(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】保護継電装置
(51)【国際特許分類】
H02H 3/02 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
H02H3/02 Z
(21)【出願番号】P 2021076418
(22)【出願日】2021-04-28
【審査請求日】2023-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡世 怜志
(72)【発明者】
【氏名】出田 清純
(72)【発明者】
【氏名】戸田 庸子
(72)【発明者】
【氏名】尾田 重遠
【審査官】高野 誠治
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-258942(JP,A)
【文献】特開2013-099076(JP,A)
【文献】特開2006-166287(JP,A)
【文献】特開2018-157340(JP,A)
【文献】特開2006-344020(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02H 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発生したイベントを検出するイベント検出部と、
日時を計時する計時部と、
前記イベント検出部により検出されたイベントと、当該イベントの検出日時とを関連付けて記憶するイベント記憶部と、
ユーザからの指示に従って、前記計時部により計時される現在日時を補正する補正部とを備え、
前記補正部は、補正前の現在日時と補正後の現在日時との差分に基づいて、前記イベント記憶部に記憶された1以上のイベントの検出日時をさらに補正
し、
前記イベントは、複数の種類に分類され、
前記補正部は、
前記補正前の現在日時と前記補正後の現在日時との前記差分に基づいて、第1種類の1以上のイベントの検出日時を補正した場合、補正された前記第1種類の1以上のイベントの検出日時のうちの最も過去の検出日時を抽出し、
前記補正前の現在日時と前記補正後の現在日時との前記差分に基づいて、第2種類の1以上のイベントの検出日時のうち、前記最も過去の検出日時以降の前記第2種類のイベントの検出日時をさらに補正する、保護継電装置。
【請求項2】
前記補正前の現在日時が前記補正後の現在日時よりも前記差分だけ遅れていた場合、前記補正部は、前記補正前の現在日時よりも過去の基準期間内に含まれる第1イベントの第1検出日時を、前記第1検出日時よりも前記差分だけ進んだ第1日時に補正する、請求項1に記載の保護継電装置。
【請求項3】
前記補正前の現在日時が前記補正後の現在日時よりも前記差分だけ進んでいた場合、前記補正部は、前記補正前の現在日時よりも過去の基準期間内に含まれる第1イベントの第1検出日時を、前記第1検出日時よりも前記差分だけ遅れた第1日時に補正する、請求項1に記載の保護継電装置。
【請求項4】
前記補正部は、
前回の前記補正後の現在日時から、今回の前記補正後の現在日時までの経過時間を算出し、
前記経過時間と、今回の前記補正前の現在日時と今回の前記補正後の現在日時との差分とに基づいて、前記計時部により計時される日時の単位時間当たりの誤差を算出し、
前記単位時間当たりの誤差に基づいて、前回の前記補正後の現在日時から今回の前記補正前の現在日時までの期間に含まれる1以上のイベントの検出日時を補正する、請求項1に記載の保護継電装置。
【請求項5】
前記計時部は、1クロック当たりの時間とカウントしたクロック数とに基づいて、日時を計時するように構成されており、
前記単位時間当たりの誤差に基づいて、前記1クロック当たりの時間を調整する調整部をさらに備える、請求項4に記載の保護継電装置。
【請求項6】
前記計時部は、前記調整部による調整後の前記1クロック当たりの時間とカウントしたクロック数とに基づいて、今回の前記補正後の現在日時以降における日時を計時する、請求項5に記載の保護継電装置。
【請求項7】
前記1以上のイベントと、前記1以上のイベントの補正前の検出日時と、前記1以上のイベントの補正後の検出日時とを関連付けて表示する表示制御部をさらに備える、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の保護継電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、保護継電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電力系統の運用を安定させるため、電力系統で発生した事故を検出する保護継電装置が使用されている。保護継電装置は、何らかのイベント(例えば、リレー動作、電源のオンオフ等)が発生した場合に、そのイベントを発生時刻とともに記憶する機能(すなわち、ログ機能)を有する。
【0003】
例えば、特開2013-99076号公報(特許文献1)は、GPS(Global Positioning System)の時刻信号を利用してイベントの発生時刻を記録する機能を有する保護制御装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に係る保護制御装置には、時刻を補正するためのGPSアンテナを搭載する必要があるため、系統故障の除去等の基本機能とは別の時刻補正機能を実現するためにコストがかかってしまう。特に、電圧クラスの低い系統あるいは工場受電設備等に用いられる保護継電装置の場合、コストの低減が重視されるため、簡易に時刻を補正する機能が求められている。
【0006】
本開示のある局面における目的は、簡易に時刻を補正することが可能な保護継電装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ある実施の形態に従う保護継電装置は、発生したイベントを検出するイベント検出部と、日時を計時する計時部と、イベント検出部により検出されたイベントと、当該イベントの検出日時とを関連付けて記憶するイベント記憶部と、ユーザからの指示に従って、計時部により計時される現在日時を補正する補正部とを備える。補正部は、補正前の現在日時と補正後の現在日時との差分に基づいて、イベント記憶部に記憶された1以上のイベントの検出日時をさらに補正する。
【発明の効果】
【0008】
本開示に係る保護継電装置によると、簡易に時刻を補正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】保護継電装置の全体構成の一例を示す図である。
【
図2】時刻補正方式の一例を説明するための図である。
【
図3】時刻補正方式の他の例を説明するための図である。
【
図4】経過時間と時刻誤差との関係を示す図である。
【
図5】1クロック当たりの時間の調整方式を説明するための図である。
【
図6】イベントログデータの表示例を示す図である。
【
図7】他の種類のイベントログデータの検出日時の補正方式を説明するための図である。
【
図8】保護継電装置の機能構成を示す模式図である。
【
図9】保護継電装置の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、本実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0011】
<全体構成>
図1は、保護継電装置100の全体構成の一例を示す図である。
図1を参照して、保護継電装置100は、例えば、電気所の内部に設置されるディジタル型の保護継電装置である。本実施の形態では、保護継電装置100は、例えば、電力系統を構成する送電線Lに関連する電気量(例えば、電流、電圧等)のデータを収集し、当該電気量データに基づいて電力系統(例えば、送電線L)を保護する。
【0012】
電気所の内部には、保護継電装置100、計器用変流器2、計器用変圧器4および遮断器6等が設置される。計器用変流器2は、送電線Lを流れる電流を計測する。計器用変圧器4は、送電線Lに生じる電圧を計測する。計器用変流器2が計測した電流データ、および計器用変圧器4が計測した電圧データは、保護継電装置100に入力される。
【0013】
保護継電装置100は、収集した電気量データを用いて電力系統を保護するために必要なリレー演算を実行し、系統事故の発生有無を判定する。保護継電装置100は、送電線Lにおいて事故を検出すると、遮断器6に対して開放指令(例えば、トリップ信号)を出力する。なお、電流および電圧のいずれか一方のみしかリレー演算に使用されない場合は、保護継電装置100は、リレー演算に必要な電流または電圧を取り込むように構成されていてもよい。
【0014】
具体的には、保護継電装置100は、ハードウェア構成として、補助変成器10と、AD(Analog to Digital)変換部20と、演算処理部30とを含む。
【0015】
補助変成器10は、計器用変流器2および計器用変圧器4からの電気量を取り込み、内部回路での信号処理に適した電圧信号に変換して出力する。AD変換部20は、補助変成器10から出力される電気量(すなわち、アナログ電気量)を取り込んでディジタルデータに変換する。具体的には、AD変換部20は、フィルタ21,23と、サンプルホールド回路(図中のSH回路に対応)24,25と、マルチプレクサ26と、AD変換器27とを含む。
【0016】
フィルタ21,23は、アナログフィルタであり、補助変成器10から出力される電流および電圧の波形信号から高周波のノイズ成分を除去する。フィルタ21,23の出力は、サンプルホールド回路24,25にそれぞれ入力される。サンプルホールド回路24,25は、それぞれフィルタ21,23から出力される電流および電圧の波形信号を予め定められたサンプリング周期でサンプリングする。
【0017】
マルチプレクサ26は、演算処理部30から入力されるタイミング信号に基づいて、サンプルホールド回路24,25から入力される波形信号を時系列で順次切り替えてAD変換器27に出力する。AD変換器27は、マルチプレクサ26から入力される波形信号をアナログデータからディジタルデータに変換する。AD変換器27は、ディジタル変換した波形信号を演算処理部30へ出力する。
【0018】
演算処理部30は、マイクロコンピュータを主体として構成される。具体的には、演算処理部30は、CPU(Central Processing Unit)32と、ROM(Read Only Memory)33と、RAM34と、補助記憶装置35と、DO(Digital output)回路36と、DI(Digital input)回路37と、ディスプレイ38と、入力インターフェイス39と、時計回路40とを含む。これらはバス31で結合されている。
【0019】
CPU32は、予めROM33に格納されたプログラムを読み出して実行することによって、保護継電装置100を制御する。揮発性メモリとしてのRAM34および不揮発性メモリとしてのROM33は、CPU32の主記憶として用いられる。ROM33は、プログラムおよび信号処理用の設定値などを収納する。
【0020】
具体的には、CPU32は、バス31を介して、AD変換部20からディジタルデータを取り込む。CPU32は、ROM33に格納されているプログラムに従って、取り込んだディジタルデータを用いてリレー演算を実行する。CPU32は、リレー演算結果に基づいて、保護区間(すなわち、保護すべき領域)の事故の有無を判定する。
【0021】
CPU32は、事故を検出した場合(例えば、電流値が整定値を上回っている場合)には、DO回路36を介して、当該事故区間を電力系統から切り離すために電力系統に設置された遮断器6に対して開放指令を出力する。
【0022】
補助記憶装置35は、ROM33に比べて大容量の記憶装置であり、プログラム、電気量検出値、整定値等のデータなどを格納する。補助記憶装置35は、例えば、ハードディスク、フラッシュメモリ等により構成される。
【0023】
DI回路37は、例えば、遮断器6の開閉情報を示す信号であるディジタル入力信号を受ける。DI回路37には、遮断器6からのディジタル入力信号の他、図示しない断路器の開閉情報を示すディジタル入力信号が入力されてもよい。
【0024】
ディスプレイ38は、例えば、液晶ディスプレイ等である。入力インターフェイス39は、典型的には、各種ボタン等であり、保護継電装置100のユーザ(例えば、作業者)からの各種操作を受け付ける。
【0025】
時計回路40は、日時を計時する。CPU32は、時計回路40により計時された日時に応じた信号を受信する。時計回路40は、規定のクロック周波数(例えば、10MHz)のクロックを発生するクロック発生器を有している。クロック発生器が発生するクロックは、リレー演算および計時に用いられる。リレー演算用には高精度のクロック発生器は不要であり、また、高精度のクロック発生器は非常に高価である。そのため、保護継電装置100には、例えば、低価格であるが比較的精度の低い±100ppm程度のクロック発生器が用いられる。時計回路40は、クロック数をカウントすることにより時刻を計時するため、時刻精度はクロック発生器の精度に依存する。そのため、クロック発生器のクロックに基づいて計時される日時は、一定のタイミングで補正が必要となる。
【0026】
本実施の形態に従う保護継電装置100は、例えば、外部装置からの時刻補正信号を受けて自動的に時刻を補正する機能、あるいはGPSアンテナを利用した時刻補正機能を有していない。そのため、保護継電装置100の設置時およびメンテナンス時等において、作業者が保護継電装置100を操作する場合に併せて、日時が補正される。
【0027】
なお、保護継電装置100の少なくとも一部をFPGA(Field Programmable Gate Array)およびASIC(Application Specific Integrated Circuit)などの回路を用いて構成してもよい。なお、保護継電装置100の少なくとも一部は、アナログ回路によって構成することもできる。
【0028】
なお、保護継電装置100がパーソナルコンピュータと接続される構成であってもよい。この場合、パーソナルコンピュータのディスプレイがディスプレイ38として機能し、パーソナルコンピュータのキーボード、マウス等が入力インターフェイス39として機能する。当該構成の場合、典型的には、保護継電装置100は、簡易的な表示装置(例えば、蛍光表示管、7セグLED(light emitting diode)、ランプ等の表示灯)を有する。
【0029】
<時刻補正方式>
(補正方式1)
図2は、時刻補正方式の一例を説明するための図である。
図2には、保護継電装置100におけるイベントの発生タイミングおよび時刻補正のタイミングが時系列で示されている。
【0030】
保護継電装置100においては、さまざまな種類のイベントが発生する。本実施の形態では、イベントは複数の種類に分類されている。例えば、保護継電装置100のリレー保護に関するイベントは「種類A1」に分類され、保護継電装置100へのアクセスに関するイベントは「種類A2」に分類され、保護継電装置100の故障に関するイベントは「種類A3」に分類され、ユーザ(例えば、作業者)が任意に設定したイベントは「種類A4」に分類される。
【0031】
この場合、「種類A1」のイベントログデータは、保護継電装置100への信号(例えば、遮断器、断路器等の開閉信号、他機器からのリレーロジックへの制御信号等)の入力、保護継電装置100の電源のオンオフ、保護条件設定の操作入力(例えば、整定値変更、設定変更)等のイベントのログデータを含む。「種類A2」のイベントログデータは、パーソナルコンピュータと保護継電装置100との接続、保護継電装置100へのログイン操作、ログアウト操作等のイベントのログデータを含む。「種類A3」のイベントログデータは、保護継電装置100の内部に設けられた監視回路による保護継電装置100の故障検出等のイベントのログデータを含む。「種類A4」のイベントログデータは、ユーザが任意に設定したイベントのログデータを含む。
【0032】
各イベントが発生した場合、CPU32は、各イベントを検出し、当該イベントと当該イベントの検出日時(すなわち、イベントの発生日時)とを関連付けて記憶する。
【0033】
図2の例では、「種類A1」のイベントの発生タイミングおよび時刻補正のタイミングが示されている。CPU32は、イベント「電源ON」と検出日時「2018年3月15日9時1分3秒」とを関連付けて記憶し、イベント「整定値変更」と検出日時「2018年3月15日18時0分30秒」とを関連付けて記憶する。同様に、CPU32は、各イベント「51A ON」,「51A OFF」,「51B ON」,「51B OFF」,「DI(CB) CLOSE」,「DI(CB) OPEN」と、各イベントの検出日時とを関連付けて記憶する。
【0034】
イベントの発生および時刻補正の流れを順に説明する。まず、2018年3月15日9時1分3秒に保護継電装置100の電源がオンされている。2018年3月15日の時刻「9時58分30秒」が、同日の時刻「10時0分0秒」に補正されている。保護継電装置100のCPU32は、入力インターフェイス39を介して、作業者による正確な現在日時の入力を受け付けて、時計回路40により計時される現在日時を補正する(すなわち、現在日時を2018年3月15日10時0分0秒に補正する)。
【0035】
次に、2018年3月15日18時0分30秒に、保護継電装置100の整定値が変更されたことに伴い、過電流リレー要素(
図2中の「51A,51B」に対応)の動作確認がなされており、保護継電装置100は、同日の19時11分30秒に、遮断器6からDI信号(例えば、遮断器6の閉成を示す信号)の入力を受けている。
【0036】
次に、2019年3月20日18時11分30秒に、過電流リレー要素(図中の51Aに対応)が動作し、2019年3月20日18時11分31秒に遮断器6が開放されたことを示すDI信号が受信され、過電流リレー要素が復帰している。
【0037】
過電流リレー要素が動作したことに伴い、作業者により保護継電装置100の確認作業が行われる。その際、作業者は、保護継電装置100の内部で計時されている現在日時が正確な現在日時とずれていることを確認する。CPU32は、入力インターフェイス39を介して、正確な現在日時「2019年3月21日11時0分0秒」の入力を受け付けて、保護継電装置100における現在日時「2019年3月21日10時7分20秒」を、上記の正確な現在日時に補正する。
【0038】
さらに、CPU32は、補正前の現在日時「2019年3月21日10時7分20秒」と補正後の現在日時「2019年3月21日11時0分0秒」との差分に基づいて、補正前の現在日時よりも過去の基準期間内(例えば、3日間)に含まれるイベントの検出日時を補正する。当該差分は52分40秒であり、補正前の現在日時は、補正後の現在日時に対して52分40秒遅れている。
【0039】
そこで、CPU32は、過去の基準期間内に含まれる、各イベント「51A ON」,「DI(CB) OPEN」,「51A OFF」の検出日時を、当該検出日時よりも52分40秒進んだ日時に補正する。例えば、イベント「51A ON」の検出日時「2019年3月20日18時11分30秒」は、「2019年3月20日19時04分10秒」に補正される。各イベント「DI(CB) OPEN」,「51A OFF」の検出日時についても同様である。
【0040】
上記時刻補正方式によると、保護継電装置100に作業者が正確な現在日時を入力することにより現在日時が補正されると、それに伴って、動作解析に必要な過去の一定期間のイベント検出日時もある程度の精度で補正される。そのため、作業者は、イベント検出日時の時刻誤差を考慮する必要がなくなるため、報告書作成等の作業効率を向上させることができる。
【0041】
(補正方式2)
図3は、時刻補正方式の他の例を説明するための図である。
図3に示すイベントの検出タイミングおよび時刻補正のタイミングは、
図2に示すこれらのタイミングと同様である。
図3の例では、2018年3月15日に1回目の時刻補正が行われ、2019年3月21日に2回目の時刻補正が行われている。2回目の時刻補正においては、現在日時を52分40秒進める補正が行われている。そのため、1回目の時刻補正時の実際の現在日時から、2回目の実際の現在日時までの間に52分40秒の遅れが生じていることになる。
【0042】
すなわち、1回目の補正後の現在日時「2018年3月15日10時0分0秒」から、2回目の補正後の現在日時「2019年3月21日11時0分0秒」までの経過期間に、52分40秒の遅れが生じている。この経過期間は、371日1時間(すなわち、8905時間)であり、52分40秒は3160秒であるため、単位時間(例えば、1時間)当たりの時刻誤差txは以下の式(1)のように算出される。
【0043】
tx=3160/8905=0.355[秒/時間]…(1)
したがって、
図4のグラフに示すように経過時間に応じて時刻誤差を推定できる。
図4は、経過時間と時刻誤差との関係を示す図である。グラフ400は、1時間あたり0.355秒の時刻誤差(すなわち、時刻遅れ)が発生していることを示している。
【0044】
CPU32は、1時間当たり0.355秒の時刻誤差に基づいて、1回目の補正後の現在日時「2018年3月15日10時0分0秒」から2回目の補正前の現在日時「2019年3月21日10時7分20秒」までの期間に含まれる各イベントの検出日時を補正する。具体的には、
図3に示すように、イベント「整定値変更」からイベント「51A OFF」までの9つのイベントの各々の検出日時が補正される。
【0045】
図3に示す時刻補正方式によると、上記経過期間におけるイベントの検出日時がすべて補正される。そのため、作業者が、現在日時の補正時よりもかなり前に発生したイベントの検出日時を参照したい場合でも、当該検出日時がある程度の精度で補正されるため、報告書作成等の作業効率を向上させることができる。
【0046】
(1クロック当たりの時間の調整方式)
図5は、1クロック当たりの時間の調整方式を説明するための図である。
図5では、発生したイベントおよび当該イベントの検出時刻は「イベント記録」として示されており、省略されている。例えば、
図3に示す時刻補正方式により、1回目の補正後の現在日時「2019年3月15日10時0分0秒」から2回目の補正前の現在日時「2019年5月21日10時50分30秒」までの期間に含まれる各イベントの検出日時が補正される。
【0047】
なお、
図5の例では、1回目の補正後の現在日時「2019年3月15日10時0分0秒」から、2回目の補正後の現在日時「2019年5月21日11時0分0秒」までの経過期間に、9分30秒の遅れが生じている。この経過期間は、67日1時間(すなわち、1609時間)であり、9分30秒は570秒であるため、単位時間(例えば、1時間)当たりの時刻誤差tx2は以下の式(2)のように算出される。
【0048】
tx2=570/1609=0.354[秒/時間]…(2)
時計回路40は、例えば、10MHzのクロック周波数のクロックを発生するクロック発生器を有しており、当該クロックを64ビットカウンタでカウントしている。そして、保護継電装置100には1クロック当たりの時間が設定されており、時計回路40は、クロック数をカウントすることにより時刻を計時する。
【0049】
CPU32は、上記式(2)で表される単位時間当たりの時刻誤差に基づいて、1クロック当たりの時間を調整する。例えば、初期状態において1クロック当たりの時間が1/10[MHz]=100ns(ナノ秒)として設定されていたとする。一方、単位時間当たりの時刻誤差(すなわち、時刻遅れ)は0.354[秒/時間]であるため、調整後の1クロック当たりの時間Tsは以下の式(3)のように表される。
【0050】
Ts=100×(1-0.354/3600)=99.990[ns]…(3)
時計回路40は、調整後の1クロック当たりの時間Tsを用いて、保護継電装置100の日時を計時する。
【0051】
図5の例のように、1クロック当たりの時間が調整されると、時計回路40による将来の時刻誤差がある程度の精度で実質的補正されることになるため、作業者は時刻誤差によるログ時間のずれを考慮する必要がなくなり、報告書作成などの作業効率が向上する利点がある。
【0052】
図2~
図5では、一例として「種類A1」のイベントログデータの時刻補正方式を説明したが、「種類A2」、「種類A3」、「種類A4」のイベントログデータの時刻補正方式についても同様である。
【0053】
<ログデータの表示例>
図6は、イベントログデータの表示例を示す図である。表示画面500は、
図2で説明した「種類A1」のイベントログデータの表示例を示している。
【0054】
表示画面500には、チェック欄、データ番号、補正前後のイベント検出日時、発生したイベントの内容が示されている。なお、上記の
図2の説明では、補正前の現在日時よりも過去の基準期間内に含まれるイベント検出日時を補正する構成について説明したが、当該構成に限られない。作業者は、表示画面500のチェック欄を選択することで、補正対象のイベント検出日時を選択してもよい。
図6の例では、データ番号7~9が選択されているため、イベント「51A ON」,「DI(CB) OPEN」,「51A OFF」の検出日時が補正されている。ここでの補正方式は、
図2で説明した補正方式と同様であり、52分40秒進める補正がなされる。
【0055】
<他の種類のイベントログデータの検出日時の補正>
図7は、他の種類のイベントログデータの検出日時の補正方式を説明するための図である。具体的には、
図7(a)は、「種類A1」のイベントログデータの表示例を示しており、
図6と同一である。
図7(b)は、「種類A2」のイベントログデータの表示例を示している。
【0056】
保護継電装置100は、各作業者Y1,Y2の保護継電装置100へのアクセス(例えば、ログイン、ログオフ)をイベント(すなわち、「種類A2」のイベント)として検出し、検出されたイベントとイベント検出日時とを関連付けて記憶する。
図7(b)の例では、作業者Y1が「2018年3月15日17時55分0秒」に保護継電装置100にログインし、「2018年3月15日19時15分0秒」に保護継電装置100からログオフしている。また、作業者Y2が「2019年3月20日19時15分0秒」に保護継電装置100にログインし、「2019年3月20日19時20分0秒」に保護継電装置100からログオフしている。
【0057】
ここで、保護継電装置100では、任意の種類の1以上のイベント検出日時が補正された場合、当該任意の種類の1以上のイベントの補正前の検出日時のうちの最も過去の検出日時以降の他の種類のイベント検出日時も補正される。ここでは、「種類A1」のイベント検出日時が補正された場合に、「種類A2」のイベント検出日時が補正される例について説明する。
【0058】
例えば、作業者は、「種類A1」のイベントログデータに関する表示画面510において、イベント「51A ON」,「DI(CB) OPEN」,「51A OFF」の検出日時を補正対象として選択したとする。この場合、表示画面510に示すように、「種類A1」のイベントログデータにおける各イベントの検出日時が補正される。さらに、各イベントの補正前の検出日時のうち最も過去の検出日時は「2019年3月20日18時11分30秒」である。そのため、表示画面520に示すように、この最も過去の検出日時以降の「種類A2」のイベント検出日時である「2019年3月20日19時15分0秒」および「2019年3月19日19時20分0秒」が補正される。時刻補正方式は、
図2で説明した補正方式と同様であり、52分40秒進める補正がなされる。
【0059】
<機能構成>
図8は、保護継電装置100の機能構成を示す模式図である。
図8を参照して、保護継電装置100は、主な機能構成として、計時部201と、イベント検出部203と、イベント記憶部205と、補正部211と、調整部213と、表示制御部215とを含む。典型的には、計時部201は、時計回路40により実現され、イベント記憶部205は、補助記憶装置35により実現され、その他の機能構成は、CPU32により実現される。なお、これらの機能の一部または全部はハードウェアで実現されるように構成されていてもよい。
【0060】
計時部201は、保護継電装置100における現在の日時を計時する。計時部201は、1クロック当たりの時間とカウントしたクロック数とに基づいて、日時を計時するように構成される。
【0061】
イベント検出部203は、保護継電装置100において発生したイベントを検出する。イベント検出部203は、検出したイベントと、当該イベントの検出日時(すなわち、当該イベントの検出時において計時部201により計時された日時)とを関連付けてイベント記憶部205に記憶する。これにより、イベント記憶部205には、例えば、
図6に示すイベントログデータが記憶される。
【0062】
補正部211は、ユーザからの指示に従って、計時部201により計時される現在日時を補正する。また、補正部211は、補正前の現在日時と補正後の現在日時との差分に基づいて、イベント記憶部205に記憶された1以上のイベントの検出日時をさらに補正する。
【0063】
ある局面では、補正前の現在日時が補正後の現在日時よりも当該差分だけ遅れていた場合、補正部211は、補正前の現在日時よりも過去の基準期間(例えば、3日間)内に含まれるイベントJ1の検出日時T1(例えば、イベント「51A ON」の検出日時「2019年3月20日18時11分30秒」)を、検出日時T1よりも当該差分(例えば、52分40秒)だけ進んだ日時(例えば、「2019年3月20日19時4分10秒」)に補正する。
【0064】
他の局面では、補正部211は、前回の補正後の現在日時(例えば、
図3の「2018年3月15日10時0分0秒」)から、今回の補正後の現在日時(例えば、
図3の「2019年3月21日11時0分0秒」)までの経過時間(例えば、8905時間)を算出する。補正部211は、当該経過時間と、今回の補正前の現在日時と今回の補正後の現在日時との差分(例えば、3160秒)とに基づいて、計時部201により計時される日時の単位時間当たりの誤差(例えば、0.355[秒/時間])を算出する。そして、補正部211は、単位時間当たりの誤差に基づいて、前回の補正後の現在日時から今回の補正前の現在日時までの期間に含まれる1以上のイベントの検出日時を補正する。
【0065】
さらに他の局面では、補正部211は、補正前の現在日時と補正後の現在日時との差分に基づいて、第1種類(例えば、「種類A1」)の1以上のイベントの検出日時を補正した場合、補正された第1種類の1以上のイベントの検出日時のうちの最も過去の検出日時を抽出する。補正部211は、補正前の現在日時と補正後の現在日時との差分に基づいて、第2種類(例えば、「種類A2」)の1以上のイベントの検出日時のうち、当該最も過去の検出日時以降の第2種類のイベントの検出日時をさらに補正する。
【0066】
調整部213は、補正部211により算出された単位時間当たりの誤差(例えば、0.354[秒/時間])に基づいて、1クロック当たりの時間を調整する。この場合、計時部201は、調整部213による調整後の1クロック当たりの時間と、カウントしたクロック数とに基づいて、今回の補正後の現在日時(例えば、
図5の「2019年5月21日11時0分0秒」)以降における日時を計時する。
【0067】
表示制御部215は、1以上のイベントと、当該1以上のイベントの補正前の検出日時と、当該1以上のイベントの補正後の検出日時とを関連付けてディスプレイ38に表示(例えば、表示画面510,520を表示)する。
【0068】
<処理手順>
図9は、保護継電装置100の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図9の各処理は、典型的には、CPU32により実行される。
【0069】
図9を参照して、保護継電装置100は、入力インターフェイス39を介して、現在日時の入力を受け付けたか否かを判断する(ステップS10)。現在日時の入力を受け付けていない場合には(ステップS10においてNO)、保護継電装置100はステップS10の処理を繰り返す。現在日時の入力を受け付けた場合には(ステップS10においてYES)、保護継電装置100は、時計回路40で計時されている現在日時を、入力された現在日時に補正する(ステップS12)。
【0070】
保護継電装置100は、上記現在日時の補正に伴って、上述した補正方式を用いて、補助記憶装置35に記憶されたイベント検出日時を補正する(ステップS14)。保護継電装置100は、補正前後のイベント検出日時を記憶する(ステップS16)。
【0071】
<利点>
本実施の形態によると、時刻補正用の外部装置と通信するための装置、GPSアンテナ等が不要であり、作業者が保護継電装置100の確認作業とともに現在日時を補正した際に、イベントの検出日時の補正が自動的に行われる。これにより、作業者は、動作解析を行なう場合に、時刻ずれを考慮する必要がなくなるため、故障記録の報告書作成の際の間違いを防止し、作業効率を向上させることができる。
【0072】
その他の実施の形態.
(1)上述した実施の形態では、保護継電装置100の内部で計時されている現在日時が正確な現在日時よりも遅れている場合について説明した。しかしながら、本実施の形態は、当該計時されている現在日時が正確な現在日時よりも進んでいる場合にも適用することができる。例えば、補正前の現在日時が補正後の現在日時よりも差分Xだけ進んでいた場合、補正部211は、補正前の現在日時よりも過去の基準期間内(例えば、3日間)に含まれるイベントの検出日時を、当該検出日時よりも当該差分Xだけ遅れた日時に補正する。単位時間当たりの誤差に基づく日時補正、および単位時間当たりの誤差に基づく1クロック当たりの時間調整についても同様である。
【0073】
(2)上述の実施の形態として例示した構成は、本実施の形態の構成の一例であり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本開示の要旨を逸脱しない範囲で、一部を省略する等、変更して構成することも可能である。
【0074】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示ものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0075】
2 計器用変流器、4 計器用変圧器、6 遮断器、10 補助変成器、20 AD変換部、21,23 フィルタ、24,25 サンプルホールド回路、26 マルチプレクサ、27 AD変換器、30 演算処理部、31 バス、32 CPU、33 ROM、34 RAM、35 補助記憶装置、36 DO回路、37 DI回路、38 ディスプレイ、39 入力インターフェイス、40 時計回路、100 保護継電装置、201 計時部、203 イベント検出部、205 イベント記憶部、211 補正部、213 調整部、215 表示制御部。