(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】透析移行又は腎死の抑制のための薬剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/5585 20060101AFI20241004BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20241004BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20241004BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
A61K31/5585
A61K45/00
A61P13/12
A61P43/00 121
(21)【出願番号】P 2021504839
(86)(22)【出願日】2020-12-23
(86)【国際出願番号】 JP2020048091
(87)【国際公開番号】W WO2021132302
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-09-22
(31)【優先権主張番号】P 2019231495
(32)【優先日】2019-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006677
【氏名又は名称】アステラス製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】車谷 元
(72)【発明者】
【氏名】岡田 清伸
(72)【発明者】
【氏名】山田 尚弘
(72)【発明者】
【氏名】桐山 尚
(72)【発明者】
【氏名】加納 浩之
(72)【発明者】
【氏名】山田 俊介
【審査官】堂畑 厚志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第16/31949(WO,A1)
【文献】特開2005-232003(JP,A)
【文献】国際公開第04/98611(WO,A1)
【文献】国際公開第00/67748(WO,A1)
【文献】NAKAMOTO, Hidemoto et al.,Effects of Sustained-Release Beraprost in Patients With Primary Glomerular Disease or Nephrosclerosi,Therapeutic Apheresis and Dialysis,2020年02月,24 (1),pp. 42-55,DOI: 10.1111/1744-9987.12840
【文献】KOYAMA, Akio et al.,Orally active prostacyclin analogue beraprost sodium in patients with chronic kidney disease: a rand,BMC Nephrology,2015年,16: 165,DOI: 10.1186/s12882-015-0130-5
【文献】NAKAMOTO, Hidemoto et al.,A multinational phase IIb/III trial of beraprost sodium, an orally active prostacyclin analogue, in,BMC Nephrology,2014年,15: 153,DOI: 10.1186/1471-2369-15-153
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K9/00-33/44
A61K47/00-47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で示される化合物を有効成分として含有する徐放性製剤であって、
【化1】
[式中、Rは、水素又は薬理学的に許容される陽イオンを表す。]
前記一般式(I)で示される化合物が、血清クレアチニン値が2.0mg/dl以上3.0mg/dl未満の原発性糸球体疾患又は腎硬化症患者に、1日あたり220~260μg投与されるように用いられる、透析移行又は腎死の抑制のための薬剤。
【請求項2】
前記一般式(I)で示される化合物は、ベラプロストナトリウムである、請求項1記載の薬剤。
【請求項3】
前記原発性糸球体疾患又は前記腎硬化症患者は、慢性腎臓病疫学共同研究(Chronic Kidney Disease Epidemiology Collaboration:CKD-EPI)式で算出した推算糸球体濾過量(eGFR)が15ml/分/1.73m
2以上45ml/分/1.73m
2未満である、請求項1又は2記載の薬剤。
【請求項4】
前記原発性糸球体疾患又は前記腎硬化症患者は、前記一般式(I)で示される化合物を有効成分として含有する徐放性製剤を、食後に1回、前記一般式(I)で示される化合物として120μg投与した時の投与後2~6時間における血漿中濃度が平均50pg/ml以上である、請求項1~3のいずれか一項記載の薬剤。
【請求項5】
アンジオテンシン変換酵素阻害薬を有効成分として組み合わせてなる、請求項1~4のいずれか一項記載の薬剤。
【請求項6】
アンジオテンシン変換酵素阻害薬を有効成分として含有する別個の製剤と、同時に、別々に又は順次に投与されるように用いられる、請求項1~4のいずれか一項記載の薬剤。
【請求項7】
透析移行又は腎死の抑制のための治療又は予防において、同時に、別々に又は順次に投与されるように用いられるための組み合わせ製剤であって、以下の(a)及び(b)の2つの製剤を別個に含む、請求項1~4のいずれか一項記載の薬剤。
(a)前記一般式(I)で示される化合物を有効成分として含有する経口徐放性製剤
(b)アンジオテンシン変換酵素阻害薬を有効成分として含有する製剤
【請求項8】
アンジオテンシン変換酵素阻害薬と併用される、請求項1~4のいずれか一項記載の薬剤。
【請求項9】
下記一般式(I)で示される化合物を有効成分として含有する徐放性製剤であって、
【化2】
[式中、Rは、水素又は薬理学的に許容される陽イオンを表す。]
前記一般式(I)で示される化合物が、栄養障害のある原発性糸球体疾患又は腎硬化症患者に、1日あたり220~260μg投与されるように用いられる、透析移行又は腎死の抑制のための薬剤。
【請求項10】
前記栄養障害は、Protein Energy Wasting(PEW)又はその予備軍である、請求項9記載の薬剤
【請求項11】
前記栄養障害は、PEWの4つの構成要素を1つでも満たす栄養障害である、請求項9又は10記載の薬剤。
【請求項12】
前記栄養障害は、悪液質、サルコペニア又はフレイルである、請求項9~11のいずれか一項記載の薬剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の患者群に投与される透析移行又は腎死の抑制のための薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
透析や腎移植を必要とする末期腎不全患者の世界的な増加が続いており、その著しい社会的な負担が問題になっている。
【0003】
末期腎不全に至る原疾患には、慢性糸球体腎炎等の原発性糸球体疾患、糖尿病性腎症等の続発性糸球体疾患、尿細管及び間質性腎炎等がある。慢性腎不全の中でも、原疾患が糖尿病性腎症と非糖尿病性腎症では病態に違いがあり、国際腎臓病ガイドラインであるKidney Disease: Improving Global Outcomes(以下、KDIGOと略す)が2012年に改訂した慢性腎臓病(以下、CKDと略す)の重症度分類においても、原疾患を糖尿病とする場合と非糖尿病とする場合で大別されることになった。
【0004】
この非糖尿病性の腎障害又は慢性腎不全の中で、原発性糸球体疾患と腎硬化症は主要な部分を占めている。近年、糖尿病の増加に伴い、糖尿病性腎症が透析の原因疾患に占める割合は世界中で増加している。一方、東アジアにおいて、IgA腎症をはじめとする原発性糸球体疾患は、透析理由の首位又は2位を占め、特に中国においては透析原因の首位を占める。また腎硬化症も、アジアのほとんど国で透析理由の第3位を占めるほか、近年の動脈硬化性疾患の増加とともに世界的に増大の傾向が続いている。
【0005】
また、近年、糖尿病の治療に対して新たな糖尿病治療剤が広く使用されるようになり、患者の血糖コントロールがさらに良好に行われるようになったことから、これらの薬剤で治療することによって糖尿病性腎症の予後の向上が期待され、一部の薬剤では大規模臨床試験で良好な成績が得られている。しかしながら、非糖尿病性の慢性腎障害の治療の方法は、あまり進んでいないのが現状である。
【0006】
いったん壊れた糸球体は再生しないとされることから、慢性腎障害に対する治療の目的は、腎障害の進行をできるだけゆるやかにすることである。現行の実治療として、塩分制限や低蛋白食中心の食事療法のほか、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(以下、ACEIと略す)やアンジオテンシン受容体拮抗薬(以下、ARBと略す)をはじめとする降圧薬が用いられる。また、透析が近づき尿毒症症状が認められる場合には、その原因となる物質を消化管内から吸着除去する球形吸着炭(日本、韓国及び台湾で販売)が用いられている。
【0007】
しかしながら、これらの治療によっても末期腎不全の患者数は世界的に増加し続けており、慢性腎不全の進行を確実に遅らせることができる新たな治療法が切望されている。
【0008】
ベラプロストナトリウム(以下、BPSと略す)は、日本において発明されたプロスタサイクリン(PGI2ともいう)誘導体であり、慢性動脈閉塞症、肺動脈性肺高血圧症の治療薬として、日本をはじめアジア各国で広く用いられている。BPSを有効成分として含有する慢性腎不全の予防又は治療剤が報告されている(特許文献1)。特許文献1には、腎不全モデルラットにBPSを投与すると、血清クレアチニン値の上昇を抑制するとともに腎の組織障害を軽減することが記載されている。また、自然発症の慢性腎臓病ネコへのBPSの投与によって、腎機能の低下が抑制されることが報告されている(非特許文献1)。
【0009】
また、慢性腎不全患者にBPSを1回20μg、1日3回、6ヶ月間投与した際、腎機能の低下速度を示す血清クレアチニン値の逆数の時間変化直線の傾きが、BPS投与群で緩やかになることが報告されている(非特許文献2)。本臨床例において使用された薬剤は、当時日本で医薬品として製造販売承認を受けていた、BPS速放錠のドルナー(商標)錠(アステラス製薬株式会社)あるいはプロサイリン(商標)錠(科研製薬株式会社)である。
【0010】
さらに非特許文献2に引き続いて、慢性腎不全患者にBPSを1回20μg、1日3回、最大54か月まで長期継続投与した結果が報告されている(非特許文献3)。本結果によれば、BPS投与開始前の血清クレアチニン値が1.9mg/dl以下の患者群では、最大54か月間透析移行が見られなかったものの、BPS投与開始前の血清クレアチニン値が2.8mg/dl以上の患者群は24か月以内に透析に移行し、血清クレアチニン値が1.9~2.8mg/dlの患者群では、血清クレアチニン値が2.2mg/dl以上になると、BPSの効果が認められなくなることが報告されている。
【0011】
BPS速放錠では、1日3回ないし4回の服薬が必要であることから、1日2回投与型のBPS徐放錠が開発され、肺動脈性肺高血圧症を適応として日本での製造販売承認が得られ、ケアロード(商標)LA錠(アステラス製薬株式会社)又はベラサス(商標)LA錠(科研製薬株式会社)として、臨床応用されている。このBPS徐放錠を用いた、原発性糸球体疾患及び腎硬化症患者を原疾患とする慢性腎不全患者を対象とした臨床試験が実施された。
【0012】
まず、用量設定試験として、BPS徐放錠を用い、1日用量として120μg又は240μg、1日2回投与での用法・用量で、6か月間投与した試験が実施された。主要評価項目であるクレアチニンの逆数の時間変化直線の、治療期と観察期の傾きの差は、240μg群のプラセボ群に対する優越性が認められなかった。120μg群のプラセボ群に対する優越性も同様に認められなかった。しかしながら、本評価項目については、いずれの実薬群もプラセボ群を上回ったものの、120μg群の方が有効性が高く、用量反応性も明確ではなかった。有効性の指標として、投与期間の血清クレアチニン値については、プラセボ群が投与開始前に比べて1.169倍に上昇したのに対し、BPS120μg及び240μg投与群では、その上昇が、それぞれ1.069及び1.064倍に抑制され、有効性が示唆されている(非特許文献4)。
【0013】
本結果に基づいて、P-IIb/III試験が設計され(非特許文献5)、日本を含むアジア7か国で実施された(CASSIOPEIR試験)。これは、血清クレアチニン値の倍化、6mg/mlへの到達、透析移行及び腎移植を腎複合エンドポイントとし、120μg又は240μgのBPS徐放錠の投与によって、プラセボ投与に比較してその発現までの期間が延長されるかを主要評価項目とした試験であり、BPSの投与期間は2~4年であった。
【0014】
対象患者は、P-II試験と同じ原発性糸球体疾患及び腎硬化症患者を原疾患とする慢性腎不全患者であり、エントリー時の血清クレアチニン値は2.0~4.5mg/dlであった。本試験の結果は、非特許文献6に報告されたとおり、120μgBPS投与群及び240μgBPS投与群の両群とも、腎複合エンドポイントだけでなく、透析への移行までの期間を全く抑制しないことが示されている。
【0015】
ヒトにおいて、腎機能評価の指標として血清クレアチニン値、性別、必要に応じて人種を考慮することで示される推算糸球体濾過量(以下、eGFRと略す)が、どの程度低下すれば、透析への移行や腎死を予測できるかが検討されている。その結果、eGFRが初期値より30%~40%低下(血清クレアチニン値では、30%~40%以上の上昇に相当する)を指標とすれば、透析や移植への到達を予測する指標として有用であるが、それよりも少ない低下率では、透析や移植を予測するのに妥当ではないことが報告されている(非特許文献7)。このことからも、P-II試験の結果である、ヒトにおいて、プラセボ群では、血清クレアチニン値が投与前に比べて1.167倍に上昇したが、BPS投与によってその上昇が、1.069あるいは1.064倍に抑制されたとの知見から、透析や移植までの期間の延長は予測できず、事実、透析移行をイベントとした実際の臨床試験でも透析や腎死の抑制は認められなかった(非特許文献6)。
【0016】
慢性腎不全患者の栄養障害、特に低栄養状態が、慢性腎不全の進行だけでなく、予後の重要な危険因子になることが、近年特に注目されている。慢性腎不全患者の栄養障害は、単なる低栄養とは質的に異なる点があるとして、国際腎疾患栄養代謝学会と国際腎臓学会は2008年にProtein Energy Wasting(以下、PEWと略す)という新しい概念を提唱した。PEWとは、腎不全患者において、体蛋白(骨格筋・血液中の蛋白質)やエネルギー源(体脂肪)の貯蔵量が減少して引き起こされる低栄養状態を指す。またPEWでは消化管・中枢神経系の食欲関連ホルモンの異常に伴う食欲低下が生じるほか、代謝性アシドーシス・炎症等に起因する蛋白異化・エネルギー代謝亢進により、脂肪のみならず筋肉等の体蛋白も失われるサルコペニア(筋肉量減少)をきたす病態となる。
【0017】
また通常の低栄養は栄養摂取量の相対的な不足に起因するが、腎不全の患者においては尿毒症症状や炎症、体蛋白質の異化亢進等の消耗に関連する要因が重なりあうことにより、栄養摂取量の減少と関連しない除脂肪体重の減少をも認めることがあり、これがPEWの特徴の一つとされている。
【0018】
PEWは以下の表1に示す診断基準により診断することができる(非特許文献8)。大きく4つのカテゴリーがあり、「Serum chemistry」、「Body mass」、「Muscle mass」「Dietary intake」に分けられ、それぞれのカテゴリー中の1項目でも該当するカテゴリーが、4つのうち3つ以上ある場合は、PEWと診断され、保存期のCKD患者の約30から50%が、PEWの診断基準に当てはまるといわれている。
【表1】
【0019】
腎疾患患者の低栄養状態であるPEWはもちろん予後不良因子であり、PEWを引き起こさないようにすることは非常に大切である。さらに、一般的な栄養状態の評価項目もこのPEW診断基準に含まれていることから、たとえPEWの診断基準には当てはまらなくても(1項目でも該当するカテゴリーが4つのうち3つ以上ない場合でも)、該当する項目を少しでも減らすよう栄養管理を行っていくことが重要と考えられている(非特許文献8)。
【0020】
低栄養の評価には、総リンパ球数(TLC)も多く用いられ、免疫能の指標となる。TLC(/mm3)=WBC(白血球数)×TLC%(白血球中のリンパ球数の割合)/100で示され、1,500/mm3未満が中等度の低栄養の指標となる。
【0021】
慢性腎不全においては、腎機能の低下をできるだけ遅くするために、蛋白質の摂取の制限を中心とした食事療法が実施されることが多く、また、栄養障害のリスク患者である高齢者が多いことも、栄養障害をもたらすリスク因子となっている。
【0022】
悪液質とは「基礎疾患によって引き起こされ、脂肪量の減少の有無にかかわらず、筋肉量の減少を特徴とする複合的代謝異常の症候群である。」と規定されて、PEWが重篤化した段階ととらえられる。悪液質の臨床的特徴は、成人の場合は体重減少で、小児の場合は成長障害としてあらわれる。
【0023】
また、サルコペニアは、「高齢期にみられる骨格筋量の減少と筋力もしくは身体機能(歩行速度等)の低下」により定義される。European Working Group on Sarcopenia in Older People(以下、EWGSOPと略す)から操作的定義が発表されたのに続き、日本人を含むアジアの疫学データを元にしたAsian Working Group for Sarcopenia(以下、AWGSと略す)等、各種の定義が報告されている。これらはいずれも骨格筋量の減少を必須とし、筋力低下又は身体機能低下のいずれかあるいは双方を含むものである(非特許文献9)。近年では、種々病態による骨格筋量の低下、いわゆる二次性サルコペニアが注目されており、慢性腎臓病あるいは慢性腎不全も二次性サルコペニアを多く生じる疾患として知られている。慢性腎臓病患者におけるサルコペニアの発症や進展には、腎機能の低下を緩和するための蛋白質の摂取制限も関与していると考えられている。
【0024】
フレイルは、「加齢とともに心身の活力(運動機能や認知機能等)が低下し、複数の慢性疾患の併存等の影響もあり、生活機能が障害され、心身の脆弱性が出現した状態であるが、一方で適切な介入・支援により、生活機能の維持向上が可能な状態像」(非特許文献10)とされており、健康な状態と日常生活でサポートが必要な介護状態の中間を意味する。これまでフレイルについて、多くの定義が提唱されている(非特許文献11)。慢性腎不全患者においてフレイルを合併した場合には、その予後が不良であることが認められている。
【0025】
最近、SGLT2阻害剤が糖尿病性腎症に極めて有効であるとの大規模臨床試験成績が発表されて注目を集めている。しかしながら、SGLT2阻害剤は、尿細管からの糖の再吸収を阻害することが主な作用メカニズムであり、体重の減少をもたらす。この体重減少には、体脂肪の減少だけでなく、筋肉量の減少が同程度関与することが知られていることから、PEW等の栄養障害の患者や、筋肉量が少ないサルコペニアやフレイルの患者に投与するには、こうした障害を助長し腎不全の悪化や死亡リスクの上昇のリスクが否定できないことから、必ずしも使用しやすいとはいえなかった。
【0026】
また、ラット慢性腎不全モデルにおいて、BPSとARBやACEI等のアンジオテンシン系阻害剤との併用により、アンジオテンシン系阻害剤の腎障害進行抑制効果、すなわち血清クレアチニン値の上昇抑制効果が増強されることが報告されている(特許文献2)。ただ、本例においては、ラット腎不全モデルにおいて、ARBとACEIが同等の併用効果をもつことが記載されているだけであり、臨床においてBPSとACEIとの併用によって、透析あるいは腎死を抑制できるかについては、何ら示唆されていなかった。
【0027】
このように、従来の公知文献からは、BPSの速放錠又は徐放錠のいずれの場合にも、ヒトにおいて、透析移行だけでなく、透析又は腎移植で定義される腎死までの期間の延長も認められないと考えられてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0028】
【文献】国際公開第2000/067748号
【文献】国際公開第2004/098611号
【非特許文献】
【0029】
【文献】Takenaka et al. J Vet Intern Med (2018) 32, 236.
【文献】Fujita et al. Prostaglandins, Leukotrienes and Essential Fatty Acids (2001) 65(4), 223-227.
【文献】藤田ら 血管医学 (2006), Vol.7, p.281.
【文献】Koyama et al. BMC Nephrology (2015) 16, 165.
【文献】Nakamoto et al. BMC Nephrology (2014) 15, 153.
【文献】Nakamoto et al. Ther Apher Dial. 2019 May 23. doi: 10.1111/1744-9987.12840.
【文献】Levey et al. Am J Kidney Dis. (2014) 64, 821-835.
【文献】濱田ら 四国医誌 69巻5,6号 p.211~214, 2013.
【文献】サルコペニア診療ガイドライン2017年版2ページ)
【文献】平成27年度厚生労働科学研究費補助金「後期高齢者の保健事業のあり方に関する研究」 平成27年度総括・分担研究報告書
【文献】野藤ら、月刊地域医学 Vol.32 No.4, p.312-320, 2018.
【文献】Kajikawa et al. Arzneimittelforschung (1989) 39, 495-9.
【文献】Shimamura et al. J Clin Pharmacol. (2017)57, 524-535.
【文献】Levey, et al. Ann Intern Med 150 (2009), 604-612.
【文献】日本腎臓学会、エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン、(2009)、3ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
本発明は、特定の患者群に対し式(I)で示される化合物を有効成分として含有する徐放性製剤を投与することにより、透析移行又は腎死を抑制する薬剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0031】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)下記一般式(I)で示される化合物を有効成分として含有する徐放性製剤であって、
【化1】
[式中、Rは、水素又は薬理学的に許容される陽イオンを表す。]
上記一般式(I)で示される化合物が、血清クレアチニン値が2.0mg/dl以上3.0mg/dl未満の原発性糸球体疾患又は腎硬化症患者に、1日あたり220~260μg投与されるように用いられる、透析移行又は腎死の抑制のための薬剤。
(2)上記一般式(I)で示される化合物は、ベラプロストナトリウムである、上記(1)記載の薬剤。
(3)上記原発性糸球体疾患又は上記腎硬化症患者は、慢性腎臓病疫学共同研究(Chronic Kidney Disease Epidemiology Collaboration:以下、CKD-EPIと略す)式で算出した推算糸球体濾過量が15ml/分/1.73m
2以上45ml/分/1.73m
2未満である、上記(1)又は(2)記載の薬剤。
(4)上記原発性糸球体疾患又は上記腎硬化症患者は、上記一般式(I)で示される化合物を有効成分として含有する徐放性製剤を、食後に1回、上記一般式(I)で示される化合物として120μg投与した時の投与後2~6時間における血漿中濃度が平均50pg/ml以上である、上記(1)~(3)のいずれか記載の薬剤。
(5)アンジオテンシン変換酵素阻害薬を有効成分として組み合わせてなる、上記(1)~(4)のいずれか記載の薬剤。
(6)アンジオテンシン変換酵素阻害薬を有効成分として含有する別個の製剤と、同時に、別々に又は順次に投与されるように用いられる、上記(1)~(4)のいずれか記載の薬剤。
(7)透析移行又は腎死の抑制のための治療又は予防において、同時に、別々に又は順次に投与されるように用いられるための組み合わせ製剤であって、以下の(a)及び(b)の2つの製剤を別個に含む、上記(1)~(4)のいずれか記載の薬剤。
(a)上記一般式(I)で示される化合物を有効成分として含有する経口徐放性製剤
(b)アンジオテンシン変換酵素阻害薬を有効成分として含有する製剤
(8)アンジオテンシン変換酵素阻害薬と併用される、上記(1)~(4)のいずれか記載の薬剤。
(9)下記一般式(I)で示される化合物を有効成分として含有する徐放性製剤であって、
【化2】
[式中、Rは、水素又は薬理学的に許容される陽イオンを表す。]
上記一般式(I)で示される化合物が、栄養障害のある原発性糸球体疾患又は腎硬化症患者に、1日あたり220~260μg投与されるように用いられる、透析移行又は腎死の抑制のための薬剤。
(10)上記一般式(I)で示される化合物は、ベラプロストナトリウムである、上記(9)記載の薬剤。
(11)上記栄養障害は、Protein Energy Wasting(PEW)又はその予備軍である、上記(9)又は(10)記載の薬剤
(12)上記栄養障害は、PEWの4つの構成要素を1つでも満たす栄養障害である、上記(9)~(11)のいずれか記載の薬剤。
(13)上記栄養障害が、ボディマスインデックス(BMI)が23未満又は血清アルブミンが3.8g/dl未満を満たす栄養障害である、上記(9)~(12)のいずれか記載の薬剤。
(14)上記栄養障害は、悪液質、サルコペニア又はフレイルである、上記(9)~(13)のいずれか記載の薬剤。
(15)対象患者の血清クレアチニン値が、2.0mg/dl以上3.0mg/dl未満である、上記(9)~(14)のいずれか記載の薬剤。
(16)対象患者の慢性腎臓病疫学共同研究(Chronic Kidney Disease Epidemiology Collaboration:CKD-EPI)式で算出した推算糸球体濾過量(eGFR)が15ml/分/1.73m
2以上45ml/分/1.73m
2未満である、上記(9)~(14)のいずれか記載の薬剤。
(17)上記原発性糸球体疾患又は上記腎硬化症患者は、上記一般式(I)で示される化合物を有効成分として含有する徐放性製剤を、食後に1回、上記一般式(I)で示される化合物として120μg投与した時の投与後2~6時間における血漿中濃度が平均50pg/ml以上である、上記(9)~(16)のいずれか記載の薬剤。
(18)アンジオテンシン変換酵素阻害薬を有効成分として組み合わせてなる、上記(9)~(17)のいずれか記載の薬剤。
(19)上記栄養障害は、低栄養状態である、上記(9)~(18)のいずれか記載の薬剤。
(20)上記栄養障害は、総リンパ球数が1500/mm
2未満であることで示される、上記(9)~(19)のいずれか記載の薬剤。
(21)下記一般式(I)で示される化合物を有効成分として含有する徐放性製剤であって、
【化3】
[式中、Rは、水素又は薬理学的に許容される陽イオンを表す。]
上記一般式(I)で示される化合物が、慢性腎臓病疫学共同研究(Chronic Kidney Disease Epidemiology Collaboration:CKD-EPI)式で算出した推算糸球体濾過量(eGFR)が15ml/分/1.73m
2以上45ml/分/1.73m
2未満である原発性糸球体疾患又は腎硬化症患者に、1日あたり220~260μg投与されるように用いられる、透析移行又は腎死の抑制のための薬剤。
(22)上記一般式(I)で示される化合物は、ベラプロストナトリウムである、上記(21)に記載の薬剤。
(23)上記原発性糸球体疾患又は上記腎硬化症患者は、上記一般式(I)で示される化合物を有効成分として含有する徐放性製剤を、食後に1回、上記一般式(I)で示される化合物として120μg投与した時の投与後2~6時間における血漿中濃度が平均50pg/ml以上である、上記(21)又は(22)記載の薬剤。
(24)アンジオテンシン変換酵素阻害薬を有効成分として組み合わせてなる、上記(21)~(23)のいずれかに記載の薬剤。
(25)下記一般式(I)で示される化合物を有効成分として含有する徐放性製剤とアンジオテンシン変換酵素阻害薬を有効成分との組み合わせてなり、
【化4】
[式中、Rは、水素又は薬理学的に許容される陽イオンを表す。]
上記一般式(I)で示される化合物が、原発性糸球体疾患又は腎硬化症患者に、1日あたり220~260μg投与されるように用いられる、透析移行又は腎死の抑制のための薬剤。
(26)アンジオテンシン変換酵素阻害薬を有効成分として含有する別個の製剤と、同時に、別々に又は順次に投与されるように用いられる、上記(25)記載の薬剤。
(27)透析移行又は腎死の抑制のための治療又は予防において、同時に、別々に又は順次に投与されるように用いられるための組み合わせ製剤であって、以下の(a)及び(b)の2つの製剤を別個に含む、上記(25)又は(26)記載の薬剤。
(a)上記一般式(I)で示される化合物を有効成分として含有する経口徐放性製剤
(b)アンジオテンシン変換酵素阻害薬を有効成分として含有する製剤
(28)アンジオテンシン変換酵素阻害薬と併用される、上記(25)~(27)のいずれか記載の薬剤。
【発明の効果】
【0032】
本発明の薬剤は、治療開始前の血清クレアチニン値が2.0mg/dl以上3.0mg/dl未満の原発性糸球体疾患又は腎硬化症患者に投与することにより、透析移行又は腎死を抑制することができる。
【0033】
また、本発明の組み合わせ製剤は、慢性腎不全患者に投与することにより、透析移行又は腎死を抑制することができる。
【0034】
さらに、本発明の薬剤は、CKD-EPI式で算出した推算糸球体濾過量(eGFR)が15ml/分/1.73m2以上45ml/分/1.73m2未満の原発性糸球体疾患又は腎硬化症患者に投与することにより、透析移行又は腎死を抑制することができる。
【0035】
さらに、本発明の薬剤は、治療開始前に栄養障害を合併した原発性糸球体疾患又は腎硬化症患者に投与することにより、透析移行を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】
図1は、投与開始前の血清クレアチニン値が2.0mg/dl以上3.0mg/dl未満の日本人患者群に対してBPS又はプラセボを投与した後の非イベント生存率(event-free survival)の推移を示す図である。イベントとしては、透析移行とした。
【
図2】
図2は、1回120μgのBPS徐放錠を食後投与した際の、投与後2~6時間の血漿中濃度が平均50pg/ml以上であった日本人患者群において、イベントを透析移行とした際の、1日240μgのBPS投与群の結果を示す図である。
【
図3】
図3は、240μgの日本人及び日本以外のアジア人のBPS投与群のうち、ACEIとの併用を行った患者群と、併用を行わなかった患者群において、透析移行をイベントとした場合の結果を示す図である。
【
図4】
図4は、投与開始前のボディマスインデックス(以下、BMIと略す)が23未満の日本人及び日本人以外のアジア人の慢性腎不全患者に対して、BPS240μg又はプラセボを投与した後の非イベント生存率の推移を示す図である。イベントとしては、透析移行とした。
【
図5】
図5は、投与開始前のBMIが23未満の日本人の慢性腎不全患者に対して、BPS240μg又はプラセボを投与した後の非イベント生存率の推移を示す図である。イベントとしては、透析移行とした。
【
図6】
図6は、投与開始前の血清アルブミンが3.8g/dl未満の日本人の慢性腎不全患者に対して、BPS240μg又はプラセボを投与した後の非イベント生存率の推移を示す図である。イベントとしては、透析移行とした。
【
図7】
図7は、投与開始前の総リンパ球数が1500/mm
3未満の日本人の慢性腎不全患者に対して、BPS240μg又はプラセボを投与した後の非イベント生存率の推移を示す図である。イベントとしては、透析移行とした。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明に用いることのできる徐放性製剤は、下記一般式(I)で示される化合物を含有する。
【化5】
[式中、Rは、水素又は薬理学的に許容される陽イオンを表す。]
【0038】
薬理学的に許容できる陽イオンとしては、ナトリウム、カリウム及びカルシウム等のアルカリ金属、アルカリ土類金属、モノ-,ジ-,トリメチルアミン、メチルピペリジン、モノ-,ジ-,トリエタノールアミン及びリジンに代表されるアミン類並びに塩基性アミノ酸等が挙げられ、この中でも特に、ナトリウムとカリウムが好ましく用いられる。
【0039】
また、式(I)で示される化合物の中で、ベラプロスト又はその薬理学的に許容される塩は好ましく用いられる。中でもベラプロストに加え、ベラプロストのナトリウム塩であるBPSあるいはベラプロストのカリウム塩は特に好ましく用いられる。
【0040】
BPSは4つの立体異性体からなり、その薬効は主にBPS-314d(Sodium(+)-(1R,2R,3aS,8bS)-2,3,3a,8b-tetrahydro-2-hydroxy-1-[(E)-(3S,4S)-3-hydroxy-4-methyl-1-octen-6-ynyl]-1H-cyclopenta[b]benzofuran-5-butyrate)が担っている(非特許文献12)。このため、BPSの活性成分である、BPS-314dのみを含む製剤も好ましく用いられる。BPSを投与した場合の、BPS-314dの血漿中濃度は、AUC(area under the blood concentration time curve;血中濃度の時間経過を表した曲線(薬物血中濃度-時間曲線)と、横軸(時間軸)によって囲まれた部分の面積)、Cmax(最高血中濃度)ともほぼ1/4であることが知られている(非特許文献13)。このため、BPSの活性体(例えば、BPS-314d)を単独で含む製剤を投与する場合には、有効な1日あたりのBPS-314dの投与量は、BPSの投与量の1/4となり、55~65μgである。さらにベラプロストカリウムの活性体(Potassium(+)-(1R,2R,3aS,8bS)-2,3,3a,8b-tetrahydro-2-hydroxy-1-[(E)-(3S,4S)-3-hydroxy-4-methyl-1-octen-6-ynyl]-1H-cyclopenta[b]benzofuran-5-butyrate)も特に好ましく用いられるが、この場合の1日投与量は、57~67μgである。
【0041】
BPS製剤では、速放錠が市販されているが、BPSの血中半減期が約1時間と短いため、1日3回ないし4回の服薬が必要である。また、血漿中濃度が急激に上がることで、フラッシングや頭痛等の副作用の発現頻度が上昇するため、投与できる用量が限られていた。このため、本発明の薬剤としては、ベラプロスト又はその薬理学的に許容される塩、好ましくはBPSの徐放性製剤、特に経口徐放性製剤を用いる。
【0042】
徐放性製剤は、日本薬学会の薬学用語解説にも記載されているとおり、「製剤からの有効成分の放出を遅くすることにより、服用回数を減らし、血中の有効成分濃度を一定に長時間保つことにより、副作用を回避するものである。
【0043】
本発明における徐放性製剤とは、以下の溶出試験の溶出挙動を満たすものとして定義される。すなわち本剤1個をとり、試験液としてポリソルベート80、0.5mlを加えた水50mlを用い、パドル法(ただし、シンカーを用いる)により毎分100回転で試験を行った時に、3時間溶出率が25±10%、6時間目溶出率が50±10%、10時間目溶出率が70%以上となる製剤であり、好ましくは、pH1.2~pH7.5のpHの範囲において、本溶出率を満たすものである。
【0044】
このような条件を満たすことにより、BPSの有効血漿中濃度の持続化等により1日1回又は2回の経口投与で有効性を示す製剤とすることができる。
【0045】
本発明における徐放性製剤は、上述の溶出特性を満たすものであれば特に制限されない。一例をあげると、WO98/41210、WO2004/103350には、BPSの放出制御成分としてハイドロゲル基剤を配合したBPS徐放性製剤が記載されており、本法で作成されたBPS徐放性製剤は、すでに肺動脈性肺高血圧の治療剤として製造販売承認を受け、広く臨床応用されている。
【0046】
以下に上記のハイドロゲル基剤を配合したBPS徐放性製剤について詳細に述べる。すなわち、放出制御成分とは、製剤中への配合によりBPSの放出速度を変動させる機能を有する物質で、配合方法等については特に限定されるものではない。このような、放出制御成分としては、放出速度の遅延をおこす、いわゆる徐放化基剤や消化管内のpH変動に代表される放出時のpH変動を抑制し、放出速度のpH依存性を回避するための緩衝剤、薬効物質の溶解性を改善し、拡散律速とし放出速度の安定化をはかるための可溶化剤、及び放出促進剤等が含まれる。
【0047】
上記放出制御成分としては、微量のBPSを安定して放出させる観点からハイドロゲル基剤が用いられる。放出制御成分としてハイドロゲル基剤を用いた場合、0.1~10000μg程度の微量のBPSにおいても、放出速度の経時的な変動が極めて少ない、いわゆる0次放出が可能となる。
【0048】
このようなハイドロゲル基剤としては、公知のものが使用できる。ここで使用するハイドロゲルという語は、水膨潤性重合体又は2種以上のそのような重合体の組み合わせを意味する。本発明の目的に適したそのようなハイドロゲルは、水又は他の水性媒体と接触するとそのような水/媒体を吸収してある程度膨潤する重合体物質よりなる。そのような吸収は可逆性又は非可逆性であり、これらは本発明の範囲に入る。ハイドロゲル基剤としては、さまざまな天然及び合成由来の高分子物質が知られているが、本発明において、ハイドロゲル基剤としては、製剤製造や放出制御能を分子量によりコントロールしやすい、共有結合として架橋構造を有しない実質的に線状の高分子で、薬物との相互作用ならびに吸着のないものが望ましい。このようなハイドロゲル基剤の例としては、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース(以下、HPCと略す)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(以下、HPMCと略す)、ポリエチレンオキシド(以下、PEOと略す)、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アルギン酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム等の水溶性高分子あるいはこれら2種以上の混合物が挙げられる。
【0049】
好ましいハイドロゲル基剤としては、HPC、HPMC、PEOあるいはこれら2種以上の混合物等が用いられる。これらのハイドロゲル基剤は、粘度の度合いにより種々のタイプがあるが、目的により適宜選択される。
【0050】
製剤中に占めるハイドロゲル基剤の含有量は、製剤重量に対して10重量%~BPSの残部(緩衝剤を含む場合にはBPSと緩衝剤の残部)、さらに好ましくは40~95重量%が好ましい。
【0051】
本発明において、緩衝剤とは先に述べたように、消化管内のpH変動に代表される放出時のpH変動を抑制し、放出速度のpH依存性を回避するための物質で、酸性領域に緩衝作用を有するもの、中性領域に緩衝作用を有するもの、塩基性領域に緩衝作用を有するものがあるが、これらから、BPSの物性により適宜選択することが好ましい。本発明において、BPSが弱酸性基のカルボキシル基を持つため、BPSのカルボキシル基の解離を制御して、ハイドロゲル中での水系溶媒への溶解性を一定に保つことが望ましく、有機酸類、アミノ酸類、無機塩類が好ましい。このような例としては、有機酸類としてクエン酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸、アスコルビン酸又はその塩類、アミノ酸類としてグルタミン酸、グルタミン、グリシン、アスパラギン酸、アラニン、アルギニン又はその塩類、無機塩類として酸化マグネシウム、酸化亜鉛、水酸化マグネシウム、リン酸、ホウ酸又はその塩類、あるいはこれらの1種又は2種以上の混合物が挙げられる。特に、徐放性製剤の緩衝剤としては長時間の緩衝効果を期待するために水に対する溶解度が15重量%以下の難溶性の緩衝剤が好ましく、コハク酸、フマル酸、アスコルビン酸、グルタミン、グルタミン酸、アルギニン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、水酸化マグネシウム、ホウ酸又はその塩類、あるいはこれら2種以上の混合物が挙げられる。さらに好ましくは、BPSのカルボキシル基の解離を抑制することにより、溶出速度を低下させ、放出を持続化させるために、酸性の緩衝剤が挙げられる。このような例としては、コハク酸、フマル酸、アスコルビン酸、グルタミン酸、ホウ酸又はその塩類、あるいはこれら2種以上の混合物が挙げられる。このような難溶性でかつ酸性の緩衝剤は、薬物放出性のpH変動を抑制するとともに、放出速度の経時的な変動をも抑制し、従って長時間にわたって一定の放出速度を維持できるため、徐放性製剤の緩衝剤として特に好ましい。
【0052】
緩衝剤の配合量としては、例えば、1製剤重量の0.1~30重量%の範囲で使用される。好ましい配合量としては、1~20重量%が挙げられ、特に1~10重量%が好ましい。
【0053】
本発明に用いる徐放性製剤には必要に応じて、使用可能な賦形剤、滑沢剤、結合剤、安定化剤、及び可溶化剤等の添加剤を加えてもよい。添加剤としては薬理学的に許容されるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、賦形剤としては乳糖、白糖、ショ糖、D-マンニトール、ソルビトール、キシリトール、結晶セルロース、トウモロコシデンプン、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、デキストラン、ポリエチレングリコール(以下、PEGと略す)1500、PEG4000、PEG6000、PEG20000、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(PEP101(商標)、プルロニック(商標))等が挙げられる。また、滑沢剤としてはステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク等が、結合剤としてはヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ステアリン酸、プロピレングリコール等が、安定化剤としてはブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、アスコルビン酸、没食子酸プロピル、ジブチルメチルフェノール、チオ硫酸ナトリウム等が、可溶化剤としてはシクロデキストリン、ポリエチレン硬化ヒマシ油、モノステアリン酸ポリエチレングレコール等が挙げられる。これらの添加剤の配合量は、その種類、目的等により適宜選択される。
【0054】
これらの添加剤の含有量は、特に限定されないが、通常、1製剤重量に対して0重量%~BPSとハイドロゲル基剤の残部(緩衝剤を含む場合にはBPS、ハイドロゲル基剤と緩衝剤の残部)程度であり、好ましくは5重量%~BPSとハイドロゲル基剤の残部(緩衝剤を含む場合にはBPS、ハイドロゲル基剤と緩衝剤の残部)程度である。
【0055】
本発明に用いる徐放性製剤中に配合されるBPS、放出制御成分並びに緩衝剤の組み合わせは特に限定されるものではないが、BPS、ポリエチレンオキシド及びフマル酸やグルタミン酸等の難溶性かつ酸性の緩衝剤の組み合わせが挙げられる。
【0056】
上記のハイドロゲル基剤を配合したBPS徐放性製剤の形態は、特に限定されるものではないが、好ましくは錠剤が挙げられる。
【0057】
また、上述の溶出特性を満たすBPS徐放性製剤は、次のような手法によっても作成することが可能である。すなわち、WO2004/103350には、粒子径1000μm以下の複数の顆粒を含む経口徐放性医薬組成物であって、該顆粒はそれぞれBPSを含有する核顆粒と皮膜剤とを含み、該皮膜剤は(1)難水溶性高分子物質を含む皮膜層と(2)熱溶融性低融点物質を含む皮膜層とを包含する少なくとも2層の皮膜層から成るものであって、上記核顆粒は該皮膜剤で被覆されているBPS徐放性製剤が記載されている。
上記の複数の顆粒を含む経口徐放性医薬組成物におけるBPS配合量としては、治療効果のある量であれば特に制限はないが、例えば20~250μg/製剤の範囲が挙げられ、好ましい範囲としては、115~250μg/製剤が好ましい。なお、ここで「1製剤」とは1回に経口投与される量の製剤を意味し、1製剤の重量は特に限定されないが、通常20mg~1000mg程度である。
【0058】
上記皮膜層を構成する難水溶性高分子物質とは、皮膜形成能と薬物放出制御能を有する水不溶性高分子物質である。コーティング方法あるいは配合添加剤については特に限定されるものではない。このような、難水溶性高分子物質の例としては、水不溶性アルキルセルロースエーテル誘導体(例えばエチルセルロース、ブチルセルロース)、水不溶性ビニル誘導体(例えばポリビニルアセテート、ポリビニルブチレート)及び水不溶性アクリル系ポリマー誘導体(例えばアクリル酸-メタクリル酸共重合体)、並びにこれら2種以上の混合物が挙げられる。好ましい難水溶性高分子物質としては、アクリル酸-メタクリル酸共重合体が挙げられる。
【0059】
上記皮膜層を構成する熱溶融性低融点物質とは、比較的融点が低く、好ましくは70℃以下、より好ましくは室温から70℃であり、かつ放出制御能を有した熱溶融性の物質である。コーティング方法及び配合添加剤等については特に限定されるものではない。このような熱溶融性低融点物質の例としては、高級脂肪酸(例えばステアリン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、及びパルミチン酸)、高級アルコール(例えばステアリルアルコール、ミリスチルアルコール、ラウリルアルコール、及びセチルアルコール)、高級脂肪酸グリセリンエステル(例えばパルミチン酸オレイン酸グリセリン、モノオレイン酸グリセリン、モノステアリン酸グリセリン、モノミリスチン酸グリセリン、モノベヘニン酸グリセリン、トリミリスチン酸グリセリン、及びトリベヘニン酸グリセリン)、ロウ類(例えばカルナウバロウ)、飽和炭化水素(例えばパラフィン)、並びにこれら2種以上の混合物が挙げられる。好ましい熱溶融性低融点物質の例としては、セチルアルコール、ステアリン酸、パルミチン酸オレイン酸グリセリン、モノオレイン酸グリセリン、モノステアリン酸グリセリン、モノミリスチン酸グリセリン、モノベヘニン酸グリセリン、トリステアリン酸グリセリン、トリミリスチン酸グリセリン、及びトリベヘニン酸グリセリンが挙げられる。
【0060】
皮膜層中の(1)難水溶性高分子物質を含む皮膜層と(2)熱溶融性低融点物質を含む皮膜層の重量比、及び顆粒にしめる皮膜層の被覆率は特に限定されず、使用する薬物及び有効投与量等に応じて適宣決定される。通常、その比率は1:9~9:1の範囲内にあればよく、3:7~7:3の範囲内が好ましい。
【0061】
上記皮膜層には、薬理学的に許容される添加剤が含まれてもよい。添加剤の例としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール(以下、PEGと略す)1500、PEG4000、PEG6000、PEG20000、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(PEP101(商標)、プルロニック(商標))、グリセリン、クエン酸トリエチル、クエン酸トリブチル、トリアセチン、ラウリル硫酸ナトリウム、ソルビトール、ポリビニルピロリドン及びポリソルベート80のような可塑剤が挙げられる。現在市場で入手できる製薬的可塑剤にとって、有効な量は、コーティング材料の総乾燥重量の1~30%の間で変動する。
【0062】
該コーティングを形成するフィルムの弾力性を減少させる添加剤である脆性誘導剤としては、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、エアロジル及び酸化チタンが挙げられる。脆性誘導剤の有効量は、使用する脆性誘導剤の型に依存して変動する。例えば、タルクが使用される時には10~70%、エアロジルの場合は1~40%、及びステアリン酸マグネシウムの場合には1~70%であり、ここですべての%はコーティング材料の総乾燥重量に基づいている。
【0063】
上記BPSを含有する核顆粒に配合可能な添加剤としては、薬理学的に許容されるものであれば特に限定されるものではない。
【0064】
好ましい添加剤としては、結合剤、賦形剤、安定化剤、可溶化剤又は緩衝剤が挙げられる。
【0065】
結合剤の例としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ステアリン酸及びプロピレングリコールが挙げられる。賦形剤の例としては、乳糖、白糖、ショ糖、D-マンニトール、ソルビトール、キシリトール、結晶セルロース、トウモロコシデンプン、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、デキストラン、PEG1500、PEG4000、PEG6000、PEG20000及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(PEP101(商標)、プルロニック(商標))が挙げられる。BPSを含有する核顆粒は、ノンパレル(商標)(白糖)、スグレッツ(SUGLETS)(商標)(白糖)、又はエチスフェアーズ(ETHISPHERES)(商標)(結晶セルロース)のような既製の球形顆粒に医薬活性物質を結合剤と共にコーティングすることにより調製できる。あるいは、BPSを含有する核顆粒は、BPSを賦形剤と混合し、該混合物を球形顆粒に造粒して製することもできる。安定化剤の例としては、ブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、アスコルビン酸、没食子酸プロピル、ジブチルメチルフェノール、チオ硫酸ナトリウム、及び酸化チタンが挙げられる。有効な配合量は、医薬活性物質に依存して変動する。可溶化剤の例としては、シクロデキストリン、ポリエチレン硬化ヒマシ油、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、ポロキサマー及びポリソルベート80が挙げられる。緩衝剤の例としては、MgOのようなアルカリ性反応剤、又は例えばクエン酸や酒石酸といった有機酸のような酸性反応剤が挙げられる。
【0066】
上記顆粒の粒子径は、1000μm以下であり、好ましくは100~850μm、より好ましくは300~750μmである。
【0067】
上記の複数の顆粒を含む経口徐放性医薬組成物は、それぞれが徐放性機能を有する粒子径1000μm以下の複数の顆粒粒子から構成される。上記した範囲の粒子径に制御することにより、消化管下部での安定な放出性を維持することが可能となる。その最終形態は特に限定されるものではないが、経口投与可能な形態、例えば錠剤、顆粒剤、細粒剤、カプセル剤及び懸濁剤等が挙げられる。
【0068】
本発明の薬剤は、製剤的に安定であり持続性の良好な製剤であるため、1日に1~2回経口投与することにより、長時間にわたり安定した薬効が得られ、優れたバイオアベイラビリティが得られ、また服用が容易である。
【0069】
経口投与の徐放性製剤として、シングルユニット型とマルチプルユニット型の徐放性製剤が挙げられる。シングルユニット型の多くは、消化管内で投与剤形が保たれたまま徐々に薬物を放出する。シングルユニット型としては、ワックスマトリックス型、グラデュメット型、レペタブ型、ロンタブ型、スパンタブ型等がある。マルチプルユニット型では、投与された錠剤やカプセル剤が速やかに崩壊して顆粒を放出し、放出された顆粒が徐放性を示す。マルチプルユニット型としては、スパスタブ型、スパンスル型、顆粒型等がある。また、放出制御機構からは、リザーバー型とマトリックス型に分けられる。リザーバー型は薬物を含有する錠剤又は顆粒を高分子皮膜でコーティングしたものであり、薬物の放出速度はこの皮膜の性質や厚さで決まる。レペタブ型、スパスタブ型、スパンスル型、顆粒型がリザーバー型に属する。マトリックス型は、薬物を高分子やワックス等の基剤中に分散させたもので、薬物分子のマトリックス内の拡散速度により放出速度は決まる。ワックスマトリックス型、グラデュメット型、ロンタブ型、スパンタブ型等がマトリックス型に属する。上記の放出特性を有するものであれば、その徐放化方法は問わず、種々の徐放性製剤を用いることができる。
【0070】
本発明の薬剤は、式(I)で示される化合物を有効成分として含む徐放性製剤を、式(I)で示される化合物として1日あたり220~260μgの用量で、1回で、又は2回に分けて投与する。
【0071】
式(I)で示される化合物を有効成分として含む徐放性製剤は、BPSを含む徐放性製剤については、ケアロード(商標)LA錠60μg(東レ株式会社)、ベラサス(商標)LA錠60μg(科研製薬)として市販されている。このため、ケアロード(商標)LA錠60μg(東レ株式会社)又はベラサス(商標)LA錠60μg(科研製薬株式会社)を1回2錠、1日2回(計4錠)投与すれば、BPSとして1日あたり240μg投与することになる。
【0072】
また、本発明に用いることのできる徐放性製剤としては、ケアロード(商標)LA錠60μg(東レ株式会社)又はベラサス(商標)LA錠60μg(科研製薬株式会社)として、日本において製造販売承認されている徐放性製剤と比較し、「後発医薬品の生物学的同等性試験ガイドライン」あるいはSUPAC-MR(Modified Release Solid Oral Dosage Forms)等に従って、溶出挙動や臨床での薬物動態試験等によって、生物学的同等性が示された製剤が特に好ましく用いられる。
【0073】
本発明の薬剤は、治療開始前の血清クレアチニン値が2.0mg/dl以上3.0mg/dl未満、及び/又は、治療開始前のCKD-EPI(Chronic Kidney Disease Epidemiology Collaboration)式で算出した推算糸球体濾過量(eGFR)が15ml/分/1.73m2以上45ml/分/1.73m2未満の原発性糸球体疾患又は腎硬化症患者に対し投与することにより、透析移行又は腎死を抑制することができる。
【0074】
非特許文献3では、BPS速放錠20μgを1日3回、慢性腎不全患者に投与した際の長期フォローの結果、BPS投与開始前の血清クレアチニン値が2.8mg/dl以上の患者群は24か月以内に透析に移行すること、血清クレアチニン値が2.2mg/dl以上になると、BPSの効果が認められなくなることが報告されている。しかしながら本発明では、適用対象を原発性糸球体疾患又は腎硬化症患者に限定することにより、透析移行又は腎死を抑制することができ、また、非特許文献3では効果が認められなかった、血清クレアチニン値2.2mg/dl以上の患者でも透析移行又は腎死を抑制することができる。
【0075】
本願明細書における透析には、血液透析に加え腹膜透析が含まれる。
【0076】
本発明の薬剤は、上記の原発性糸球体疾患又は腎硬化症患者のうち、さらにBPS徐放性製剤をBPSとして120μg1回食後投与した時の投与後2~6時間における血漿中濃度が平均50pg/ml以上の患者に対して特に優れた効果を示す。
【0077】
BPSの薬理作用はBPSの濃度依存的に認められることから、BPS投与時の血漿中濃度が高いほど効果が高いことが推定できる。BPS徐放錠240μg投与時のCmaxとAUCの関係(Cmaxが214.7±89.1pg/mlの時に、AUCは1225±343pg・hr/mlで約5.7倍である)から、徐放錠のCmaxが50pg/mlの時に想定されるAUCは286pg・hr/ml、1日2回投与のため、1日あたりのAUCは572pg・hr/mlである。
【0078】
他方、十分な透析遅延効果が認められていない速放錠20μgを、健常者に投与した際のCmax及びAUCは、1)BPS速放錠40μgをヒトに1日2回連日食後経口投与した際の、7日目最終投与時のCmaxが242.2±81.4pg/ml、AUCは550±148pg・hr/mlであること(ケアロード錠インタビューフォーム)、2)BPS速放錠の投与量とCmax、AUCとの間には線形性が認められることから(非特許文献12)、Cmaxは121pg/ml、AUCは275pg・hr/ml程度である。速放錠は通常1日3回投与であるため、1日あたりのAUCは825pg・hr/ml程度であると想定される。さらに腎障害患者では、健常者に比べCmax、AUCともに上昇することが報告されていることから(非特許文献13)、速放錠20μgを慢性腎障害患者に投与した時のCmax、AUCは、さらに高くなっていたと考えられる。
【0079】
以上のことから、BPS徐放錠投与時のCmax付近である、投与後2~6時間の血漿中濃度が平均50pg/ml以上(AUCでは1日あたり570pg・hr/ml以上)の患者における、ベラプロスト徐放錠の透析移行又は腎死抑制での顕著な効果が、速放錠20μg1日3回投与の場合よりも低いCmax及びAUCで認められることは、従来の知見からは何ら予想できなかった。
【0080】
本願明細書において、「BPS徐放性製剤を、食後に1回、BPSとして120μg食後投与した時の投与後2~6時間における血漿中濃度が平均50pg/ml以上」とは、投与後2~6時間の間に1回以上、血漿中濃度を測定し、それらの測定値の平均が50pg/ml以上であってもよいし、「120μg1回食後投与」を1回以上行い、それぞれの測定値の平均が50pg/ml以上であってもよい。またこれらを組み合わせた場合であってもかまわない。
【0081】
また、BPSをヒトに投与した際に、BPSの活性本体であるBPS-314dのCmaxは、BPSの1/4であることが知られていることから(非特許文献13)、本発明で特に有効なBPSの血漿中濃度として50pg/ml以上はBPS-314dの血漿中濃度として、12.5pg/ml以上とおきかえることも可能である。特にBPS-314dだけを含む製剤の投与の際には、BPS-314dの血漿中濃度で規定する必要がある。
【0082】
本発明の薬剤は、原発性糸球体疾患又は腎硬化症患者のうち、ACEIを服用している患者に対して特に優れた効果を示す。さらに投与前の血清クレアチニン値が2.0mg/dl以上3.0mg/dl未満の患者ないしは、CKD-EPI式によるeGFRが15ml/分/1.73m2以上45ml/分/1.73m2未満の患者において、特に有効に用いられる。
【0083】
上記のACEIとしては、例えばカプトプリル、エナラプリル、ベナゼプリル、イミダプリル、リシノプリル、ペリンドプリル、ラミプリル、モエキシプリル、ホシノプリル及びキナプリルが挙げられる。これらのACEIの用法・用量は、それぞれのACEIの降圧剤として認められた用法・用量に従えばよい。また、有効成分としてACEIが含まれるものであれば、ARB、カルシウム拮抗剤、ベータブロッカー、各種利尿剤との合剤であっても差し支えない。
【0084】
本発明は、透析移行又は腎死の抑制のための治療又は予防において、同時に、別々に、又は順次に投与されるように用いられるための組み合わせ製剤であって、以下の(a)及び(b)の2つの製剤を別個に含む薬剤を提供する。
(a)上記一般式(I)で示される化合物を有効成分として含有する経口徐放性製剤であって、上記一般式(I)で示される化合物を、1日あたり220~260μg投与するための製剤
(b)ACEIを有効成分として含有する製剤
【0085】
本発明の2つの製剤を別個に含む薬剤は、慢性腎不全患者に対し投与することにより、透析移行又は腎死を抑制することができる。
【0086】
本発明の薬剤は、栄養障害をもつ原発性糸球体疾患又は腎硬化症患者に特に有効に用いられる。
【0087】
本発明の薬剤は、栄養障害のうち低栄養状態の際に特に有効である。低栄養状態は、一般的に血清蛋白質量、体格、筋肉量、栄養摂取量等で規定されるが、種々の基準が提案されているため、必ずしも1つの基準にとらわれるものではない。
【0088】
本発明においては、栄養障害として腎障害患者に特徴的な指標であるPEWの基準を満たす症例や、PEWを構成する要素を満たす症例において特に有効に用いられる。具体的には、PEWを構成する4つの要素、すなわち「Serum chemistry」、「Body mass」、「Muscle mass」、「Dietary intake」のうちいずれか1つを、さらにはそれぞれの要素の中の1つのパラメータを満たすものであればよい。もちろん複数の構成要素を満たすものであってもかまわないし、むしろ複数有する典型的な症例では、BPSの効果はより明確に認められる。
【0089】
さらに、栄養障害をもつ患者が、血清クレアチニンが2.0mg/dl以上3.0mg/dl未満の症例や、CKD-EPI式で算出した推算糸球体濾過量が15ml/分/1.73m2以上45ml/分/1.73m2未満の患者の際には特に有効である。
【0090】
また、本発明の薬剤は、PEWが重篤化した前悪液質あるいは悪液質を合併した慢性腎不全患者に用いて有効である。さらに、栄養障害が進んで生じる、サルコペニアあるいはフレイルを合併した、慢性腎不全患者にも極めて有用である。
【0091】
本発明の薬剤による治療は、SGLT2阻害剤による治療時の体重や筋肉量の低下が起きないため、PEW及び悪液質、さらには、サルコペニアやフレイルを合併した慢性腎不全症例の患者に対し有効に使用することができる。
【0092】
本発明の原発性糸球体疾患や、腎硬化症においては、糖尿病の合併があっても特に問題ない。
【0093】
(eGFRの算出方法)
本発明におけるeGFRの値は、CKD-EPI式によるものであり、非特許文献14に記載されたものである。具体的には次のように示される。すなわち血清クレアチニンを[Cr]ml/dl、[Age]を年齢としたとき、男性では以下の式1、女性では以下の式2を用いてeGFRを算出する。
eGFR(ml/分/1.73m2)=141x([Cr]/0.9)-1.209x0.993[Age] ・・・式1
eGFR(ml/分/1.73m2)=144x([Cr]/0.9)-1.209x0.993[Age] ・・・式2
【0094】
なお、CKD-EPI式は、別途、イオサラメートやイヌリンを用いた実測値により合致するように、補正係数をかけることが日本人をはじめとした各国で行われており、今後も提案されることが予想される。しかしながら本発明では、オリジナルの文献に基づく上述の推算式を用いるのが好ましい。CKD-EPI式の算出に用いる血清クレアチンは原則として、酵素法で測定した値を用い、Jaffe法で測定された場合には、補正が必要になる。
【0095】
(血清クレアチニン値の測定方法)
血清クレアチニン値の測定は、酵素法によるものであり、具体的には、臨床検査薬として販売されている、シグナスオートCRE(シノテスト)のほか、L タイプワコーCRE・M(富士フィルム・和光純薬)、ピュアオート S CRE-N(積水メディカル)、セロテック CRE-N(セロテック)、アクアオートカイノス CRE-III plus(カイノス)、シカリキッド-N CRE(関東化学)等が用いられるが、酵素法を用いるものであれば、特に制限されない。
【0096】
従来用いられてきたJaffe法と酵素法を比較すると、特異性がより低いJaffe法の方が、0.2mg/ml高くでることが注意喚起されている。(非特許文献15)。このため、Jaffe法で測定されたクレアチニン値を用いる場合には酵素法での測定値に換算するために、0.2mg/mlを減ずるものとする。
【0097】
(血漿中BPS濃度の測定方法)
血漿中のBPS濃度の定量は、GC-MS法、LC-MS法又はLC-MS-MS法等によって行われるが、バリデートされた方法であれば、どのような方法によっても特に差し支えない。
【0098】
解析は、非特許文献5で規定したフルアナリシスセット及びIntention to treat(以下、ITTと略す)を用い、Coxの比例ハザードモデルによって、本発明の薬剤とプラセボとのハザード比(以下、HRと略す)を算出した。HRの値が小さいほど、本発明の薬剤の有効性が高いことを示す。
【実施例】
【0099】
次に本発明について実施例及び比較例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例において行った測定方法を以下に示す。
【0100】
(eGFRの算出方法)
本発明におけるeGFRは、上記式1及び式2を用いて算出した。
【0101】
(血清クレアチニン値の測定方法)
血清クレアチニン値の測定は、株式会社エスアールエルにおいて、酵素法によって実施した。
【0102】
(血漿中BPS濃度の測定方法)
血漿中のBPS濃度の定量は、株式会社東レリサーチセンターにおいて、LC-MS/MS法によって行った。
【0103】
(実施例1)
BPS徐放錠であるTRK-100STP (ケアロード(商標)LA錠60μg(東レ株式会社)と同一製剤である)は、BPS60μg及び、添加物としてポリエチレンオキシド5000K、マクロゴール6000、L-グルタミン酸、ステアリン酸マグネシウムを含む、ゲルマトリックス型徐放性製剤であり、プラセボ錠とともに東レ株式会社三島工場にて製造した。TRK-100STPからのin vitroでの溶出挙動は以下のように測定した。すなわち本剤1個をとり、試験液としてポリソルベート80、0.5mlを加えた蒸留水50mlを用い、パドル法(ただし、シンカーを用いる)により毎分100回転で試験を行った。この際、3時間でのBPSの溶出率は25%、6時間では50%、10時間では83%であった。さらに、水の代わりに日局1液(pH1.2)及び日局2液(pH6.8)を用いて、同プロトコールで溶出試験を行ったところ、同等の溶出率が得られた。
【0104】
非特許文献5に記載のプロトコールに従ったCASSIOPEIR試験において取得したデータセットを用いた。CASSIOPEIR試験のプロトコールを要約すると、原発性糸球体疾患及び腎硬化症を原疾患とする慢性腎不全患者を対象とし、BPS徐放錠であるTRK-100STP(ケアロード(商標)LA錠60μg(東レ株式会社)と同一製剤である)を、BPSとして120μg又は240μg/日になるよう、朝夕2回に分けて投与するものである。また本試験は、多施設共同、ランダム化、プラセボ対照、二重盲験比較試験であり、日本、中国、韓国、台湾、香港、マレーシア及びタイで実施された。
【0105】
薬剤の投与期間は2~4年、ランダム化された患者数は892例、実施施設は160施設であった。また、ITT集団を主たる解析対象集団とした。主要評価項目は、血清クレアチニンの2倍化又は末期腎不全で定義される腎複合エンドポイントの発現までの時間とした。透析移行時期の判断は、日本透析医学会の指針(2013)を参考とした。すなわち、「十分な保存的治療を行っても進行性に腎機能の悪化を認め、GFR<15ml/分/1.73m2になった時点で必要性が生じてくる。ただし実際の血液透析の導入は、腎不全症候、日常生活の活動性、栄養状態を総合的に判断し、それらが透析療法以外に回避できないときに決定する」との方針に従い、最終的に治験責任医師の判断に基づき、透析移行時期及び腎死到達時期を決定した。ここで、「透析」とは、血液透析に加えて腹膜透析が含まれる。
【0106】
さらに、CASSIOPEIR試験において、症例報告書の記載及び血漿中濃度の測定結果から、服薬順守率が高いことが確認されている日本人集団において、投与開始前の血清クレアチニン値が2.0mg/dl以上3.0mg/dl未満の患者群におけるHRは0.51、P値は0.0429であり、透析移行を抑制する効果が確認できた(
図1)。またイベントを、透析移行又は移植からなる腎死までの期間とした場合にも、HRは0.54、P値は0.0624と0.1を下回り、透析移行の場合と同様の強い傾向を認めた。さらに投与開始前の血清クレアチニン値を、2.2mg/dlを超え、3.0mg/dl未満の患者においても、透析移行をイベントとした際のHRは0.51、P値は0.0495であり、有意な透析移行までの期間の延長効果が認められた。また、CASSIOPEIR試験の日本人集団において、投与開始前のCKD-EPI式で算出したeGFRが15ml/分/1.73m
2以上45ml/分/1.73m
2未満の患者群では、透析移行をイベントとしたときのHRは0.64、P値は0.0691であり、透析移行までの期間の延長の傾向が認められた。
【0107】
(比較例1)
CASSIOPEIR試験において、治療開始前の血清クレアチニン値が3.0mg/dl以上の日本人では、透析移行をイベントとしたときのHRは0.91、P値は0.7219であり、TRK-100STP投与の効果は認められなかった。同様に、治療開始前のCKD-EPI式で算出したeGFRが15ml/分/1.73m2未満の日本人患者において、透析移行をイベントとしたときのHRは1.05であり、TRK-100STP投与の効果は全く認められなかった。
【0108】
(実施例2)
CASSIOPEIR試験に参加した全日本人のうち、BPS徐放錠を1回あたりBPSとして120μgを食後投与した際の、投与後2~6時間の血漿中濃度が平均50pg/ml以上であることが確認された患者において、イベントを透析移行までの期間として、1日240μg投与の効果を検討した。この結果、HR=0.63、P値=0.0315であり、BPSを240μg投与することにより、透析移行を遅延させることが示された(
図2)。またイベントを腎死とした場合も同様の傾向が認められた。なお、本明細書の実施例1や本実施例では、服薬順守率が高かった、日本人集団のデータを解析に用いたが、服薬を順守しさえすれば、適用対象は日本人に限定されるものではなく、中国、韓国、台湾、香港、マレーシア、タイ等のアジア及びその他の国の患者でも同様の効果が得られる。例えば、CASSIOPEIR試験の中国及びタイの症例について、服薬がより確実になされたと想定される、投与後2~6時間の血漿中濃度が平均50pg/ml以上の患者においては、透析移行をイベントとした際のHRは、ともに0.74であり、日本人部分集団とほぼ同等の有効性が示された。
【0109】
また、上記のBPS濃度が確認された患者群において、治療開始前のCKDステージとして、CKD-EPI式で算出したeGFRが15ml/分/1.73m2以上45ml/分/1.73m2未満のCKDステージ3bと4に該当する患者群では、HR=0.59、P値=0.0368であり、透析移行までの期間を抑制する効果はより顕著であった。また、血清クレアチニン値が3mg/dl未満の患者群ではHR=0.46、P値=0.0251であり、透析移行までの期間を抑制する効果はさらに顕著であった。同様の傾向はイベントを腎死とした場合にも同様に認められた。
【0110】
(比較例2)
実施例2で、BPS投与後の血漿中濃度が50pg/ml以上であることが示されていない患者では、日本人の場合に加え、中国の症例、さらにはタイの症例においても、BPS徐放錠1日240μgの投与による透析移行までの期間の延長は認められなかった。腎死までの期間の延長についても同様であった。
【0111】
(実施例3)
CASSIOPEIR試験において、BPS徐放錠とACEI(リシノプリル、テモカプリル、デラプリル、ぺリンドプリル、ベナゼプリル、エナラプリル、カプトプリル、キナプリル、フォジノプリル、イミダプリルもしくはその塩酸塩、シラザプリル、トランドラプリル、キナプリル、ラミプリル、テモカプリルもしくはその塩酸塩又はトランドラプリル)を併用した全被検者における、透析移行又は腎死までの期間をイベントとした場合の、1日あたり240μgのBPS投与群のHR及びP値を、Cox Hazardモデルによって解析した。
【0112】
1日あたり240μgのBPS投与群のうち、ACEIとの併用を行った患者群(さらにARBを併用した患者を除く)では、HR=0.60、P値=0.0994であった(
図3)。P値が0.1を下回り、240μgのBPSとACEIの併用によって、透析移行までの期間を延長することが強く示唆された。
【0113】
さらに、患者群を日本人に限定した場合、HR=0.49、P値=0.0882であり、併用による透析移行までの期間の延長効果はさらに顕著に示唆された。
【0114】
(比較例3)
CASSIOPEIR試験において、ARB(テルミサルタン、バルサルタン、ロサルタン、イルベサルタン、カンデサルタン、オルメサルタン又はエプロサルタン)を併用し、ACEIを併用しない患者群の場合、透析移行までの期間をイベントとした際のBPS240μg投与群のハザード比及びP値は、HR=0.88、P値=0.5401、日本人部分集団では、HR=0.79、P値=0.3597であり、ARB併用群においては、BPSの1日、240μg投与による、透析移行までの期間の延長効果は認められなかった。
【0115】
(比較例4)
また、降圧剤として汎用されるカルシウム拮抗剤(アムロジピン、アラニジピン、アゼルニピン、バルニジピン、ベニジピン、シルニジピン、クレビジピン、エフォニジピン、フェロディピン、イスラジピン、ラシジピン、レルカニピン、マニジピン、ニカルジピン、ニフェジピン、ニルバジピン、ニモジピン、ニソルジピン、ニトレンジピン、ニトレピン、パラニジピン、フェンジリン、ガロパミル、ベラパミル、ジルチアゼム、ミカモロコンビネーション、セヴィカー、エクロフォルゲ又はアムロジン)を併用した場合にも、BPS徐放錠を1日あたり240μg投与時に、透析移行までの期間をイベントとした際には、HR=0.85、P値=0.3718であり、透析移行までの期間の延長効果は認められなかった。
【0116】
(実施例4)
低栄養状態の患者の指標として、PEWの診断基準の1つであるBMIが23未満(以下の表2を参照)を用いた。CASSIOPEIR試験において、BMIが23未満の患者群は、透析移行をイベントとした際は、HR=0.66、P値=0.0411であり、240μgの有意な透析移行抑制効果が確認できた(
図4)。
【表2】
【0117】
さらに、BMIが23未満の日本人患者においては、HR=0.38、P値=0.0048と、さらに著しい透析移行抑制効果が認められた(
図5)。また、BPS徐放錠投与群及びプラセボ群で、投与前後でのBMIに有意な変化を認めず、上記の透析移行抑制効果は、試験期間中のBMIの変化によってもたらされたものではないことが確認できた。またこのような知見は、イベントを透析移行又は移植からなる腎死とした場合も同様に認められた。
【0118】
(比較例5)
CASSIOPEIR試験に参加した全患者のうち、BMIが23以上の患者においては、透析移行をイベントとした際は、HR=1.38、P値=0.0754であり、BPS徐放錠の透析移行までの期間の延長は認められなかった。日本人集団にした場合にも、HR=1.06、P値=0.8266であり、同様にBPS徐放錠の効果は認められなかった。
【0119】
(実施例5)
低栄養状態の患者の指標として、PEWの診断基準の1つになっている血清アルブミン値が3.8g/dl未満であること(表2)を用いた。CASSIOPEIR試験に参加した日本人患者のうち、血清アルブミンが3.8g/dl未満の患者では、透析移行をイベントとした際は、HR=0.50、P値=0.1567であり、240μgの透析移行抑制傾向が示された(
図6)。また、BPS徐放錠投与群及びプラセボ群で、投与前後での血清アルブミン値に変化を認めず、上記の透析移行抑制効果は、血清アルブミン値の変化によってもたらされたものではないことが確認できた。
【0120】
上記患者のうち、さらに治療開始前のCKDステージとして、CKD-EPI式で算出したeGFRが15ml/分/1.73m2以上45ml/分/1.73m2未満のCKDステージ3bと4に該当する患者群では、透析移行をイベントとした際は、HR=0.43、P=0.0273であり、本剤のさらに顕著な有効性が示された。このような知見は、イベントを透析移行又は移植からなる腎死とした場合も同様に認められた。
【0121】
(比較例6)
CASSIOPEIR試験に参加した日本人患者のうち、血清アルブミン値が3.8g/dl以上の患者においては、透析移行をイベントとした際は、HR=0.78、P値=0.2656であり、HRが1に近く、BPS徐放錠の透析移行までの期間の延長は全く認められなかった。
【0122】
(実施例6)
CASSIOPEIR試験に参加した日本人患者のうち、総リンパ球数が1500/mm
3未満の患者では、透析移行をイベントとした際は、HR=0.62、P値=0.0689であり、240μgの透析移行抑制傾向が示された(
図7)。また、BPS徐放錠投与群及びプラセボ群で、投与前後でのリンパ球数に変化を認めず、上記の透析移行抑制効果は、リンパ球数自体の変化によってもたらされたものではないことが確認できた。
【0123】
上記患者のうち、治療開始前のCKDステージとして、CKD-EPI式で算出したeGFRが15ml/分/1.73m2以上45ml/分/1.73m2未満のCKDステージ3bと4に該当する患者群では、HR=0.52、P値=0.0383であり、透析移行までの期間を延長する効果はさらに顕著であった。このような知見は、イベントを透析移行又は移植からなる腎死とした場合も同様に認められた。
【0124】
(比較例7)
CASSIOPEIR試験に参加した日本人患者のうち、総リンパ球数が1500/mm3以上の患者では、透析移行をイベントとした際は、HR=0.83、P値=0.5822であり、HRが1に近く、BPS徐放錠の透析移行までの期間の延長は全く認められなかった。
【0125】
(実施例7)
CASSIOPEIR試験に参加した日本人患者のうち、BMIが23未満、かつ、血清アルブミン値が3.8g/dl未満の患者では、透析移行をイベントとした際は、HR=0.29であった。実施例4及び実施例5で述べたように、BMIが23未満の日本人患者群ではHR=0.38、血清アルブミン値が3.8g/dl未満の日本人患者群では、HR=0.50であることから、PEWの構成要素が単独よりも複数ある症例の方が、BPSの効果がより顕著に認められた。このような知見は、イベントを透析移行又は移植からなる腎死とした場合も同様に認められた。
【0126】
(実施例8)
CASSIOPEIR試験に参加した日本人患者群のうち、総リンパ球数が1500/mm3未満、かつ、血清アルブミンが3.8g/dl未満の患者群では、透析移行をイベントとした際は、HR=0.23、P値=0.0404であった。実施例4、5及び6に記載した栄養障害を構成する要素として、BMI23未満、血清アルブミン3.8g/dl未満又は総リンパ球数が1500/mm3未満という基準を、1つだけ満たす患者と比較して、これらの構成要素を複数もつ栄養障害がより明確な患者において、1日あたり240μgのBPS徐放錠投与群の顕著な効果が認められた。