(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】建物構造
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20241004BHJP
E04B 1/20 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
E04H9/02 301
E04H9/02 321B
E04B1/20 A
(21)【出願番号】P 2021099963
(22)【出願日】2021-06-16
【審査請求日】2023-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】脇田 拓弥
(72)【発明者】
【氏名】河本 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】辰濃 達
(72)【発明者】
【氏名】川岡 千里
(72)【発明者】
【氏名】神戸 寛史
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-079799(JP,A)
【文献】特開2006-328797(JP,A)
【文献】特開2012-211506(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00-9/16
E04B 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部架構部と外部架構部を備えた建物構造であって、
前記内部架構部は、複数の連層耐震壁と、隣接する前記連層耐震壁同士を鉛直方向に接続するオイルダンパーと、を備え、
前記内部架構部と前記外部架構部とを接続する境界梁を備え、
前記連層耐震壁の壁脚部は、前記内部架構部を支持する基礎部にピン接合または半剛接合されて
おり、
前記連層耐震壁の前記壁脚部と前記基礎部との接合面には、これらを跨ぐように芯鉄筋が配置され、該芯鉄筋の両材端部が前記連層耐震壁、及び前記基礎部に定着されていることを特徴とする建物構造。
【請求項2】
内部架構部と外部架構部を備えた建物構造であって、
前記内部架構部は、複数の連層耐震壁と、隣接する前記連層耐震壁同士を鉛直方向に接続するオイルダンパーと、を備え、
前記内部架構部と前記外部架構部とを接続する境界梁を備え、
前記連層耐震壁の壁脚部は、前記内部架構部を支持する基礎部にピン接合または半剛接合されており、
前記内部架構部と前記外部架構部は、前記境界梁に、ピン接合または半剛接合され、
前記内部架構部と前記境界梁との接合面、及び前記外部架構部と前記境界梁との接合面には滑り板が配置されていることを特徴とする建物構造。
【請求項3】
前記連層耐震壁の前記壁脚部は、鋼繊維コンクリートまたは高強度コンクリートで形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の建物構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部架構部と外部架構部を備えた建物構造に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の制振性能を高めるため、様々な提案がなされている。
例えば中低層の建物に関して、特許文献1には、建物の下層階の柱と梁をピン接合とし、地震力に対する水平剛性を小さくする構成が開示されている。特許文献1においては特に、例えばラーメン構造として実現した躯体に対して、ダンパを介して建物の梁が接続されている。
また、特許文献2には、連層耐震壁を用いた構造物が開示されている。特に高層の建物に関しては、特許文献1における躯体として耐震壁を設け、これにダンパを介して、周囲の構造を連結することが考えられる。このような建物として、例えば、特許文献3には、内部に鉛直方向に延びる空間を有する外部建物と、空間内に外部建物との間に隙間を設けるように構築され、耐震壁が用いられることにより外部建物よりも高い剛性を有する内部建物と、外部建物と内部建物との間を接続するように設けられた制震ダンパーと、を備える構成が開示されている。
建物構造においては、より効率的に振動エネルギーを吸収し、かつ変形性能をさらに高めることが常に望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-223041号公報
【文献】特許第4124777号公報
【文献】特開2012-211506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、効率的に振動エネルギーを吸収し、かつ高い変形性能を有する建物構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明の建物構造は、内部架構部と外部架構部を備えた建物構造であって、前記内部架構部は、複数の連層耐震壁と、隣接する前記連層耐震壁同士を鉛直方向に接続するオイルダンパーと、を備え、前記内部架構部と前記外部架構部とを接続する境界梁を備え、前記連層耐震壁の壁脚部は、前記内部架構部を支持する基礎部にピン接合または半剛接合されていることを特徴とする。
このような構成によれば、内部架構部が、複数の連層耐震壁を有し、隣接する連層耐震壁同士がオイルダンパーによって鉛直方向に接続されている。また、連層耐震壁の壁脚部は、内部架構部を支持する基礎部にピン接合または半剛接合されている。よって、地震発生時に外力が作用した際には、連層耐震壁が基礎部との接合部を基点として回転して傾斜し、連層耐震壁同士の間に生じる鉛直方向の変位をオイルダンパーの伸縮に変換して、地震エネルギーを吸収する。これにより、内部架構部において、地震エネルギーを効率的に吸収することができる。また、内部架構部を構成する連層耐震壁は高い剛性を有するため、基礎部との接合部を基点とした回転以外では大きく変形、変位することが抑えられて、連層耐震壁が心棒として作用することで、建物の特定層に変形が集中することが抑制される。
このようにして、効率的に振動エネルギーを吸収し、かつ高い変形性能を有する建物構造を提供することができる。
【0006】
本発明の一態様においては、前記連層耐震壁の前記壁脚部と前記基礎部との接合面には、これらを跨ぐように芯鉄筋が配置され、該芯鉄筋の両材端部が前記連層耐震壁、及び前記基礎部に定着されている。
このような構成によれば、連層耐震壁の壁脚部と基礎部との接合面を跨ぐように芯鉄筋が配置されているため、連層耐震壁は、当該接合面内の芯鉄筋が設けられた部分を基点として、回転する。したがって、連層耐震壁の壁脚部の、基礎部に対するピン接合または半剛接合を、適切に実現することができる。
また、連層耐震壁に生じる鉛直引張力に芯鉄筋が抵抗し、連層耐震壁の浮き上がりを抑制することができる。
【0007】
本発明の一態様においては、前記連層耐震壁の前記壁脚部は、鋼繊維コンクリートまたは高強度コンクリートで形成されている。
このような構成によれば、連層耐震壁の壁脚部が、鋼繊維コンクリートまたは高強度コンクリートで形成されることで、鉛直方向から伝達される圧縮力に対して高い圧縮抵抗力を発揮できるとともに、壁脚部の破損やひび割れ等を抑制可能である。
【0008】
本発明の一態様においては、前記内部架構部と前記外部架構部は、前記境界梁に、ピン接合または半剛接合され、前記内部架構部と前記境界梁との接合面、及び前記外部架構部と前記境界梁との接合面には滑り板が配置されている。
このような構成によれば、内部架構部と外部架構部とが、これら双方にピン接合または半剛接合された境界梁によって接合されているので、内部架構部と外部架構部との間では曲げモーメントやせん断力は伝達されず、軸力のみが伝達される。このため、地震発生時においては、外部架構部の変形に伴って外部架構部に生じる曲げモーメントの、内部架構部への伝達が抑制され、なおかつ、内部架構部の連層耐震壁の、基礎部との接合部を基点とした回転が、外部架構部及び境界梁によって制限されにくい。したがって、連層耐震壁を、基礎部との接合部を基点として十分に回転させて、オイルダンパーの減衰力を有効に発揮させることができる。
また、内部架構部と境界梁との接合面、及び外部架構部と境界梁との接合面には滑り板が配置されることで、境界梁に曲げモーメントが作用した際に、内部架構部、外部架構部に対して境界梁が容易に回転可能な構成とするとともに、接合面における境界梁や内部架構部、外部架構部の破損を抑制可能である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、効率的に振動エネルギーを吸収し、かつ高い変形性能を有する建物構造を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る建物構造を示す縦断面図である。
【
図4】連層耐震壁の壁脚部と基礎部との接合部の構成を示す縦断面図である。
【
図7】
図6のIII-III部分の横断面図である。
【
図9】本発明の実施形態の変形例における連層耐震壁の壁頭部の構成を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、オイルダンパーが鉛直方向に複数配置された内部架構部と外部架構部とが境界梁で連結された建物構造である。内部架構部には、複数の平面視L字状の連層耐震壁同士をロ形状に配置させるとともに、連層耐震壁同士を鉛直方向に接続するオイルダンパーとを備えている。また、連層耐震壁の壁脚部は、内部架構部を支持する基礎部にピン接合または半剛接合されている。
以下、添付図面を参照して、本発明による建物構造を実施するための形態について、図面に基づいて説明する。
本発明の実施形態に係る建物構造を示す縦断面図を
図1に示す。
図2は、
図1の建物の下半部を示す拡大図である。
図3は、
図2のI-I部分の横断面図である。
図1、
図2に示されるように、建物1は、地盤G中に構築された基礎部10と、外部架構部20と、内部架構部30と、境界梁40と、を主に備えている。
外部架構部20、及び内部架構部30は、基礎部10上に支持されている。
図2、
図3に示されるように、外部架構部20は、建物1の外周部を構成する。外部架構部20は、上方から見て、中央部に上下方向に連続する開口25を備えている。外部架構部20は、柱21と、梁22と、を有している。各柱21は、上下方向に延びている。柱21として、建物1の外周面に臨む位置に配置された外周側の柱21Pと、開口25に臨む内周側の柱21Qとが設けられている。梁22は、外部架構部20の各階層において、互いに隣り合う柱21間に架設されている。
【0012】
内部架構部30は、外部架構部20の内側に設けられている。本実施形態においては、内部架構部30は、外部架構部20の開口25内に設けられている。
内部架構部30は、平面視矩形状で、全体として、上下方向に連続する略筒状をなしている。内部架構部30の内側は、例えば、タワーパーキング、エレベータシャフト、階段室等が設けられる。内部架構部30の外周面30fと、外部架構部20の開口25の内周面25f、すなわち外部架構部20の、内周側の柱21Q間に架設された梁22Qの、建物1内側の側面とは、水平方向に間隔をあけて配置されている。
内部架構部30は、複数の連層耐震壁31と、オイルダンパー35と、を備えている。複数の連層耐震壁31は、本実施形態においては、鉄筋コンクリート造である。複数の連層耐震壁31は、内部架構部30の外周部に沿って設けられている。本実施形態において、各連層耐震壁31は、平面視L字状で、第一壁部31aと、第一壁部31aに直交する第二壁部31bと、を有している。各連層耐震壁31は、平面視矩形状の内部架構部30の四隅に配置されている。より詳細には、複数の連層耐震壁31の各々は、第一壁部31aと第二壁部31bが接合されて角となっている部分が平面視矩形状の内部架構部30の角を形成し、第一壁部31aと第二壁部31bがそれぞれ内部架構部30の互いに直交する辺を形成するように並べられており、これら複数の連層耐震壁31によって外周を囲われるように、内部架構部30は形成されている。互いに隣り合う連層耐震壁31同士は、水平方向に隙間Sをあけて配置されている。上記のように、内部架構部30の外周面30fと、外部架構部20の開口25の内周面25fとは、水平方向に間隔をあけて配置されているため、複数の連層耐震壁31の各々は、外部架構部20の、複数の連層耐震壁31に対向して位置する内周側の柱21Qから離間して設けられている。
【0013】
基礎部10は、内部架構部30を支持する支持体13を備えている。
図2に示すように、各連層耐震壁31は、支持体13上に支持されている。支持体13は、本実施形態においては、鉄筋コンクリート造である。支持体13は、基礎部10の中央上側に設けられており、直方体状の支持体基部13aと、支持体基部13aの四隅13cから上方に延びる柱状部13bと、を一体に有している。各連層耐震壁31の壁脚部31dは、柱状部13b上に設けられている。
図4は、連層耐震壁の壁脚部と基礎部との接合部の構成を示す縦断面図である。
図5は、
図4のII-II部分の横断面図である。
以下に説明するように、壁脚部31dは、柱状部13bに、ピン接合または半剛接合されている。本実施形態において、壁脚部31dは、柱状部13bに半剛接合されている。
図2に示すように、各連層耐震壁31は、下辺が、支持体基部13aの四隅13cの各々に向かって傾斜するような斜辺31eとなるように形成されている。これにより、壁脚部31dは、下方に向かって水平面内における断面積が漸次小さくなっている。
図4、
図5に示すように、壁脚部31dの下端部は、上下方向に延びる断面円形の円柱をなしている。壁脚部31dの下面には、下方に向かって突出する下面凸部31cが形成されている。下面凸部31cは、上方から下方に向かって水平面内における断面積が縮小している。下面凸部31cは、柱状部13b上に支持されている。
【0014】
壁脚部31dと基礎部10の支持体13の柱状部13bとの接合面には、これらを跨ぐように芯鉄筋51が配置されている。芯鉄筋51は、下面凸部31cの外周部に、周方向に間隔をあけて複数本設けられている。各芯鉄筋51は、上下方向に延び、その上方の材端部が連層耐震壁31の壁脚部31d内に定着され、下方の材端部が基礎部10の支持体13の柱状部13b内に定着されている。また、複数本の芯鉄筋51の周囲には、周方向に連続する円環状のせん断補強筋52が配筋されている。
図5に示されるように、壁脚部31dの中央部、つまり複数本の芯鉄筋51の内側には、せん断抵抗用の鉄筋53が配置されている。せん断抵抗用の鉄筋53は、壁脚部31dの中央部に周方向に間隔をあけて配置されている。せん断抵抗用の鉄筋53も、芯鉄筋51と同様、上下方向に延び、その上方の材端部が連層耐震壁31の壁脚部31d内に定着され、下方の材端部が基礎部10の支持体13の柱状部13b内に定着されている。
【0015】
連層耐震壁31の壁脚部31dと、支持体13の柱状部13bとは、上記のように、芯鉄筋51と鉄筋53のみを介して連結、接合されている。また、壁脚部31dの下面には、下方に向かって突出する下面凸部31cが形成されており、下面凸部31cの周囲の、壁脚部31dの下面と柱状部13bの上面との間には空隙が形成されている。このように、地震時等には、壁脚部31dと柱状部13bの接合部を基点として、連層耐震壁31が傾斜、回転しやすい構造となっている。また、連層耐震壁31の壁脚部31dは、本明細書では
図2に示すように、支持体13と接続する連層耐震壁31の最下端から斜辺31eの上辺までの範囲Rと定義する。
壁脚部31dには、鋼繊維コンクリート、または高強度コンクリートが用いられている。本実施形態では、壁脚部31dに鋼繊維コンクリートが用いられることで、壁脚部31dのひび割れ等の損傷が抑えられる。
【0016】
図2に示すように、オイルダンパー35は、隣接する連層耐震壁31同士の間に配置されている。オイルダンパー35は、隣接する連層耐震壁31同士を鉛直方向に接続する。隣接する連層耐震壁31の各々には、鉄骨ブラケット37A、37Bが設けられている。隣接する連層耐震壁31のうち、一方の連層耐震壁31Aには、鉄骨ブラケット37Aが設けられている。鉄骨ブラケット37Aの基部は、連層耐震壁31Aを構成するコンクリート中に埋設されている。鉄骨ブラケット37Aの先端部は、隣接する他方の連層耐震壁31Bに向けて、連層耐震壁31Aから水平方向に突出している。隣接する連層耐震壁31のうち、他方の連層耐震壁31Bには、鉄骨ブラケット37Bが設けられている。鉄骨ブラケット37Bは、鉄骨ブラケット37Aに対して上方に間隔をあけて配置されている。鉄骨ブラケット37Bの基部は、連層耐震壁31Bを構成するコンクリート中に埋設されている。鉄骨ブラケット37Bの先端部は、隣接する他方の連層耐震壁31Aに向けて、連層耐震壁31Bから水平方向に突出している。隣接する連層耐震壁31同士の間の隙間Sにおいて、鉄骨ブラケット37Aの先端部と、鉄骨ブラケット37Bの先端部とは、上下方向に間隔をあけて配置されている。オイルダンパー35は、上下方向に延び、鉄骨ブラケット37Aの先端部と、鉄骨ブラケット37Bの先端部との間に設けられている。オイルダンパー35は、一方の連層耐震壁31Aに設けられた鉄骨ブラケット37Aと、他方の連層耐震壁31Bに設けられた鉄骨ブラケット37Bとの上下方向における相対変位のエネルギーを吸収する。
【0017】
このような内部架構部30においては、各連層耐震壁31の壁脚部31dが、基礎部10の支持体13に、上記のように半剛接合されることで、地震発生時に外力が作用した際には、連層耐震壁31が、壁脚部31dと柱状部13bの接合部を基点として回転して傾斜する。
例えば、
図2において、連層耐震壁31Aと連層耐震壁31Bが共に、壁脚部31dと柱状部13bの接合部を基点として、右側に傾斜するように、回転する場合を考える。このような場合においては、
図2において右側に位置する連層耐震壁31Bに接合された鉄骨ブラケット37Bの、連層耐震壁31Aに向けて突出した先端は、上方へと移動するように変位する。他方、
図2において左側に位置する連層耐震壁31Aに接合された鉄骨ブラケット37Aの、連層耐震壁31Bに向けて突出した先端は、下方へと移動するように変位する。これによって、鉄骨ブラケット37Aと鉄骨ブラケット37Bの各々の先端は、上下方向に互いに離れるように、変位する。
逆に、連層耐震壁31Aと連層耐震壁31Bが共に、壁脚部31dと柱状部13bの接合部を基点として、左側に傾斜するように、回転する場合においては、鉄骨ブラケット37Aと鉄骨ブラケット37Bの各々の先端は、上下方向に互いに接近するように、変位する。
このようにして隣接する連層耐震壁31同士の間に生じる、鉛直方向の相対変位は、オイルダンパー35の伸縮に変換され、効率的に吸収される。
また、連層耐震壁31に鉄骨ブラケット37A、37Bを設置することで、ブラケット本体にひびわれを発生させることなく、隣接する連層耐震壁31同士の間の鉛直方向の相対変位を、オイルダンパー35の伸縮に、効率的に変換させることができる。
【0018】
図3に示すように、建物1の各階層には、外部架構部20の開口25の内周面25fから、内部架構部30側に張り出して片持ち状に形成された、はね出しスラブ28が設けられている。
図3において、はね出しスラブ28の先端、すなわち内側の端辺は、二点鎖線で示されている。はね出しスラブ28の先端と、内部架構部30の外周面30f(
図2参照)、より具体的には内部架構部30を構成する各連層耐震壁31の外周面との間には、例えば50mm程度の間隙が形成されている。このように、はね出しスラブ28の先端は、内部架構部30と縁切りされている。
連層耐震壁31同士が隣り合う部分において、隙間Sを挟んだ両側に位置する連層耐震壁31の外周面と、はね出しスラブ28の先端面とには、それぞれ、例えばステンレス製の押さえ板38が設けられている。このような押さえ板38は、地震時等に連層耐震壁31が捻れるように変形するのを抑える。
【0019】
図2、
図3に示すように、境界梁40は、内部架構部30と外部架構部20とを接続する。境界梁40は、上下方向に複数階層分の間隔をあけて配置されている。境界梁40は、内部架構部30の四隅から、外部架構部20の開口25に臨む内周側の柱21Q、又は内周側の梁22Qに延びている。境界梁40は、各連層耐震壁31の第一壁部31aに直交する第一境界梁40Aと、第二壁部31bに直交する第二境界梁40Bと、を備えている。
図6は、境界梁を示す側断面図である。
図7は、境界梁を示す平断面図である。
図8は、境界梁の延伸方向に直交する断面図である。
図6に示すように、各境界梁40は、はね出しスラブ28の下側に間隔をあけて配置されている。各境界梁40は、内部架構部30、および外部架構部20の双方に対し、ピン接合、または半剛接合されている。本実施形態において、各境界梁40は、以下に説明するように、内部架構部30、および外部架構部20の双方に対し、ピン接合されている。これにより、境界梁40は、外部架構部20と内部架構部30との間で、主に軸力のみの応力を負担する。
【0020】
図6~
図8に示すように、境界梁40は、内部架構部30と外部架構部20との間で水平方向に延び、上下方向に扁平な矩形状の断面を有している。境界梁40は、鋼繊維コンクリートからなるコンクリート部42と、コンクリート部42に埋設された梁鉄筋44と、を有している。境界梁40は、コンクリート部42に鋼繊維コンクリートを採用することで、境界梁40に繰り返し作用する大きな軸力によるコンクリート部42の損傷や、ひび割れが抑制される。このような境界梁40には、プレキャスト部材が用いられる。
【0021】
さらに、境界梁40は、境界梁40の断面中央部に埋設された梁主筋46をさらに備えている。梁主筋46は、コンクリート部42の両端部から、内部架構部30側、および外部架構部20側にそれぞれ突出し、内部架構部30の連層耐震壁31、及び外部架構部20の内周側の柱21Qまたは梁22Qを形成するコンクリート内に定着されている。なお、梁主筋46は、境界梁40内、及び内部架構部30、及び外部架構部20内において境界梁40の梁端40a、40bから所定長(例えば150mm)の範囲Aにおいて、アンボンドとされて、境界梁40、内部架構部30、及び外部架構部20を形成するコンクリートとの付着が解除されている。この梁主筋46は、範囲Aに対して両外側の部分で、内部架構部30、及び外部架構部20内に定着されている。
境界梁40の梁端40a、40bと、内部架構部30、及び外部架構部20において梁端40a、40bと対向する部分との間には、それぞれ滑り板45が設けられている。この滑り板45は、境界梁40の梁鉄筋46とコンクリート部42とがアンボンド処理されて埋設されているために境界梁40においてピン接合の挙動を示し、境界梁40に作用する局部圧縮応力によるコンクリートの破損を抑制する。
【0022】
地震等により、建物1が傾斜しようとすると、境界梁40は、梁端40a、40bの各々を基点として、上下方向に回転する。境界梁40と、内部架構部30の連層耐震壁31、及び外部架構部20の内周側の柱21Qまたは梁22Qとは、上記のように、梁主筋46のみを介して連結、接合されている。このため、境界梁40と、内部架構部30の連層耐震壁31、及び外部架構部20の内周側の柱21Qまたは梁22Qとの接合部を基点として、境界梁40が回転しやすい構造となっている。
ここで、上記のように、梁主筋46は、境界梁40を形成するコンクリートに定着されていないため、上記のような境界梁40の回転を妨げにくい。
【0023】
上述したような建物構造は、内部架構部30と外部架構部20を備えた建物構造であって、内部架構部30は、複数の連層耐震壁31と、隣接する連層耐震壁31同士を鉛直方向に接続するオイルダンパー35と、を備え、内部架構部30と外部架構部20とを接続する境界梁40を備え、連層耐震壁31の壁脚部31dは、内部架構部30を支持する基礎部10にピン接合または半剛接合されている。
このような構成によれば、内部架構部30が、複数の連層耐震壁31を有し、隣接する連層耐震壁31同士がオイルダンパー35によって鉛直方向に接続されている。また、連層耐震壁31の壁脚部31dは、内部架構部30を支持する基礎部10にピン接合または半剛接合されている。よって、地震発生時に外力が作用した際には、連層耐震壁31が基礎部10との接合部を基点として回転して傾斜し、連層耐震壁31同士の間に生じる鉛直方向の変位をオイルダンパー35の伸縮に変換して、地震エネルギーを吸収する。これにより、内部架構部30において、地震エネルギーを効率的に吸収することができる。また、内部架構部30を構成する連層耐震壁31は高い剛性を有するため、基礎部10との接合部を基点とした回転以外では大きく変形、変位することが抑えられて、連層耐震壁31が心棒として作用することで、建物1の特定層に変形が集中することが抑制される。
このようにして、建物1内部に頑強な連層耐震壁31を設定して心棒的な挙動を発揮させながら、連層耐震壁31同士の鉛直変位を集中的に配置したオイルダンパー35の伸縮に変換することで効率的に振動エネルギーを吸収し、かつ高い変形性能を有する建物構造を提供することができる。
【0024】
特に本実施形態においては、連層耐震壁31は、基礎部10とピン接合または半剛接合で接合されるとともに、内部架構部30を構成する連層耐震壁31が、上下方向に複数階層分の間隔をあけて配置された境界梁40を介して、外部架構部20と連結されている。このように、境界梁40の設置数を低減して設計自由度を高めつつ、連層耐震壁31と外部架構部20との間の接合度を低減させている。そして、連層耐震壁31の回転を許容して、オイルダンパー35の減衰力を有効に発揮させている。
【0025】
また、連層耐震壁31の壁脚部31dと基礎部10との接合面には、これらを跨ぐように芯鉄筋51が配置され、該芯鉄筋51の両材端部が連層耐震壁31、及び基礎部10に定着されている。
このような構成によれば、連層耐震壁31の壁脚部31dと基礎部10との接合面を跨ぐように芯鉄筋51が配置されているため、連層耐震壁31は、当該接合面内の芯鉄筋51が設けられた部分を基点として、回転する。したがって、連層耐震壁31の壁脚部31dの、基礎部10に対するピン接合または半剛接合を、適切に実現することができる。
また、連層耐震壁31に生じる鉛直引張力に芯鉄筋51が抵抗し、連層耐震壁31の浮き上がりを抑制することができる。
【0026】
また、連層耐震壁31の壁脚部31dは、鋼繊維コンクリートまたは高強度コンクリートで形成されている。
このような構成によれば、連層耐震壁31の壁脚部31dが、鋼繊維コンクリートまたは高強度コンクリートで形成されることで、鉛直方向から伝達される圧縮力に対して高い圧縮抵抗力を発揮できるとともに、壁脚部31dの破損やひび割れ等を抑制可能である。
【0027】
また、内部架構部30と外部架構部20は、境界梁40に、ピン接合または半剛接合され、内部架構部30と境界梁40との接合面、及び外部架構部20と境界梁40との接合面には滑り板45が配置されている。
このような構成によれば、内部架構部30と外部架構部20とが、これら双方にピン接合または半剛接合された境界梁40によって接合されているので、内部架構部30と外部架構部20との間では曲げモーメントやせん断力は伝達されず、軸力のみが伝達される。このため、地震発生時においては、外部架構部20の変形に伴って外部架構部20に生じる曲げモーメントの、内部架構部30への伝達が抑制され、なおかつ、内部架構部30の連層耐震壁31の、基礎部10との接合部を基点とした回転が、外部架構部20及び境界梁40によって制限されにくい。したがって、連層耐震壁31を、基礎部10との接合部を基点として十分に回転させて、オイルダンパー35の減衰力を有効に発揮させることができる。
また、内部架構部30と境界梁40との接合面、及び外部架構部20と境界梁40との接合面には滑り板45が配置されることで、境界梁40に曲げモーメントが作用した際に、内部架構部30、外部架構部20に対して境界梁40が容易に回転可能な構成とするとともに、接合面における境界梁40や内部架構部30、外部架構部20の破損を抑制可能である。
【0028】
また、境界梁40は、梁主筋46と、梁主筋46を埋設するコンクリート部42と、を備え、梁主筋46は、コンクリート部42の両端部から、内部架構部30側、および外部架構部20側にそれぞれ突出してこれらを形成するコンクリート内に定着され、梁主筋46とコンクリート部42はアンボンド処理されている。
このような構成によれば、梁主筋46がコンクリート部42に拘束されずに変位可能となるため、内部架構部30、外部架構部20に対して境界梁40がより容易に回転可能な構成とすることができる。
【0029】
(その他の変形例)
なお、上記実施形態において、連層耐震壁31の壁脚部31dを建物1の基礎部10にピン接合または半剛接合するようにしたが、これに加え、連層耐震壁31の壁頭部31tについても、建物1の、内部架構部30以外の構成要素に、ピン接合または半剛接合するようにしてもよい。例えば、内部架構部30の上方に、外部架構部20の開口25内を横切るように、内周側の柱21Q間に梁22を架設し、この梁22の下側に、
図9に示すように下方へと突出する支持部23を形成したうえで、連層耐震壁31の壁頭部31tと、支持部23との接合面に、これらを跨ぐように芯鉄筋55を配置することで、連層耐震壁31の壁頭部31tと梁22をピン接合または半剛接合するようにしてもよい。
また、上記実施形態においては、壁脚部31dは、柱状部13bに、特に半剛接合されている場合について詳細に説明したが、ピン接合する形態に関しては、上記の形態を変更することで実現することができる。例えば、上記実施形態の構成から、芯鉄筋51と鉄筋53の数を低減させたり、これら芯鉄筋51と鉄筋53をより軸心に近く設けたりして、連層耐震壁31をより回転しやすくすることによって、ピン接合となるようにしてもよい。
また、上記実施形態では、複数の連層耐震壁と外部架構部は梁端部に滑り板が設けられた境界梁で連結されているが、建物の形状や設計方針によっては滑り板を設けない、境界梁で連結させても良い。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0030】
1 建物 31、31A、31B 連層耐震壁
10 基礎部 31d 壁脚部
20 外部架構部 35 オイルダンパー
21 柱 40 境界梁
21Q 内周側の柱 45 滑り板
22、22Q 梁 51 芯鉄筋
30 内部架構部