(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】シート制御装置
(51)【国際特許分類】
B60N 2/90 20180101AFI20241004BHJP
B60N 2/22 20060101ALI20241004BHJP
B60N 2/06 20060101ALN20241004BHJP
【FI】
B60N2/90
B60N2/22
B60N2/06
(21)【出願番号】P 2021035067
(22)【出願日】2021-03-05
【審査請求日】2024-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】510123839
【氏名又は名称】ニデックモビリティ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101786
【氏名又は名称】奥村 秀行
(72)【発明者】
【氏名】小澤 晃史
【審査官】望月 寛
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-129449(JP,A)
【文献】特開2009-161084(JP,A)
【文献】特開2016-124352(JP,A)
【文献】特開2011-042300(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/90
B60N 2/22
B60N 2/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1モータによって座部が所定距離だけ移動し、第2モータによって背もたれが所定角度だけ傾斜する電動式のシートを制御する装置であって、
前記第1モータの回転状態と所定の閾値とに基づいて、前記座部の移動によりシートの間に物体が挟み込まれたことを検出する挟み込み検出部を備え、
前記閾値は、前記背もたれの傾斜角度が大きくなるにつれて挟み込みが検出されやすくなるように、前記傾斜角度に応じて変化する閾値である、ことを特徴とするシート制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のシート制御装置において、
前記閾値は、前記背もたれの傾斜角度に応じて連続的に変化する、ことを特徴とするシート制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載のシート制御装置において、
前記閾値は、前記背もたれの傾斜角度に応じて段階的に変化する、ことを特徴とするシート制御装置。
【請求項4】
第1モータによって座部が所定距離だけ移動し、第2モータによって背もたれが所定角度だけ傾斜する電動式のシートを制御する装置であって、
前記第1モータの回転状態と第1閾値とに基づいて、前記座部の移動によりシートの間に物体が挟み込まれたことを検出する、第1挟み込み検出部と、
前記第2モータの回転状態と第2閾値とに基づいて、前記背もたれの傾斜によりシートの間に物体が挟み込まれたことを検出する、第2挟み込み検出部とを備え、
前記第1閾値は、前記背もたれの傾斜角度が大きくなるにつれて挟み込みが検出されやすくなるように、前記傾斜角度に応じて変化する閾値であり、
前記第2閾値は、前記背もたれの傾斜角度に応じて変化しない閾値である、ことを特徴とするシート制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載のシート制御装置において、
前記第1挟み込み検出部の検出結果と、前記第2挟み込み検出部の検出結果とに基づいて、前記第1モータおよび前記第2モータの動作を制御する制御部をさらに備え、
前記制御部は、前記第1挟み込み検出部と前記第2挟み込み検出部の少なくとも一方が挟み込みを検出した場合に、前記第1モータおよび前記第2モータを停止状態にするか、または、前記第1モータおよび前記第2モータの少なくとも一方を一定時間逆転させる、ことを特徴とするシート制御装置。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載のシート制御装置において、
前記第1閾値は、前記背もたれの傾斜角度に応じて連続的に変化する、ことを特徴とするシート制御装置。
【請求項7】
請求項4または請求項5に記載のシート制御装置において、
前記第1閾値は、前記背もたれの傾斜角度に応じて段階的に変化する、ことを特徴とするシート制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等に装備された電動式のシートを制御する装置に関し、特に、シート間の異物の挟み込みを検出する機能を備えたシート制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動四輪車のような車両には、モータの回転により前後に移動する電動式のシートが装備されているものがある。このような電動シートの前後位置を調整する場合、従来は、シート近傍に設けられている操作部を手で操作して、シートを前方または後方に移動させることで、シート位置を調整していた。一方、近年では、利用者の好みに合ったシート位置を予め登録しておき、乗車時に利用者を識別して、当該利用者に対応したシート位置までシートを自動的に移動させる機能を備えた車両が登場している。
【0003】
上記のようなシート位置の自動調整機能を備えた車両にあっては、後ろのシートに人が座っていたり物が置いてある状態で、前のシートが自動的に後方へ移動すると、前後のシートの間に人や物が挟み込まれて、安全が脅かされるおそれがある。同様のことは、手動式の電動シートにおいても起こりうる。このため、シート制御装置には、シート間で挟み込みが発生したことを検出して、挟み込みが発生した場合はモータをすみやかに停止させる機能が要求される。特許文献1~3には、このような挟み込みの検出機能を備えたシート制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-129449号公報
【文献】特開2007-131138号公報
【文献】特開2011-42300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電動シートには、前後の位置だけでなく、背もたれの傾斜角度も自動的に調整できるものがある。この場合、前のシートが、背もたれの傾斜角度が小さい状態で後方へ移動して挟み込みが生じたときと、傾斜角度が大きい状態で後方へ移動して挟み込みが生じたときとでは、モータに加わる荷重(挟み込み荷重)に差が生じることが、発明者による解析の結果から判明した。詳細は後述するが、背もたれの傾斜角度が小さい場合は挟み込み荷重が大きくなり、傾斜角度が大きい場合は挟み込み荷重が小さくなる。
【0006】
したがって、背もたれの傾斜角度が小さい場合の大きな挟み込み荷重に照準を合わせて、挟み込み検出のための閾値を大きな値に設定すると、傾斜角度が大きい状態で挟み込みが発生した場合に、挟み込み荷重が閾値を超えず、挟み込みの検出が困難となる。一方、背もたれの傾斜角度が大きい場合の小さな挟み込み荷重に照準を合わせて、挟み込み検出のための閾値を小さな値に設定すると、傾斜角度が小さい状態において、挟み込みが発生していないにもかかわらず、外乱による力が加わることで挟み込み荷重が閾値を超えてしまい、挟み込みを誤検出しやすくなる。
【0007】
本発明の課題は、シートの背もたれの傾斜角度にかかわらず、挟み込みを精度よく検出することができるシート制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1発明に係るシート制御装置は、第1モータによって座部が所定距離だけ移動し、第2モータによって背もたれが所定角度だけ傾斜する電動式のシートを制御する装置であって、第1モータの回転状態と所定の閾値とに基づいて、座部の移動によりシートの間に物体が挟み込まれたことを検出する挟み込み検出部を備えている。閾値は、背もたれの傾斜角度が大きくなるにつれて挟み込みが検出されやすくなるように、傾斜角度に応じて変化する。
【0009】
このようにすると、たとえば、背もたれの傾斜角度が小さい場合は、大きい挟み込み荷重に対して大きい閾値が適用され、背もたれの傾斜角度が大きい場合は、小さい挟み込み荷重に対して小さい閾値が適用される。このため、傾斜角度に応じた最適の閾値を用いて挟み込みの有無を判定することができ、閾値が小さいために挟み込みを誤検出したり、逆に、閾値が大きいために挟み込みを検出できなくなったりすることを防止して、挟み込みの検出精度を高めることができる。
【0010】
第1発明において、前記の閾値は、背もたれの傾斜角度に応じて連続的に変化してもよいし、段階的に変化してもよい。
【0011】
第2発明に係るシート制御装置は、第1モータによって座部が所定距離だけ移動し、第2モータによって背もたれが所定角度だけ傾斜する電動式のシートを制御する装置であって、第1モータの回転状態と第1閾値とに基づいて、座部の移動によりシートの間に物体が挟み込まれたことを検出する第1挟み込み検出部と、第2モータの回転状態と第2閾値とに基づいて、背もたれの傾斜によりシートの間に物体が挟み込まれたことを検出する第2挟み込み検出部とを備えている。第1閾値は、背もたれの傾斜角度が大きくなるにつれて挟み込みが検出されやすくなるように、傾斜角度に応じて変化する閾値であり、第2閾値は、背もたれの傾斜角度に応じて変化しない閾値である。
【0012】
第2発明において、第1挟み込み検出部の検出結果と、第2挟み込み検出部の検出結果とに基づいて、第1モータおよび第2モータの動作を制御する制御部がさらに備わっていてもよい。この制御部は、第1挟み込み検出部と第2挟み込み検出部の少なくとも一方が挟み込みを検出した場合に、第1モータおよび第2モータを停止状態にするか、または、第1モータおよび第2モータの少なくとも一方を一定時間逆転させる。
【0013】
第2発明においても、第1の閾値は、背もたれの傾斜角度に応じて連続的に変化してもよいし、段階的に変化してもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、シートの背もたれの傾斜角度にかかわらず、挟み込みを精度よく検出できるシート制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1実施形態によるシート制御装置を備えた電動シートシステムのブロック図である。
【
図2】シート角度に応じて変化する閾値の例を示したグラフである。
【
図3】シート角度に応じて変化する閾値の他の例を示したグラフである。
【
図4】シート角度に応じて変化する閾値の他の例を示したグラフである。
【
図5】シート角度による挟み込み荷重の違いを説明する図である。
【
図6】シート角度による挟み込み荷重の違いを説明する図である。
【
図7】シート角度が小さい場合の挟み込み荷重を説明する図である。
【
図8】シート角度が大きい場合の挟み込み荷重を説明する図である。
【
図9】本発明の第2実施形態によるシート制御装置を備えた電動シートシステムのブロック図である。
【
図10】第2実施形態の適用例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態につき、図面を参照しながら説明する。図面中、同一の部分または対応する部分には、同一符号を付してある。以下では、車両に搭載されるシート制御装置を例に挙げる。
【0017】
図1は、本発明の第1実施形態によるシート制御装置1と、これを用いた電動シートシステム100の一例を示している。電動シートシステム100は、たとえば自動四輪車のような車両に搭載されており、シート制御装置1、第1モータ2、スライド機構3、第2モータ4、リクライニング機構5、操作部6、ID入力部7、シート位置検出部8、シート角度検出部9、モータ電流検出部10、およびシート20を備えている。シート20は、モータ2、4によってX方向とY方向に駆動される電動式のシートである。本実施形態では、電動シートシステム100は、冒頭で述べたような、利用者を識別してシート20を予め登録された位置まで自動的に移動させる機能を備えている。
【0018】
第1モータ2は、シート20の座部20aをX方向(前後方向)に移動させるためのモータである。スライド機構3は、座部20aに連結されていて、第1モータ2の回転運動を直線運動に変換し、座部20aをX方向に所定距離だけ移動させる。
【0019】
第2モータ4は、シート20の背もたれ20bをY方向に傾斜させるためのモータである。リクライニング機構5は、背もたれ20bに連結されていて、第2モータ4の回転に伴って、背もたれ20bをY方向に所定角度だけ回転させて傾斜させる。
【0020】
操作部6は、シート20のX方向の位置を登録したり、シート20の動作を手動で操作したりするためのスイッチなどから構成される。ID入力部7は、たとえば、利用者の所持する電子キーと通信を行って当該電子キーから利用者の識別情報(ID)を読み取る、通信回路などから構成される。シート位置検出部8は、第1モータ2の回転量に基づいて、シート20のX方向の位置を検出する。シート角度検出部9は、第2モータ4の回転量に基づいて、シート20の背もたれ20bの傾斜角度を検出する。モータ電流検出部10は、第1モータ2および第2モータ4に流れるモータ電流を検出する。
【0021】
シート制御装置1は、制御部11、第1モータ駆動部13、第2モータ駆動部14、シート位置記憶部15、シート角度記憶部16、および閾値記憶部17を有している。
【0022】
制御部11は、CPUなどから構成されており、シート制御装置1の全体動作を制御する。制御部11には、挟み込み検出部12が備わっている。この挟み込み検出部12の機能は、実際にはソフトウェアによって実現される。挟み込みの検出については、後で詳しく説明する。
【0023】
第1モータ駆動部13は、第1モータ2を回転させるための駆動信号(たとえばPWM信号)を生成する回路などから構成される。第2モータ駆動部14も、第2モータ4を回転させるための駆動信号(同前)を生成する回路などから構成される。
【0024】
シート位置記憶部15には、操作部6の操作により登録された、利用者ごとのシート20の位置が記憶されている。シート角度記憶部16には、同じく操作部6の操作により登録された、利用者ごとのシート20の背もたれ20bの傾斜角度が記憶されている。
【0025】
閾値記憶部17には、挟み込み検出部12が、シート間における挟み込みの有無を判定するための判定閾値が記憶されている。この判定閾値については、後で詳しく説明する。
【0026】
以上の構成を備えた電動シートシステム100において、利用者が車両に搭乗する際に、ID入力部7に電子キーなどから利用者のIDが入力され、または、操作部6で所定の操作が行われると、シート制御装置1の制御の下で、シート20が所定位置まで自動的に移動し、また、シート20の背もたれ20bが所定角度だけ傾斜する。
【0027】
詳しくは、制御部11は、シート位置記憶部15に記憶されている、該当する利用者のシート位置を読み出すとともに、シート角度記憶部16に記憶されている、該当する利用者のシート角度を読み出す。そして、制御部11は、これらの情報に基づいて、第1モータ駆動部13および第2モータ駆動部14に対して、各モータの回転量や回転方向を指令する。
【0028】
第1モータ駆動部13は、制御部11からの指令に基づいて、第1モータ2を所定方向に所定量回転させる。これにより、スライド機構3を介して、シート20の座部20aがX方向に移動する。移動中のシート20の位置は、シート位置検出部8で検出される。検出されたシート位置が、シート位置記憶部15から読み出した位置と一致すると、制御部11は、第1モータ駆動部13により第1モータ2を停止させる。
【0029】
また、第2モータ駆動部14は、制御部11からの指令に基づいて、第2モータ4を所定方向に所定量回転させる。これにより、リクライニング機構5を介して、シート20の背もたれ20bがY方向に回転する。背もたれ20bの回転角度が、シート角度記憶部16から読み出したシート角度と一致すると、制御部11は、第2モータ駆動部14により第2モータ4を停止させる。
【0030】
次に、シート間における挟み込みの検出について、詳細に説明する。
図5および
図6は、前のシート20と後ろのシート21との間に、物体Zが挟み込まれた状態を示している。物体Zは、たとえば荷物や、人の脚や、動物などである。
図5と
図6のいずれの場合も、前のシート20が矢印方向(後方)に移動することによって、前後のシート20、21間に物体Zが挟み込まれる。
【0031】
ここで、
図5では、シート20の背もたれ20bの傾斜角度αが小さいのに対し、
図6では、シート20の背もたれ20bの傾斜角度βが大きくなっている。挟み込まれた物体Zから、反力として背もたれ20bに作用する力は、
図5、
図6とも同じであるが、この反力によりスライド機構3(
図1)を介して第1モータ2に加わる荷重(挟み込み荷重)は、
図5と
図6とで異なる。
【0032】
すなわち、冒頭でも述べたように、背もたれ20bの傾斜角度αが小さい
図5の場合は、第1モータ2に加わる挟み込み荷重が大きくなり、背もたれ20bの傾斜角度βが大きい
図6の場合は、第1モータ2に加わる挟み込み荷重が小さくなる。以下、これについてさらに詳しく説明する。
【0033】
図7は、
図5の挟み込みが発生した場合の、第1モータ2に加わる挟み込み荷重を説明するための模式図である。
図7では、簡略化のために、シート20の座部20aと背もたれ20bを、それぞれ直線で表している。また、スライド機構3とリクライニング機構5も、簡略化して表している。なお、スライド機構3を駆動する第1モータ2(
図1)と、リクライニング機構5を駆動する第2モータ4(
図1)は、
図7では図示を省略している。
【0034】
図7において、P1は、
図5の物体Zからシート20の背もたれ20bに反力Fpが作用する点を表している。この反力Fpは、背もたれ部20bに垂直に作用する。Qは、背もたれ20bの回転中心(回転軸)を表している。L1は、P1とQの間の距離を表しており、αは、
図5のαと同じ傾斜角度を表している。
【0035】
反力Fpの水平方向の成分Faは、スライド機構3を介して第1モータ2(
図1)にかかる挟み込み荷重を表しており、次式で算出される。
Fa=Fp×cosα ・・・(1)
また、Taは、リクライニング機構5を介して第2モータ4(
図1)にかかる挟み込みトルクを表しており、次式で算出される。
Ta=Fp×L1 ・・・(2)
【0036】
図8は、
図6の挟み込みが発生した場合の、第1モータ2に加わる挟み込み荷重を説明するための模式図である。
図8においても、シート20の座部20a、背もたれ20b、スライド機構3、リクライニング機構5を簡略化して表している。P2は、
図6の物体Zからシート20の背もたれ20bに反力Fpが作用する点を表している。なお、反力の作用する位置が変わっても、反力の大きさは実際には殆ど変わらないので、
図8の反力Fpと
図7の反力Fpは等しいものと仮定する。Qは、
図7と同じ回転中心(回転軸)を表しており、L2は、P2とQの間の距離を表している。βは、
図6のβと同じ傾斜角度を表しており、
図7のαよりも大きな値となっている(β>α)。
【0037】
図8において、反力Fpの水平方向の成分Fbは、スライド機構3を介して第1モータ2(
図1)にかかる挟み込み荷重を表しており、次式で算出される。
Fb=Fp×cosβ ・・・(3)
また、Tbは、リクライニング機構5を介して第2モータ4(
図1)にかかる挟み込みトルクを表しており、次式で算出される。
Tb=Fp×L2 ・・・(4)
【0038】
ここで、式(1)により算出される
図7の挟み込み荷重Faと、式(3)により算出される
図8の挟み込み荷重Fbとを比較すると、β>αであるから、反力Fpが同じであれば、Fa>Fbとなる。すなわち、挟み込みが発生した場合、背もたれ20bの傾斜角度が小さいほど、第1モータ2にかかる挟み込み荷重は大きく、背もたれ20bの傾斜角度が大きいほど、第1モータ2にかかる挟み込み荷重は小さくなる。
【0039】
そして、挟み込みが発生したか否かは、挟み込み荷重が一定値を超えた状態が所定時間継続したか否かにより判定する。この場合、挟み込み荷重が増大すると、第1モータ2の回転速度が低下してモータに流れる電流が増加するので、挟み込み荷重の増減はモータ電流の増減と相関関係にある。そこで、モータ電流検出部10(
図1)により第1モータ2に流れる電流を検出するとともに、挟み込み検出部12において、モータ電流の変化量を算出し、この変化量を閾値と比較することで、挟み込みを検出することができる。
【0040】
しかるに、背もたれ20bの傾斜角度αが小さい
図7の場合、すなわち挟み込み荷重Faが大きい場合に照準を合わせて、閾値を大きな値に設定すると、
図8のように背もたれ20bの傾斜角度βが大きい状態で挟み込みが発生した場合に、閾値が大きいために挟み込み荷重Fbが閾値を超えず、挟み込みの検出が困難となる。
【0041】
一方、背もたれ20bの傾斜角度βが大きい
図8の場合、すなわち挟み込み荷重Fbが小さい場合に照準を合わせて、閾値を小さな値に設定すると、
図7のように背もたれ20bの傾斜角度αが小さい状態において、外乱による力がシートに加わることによって、挟み込みが発生していないにもかかわらず、挟み込み荷重Faが容易に閾値を超えてしまい、挟み込みを誤検出しやすくなる。外乱は、たとえば、シートに着座している乗員が身体を揺すったような場合に発生する。
【0042】
そこで、本発明では、背もたれ20bの傾斜角度が大きくなるにつれて挟み込みが検出されやすくなるように、背もたれ20bの傾斜角度に応じて閾値を変化させることで、上述した問題点を解決している。以下、その詳細について
図2~
図4を参照しながら説明する。
【0043】
図2は、本発明で用いる閾値の一例を示している。グラフの横軸は、シート角度(背もたれ20bの傾斜角度)を示しており、グラフの縦軸は、挟み込みの有無を判定するための閾値(以下、「判定閾値」という。)を示している。この例では、判定閾値は、シート角度θに応じて連続的に変化する関数F(θ)に従う値となっており、シート角度θが大きくなるにつれて判定閾値は減少してゆく。
【0044】
たとえば、シート角度が0°の(a)の状態では、判定閾値はKa(初期値)となっている。背もたれ20bが少し傾斜して、シート角度がθ1となった(b)の状態では、判定閾値はKaより減少してKbとなる。背もたれ20bがさらに傾斜して、シート角度がθ2となった(c)の状態では、判定閾値はKbよりさらに減少してKcとなる。背もたれ20bが最大量傾斜して、シート角度がθ3となった(d)の状態では、判定閾値はKcよりさらに減少してKdとなる。
【0045】
このような判定閾値を用いると、シート角度αの小さい
図7の場合は、大きな挟み込み荷重Faに対して、大きな閾値が適用され、シート角度βの大きい
図8の場合は、小さな挟み込み荷重Fbに対して、小さな閾値が適用される。このため、シート角度に応じた最適の閾値を用いて挟み込みの有無を判定することができ、閾値が小さいために挟み込みを誤検出したり、逆に、閾値が大きいために挟み込みを検出できなくなったりすることを防止して、挟み込みの検出精度を高めることができる。
【0046】
図3は、判定閾値の他の例を示している。この例では、判定閾値は、シート角度に応じて段階的に変化し、シート角度が大きくなるにつれて判定閾値は減少してゆく。
【0047】
たとえば、シート角度が0°の(a)の状態では、判定閾値はKa(初期値)となっている。背もたれ20bが少し傾斜して、シート角度がθ1となった(b)の状態では、判定閾値はKaより小さいKbに切り替わる。背もたれ20bがさらに傾斜して、シート角度がθ2となった(c)の状態では、判定閾値はKbより小さいKcに切り替わる。背もたれ20bが最大量傾斜して、シート角度がθ3となった(d)の状態では、判定閾値はKcより小さいKdに切り替わる。
【0048】
このような判定閾値を用いても、シート角度αの小さい
図7の場合は、大きな挟み込み荷重Faに対して、大きな閾値が適用され、シート角度βの大きい
図8の場合は、小さな挟み込み荷重Fbに対して、小さな閾値が適用される。このため、シート角度に応じた最適の閾値を用いて挟み込みの有無を判定することができ、閾値が小さいために挟み込みを誤検出したり、逆に、閾値が大きいために挟み込みを検出できなくなったりすることを防止して、挟み込みの検出精度を高めることができる。
【0049】
図4は、判定閾値の他の例を示している。この例は、
図3の変形例であって、判定閾値の段階的な変化が
図3の場合よりも細かくなっている。この結果、判定閾値の変化は、
図2の場合に類似したものとなる。このような判定閾値を用いることによっても、シート角度に応じた最適の閾値に基づいて挟み込みの有無を判定することができ、挟み込みの検出精度を高めることができる。
【0050】
図9は、本発明の第2実施形態によるシート制御装置30と、これを用いた電動シートシステム200の一例を示している。
図9では、シート制御装置30に2つの挟み込み検出部12a、12bと、2つの閾値記憶部17a、17bが設けられている点が、
図1の第1実施形態と異なっている。その他の構成は
図1と同じであるので、
図1と重複する部分の説明は省略する。
【0051】
図9において、第1挟み込み検出部12aは、座部20aの移動によりシート間に物体が挟み込まれたことを検出し、第2挟み込み検出部12bは、背もたれ20bの傾斜によりシート間に物体が挟み込まれたことを検出する。第1閾値記憶部17aには、第1挟み込み検出部12aが挟み込みを検出するための、第1閾値が記憶されており、第2閾値記憶部17bには、第2挟み込み検出部12bが挟み込みを検出するための、第2閾値が記憶されている。
【0052】
第1挟み込み検出部12aは、モータ電流検出部10で検出される第1モータ2のモータ電流と、第1閾値記憶部17aに記憶されている第1閾値とに基づいて、挟み込みの有無を判定する。第2挟み込み検出部12bは、モータ電流検出部10で検出される第2モータ4のモータ電流と、第2閾値記憶部17bに記憶されている第2閾値とに基づいて、挟み込みの有無を判定する。
【0053】
ここで、第1閾値記憶部17aに記憶されている第1閾値は、
図2~
図4で示したような、背もたれ20bの傾斜角度(シート角度)に応じて変化する閾値である。これに対して、第2閾値記憶部17bに記憶されている第2閾値は、背もたれ20bの傾斜角度に応じて変化しない閾値(固定値)である。その理由は、次のとおりである。
【0054】
背もたれ20bの傾斜による挟み込みは、
図7および
図8で示した挟み込みトルクTa、Tbと、第2閾値とを比較することによって検出される。しかるに、これらのトルクTa、Tbは、前記の式(2)および式(4)より、距離L1、L2(つまり反力Fpが作用する位置)に依存し、背もたれ20bの傾斜角度には依存しない。したがって、第2閾値を傾斜角度に応じて変化させる意味がないからである。
【0055】
第2実施形態では、第1挟み込み検出部12aと第2挟み込み検出部12bは、独立して挟み込みを検出する。そして、制御部11は、第1挟み込み検出部12aの検出結果と、第2挟み込み検出部12bの検出結果とに基づいて、第1モータ2および第2モータ4の動作を制御する。
【0056】
詳しくは、
図10(a)に示すように、背もたれ20bが傾斜しない状態で座部20aが移動することによって、シート20、21間に物体Zが挟み込まれた場合は、第1挟み込み検出部12aのみにより挟み込みが検出され、第1モータ2が停止する。その結果、第1モータ2と第2モータ4は共に停止状態となる。
【0057】
また、
図10(b)に示すように、座部20aは移動せず、背もたれ20bが傾斜することによって、シート20、21間に物体Zが挟み込まれた場合は、第2挟み込み検出部12bのみにより挟み込みが検出され、第2モータ4が停止する。その結果、第1モータ2と第2モータ4は共に停止状態となる。
【0058】
さらに、
図10(c)に示すように、座部20aの移動と背もたれ20bの傾斜が同時に並行して行われたことによって、シート20、21間に物体Zが挟み込まれた場合は、第1挟み込み検出部12aと第2挟み込み検出部12bの両方により挟み込みが検出され、第1モータ2と第2モータ4が停止して、各モータが共に停止状態となる。
【0059】
上述した第2実施形態によると、第1挟み込み検出部12aと第2挟み込み検出部12bの少なくとも一方が挟み込みを検出した場合に、制御部11は、第1モータ2と第2モータ4を停止状態にする。このため、
図10(a)~(c)のいずれの挟み込みが発生しても、モータの停止によって安全を確保することができる。
【0060】
本発明では、以上述べた実施形態以外にも、種々の実施形態を採用することができる。
【0061】
たとえば、前記の実施形態では、挟み込みが検出された場合に、第1モータ2と第2モータ4を停止状態にする例を挙げたが、第1モータ2と第2モータ4の少なくとも一方(挟み込みが発生した側のモータ)を一定時間逆転させることによって、シート20の座部20aを逆方向に移動させ、あるいは背もたれ20bを逆方向に回転させて、挟み込み状態を解消するようにしてもよい。
【0062】
また、前記の実施形態では、
図1において、第1モータ駆動部13と第2モータ駆動部14が、シート制御装置1に設けられている例を挙げたが、これらのモータ駆動部13、14は、シート制御装置1の外部に設けられていてもよい。
図9においても同様である。
【0063】
また、
図1においては、第1モータ2と第2モータ4が、シート制御装置1の外部に設けられているが、これらのモータ2、4は、シート制御装置1に設けられていてもよい。
図9においても同様である。
【0064】
また、前記の実施形態では、
図2において、シート角度が大きくなるにつれて判定閾値が曲線的に減少する例を挙げたが、判定閾値は、シート角度が大きくなるにつれて直線的に減少するものであってもよい。また、シート角度の所定区間は判定閾値が連続的に減少し、他の区間は判定閾値が段階的に減少するようにしてもよい。
【0065】
また、前記の実施形態では、モータ電流に対して判定閾値を設定した例を挙げたが、モータの回転速度に対して判定閾値を設定してもよい。要するに、モータの回転状態を表す電流や回転速度などのパラメータと判定閾値との比較結果に基づいて、挟み込みの有無を判定すればよい。
【0066】
また、前記の実施形態では、利用者に応じてシート位置を自動調整する機能を備えた車両を例に挙げたが、このような機能を備えていない車両においても、本発明は適用が可能である。
【0067】
さらに、前記の実施形態では、自動四輪車などの車両に搭載されるシート制御装置を例に挙げたが、本発明は、車両以外の分野で用いられるシート制御装置にも適用することができる。
【符号の説明】
【0068】
1 シート制御装置
2 第1モータ
4 第2モータ
11 制御部
12 挟み込み検出部
12a 第1挟み込み検出部
12b 第2挟み込み検出部
17 閾値記憶部
17a 第1閾値記憶部
17b 第2閾値記憶部
20 シート
20a 座部
20b 背もたれ
30 シート制御装置
100、200 電動シートシステム
α、β、θ1、θ2、θ3 シート角度(背もたれの傾斜角度)
Ka、Kb、Kc、Kd 判定閾値