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特許7565857設計品質監視装置、設計品質監視方法およびプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】設計品質監視装置、設計品質監視方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 10/105 20230101AFI20241004BHJP
   G16Y 40/20 20200101ALI20241004BHJP
【FI】
G06Q10/105
G16Y40/20
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021068743
(22)【出願日】2021-04-15
(65)【公開番号】P2022163737
(43)【公開日】2022-10-27
【審査請求日】2024-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100131152
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 耕司
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【弁理士】
【氏名又は名称】美恵 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100148149
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 幸男
(74)【代理人】
【識別番号】100181618
【弁理士】
【氏名又は名称】宮脇 良平
(74)【代理人】
【識別番号】100174388
【弁理士】
【氏名又は名称】龍竹 史朗
(72)【発明者】
【氏名】弓場 章広
【審査官】樋口 龍弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-043030(JP,A)
【文献】特開2019-036205(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00 - 99/00
G16Y 40/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
製品を構成するモジュール間のインターフェースの定義に基づいて、前記モジュールの担当者間のコミュニケーションの結合度を示す結合度情報を生成する結合度情報生成部、および、前記モジュールの担当者のスキルを含む属性を示す属性情報を生成する属性情報生成部を有し、前記結合度情報および前記属性情報を含む前記モジュールの担当者間の関係を示す情報を記憶部に記憶させる担当者登録部と、
前記モジュールの担当者間のコミュニケーションに関する情報を前記記憶部に記憶させるコミュニケーション登録部と、
前記モジュールの担当者間の関係を示す情報および前記モジュールの担当者間のコミュニケーションに関する情報に基づいて、前記モジュールの担当者間のコミュニケーションが適正であるか否かを判定するコミュニケーション判定部と、
前記コミュニケーション判定部の判定結果を出力する報知部と、
を備える設計品質監視装置。
【請求項2】
前記コミュニケーション判定部は、
前記モジュールの担当者間の関係を示す情報および前記モジュールの担当者間のコミュニケーションに関する情報に基づいて、前記モジュールの担当者間のコミュニケーションの開始時期が適正であるか否か、および、コミュニケーション量が適正であるか否かを判定する、
請求項1に記載の設計品質監視装置。
【請求項3】
前記コミュニケーション判定部は、
前記モジュールの担当者間のコミュニケーションに関する情報に基づいて、前記モジュールの担当者間のコミュニケーションの密度が適正であるか否かをさらに判定する、
請求項2に記載の設計品質監視装置。
【請求項4】
前記結合度情報生成部は、
前記モジュール間のインターフェースの定義に基づいて、前記モジュール間の相関の強さを算出し、前記モジュール間の相関の強さに変換係数を乗算して、前記モジュールの担当者間のコミュニケーションの結合度を示す結合度情報を生成し、前記記憶部に記憶させる、
請求項1から3のいずれか1項に記載の設計品質監視装置。
【請求項5】
前記属性情報生成部は、
前記モジュールの担当者のスキル、業務経験の年数および業務を行う場所を含む属性を示す前記属性情報を生成し、前記記憶部に記憶させる、
請求項1から4のいずれか1項に記載の設計品質監視装置。
【請求項6】
前記コミュニケーション登録部は、
前記モジュールの担当者が使用する作業端末を介して行われたコミュニケーションを示すコミュニケーションログ情報を生成し、逐次前記記憶部に記憶させるコミュニケーションロギング部と、
前記モジュールの担当者間で直接対話して行われたコミュニケーションを示すコミュニケーション結果情報を生成し、逐次前記記憶部に記憶させるコミュニケーション取得部と、
を備える請求項1からのいずれか1項に記載の設計品質監視装置。
【請求項7】
設計品質監視装置が実行する、
製品を構成するモジュール間のインターフェースの定義に基づいて、前記モジュールの担当者間のコミュニケーションの結合度を示す結合度情報を生成するステップと、
前記モジュールの担当者のスキルを含む属性を示す属性情報を生成するステップと、
前記結合度情報および前記属性情報を含む前記モジュールの担当者間の関係を示す情報を記憶するステップと、
前記モジュールの担当者間のコミュニケーションに関する情報を記憶するステップと、
前記モジュールの担当者間の関係を示す情報および前記モジュールの担当者間のコミュニケーションに関する情報に基づいて、前記モジュールの担当者間のコミュニケーションが適正であるか否かを判定するステップと、
前記モジュールの担当者間のコミュニケーションが適正であるか否かの判定結果を出力するステップと、
を備える設計品質監視方法。
【請求項8】
コンピュータを、
製品を構成するモジュール間のインターフェースの定義に基づいて、前記モジュールの担当者間のコミュニケーションの結合度を示す結合度情報を生成する結合度情報生成部、および、前記モジュールの担当者のスキルを含む属性を示す属性情報を生成する属性情報生成部を有し、前記結合度情報および前記属性情報を含む前記モジュールの担当者間の関係を示す情報を記憶する担当者登録部、
前記モジュールの担当者間のコミュニケーションに関する情報を記憶するコミュニケーション登録部、
前記モジュールの担当者間の関係を示す情報および前記モジュールの担当者間のコミュニケーションに関する情報に基づいて、前記モジュールの担当者間のコミュニケーションが適正であるか否かを判定するコミュニケーション判定部、ならびに、
前記コミュニケーション判定部の判定結果を出力する報知部、
として機能させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、設計品質監視装置、設計品質監視方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
製品アーキテクチャーの1つに、インターフェースで連結される複数のモジュールで構成されるモジュール型製品がある。モジュール型製品の設計では、各モジュールの担当者間のコミュニケーションによって、インターフェース仕様書の疑問点、不足している点などを指摘し合いながら設計品質の向上が図られている。
【0003】
特許文献1には、査定回数、工数増減および納期遅延を考慮して解析したシステム開発の予定と実績との差に基づいて予想納期及び予想費用を算出するシステム開発プロジェクト進捗管理システムが開示されている。特許文献1に記載の技術では、査定回数、工数増減および納期遅延を含む各事象数値データを工数換算し、コミュニケーション不足を含む各原因項目に重み付けをして配賦することで、プロジェクトの進捗管理上生じる問題を原因項目ごとに定量的に評価している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004―213386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術では、モジュール型製品の設計において、各モジュールの担当者間のコミュニケーションが不適正であることに気付くことができる仕組みがないので、設計品質が低下することがある。
【0006】
本開示は、モジュール型製品の設計において、設計品質の低下を防ぐことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本開示に係る設計品質監視装置は、担当者登録部と、コミュニケーション登録部と、記憶部と、コミュニケーション判定部と、報知部とを備える。担当者登録部は、製品を構成するモジュール間のインターフェースの定義に基づいて、モジュールの担当者間のコミュニケーションの結合度を示す結合度情報を生成する結合度情報生成部、および、モジュールの担当者のスキルを含む属性を示す属性情報を生成する属性情報生成部を有し、結合度情報および属性情報を含むモジュールの担当者間の関係を示す情報を記憶部に記憶させる。コミュニケーション登録部は、モジュールの担当者間のコミュニケーションに関する情報を記憶部に記憶させる。コミュニケーション判定部は、モジュールの担当者間の関係を示す情報およびモジュールの担当者間のコミュニケーションに関する情報に基づいて、モジュールの担当者間のコミュニケーションが適正であるか否かを判定する。報知部は、コミュニケーション判定部の判定結果を出力する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、モジュール型製品の設計において、モジュールの担当者間のコミュニケーションが適正であるか否かの判定結果を出力することで、設計品質の低下を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態に係る設計品質監視装置の構成例を示す図
図2】実施の形態に係るランク値を求めるための関数分布の例を示す図
図3】実施の形態に係るランクポイントを決定する算出表の例を示す図
図4】実施の形態に係るレベルを決定する算出表の例を示す図
図5】実施の形態に係る結合度情報の例を示す図
図6】実施の形態に係る結合度情報を説明するイメージ図
図7】実施の形態に係るスキル係数sを決定する算出表の例を示す図
図8】実施の形態に係る変換係数tおよび補正係数hを決定する算出表を示す図
図9】実施の形態に係るコミュニケーションの開始適正時期の算出方法を説明する図
図10】実施の形態に係るコミュニケーションが適正である場合のコミュニケーション例を示す図
図11】実施の形態に係る上位から下位へのコミュニケーションの開始が遅い場合のコミュニケーション例を示す図
図12】実施の形態に係る下位から上位へのコミュニケーションの開始が遅い場合のコミュニケーション例を示す図
図13】実施の形態に係る上位から下位へのコミュニケーションが少ない場合のコミュニケーション例を示す図
図14】実施の形態に係る下位から上位へのコミュニケーションが少ない場合のコミュニケーション例を示す図
図15】実施の形態に係る上位から下位へのコミュニケーションが多すぎる場合のコミュニケーション例を示す図
図16】実施の形態に係る下位から上位へのコミュニケーションが多すぎる場合のコミュニケーション例を示す図
図17】実施の形態に係る上位から下位へのコミュニケーションの密度が低い場合のコミュニケーション例を示す図
図18】実施の形態に係る下位から上位へのコミュニケーションの密度が低い場合のコミュニケーション例を示す図
図19】実施の形態に係る結合度情報生成処理を示すフローチャート
図20】実施の形態に係る属性情報生成処理を示すフローチャート
図21】実施の形態に係るコミュニケーションロギング処理を示すフローチャート
図22】実施の形態に係るコミュニケーション取得処理を示すフローチャート
図23】実施の形態に係るコミュニケーション判定処理を示すフローチャート
図24】実施の形態に係る設計品質監視装置のハードウェア構成の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本実施の形態に係る設計品質監視装置、設計品質監視方法およびプログラムについて図面を参照して詳細に説明する。なお、図中同一または相当する部分には同じ符号を付す。以下の実施の形態では、ソフトウェアのモジュール型製品を開発するプロジェクトにおいて、モジュールの担当者間のコミュニケーションが適正か否かでモジュールの設計品質を監視する例について説明する。以下の説明では、ソフトウェアのモジュール型製品を単に製品といい、設計品質監視装置を用いてモジュールの設計品質を管理するユーザを管理者という。管理者は、モジュールの担当者であってもよい。
【0011】
実施の形態に係る設計品質監視装置1の構成について、図1を用いて説明する。図1に示すように、設計品質監視装置1は、製品を構成するモジュールの担当者間の関係を示す情報を記憶部13に記憶させる担当者登録部11と、製品を構成するモジュールの担当者間のコミュニケーションに関する情報を記憶部13に記憶させるコミュニケーション登録部12と、製品を構成するモジュールの担当者間の関係を示す情報および製品を構成するモジュールの担当者間のコミュニケーションに関する情報を記憶する記憶部13と、記憶部13が記憶する情報に基づいてモジュールの担当者間のコミュニケーションが適正であるか否かを判定するコミュニケーション判定部14と、担当者間のコミュニケーションが不適正であることを報知する警告情報を出力する報知部15とを備える。
【0012】
担当者登録部11は、モジュールの担当者間のコミュニケーションの結合度を示す結合度情報を生成する結合度情報生成部111と、各モジュールの担当者のスキルを示す属性情報を生成する属性情報生成部112と、を備える。結合度情報および属性情報は、製品を構成するモジュールの担当者間の関係を示す情報の例である。
【0013】
開発する製品の概要が決定すると簡易的な事前設計が実施される。事前設計において決定される事項には、製品のモジュール構成、モジュール間のインターフェースの定義、開発期間および各モジュールの開発規模比率を含む。製品のモジュールの構成は、階層構造になっており、上位モジュールと下位モジュールとがインターフェースで連結される。モジュール間のインターフェースの定義は、インターフェースの複雑度およびモジュール間で使用される関数の単位時間あたりの呼び出し回数を含む。開発期間は、プロジェクトにおける設計業務の開始から終了までとする。事前設計の実施と共に各モジュールの担当者が決定される。管理者は、事前設計で決定された製品のモジュールの構成、モジュール間のインターフェースの定義、開発期間および各モジュールの開発規模比率を含む事前設計情報と各モジュールの担当者を示す担当者情報とを設計品質監視装置1に入力する。
【0014】
結合度情報生成部111は、事前設計情報が入力されると、事前設計情報にて定義されたインターフェースの複雑度と関数の単位時間あたりの呼び出し回数とに基づいて、関数分布図を用いて、モジュール間で使用される関数についてそれぞれランク値を求める。図2に関数分布図の例を示す。図2に示す関数分布図は、縦軸が関数の単位時間あたりの呼び出し回数、横軸がインターフェースの複雑度である。結合度情報生成部111は、事前設計情報にて定義されたモジュール間で使用される関数を関数分布図にプロットして、各ランク値を求める。図2の例では、ランク0の関数が1個、ランク1の関数が1個、ランク2の関数が3個、ランク3の関数が1個、ランク4の関数が1個、ランク5の関数が2個ある。関数分布図のランク値は、プロジェクトごとに設定される。
【0015】
結合度情報生成部111は、図3に示すように、各ランク値に属する関数の個数に該ランク値に対応する係数を乗算して合計したランクポイントを算出する。各ランク値に対応する係数は、プロジェクトごとに設定される。図3の例では、ランクポイントは24である。
【0016】
結合度情報生成部111は、図4に示すように、算出したランクポイントに基づいて、モジュール間の相関の強さを表すレベルを決定する。図3の例のように、ランクポイントが24であった場合、結合度情報生成部111は、図4の表を参照して、モジュール間の相関の強さをレベル2と決定する。
【0017】
図1に戻り、結合度情報生成部111は、モジュール間の相関の強さをモジュールの担当者間のコミュニケーションの結合度に変換する。例えば、モジュール間の相関の強さがレベル2であった場合、上位モジュールの担当者から下位モジュールの担当者へのコミュニケーションの結合度は、レベル2に変換係数c1(=1)を乗算して結合度2とする。一方、下位モジュールの担当者から上位モジュールの担当者へのコミュニケーションの結合度は、レベル2に変換係数c2(=0.5)を乗算して結合度1とする。ここでは、上位モジュールから下位モジュールを呼び出すことを前提に、上位モジュールの担当者から下位モジュールの担当者に説明を求めることが増加することを想定して、変換係数c1>変換係数c2としたが、これに限らない。変換係数を用いずにモジュール間の相関の強さをそのままモジュールの担当者間のコミュニケーションの結合度にしてもよいし、変換係数c1および変換係数c2を、例えば、過去のプロジェクトにおけるコミュニケーション量から算出してもよい。
【0018】
結合度情報生成部111は、モジュールの担当者間のコミュニケーションの結合度を示す結合度情報を生成し、記憶部13に記憶させる。また、結合度情報生成部111は、事前設計情報を記憶部13に記憶させる。
【0019】
属性情報生成部112は、担当者情報が入力されると、担当者情報が示す各モジュールの担当者のスキルを入力可能な入力画面を表示する。管理者が入力画面に各モジュールの担当者のスキルを入力すると、属性情報生成部112は、各モジュールの担当者のスキルを示す属性情報を生成し、記憶部13に記憶させる。なお、各モジュールの担当者のスキルは、担当者情報に含まれていてもよい。この場合、属性情報生成部112は、入力された担当者情報を属性情報として記憶部13に記憶させる。
【0020】
コミュニケーション登録部12は、担当者が使用する作業端末を介して行われたコミュニケーションを記録したコミュニケーションログを取得するコミュニケーションロギング部121と、担当者間で直接対話して行われたコミュニケーションの結果の入力を受け付けるコミュニケーション取得部122と、を備える。
【0021】
プロジェクトが開始される前に、各担当者の作業端末には作業端末を介して行われたコミュニケーションのログを取得するログツールがインストールされている。作業端末を介して行われるコミュニケーションとは、例えば、メールアプリ、グループウェアなどの他者に対して情報を伝達することができるコミュニケーションアプリを用いたコミュニケーションのことである。ログツールは、各担当者が使用する作業端末を介して行われたコミュニケーションを検知し、コミュニケーションの量を抽出する。メール、文書登録、チャットなどの文章によるコミュニケーションの場合、コミュニケーションの量として文字数を抽出する。音声通話、ビデオ通話などの会話によるコミュニケーションの場合、コミュニケーションの量として時間を抽出する。
【0022】
ログツールは、コミュニケーションの量を抽出すると共に、コミュニケーションの主体および客体を抽出する。メール、文書登録、チャットなどの文章によるコミュニケーションの場合、コミュニケーションの主体および客体としてそれぞれ差出人と受取人を抽出する。音声通話、ビデオ通話などの会話によるコミュニケーションの場合、コミュニケーションの主体および客体としてそれぞれ発信者および受信者を抽出する。
【0023】
ログツールは、コミュニケーションの量およびコミュニケーションの主体および客体を抽出するたびに、コミュニケーションの量およびコミュニケーションの主体および客体を記録したコミュニケーションログをコミュニケーションロギング部121に送信する。ログツールは、開発期間中、コミュニケーションの量およびコミュニケーションの主体および客体の抽出を継続して行い、コミュニケーションログをコミュニケーションロギング部121に送信し続ける。
【0024】
コミュニケーションロギング部121は、各作業端末のログツールからコミュニケーションログを受信する度に、受信したコミュニケーションログと入力された担当者情報とに基づいて、コミュニケーションの量、コミュニケーションの主体および客体、ならびに、コミュニケーションの方向を示すコミュニケーションログ情報を生成し、逐次記憶部13に記憶させる。コミュニケーションログ情報は、モジュールの担当者間のコミュニケーションに関する情報の例である。コミュニケーションの方向は、上位モジュールの担当者が主体であり下位モジュールの担当者が客体であるコミュニケーションの方向を上→下とする。逆に下位モジュールの担当者が主体であり上位モジュールの担当者が客体であるコミュニケーションの方向を下→上とする。
【0025】
一方、担当者同士の立ち話、会議などの直接対話のコミュニケーションが行われた場合は、コミュニケーションの結果がコミュニケーション取得部122に入力される。コミュニケーションの結果は、コミュニケーションの量およびコミュニケーションの主体および客体で入力される。コミュニケーションの結果の入力方法は、例えば、コミュニケーション取得部122に直接入力してもよいし、打ち合わせ場所、会議室などに設けられた端末あるいは携帯端末に入力してコミュニケーション取得部122に送信される構成にしてもよい。コミュニケーションの結果を入力するのは、コミュニケーションの当事者でもよいし、同席していた人物でもよい。直接対話のコミュニケーションの場合、例えば、コミュニケーションを実施した時間(コミュニケーションの量)と誰から誰へのコミュニケーションであるか(コミュニケーションの主体および客体)とがコミュニケーションの結果としてコミュニケーション取得部122に入力される。
【0026】
コミュニケーション取得部122は、コミュニケーションの結果が入力される度に、入力されたコミュニケーションの結果と入力された担当者情報とに基づいて、コミュニケーションの量、コミュニケーションの主体および客体、ならびに、コミュニケーションの方向を示すコミュニケーション結果情報を生成し、逐次記憶部13に記憶させる。コミュニケーション結果情報は、モジュールの担当者間のコミュニケーションに関する情報の例である。
【0027】
コミュニケーション判定部14は、記憶部13が記憶する事前設計情報、結合度情報、属性情報、コミュニケーションログ情報およびコミュニケーション結果情報に基づいて、モジュールの担当者間のコミュニケーションが適正か否かを判定する。以下、モジュールの担当者間のコミュニケーションが適正か否かを判定することをコミュニケーション適正判定という。コミュニケーション判定部14は、記憶部13が記憶する事前設計情報から開発期間を取得し、開発期間中、コミュニケーション適正判定を複数回実施し、モジュールの設計品質を監視する。プロジェクトの規模によって予め決定される監視回数をN回とすると、コミュニケーション判定部14は、開発期間が始まると開発期間/Nごとにコミュニケーション適正判定を行う。
【0028】
コミュニケーション判定部14は、開発期間が始まってから開発期間/Nが経過すると、まず、モジュールの担当者間で必要なコミュニケーション量を算出するために、記憶部13から図5に示すような結合度情報を取得する。以下、モジュールの担当者間で必要なコミュニケーション量を必要コミュニケーション量という。上述のように、モジュールの担当者間のコミュニケーションの結合度がコミュニケーションの方向によって異なる場合には、必要コミュニケーション量をコミュニケーションの方向ごとに算出する。
【0029】
図5に示す結合度情報の例では、コミュニケーションの主体の担当者から客体の担当者へのコミュニケーションの結合度を表している。例えば、主体担当者Aから客体担当者Bへのコミュニケーションの結合度は5である。逆に、主体担当者Bから客体担当者Aへのコミュニケーションの結合度は3である。
【0030】
図5の結合度情報の例が示す各担当者間の関係のイメージ図を、図6に示す。図6のイメージ図では、矢印の太さは担当者間のコミュニケーションの結合度を表しており、矢印が太いほどコミュニケーションの結合度が高いことを表している。矢印の元がコミュニケーションの主体の担当者であり、矢印の先がコミュニケーションの客体の担当者である。
【0031】
コミュニケーション判定部14は、モジュールの担当者間のコミュニケーションの結合度を示す結合度情報を取得すると、担当者のスキルによって必要コミュニケーション量を補正するために、記憶部13から属性情報を取得する。担当者のスキルによる必要コミュニケーション量の補正を行うのは、担当者のスキルによって必要となるコミュニケーションの量が異なるためである。
【0032】
コミュニケーション判定部14は、属性情報に基づいて、スキル係数sを決定する。図7にスキル係数sを決定する算出表の例を示す。スキル係数sは、モジュール間の担当者のスキルの組み合わせによって決定される。図7の例では、担当者のスキルを有識者であるか非有識者であるかで表現している。原則として、知識が豊富な担当者つまり有識者とのコミュニケーションであれば、コミュニケーション量が増加しないため、スキル係数sは小さく設定する。逆に、知識が豊富でない担当者つまり非有識者とのコミュニケーションであれば、コミュニケーション量が増加するため、スキル係数sは大きく設定する。図7の例では、有識者の参加が少なくなるほどスキル係数sが高くなっている。
【0033】
図7の例では、担当者のスキルを有識者であるか非有識者であるかで表現しているが、担当者の多様性に合わせてスキル係数sを決定する算出表のメッシュを細かくするほど、コミュニケーション判定部14のコミュニケーション適正判定の精度は向上する。
【0034】
コミュニケーション判定部14は、取得した結合度情報が示す結合度と、スキル係数sと、予め決められた係数cと以下の数1とを用いて、必要コミュニケーション量を算出する。係数cは、例えば、過去のプロジェクトにおけるコミュニケーション量から予め算出しておく。
【0035】
(数1) 結合度×スキル係数s×係数c= 必要コミュニケーション量
【0036】
必要コミュニケーション量の単位は、コミュニケーションログ情報およびコミュニケーション結果情報に含まれるコミュニケーション量と比較可能な単位であれば何でもよいが、ここでは時間単位とする。
【0037】
図1に戻り、コミュニケーション判定部14は、記憶部13からコミュニケーションログ情報およびコミュニケーション結果情報を取得する。コミュニケーションログ情報には、直接対話、テレコミュニケーションなどの会話による時間のコミュニケーション量の他に、メール、チャットなどの文字による文字数のコミュニケーション量が含まれる。コミュニケーション判定部14は、必要コミュニケーション量の単位である時間単位に統一するために、変換係数tと以下の数2とを用いて、文字数のコミュニケーション量を時間のコミュニケーション量に変換する。
【0038】
(数2) 文字数のコミュニケーション量÷変換係数t=時間のコミュニケーション量
【0039】
また、コミュニケーション種別によって情報の伝達効率が異なるため、コミュニケーション種別ごとに予め補正係数hが設定されている。コミュニケーション判定部14は、補正係数hと以下の数3を用いて、時間のコミュニケーション量から実質的に行われたとみなすコミュニケーション量を算出する。以下、実質的に行われたとみなすコミュニケーション量を実質コミュニケーション量という。
【0040】
(数3) 時間のコミュニケーション量×補正係数h=実質コミュニケーション量
【0041】
図8に変換係数tおよび補正係数hを決定する算出表の例を示す。変換係数tおよび補正係数hは、コミュニケーション種別によって決定される。例えば、コミュニケーション種別が直接対話である場合は、コミュニケーション量の単位が時間(分)であって、時間単位に変換する必要がないので、変換係数tは1である。また直接対話の情報の伝達効率を基準として、補正係数hは1に設定されている。コミュニケーション種別がチャットである場合は、コミュニケーション量の単位が文字数であって、時間単位に変換する必要があるので、変換係数tは100に設定されており、補正係数hは0.6に設定されている。つまり、チャットでの100文字のやり取りと直接対話での0.6分のやり取りとが同等のコミュニケーション量であるとみなしている。
【0042】
また、コミュニケーション判定部14は、製品のモジュールの階層数および各モジュールの開発規模比率に基づいて、モジュールの担当者間のコミュニケーションの開始適正時期を算出する。以下、コミュニケーションの開始適正時期を算出する対象のモジュールを算出対象モジュールという。
【0043】
一般的に、開発期間中に上位モジュールから設計され順次下位モジュールが設計されるため、算出対象モジュールが製品のモジュールの階層の中でどの階層に位置するのかによってコミュニケーションを開始すべき時期が異なる。このため、コミュニケーション判定部14は、記憶部13が記憶する事前設計情報から製品のモジュールの階層数Xと算出対象モジュールの階層Yとを取得する。なお最上位の階層を0とする。
【0044】
コミュニケーション判定部14は、算出対象モジュールの階層に基づく算出対象モジュールのコミュニケーションの開始時期XTを、以下の数4を用いて算出する。以下、開発期間をDTとする。
【0045】
(数4) (開発期間DT ÷ 階層数X)×階層Y=開始時期XT
【0046】
また、一般的に、モジュールの開発規模が大きいほど設計に時間がかかるため、各モジュールの開発規模比率によってコミュニケーションを開始すべき時期が異なる。このため、コミュニケーション判定部14は、記憶部13が記憶する事前設計情報から製品の各モジュールの開発規模比率rを取得する。コミュニケーション判定部14は、開発期間DTを上位モジュールから順に開発規模比率rに従って分割する。
【0047】
コミュニケーション判定部14は、各モジュールの開発規模比率に基づく算出対象モジュールのコミュニケーションの開始時期RTを、以下の数5を用いて算出する。
【0048】
(数5)(開発期間DT ÷100) × (r0+r1+・・・)=開始時期RT
【0049】
数5の(r0+r1+・・・)は、算出対象モジュールよりも上位のモジュールの比率の総和である。数5では、(r0+r1+・・・)と記載しているが、算出対象モジュールが最上位モジュールである場合は0となり、開発期間が始まった時がコミュニケーションの開始時期RTとなる。コミュニケーション判定部14は、開始時期XTと開始時期RTとの早い方をコミュニケーションの開始適正時期とする。
【0050】
図9は、コミュニケーションの開始適正時期の算出方法を説明する図である。図9の例では、製品のモジュールの階層数X=4である。算出対象モジュールの階層Y=3とすると、算出対象モジュールの階層に基づくコミュニケーションの開始時期XTは、(開発期間DT ÷ 階層数4)×階層3となり、開発期間DTの75%が経過した時点となる。各モジュールの開発規模比率r(r0=20,r1=20,r2=40,r3=20)に基づく算出対象モジュールのコミュニケーションの開始時期RTは、(開発期間DT ÷100) × (r0+r1+r2)となり、開発期間DTの80%が経過した時点となる。コミュニケーション判定部14は、開始時期XTと開始時期RTとの早い方、つまり、開始時期XT(開発期間DTの75%が経過した時点)をコミュニケーションの開始適正時期とする。一方、算出対象モジュールの階層Y=1の場合および階層Y=2のモジュールの場合は、開始時期XTより開始時期RTの方が早いので、開始時期RTをコミュニケーションの開始適正時期とする。開始適正時期を早い方にすることで、下流の工程での遅延を防止すると共にモジュール間の不整合などの問題の見直し時期も確保することができる。
【0051】
図1に戻り、コミュニケーション判定部14は、記憶部13から取得したコミュニケーションログ情報およびコミュニケーション結果情報と算出した実質コミュニケーション量、開始適正時期および必要コミュニケーション量とに基づいて、モジュールの担当者間のコミュニケーションが適正であるか否かを判定する。モジュールの担当者間のコミュニケーションが不適正である場合には、報知部15にモジュールの担当者間のコミュニケーションが不適正であることを報知する警告情報を送る。報知部15は、受け取った警告情報を出力する。警告情報の出力方法は、例えば、画面表示してもよいし、音声出力してもよいし、管理者が使用する端末に送信してもよい。警告情報が出力されることで、管理者はモジュールの担当者間のコミュニケーションが不適正であることを知ることができる。警告情報は、判定結果の例である。報知部15が出力する情報は、警告情報に限らず、コミュニケーション判定部14の判定結果を含む情報であればよい。
【0052】
コミュニケーション判定部14は、コミュニケーションの開始時期が開始適正時期よりも早い場合は、設計着手よりも前に懸念情報、制約事項などが共有されているものと考え、モジュールの担当者間のコミュニケーションが適正になされていると判定する。ただし、コミュニケーションの開始時期が開始適正時期よりも決められた期間以上早い場合に報知を行うか否は、管理者が設定可能にしてもよい。
【0053】
ここから、図10図17を用いて、様々なパターンのコミュニケーション例について説明する。図10図17は、縦軸を実質コミュニケーション量(単位:1週あたりの合計時間h/W)、横軸を開発期間(単位:週W)とする。開発期間を10W、コミュニケーション適正判定を行ってモジュールの設計品質を監視する監視タイミングを1Wごと(N=10)とする。上→下のコミュニケーションの開始適正時期を3W、上→下のコミュニケーションの開始時点から1週間以内が下→上のコミュニケーションの開始適正時期とする。次の階層の上→下のコミュニケーションの開始適正時期を8Wとする。上→下のコミュニケーションの必要コミュニケーション量を10h、下→上のコミュニケーションの必要コミュニケーション量を8hとする。
【0054】
まず、コミュニケーション判定部14は、記憶部13から取得したコミュニケーションログ情報およびコミュニケーション結果情報に基づいて、コミュニケーション適正判定を行うモジュールの担当者間の上→下のコミュニケーションの開始時期および下→上のコミュニケーションの開始時期を特定し、開始適正時期に基づいて、コミュニケーションの開始時期が適正であるか否かを判定する。以下、コミュニケーション適正判定を行う対象のモジュールを判定対象モジュールという。
【0055】
図10に示すコミュニケーション例では、3Wに上→下のコミュニケーションが開始されており、4Wに下→上のコミュニケーションが開始されているので、コミュニケーション判定部14は、コミュニケーションの開始時期が適正であると判定する。図11に示すコミュニケーション例では、上→下のコミュニケーションの開始が開始適正時期よりも遅くなっているので、コミュニケーション判定部14は、上→下のコミュニケーションの開始時期が不適正であると判定する。このため、コミュニケーション判定部14は、3Wの監視タイミングで上→下のコミュニケーションの開始適正時期が過ぎていることを報知する警告情報を報知部15を介して出力する。図11の例では、下→上のコミュニケーションは省略されている。
【0056】
上→下のコミュニケーションの開始時期が開始適正時期よりも遅れている場合には、例えば、上位モジュールの担当者が設計業務を実施できる状態でない、質問すべき内容がまとまらないなどの問題が推測されるので、警告情報には、そのような問題点を指摘する内容を含んでもよい。
【0057】
図12に示すコミュニケーション例では、上→下のコミュニケーションの開始時期が3Wであるので適正であるが、下→上のコミュニケーションの開始時期が開始適正時期よりも遅くなっているので、コミュニケーション判定部14は、下→上のコミュニケーションの開始時期が不適正であると判定する。コミュニケーション判定部14は、4Wの監視タイミングで下→上のコミュニケーションの開始適正時期が過ぎていることを報知する警告情報を報知部15を介して出力する。
【0058】
下→上のコミュニケーションの開始時期が開始適正時期よりも遅れている場合には、例えば、上位モジュールの担当者は設計業務を実施できる状態であるが下位モジュールの担当者は設計業務を実施できる状態でない、上位モジュールの担当者からの質問の内容が分からないなどの問題が推測されるので、警告情報には、そのような問題点を指摘する内容を含んでもよい。
【0059】
続いて、コミュニケーション判定部14は、判定対象モジュールの担当者間の上→下の実質コミュニケーション量および下→上のコミュニケーション実質コミュニケーション量と必要コミュニケーション量とに基づいて、実質コミュニケーション量が適正であるか否かを判定する。
【0060】
例えば、上→下のコミュニケーションの開始適正時期が3Wであって、次の階層のモジュールの上→下のコミュニケーションの開始適正時期が8Wであるので、判定対象モジュールの上→下のコミュニケーションをすべき期間を3Wから8Wの5週間とする。また、下→上のコミュニケーションの開始適正時期が上→下のコミュニケーションの開始時点から1週間以内であって、次の階層のモジュールの上→下のコミュニケーションの開始適正時期が8Wであるので、判定対象モジュールの上→下のコミュニケーションをすべき期間は4Wから8Wの4週間とする。
【0061】
コミュニケーション判定部14は、判定対象モジュールの上→下のコミュニケーションの必要コミュニケーション量が10hであって、コミュニケーションをすべき期間が5Wであるので、最初の監視タイミングでは、10hを5Wで除算した2h/Wのコミュニケーション量が必要であるものとする。以下、監視タイミングごとに必要なコミュニケーション量を単位必要コミュニケーション量という。2回目以降の監視タイミングでは、コミュニケーション判定部14は、これまでの監視タイミングで算出された実施済みのコミュニケーション量の合計を必要コミュニケーション量から減算した必要コミュニケーション残量を算出し、必要コミュニケーション残量を残りの上→下のコミュニケーションをすべき期間で除算した値を単位必要コミュニケーション量とする。
【0062】
図13の例では、上→下のコミュニケーションの開始時期である3Wの監視タイミングでは、実質コミュニケーション量が単位必要コミュニケーション量2h/Wを満たしているので、コミュニケーション判定部14は、上→下のコミュニケーション量が適正であると判定する。4Wの監視タイミングでは、必要コミュニケーション残量は8hで残りの上→下のコミュニケーションをすべき期間は4Wであるので、単位必要コミュニケーション量2h/Wである。4Wにおける実質コミュニケーション量はこれを満たしていないので、コミュニケーション判定部14は、上→下の実質コミュニケーション量が不適正であると判定する。コミュニケーション判定部14は、4Wの監視タイミングで上→下のコミュニケーション量が不適正であることを報知する警告情報を報知部15を介して出力する。
【0063】
下→上のコミュニケーションについても同様に、コミュニケーション判定部14は、判定対象モジュールの下→上のコミュニケーションの必要コミュニケーション量が8hであって、コミュニケーションをすべき期間が4Wであるので、最初の監視タイミングにおける単位必要コミュニケーション量は、8hを4Wで除算した2h/Wであるものとする。2回目以降の監視タイミングでは、コミュニケーション判定部14は、これまでの監視タイミングで算出された実施済みのコミュニケーション量の合計を必要コミュニケーション量から減算した必要コミュニケーション残量を算出し、必要コミュニケーション残量を残りの上→下のコミュニケーションをすべき期間で除算した値を単位必要コミュニケーション量とする。
【0064】
図14の例では、下→上のコミュニケーションの開始時期である4Wの監視タイミングで、実質コミュニケーション量が単位必要コミュニケーション量2h/Wを満たしていないので、コミュニケーション判定部14は、下→上の実質コミュニケーション量が不適正であると判定する。コミュニケーション判定部14は、4Wの監視タイミングで下→上のコミュニケーション量が不適正であることを報知する警告情報を報知部15を介して出力する。
【0065】
上→下または下→上のコミュニケーション量が少ない場合、相互の意思疎通に問題がある可能性がある。年少者から年長者への質問が行いにくい職場環境、担当者のスキル不足による曖昧な理解のためコミュニケーション回数が少なくなっているなどの問題が推測されるので、警告情報には、そのような問題点を指摘する内容を含んでもよい。
【0066】
続いて、実質コミュニケーション量が多すぎる場合について説明する。コミュニケーション判定部14は、上→下のコミュニケーションについては、例えば、監視タイミングにおける実質コミュニケーション量が単位必要コミュニケーション量の3倍以上である場合に、実質コミュニケーション量が不適正であると判定する。なお、上→下の実質コミュニケーション量が多すぎるか否かの判定は、単位必要コミュニケーション量の3倍以上であるか否かに限らず、例えば、単位必要コミュニケーション量の2倍以上、4倍以上であるか否かでもよいし、単位必要コミュニケーション量よりも閾値以上多いか否かでもよい。
【0067】
図15の例では、3Wの監視タイミングにおける上→下の実質コミュニケーション量が単位必要コミュニケーション量2h/Wの3倍である6h/W未満であるので、コミュニケーション判定部14は、上→下の実質コミュニケーション量が適正であると判定する。4Wの監視タイミングでは、6h/W以上であるので、上→下の実質コミュニケーション量が不適正であると判定する。コミュニケーション判定部14は、4Wの監視タイミングで上→下のコミュニケーション量が不適正であることを報知する警告情報を報知部15を介して出力する。
【0068】
上→下の実質コミュニケーション量が多すぎる場合には、初期の設計に不備があって見直しが頻繁に発生している、設計者のスキルが不足している、仕様が曖昧なまま設計を行っているなどの問題が推測されるので、警告情報には、そのような問題点を指摘する内容を含んでもよい。
【0069】
コミュニケーション判定部14は、下→上のコミュニケーションについては、例えば、監視タイミングにおける実質コミュニケーション量が単位必要コミュニケーション量の2倍以上である場合に、実質コミュニケーション量が不適正であると判定する。なお、下→上の実質コミュニケーション量が多すぎるか否かの判定は、単位必要コミュニケーション量の2倍以上であるか否かに限らず、例えば、単位必要コミュニケーション量の3倍以上、4倍以上であるか否かでもよいし、単位必要コミュニケーション量よりも閾値以上多いか否かでもよい。
【0070】
図16の例では、4Wの監視タイミングにおける下→上の実質コミュニケーション量が単位必要コミュニケーション量2h/Wの2倍である4h/W以上であるので、コミュニケーション判定部14は、下→上の実質コミュニケーション量が不適正であると判定する。コミュニケーション判定部14は、4Wの監視タイミングで下→上のコミュニケーション量が不適正であることを報知する警告情報を報知部15を介して出力する。
【0071】
下→上の実質コミュニケーション量が多すぎる場合には、上位モジュールの設計に不備がある、下位設計者からの質問が多発しているなどの問題が推測されるので、警告情報には、そのような問題点を指摘する内容を含んでもよい。
【0072】
コミュニケーション判定部14は、コミュニケーションの開始時期およびコミュニケーション量の適正を判定するだけでなく、コミュニケーションの密度の適正を判定してもよい。コミュニケーション判定部14は、例えば、コミュニケーションが開始されてからコミュニケーションが実施されない期間が1Wを超えるとコミュニケーションの密度が低いと判定する。なお、コミュニケーションの密度が低いか否かの判定は、コミュニケーションが開始されてからコミュニケーションが実施されない期間が1Wを超えるか否かに限らず、例えば、コミュニケーションが開始されてからコミュニケーションが実施されない期間が2W、3Wを超えるか否かでもよいし、コミュニケーションが開始されてから一定期間あたりのコミュニケーションの回数が閾値以下であるか否かでもよい。
【0073】
図17の例では、上→下のコミュニケーションが3Wに開始されてから、4Wの監視タイミングにおける実質コミュニケーション量が0h/Wであることから、コミュニケーション判定部14は、コミュニケーションが開始されてからコミュニケーションが実施されない期間が1Wを超えるのでコミュニケーションの密度が低いと判定し、4Wの監視タイミングで上→下のコミュニケーションの密度が不適正であることを報知する警告情報を報知部15を介して出力する。
【0074】
図18の例では、下→上のコミュニケーションが4Wに開始されてから、5Wの監視タイミングにおける実質コミュニケーション量が0h/Wであることから、コミュニケーション判定部14は、コミュニケーションが開始されてからコミュニケーションが実施されない期間が1Wを超えるのでコミュニケーションの密度が低いと判定し、5Wの監視タイミングで下→上のコミュニケーションの密度が不適正であることを報知する警告情報を報知部15を介して出力する。
【0075】
コミュニケーションの密度が低い場合には、担当者が十分な設計時間を確保できていない、事前設計が曖昧で仕様変更が発生している、インターフェースの定義が曖昧で追加の情報が入るたびに更新を行っているといった問題が推測されるので、警告情報には、そのような問題点を指摘する内容を含んでもよい。
【0076】
ここで、設計品質監視装置1が実行する処理の流れについて、図19図23を用いて説明する。図19に示す結合度情報生成処理は、設計品質監視装置1に事前設計情報が入力されたときに開始する。設計品質監視装置1の担当者登録部11の結合度情報生成部111は、事前設計情報にて定義されたインターフェースの複雑度と関数の単位時間あたりの呼び出し回数とに基づいて、関数分布図を用いて、モジュール間で使用される関数についてそれぞれランク値を求める(ステップS11)。
【0077】
図2に示すように、結合度情報生成部111は、事前設計情報にて定義されたモジュール間で使用される関数を関数分布図にプロットして、各ランク値を求める。図2の例では、ランク0の関数が1個、ランク1の関数が1個、ランク2の関数が3個、ランク3の関数が1個、ランク4の関数が1個、ランク5の関数が2個ある。関数分布図のランク値は、プロジェクトごとに設定される。
【0078】
図19に戻り、結合度情報生成部111は、各ランク値に属する関数の個数に該ランク値に対応する係数を乗算して合計したランクポイントを算出する(ステップS12)。各ランク値に対応する係数は、プロジェクトごとに設定される。図3の例では、ランク0~5に対応する係数はそれぞれ0~5であって、ランクポイントは24である。
【0079】
図19に戻り、結合度情報生成部111は、算出したランクポイントに基づいて、モジュール間の相関の強さを表すレベルを決定する(ステップS13)。例えば、図3に示すように、ランクポイントが24であった場合、結合度情報生成部111は、図4に示すような表を参照して、モジュール間の相関の強さをレベル2と決定する。
【0080】
図19に戻り、結合度情報生成部111は、モジュール間の相関の強さをモジュールの担当者間のコミュニケーションの結合度に変換する(ステップS14)。例えば、モジュール間の相関の強さがレベル2であった場合、上位モジュールの担当者から下位モジュールの担当者へのコミュニケーションの結合度は、レベル2に変換係数c1(=1)を乗算して結合度2とする。一方、下位モジュールの担当者から上位モジュールの担当者へのコミュニケーションの結合度は、レベル2に変換係数c2(=0.5)を乗算して結合度1とする。なお、変換係数を用いずにモジュール間の相関の強さをそのままモジュールの担当者間のコミュニケーションの結合度にする場合には、ステップS14は省略する。
【0081】
結合度情報生成部111は、モジュールの担当者間のコミュニケーションの結合度を示す結合度情報を生成する(ステップS15)。結合度情報生成部111は、生成した結合度情報を記憶部13に記憶させ(ステップS16)、処理を終了する。
【0082】
図20に示す属性情報生成処理は、設計品質監視装置1に担当者情報が入力されたときに開始する。設計品質監視装置1の担当者登録部11の属性情報生成部112は、担当者情報が入力されると、担当者情報が示す各モジュールの担当者のスキルを入力可能な入力画面を表示する(ステップS21)。属性情報生成部112は、管理者によって入力画面に各モジュールの担当者のスキルが入力されたか否かを判定する(ステップS22)。入力画面に各モジュールの担当者のスキルが入力されていない場合(ステップS22;NO)、属性情報生成部112は、ステップS22を繰り返してスキルの入力を待機する。
【0083】
入力画面に各モジュールの担当者のスキルが入力された場合(ステップS22;YES)、属性情報生成部112は、各モジュールの担当者のスキルを示す属性情報を生成する(ステップS23)。属性情報生成部112は、生成した属性情報を記憶部13に記憶させ(ステップS24)、処理を終了する。なお、ステップS22でスキルを入力するのは管理者でなくてもよい。
【0084】
図21に示すコミュニケーションロギング処理は、開発期間が始まったときに開始する。コミュニケーションロギング部121は、各作業端末のログツールからコミュニケーションログを受信したか否かを判定する(ステップS31)。コミュニケーションログを受信していない場合(ステップ31;NO)、処理はステップS35に移行する。コミュニケーションログを受信した場合(ステップ31;YES)、コミュニケーションロギング部121は、担当者情報が入力されたか否かを判定する(ステップS32)。担当者情報が入力されていない場合(ステップ32;NO)、処理はステップS35に移行する。
【0085】
担当者情報が入力された場合(ステップ32;YES)、コミュニケーションロギング部121は、受信したコミュニケーションログと入力された担当者情報とに基づいて、コミュニケーションの量、コミュニケーションの主体および客体、ならびに、コミュニケーションの方向を示すコミュニケーションログ情報を生成し(ステップS33)、生成した属性情報を記憶部13に記憶させる(ステップS34)。開発期間が終了していなければ(ステップS35;NO)、処理はステップS31に戻り、ステップS31~ステップS35を繰り返す。開発期間が終了すると(ステップS35;YES)、処理は終了する。
【0086】
図22に示すコミュニケーション取得処理は、開発期間が始まったときに開始する。コミュニケーション取得部122は、コミュニケーションの結果が入力されたか否かを判定する(ステップS41)。コミュニケーションの結果が入力されていない場合(ステップ41;NO)、処理はステップS45に移行する。コミュニケーションの結果が入力された場合(ステップ41;YES)、コミュニケーション取得部122は、担当者情報が入力されたか否かを判定する(ステップS42)。担当者情報が入力されていない場合(ステップ42;NO)、処理はステップS45に移行する。
【0087】
担当者情報が入力された場合(ステップ42;YES)、コミュニケーション取得部122は、入力されたコミュニケーションの結果と入力された担当者情報とに基づいて、コミュニケーションの量、コミュニケーションの主体および客体、ならびに、コミュニケーションの方向を示すコミュニケーション結果情報を生成し(ステップS43)、生成した属性情報を記憶部13に記憶させる(ステップS44)。開発期間が終了していなければ(ステップS45;NO)、処理はステップS41に戻り、ステップS41~ステップS45を繰り返す。開発期間が終了すると(ステップS45;YES)、処理は終了する。
【0088】
図23に示すコミュニケーション判定処理は、開発期間が始まったときに開始する。コミュニケーション判定部14は、開発期間/Nが経過したか否かを判定する(ステップS51)。開発期間/Nが経過していない場合(ステップS51;NO)、処理はステップS66に移行する。開発期間/Nが経過した場合(ステップS51;YES)、コミュニケーション判定部14は、まず、必要コミュニケーション量を算出するために、記憶部13から結合度情報を取得する(ステップS52)。
【0089】
図5に示す結合度情報の例では、コミュニケーションの主体の担当者から客体の担当者へのコミュニケーションの結合度を表で表している。図6のイメージ図では、矢印の太さは担当者間のコミュニケーションの結合度を表しており、矢印が太いほどコミュニケーションの結合度が高いことを表している。矢印の元がコミュニケーションの主体の担当者であり、矢印の先がコミュニケーションの客体の担当者である。
【0090】
図23に戻り、コミュニケーション判定部14は、担当者のスキルによって必要コミュニケーション量を補正するために、記憶部13から属性情報を取得する(ステップS53)。コミュニケーション判定部14は、属性情報に基づいて、スキル係数sを決定する(ステップS54)。
【0091】
図7に示すスキル係数sを決定する算出表の例では、担当者のスキルを有識者であるか非有識者であるかで表現しており、有識者の参加が少なくなるほどスキル係数sが高くなっている。
【0092】
図23に戻り、コミュニケーション判定部14は、取得した結合度情報が示す結合度と、スキル係数sと、予め決められた係数cと上記の数1とを用いて、必要コミュニケーション量を算出する(ステップS55)。なお、モジュールの担当者間のコミュニケーションの結合度がコミュニケーションの方向によって異なる場合には、ステップS55で必要コミュニケーション量をコミュニケーションの方向ごとに算出する。
【0093】
コミュニケーション判定部14は、記憶部13からコミュニケーションログ情報およびコミュニケーション結果情報を取得する(ステップS56)。コミュニケーション判定部14は、コミュニケーションログ情報に、文字数のコミュニケーション量が含まれるか否かを判定する(ステップS57)。文字数のコミュニケーション量が含まれない場合には(ステップS57;NO)、処理はステップS60に移行する。
【0094】
文字数のコミュニケーション量が含まれる場合には(ステップS57;YES)、コミュニケーション判定部14は、必要コミュニケーション量の単位である時間単位に統一するために、変換係数tと上記の数2とを用いて、文字数のコミュニケーション量を時間のコミュニケーション量に変換する(ステップS58)。また、コミュニケーション種別によって情報の伝達効率が異なるため、コミュニケーション種別ごとに予め補正係数hが設定されている。コミュニケーション判定部14は、補正係数hと上記の数3を用いて、時間のコミュニケーション量から実質コミュニケーション量を算出する(ステップS59)。
【0095】
図8に示す変換係数tおよび補正係数hを決定する算出表の例では、コミュニケーション種別が直接対話である場合は、コミュニケーション量の単位が時間(分)であって、時間単位に変換する必要がないので、変換係数tは1である。また直接対話の情報の伝達効率を基準として、補正係数hは1に設定されている。コミュニケーション種別がチャットである場合は、コミュニケーション量の単位が文字数であって、時間単位に変換する必要があるので、変換係数tは100に設定されており、補正係数hは0.6に設定されている。つまり、チャットでの100文字のやり取りと直接対話での0.6分のやり取りとが同等のコミュニケーション量であるとみなしている。
【0096】
図23に戻り、算出対象モジュールが製品のモジュールの階層の中でどの階層に位置するのかによってコミュニケーションを開始すべき時期が異なるため、コミュニケーション判定部14は、記憶部13が記憶する事前設計情報から製品のモジュールの階層数Xと算出対象モジュールの階層Yとを取得する。なお最上位の階層を0とする。コミュニケーション判定部14は、上記の数4を用いて、算出対象モジュールの階層に基づくコミュニケーションの開始時期XTを算出する(ステップS60)。
【0097】
また、一般的に、モジュールの開発規模が大きいほど設計に時間がかかるため、各モジュールの開発規模比率によってコミュニケーションを開始すべき時期が異なる。このため、コミュニケーション判定部14は、記憶部13が記憶する事前設計情報から製品の各モジュールの開発規模比率rを取得する。コミュニケーション判定部14は、開発期間DTを上位モジュールから順に開発規模比率rに従って分割する。コミュニケーション判定部14は、上記の数5を用いて、各モジュールの開発規模比率に基づく算出対象モジュールのコミュニケーションの開始時期RTを算出する(ステップS61)。コミュニケーション判定部14は、開始時期XTと開始時期RTとの早い方をコミュニケーションの開始適正時期とする(ステップS62)。
【0098】
図9に示すコミュニケーションの開始適正時期の算出例では、製品のモジュールの階層数X=4である。算出対象モジュールの階層Y=3とすると、算出対象モジュールの階層に基づくコミュニケーションの開始時期XTは、(開発期間DT ÷ 階層数4)×階層3となり、開発期間DTの75%が経過した時点となる。各モジュールの開発規模比率r(r0=20,r1=20,r2=40,r3=20)に基づく算出対象モジュールのコミュニケーションの開始時期RTは、(開発期間DT ÷100) × (r0+r1+r2)となり、開発期間DTの80%が経過した時点となる。コミュニケーション判定部14は、開始時期XTと開始時期RTとの早い方、つまり、開始時期XT(開発期間DTの75%が経過した時点)をコミュニケーションの開始適正時期とする。一方、算出対象モジュールの階層Y=1の場合および階層Y=2のモジュールの場合は、開始時期XTより開始時期RTの方が早いので、開始時期RTをコミュニケーションの開始適正時期とする。
【0099】
図23に戻り、コミュニケーション判定部14は、記憶部13から取得したコミュニケーションログ情報およびコミュニケーション結果情報に基づいて、判定対象モジュールの担当者間の上→下のコミュニケーションの開始時期および下→上のコミュニケーションの開始時期を特定し、開始適正時期に基づいて、判定対象モジュールのコミュニケーションの開始時期が適正であるか否かを判定する(ステップS63)。
【0100】
コミュニケーションの開始時期が適正でない場合(ステップS63;NO)、コミュニケーション判定部14は、報知部15にコミュニケーションの開始時期が不適正であることを報知する警告情報を報知部15を介して出力する(ステップS65)。コミュニケーションの開始時期が不適正であることを報知する警告情報が出力されることで、管理者はモジュールの担当者間のコミュニケーションの開始時期が不適正であることを知ることができる。
【0101】
コミュニケーションの開始時期が適正である場合(ステップS63;YES)、コミュニケーション判定部14は、判定対象モジュールの担当者間の実質コミュニケーション量と必要コミュニケーション量とに基づいて、コミュニケーション量が適正であるか否かを判定する(ステップS64)。コミュニケーション量が適正である場合(ステップS64;YES)、処理はステップS66に移行する。コミュニケーション量が適正でない場合(ステップS64;NO)、コミュニケーション判定部14は、報知部15にコミュニケーション量が不適正であることを報知する警告情報を報知部15を介して出力する(ステップS65)。コミュニケーション量が不適正であることを報知する警告情報が出力されることで、管理者はモジュールの担当者間のコミュニケーション量が不適正であることを知ることができる。
【0102】
例えば、図10に示すコミュニケーション例では、開始適正時期3Wに上→下のコミュニケーションが開始されており、開始適正時期4Wに下→上のコミュニケーションが開始されているので、コミュニケーション判定部14は、ステップS63でコミュニケーションの開始時期が適正であると判定する。図11に示すコミュニケーション例では、上→下のコミュニケーションの開始が開始適正時期3Wよりも遅くなっているので、コミュニケーション判定部14は、ステップS63で上→下のコミュニケーションの開始時期が不適正であると判定する。コミュニケーション判定部14は、ステップS65で上→下のコミュニケーションの開始時期が不適正であることを報知する警告情報を報知部15を介して出力する。図12に示すコミュニケーション例では、上→下のコミュニケーションの開始時期が3Wであるので適正であるが、下→上のコミュニケーションの開始時期が開始適正時期4Wよりも遅くなっているので、コミュニケーション判定部14は、ステップS63で下→上のコミュニケーションの開始時期が不適正であると判定する。コミュニケーション判定部14は、ステップS65で下→上のコミュニケーションの開始時期が不適正であることを報知する警告情報を報知部15を介して出力する。
【0103】
図13の例では、上→下のコミュニケーションの開始時期である3Wの監視タイミングでは、実質コミュニケーション量が単位必要コミュニケーション量2h/Wを満たしているので、コミュニケーション判定部14は、ステップS64で上→下のコミュニケーション量が適正であると判定する。4Wの監視タイミングでは、必要コミュニケーション残量は8hで残りの上→下のコミュニケーションをすべき期間は4Wであるので、単位必要コミュニケーション量2h/Wである。4Wにおける実質コミュニケーション量はこれを満たしていないので、コミュニケーション判定部14は、ステップS64で上→下の実質コミュニケーション量が不適正であると判定する。コミュニケーション判定部14は、ステップS65で上→下のコミュニケーション量が不適正であることを報知する警告情報を報知部15を介して出力する。
【0104】
図14の例では、下→上のコミュニケーションの開始時期である4Wの監視タイミングで、実質コミュニケーション量が単位必要コミュニケーション量2h/Wを満たしていないので、コミュニケーション判定部14は、ステップS64で下→上の実質コミュニケーション量が不適正であると判定する。コミュニケーション判定部14は、ステップS65で下→上のコミュニケーション量が不適正であることを報知する警告情報を報知部15を介して出力する。
図15の例では、3Wの監視タイミングにおける上→下の実質コミュニケーション量が単位必要コミュニケーション量2h/Wの3倍である6h/W未満であるので、コミュニケーション判定部14は、上→下の実質コミュニケーション量が適正であると判定する。4Wの監視タイミングでは、6h/W以上であるので、ステップS64で上→下の実質コミュニケーション量が不適正であると判定する。コミュニケーション判定部14は、ステップS65で上→下のコミュニケーション量が不適正であることを報知する警告情報を報知部15を介して出力する。
【0105】
図16の例では、4Wの監視タイミングにおける下→上の実質コミュニケーション量が単位必要コミュニケーション量2h/Wの2倍である4h/W以上であるので、コミュニケーション判定部14は、ステップS64で下→上の実質コミュニケーション量が不適正であると判定する。コミュニケーション判定部14は、ステップS65で下→上のコミュニケーション量が不適正であることを報知する警告情報を報知部15を介して出力する。
【0106】
図23に戻り、開発期間が終了していなければ(ステップS66;NO)、処理はステップS51に戻り、ステップS51~ステップS66を繰り返す。開発期間が終了すると(ステップS66;YES)、処理は終了する。
【0107】
なお、コミュニケーションの開始時期およびコミュニケーション量の適正を判定するだけでなく、コミュニケーションの密度の適正を判定する場合には、コミュニケーション判定部14は、例えば、ステップS64がYESの場合に、コミュニケーションの密度が低いか否かを判定するステップS64’(図示せず)を実行する。コミュニケーションの密度が低くない場合(ステップS64’;NO)、処理はステップS66に移行する。コミュニケーションの密度が低い場合には(ステップS64’;YES)、コミュニケーション判定部14は、ステップS65でコミュニケーションの密度が低いことを報知する警告情報を報知部15を介して出力する。
【0108】
図17の例では、上→下のコミュニケーションが3Wに開始されてから、4Wの監視タイミングにおける実質コミュニケーション量が0h/Wであることから、コミュニケーションが開始されてからコミュニケーションが実施されない期間が1Wを超えるので、コミュニケーション判定部14はステップS64’でコミュニケーションの密度が低いと判定し、ステップS65で上→下のコミュニケーションの密度が不適正であることを報知する警告情報を報知部15を介して出力する。
【0109】
図18の例では、下→上のコミュニケーションが4Wに開始されてから、5Wの監視タイミングにおける実質コミュニケーション量が0h/Wであることから、コミュニケーションが開始されてからコミュニケーションが実施されない期間が1Wを超えるので、コミュニケーション判定部14はステップS64’でコミュニケーションの密度が低いと判定し、ステップS65で下→上のコミュニケーションの密度が不適正であることを報知する警告情報を報知部15を介して出力する。
【0110】
実施の形態に係る設計品質監視装置1によれば、モジュール型製品の設計において、モジュールの担当者間のコミュニケーションが適正であるか否かの判定結果を出力することで、管理者はモジュールの担当者間のコミュニケーションが不適正であることを知ることができる。これにより、管理者は、モジュールの担当者にコミュニケーションの改善を促し、環境を整えることで、モジュールの設計品質の低下を防ぐことができる。
【0111】
設計品質監視装置1のハードウェア構成について図24を用いて説明する。図24に示すように、設計品質監視装置1は、一時記憶部101、記憶部102、計算部103、入力部104、送受信部105および表示部106を備える。一時記憶部101、記憶部102、入力部104、送受信部105および表示部106はいずれもBUSを介して計算部103に接続されている。
【0112】
計算部103は、例えばCPU(Central Processing Unit)である。計算部103は、記憶部102に記憶されている制御プログラムに従って、担当者登録部11、コミュニケーション登録部12およびコミュニケーション判定部14の処理を実行する。
【0113】
一時記憶部101は、例えばRAM(Random-Access Memory)である。一時記憶部101は、記憶部102に記憶されている制御プログラムをロードし、計算部103の作業領域として用いられる。
【0114】
記憶部102は、フラッシュメモリ、ハードディスク、DVD-RAM(Digital Versatile Disc - Random Access Memory)、DVD-RW(Digital Versatile Disc - ReWritable)などの不揮発性メモリである。記憶部102は、設計品質監視装置1の処理を計算部103に行わせるためのプログラムを予め記憶し、また、計算部103の指示に従って、このプログラムが記憶するデータを計算部103に供給し、計算部103から供給されたデータを記憶する。記憶部13は、記憶部102に構成される。
【0115】
入力部104は、キーボード、ポインティングデバイス、音声入力機器などの入力装置と、入力装置をBUSに接続するインターフェース装置である。入力部104を介して、管理者が入力した情報が計算部103に供給される。入力部104は、結合度情報生成部111、属性情報生成部112およびコミュニケーション取得部122として機能する。
【0116】
送受信部105は、ネットワークに接続する網終端装置または無線通信装置、およびそれらと接続するシリアルインターフェースまたはLAN(Local Area Network)インターフェースである。送受信部105は、コミュニケーション取得部122として機能する。コミュニケーションの結果が外部の端末からコミュニケーション取得部122に送信される構成では、送受信部105は、コミュニケーション取得部122として機能する。報知部15が警告情報を管理者が使用する端末に送信する構成では、送受信部105は、報知部15として機能する。
【0117】
表示部106は、LCD(Liquid Crystal Display)、有機EL(electroluminescence)ディスプレイなどの表示装置である。属性情報生成部112が各モジュールの担当者のスキルの入力画面を表示する構成では、表示部106は、属性情報生成部112として機能する。報知部15が警告情報を画面表示する構成では、表示部106は、報知部15として機能する。
【0118】
図1に示す設計品質監視装置1の担当者登録部11、コミュニケーション登録部12、記憶部13、コミュニケーション判定部14および報知部15の処理は、制御プログラムが、一時記憶部101、計算部103、記憶部102、入力部104、送受信部105および表示部106などを資源として用いて処理することによって実行する。
【0119】
その他、前記のハードウェア構成およびフローチャートは一例であり、任意に変更および修正が可能である。
【0120】
計算部103、一時記憶部101、記憶部102、入力部104、送受信部105、表示部106などの設計品質監視装置1の処理を行う中心となる部分は、専用のシステムによらず、通常のコンピュータシステムを用いて実現可能である。例えば、前記の動作を実行するためのコンピュータプログラムを、フレキシブルディスク、CD-ROM(Compact Disc - Read Only Memory)、DVD-ROM(Digital Versatile Disc - Read Only Memory)などのコンピュータが読み取り可能な記録媒体に格納して配布し、当該コンピュータプログラムをコンピュータにインストールすることにより、前記の処理を実行する設計品質監視装置1を構成してもよい。また、インターネットに代表される通信ネットワーク上のサーバ装置が有する記憶装置に当該コンピュータプログラムを格納しておき、通常のコンピュータシステムがダウンロードすることで設計品質監視装置1を構成してもよい。
【0121】
また、設計品質監視装置1の機能を、OS(Operating System)とアプリケーションプログラムの分担、またはOSとアプリケーションプログラムとの協働により実現する場合などには、アプリケーションプログラム部分のみを記録媒体、記憶装置に格納してもよい。
【0122】
また、輸送波にコンピュータプログラムを重畳し、通信ネットワークを介して提供することも可能である。例えば、通信ネットワーク上の掲示板(BBS, Bulletin Board System)に前記コンピュータプログラムを掲示し、通信ネットワークを介して前記コンピュータプログラムを提供してもよい。そして、このコンピュータプログラムを起動し、OSの制御下で、他のアプリケーションプログラムと同様に実行することにより、前記の処理を実行できる構成にしてもよい。
【0123】
上記の実施の形態では、ソフトウェアのモジュール型製品を開発するプロジェクトにおいて、モジュールの担当者間のコミュニケーションが適正か否かでモジュールの設計品質を監視する例について説明したが、これに限らず、ハードウェアのモジュール型製品を開発するプロジェクトにおいて、モジュールの担当者間のコミュニケーションが適正か否かでモジュールの設計品質を監視してもよい。この場合、モジュール間の相関の強さは、例えば、上位モジュールまたは下位モジュールの汎用性に基づいて算出してもよいし、過去に上位モジュールおよび下位モジュールが採用された実績数に基づいて算出してもよい。
【0124】
上記の実施の形態では、コミュニケーションロギング部121は、各作業端末にインストールされたログツールからコミュニケーションログを受信していたが、コミュニケーションロギング部121が各作業端末のコミュニケーションアプリからコミュニケーションログを収集してもよい。
【0125】
上記の実施の形態では、コミュニケーション判定部14は、記憶部13から取得したコミュニケーションログ情報およびコミュニケーション結果情報と必要コミュニケーション量とに基づいて、各種条件を満たすか否かで実質コミュニケーション量が適正であるか否かを判定しているが、上記で挙げた条件は例示である。コミュニケーション判定部14は、必要コミュニケーション量に基づいて設定された範囲内に実質コミュニケーション量が収まっているか否かでコミュニケーション量が適正であるか否かを判定すればよい。
【0126】
上記の実施の形態では、事前設計が1回しか行われないが、事前設計情報は変更されてもよい。この場合、結合度情報生成部111は、変更された事前設計情報に基づいて、改めて結合度情報を生成する。コミュニケーション判定部14も、変更された事前設計情報に基づいて、モジュールの担当者間のコミュニケーションが適正か否かを判定する。
【0127】
上記の実施の形態では、属性情報生成部112は各モジュールの担当者のスキルの入力を受け付けるが、スキルだけでなく、例えば、業務経験の年数および業務を行う場所の入力を受け付けてもよい。この場合、属性情報に、各モジュールの担当者の業務経験の年数および業務を行う場所を含む。あるいは、担当者情報に業務経験の年数および業務を行う場所が含まれていてもよい。この場合、属性情報生成部112は、入力された担当者情報を属性情報として記憶部13に記憶させる。
【0128】
コミュニケーション判定部14は、記憶部13から属性情報を取得する。担当者のスキル、業務経験の年数および業務を行う場所による必要コミュニケーション量の補正を行う。コミュニケーション判定部14は、属性情報に基づいて、スキル係数s、業務経験係数e、および、業務場所係数pを決定する。例えば、業務経験の年数が長い担当者との関係であれば、コミュニケーションの量が増加しないため、業務経験係数eは小さく設定する。逆に、業務経験の年数が短い担当者との関係であれば、コミュニケーションの量が増加するため、業務経験係数eは大きく設定する。例えば、業務を行う場所が同じ担当者同士の関係であれば、共通認識が多く、コミュニケーションの量が増加しないため、業務場所係数pは小さく設定する。逆に、業務を行う場所が遠い(例えば海外と国内)担当者同士の関係であれば、共通認識が少なく、コミュニケーションの量が増加するため、業務場所係数pは大きく設定する。コミュニケーション判定部14は、取得した結合度情報が示す結合度と、スキル係数sと、業務経験係数eと、業務場所係数pと、予め決められた係数cと以下の数6とを用いて、必要コミュニケーション量を算出する。
【0129】
(数6) 結合度×スキル係数s×業務経験係数e×業務場所係数p×係数c= 必要コミュニケーション量
【0130】
なお、スキル係数s、業務経験係数eおよび業務場所係数pのうち、どの係数を用いるかは管理者が設定可能にしてもよいし、コミュニケーションの増減に寄与するその他の属性の係数を設定してもよい。
【符号の説明】
【0131】
1 設計品質監視装置、11 担当者登録部、12 コミュニケーション登録部、13 記憶部、14 コミュニケーション判定部、15 報知部、101 一時記憶部、102 記憶部、103 計算部、104 入力部、105 送受信部、106 表示部、111 結合度情報生成部、112 属性情報生成部、121 コミュニケーションロギング部、122 コミュニケーション取得部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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