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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】浚渫制御システムおよび浚渫方法
(51)【国際特許分類】
   E02F 3/90 20060101AFI20241004BHJP
   E02F 3/88 20060101ALI20241004BHJP
   B63B 35/00 20200101ALI20241004BHJP
【FI】
E02F3/90 K
E02F3/88 A
B63B35/00 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021066582
(22)【出願日】2021-04-09
(65)【公開番号】P2022161632
(43)【公開日】2022-10-21
【審査請求日】2024-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000219406
【氏名又は名称】東亜建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】藤山 映
(72)【発明者】
【氏名】宮本 憲都
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-069940(JP,A)
【文献】特開2020-056250(JP,A)
【文献】特開2013-091909(JP,A)
【文献】特開2019-148065(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 3/90
E02F 3/88
B63B 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体の後部に設けられたスパッドと、先端に掘削部が設けられたラダーを前記船体に対して上下方向に回動させる回動手段と、前記掘削部によって掘削された水底の土砂を吸入する吸入手段と、水底に打ち込まれた前記スパッドを支点にして前記船体とともに前記ラダーを水平方向に旋回させる旋回手段とを備えたポンプ浚渫船を用いた浚渫制御システムにおいて、
水底に形成する法面の設計深度マップデータが記憶される記憶部と、前記船体の三次元位置情報を取得する船体位置情報取得手段と、前記記憶部、前記船体位置情報取得手段、前記回動手段および前記旋回手段に通信可能に接続された制御装置とを備え、
水底に前記法面を形成するときに、前記回動手段によって前記ラダーを上下方向に回動させる回動速度が一定の回動速度に設定されていて、
前記制御装置により、前記船体位置情報取得手段から入力された前記船体の三次元位置情報と、前記回動手段から入力された前記ラダーの傾斜角度の情報とに基づいて、前記掘削部の三次元位置情報が算出され、その算出された前記掘削部の三次元位置情報と、前記ラダーの前記傾斜角度の情報と、前記記憶部から入力された前記法面の設計深度マップデータとに基づいて、前記法面の設計深度と前記掘削部による掘削深度との高低差が予め設定された許容範囲内となるように、前記旋回手段による前記船体および前記ラダーの水平方向の旋回速度が制御されることを特徴とする浚渫制御システム。
【請求項2】
前記旋回手段が、前記ラダーに設置された一対のリール部と、それぞれの前記リール部に巻回されたワイヤとを有し、一方の前記リール部から繰り出された前記ワイヤが前記船体の左舷側に延在し、他方の前記リール部から繰り出された前記ワイヤが前記船体の右舷側に延在し、それぞれの前記ワイヤの先端部が前記船体から船幅方向に離間した水底に固定されていて、
前記制御装置により、一対の前記リール部による一対の前記ワイヤの繰り出しおよび巻き取りが制御されることにより、それぞれの前記ワイヤが緊張した状態に維持される請求項1に記載の浚渫制御システム。
【請求項3】
前記制御装置に通信可能に接続された警告手段を備え、
前記制御装置による制御により、前記算出された前記掘削部の三次元位置情報と、前記記憶部から入力された前記設計深度マップデータとに基づいて、前記掘削部が掘削している掘削深度が前記設計深度マップデータに定められている設計深度に対して、予め設定された制限深度を超過した場合に、前記警告手段が警告を発する構成にした請求項1または2に記載の浚渫制御システム。
【請求項4】
前記吸入手段が、前記掘削部の近傍に配置された土砂吸入口から吸入された前記土砂および水が流入する吸入管と、前記吸入管に接続されたポンプと、前記吸入管の中途位置の周面に設けられた給水バルブとを有し、
前記制御装置により、前記算出された前記掘削部の三次元位置情報と、前記記憶部から入力された前記設計深度マップデータとに基づいて、前記掘削部が掘削している掘削深度が前記設計深度マップデータに定められている設計深度に対して、予め設定された制限深度を超過した場合に、閉口状態の前記給水バルブが開口状態に切り替えられる請求項1~3のいずれかに記載の浚渫制御システム。
【請求項5】
ポンプ浚渫船の船体の後部に設けられたスパッドを水底に打ち込んだ状態で、回動手段によりラダーを上下方向に回動させるとともに、旋回手段により前記スパッドを支点にして前記船体とともに前記ラダーを水平方向に旋回させて、前記ラダーの先端に設けられた掘削部によって水底の土砂を掘削し、その掘削した土砂を吸入手段により吸入して水底を浚渫する浚渫方法において、
水底に法面を形成するときに、前記回動手段により前記ラダーを上下方向に回動させる回動速度を一定の回動速度に設定し、水底に形成する前記法面の設計深度マップデータと、船体位置情報取得手段により取得した前記船体の三次元位置情報と、前記回動手段による前記ラダーの傾斜角度の情報とを制御装置に入力して、
前記制御装置は、前記船体の三次元位置情報と、前記ラダーの前記傾斜角度の情報とに基づいて、前記掘削部の三次元位置情報を算出し、その算出した前記掘削部の三次元位置情報と、前記ラダーの前記傾斜角度の情報と、前記法面の設計深度マップデータとに基づいて、前記法面の設計深度と前記掘削部による掘削深度との高低差が予め設定した許容範囲内となるように、前記旋回手段による前記船体および前記ラダーの水平方向の旋回速度を制御することを特徴とする浚渫方法。
【請求項6】
前記水底に前記法面を形成する前に前記水底を前記ポンプ浚渫船により荒掘り工程を行うことで階段状に浚渫する請求項5に記載の浚渫方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浚渫制御システムおよび浚渫方法に関し、さらに詳しくは、浚渫装備の重厚化を回避しつつ、水底に滑らかな法面を形成できる浚渫制御システムおよび浚渫方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水底土砂を浚渫して凹路を形成する際には例えば、ポンプ浚渫船が使用される。この作業工程では、船体に対してラダーを上下方向に一定の回動速度で回動させるとともに、水底に打ち込んだスパッドを支点にして、船体とともにラダーを水平方向に旋回させながら、ラダーの先端に設けられた掘削部を平面視で円弧状に旋回させて土砂を徐々に深く浚渫する作業を、船体を順次前方移動させた位置で行う。そのため、凹路の側壁を滑らかに連続する法面に形成するにはオペレータの高い技術が必要となる。
【0003】
そこで、オペレータの技量に依存することなく、高精度にポンプ浚渫を行うことを可能にするシステムおよび方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1で提案されている浚渫施工管理システムでは、施工範囲の設計浚渫深度に応じて予め設定したカッター管理深度と、算出したカッターの位置および深度とに基づいて、ラダーを揺動させるラダーウインチを制御して、カッターの深度をカッター管理深度と等しくなるように自動調整する。
【0004】
ラダーは可動構造物ではあるが非常に重厚であるため、ラダーウインチにより上下方向に回動させる速度を即座に変更することは実質的に困難である。カッター深度を精度よく制御するために、ラダーの上下移動速度を急激に変更すると、ラダーウインチなどに過大な負荷がかかる。そのため、ポンプ浚渫船のラダーは一定の回動速度で回動させる仕様になっている。それ故、上記の浚渫施工管理システムを実現するにはラダーウインチの高出力化など、浚渫装備が益々重厚になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-56250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、浚渫装備の重厚化を回避しつつ、水底に滑らかな法面を形成できる浚渫制御システムおよび浚渫方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の浚渫制御システムは、船体の後部に設けられたスパッドと、先端に掘削部が設けられたラダーを前記船体に対して上下方向に回動させる回動手段と、前記掘削部によって掘削された水底の土砂を吸入する吸入手段と、水底に打ち込まれた前記スパッドを支点にして前記船体とともに前記ラダーを水平方向に旋回させる旋回手段とを備えたポンプ浚渫船を用いた浚渫制御システムにおいて、水底に形成する法面の設計深度マップデータが記憶される記憶部と、前記船体の三次元位置情報を取得する船体位置情報取得手段と、前記記憶部、前記船体位置情報取得手段、前記回動手段および前記旋回手段に通信可能に接続された制御装置とを備え、水底に前記法面を形成するときに、前記回動手段によって前記ラダーを上下方向に回動させる回動速度が一定の回動速度に設定されていて、前記制御装置により、前記船体位置情報取得手段から入力された前記船体の三次元位置情報と、前記回動手段から入力された前記ラダーの傾斜角度の情報とに基づいて、前記掘削部の三次元位置情報が算出され、その算出された前記掘削部の三次元位置情報と、前記ラダーの前記傾斜角度の情報と、前記記憶部から入力された前記法面の設計深度マップデータとに基づいて、前記法面の設計深度と前記掘削部による掘削深度との高低差が予め設定された許容範囲内となるように、前記旋回手段による前記船体および前記ラダーの水平方向の旋回速度が制御されることを特徴とする。
【0008】
本発明の浚渫方法は、ポンプ浚渫船の船体の後部に設けられたスパッドを水底に打ち込んだ状態で、回動手段によりラダーを上下方向に回動させるとともに、旋回手段により前記スパッドを支点にして前記船体とともに前記ラダーを水平方向に旋回させて、前記ラダーの先端に設けられた掘削部によって水底の土砂を掘削し、その掘削した土砂を吸入手段により吸入して水底を浚渫する浚渫方法において、水底に法面を形成するときに、前記回動手段により前記ラダーを上下方向に回動させる回動速度を一定の回動速度に設定し、水底に形成する前記法面の設計深度マップデータと、船体位置情報取得手段により取得した前記船体の三次元位置情報と、前記回動手段による前記ラダーの傾斜角度の情報とを制御装置に入力して、前記制御装置は、前記船体の三次元位置情報と、前記ラダーの前記傾斜角度の情報とに基づいて、前記掘削部の三次元位置情報を算出し、その算出した前記掘削部の三次元位置情報と、前記ラダーの前記傾斜角度の情報と、前記法面の設計深度マップデータとに基づいて、前記法面の設計深度と前記掘削部による掘削深度との高低差が予め設定した許容範囲内となるように、前記旋回手段による前記船体および前記ラダーの水平方向の旋回速度を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、回動手段によりラダーを上下方向に回動させる回動速度が一定の条件下で水底に法面を形成する。制御装置は、算出した掘削部の三次元位置情報と、ラダーの傾斜角度の情報と、法面の設計深度マップデータとに基づいて、法面の設計深度と掘削部による掘削深度との高低差が予め設定した許容範囲内となるように、旋回手段による船体およびラダーの水平方向の旋回速度を制御する。これにより、水底に滑らかな法面を精度よく形成することが可能となる。さらに、回動手段によるラダーの上下方向の回動速度を変更する必要がないため、ポンプ浚渫船の浚渫装備の重厚化も回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の浚渫制御システムを搭載したポンプ浚渫船の実施形態を側面視で例示する説明図である。
図2図1のポンプ浚渫船を平面視で例示する説明図である。
図3図1の浚渫制御システムの構成を模式的に例示する説明図である。
図4図1のポンプ浚渫船を使用して、水底を階段状に浚渫する荒掘り工程を行っている状況を断面視で例示する説明図である。
図5図1のポンプ浚渫船を使用して、図4の階段状に浚渫した水底に対して仕上げ掘り工程を行っている状況を断面視で例示する説明図である。
図6】設計深度マップデータを例示する説明図である。
図7図1のポンプ浚渫船を旋回させている状況を平面視で例示する説明図である。
図8図1のポンプ浚渫船を前進させている状況を平面視で例示する説明図である。
図9図1のポンプ浚渫船を使用して水底を浚渫している状況を平面視で例示する説明図である。
図10図6とは別の設計深度マップデータを例示する説明図である。
図11】給水バルブを設けた吸入管の内部を透視して側面視で例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の浚渫制御システムおよび浚渫方法を図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0012】
図1図3に例示する本発明の浚渫制御システム10は、ポンプ浚渫船1により水底Bの浚渫を行う施工に使用される。例えば、港湾に大型の船舶が入港可能な航路を造成するために、水底Bの土砂Sを浚渫して、水底Bに港湾から沖側へと延在する凹路Cを形成する。この実施形態では、図5に示すように、中央に底面部分となる平坦部C1を有し、その平坦部C1の幅方向の両側方にそれぞれ滑らかに上方傾斜する法面C2を有する凹路Cを形成する場合を例にして説明する。
【0013】
図1および図2に例示するように、ポンプ浚渫船1は、船体2の後部に設けられたスパッド3(3a、3b)と、船体2の前部に設けられて船体2の前方に向かって延在するラダー4と、ラダー4の先端に設けられた水底Bの土砂Sを掘削する掘削部5と、掘削部5によって掘削された土砂Sを吸入する吸入手段7とを備えている。ポンプ浚渫船1はさらに、ラダー4の後端部を回転軸としてラダー4を上下方向に回動させる回動手段6と、水底Bに打ち込まれたスパッド3を支点にして船体2とともにラダー4を水平方向に旋回させる旋回手段9とを備えている。
【0014】
図3に例示するように、この浚渫制御システム10は、水底Bに形成する凹路C(平坦部C1および法面C2)の設計深度マップデータが記憶される記憶部11と、船体2の三次元位置情報を取得する船体位置情報取得手段12と、記憶部11、船体位置情報取得手段12、回動手段6および旋回手段9に通信可能に接続された制御装置13とを備えている。この実施形態の浚渫制御システム10はさらに、制御装置13に通信可能に接続された表示手段14および警告手段15を備えている。
【0015】
ポンプ浚渫船1の船体2の後部には、上下方向に延在する2本のスパッド3a、3bが船幅方向に間隔をあけて配置されている。それぞれのスパッド3a、3bは船体2に対して上下方向に昇降可能な構成になっている。ラダー4の後端部は船体2に固定された軸支部に回転可能に軸支されている。ラダー4は、後端部を回転軸として船体2に対して上下方向に回動する。
【0016】
掘削部5は、水底Bの土砂Sを切削する複数のカッターを有していて、ラダー4に対して複数のカッターが回転する構成になっている。吸入手段7は、掘削部5の近傍に配置された土砂吸入口7aから吸入された土砂Sおよび水Wが流入する吸入管7bと、吸入管7bに接続されたポンプ7cとを有している。吸入管7bはラダー4の内側に配置されていて、ラダー4の先端部からポンプ浚渫船1の外部に配置されている土砂Sの貯留場(土捨て場)まで延在している。この実施形態では、ポンプ7cをポンプ浚渫船1に搭載しているが、ポンプ7cは例えば、ポンプ浚渫船1の外部に設けることもできる。
【0017】
回動手段6は、船体2の前部に設けられた支持フレーム6aと、船体2に設置されたウインチ6bと、ウインチ6bから繰り出された複数本の吊ワイヤ6cと、吊具6dと、複数本の鎖6eとを有している。ウインチ6bから繰り出された複数本の吊ワイヤ6cはそれぞれ、支持フレーム6aの先端部に設けられたシーブに架け回されていて、シーブから下方に延在する複数本の吊ワイヤ6cの下端部が吊具6dに接続されている。そして、吊具6dの下部に接続されている複数本の鎖6eの下端部がラダー4の前部に接続されている。この回動手段6は、ウインチ6bのドラムを回転させて吊ワイヤ6cの繰り出し長さを変更することで、ラダー4を船体2に対して上下方向に回動させる。
【0018】
回動手段6のウインチ6bを始動させて、ウインチ6bのドラムの回転速度が安定するとラダー4の上下方向の回動速度は一定の回動速度V0に維持される。回動手段6の駆動を停止させるとラダー4の回動が停止してラダー4は停止した傾斜角度で固定された状態となる。
【0019】
回動手段6は、ウインチ6bによる吊ワイヤ6cの繰り出し量に基づいて、船体2に対するラダー4の上下方向の傾斜角度を検出する機能を有している。回動手段6から制御装置13に、ラダー4の傾斜角度の情報が逐次入力される。例えば、ラダー4の傾斜角度を検知する傾斜センサを設けて、その傾斜センサが取得したラダー4の傾斜角度の情報が制御装置13に逐次入力される構成にすることもできる。回動手段6は、制御装置13の指令によって駆動および駆動停止されるだけなので、回動手段6の駆動時におけるラダー4の回動速度V0は基本的に一定である。ラダー4の長さは既知なのでこの長さは制御装置13に入力、記憶されている。
【0020】
旋回手段9は、ラダー4に設置された一対のリール部9a、9bと、それぞれのリール部9a、9bに巻回されたワイヤ9c、9dとを有している。一方のリール部9aから繰り出されたワイヤ9cが船体2の左舷側に延在し、他方のリール部9bから繰り出されたワイヤ9dが船体2の右舷側に延在し、それぞれのワイヤ9c、9dの先端部は、船体2から船幅方向に離間した水底Bにアンカーなどを用いて固定されている。この旋回手段9では、一対のリール部9a、9bによる一対のワイヤ9c、9dの繰り出し速度および巻き取り速度を変更することにより、船体2およびラダー4の水平方向の旋回速度を変更する。
【0021】
記憶部11はデータを記憶するメモリである。記憶部11に記憶される水底Bに形成する凹路C(平坦部C1および法面C2)の設計深度マップデータは、予め提供される水底形状(凹路C)の設計図に基づいて作成される。図6に例示するように、設計深度マップデータは、凹路Cの設計図に基づいて、水底Bの浚渫対象領域を平面視で複数の区画に区分し、その区分したそれぞれの区画毎の設計深度L1を定めたものである。この実施形態の設計深度マップデータは、凹路Cの延在方向(長手方向)に延在する複数の直線と凹路Cの幅方向に延在する複数の直線とで、浚渫対象領域を格子状に区画し、それぞれの区画を矩形状としている。この実施形態の記憶部11には、さらに、浚渫施工前の浚渫対象領域の水底Bの形状を示す初期深度マップデータが記憶されている。初期深度マップデータは、音響測深装置などを用いて浚渫対象領域の水底Bの深度を測量することで、浚渫施工前に作成できる。
【0022】
船体位置情報取得手段12は、全地球測位システムから船体2の位置座標データを取得するGNSS受信装置12aと、船体2の傾斜を計測する傾斜計12bと、船体2の船首方位を計測するコンパス12cと、船体2の乾舷を計測する乾舷計12dとを有して構成されている。この実施形態の船体位置情報取得手段12は、さらに、施工水域の潮位を計測する潮位計12eを有している。GNSS受信装置12aが取得した船体2の位置座標データと、傾斜計12b、コンパス12c、乾舷計12dおよび潮位計12eによって取得されたそれぞれの計測データは、制御装置13に逐次入力される。船体位置情報取得手段12は、船体2の三次元位置情報、より具体的には、少なくとも、船体2の所定位置の三次元位置座標、船体2の向きおよび船体2の傾斜角度の情報を取得できる構成であればよく、その他の様々な構成を採用することができる。
【0023】
制御装置13には、コンピュータ等を用いる。制御装置13は船体2に設置されている。記憶部11と制御装置13は例えば、同じコンピュータ等で構成することもできる。制御装置13は、記憶部11から入力された凹路Cの設計深度マップデータと、船体位置情報取得手段12から入力された船体2の三次元位置情報と、回動手段6から入力されたラダー4の傾斜角度の情報とに基づいて、旋回手段9による船体2およびラダー4の水平方向の旋回速度V1を制御する。制御装置13による制御の詳細は後述する。
【0024】
表示手段14には、公知のモニタ類を用いる。表示手段14には、記憶部11や制御装置13に入力、記憶された情報、制御装置13によって演算処理された情報が表示される。警告手段15は、ポンプ浚渫船1の作業者(オペレータ等)に対して警告を発する。警告手段15には、例えば、警告音を発する警報器や警告灯などを用いる。例えば、表示手段14を警告手段15として機能させて、表示手段14に警告を表示させることもできる。
【0025】
ポンプ浚渫船1によって水底Bを浚渫して凹路Cを形成する基本的な手順は以下のとおりである。
【0026】
図7に例示するように、ポンプ浚渫船1の船体2の後部に設けられている一方のスパッド3aを水底Bに打ち込んだ状態にする。そして、回動手段6によりラダー4を上下方向に回動させるとともに、旋回手段9により水底Bに打ち込んでいる一方のスパッド3aを支点にして船体2とともにラダー4を水平方向に旋回させて、ラダー4の先端に設けられた掘削部5によって水底Bの土砂Sを掘削する。そして、その掘削した土砂Sを施工水域の水Wとともに吸入手段7により吸入して水底Bの土砂Sを浚渫する。ポンプ7cを駆動するエンジンは基本的に一定の回転数で回転駆動される。
【0027】
次いで、図8に例示するように、凹路Cを延在させる方向に船体2を前進させて掘削部5による掘削範囲を移動させる。船体2を前進させるときには、船体2を凹路Cの延在方向に向けた状態で、他方のスパッド3bを水底Bに打ち込み、一方のスパッド3aを水底Bから引き抜く。そして、水底Bに打ち込んだ他方のスパッド3bを支点に船体2を所定角度(例えば、8度~15度程度)旋回させることで、一方のスパッド3aの位置を距離D(例えば、1.5~2.5m程度)前進させる。次いで、一方のスパッド3aを水底Bに打ち込み、他方のスパッド3bを水底Bから引き抜く。そして、旋回手段9により水底Bに打ち込んでいるスパッド3bを支点にして船体2とともにラダー4を水平方向に旋回させて、前述した手順と同様に水底Bの土砂Sを浚渫する。
【0028】
つまり、図9に例示するように、水底Bに打ち込んだ一方のスパッド3aを支点として掘削部5を平面視で円弧状に旋回させて浚渫する作業と、船体2を前進させる作業とを交互に繰り返すことで、凹路Cを形成する。
【0029】
本発明では、ポンプ浚渫船1による浚渫作業を行う以前に、図6に例示するような、水底Bに形成する凹路Cの設計深度マップデータを作成する。そして、掘削部5による掘削深度の設計深度L1に対する許容範囲を設定する。
【0030】
後述する図4では、設計図における凹路Cの設計深度L1を破線で示し、図5では設計深度L1を実線で示している。また、図4および図5では、設計深度L1に対する許容範囲の下限値となる最低深度L2を一点鎖線で示し、許容範囲の上限値となる制限深度L3を二点鎖線で示している。設計深度L1に対する掘削深度の許容範囲は施工条件などに応じて適宜決定できるが、最低深度L2は、設計深度L1に対して例えば0.5~2.0m浅い深度に設定する。制限深度L3は、設計深度L1に対して例えば0.5~2.0m深い深度に設定する。例えば、設計深度L1の深さなどに応じて設計深度マップデータの区画毎に異なる許容範囲を設定することもできる。作成した凹路Cの設計深度マップデータと設定した許容範囲は記憶部11に記憶させておく。記憶部11には、さらに、浚渫施工前の浚渫対象領域の水底Bの初期深度マップデータを記憶させておく。
【0031】
図4に例示するように、浚渫作業では、ポンプ浚渫船1により、水底Bの凹路Cを形成する領域を設計深度L1と同程度の深度(若干、浅めの深度)で階段状に浚渫する荒掘り工程を行う。荒掘り工程では、制御装置13は、船体位置情報取得手段12から入力された船体2の三次元位置情報と、回動手段6から入力されたラダー4の傾斜角度の情報とに基づいて、掘削部5の三次元位置情報を算出する。この実施形態の制御装置13は、船体位置情報取得手段12を構成するGNSS受信装置12aから入力される船体2の位置座標データと、傾斜計12b、コンパス12c、乾舷計12dおよび潮位計12eからそれぞれ入力される計測データと、ラダー4の傾斜角度の情報とに基づいて、掘削部5の三次元位置情報を算出する。
【0032】
そして、制御装置13は、その算出した掘削部5の三次元位置情報と、ラダー4の傾斜角度の情報と、記憶部11から入力された設計深度マップデータおよび初期深度マップデータとに基づいて、掘削部5による掘削深度を浚渫前の水底Bの深度から掘削部5によって掘削可能な深さ分(例えば、1~2m程度)深い位置に設定する。そして、制御装置13は、回動手段6を駆動させてラダー4を回動させることで、掘削部5を設定した深さ位置まで下方移動させ、回動手段6の駆動を停止させる。この状態で、制御装置13は、旋回手段9を制御して掘削部5を設計深度マップデータに設定されている設計深度L1のラインよりも凹路Cの内側(浅い)の範囲で旋回させて水底Bの表層の土砂Sを浚渫する。
【0033】
次いで、制御装置13は、掘削部5による掘削深度を掘削部5によって掘削可能な深さ分さらに深い位置に設定する。そして、制御装置13は、回動手段6を駆動させてラダー4を水底Bに向かって回動させることで、掘削部5を設定した深さ位置まで下方移動させ、回動手段6の駆動を停止させる。この状態で、旋回手段9を制御して掘削部5を設計深度マップデータに設定されている設計深度L1のラインよりも内側の範囲で旋回させて水底Bの土砂Sを浚渫する。
【0034】
荒掘り工程では、前述した浚渫作業を繰り返して、旋回手段9による1回の旋回毎に掘削部5による掘削深度を徐々に深くしていくことで、凹路Cを形成する領域を階段状に浚渫する。荒掘り工程では、凹路Cの設計深度L1が最も深い区画(この実施形態では、平坦部C1)の最低深度L2となる深さまで水底Bを浚渫するとよい。荒掘り工程で回動手段6を駆動させたときのラダー4の回動速度V0は実質的に一定である。
【0035】
通常、ポンプ浚渫船1による浚渫作業は波が穏やかな条件で行うが、船体2が沖合波浪や航跡波などの影響を受けて上下方向に揺動することで、ラダー4の回動を停止させている場合にも、掘削部5の上下位置が変動することがある。掘削部5が設定した掘削深度よりも上方に移動したときには掘削部5および吸入手段7による単位時間当たりの浚渫土量は相対的に少なくなる。
【0036】
荒掘り工程では、単位時間当りの浚渫土量を厳密に管理する必要はない。これを厳密に管理する場合は、制御装置13によって、算出した掘削部5の三次元位置情報に基づいて、掘削部5が設定した掘削深度よりも上方に移動したときには、旋回手段9による旋回速度V1を減速させる制御を行うとよい。旋回速度V1を遅くすることで単位時間当りの浚渫土量が増加するので、旋回手段9による旋回速度V1を一定にする場合に比して、荒掘り工程における掘り残しを回避するには有利になる。
【0037】
次いで、図5に例示するように、荒掘り工程で階段状に浚渫した領域に対して、仕上げ掘り工程を行う。仕上げ掘り工程において、凹路Cの法面C2を形成するときには、制御装置13は、回動手段6を駆動させ、回動手段6によってラダー4を上下方向に回動させる。仕上げ工程での回動手段6による回動速度V0は実質的に一定である。掘削部5を凹路Cの法面C2側から平坦部C1側へ向かって移動させて法面C2を形成するときには、制御装置13は、回動手段6に対してラダー4を上方から下方に向かって回動させる指令を入力する。
【0038】
制御装置13には、記憶部11に記憶されている法面C2の設計深度マップデータと、船体位置情報取得手段12によって取得された船体2の三次元位置情報と、回動手段6によるラダー4の傾斜角度の情報とがそれぞれ入力される。制御装置13は、その入力された船体2の三次元位置情報と、ラダー4の傾斜角度の情報とに基づいて、掘削部5の三次元位置情報を算出する。
【0039】
そして、制御装置13は、その算出した掘削部5の三次元位置情報と、ラダー4の傾斜角度の情報と、法面C2の設計深度マップデータとに基づいて、設計深度マップデータに定められている法面C2の設計深度L1と、掘削部5による掘削深度との高低差が予め設定した許容範囲内になるように、旋回手段9による船体2およびラダー4の水平方向の旋回速度V1を制御する。より具体的には、制御装置13は、設計深度マップデータに定められている、掘削部5が現在位置している区画の設計深度L1と、掘削部5が次に移動する区画の設計深度L1との差分に基づいて、掘削部5が次に移動する区画に進入する時点で、その区画の設計深度L1と掘削部5の掘削深度との高低差が予め設定した許容範囲内になるように、旋回手段9による旋回速度V1を調整する。
【0040】
例えば、掘削部5が現在位置している区画の設計深度L1と、次に掘削部5が移動する区画の設計深度L1との差分が小さな比較的勾配の小さい法面C2を形成するときには、制御装置13は、旋回手段9による旋回速度V1を比較的速く設定する。一方で、掘削部5が現在位置している区画の設計深度L1と、次に掘削部5が移動する区画の設計深度L1との差分が大きな比較的勾配の大きい法面C2を形成するときには、旋回手段9による旋回速度V1を比較的遅く設定する。
【0041】
この実施形態の制御装置13は、旋回手段9を構成する一対のリール部9a、9bによる一対のワイヤ9c、9dの繰り出しおよび巻き取りを制御することにより、それぞれのワイヤ9c、9dを緊張した状態(テンションがかかって弛みが無い状態)に維持して、船体2およびラダー4の水平方向の旋回速度V1を制御する。
【0042】
このように、法面C2を形成するときには、回動手段6によるラダー4の上下方向の回動速度V0が一定の条件下で、制御装置13により、旋回手段9による船体2およびラダー4の水平方向の旋回速度V1を調整しながら、掘削部5を設計深度マップデータに設定されている法面C2を形成する範囲の側端から側端まで移動させて水底Bの土砂Sを浚渫する。
【0043】
次いで、凹路Cの平坦部C1を形成するときには、制御装置13は、掘削部5が浚渫し終えた法面C2の側端に到達した時点で、回動手段6の駆動を停止させる。そして、設計深度マップデータに定められている平坦部C1の設計深度L1と、掘削部5による掘削深度との高低差が予め設定した許容範囲内になっている状態で、旋回手段9を制御して掘削部5を設計深度マップデータに設定されている平坦部C1の範囲の側端から側端まで移動させて水底Bの土砂Sを浚渫する。
【0044】
この平坦部C1を浚渫する作業においても、船体2の上下方向の揺動に伴って掘削部5の上下位置が変動することがある。それ故、制御装置13によって、算出した掘削部5の三次元位置情報と、設計深度マップデータとに基づいて、掘削部5が設計深度L1よりも上方に移動したときには、旋回手段9による旋回速度V1を減速させる制御を行うとよい。旋回速度V1を遅くすることで単位時間当たりの浚渫土量が増加するので、旋回手段9による旋回速度V1を一定にする場合に比して、仕上げ掘り工程における掘り残しを回避するには有利になる。掘削部5の上下位置がほとんど変動しなければ旋回速度V1を一定に維持して浚渫を行う。
【0045】
次いで、掘削部5を凹路Cの平坦部C1側から法面C2側へ向かって移動させて他方の法面C2を形成するときには、制御装置13は、回動手段6に対してラダー4を下方から上方に向かって回動させる指令を入力する。そして、制御装置13は、前述した法面C2を形成するときと同様に、旋回速度V1を調整する制御を行い、掘削部5を設計深度マップデータに設定されている他方の法面C2の側端から側端まで移動させて、水底Bの土砂Sを浚渫する。
【0046】
以上により、仕上げ掘り工程が完了する。浚渫制御システム10を使用した浚渫方法では、前述した荒掘り工程、仕上げ掘り工程、船体2を前進させる工程を順次繰り返すことで凹路Cを形成する。浚渫する深さが浅く、仕上げ掘り工程を行うだけで凹路Cを形成できる場合には、荒掘り工程を省略することもできる。船体2を前進させる作業は、浚渫制御システム10が自動的に行う構成にすることもできるし、オペレータが手動で行ってもよい。
【0047】
表示手段14には、制御装置13によって算出された、掘削部5の三次元位置情報(掘削深度)と、設計深度マップデータにおける掘削部5が位置している区画の設計深度L1と、旋回手段9による船体2およびラダー4の旋回速度V1とが表示される。オペレータは、表示手段14に表示されている情報を確認することで、浚渫制御システム10による浚渫作業が正常に実行されているか否かを確認できる。
【0048】
この実施形態では、さらに、制御装置13による制御により、算出された掘削部5の三次元位置情報と、記憶部11から入力された設計深度マップデータとに基づいて、掘削部5が掘削している掘削深度が設計深度マップデータに定められている設計深度L1に対して、予め設定された制限深度L3を超過した場合に、警告手段15が警告を発する構成になっている。警告手段15から警告が発せられることで、オペレータは掘削部5の掘削深度が制限深度L3を超過したことを確実に認識することができ、速やかに過掘りを防ぐ対処を遂行できる。
【0049】
上述のように、本発明では、水底Bに法面C2を形成するときに、一定の回動速度V0の条件下で旋回手段9による船体2およびラダー4の水平方向の旋回速度V1を制御する。これにより、オペレータの技量に過度に依存することなく、水底Bに滑らかな法面C2を精度よく形成することが可能となる。さらに、回動手段6によるラダー4の回動速度V0を変更する必要がないため、ポンプ浚渫船1の浚渫装備(回動手段6等)の重厚化も回避できる。この浚渫制御システム10は、旋回手段9の動作を制御するだけで法面C2を形成できるので、既存のポンプ浚渫船1にも容易に適用できる。そのため、当業者にとって非常に有用である。
【0050】
この実施形態では、制御装置13により、それぞれのワイヤ9c、9dを緊張した状態に維持するように、一対のリール部9a、9bによる一対のワイヤ9c、9dの繰り出しおよび巻き取りが制御される。一対のワイヤ9c、9dを弛むこととなく緊張した状態に維持することで、船体2およびラダー4の慣性による移動や水の抵抗の影響が抑制されるので、船体2およびラダー4の旋回速度V1を精度よく調整するには有利になる。
【0051】
ポンプ浚渫船1により水底Bを浚渫するときには、掘削部5を円弧状に旋回させて水底Bを掘削する。そのため、図10に例示するように、設計深度マップデータは、浚渫対象領域を掘削部5の軌道に合わせて円弧状に区画するととともにそれぞれの円弧状の区画をさらに凹路Cの幅方向に複数に区画した構成にすることもできる。このような設計深度マップデータを作成すると、掘削部5の円弧状の軌道と、設計深度マップデータの区画とをより精度よく対応させることができ、滑らかな法面C2を精度よく形成するにはより有利になる。
【0052】
本発明に係る浚渫制御システム10は、図11に例示するような構成にすることもできる。
【0053】
この実施形態の吸入手段7はさらに、吸入管7bの中途位置の周面に設けられた給水バルブ8を有している。給水バルブ8の開閉を操作するバルブ操作部は、制御装置13に通信可能に接続されていて、制御装置13は、給水バルブ8の開閉を遠隔操作できる構成になっている。
【0054】
この実施形態の制御装置13は前述した制御に加えて、さらに、給水バルブ8の開閉制御を行う。具体的には、制御装置13は、船体2の三次元位置情報とラダー4の傾斜角度の情報とに基づいて算出した掘削部5の三次元位置情報と、設計深度マップデータとに基づいて、掘削部5が掘削している掘削深度が設計深度L1に対して、予め設定された制限深度L3を超過しているか否かを判定する。そして、制御装置13は、掘削部5が掘削している掘削深度が制限深度L3を超過したと判定した場合には、閉口状態の給水バルブ8を開口状態に遠隔操作で切り替える制御を行う。
【0055】
給水バルブ8が閉口した状態では通常、吸入管7bに水Wとともに土砂Sが勢いよく流入する。図11に例示するように、給水バルブ8を開口状態に切り替えると、吸入管7bの中途位置に設けられた給水バルブ8の給水口から吸入管7bに水Wが勢いよく流入するため、土砂吸入口7aから吸入管7bへの土砂Sの流入が抑制され、吸入管7bに吸入される土砂量が低減する。
【0056】
このように、制御装置13により、給水バルブ8の開閉制御を行うと、ポンプ7cを停止させることなく水底Bの土砂Sの過掘りをより効果的に抑制できる。船体2が沖合波浪や航跡波などの影響を受けて一時的に上下動することがあるので、このような場合の過掘りを防止するには有利になる。ポンプ7cを停止させても直ちに土砂Sの吸入が停止することはなく、また、過掘りによって、後処理すべき浚渫土が余分に発生するので、吸入される土砂量を迅速に抑制できることは当業者にとっては非常に有益である。
【0057】
さらに、制御装置13が、掘削部5が掘削している掘削深度が制限深度L3を超過していないと判定結果が変わった時点で、開口状態の給水バルブ8を閉口状態に切り替えると、ポンプ7cは稼働しているので浚渫作業を速やかに再開できる。開口状態の給水バルブ8を閉口状態に切り替える操作は、作業者が人為的に行う構成にすることもできる。
【0058】
この実施形態の表示手段14にはさらに、掘削部5が位置している区画の制限深度L3と、給水バルブ8の開閉状態とが表示され、掘削部5による掘削深度が制限深度L3を超過した場合には警告が表示される。オペレータは、表示手段14に表示されている情報を確認することで、制御装置13により、給水バルブ8が正常に制御されているか否かを確認できる。
【0059】
なお、本発明は、平坦部C1の両側にそれぞれ法面C2を有する凹路Cを形成する場合に限らず、例えば、水底Bに法面C2のみを形成する場合などにも採用できる。また、ポンプ浚渫船1を構成するスパッド3やラダー4、掘削部5、回動手段6、吸入手段7、旋回手段9は、上記で例示した実施形態に限定されず、その他の様々な構成にすることができる。回動手段6は、例えば、ウインチ6bから繰り出されている吊ワイヤ6cの下端部をラダー4に直接接続した構成にすることもできる。掘削部5は、例えば、ドリル状の刃を回転させる構成にすることもできる。旋回手段9は、例えば、船体2の側部に設けたスラスターなどを用いて船体2およびラダー4を旋回させる構成にすることもできる。
【符号の説明】
【0060】
1 ポンプ浚渫船
2 船体
3、3a、3b スパッド
4 ラダー
5 掘削部
6 回動手段
6a 支持フレーム
6b ウインチ
6c 吊ワイヤ
6d 吊具
6e 鎖
7 吸入手段
7a 土砂吸入口
7b 吸入管
7c ポンプ
8 給水バルブ
9 旋回手段
9a、9b リール部
9c、9d ワイヤ
10 浚渫制御システム
11 記憶部
12 船体位置情報取得手段
12a GNSS受信装置
12b 傾斜計
12c コンパス
12d 乾舷計
12e 潮位計
13 制御装置
14 表示手段
15 警告手段
B 水底
C 凹路
C1 平坦部
C2 法面
L1 設計深度
L2 最低深度
L3 制限深度
S 土砂
W 水
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11