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特許7565872オイルセンサ、それを備えたエンジン、ガスエンジンヒートポンプ及びオイル管理システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】オイルセンサ、それを備えたエンジン、ガスエンジンヒートポンプ及びオイル管理システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/06 20060101AFI20241004BHJP
   F01M 11/12 20060101ALI20241004BHJP
   F01M 11/10 20060101ALI20241004BHJP
   G01K 1/14 20210101ALI20241004BHJP
   G01N 27/00 20060101ALI20241004BHJP
   G01N 27/22 20060101ALI20241004BHJP
   G01F 23/263 20220101ALI20241004BHJP
【FI】
G01N27/06 Z
F01M11/12 Z
F01M11/12 G
F01M11/10 B
G01K1/14 L
G01N27/00 L
G01N27/22 B
G01F23/263
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021092501
(22)【出願日】2021-06-01
(65)【公開番号】P2022184565
(43)【公開日】2022-12-13
【審査請求日】2023-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】徳田 有佑
(72)【発明者】
【氏名】酒井 寿成
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-200730(JP,A)
【文献】特開2020-003356(JP,A)
【文献】特開2014-122801(JP,A)
【文献】特開2013-221751(JP,A)
【文献】特開2013-134209(JP,A)
【文献】特開2015-004568(JP,A)
【文献】特開2017-172493(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2012-0040495(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00-27/10
G01N 27/14-27/24
F01M 11/10-11/12
G01F 23/00-23/80
G01K 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルパンを含むオイル貯留部に貯留されるオイルの性状を計測可能なオイルセンサであって、
前記オイル貯留部の下方に設置され且つ前記オイル貯留部の内部において前記オイルを間に介在させて前記オイルの抵抗値を計測可能な一対の液質電極と、前記オイル貯留部の内部に設定され且つ水平方向に交差する方向に延設される状態で前記オイルを間に介在させて液位を計測可能な一対の液位電極との双方を備え
電極間の容量を演算する容量演算回路部と、電極間の抵抗値を演算する抵抗演算回路部とを備え、
前記液質電極に前記容量演算回路部と前記抵抗演算回路部とを択一的に切り換え接続すると共に、前記液位電極に前記容量演算回路部を接続可能な回路切替部とを備えるオイルセンサ。
【請求項2】
前記回路切替部が前記液質電極に前記容量演算回路部を接続している状態で、前記液質電極により計測され前記容量演算回路部にて演算された前記オイルの容量から前記オイルの比誘電率を導出する比誘電率導出部と、
前記回路切替部が前記液位電極に前記容量演算回路部を接続している状態で、前記液位電極により計測され前記容量演算回路部にて演算された前記オイルの容量と、前記比誘電率導出部にて導出された前記オイルの前記比誘電率とを用いて、前記オイルの前記液位を導出する液位導出部を備える請求項に記載のオイルセンサ。
【請求項3】
前記回路切替部が前記液質電極に前記抵抗演算回路部を接続している状態で前記液質電極により計測され前記抵抗演算回路部にて演算された前記オイルの抵抗値の第1所定時間における減少量の絶対値が一定以上である場合で、且つ前記液位導出部にて導出される前記オイルの前記液位が第2所定時間で増加している場合に、劣化度の低い前記オイルが注ぎ足されたと判定する注足判定部を備える請求項に記載のオイルセンサ。
【請求項4】
前記液質電極に接続される液質電極配線を除いた前記液質電極のみをオイル浸漬している状態且つ前記回路切替部が前記液質電極に前記容量演算回路部を接続している状態で、前記液質電極により計測され前記容量演算回路部にて演算された前記オイルの容量を基準容量Cqとして記憶する記憶部と、
少なくとも前記液質電極配線の一部がオイル浸漬している状態において、
前記回路切替部が前記液質電極に前記容量演算回路部を接続している状態で前記液質電極により計測され前記容量演算回路部にて演算された前記オイルの容量Ctと、前記回路切替部が前記液質電極に前記抵抗演算回路部を接続している状態で前記液質電極により計測され前記抵抗演算回路部にて演算された前記オイルの抵抗値Rtと、前記記憶部に記憶された前記基準容量Cqとに基づいて、以下の〔式1〕により補正抵抗値Rqを導出する補正抵抗値導出部と、
前記抵抗値Rtに替えて前記補正抵抗値導出部にて導出された前記補正抵抗値Rqに基づいて、補正液質を導出する補正液質導出部とを備える請求項1~3の何れか一項に記載のオイルセンサ。
Rq=Rt×Ct/Cq 〔式1〕
【請求項5】
基準オイルが前記オイル貯留部に貯留されている場合の前記液位電極の容量と前記液位との線形関係の傾きと、前記液質電極のみを満たす前記液位である液質電極液位とを記憶する記憶部と、
前記液質電極に接続される液質電極配線及び前記液位電極の一部がオイル浸漬している状態且つ前記回路切替部が前記液質電極に前記容量演算回路部を接続している状態で、前記液質電極により計測され前記容量演算回路部にて演算された前記オイルの容量から前記オイルの仮の比誘電率である仮比誘電率を導出する比誘電率導出部と、
前記仮比誘電率を導出したときのオイル浸漬状態且つ前記回路切替部が前記液位電極に前記容量演算回路部を接続している状態で、前記液位電極により計測され前記容量演算回路部にて演算された前記オイルの容量と、前記仮比誘電率とから仮の前記液位である仮液位を導出する液位導出部と、
前記記憶部に記憶された前記傾きと、前記液質電極液位と、導出された前記仮液位とから、前記仮比誘電率を導出したときの前記オイルの容量のうち前記液質電極配線に起因する容量である浮遊容量を導出する浮遊容量導出部とを備え、
前記比誘電率導出部が、前記浮遊容量導出部にて導出された前記浮遊容量を、前記仮比誘電率を導出したときの前記オイルの容量から減算した容量から、正の比誘電率である正比誘電率を導出し、
前記液位導出部が、当該正比誘電率と前記仮液位を導出したときの前記オイルの容量とに基づいて、正の前記液位である正液位を導出する液位再校正制御を実行する請求項1~4の何れか一項に記載のオイルセンサ。
【請求項6】
前記液質電極及び前記液位電極が設けられる電極基板の温度を計測する電極基板温度センサと、
前記容量演算回路部及び前記抵抗演算回路部が設けられる回路基板の温度を計測する回路基板温度センサとを各別に備え、
前記電極基板温度センサにて計測される温度による前記電極基板の温度補償制御と、前記回路基板温度センサにて計測される温度による前記回路基板の温度補償制御とを各別に実行可能な温度補償制御部を備える請求項1~5の何れか一項に記載のオイルセンサ。
【請求項7】
前記液質電極に接続される液質電極配線の配線幅は、100μm以上200μm以下の幅とする請求項1~6の何れか一項に記載のオイルセンサ。
【請求項8】
前記オイル貯留部の振動を検知する振動センサを備え、
前記オイルが前記オイル貯留部へ注入された時点以降で前記振動センサにより前記振動が検知されている時間の積算時間又は前記振動センサにより検知された前記振動の振動振幅が所定の振動幅判定閾値以上となっている継続時間である高振動幅継続時間の少なくとも何れか一方と、
前記回路切替部が前記液質電極に前記抵抗演算回路部を接続している状態における前記液質電極により計測され前記抵抗演算回路部にて演算された前記オイルの抵抗値とに基づいて、前記オイルの交換時期を判定するオイル交換時期判定部を備える請求項1~6の何れか一項に記載のオイルセンサ。
【請求項9】
請求項1~8の何れか一項に記載のオイルセンサをエンジンの前記オイルを貯留する前記オイル貯留部に設けたガスエンジンヒートポンプ。
【請求項10】
請求項1~8の何れか一項に記載のオイルセンサにて取得した情報を、ネットワーク回線を介して取得可能なデータセンターを備え、当該データセンターにてオイル管理を実行するオイル管理システム。
【請求項11】
請求項に記載のオイルセンサを前記オイル貯留部に設けたエンジンであって、
前記電極基板温度センサにて計測された温度と前記回路基板温度センサにて計測された温度との温度差が温度判定閾値以上であるときに、エンジン異常であると判定する異常判定部を備えるエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイルパンを含むオイル貯留部に貯留されるオイルの性状を計測可能なオイルセンサ、それを備えたエンジン、ガスエンジンヒートポンプ及びオイル管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンの潤滑油としてのオイルを貯留するオイル貯留部には、当該オイルの抵抗値を計測するオイルセンサが備えられ、当該オイルセンサが計測した抵抗値からオイルの劣化度を導出するものが知られている(特許文献1を参照)。
一方で、オイル貯留部において、所定の液位毎で、光を照射すると共に光を受光する受発光センサを備え、光の透過度に基づいてオイルの液位を導出可能なオイルセンサを備えたものが知られている(特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-200730号公報
【文献】特開2020-148575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ガスエンジンヒートポンプに設けられるエンジンのオイル貯留部では、オイルの劣化度やオイルの液位を経時的に計測し、これらの値に基づいて、オイルの補充や交換を行っている。
しかしながら、従来のオイル貯留部では、上記特許文献1に示すようなオイルの抵抗値を計測するオイルセンサや、上記特許文献2に示すようなオイルの透過度を計測するオイルセンサを、夫々各別にオイル貯留部に対して設置する必要があり、設置に手間がかかるという問題があった。
【0005】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、設置が容易にできつつも、オイルの劣化度を含む液質の導出が可能であると共に、オイルの液位も良好に導出可能なオイルセンサ、それを備えたエンジン、ガスエンジンヒートポンプ及びオイル管理システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するためのオイルセンサは、
オイルパンを含むオイル貯留部に貯留されるオイルの性状を計測可能なオイルセンサであって、その特徴構成は、
前記オイル貯留部の下方に設置され且つ前記オイル貯留部の内部において前記オイルを間に介在させて前記オイルの抵抗値を計測可能な一対の液質電極と、前記オイル貯留部の内部に設定され且つ水平方向に交差する方向に延設される状態で前記オイルを間に介在させて液位を計測可能な一対の液位電極との双方を備え
電極間の容量を演算する容量演算回路部と、電極間の抵抗値を演算する抵抗演算回路部とを備え、
前記液質電極に前記容量演算回路部と前記抵抗演算回路部とを択一的に切り換え接続すると共に、前記液位電極に前記容量演算回路部を接続可能な回路切替部とを備える点にある。
【0007】
上記特徴構成によれば、オイルセンサが、オイル貯留部の下方に設置され且つオイル貯留部の内部においてオイルを間に介在可能な一対の液質電極と、オイル貯留部の内部に設定され且つ水平方向に交差する方向に延設させる一対の液位電極との双方を備えるから、当該オイルセンサをオイル貯留部に設置するのみで、オイルの抵抗値を計測できると共に液位も計測できるから、一のオイルセンサをオイル貯留部に設置するという簡易な操作により、オイルの抵抗値から導出されるオイルの劣化度及び液位を取得することができる。
更に、液質電極は、オイル貯留部の下方に設置されているから、経時的にオイルの液位が低下するような状況においても、オイルの抵抗値等の液質の計測を良好に継続することができる。
以上より、設置が容易にできつつも、オイルの劣化度を含む液質の導出が可能であると共に、オイルの液位も良好に導出可能なオイルセンサを実現できる。
【0009】
さらに、上記特徴構成によれば、特に、通常、オイルの液質としての抵抗値を計測する液質電極において、当該液質電極の容量をも計測することができる。
これにより、通常の使用であれば、液位が変更したとしても、常にオイルに浸漬している液質電極の容量から、オイルの比誘電率を好適に導出でき、これにより、オイルの種類が変更になった場合でも、当該オイルの比誘電率を用いてオイルの液位を好適に導出できる。
【0010】
オイルセンサの更なる特徴構成は、
前記回路切替部が前記液質電極に前記容量演算回路部を接続している状態で、前記液質電極により計測され前記容量演算回路部にて演算された前記オイルの容量から前記オイルの比誘電率を導出する比誘電率導出部と、
前記回路切替部が前記液位電極に前記容量演算回路部を接続している状態で、前記液位電極により計測され前記容量演算回路部にて演算された前記オイルの容量と、前記比誘電率導出部にて導出された前記オイルの前記比誘電率とを用いて、前記オイルの前記液位を導出する液位導出部を備える点にある。
【0011】
上記特徴構成によれば、比誘電率導出部が、常にオイルに浸漬されている液質電極の容量から、オイルの比誘電率を良好に導出できる。
更には、液位導出部が、回路切替部が液位電極に容量演算回路部を接続している状態で、液位電極により計測され容量演算回路部にて演算されたオイルの容量と、比誘電率導出部にて導出されたオイルの比誘電率とを用いて、オイルの液位を導出するから、予めオイルの種類に対応する比誘電率を記憶したり入力したりすることなく、その時点で計測された比誘電率からオイルの液位を精度よく導出できる。
尚、本発明は、液質電極に接続される液質電極配線は十分に短い等の構成をとることにより、液質電極配線に基づく浮遊容量が十分に小さい場合に好適に機能する。
【0012】
オイルセンサの更なる特徴構成は、
前記回路切替部が前記液質電極に前記抵抗演算回路部を接続している状態で前記液質電極により計測され前記抵抗演算回路部にて演算された前記オイルの抵抗値の第1所定時間における減少量の絶対値が一定以上である場合で、且つ前記液位導出部にて導出される前記オイルの前記液位が第2所定時間で増加している場合に、劣化度の低い前記オイルが注ぎ足されたと判定する注足判定部を備える点にある。
【0013】
オイル貯留部には、新油(劣化度の低いオイル)が注ぎ足される場合があり、当該オイルが注ぎ足されると、オイルの劣化度が低下するため、それを検知し、液質導出及びオイル劣化度の判定をリセットする必要がある。
一方、オイルの通常の経年劣化であれば、図5の「オイル酸化が進む領域」に示すように、徐々にオイルの抵抗値が低下していくのであるが、劣化度の低い新しいオイルが注ぎ足される場合、図5の「新油が注ぎ足された領域」に示すように、急激にオイルの抵抗値が減少する。これは、新油には、オイル酸化防止添加剤が添加されており、これがオイルの抵抗値を低下させるためである。
本発明の発明者らは、これらのことを鑑みて、回路切替部が液質電極に抵抗演算回路部を接続している状態で液質電極により計測され抵抗演算回路部にて演算されたオイルの抵抗値の第1所定時間における減少量の絶対値が一定以上である場合で、且つ液位導出部にて導出されるオイルの液位が第2所定時間で増加している場合に、劣化度の低いオイルが注ぎ足されたと判定する注足判定部を備えることで、劣化度の低いオイルが注ぎ足されたことを判定できる発明を完成した。
これにより、新油(劣化度の低いオイル)が注ぎ足された場合には、当該事象を適切に判定して、液質導出及びオイル劣化度の判定をリセット等を実行できる。
【0014】
オイルセンサの更なる特徴構成は、
前記液質電極に接続される液質電極配線を除いた前記液質電極のみをオイル浸漬している状態且つ前記回路切替部が前記液質電極に前記容量演算回路部を接続している状態で、前記液質電極により計測され前記容量演算回路部にて演算された前記オイルの容量を基準容量Cqとして記憶する記憶部と、
少なくとも前記液質電極配線の一部がオイル浸漬している状態において、
前記回路切替部が前記液質電極に前記容量演算回路部を接続している状態で前記液質電極により計測され前記容量演算回路部にて演算された前記オイルの容量Ctと、前記回路切替部が前記液質電極に前記抵抗演算回路部を接続している状態で前記液質電極により計測され前記抵抗演算回路部にて演算された前記オイルの抵抗値Rtと、前記記憶部に記憶された前記基準容量Cqとに基づいて、以下の〔式1〕により補正抵抗値Rqを導出する補正抵抗値導出部と、
前記抵抗値Rtに替えて前記補正抵抗値導出部にて導出された前記補正抵抗値Rqに基づいて、補正液質を導出する補正液質導出部とを備える点にある。
Rq=Rt×Ct/Cq 〔式1〕
【0015】
通常、一般的な使用状態においては、液質電極に接続される一対の液質電極配線は、オイルに浸漬される状態となっており、一対の液質電極間の抵抗値を計測する場合、一対の液質電極間の抵抗値と一対の液質電極配線の抵抗値とを並列に接続した抵抗値を計測することになる。
上記特徴構成によれば、補正液質導出部が、〔式1〕に示すように、液質電極の容量と液質電極配線の浮遊容量とを含むオイルの容量Ctと、予め取得していた液質電極のみの容量Cqとに基づいて、一対の液質電極間の抵抗値と一対の液質電極配線の抵抗値とを並列に接続した抵抗値を補正することで、補正抵抗値を導出することができるから、当該補正抵抗値に基づいてより適正なオイルの液質(劣化度)を導出することができる。
【0016】
オイルセンサの更なる特徴構成は、
基準オイルが前記オイル貯留部に貯留されている場合の前記液位電極の容量と前記液位との線形関係の傾きと、前記液質電極のみを満たす前記液位である液質電極液位とを記憶する記憶部と、
前記液質電極に接続される液質電極配線及び前記液位電極の一部がオイル浸漬している状態且つ前記回路切替部が前記液質電極に前記容量演算回路部を接続している状態で、前記液質電極により計測され前記容量演算回路部にて演算された前記オイルの容量から前記オイルの仮の比誘電率である仮比誘電率を導出する比誘電率導出部と、
前記仮比誘電率を導出したときのオイル浸漬状態且つ前記回路切替部が前記液位電極に前記容量演算回路部を接続している状態で、前記液位電極により計測され前記容量演算回路部にて演算された前記オイルの容量と、前記仮比誘電率とから仮の前記液位である仮液位を導出する液位導出部と、
前記記憶部に記憶された前記傾きと、前記液質電極液位と、導出された前記仮液位とから、前記仮比誘電率を導出したときの前記オイルの容量のうち前記液質電極配線に起因する容量である浮遊容量を導出する浮遊容量導出部とを備え、
前記比誘電率導出部が、前記浮遊容量導出部にて導出された前記浮遊容量を、前記仮比誘電率を導出したときの前記オイルの容量から減算した容量から、正の比誘電率である正比誘電率を導出し、
前記液位導出部が、当該正比誘電率と前記仮液位を導出したときの前記オイルの容量とに基づいて、正の前記液位である正液位を導出する液位再校正制御を実行する点にある。
【0017】
液位電極配線の一部がオイルに浸漬している場合、液質電極で計測される容量は、液質電極のみの容量と液位電極配線に基づく浮遊容量との合計容量になり、当該合計容量から導出された仮の比誘電率である仮比誘電率に基づいて導出される液位は、正確な液位とは異なる仮の液位である仮液位となる。
上記特徴構成によれば、浮遊容量導出部により、合計容量のうちの浮遊容量を導出できるから、合計容量から当該浮遊容量を減算することで、液質容量のみの容量を導出でき、当該液質容量のみの容量から正の比誘電率(正比誘電率)を導出できる。
そして、液位導出部が、正比誘電率と仮液位を導出したときのオイルの容量とを用いることにより、正の液位である正液位を導出する形態で、液位の再校正を実現できる。
【0018】
オイルセンサの更なる特徴構成は、
前記液質電極及び前記液位電極が設けられる電極基板の温度を計測する電極基板温度センサと、
前記容量演算回路部及び前記抵抗演算回路部が設けられる回路基板の温度を計測する回路基板温度センサとを各別に備え、
前記電極基板温度センサにて計測される温度による前記電極基板の温度補償制御と、前記回路基板温度センサにて計測される温度による前記回路基板の温度補償制御とを各別に実行可能な温度補償制御部を備える点にある。
【0019】
従来、オイルセンサによる温度補償は、オイル貯留部の外部の温度に基づいて行われるが、オイル貯留部の外部の温度とオイル貯留部に貯留されるオイルの温度とは、大きい温度差が発生する場合が多かった。
上記特徴構成によれば、温度補償制御部は、電極基板温度センサにて計測される温度による電極基板の温度補償制御と、回路基板温度センサにて計測される温度による回路基板の温度補償制御とを実行するから、電極基板及び回路基板の夫々の周囲の実際の温度に基づいて、温度補償制御を実行でき、より実態に即した温度補償を実行できる。
【0020】
オイルセンサの更なる特徴構成は、
前記液質電極に接続される液質電極配線の配線幅は、100μm以上200μm以下の幅とする点にある。
【0021】
上記特徴構成によれば、液質電極配線の配線幅を100μm以上200μm以下の十分に小さい幅にすることで、液質電極配線による浮遊容量を小さくして、当該浮遊容量による液質(オイルの劣化度)や液位の誤差を低減できる。
【0022】
オイルセンサの更なる特徴構成は、
前記オイル貯留部の振動を検知する振動センサを備え、
前記オイルが前記オイル貯留部へ注入された時点以降で前記振動センサにより前記振動が検知されている時間の積算時間である積算時間又は前記振動センサにより検知された前記振動の振動振幅が所定の振動幅判定閾値以上となっている継続時間である高振動幅継続時間の少なくとも何れか一方と、
前記回路切替部が前記液質電極に前記抵抗演算回路部を接続している状態における前記液質電極により計測され前記抵抗演算回路部にて演算された前記オイルの抵抗値とに基づいて、前記オイルの交換時期を判定するオイル交換時期判定部を備える点にある。
【0023】
オイル(劣化度の低いオイル:例えば新油)がオイル貯留部へ注入された時点以降で振動センサにより振動が検知されている時間の積算時間である積算時間は、オイルの実質の使用時間に相当し、振動センサにより検知された振動の振動振幅が所定の振動幅判定閾値以上となっている継続時間である高振動幅継続時間が長いほど、オイルの劣化が進んでいると考えられる。
そこで、オイル交換時期判定部が、当該積算時間及び高振動幅継続時間の少なくとも何れか一方と、オイル抵抗値とに基づいて、オイルの交換時期を判定することで、オイルの交換時期を、より多様なパラメータから判定して、精度の高い交換時期の判定を行うことができる。
【0024】
これまで説明してきたオイルセンサをエンジンの前記オイルを貯留する前記オイル貯留部に設けたガスエンジンヒートポンプは、これまで説明してきたオイルセンサの特異な作用効果を好適に発揮できる。
【0025】
上述のオイルセンサにて取得した情報を、ネットワーク回線を介して取得可能なデータセンターを備え、当該データセンターにてオイル管理を実行するオイル管理システムよれば、例えば、複数のオイルセンサが異なる箇所に設置されている場合であっても、それらから各種情報を取得して、データセンターにて一括で管理できる。
【0026】
上述のオイルセンサを前記オイル貯留部に設けたエンジンの特徴構成は、
前記電極基板温度センサにて計測された温度と前記回路基板温度センサにて計測された温度との温度差が温度判定閾値以上であるときに、エンジン異常であると判定する異常判定部を備える点にある。
【0027】
電極基板はオイル貯留部の内部でオイルに浸漬した状態で設けられるものであり、回路基板はオイル貯留部の外部に設けられる場合が多い。
このような構成において、電極基板温度センサにて計測された温度と回路基板温度センサにて計測された温度との温度差が大きい場合、オイルの温度が異常昇温しておりエンジンに異常が発生している可能性が高い。
そこで、上記特徴構成によれば、異常判定部が、電極基板温度センサにて計測された温度と回路基板温度センサにて計測された温度との温度差が温度判定閾値以上であるときに、エンジン異常であると判定することで、より積極的にエンジンの異常昇温による異常判定を実行できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】実施形態に係るオイルセンサのオイル貯留部への設置状態を示す図である。
図2】実施形態に係るオイルセンサの一部平面図(a)及び側方断面図(b)である。
図3】実施形態に係るオイルセンサの回路切替部を含む回路基板の機能ブロック図である。
図4】制御部の機能ブロック図である。
図5】新油が追加された場合のオイル抵抗値とエンジン稼働時間との関係を示す図である。
図6】抵抗値とオイル劣化度の関係の温度依存性を示すグラフ図である。
図7】液位電極容量と液位の関係の温度依存性を示すグラフ図である。
図8】液質電極と液質電極配線との容量及び抵抗のイメージ図である。
図9】液質電極及び液質電極配線の容量と液位との関係を示すグラフ図である。
図10】液位導出制御に係るフロー図である。
図11】補正液質導出制御に係るフロー図である。
図12】液位再校正制御に係るフロー図である。
図13】温度補償制御に係るフロー図である。
図14】注足判定制御に係るフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の実施形態に係るオイルセンサは、設置が容易にできつつも、オイルの劣化度を含む液質の導出が可能であると共に、オイルの液位も良好に導出可能なものに関する。
以下、図面に基づいて実施形態に係るオイルセンサ、それを備えたエンジン、ガスエンジンヒートポンプ及びオイル管理システムについて説明する。尚、当該実施形態は、エンジンオイルの性状を計測するオイルセンサを、ガスエンジンヒートポンプのガスエンジンに適用したものである。
【0030】
図1には、上記ガスエンジンヒートポンプの一部として、ガスエンジン10と、ガスエンジン10の下部でオイルOを貯留しておくオイルパン11(オイル貯留部の一例)と、オイル管12によりオイルパン11と接続されたオイルタンク13(オイル貯留部の一例)と、当該オイルタンク13に設置されているオイルセンサ100を示している。
当該ガスエンジンヒートポンプでは、オイルパン11とオイルタンク13との両者でオイルOを貯留しており、オイルパン11からオイルOが消費されるに伴い、オイルパン11とオイルタンク13との両者でオイルOの液面が同一位置となる状態が保たれながら、オイルパン11とオイルタンク13とにおけるオイルOの液面の位置が鉛直方向(図1で矢印Zに沿う方向)で徐々に低下するように構成されている。
【0031】
当該実施形態に係るオイルセンサ100は、図2に示すように、オイルタンク13の下方に設置され且つオイルタンク13の内部においてオイルOを間に介在させてオイルOの抵抗値を計測可能な一対の液質電極21と、オイルタンク13の内部に設定され且つ水平方向に交差する方向(図1の設置状態では鉛直方向:矢印Zに沿う方向)に延設される状態でオイルOを間に介在させて液位を計測可能な一対の液位電極22との双方を、一の電極基板20上に一体的に設けて構成されている。即ち、オイルセンサ100の設置状態(図1に示される設置状態)において、電極基板20は、その長手方向を鉛直方向に沿わせた状態で設置される。
また、当該電極基板20には、オイル耐性の高いフッ素樹脂基板を好適に採用することができ、その長手方向で一方側端部に一対の液質電極21が設けられると共に、他方側端部に液質電極21及び液位電極22で計測した値から抵抗値を導出する抵抗演算回路部31や容量を導出する容量演算回路部32等が設けられる回路基板30が設けられている。
尚、図2に示すように、電極基板20と回路基板30とは直結されている。
【0032】
一対の液質電極21は、図1(a)に示すように、一方側の櫛型電極21aの櫛と他方側の櫛型電極21bの櫛とが交互に等間隔に配設される状態で設けられる。更に、一方側の櫛型電極21aから回路基板30へ向けて延設される一方側液質電極配線25cと、他方側の櫛型電極21bから回路基板30へ向けて延設される他方側液質電極配線25dとが、対を成す形態で液質電極配線25として設けられる。
当該液質電極配線25の配線幅は、当該液質電極配線25に伴う浮遊容量を低減するため、100μm以上200μm以下の幅に設定している。
一対の液位電極22は、電極基板20の厚み方向を貫通する形態で設けられると共に電極基板20の長手方向に延設される長尺開孔23の内壁に沿って形成される一方側液位電極22aと他方側液位電極22bとから構成されている。オイルセンサ100がオイルOに浸漬されている場合、一方側液位電極22aと他方側液位電極22bとの間には、長尺開孔23に流入するオイルOが介在する状態となる。
図1、2からわかるように、当該実施形態では、他方側液質電極配線25dと他方側液位電極22bとが共通の電極として使用される。
更に、電極基板20の表面には、一対の液質電極21の近傍に、半導体から成る電極基板温度センサ41が樹脂J2によりポッティング加工された状態で設けられている。尚、当該電極基板温度センサ41の一対の端子のうち、一方側端子は、他方側液質電極配線25dと他方側液位電極22bに接続され、他方側端子は、電極線26及び第2端子T2を介して、制御部Sに接続される。
【0033】
回路基板30は、図2に示すように、樹脂又は金属からなる回路基板筐体40に外囲される形態で設けられており、当該回路基板30にはコネクタKを介して電気通信回線N1が電気的に接続され、電極基板20にて計測された情報及び当該回路基板30により導出された情報を外部に送信可能に構成されている。また、回路基板筐体40の内部には、振動対策により樹脂J2が充填されている。
尚、電極基板20と回路基板筐体40との間には、パッキンPが設けられており、当該パッキンPがオイルタンク13の開口に気密に圧接する形態で、オイルセンサ100がオイルタンク13に装着可能となっている。
【0034】
回路基板30は、図3に示すように、ハードウェア単体及び当該ハードウェアとソフトウェアとの協働により実現される機能部位として、液質電極21又は液位電極22の電極間の容量を演算する容量演算回路部32と、液質電極21の電極間の抵抗値を演算する抵抗演算回路部31と、液質電極21に容量演算回路部32と抵抗演算回路部31とを択一的に切り換え接続すると共に液位電極22に容量演算回路部32を接続可能な回路切替部SWと、当該回路基板30の温度を計測する回路基板温度センサ42と、オイル貯留部としてのオイルパン11及びオイルタンク13の振動として回路基板30の振動を検知する振動センサ33と、種々の演算及び制御を実行する制御部Sとを備えて構成されている。
【0035】
回路切替部SWは、一方側液質電極配線25cの回路基板30近傍の端部である第1端部T1に接続される第1接点と抵抗演算回路部31に接続される第2接点との接続状態・非接続状態を切り換える第1切替部SW1と、上記第1端部T1に接続される第3接点と容量演算回路部32に接続される第4接点との接続状態・非接続状態を切り換える第2切替部SW2と、一方側液位電極22aの回路基板30近傍の端部である第3端部T3に接続される第5接点と容量演算回路部32に接続される第6接点との接続状態・非接続状態を切り換える第3切替部SW3とを備えて構成されている。
因みに、他方側液位電極22bの回路基板30近傍の端部である第4端部T4は、接地されている。
当該回路切替部SWにおいて、第1切替部SW1を接続状態とし且つ第2切替部SW2及び第3切替部SW3を非接続状態とすることで液質電極21に抵抗演算回路部31を接続でき、第1切替部SW1及び第3切替部SW3を非接続とし且つ第2切替部SW2を接続状態とすることで液質電極21に容量演算回路部32を接続でき、第1切替部SW1及び第2切替部SW2を非接続とし且つ第3切替部SW3を接続状態とすることで液位電極22に容量演算回路部32を接続できる。
【0036】
さて、上述した回路基板30に設けられる制御部Sは、各種制御を実行可能な種々の機能部が設けられている。
〔液位導出制御〕
以下、まず、通常の液位導出制御に係る構成及び制御フローについて説明する。
尚、当該液位導出制御は、液質電極配線25c、25d(図2に図示)の配線長が十分に短く且つ配線幅が十分に狭く、当該液質電極配線25c、25dによる浮遊容量が十分に小さいときに、特に有効である。
制御部Sは、図3、4に示すように、回路切替部SWが液質電極21に容量演算回路部32を接続している状態で、液質電極21により計測され容量演算回路部32にて演算されたオイルOの容量からオイルOの比誘電率を導出する比誘電率導出部S3と、回路切替部SWが液位電極22に容量演算回路部32を接続している状態で、液位電極22により計測され容量演算回路部32にて演算されたオイルOの容量と、比誘電率導出部S3にて導出されたオイルOの比誘電率とを用いて、オイルOの液位を導出する液位導出部S4を備える。
【0037】
当該液位導出制御では、図10の制御フローに示すように、まずもって、回路切替部SWにより液質電極21を容量演算回路部32に接続し(#101)、通常は抵抗値を計測する液質電極21により容量を計測して容量演算回路部32により演算し(#102)、演算した液質電極21の容量からオイルOの比誘電率を導出する(#103)。
次に、回路切替部SWにより液位電極22を容量演算回路部32に接続し(#104)、液位電極22の容量を計測する(#105)。
#103にて導出されたオイルOの比誘電率C1と、液位電極22の容量とから液位を以下の〔式2〕により導出する(#106)。
【0038】
Y=a(X×Cref)+b ・・・〔式2〕
【0039】
ここで、Yは液位であり、Xは液位電極22にて計測された容量であり、a、bは、所定の基準オイルを用いた場合の液位と液位電極22の容量から導出された定数であり、Crefは#103にて導出されたオイルOの比誘電率C1を基準オイルの比誘電率C0にて除算した値(C1/C0)である。
以上の液位導出制御の如く、液質電極21の全体がオイルOに浸漬されている状態での液質電極21の容量からオイルOの比誘電率を導出し、導出したオイルOの比誘電率と、液位電極22の容量とから液位を導出することで、種類の不明なオイルOが用いられる場合であっても、適切に液位を導出することができる。
【0040】
〔補正液質導出制御〕
さて、当該実施形態のオイルセンサ100の如く、液質電極配線25を設ける構成においては、液質電極21の容量を計測・演算する場合、液質電極配線25の浮遊容量も含めた容量を計測・演算するため誤差が生じる。当該誤差を補正するべく、制御部Sは以下の構成を備える。
制御部Sは、図3、4に示すように、液質電極21に接続される液質電極配線25を除いた液質電極21のみをオイル浸漬している状態且つ回路切替部SWが液質電極21に容量演算回路部32を接続している状態で、液質電極21により計測され容量演算回路部32にて演算されたオイルOの容量を基準容量Cqとして記憶する記憶部S1を備える。
更に、少なくとも液質電極配線25の一部がオイル浸漬している状態において、回路切替部SWが液質電極21に容量演算回路部32を接続している状態で液質電極21により計測され容量演算回路部32にて演算されたオイルOの容量Ctと、回路切替部SWが液質電極21に抵抗演算回路部31を接続している状態で液質電極21により計測され抵抗演算回路部31にて演算されたオイルOの抵抗値Rtと、記憶部S1に記憶された基準容量Cqとに基づいて、以下の〔式1〕により補正抵抗値Rqを導出する補正抵抗値導出部S5と、抵抗値Rtに替えて補正抵抗値導出部S5にて導出された補正抵抗値Rqに基づいて、補正液質を導出する補正液質導出部S6とを備える。
【0041】
Rq=Rt×Ct/Cq 〔式1〕
【0042】
当該補正液質導出制御では、図11の制御フローに示すように、回路切替部SWにより液質電極21を容量演算回路部32に接続し(#201)、液質電極21のみをオイル浸漬している状態での液質電極21の容量(基準容量)を記憶部S1に記憶する(#202)。
少なくとも液質電極配線25の一部がオイル浸漬する状態(例えば、オイルタンク13にオイルOが100%充填される満液状態)となるまでオイルOを給油し(#203)、液質電極配線25の浮遊容量を含む液質電極21の容量Ctを計測・演算する(#204)。
ここで計測・演算される液質電極配線25の浮遊容量を含む液質電極21の容量Ctは、図8に示すように、液質電極配線25のみの浮遊容量ΔCoと液質電極21のみの容量Cqが並列接続された合計とみなすことができるから、オイルOの液位変化により液質電極配線25の浮遊容量の変化分だけ変化する。
【0043】
次に、回路切替部SWにより液質電極21を抵抗演算回路部31に接続し(#205)、液質電極配線25を含む液質電極21によるオイルOの抵抗値Rtを計測・演算する(#206)。
ここで計測・演算される液質電極配線25の抵抗値を含む液質電極21の抵抗値Rtは、図8に示すように、液質電極配線25のみの抵抗値ΔRoと液質電極21のみの抵抗値Rqが並列接続されたものとみなすことができ、以下の〔式3〕で表される。即ち、液質電極配線25が浸漬される液位により、抵抗値Rtは変化する。
【0044】
Rt=(Rq×ΔRo)/(Rq+ΔRo) ・・・〔式3〕
【0045】
ここで、液質電極21と液質電極配線25に関し、容量と抵抗値は反比例の関係にあり、オイル貯留部(オイルパン11及びオイルタンク13)の内部においてオイルOが同一の物性であるため、以下の〔式4〕の関係が成立する。
【0046】
Cq:(1/Rq)=ΔCo:(1/ΔRo) ・・・〔式4〕
【0047】
〔式4〕をΔRoに関して解き、当該ΔRoを〔式3〕に代入して、Rqに関して解くと、以下の〔式1〕が導かれる。
【0048】
Rq=Rt×Ct/Cq ・・・・〔式1〕
ただし、Ct=Cq+ΔCo
【0049】
即ち、液質電極21のみによるオイルOの抵抗値Rq(補正抵抗値)は、少なくとも液質電極配線25の一部がオイル浸漬している状態において、回路切替部SWが液質電極21に容量演算回路部32を接続している状態で液質電極21により計測され容量演算回路部32にて演算されたオイルOの容量Ctと、回路切替部SWが液質電極21に抵抗演算回路部31を接続している状態で液質電極21により計測され抵抗演算回路部31にて演算されたオイルOの抵抗値Rtと、記憶部S1に記憶された基準容量Cqとに基づいて、上述の〔式1〕により補正抵抗値Rqを導出する(#207)。
【0050】
更に、導出された補正抵抗値Rqに基づいて、補正液質(オイル劣化度)を導出し(#208)、補正抵抗値が判定閾値(オイル種類によって異なる値)以下(オイル劣化度が一定以上)である場合(#209でYES)、オイル交換を外部に報知する報知処理を実行し(#211)、オイル劣化度が一定未満(補正抵抗値が判定閾値未満)である場合(#209でNO)、所定時間待機した後(#210)、#204~#208の処理を繰り返す。
尚、オイルOの抵抗値とオイル劣化度(酸化値)の関係は、図6に示すように、オイルOの抵抗値が減少するに従ってオイル劣化度が進行する関係にあるが、新油を給油直後においては、オイル酸化防止剤の影響により、オイル劣化度が進行しているにも関わらずオイルOの抵抗値が増加する抵抗値増加時間帯が存在する。そこで、当該補正抵抗値導出制御は、抵抗値増加時間帯を除いて実行されるものとする。
【0051】
〔液位再校正制御〕
さて、液質電極配線25の浮遊容量の影響を低減した液位を導出するべく、制御部Sが以下の構成を備えると共に、図12に示す制御フローに沿った制御を実行する。
【0052】
制御部Sでは、図3、4に示すように、記憶部S1が、基準オイル(例えば、現在使用されているオイルOと同一の材料物性のオイル)がオイル貯留部(オイルパン11及びオイルタンク13)に貯留されている場合の液位電極22の容量と液位との線形関係の傾きと、液質電極21のみを満たす液位である液質電極液位とを記憶し、比誘電率導出部S3が、液質電極配線25及び液位電極22の一部がオイル浸漬している状態且つ回路切替部SWが液質電極21に容量演算回路部32を接続している状態で、液質電極21により計測され容量演算回路部32にて演算されたオイルOの容量からオイルOの仮の比誘電率である仮比誘電率を導出し、液位導出部S4が、仮比誘電率を導出したときのオイル浸漬状態且つ回路切替部SWが液位電極22に容量演算回路部32を接続している状態で、液位電極22により計測され容量演算回路部32にて演算されたオイルOの容量と、仮比誘電率とから仮の液位である仮液位を導出する。
更に、制御部Sが、記憶部S1に記憶された傾き及び液質電極液位と、液位導出部S4にて導出された仮液位とから、仮比誘電率を導出したときのオイルOの容量のうち液質電極配線25に起因する容量である浮遊容量を導出する浮遊容量導出部S2を備えている。
そして、比誘電率導出部S3が、浮遊容量導出部S2にて導出された浮遊容量を、仮比誘電率を導出したときのオイルOの容量から減算した容量から、正の比誘電率である正比誘電率を導出し、液位導出部S4が、当該正比誘電率と仮液位を導出したときのオイルOの容量とに基づいて、正の液位である正液位を導出する液位再校正制御を実行する。
【0053】
当該液位再校正制御では、図12の制御フローに示すように、回路切替部SWにより液質電極21を容量演算回路部32に接続し(#301)、液質電極配線25を含む液質電極21の容量を計測・演算し(#302)、導出された浮遊容量も含めた液質電極の容量に基づいて、オイルOの仮の比誘電率である仮比誘電率を導出する(#303)。
【0054】
次に、回路切替部SWにより液位電極22を抵抗演算回路部31に接続し(#304)、液位電極22の容量を計測・演算し(#305)、当該#305で導出した液位電極22の容量と、#303で導出した仮比誘電率とから仮の液位である仮液位を導出する(#306)。
【0055】
その後、記憶部S1に記憶される傾き及び液質電極液位と、#306で導出された仮液位とから、#302で演算した液質電極21の容量に含まれる浮遊容量を導出する(#307)。
即ち、図9に示すように、#306で導出された仮液位から液質電極液位を減算した値に傾きを積算することで、浮遊容量が導出される。
【0056】
#302で導出した浮遊容量を含めた液質電極21の容量から、#307で導出した浮遊容量を減算して、液質電極21のみの容量を導出し、当該液質電極21のみの容量から、オイルOの正比誘電率を導出する(#308)。
#308で導出したオイルOの正比誘電率と、#305で計測・演算した液位電極22の容量から正液位を導出する。
【0057】
〔温度補償制御〕
上述したように、当該実施形態に係るオイルセンサ100には、電極基板20に対して電極基板20の周囲の温度(主にオイルOの温度)を計測する電極基板温度センサ41が設けられ、回路基板30に対して回路基板30の周囲の温度(主にオイル貯留部の周囲の大気温度)を計測する回路基板温度センサ42とが各別に設けられ、当該実施形態に係るオイルセンサ100では、これらに計測される温度により温度補償制御、及びそれに付随してエンジン異常の判定が実行される。
制御部Sは、図3、4に示すように、電極基板温度センサ41にて計測される温度tαによる電極基板20の温度補償制御と、回路基板温度センサ42にて計測される温度tβによる回路基板30の温度補償制御とを各別に実行可能な温度補償制御部S8を備えると共に、電極基板温度センサ41にて計測された温度tαと回路基板温度センサ42にて計測された温度tβとの温度差が温度判定閾値以上であるときに、エンジン異常であると判定する異常判定部S9を備える。
ここで、回路基板30の温度補償制御は、回路基板温度センサ42の計測結果に基づいて、記憶部S1に記憶される温度毎の回路温度特性を選択する形態で温度補償を行うものである。一方、電極基板20の温度補償制御は、液質電極21については、抵抗値とオイル酸化度との関係において、図6に示すように、オイル温度が高くなるほど、抵抗値が低くなる傾向に基づいて補正するものであり、液位電極22については、液位と容量の関係において、図7に示すように、オイル温度が高くなるほど液位が高くなる傾向に基づいて補正するものである。
【0058】
当該温度補償制御は、図13の制御フローに示すように、まずもって、抵抗演算回路部31及び容量演算回路部32を有する回路基板30に設けられる回路基板温度センサ42により温度を計測し(#401)、計測された温度に基づいて、抵抗演算回路部31及び容量演算回路部32の温度特性を補正する(#402)。
更に、電極基板20に設けられる電極基板温度センサ41により温度を計測し(#403)、計測された温度に基づいて、液質電極21及び液位電極22の温度特性を補正する(#404)。
その後、温度特性が補正された状態で、液質及び液位を導出する各種制御を実行する(#405)。
次に、電極基板温度センサ41にて計測される温度が回路基板温度センサ42にて計測される温度より温度判定閾値以上高い場合(#406でYES)、エンジン異常を報知する報知処理を実行し(#407)、温度判定閾値未満の場合(#406でNO)、報知処理を行わずに制御を終了する。
【0059】
〔注足判定制御〕
オイル貯留部には、新油(劣化度の低いオイル)が注ぎ足される場合があり、当該オイルOが注ぎ足されると、オイルOの劣化度が低下するため、それを検知し、液質導出及びオイル劣化度の判定をリセットする必要がある。
新油(劣化度の低いオイル)が注ぎ足されると、図5に示すように、オイルOの抵抗値は、注ぎ足された直後に比較的急峻に減少するという傾向がある。更に、オイルOが注ぎ足された場合、オイルOの液位は上昇する。
そこで、制御部Sは、回路切替部SWが液質電極21に抵抗演算回路部31を接続している状態で液質電極21により計測され抵抗演算回路部31にて演算されたオイルOの抵抗値の第1所定時間における減少量の絶対値が一定以上である場合で、且つ液位導出部S4にて導出されるオイルOの液位が第1所定時間で増加している場合に、劣化度の低いオイルが注ぎ足されたと判定する注足判定部S7を備える。
【0060】
当該注足判定制御は、図14の制御フローに示すように、回路切替部SWにより液質電極21を抵抗演算回路部31に接続し(#501)、液質電極21の抵抗値を経時的に計測・演算する(#502)。
経時的に計測・演算した液質電極21の抵抗値の第1所定時間における減少量の絶対値が一定以上である場合(#503でYES)、新油(劣化度の低いオイル)が注ぎ足された可能性があるものとし、後述する#505以降の処理を実行し、経時的に計測・演算した液質電極21の抵抗値の第1所定時間における減少量の絶対値が一定未満である場合(#503でNO)、所定時間待機した後(#504)に、#502、#503の処理を繰り返す。
次に、回路切替部SWにより液質電極21を容量演算回路部32に接続し(#505)、通常は抵抗値を計測する液質電極21により容量を計測して演算し(#506)、演算した液質電極21の容量からオイルOの比誘電率を導出する(#507)。
更に、回路切替部SWにより液位電極22を容量演算回路部32に接続し(#508)、液位電極22の容量を計測・演算し(#509)、#507にて導出されたオイルOの比誘電率と、液位電極22の容量とから液位を経時的に導出する(#510)。
経時的に導出した液位が第2所定時間で増加している場合(#511でYES)、新油(劣化度の低いオイル)が注ぎ足されたと判定し、液質導出及びオイル劣化度の判定をリセットし(#512)、経時的に導出した液位が第2所定時間で増加していない場合(#511でNO)、#509~#511の処理を繰り返す。
【0061】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態では、オイルセンサ100は、ガスエンジン10のオイル貯留部に対して適用される構成例を示したが、ガスエンジンに限らず、ガソリンエンジン等に適用することも可能である。
更には、エンジン以外の圧縮機のオイルセパレータ等にも好適に適用可能である。
【0062】
(2)図示は省略するが、上記実施形態に係るオイルセンサ100にて計測・導出した各種情報を、ネットワーク回線を介して取得可能なデータセンターを備え、当該データセンターにてオイル管理を実行するオイル管理システムも、本願の権利範囲に含むものである。
【0063】
(3)上記実施形態では、補正液質導出制御及び液位再校正制御を実行する例を示したが、液質電極配線25c、25d(図2に図示)の配線長が十分に短く且つ配線幅が十分に狭く、当該液質電極配線25c、25dによる浮遊容量が十分に小さい場合等では、これらの制御を省略しても構わない。
また、これに伴い補正液質導出部S6等を省略することができる。
【0064】
(4)上記実施形態において、オイルOの注ぎ足しを判定する注足判定制御は、必ずしも実行する必要はなく、注足判定部S7を備えなくても構わない。
【0065】
(5)上記実施形態において、温度補償制御を実行したが、温度変化が少ない環境においては、当該温度補償制御は実行しなくても構わず、温度補償制御部S8を設けなくても構わない。
【0066】
(6)オイルの交換時期は、オイル貯留部が設けられるエンジン等の原動機の実質駆動時間にも影響を受けるものである。
そこで、オイルの交換時期を判定する指標として、オイルOの抵抗値に加えて、オイル貯留部の振動を採用しても構わない。
具体的には、図3、4に示すように、新しいオイルOがオイルタンク13へ注入された時点以降で振動センサ33により振動が検知されている時間の積算時間Tm又は振動センサ33により検知された振動の振動振幅が所定の振動幅判定閾値以上となっている継続時間である高振動幅継続時間Tnの少なくとも何れか一方と、回路切替部SWが液質電極に抵抗演算回路部を接続している状態における液質電極21により計測され抵抗演算回路部31にて演算されたオイルOの抵抗値とに基づいて、オイルOの交換時期を判定するオイル交換時期判定部S10を備える構成を作用しても構わない。
【0067】
(7)上記実施形態に示したオイルセンサ100は、当該オイルセンサ100にて取得した情報を、ネットワーク回線(図示せず)を介して取得可能なデータセンター(図示せず)を備え、当該データセンターにてオイル管理を実行するオイル管理システムにも好適に適用可能である。
【0068】
尚、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明のオイルセンサ、それを備えたエンジン、ガスエンジンヒートポンプ及びオイル管理システムは、設置が容易にできつつも、オイルの劣化度を含む液質の導出が可能であると共に、オイルの液位も良好に導出可能なオイルセンサ、それを備えたエンジン、ガスエンジンヒートポンプ及びオイル管理システムとして、有効に利用可能である。
【符号の説明】
【0070】
11 :オイルパン
20 :電極基板
21 :液質電極
22 :液位電極
25 :液質電極配線
30 :回路基板
31 :抵抗演算回路部
32 :容量演算回路部
33 :振動センサ
41 :電極基板温度センサ
42 :回路基板温度センサ
100 :オイルセンサ
Cq :基準容量
O :オイル
Rq :抵抗値
S :制御部
S1 :記憶部
S10 :オイル交換時期判定部
S2 :浮遊容量導出部
S3 :比誘電率導出部
S4 :液位導出部
S5 :補正抵抗値導出部
S6 :補正液質導出部
S7 :注足判定部
S8 :温度補償制御部
S9 :異常判定部
SW :回路切替部
Tm :積算時間
Tn :高振動幅継続時間
Z :矢印
ΔCo :浮遊容量
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