殻高が2cmを超えるようなスクミリンゴガイの成貝の侵入を好適に抑制しつつ、細かな水草等は孔を通過させることができるため、水生生物の侵入抑制効果と水草等による目詰まりの抑制効果とを両立させることができる。
【0060】
・第1網体50に水草等が引っ掛かり孔52が覆われたとしても、開口の開放状態は維持されるため、侵入防止具10内を通過する水の流量を維持することができる。
【0061】
・水生生物が開口から第1網体50と第2網体60との間に侵入したとしても、第2網体60により導水管100内部への水生生物の侵入を抑制することができる。
【0062】
・第1網体50及び第2網体60が部分球殻状であり、前後方向のそれぞれへ膨出しているため、平面状である場合よりも露出面積が大きく、水草や水生生物等により孔52,62が部分的に閉塞された場合においても、閉塞されていない孔52,62を確保できるため、通水性を担保することができる。
【0063】
・第1網体50を回転させることができるため、用水路の構造等に応じて、水草や水生生物が開口へ侵入しづらくなるように開口の位置を変更することで、第1網体50の目詰まりをより好適に抑制することができる。
【0064】
・前側ベース部30及び後側ベース部40を本体部材20から着脱することにより、前側ベース部30及び後側ベース部40に取り付けられている第1網体50及び第2網体60を纏めて着脱することができる。これにより、第1網体50及び第2網体60の清掃時等に、導水管100に挿入した本体部材20を取り外すことなく、第1網体50及び第2網体60の着脱を行うことができため、作業工程を簡略化することができる。
【0065】
・止水板70を備えているため、水生生物の侵入防止を目的とする侵入防止具10に、取水口の流量調整の機能を付加することができる。加えて、止水板70が第1網体50と第2網体60との間に挿入されるため、第1網体50と第2網体60との間に侵入した水生生物をその間から押し出して除去することができ、水生生物による目詰まりをさらに好適に抑制することができる。
【0066】
<変形例>
・本体部材20、前側ベース部材30、後側ベース部材40、止水板70は、必須の構成ではない。少なくとも第1網体50、第2網体60と同形状の部材又は同等の機能を有する部材を水路100に配置する構成であれば、実施形態に係る侵入防止具10が奏する効果のうちの一部の効果を得ることができる。
【0067】
・本体部材20、前側ベース部材30、後側ベース部材40、止水板70に加えて、第1網体50も省略することができる。すなわち、第2網体60と同形状の部材又は同等の機能を有する部材を水路100に配置するものとしてもよい。この場合においても、孔52はスクミリンゴガイ等の水生生物の侵入は抑制することができるうえ、水草等は孔を通過することができるため、実施形態に係る侵入防止具10が奏する効果の一部を得ることができる。また、実施形態に係る侵入防止具10について、第1網体50を取り外して使用するものとしても、第2網体60による水生生物の侵入抑制効果及び孔62の目詰まり抑制効果を得ることができる。
【0068】
・第1網体50及び第2網体60が有する孔52,62の形状は、実施形態で示すような長円形なくてもよく、円形であってもよいし、多角形状であってもよい。また、孔52,62の形状は均一でなくてもよいし、第1網体50と第2網体60とで孔の形状が異なっていてもよい。これらの場合においても、スクミリンゴガイの成貝の侵入防止と水草等による目詰まり防止を両立するならば、径や幅を3mm~15mm程度とすればよく、より好ましくは、5mm~10mmとすればよい。より具体的には、孔が円形であるのならば、直径を3mm~15mm、より好ましくは5mm~10mmとすればよく、孔が正多角形であれば、対角線の最大長さを3mm~15mm、より好ましくは5mm~10mmとすればよい。また、孔が長円形、楕円形、長方形等であれば、幅、短軸、短辺を3mm~15mm、より好ましくは5mm~10mmとすればよい。
【0069】
・第1網体50及び第2網体60について、ベース部材30,40を介さず、直接本体部材10に準ずる部材に取り付けるものとしてもよい。
【0070】
・実施形態では第1網体50及び第2網体60について部分球殻状としているが、少なくとも一方を平板状としてもよい。
【0071】
・実施形態では、第1網体50及び第2網体60の孔52,62の大きさについて、短軸を10mmとして水草等が通過できる程度の大きさとしているが、孔52,62の大きさを数mm程度としたり、1mm以下としたりしてもよい。第1網体50に水草等が付着した場合においても、開口の開放状態は維持され、且つ、第2網体60に対する水草等の付着は抑制することができるため、一定の効果を得ることができる。
【0072】
・第1網体50の形状はあくまで一例であって、正面視にて半円形や、三日月形等の他の形状としてもよい。すなわち、取水口に取り付けた場合に孔52よりも大きい開口を形成可能な形状であればよい。また、正面視での外径を円形とし、その円の内側に孔52よりも大きい開口を設けるものとしてもよい。また、開口が設けられる位置についても、実施形態では、用水路の底側や用水路の下流側を向くようにしているが、第1網体50の中央に開口を設けたり、用水路の上側等を向くように設けたりしてもよい。
【0073】
・実施形態では、侵入防止の対象である水生生物としてスクミリンゴガイを挙げているが、他の水生生物の侵入防止にも利用することができる。また、スクミリンゴガイ以外の水生生物の侵入防止に利用する場合には、その水生生物の大きさに応じて、第1網体50及び第2網体60の孔52,62の大きさを変更すればよい。また、実施形態で示した第1網体50及び第2網体60に加えて、孔52,62の大きさが異なる網体も用意しておき、必要に応じて取り付ける網体を変更するものとしてもよい。
【符号の説明】
【0074】
侵入防止具…10,本体部材…20,後側筒部…21、前側筒部…22、フランジ部…24,ハンドル部…26、前側ベース部材…30、後側ベース部材…40、前側網体…50、孔…52、第2網体…60、孔…62、止水板…70、導水管…100
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