(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用正極活物質
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20241004BHJP
C01B 25/45 20060101ALI20241004BHJP
C01B 35/12 20060101ALI20241004BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20241004BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20241004BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20241004BHJP
【FI】
H01M4/525
C01B25/45 T
C01B25/45 Z
C01B35/12 D
C01G53/00 A
H01M4/36 C
H01M4/36 E
H01M4/505
(21)【出願番号】P 2021162233
(22)【出願日】2021-09-30
(62)【分割の表示】P 2017527519の分割
【原出願日】2015-01-21
【審査請求日】2021-10-25
【審判番号】
【審判請求日】2023-08-17
(31)【優先権主張番号】10-2014-0101843
(32)【優先日】2014-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】517113750
【氏名又は名称】エコプロ ビーエム カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】ECOPRO BM CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】キム ジクス
(72)【発明者】
【氏名】チョェ ムンホ
(72)【発明者】
【氏名】ユン ジンギョン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン ジェヨン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン ソクヨン
(72)【発明者】
【氏名】シン ジョンスン
【合議体】
【審判長】岩間 直純
【審判官】山本 章裕
【審判官】須原 宏光
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0158932(US,A1)
【文献】特開2014-067546(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13-62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次粒子が凝集されてなる二次粒子であり、
前記一次粒子の内部のリチウムイオン拡散経路(lithium ion diffusion path)が二次粒子の中心方向に形成され、
前記二次粒子が、遷移金属の濃度が一定であるコア層と、前記コア層の周囲に形成され、1つ以上の遷移金属の濃度が連続的に変化して濃度勾配を示す濃度勾配層と、前記濃度勾配層の外郭に形成され、遷移金属の濃度が一定の表面層とを含み、
前記一次粒子のアスペクト比が1以上であり、前記一次粒子の内部のリチウムイオン拡散経路が前記一次粒子の長軸方向に形成され、
前記一次粒子の内部のリチウムイオン拡散経路が前記一次粒子の長軸方向に形成される前記一次粒子が占める面積は、前記二次粒子の中心を通る断面積の20%以上であり、
前記リチウムイオン拡散経路が前記二次粒子の中心方向に向かう前記一次粒子が占める面積は、前記二次粒子の中心を通る断面積の40%以上であ
り、
前記一次粒子が粒子全体の中心方向に方向性を有して形成され、前記一次粒子の内部のリチウムイオン拡散経路が前記二次粒子全体の中心方向に形成されて、前記二次粒子の表面から中心まで前記リチウムイオン拡散経路が一次元又は二次元のトンネル構造を有し、
前記二次粒子は、
下記化学式1
<化学式1>Li
x1
Ni
1-a1-b1-c1
Co
a1
Mn
b1
Me
c1
O
2-y1
X
y1
(前記化学式1で0.9≦x1≦1.15、0≦a1≦0.20、b1=0、0≦c1≦0.1、0≦y1≦0.1、Meは、Al、Mg、B、P、Ti、Si、Zr、Ba及びこれらの組合でなされた群から選択される少なくとも1つ以上の元素であり、Xは、F、BO
3
、PO
4
の陰イオンからなるグループから選択される少なくとも1つ以上の元素乃至分子である)で表示され、遷移金属の濃度が一定であるコア層と、
前記コア層の外郭に形成され、1つ以上の遷移金属の濃度が連続的に変化して濃度勾配を示す濃度勾配層と、
下記化学式2
<化学式2>Li
x2
Ni
1-a2-b2-c2
Co
a2
Mn
b2
Me
c2
O
2-y2
X
y2
(前記化学式2で0.9≦x2≦1.15、0≦a2≦0.50、0≦b2≦0.6、0≦c2≦0.2、0≦y2≦0.1、Meは、Al、Mg、B、P、Ti、Si、Zr、Ba及びこれらの組合でなされた群から選択される少なくとも1つ以上の元素であり、Xは、F、BO
3
、PO
4
の陰イオンからなるグループから選択される少なくとも1つ以上の元素乃至分子である)で表示され、前記濃度勾配層の外郭に形成され、遷移金属の濃度が一定の表面層と、を含み、
化学式1及び化学式2において、前記二次粒子の前記コア層のNi含量と前記表面層のNi含量との差が0.3以上であることを特徴とする、リチウム二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記一次粒子の内部のリチウムイオン拡散経路が前記二次粒子の中心方向から±45°以内で傾斜していることを特徴とする、請求項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項3】
前記表面層の厚さは、0.05乃至2.0μmであることを特徴とする、請求項
1に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項4】
前記濃度勾配層における一次粒子の内部のリチウムイオン拡散経路が前記二次粒子の中心方向に向かうことを特徴とする、請求項
1に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項5】
前記一次粒子は、針状、板状、直方体、傾いた直方体、又は円柱状であることを特徴とする、請求項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項6】
請求項1乃至請求項
5のいずれかに記載のリチウム二次電池用正極活物質を含むリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用正極活物質及びこれを含むリチウム二次電池に関し、より詳細には層状構造(Layered structure)を有する正極活物質の一次粒子内及び二次粒子内のリチウムイオン拡散経路(lithium ion diffusion path)が特定の方向に方向性を有して形成されることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質及びこれを含むリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、エネルギー貯蔵技術に対する関心がますます高くなっている。携帯電話、カムコーダー、及びノート型コンピューター、さらには電気自動車のエネルギーまで適用分野が拡大されながら、電気化学素子の研究と開発に対する努力が段々具体化されている。電気化学素子は、このような側面で最も注目を浴びている分野であり、その中でも充放電が可能である二次電池の開発は、関心の焦点となっている。
【0003】
現在、適用されている二次電池の中で1990年代の初めに開発されたリチウムイオン電池は、小型、軽量、大容量電池として1991年に登場した以来、携帯機器の電源として広く使われている。リチウム二次電池は、水系電解液を使用するNi-MH、Ni-Cd、硫酸-鉛電池等の従来の電池に比べて作動電圧が高く、エネルギー密度が著しく大きい長所によって脚光を浴びている。特に最近では内燃機関とリチウム二次電池とを混成化(hybrid)した電気自動車用の動力源に関する研究が米国、日本国、及びヨーロッパ等で活発に行われている。
【0004】
しかし、エネルギー密度の観点で電気自動車用の大型電池としてリチウムイオン電池の使用を考慮しているが、まだ安全性の観点でニッケル水素電池が使用されている。電池自動車用として使用されるためのリチウムイオン電池において、最大の当面の課題は、高い価額と安全性である。特に、現在商用化され、使用されているLiCoO2やLiNiO2のような正極活物質は、過充電状態の電池を200乃至270℃で加熱すれば、急激な構造変化が発生されるようになり、そのような構造変化によって格子内の酸素が放出される反応が進行されて、充電時の脱リチウムによって結晶構造が不安定であって熱的特性が非常に劣悪な短所を有している。
【0005】
これを改善するため、ニッケルの一部を遷移金属元素に置換して発熱開始温度を若干高温側に移動させるか、或いは急激な発熱を防止する等が試みられている。ニッケルの一部をコバルトに置換したLiNi1-xCoxO2(x=0.1-0.3)物質の場合、優れた充放電の特性と寿命特性とを示したが、熱的安全性の問題は解決できなかった。また、Ni位に熱的安全性の優れたMnを一部置換したLi-Ni-Mn系の複合酸化物又はMn及びCoに置換したLi-Ni-Mn-Co系複合酸化物の組成と、その製造に関連された技術も広く知られており、最近、日本特許出願第2000-227858号では、LiNiO2やLiMnO2に遷移金属を部分置換する概念ではなく、MnとNiとの化合物を原子レベルで均一に分散させて固溶体を作る新しい概念の正極活物質を開示した。
【0006】
NiをMn及びCoに置換したLi-Ni-Mn-Co系複合酸化物の組成に対するヨーロッパ特許第0918041号や米国特許第6,040,090号によれば、LiNi1-xCoxMnyO2(0<y≦≦0.3)は、既存のNiとCoだけで構成された材料に比べて向上された熱的安全性を有するが、依然としてNi系の熱的安全性を解決することはできなかった。
【0007】
このような短所をなくすために韓国特許出願第10-2005-7007548号で金属組成の濃度勾配を有するリチウム遷移金属酸化物に対する特許が提案されている。しかし、この方法は、合成の時、内部層と外部層との金属組成を異なりに合成することができるが、生成された正極活物質で金属組成が連続的、且つ漸進的に変わらない。熱処理過程により金属組成の漸進的な勾配にはできるが、内部層と外部層との界面抵抗が発生して粒子内リチウムの拡散を阻害する抵抗として作用し得るし、これによって、寿命特性の低下をもたらすことが有り得る。そして、内部層の組成がLCO、Corich NCM、又はニッケル含量が60%以下のNCM系であり、ニッケル全体の含量も低いので、高容量を具現することが難しい。
【0008】
また、この発明によって合成された粉末は、キレート剤であるアンモニアを使用しないので、粉末のタップ密度が低く、高エネルギー密度を要求するリチウム二次電池用正極活物質として使用するには不適合である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】米国特許出願公開第2014/0158932号明細書
【文献】特開2002-279985号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記のような課題を解決するために層状構造を有する正極活物質の一次粒子内及び二次粒子内のリチウムイオン拡散経路(lithium ion diffusion path)が特定の方向性を示す新しい構造のリチウム二次電池用正極活物質を提供することを目的とする。
また、本発明は、本発明によるリチウム二次電池用正極活物質を含むリチウム二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記のような課題を解決するために、一次粒子が凝集された球状の二次粒子からなり、前記一次粒子内のリチウムイオン拡散経路、即ち、層状構造におけるa軸が二次粒子の中心方向に形成されたことを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質を提供する。
【0012】
図6及び
図7に、本発明によるリチウム二次電池用正極活物質の一次粒子及び二次粒子の構造を模式図として示した。
図6及び
図7で示すように本発明によるリチウム二次電池用正極活物質は、一次粒子内でのリチウムイオン拡散経路、即ち、層状構造におけるa
軸が平行に形成され、二次粒子の中心方向に方向性を示すことを特徴とする。
【0013】
本発明によるリチウム二次電池用正極活物質は、前記一次粒子のアスペクト比が1以上であり、前記一次粒子内のリチウムイオン拡散経路が粒子の長軸方向に形成されることを特徴とする。即ち、本発明によるリチウム二次電池用正極活物質においてリチウムイオン拡散経路が長軸方向に形成されて、充放電の時、正極活物質の一次粒子内にリチウムイオンが移動される時、相対的に面積が狭い横軸方向に一次粒子内に移動するので、充放電が持続されることによる結晶構造の崩れる面積が相対的に小さくなって結果的に構造安定性を示すことになる。
【0014】
本発明によるリチウム二次電池用正極活物質は、前記アスペクト比が1以上であり、前記粒子内のリチウムイオン拡散経路が粒子の長軸方向に形成される一次粒子が占める面積が全体面積の20%以上であることを特徴とする。
【0015】
本発明によるリチウム二次電池用正極活物質において、アスペクト比は、
図6で示すように粒子が長方形である場合、L/W(L長軸、W短縮)として定義され、横軸長さがW1、W2である場合、L/(W1+W2)/2として定義される。
【0016】
本発明によるリチウム二次電池用正極活物質は、リチウムイオン拡散経路が二次粒子の中心方向に向かう一次粒子が占める面積が全体粒子面積の40%以上であることを特徴とする。本発明によるリチウム二次電池用正極活物質は、前記一次粒子内のリチウムイオン拡散経路が二次粒子の中心方向から±45°以内で傾斜していることを特徴とする。即ち、本発明によるリチウム二次電池用正極活物質において、一次粒子内のリチウムイオン拡散経路が二次粒子の中心に向うが、二次粒子の中心方向に機械的に配列されることではなく、二次粒子の中心方向から±45°以内の配列の自由度を示すことを特徴とする。
【0017】
本発明によるリチウム二次電池用正極活物質は、前記一次粒子が粒子全体の中心方向に方向性を有して形成され、前記一次粒子内のリチウムイオン拡散経路が粒子全体の中心方向に形成されて、前記二次粒子の表面から中心までリチウムイオン拡散経路が一次元又は二次元のトンネル構造を有することを特徴とする。
【0018】
このようなアスペクト比の異なる一次針状、板状、直方体、傾いた直方体又は円柱形状を有することができる。
【0019】
このようなリチウムイオン拡散経路によってリチウムイオンの伝導速度が速く、高いリチウムイオン伝導率を示すだけでなく、充放電を繰り返しても結晶構造が容易に崩壊されないようになりサイクル特性が向上する。
【0020】
また、本発明によるリチウム二次電池用正極活物質は、線型経路に1次元または面経路のトンネル構造で形成されたリチウムイオン拡散経路によって、活物質粒子とリチウムイオン又は電解質との間の電子伝達抵抗(charge transfer resistance)、拡散(diffusion)、マイグレーション(migration)、及びコンベクション(convection)が低いので、電池内部のインピーダンスを大きく下げることができる。
【0021】
本発明によるリチウム二次電池用正極活物質において、
前記二次粒子は、
下記化学式1で表示され、遷移金属の濃度が一定であるコア層と、
前記コア層の外郭に形成され、1つ以上の遷移金属の濃度が連続的に変化して濃度勾配を示す濃度勾配層と、
下記化学式2で表示され、前記濃度勾配層の外郭に形成され、遷移金属の濃度が一定である表面層と、を含むことを特徴とする。
【0022】
<化学式1>LixNi1-a-b-cCoaMnbMecO2-yXy
(前記化学式1で0.9≦x≦1.15、0≦a≦0.20、0≦b≦0.20、0≦c≦0.1、0≦y≦0.1、Meは、Al、Mg、B、P、Ti、Si、Zr、Ba及びこれらの組合でなされた群から選択される少なくとも1つ以上の元素であり、Xは、F、BO3、PO4等の陰イオンで選択される少なくとも1つ以上の元素又は分子である)
<化学式2>LixNi1-a-b-cCoaMnbMecO2-yXy
(前記化学式2で0.9≦x≦1.15、0≦a≦0.50、0≦b≦0.6、0≦c≦0.2、0≦y≦0.1、Meは、Al、Mg、B、P、Ti、Si、Zr、Ba及びこれらの組合でなされた群から選択される少なくとも1つ以上の元素であり、Xは、F、BO3、PO4等の陰イオン選択される少なくとも1つ以上の元素又は分子である)
本発明によるリチウム二次電池用正極活物質において、前記表面層の厚さは、0.05乃至2.0μmであることを特徴とする。
【0023】
本発明によるリチウム二次電池用正極活物質において、前記濃度勾配層の一次粒子は、リチウムイオン拡散経路が二次粒子の中心方向に向かうことを特徴とする。
【0024】
また、本発明は、本発明によるリチウム二次電池用正極活物質を含むリチウム二次電池を提供する。
【発明の効果】
【0025】
本発明によるリチウム二次電池用正極活物質は、一次粒子内でのリチウムイオン拡散経路が粒子の中心方向に向くように方向性を有して形成されるので、一次粒子内へのリチウムイオンの吸蔵放出が容易になって本発明によるリチウム二次電池用正極活物質を含む電池の容量、出力、及び寿命特性が大きく改善される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の実施例1乃至5及び比較例1にて製造された正極活物質粒子のSEM写真を示す。
【
図2】本発明の実施例1乃至5及び比較例1にて製造された正極活物質粒子の破断面のSEM写真を測定した結果を示す。
【
図3】本発明の実施例5の粒子内一次粒子の模様及び構造を、TEMを利用して測定した結果を示す。
【
図4】本発明の比較例1の粒子内一次粒子の模様及び構造を、TEMを利用して測定した結果を示す。
【
図5】本発明の実施例3にて製造された粒子の粒子内部の組成を、EDXを利用して測定した結果を示す。
【
図6】本発明によるリチウム二次電池用正極活物質が層状構造(a)および二次粒子断面の模様と一次粒子のリチウムイオン拡散経路(b)を模式図で示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下では、本発明を実施例によってさらに詳細に説明する。しかし、本発明が以下の実施例によって限定されるものではない。
【0028】
<実施例1>
第1段階として、内容積100Lの容量を有する共沈反応器(co-precipitationreactor、回転モーター出力80W以上)に蒸留水20Lとキレート剤としてアンモニアを1000gとを加えた後、反応器内の温度を40℃~50℃に維持しながら、モーター速度300rpm~1000rpmで撹拌した。
【0029】
第2段階として、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、及び硫酸マンガンのモル比が80:20:0の比率に混合された2.5M濃度の第1前駆体水溶液を2.2L/hrで、28%濃度のアンモニア水溶液を0.15L/hrで反応器に連続的に投入した。また、pH調整のために25%濃度の水酸化ナトリウム水溶液を供給してpHが11.3~11.4に維持されるようにした。インペラ速度は、300rpm~1000rpmに調節した。第1前駆体水溶液と、アンモニア水溶液と、水酸化ナトリウム溶液とを反応器内に連続して38L投入した。
【0030】
第3段階として、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、及び硫酸マンガンモル比が35:20:45比率に混合された2.5M濃度の濃度勾配層の形成用水溶液を作って前記反応器(reactor)の他の、別の攪拌器で前記第2段階にて製造された硫酸ニッケル、硫酸コバルト、及び硫酸マンガンモル比が80:20:0の比率に混合された2.5M濃度の第1前駆体水溶液の容量を10Lに固定させた後、2.2L/hrの速度に投入しながら、攪拌して第2前駆体水溶液を作り、同時に前記反応器(reactor)に導入した。前記第2前駆体水溶液の中の硫酸ニッケル、硫酸コバルト、及び硫酸マンガンモル比がシェル層の濃度である40:20:40になるまで前記濃度勾配層の形成用水溶液を混合しながら、反応器(reactor)に導入し、28%濃度のアンモニア水溶液は、0.08L/hrの速度に投入し、水酸化ナトリウム溶液は、pHが11.3~11.4になるように維持した。この時、投入された第2前駆体水溶液と、アンモニア水溶液と、水酸化ナトリウム溶液とは、24Lである。
【0031】
次に第4段階として、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、及び硫酸マンガンモル比が40:20:40の比率に混合された第3前駆体水溶液を反応器(reactor)で8L体積を占めるまで投入、反応が終わった後、反応器(reactor)から球形のニッケルマンガンコバルト複合水酸化物の沈殿物を得た。
【0032】
前記沈殿された複合金属水酸化物をろ過し、純水で洗浄した後に100℃の温風乾燥機で12時間乾燥させ、内部コア層は(Ni0.8Co0.20)(OH)2であり、外部シェル層は(Ni0.80Co0.20)(OH)2から(Ni0.4Co0.2Mn0.4)(OH)2まで連続的な濃度勾配を有する、金属複合酸化物形態の前駆体粉末を得た。
【0033】
前記前駆体である金属複合水酸化物と水酸化リチウム(LiOH.H2O)とを1:1.00~1.10モル比で混合した後に2℃/minの乗温速度に加熱した後、550℃で10時間熱処理を行った後、750℃で20時間焼成させ、内部コア層はLi(Ni0.80Co0.20)O2であり、外部シェル層はLi(Ni0.80Co0.20)O2からLi(Ni0.4Co0.2Mn0.4)O2まで連続的な濃度勾配を有する、正極活物質粉末を得た。
【0034】
<実施例2>
内部コア層の組成がLi(Ni0.70Co0.30)O2であり、外部シェル層の組成がLi(Ni0.70Co0.30)O2からLi(Ni0.4Co0.2Mn0.4)O2まで連続的に一定の濃度勾配を有することを除ければ、実施例1と同一の方法によって正極を製造した。
【0035】
<実施例3>
内部コア層の組成がLi(Ni0.80Co0.20)O2であり、外部シェル層の組成がLi(Ni0.80Co0.20)O2からLi(Ni0.35Co0.35Mn0.30)O2まで連続的に一定の濃度勾配を有することを除ければ、実施例1と同一の方法によって正極を製造した。
【0036】
<実施例4>
内部コア層の組成がLi(Ni0.90Co0.10)O2であり、外部シェル層の組成がLi(Ni0.90Co0.10)O2からLi(Ni0.33Co0.33Mn0.33)O2まで連続的に一定の濃度勾配を有することを除ければ、実施例1と同一の方法によって正極を製造した。
【0037】
<実施例5>
内部コア層の組成Li(Ni0.97Co0.03)O2と外部シェル層の組成Li(Ni0.97Co0.03)O2からLi(Ni0.5Co0.2Mn0.3)O2まで連続的に一定の濃度勾配を有することを除ければ、実施例1と同一の方法によって正極を製造した。
【0038】
<比較例1>
共沈反応器(容量70L)に蒸留水60Lとキレート剤としてアンモニアを1000gとを加えた後、反応器内の温度を40~50℃に維持しながら、モーター速度を6000rpmで撹拌した。また、反応器に窒素ガスを3L/minの流量で連続的に供給した。次に硫酸ニッケル、硫酸コバルト、及び硫酸マンガンのモル比が8:1:1比率で混合された1M濃度の前駆体水溶液を6.5L/hrで、28%濃度のアンモニア水溶液を0.6L/hrで、反応器に連続的に投入した。また、pH調整のために25%濃度の水酸化ナトリウム水溶液を1.5~2.0L/hr供給してpHを11~12に合わせて反応槽内の液面に連続的に供給した。反応溶液の温度は、50±2℃に維持した。反応器の内部が正常状態になった30時間の後にオーバーフローパイプから排出された水酸化物粒子を連続的に採取して水で洗浄した後、100℃の温風乾燥機で12時間乾燥させて、(Ni0.8Co0.1Mn0.1)(OH)2を有する金属複合水酸化物の形態の前駆体粉末を得た。
【0039】
前記金属複合水酸化物と水酸化リチウム(LiOH.H2O)とを1:1.00~1.10モル比で混合した後に2℃/minの乗温速度で加熱した後、550℃で10時間の熱処理を行った後、750℃で20時間焼成させて正極活物質粉末を得た。
【0040】
<実験例:SEM写真測定>
実施例1乃至5及び比較例1にて製造された正極活物質粒子及び破断面のSEM写真を測定し、その結果を
図1及び
図2に示した。
【0041】
図1で、本発明の実施例1乃至5及び比較例1にて製造された正極活物質粒子は、一次粒子が凝集された球形の二次粒子であることが分かる。
【0042】
粒子の破断面に対するSEM写真である
図2において、本発明の実施例1乃至5にて製造された粒子の場合、一次粒子のアスペクト比が1以上であり、一次粒子の長軸、即ち、長い方向に粒子の中心方向への方向性を有して成長して、粒子表面から粒子中心までリチウム伝導経路が一次元又は二次元トンネル構造に形成されるのに対し、比較例の場合、一次粒子のアスペクト比が実施例より非常に短く、不規則な(random)形態に二次粒子の内部で一次粒子の方向性が観察されていないことが分かる。
【0043】
<実験例:TEM写真測定>
前記実施例5及び比較例1の粒子内一次粒子の模様及び構造を、TEMを利用して測定し、その結果を
図3及び
図4に示した。
【0044】
図3で本発明の実施例5にて製造された粒子の一次粒子が中心方向に方向性を有して形成されており、一次粒子内のリチウムイオン伝導経路が二次粒子の中心方向に平行に形成されることを確認することができる。
【0045】
反面、本発明の比較例1にて製造された粒子の場合、
図4に示すように一次粒子内のリチウムイオン伝導経路が、方向性がなくて不規則に形成されることを確認することができる。
【0046】
<実験例:EDX写真測定>
前記実施例3にて製造された粒子の粒子内部の組成を、EDXを利用して測定し、その結果を
図5に示した。
【0047】
図5で本発明の実施例によって製造された粒子の場合、中心から表面までニッケル、コバルト、マンガンが濃度勾配を示すことを確認することができる。
【0048】
<実験例:粒子特性測定>
前記実施例1~5及び比較例1にて製造されたリチウム金属複合酸化物の組成及び粒度分布を粒度分析器で測定して下記の表1に示した。
【0049】
組成分析のために前記製造されたリチウム金属複合酸化物の一定量(約2g)を正確に(0.1mg単位)秤量した後、ガラスビーカーに移し、王水(HCl:HNO3=3:1)を添加してホットプレートにおいて完全分解した。
【0050】
誘導プラズマ発光分析分光器(ICP-AES、Perkin-Elmer7300)を使用、Li/Ni/Co/Mnの元素別固有の波長にて標準溶液(Inorganic Venture、1000mg/kg)を用いて調製された標準液(3種)の強度(Intensity)を測定して基準検量線(Calibration Curve)を作成した後、前処理された試料溶液及び空試料を機器に導入、各々の強度を測定して実際強度を算出して、前記作成された検量線対比各成分の濃度を計算し、全体の合計が理論値になるように換算(Normalization)して製造されたリチウム金属複合酸化物の組成を分析した。
【0051】
【0052】
<製造例:電池製造>
前記実施例1乃至5及び比較例1の製造された正極活物質と導電剤としてsuper-P、結合剤としては、ポリビニリデンフルオライド(PVdF)を92:5:3の重量比に混合してスラリーを製造した。前記スラリーを15μm厚さのアルミニウム泊に均一に塗布し、135℃で真空乾燥してリチウム二次電池用正極を製造した。
【0053】
前記正極と、リチウムホイルを相対電極とし、多孔性ポリエチレン膜(Celgard、LLC.製、Celgard 2300(登録商標)、厚さ:25μm)をセパレータとし、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとが体積比として3:7に混合された溶媒にLiPF6が1.15M濃度に溶けている液体電解液を使用して公知の製造工程によってコイン型電池を製造した。
【0054】
<実験例:電池特性測定>
前記実施例1乃至5及び比較例1にて製造された活物質で製造された電池の初期容量、初期効率、率特性と寿命特性を測定し、その結果を下記の表2に示した。
【0055】
下記の表2において、本発明の実施例にて製造された活物質を含む電池の場合、電池特性が比較例よりも大きく向上することが確認できる。
【0056】
【産業上の利用可能性】
【0057】
以上のように、本発明によるリチウム二次電池用正極活物質は、一次粒子内でのリチウムイオン拡散経路(lithium ion diffusion path)が粒子の中心方向に向くように方向性を有して形成されるので、一次粒子内へのリチウムイオンの吸蔵放出が容易になって本発明によるリチウム二次電池用正極活物質を含む電池の容量、出力、及び寿命特性が大きく改善されるという点で非常に有用であるとすることができる。
以下、本発明の実施態様を記述する。
条項1.
一次粒子が凝集されてなる二次粒子であり、
TEMにおいて測定される前記一次粒子の内部に形成されたリチウムイオン拡散経路(lithium ion diffusion path)が前記二次粒子の中心方向に形成され、そして
前記二次粒子は、
遷移金属の濃度が一定であるコア層と、
前記コア層の外郭に形成され、1つ以上の遷移金属の濃度が連続的に変化して濃度勾配を示す濃度勾配層と、
前記濃度勾配層の外郭に形成され、遷移金属の濃度が一定の表面層と、を含み、
前記一次粒子のアスペクト比が1以上であり、前記一次粒子の内部に形成されたリチウムイオン拡散経路が前記一次粒子の長軸方向に形成され、
前記一次粒子が前記二次粒子全体の中心方向に方向性を有して形成され、前記一次粒子の内部に形成されたリチウムイオン拡散経路が前記二次粒子全体の中心方向に形成されて、前記二次粒子の表面から中心まで前記リチウムイオン拡散経路が一次元又は二次元のトンネル構造を有し、
前記二次粒子のコア層は、下記化学式(1)で表示され、そして
前記二次粒子の表面層は、下記化学式(2)で表示され、
<化学式1>Lix1Ni1-a1-b1-c1Coa1Mnb1Mec1O2-y1Xy1
(前記化学式1で0.9≦x1≦1.15、0≦a1≦0.20、b1=0、0≦c1≦0.1、0≦y1≦0.1、Meは、Al、Mg、B、P、Ti、Si、Zr、Ba及びこれらの組合せでなされた群から選択される少なくとも1つ以上の元素であり、Xは、F、BO3、PO4の陰イオンからなるグループから選択される少なくとも1つ以上の元素乃至分子である)、及び
<化学式2>Lix2Ni1-a2-b2-c2Coa2Mnb2Mec2O2-y2Xy2
(前記化学式2で0.9≦x2≦1.15、0≦a2≦0.50、0.3≦b2≦0.6、0≦c2≦0.2、0≦y2≦0.1、Meは、Al、Mg、B、P、Ti、Si、Zr、Ba及びこれらの組合せでなされた群から選択される少なくとも1つ以上の元素であり、Xは、F、BO3、PO4の陰イオンからなるグループから選択される少なくとも1つ以上の元素乃至分子である)、
式中、a1+b1+c1<a2+b2+c2であり、
前記表面層の厚さは、0.05乃至2.0μmである
ことを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質。
条項2.
前記アスペクト比が1以上であり、前記一次粒子の内部に形成されたリチウムイオン拡散経路が前記一次粒子の長軸方向に形成される前記一次粒子が占める面積は、前記二次粒子の表面の全体面積の20%~100%であることを特徴とする、条項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
条項3.
前記一次粒子の内部に形成されたリチウムイオン拡散経路が前記二次粒子の中心方向において±45°以内で傾斜していることを特徴とする、条項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
条項4.
前記リチウムイオン拡散経路が前記二次粒子の中心方向に向かう前記一次粒子が占める面積は、前記二次粒子の表面の面積の40%~100%であることを特徴とする、条項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
条項5.
前記濃度勾配層における一次粒子の内部に形成された前記リチウムイオン拡散経路は前記二次粒子の中心方向に向かうことを特徴とする、条項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
条項6.
前記一次粒子は、針状、板状、直方体、傾いた直方体、又は円柱状であることを特徴とする、条項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
条項7.
条項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質を含むリチウム二次電池。
条項8.
条項2に記載のリチウム二次電池用正極活物質を含むリチウム二次電池。
条項9.
条項3に記載のリチウム二次電池用正極活物質を含むリチウム二次電池。
条項10.
条項4に記載のリチウム二次電池用正極活物質を含むリチウム二次電池。
条項11.
条項5に記載のリチウム二次電池用正極活物質を含むリチウム二次電池。
条項12.
条項6に記載のリチウム二次電池用正極活物質を含むリチウム二次電池。
以下、本発明のさらなる実施態様を記述する。
条項A-1.
一次粒子が凝集されてなる二次粒子であり、
TEMにおいて測定される前記一次粒子の内部に形成されたリチウムイオン拡散経路(lithium ion diffusion path)が前記二次粒子の中心方向に形成され、そして
前記二次粒子は、
遷移金属の濃度が一定であるコア層と、
前記コア層の外郭に形成され、1つ以上の遷移金属の濃度が連続的に変化して濃度勾配を示す濃度勾配層と、
前記濃度勾配層の外郭に形成され、遷移金属の濃度が一定の表面層と、を含み、
前記一次粒子のアスペクト比が1以上であり、前記一次粒子の内部に形成されたリチウムイオン拡散経路が前記一次粒子の長軸方向に形成され、
前記一次粒子が前記二次粒子全体の中心方向に方向性を有して形成され、前記一次粒子の内部に形成されたリチウムイオン拡散経路が前記二次粒子全体の中心方向に形成されて、前記二次粒子の表面から中心まで前記リチウムイオン拡散経路が一次元又は二次元のトンネル構造を有し、
前記二次粒子のコア層は、下記化学式(1)で表示され、そして
前記二次粒子の表面層は、下記化学式(2)で表示され、
<化学式1>Lix1Ni1-a1-b1-c1Coa1Mnb1Mec1O2-y1Xy1
(前記化学式1で0.9≦x1≦1.15、0≦a1≦0.20、b1=0、0≦c1≦0.1、0≦y1≦0.1、Meは、Al、Mg、B、P、Ti、Si、Zr、Ba及びこれらの組合せでなされた群から選択される少なくとも1つ以上の元素であり、Xは、F、BO3、PO4の陰イオンからなるグループから選択される少なくとも1つ以上の元素乃至分子である)、及び
<化学式2>Lix2Ni1-a2-b2-c2Coa2Mnb2Mec2O2-y2Xy2
(前記化学式2で0.9≦x2≦1.15、0≦a2≦0.50、0≦b2≦0.60、0≦c2≦0.2、0≦y2≦0.1、Meは、Al、Mg、B、P、Ti、Si、Zr、Ba及びこれらの組合せでなされた群から選択される少なくとも1つ以上の元素であり、Xは、F、BO3、PO4の陰イオンからなるグループから選択される少なくとも1つ以上の元素乃至分子である)、
前記表面層の厚さは、0.05乃至2.0μmである
ことを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質。
条項A-2.
前記アスペクト比が1以上であり、前記一次粒子の内部に形成されたリチウムイオン拡散経路が前記一次粒子の長軸方向に形成される前記一次粒子が占める面積は、前記二次粒子の表面の全体面積の20%以上であることを特徴とする、条項A-1に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
条項A-3.
前記一次粒子の内部に形成されたリチウムイオン拡散経路が前記二次粒子の中心方向において±45°以内で傾斜していることを特徴とする、条項A-1に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
条項A-4.
前記リチウムイオン拡散経路が前記二次粒子の中心方向に向かう前記一次粒子が占める面積は、前記二次粒子の表面の面積の40%以上であることを特徴とする、条項A-1に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
条項A-5.
前記濃度勾配層における一次粒子の内部に形成された前記リチウムイオン拡散経路は前記二次粒子の中心方向に向かうことを特徴とする、条項A-1に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
条項A-6.
前記一次粒子は、針状、板状、直方体、傾いた直方体、又は円柱状であることを特徴とする、条項A-1に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
条項A-7.
条項A-1に記載のリチウム二次電池用正極活物質を含むリチウム二次電池。
条項A-8.
条項A-2に記載のリチウム二次電池用正極活物質を含むリチウム二次電池。
条項A-9.
条項A-3に記載のリチウム二次電池用正極活物質を含むリチウム二次電池。
条項A-10.
条項A-4に記載のリチウム二次電池用正極活物質を含むリチウム二次電池。
条項A-11.
条項A-5に記載のリチウム二次電池用正極活物質を含むリチウム二次電池。
条項A-12.
条項A-6に記載のリチウム二次電池用正極活物質を含むリチウム二次電池。