(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】化成処理鋼板
(51)【国際特許分類】
C23C 26/00 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
C23C26/00 F
(21)【出願番号】P 2021047057
(22)【出願日】2021-03-22
【審査請求日】2023-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】日鉄ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】有吉 春樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 敏敬
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-184329(JP,A)
【文献】特開2006-347053(JP,A)
【文献】特開2006-82403(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C22/00-30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板と、該鋼板の少なくとも一方の面に形成された化成処理膜とを具備し、
前記化成処理膜は、アミノ基、エポキシ基およびイソシアネート基からなる群より選ばれる1種以上を有するシランカップリング剤と、含金属染料とを含む、化成処理鋼板。
【請求項2】
前記化成処理膜は、硝化綿樹脂および熱硬化性樹脂からなる群より選ばれる1種以上の樹脂をさらに含む、請求項1に記載の化成処理鋼板。
【請求項3】
前記鋼板がステンレス鋼板である、請求項1または2に記載の化成処理鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化成処理鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼板はステンレス特有の美麗な金属光沢を活かした高級感のある外観が得られることから、家庭用や業務用の電化製品の筐体や内装材、外装材に広く使われている。
電化製品に使用されるステンレス鋼板は、非塗装で使用されるものと、表面に塗装を施して使用されるものとに大別される。特に、電化製品の外装材として使用されるステンレス鋼板は、意匠性を付与したり、耐食性や耐汚染性等を高めたりする目的からステンレス鋼板の表面(品質保証面)を塗装してクリヤ樹脂層を形成することがある。
【0003】
ステンレス鋼板の表面にクリヤ樹脂層が形成されたクリヤ塗装ステンレス鋼板を加工する際に、どちらの面にクリヤ樹脂層が形成されているか、すなわち、どちらが品質保証面であるか、分かりにくい場合がある。
顔料を含むクリヤ樹脂層をステンレス鋼板の表面に形成すれば、ステンレス鋼板の表裏面を目視にて容易に確認でき、しかも意匠性をより高めることができる。
しかし、ステンレス鋼板の表裏面を確認するためだけに着色する目的で、顔料を含むクリヤ樹脂層をステンレス鋼板の表面に形成するのは、コストの面で不利である。
【0004】
従来、耐食性等を高める目的で、金属板の表面に化成処理液を塗布して化成処理膜を形成する方法が知られている。化成処理膜を着色すれば、クリヤ樹脂層を形成する場合に比べて安価に金属板の表裏面を確認することができる。
化成処理液に配合される着色剤として、例えば特許文献1には、有機着色顔料、無機顔料、導電性顔料等の顔料や、水溶性アゾ系金属染料等の染料などが記載されている。また、特許文献2には、着色顔料や、オサゾン染料、トリフェニルメタン染料、アゾ染料等の染料などが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-216107号公報
【文献】特開2010-111898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、顔料は膜の厚さがある程度ないと十分に発色しにくい傾向がある。そのため、薄膜な化成処理膜中で十分に発色させるためには、粒子径の細かい顔料、例えば酸化チタンやカーボンブラック等に限られ、化成処理膜の色が制約されやすい。
特許文献1、2に記載の染料では、発色性が不十分である。
【0007】
本発明の課題は、色の制約を受けにくく、発色性に優れる化成処理鋼板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の態様を有する。
[1] 鋼板と、該鋼板の少なくとも一方の面に形成された化成処理膜とを具備し、
前記化成処理膜は、アミノ基、エポキシ基およびイソシアネート基からなる群より選ばれる1種以上を有するシランカップリング剤と、含金属染料とを含む、化成処理鋼板。
[2] 前記化成処理膜は、硝化綿樹脂および熱硬化性樹脂からなる群より選ばれる1種以上の樹脂をさらに含む、前記[1]の化成処理鋼板。
[3] 前記鋼板がステンレス鋼板である、前記[1]または[2]の化成処理鋼板。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、色の制約を受けにくく、発色性に優れる化成処理鋼板を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の化成処理鋼板の一実施形態例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の化成処理鋼板の一実施形態例について説明する。
図1は、本発明の化成処理鋼板の一実施形態例を模式的に示す断面図である。
本実施形態例の化成処理鋼板10は、鋼板11と、該鋼板11の一方の面に形成された化成処理膜12とを具備して構成されている。
なお、
図1においては、説明の便宜上、寸法比は実際のものと異なったものである。
【0012】
「鋼板」
鋼板11としては、ステンレス鋼板、めっき鋼板、普通鋼板、アルミ鋼板などが挙げられる。これらの中でも、ステンレス特有の美麗な金属光沢を活かした高級感のある外観が得られることから、ステンレス鋼板が好ましい。
ステンレス鋼板としては、フェライト系、マルテンサイト系、オーステナイト系、オーステナイト・フェライト系(二相系)など、一般に使用される公知のステンレス鋼板を用いることができる。
【0013】
鋼板11の表面は、化成処理膜12が形成される前に研磨処理が施されていてもよい。
研磨処理としては、No.4研磨、ヘアライン(HL)研磨、2B研磨など、一般に使用される研磨方法が挙げられる。
【0014】
「化成処理膜」
化成処理膜12は、以下に示すシランカップリング剤(A)と、含金属染料(B)とを含む。化成処理膜12は、以下に示す樹脂(C)をさらに含んでいてもよい。化成処理膜12は、シランカップリング剤(A)、含金属染料(B)および樹脂(C)以外の成分(任意成分)をさらに含んでいてもよい。
【0015】
<シランカップリング剤(A)>
シランカップリング剤(A)はアミノ基、エポキシ基およびイソシアネート基からなる群より選ばれる1種以上を有する。シランカップリング剤(A)がアミノ基、エポキシ基およびイソシアネート基からなる群より選ばれる1種以上を有することで、鋼板11と後述の含金属染料とのカップリング反応が促進され、発色性が高まる。加えて、化成処理膜12の耐溶剤性も高まる。
特に、鋼板11がステンレス鋼板の場合、ステンレス鋼板と化成処理膜12との密着性が高まる観点から、ランカップリング剤(A)としてはアミノ基を有するものが好ましい。
これらシランカップリング剤(A)は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0016】
アミノ基を有するシランカップリング剤としては、例えばN-2(アミノエチル)3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。これらの中でも、密着性がより高まる観点から、N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルメチルジメトキシシランが好ましい。
これらアミノ基を有するシランカップリング剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0017】
エポキシ基を有するシランカップリング剤としては、例えば2-(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランなどが挙げられる。
これらエポキシ基を有するシランカップリング剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0018】
イソシアネート基を有するシランカップリング剤としては、例えば3-イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアナトプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
これらイソシアネート基を有するシランカップリング剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0019】
<含金属染料(B)>
含金属染料(B)は、染料分子に金属イオンが錯塩の形で配位結合した非水溶性の染料である。含金属染料(B)は、例えばアルコール系溶剤、エーテル系溶剤、ケトン溶剤、エステル溶剤等の有機溶剤に対して可溶である。
含金属染料(B)としては、染料1分子に対して金属1原子が配位結合した1:1型金属錯塩染料、染料2分子に対して金属1原子が配位結合した1:2型金属錯塩染料などが挙げられる。
染料分子としては特に制限されないが、例えばアゾ染料、塩基性染料、酸性染料などが挙げられる。
染料分子に配位結合する金属としては、例えばクロム、コバルト、銅、ニッケル等の2価または3価の金属などが挙げられる。
【0020】
含金属染料(B)の具体例としては、例えばC.I.Solvent Yellow 62、C.I.Solvent Orange 11、C.I.Solvent Brown 42、 C.I.Solvent Red 8、 C.I.Solvent Red 122、 C.I.Solvent Red 127などが挙げられる。
これらの中でも、透明性と堅牢性のバランスに優れる観点から、1:2型金属錯塩染料が好ましく、染料分子にクロムが配位した1:2型クロム錯塩染料がより好ましい。
これら含金属染料(B)は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0021】
<樹脂(C)>
樹脂(C)は、硝化綿樹脂および熱硬化性樹脂からなる群より選ばれる1種以上の樹脂である。
硝化綿樹脂はニトロセルロースとも呼ばれ、セルロースと硝酸とを反応させて、セルロース中のヒドロキシ基の少なくとも一部を硝酸基に置換した、セルロースの硝酸エステルである。
【0022】
熱硬化性樹脂としては、例えばアクリル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、アクリルシリコーン樹脂などが挙げられる。これらの中でも、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂が好ましく、アクリル樹脂がより好ましい。
これら熱硬化性樹脂は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
アクリル樹脂としては、架橋性官能基を有するアクリル樹脂が好ましい。
架橋性官能基を有するアクリル樹脂は化成処理に対する反応性に優れるので、化成処理膜12が該アクリル樹脂を含むことで、鋼板11と化成処理膜12とが良好に密着する。
ここで、「架橋性官能基」とは、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルコキシシラン基などから選ばれる1種または2種以上の官能基である。アクリル樹脂は架橋性官能基を1分子あたり、2つ以上有することが好ましい。
【0024】
架橋性官能基を有するアクリル樹脂は、例えば非官能性アクリル単量体と架橋性官能基を有する重合性単量体とを反応させることで得られる。このようにして得られるアクリル樹脂は、非官能性アクリル単量体単位と架橋性官能基を有する重合性単量体単位とを含む。
非官能性アクリル単量体としては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸n-ヘキシル、メタクリル酸シクロへキシル、メタクリル酸ラウリル等の脂肪族または環式アクリートなどが挙げられる。
これら非官能性アクリル単量体は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
架橋性官能基を有する重合性単量体としては、ヒドロキシ基を有する単量体、カルボキシ基を有する単量体、アルコキシシラン基を有する単量体等が挙げられる。
ヒドロキシ基を有する単量体は、1分子中にヒドロキシ基と重合性不飽和二重結合をそれぞれ1つ以上含有する単量体である。このような単量体としては、例えばアクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドキシプロピル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル等のヒドロキシアルキルエステル;ラクトン変性水酸基含有ビニル重合モノマー(例えば、プラクセルFM1、2、3、4、5、FA-1、2、3、4、5(以上、株式会社ダイセル製)等)などが挙げられる。
カルボキシ基を有する単量体は、1分子中にカルボキシ基と重合性不飽和二重結合をそれぞれ1つ以上含有する単量体である。このような単量体としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などが挙げられる。
アルコキシシラン基を有する単量体は、1分子中にアルコキシシラン基と重合性不飽和二重結合をそれぞれ1つ以上含有する単量体である。このような単量体としては、例えばビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メタアクリロキシプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
これら架橋性官能基を有する重合性単量体は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
架橋性官能基を有するアクリル樹脂は、非官能性アクリル単量体単位および架橋性官能基を有する重合性単量体単位以外の他の単量体単位を含んでいてもよい。
他の単量体としては、例えばメチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;スチレン、α-メチルスチレン等のスチレン類;アクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のアクリルアミドなどが挙げられる。
これら他の単量体は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
アクリル樹脂のガラス転移温度は30~90℃が好ましく、50~90℃がより好ましい。アクリル樹脂のガラス転移温度が30℃以上であれば、化成処理膜12の表面硬度が高まる。また、化成処理鋼板10を連続プレスした際に摩擦し、加工発熱して、表面の温度が80~100℃に上昇するため、アクリル樹脂のガラス転移温度が30℃未満であると、化成処理膜12が軟化して、金型に付着することがある。また、アクリル樹脂のガラス転移温度が90℃を超えると、ピンホール、レベリング不足等が生じる傾向にある。
アクリル樹脂のガラス転移温度を前記範囲にするためには、アクリル樹脂の組成を適宜選択すればよい。
アクリル樹脂のガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC)の測定により求めた値である。
【0028】
アクリル樹脂の数平均分子量は3000~50000が好ましく、4000~10000がより好ましい。アクリル樹脂の数平均分子量が3000以上であれば、含金属染料(B)の分散性が高まり、光沢性および発色性により優れた化成処理膜12が得られる。アクリル樹脂の数平均分子量が50000を超えると、溶媒溶解性が低くなるため、後述する化成処理液が得られにくくなることがある。
アクリル樹脂の数平均分子量は、アクリル樹脂を製造する際の条件(例えば、重合温度、重合開始剤の種類や量等)によって調整することができる。
アクリル樹脂の数平均分子量は、ゲルろ過クロマトグラフィー(GPC)により測定される、標準ポリスチレン換算の値である。
これらアクリル樹脂は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0029】
エポキシ樹脂としては、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン骨格型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂などが挙げられる。これらの中でも、汎用性、選択性、コストを考慮すると、ビスフェノールA型エポキシ樹脂が好ましい。
これらエポキシ樹脂は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0030】
メラミン樹脂は、変性するアルコールの種類によってメチル化メラミン樹脂、n-ブチル化メラミン樹脂、イソブチル化メラミン樹脂、混合アルキル化メラミン樹脂などに分類される。これらの中でも、反応性に優れ、かつ可とう性とのバランスに優れる点で、メチル化メラミン樹脂が特に好ましい。
【0031】
具体的には、メチル化メラミン樹脂としては、サイメル300、301、303、350、370、771、325、327、703、712、715、701(以上、三井化学株式会社製)、LUWIPAL 063、066、068、069、072、073(以上 BASFジャパン株式会社製)、アミディアL-105(以上、DIC株式会社製)、メラン522、523、620、622、623(以上、日立化成株式会社製)等が挙げられる。
n-ブチル化メラミン樹脂としては、マイコート506、508、ユーバン20SB、20SE、21R、22R、122、125、128、220、225、228、28-60、20HS、2020、2021、2028、120(以上、三井化学株式会社製)、PLASTOPAL EBS 100A、100B、400B、600B、CB(以上、BASFジャパン株式会社製)、アミディアJ-820、L-109、L-117、L-127、L-164(以上、DIC株式会社製)、メラン21A、22、220、2000、8000(以上、日立化成株式会社製)等が挙げられる。
イソブチル化メラミン樹脂としては、ユーバン60R、62、62E、360、361、165、166-60、169、2061(以上、三井化学株式会社製)、アミディアG-821、L-145、L-110、L-125(以上、DIC株式会社製)、PLASTOPAL EBS 4001、FIB、H731B、LR8824(以上、BASFジャパン株式会社製)、メラン27、28、28D、245、265、269、289(以上、日立化成株式会社製)等が挙げられる。
混合アルキル化メラミン樹脂としては、サイメル267、285、232、235、236、238、211、254、204、212、202、207(以上、三井化学株式会社製)等が挙げられる。
これらアミノ樹脂は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0032】
化成処理膜12の耐溶剤性が高まる観点では、樹脂(C)としては、硝化綿樹脂、アクリル樹脂が好ましい。その中でも特に、硝化綿樹脂、スチレン単位を含まないアクリル樹脂がより好ましく、硝化綿樹脂がさらに好ましい。
化成処理膜12の外観に優れる観点では、樹脂(C)としては、硝化綿樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂が好ましい。
化成処理膜12の曲げ加工性および鋼板11への密着性が高まる観点では、樹脂(C)としては、硝化綿樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂が好ましい。その中でも特に、硝化綿樹脂がより好ましい。
【0033】
化成処理膜12は、シランカップリング剤(A)と含金属染料(B)とを含み、樹脂(C)を含まないか、または樹脂(C)を含み、前記樹脂(C)が硝化綿樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂およびメラミン樹脂からなる群より選ばれる1種以上であることが好ましい。前記樹脂(C)は、硝化綿樹脂およびアクリル樹脂からなる群より選ばれる1種以上であることがより好ましく、硝化綿樹脂、およびスチレン単位を含まないアクリル樹脂からなる群より選ばれる1種以上であることがさらに好ましく、硝化綿樹脂であることが特に好ましい。
【0034】
<任意成分>
化成処理膜には、リン酸塩類、縮合リン酸、ポリリン酸、メタリン酸、ピロリン酸等のリン酸またはその塩類;防錆剤、防虫剤、防カビ剤、抗菌剤等の添加剤などが含まれてもよい。
これら任意成分は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0035】
<含有量>
化成処理膜12中のシランカップリング剤(A)の含有量は、化成処理膜12の総質量に対して10~70質量%が好ましく、20~60質量%がより好ましく、24~50質量%がさらに好ましい。シランカップリング剤(A)の含有量が10質量%以上であれば、化成処理膜12を容易に形成できる。加えて、鋼板11に対する密着性が向上し、化成処理膜12が剥離しにくくなる。シランカップリング剤(A)の含有量が70質量%以下であれば、含金属染料(B)の含有量を確保できるので、発色性を良好に維持できる。
【0036】
化成処理膜12中の含金属染料(B)の含有量は、シランカップリング剤(A)および樹脂(C)の合計100質量部に対して、20~200質量部が好ましく、30~200質量部がより好ましく、33~150質量部がさらに好ましい。含金属染料(B)の含有量が30質量部以上であれば、発色性を良好に維持できる。含金属染料(B)の含有量が200質量部以下であれば、化成処理膜12が十分に成膜するので、鋼板11に対して良好な密着性が得られる。
【0037】
化成処理膜12が樹脂(C)を含有する場合、樹脂(C)の含有量は、シランカップリング剤(A)および樹脂(C)の総質量に対して、10~80質量%が好ましく、30~70質量%がより好ましく、35~68質量%がさらに好ましい。樹脂(C)の含有量が上記範囲内であれば、鋼板11に対する密着性がより向上する。
【0038】
<付着量>
鋼板11に対する化成処理膜12の付着量は、2~50mg/m2が好ましい。化成処理膜12の付着量が2mg/m2未満であると、光沢および耐食性が低下しやすくなる。一方、化成処理膜12の付着量が50mg/m2を超えると、沸騰水試験後の塗膜表面にブリスターを生じることがある。化成処理膜12の付着量の好ましい上限は30mg/m2であり、より好ましくは10mg/m2である。
化成処理膜12の付着量は、蛍光X線分析にてSiO2量を測定することによって求めることができる。
【0039】
「化成処理鋼板の製造方法」
次に、上述した化成処理鋼板10の製造方法の一例について説明する。なお、化成処理鋼板10の製造方法は以下の例に限定されるものではない。
この例の製造方法では、まず、鋼板11をアルカリ脱脂や酸、アルカリによるエッチング等の公知の前処理を施す。
【0040】
次いで、鋼板11に、化成処理液を塗布し、乾燥して、化成処理膜12を形成する。
化成処理液は、上述したシランカップリング剤(A)および含金属染料(B)と、溶剤(D)とを含む。化成処理液は、上述した樹脂(C)および任意成分の1つ以上をさらに含んでいてもよい。
溶剤(D)としては、例えば水、有機溶剤、これらの混合物が挙げられる。有機溶剤としては、含金属染料(B)を溶解可能なものであれば特に限定されないが、例えばメタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、2-ブタノール、t-ブタノール等のアルコール;ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、アニソール、フェネトール等のエーテル系溶剤;メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤などが挙げられる。これら有機溶剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
なお、シランカップリング剤(A)や樹脂(C)として、溶剤に溶解または分散した状態のものを用いる場合、これらの成分を溶解または分散している溶剤は溶剤(D)に含まれるものとする。
【0041】
化成処理液の塗布方法としては、例えば、スプレー、ロールコート、バーコート、カーテンフローコート、静電塗布等を採用できる。
化成処理液の乾燥温度(表面温度)は60~140℃とすることが好ましい。
【0042】
こうして、少なくともシランカップリング剤(A)と、含金属染料(B)とを含む化成処理膜12を鋼板11上に形成して、化成処理鋼板10を得る。
【0043】
「作用効果」
以上説明した化成処理鋼板は、シランカップリング剤(A)と、含金属染料(B)とを含む化成処理膜を備えている。含金属染料(B)は他の染料に比べて耐熱性に優れる。よって、化成処理膜を形成する際、具体的には鋼板に化成処理液を塗布して乾燥する際に加熱処理しても含金属染料(B)は熱の影響を受けにくく、分解されにくいため、十分に発色できる。しかも、含金属染料(B)であれば色の制約を受けにくく、所望の色の化成処理膜を形成できる。加えて、化成処理膜の曲げ加工性および鋼板への密着性にも優れるので、所望の形状に加工しやすい。
このように、本発明の化成処理鋼板は発色性に優れるので、鋼板の表面にクリヤ樹脂層を形成する場合に比べて安価に鋼板の表裏面を確認することができる。
【0044】
「用途」
本発明の化成処理鋼板は、家庭用や業務用の電化製品、電子機器製品の筐体や内装材、表装材として好適に使用される。
【0045】
「他の実施形態」
本発明の化成処理鋼板は、上述したものに限定されない。例えば、上述した実施形態例では、鋼板の片面のみに化成処理膜が形成されているが、鋼板の両面に化成処理膜が形成されていてもよい。鋼板の両面に化成処理膜を形成する場合、鋼板の表面と裏面とで化成処理膜の色が異なるように、化成処理膜を形成することが好ましい。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0047】
「シランカップリング剤または代替品」
シランカップリング剤またはその代替品として、以下に示す化合物を用いた。
・A-1:N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン(日本パーカーライジング株式会社製、商品名「CT-3841」、不揮発分1質量%)。
・A-2:クロメート系化成処理剤(日本パーカーライジング株式会社製、商品名「ジンクロム3360」、不揮発分1質量%)。
A-2は、6価クロムを含むが、シランカップリング剤を含まない。
なお、本明細書において「不揮発分」とは、水および有機溶剤以外の成分の割合(質量%)である。
【0048】
「染料または顔料」
染料または顔料として、以下に示す化合物を用いた。
・B-1:C.I.Solvent Red 127(BASF社製、商品名「ネオボザンレッド471」、不揮発分5質量%)。
・B-2:C.I.Solvent Red 8(Clariant社製、商品名「サビニールレッド2BLSE」、不揮発分5質量%)。
・B-3:酸化鉄(チタン工業株式会社製、商品名「LL-XLO」、不揮発分100質量%)。
B-1は含金属染料(B)であり、B-2はアゾ染料であり、B-3は顔料である。
【0049】
「樹脂」
樹脂として、以下に示す化合物を用いた。
・C-1:硝化綿樹脂(タイタン社製、商品名「RS1/8」、不揮発分30質量%)。
・C-2:以下の製造方法により得られたアクリル樹脂(C-2)の溶液(不揮発分50質量%)。
・C-3:以下の製造方法により得られたアクリル樹脂(C-3)の溶液(不揮発分50質量%)。
・C-4:ビスフェノールA型エポキシ樹脂溶液(三井化学株式会社製、「エポキー803」、不揮発分40質量%)。
・C-5:液状のメチル化メラミン樹脂(三井サイテック株式会社製、「サイメル303」、不揮発分100質量%)。
【0050】
<アクリル樹脂(C-2)の製造>
温度計、還流冷却器、攪拌機、滴下ロート、窒素ガス導入管を備えた4つ口フラスコに、表1に示す配合量で、トルエン、酢酸ブチルを入れ、110℃まで昇温し、窒素ガスを吹き込みながら攪拌し、メタクリル酸メチル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸メチル、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)の混合物を3時間かけて滴下した。滴下終了後、さらにAIBNを追加して同温度でさらに3時間反応させて、不揮発分50質量%のアクリル樹脂(C-2)の溶液を得た。
得られたアクリル樹脂(C-2)のガラス転移温度および数平均分子量を表1に示す。
【0051】
<アクリル樹脂(C-3)の製造>
各原料の配合量を表1に示すように変更した以外は、アクリル樹脂(C-2)と同様にして、不揮発分50質量%のアクリル樹脂(C-3)の溶液を得た。
得られたアクリル樹脂(C-3)のガラス転移温度および数平均分子量を表1に示す。
【0052】
【0053】
「測定・評価」
<相溶性の評価>
化成処理液を容器に入れて上から目視にて観察し、以下の評価基準にて相溶性を評価した。
5:均一な状態である。
4:僅かに濁りが認められるが均一である。
3:濁りが認められる。
2:著しい濁りが認められる。
1:2層以上に分離している。
【0054】
<発色性の評価>
化成処理鋼板の化成処理膜の表面を目視にて観察し、以下の評価基準にて発色性を評価した。
5:化成処理膜が十分に発色している。
4:やや発色は弱いが、化成処理膜を十分に識別できる。
3:発色が弱く、化成処理膜を識別が困難である。
2:化成処理膜を形成する前のステンレス鋼板の色と、ほとんど変わらない。
1:化成処理膜を形成する前のステンレス鋼板の色と同等である。
【0055】
<耐溶剤性の評価1:湿布摩耗試験>
化成処理鋼板の化成処理膜の表面を、水を含んだガーゼで10往復擦った後の状態を目視にて観察し、以下の評価基準にて耐溶剤性を評価した。
5:外観の変化が認められない。
4:極僅かに磨耗跡が認められる。
3:僅かに磨耗跡が認められるが、鋼板の露出は認められない。
2:磨耗跡が認められ、一部鋼板が露出している。
1:鋼板の表面が全て露出している。
【0056】
<耐溶剤性の評価2:キシレン摩耗試験>
化成処理鋼板の化成処理膜の表面を、キシレンを含んだガーゼで5往復擦った後の状態を目視にて観察し、以下の評価基準にて耐溶剤性を評価した。
5:外観の変化が認められない。
4:極僅かに磨耗跡が認められる。
3:僅かに磨耗跡が認められるが、鋼板の露出は認められない。
2:磨耗跡が認められ、一部鋼板が露出している。
1:鋼板の表面が全て露出している。
【0057】
<曲げ加工性の評価>
JIS Z 2248:2006「金属材料曲げ試験方法」に記載の方法で、2T曲げ試験を行った。具体的には、まず、矩形状の化成処理鋼板、および該化成処理鋼板と同じ厚さの板2枚を重ねた挟み物を容易した。化成処理鋼板の長手方向の中央を境界とした片側、かつ鋼板の裏面(化成処理膜が形成されていない側の面)に挟み物を配置した。次いで、化成処理鋼板の長手方向の中央を折り曲げ部とし、挟み物を挟むように化成処理鋼板を180°折り曲げた。折り曲げ部分の化成処理膜の状態を目視にて観察し、以下の評価基準にて曲げ加工性を評価した。
5:加工箇所にクラックが認められない。
4:加工箇所に微細なクラックが数箇所、認められる。
3:加工箇所に小さなクラックが多数、認められる。
2:加工箇所に小さなクラックに加えて大きなクラックが認められる。
1:加工箇所に大きなクラックが多数、認められる。
【0058】
<密着性の評価>
曲げ加工性の評価と同様にして2T曲げ試験を行った。折り曲げ部分に粘着テープ(日立化成株式会社製、商品名「C330」)を貼着した後、該粘着テープを引き剥がした。そして、粘着テープを引き剥がした後の化成処理膜の剥離の状態を目視にて観察し、以下の評価基準にて密着性を評価した。
5:加工箇所にクラックが認められない。
4:加工箇所に微細なクラックが数箇所、認められる。
3:加工箇所に小さなクラックが多数、認められる。
2:化成処理膜が僅かに剥離し、剥離した部分の鋼板が露出している。
1:化成処理膜の大部分が剥離し、剥離した部分の鋼板が露出している。
【0059】
<外観の評価>
化成処理鋼板の化成処理膜の表面を目視にて観察し、以下の評価基準にて外観を評価した。
5:均一な表面が認められる。
4:極小さなブツがある。
3:小さなブツがある。
2:中程度のブツがある。
1:大きなブツがある、または著しいムラが認められる。
【0060】
「実施例1」
<化成処理液の調製>
シランカップリング剤(A-1)100質量部(純分換算で1質量部)と、染料(B-1)20質量部(純分換算で1質量部)とを混合し、化成処理液を調製した。
得られた化成処理液について、相溶性を評価した。結果を表2に示す。
【0061】
<化成処理鋼板の製造>
鋼板としては、ステンレス鋼板(SUS430/No.4研磨仕上げ材)を用いた。
このステンレス鋼板の一方の面に、化成処理液をロールコーターにて蛍光X線にてSiO2が2~10mg/m2になるように塗装し、素材最高到達温度(PMT)が100℃になるよう乾燥させて化成処理膜を形成し、化成処理鋼板を得た。化成処理膜中の各成分の含有量を表2に示す。
得られた化成処理鋼板について、発色性、耐溶剤性、曲げ加工性、密着性および外観を評価した。結果を表2に示す。
【0062】
「実施例2~7、比較例1~3」
表2、3に示す組成となるように化成処理液を調製し、得られた化成処理液を用いた以外は、実施例1と同様にして化成処理鋼板を製造し、各種評価を行った。結果を表2、3に示す。
【0063】
【0064】
【0065】
表2、3中、「化成処理膜中の(A)の含有量」は、化成処理膜の総質量に対するシランカップリング剤または代替品の純分換算での割合(質量%)である。「化成処理膜中の(B)の含有量」は、シランカップリング剤または代替品と、樹脂との合計100質量部に対する染料または顔料の純分換算での割合(質量部)である。「化成処理膜中の(C)の含有量」は、シランカップリング剤または代替品と、樹脂との総質量に対する樹脂の純分換算での割合(質量%)である。
【0066】
各実施例で得られた化成処理鋼板は、発色性、曲げ加工性および密着性に優れていた。特に、樹脂(C)を用いないか、または樹脂(C)として硝化綿樹脂もしくはアクリル樹脂を用いた実施例1~4の場合、耐溶剤性にも優れていた。また、樹脂(C)を用いないか、または樹脂(C)として硝化綿樹脂、アクリル樹脂またはメラミン樹脂を用いた実施例1~5、7の場合、外観にも優れていた。
一方、含金属染料(B)の代わりにアゾ染料を用いた比較例1の場合、発色性に劣っていた。また、耐溶剤性、曲げ加工性および密着性にも劣っていた。
シランカップリング剤(A)の代わりにクロメート系化成処理剤を用いた比較例2の場合、発色性に劣っていた。また、耐溶剤性にも劣っていた。
含金属染料(B)の代わりに顔料を用いた比較例3の場合、発色性に劣っていた。また、相溶性、耐溶剤性、曲げ加工性、密着性および外観にも劣っていた。
【符号の説明】
【0067】
10 化成処理鋼板
11 鋼板
12 化成処理膜