IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ユニバーシティ オブ ユタ リサーチ ファウンデーションの特許一覧

特許7565927ヒト臍帯間葉系幹細胞シート及びその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】ヒト臍帯間葉系幹細胞シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0775 20100101AFI20241004BHJP
【FI】
C12N5/0775
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021541040
(86)(22)【出願日】2020-01-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-21
(86)【国際出願番号】 US2020013620
(87)【国際公開番号】W WO2020150308
(87)【国際公開日】2020-07-23
【審査請求日】2022-12-26
(31)【優先権主張番号】62/793,199
(32)【優先日】2019-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】399047002
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ ユタ リサーチ ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡野 光夫
(72)【発明者】
【氏名】キム,キュンソク
(72)【発明者】
【氏名】グレイガー,デイビッド
【審査官】松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】Nephrology Dialysis Transplantation,2018年,vol.33, issue suppl_1,page i101, FP209
【文献】American Society of Nephrology,2018年,Abstract: TH-OR136
【文献】American Journal of Obstetrics & Gynecology,2019年01月01日,vol.220, no.1,s621
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンフルエントなヒト臍帯由来の間葉系幹細胞(hUC-MSC)の1つ以上の層を含むヒト臍帯間葉系幹細胞シートを生成する方法であって、
a)温度応答性ポリマーの上で前記hUC-MSCを培養する前に、前記hUC-MSCの4~8回の継代培養を経るステップと;
b)細胞培養支持体の基質表面にコーティングされた前記温度応答性ポリマーの上の培養液で前記hUC-MSCを培養するステップであって、前記温度応答性ポリマーは0~80℃の水中でのより低い臨界溶液温度を有するステップと;
c)前記より低い臨界溶液温度未満に前記培養液の温度を調整し、それによって前記基質表面を親水性にし、前記表面への前記細胞シートの接着を弱体化するステップと;
d)前記培養支持体から前記細胞シートを脱離するステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記培養液がゼノフリー培養液である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記培養液がヒト血小板ライセート(hPL)、ウシ胎仔血清(FBS)及びアスコルビン酸のうち一以上を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記調整ステップ(c)が前記hUC-MSCがコンフルエントであるときに実行される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記培養ステップ(b)が前記hUC-MSCを0.5×104/cm2から9×105/cm2の初期細胞播種密度で前記培養液に加えることを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記hUC-MSCが前記調整ステップ(c)の前の少なくとも24時間の間、前記温度応答性ポリマーの上の前記培養液で培養される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、その内容が完全に本明細書に組み込まれる2019年1月16日に出願の米国特許仮出願第62/793,199号への優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
間葉系幹細胞(MSC)は、骨芽細胞、軟骨細胞、神経細胞、骨格筋細胞、血管内皮細胞及び心筋細胞に分化することができる多能性体性幹細胞である(Reyes et al., 2002, J. Clin. Invest. 109; 337-346; Toma et al., 2002, Circulation 105, 93-98; Wang et al., 2000, J. Thorac. Cardiovasc. Surg. 120, 999-1005; Jiang et al., 2002, Nature 41S, 41-49)。MSCの治療特性は、1)多様で異なる細胞系統に分化する、2)細胞の維持、生存及び増殖に重要な多数の可溶性生体活性因子を生成する、3)宿主免疫応答をモジュレートする、及び4)傷害を軽減して治癒を促進するための損傷部位への動員にしたがって遊走する、それらの固有の能力に由来すると提唱されている(Squillaro et al., 2016, Cell Transplant, 25(5), 829-848)。特に、多様なMSCタイプの中でもヒト臍帯MSC(hUC-MSC)は、臨床所見が増加している幹細胞療法のための有望な細胞供与源である(Bartolucci et al., 2017, Circ Res, 121(10), 1192-1204; Ichim et al., 2010, Int Arch Med, 3, 30; Riordan et al., 2018, J Transl Med, 16(1), 57; Tuma et al., 2016, Cell Transplant, 25(9), 1713-1721)。したがって、hUC-MSCは様々な治療的使用のための大きな潜在能力を有する。
【発明の概要】
【0003】
ある特定の態様では、本開示は、コンフルエントなヒト臍帯間葉系幹細胞(hUC-MSC)の1つ以上の層を含む、ヒト臍帯間葉系幹細胞シートに関する。特定の実施形態では、前記細胞シートがhUC-MSCから本質的になる。特定の実施形態では、前記細胞シート中の細胞の少なくとも50%がhUC-MSCである。特定の実施形態では、前記細胞シートが細胞外マトリックスを含む。特定の実施形態では、前記細胞外マトリックスがフィブロネクチン、ラミニン及びコラーゲンからなる群から選択される1つ以上のタンパク質を含む。特定の実施形態では、前記細胞シートが細胞接着タンパク質及び細胞間接合タンパク質を含む。特定の実施形態では、細胞接合タンパク質がビンキュリン、インテグリン-β1、コネキシン43、β-カテニン、インテグリン連結キナーゼ及びN-カドヘリンからなる群から選択される。特定の実施形態では、前記hUC-MSCがヒト臍帯組織の上皮下層から単離される。特定の実施形態では、前記hUC-MSCがCD44、CD73、CD105及びCD90から選択されるタンパク質を発現する。特定の実施形態では、前記hUC-MSCが、ヒト細胞増殖因子(HGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)及びインターロイキン-10(IL-10)からなる群から選択される1以上のサイトカインを発現する。特定の実施形態では、前記細胞シートでの前記1以上のサイトカインの発現が、同等の数の細胞を含有するhUC-MSC懸濁物と比較して増加する。特定の実施形態では、前記細胞シートが24時間に培養液1mLにつき50pg未満の速度で、培養液中に腫瘍壊死因子-α(TNF-α)を分泌する。特定の実施形態では、前記細胞シートが、宿主生物体の組織への移植の後の少なくとも10日間前記1以上のサイトカインを発現する。特定の実施形態では、前記細胞シートが、宿主生物体の組織への移植の後の少なくとも10日間細胞外マトリックスタンパク質及び細胞接合タンパク質を発現する。特定の実施形態では、前記細胞外マトリックスタンパク質がフィブロネクチン、ラミニン及びコラーゲンからなる群から選択される。特定の実施形態では、前記細胞接合タンパク質がビンキュリン、インテグリン-β1、コネキシン43、β-カテニン、インテグリン連結キナーゼ及びN-カドヘリンからなる群から選択される。特定の実施形態では、前記細胞シートを調製するために使用される細胞培養支持体中の前記hUC-MSCの播種された初期細胞密度が0.5×104/cm2から9×105/cm2である。特定の実施形態では、前記hUC-MSCがCD31、CD45、ヒト白血球抗原-DRアイソタイプ(HLA-DR)、ヒト白血球抗原-DPアイソタイプ(HLA-DP)、又はヒト白血球抗原-DQアイソタイプ(HLA-DQ)の1以上を発現しない。特定の実施形態では、前記hUC-MSCが微小絨毛及び糸状仮足を含む。特定の実施形態では、前記細胞シートが、前記組織への移植の後の少なくとも10日間宿主生物体の組織に付着したままである。
【0004】
ある特定の態様では、本開示は、本明細書に記載の細胞シート及び前記細胞シートから取り外し可能であるポリマーコート培養支持体を含む組成物に関する。
【0005】
ある特定の態様では、本開示は、コンフルエントなヒト臍帯由来の間葉系幹細胞(hUC-MSC)の1つ以上の層を含むヒト臍帯間葉系幹細胞シートを生成する方法であって、(a)細胞培養支持体の基質表面にコーティングされた温度応答性ポリマーの上の培養液でhUC-MSCを培養するステップであって、前記温度応答性ポリマーは0~80℃の水中でのより低い臨界溶液温度を有するステップと;(b)前記より低い臨界溶液温度未満に前記培養液の温度を調整し、それによって前記基質表面を親水性にし、前記表面への前記細胞シートの接着を弱体化するステップと;(c)前記培養支持体から前記細胞シートを脱離するステップとを含む方法に関する。
【0006】
特定の実施形態では、この方法は、前記培養ステップ(a)の前に複数回の継代培養を通して前記hUC-MSCを培養することを更に含む。特定の実施形態では、前記hUC-MSCの2~10回の継代培養が前記培養ステップ(a)の前に実行される。特定の実施形態では、前記培養液がゼノフリー培養液である。特定の実施形態では、前記培養液がヒト血小板ライセート(hPL)を含む。特定の実施形態では、前記培養液がウシ胎仔血清(FBS)を含む。特定の実施形態では、前記培養液がアスコルビン酸を含む。特定の実施形態では、前記調整ステップ(b)が前記hUC-MSCがコンフルエントであるときに実行される。特定の実施形態では、前記培養ステップ(a)が前記hUC-MSCを0.5×104/cm2から9×105/cm2の初期細胞播種密度で前記培養液に加えることを含む。特定の実施形態では、前記hUC-MSCが前記調整ステップ(b)の前の少なくとも24時間の間、前記温度応答性ポリマーの上の前記培養液で培養される。ある特定の態様では、本開示は、本明細書に記載の方法によって生成される細胞シートに関する。
【0007】
ある特定の態様では、本開示は、対象に細胞シートを移植する方法であって、対象の組織に本明細書に記載の細胞シートを適用することを含む方法に関する。本明細書に記載の方法及び細胞シートにおける特定の実施形態では、前記細胞シート中の前記hUC-MSCが前記対象に対して同種異系である。本明細書に記載の方法及び細胞シートにおける特定の実施形態では、前記対象がヒトである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、細胞シート実験プロトコールを示す。ヒト臍帯幹細胞(hUC-MSC)を温度応答性細胞培養皿(TRCD)に播種し、37℃細胞培養インキュベーター内でコンフルエントとなるまで培養した。タンパク質分解酵素処理を使用することなく、細胞外マトリックス(ECM)及び細胞間接合のような機能に係る構造を保存しつつ、室温(RT)で1時間以内に、培養された細胞をインタクトな細胞シートとしてTRCDから脱離した。
図2A-B】図2A図2Bは、2×104個の細胞/cm2で播種した細胞継代(passage)4、6、8、10及び12を使用した、hUC-MSCシートの形態的観察を示す。(a)シート脱離前に位相差顕微鏡を使用して観察された継代4、6、8、10及び12細胞の形態。(b)継代4、6、8及び10細胞を使用した、成功したhUC-MSCシート製作。対照的に、継代12細胞は、切れ目のある(non-contiguous)連絡切断(disconnected)細胞構造として脱離した。スケールバー=100μm。
図3A-C】図3A図3Cは、9.6cm2の表面積を有する35mm直径TRCDに2×105、1×105及び5×104個の初期細胞数で播種されたhUC-MSCに関する形態的観察、細胞増殖速度及び細胞シート製作を示す。(a)TRCDに培養され、シート脱離に先立ち観察された細胞。(b)細胞がTRCDに播種された後に、hUC-MSCシートが観察されるまで、血球計数器を使用して計数された細胞数。(c)コンフルエントの1日前、2×105、1×105及び5×104個の初期細胞播種群において、それぞれ3、4及び5日目、における連絡切断断片として脱離された細胞。インタクトな細胞シートは、2×105、1×105及び5×104個の初期細胞数の群の播種密度に関して、それぞれ4、5及び6日目に製作に成功した。コンフルエント1日後、2×105、1×105及び5×104個の初期細胞播種群に関してそれぞれ5、6及び7日目に、培養された細胞はTRCD温度変化なしで凝集の形で自発的に脱離する。スケールバーは、(a)において100μmを指し示す。スケールバーは、(c)において1cmを指し示す。
図4A-D】図4A図4Dは、細胞懸濁培養物(A及びB)及びin vitroのhUC-MSCシート(C及びD)におけるhUC-MSCにおけるCD44及びCD90陽性発現を示す。
図5A-E】図5A図5Eは、免疫組織化学的検査(IHC)及び透過型電子顕微鏡(TEM)を使用した細胞間構造解析を示す。細胞は、播種後4日目の温度変化により、TRCDからシートとしての脱離に成功した。細胞シートを、ECM((a)フィブロネクチン及び(b)ラミニン)、及び(c)細胞接合β-カテニンの抗体で染色して、細胞シートで、脱離後にそれらの機能に係る構造が保存されたことを確認した。TEM画像において、hUC-MSCシートでは、脱離後にそれらの(d)ECM及び(e)細胞間接合構造が保存された。hUC-MSCシートにおける、赤色矢印=ECM;黄色矢印=細胞接合。スケールバーは、(a~c)において100μmを指し示す。スケールバー(d)及び(e)は、それぞれ5μm及び1μmを指し示す。
図6A-D】図6A図6Dは、hUC-MSCシートから分泌されたヒト肝細胞増殖因子(HGF)及び腫瘍壊死因子-アルファ(TNF-α)のサイトカイン解析を示す。hHGF(抗炎症性サイトカイン)及びhTNF-α(炎症促進性サイトカイン)は、24時間培養された細胞の培養上清において検出された。(a)2×105、1×105及び5×104個の初期細胞播種群におけるhHGF分泌に有意差はない。(b);hTNF-αは、ほとんど検出されず、2×105、1×105及び5×104個の初期細胞播種群において有意に異ならなかった。(c)継代が増加するにつれて、hUC-MSCシートから分泌されるhHGFの有意な低減。(d)継代4細胞を使用して製作されたhUC-MSCシートは、継代6、8、10及び12細胞を使用して製作されたhUC-MSCシートと比較して、有意に少ない量のhTNF-αを分泌した。*p<0.05。
図7A-E】図7A図7Eは、in vivoでの植え込まれたhUC-MSCシート保持を示す。免疫不全マウスの皮下組織内に植え込まれたhUC-MSCシート。(c及びd)植込み後10日目に、組織学的観察のためにhUC-MSC移植された皮下組織部位を採取した。H&E染色画像において、(a)正常皮下組織と比較して、(b)hu-MSC細胞シートは、皮下組織植込み部位において明らかに確認された。その上、(e)細胞シート植込み群において、豊富な血管構造が観察される。(b)における矢印=植え込まれた細胞シート;(e)における矢印=血管。スケールバー(a及びb)及び(e)は、それぞれ100μm及び50μmを指し示す。スケールバー(c及びd)は、0.5cmを指し示した。
図8A-B】図8A図8Bは、hUC-MSCシートの細胞間接合関連遺伝子発現レベルを示す。継代12における細胞接合に関連する(a)インテグリン結合タンパク質キナーゼ(ILK)及び(b)N-カドヘリン(Ncad)の遺伝子発現レベルは、継代6におけるレベルよりも低かった。
図9A-C】図9A図9Cは、細胞採取プロセスの図解を示す。35mm温度応答性細胞培養皿(TRCD)又は組織培養プレート(TCP)にヒト臍帯間葉系幹細胞(hUC-MSC)を播種し、コンフルエントに達するまで5日間培養した。細胞シート技術、化学的破壊及び物理的破壊を表す3種の異なる方法を使用して、hUC-MSCを採取した。A)細胞シートは、温度変化によって採取され、B)細胞は、酵素(トリプシン)で処理されて、単細胞懸濁物及び細胞凝集塊を生じ、C)細胞は、細胞スクレーパーを使用して採取された。
図10A-D】図10A図10Dは、ヒト臍帯間葉系幹細胞(hUC-MSC)シートの調製物を示す。(A)従来の組織培養プレート(TCP)又は温度応答性細胞培養皿(TRCD)において細胞を5日間培養した。位相差顕微鏡を使用して、TCP及びTRCDにおいて培養された細胞形態を観察した。(B)TCP又はTRCDにおいて100時間培養したときの細胞数を、血球計数器を使用して計数した。(C)TRCDにおいて培養された細胞は、温度低減によってシートの形で脱離された。(D)細胞シートの組織学的解析をH&E染色によって行った。スケールバーは、A及びDにおいては200μmを、Cにおいては10mmを指し示す。
図11A-H】図11A図11Hは、hUC-MSC、及びhUC-MSCシートの形態的観察を示す。(A)細胞表面の形態は走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して観察された。(B)hUC-MSCシート及びhUC-MSCの微細構造は、透過型電子顕微鏡(TEM)を使用して解析された。(E)における白色の破線矢印はECMを指し示し、(H)における暗灰色の矢印は小胞体を指し示す。SEM及びTEMにおけるスケールバー=5μm。
図12A-C】図12A図12Cはウエスタンブロット及び免疫組織化学的検査を使用した細胞動力学関連タンパク質発現解析を示す。(A)細胞全体のライセート(10mgタンパク質/レーン)におけるF-アクチン、ビンキュリン及びGAPDHのウエスタンブロット。(B)F-アクチン、(C)ビンキュリンの免疫染色及びDAPI(青色)。スケールバー=10μm。
図13A-C】図13A図13Cは、ウエスタンブロット及び免疫組織化学的検査を使用したECMタンパク質発現解析を示す。(A)細胞全体のライセート(10mgタンパク質/レーン)におけるフィブロネクチン、ラミニン及びGAPDHのウエスタンブロット。(B)フィブロネクチン、(C)ラミニンの免疫染色及びDAPI(青色)。スケールバー=10μm。
図14A-C】図14A図14Cは、ウエスタンブロット及び免疫組織化学的検査を使用した、細胞-ECM及び細胞間接合タンパク質発現解析を示す。(A)細胞全体のライセート(10mgタンパク質/レーン)におけるインテグリンβ-1、コネキシン43及びGAPDHのウエスタンブロット。(B)インテグリンβ-1、(C)コネキシン43の免疫染色及びDAPI(青色)。スケールバー=10μm。
図15A-C】図15A図15Bは、生細胞及び死細胞アッセイを示す:(A)細胞シート及び細胞懸濁物の生及び死染色。細胞脱離の直後に、カルセイン及びエチジウムホモ二量体-1によって細胞を染色した。スケールバー=100μm。
図16図16は、ウエスタンブロットを使用したメカノセンサー発現解析を示す。細胞全体のライセート(10μgタンパク質/レーン)におけるYes関連タンパク質(YAP)、リン酸化YAP及びGAPDHのウエスタンブロット。
図17図17は、ヒト血小板ライセート(hPL)(左)又はウシ胎仔血清(FBS)(右)を含有する培養培地において調製されたhUC-MSCシートを示す。示されている定規はcm単位である。
図18A-B】図18A図18Bは、免疫不全マウスの皮下組織内に植え込まれたhUC-MSCシートにおけるin vivoでのHGF発現を示す。植込み後1日目(A)及び10日目(B)に、組織学的観察のためにMSCシート移植皮下組織部位を採取した。HGF発現の検出のためにヒトHGF抗体で試料を染色し、細胞核をDAPIで染色した。
図19A-B】図19A図19Bは、TRCD内で、20%FBSを含有する細胞培養培地において2×104、4×104、6×104、8×104又は10×104個の細胞/cm2の初期細胞密度で生成されたhUC-MSCシートを示す(A)。増加する初期細胞密度は、濃度依存的な様式でHGF遺伝子発現を増加させた(B)。
図20A-B】図20A図20Bは、hUC-MSC単細胞懸濁培養物における(A)及び細胞シートにおける(B)、HLAのDR、DP、DQ発現を示す。単細胞懸濁培養物における継代4~12のHLA発現を測定した(A)。(A)におけるパーセンテージは、HLAを発現する細胞のパーセンテージを表す。HLA-DR遺伝子発現は、hUC-MSCシートにおいて検出不能であった一方、ヒト脂肪由来幹細胞(hADSC)又はヒト骨髄由来間葉系幹細胞(hBMSC)から調製された細胞シートは、相対的に高レベルのHLA-DR遺伝子発現を示した(B)。
図21A-E】図21A図21Eは、FBS又はhPL培地によって影響されるhUC-MSCの培養及び倍加時間を示す。MSCは、P6(A、B)又はP12(C、D)時にFBS(A、C)又はhPL培地(B、D)で培養した。細胞の形態を観察し(A~D)、細胞倍加時間を計算するために全ての継代数について細胞培養の間に細胞数を計数した(E)。
図22A-D】図22A図22Dは、FBS又はhPL培地によって影響されるhUC-MSCの分化能を示す。P6のMSCは、分化を誘導する前にFBS(A、C)又はhPL(B、D)培地で培養した。アリザリンレッド染色によってマークされた骨形成分化(A、B)及びオイルレッドO染色によってマークされた脂肪生成(C、D)分化。
図23A-L】図23A図23Lは、FBS又はhPL培地によって影響されるhUC-MSCの表現型を示す。P6 hUC-MSCは、FBS(A~F)及びhPL(G~L)培地培養においてCD73、CD105及びCD90の陽性発現、並びにMHC II、CD45及びCD31の陰性発現を示した。
図24A-H】図24A図24Oは、FBS及びhPL培地におけるhUC-MSCシートの比較を示す。細胞がTRCDの上でコンフルエントに到達したとき(A、C、E及びG)、37℃から室温への培養温度変化によってMSCシートを脱離した。コンフルエントを超過して培養した細胞(B、D、F及びH)は、FBS培地においてシートの形で首尾よく脱離された細胞シートを生成した(B及びF)が、hPL培地で調製した細胞シートはいかなる温度変化もなしに37℃でTRCDから自発的に脱離する(D及びH)。スケールバーは、100μm(A~D、J及びK)、1cm(E~H)及び50μm(M及びN)を表す。*p<0.05(N数=3~4)。
図24I-O】図24A図24Oは、FBS及びhPL培地におけるhUC-MSCシートの比較を示す。hPL培地で調製された細胞シートは、室温への温度低減の後にFBS培地でのそれらより速くシート形状で脱離された(I)。FBS(J)及びhPL(K)培地におけるMSCシートの構造変化を観察するために、H&E染色が実行される。FBS(M)又はhPL(N)培地で培養したMSCの細胞骨格構造は、ファロイジン染色によって画像化した。FBS又はhPL群におけるβ-アクチン及びITGB1の遺伝子発現レベルは、q-PCR分析によって調査した(L、O)。スケールバーは、100μm(A~D、J及びK)、1cm(E~H)及び50μm(M及びN)を表す。*p<0.05(N数=3~4)。
図25A-K】図25A図25Kは、IHC及びq-PCRを使用した細胞シート特異的構造及び特性分析を示す。FBS(A~D)又はhPL(E~H)培地で調製したMSCシートにおけるフィブロネクチン(Fb)(B、F)、β-カテニン(β-CTNN)(C、G)及びMHC II(D、H)陽性領域を画像化し、陰性対照群(A、E)と比較した。FBS及びhPL群におけるFb(I)、β-CTNN(J)、MHC II(K)の遺伝子発現レベルを調査した。Fb(I)、β-CTNN(J)及びMHC II(K)に関して、遺伝子発現レベルにおける非有意(NS)な差が観察された(N数=3~4)。スケールバーは200μmを表す。
図26A-C】図26A図26Cは、hUC-MSCシートからの24時間のヒトHGFのサイトカイン分泌を示す(A)。上清を採取した直後に、細胞数を計数した(B)。hHGFの量を、各群の細胞数に対し正規化した(C)。
【発明を実施するための形態】
【0009】
この開示は、MSC療法において標的組織部位でMSC生着効率及び保持を向上させるための、ヒト臍帯間葉系幹細胞(hUC-MSC)シートの調製及び特性を記載する。現在では、注射されるMSC細胞懸濁物は酵素を使用して採取され、MSC機能及び生着能力を損なわせ、低い組織保持及び生存、並びに最適以下の治療特性をもたらす。例えば本明細書に記載されるように、細胞外マトリックス(ECM)及びインタクトな細胞受容体を有する生きているシートとして、酵素なしで作製される細胞シートは、高度に向上した保持及び生着効率で組織部位に物理的に置くことができる。
【0010】
温度応答性ポリマーでコーティングされた温度応答性細胞培養皿(TRCD)で細胞シートをin vitroで調製するために、ヒト臍帯間葉系幹細胞(hUC-MSC)を使用した。コンフルエントな細胞シートが播種の4~6日後に形成され、培養を室温に冷却することによってTRCDから脱離された。凝集したコンフルエントな細胞の単層を含有する頑強で均一なhUC-MSCシートの生成の成功を可能にする、様々な培養条件を特定した。これらの培養条件には、TRCDに細胞を加える前の継代培養(継代)数の最適化、TRCDにおける初期細胞密度、細胞培養液へのウシ胎仔血清(FBS)又はヒト血小板ライセート(hPL)などの細胞増殖因子の添加、及び温度応答性ポリマーからの脱離の前のTRCDにおける培養時間が含まれた。これらの方法によって生成されたhUC-MSCシートは、同種異系MSC細胞療法を向上させるための、現行の注射細胞懸濁物と比べていくつかの有益な特性を示した。これらの有益な特性には、サイトカインの持続的分泌、低いHLA発現プロファイル、植込み標的組織部位の上でのインタクトなhUC-MSCシートの10日間のin vivo保持、及び標的組織の上のシートへの新血管補充が含まれる。更に、採取された単層hUC-MSCシートは組織様構造、細胞外マトリックス(ECM)、細胞間接合及び細胞-ECM接合を保持し、トリプシン処理などの従来の化学的破壊方法と比較してより高い細胞生存率を有した。信頼できる局所組織部位への配置、高い生着効率並びにin vivoでの長期の保持及び生存により、本明細書に記載される方法によって生成されるhUC-MSCシートは、現在使用されている注射用間葉系幹細胞懸濁物と比較して同種異系細胞療法の治療上の価値を大いに向上させる潜在能力を有する。
【0011】
一部の実施形態では、サイトカインの持続的分泌、低いHLA発現プロファイル、植込み標的組織部位の上でのインタクトなMSCシートの10日間のin vivo保持、及び標的組織の上のシートへの新血管補充を非限定的に含む、本明細書に記載されるhUC-MSCシートの有益な特徴の1つ以上を有する細胞シートを調製するために、他の間葉系幹細胞(MSC)を使用することができる。
【0012】
I.ヒト臍帯MSC(hUC-MSC)
本明細書で使用される用語「ヒト臍帯間葉系幹細胞」又は「hUC-MSC」は、ヒト臍帯から単離された間葉系幹細胞を指す。
【0013】
間葉系幹細胞(MSC)は、主にそれらの特異な免疫調節的役割及び再生能力のために、広範囲の衰弱性疾患を処置する注目すべき臨床潜在能力を有する(Caplan and Sorrell, 2015, Immunol Lett 168(2): 136-139)。ヒトMSCのための便利な供与源は臍帯であり、それは出産後に廃棄されるので治療のための幹細胞へのアクセスが容易で、論争の的にならない供与源を提供する(El Omar et al., 2014, Tissue Eng Part B Rev 20(5): 523-544)。hUC-MSCは、ヒト臨床治験において懸濁物として安全性及び有効性に関して検証されている(Bartolucci et al., 2017, Circ Res, 121(10), 1192-1204)。更に、hUC-MSCは、実験動物疾患モデルにおいて好結果で使用されている(Zhang et al., 2017, Cytotherapy 19(2): 194-199)。
【0014】
臍帯からMSCを単離する方法は当技術分野で公知であり、例えば、参照により完全に本明細書に組み込まれる米国特許第9,903,176号に記載される。ヒト臍帯は、臍動脈、臍静脈、ウォートンゼリー及び上皮下層を含む。一部の実施形態では、hUC-MSCはヒト臍帯の上皮下層から単離される。一部の実施形態では、hUC-MSCは、ヒト臍帯のウォートンゼリーから単離される。上皮下層から単離されるhUC-MSCを同定するために、様々な細胞マーカーを使用することができる。例えば、一部の実施形態では、上皮下層から単離されるhUC-MSCは、CD29、CD73、CD90、CD146、CD166、SSEA4、CD9、CD44、CD146及びCD105から選択される1つ以上の細胞マーカーを発現する。特定の実施形態では、hUC-MSCはCD73を発現する。一部の実施形態では、上皮下層から単離されるhUC-MSCは、CD45、CD34、CD14、CD79、CD106、CD86、CD80、CD19、CD117、Stro-1、HLA-DR、HLA-DP及びHLA-DQから選択される1つ以上の細胞マーカーを発現しない。特定の実施形態では、hUC-MSCは、HLA-DR、HLA-DP又はHLA-DQを発現しない。一部の実施形態では、本明細書に記載される細胞シートは、低いHLA発現を有する間葉系幹細胞(MSC)で調製され、例えば、細胞シートの中のMSCの5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.4%、0.3%、0.2%又は0.1%未満が、HLA(例えばHLA-DR、HLA-DP及び/又はHLA-DQ)を発現する。
【0015】
臍帯中のhUC-MSCは細胞外マトリックス(ECM)によって囲まれ、細胞間接合構造によって他のタイプの臍帯細胞(例えば、内皮細胞、上皮細胞、筋細胞及び線維芽細胞)に連結される。臍帯中の内因性hUC-MSCと対照的に、本明細書に記載されるhUC-MSCシートは、hUC-MSCが他のタイプの臍帯細胞にではなく他のhUC-MSCに連結されている、凝集したコンフルエントなhUC-MSCの単層を含む。本明細書に記載されるhUC-MSCシートは、いくつかの点で採取されたMSC懸濁物とも異なる。hUC-MSCの懸濁物は、それらの細胞間接合の中のその接着性タンパク質は、細胞懸濁培養物の調製のための培養表面から、細胞を採取するために除去しなければならないので(例えばトリプシン処理によって)、ECM又は細胞間接合を持たない単一細胞を含有する。hUC-MSCの単一細胞懸濁物と対照的に、本明細書に記載されるhUC-MSCシートは、ECM及び細胞シートの形成中に生成されるhUC-MSCの間の細胞間接合を含有する。インタクトなECM及び細胞間接合は、宿主生物体への移植の間の標的組織へのhUC-MSCシートの接着を容易にする。
【0016】
II. ヒト臍帯MSC(hUC-MSC)から生成される細胞シート
ある特定の態様では、本開示は、コンフルエントなヒト臍帯間葉系幹細胞(hUC-MSC)の1つ以上の層を含むヒト臍帯間葉系幹細胞シートに関する。本明細書で使用される用語「ヒト臍帯間葉系幹細胞シート」又は「hUC-MSCシート」は、in vitroにおいて細胞培養支持体の上でヒト臍帯間葉系幹細胞を増殖させることによって得られる細胞シートを指す。本明細書に記載される1以上の層のhUC-MSCシートは、いかなる酵素処理もなしに温度応答性培養皿(TRCD)を使用して温度シフトでシートとして採取される。hUC-MSCシートは、組織様構造、アクチンフィラメント、細胞外マトリックス、細胞間タンパク質及び高い細胞生存能力を保持することによってそれらのシート及び形状を維持するが、これらの全ては細胞生存及び細胞療法に関連する細胞機能の向上に関係する。したがって、本明細書に記載される細胞シートは、細胞外マトリックス、細胞接着タンパク質及び細胞接合タンパク質を含む、細胞生存及び細胞機能を向上させる構造的特色を含むことができる。したがって、本明細書に記載される方法によって調製されるhUC-MSCシートは、他の方法によって生成されるMSCと比較していくつかの有益な特徴を有する。例えば、化学的破壊(タンパク質分解性酵素処理)は、幹細胞療法のために採取された細胞に広く使用されている。しかしながら、酵素処理は細胞外及び細胞内タンパク質(細胞間及び細胞とECMの間の接合)を破壊するので、化学的破壊方法は細胞の組織様構造並びに細胞間連絡(cell-cell communication)を維持することができない。したがって、酵素によるタンパク質切断は、細胞生存能力及び細胞療法に関連する細胞機能を低下させる。
【0017】
一部の実施形態では、細胞外マトリックスは、フィブロネクチン、ラミニン及びコラーゲンからなる群から選択される1つ以上のタンパク質を含む。一部の実施形態では、細胞接合タンパク質は、ビンキュリン、インテグリン-β1、コネキシン43、β-カテニン、インテグリン連結キナーゼ及びN-カドヘリンからなる群から選択される。
【0018】
細胞シート中のhUC-MSCは、追加の構造的特色、例えば微小絨毛及び糸状仮足を維持することもできる。微小絨毛は、吸収、分泌及び細胞接着を含む多種多様の細胞機能に関与する細胞膜突起である。糸状仮足は、細胞間相互作用において役割を果たす細胞質突起である。したがって、これらの構造的特色の維持は、細胞機能及びシグナル伝達を維持するのを助けることもできる。
【0019】
一部の実施形態では、細胞シートはhUC-MSCからなる。一部の実施形態では、細胞シートはhUC-MSCから本質的になる。一部の実施形態では、細胞シート中の細胞の少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%はhUC-MSCである。一部の実施形態では、細胞シート中の細胞の100%がhUC-MSCである。
【0020】
細胞シートの形成又はその特徴を最適化するために、hUC-MSCは様々な細胞密度で細胞培養支持体中の温度応答性ポリマーの上の培養液に加えることができる。例えば、細胞培養支持体(例えばTRCD)中のhUC-MSCの初期細胞密度を制御することによって、hUC-MSC中のサイトカイン発現レベルを最適化することができる。一部の実施形態では、細胞培養支持体中のhUC-MSCの初期細胞密度を増加させることは、サイトカイン発現(例えば、HGF)を増加させる。一部の実施形態では、細胞培養支持体中のhUC-MSCの初期細胞密度を減少させることは、サイトカイン発現を減少させる。一部の実施形態では、細胞シートの調製のために使用される細胞培養支持体中のhUC-MSCの初期細胞密度は、0.5×104/cm2から9×105/cm2である。一部の実施形態では、細胞培養支持体中のhUC-MSCの初期細胞密度は、少なくとも0.5×104、1×104、2×104、3×104、4×104、5×104、6×104、7×104、8×104、9×104、1×105、2×105、3×105、4×105、5×105、6×105、7×105、8×105又は9×105個の細胞/cm2である。細胞培養支持体中のhUC-MSCの初期細胞密度の範囲を規定するために、これらの値のいずれかを使用することができる。例えば、一部の実施形態では、細胞培養支持体中の初期細胞密度は、2×104から1×105個の細胞/cm2、4×104から1×105個の細胞/cm2、又は1×104から5×104個の細胞/cm2である。
【0021】
本明細書に記載されるhUC-MSCシートは、治療的使用のために宿主生物体(例えば、ヒト)の標的組織に移植することができる。標的組織へのhUC-MSCシートの移植は、宿主組織中の毛細血管の形成(血管新生)並びに移植された細胞シートと宿主組織の間の血管形成をもたらすことができる。この新毛細管形成は、シートの生着、細胞の生存能力及び組織再生のための重要な機能である。更に、標的組織の上のシートへのこの新血管補充は、生着をモジュレートするために植え込まれたhUC-MSCシートが連続的にパラクリン因子を分泌することを示唆する。
【0022】
一部の実施形態では、hUC-MSCシートは、1つ以上のサイトカイン、例えば、1つ以上の抗炎症サイトカイン又は1つ以上の炎症性サイトカインを発現する。一部の実施形態では、抗炎症サイトカインは、ヒト増殖因子(HGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)及びインターロイキン-10(IL-10)から選択される。一部の実施形態では、炎症性サイトカインは腫瘍壊死因子-α(TNF-α)である。一部の実施形態では、細胞シート中のサイトカインの発現(例えば、抗炎症サイトカイン又は炎症性サイトカイン)は、同等数の細胞を含有するhUC-MSC懸濁物と比較して増加する。一部の実施形態では、サイトカイン(例えば、抗炎症サイトカイン又は炎症性サイトカイン)の発現は、同等数の細胞を含有するhUC-MSC懸濁物と比較して減少する。一部の治療的使用の場合、細胞シートによる炎症性サイトカインの分泌を低減させることが有益であろう。例えば、特定の実施形態では、細胞シートは、in vitroにおいて24時間あたり培養液1mLにつき100、90、80、70、60、50、40又は30pg未満の速度で培養液中に腫瘍壊死因子-α(TNF-α)を分泌する。
【0023】
本明細書に記載されるhUC-MSCシートは、宿主生物体の標的組織への移植後にサイトカインを連続して発現することができる。一部の実施形態では、細胞シートは、宿主生物体の組織への移植後に少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25又は30日間、サイトカインを発現する。一部の実施形態では、細胞シートは、宿主生物体の組織への移植後に少なくとも1、2、3、4、5又は6カ月間、サイトカインを発現する。
【0024】
本明細書に記載されるhUC-MSCシートは、宿主生物体の標的組織への移植後に細胞外マトリックスタンパク質及び細胞接合タンパク質を連続して発現することもできる。例えば、一部の実施形態では、細胞シートは、宿主生物体の組織への移植後に少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25又は30日間、細胞外マトリックスタンパク質及び/又は細胞接合タンパク質を発現する。一部の実施形態では、細胞シートは、宿主生物体の組織への移植後に少なくとも1、2、3、4、5又は6カ月間、細胞外マトリックスタンパク質及び/又は細胞接合タンパク質を発現する。一部の実施形態では、移植後に細胞シートの中で発現される細胞外マトリックスタンパク質は、フィブロネクチン、ラミニン及びコラーゲンから選択される。一部の実施形態では、移植後に細胞シートの中で発現される細胞接合タンパク質は、ビンキュリン、インテグリン-β1、コネキシン43、β-カテニン、インテグリン連結キナーゼ及びN-カドヘリンから選択される。
【0025】
現行の幹細胞療法は、生検から単離される培養された幹細胞を注射用細胞懸濁物としてしばしば使用する(Bayoussef et al., 2012, J Tissue Eng Regen Med, 6(10))。注射される細胞懸濁物は、病気の臓器又は組織へのより低い生着及びその中での、より低い保持を一般的に示す(Devine et al., 2003, Blood, 101(8), 2999-3001)。採取時の酵素的破壊による幹細胞懸濁物中のインタクトなECM及び細胞間接合(すなわち、連絡)の喪失は、in vivoにおける幹細胞機能、生着及び生存を損なわせ、in vivoにおける治療有効性を制限する可能性がある。対照的に、本明細書に記載されるhUC-MSCシートの調製方法は、固有の細胞機能構造を保存し、移植後の標的組織への細胞シートの付着を向上させる。例えば、一部の実施形態では、細胞シートは、宿主生物体の組織への移植後に少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25又は30日間、宿主生物体の標的組織に付着したままである。一部の実施形態では、細胞シートは、宿主生物体の組織への移植後に少なくとも1、2、3、4、5又は6カ月間、宿主生物体の標的組織に付着したままである。
【0026】
ヒト白血球抗原(HLA)は、ヒトにおいて主要組織適合性複合体(MHC)タンパク質を構成する細胞表面タンパク質であり、免疫系の調節の役割を担う。MHCクラスIIに対応するHLA(DP、DM、DO、DQ及びDR)は、細胞の外側からTリンパ球に抗原を提示する。これらの抗原はヘルパーT細胞(CD4+T細胞)の増殖を刺激し、それは次に抗体産生B細胞を刺激してその特異抗原に対する抗体を生成する。したがって、HLAの発現を最小にすることは、宿主生物体に移植されたhUC-MSCシートへの免疫応答を最小にする上で有益であろう。一部の実施形態では、本明細書に記載されるhUC-MSCシートは、ヒト白血球抗原-DRアイソタイプ(HLA-DR)、ヒト白血球抗原-DPアイソタイプ(HLA-DP)又はヒト白血球抗原-DQアイソタイプ(HLA-DQ)の1つ以上を発現しない。一部の実施形態では、細胞シートの中のhUC-MSCの5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.4%、0.3%、0.2%又は0.1%未満は、HLA(例えばHLA-DR、HLA-DP及び/又はHLA-DQ)を発現する。
【0027】
III. in vitroでヒト臍帯MSC(hUC-MSC)シートを生成する方法
ある特定の態様では、本開示は、凝集したコンフルエントなヒト臍帯間葉系幹細胞(hUC-MSC)の単層を含む細胞シートを生成する方法であって、
a)細胞培養支持体の基質表面にコーティングされた温度応答性ポリマーの培養液中でhUC-MSCを培養するステップであって、温度応答性ポリマーは0~80℃の水中でのより低い臨界溶液温度を有するステップ、
b)ポリマーのより低い臨界溶液温度未満に培養液の温度を調整し、それによって基質表面を親水性にし、表面への細胞シートの接着を弱体化する(例えば、水の浸透によって)ステップ、及び
c)培養支持体から細胞シートを脱離するステップ
を含む方法に関する。
【0028】
ヒト臍帯間葉系幹細胞(hUC-MSC)を単離する方法は当技術分野で公知であり、例えば、参照により完全に本明細書に組み込まれる米国特許第9,803,176号に記載される。例えば、hUC-MSCは、臍帯を洗浄して血液、ウォートンゼリー及び任意の他の物質を除去し、臍帯から上皮下層(SL)を切り裂く(dissect)ことによって臍帯の上皮下層から単離することができる。臍帯組織は、ダルベッコリン酸緩衝食塩水(DPBS)などのリン酸緩衝食塩水(PBS)の溶液の中で複数回洗浄してもよい。PBSは、血小板ライセート(すなわち、血小板ライセートの10% PRPライセート)を含むことができる。SLは、次に内側を下にして基質の上に置くことができる。ウォートンゼリーが除去された、切り裂かれた臍帯の全体を基質の上に直接置くか、又は切り裂かれた臍帯をより小さい断片(例えば1~3mm)に切断し、これらの断片を基質の上に直接置くことができる。基質は、細胞培養皿などの固体ポリマー材であってよい。SLは細胞培養処理プラスチックへの追加の前処理なしで細胞培養皿の基質の上に置くことができるか、又は寒天などの半固体培養培地の上に置くことができる。基質の上にSLを置いた後、SLを好適な培地で培養する(例えば、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)(フェノールレッドなしで、グルコース(500~6000mg/mL)、1×グルタミン、1×NEAA及び0.1~20% PRPライセート又は血小板ライセート))。培養は次に正常酸素圧又は低酸素培養条件下で、一次細胞培養を確立するのに十分な時間(例えば3~7日間)培養することができる。一次細胞培養が確立された後、SL組織を除去して廃棄する。細胞又は幹細胞は、正常酸素圧又は低酸素培養条件でより大きな培養フラスコの中で更に培養し、増大化する。
【0029】
細胞シートを調製するための一般方法は当技術分野で公知であり、例えば、米国特許第8,642,338号、第8,889,417号、第9,981,064号、及び第9,114,192号に記載され、各々は参照により完全に本明細書に組み込まれる。
【0030】
細胞培養支持体の基質をコーティングするために使用される温度応答性ポリマーは水性溶液中でより高いか又は低い臨界溶液温度を有し、それは一般的に0℃から80℃、例えば、10℃から50℃、0℃から50℃又は20℃から45℃の範囲内にある。
【0031】
温度応答性ポリマーは、ホモポリマー又はコポリマーであってよい。例示的なポリマーは、例えば、特開211865/1990号に記載される。具体的には、それらは単量体、例えば(メタ)アクリルアミド化合物((メタ)アクリルアミドはアクリルアミド及びメタクリルアミドの両方を指す)、N-(又は、N,N-ジ)アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体及びビニルエーテル誘導体のホモ重合又は共重合によって得ることができる。コポリマーの場合、上記の単量体などの任意の2つ以上の単量体を用いることができる。更に、それらの単量体は他の単量体と共重合させることができるか、1つのポリマーを別のものにグラフトすることができるか、2つのポリマーを共重合させることができるか、又はポリマー及びコポリマーの混合物を用いることができる。所望により、ポリマーは、それらの固有の特性を損なわない程度まで架橋させることができる。
【0032】
ポリマーでコーティングされる基質は、細胞培養で一般的に使用されるもの、例えばガラス、改変されたガラス、ポリスチレン、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリエステル及びセラミックを含む任意のタイプであってよい。
【0033】
支持体を温度応答性ポリマーでコーティングする方法は当技術分野で公知であり、例えば特開211865/1990号に記載される。具体的には、そのようなコーティングは、基質及び上記の単量体又はポリマーを例えば電子ビーム(EB)曝露、γ線による照射、紫外線による照射、プラズマ処理、コロナ処理又は有機重合反応にかけることによって達成することができる。コーティングの適用及び混錬により達成されるような物理吸着等の他の技術を使用することができる。
【0034】
温度応答性ポリマーのカバレージは、0.4~3.0μg/cm2、例えば、0.7~2.8μg/cm2又は0.9~2.5μg/cm2の範囲内にあってよい。細胞培養支持体の形態は、例えば、皿、マルチプレート、フラスコ又は細胞インサートであってよい。
【0035】
培養された細胞は、支持材の温度を支持体基質の上のポリマーが水和し、その結果細胞を脱離することができる温度に調整することによって、細胞培養支持体から脱離し、回収することができる。細胞シートと支持体の間のギャップに水流を加えることによって、円滑な脱離を実現することができる。細胞シートの脱離は、細胞が培養された培養液又は他の等張性液のいずれか好適であるものの中で作用させることができる。一部の実施形態では、hUC-MSCを温度応答性ポリマー上の培養液中で、少なくとも12時間、少なくとも24時間、少なくとも1日、少なくとも2日、少なくとも3日、少なくとも4日、少なくとも5日、少なくとも6日、又は少なくとも7日培養した後、培養液の温度を、支持体からの細胞シートの放出のためのより低い臨界溶液温度未満に調整する。
【0036】
特定の実施形態では、温度応答性ポリマーは、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)である。ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)は、31℃の水中でのより低い臨界溶液温度を有する。それが遊離状態である場合、それは31℃より上の温度の水の中で脱水を起こし、ポリマー鎖は凝集して汚濁を引き起こす。反対に、31℃以下の温度では、ポリマー鎖は水和して水に溶解し、それによってポリマーからの細胞シートの放出を引き起こす。特定の実施形態では、例えば、化学的又は物理的なグラフと又は係留によって、このポリマーはペトリ皿などの基質の表面をカバーし、その上に固定化される。したがって、31℃より上の温度で、基質表面のポリマーも脱水するが、ポリマー鎖は基質表面をカバーし、その上に固定化されるので、ポリマーの脱水と共に基質表面は疎水性になる。反対に、31℃以下の温度では、基質表面のポリマーは水和するが、ポリマー鎖は基質表面をカバーし、その上に固定化されるので、ポリマーの脱水と共に基質表面は親水性になる。疎水性の表面は、細胞の接着及び増殖のための適当な表面であるが、親水性の表面は細胞の接着を阻害し、細胞は単に培養液を冷却することによって脱離される。
【0037】
間葉系幹細胞のための培養液は当技術分野で公知であり、例えば、米国特許第9,803,176号及び第9,782,439号に記載され、それぞれは参照により完全に本明細書に組み込まれる。一部の実施形態では、培養液はヒト血小板ライセート(hPL)を含む。一部の実施形態では、培養液はウシ胎仔血清(FBS)を含む。一部の実施形態では、hPLを含む培養液で増殖した細胞シートは、FBSを含む培養液で増殖した細胞シートと比較して、高い密度に速やかに増殖し、低い温度でのより速い脱離、より弱い細胞の細胞接着を示し、温度の低減がなくても、十分に制御されていないシート生成条件下での放出に伴って容易に細胞凝集体を形成する傾向がある。一部の実施形態では、hPLを含む培養液で増殖した細胞シートは、FBSを含む培養液で増殖した細胞シートと比較して、ヒト増殖因子(HGF)をより多く分泌する。一部の実施形態では、hPLを含む培養液で増殖した細胞シートは、FBSを含む培養液で増殖した細胞シートと比較して、シートあたりの細胞密度がより高い。
【0038】
一部の実施形態では、培養液はアスコルビン酸を含む。一部の実施形態では、培養液は、ゼノフリー培地、すなわちヒトから得られる生成物を含有することができるが、非ヒト動物から得られる生成物を含有しない培地である。一部の実施形態では、培養液は、非ヒト動物から得られる少なくとも1つの生成物(例えばFBS)を含有する。一部の実施形態では、培養液は、ヒトから得られる生成物を含有しない。特定の実施形態では、培養液は、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)(Life Technologies、CA、USA)、ヒト血小板ライセート(hPL、iBiologics、Phoenix、USA)、Glutamax(Life Technologies)、MEM非必須アミノ酸溶液(NEAA)(Life Technologies)及び抗生物質、例えばペニシリン、ストレプトマイシンの1つ以上を含む。
【0039】
hUC-MSCは、細胞培養支持体の基質表面にコーティングされた温度応答性ポリマーの上の培養液で細胞を培養する前に、1回以上の継代培養(すなわち、継代)を経ることができる。一部の実施形態では、hUC-MSCは、細胞培養支持体の基質表面にコーティングされた温度応答性ポリマーの上の培養液で細胞を培養する前に、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14又は15回の継代培養を経る。継代培養の回数の範囲を規定するために、これらの値のいずれかを使用することができる。例えば、一部の実施形態では、hUC-MSCは、温度応答性ポリマーの上で細胞を培養する前に、2~10回、4~8回又は1~12回の継代培養を経る。一部の実施形態では、継代培養の回数は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14又は15回未満である。一部の実施形態では、継代培養の回数は、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14又は15回である。
【0040】
hUC-MSCシートは、適用によってある範囲の異なるサイズで調製することができる。一部の実施形態では、hUC-MSCシートは、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15又は20cmの直径を有する。hUC-MSCシートのサイズの範囲を規定するために、これらの値のいずれかを使用することができる。例えば、一部の実施形態では、hUC-MSCシートは、1から20cm、1から10cm又は2から10cmの直径を有する。一部の実施形態では、hUC-MSCシートは、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、30、40、50、60、70、80、90、100、150、200、250又は300cm2の面積を有する。hUC-MSCシートのサイズの範囲を規定するために、これらの値のいずれかを使用することができる。例えば、一部の実施形態では、hUC-MSCシートは、1から100cm2、3から70cm2又は1から300cm2の面積を有する。本明細書に記載される方法は、hUC-MSCシートの表面積がその厚さより大いに大きいhUC-MSCシートをもたらす。例えば、一部の実施形態では、hUC-MSCシートの表面積とその厚さとの比は、少なくとも10:1、100:1、1000:1又は10,000:1である。本明細書に記載されるhUC-MSCシートは、コンフルエントなヒト臍帯間葉系幹細胞(hUC-MSC)の1つ以上の層、例えばhUC-MSCの1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ又は10個の層を含む。一部の実施形態では、hUC-MSCシートは、hUC-MSCの2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ又は10個未満の層を含む。一部の実施形態では、hUC-MSCシートは、hUC-MSCの少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ又は10個の層を含む。
【0041】
IV. 対象にヒト臍帯MSC(hUC-MSC)シートを移植する方法
本明細書に記載される細胞シートは、対象の組織に適用することにより、対象に移植することができる。例えば、下記の実施例1に開示されているように、本明細書に記載される方法でhUC-MSシートを調製し、免疫不全マウスの背側皮下ポケットに植え込んだところ、細胞シートは移植の10日後に皮下組織に安定して生着した。また、移植後10日目には、細胞シートを移植した組織では毛細血管が形成されていた(血管新生)のに対し、細胞シートを移植していない皮下組織では細い血管が数本見られただけであった。更に、細胞シートを移植した動物では、移植した細胞シートと宿主組織の間に多数の血管構造が観察された。これらの結果は、本発明の細胞シートは移植可能であり、生着し、細胞シート構造をin vivoで10日間保存することができ、生着、生存能力及び組織再生に重要な能力である毛細血管新生を誘導することを示す。
【0042】
したがって、一部の態様では、本開示は、本明細書に記載される細胞シートを対象の組織に適用することを含む、対象に細胞シートを移植する方法に関するものである。特定の実施形態では、対象はヒトである。本明細書に記載されるhUC-MSCシートの利点の1つは、細胞シートの細胞外マトリックスが対象の組織に細胞シートを結合する接着剤として作用し、そのため組織に細胞シートを接着するのに縫い合わせる(stitch)ことが必要とされないことである。採取されたhUC-MSCシートを培養表面から放出して対象の組織に移動するために、支持膜を使用することができる。このような移動のための支持膜は、例えば、ポリ(ビニリデンジフルオリド)(PVDF)、酢酸セルロース及びセルロースエステルであってよい。MSCシートは標的組織に容易に接着し、標的組織の上に短時間直接置かれた後に縫合なしに自己安定化する。例えば、一部の実施形態では、hUC-MSCシートは、組織との接触から5、10、15、20、25又は30分以内に標的組織に接着する。hUC-MSCシートが標的の組織に接着すれば、支持膜を摘出(excise)することができる。ある特定の実施形態では、細胞シート中のhUC-MSCは対象に対して同種異系である、すなわち対象と同じ種の異なる個体から単離され、そのため1つ以上の遺伝子座の遺伝子は同一でない。ある特定の報告された症例では、MSCはヒト及び動物モデルにおいて同種異系拒絶を回避するようである(Jiang et al., 2005, Blood, 105(10), 4120-4126)。したがって、本明細書に記載されるhUC-MSCシートは、自家幹細胞治療の方法に関連する好ましくないコストや開発上のディスインセンティブを回避して、既製の製品として同種異系細胞療法で使用することができる。
【0043】
同種異系細胞供与源は、宿主患者同種異系組織において標準の免疫適格性の下で意味のある治療を導き出すことが可能でなければならない。これには治療目的の組織部位への信頼できる細胞指向性、及びそこでの十分な期間の分割量(fractional dose)の生着又は保持が含まれる(Leor et al., 2000, Circulation, 102(19 Suppl 3), III 56-61)。現在の予想は、幹細胞懸濁物が対象に投与される場合、虚血性傷害に続く注射の3日後に、注射された幹細胞の3%未満が傷害を受けた心筋で保持されるというものである(Devine et al., 2003, Blood, 101(8), 2999-3001)。更に、標的組織に生着される細胞懸濁物からのほとんどの投与された細胞は、最初の数週間以内に死ぬ(Reinecke & Murry, 2002, J Mol Cell Cardiol, 34(3), 251-253)。対照的に、上述の通り、本明細書に記載されるhUC-MSC細胞シートは、移植の10日後に皮下組織に安定して生着される。したがって、本明細書に記載されるhUC-MSCシートは、間葉系幹細胞懸濁物と比較して異なる利点を提供する。
【0044】
[実施例]
[実施例1]
ゼノフリー培地において調製された臍帯間葉系幹細胞シートの特性
材料と方法
1.1 ヒト臍帯幹細胞(hUC-MSC)培養
バンクに保存された、ヒト臍帯組織の上皮下層から単離されたヒト臍帯間葉系幹細胞(Jadi Cell LLC、Miami、USA IRB-35242)(Patelら、2013、Cell Transplant、22(3)、513~519)を、10%ヒト血小板ライセート(hPL、iBiologics、Phoenix、USA)、1%Glutamax(Life Technologies)、1%MEM NEAA(Life Technologies)、1%ペニシリン・ストレプトマイシン(Life Technologies)を補充したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)(Life Technologies、CA、USA)を含有するゼノフリー細胞培養培地において、37℃で、5%CO2の加湿雰囲気下にて5日間培養した。継代4から継代12まで、継代培養を行った。細胞培養培地を2日毎に交換した。
【0045】
1.2 hUC-MSC増殖速度
35mm組織培養プレート(TCP)(Corning、NY)に、5×104、1×105及び2×105個の細胞/皿の細胞数(すなわち、それぞれ5×103/cm2、1×104/cm2及び2×104/cm2の初期細胞密度)で、ゼノフリー細胞培養培地においてhUC-MSCを播種した。TCPにおける細胞を、トリプシンを用いて解離させ、血球計数器を使用して、1、2、3、4、5及び6日目に細胞数を計数した。3.5×103/cm2の細胞密度で、175cm2組織培養フラスコ(Corning、NY)にhUC-MSCを播種し、継代4から12まで培養した後に、TrypLE(life technologies)により5日目に継代した。血球計数器を使用して各継代で細胞数を計数した。
【0046】
1.3 分化能におけるhUC-MSC特徴付け
TCPにおいて2回の継代にわたり、ゼノフリー細胞培養培地においてhUC-MSCを培養した。継代4、6、8、10及び12において、造骨性及び脂肪生成性の分化のために細胞を調製及び誘導した。造骨性分化のため、5×103個の細胞/cm2で、35mmのTCP皿において、ゼノフリー細胞培養培地に細胞を蒔いた。60%コンフルエントになったら、αMEM、10nMデキサメタゾン、82μg/mLアスコルビン酸2-リン酸塩、10mM β-グリセロールリン酸塩(glycerolphosphate)(Sigma-Aldrich)を含有する造骨性分化培地により細胞を誘導した。造骨性培地において37℃で21日間細胞を培養し、培地を3日毎に交換した。陽性分化を検出するために、標準プロトコールを使用して、細胞を冷4%パラホルムアルデヒドで12分間固定し、アリザリンレッドS-(Sigma-Aldrich)で染色した。脂肪生成分化のため、1×104個の細胞/cm2で、35mmのTCP皿において、ゼノフリー細胞培養培地に細胞を蒔いた。80%コンフルエントになったら、高グルコースDMEM、100nMデキサメタゾン、0.5mM IBMX及び50μM IND(全てSigma-Aldrich)を含有する脂肪生成分化培地により細胞を誘導した。脂肪生成培地において37℃で21日間細胞を培養し、培地は3日毎に交換した。陽性分化を検出するために、標準プロトコールを使用して、細胞を冷4%パラホルムアルデヒドで12分間固定し、オイルレッドO(Sigma-Aldrich)で染色した。
【0047】
1.4 hUC-MSC表面表現型アッセイ
TCPでゼノフリー細胞培養培地においてhUC-MSCを培養した。HPL及びFBSで培養されたP6、P8、P10及びP12細胞の細胞懸濁物を調製した。次に、細胞を酵素により脱離し、PBSで1回洗浄した。抗体の非特異的結合を最小化するために、細胞をPBSにおける2%w/vウシ血清アルブミン(BSA)と共に30分間インキュベートした。次に、3~5×105/100μLの濃度で細胞をアリコートに分けた。1つのアリコートを未染色対照として確保し、残りを次の抗体で染色した:CD44、CD90及びHLA-DR、DP、DQ(Biolegend、San Diego、CA)。各アリコートに一次抗体を加えて、緩衝剤中の細胞と抗体との約20:1の比を達成した。約3~5×105個の細胞を、飽和濃度の(フルオロフォア)コンジュゲート抗体で染色した。細胞を暗所にて氷上で30分間インキュベートした。インキュベーション後に、細胞を3回洗浄し、次いでPBSに再懸濁した。細胞をフローサイトメトリーによって直ちに解析した。Becton、Dickinson FACS Canto(BD Biosciences、Sparks、MD)においてフローサイトメトリーを行った。未染色細胞を使用して、フローサイトメーター機器を設定した。前方対側方散乱によって細胞をゲーティングして、ダブレットを排除した。解析毎に最小で10,000事象が計数された。
【0048】
1.5 異なる初期細胞数及び継代数を使用したhUC-MSCシート調製
温度応答性細胞培養皿(TRCD)において、異なる初期細胞密度及び継代数を含む様々な条件下で、hUC-MSCシートを調製した(図2)。35mm TRCD(CellSeed Inc.、Tokyo、Japan)において、5×104個の細胞/皿、1×105個の細胞/皿及び2×105個の細胞/皿の細胞数で、継代6細胞を播種した。2×105個の細胞/皿の細胞数(すなわち、2×104/cm2の初期細胞密度)で、継代4~12細胞を播種した。細胞シートを作製するための16.4μg/mLのアスコルビン酸(Sigma-Aldrich、St. Louis、USA)を含む新鮮なゼノフリー細胞培養培地を播種後1日目に加えた。播種後4~6日目に形成されたコンフルエントな細胞シートを、室温でTRCDから脱離した。細胞シート脱離前に、Axio Visionソフトウェア(Carl Zeiss Microimaging)によりAX 10顕微鏡(Carl Zeiss Microimaging、Gottingen、Germany)を使用して細胞形態をモニターした。
【0049】
1.6 免疫組織化学的染色
培養された細胞シートを室温でTRCDから除去し、4%パラホルムアルデヒドで30分間固定し、次いでパラフィンに包埋した。包埋された検体を4μmスライスの切片にし、H&E、幹細胞表面マーカー、ECM(フィブロネクチン;FN及びラミニン;LM)及び細胞間接合(インテグリン連結キナーゼ;β-カテニン)で染色した。蛍光染色のため(FN、LM及びβ-カテニン)、スライドを抗原賦活化溶液(Sigma-Aldrich)に20分間100℃で浸漬し、PBS 1×で洗浄した。10%ヤギ血清(Vector Laboratories、Burlingame、USA)を含有するPBS 1×において非特異的結合を1時間室温でブロッキングした。一次抗体標識(Abcam、Cambridge、USA)(1:100)を4℃で一晩進め、次いでPBS 1×で洗浄した。これらの検体を、Alexa Fluor 594コンジュゲート二次抗体(Life Technologies)(1:200)で1時間処理し、ProLong Gold褪色防止試薬(Life Technologies)を用いてマウントした。AX 10顕微鏡(Carl Zeiss Microimaging)を使用して免疫蛍光画像を得て、Axiovisionソフトウェア(Carl Zeiss Microimaging)により解析した。H&E染色のため、検体をヘマトキシリン溶液(Sigma-Aldrich)で3分間、その後、エオシン溶液(Thermo Fisher Scientific、Kalamazoo、USA)で5分間処理した。H&E染色した検体を脱水し、Permount(商標)(Thermo Fisher Scientific)を用いてマウントした。BX 41顕微鏡(Olympus、Hamburg、Germany)を使用して、H&E画像を得た。
【0050】
1.7 透過型電子顕微鏡を使用して観察される細胞シート微細構造
hUC-MSCシートを、リン酸ナトリウム緩衝剤における2%パラホルムアルデヒド、2%グルタルアルデヒド、0.1Mリン酸ナトリウム緩衝剤及び2%四酸化オスミウム(OsO4)の混合物で固定し、エタノールの段階的系列(grade series)において脱水した。次に、試料をエポキシ樹脂に包埋した。透過型電子顕微鏡(JEOL JEM1200EX)(JEOL USA、Peabody、USA)を用いて超薄切片(70nm厚さ)を観察した。
【0051】
1.8 hUC-MSCシートからの肝細胞増殖因子(HGF)及び腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)分泌の決定
TRCDにおいてhUC-MSC細胞シートを製作した。室温(RT)でTRCDからの細胞シート脱離の直前に、24時間接着性の培養された細胞の上にある上清培地を収集した。hUC-MSCから分泌されたHGF及びTNF-α量を、それぞれヒトHGF Quantikine ELISA及びヒトTNF-α Quantikine ELISAキット(R&D Systems、Minneapolis、USA)によって、測定した。
【0052】
1.9 免疫不全マウス皮下組織への細胞シート配置
4日間の培養後にRTでTRCDからhUC-MSC(継代6)細胞シートを脱離し、6週齢の免疫不全マウス(NOD.CB17-Prkdcscid/NCrCrl)(Charles River、San Diego、USA)の皮下背側組織に移植した。滅菌した非細胞毒性シリコーン膜(Invitrogen)を、細胞シート及び皮下背側組織の間に配置して、組織接着を妨げた。細胞シート移植10日後に、植え込まれたマウスを屠殺した。細胞シート移植された皮下組織を、組織学的解析のために10%パラホルムアルデヒド(Sigma-Aldrich)で1日間固定した(材料と方法;2.6. 免疫組織化学的染色を参照されたい)。全手順は、ユタ大学(University of Utah)の施設内実験動物委員会(Institutional Animal Care and Use Committee)(IACUC)(プロトコール #16-12017)によって承認されており、国の指針に従って行った。
【0053】
1.10 統計解析
定量的な値は全て、平均及び標準誤差(SE、平均±SE)として表現される。群間の有意差は、origin 2017ソフトウェア(OriginLab、Northampton、USA)を使用した一元配置分散分析によって検定された。0.05未満の確率値(p<0.05)は、統計的に有意と考えた。
【0054】
1.11 定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)解析
RTでTRCDからの脱離後にhUC-MSC細胞シートを収集した。製造業者のプロトコールに従ってトリゾール及びPureLink RNA Miniキット(Life Technologies)を使用して、細胞シートから全RNAを抽出した。大容量(high capacity)cDNA逆転写キット(Life Technologies)を使用して、1μgの全RNAからcDNAを調製した。Applied Biosystems Step One機器(Applied Biosystems(商標)、Foster City、USA)を使用して、TapManユニバーサルPCRマスターミックスを用いてRT-PCR解析を行った。次の遺伝子に関して、遺伝子発現レベルを評価した:1)ハウスキーピング遺伝子としてのグリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH、Hs02786624_g1)、2)インテグリン連結キナーゼ(ILK、Hs00177914_m1)、3)N-カドヘリン(N-cad、Hs00983056_m1)。Applied Biosystemsによって全プライマーが製造された(それぞれの配列は、補足データ表S1に示す)。比較CT方法(Schmittgen & Livak、2008)によって相対的遺伝子発現レベルを定量化した。GAPDH発現レベルに対して遺伝子発現レベルを正規化した。遺伝子発現レベルは、継代6細胞群のレベルに相対的である。
【0055】
結果
異なる初期細胞数及び継代数によるhUC-MSCシート調製
フラスコにおいてhUC-MSCを培養し、継代4~12に、5日毎にトリプシンを使用して継代培養した(表1)。継代培養において継代4~8の間に、初期細胞播種数から16~20倍に細胞を増殖させた。しかし、細胞増殖速度は、継代9から劇的に減少する。細胞数は、継代9、10、11及び12において初期細胞播種数から、それぞれ14、10.9、7.5及び3.1倍増加した。継代10における細胞は、コンフルエントに達して細胞シートを得るために、同じ播種密度での継代4~8における細胞よりも更に1日多く必要であった(図2a及び図2b)。継代12における細胞は、不均一に培養された形態を示し、接触阻害を失い、一貫した単層ではなく、塊をなして多層の凝集塊となった(図2a)。培養温度を室温(RT)へと低減したとき、継代12における細胞はTRCDから脱離されたが、継代4~10から回収された場合ほどシート状ではなかった(図2b)。細胞は、したがって、継代4~8で使用されて、一貫した細胞シート品質を産生するべきである。
【0056】
【表1】
表1. 継代4~12中のhUC-MSCの増殖速度
【0057】
5×104、1×105及び2×105個の細胞/皿の初期細胞播種数は、それぞれ6、5及び4日目にコンフルエントに達し(図3a及び図3b)、hUC-MSCシートを確実に産生した(図3c)。全ての異なる初期細胞数群由来の細胞シートは、細胞が過密(over-confluent)になったら、2×105、1×105及び5×104個の播種細胞/皿群において、それぞれ5、6及び7日目における温度変化(すなわち、37℃で)なしでTRCDから自発的に脱離した(図3c)。細胞のコンフルエント1日前には、接着性細胞は70~80%未満のコンフルエントであり、不十分な細胞密度のため、温度がRTに低減された場合、部分的に破損されたシート断片として脱離された。TRCDにおいて細胞がコンフルエントに達する1日前又は1日後のいずれかでのhUC-MSCシートの回収は不可能であった(図3c)。これらの結果は、細胞を熱的に回収されたシートとして脱離するためには、細胞シートが、慎重に調製され、細胞が過疎でも過密でもない正確な時点で回収されなければならないことを指し示す。
【0058】
hUC-MSC表面マーカー特徴付け
CD44及びCD90はhUC-MSCで発現することが知られている。hUC-MSC懸濁培養物及びhUC-MSCシートにおいてin vitroでCD44及びCD90発現を測定した。図4に示す通り、hUC-MSCは、懸濁培養物(図4A及び図4B)及び細胞シート(図4C及び図4D)においてin vitroでCD44及びCD90を発現した。CD44及びCD90は、hUC-MSCにおいて発現されることが知られている。したがって、これらの結果は、hUC-MSCシートが、hUC-MSC特異的表現型を維持したことを指し示す。特に、図4C及び図4Dにおける結果は、細胞シートが、hUC-MSCを含有し、臍帯由来の他の細胞型及び分化した細胞を含有しないことを指し示す。
【0059】
hUC-MSCシートの構造解析
TRCDにおいて継代6細胞を4日間培養し、その結果得られる細胞シートを、RTへの温度低減ありで、TRCDから回収した。細胞シートをフィブロネクチン、ラミニン及びβ-カテニンで染色して、hUC-MSCシートの培養中及びシート脱離後の、機能に係る構造の保持を検証した。細胞及び組織付着を促進する重要なECM成分であるフィブロネクチン及びラミニン(Yue、2014、J Glaucoma 23: S20~S23;Kimら、2016、Int Neurourol J.: S23~S29)は、細胞シート表面全体にわたって強く発現された(図5a及び図5b)。細胞接着性接合を形成するタンパク質複合体の一部であるβ-カテニン(Nelson & Nusse、2004、Science, 303(5663)、1483~1487)は、細胞の間の顕著な染色を示す(図5c)。ECM及び細胞接合タンパク質の保持は、培養中に産生された機能的なタンパク質が、細胞シート採取後に保存されていることを指し示す。
【0060】
細胞シート内の細胞間構造をTEMによって観察した。水平切片作製により、細胞シート内のECM構造が示され(図5d)、これは、多数の細胞間接合を含んだ(図5e)。これらの結果は、hUC-MSCシートが、天然の細胞機能、例えば、細胞連絡及び細胞接着に関する機能的なタンパク質を構造的に保持することを示唆する。
【0061】
肝細胞増殖因子(HGF)及び腫瘍壊死因子-アルファ(TNF-α)の分泌
in vitroにおける製作されたhUC-MSCシートのパラクリン効果を支持するために、培養上清におけるhUC-MSCから分泌されたヒト抗炎症性サイトカインHGF(Gong, Rifai, & Dworkin, 2006; J Am Soc Nephrol、17(9)、2464~2473)及び炎症促進性サイトカインTNF-α(Ertelら、1995、J Cell Sci、123(Pt 24)、4195~4200)(REF)を測定した。hHGFの量の有意差は、継代6の2×105、1×105及び5×104個の細胞/皿群において見られなかった(図6a)。炎症促進性サイトカイン(hTNF-α)は、2×105、1×105及び5×104個の細胞/皿群においてほとんど検出不能であった(図6b)。
【0062】
継代4細胞を使用して製作されたhUC-MSCシートは、継代6、8、10及び12細胞を使用して製作されたhUC-MSCシートと比較して、有意に高い濃度のhHGF(633pg/mL)を分泌した。hUC-MSCシートから分泌されたhHGFの量は、継代数が増加するにつれて劇的に減少した(図6c)。hTNF-αは、hUC-MSCシートからほとんど分泌されず(16~35pg/mL)(図6d)、継代4を使用して製作されたhUC-MSCシートは、継代6、8、10及び12細胞を使用して製作されたhUC-MSCシートと比較して、有意に低い濃度のhTNF-αを有した。結果は、したがって、継代数が、hUC-MSCシートサイトカイン特性における重要な因子であることを実証する。
【0063】
免疫不全マウスへの細胞シート植込み
免疫不全マウスにおける背側皮下ポケットにhUC-MSCシートを10日間植え込んで、in vivoにおける安定性及び生着を実証した。移植後10日目に、細胞シート移植がされた組織において毛細血管の形成(血管新生)が観察された一方、細胞シート移植なしの皮下組織は、ごく僅かな微細血管を示した(図7c及び図7d)。H&E染色データは、細胞シートは、移植領域における局在化を移植後10日間維持したことを実証した(図7a及び図7b)。細胞シート移植群において、移植された細胞シート及び宿主組織の間に多数の血管構造が観察された(図7e)。このことは、細胞シートが移植可能であり、in vivoで10日間細胞シート構造を生着及び保存することを指し示す。更に、細胞シートは、生着、生存能力及び組織再生のための重要な能力として、新生毛細血管(neocapillary)形成を誘導する。
【0064】
考察
ゼノフリーhUC-MSCシート製作は、温度応答性培養皿(TRCD)を使用した培養物から実証された。このようなhUC-MSCシートは、(1)標的臓器に植え込まれた場合に天然のマトリックス接着剤として作用する、細胞間連絡に必須な天然の機能的な細胞間構造の保持(図5);(2)血管新生及び抗線維性作用を誘導する肝細胞増殖因子(HGF)分泌(図6);(3)植込み後10日間のin vivoにおける細胞保持;並びに(4)シート-組織生着を支持するin vivoにおける血管新生を示す(図7)。
【0065】
再現性よく強力なMSC細胞シートを製作するために、hPLを補充した細胞培養培地において、継代4~12由来のhUC-MSCを増大化し、シートへと転換した。hUC-MSCの細胞増殖速度は、継代10の後に著しく低減され、細胞シート作製プロセス及び採取のタイムラインに影響した(図2)。更に、継代12細胞は、継代増加後の低減した細胞増殖速度及び不適切な細胞間接合形成のため、安定したシートを形成することができなかった(表1及び図8)。加えて、顕微鏡位相差画像(図2)は、より多い継代数において、互いの上に積み重なった細胞及び細胞凝集塊の形成を示した。この特色は、継代数が増加するにつれて、特に、継代12細胞で、増加する傾向がある。骨髄由来の(BMSC)及び脂肪由来の(ADSC)幹細胞を使用した細胞凝集は、5%hPLを含む培地において培養された場合に発生することが報告される(Hemeda, Giebel, & Wagner、2014、Cytotherapy、16(2)、170~180)。hPLにおける活性凝固因子は凝集に関与し得る。この細胞凝集は、均一な細胞増殖及び細胞シート製作を妨害する。再現性があるhUC-MSCシートを調製するために、継代10を下回る継代数が好ましいであろう。
【0066】
hPLを含む細胞培養培地において培養されたhUC-MSCの急速増殖は、細胞シートの製作に要求される時間の低減において有益となり得る。逆に、シート培養物が、迅速にコンフルエントに達し、コンフルエントに達すると自発的に脱離する傾向があるため、これは、いくつかの処理上の困難性を導入する場合もある。したがって、適切な初期細胞播種数の賢明な使用は、hUC-MSCシート製作プロセスに重要である。2×105個の細胞/皿よりも高い初期細胞播種密度は、単層シートを生じない:そのような高密度は、細胞培養の2日以内にTRCDからの自発的な細胞脱離を誘導する(データ図示せず)。本研究において、2×105、1×105及び5×104個の細胞の初期密度が使用され、その全てが、各培養物がコンフルエントに達した際に、それぞれ4、5及び6日目にhUC-MSCシートを生じることに成功した(図3)。コンフルエントに達する1日前に又は1日後に細胞が脱離された場合、不十分な細胞シート品質が観察された(図3c)。したがって、最良のhUC-MSCシート製作のため、TRCD細胞シート回収のための採取時間は、継代数及び播種細胞密度の両方に依存する。
【0067】
これらの結果の中心となるのは、温度低減を使用して、破壊性酵素を用いずに細胞採取を容易にする温度応答性ポリマーコーティングをグラフトされた市販のTRCDを使用してhUC-MSCの安定した頑強な単層を産生する信頼できる能力である(Okanoら、1995、Biomaterials、16(4)、297~303;Okanoら、1993、J Biomed Mater Res、27(10)、1243~1251)。この細胞シート技術は、インタクトな天然細胞間組織化、細胞間連絡、インタクトなECM及び組織様の表現型を有する培養された細胞の回収を産生する。培養温度の僅かな変化によってTRCDから回収された細胞シートは、細胞接着及びパラクリンシグナル伝達の促進において重要な役割を果たす、細胞表面関連ECM、例えば、フィブロネクチン及びラミニン、並びに細胞間接合タンパク質、例えば、β-カテニンを保存する(図5)(Brownlee、2002、Curr Opin Plant Biol、5(5)、396~401)。天然の形態、コンフルエントの表現型及び組織化、細胞間連絡、インタクトな細胞外マトリックス(ECM)並びに組織様の挙動を有する細胞シートは、標的組織へと容易に移植させることができる(Miyaharaら、2006、Nat Med、12(4)、459~465)。免疫不全マウスにおける皮下組織部位に植え込まれたhUC-MSCシートは、10分以内に皮下組織表面に急速かつ自発的に付着した。in vivoで10日後に、植え込まれた細胞シートは、インタクトなシートとして残った(図7)。
【0068】
全体的に見て、hUC-MSCシートは、同種異系MSC細胞療法を改善するためのいくつかの有益な特性を表示する。ここでの結果は、(1)信頼できるゼノフリーhUC-MSCシート製作のための特異的な条件;(2)TRCDからの細胞採取後に重要な細胞機能に係る構造及びパラクリン効果を保存するhUC-MSCシートのインタクトな特色;(3)10日間の植込み標的組織部位におけるインタクトなhUC-MSCシート保持;並びに(4)植え込まれたhUC-MSCシートが、パラクリン因子を連続的に分泌して生着をモジュレートすることを示唆する、標的組織におけるシートへの新たな血管リクルートメントを決定した。
【0069】
結論
hUC-MSC細胞シート技術は、現在の注射される細胞懸濁物を超えてMSC療法を改善することを目標とする、特有の細胞送達方法を表す。hPLでの、TRCDにおける単純な製作方法は、破壊性タンパク質分解酵素の代わりに温度の僅かな変化により採取される、頑強で均質な単層のhUC-MSCシートの急速ゼノフリー産生を可能にする。細胞産生は、細胞播種密度、継代数、培地(hPL)及び培養時間及びTRCDを含む、いくつかの制御された培養変数に依存する。最適化された条件下で均一に培養される場合、hUC-MSC細胞シート再現性は増強され、hUC-MSC細胞シート産生プロセスは、スケーリングを行い易いルーチンへと単純化される。これは、パラクリン作用及び治療上の利益を増加させるための、より多い細胞数を有するhUC-MSCシートの将来的な産生を可能にする。そのパラクリン効果及び低いHLAプロファイルを考慮すると、製作されたゼノフリーhUC-MSCシートは、in vitro及びin vivoで構造的及び機能的の両方で有望な組織再生能を表す。信頼できる局所的組織部位配置、高い生着効率、in vivoでの長期保持及び生存により、hUC-MSCシートは、現在使用されている注射される幹細胞を超えて同種異系間細胞療法の治療価値を改善する潜在力を有する。
【0070】
[実施例2]
温度変化、トリプシン処理及び細胞スクレーパーによって採取されたヒト臍帯間葉系幹細胞(hUC-MSC)の比較
材料と方法
2.1 抗体
本研究において次の抗体を使用した;アクチン(ab8226)(Abcam、Cambridge、USA)、ビンキュリン(ab129002)(Abcam)、フィブロネクチン(ab6328)(Abcam)、ラミニン(ab11575)(Abcam)、インテグリンβ-1(ab179471)(Abcam)、コネキシン43/GJA1(ab11370)(Abcam)、YAP(#140794)(Cell Signaling Technology(CST)、Massachusetts、USA)、ホスホ-YAP(Ser127、#4911))(CST)、FAK(ab40794)(Abcam)、ホスホ-FAK(Tyr397、#8556)(CST)、GAPDH(ab9484)(Abcam)。Alexa flour 568ヤギ抗ウサギ、568ヤギ抗マウス、488ヤギ抗ウサギ及び488ヤギ抗マウス(life technologies)を二次抗体として使用した。
【0071】
2.2 ヒト臍帯幹細胞(hUC-MSC)培養
バンクに保存されたヒト臍帯間葉系幹細胞(hUC-MSC)をヒト臍帯組織の上皮下層から単離し(Jadi Cell LLC, Miami, USA IRB-35242)、10%ウシ胎仔血清(FBS)(Gibco)、1%GlutaMAX(Gibco)、1%MEM非必須アミノ酸(NEAA)(Gibco)、100ユニット/mLペニシリン及び100μg/mLストレプトマイシン(Gibco)を補充したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)(Gibco、Massachusetts、USA)において培養した。hUC-MSCを37℃で5%CO2により加湿チャンバー内でインキュベートし、細胞がコンフルエントに達したら継代した。5分間のTrypLE(Gibco)処理によりhUC-MSCを継代し、継代4~6の間、3000個の細胞/cm2で継代培養した。
【0072】
2.3 hUC-MSCシートの調製
35mm温度応答性培養皿(TRCD)(CellSeed、Tokyo、Japan)にhUC-MSCを播種した。hUC-MSCを2×105個の細胞/皿の密度で播種し(0日目)、コンフルエントとなるまで培養した(5日目)。16.4μg/mLのアスコルビン酸(Wako、Osaka、Japan)を含む細胞培養培地は、播種後1日目に交換した。温度を20℃に低減させることにより、60分以内にTRCDからhUC-MSCを単層シートとして採取した。血球計数器を使用したトリパンブルー(Gibco)排除検査により、hUC-MSCシートの総細胞数を計数した。
【0073】
2.4 hUC-MSCシートのヘマトキシリン及びエオシン(H&E)染色
試料を4%緩衝パラホルムアルデヒド(PFA)で固定し、パラフィンに包埋した。次に、試料を4μm厚切片にカットした。切片をメイヤー(Mayer)のヘマトキシリン及び1%エオシンアルコール溶液で染色した。次にこれを、permount(商標)(Thermo Fisher Scientific)を用いてマウントした。BX53顕微鏡(Olympus、Tokyo)を使用して、染色された試料を可視化した。
【0074】
2.5 走査型電子顕微鏡及び透過型電子顕微鏡を使用したhUC-MSCの形態的観察
走査型電子顕微鏡(SEM)解析のため、洗浄緩衝剤(2.4%スクロース及び8mM塩化カルシウムを含有する0.1Mカコジル酸ナトリウム緩衝剤)において試料を5分間リンスし、次いで、洗浄緩衝剤における2%四酸化オスミウム(OsO4)で1時間室温にて固定した。試料をDI水でリンスして非結合オスミウムを除去し、次いで、エタノールの段階的系列を通して脱水した。その後、エタノールをヘキサメチルジシラザン(HMDS)と交換し、-30℃で乾燥させた。走査型電子顕微鏡(FEI Quanta 600 FEG、FEI、Oregon)で試料を観察した。透過型電子顕微鏡(TEM)解析のため、試料を0.1Mリン酸ナトリウム緩衝剤における2%パラホルムアルデヒド、2%グルタルアルデヒド、2%OsO4の混合物で固定し、エタノールの段階的系列において脱水した。次に、試料をエポキシ樹脂に包埋して、70nmの厚さにカットした。透過型電子顕微鏡(JEOL JEM-1400 Plus、JEOL、Tokyo)で超薄切片を観察した。
【0075】
2.6 細胞生存率アッセイ
生及び死(live and dead)生存率/細胞毒性アッセイ(Thermo Fisher Scientific、MA)により細胞生存率を測定した。細胞シート及びトリプシン処理細胞群を2回洗浄し、生/死作業溶液(4mMエチジウムホモ二量体-1及び2mMカルセインAM)と共に30分間37℃で暗所にてインキュベートした。試料を洗浄し、AX 10顕微鏡(Carl Zeiss Microimaging、Gottingen、Germany)を使用して可視化し、Axiovisionソフトウェア(Carl Zeiss Microimaging)により解析した(Ex/Em 495/635、エチジウムホモ二量体-1;Ex/Em 495/515、カルセイン)。image J(National Institutes of Health、Bethesda、Maryland、USA)を使用して、単一懸濁物群における生及び死細胞の数を計数した。細胞シートにおける死細胞の数もimage J (National Institutes of Health)を使用して計数し、一方、細胞シートにおける生細胞は次式に基づき計算した。
【0076】
【数1】
【0077】
図15Bに示す通り、死細胞の比を計算して、各試料における細胞生存率を比較した。
【0078】
2.7 細胞機能に関するタンパク質の定性的解析
hUC-MSC(2×105個の細胞/皿)を5日間培養し、温度変化(細胞シート技術)、トリプシン処理(化学的破壊)又は細胞スクレーパー(物理的破壊)によって採取した(図9)。細胞溶解緩衝剤(RIPA緩衝剤、プロテイナーゼ阻害剤及びホスファターゼ阻害剤)(Thermo Fisher Scientific)により細胞を15分間4℃で溶解して、タンパク質抽出物を単離した。次に、9秒間で3回、試料を超音波処理した。ブラッドフォード法によって各試料のタンパク質濃度を決定した(Galipeauら、2018、Cell Stem Cell 22(6): 824~833)。同じ量(10μg)のタンパク質を含有する試料を70℃で10分間変性させ、SDS-PAGEゲル(3~8%トリス-アセテートゲル又は4~12%トリス-グリシンゲル(Thermo Fisher Scientific))にロードし、電気泳動によりPVDF膜(LC2002)(Thermo Fisher Scientific)に転写した。膜をブロッキング溶液5%ウシ血清アルブミン(BSA)で1時間室温にて処理し、一次抗体と共に4℃で一晩インキュベートした;アクチン(1:1000希釈)、ビンキュリン(1:10000希釈)、フィブロネクチン(1:2000希釈)、ラミニン(1:1000希釈)、インテグリンβ-1 (1:2000希釈)、コネキシン43(1:8000希釈)、YAP(1:1000希釈)、ホスホロ(phosphor)-YAP(Ser127)(1:1000希釈)、FAK(1:1000希釈)、ホスホ-FAK(Tyr397)(1:1000希釈)、GAPDH(1:5000希釈)。インキュベートした膜を適切なHRPコンジュゲート二次抗体で室温にて1時間処理した。増強ケミルミネッセンス(FluorChem HD2、ProteinSimple、California、USA)を使用することにより膜を可視化した。発現レベルをGAPDHに対して正規化した。
【0079】
2.8 細胞機能に関するタンパク質の免疫細胞化学染色
試料を4%緩衝PFAにおいて固定し、次いで、0.1%トリトンX-100(Thermo Fisher Scientific)により透過処理した。試料を10%ヤギ血清における1%BSAにより15分間ブロッキングし、次いで、一次抗体において一晩4℃でインキュベートした;1%BSAと10%ヤギ血清の存在下における、アクチン(5μg/ml)、ビンキュリン(1:50希釈)、フィブロネクチン(1:100希釈)、ラミニン(1:50希釈)、コラーゲン-1(1:100希釈)、インテグリンβ-1(1:200希釈)、コネキシン43(1:100希釈)。試料を二次抗体で1時間処理した。最後にこれを、マウント溶液(DAPIを含有するProLong Gold褪色防止封入剤)(Thermo Fisher Scientific)を用いてマウントし、IX73蛍光顕微鏡(Olympus)を使用して検査した。
【0080】
2.9 統計解析
値は全て、平均±SEMとして表現される。二元配置分散分析と、それに続くチューキーの検定を使用して、2を超える群間の差を評定した。確率(p<0.1、0.05)は、有意と考えた。
【0081】
結果
ヒト臍帯幹細胞(hUC-MSC)シートの調製
温度応答性細胞培養皿(TRCD)の上で培養されたhUC-MSCの形態及び増殖速度を検証するために、従来の組織培養プレート(TCP)又は35mm TRCDの上にhUC-MSCを2×105細胞の密度で播種し、5日間培養した。TRCDの上で培養した細胞は、細胞がTRCDの底面に付着したとき、丸い形状から紡錘形にその形態を変えた。この形態的変化は、TCPで培養された細胞でも観察された(図10A)。更に、TRCDで培養したhUC-MSCの増殖速度は、TCPのそれと同じ増殖曲線を示した(図10B)。これは、温度応答性ポリマーでコーティングした細胞培養皿表面が増殖及び細胞の形態に影響を及ぼさなかったことを示す。更に、37℃から20℃への温度低減の結果、細胞はTRCDから首尾よく脱離され、シートは維持された(図10C)。形成した製作された細胞シートは単層を形成し、天然の構造のような細胞結合性タンパク質を維持した(図10d)。
【0082】
hUC-MSCシートの形態学的観察
hUC-MSCシートの表面及び細胞間構造は、走査電子顕微鏡法(SEM)(図11A~D)及び透過電子顕微鏡法(TEM)(図11E~F)によって観察した。SEM分析では、hUC-MSCシートは細胞表面で連結した細胞膜構造を示した。それは、細胞脱離の後でさえ、それらが細胞培養皿の上で培養される場合に形成される天然の構造をhUC-MSCシートが保存したことを意味する。天然の細胞膜構造は細胞表面タンパク質及び膜タンパク質で構成され、それは細胞の接着及び機能に関係する。この知見は、hUC-MSCシートが細胞表面タンパク質及び膜タンパク質を保持し、細胞接着及び細胞機能を向上させることができることを示唆する(Albuschies et al., 2013, Sci Rep 3: 1658)。対照的に、0.05%トリプシンで処理したhUC-MSCは、連結した組織がなく、単一細胞形状を示した(図11B~D)。更に、0.05%トリプシン処理群(5分、20分及び60分)における細胞表面は、トリプシン処理時間依存的にそれらの微小絨毛様構造を失った(図11B~D)。結果、hUC-MSCシートは組織様連結構造並びに微小絨毛様構造を維持し、0.05%トリプシン処理群における細胞表面のタンパク質は切断された。
【0083】
TEM分析では、hUC-MSCシートはECM(白色の点線)及び細胞間接合(白色実線の矢印)を維持し、これらは細胞接着及び細胞間連絡に関係する(Gattazzo et al., 2014, Biochim Biophys Acta 1840(8): 2506-19)(図11E)。しかし、0.05%トリプシンで5分間処理したhUC-MSCは、細胞シート群と比較して切断された細胞間接合及びECMを示した(図11F)。更に、hUC-MSCを0.05%トリプシンで20及び60分間処理した場合、hUC-MSCはそれらの細胞表面のその糸状仮足を失い、核の不明瞭な形状を有した(図11G及びH)。0.05%トリプシンで60分間処理したhUC-MSCは小胞体(暗灰色の矢印)を示し、それは、細胞死と関連することが知られている(図11H)。SEM及びTEMの結果は、細胞が細胞培養皿から脱離された後でさえ、hUC-MSCシートが細胞表面タンパク質及び細胞間タンパク質、例えば微小絨毛様構造、糸状仮足、ECM及び細胞間接合を維持していたことを示す。対照的に、0.05%トリプシンで処理したhUC-MSC群は、切断された微小絨毛、ECM及び細胞間接合を示し、核が傷害を受けた。これらの所見は、トリプシン処理(化学的破壊)が細胞及び組織構造(すなわち、接合タンパク質、ECM、核及び小胞体)に傷害を引き起こすことを示唆する。
【0084】
hUC-MSCは細胞動態力学に関係するアクチンフィラメントタンパク質を維持する
グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)タンパク質の発現は、ウエスタンブロットアッセイのためにタンパク質量を正規化するためのローディング対照として検出した。GAPDHタンパク質の発現レベルは、全ての群において類似していた。0.50%トリプシンで20及び60分間処理した細胞は、細胞シート、0.05%トリプシン及び細胞スクレーパー群でのそれより低いアクチンを発現した(図12A)。これは、0.50%トリプシン処理が細胞質中のアクチンを破壊することを示す。細胞骨格構造を観察するために、hUC-MSCをアクチンで染色した。細胞が培養器具表面に付着しているとき、アクチンは細胞生存で重要な役割を演ずるストレス線維構造を形成する(Bachir et al., 2017, Cold Spring Harb Perspect Biol 9(7))。細胞シートが細胞培養皿から脱離された後でさえ、細胞シート群はアクチンストレス線維構造を示した。対照的に、5、20及び60分間の0.05%トリプシン処理群はアクチン陽性領域を示したが、ストレス線維構造は観察されなかった(図12B)。F-アクチンタンパク質の量は、細胞シート及び0.05%トリプシン処理群で類似していた。しかし、細胞シート群だけがアクチンのストレス線維構造を維持した。
【0085】
ビンキュリンは、細胞運動と関連するインテグリン受容体ファミリー及びアクチンを連結することによって局所接着を形成する膜細胞骨格タンパクである(Peng, 2011, Int Rev Cell Mol Biol 287: 191-231)。免疫組織化学で染色した場合、ビンキュリン発現は細胞シート及び0.05%トリプシン処理群の両方で観察された(図12C)。ビンキュリン発現のウエスタンブロット分析で、化学的破壊群においてより低い分子量のバンドが、複数観察された(図12A)。これは、ビンキュリンタンパク質が化学的破壊群で切断されたことを示す。トリプシンで処理した(化学的破壊)細胞は、非局在化アクチン線維構造、低減されたアクチンタンパク質及び切断されたビンキュリンタンパク質を明らかにし、化学的破壊方法が細胞形状及び細胞動態力学に関係したタンパク質を切断したことを示唆する。トリプシン濃度を増加させた場合、この切断は増加した。
【0086】
hUC-MSCシートは細胞接着に関係する細胞外タンパク質を維持する
フィブロネクチン及びラミニンは、細胞接着及び組織接着における重要なタンパク質である。ウエスタンブロットアッセイにおいて、細胞シート、5分間の0.05%又は0.50%トリプシン処理及び細胞スクレーパー群はフィブロネクチンを発現した。しかし、20分及び60分間の0.05%及び0.50%トリプシン処理群は、フィブロネクチンの発現がなかった。細胞シート、5分間の0.05%トリプシン処理、0.50%トリプシン処理及び細胞スクレーパー群において、ラミニン発現が観察された。しかし、20分及び60分間の0.50%トリプシン処理群は、検出可能なラミニン発現を示さなかった。
【0087】
ECMタンパク質の構造を観察するために、細胞をフィブロネクチン及びラミニン抗体を使用して染色した(図13B)。0.05%トリプシンで処理した細胞と比較して、細胞シート群でフィブロネクチンのより高い発現が観察された。組織構造(ECMの線維構造)に類似して、細胞シート群は細胞シートの全ての細胞にわたってフィブロネクチン及びラミニンのより高い発現を示した。これらの結果は、細胞シート群がECMの破壊なしで細胞を脱離することができたことを示唆する。対照的に、ECMタンパク質は、細胞培養皿からの細胞の脱離の後にトリプシン処理(化学的破壊)で切断された。
【0088】
hUC-MSCシートは細胞連絡に関連する細胞接合タンパク質を維持する
インテグリンβ-1は、細胞-ECM接合を形成する膜貫通膜タンパク質であるインテグリンファミリーの主要なタンパク質である。インテグリンはアダプタータンパク質(例えば、ビンキュリン、タリン)を通してアクチン細胞骨格に連結し、細胞生存、細胞接着及び組織修復に関与することが知られている(Moreno-Layseca, 2014, Matrix Biol 34: 144-53)。細胞シート、5分間の0.05%トリプシン処理及び細胞スクレーパー群は、類似したインテグリンβ-1発現を示した。インテグリンβ-1は、トリプシン濃度及び処理時間と共に徐々に切断された。コネキシン43は、ギャップ接合を構成し、細胞間連絡を容易にする膜貫通タンパク質である。コネキシン43は、生物学的情報の交換によって細胞及び組織のホメオスタシス及び機能を維持することにおいて必須の役割をする(Ribeiro-Rodrigues, 2017, J Cell Sci 130(21): 3619-3630)。コネキシン43は、細胞シート、0.05%トリプシン処理(5、20、60分)及び0.5%トリプシン処理(5分)群で発現された。しかし、20分及び60分間の0.50%トリプシン処理は、コネキシン43の発現を示さなかった。これは、20及び60分間処理した場合、コネキシン43タンパク質が0.50%トリプシンによって切断されたことを示唆する。
【0089】
細胞接合タンパク質の構造観察をインテグリンβ-1で実行し、コネキシン43タンパク質は免疫染色によって観察した。細胞シート群は細胞シート全体にわたってインテグリンβ-1の陽性発現を示したが、0.05%及び0.50%トリプシン処理群ではインテグリンβ-1は細胞表面で僅かに発現された(図14B)。コネキシン43の発現は、全ての群で観察された(図14C)。特に、細胞シート群では、領域の全域でのコネキシン43の発現が明らかになった。これは、細胞シートが連結された組織構造を有し、細胞-接合タンパク質を維持することを実証する。対照的に、トリプシン処理(化学的破壊)は接合タンパク質を切断した。
【0090】
化学的破壊方法は細胞死を誘導する
トリプシン処理(化学的破壊)又は温度変化(細胞シート技術)による細胞脱離の直後に、カルセイン及びエチジウムホモ二量体-1を使用して細胞を染色した。図15で、緑色は生細胞を示し、赤色は死細胞を示す。結果としては、5及び20分間の0.05%トリプシン処理群における死細胞と生細胞との比は類似していた。注目すべきことに、60分間の0.05%トリプシン処理群の死細胞と生細胞との比は、5及び20分間0.05%トリプシンで処理した細胞と比較して有意に増加した(図15B)。この結果は、細胞死がトリプシン処理(化学的破壊)によって誘導されたことを示唆する。
【0091】
アポトーシス細胞死は化学的破壊によって活性化される
メカノセンサーは、細胞外物理的刺激を細胞内化学的刺激に変換することにより細胞ホメオスタシスを制御する(Humphrey, 2014, Nat Rev Mol Cell Biol 15(12): 802-12)。Yes関連タンパク質(YAP)は、細胞生存及び増殖を調節するための細胞核に局在する主要なメカノセンサータンパク質の1つである(Jaalouk, 2009, Nat Rev Mol Cell Biol 10(1): 63-73)。YAPはSer127のリン酸化(ホスホロ-YAP、pYAP)を通して阻害され、それは細胞質保持及びアポトーシスの誘導をもたらす。細胞が細胞-ECM接合を失う場合、アポトーシス細胞死、すなわちアノイキスは、YAPリン酸化の後に誘導される(Halder et al. 2012, Nat Rev Mol Cell Biol 13(9): 591-600)。細胞シート、5、20及び60分間の0.05%及び0.50%トリプシン処理、及び細胞スクレーパー群でのYAP及びホスホ-YAP(pYAP)の発現は、ウエスタンブロッティングで決定した(図16)。全ての群は、類似のYAPタンパク質発現を示したが、pYAPの発現は細胞シート及び細胞スクレーパー群と比較して0.05%及び0.50%トリプシン処理細胞で増加していた(図16A)。これは、トリプシン処理(化学的破壊)がYAP活性を阻害し、YAPのリン酸化を誘導したことを実証する。更に、pYAPの誘導は細胞応答をアポトーシスにシフトさせることが知られている。
【0092】
考察
細胞骨格、細胞接合、細胞代謝及び細胞増殖に関連した細胞外の(Huang et al., 2010, J Biomed Sci 17: 36)及び細胞間の(Besingi, 2015, Nat Protoc 10(12): 2074-80)タンパク質の破壊を通して細胞培養皿から細胞を採取するために、化学的破壊方法が使用される。したがって、化学的破壊方法によって採取される細胞(トリプシン処理細胞)は、標的組織に接着するのに必要であるECMが不十分であり、グラフト-宿主連絡を通してそれらの細胞機能を維持するための細胞接合が不十分であった(図13及び14)。他方、TRCDを使用した細胞シート技術によって採取されたhUC-MSCシートは、連結した細胞の平滑な表面、微小絨毛、ECM及び細胞接合のような組織様構造を維持していた(図10、13及び14)。
【0093】
TEM結果は、化学的破壊群の中の0.05%トリプシンで5分間処理した細胞において、細胞外タンパク質の切断が観察されたことを示した。20分の0.05%トリプシン処理の細胞において細胞質切断が観察され、60分後の0.05%トリプシン処理において細胞核が分解した。更に、細胞死に関係した小胞体が60分後の0.05%トリプシン処理において観察された(図11)。インテグリンは、細胞膜とECMの間の相互作用に関与し、細胞骨格(アクチン)と連結して局所の接着も形成する鍵タンパク質である(Kim et al., 2011, J Endocrinol 209(2): 139-51)。化学的破壊は、インテグリンβ-1、並びに細胞骨格(F-アクチン)、局所接着タンパク質(ビンキュリン)、ECM(フィブロネクチン及びラミニン)の切断を誘導した(図12、13及び14)。他方、hUC-MSCシートは、細胞培養皿からの脱離の後でさえ、インテグリンβ-1、細胞骨格、局所接着タンパク質(ビンキュリン)、並びにECM(フィブロネクチン及びラミニン)の全てを維持した(図12、13及び14)。これらの所見は、化学的破壊方法(トリプシン処理)が、酵素によるタンパク分解性の破壊により細胞生存にとって苛酷な環境をもたらすことができることを示唆した。
【0094】
Yes関連タンパク質(YAP)は、細胞接着、増殖及び生存の調節において重要な役割を有する。アポトーシス細胞死はYAPの阻害及び続くpYAP誘導を通して誘導されることが知られている。同様に、細胞-ECM接合の分解は、YAPの阻害を通してアポトーシス細胞死を誘導する(Codelia, 2012, Cell 150(4): 669-70)。細胞をトリプシン(化学的破壊)で処理した場合、インテグリンβ-1は切断され(図14)、インテグリンβ-1の切断はYAPを不活性化し、pYAPを誘導した(図16)。最終的に、化学的破壊群でアポトーシス細胞死が起こる(図11、15及び16)。対照的に、hUC-MSCシートはインテグリンβ-1を維持し、pYAPの発現は低くなり(図14及び16)、それは有意に高い細胞生存率を示す(図15及び16)。pYAPはインテグリンβ-1切断だけでなくF-アクチン重合の阻害によっても誘導されることがあると報告されている。hUC-MSCシートは、細胞培養皿からの細胞脱離の後でさえ、活発なアクチン重合を示すF-アクチンの細胞骨格線維構造を示した(図12)。これは、hUC-MSCシートがインテグリンβ-1(細胞-ECM接合)及びF-アクチン構造を保持し、細胞シートがトリプシン処理(従来の化学的破壊方法)と比較してより高い細胞生存率を維持することを可能にすることを示唆する。これらの所見は、細胞-ECM接合及びアクチン線維構造が細胞生存のための重要な因子であり、化学的破壊方法を使用した場合、高い細胞生存率を維持することは困難であることを示唆する。
【0095】
この試験は、ECM、細胞間接合及び細胞-ECM接合のタンパク質が、より高い細胞生存率を保持するのに重要であることを実証した。化学的破壊(例えばトリプシン処理)は、細胞間接合、細胞-ECM接合及び細胞接着タンパク質を切断するので、採取のために化学的破壊方法を使用する従来の幹細胞療法では、低い生着率及び低い細胞生存率を回避することは可能でない。細胞シート技術は、いかなる構造破壊もなく、シートの形で細胞を採取することを可能にした。更に、細胞シート技術は、細胞生存率、生着率及び様々な細胞機能に関連する細胞の重要な構造(ECM、細胞-ECM接合、細胞間接合、細胞骨格及びメカノセンサー)を維持した。その結果、hUC-MSCシート中の細胞生存率は、化学的破壊方法で採取される細胞のそれより有意に高かった。
【0096】
結論
ECM細胞間接合及び細胞-ECM接合などの組織様構造が、移植細胞の細胞生存率と関連することを我々は実証した。細胞シート技術は、いかなる酵素(化学的破壊)も使用せずに、シートの形で細胞を培養し、採取することを可能にする。組織様構造、ECM、細胞間接合及び細胞-ECM接合を保持する採取されたhUC-MSC単層シートは、従来の化学的破壊方法(トリプシン処理)と比較してより高い細胞生存率を有した。細胞シートは天然の組織様構造を模倣するので、この技術は、幹細胞療法のより高い治療効果だけでなく、再生医療研究において機能する細胞の新しい概念も提供する。
【0097】
[実施例3]
ヒト臍帯間葉系幹細胞(hUC-MSC)シートにおける遺伝子発現
細胞培養培地が20% hPL又は20% FBSを含有したこと以外は上の実施例1に記載される方法によって、細胞シートをhUC-MSCから調製した。hUC-MSCシートは、図17に示す。hUC-MSCの単一細胞懸濁培養物は、細胞培養皿の上でhUC-MSCを培養し、それらがコンフルエントのとき、細胞をトリプシン(TryLE、Gibco)で処理することによって調製した。hUC-MSCのトリプシン処理した単一細胞懸濁物を、フローサイトメトリーによって分析した。
【0098】
20% hPLを含有する培地でhUC-MSCシートを培養し、上の実施例1に記載の通り免疫不全マウスの皮下組織の中に植え込み、植込みの1日後及び10日後に組織学的観察のために皮下組織部位からhUC-MSCシートを採取した。採取後、HGF発現の検出のために試料をヒト増殖因子(HGF)抗体で染色し、細胞核はDAPIで染色した。図18に示すように、hUC-MSCシートは植込みの1日後にHGFを発現し、植込みの10日後にもなお顕著なHGFの発現を維持した。これらの結果は、hUC-MSCシートが植込み後の少なくとも10日間、宿主生物体の組織中への連続的HGF発現を維持することを示唆する。
【0099】
hUC-MSCシート中のHGF発現に及ぼす初期細胞密度の影響も決定した。細胞シートは、20% FBSを含有する細胞培養培地中に2×104、4×104、6×104、8×104又は10×104個の細胞/cm2の初期細胞密度により、TRCD中のhUC-MSCから調製した。図19に示すように、初期細胞密度を増加させることは、HGF発現を濃度依存的に増加させた。例えば、10×104個の細胞/cm2で生成された細胞シートは、2×104、4×104、6×104、8×104又は10×104個の細胞/cm2で生成された細胞シートと比較してより高いHGF遺伝子発現を有した。これらの結果は、細胞培養支持体(例えばTRCD)中の初期細胞密度を制御することによって、hUC-MSCシート中のHGF発現レベルを最適化することができることを示唆する。
【0100】
第4~第12継代の懸濁培養物中のhUC-MSCにおいて、及びヒト脂肪由来間葉系幹細胞(hADSC)、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞(hBMSC)又はhUC-MSCから調製された細胞シートにおいて、HLAのDR、DP、DQ発現を決定した。細胞は、20% hPLを含有する培養培地で増殖させた。HLA発現は、上の実施例1に記載の通りに決定した。図20Aに示すように、hUC-MSCは、細胞懸濁培養における第4~12継代でHLAのDR、DP、DQの細胞表面での低い発現を維持した。図20Bに示すように、hUC-MSCシートではHLA-DR遺伝子発現は検出できなかったが、hADSC又はhBMSCから調製された細胞シートは比較的高いレベルのHLA-DR遺伝子発現を示した。低いHLA発現は、宿主生物に移植された細胞シートへの免疫応答の低減にとって望ましい。したがって、これらの結果は、hADSC又はhBMSCから生成された細胞シートと比較してhUC-MSCシートが移植後に宿主生物体において免疫応答を誘導する可能性は低いことを示唆する。
【0101】
[実施例4]
同種異系ヒト臍帯間葉系幹細胞(hUC-MSC)シート製作に及ぼす培地の影響
この試験では、MSC培養のために使用される最も一般的な培地であるウシ胎仔血清(FBS)及びヒト血小板ライセート(hPL)を、MSC分化能力、MSC特異的表現型、細胞シート調製、細胞シート特異的形質及びパラクリン分泌に関して比較した。
【0102】
材料及び方法
ヒト臍帯間葉系幹細胞(hUC-MSC)培養
バンクに保存されたhUC-MSC(Jadi Cell LLC、Miami、USA)(Patel et al., 2013, Cell Transplant 22:513-519)を、10% hPL(Jadi Cell LLC)又は10% FBS(Life Technologies) のいずれか、1% Glutamax(Life Technologies)、1% MEM NEAA(Life Technologies)、1%ペニシリンストレプトマイシン(Life Technologies)を補ったダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)(Life Technologies、USA)による細胞培養培地で、第2継代(P2)から、5% CO2を含む加湿雰囲気下にて37℃で培養した。作業用(working)細胞バンクは、P4で確立された。細胞培養培地は2日毎に交換した。細胞形態は、細胞シートの培養器具からの熱誘導脱離の前に、AxioVisionソフトウェア(Carl Zeiss Microimaging)の付属したAX10顕微鏡(Carl Zeiss Microimaging、Germany)を使用してP6及びP12で観察した。
【0103】
hUC-MSC増殖速度
細胞は、6ウェルプレートの上に2.3×104/cm2の細胞密度で播種した。FBS又はhPL培養の細胞数を、P4~12の播種から8時間、24時間、33時間、48時間及び72時間後に計数した。細胞倍加時間は、Origin Pro 2017(Origin Lab、Massachusetts、USA)を使用して多項式近似によって計算した。
【0104】
MSC分化能力
第6継代において骨形成又は脂肪生成分化を調査するために、細胞を6ウェルプレートに播種した。骨形成分化のためには、細胞を5×103個の細胞/cm2で平板培養した。60%コンフルエントのとき、αMEM、10nMデキサメタゾン、82μg/mLアスコルビン酸2-リン酸、10mMβ-グリセロールリン酸(Sigma-Aldrich)を含有する骨形成分化培地で、細胞を誘導した。細胞は37℃で21日間骨形成培地で培養し、培地を3日毎に交換した。細胞を4%冷パラホルムアルデヒド(PFA)で12分間固定し、標準のプロトコールを使用してアリザリンレッドS-(Sigma-Aldrich)で染色した。脂肪生成分化のためには、細胞を1×104個の細胞/cm2で平板培養した。80%コンフルエントのとき、高グルコースDMEM、100nMデキサメタゾン、0.5mM IBMX及び50μM IND(全てSigma-Aldrich)を含有する脂肪生成分化培地で、細胞を誘導した。細胞は37℃で21日間脂肪生成培地で培養し、培地を3日毎に交換した。細胞を4%冷パラホルムアルデヒドで12分間固定し、標準のプロトコールを使用してOil Red O(Sigma-Aldrich)で染色した。
【0105】
幹細胞表面表現型決定アッセイ
hUC-MSCは組織培養フラスコ(Genesee Scientific、CA、USA)の上の細胞増殖培地で5日間培養し、次にMSC表現型決定アッセイのためにTrypLE(Gibco、Waltham、MA、USA)を使用して脱離した。採取後、細胞懸濁物をPBS中の2% w/vウシ血清アルブミン(BSA)と30分間インキュベートし、次に3~5×105/100μLの濃度でアリコートに分けた。1つのアリコートは未染色対照として確保し、残りのものは以下の抗体で染色した; CD73、CD105、CD90、MHC II、CD45及びCD31(Biolegend、San Diego、USA)。緩衝剤中の細胞と抗体との約20:1の比を達成するように、一次抗体を各アリコートに加えた。約3~5×105細胞を、(蛍光体)-コンジュゲート一次抗体の飽和濃度で染色した。細胞は、暗所の氷上で30分間インキュベートした。インキュベーションの後、細胞を3回洗浄し、次に1×PBSに再懸濁させ、フローサイトメトリーによって直ちに分析した(Becton Dickinson FACS Canto、BD Biosciences、Sparks、USA)。フローサイトメーターの較正では、未染色細胞を使用した。二重項を排除するために、細胞は前方対側方散乱によってゲーティングした。各分析について最少10,000事象を計数した。
【0106】
hUC-MSCシート調製
hUC-MSCシートは、P6細胞を使用して調製した。これらの細胞は、35mm温度応答性細胞培養皿(TRCD、CellSeed Inc.、Tokyo、Japan)の上で、2.3×104/cm2の密度で播種し、20% FBS又は20% hPLのいずれかを補ったDMEMによる細胞培養培地で、5% CO2の加湿雰囲気下にて37℃でそれぞれ4(FBS)又は3(hPL)日間培養した。播種の1日後に、アスコルビン酸(16.4μg/ml)を加えた。細胞シート特性を分析するために、播種から3又は4日後に培養温度を1時間以内に37℃から室温(RT)に変化させることによって、コンフルエントな細胞を脱離した。シートの自発的表面脱離時間は、ピペッティング、スクレーピング又は培地交換などのいかなる追加の操作なしで細胞TRCDを37℃のインキュベーションから室温に移動させたときに、を決定した。
【0107】
組織学的分析
H&E染色のために、細胞シートを4% PFAで15分間固定し、次にパラフィンに包埋した。包埋された検体を、4μmスライスの切片にした。検体をヘマトキシリン溶液(Sigma-Aldrich)で3分間、その後エオシン溶液(ThermoFisher Scientific、Waltham、USA)で5分間処理した。H&E染色された検体を脱水し、Permount(商標)(ThermoFisher Scientific)でマウントした。BX 41顕微鏡(Olympus、Hamburg、Germany)を使用してH&E画像を得た。免疫組織化学(IHC)のために、細胞がコンフルエントに到達したとき、4% PFAを10分間使用してそれらを固定した。細胞膜を0.1% Triton X(Sigma-Aldrich、St. Louis、USA)で15分間透過処理した。10%ヤギ血清(Vector Laboratories、Burlingame、USA)を含有するPBS 1×の中で、非特異的結合を室温で1時間ブロッキングした。細胞は、細胞骨格を可視化するためにAlexa Fluor 488(登録商標)ファロイジン(ThermoFisher Scientific)で、又は、フィブロネクチン(Fb、ab2413)(Abcam、Cambridge、USA)、β-カテニン(β-CTNN、ab16051)(Abcam)、HLAのDR、DP、DQ (MHC II、ab7856)(Abcam)及び陰性対照ウサギIgG (NC、x0936)(DAKO、Santa Clara、CA)を画像化するために一次抗体(Abcam、Cambridge、USA)で染色した。これらの検体は、Fb、β-CTNN及びMHC II染色のためにAlexa Fluor 594コンジュゲート二次抗体(Life Technologies)(1:200)で1時間処理した。染色された細胞は、DAPIを含むProLong Gold Antifade試薬(Life Technologies)でマウントした。AX 10顕微鏡(Carl Zeiss Microimaging)を使用して免疫蛍光画像を得、Axiovisionソフトウェア(Carl Zeiss Microimaging)で分析した。
【0108】
細胞シートの遺伝子発現分析
製造業者のプロトコールに従ってTrizol及びPureLink RNAミニキット(Life Technologies、Carlsbad、USA)を使用して、細胞シートからの全RNAを抽出した。高性能cDNA逆転写キット(Life Technologies)を使用して全RNAの1μgからcDNAを調製した。Applied Biosystems Step One機器(Applied Biosystems(商標)、Foster City、USA)を使用して、TapMan Universal PCR Master MixでqPCR分析を実行した。遺伝子発現レベルを、以下の遺伝子について調査した: (1)ハウスキーピング遺伝子としてグリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH、Hs99999905_m1)、(2)β-アクチン(Hs999999903_m1)、(3)インテグリンβ-1(ITGB1、Hs01127536_m1)、(4)フィブロネクチン(Fb、Hs01549976_m1)、(5)β-カテニン(Hs00355049_m1)及び(6)主要組織適合複合体II(MHC II: HLA-DRB、Hs04192464_m1)。全てのプライマーは、Applied Biosystemsによって製造された。相対的な遺伝子発現レベルは、比較CT方法(Schmittgen et al., 2009, Nat Protoc 3:1101-1108)によって定量化した。遺伝子発現レベルは、GAPDH発現レベルに対して正規化した。遺伝子発現レベルは、β-アクチン及びITGB1分析の場合はhPL群に、Fb、β-CTNN及びMHC-II分析の場合はFBS群に相対的である。
【0109】
肝細胞増殖因子(HGF)分泌アッセイ
室温におけるTRCDからの細胞シート脱離の直前に、24時間培養した接着細胞の上清培地を採取した。細胞シートから分泌されたHGFの量は、ヒトHGF Quantikine ELISA(R&D Systems、Minneapolis、USA)によって製造業者のプロトコールに従って測定した。各細胞シートを構成する細胞の数を計数するために、細胞をTrypLEで脱離した。HGFの量は、細胞シート又は細胞数に対して正規化した。
【0110】
統計解析
全ての定量値は、平均及び標準誤差(SE、平均±SE)で表される。群間の有意差は、Origin 2017ソフトウェア(OriginLab、Northampton、USA)を使用して一元配置分散分析法(ANOVA)によって検定した。0.05未満の確率値(p<0.05)は、統計的に有意であると考えた。
【0111】
結果
hUC-MSC形態及び増殖速度の変化
MSCはFBS又はhPLを含む細胞培養培地で培養し、P6(図21A及び21B)及びP12(図21C及び21D)の播種のそれぞれ1日後及び4日後に観察した。hPL培地のMSCは、より伸長した紡錘形を示したが、FBSのMSCはより平らであった(図21A及び21B)。FBS培地で培養したhUC-MSCは均一な分散液の状態で増殖したが、hPL培地のものは凝集性の分散液の状態で増殖する傾向があった(図21A~21D)。hPL群の凝集性の分散増殖は、特にP12の場合継代数が増加するとより明白である(図21D)。hPL群の細胞は、P4からP8のFBS群のそれらと比較して有意に高い増殖能力を示した。しかし、hPL群の細胞の倍加時間は、P8後に速やかに増加する(図21E)。
【0112】
分化能力及びMSC細胞特異的表現型
FBS及びhPL培地がhUC-MSC分化能力及び幹細胞特異的表現型にどのように影響するかを調査するために、FBS(図22A及び22C)又はhPL(図22B及び22D)培地での2回の継代の培養後に、分化能力及び幹細胞表面マーカーを調査した。骨形成及び脂肪生成における分化能力は、FBS培地によってもhPL培地によっても影響されなかった(図2A~2D)。更に、FBS(図23A~23F)又はhPL(図23G~23L)で培養した細胞は、いずれも幹細胞特異的表面マーカーを示した; CD73、CD105、CD90の陽性発現(図3A~3C及び3G~3I)及びMHC II、CD45、CD31の陰性発現(図23D~23F及び23J~23L)。
【0113】
細胞シート製作
20% FBS又はhPLを含む細胞培養培地で細胞シートを調製した。FBS又はhPL群の細胞は、それぞれ播種の4日後又は3日後にTRCD上でコンフルエントに達し、その後追加の操作なしで37℃から室温への小さな温度変化を利用して脱離されたシートとして採取した(図24A~24H)。FBS培地で培養した細胞シートは細胞がコンフルエントを超過したときに回収したが(図24B及び24F)、hPL培地で培養した細胞シートは37℃で自発的に、より細胞凝集塊として脱離された(図24D及び24H)。FBS及びhPL群の細胞シートは、室温でそれぞれ50分以内及び15分以内に回収された(図24I)。hPL群の細胞は、FBS群のそれらと比較してより高密度の細胞核を細胞シートの中で示した(図24J及び24K)。FBS群の細胞のアクチン細胞骨格(F-アクチン)は整列し、秩序立っていた(図24M)。他方、hPL群のそれは、縦横に交差したランダムなアクチン細胞骨格パターンを示す(図24N)。FBS群での安定した細胞接着に関係するβ-アクチン及びITGB1の遺伝子発現レベルは、hPL群より有意に高かった(図24L及び24O)。データは、hPL細胞シートが高い密度に速やかに増殖し、低い温度でのより速い脱離、より弱い細胞接着を示し、温度の低減がなくても、十分に制御されていないシート生成条件下での放出に伴って容易に細胞凝集体を形成する傾向があることを示す。
【0114】
hUC-MSC細胞シートの表現形質
FBS及びhPL培地で調製される細胞シートについて、治療及び生着有効性に相関する所望の細胞シート特異的形質(例えば、内因性細胞接着タンパク質の保持)を、IHC分析によって調査した。FBS及びhPL群の細胞シートはいずれも、陰性対照(NC)と比較して細胞接着タンパク質(ECM:フィブロネクチン(Fb)及び細胞接合タンパク質:β-カテニン(β-CTNN))の陽性発現を示した(図25A~25C及び25E~25G)。更に、Fb及びβ-CTNNの遺伝子発現レベルをq-PCR分析で調査し、全てFBS及びhPLの両群で類似していた(図25I及び25J)。
【0115】
hUC-MSCシートのための組織適合性マーカー
MHC II発現は、同種異系細胞がin vivoで植え込まれたときの可能な宿主免疫反応の指標である(Zantvoort et al., 1996, Transplantation 61:841-844)。FBS及びhPL群で調製された細胞シートでは、MHC IIの陽性発現はかろうじて検出可能である(図25D及び25H)。MHC IIに関係する遺伝子発現レベルも、FBS及びhPL群で類似していた(図25K)。これらのデータは、FBSもhPL培地培養条件もこの免疫応答抗原を活性化しないことを実証する。
【0116】
細胞シートパラクリン因子分泌
各細胞シート条件から24時間で分泌されたヒト増殖因子(HGF)を、培地上清で測定した。hPL細胞シートは、FBS細胞シートと比較して有意に多くのHGFを分泌する(図26A)。hPL細胞シートはFBS細胞シートより多くの細胞を含むので、分泌されたHGFを細胞シートあたりの細胞数に対して正規化した場合(図26B)、FBS及びhPL群のHGF量は類似している(図26C)。この結果は、FBS細胞シートに対して増加するhPL細胞シートからのパラクリン因子分泌は、それらのより高い増殖能力(図26B)と、その結果であるシートあたりのより高い細胞密度に帰されることを示す(図26C)。
【0117】
考察
それらの現行の多様な臨床適用を含む多くのMSC研究は、MSCの培養及び保存の間の細胞の付着、増殖を促進し、不可欠な栄養素を提供するために、FBSを補った培地を使用する。今日まで、臨床規模の細胞生産方法としてFBS培養が受け入れられている。しかし、異物由来の(xeno-derived)培地及び添加剤は、プリオン、ウイルス及び人畜共通病原体からの汚染の既知のリスク、並びに宿主免疫反応刺激の可能性を有する。最近、潜在的な免疫交差反応を回避するために、FBSの代替物としてhPLが考慮されている。更に、一部のデータは、大規模MSC生産のために、hPLがFBSより大きなMSC増殖能力を支えることを示す。この試験では、hPL培地でのMSC培養は、早期の継代数(すなわち、P4からP8の間)においてFBS培地で培養したMSCより大きな増殖速度(1.2~1.4倍高い)を示した(図21E)。しかし、hPLでのP8後のMSC増殖速度は、FBS培地のそれに類似していた。hPL培地は、異なる継代数に対してMSC増殖速度の広い差を誘導する(図21E)。更に、FBS及びhPLの両条件は、細胞シート分化能力及びMSCに特徴的な表現形質を維持する(図22及び23)。したがって、早期の継代数でMSC特異的形質を変更することなくより高い細胞増殖能力を促すhPLを含む細胞培養培地が、大規模MSC生産のために価値があるだろう。しかし、hPL培地の細胞シートは、細胞がコンフルエントを超過したとき、おそらく細胞シートの中でのより高い細胞密度によって誘導されて、いかなる温度変化なしでTRCDからの予想外の脱離を示す(図24H)。したがって、hPL培地を使用した細胞シート製作プロトコールは、シート製作の間の予想外の細胞シート脱離を回避するために、培養時間に特に注目して標準化すべきである。
【0118】
この試験では、正確な機構は不明であるが、hPL培地のMSCはランダムに配置された多方向アクチン細胞骨格パターンを示すが、FBS培地のMSC細胞骨格機構は一方向に整列する(図24M及び24N)。縦横に交差したランダムなアクチン細胞骨格構造はより多くの収縮力を引き起こすが、その理由は、ランダムに整列する細胞骨格構造を有する細胞の収縮は複数の方向から同時に起こり、一方向に整列する細胞骨格構造を有する細胞は1つの方向だけから収縮するからである(Takahashi et al., 2015, Adv Healthc Mater 4: 2388-240)。細胞骨格構造は、細胞形態に寄与することもよく認知されている。hPLのMSCは、縦横に交差したランダムに配置されたアクチン細胞骨格構造を有する細長い細胞形状を示す。FBS培地のMSCは、平らな細胞形状でより広い領域をカバーする(図21A~21B及び24M~24N)。更に、アクチン細胞骨格へのITGB1の結合は細胞接着に関与するので、細胞骨格構造は細胞接着に相関していた(Fernandez-Rebollo et al., 2017, Sci Rep 7:5132)。本試験では、FBS培地のMSCは、hPL培地のMSCと比較してより多くのアクチン及びITGB1マーカーを発現した(図24L及び24O)。一部の試験は、hPL培地のMSCがFBS培地のMSCと比較してより紡錘状の線維芽細胞様形態、及び組織培養プラスチックへのより弱い細胞接着をもたらすことも実証する(Fernandez-Rebollo et al., 2017, Sci Rep 7:5132)。これらの特徴は、FBS培地のそれらの整列した細胞骨格構造が安定した細胞形態及び接着を提供することを示唆する。細胞シート製作は、TRCD上で細胞間張力の下で接着するコンフルエントな細胞を生成し、RTでこれらの強固な培養表面から連続したシートとして採取される。この緊張した接着状態からの自発的な熱誘導細胞シート脱離は、TRCDからの放出の後に内因性細胞骨格収縮を通して自発的な細胞シート収縮をもたらす。hPL培地に由来するMSCシートは、15分以内にTRCDから速やかに脱離される(図24I); これは、FBS培地の細胞シート(脱離時間:49分)より速い。hPL培地に対するFBS培地でのTRCDからのMSCシート脱離時間におけるこれらの差は、おそらくhPL培養でのTRCD表面へのより弱いMSC接着、及び縦横に交差したランダムな細胞骨格構造によるMSCシート中の急速な収縮の組合せからもたらされる。全体として、hPL培地は、ランダムなアクチン細胞骨格及びより弱い細胞接着を通してMSCシートを速やかに生成するが、非温度依存性細胞シート脱離の後に予想外の強力な細胞間収縮応答を伴う。
【0119】
最近、細胞ベースの治療は、いくつかの利点のために同種異系幹細胞供与源をますます重視している: (1)自家供給のための高い生産コストを低減する、(2)幹細胞品質に影響するドナー変動性(例えば、加齢及び疾患病態生理)を低減する、及び(3)「既製」製品のための健康なドナーの細胞バンクソーシングを可能にする。しかし現在、同種異系細胞療法は、宿主-患者免疫適格性及び移植適合性(主要組織適合複合体、MHCを通して調査される)、並びに、細胞保持及び治療的生着を効果的にもたらすための一貫しない細胞送達方法によって制限されてもいる。この試験では、低い抗原性/組織適合性プロファイル(MHC)を提示することが示されているhUC-MSCを使用する(Patel et al., 2013, Cell Transplant 22:513-519)。これと一貫して、FBS及びhPL培地の両方で調製されたMSCシートは低いMHCクラスII抗原を発現し(図23)、細胞シート調製の間も低いMHCクラスII抗原の発現を維持した(図25D及び25H)。FBS及びhPLで調製された細胞シートは、治療及び生着有効性に関係する重大な細胞接着性タンパク質も保持する(図25D、25C、25F及び25G)。重大な細胞接着性タンパク質生成のための遺伝子の発現レベルの有意差は、FBSとhPL群の間で見られない(図25I及び25J)。全体として、FBS及びhPL培地は、宿主免疫組織適合性並びに最適な治療及び移植プロセスに重要であると考えられる細胞シートのために必要とされる、MSC表現形質及び構造的機構を保持する。これらの所見は、細胞シート特異的形質を維持するために、標準の生産方法でFBS及びhPLのいずれかを補った細胞培養培地を使用できることを示唆する。
【0120】
HGFは、in vivoで線維化を抑制し、組織修復を促進する機構にとって重要なサイトカインである(Inoue et al., 2003, FASEB J 17:268-270)。類似のMSC播種密度(2.3×104個の細胞/ウェル)で、hPL培地で調製されるMSCシートはFBS培地で調製されるそれらより高いHGFレベルを分泌する(図26A)。TRCDの上で、hPL群はMSCシートでFBS群と比較して2.5倍高い最終細胞数を生成する(図26B)。各培地の最終細胞シート数に対して正規化したHGF量は、FBS及びhPL群で類似していたが(図26C)、このことは、hPL生成細胞シートからのHGF分泌の増加は、hPL培養シートにおけるより高い細胞増殖能力と、その結果である細胞シート数の差によることを示す。これに基づき、MSC細胞シートのサイトカイン分泌は、培養中の細胞密度及び増殖能力を通して制御できる可能性がある。将来の研究では、パラクリン生成及びシグナル伝達に及ぼす細胞シート中のMSC細胞密度の影響を調査する。
【0121】
我々は、最終的な細胞シートの生成、標準化及び品質管理にとって重要な特定のMSCシート特性に及ぼす細胞培養培地の影響を実証した。これらのMSC特異的シートプロセスを決定し、確立するために、MSC特異的バイオマーカー、分泌生成物、表現形質及び免疫原性抗原/組織適合性プロファイルが必須になる。FBS及びhPLを補った培地は、両方とも、それらのin vivo治療及び生着有効性にとって重要であることが示されたMSC表現形質及び細胞シート特異的構造(例えば、細胞接着性タンパク質)を維持する(Sekine et al., 2011, Tissue Eng Part A 17:2973-2980)。しかし、hPL培地で調製された最終細胞シート生成物の一貫性は、FBS培地で調製したものより低かった。hPL培地で培養した細胞シートは、所望の適用される温度放出トリガーなしでTRCDから自発的に脱離され、それらが放出されるとき、安定したMSCシートの代わりにMSC凝集塊をしばしば生む。これは、細胞骨格構造の変化によるシート内の、より弱い細胞接着及びより高い収縮力によると主張されている。hPL培養における最終細胞シート数の増加のために、HGFサイトカイン分泌は、FBS培地に対してhPL培地で調製されるMSCシートで増加する。
【0122】
結論
FBS及びhPLで培養されるMSCは、異なる細胞骨格構造を示す。この特色は、細胞シート製作プロセスの重要な側面である、TRCD表面への細胞接着及び細胞シート収縮力に影響する。FBS培地MSC培養は一貫したMSC細胞シート生成における利点を示し、TRCDへの安定した細胞接着、表現型安定性、及び放出され、採取されたMSCシート内の制御された収縮力を示す。hPL培地MSC培養は、より急速な細胞シート生成及びHGFサイトカイン分泌の増強を可能にする。FBS及びhPL培地の両方は、それらの最終的な治療目標及び有効性のために必須である望ましいMSC細胞シート特異的形質を保持する。これらの所見は、最終的な臨床研究のために大規模なMSCシート製造に必須である標準化されたMSCシート製作方法を確立するための、最初の基盤を提供する。
本発明は、例えば以下の実施形態を包含する:
[実施形態1]コンフルエントなヒト臍帯間葉系幹細胞(hUC-MSC)の1つ以上の層を含む、ヒト臍帯間葉系幹細胞シート。
[実施形態2]前記細胞シートがhUC-MSCから本質的になる、実施形態1に記載の細胞シート。
[実施形態3]前記細胞シート中の細胞の少なくとも50%がhUC-MSCである、実施形態1に記載の細胞シート。
[実施形態4]前記細胞シートが細胞外マトリックスを含む、実施形態1から4のいずれかに記載の細胞シート。
[実施形態5]前記細胞外マトリックスがフィブロネクチン、ラミニン及びコラーゲンからなる群から選択される1つ以上のタンパク質を含む、実施形態4に記載の細胞シート。
[実施形態6]前記細胞シートが細胞接着タンパク質及び細胞間接合タンパク質を含む、実施形態1から5のいずれかに記載の細胞シート。
[実施形態7]細胞接合タンパク質がビンキュリン、インテグリン-β1、コネキシン43、β-カテニン、インテグリン連結キナーゼ及びN-カドヘリンからなる群から選択される、実施形態6に記載の細胞シート。
[実施形態8]前記hUC-MSCがヒト臍帯組織の上皮下層から単離される、実施形態1から7のいずれかに記載の細胞シート。
[実施形態9]前記hUC-MSCがCD44、CD73、CD105及びCD90から選択されるタンパク質を発現する、実施形態1から8のいずれかに記載の細胞シート。
[実施形態10]前記hUC-MSCが、ヒト増殖因子(HGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)及びインターロイキン-10(IL-10)からなる群から選択される1以上のサイトカインを発現する、実施形態1から9のいずれかに記載の細胞シート。
[実施形態11]前記細胞シートでの前記1以上のサイトカインの発現が、同等の数の細胞を含有するhUC-MSC懸濁物と比較して増加する、実施形態10に記載の細胞シート。
[実施形態12]前記細胞シートが24時間に培養液1mLにつき50pg未満の速度で、培養液中に腫瘍壊死因子-α(TNF-α)を分泌する、実施形態1から11のいずれかに記載の細胞シート。
[実施形態13]前記細胞シートが、宿主生物体の組織への移植の後の少なくとも10日間前記1以上のサイトカインを発現する、実施形態10から12のいずれかに記載の細胞シート。
[実施形態14]前記細胞シートが、宿主生物体の組織への移植の後の少なくとも10日間細胞外マトリックスタンパク質及び細胞接合タンパク質を発現する、実施形態1から13のいずれかに記載の細胞シート。
[実施形態15]前記細胞外マトリックスタンパク質がフィブロネクチン、ラミニン及びコラーゲンからなる群から選択される、実施形態14に記載の細胞シート。
[実施形態16]前記細胞接合タンパク質がビンキュリン、インテグリン-β1、コネキシン43、β-カテニン、インテグリン連結キナーゼ及びN-カドヘリンからなる群から選択される、実施形態14に記載の細胞シート。
[実施形態17]前記細胞シートを調製するために使用される細胞培養支持体中の前記hUC-MSCの播種された初期細胞密度が0.5×10 4 /cm 2 から9×10 5 /cm 2 である、実施形態1から16のいずれかに記載の細胞シート。
[実施形態18]前記hUC-MSCがCD31、CD45、ヒト白血球抗原-DRアイソタイプ(HLA-DR)、ヒト白血球抗原-DPアイソタイプ(HLA-DP)、又はヒト白血球抗原-DQアイソタイプ(HLA-DQ)の1以上を発現しない、実施形態1から17のいずれかに記載の細胞シート。
[実施形態19]前記hUC-MSCが微小絨毛及び糸状仮足を含む、実施形態1から18のいずれかに記載の細胞シート。
[実施形態20]前記細胞シートが、前記組織への移植の後の少なくとも10日間宿主生物体の組織に付着したままである、実施形態1から19のいずれかに記載の細胞シート。
[実施形態21]実施形態1から20のいずれかに記載の細胞シート及び前記細胞シートから取り外し可能であるポリマーコート培養支持体を含む組成物。
[実施形態22]コンフルエントなヒト臍帯由来の間葉系幹細胞(hUC-MSC)の1つ以上の層を含むヒト臍帯間葉系幹細胞シートを生成する方法であって、
a)細胞培養支持体の基質表面にコーティングされた温度応答性ポリマーの上の培養液でhUC-MSCを培養するステップであって、前記温度応答性ポリマーは0~80℃の水中でのより低い臨界溶液温度を有するステップと;
b)前記より低い臨界溶液温度未満に前記培養液の温度を調整し、それによって前記基質表面を親水性にし、前記表面への前記細胞シートの接着を弱体化するステップと;
c)前記培養支持体から前記細胞シートを脱離するステップと
を含む方法。
[実施形態23]前記培養ステップ(a)の前に複数回の継代培養を通して前記hUC-MSCを培養することを更に含む、実施形態22に記載の方法。
[実施形態24]前記hUC-MSCの2~10回の継代培養が前記培養ステップ(a)の前に実行される、実施形態23に記載の方法。
[実施形態25]前記培養液がゼノフリー培養液である、実施形態22から24のいずれかに記載の方法。
[実施形態26]前記培養液がヒト血小板ライセート(hPL)を含む、実施形態22から25のいずれかに記載の方法。
[実施形態27]前記培養液がウシ胎仔血清(FBS)を含む、実施形態22から26のいずれかに記載の方法。
[実施形態28]前記培養液がアスコルビン酸を含む、実施形態22から27のいずれかに記載の方法。
[実施形態29]前記調整ステップ(b)が前記hUC-MSCがコンフルエントであるときに実行される、実施形態22から28のいずれかに記載の方法。
[実施形態30]前記培養ステップ(a)が前記hUC-MSCを0.5×10 4 /cm 2 から9×10 5 /cm 2 の初期細胞播種密度で前記培養液に加えることを含む、実施形態22から29のいずれかに記載の方法。
[実施形態31]前記hUC-MSCが前記調整ステップ(b)の前の少なくとも24時間の間、前記温度応答性ポリマーの上の前記培養液で培養される、実施形態22から30のいずれかに記載の方法。
[実施形態32]実施形態22から31のいずれかに記載の方法によって生成される細胞シート。
[実施形態33]対象に細胞シートを移植する方法であって、対象の組織に実施形態1から20又は32のいずれかに記載の細胞シートを適用することを含む方法。
[実施形態34]前記細胞シート中の前記hUC-MSCが前記対象に対して同種異系である、実施形態33に記載の方法。
[実施形態35]前記対象がヒトである、実施形態33又は34に記載の方法。
図1
図2A-B】
図3A-C】
図4A-D】
図5A-E】
図6A-D】
図7A-E】
図8A-B】
図9A-C】
図10A-D】
図11A-H】
図12A-C】
図13A-C】
図14A-C】
図15A-C】
図16
図17
図18A-B】
図19A-B】
図20A-B】
図21A-E】
図22A-D】
図23A-L】
図24A-H】
図24I-O】
図25A-K】
図26A-C】