IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大成建設株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-建物構造 図1
  • 特許-建物構造 図2
  • 特許-建物構造 図3
  • 特許-建物構造 図4
  • 特許-建物構造 図5
  • 特許-建物構造 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】建物構造
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20241004BHJP
   E04B 5/43 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
E04H9/02 321A
E04B5/43 C
E04B5/43 B
E04B5/43 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021092107
(22)【出願日】2021-06-01
(65)【公開番号】P2022184328
(43)【公開日】2022-12-13
【審査請求日】2023-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】川岡 千里
(72)【発明者】
【氏名】脇田 拓弥
(72)【発明者】
【氏名】河本 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】清水 悟
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-132143(JP,A)
【文献】特開2006-045933(JP,A)
【文献】特開2002-180679(JP,A)
【文献】特開2006-169765(JP,A)
【文献】特開2000-310057(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00-9/16
E04B 1/00-1/36
E04B 5/43
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連層耐震壁が建物の内部側に設けられた建物構造であって、
第1連層耐震壁及び第2連層耐震壁が互いに対向して配置される前記連層耐震壁と、
前記第1連層耐震壁及び前記第2連層耐震壁と接合されPC鋼材が埋設された、厚さが粗一様なフラットスラブと、
前記建物の外周部に設置され、前記フラットスラブの下面を支える間柱と、を備え
前記連層耐震壁の壁断面内に、前記PC鋼材にプレストレスを導入するための緊張用定着具、または固定用定着具が設けられることを特徴とする建物構造。
【請求項2】
連層耐震壁が建物の内部側に設けられた建物構造であって、
第1連層耐震壁及び第2連層耐震壁が互いに対向して配置される前記連層耐震壁と、
前記第1連層耐震壁及び前記第2連層耐震壁と接合される、厚さが粗一様なフラットスラブと、
前記建物の外周部に設置され、前記フラットスラブの下面を支える間柱と、を備え、
前記連層耐震壁を含んで建物共有部が設けられており、
前記フラットスラブの上面側に居室を構成する2重床が設けられるとともに、設備配管が前記2重床の内部に配置され、前記設備配管の一方端側は、前記連層耐震壁に設けた貫通部を通って前記建物共有部の天井躯体と天井材との間に配管されることを特徴とする建物構造。
【請求項3】
前記第1連層耐震壁及び前記第2連層耐震壁によって矩形状に囲まれるようにコア耐震壁構造が形成され、当該コア耐震壁構造の基礎部には、マットスラブが設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の建物構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連層耐震壁が建物の内部側に設けられた建物構造に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の躯体をラーメン構造により構成した場合、スラブの下方に梁が突出するため、梁の部分において天井高さが低くなり、居室空間が狭められてしまう。
これに対し、例えば特許文献1には、床スラブと、床スラブを支持する柱とを備えるフラットスラブ構造が開示されている。
また、特許文献2には、プレキャストコンクリート製のスラブ支板を、柱の四方に配置するとともに、柱を挟んで対向するスラブ支板どうしを、プレストレス導入のPC鋼棒によって接合し、スラブ支板を支持躯体にしてフラットスラブコンクリートを施工する構成が開示されている。
特許文献3には、基礎梁の上に構築された柱と、梁型を持たない平板状のフラットスラブと、を備える構成が開示されている。
特許文献1~3に開示されたような構成では、いずれも、フラットスラブを採用することによって、スラブの下方に梁が突出するのを抑えている。
このようなフラットスラブを、特に大スパン、大面積にわたって採用した場合、フラットスラブの荷重を支持して強度を確保するために、相応の数の柱が必要となる。しかし、柱を多く設けると、柱により居室空間が狭められてしまう可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-234506号公報
【文献】特開平6-81470号公報
【文献】特開2000-310057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、スラブが梁を有さない構造として居室空間を広くしつつも、強固な構造を実現可能な、建物構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明の建物構造は、連層耐震壁が建物の内部側に設けられた建物構造であって、第1連層耐震壁及び第2連層耐震壁が互いに対向して配置される前記連層耐震壁と、前記第1連層耐震壁及び前記第2連層耐震壁と接合される、厚さが粗一様なフラットスラブと、前記建物の外周部に設置され、前記フラットスラブの下面を支える間柱と、を備えることを特徴とする。
このような構成の建物構造においては、スラブが、厚さが粗一様なフラットスラブにより実現される。このため、居室内に梁型が現れない。
また、フラットスラブは、建物の内部側で、頑強な連層耐震壁に接合されて支持されている。特に、連層耐震壁は、互いに対向して配置される第1連層耐震壁及び第2連層耐震壁を備えており、これら第1連層耐震壁及び第2連層耐震壁によって、複数の位置で、フラットスラブを支持している。このため、フラットスラブの荷重を、例えば連層耐震壁のみによって支持する構造が可能となり、このようにした場合においては、連層耐震壁以外の、フラットスラブの荷重を支持する構造材としての柱の数が低減されるか、あるいは構造材としての柱が不要となる。これにより、居室の内側に柱が設けられて居室空間が狭められることを抑制できる。
更に、建物の外周部には、フラットスラブの下面を支える間柱が設けられている。これにより、フラットスラブの、連想耐震壁から離れた外端部の、自重による撓みが抑制されるため、フラットスラブを支える連層耐震壁から、フラットスラブの外端部までの距離を長くでき、居室空間を広くできる。
このように間柱を設けたとしても、上記のように間柱は建物の外周部に設けられるため、依然として居室空間を広く保つことができる。
以上の効果が相乗し、スラブが梁を有さない構造として居室空間を広くしつつも、強固な構造を実現可能な、建物構造を提供することができる。
【0006】
本発明の一態様においては、前記フラットスラブ内にはPC鋼材が埋設され、前記連層耐震壁の壁断面内に、前記PC鋼材にプレストレスを導入するための緊張用定着具、または固定用定着具が設けられる。
このような構成によれば、フラットスラブにPC鋼材が埋設されることで、フラットスラブの撓みを更に低減して剛性を高め、連層耐震壁と間柱との距離を更に長くすることができる。これにより、柱のない居室空間を更に広くできる。
また、PC鋼材は、連層耐震壁の壁断面内に定着されるので、フラットスラブをより強固に支持できる。
【0007】
本発明の一態様においては、前記連層耐震壁を含んで建物共有部が設けられており、前記フラットスラブの上面側に居室を構成する2重床が設けられるとともに、設備配管が前記2重床の内部に配置され、前記設備配管の一方端側は、前記連層耐震壁に設けた貫通部を通って前記建物共有部の天井躯体と天井材との間に配管される。
このような構成によれば、設備配管は、居室内では2重床内に配置され、かつ居室外では連層耐震壁を含んで形成される建物共有部の天井躯体と天井材との間に設置される。このため、建物の部屋区画変更や設備更新時などには、設備配管を容易に移動できる。また、設備配管は、居室内の2重床を構成する床材の下方側や、建物共有部の天井構造を構成する天井材の上側等に収容することができる。
【0008】
本発明の一態様においては、前記第1連層耐震壁及び前記第2連層耐震壁によって矩形状に囲まれるようにコア耐震壁構造が形成され、当該コア耐震壁構造の基礎部には、マットスラブが設けられている。
このような構成によれば、コア耐震壁構造の基礎部にマットスラブを設けることで、地震時にコア耐震壁構造を形成する連層耐震壁に過大な軸力(圧縮力や引抜き力)が作用した場合であっても、基礎部のマットスラブの全体に亘って一定の接地圧で地盤に圧縮力を加えることができる。これにより、建物の上方への浮き上がりを抑えることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、スラブが梁を有さない構造として居室空間を広くしつつも、強固な構造を実現可能な、建物構造を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る建物構造を適用した建物の構成を示す基準階平面図である。
図2図1のI-I矢視部分の縦断面図である。
図3図1の建物構造のフラットスラブを示す縦断面図である。
図4】フラットスラブと連層耐震壁との接合部の構成を示す縦断面図である。
図5】フラットスラブの、建物の外周側の端部の構成を示す縦断面図である。
図6】間柱とフラットスラブとの接合部を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、対向して配置される第1連層耐震壁及び第2連層耐震壁と、双方の各連層耐震壁に接合されるフラットスラブと、フラットスラブの下面を支える、建物外周部側に設けられる間柱と、を備える建物構造である。
以下、添付図面を参照して、本発明による建物構造を実施するための形態について、図面に基づいて説明する。
本発明の実施形態に係る建物構造を適用した建物の構成を示す基準階平面図を図1に示す。図2は、図1のI-I矢視部分の縦断面図である。
図1図2に示されるように、本発明の実施形態に係る建物構造Aを適用した建物1は、基礎構造2と、上部構造3と、を備えている。本実施形態において、建物1は、例えば上方から見て長方形状に形成されている。
基礎構造2は、地盤G中に構築されている。基礎構造2は、必要に応じて基礎杭(図示なし)等を備えている。基礎構造2は、上部構造3を下方から支持する。本実施形態において、基礎構造2は、マットスラブ21を有している。マットスラブ21は、上方から見て、建物1の中央部に配置されている。マットスラブ21は、上下方向に所定の厚さを有した鉄筋コンクリートからなり、上方から見て矩形状を成している。本実施形態において、基礎構造2においてマットスラブ21の外周側は、特に特定の構造に限定するものではなく、例えば基礎梁22等が設けられていてもよい。また、住戸スパンは、図1及び図2に示すように主壁部43と間柱6との間の距離Eである。
【0012】
上部構造3は、上下方向に複数の階層F1~F6を有している。上部構造3は、連層耐震壁40A、40Bと、フラットスラブ5と、間柱6と、を主に備えている。
連層耐震壁40Aと連層耐震壁40Bは、建物1の長手方向D1の中央部に、長手方向D1に間隔をあけて配置されている。連層耐震壁40A、40Bは、それぞれ、第1連層耐震壁41と、第2連層耐震壁42と、を備えている。第1連層耐震壁41及び第2連層耐震壁42は、建物1の、長手方向D1に直交する短手方向D2において、互いに対向して配置されている。第1連層耐震壁41、第2連層耐震壁42は、それぞれ、基礎構造2から上部構造3の最上部の階層F6まで、上方に向かって連続して延びている。
第1連層耐震壁41、第2連層耐震壁42は、それぞれ主壁部43と、一対の側壁部44と、を有している。主壁部43は、長手方向D1に平行で、短手方向D2に直交する面に沿って設けられている。側壁部44は、主壁部43の長手方向D1両側から短手方向D2に延びている。第1連層耐震壁41の各側壁部44は、主壁部43から第2連層耐震壁42に向かって延びている。また、第2連層耐震壁42の各側壁部44は、主壁部43から第1連層耐震壁41に向かって延びている。これにより、第1連層耐震壁41の側壁部44と、第2連層耐震壁42の側壁部44とは、短手方向D2において互いに間隔をあけて対向して設けられている。
具体的には、第1連層耐震壁41または第2連層耐震壁42は、例えば、5階建てRC造建物では、壁厚さが400~900mm程度となる。また、フラットスラブ5は、スラブ厚さが350mm程度となる。間柱6は鉄筋コンクリート造であり、矩形断面の場合、400mm×400mm程度となり、各階の天井高さは2800mm程度となる。また、第1連層耐震壁41または第2連層耐震壁42の壁面から建物外周部側に延びるフラットスラブ5の先端までは、11m程度となる。
連層耐震壁40A、40Bの各々においては、第1連層耐震壁41及び第2連層耐震壁42により、上下方向に連続する略筒状のコア耐震壁構造4が形成されている。コア耐震壁構造4は、連層耐震壁40A、40Bを含んで、第1連層耐震壁41及び第2連層耐震壁42によって矩形状に囲まれるように形成されている。より詳細には、コア耐震壁構造4は、各連層耐震壁40A、40Bにおいて、互いに対向する主壁部43と、主壁部43から互いに向かって延びるように設けられた側壁部44と、によって囲われて、平面視したときに仮想矩形Rに外輪郭が沿うように、設けられている。
図2に示すように、コア耐震壁構造4は、既に説明したようなマットスラブ21の上に設けられている。換言すれば、マットスラブ21は、基礎構造2の、コア耐震壁構造4の直下でこれを支持する基礎部に相当する部分に設けられている。連層耐震壁40A、40Bは、マットスラブ21に、一体に接合されている。
【0013】
図1に示すように、建物1の長手方向D1の両端部には、外周耐震壁8が設けられている。各外周耐震壁8は、基礎構造2から上部構造3の階層F5まで、上方に向かって連続して延びている。外周耐震壁8は、長手方向D1に直交する面に沿って設けられている。外周耐震壁8は、建物1の長手方向D1の両端部において、短手方向D2に間隔をあけて複数枚が設けられている。
【0014】
図3は、上記建物構造のフラットスラブを示す縦断面図である。
フラットスラブ5は、上部構造3の階層F2~F6のそれぞれの床スラブを形成する。フラットスラブ5は、上部構造3の各階層F2~F6のフロア形状に合わせて設けられている。図2図3に示すように、フラットスラブ5は、建物1の内部において、連層耐震壁40A、40Bの第1連層耐震壁41及び第2連層耐震壁42と接合されている。フラットスラブ5は、連層耐震壁40A、40Bから短手方向D2の両側に延びている。フラットスラブ5は、短手方向D2において、連層耐震壁40A、40Bから建物1の外周部1sまで延びている。
フラットスラブ5は、矩形状の一様なスラブ厚さTを有する、プレストレストフラットスラブ、プレストレストフラットプレート、及びプレストレスト中空スラブのうち、いずれかである。本実施形態において、フラットスラブ5は、例えば、プレストレスが導入されたプレストレストフラットスラブである。フラットスラブ5は、下面5bが平坦であり、下方に梁型が突出していない。つまり、フラットスラブ5は、梁を有していない。
【0015】
図4は、フラットスラブと連層耐震壁との接合部の構成を示す縦断面図である。図5は、フラットスラブ、建物の外周側の端部の構成を示す縦断面図である。
図4図5に示すように、フラットスラブ5は、コンクリート51と、コンクリート51中に埋設されたスラブ筋52と、を備えている。スラブ筋52は、フラットスラブ5の上部と下部とにそれぞれ埋設されている。スラブ筋52は、短手方向D2に延びる縦筋52aと、長手方向D1に延びる横筋52bとが、上方から見て格子状に組まれることにより構成されている。
【0016】
フラットスラブ5内には、複数本のPC鋼材7が埋設されている。各PC鋼材7は、短手方向D2に延びている。図4に示すように、PC鋼材7において連層耐震壁40A、40B側の一端部7aは、連層耐震壁40A、40Bを構成する第1連層耐震壁41、第2連層耐震壁42の壁断面内に設けられた固定用定着具71に接合されて、第1連層耐震壁41、第2連層耐震壁42内に定着されている。固定用定着具71は、第1連層耐震壁41、第2連層耐震壁42の主壁部43の壁断面内で鉛直方向に延びるように設けられた壁主筋43sよりも、内側に埋設(定着)されている。
図5に示すように、PC鋼材7の他端部7bは、建物1の外周部1sとなる、フラットスラブ5の外端部5s内に設けられた緊張用定着具72によって、所定の緊張力(プレストレス)が導入された状態で、フラットスラブ5の外端部5s内に定着されている。
【0017】
図2図3に示すように、間柱6は、建物1の外周部1sに複数本が設置されている。複数本の間柱6は、連層耐震壁40A、40Bに対して短手方向D2の両側に、長手方向D1に間隔をあけて配置されている。本実施形態において、各間柱6は、フラットスラブ5の短手方向D2における外端部5sよりも、連層耐震壁40A、40B側に、すなわち建物1の内側にオフセットして配置されている。
各間柱6は、上下方向に延び、上端部が各フラットスラブ5の下面5bに接続されている。各間柱6の下端は、下方のフラットスラブ5に接続されている。各間柱6は、フラットスラブ5を下面5bから支えることで、フラットスラブ5の撓みを抑える。各間柱6は、非構造材であり、通常の柱のように上部構造3に作用する鉛直荷重を支えることを期待しない鉛直材である。
特に本実施形態においては、建物1は、第1連層耐震壁41と第2連層耐震壁42、外周耐震壁8、及び間柱6以外に、柱を有さない。すなわち、本実施形態においては、フラットスラブ5の荷重は、第1連層耐震壁41と第2連層耐震壁42(及び外周耐震壁8)のみによって支持されている。
【0018】
図2に示されるように、フラットスラブ5は、短手方向D2において、その中央部で、第1連層耐震壁41と第2連層耐震壁42によって、2点で支持されている。
ここで、図2においてフラットスラブ5の、第1連層耐震壁41よりも右側には、当該部分の荷重により、右側部分を下方へと下げようとする力が作用する。フラットスラブ5は一定の剛性を有しているため、この力は、フラットスラブ5と第1連層耐震壁41との接合部を支点として、フラットスラブ5の、第1連層耐震壁41よりも左側に、上向きの力として伝達されるが、これは、第1連層耐震壁41よりも左側においてフラットスラブ5に接合された第2連層耐震壁42によって抵抗、支持される。
同様に、フラットスラブ5の、第2連層耐震壁42よりも左側には、当該部分の荷重により、左側部分を下方へと下げようとする力が作用する。この力は、フラットスラブ5と第2連層耐震壁42との接合部を支点として、フラットスラブ5の、第2連層耐震壁42よりも右側に、上向きの力として伝達されるが、これは、第2連層耐震壁42よりも右側においてフラットスラブ5に接合された第1連層耐震壁41によって抵抗、支持される。
【0019】
図6は、間柱とフラットスラブとの接合部を示す縦断面図である。
図6に示すように、フラットスラブ5において、間柱6が接合される部分の周囲には、複数のパンチング補強筋55が設けられている。各パンチング補強筋55は、フラットスラブ5内で上下方向に延び、その上下の端部に、フラットスラブ5の上部のスラブ筋52に係止される上部フック55aと、フラットスラブ5の下部のスラブ筋52に係止される下部フック55bと、を有している。フラットスラブ5において間柱6が接合される部分の周囲に複数のパンチング補強筋55を設けることで、キャピタルを設けることなく、フラットスラブ5のパンチング(押し抜き)ひび割れの発生が抑えられる。
【0020】
上記のような建物1において、図1に示すように、各階層F2~F6のそれぞれでは、フラットスラブ5上で連層耐震壁40A、40Bの外側の領域に、複数の住戸100が形成されている。複数の住戸100どうしは、間仕切り壁105によって他の住戸100と仕切られている。図1図3に示すように、各住戸100は、居室110と、バルコニー120と、を有している。居室110とバルコニー120との間は、引き戸、窓、壁等からなる間仕切り130によって区画されている。また、建物1の低層階の住戸100は、バルコニー120を有さず、居室110のみを備えている。
居室110は、間仕切り130に対して建物1の内方側に配置されている。居室110は、互いに上下に位置するフラットスラブ5と、連層耐震壁40A、40Bと、間仕切り130とに囲まれて形成されている。居室110の床は、2重床113によって構成されている。2重床113は、フラットスラブ5の上方に間隔をあけて配置され、居室110の床面を形成する床材113pと、フラットスラブ5上に設けられ、床材113pを下方から支持するサポート材(図示なし)と、を備えている。
【0021】
バルコニー120は、間仕切り130に対して建物1の外周部1s側に配置されている。フラットスラブ5の外端部5sには、手すり壁140が設けられている。手すり壁140は、フラットスラブ5の上面から上方に延びている。手すり壁140の上端と上方のフラットスラブ5との間には、上下方向に間隙が形成されている。バルコニー120は、手すり壁140の上方において建物1の外方に向けて開放されている。バルコニー120の床面は、バルコニー床材123によって形成されている。バルコニー床材123は、フラットスラブ5の上面にスペーサ(図示なし)等を介して支持されている。
【0022】
各階層F2~F6のそれぞれで、フラットスラブ5上において、コア耐震壁構造4すなわち連層耐震壁40A、40Bの内側は、階段室、エレベータ、エレベータホール等が配置された建物共有部300とされている。建物共有部300は、連層耐震壁40A、40Bを含んで設けられている。建物共有部300は、連層耐震壁40A、40Bの各々の内側に限らず、例えば、連層耐震壁40A、40Bの間の領域を含めて設定してもよい。
【0023】
図3図4に示すように、上水道、下水道、電気ケーブル、ガス管等の設備配管9は、建物共有部300から、連層耐震壁40A、40Bの第1連層耐震壁41、第2連層耐震壁42に設けた貫通部48を通って、居室110内に導設されている。設備配管9は、居室110内では、2重床113の内部に配置されている。設備配管9は、建物共有部300内では、共有部スラブである天井躯体303の下側に配置されている。貫通部48を通って建物共有部300内に導設された設備配管9の一方端側は、天井躯体303の下側に形成された凹部309内で下方に屈曲し、天井躯体303の下側と、その下方に間隔をあけて配置された天井材303pとの間に収容されている。
【0024】
(作用効果)
上述したような建物構造Aは、連層耐震壁40A、40Bが建物1の内部側に設けられた建物構造Aであって、第1連層耐震壁41及び第2連層耐震壁42が互いに対向して配置される連層耐震壁40A、40Bと、第1連層耐震壁41及び第2連層耐震壁42と接合される、厚さが粗一様なフラットスラブ5と、建物1の外周部1sに設置され、フラットスラブ5の下面5bを支える間柱6と、を備える。
このような構成の建物構造Aにおいては、スラブが、厚さが粗一様なフラットスラブ5により実現される。このため、居室110内に梁型が現れない。
また、フラットスラブ5は、建物1の内部側では、頑強な連層耐震壁40A、40Bに接合されて支持されている。特に、連層耐震壁40A、40Bは、互いに対向して配置される第1連層耐震壁41及び第2連層耐震壁42を備えており、これら第1連層耐震壁41及び第2連層耐震壁42によって、複数の位置で、フラットスラブ5を支持している。このため、フラットスラブ5の荷重を、例えば連層耐震壁40A、40Bのみによって支持する構造が可能となり、このようにした場合においては、連層耐震壁40A、40B以外の、フラットスラブ5の荷重を支持する構造材としての柱の数が低減されるか、あるいは構造材としての柱が不要となる。これにより、居室110の内側に柱が設けられて居室空間が狭められることを抑制できる。
更に、建物1の外周部1sには、フラットスラブ5の下面5bを支える間柱6が設けられている。これにより、フラットスラブ5の、連想耐震壁40A、40Bから離れた外端部5sの、自重による撓みが抑制されるため、フラットスラブ5を支える連層耐震壁40A、40Bから、フラットスラブの外端部5sまでの距離を長くでき、居室空間を広くできる。
このように間柱6を設けたとしても、上記のように間柱6は建物1の外周部1sに設けられるため、依然として居室空間を広く保つことができる。また、間柱6は、建物の自重及び積載物の荷重を支える構造部材ではなく、床スラブのひびわれ、及び撓みを抑制するために補助材として設定しているために、間柱断面の小型化を実現している。
以上の効果が相乗し、フラットスラブ5が梁を有さない構造として居室空間を広くしつつも、強固な構造を実現可能な、建物構造Aを提供することができる。
【0025】
また、フラットスラブ5内にはPC鋼材7が埋設され、連層耐震壁40A、40Bの壁断面内に、PC鋼材7にプレストレスを導入するための固定用定着具71が設けられる。
このような構成によれば、フラットスラブ5内にアンボンド形式でPC鋼材7が埋設されることで、フラットスラブ5の撓みを更に低減して剛性を高め、連層耐震壁40A、40Bと間柱6との距離を更に長くすることができる。これにより、柱のない居室空間を更に広くできる。また、フラットスラブ5内にPC鋼材7が埋設されることで、フラットスラブ5を形成するコンクリートのひび割れを防止し、フラットスラブ5のクリープ変形を抑制できる。具体的には、前記課題を解決するために、PC鋼材7の設置位置、及び床スラブ内での配線高さ位置については、床スラブの断面内の平均プレストレス応力を1.0N/mm以下となるように決定し、床スラブ底面に発生する引張応力を低減させることで、構造安定性を確保した。
また、PC鋼材7の材端は、固定用定着具71を使用して連層耐震壁40A、40Bの壁断面内に定着されるので、フラットスラブ5が、より強固に支持される。
【0026】
また、連層耐震壁40A、40Bを含んで建物共有部300が設けられており、フラットスラブ5の上面側に居室110を構成する2重床113が設けられるとともに、設備配管9が2重床113の内部に配置され、設備配管9の一方端側は、連層耐震壁40A、40Bに設けた貫通部48を通って建物共有部300の天井躯体303と天井材303pとの間に配管される。
このような構成によれば、設備配管9は、居室110内では2重床113内に配置され、かつ居室110外では連層耐震壁40A、40Bを含んで形成される建物共有部300の天井躯体303と天井材303pとの間に設置される。このため、建物1の部屋区画変更や設備更新時などには、設備配管9を容易に移動できる。また、設備配管9は、居室110内の2重床113を構成する床材113pの下方側や、建物共有部300の天井構造を構成する天井材303pの上側等に収容することができる。
【0027】
また、第1連層耐震壁41及び第2連層耐震壁42によって矩形状に囲まれるようにコア耐震壁構造4が形成され、当該コア耐震壁構造4の基礎部には、マットスラブ21が設けられている。
このような構成によれば、コア耐震壁構造4の基礎部にマットスラブ21を設けることで、地震時にコア耐震壁構造4を形成する連層耐震壁40A、40Bに過大な軸力(圧縮力や引抜き力)が作用した場合であっても、コア耐震壁構造4を構成する第1連層耐震壁41及び第2連層耐震壁42のうち、一方の連層耐震壁4のみが浮き上がることはなく、基礎部のマットスラブ21の全体に亘って一定の接地圧で地盤Gに圧縮力を加えることができる。これにより、建物1の上方への浮き上がりを抑えることができる。
また、第1連層耐震壁41と第2連層耐震壁42とを一定の距離離して配置し、矩形状のコア耐震壁構造4が形成されるために、様々な方向から作用する地震力に対して、複数の連層耐震壁がともにせん断抵抗することで、優れた耐震性能が確保されている。
【0028】
また、フラットスラブ5の、間柱6が接合される部分の周囲には、複数のパンチング補強筋55が設けられている。
このような構成によれば、パンチング補強筋55によって、フラットスラブ5と間柱6との接合部が強化されるため、フラットスラブ5の押し抜きひび割れの発生が抑えられる。このため、例えばフラットスラブ5の間柱6との接合部の周囲を厚くしてキャピタルを形成する必要が提言される。これにより、居室空間を更に広くできる。
【0029】
(実施形態の変形例)
なお、本発明の建物構造Aは、図面を参照して説明した上述の実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において様々な変形例が考えられる。
例えば、上記実施形態では、連層耐震壁40A、40Bの壁断面内に、PC鋼材7にプレストレスを導入するための固定用定着具71が設けられるようにしたが、これに限らない。例えば、連層耐震壁40A、40Bの壁断面内に、PC鋼材7にプレストレスを導入するための緊張用定着具を設けるようにしても良い。
また、上記実施形態では、間柱6を、連層耐震壁40A、40Bに対して短手方向D2の両側に間隔をあけて配置するようにしたが、これに限らない。間柱6は、連層耐震壁40A、40Bに対して短手方向D2の一方側にのみ配置し、連層耐震壁40A、40Bから短手方向D2の一方側に延びるフラットスラブ5を下方から支持するようにしてもよい。また、間柱6を、連層耐震壁40A、40Bに対して長手方向D1に間隔をあけて配置し、連層耐震壁40A、40Bから短手方向D2に延びるフラットスラブ5を下方から支持するようにしてもよい。
更に、間柱6は、フラットスラブ5の外端部5sよりも、連層耐震壁40A、40B側にオフセットして配置するようにしたが、これに限らない。間柱6は、フラットスラブ5の外端部5sを下方から支持するように配置してもよい。また、間柱6は、鉄筋コンクリート造で形成したが、コンクリート充填鋼管、または中空填鋼管で形成しても良い。
【0030】
本発明は、前記フラットスラブが、矩形状の一様なスラブ厚さを有する、プレストレストフラットスラブ、プレストレストフラットプレート、及びプレストレスト中空スラブのうち、いずれかであるようにしてもよい。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0031】
1 建物 41 第1連層耐震壁
1s 外周部 42 第2連層耐震壁
4 コア耐震壁構造 48 貫通部
5 フラットスラブ 71 固定用定着具
5b 下面 110 居室
6 間柱 113 2重床
7 PC鋼材 300 建物共有部
9 設備配管 303 天井躯体
21 マットスラブ 303p 天井材
40A、40B 連層耐震壁 A 建物構造
図1
図2
図3
図4
図5
図6