(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】シミュレーション方法、シミュレーション装置、膜形成装置、プログラム、および物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/027 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
H01L21/30 502D
(21)【出願番号】P 2021201174
(22)【出願日】2021-12-10
【審査請求日】2023-10-10
(31)【優先権主張番号】P 2021032586
(32)【優先日】2021-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】勝田 健
(72)【発明者】
【氏名】大口 雄一郎
【審査官】佐藤 海
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-123719(JP,A)
【文献】特開2019-204875(JP,A)
【文献】特開2020-205416(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
B29C 59/02
G03F 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材の上に配置された硬化性組成物の複数の液滴と第2部材とを接触させ、前記第1部材の上に前記硬化性組成物の膜を形成する処理における前記硬化性組成物の挙動を予測するシミュレーション方法であって、
前記複数の液滴のうち、前記挙動を予測する予測対象領域の内側に配置された複数の特定液滴の各々について、前記予測対象領域の境界と各特定液滴との位置関係を示す指標に基づいて、当該挙動の予測に使用するための体積を決定する決定工程と、
前記複数の特定液滴の各々について前記決定工程で決定された前記体積に基づいて、前記予測対象領域の内側における前記硬化性組成物の挙動を予測する予測工程と、
を含むことを特徴とするシミュレーション方法。
【請求項2】
前記予測対象領域の境界では、前記処理において前記複数の特定液滴の各々が前記予測対象領域の外側に拡がらないと仮定して前記硬化性組成物の挙動が予測される、ことを特徴とする請求項1に記載のシミュレーション方法。
【請求項3】
前記決定工程では、前記複数の特定液滴の各々について、前記処理による拡がりを示す拡がり分布と前記予測対象領域の境界との位置関係を前記指標として用いて前記体積を決定する、ことを特徴とする請求項1又は2に記載のシミュレーション方法。
【請求項4】
前記決定工程では、前記複数の特定液滴の各々についての前記体積を、事前に設定された初期体積に、前記拡がり分布の面積に対する目標分布の面積の比率を乗じて当該初期体積を補正することによって決定し、
前記目標分布は、前記予測対象領域の内側において1つの特定液滴が拡がるべき範囲である、ことを特徴とする請求項
3に記載のシミュレーション方法。
【請求項5】
前記決定工程では、前記複数の液滴の各々を母点として前記予測対象領域を区分けしたボロノイ図における単位セルを前記拡がり分布として求める、ことを特徴とする請求項3
又は4に記載のシミュレーション方法。
【請求項6】
前記決定工程では、前記処理において前記第1部材の上の前記複数の液滴と前記第2部材とを接触させる際の前記第1部材と前記第2部材との間隔に基づいて前記拡がり分布を求める、ことを特徴とする請求項3乃至
5のいずれか1項に記載のシミュレーション方法。
【請求項7】
前記複数の特定液滴のうち前記決定工程で前記体積を補正した特定液滴の位置を、前記目標分布の重心に移動させる、ことを特徴とする請求項
4に記載のシミュレーション方法。
【請求項8】
前記硬化性組成物の膜を形成すべき形成領域の境界が前記予測対象領域の内側に配置されている場合、前記複数の特定液滴のうち、
前記決定工程で前記体積を補正し且つ前記予測対象領域の境界および前記
形成領域の境界の両方
まで拡がる前記目標分布を有する特定液滴の位置を、前記
形成領域の境界と平行かつ当該特定液滴を通る第1の補助線と、前記
形成領域の境界に直交し且つ前記目標分布の重心を通る第2の補助線との交点に移動させる、ことを特徴とする請求項4
に記載のシミュレーション方法。
【請求項9】
前記決定工程では、前記複数の特定液滴の各々について、前記予測対象領域の境界からの距離を前記指標として用いて前記体積を決定する、ことを特徴とする請求項1又は2に記載のシミュレーション方法。
【請求項10】
前記決定工程では、前記複数の特定液滴の各々について、前記距離が短いほど前記体積が小さくなるように、前記距離に応じて体積を決定する、ことを特徴とする請求項
9に記載のシミュレーション方法。
【請求項11】
前記決定工程では、前記複数の特定液滴のうち前記距離が閾値未満である特定液滴の前記体積をゼロに決定する、ことを特徴とする請求項
9又は
10に記載のシミュレーション方法。
【請求項12】
請求項1乃至
11のいずれか1項に記載のシミュレーション方法をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項13】
第1部材の上に配置された硬化性組成物の複数の液滴と第2部材とを接触させ、前記第1部材の上に前記硬化性組成物の膜を形成する処理における前記硬化性組成物の挙動を予測するシミュレーション装置であって、
前記複数の液滴のうち、前記挙動を予測する予測対象領域の内側に配置された複数の特定液滴の各々について、前記予測対象領域の境界と各特定液滴との位置関係を示す指標に基づいて、当該挙動の予測に使用するための体積を決定し、
前記複数の特定液滴の各々について決定された前記体積に基づいて、前記予測対象領域の内側における前記硬化性組成物の挙動を予測する、
ことを特徴とするシミュレーション装置。
【請求項14】
請求項
13に記載のシミュレーション装置が組み込まれた膜形成装置であって、
第1部材の上に配置された硬化性組成物と第2部材とを接触させ、前記第1部材の上に前記硬化性組成物の膜を形成する処理を、前記シミュレーション装置による前記硬化性組成物の挙動の予測に基づいて制御する、ことを特徴とする膜形成装置。
【請求項15】
請求項1乃至
11のいずれか1項に記載のシミュレーション方法を実施した結果に基づいて、前記処理の条件を決定する工程と、
前記条件に従って前記処理を実行する工程と、
を含むことを特徴とする物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シミュレーション方法、シミュレーション装置、膜形成装置、プログラム、および物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板上に硬化性組成物を配置し、当該硬化性組成物と型とを接触させ、当該硬化性組成物とを硬化させることにより、基板上に硬化性組成物の硬化物からなる膜を形成する膜形成方法が知られている。このような膜形成方法は、インプリント方法や平坦化方法などに適用されうる。インプリント方法では、パターンを有する型を用いて、基板上の硬化性組成物と当該型とを接触させた状態で当該硬化性組成物を硬化させることにより、基板上の硬化性組成物に型のパターンが転写される。平坦化方法では、平坦面を有する型を用いて、基板上の硬化性組成物と当該平坦面とを接触させた状態で当該硬化性組成物を硬化させることにより、平坦な上面を有する膜が形成される。
【0003】
基板上には、硬化性組成物が複数の液滴の状態で配置され、その後、硬化性組成物の複数の液滴に型が押し当てられうる。これにより、基板上の複数の液滴が拡がって硬化性組成物の膜が形成される。このような処理では、厚さが均一な硬化性組成物の膜を形成すること、膜中に気泡が残存しないことなどが重要であり、これを実現するために、硬化性組成物の複数の液滴の配置、硬化性組成物の複数の液滴への型の押し当て方法および条件等が調整されうる。しかしながら、このような調整を、膜形成装置(インプリント装置、平坦化装置)を用いた試行錯誤によって実現するためには、膨大な時間と費用とを必要とする。そこで、このような調整を支援するシミュレータの利用が望まれる。
【0004】
特許文献1には、基板(第1部材)上に配置された硬化性組成物の複数の液滴と型(第2部材)とを接触させ、基板上に硬化性組成物の膜を形成する処理における硬化性組成物の挙動を予測するためのシミュレーション方法が記載されている。当該シミュレーション方法では、硬化性組成物の複数の液滴が1つの計算要素に収まるように複数の計算要素からなる計算格子を定義し、各計算要素内における硬化性組成物の挙動を、各計算要素内における硬化性組成物の状態に応じたモデルに従って求める。これにより、計算の高速化を実現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
硬化性組成物の挙動を予測するシミュレーション方法には、硬化性組成物の複数の液滴が配置される基板の領域のうち一部分(部分領域)を予測対象領域として抽出し、当該予測対象領域の内側における硬化性組成物の挙動を予測する計算方法がある。この計算方法によれば、硬化性組成物の複数の液滴が配置される基板上の領域の全体について硬化性組成物の挙動を予測する場合と比べて、計算コスト(計算時間、計算負荷等)を低減させることができる。しかしながら、この計算方法では、予測対象領域の境界に対する計算モデルによっては、例えば当該境界付近における硬化性組成物の膜厚が局所的に増減するなど、ユーザの誤認識を招くような計算結果(予測結果)が得られることがある。
【0007】
そこで、本発明は、予測対象領域の内側で硬化性組成物の挙動を予測した結果においてユーザの誤認識を低減するために有利な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の一側面としてのシミュレーション方法は、第1部材の上に配置された硬化性組成物の複数の液滴と第2部材とを接触させ、前記第1部材の上に前記硬化性組成物の膜を形成する処理における前記硬化性組成物の挙動を予測するシミュレーション方法であって、前記複数の液滴のうち、前記挙動を予測する予測対象領域の内側に配置された複数の特定液滴の各々について、前記予測対象領域の境界と各特定液滴との位置関係を示す指標に基づいて、当該挙動の予測に使用するための体積を決定する決定工程と、前記複数の特定液滴の各々について前記決定工程で決定された前記体積に基づいて、前記予測対象領域の内側における前記硬化性組成物の挙動を予測する予測工程と、を含むことを特徴とする。
【0009】
本発明の更なる目的又はその他の側面は、以下、添付図面を参照して説明される好ましい実施形態によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、例えば、予測対象領域の内側で硬化性組成物の挙動を予測した結果においてユーザの誤認識を低減するために有利な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】膜形成装置と情報処理装置とを含むシステムの構成を示す概略図
【
図2】シミュレーション条件を設定するための設定画面を示す図
【
図3】シミュレーション条件を設定するための設定画面を示す図
【
図5】各特定液滴の体積の決定方法を示すフローチャート
【
図6】予測対象領域の境界の近傍に配置された特定液滴の拡がり分布を示す図
【
図7】予測対象領域の境界の近傍に配置された特定液滴の拡がり分布を示す図
【
図8】予測対象領域の境界の近傍に配置された特定液滴の位置変更を示す図
【
図9】予測対象領域内にパターン領域による液滴拡がり境界が含まれる場合を説明する図
【
図10】予測対象領域内に基板の端部による液滴拡がり境界が含まれる場合を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0013】
<第1実施形態>
本発明に係る第1実施形態について説明する。
図1は、本実施形態における膜形成装置IMPと情報処理装置1とを含むシステムの構成を示す概略図である。膜形成装置IMPは、基板S(第1部材)の上に配置された硬化性組成物IMの複数の液滴と型M(第2部材)とを接触させ、基板Sと型Mとの間の空間に硬化性組成物IMの膜を形成する処理(以下では、膜形成処理と表記することがある)を実行する。膜形成装置IMPは、例えば、インプリント装置として構成されてもよいし、平坦化装置として構成されてもよい。ここで、基板Sと型Mとは相互に入れ替え可能であり、型Mの上に配置された硬化性組成物IMの複数の液滴と基板Sとを接触させることで、型Mと基板Sとの間の空間に硬化性組成物IMの膜を形成してもよい。つまり、第1部材を基板Sとし、第2部材を型Mとしてもよいし、第1部材を型Mとし、第2部材を基板Sとしてもよい。
【0014】
インプリント装置は、膜形成処理として、パターンを有する型Mを用いて基板Sの上の硬化性組成物IMに型Mのパターンを転写するインプリント処理を行う。インプリント装置では、パターンが設けられたパターン領域PRを有する型Mが用いられる。インプリント装置では、インプリント処理として、基板Sの上の硬化性組成物IMと型Mのパターン領域PRとを接触させ、基板Sのパターンを形成すべき領域と型Mとの間の空間に硬化性組成物IMを充填させ、その後、硬化性組成物IMを硬化させる。これにより、基板Sの上の硬化性組成物IMに型Mのパターン領域PRのパターンが転写される。インプリント装置では、例えば、基板Sの複数のショット領域のそれぞれに硬化性組成物IMの硬化物からなるパターンが形成される。
【0015】
平坦化装置は、膜形成処理として、平坦面を有する型Mを用いて基板Sの上の硬化物組成物IMを平坦化する平坦化処理を行う。平坦化装置は、平坦化処理として、基板Sの上の硬化性組成物IMと型Mの平坦面とを接触させ、硬化性組成物IMを硬化させることによって、平坦な上面を有する膜を基板上に形成する。平坦化装置では、基板Sの全域をカバーする寸法(大きさ)を有する型Mが用いられる場合、基板Sの全域に硬化性組成物IMの硬化物からなる膜が形成される。
【0016】
硬化性組成物としては、硬化用のエネルギーが与えられることにより硬化する材料が使用される。硬化用のエネルギーとしては、電磁波や熱などが用いられる。電磁波は、例えば、その波長が10nm以上1mm以下の範囲から選択される光、具体的には、赤外線、可視光線、紫外線などを含む。このように、硬化性組成物は、光の照射、あるいは、加熱により硬化する組成物である。光の照射により硬化する光硬化性組成物は、少なくとも重合性化合物と光重合開始剤とを含有し、必要に応じて、非重合性化合物または溶剤を更に含有してもよい。非重合性化合物は、増感剤、水素供与体、内添型離型剤、界面活性剤、酸化防止剤、ポリマー成分などの群から選択される少なくとも一種である。硬化性組成物の粘度(25℃における粘度)は、例えば、1mPa・s以上100mPa・s以下である。基板Sの材料としては、例えば、ガラス、セラミックス、金属、半導体、樹脂などが用いられる。必要に応じて、基板Sの表面に、基板とは別の材料からなる部材が設けられてもよい。基板Sは、例えば、シリコンウエハ、化合物半導体ウエハ、石英ガラスを含む。
【0017】
本明細書および添付図面では、基板Sの表面に平行な方向をXY平面とするXYZ座標系で方向を示す。XYZ座標系におけるX軸、Y軸およびZ軸のそれぞれに平行な方向をX方向、Y方向およびZ方向とし、X軸周りの回転、Y軸周りの回転およびZ軸周りの回転のそれぞれをθX、θYおよびθZとする。X軸、Y軸およびZ軸に関する制御または駆動は、それぞれ、X軸に平行な方向、Y軸に平行な方向、Z軸に平行な方向に関する制御または駆動を意味する。また、θX軸、θY軸およびθZ軸に関する制御又は駆動は、それぞれ、X軸に平行な軸の周りの回転、Y軸に平行な軸の周りの回転、Z軸に平行な軸の周りの回転に関する制御又は駆動を意味する。また、位置は、X軸、Y軸およびZ軸の座標に基づいて特定される情報であり、姿勢は、θX軸、θY軸およびθZ軸の値で特定される情報である。位置決めは、位置および/または姿勢を制御することを意味する。
【0018】
膜形成装置IMPは、基板Sを保持する基板保持部SH、基板保持部SHを駆動することで基板Sを駆動する(移動させる)基板駆動機構SD、および基板駆動機構SDを支持する支持ベースSBを有する。また、膜形成装置IMPは、型Mを保持する型保持部MHと、型保持部MHを駆動することで型Mを駆動する(移動させる)型駆動機構MDとを有する。
【0019】
基板駆動機構SDおよび型駆動機構MDは、基板Sと型Mとの相対位置が調整されるように基板Sおよび型Mの少なくとも一方を駆動する、即ち、基板Sと型Mとを相対的に駆動する相対駆動機構を構成する。かかる相対駆動機構による基板Sと型Mとの相対位置の調整は、基板Sの上の硬化性組成物IMと型Mとの接触のための駆動、および、基板Sの上の硬化した硬化性組成物IMからの型Mの分離のための駆動を含む。また、相対移動機構による基板Sと型Mとの相対位置の調整は、基板Sと型Mとの位置合わせを含む。基板駆動機構SDは、基板Sを複数の軸(例えば、X軸、Y軸およびθZ軸の3軸、好ましくは、X軸、Y軸、Z軸、θX軸、θY軸およびθZ軸の6軸)に関して駆動するように構成されている。型駆動機構MDは、型Mを複数の軸(例えば、Z軸、θX軸およびθY軸の3軸、好ましくは、X軸、Y軸、Z軸、θX軸、θY軸およびθZ軸の6軸)に関して駆動するように構成されている。
【0020】
膜形成装置IMPは、基板Sと型Mとの間の空間に充填された硬化性組成物IMを硬化させるための硬化部CUを有する。硬化部CUは、例えば、型Mを介して硬化性組成物IMに硬化用のエネルギーを与えることによって、基板Sの上の硬化性組成物IMを硬化させる。膜形成装置IMPは、型Mの裏面側(基板Sに対面する面の反対側)に空間SPを形成するための透過部材TRを有する。透過部材TRは、硬化部CUからの硬化用のエネルギーを透過させる材料で構成され、これにより、基板Sの上の硬化性組成物IMに対して硬化用のエネルギーを与えることを可能にする。また、膜形成装置IMPは、空間SPの圧力を制御することによって、型MのZ軸方向への変形を制御する圧力制御部PCを有する。例えば、圧力制御部PCが空間SPの圧力を大気圧よりも高くすることによって、型Mは、基板Sに向けて凸形状に変形する。圧力制御部PCにより型Mの変形を制御しながら型Mと基板上の硬化性組成物IMとを接触させることにより、型Mと基板上の硬化性組成物IMとの接触面積を徐々に広げ、型Mと基板Sとの間の硬化性組成物IMに残存する気泡を低減することができる。
【0021】
膜形成装置IMPは、基板Sの上に硬化性組成物IMを配置、供給又または分配するためのディスペンサDSPを有する。膜形成装置IMPには、他の装置によって硬化性組成物IMが配置された基板Sが供給(搬入)されてもよく、この場合には、ディスペンサDSPが膜形成装置IMPに備えられていなくてもよい。また、膜形成装置IMPは、基板S(または基板Sのショット領域)と型Mとの位置ずれ(位置合わせ誤差)を計測するためのアライメントスコープASを有していてもよい。
【0022】
情報処理装置1は、膜形成装置IMPに実行させる膜形成処理における硬化性組成物IMの挙動を予測する計算を実行する。情報処理装置1は、膜形成処理における硬化性組成物IMの挙動を予測するシミュレーション装置として理解されてもよい。具体的には、情報処理装置1は、基板Sの上に配置された硬化性組成物IMの複数の液滴と型Mとを接触させ、基板Sと型Mとの間の空間に硬化性組成物IMの膜を形成する膜形成処理における硬化性組成物IMの挙動を予測する計算を実行する。
【0023】
情報処理装置1は、例えば、汎用または専用のコンピュータにシミュレーションプログラム21を組み込むことによって構成される。また、情報処理装置1は、FPGA(Field Programmable Gate Arrayの略。)などのPLD(Programmable Logic Deviceの略。)、または、ASIC(Application Specific Integrated Circuitの略。)によって構成されてもよい。本実施形態の場合、情報処理装置1は、プロセッサ10と、メモリ20と、ディスプレイ30(表示部)と、入力デバイス40(入力部)とを有するコンピュータによって構成されうる。そして、メモリ20には、膜形成処理における硬化性組成物IMの挙動を予測するためのシミュレーションプログラム21が格納されている。プロセッサ10は、メモリ20に格納されたシミュレーションプログラム21を読み出して実行することにより、膜形成処理における硬化性組成物IMの挙動を予測するシミュレーションを行うことができる。なお、メモリ20は、半導体メモリであってもよいし、ハードディスクなどのディスクであってもよいし、他の形態のメモリであってもよい。シミュレーションプログラム21は、コンピュータによって読み取り可能なメモリ媒体に格納されてもよいし、電気通信回線などの通信設備を介して情報処理装置1に提供されてもよい。
【0024】
図2は、本実施形態のシミュレーションプログラム21を実行(起動)した際に情報処理装置1のディスプレイ30に表示(提供)されるユーザインターフェースとして、シミュレーション条件を設定するための設定画面200aを示している。本実施形態では、
図2に示すように、ユーザが、ディスプレイ30に提供されるユーザインターフェースを参照しながら、入力デバイス40を介して必要な情報を入力することで、硬化性組成物IMの挙動を予測するためのシミュレーションの条件が設定されうる。
【0025】
例えば、
図2に示されるように、シミュレーション条件が設定された複数種類の設定ファイル201(設定ファイルA、設定ファイルB)が、予め作成されてメモリ20に格納されうる。この場合、ユーザは、複数種類の設定ファイル201のうち、所望のシミュレーション条件に応じた設定ファイル201を選択することができる。シミュレーション条件は、膜形成処理における硬化性組成物IMの挙動を予測するために設定される条件であり、インプリント処理を行う際の条件(例えば、型Mのパターン、複数の液滴の吐出体積および配置などに関する条件(情報))として理解されてもよい。また、設定ファイル201は、シミュレーションを行うインプリント処理の条件を統合して管理するファイルである。設定ファイル201には、シミュレーション条件として、型Mの設計情報を含む型設計ファイル202と、基板Sの設計情報を含む基板設計ファイル203と、硬化性組成物IMの複数の液滴の吐出体積および配置を示す液滴配置ファイル204とが含まれうる。
【0026】
設定ファイル201に含まれる複数のファイル202~204は、通常、メモリ20に予め格納されている。このように、複数のファイル202~204をメモリ20に格納してライブラリ化することで、シミュレーション条件(解析条件)の設定を容易にすることが可能となる。設定ファイル201に含まれる複数のファイル202~204の各々のファイル名は、
図2に示される設定画面200aの条件表示ウィンドウ205に表示されうる。また、設定画面200aのビジュアルウィンドウ206には、設定ファイル201の誤入力を防止するために、設定ファイル201で規定される画像情報が表示される。当該画像情報は、例えば、
図2に示されるように、基板Sにおける1つのショット領域SR(即ち、型Mのパターン領域PRに対応する基板Sの領域)に配置される硬化性組成物IMの複数の液滴209の配置を示す画像の情報を含みうる。
【0027】
本実施形態では、説明を簡略化するために、設定ファイル201に含まれるシミュレーション条件のファイルとして、3つのファイル(型設計ファイル202、基板設計ファイル203、液滴配置ファイル204)を示した。但し、本実施形態で示していないシミュレーション条件についても、ファイルを作成し、メモリ20に格納してライブラリを構成してもよい。例えば、設定ファイル201には、シミュレーション条件として、例えば、基板S上の硬化性組成物IMに型Mを押し付ける力(押印力)や、硬化性組成物IMに型Mを押し付けている時間(充填時間)などのインプリント処理に関係する情報が設定されてもよい。
【0028】
ここで、設定ファイル201には、
図2の設定画面200a(ビジュアルウィンドウ206)に示されるように、膜形成処理における硬化性組成物IMの挙動を予測する予測対象領域207も設定されうる。予測対象領域207とは、膜形成処理における硬化性組成物の挙動の予測(即ちシミュレーション、計算)を行う対象の領域のことであり、基板Sにおけるショット領域SRの一部分(部分領域)に設定されうる。このように、予測対象領域207の内側のみで硬化性組成物IMの挙動を予測する場合、ショット領域SRの全体について硬化性組成物IMの挙動を予測する場合と比べて、計算コスト(計算時間、計算負荷等)を低減させることができる。即ち、短時間でシミュレーション結果を得ることができる。
【0029】
本実施形態の場合、予測対象領域207は、
図2に示されるように、XYZ座標系におけるX軸およびY軸にそれぞれ平行な辺を境界208(エッジ)とする矩形形状の領域として規定される。そして、設定ファイル201には、XYZ座標系における予測対象領域207の寸法および位置が規定される。例えば、設定ファイル201における予測対象領域207の寸法および位置は、ショット領域SRの中心を原点とした場合における予測対象領域207のX方向座標の最小値および最大値、Y方向座標の最小値および最大値によって規定されうる。なお、本実施形態では、予測対象領域207を、矩形形状を有する領域として規定しているが、それに限られず、他の形状を有する領域として規定してもよい。
【0030】
図2に示されるビジュアルウィンドウ206には、基板Sにおける1つのショット領域SRと、液滴配置ファイル204によって規定された硬化性組成物IMの複数の液滴209の配置が示されている。また、ビジュアルウィンドウ206には、膜形成処理における硬化性組成物IM(複数の液滴209)の挙動を予測する予測対象領域207が示されている。このようにディスプレイ30の設定画面200aを構成することで、ユーザ(作業者)は、シミュレーション条件や予測対象領域207の位置および寸法を目視で確認することができる。そのため、ユーザのファイル選択ミスや、シミュレーション条件の誤入力を低減することができる。また、ユーザは、シミュレーションを実行する際には、条件表示ウィンドウ205およびビジュアルウィンドウ206に表示される情報を確認し、当該情報に問題がなければ、実行ボタン210を操作する。これにより、予測対象領域207の内側における硬化性組成物IM(複数の液滴209)の挙動を予測するための計算処理(シミュレーション計算)が実行されうる。シミュレーション計算で得られたシミュレーション結果は、メモリ20に格納されうる。
【0031】
上記では、設定ファイル201の選択によりシミュレーション条件を設定する方式を示したが、それに限られるものではない。例えば、ディスプレイ30に表示される入力用ユーザインターフェース(GUI)に対して、入力デバイス40を用いてシミュレーション条件をユーザが直接設定する方式であってもよい。
【0032】
図3は、ディスプレイ30に表示(提供)されるユーザインターフェースの他の例として、シミュレーション条件を設定するための設定画面200bを示している。
図3に示される設定画面200bには、ユーザが入力デバイス40を介して予測対象領域207を設定するための入力ウィンドウ303が設けられている。例えば、ユーザは、入力ウィンドウ303の入力欄303aに、ショット領域SRの中心を原点とした場合における予測対象領域207のX方向座標の最小値および最大値、Y方向座標の最小値および最大値を、入力デバイス40を介して入力する。これにより、ユーザは、予測対象領域207の位置および寸法を設定することができる。ユーザにより設定された予測対象領域207の位置および寸法は、ビジュアルウィンドウ206に表示される。ユーザは、シミュレーションを実行する際には、ビジュアルウィンドウ206に表示される情報を確認し、当該情報に問題がなければ、OKボタン303cを操作する。これにより、予測対象領域207の内側における硬化性組成物IM(複数の液滴209)の挙動を予測するための計算処理(シミュレーション計算)が実行されうる。シミュレーション計算で得られたシミュレーション結果は、メモリ20に格納されうる。
【0033】
また、入力ウィンドウ303には、補正有効距離を設定するための入力欄303bが設けられうる。補正有効距離は、例えば、後述するように液滴209の体積を補正する対象となる範囲として、予測対象領域207の境界208からの距離を規定するものであり、補正対象範囲と理解されてもよい。具体的には、予測対象領域207の内側に配置された複数の液滴209(複数の特定液滴)のうち、予測対象領域207の境界208からの距離が補正有効距離未満である液滴209について、液滴の体積の補正が実行されうる。
【0034】
[シミュレーション方法]
次に、膜形成処理における硬化性組成物IMの挙動を予測するシミュレーション方法について説明する。前述したように、本実施形態のシミュレーション方法では、予測対象領域207を抽出し(切り出し)、予測対象領域207の内側における硬化性組成物IM(複数の液滴209)の挙動が計算(予測)されうる。しかしながら、この場合、予測対象領域207の境界208に対する計算モデルに起因して、例えば境界208付近における硬化性組成物IMの膜厚(液滴密度)が局所的に増減するなど、ユーザの誤認識を招くようなシミュレーション結果が得られることがある。本実施形態の場合、予測対象領域207の境界208に対する計算モデルとして、膜形成処理において複数の液滴209の各々が予測対象領域207の外側に拡がらないと仮定して計算するモデルが適用されうる。より具体的には、当該計算モデルとして、予測対象領域207の外側への液滴209の拡がりを、予測対象領域207の境界208で反転して予測対象領域207の内側に拡がるものとして計算するモデル(対称境界)が適用されうる。
【0035】
そこで、本実施形態のシミュレーション方法では、ショット領域SR上に配置された複数の液滴209のうち、予測対象領域207の内側に配置された複数の特定液滴209の各々について、硬化性組成物IMの挙動を予測するための体積を決定(補正)する。複数の特定液滴209の各々について体積の決定は、予測対象領域207の境界208と各特定液滴209との位置関係を示す指標に基づいて行われうる。そして、複数の特定液滴209の各々について決定(補正)された体積に基づいて、予測対象領域207の内側における硬化性組成物IM(複数の特定液滴209)の挙動を予測する。これにより、例えば境界208の近傍における硬化性組成物IMの膜厚が局所的に増減するなど、ユーザの誤認識を招くようなシミュレーション結果(予測結果)が得られることを低減することができる。
【0036】
図4は、本実施形態のシミュレーション方法を示すフローチャートである。
図4のフローチャートの各工程は、情報処理装置1(プロセッサ10)により実行されうる。
【0037】
ステップS11では、情報処理装置1は、シミュレーション条件の設定を行う。シミュレーション条件の設定は、例えば、
図2を用いて前述したように、設定ファイル201の選択によって行われうる。次いで、ステップS12では、情報処理装置1は、予測対象領域207の内側に配置された複数の特定液滴209の各々についての体積を、予測対象領域207の境界208と各特定液滴209との位置関係を示す指標に基づいて決定する。各特定液滴209の体積を決定する詳細な方法については後述する。なお、以下では、「予測対象領域207の境界208と各特定液滴209との位置関係を示す指標」を、単に「指標」と表記することがある。
【0038】
ステップS13では、情報処理装置1は、予測対象領域207の内側において、膜形成処理による硬化性組成物209(複数の特定液滴209)の挙動を予測するシミュレーションを実行する。本ステップS13のシミュレーションは、ステップS12で決定された各特定液滴209の体積に基づいて実行されうる。また、本ステップS13のシミュレーションでは、例えば特許文献1(特開2020-123719号公報)に記載された計算手法が適用されうる。
【0039】
[各特定液滴の体積の決定方法]
次に、ステップS12で実行される各特定液滴209の体積の決定方法について、
図5を参照しながら説明する。
図5は、各特定液滴209の体積の決定方法を示すフローチャートである。本実施形態では、膜形成処理による暫定的な液滴の拡がりを示す分布(以下では、拡がり分布と表記することがある)と予測対象領域207の境界との位置関係を指標として用いて、各特定液滴209の体積を決定する例について説明する。
【0040】
ステップS21では、情報処理装置1は、ショット領域SR上に配置された複数の液滴209の各々について、膜形成処理による暫定的な拡がりを示す分布(拡がり分布)を求める。本実施形態では、ショット領域SR上に配置された複数の液滴209の各々を母点として予測対象領域207を区分けすることで得られるボロノイ図における単位セル(ボロノイセル)が拡がり分布302として用いられうる。なお、本ステップS21は単純な計算で実行可能であるため、本ステップS21での計算コスト(特に計算負荷)は、上記のステップS13のシミュレーションでの計算コストより小さい。
【0041】
ボロノイ図は、ある距離空間上の任意の位置に配置された複数個の点(母点)に対して、同一距離空間上の他の点がどの母点に近いかによって区分けすることによって算出され、区分けされた個々の領域(単位セル)がボロノイセルと呼ばれる。算出されたボロノイ図は、
図3に示されるように、設定画面200bのビジュアルウィンドウ206に表示されうる。本実施形態の場合、母点が各液滴209の中心座標に設定され、ボロノイセルが拡がり分布302として算出される。このような拡がり分布302(ボロノイセル)は、ショット領域SR上に配置された複数の液滴209の全てに対して算出(作成)されうる。なお、
図3のビジュアルウィンドウ206には、予測対象領域207およびその近傍に配置された複数の液滴209に対するボロノイ図が示されている。
【0042】
ステップS22では、情報処理装置1は、予測対象領域207を設定する。予測対象領域207の設定は、例えば
図3に示されるように、入力デバイス40を介してのユーザ入力によって行われうる。
図3に示すようにビジュアルウィンドウ206にボロノイ図を表示することにより、ユーザは、当該ボロノイ図を参照しながら入力欄303aに入力する値を調整することで、予測対象領域207の位置および寸法を調整することができる。また、ユーザは、ビジュアルウィンドウ206により予測対象領域207の境界208を目視で確認することができるため、予測対象領域207の誤入力を防止することができる。なお、この方式では、シミュレーション条件を同じにして、予測対象領域207の位置をずらして再度シミュレーションを行うなどの使い方ができる。
【0043】
また、本ステップS22では、補正有効距離が設定されうる。補正有効距離とは、前述したように、特定液滴209の体積を補正する対象となる範囲(閾値)として、予測対象領域207の境界208からの距離を規定するものである。予測対象領域207の境界208からの距離が補正有効距離未満である特定液滴209が、体積を補正する対象の液滴となる。ユーザは、当該ボロノイ図を参照しながら入力欄303bに値を入力することで、補正有効距離を設定することができる。補正有効距離として入力される値は、例えば、液滴の拡がり分布302(ボロノイセル)の代表長の半分の値や、最小グリッド等、ユーザによって任意に設定されうる。なお、代表長は、拡がり分布302(ボロノイセル)における任意の幅でありうるが、例えば、拡がり分布302の最長の幅(一例として対角線)である。また、硬化性組成物IMの膜厚(液滴密度)の増減は境界208の近傍で生じうるため、補正有効距離は、境界208に近い数個の液滴209のみが補正有効距離内に収まるように設定されることが、計算コスト(計算時間、計算負荷等)の観点で望ましい。
【0044】
ステップS23では、情報処理装置1は、予測対象領域207の内部に配置された複数の特定液滴209の各々について、予測対象領域207の境界208と各特定液滴209との位置関係を示す指標を求める。本実施形態の場合、情報処理装置1は、特定液滴209の拡がり分布302(ボロノイセル)と予測対象領域207の境界208との位置関係を指標として求める。次いで、ステップS24では、情報処理装置1は、ステップS23で求められた指標に基づいて、上記のステップS25のシミュレーションで使用するための各特定液滴209の体積(以下では、シミュレーション用体積と表記することがある)を決定する。例えば、情報処理装置1は、各特定液滴209について事前に設定された初期体積に、拡がり分布の面積に対する目標分布の面積の比率を乗ずることによって、シミュレーション用体積を決定することができる。目標分布とは、予測対象領域207の内側において1つの特定液滴209が拡がるべき範囲、換言すると、1つの特定液滴209が拡がりを担当する範囲でありうる。
【0045】
本実施形態のシミュレーション方法では、前述したように、ショット領域SR上に配置された複数の液滴209のうち、予測対象領域207の内側に配置された複数の特定液滴209が、膜形成処理での挙動を計算(予測)する対象となる。即ち、予測対象領域207の境界208を境に、予測対象領域207の外側にある液滴209は計算対象から外れることとなる。この場合、予測対象領域207の内側における複数の特定液滴209では、予測対象領域207の境界208からの距離に応じて、当該境界208に対する計算モデルの影響の大きさが互いに異なる。そのため、予測対象領域207の境界208の近傍で硬化性組成物IMの膜厚(液滴密度)が増加するようなシミュレーション結果が得られてしまい、ユーザに誤認識を生じさせてしまうことがある。例えば、
図3では、予測対象領域207における+Y方向側の境界208aと-Y方向側の境界208bとでは、液滴209までの距離(最短距離)が異なるため、硬化性組成物IMの膜厚(液滴密度)の増減の傾向も異なってくる。以下では、境界208aの近傍に配置された特定液滴209のグループ(第1液滴グループ304)と、境界208bの近傍に配置された特定液滴209のグループ(第2液滴グループ305)とを例示して説明する。
【0046】
図6(a)は、第1液滴グループ304における各特定液滴209の拡がり分布302(ボロノイセル)を示している。第1液滴グループ304では、
図6(a)に示されるように、各特定液滴209の拡がり分布302の内側を境界208aが通過しており、境界208aを境として予測対象領域207の外側(境界208aより+Y方向側)の部分は計算対象から外れる。つまり、拡がり分布302のうち予測対象領域207の外側の部分(図中のハッチング部分)は、シミュレーションにおいて、境界208aに対する計算モデルにより特定液滴209が拡がらないと仮定される部分である。したがって、当該部分を除外範囲401と称すると、第1液滴グループ304における各特定液滴209は、拡がり分布302から除外範囲401を差し引いた範囲にしか拡がることができない。そのため、各特定液滴209のシミュレーション用体積として、事前に設定された初期体積をそのまま用いると、境界208aの近傍において膜厚(液滴密度)が局所的に且つ不自然に上昇したシミュレーション結果が得られてしまう。このようなシミュレーション結果における膜厚(液滴密度)の局所的な上昇は計算誤差として理解されてもよい。この場合、ユーザは、当該シミュレーション結果における膜厚の局所的な上昇を、ショット領域SR(パターン領域PR)からの硬化性組成物IMの浸み出しとして認識する可能性がある。また、ユーザは、境界208aの近傍における硬化性組成物IMの供給量が多すぎたと認識する可能性がある。
【0047】
図6(b)は、第2液滴グループ305における各特定液滴209の拡がり分布302(ボロノイセル)を示している。第2液滴グループ305では、
図6(b)に示されるように、各特定液滴209の拡がり分布302の外側を境界208bが通過している。また、予測対象領域207の外側(境界208aより-Y方向側)に配置された液滴209は計算対象から外れるため、予測対象領域207の外側から内側への硬化性組成物IMの流入(拡がり)が考慮されない。つまり、拡がり分布302の外側かつ予測対象領域207の内側である部分(図中のハッチング部)は、第2液滴グループ305における各特定液滴209によって補填すべき部分となる。したがって、当該部分を追加範囲402と称すると、第2液滴グループ305における各特定液滴209は、拡がり分布302に追加範囲402を足し合わせた範囲にまで拡がる必要がある。そのため、各特定液滴209のシミュレーション用体積として、事前に設定された初期体積をそのまま用いると、境界208bの近傍において膜厚(液滴密度)が局所的に且つ不自然に低下したシミュレーション結果が得られてしまう。このようなシミュレーション結果における膜厚(液滴密度)の局所的な低下は計算誤差として理解されてもよい。この場合、ユーザは、当該シミュレーション結果における膜厚の局所的な低下を、型Mのパターン領域PRの凹部への硬化性組成物IMの充填性が低いと認識する可能性がある。また、ユーザは、境界208aの近傍における硬化性組成物IMの供給量が少なすぎたと認識する可能性がある。
【0048】
このように、予測対象領域207の境界208の近傍に配置された特定液滴209では、境界208に対する計算モデルの影響により、ユーザの誤認識を招くような計算誤差を含むシミュレーション結果(計算結果)が得られることがある。これは、予測対象領域207の境界208の近傍における膜厚(液滴密度)の変化によって生じうるため、境界208の近傍における限定された範囲の特定液滴209に起因する問題(計算誤差)と理解することもできる。そのため、本実施形態では、拡がり分布302の面積に対する目標分布の面積の比率を補正係数として求め、各特定液滴209について事前に設定された初期体積に当該補正係数を乗じて補正することにより、各特定液滴209のシミュレーション用体積を求める。
【0049】
補正係数は、補正の対象とする特定液滴209の拡がり分布302(例えばボロノイセル)の面積と目標分布の面積とを用いて、以下の式(1)により求めることができる。目標分布は、予測対象領域207の内側において各特定液滴209が拡がるべき範囲である。例えば、第1液滴グループ304の各特定液滴209については、
図6(a)に示されるように、拡がり分布302から除外範囲401を差し引いた範囲が目標分布として適用されうる。一方、第2液滴グループ305の各特定液滴209については、
図6(b)に示されるように、拡がり分布302に追加範囲402を足し合わせた範囲が目標分布として適用されうる。各特定液滴209の拡がり分布302が除外範囲401を有するか、あるいは追加範囲402を有するかについては、予測対象領域207の境界208に最も近い特定液滴209の拡がり分布302の内側を当該境界208が通過するか否かによって判断されうる。
補正係数 = 目標分布の面積/ 拡がり分布の面積 ・・・(1)
【0050】
また、シミュレーション用体積は、以下の式(2)に示されるように、各特定液滴209について事前に設定されている初期体積に補正係数を乗ずることによって求めることができる。補正係数は、予測対象領域207の内側に配置された各特定液滴209について固有に(個別に)算出されるため、シミュレーション用体積も、各特定液滴209について固有に(個別に)算出されうる。
シミュレーション用体積 = 初期体積× 補正係数 ・・・(2)
【0051】
上述したように、本実施形態のシミュレーション方法では、予測対象領域207の内側に配置された複数の特定液滴209の各々について、拡がり分布と予測対象領域207の境界208との位置関係を指標として用いて、シミュレーション体積を決定する。これにより、例えば、予測対象領域207の境界208の近傍において硬化性組成物IMの膜厚(液滴密度)が局所的に増減するなど、ユーザの誤認識を招くようなシミュレーション結果が得られることを低減することができる。
【0052】
なお、本実施形態の上記の処理を用いないシミュレーション方法では、予測対象領域207の境界208の近傍における硬化性組成物IMの膜厚(液滴密度)が変化してしまうことがある。液滴密度の変化の影響は境界208の周辺の計算精度を低下させてしまう。さらに、この境界208の周辺の計算精度の低下は、予測対象領域207の中央部にまで及ぶこともある。具体的には、液膜の厚みや浸み出し量等が変化してしまう。一方、本実施形態の上記処理のように境界208の近傍における特定液滴209の体積を調整(補正)してからシミュレーションを行うことにより、硬化性組成物IMの膜厚(液滴密度)の変化の影響が低減された良好なシミュレーション結果を得ることができる。
【0053】
<第2実施形態>
本発明に係る第2実施形態について説明する。上記の第1実施形態では、ステップS23において、ボロノイ図を求めることにより各液滴209の拡がり分布を求める例を説明した。本実施形態では、ステップS23において、膜形成処理で基板S上の複数の液滴209と型Mとを接触させる際の基板Sと型Mとの間隔に基づいて各液滴209の拡がり分布を求める例について説明する。なお、本実施形態は、第1実施形態を基本的に引き継ぐものであり、以下で説明する事項(例えば、各液滴209の拡がり分布の求め方)以外は第1実施形態で説明したとおりである。
【0054】
図7は、予測対象領域207の境界208の近傍に配置された特定液滴209の拡がり分布602(膜形成処理による暫定的な液滴の拡がりを示す分布)を示している。
図7において、境界208より-Y方向側が予測対象領域207の内側であり、境界208より+Y方向側が予測対象領域207の外側である。本実施形態の場合、拡がり分布602は、基板Sと型Mとを互いに対して近づけて膜形成処理で基板S上の複数の液滴209と型Mとを接触させる際に、各特定液滴209が他の液滴の影響を考慮せずに拡がる範囲を示している。当該拡がり分布602は、当該接触の際の基板Sと型Mとの間隔に基づいて算出されうる。例えば、各特定液滴209が、その中心から同心円状に拡がると仮定した場合、事前に設定された各特定液滴209の初期体積と、基板Sと型Mとの間隔とに基づいて、各特定液滴209の拡がり分布602を算出することができる。一例として、型Mにより押圧された特定液滴209の形状を円柱で近似し、目標となる硬化性組成部IMの膜厚から拡がり分布602を算出することができる。拡がり分布602を算出する際の計算コストは、上記のステップS13のシミュレーションで計算コストより小さい。また、拡がり分布602は、計測やシミュレーションを用いて求めてもよい。
【0055】
図7に示される例では、各特定液滴209の拡がり分布602の内側を境界208が通過しており、境界208を境として予測対象領域207の外側(図中では、境界208より+Y方向側)の部分は計算対象から外れる。つまり、拡がり分布602のうち予測対象領域207の外側の部分(図中のハッチング部分)は、シミュレーションにおいて、境界208に対する計算モデルにより特定液滴209が拡がらないと仮定される部分である。したがって、当該部分を除外範囲603と称すると、
図7に示される例では、拡がり分布602から除外範囲603を差し引いた範囲が目標分布として適用され、上記の式(1)~(2)を用いて各特定液滴209のシミュレーション用体積が求められうる。
【0056】
このように各特定液滴209の拡がり分布602を求める場合、ボロノイ図を用いて拡がり分布302を求める場合と比べて、計算精度の点で不利になりうるが、計算コストの点で有利になりうる。なお、各特定液滴209の拡がり分布602の外側を境界208が通過する場合には、上記の
図6(b)の拡がり分布302が本実施形態の拡がり分布602に置き換わるだけであり、シミュレーション用体積の求め方については前述と同様である。
【0057】
ここで、本実施形態では、拡がり分布602の半径を超えると補正係数を計算することが困難になる。よって、補正係数を計算することができない特定液滴209は自動で補正対象から外す処理が必要となる。また、拡がり分布602の直径は他の液滴の影響を考慮していないため、拡がり分布602の代表長は、ボロノイ図を用いた拡がり分布302の代表長よりも大きくなる。よって、硬化性組成物IMの膜厚(液滴密度)は小さくなる方向に補正されるため、第1実施形態1に比べて計算精度の向上効果は低くなる。しかしながら、本実施形態は、例えば充填時の浸み出し状況に関する評価に着目し、かつ計算コストを抑えたい時に有効な手法と言える。以下に理由を説明する。例えば、浸み出しを評価する場合において、本実施形態を適用していない計算であれば、境界208aの近傍において硬化性組成物IMの膜厚(液滴密度)が局所的に上昇するシミュレーション結果が得られ、その部分で浸み出しが始まるとユーザが誤認識しうる。これは、シミュレーションのユーザに誤った情報を与え、結果の評価を誤らせうる。一方、本実施形態を適用した計算手法では、そのような浸み出しの過剰見積もりが抑制される効果が期待できる。また、第1実施形態と比較して、液滴の拡がり分布囲を算出する工程の計算コストが小さいという利点もある。シミュレーションのユーザは、計算したい内容に合わせて有効な補正内容を選択すればよい。
【0058】
<第3実施形態>
本発明に係る第3実施形態について説明する。上記の第1~第2実施形態では、各特定液滴209について、拡がり分布と予測対象領域207の境界208との位置関係を指標として用いて、シミュレーション用体積を決定した。本実施形態では、各特定液滴209と予測対象領域207の境界との距離を指標として用いてシミュレーション用体積を決定する例について説明する。なお、本実施形態は、第1実施形態を基本的に引き継ぐものであり、以下で説明する事項以外は第1実施形態で説明したとおりである。
【0059】
本実施形態では、前述した
図5のステップS23において、予測対象領域207の内部に配置された複数の特定液滴209の各々について、予測対象領域207の境界208までの距離を指標として求める。例えば、
図7に示されるように、特定液滴209と境界208との最短距離601が、境界208までの距離として求められうる。そして、
図5のステップS24において、ステップS23で求めた指標(距離)に基づいて、各特定液滴209のシミュレーション用体積を決定する。例えば、ステップS24では、指標値としての境界208までの距離が短いほどシミュレーション用体積が小さくなるように、当該距離に応じてシミュレーション用体積を決定しうる。
【0060】
また、
図5のステップS24では、複数の特定液滴209のうち、指標としての境界208までの距離が閾値未満である特定液滴209については、シミュレーション用体積をゼロに決定してもよい。当該閾値としては、任意に設定されうるが、
図3に示される設定画面200bの入力ウィンドウ303(入力欄303b)でユーザにより設定される補正有効距離が用いられてもよい。つまり、複数の特定液滴209のうち、境界208までの距離が補正有効距離より短い特定液滴209について、シミュレーション用体積をゼロに決定してもよい。このように境界208までの距離が閾値未満である特定液滴209のシミュレーション用体積を一律でゼロとすると、計算精度は低下するが、更なる計算コストの低下が期待できる。また、浸み出しの過剰見積もりなど、ユーザの誤認識を招くようなシミュレーション結果が得られることを低減することができる。
【0061】
なお、第1~第3実施形態では、説明のし易さから予測対象領域207の外側への液滴209の拡がりを、予測対象領域207の境界208で反転して予測対象領域207の内側に拡がるものとして計算するモデル(対象境界)を用いて説明した。しかしながら、境界208は、ここで説明したモデルに限定されるものではない。具体的には、数値計算で使われる一般的な境界条件である圧力境界、対象境界、速度境界、壁境界のようなモデルにおいても、同様の効果を得ることができる。
【0062】
<第4実施形態>
上記実施形態では、膜形成処理における硬化性組成物IMの挙動を予測する情報処理装置1(シミュレーション装置)を、膜形成装置IMPと別体として構成する例を説明した。しかしながら、それに限られず、膜形成装置IMPに情報処理装置1(シミュレーション装置)が組み込まれてもよい。この場合、膜形成装置IMPは、第1部材の上に配置された硬化性組成物と第2部材とを接触させ第1部材の上に硬化性組成物の膜を形成する処理を、情報処理装置1による硬化性組成物の挙動の予測に基づいて制御しうる。また、上記実施形態では、型Mがパターンを有する形態について説明したが、本発明は、基板Sがパターンを有する形態にも適用できる。
【0063】
<第5実施形態>
本発明に係る第5実施形態について説明する。第1実施形態および第2実施形態では、特定液滴209の体積を調整し、液膜の厚みや浸み出しの影響を軽減する方法について説明した。一方、このような液滴の体積の増減を行うと、隣接する他の液滴との結合タイミングに誤差が生じてしまう。例えば、体積を増大させた液滴は、型により押しつぶされた際の面積がより大きくなるため、隣接する液滴との結合タイミングが早くなる。そこで、本実施形態では、第1実施形態および第2実施形態により体積を調整した後に、液滴同士の結合タイミングを調整する方法について説明する。本実施形態では、ボロノイ図を利用した第1実施形態を用いて説明を行う。なお、本実施形態は、第1実施形態を基本的に引き継ぐものであり、以下で説明する事項以外は第1実施形態で説明した通りである。
【0064】
図8は、予測対象領域の境界の近傍に配置された特定液滴の位置変更を示す図である。
図8(a)は境界208a近傍の特定液滴209を示している。この特定液滴209のボロノイセル内を境界208aが通っており、拡がり分布の面積に対して目標分布の面積が小さくなる場合を表している。このような場合は、特定液滴209の体積を小さくなるように調整することになり、体積が減ったことで押印時の液滴の拡がりが緩やかになり、周辺の液滴との接合タイミングが遅れてしまう。そこで本実施形態では、目標分布の重心位置に特定液滴209の位置をずらす。こうすることで、特定液滴209の位置は境界208aから離れる方向(-Y方向)に移動し、その他の体積調整を行わない液滴に近づくため、液滴同士の結合のタイミングの遅れを緩和させることができる。
【0065】
また、
図8(b)は、境界208b近傍の特定液滴209を示している。この特定液滴209のボロノイセルの外側を境界208aが通っており、拡がり分布の面積に対して目標分布の面積が大きくなる場合を表している。このような場合は、特定液滴209の体積を大きくなるように調整することになり、体積が増えたことで押印時の液滴の拡がりが急になり、周辺の液滴との接合タイミングが早まってしまう。ここでも同様に、目標分布の重心位置に特定液滴209の位置をずらす。こうすることで、特定液滴の位置は境界208bに近づく方向(-Y方向)に移動し、その他の体積調整を行わない液滴から遠ざかるため、液滴同士の結合のタイミングの早まりを緩和させることができる。
【0066】
ここで、本実施形態では説明を簡単にするために、目標分布の重心位置の変動が1方向(本実施形態ではY軸方向)に限定される例について述べた。しかしながら、重心位置の変動は1方向に限定されるわけではなく、2方向(X軸方向成分およびY軸方向成分)の場合もある。一例を挙げると、予測対象領域207が矩形である場合、その角部に最も近くなる特定液滴209は、X軸方向に平行な境界およびY軸方向に平行な境界の双方と関連するため、目標分布は2方向(X軸方向およびY軸方向)に増減することがある。その場合は、特定液滴209の位置も2方向(X軸方向およびY軸方向)の成分で移動することがありうる。
【0067】
第1実施形態の説明と同様に、第2実施形態においても拡がり分布602から除外範囲603を差し引いた範囲を目標分布としており、この目標分布の重心に特定液滴209の位置をずらすことで同様の効果が得られる。
【0068】
以上、説明したように、本実施形態を適用することで、体積調整後に生じる液滴同士の接液タイミングのずれを緩和させることができる。これにより、ユーザの誤認識を招くようなシミュレーション結果が得られることを低減する事ができる。
【0069】
<第6実施形態>
本発明に係る第6実施形態について説明する。本実施形態では、予測対象領域207内に液滴拡がり境界が入る場合の説明を行う。液滴拡がり境界とは、型Mの押印により、硬化性組成物IMの膜が形成されるべき領域の境界を指す。基板Sの中央部付近に液膜を形成する場合には、パターン領域PR全面を利用して液体の膜を形成する(フルフィールド)ため、パターン領域PRの境界部が液滴拡がり境界となる。また、基板Sの端部に近い場所に液膜を形成する(パーシャルフィールド)場合は、パターン領域PRの境界部および基板Sの外周部が液滴拡がり境界となる。本実施形態では説明を簡単にするために、パターン領域PRの境界部を直線で構成された矩形とし、基板Sの外周部を円形として説明を行う。以下では、ボロノイ図を利用した第1実施形態を用いて説明を行う。なお、本実施形態は、第1実施形態を基本的に引き継ぐものであり、以下で説明する事項以外は第1実施形態で説明した通りである。
【0070】
図9は、予測対象領域207内にパターン領域SRによる液滴拡がり境界が含まれる場合を示している。
図9(a)は予測対象領域の近傍を示している。予測対象領域207はパターン領域SRの境界のY軸方向と平行な部分を含むように定義している。よって、液滴拡がり境界901は予測対象領域207に対してY軸方向に平行に配置されている。液滴拡がり領域901を境にして-X方向に硬化性組成物IMの複数の液滴が配置されている。対して、+X方向には硬化性組成物IMの液滴は配置されていない。なお、実際のインプリントにおいては、硬化性組成物が境界901を越えて外側に流出する「浸み出し」が発生しうる。しかしながら、本実施形態における目標分布を求める際には、硬化性組成物の液滴が境界901を越えて拡がらないものとする。
【0071】
目標分布が液滴拡がり境界901に接する液滴のシミュレーション体積および位置は、境界901からの浸み出しに対して大きな影響を与える。したがって、補正対象に含むべきではない。一方、目標分布が液滴拡がり境界901に接し、かつ予測対象領域の境界208にも接する液滴については、目標分布に対して、液滴のシミュレーション体積の過不足が生じ、当該部分の液膜厚みの増減や、浸み出し量の予測精度悪化を招きうる。したがって、当該液滴についてはシミュレーション体積および位置の補正が必要である。当該液滴は、液滴拡がり境界901に接する複数の液滴の両端に位置しており、端の液滴902とする。本実施形態における端の液滴902は2個あり、それぞれのシミュレーション体積の補正方法は第1実施形態に従って行われるため説明は省略する。
【0072】
次に、端の液滴902に対して、第5実施形態で説明した体積補正後に行われる位置の補正を行う場合について説明する。
図9(b)には、
図9(a)において丸で囲まれた、端の液滴902の目標分布を示している。この目標分布は、拡がり分布302に比べて面積が増えるため、シミュレーション体積は増加する方向に補正される。
【0073】
液滴拡がり境界901に近い液滴は、浸み出しを防止するために、液滴拡がり領域901から意図的に距離を取って配置することが多い。そのため、端の液滴902の目標分布の重心903を見ると、初期の液滴配置よりも液滴拡がり境界901に近接した位置に重心903が構成されてしまう傾向がある。よって、第5実施形態のように端の液滴902の位置を補正すると、実際よりも浸み出しが多く計算されて、計算結果の誤認識が起きてしまう。
【0074】
この現象を防止するために、目標分布の面積の増減と関係のない方向(液滴拡がり境界901と直交する方向)については液滴の位置補正を行わず、目標分布の面積の増減と関係する方向(境界208に直交する方向)について液滴位置の補正を行う。端の液滴902の中心から、液滴拡がり境界901と平行となる線を第1の補助線904とする。第1の補助線904上を端の液滴902が移動する限り、拡がり境界901との距離は変化しない。一方、目標分布から求められる重心903を通る液滴拡がり境界901の垂線を第2の補助線905とする。第1の補助線904と第2の補助線905との交点に端の液滴902の位置を移動させることで、液滴拡がり境界からの法線方向の距離を保ちつつ、位置の補正を行うことができる。ここで、端の液滴902の左隣(-X方向)にある液滴については、シミュレーション体積および液滴位置を補正する場合、液滴拡がり境界と接していないため、第1実施形態1に従って補正を行う。
【0075】
図10は、予測対象領域207内に基板Sの端部による液滴拡がり境界901が含まれる場合を示している。
図10(a)は予測対象領域の近傍を示している。パターン領域SRのときは液滴拡がり境界901が直線で形成されていたが、ここでの液滴拡がり領域は曲線となっている。
【0076】
図10の例でも液滴拡がり領域901を境にして、基板Sの内側に該当する左下方向に硬化性組成物IMの複数の液滴が配置されている。一方、基板Sの外側に該当する右上方向には硬化性組成物IMの複数の液滴が配置されていない。なお、
図10の例でも、目標分布を求める際には、硬化性組成物の液滴は、境界901を越えて拡がらないものとする。
【0077】
図10の例では、
図9の説明と同様に、目標分布が液拡がり境界901に接する液滴のシミュレーション体積および位置は補正対象に含むべきではない。目標分布が液拡がり境界901に接し、かつ予測対象領域の境界208にも接する(即ち、境界901および境界208の両方に接する)端の液滴902について、液滴のシミュレーション体積および位置の補正が必要となる。
図10の例において液滴902は2個あり、それぞれのシミュレーション体積の補正方法は第1実施形態に従って行うため説明は省略する。
【0078】
次に、端の液滴902に対して、第5実施形態で説明した体積補正後に行われる位置の補正を行う場合について説明する。
図10(b)には、
図10(a)において丸で囲まれた、端の液滴902の目標分布を示している。この目標分布は、拡がり分布302に比べて面積が減少するため、シミュレーション体積は減少する方向に補正される。
【0079】
端の液滴902の中心から、液滴拡がり境界901と平行となる曲線を第1の補助線904とする。第1の補助線904上を端の液滴902が移動する限り、液滴拡がり境界901との距離は変化しない。一方、目標分布から求められる重心903を通る液滴拡がり境界901の法線を第2の補助線905とする。第1の補助線904と第2の補助線905との交点に端の液滴902の位置を移動させることで、液滴拡がり境界からの法線方向の距離を保ちつつ位置の補正を行うことができる。ここで、
図10の例においても、端の液滴902の左隣(-X軸方向)にある液滴については、シミュレーション体積および液滴位置を補正する場合、液滴拡がり境界と接していないため、第1実施形態に従って補正を行う。
【0080】
以上、説明したように、本実施形態を適用することで、予測対象領域内に液滴拡がり境界を含んだ場合であっても、体積調整後に生じる液滴同士の接液タイミングのずれを緩和させることができる。これにより、ユーザの誤認識を招くようなシミュレーション結果が得られることを低減する事ができる。
【0081】
<物品の製造方法の実施形態>
実施形態の物品製造方法は、上記シミュレーション方法を実施した結果に基づいて、膜形成処理の条件を決定する工程と、該条件に従って該膜形成処理を実行する工程を含みうる。膜形成処理の条件を決定する工程では、上記シミュレーション方法を繰り返しながら該膜形成処理の条件が決定されてもよい。
【0082】
図11には、物品製造方法のより具体的な例が示されている。
図11(a)に示すように、絶縁体等の被加工材2zが表面に形成されたシリコンウエハ等の基板1zを用意し、続いて、インクジェット法等により、被加工材2zの表面にインプリント材3zを付与する。ここでは、複数の液滴状になったインプリント材3zが基板上に付与された様子を示している。
【0083】
図11(b)に示すように、インプリント用の型4zを、その凹凸パターンが形成された側を基板上のインプリント材3zに向け、対向させる。
図11(c)に示すように、インプリント材3zが付与された基板1zと型4zとを接触させ、圧力を加える。インプリント材3zは型4zと被加工材2zとの隙間に充填される。この状態で硬化用のエネルギーとして光を型4zを介して照射すると、インプリント材3zは硬化する。
【0084】
図11(d)に示すように、インプリント材3zを硬化させた後、型4zと基板1zを引き離すと、基板1z上にインプリント材3zの硬化物のパターンが形成される。この硬化物のパターンは、型の凹部が硬化物の凸部に、型の凸部が硬化物の凹部に対応した形状になっており、即ち、インプリント材3zに型4zの凹凸パターンが転写されたことになる。
【0085】
図11(e)に示すように、硬化物のパターンを耐エッチングマスクとしてエッチングを行うと、被加工材2zの表面のうち、硬化物が無いか或いは薄く残存した部分が除去され、溝5zとなる。
図11(f)に示すように、硬化物のパターンを除去すると、被加工材2zの表面に溝5zが形成された物品を得ることができる。ここでは硬化物のパターンを除去したが、加工後も除去せずに、例えば、半導体素子等に含まれる層間絶縁用の膜、つまり、物品の構成部材として利用してもよい。
【0086】
<その他の実施形態>
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0087】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0088】
IMP:膜形成装置、M:型、S:基板、1:情報処理装置、10:プロセッサ、20:メモリ、30:ディスプレイ、40:入力デバイス