(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】SiC-MOSFET
(51)【国際特許分類】
H01L 29/78 20060101AFI20241004BHJP
H01L 29/12 20060101ALI20241004BHJP
H01L 29/06 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
H01L29/78 652C
H01L29/78 652T
H01L29/78 652H
H01L29/78 652M
H01L29/78 652B
H01L29/78 652P
H01L29/06 301G
H01L29/06 301V
H01L29/78 652N
(21)【出願番号】P 2021037173
(22)【出願日】2021-03-09
【審査請求日】2023-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】菅原 勝俊
(72)【発明者】
【氏名】香川 泰宏
(72)【発明者】
【氏名】福井 裕
【審査官】恩田 和彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-197439(JP,A)
【文献】特開2015-073051(JP,A)
【文献】特開2014-192191(JP,A)
【文献】特開2015-141920(JP,A)
【文献】特開2013-105799(JP,A)
【文献】特開2009-004668(JP,A)
【文献】特開2017-191817(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111146290(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/78
H01L 29/12
H01L 29/06
H01L 21/336
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型のSiC基板と、
前記SiC基板上に形成された第1導電型のドリフト層と、
前記ドリフト層の表層に形成された第2導電型のベース領域と、
前記ベース領域の表層に形成された第1導電型のソース領域と、
前記ドリフト層および前記ソース領域に挟まれた前記ベース領域の領域であるチャネル領域に、ゲート絶縁膜を介して対向するゲート電極と、
前記ソース領域に電気的に接触するソース電極と、
前記ベース領域の下面に隣接して形成された第2導電型の複数の第1埋込領域と、を備え、
複数の前記第1埋込領域は、少なくとも前記ベース領域の両端部の直下に形成され、前記ベース領域の幅方向において互いに離間して3つ以上形成さ
れ、
隣り合う2つの前記第1埋込領域に挟まれる前記ドリフト層の幅は、0.4μm以上4.0μm以下である、
SiC-MOSFET。
【請求項2】
第1導電型のSiC基板と、
前記SiC基板上に形成された第1導電型のドリフト層と、
前記ドリフト層の表層に形成された第2導電型のベース領域と、
前記ベース領域の表層に形成された第1導電型のソース領域と、
前記ドリフト層および前記ソース領域に挟まれた前記ベース領域の領域であるチャネル領域に、ゲート絶縁膜を介して対向するゲート電極と、
前記ソース領域に電気的に接触するソース電極と、
前記ベース領域の下面に隣接して形成された第2導電型の複数の第1埋込領域と、を備え、
複数の前記第1埋込領域は、少なくとも前記ベース領域の両端部の直下に形成され、前記ベース領域の幅方向において互いに離間して3つ以上形成され、
前記ベース領域の深さに対する前記第1埋込領域の深さの比は1.2以上である、
SiC-MOSFET。
【請求項3】
複数の前記第1埋込領域は、前記ベース領域の幅方向において等間隔に配置される、
請求項1
または請求項
2に記載のSiC-MOSFET。
【請求項4】
第1導電型のSiC基板と、
前記SiC基板上に形成された第1導電型のドリフト層と、
前記ドリフト層の表層に形成された第2導電型のベース領域と、
前記ベース領域の表層に形成された第1導電型のソース領域と、
前記ドリフト層および前記ソース領域に挟まれた前記ベース領域の領域であるチャネル領域に、ゲート絶縁膜を介して対向するゲート電極と、
前記ソース領域に電気的に接触するソース電極と、
前記ベース領域の下面に隣接して形成された第2導電型の複数の第1埋込領域と、を備え、
複数の前記第1埋込領域は、少なくとも前記ベース領域の両端部の直下に形成され、前記ベース領域の幅方向において互いに離間して3つ以上形成され、
前記ベース領域の両端部の直下に位置する前記第1埋込領域の幅は、前記ベース領域の両端部の直下に位置しない前記第1埋込領域の幅より広い、
SiC-MOSFET。
【請求項5】
前記ベース領域の両端部の直下に位置する前記第1埋込領域の深さは、前記ベース領域の両端部の直下に位置しない前記第1埋込領域の深さと同じである、
請求項1から請求項
4のいずれか1項に記載のSiC-MOSFET。
【請求項6】
第1導電型のSiC基板と、
前記SiC基板上に形成された第1導電型のドリフト層と、
前記ドリフト層の表層に形成された第2導電型のベース領域と、
前記ベース領域の表層に形成された第1導電型のソース領域と、
前記ドリフト層および前記ソース領域に挟まれた前記ベース領域の領域であるチャネル領域に、ゲート絶縁膜を介して対向するゲート電極と、
前記ソース領域に電気的に接触するソース電極と、
前記ベース領域の下面に隣接して形成された第2導電型の複数の第1埋込領域と、を備え、
複数の前記第1埋込領域は、少なくとも前記ベース領域の両端部の直下に形成され、前記ベース領域の幅方向において互いに離間して3つ以上形成され、
前記ゲート電極、前記ベース領域、および前記ソース領域により構成される単位セルが複数配置された活性領域と、
前記活性領域を囲む外周領域と、を備え、
前記外周領域は、
前記ドリフト層の表層に形成された第2導電型の複数のガードリングと、
前記複数のガードリングのうち最内周のガードリングの下面に隣接して形成された第2導電型の複数の第2埋込領域と、を備え、
複数の前記第2埋込領域は、少なくとも最内周の前記ガードリングの両端部の下面に隣接し、互いに離間して3つ以上形成される、
SiC-MOSFET。
【請求項7】
前記第1埋込領域と前記第2埋込領域の深さは同じである、
請求項
6に記載のSiC-MOSFET。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、SiC-MOSFETに関する。
【背景技術】
【0002】
パワーエレクトロニクス機器において、モータ等の負荷への電力供給を制御するスイッチング素子として、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)またはMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)などの絶縁ゲート型半導体装置が広く使用されている。
【0003】
特に、炭化珪素(SiC)等のワイドバンドギャップ半導体を用いたMOSFETまたはIGBTは、次世代のスイッチング素子として、1kV程度またはそれ以上の高電圧を扱う技術分野への適用が有望視されている。ワイドバンドギャップ半導体には、SiCの他、例えば窒化ガリウム(GaN)系材料、ダイヤモンドなどがある。
【0004】
縦型構造のMOSFETでは、n型ドリフト層とp型ベース領域とからなるpn接合により、ボディダイオードと呼ばれる逆方向のpnダイオードが形成される。このボディダイオードを用いることで、MOSFETに並列接続される外付けダイオードを省略し、回路の素子数を削減することができる。しかし、半導体材料にSiCを用いるMOSFET(以下、「SiC-MOSFET」と称する)のボディダイオードに電流(以下、「ボディダイオード電流」と称する)が流れると、電子-正孔対が再結合する際に発生するエネルギーによって結晶中の積層欠陥が伸長することが知られている。積層欠陥は高抵抗層として働くため、伸長するとMOSFETおよびボディダイオードの特性を劣化させてしまう。従って、SiC-MOSFETのボディダイオードを用いるためには、積層欠陥の伸長を抑制することが必要である。
【0005】
ボディダイオード電流により伸長する積層欠陥のほとんどは、基板に由来する。基板に存在する欠陥の99%以上は、基板とドリフト層との界面で無害な欠陥に変換され、ドリフト層中には伸長しない。しかし、ボディダイオード電流が増加し正孔がドリフト層と基板との界面に到達すると、基板に存在する欠陥を起点に多数の積層欠陥が伸長する。積層欠陥は高抵抗層として働くため、伸長するとMOSFETおよびボディダイオードの特性を大きく劣化させる。なお、ドリフト層に注入された正孔は、ドリフト層において少数キャリアとして振る舞うため、その到達する深さは少数キャリアのライフタイムに支配される。
【0006】
これに対し、MOSFET内にSBD(Schottky Barrier Diode)を設け、ダイオード電流をSBDに流す技術が知られている。これによれば、ボディダイオードと並列に設けられたSBDの立ち上がり電圧はボディダイオードを構成するSiCのpn接合の立ち上がり電圧より低いため、MOSFETのオフ時のダイオード電流はボディダイオードではなくSBDに流れる。SBDを流れる電流は正孔が介在しない電子電流であるため、これによる積層欠陥の伸長は発生せず、MOSFET等の特性の劣化も生じない。しかし、ダイオード電流がある程度増加するとボディダイオードが動作して正孔電流が流れてしまう。また、単位セル内にSBDを設けることによってMOSFETの領域が減ってしまう。これらの理由により、オン電圧が増加してしまうという問題がある。
【0007】
特許文献1は、MOSFETの単位セル内のp型ベース領域の下に隣接して追加のp型領域を複数設ける構成を提案している。特許文献1の構成によれば、p型領域に挟まれたドリフト層の領域において、注入された正孔のライフタイムが短くなることから、ドリフト層と基板との界面に到達する正孔の数を少なくすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の構成では、p型ベース領域の端部の下に追加のp型領域がないため(段落0045)、耐圧が低下するという課題がある。これは、p型ベース領域の端部に隣接するn型領域の幅が広いと空乏層が広がりきらずに電界が集中し、耐圧が低下する懸念があるためである。
【0010】
本開示は上記の課題に鑑みてなされたものであり、SiC-MOSFETにおいて、耐圧低下およびオン電圧増加を抑制すると共にボディダイオード電流を増加させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示のSiC-MOSFETは、第1導電型のSiC基板と、SiC基板上に形成された第1導電型のドリフト層と、ドリフト層の表層に形成された第2導電型のベース領域と、ベース領域の表層に形成された第1導電型のソース領域と、ドリフト層およびソース領域に挟まれたベース領域の領域であるチャネル領域に、ゲート絶縁膜を介して対向するゲート電極と、ソース領域に電気的に接触するソース電極と、ベース領域の下面に隣接して形成された第2導電型の複数の第1埋込領域と、を備える。複数の第1埋込領域は、少なくともベース領域の両端部の直下に形成され、ベース領域の幅方向において互いに離間して3つ以上形成され、隣り合う2つの第1埋込領域に挟まれるドリフト層の幅は、0.4μm以上4.0μm以下である。
【発明の効果】
【0012】
本開示のSiC-MOSFETによれば、第1埋込領域の間のドリフト層の領域において正孔のライフタイムが低下するため、ドリフト層と基板との界面に到達する正孔の数を減らし、積層欠陥の伸長を抑制することができる。これにより、ボディダイオード電流を増加させることができる。また、第1埋込領域はベース領域の両端部の直下に形成されるため、耐圧の低下が抑制される。また、第1埋込領域を設けてもMOSFETの通電経路は変化しないため、オン電圧の上昇は生じない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施の形態1の第1比較例のSiC-MOSFETの断面図である。
【
図2】実施の形態1の第2比較例のSiC-MOSFETの断面図である。
【
図3】実施の形態1のSiC-MOSFETの断面図である。
【
図4】実施の形態1の変形例のSiC-MOSFETの断面図である。
【
図5】実施の形態2の比較例のSiC-MOSFETの断面図である。
【
図6】実施の形態2のSiC-MOSFETの断面図である。
【
図7】実施の形態2の第1変形例のSiC-MOSFETの断面図である。
【
図8】実施の形態2の第2変形例のSiC-MOSFETの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、様々なSiC-MOSFETの構成を説明するが、各SiC-MOSFETの構成要素におけるn型またはp型は、逆の導電型であってもよい。
【0015】
<A.実施の形態1>
<A-1.比較例>
図1は、実施の形態1の第1比較例のSiC-MOSFET151の断面図である。SiC-MOSFET151は、縦型構造のMOSFETである。SiC-MOSFET151は、n型のSiC基板1、n型のドリフト層2、p型のベース領域3、n型のソース領域4、ゲート絶縁膜5、ゲート電極6、層間絶縁膜7、ソース電極8、およびドレイン電極9を備えて構成される。SiC基板1の上面にはn型のドリフト層2が形成される。ドリフト層2の表層には、p型のベース領域3が形成される。ベース領域3の表層には、n型のソース領域4が形成される。ベース領域3の表層のうちドリフト層2とソース領域4とで挟まれる部分は、チャネル領域となる。このチャネル領域の上には、ゲート絶縁膜5が形成され、その上にはゲート電極6が形成される。すなわち、ゲート電極6はゲート絶縁膜5を介してチャネル領域と対向する位置に形成される。ゲート電極6の側面および上面は、層間絶縁膜7に覆われる。ソース領域4、ベース領域3、層間絶縁膜7を覆うように、ソース電極8が形成される。ソース電極8は、ベース領域3のうち、チャネル領域以外のソース領域4が形成されていない上面と接触する。SiC基板1の下面にはドレイン電極9が形成される。
【0016】
SiC-MOSFET151では、n型のドリフト層2とp型のベース領域3とからなるpn接合により、ボディダイオードと呼ばれる逆方向のpnダイオードが形成される。このボディダイオードを用いることで、SiC-MOSFET151に並列接続される外付けダイオードを省略し、回路の素子数を削減することができる。しかし、SiC-MOSFETにおいてボディダイオード電流が流れると、電子-正孔対が再結合する際に発生するエネルギーによって結晶中の積層欠陥が伸長し、MOSFETおよびボディダイオードの特性を劣化させてしまう。従って、SiC-MOSFETのボディダイオードを用いるためには、積層欠陥の伸長を抑制することが必要である。
【0017】
図2は、実施の形態1の第2比較例2のSiC-MOSFET152の断面図である。SiC-MOSFET152は、p型の複数の第1埋込領域10がベース領域3の下面に隣接して設けられる点で、第1比較例のSiC-MOSFET151と異なる。1つのベース領域3に対して複数の第1埋込領域10が設けられる。隣り合う2つの第1埋込領域10に挟まれるドリフト層2の領域を、n型領域11と称する。SiC-MOSFET152によれば、n型領域11において注入された正孔のライフタイムが短くなるため、ドリフト層2とSiC基板1との界面に到達する正孔の数が少なくなる。しかし、第1埋込領域10はベース領域3の端部の下には設けられないため、耐圧が低下するという課題がある。これは、ベース領域3の端部に隣接するn型領域の幅が広いと空乏層が広がりきらずに電界が集中し、耐圧が低下する懸念があるためである。
【0018】
<A-2.構成>
図3は、実施の形態1のSiC-MOSFET101の断面図である。SiC-MOSFET101は、第1埋込領域10がベース領域3の端部の直下にも設けられている点で、第2比較例のSiC-MOSFET102と異なる。
【0019】
第1比較例のSiC-MOSFET151では、ボディダイオード電流はソース領域4の下に位置する部分を含めたベース領域3の全体からドリフト層2へ流れる。ドリフト層2における正孔のライフタイムは一定である。
【0020】
これに対して、SiC-MOSFET101では、第1埋込領域10の周囲で正孔のライフタイムが低下する。そのため、SiC-MOSFET101に第1比較例のSiC-MOSFET151と同じボディダイオード電流を流しても、ベース領域3からn型領域11に流入した正孔の一部がn型領域11で再結合する。その結果、ドリフト層2とSiC基板1との界面に到達する正孔が少なくなる。すなわち、SiC-MOSFET101は、第1比較例のSiC-MOSFET151と比べて、欠陥伸長なしに流すことのできるボディダイオード電流が大きい。
【0021】
正孔のライフタイムが低下する効果は第1埋込領域10の周囲で発生する。これは、正孔が第1埋込領域10に挟まれたn型領域11で再結合するため、より下方のドリフト層2に到達しにくいためである。従って、隣り合う第1埋込領域10の間隔、すなわちn型領域11の幅は狭い方が望ましい。しかし、ベース領域3に対するn型領域11の面積比が小さくなれば、n型領域11からドリフト層2へ流れる正孔よりも第1埋込領域10からドリフト層2へ流れる正孔が支配的となるため、n型領域11はある程度の幅を持つ必要がある。従って、n型領域11の幅は0.4μm以上4.0μm以下であることが望ましい。一方で、第1埋込領域10の幅が大きくなると、第1埋込領域10からドリフト層2へ流れる正孔が増加する。そのため、第1埋込領域10の幅は、n型領域11の幅の0.5倍以上、かつ2倍以下であることが望ましい。
【0022】
また、ベース領域3の幅にもよるが、n型領域11は1つのベース領域3に対して2つ以上設けられることが望ましい。言い換えれば、第1埋込領域10は1つのベース領域3に対して3つ以上設けられることが望ましい。このとき、第1埋込領域10とn型領域11の幅は異なっていても構わない。そのため、
図3に示すように、ベース領域3の両端部の直下に位置する第1埋込領域10の幅は、ベース領域3の両端部の直下に位置しない第1埋込領域10の幅より広くてもよい。
【0023】
ベース領域3またはソース領域4のうちソース電極8と接触する部分をソースコンタクト領域と称する。ソースコンタクト領域の直下、とりわけその中央において正孔の流入量が多い。従って、ソースコンタクト領域の直下の第1埋込領域10について言えば、中央に位置する第1埋込領域10の幅を最も狭くすることにより正孔の消滅効果を高め、中央から外側にいくにつれて第1埋込領域10の幅が広くなるようにしてもよい。また、1つのベース領域3について第1埋込領域10は等間隔に配置されてもよい。第1埋込領域10が等間隔に配置されることで、ボディダイオード電流が均等に第1埋込領域10から流れ、電流特性が安定するという効果がある。
【0024】
n型領域11が深いほど、正孔がライフタイムの低い領域を走行する距離が長くなる。そのため、ベース領域3の深さに対する第1埋込領域10の深さの比は少なくとも1.2以上であり、望ましくは1.5以上である。ベース領域3の端部の直下に位置する第1埋込領域10の深さは、その他の第1埋込領域10の深さと同じにすることで、耐圧が向上する。
【0025】
図3に示すように、n型領域11がソース領域4の直下にも形成される場合、n型領域11の幅が広いと空乏層が広がりきらずに電界が集中し、耐圧が低下する懸念がある。そのため、n型領域11の幅は狭いことが望ましい。この場合、n型領域11の幅は、上述した「0.4μm以上4.0μm以下」より狭くても良い。この場合の第1埋込領域10の深さも、上記と同じように、ベース領域3の深さに対する比が1.2以上であり、望ましくは1.5以上である。
【0026】
第1埋込領域10の不純物濃度が高いほど、正孔のライフタイムを低下させる効果は大きくなる。しかし、第1埋込領域10の不純物濃度が高くなると、SiC-MOSFET101がオフ状態となって高電圧が保持されている際に、第1埋込領域10の下部にかかる電界が高くなるため、不純物濃度を高濃度化する際には注意が必要である。
【0027】
第1埋込領域10は、その間にn型領域11を挟むという構造上、ベース領域3の直下に複数設けられる必要がある。単位セルの平面形状には四角、六角、または円などからなる格子型、もしくはストライプ型などが挙げられる。単位セルの平面形状が格子型である場合、第1埋込領域10の平面形状は同心円状でもストライプ状でもよい。単位セルの平面形状がストライプ型である場合、第1埋込領域10の配置は単位セルのストライプの長手方向に平行でも垂直でもよい。また、第1埋込領域10の配置は、同心円状のパターンが単位セルのストライプの長手方向に沿って周期的に繰り返されるパターンであってもよい。
【0028】
<A-3.変形例>
図4は、実施の形態1の変形例のSiC-MOSFET102の断面図である。SiC-MOSFET102では、ソース領域4の上面、およびベース領域3のソースコンタクト部に凹部12が形成されており、ソース電極8が凹部12に入り込む。そして、第1埋込領域10は、ベース領域3の端部の下と、凹部12の下とに形成される。凹部12を有するSiC-MOSFET102の構成によれば、ベース領域3を形成する際のマスクを用いて第1埋込領域10を形成することが可能であるため、マスクを削減する効果がある。
【0029】
凹部12の深さと第1埋込領域10の深さとの関係によっては、第1埋込領域10がベース領域3と分離される可能性がある、そのような場合であっても第1埋込領域10は接地されることが望ましい。
図4に示すように凹部12内にソース電極8を埋め込めば、第1埋込領域10を接地することができる。または、凹部12の側壁の一部または全部をp型とし、ベース領域3と第1埋込領域10を接続してもよい。
【0030】
<A-4.効果>
実施の形態1のSiC-MOSFET101は、第1導電型のSiC基板1と、SiC基板1上に形成された第1導電型のドリフト層2と、ドリフト層2の表層に形成された第2導電型のベース領域3と、ベース領域3の表層に形成された第1導電型のソース領域4と、ドリフト層2およびソース領域4に挟まれたベース領域3の領域であるチャネル領域に、ゲート絶縁膜5を介して対向するゲート電極6と、ソース領域4に電気的に接触するソース電極8と、ベース領域3の下面に隣接して形成された第2導電型の複数の第1埋込領域10と、を備える。そして、複数の第1埋込領域10は、少なくともベース領域3の両端部の直下に形成され、互いに離間して3つ以上形成される。第1埋込領域10の間のドリフト層2の領域において正孔のライフタイムが低下するため、ドリフト層2とSiC基板1との界面に到達する正孔の数を減らし、積層欠陥の伸長を抑制することができる。これにより、ボディダイオード電流を増加させることができる。また、第1埋込領域10はベース領域3の両端部の直下に形成されるため、耐圧の低下が抑制される。また、第1埋込領域10を設けてもMOSFETの通電経路は変化しないため、オン電圧の上昇は生じない。
【0031】
<B.実施の形態2>
<B-1.比較例>
図5は、実施の形態2の比較例のSiC-MOSFET251の断面図である。SiC-MOSFET251は、MOSFETとして動作する単位セルを有する活性領域14と、活性領域14より外側の外周領域13とを備えて構成される。SiC-MOSFET251の活性領域14の構成は、実施の形態1の第1比較例のSiC-MOSFET151の構成と同様である。また、SiC基板1、ドリフト層2、ソース電極8、およびドレイン電極9は、活性領域14と外周領域13とで共通である。
【0032】
外周領域13では、ドリフト層2の表層に複数のガードリング15が設けられる。ガードリング15はp型の領域であり、活性領域14を囲むように同心円状に配置される。各ガードリング15の幅は、外周領域13の内側から外側にいくにつれて徐々に小さくなる。また、SiC-MOSFETの構成によっては、外周領域13にゲート電極6およびゲートパッド、またはフィールド酸化膜などが設けられることがある。
【0033】
SiC-MOSFET251では、スイッチング動作の際にドリフト層2中およびガードリング15において生じた空乏層の伸び縮みに伴って変位電流と呼ばれる電流が発生する。この電流によってガードリング15内の電位が高くなると、ソース電極8またはゲート電極6との間の電位差が大きくなり、その間に設けられたフィールド絶縁膜、層間絶縁膜7、またはゲート絶縁膜5が破壊される。そのため、最内周のガードリング15であるガードリング15aには、ソース電極8と電気的に接触する部分、すなわちソースコンタクト16が設けられる。このソースコンタクト16を有するガードリング15aもまた、ボディダイオードとして動作するため、ボディダイオード電流による積層欠陥の伸長が問題となる。
【0034】
<B-2.構成>
図6は、実施の形態2のSiC-MOSFET201の断面図である。SiC-MOSFET201の活性領域14は、実施の形態1のSiC-MOSFET101と同一の構成である。SiC-MOSFET201の外周領域13は、最内周のガードリング15aの下に隣接して複数のp型の第2埋込領域20が設けられる点で、比較例のSiC-MOSFET251の外周領域13と異なっている。隣り合う第2埋込領域20に挟まれたドリフト層2の領域をn型領域21と称する。
【0035】
図6では、第2埋込領域20がソースコンタクト16の直下だけでなくガードリング15aの両端部の下にも形成されている。しかし、第2埋込領域20はソースコンタクト16の直下にのみ設けられていてもよい。実施の形態1で第1埋込領域10とn型領域11について説明したように、第2埋込領域20を設けることにより、n型領域21における正孔のライフタイムを低下させることができる。
【0036】
第2埋込領域20の幅、深さ、および不純物濃度は、第1埋込領域10のそれらと同様である。また、n型領域21はガードリング15aに対して2つ以上設けられることが望ましい。言い換えれば、第2埋込領域20はガードリング15aに対して3つ以上設けられることが望ましい。
【0037】
なお、外周領域13の第2埋込領域20は、活性領域14の第1埋込領域10と同じ深さであってもよい。両者の深さが同じであることで、耐圧が向上する。また、外周領域13の第2埋込領域20は、外側から活性領域14側に向かって徐々に深くなってもよい。
【0038】
<B-3.変形例>
図7は、実施の形態2の第1変形例のSiC-MOSFET202の断面図である。SiC-MOSFET202は、活性領域14においてソース領域4の上面、およびベース領域3のソースコンタクト部に凹部12が形成され、外周領域13において最内周のガードリング15aの上面に凹部22が形成されるという点で、実施の形態2のSiC-MOSFET
201と異なる。SiC-MOSFET202の活性領域14は、実施の形態1の変形例のSiC-MOSFET102と同じ構成である。凹部22には、ゲート絶縁膜5、層間絶縁膜7またはソース電極8が入り込む。
【0039】
図8は、実施の形態2の第2変形例のSiC-MOSFET203の断面図である。SiC-MOSFET203は、凹部22の幅をSiC-MOSFET202における凹部22の幅より大きくし、ガードリング15aの外側端部の上面と、ガードリング15aより外側のガードリング15の上面を、凹部22の底面の高さに合わせたものである。
【0040】
なお、上記のSiC-MOSFET101,102,201,202,203ではプレーナ型の単位セルが用いられたが、トレンチ型の単位セルが用いられてもよい。
【0041】
<B-4.効果>
実施の形態2のSiC-MOSFET201は、ゲート電極6、ベース領域3、およびソース領域4により構成される単位セルが複数配置された活性領域14と、活性領域14を囲む外周領域13と、を備える。外周領域13は、ドリフト層2の表層に形成された第2導電型の複数のガードリング15と、複数のガードリング15のうち最内周のガードリング15aの下面に隣接して形成された第2導電型の複数の第2埋込領域20と、を備える。複数の第2埋込領域20は、少なくとも最内周のガードリング15aの両端部の下面に隣接し、互いに離間して3つ以上形成される。従って、SiC-MOSFET201によれば、外周領域13においても、欠陥伸長なしに流すことが可能なボディダイオード電流を増加させることができる。
【0042】
なお、各実施の形態を自由に組み合わせたり、各実施の形態を適宜、変形、省略したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0043】
1 SiC基板、2 ドリフト層、3 ベース領域、4 ソース領域、5 ゲート絶縁膜、6 ゲート電極、7 層間絶縁膜、8 ソース電極、9 ドレイン電極、10 第1埋込領域、11,21 n型領域、12,22 凹部、13 外周領域、14 活性領域、15,15a ガードリング、16 ソースコンタクト、20 第2埋込領域。