(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】レーザラマン分光分析法及びそこで得られた結果をフィードバックしたセラミックス製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/65 20060101AFI20241004BHJP
C04B 35/622 20060101ALI20241004BHJP
G02B 21/06 20060101ALN20241004BHJP
【FI】
G01N21/65
C04B35/622
G02B21/06
(21)【出願番号】P 2021200269
(22)【出願日】2021-12-09
【審査請求日】2023-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】507182807
【氏名又は名称】クアーズテック合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】濱野 力
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-267845(JP,A)
【文献】特開2021-092470(JP,A)
【文献】特開平02-017432(JP,A)
【文献】国際公開第2007/091530(WO,A1)
【文献】特開2006-214899(JP,A)
【文献】特表2002-527742(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/62 - G01N 21/74
G01J 3/00 - G01J 3/52
C04B 35/622
G02B 21/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不透明体である試料上の平面に形成された分析面にレーザ光を入射光として照射し、試料から発生する散乱光を入射光の光軸に対し90°の方向で、前記入射光の光軸に対し主面が平行に配置された集光レンズを通過し、分光、検出後スペクトル化することで分析を行うレーザラマン分光分析法であって、
前記入射光に対する前記試料の分析面の傾斜角度を、
前記集光レンズの主面中心と、前記集光レンズの主面端部とを結ぶ線と、
前記試料の分析面と入射光の光軸との交点と、前記集光レンズの主面端部とを結ぶ線と、により形成される角度の1/2未満とし
、
15°以上25°以下とすることを特徴とするレーザラマン分光分析法。
【請求項2】
前記試料として、可視光透過率が10
-4%以下の試料を用いることを特徴とする請求項
1に記載されたレーザラマン分光分析法。
【請求項3】
前記入射光の径を10μm以上100μm以下とすることを特徴とする請求項1
または請求項2に記載されたレーザラマン分光分析法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項
3のいずれかに記載されたレーザラマン分光分析法による分析で得られた結果をフィードバックすることを特徴とするセラミックス製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザラマン分光分析法及びそこで得られた結果をフィードバックしたセラミックス製品の製造方法に関し、特に不透明体の分析に好適なレーザラマン分光分析法及びそこで得られた結果をフィードバックしたセラミックス製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
物質に可視光等の電磁波を照射すると、照射した電磁波と同じ振動数を持つレーリー散乱光と振動数が異なるラマン散乱光とが生じる。ラマン散乱光は、その物質を構成する結合状態の振動や回転に基づいて、照射した電磁波の振動数からずれて現れる。このラマン散乱光の振動数のずれ(ラマンシフト)は原子間の結合エネルギーに依存する。そのため、レーザラマン分光分析法はこの振動数のずれを横軸としたスペクトルを作成することで、分子や結合状態、官能基等の定性、定量分析に広く活用することができる。
また、レーザラマン分光分析法では入射光としてレーザ光を用いており、入射光の波長を1μm程度にまで絞れるため、微小域に対しても有用な測定手段となる。
【0003】
レーザラマン分光分析法において、入射光に対する散乱光の検出角度として、主に90°と180°が用いられている。
検出角度180°の場合、入射光と散乱光とが同軸であるため、例えば光軸上に顕微鏡レンズを配置して、この顕微鏡レンズを介して入射光の照射と、散乱光の検出とを行うことができる。主に10μm以下の微小域を測定可能な顕微ラマン分光分析装置に広く用いられている。
【0004】
しかしながら、肉眼で観察出来る変色や異物等、微小域以上の大きさ(10~1000μmレベル)を検出角度180°で測定する場合は、顕微鏡レンズの焦点を広げた状態で実施せざるを得ないため、感度の低下は避けられないという技術的課題があった。
【0005】
一方、検出角度が90°の場合、肉眼で観察出来る変色や異物等、微小域以上の大きさ(10~1000μmレベル)を測定する場合は入射光と散乱光とが同軸でないため、入射光をより強い出力に設定することができ、更なる高感度化を図ることができる。
【0006】
また、前記検出角度が90°の場合、試料がガラスのような透明な物質であれば、入射光が試料内を透過出来るため、特に有用な手法として活用される。
しかしながら、試料が不透明の場合は、入射光を透過させることが出来ない。そのため、入射光の反射(反射光)の検出を避けるように、試料の分析面を入射光に対して、適切な角度に傾ける必要がある。
感度に関しては、
図10(a)に示すように、入射光L1の光軸に対して、試料Wの分析面W1の傾斜角を小さくすると、分析面W1上の照射面積は大きくなり、絞り14を通過できる散乱光の領域は、照射域に対して小さい領域となるので、感度が低くなる。
【0007】
一方、
図10(b)に示すように、入射光L1の光軸に対して、試料Wの分析面W1の傾斜角を大きくすると、分析面W1上の照射面積は小さくなり、絞り14を通過できる散乱光の領域は、照射域に対してより大きな領域を占めるようになるので、感度が高くなる。
即ち、試料Wの分析面W1の傾斜角を垂直に近づけるほど、入射光が照射した領域に対する散乱光が通過する領域が大きくなり、高感度な検出、分析を期待することができる。
【0008】
但し、
図10(b)のように入射光の光軸に対して、試料Wの分析面W1の傾斜角を垂直に近づけると、絞り14からみて真円から楕円状になることから、測定される領域は想定した箇所以上の大きさとなり、必要としない情報まで検出される虞がある。そのような場合は、絞り14の径をより小さくすることで測定領域の面積増大を抑え、必要な分析箇所の情報のみを検出することができる。
【0009】
前記のように試料Wが不透明体で散乱光の検出角度が入射光L1に対し90°の場合、入射光L1の光軸に対して、試料Wの分析面W1の傾斜角を垂直に近づけるほど、高感度化を期待できる。
しかしながら、
図10(b)のように入射光L1に対して試料Wの分析面W1を垂直に近づけると、試料を反射した入射光(反射光L2)が検出側の集光レンズ13に入射され、これが集光レンズ13によって本来検出すべき散乱光とともに集光され、絞り14を通過して、分光、検出されることで、迷光(光学系内部で生じる不必要な光の反射や散乱)が発生するという問題があった。この迷光が存在すると、本来検出される筈がないピークの検出やスペクトルの変形等が生じ、これらの現象が測定結果の誤判断に繋がるという課題があった。
【0010】
レーザラマン分光分析法において、前記迷光を予防するため、特許文献1においては、ラマン散乱光を透過するダイクロイックミラーを2~8枚設置して反射光を減衰させ、迷光を除去する構成が開示されている。
また、特許文献2には、近接場光の検出光路上に絞りを設け、この絞りによって、極力迷光を除去させる構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開平1-287448号公報
【文献】特開2004-37158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1に開示された構成にあっては、装置構成が大掛かりであり、設備にかかるコストが高くなるため、容易に適用できないという課題があった。
また、特許文献2に開示された構成にあっては、迷光の発生自体を予防できるものではなく、迷光を極力除去しても、検出光路に迷光成分が含まれるという課題があった。
【0013】
本発明は、上記事情のもとになされたものであり、その目的は、レーザラマン分光分析法において、不透明体の試料に対し、レーザ入射光に対する散乱光の角度を90°の方向で検出し分析する場合に、迷光の発生を予防し、高感度に分析することのできるレーザラマン分光分析法及びそこで得られた結果をフィードバックしたセラミックス製品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決するためになされた本発明に係るレーザラマン分光分析法は、不透明体である試料上の平面に形成された分析面にレーザ光を入射光として照射し、試料から発生する散乱光を入射光の光軸に対し90°の方向で、前記入射光の光軸に対し主面が平行に配置された集光レンズを通過し、分光、検出後スペクトル化することで分析を行うレーザラマン分光分析法であって、前記入射光に対する前記試料の分析面の傾斜角度を、前記集光レンズの主面中心と、前記集光レンズの主面端部とを結ぶ線と、前記試料の分析面と入射光の光軸との交点と、前記集光レンズの主面端部とを結ぶ線と、により形成される角度の1/2未満とすることに特徴を有する。
尚、前記入射光に対する前記試料の分析面の傾斜角度を15°以上とすることが望ましい。
また、前記試料として、可視光透過率が10-4%以下の試料を用いることが望ましい。
また、前記入射光の径を10μm以上100μm以下とすることが望ましい。
【0015】
このように本発明に係るレーザラマン分光分析法にあっては、レーザ入射光に対する試料の分析面の傾斜角度を、集光レンズの主面中心と集光レンズの主面端部とを結ぶ線と、試料の分析面と入射光の光軸との交点と、集光レンズの主面端部との線とを結ぶ線とにより形成される角度の1/2未満になるように設定することで、反射光が集光レンズを通らず、迷光の発生を防止することができる。
さらに、入射光に対する試料の分析面の傾斜角度を15°以上に設定することで、分析面における単位面積あたりの光量が十分得られ、安定して高感度な測定を可能とすることができる。
【0016】
また、前記課題を解決するためになされた本発明に係るセラミックス製品の製造方法は、前記レーザラマン分光分析法により得られた分析結果をフィードバックすることに特徴を有する。
【0017】
このように本発明によりアルミナ、イットリア、炭化珪素、炭素、その他の、不透明体のセラミックス材料の評価を行うことで、迷光の影響が排除された、高感度な評価が行えるので、より高品質なセラミックス製品開発、提供が可能となる。
さらに、本発明のレーザラマン分光分析法の測定結果を製造条件にフィードバックすることで、より高品位のセラミックス製品を製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、レーザラマン分光分析法において、不透明体の試料に対し、レーザ入射光に対する散乱光の角度を90°の方向で検出し分析する場合に、迷光の発生を予防し、高感度に分析することのできるレーザラマン分光分析法及びそこで得られた結果をフィードバックしたセラミックス製品の製造方法を提供することを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明のレーザラマン分光分析法を適用可能なレーザラマン分光分析装置のブロック図である。
【
図2】
図2は、本発明のレーザラマン分光分析法において、分析面の傾斜角を説明するための模式的な側面図である。
【
図3】
図3は、本発明のレーザラマン分光分析法のブロック図である。
【
図4】
図4(a)、(b)は、実施例における実験1の結果を示すグラフである。
【
図5】
図5は、実施例における実験1の結果を示す他のグラフである。
【
図6】
図6は、実施例における実験2の結果を示すグラフである。
【
図7】
図7(a)、(b)は、実施例2における実験2を説明するための模式的な側面図である。
【
図8】
図8(a)、(b)は、実施例における実験3の結果を示すグラフである。
【
図9】
図9は、実施例における実験4の結果を示すグラフである。
【
図10】
図10(a)、(b)は、入射光に対する試料の分析面の傾斜角度と照射面積との関係を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明にかかるレーザラマン分光分析法及びそこで得られた結果をフィードバックしたセラミックス製品の製造方法の一実施形態について説明する。本発明に係るレーザラマン分光分析法は、不透明体の試料を分析する方法であり、試料に対しレーザ光を入射光として照射し、試料から発生する散乱光を、入射光の光軸に対し90°の方向から検出するものである。本実施の形態において、不透明体の試料とは、光を透過しない試料であり、具体的には、可視光(380~780mm)透過率が10-4%以下の物質である。
また、試料から発生する散乱光を、入射光の光軸に対し90°の方向から検出するのは、検出角度が180°の場合のように入射光と散乱光とが同軸でないため、入射光の反射(反射光)の検出を避ける構成とすることができ、より高感度な分析が可能となるためである。
【0021】
図1は、本発明のレーザラマン分光分析法を適用可能なレーザラマン分光分析装置のブロック図である。本発明に係るレーザラマン分光分析法は、
図1に示すようなレーザラマン分光分析装置11により実行される。図示するようにレーザラマン分光分析装置11は、試料Wにレーザ光を照射し特定の波長を持つレーザを含めた入射光の光学系12と、試料Wからのラマン散乱光を集光する集光レンズ13と、集光レンズ13を通過した光の量を調整する絞り14と、絞り14を通過した光を波長ごとに分光する分光器15と、この分光器15で分光された光を検出する検出器16とを備えている。
【0022】
前記集光レンズ13は、例えば直径4cmに形成され、入射光の光学系12からの入射光L1の光軸に対し、その主面(
図2の線EFを含む面)が平行に配置され、入射光L1に対し90°の方向において散乱光L3を検出するように配置されている。
また、レーザ光が入射される試料Wの分析面W1は、入射光に対し角度θ傾斜するように配置されている。この角度θは次のように決定される。
図2に示すように、レーザ装置12側のレーザ光軸をA、試料Wの分析面W1と入射光L1の光軸との交点をB、試料Wの分析面W1の傾斜下端をCとすると、入射光L1に対する試料Wの分析面W1の傾斜角度θは∠ABCとなる。また、試料Wの分析面W1の傾斜上端をD、レーザ光軸前方をHとすると、∠DBHは∠ABCの対頂角となるため、その大きさは角度θである。
【0023】
また、試料Wの分析面W1の直交方向をI、反射光L2の光軸先端をGとすると、入射角と反射角は等しくなることから、∠ABI=∠GBIとなる。また、∠CBI=∠DBI=90°であるため、∠ABC=∠DBG=θとなる。したがって、∠HBG=2θとなる。
【0024】
一方、集光レンズ13の主面中心をE、集光レンズ13の主面端部をFとし、前記EとFとを結ぶ線EFと、前記BとFとを結ぶ線BFとにより形成される∠EFBを角度γとすると、直線AH(入射光軸)と直線EFは平行なため、∠HBFは∠EFBの錯角となり、その大きさは角度γである。
したがって、γ>2θ(即ちθは1/2γ未満)を満たせば、反射光L2が検出側の集光レンズに入射されず、反射光L2が散乱光L3とともに集光レンズ13により集光されることがない。即ち、不必要な光が絞り14を通過して、分光器15及び検出器16に検出されることがなく、迷光(不必要な光の反射や散乱)の発生を予防出来る。
具体的には、本実施の形態において、角度θは15°以上1/2γ未満とされる。これは、傾斜角度θが15°より小さい場合、試料Wに対する入射光L1の照射面積が大きくなり、分析感度が低くなるためである。また、傾斜角度θが15°以上の場合、分析感度を十分に確保することができるためである。
【0025】
このように構成されたレーザラマン分光分析装置11においては、入射光の光学系12により例えば径10μm以上100μm以下のレーザ入射光が発生され(
図3のステップS1)、試料Wの分析面W1に例えば波長532nmのレーザ光が入射される(
図3のステップS2)。
試料Wの分析面W1に入射されたレーザ光(入射光L1)は、反射光L2と散乱光L3とに分かれ、試料Wから発する散乱光L3は集光レンズ13を通過する。ここで、レーザ入射光に対する試料Wの分析面W1の傾斜角度θは、検出側の集光レンズ13の主面中心Eと、検出側の集光レンズ13の主面端部Fと、試料Wの分析面W1と入射光光軸との交点Bとからなる∠EFBの1/2未満になるように設定されている。これにより集光レンズ13には、レーザ入射光L1の反射光L2が通過せず、迷光の発生が防止される。
また、前記傾斜角度θは15°以上に設定されている。それにより単試料Wに対する入射光L1の照射面積が小さくなり、不透明な試料を分析するための十分な光量を得ることができ、分析感度を十分なものとすることができる。
【0026】
集光レンズ13を通過した、レーザ光の波長と異なる波長のラマン散乱光L3は、絞り14で測定したい箇所のみの情報を通過させる。絞り14を通過したラマン散乱光は、分光器15に送られ、この分光器15でラマン散乱光が波長毎に分光される(
図3のステップS3)。
分光器15において分光された波長毎のラマン散乱光は、検出器16において信号が検出され(
図3のステップS4)、コンピュータにおいてスペクトル化される(
図3のステップS5)。
【0027】
以上のように本発明に係る実施の形態によれば、レーザ入射光L1に対する試料Wの分析面W1の傾斜角度を、検出側の集光レンズ13の中心Eと、検出側の集光レンズ13の端部Fと、試料Wの分析面W1と入射光L1の光軸との交差点Bとからなる∠EFBの1/2未満になるように設定することで、反射光L2が集光レンズ13を通らず、迷光の発生を防止することができる。
さらに、入射光に対する試料Wの分析面W1の傾斜角度を15°以上に設定することで、安定して高感度な測定を可能とすることができる。
【0028】
また、本発明のレーザラマン分光分析法を用いて、アルミナ、イットリア、炭化珪素、炭素、その他の、不透明体のセラミックス材料の評価を行うことで、迷光の影響が排除された、高感度な評価が行えるので、より高品質なセラミックス製品の開発、提供が可能となる。
さらに、本発明の測定結果を製造条件にフィードバックすることで、より高品位のセラミックス製品を製造することが可能となる。
【実施例】
【0029】
本発明に係るレーザラマン分光分析法について、実施例に基づきさらに説明する。
[実験1]
実験1では、
図1に示した装置構成において、検出側の集光レンズ13の直径を4cmとし、
図2に示した試料W上の入射光照射箇所Bと、検出側の集光レンズ13の中心E間の距離を4cmの光学系(角度γ=60°)を構成した。
この構成において、入射光に対する試料Wの分析面W1の傾斜角度θを変化させ、分析箇所(分析箇所1、分析箇所2)におけるS/N比(ピーク高さとノイズの比)と、ラマンスペクトルの変化を測定した。
【0030】
試料Wとしては、Siウェーハを用いた(試料Wの大きさは1cm角、可視光透過率が10-4%以下)。試料WとしてSiウェーハを用いたのは、結晶性が高いために、シャープなピークが得られ、分析感度の指標となるS/N比の評価が容易となること、分析面が平面であること、ハンドリングや試料設置が容易であること等の理由による。
また、装置は株式会社堀場製作所製iRHR320を用いた。また、レーザ装置として、ダイオード励起固体レーザ(DPSS)を用い、波長532nm、出力400mW、径100μmのレーザ光を入射光とした。また、1回あたりの積算時間を30秒、積算回数を8回とした。
【0031】
傾斜角θは、5°、10°、15°、20°、25°、30°、35°、40°のそれぞれの場合について、S/N比を測定した。
また、分析面における測定領域は、入射光との角度が0°のときの直径にして100μmの場合と、3mmの場合とについて測定した。
【0032】
実験1の結果として、
図4(a)に測定領域の直径100μmの場合、
図4(b)に測定領域の直径3mmの場合についてグラフに示す(いずれも分析箇所は測定領域中の2箇所)。
図4(a)、(b)のグラフにおいて、縦軸はS/N比(a.u.)、横軸は入射光に対する分析面の傾斜角度(°)である。
尚、S/N比は、
図5に示す分析面の傾斜角度(°)毎のラマンスペクトルのグラフにおいて(縦軸は、ラマン散乱光強度(cps/s)、横軸は、ラマンシフト(cm
-1))、シグナルSをSiピークの高さ(cps/s)とし、ノイズNをSiピーク両側30cm
-1分のバックグラウンドシグナル(cps/s)の標準偏差として求めた。
図4(a)、(b)のグラフに示すように、いずれも分析面の角度15°まではS/N比が上昇する傾向が確認できた。また、分析面の角度15°以上25°以下までは、概ね一定のS/N比となった。また、分析面の角度25°より大きく30°までは、上昇する場合と下降する場合の両方が発生した。また、分析面の角度が30°より大きくなるとS/N比が大幅に低下した。
【0033】
また、
図5に示すように、分析面の分析面の角度が35°と40°の場合には、迷光の影響でスペクトルが大きく変形することが確認された。この影響により、分析面の角度が30°より大きくなった場合にS/N比が大幅に低下したものと考えられる。
以上の実験1の結果、迷光の発生を防止し、感度よく測定可能な分析面の角度は、15°以上25°以下であることを確認した。
また、
図2に示した角度γ(本実験では60°)の半分に相当する30°よりも角度が大きくなると迷光の影響で感度が大幅に下がることを確認した。
【0034】
そこで、安定して高感度に測定出来る分析面の傾斜角度の下限の閾値について検証するために、入射光に対する散乱光の角度によって、散乱光の発生領域の大きさがどのように変化するか計算した。
図6のグラフに、結果を示す。
図6のグラフの縦軸は、散乱光発生領域の大きさ、横軸は、入射光に対する分析面の傾斜角度(°)である。
【0035】
図6に示すように、入射光に対する分析面の傾斜角度を大きくすることにより試料上での散乱光の発生領域(レーザ光の照射領域)が小さくなる(即ち単位面積あたりの光の量が多くなる)ことを確認した。
絞りを通過出来る散乱光は散乱光の発生領域の一部となるが、例えば角度5°と10°における散乱光の発生領域は角度5°の略半分となることから、単位面積あたりの光の量は倍以上になるものと考えられる。同様に角度10°では、角度15°の2/3程度になることから、単位面積あたりの光の量は1.5倍程度になるものと考えられる。
【0036】
即ち、単位面積あたりの光の量が増えるということは、絞りを通過出来る散乱光の量が増えるため、感度上昇を見込むことができる。しかしながら、更に角度を上げると散乱光の発生領域の減少量は少なくなる(単位面積あたりの光の量の増加量が少なくなる)ことから、15°以上では、
図4(a)、(b)のように、S/N比が一定近くなったものと考えられる。
計算結果より、入射光に対する分析面の傾斜角度15°が安定して高感度に測定出来る下限の閾値であることを確認した。
【0037】
[実験2]
実験2では、実際に本光学系で測定する上で、15°以上25°以下の範囲内でどの角度に設定すべきかを検証するために、角度に対する散乱光強度のピーク高さの変化を測定した。
実験条件は、
図1に示した装置構成において、検出側の集光レンズ13の直径を4cmとし、
図2に示した試料W上の入射光照射箇所Bと、検出側の集光レンズ13の中心E間の距離を4cmの光学系(角度γ=60°)を構成した。
この構成において、入射光に対する試料Wの分析面W1の傾斜角度θを変化させ、分析箇所(分析箇所1、分析箇所2)におけるピーク高さを測定した。
【0038】
試料Wとしては、Siウェーハを用いた(試料Wの大きさは実験1と同じ)。
また、装置は株式会社堀場製作所製iRHR320を用いた。また、レーザ装置として、ダイオード励起固体レーザ(DPSS)を用い、波長532nm、出力400mW、径100μmのレーザ光を入射光とした。また、1回あたりの積算時間を30秒、積算回数を8回とした。
【0039】
傾斜角θは、5°、10°、15°、20°、25°、30°、35°、40°のそれぞれの場合について、散乱光強度のピーク高さ(cps/s)を測定した。
また、分析面における測定領域は、入射光との角度が0°のときの直径にして100μmの場合と、3mmの場合とについて測定した。
図8のグラフに、実験3の結果を示す。
図8(a)、(b)のグラフの縦軸は、散乱光ピーク高さ(cps/s)、横軸は、入射光に対する分析面の傾斜角度(°)である。
図8のグラフに示すように、いずれも分析面の傾斜角度25°までは、ピーク高さは上昇し、15°以上25°以下の範囲内では傾斜角度25°のピーク高さが最大であることを確認した。
【0040】
そこで、分析面の傾斜角度を大きくすることに伴い、分析面での測定領域(散乱光が絞りを通過出来る試料上の領域)面積が大きくなるため(本来必要としない情報が得られる可能性があるため)、具体的に角度15°以上25°以下の範囲での面積の増加分がどのくらいであるかを計算した。
図9のグラフに計算結果を示す。
図9のグラフにおいて、縦軸は、入射光との角度が0°のときを1とした場合の面積の増加分(%)、横軸は入射光に対する分析面の傾斜角度(°)である。
【0041】
図9のグラフに示すように、面積の増加分は角度15°で0.2%程度、角度25°で0.6%程度であり、角度15°以上25°以下の範囲では、僅かに増加している。
そのため、角度15°以上25°以下の範囲においては、少しでも面積の増加分の影響を少なくしたい場合は傾斜角度がより小さいほうが好ましく、より傾斜角度を大きくして散乱光強度を大きくする(即ち、より感度を向上する)場合は、
図1の構成の絞り14の径をより小さくすることで測定領域の面積増大を抑える対策が必要であることを確認した。